戸を開いたら。



   其処は全てが、見渡す限り、真っ白でした。










 
A n t i d o t e










   …。


   …。


   …祐巳さん。


   …由乃さん。


   …。


   …。


   …祐巳さん。


   …由乃さん。


   …。


   …。


   …どうして。


   …分かんない。


   てか、何なの。


   だから分かんないよ。


   いやだって、何処をどう見ても真っ白なのよ!?


   真っ白どころか家の回りが其れでいっぱいだよ!!


   てか白以外、何にも無いんだけど!
   あの辺りに令ちゃんのお花があったはずなのに!


   お姉さまのお気に入りの梅の木が!!
   紅梅だって聞いていたのに…!!


   何なの、この白いの!
   しかもえっらく冷たいし!!


   と言うかものすっごく…!寒いよ、由乃さん!
   吐く息、真っ白だよ!!


   …。


   …。


   …祐巳さん。


   …由乃さん。


   れ、


   お、


   令ちゃーーーーん…!!!!


   お姉さまーーーーー…!!!








   外が…外が、真っ白になってる(ます)ーーーーーーーーーーーー!!!!








   …もう、朝から何事かと思えば。


   これはね、雪と言うのよ。由乃。


   これが雪…。


   雪ぐらいで大きな声を出して。
   はしたなくてよ、祐巳。


   す、すみません…。
   で、でも、戸を開けたら目の前が真っ白で吃驚してしまって…。


   しかし。
   これはまた見事に積もったものだね。


   昨晩はやけに冷えると思ったけれど。
   これなら頷けるわね。


   ねぇねぇ、令ちゃん。
   これが雪なの?本物?


   然うだよ。勿論、本物。


   大江山にいっぱいあったというのもこれなの?


   うん。
   と言っても私も直接行って見た事は無いんだけど。
   お姉さまのお姉さまが良く話してくださったの。


   …。


   由乃?


   ゆき…これが、雪…。


   …まさか。
   ちょ、一寸待って、由乃!
   気持ちは分かるけど、一寸ま…


   ゆっきーー!!


   あ、こら、由乃ー!
   そんな格好で行ったら風邪ひくから、と言うか確実にひくからー!!
   せめて上衣をぉーーーー!!


   お姉さま、お姉さま。


   何、祐巳。


   雪って、凄く冷たいんですね。


   いちいち、当たり前な事を言わないで。
   もう、こんなに手を赤くして。
   霜焼けにでもなったらどうするつもりなの。


   わ、お姉さまの手、あったかい…。


   もう。
   本当に仕様の無い子ね。


   えへへ…。


   おーーー!


   ぎゃッ


   矢っ張り、積もったかーー!


   と、当主様…!!


   や、ごきげんよう、祐巳ちゃん。
   相変わらずな鳴き声だね。


   やかましい、です…!
   と言うか重いです、圧し掛からないで下さい…!


   あら、酷いなー。
   圧し掛かるだなんてー。


   当主様、ごきげんよう。


   はいはい、ごきげんよう、祥子。
   令と由乃ちゃんも。ごきげんよーう。


   ごきげんよう、当主様。
   今日は珍しくお早いんですね。


   ん、まぁねー。
   で、何々、朝っぱらから皆で集まって。
   雪の鑑賞会か何
(ナン)か?


   其れが。
   由乃も祐巳ちゃんも雪を見るのは初めてだったみたいで。


   あん?
   然うだったっけ?


   外を見たら見渡す限り真っ白で、驚いてしまったみたいなんです。


   ふーん、そっか。


   はい、由乃。
   こんな時の為に作っておいたんだ。


   何よ、これ。


   手袋。
   さ、つけてみて。


   …。


   どう、かな?


   …ぴったり、よ。


   そっか、良かったぁ。


   おーおー。
   相変わらず、仲良しさんしてるねー。


   あと帽子も作ってみたんだけど…。


   …これもこんな時のため?


   うん!


   …。


   …て、あれ?由乃?


   令ちゃんのばか。


   え、何で?


   何となく。


   えーー?


   ばか、令ちゃんのばか。


   よ、由乃ぉ。


   おーおー。
   相変わらず、へたってるねー。


   ところで当主様。


   うん?
   何かな?祥子。


   いい加減、祐巳からお離れになって下さい。
   このままだと祐巳が潰れてしまいますわ。


   も、もう、潰れ、かけて…ま、す。


   あらー。
   姉妹揃ってしつれいなー。
   こうなったら…。


   う、ぎゃ…ッ


   ああー、私の心は深く傷付いてまるで鉛の如く重くー。


   お、おも…い。


   当主様!
   巫山戯るのも大概に


   私の孫を本気で潰す気なのかしら。


   う、あ。


   いい加減にしなさい、聖。


   耳、耳は引っ張んないでー。


   よ、蓉子さまー!


   ごきげんよう、祐巳。


   ごきげんよう!蓉子さま!!


   あ、何其れ。
   私の時とは全然違うじゃん。


   当たり前です!


   ごきげんよう、祥子。
   朝からこんな所で何をしているの?


   ごきげんよう、お姉さま。
   どうやら祐巳と由乃ちゃんが初めて見た雪に


   しかも何?自主的に抱きついちゃって。
   蓉子ばっかりずるーい。


   やかましい。


   わー千ー切ーれーるー。


   然う、矢っ張り積もったのね。


   やっぱり?
   やっぱり、って蓉子さまは知っていらしたんですか?


   ええ、昨晩から…いえ、日は替わっていたかも知れないけれど。
   兎に角、降り始めていたから。
   若しかして、とは思っていたのだけれど。


   ねぇねぇ、祐巳ちゃん。
   其れ、私も言ったよ。


   何が、ですか。


   矢っ張りって。
   矢っ張り積もったかー、て。


   然うですか。


   いや、然うですかって。
   態度、蓉子に対してと明らかに違わない?つか、違いすぎない?


   寧ろ。
   当主様は黙ってて下さい。


   ひどい。


   しかし見事に積もったわね。
   朝餉を食べたら、皆で雪かきしないと。


   えー、めんどい。


   うるさいわよ?


   だってめんどうなんだもん。


   言った筈でしょう?
   積もったら雪かきをするって。


   いやいや。
   合戦しようって、私は言った。
   ちなみに眠る前にも言った…けど、蓉子はもう寝てたっけ。


   …。


   …?
   お姉さま?


   …貴女の頭の中にはサボる事しか無いのかしら。


   あと、蓉子への想い。
   比率的にはこっちの方が断然多いかな。


   …あのねぇ。


   よーし、祐巳ちゃん。
   朝餉を食べたら合戦をしよう!雪合戦!


   それより雪だるまが良いわよね、祐巳ちゃん。


   む。


   あ、江利子さま。
   え、と、ごきげんよう。


   はい、ごきげんよう。
   それとも神座の方が良いかしらね?


   …江利子まで。


   カミクラ?
   カミクラって何ですか?


   かまくらの事よ、祐巳。


   かまくら…ですか。


   若しかしてかまくらを知らない?


   …はい、蓉子さま。


   然うね、分かりやすく言うと雪室ね。


   ゆきむろ?


   もっと分からないって顔してるぞ、でこ。


   じゃあもっと分かりやすく言うと。
   雪で作ったおうち、てとこかしら。


   おうち?
   雪でおうちが作れるんですか?!


   ええ、然うよ。
   どう?面白そうでしょう?


   はい!


   じゃあ、私と一緒に作る?


   是非!


   はい、祐巳ちゃんはこっち側にけってーい。


   ちょい待てや!でこ!
   絶対に合戦だって!


   とりあえず最初は小さい雪だるまを作って雪に慣れ


   聞け、でこ。


   あ、お姉さま!


   はいはーい。
   ごきげんよう、令。


   ごきげんよう!
   いつからいらしていたのですか?!


   んー、今かしら。
   ごきげんよう、由乃。


   ほら、由乃も。


   …ごきげんよー。


   何、朝っぱらから不貞腐れ全開?


   …ほっておいてください。


   しっかし。
   皆揃って楽しそうねー。
   然うだ、令と由乃も作らない?雪だるま。


   あ、良いですね。


   其の勝負、乗った。


   て、由乃。
   雪だるま作るのに勝負も何も


   ふふ、良い度胸ね、由乃。
   私からの勝負を受けるだなんて。


   て、お姉さま…。


   …あの、何の騒ぎなのでしょうか。


   あ、志摩子。


   ごきげんよう、お姉さま。


   はいな、ごきげんよう。
   志摩子も合戦の方が良いよね。


   え…。


   て事で志摩子も合戦組ー!


   い、いえ、私は部屋で術を…


   そんなの、後でも出来るって!


   お、お姉さま…。


   聖、志摩子が困ってるじゃないの。
   無理強いをしては…


   でもって、蓉子は私と同じ組ね!
   はい、けってーい!


   勝手に決めるな…!


   祐巳ちゃん祐巳ちゃん、蓉子は合戦するってよ?


   あ、こら、天狗面。


   え、蓉子さまが?


   然うよー。
   祐巳ちゃんは蓉子が大好きだものねー。
   となると一緒にやりたいよねー、合戦。


   …え、えと。


   何よ、祐巳。


   お姉さまはどちらにしますか…?


   どちら、て?


   雪だるまとかまくら、か、合戦か…。


   …馬鹿馬鹿しい。
   私は部屋の中で…ひゃっ


   よっしゃ!
   祥子、討ち取ったりーーー!!


   ………。


   お、お姉さま…?


   ……良いわ、祐巳。
   合戦にしましょう。


   え、でも。


   私がやられっぱなしを良しとしないのは、祐巳、貴女もよく知っている筈、で…!!!


   うぃひゃッ
   つめたッ


   …しょう?


   はい、よく知っています!


   この、やったなー祥子。


   二人で一緒に。
   当主様…いえ、今こそ当主を討ち取るわよ、祐巳!!
   そしてお姉さまをこの手に取り戻さん!


   はい!


   はっは!
   ところがどっこい、なんだなー!


   何を…?!


   蓉子はそなたらの元には帰らんぞー!!
   何しろ、敵
〈カタキ〉方である私を愛してしまっているからなーー!


   …くッ


   え、そ、然うだったんですか、蓉子さま…ッ?


   はい、此処で蓉子は二人の前に敵としてバーンと現れ


   冗談として受け流して良いわよ、寧ろ流しなさい、祐巳。


   はい、分かりました!


   はや!


   蓉子さまですから。


   あーもう、ちょっとちょっとぉ!
   のりが悪いよ、悪すぎだよ、蓉子。
   そこは少しでも苦悩するふりを…つめてぇッ


   くだらないコトを言っていると。
   其の口に雪を詰め込むわよ?


   …と、兎に角。
   蓉子は簡単には渡さんぞー!!


   ならば奪い返すまで!
   …ですよね、お姉さま!


   其の通りよ、祐巳!
   いざ、尋常に勝負!


   おお、かかってこい!紅姉妹!
   …て、蓉子、蓉子はこっちだって。


   私も紅姉妹の一人なんだけど。


   然うなんだけど。
   蓉子は私ひょぅッ?


   喰らいなさい。


   よ、蓉子、冷たい、冷たいか、ひゃぁ…ッ


   喰らえ、天狗面。


   …て、こらぁぁぁでこぉぉぉ…!
   お前は雪だるまを作ってたんじゃ…!!


   だって。
   良く考えたら当主様に雪玉を投げつける機会なんぞ、そんな無いし。


   いや、お前だったら雪さえあれば…てか、令!
   何気に雪玉作って渡してんな…!!


   …すみません、当主様。
   お姉さまがひとたびこうなったら、誰にも止められません…。


   私はでこにぶつけてやりたいわ。


   由乃、其れは駄…あ。


   あららー。ざんねーん。
   届いてないわよ、由乃ー。


   …絶対、ぶつけてやる。


   だ、駄目だって!


   喰らえー!!


   よ、由乃ーー!


   …よし、今のうちに。
   志摩子、今こそ白姉妹の力を…て、居ないしーーーーー!!


   志摩子ならこっちよ。


   あー、志摩子ぉ!!
   なんで蓉子のところに…?!


   …冷たいのは、あまり。


   蓉子ぉ…ッ


   あーはいはい。
   風邪をひかない程度にね、聖。


   …あ、分かった!
   若しも風邪をひいたら蓉子が直接温めてくれたり、とか!


   …存分にやって良いわよ、祥子、祐巳。
   ついでに江利子。


   はい、お姉さま!!
   祐巳!


   はい!


   私はついでなのねー。


   よ、蓉子ぉぉぉ…!














   ・


   ・














   楽しかったね、由乃さん。


   うん、然うね。


   雪って。
   面白いね。


   然うね、冷たいけ…くしゅんッ


   だ、大丈夫?
   由乃さ…くしゅんッ


   …。


   …。


   ふふ。


   へへ。


   ほら、二人とも。
   楽しかったのは分かったから、


   先にお風呂に入ってらっしゃい。
   そのままだと風邪をひくわ。


   はーい。


   …其れにしても。
   あともう一息だったのに、最後の最後でお姉さまったら…。


   …祥子。
   目が物凄く本気でえらく怖いよ…。




   ・




   …く、くしょい!!


   此方に向けてくしゃみをしないで頂戴。


   さ、寒いよぉ、蓉子ぉ。
   てか皆でよってたかってひどいよぉ。


   今、お風呂を焚いているから。
   沸いたら直ぐに入ると良いわ。


   蓉子も一緒に…


   入りません。


   …うー。


   じゃ、私は行くから。


   あ、蓉子、待って、一人にしないで。


   …だからって。
   足にしがみ付かなくても。


   居てー、此処に居てー。
   居てくれるって言ってくれないと、離さないー。


   悪化するわよ。


   だって…。


   あーもう。
   分かった、分かったから。
   一先ず、離れなさいよ。


   …一人にしない?


   しないわよ。


   本当に?
   嘘じゃない?


   私が嘘を好まないのは。
   聖、貴女は誰よりも知っていると思っていたのだけど。


   はい、然うでした。


   全く。
   本当に手ばかり掛かるんだから。




   ・




   あの、江利子さま…?


   んー?


   何故、此方に?


   何となく。


   は、はぁ。


   いやー、この部屋は暖かいわねぇ。
   やっぱ、雪の日は暖かい所に限るわねぇ。


   …宜しかったら。
   身体を温めていって下さい。


   んー、勿論、其のつもりー。


   えと、お茶はいかがですか?


   貰うわ。























   最初は吃驚したけれど。


   だけど。


   見慣れぬ真っ白な世界も。


   悪くないな、と思いました。

















   由乃さん。


   なぁに、祐巳さん。


   また、降るかな?雪。


   降らなくても。
   当分、ありそうよ。


   だけど。
   降った方が新しくて良さそうじゃない。


   なるほど、其れも然うね。


   ね、降るかな。


   屹度、降るわよ。



































  Antidote了










  “Antidote”
  Final Fantasy Tactics
  崎元 仁