香 水 月 季
ゆーみちゃん!
ぎゃっ
お、今日も絶好調?
……。
うん、なになにー?
……おもたいです、当主さま。
うん、だって重たくしてるんだもん。
…。
うりうりー。
……。
む、反応無し?
…かじょうに反応してはだめ、と、お姉さまにいわれました。
だから、しないことにきめたんです。
あらぁ、其れはつまらないコトをしてくれたもんだねぇ。
早くどいてください、おもたいです。
つまんないなー。
つまらなくて、けっこうです。
じゃあ、これから一緒に散歩行かない?
いきません。
えーなんでー?
これから蓉子さまに術をならうんです。
だから、当主さまをかまってるひまはないんです。
蓉子?
蓉子んトコに行くの?
はい。
じゃ、私も行く。
は?
そうと決まったら行こう行こう。
あ、ちょ、
もたもたしてると、持ち上げちゃうぞー?
……あぁぁ。
軽いなー。
もちっと食べないと大きくなれないぞー、なんてねー。
お、おろしてください!
いやぁ、なになに。
遠慮なんて要らないのだよー。
えんりょなんて、してません…!
それ、蓉子も良く言うよ。
流石、孫。
ああ、もう…!
反応が蓉子と同じ。
可愛い。
とうしゅさ…え。
さ、このまま行くよー。
当主さま…!
ふむ、往生際の悪い子だなぁ。
じゃ、なくて!
はな、はな…!
はな?
…はな?
そのはなじゃなくて!
ん?
ち、ちがでてます…!!
………あれ?
きものについちゃってますよ…!
あら、あらら。
あら、じゃないですから!
なんでかな。
しりません!
とにかく、おろしてください!
あー。
それから、なにかはなに…
どうしよー、止まらないー。
うえ、うえをむいてください、当主さま!
上ー?
そうです、うえです!
でも、止まらないと思うけどなー。
でも、たれません!
いやいや、それも難しいと思うけどなー。
じゃあ…!
一体、何を騒いでいるの。
お。
蓉子さま…!
祐巳、これは一体全体何の騒ぎなの?
それが当主さまが…
よーこー、鼻血、でたー。
鼻血?
止まらなーい。
何をやっているのよ、貴女は。
いやぁ、祐巳ちゃんと遊んでたんだけどねー。
わたしはあそんでません!
あんなに遊んであげたのにー、聖さん、淋しいなぁー。
あそんでません!
だいたい、わたしは蓉子さまのおへやにいこうとしていたのに、なのに当主さまが…!
どうせ、聖が勝手に構って巫山戯ていただけなのでしょう。
大丈夫、分かってるわ。
えーそんなことないよー。
聖。
あーい。
はい、此れ。
お。
とりあえず、手巾〈ソレ〉で鼻を押さえてなさい。
…ふふ、蓉子の匂いがするー。
やっぱり返して。
やー。
…そのまま暫く、一人で大人しくしてなさい。
祐巳、行きましょう。
はい、蓉子さま。
やだ、私も一緒に行くー。
子供みたいな事、言わない。
邪魔しないからー。
いいえ、絶対にするわね。
はい、ぜったいにします。
えー、ひどいよー。
兎に角、大人しくしてなさい。
じゃないと止まらないわよ。
止まらなくても良い。
二人と一緒に居る。
聖。
当主さま。
ね、邪魔しないからさー?
何だったら、私も教えるよ。
真名なんてどう?
祐巳には未だ早いわよ。
じゃあ、白浪。
白浪、ね。
ほら、いつだか水に関しては私が、て言ってたじゃん?
言ってたわね。
あの時は大変だったわ。
だから、此度で名誉挽回。
ね?
あら、挽回する名誉なんてあるのかしら?
うわ、ひどい。
ふふ。
ね、ね?
挽回させてよー。
と、聖は言っているけれど。
どうする?祐巳
いやです。
だって。
えーー。
祐巳ちゃん、そりゃないよーー。
別に当主さまにおそわらなくても、蓉子さまが教えてくれます。
ま、然うね。
いやいや、然うは言うけどね?
蓉子は火、私は水が得意なんだよ。
でも蓉子さまは水の術も“えとく”されてます。
そりゃ、使うだけなら誰だって出来るさ。
でも、得意か然うでないかとなると話が違う。
殊、真名なんかはね。
…。
と言うか会得だなんて難しい言葉、良く知ってるねー。
けど、蓉子さまは
私は水が得意。
蓉子よりも。
…。
ねぇ、蓉子。
それは蓉子が一番良く、知ってるだよね。
まぁ、ね。
…蓉子さま。
確かにね。
祐巳ちゃん、こう見えても聖は水の術となるとこの家で一番の使い手なのよ。
特に真名は…
江利子さまよりもですか?
ええ。
…。
ほら、ね?
だからさ、ここは一つ、素直に聖さんからも…
……。
わ、凄い不服そうな顔。
気持ちは分からなくも無いわ。
て、蓉子ぉ。
けれど。
祐巳ちゃん、聖が言っている事にも一理あるのよ。
…そうなんですか。
得意な人ってね。
教え方が然うでない人より、上手なのよ。
…当主さまなんかでも、ですか。
なんか、と来たか。
なんと言うのかしらねぇ。
コツ、を掴んでいるのよね。
コツ、ですか?
私も然うなんだけど…
ま、私は真名と顔なじみでもあるからねー。
…はい?
ちみっと親しい間柄でもあるのよ、私。
したしいって、あのまなひめとですか?
うん。
ねぇ、よ
……。
…あ。
…然うね、然う言えば親しかったわよねぇ。
あ、いや、蓉子さん、これは何と言うか、祐巳ちゃんに分かりやすく説明する為と言うか…
祐巳。
は、はい。
こんなだけど、一応は確かだから。
い、いちおうですか。
蓉子、親しいと言っても然うでもなくて、何と言うか、アレだよ。
言葉の綾と言うか、ね?
私よりは正確に且つ、何のかは知らないけれどコツとやらも教えてくれるんでしょう。
ねぇ、聖。
だ、だから、蓉子…。
けれど今日は私が教えるから、聖は部屋に大人しく居るか、散歩に行くかして頂戴。
さ、祐巳、行くわよ。
もたもたしないでね。
は、はい…!
蓉子、待って!
待ちません。
蓉子!
…鼻血、止まらなくなるわよ。
蓉子も知ってるでしょ?
ねぇ。
……。
よ、蓉子さま…。
ねぇ、蓉子。
私と真名は…
知ってるわよ。
でも
…。
…聖こそ、分かってるんでしょう。
……でもわざとじゃ、無かったんだよぅ。
今回、は?
……ごめんなさい。
別に良いわよ、謝らなくても。
けど蓉子、怒らせた。
怒ってないわよ。
でも
良いから。
じゃあ、
けど今日はだめ。
…うぅ。
え、ええと…蓉子さま、当主さま。
…なに、祐巳。
…。
えと、当主さまは水がとくいなんですよね。
とくに“まなひめ”が。
…然うよ。
…。
え、えと、その、みてみたいです。
見る?
…?
は、はい。
できれば蓉子さまのとくいな術も教わるだけでなくて、この目でみてみたいです。
わたしにはまだ、だめだと思いますけど…みてみたいです。
…。
…蓉子。
…。
蓉子さま…だめ、ですか。
良いわよ、いずれは然うするつもりだったから。
…!
じゃ、じゃあ
蓉子!
けど聖、それは今直ぐでは無くて
今から行こう!!
…は?
祐巳ちゃん、その希望、直ぐに叶えてあげよう!!
え、え…?
蓉子、さぁ、行こう!
何処に…て、聖!
痛いわ、引っ張らないで!
祐巳ちゃんも行くよ!
え、えぇ…ッ
見たいんでしょ?
あ、で、でもいますぐじゃ、なくて…あ!
時間が勿体無いから、ね!
お、おろして、ください…ッ
イツ花、イツ花ー!!
聞こえるー!?
はーい、何でしょーーう。
今からちみっと、出掛けてくるからーー!
あらあら、当主様。
今日はどちらまで行かれるのですか?
近場!
だから二、三日で戻るよ!
ああ、然うですか。
蓉子さまもご一緒に?
私は
もっちろん!
だから大丈夫!
ちょ
ああ、なら大丈夫ですね。
い、イツ花ぁ…。
あらあら、若しかしたら祐巳さままで?
うん!
だから、祥子には宜しく行っておいて!
う〜ん、イツ花にはちみっと、重たいと思いますが…
まぁ、そんなわけで宜しく!
はい、分かりました。
ではでは行ってらっしゃ…あ!
当主様、ちみっと待って下さい!
なに?
時間が勿体無いから早くね。
こんなコトもあろうかと、お弁当、お弁当を作っておきました!
お、気が利くねぇ!
と言うか、こんなコトって何よ!
無いでしょう、普通!
いやいや、蓉子さま。
実は蓉子さま達が未だお生まれにならない頃に
イツ花、早く早く!
はいはい、当主様。
勿論一人分以上、ありますから。
じゃ、これは祐巳ちゃんが持って。
え、えぇぇ…。
んじゃ、行ってくるね〜!
はーい、行ってらっしゃいませ〜。
道中、くれぐれもお気をつけて〜!!
…。
…。
さーて。
張り切って行こっか!
……。
……。
ん、何々?
二人とも、元気無いなぁ。
……きいても、いいですか。
えー、どうしよっかなー。
……蓉子さま。
大体の予想は、ついてはいたけれど。
さっすが、蓉子!
私のお嫁さん!!
調子に乗らない。
はーい。
…えへへ。
……。
お。
祐巳ちゃん祐巳ちゃん、あっち見てみ。
…は。
河童の皆さんが早速、おいでなすったよ。
あ…。
正しくは尻子玉大将。
河童の姿をしているのが然うなのだけれど、分かるわね?
は、はい。
周りの鬼は…
そんな事はあとあと。
とりあえず此処は私に任せてー。
…好きになさい。
油断しすぎてしくじらないようにね。
まっかせて。
んじゃ…。
迸〈ホトバシ〉レ、白浪…!
はい、終わりー。
……。
……。
これが私の白浪、良く見てたかな?
…は、はぁ。
ま、河童どもにゃ、此れで十分ってね。
……あの。
…はぁ。
ごめんなさいね、祐巳。
え、何々?
聖。
あい。
で?
どうせ見るなら実戦の方が宜しいかと思ってー。
で、相翼院?
鳥居千万宮の方が良かった?
然う言う問題じゃない。
じゃ、九重楼?
でもあそこ、途中の森が鬱蒼としてて陰気臭いんだよなー。
てか、鳥居千万宮も同じ理由で却下してみたり。
場所の問題じゃ、ありません。
…蓉子、未だ怒ってる?
と言うより、呆れてるのよ。
莫迦。
けど、善は急げって言うから。
ね?
だからって。
貴女、一体何を考えているの。
術指南のこと?
祐巳は初陣を迎えるには未だ、早いのよ。
其れなのに、
こんなん、初陣のうちに入らないって。
それに蓉子も来てくれたし。
其れは貴女が行くと言って聞かないから。
と言うか、強制だったじゃないの。
そんな蓉子が大好き。
誰よりも、大好き。
…。
ね、蓉子。
誰よりも、だよ?
……はぁ、全く。
本当に何を考え
あ!
んあ?
よ、蓉子さまうし
…て!
……ろ。
おーー。
いるのよ。
………わ、わぁぁぁ。
さっすが、蓉子ー。
幾つになっても一撃粉砕が良く似合うー。
何だったら貴女も然うしてあげるわよ。
いやいや、私はもうすっかり骨抜きにされてますから。
蓉子さんに。
莫迦。
へへへ。
ま、そんなわけだから。
祐巳ちゃん、いっぱい見ておくんだよー。
…いっぱいって。
聖、術は無限に使えるものじゃないわ。
使い過ぎれば体に負担がかかって
はい、ちゃんと分かってます。
だから程ほどに、でしょ?
分かってれば良いけれど。
うん、分かってるよ。
…で?
このまま行くの?
行くよ。
河童如きじゃ、相手にもならんし。
え、いくんですか…。
そりゃあ、ね。
見たいんでしょ?
で、でもわたし、ういじんも…と言うか、こんなかっこうのままで…
…確かに。
聖。
うん?
貴女、得物はどうするの。
手ぶらだけど。
あ、そこら辺は大丈夫。
…ほら、こんなんが丁度あった。
……。
…きの、ぼう?
そこそこの重さもあるし。
これで大丈夫。
貴女の得物は棒ではなくて、槍でしょうが。
平気平気、長さも手ごろだし。
……。
ほ、ほんとうに大丈夫なんですか…。
そんなに奥には行かない予定だし。
大丈夫でしょ?
わ、わたしにきかれても…
それにほら、いざとなったら無手の蓉子さんが居るから。
…頭が痛くなってきたわ。
え、大丈夫?
癒しの術、かける?
結構、よ。
全く、仕方無いわね。
そうこなくっちゃ!
ほ、ほんとにいくんですか…?
行くよって言ってるじゃん?
で、でもぉ…。
大丈夫大丈夫、蓉子と私が居るから。
ちゃーんと、祥子のトコに帰してあげるって。
…。
祐巳、行くと言っても無理は絶対にさせないから。
大丈夫よ。
…は、はい。
んじゃ、手を繋いで行こっか。
いざと言う時に対処出来ないから、却下。
細やかな夢なのに〜。
…。
親子みたいじゃん?
ね?ね?
…兎に角。
今は、だめ。
ちぇ。
でも今はって言ってるから、そのうち、必ず叶えよっと。
……この人の“ばか”は絶対に治らないんだわ、もう。
……うぅぅぅ。
ほい、祐巳ちゃん。
此処がかの有名なキサのお庭だよ。
……し、しぬかとおもった。
久しぶりだったから忘れてたわ。
何、あの象の像のコト?
…。
…。
駄洒落じゃ、無いよ?
分かってるわよ。
正しくは歓喜の舞よ、祐巳。
は、はぁ。
しっかし、どこが歓喜の舞なのかねぇ〜。
ただの象の像じゃんね〜。
…。
…。
だから、駄洒落じゃないよ?
…祐巳。
…はい。
牛頭丸〈ゴズマル〉、土々呂〈ドドロ〉、
でもって、印虎姫〈インコヒメ〉。
白浪も忘れないでね。
ゆっくりと見せてあげる事は出来なかったけど。
雰囲気は分かったかしら?
……え、えと。
な、なんとなくは…。
ほんとかな〜?
……。
…まぁ、無理でしょうね。
いきなりの実戦だもの。
…すみません。
ま、良いってコトよ。
…。
ちなみに。
本気だともっと凄かったりするんだよ。
え、あれ、本気じゃなかったんですか?
だって祐巳ちゃんが居るしねぇ。
危ないじゃん、本気でやっちゃ。
………。
と言うかその棒、もう使えないんじゃないの。
うん、かも。
思い切り、折れちゃってるじゃない。
根性の無い奴だ。
そもそも聖の力に耐えられるわけ無いでしょう、ただの棒に。
結構いけると思ったんだけどなぁ。
仕方ないなぁ。
一寸、待ってなさい。
え、何処に行くの?
良いから。
直ぐに戻るわ。
…あー。
…。
蓉子、未だかな〜。
…。
祐巳ちゃん、あそこに花が
…え、はな?
咲いてたら、良かったのにねぇ。
…。
此処はさ、季節になったら蓉子の花が咲くんだよ。
…蓉子さまの。
蓉子の蓉は、花の蓉なのさ。
聞いたこと無い?
…。
あはは、そっか。
蓉子さまの花って
芙蓉。
…ふよう?
どんな花かは…内緒。
然うだなぁ、夏頃にまた此処に来れば見られると思うよ。
なつ…。
…ま、そん時は私も蓉子も居ないだろうケドね。
え、なんですか?
うんにゃ、何でもないよ。
蓉子、遅いねぇ。
…はい。
聖、祐巳。
あ、蓉子だー。
蓉子さま。
ごめんなさいね、待たせてしまって。
大丈夫だった?
はい、だいじょうぶです。
此処は元々、鬼が入ってこないんだよね。
何か施してあるのかもねぇ。
然う。
ところで蓉子、何処に
はい。
はい?
とがりノ槍〈こんなの〉でも無いよりはマシでしょ。
どったの、これ。
河童から。
え、ほんとに?
手ぶらで此の先に行くよりは良いでしょ。
まぁね。
言ってくれたら一緒に
祐巳を休ませるのが先決でしょう。
え。
ああ、そっか。
然うだよねぇ。
私達のようには、未だ、いかないのよ。
忘れないで。
はい、了解です。
……すみません。
良いのよ。
元はと言えば、突発的にこんな所へ連れて来たのが悪いのだから。
なはは。
笑い事じゃないわよ。
帰ったら祥子に何を言われるか。
そこら辺はイツ花が
無理でしょう。
…あ、やっぱり?
どうするのかしらね?
蓉子と一緒に謝る。
更に巻き込むのね。
お願いしまっす。
…で、未だ行くの?
未だ、見せて無いじゃん?
ここから先は鬼が変わる。
危ないわ。
鬼子母の間、見せてあげたかったんだけどな。
…きしも?
幾らなんでも危なすぎるわ。
だよねぇ。
きしものまってなんですか?
お業さんが居たところ。
…おごう?
て、知らないか。
未だ。
…。
うちに帰ったら交神相手の神が載ってるの、見てみ。
ああ、かみさまですか。
そ。
…でも、あれ?
かみさまっててんかいにいるんじゃ
ん〜、良いトコに気が付いたねぇ。
朱ノ首輪が付けられて鬼になってたの。
しゅの…?
かみさまが、おに…?
付けたのは朱点。
でもお業さんの場合は色々とあったみたいだから。
…いろいろ?
母は時に鬼にもなる。
子の為に、てね。
聖、茶化さない。
はぁい。
…。
いずれ、朱ノ首輪についてはきちんと教えるつもりだったけれど。
手間が省けて良かったねぇ。
未だ省けて無いわよ。
もっとちゃんと教えないと。
未だ残ってンのかねぇ。
無いとは限らない。
ふぅん。
じゃ、そこは蓉子に任せるね。
邪魔しないでね。
邪魔は、ね。
………。
祐巳ちゃん。
…あ、はい、なんですか。
鬼子母の間は無理そうだってから、おっきくなったらまた来ると良いよ。
はぁ…。
来ても何も無いけれどね。
今となっては。
…。
さて。
休息も十分だし、先に行こっか。
絶対に、無理は駄目なんだからね。
…でも、さ。
…。
近道、あったんだよねぇ。
…然うだったわ。
忘れてた?
来る必要性が無いもの。
だからさ、たまに来るのも良いじゃない?
戦勝点稼ぎに。
だったら、親王鎮魂墓に行った方が良いわ。
彼処の方が能率良く稼げる。
あっちは“じめじめ”がひどいからなぁ。
能率良くても、環境が悪すぎ。
…あ、あのぉ。
うん?
この先は…
まさに奥の間、鬼子母の間に続くってね。
行きたい?
い、いえ…
危ないから、駄目。
あのさあのさ、私、良い事思いついたんだけど。
ろくでも無さそうだから、だめ。
まぁ、然う言わずに。
寝太郎〈ネタロウ〉をかけながら行くのってどう?
…。
お、良さげ?
そこまでして、進みたいの?
どうせだから、さー。
完全に最初の目的と変わってしまってるじゃない。
だいじょぶ、そっちも忘れて無いから。
あのねぇ、聖。
行こうよ、蓉子。
…。
此処まで来たのなら。
……聖。
寝太郎は任せて。
…。
祐巳ちゃん、寝太郎の威力、覚えておいて損は無いよ。
楽、出来るからね。
は、はい…。
…。
蓉子、
私もかけるわ。
…へ。
併せにしておくのよ。
より、強力なものになるし、
し?
負荷も、減るから。
…なるほど。
全く。
鬼子母の間なんか見ても今じゃ何も無いと言うのに。
ある意味、うちの始まりでもあるからさ。
…。
教える手間が省けるよ?
…感傷なんて、無いわ。
私もだよ。
全然、無いね。
……。
然う言うわけだから。
祐巳ちゃん、私の背中に乗ろうか。
え、なんでですか?
さっさと駆け抜ける。
鬼が寝てる間に、ね。
かけ…
良いから。
さ。
蓉子さま…。
祐巳、聖の背中に。
確りと捕まって、一瞬でも力を抜かない事。
良いわね。
は、はい、わかりました。
うん、良い子だ。
……。
良し。
それじゃ、蓉子。
ええ。
深キ眠リノ淵ヘト堕チヨ、寝太郎。
……。
良し、着いた。
降りる?祐巳ちゃん。
……。
祐巳。
……は。
良く頑張ったわね、祐巳。
よ、蓉子さまぁ…。
あらら。
あまりの速さに腰が抜けちゃった?
…うぅぅ。
当たり前でしょう。
初陣も未だの子なのに、こんな所まで連れてこられて。
かえって度胸が付いて良いんじゃない?
初陣の時には大活躍、てね。
ばか。
………。
さて、祐巳ちゃん。
……は、い。
此処が鬼子母の間だよ。
何も無い、でしょ?
ない、ですね…。
がらんどう、ってヤツだね。
だけど主が居なくなった今でも何〈ナン〉かが残っているのか、鬼共はこの間に入ってこない。
だから、安全ってわけさ。
……はい。
蓉子も話す?
…此処には先刻も言ったけれどお業さん…方羽ノお業が居たの。
鬼となって。
…。
「天女が人間の男に恋をした。それが全ての始まりだった」。
…え。
その天女とは…方羽ノお業の事よ。
…。
でもって天女は事もあろうに人間の男との間に二人の子を生した。
と言うか、出来るもんなんだね。
…聖。
下世話だった?
…方羽ノお業の子は
しょだいさま…。
お、鋭いねぇ。
で、でも
朱点は…つまり、私達と一緒なのよ。
おな、じ…?
と言っても。
私達の方が“強く”なってはいるけれどね。
人間の血なんか、ここまで来たら無いに等しいくらいに薄まっているから。
…。
神と人間の子。
それはもう、“周り”は大騒ぎだったみたいでねぇ。
奉る者が現れて、大江山に都まで作られた。
おおえやま…あ。
そしてそれは時の帝をも凌ぐものとなった。
けれど。
それを良しとしないのが、人の常。
帝は幼児相手に兵を向けたんだってさ。
その数、
十万。
じゅうまん…。
未だ、分からないかな?
百までなら…。
ま、兎に角すっごい数の兵を赤子相手に向けたんだってさ。
莫迦だね、人間って。
そ、それでどうなったんですか?
…結局帝側が勝ち、
お業さんの旦那となった男は殺された。
女に化けた野郎にね。
こどもは…。
お業さんが逃がしたらしい。
自分の身を挺して、ね。
人間に捕まったお業さんは、そりゃあもう、酷い目に合わされたらしいよ。
見世物小屋に売られたり…ね。
けれど一人の子は…然う、行方知らずになって。
ん…?
そしてもう一人の子は…
…朱点。
然う。
此処はそんなお業がずっと、後悔や恨み、怒り、悲しみ、そして子を想う念に縛られて居た場所。
…。
蓉子、行方知らずって。
…今は未だ。
混乱させるだけだから。
…ま、良いけどね。
この間はお業さんが居た時は無数の蝋燭が並べられていた。
それはもう、薄気味悪かったさ。
ろうそく…て、あれ。
お、気付いた?
当主さま、ここにきたことがあるんですか?
おごうさんがいたときに?
うん、初陣の時にね。
で、お業さんと戦〈ヤ〉った。
ついでに髪ともね。
かみと?
う、ういじんで、ですか?
うん、凄いでしょ?
あ、え、えぇ?
なに、祐巳ちゃんもなれるさ。あっと言う間にね。
今はひよこでも、私達とは“家族”なんだから。
……。
聖。
おう。
もう、満足した?
なんで私?
貴女が来たかったのでは無くて?
いや、然う言うわけじゃ無いんだけど。
どうせだから、と思って。
ふぅん?
ほんとに来たいってわけじゃ無かったんだって。
ただ、いざ来てみたら少し…
…少し?
何だかなぁ、と思って。
…何だかなぁ、ね。
だって、然うじゃん。
人間の男の何処が良かったんだが。
まぁ、聖にしてみれば然うかも知れないわね。
なに、蓉子も人間の男が
そこじゃ無いわよ。
そこじゃない?
想いは時に、感情の制御が出来なくなる。
聖に覚えは?
…。
無いと、言えて?
……あー。
祐巳。
………。
この奥に髪が居たわ。
いずれ貴女も戦う事になるかも知れない。
…いえ、若しかしたら。
…はい。
その為に、力を得る必要がある。
私達以上の力を。
……。
よし。
んじゃ、そろそろお暇〈イトマ〉しよっかね。
戻りも、寝太郎?
いんや。
いっちょ、派手にやってやろうじゃないの。
…。
祐巳ちゃん。
あ、はい。
君は後ろでこそっと見てなさい。
気配をなるたけ殺してね。
良いかい?
け、けはいをころす…。
出来るだけ息を潜めて、そして音を立てないようにしているの。
分かる?
は、はい…なんとなく。
良いかい祐巳ちゃん、良ぉく見てるんだよ?
一回しか、やらないからね。
はい。
聖、あまり無茶はしないでよ。
蓉子こそ。
私はしないわよ。
間違っても。
“鳳凰”、はやらないでね。
命が幾つあっても足らないから。
やらないわよ。
然うだ。
どうせだから、併せ、でやる?
併せを?
頑張っちゃうよー。
はいはい。
でも今回はそれぞれの“得手”を見せる為だから。
そっか。
せいぜい、良い格好を見せてあげて頂戴。
但し、くれぐれも調子には乗らない事。
応さ。
それと、祐巳。
多分、そんな余裕は無いとは思うけれど、可能であらば、印も見ておきなさい。
いん…。
結び方はそれぞれの癖があるけれど。
参考にはなる筈だから。
はい、わかりました。
…あの。
ん?
うん?
わ、わたし、がんばって見てますから。
だから
うん、見てて。
ね、蓉子。
ええ。
よし…それじゃあ。
……。
謳ヘヤ、真名姫…ッ!
踊レヤ、凰…ッ!
…それ、で。
はい、祥子。
祥子にもお土産あるよ。
要りません!
えー、折角帰り道に買ってきたのに。
葛菓子、好きなんだってねぇ。
そんな事より、一体、何を考えていらっしゃるのですか!
三日も家を空けるだけでは飽き足らず、祐巳まで連れて
イツ花には言っておいたよ?
祐巳を連れて行くのなら、私に然るべき事を
そういや祥子はもう、鳥、呼べるようになったんだっけ?
呼べますわ!
それよりも
でもまぁ、未だ未だ、蓉子には及ばないんだろうなぁ。
いや、蓉子のは相変わらず、凄かった。
…!
だから…!!
祥子。
大体、お姉さまも居ながら…!
ああ、祥子。
それについてなら、私が無理矢理、連れて行ったから。
それは先程お聞きしましたわ!
けれど
然うね。
ごめんなさいね、祥子。
謝れば
どっちみち、何を言っても無駄って事でしょ。
だったら美味しいものでも食べようよ。
然う言う態度が!!
第一、
第一、なんですの!
私と蓉子が祐巳ちゃんを危ない目に遭わせるわけ無い、じゃん。
十分、危ない目に遭わせてますわ!!!!!
イツ花、お茶持ってきてー。
ちゃんと聞いてますの…!?
聞いてるよ。
祐巳ちゃんにははい、お饅頭ね。
あ、ありがとうございま
祐巳…!!!
は、はい、お姉さま。
大体、貴女も
祥子、祐巳は無理矢理連れて行かれただけだから。
だったら何故、お姉さまは
はい、蓉子。
蓉子にも求肥入りお饅頭。
はいはい、ありがとう。
あーーっもう!
何なんですの、この和やかさは!!!
ほら、そんなにかりかりしてると…ああ、そっか。
ごめんごめん、祥子。
私とした事が気が付かなかったよ。
全くですわ!!
そもそも当主様は
祥子は蓉子と祐巳ちゃんがお揃いなのに、自分は違うから面白く無いんだよねぇ。
…は?
やっぱり同じお饅頭の方が良かったか。
ねぇ、蓉子。
…とりあえず、美味しいわね。
これ。
お、それは良かった。
祐巳ちゃんはどうかな?
…え。
………。
気にしないで、ぱくっといっちゃいな。
で、でも…。
……ゆーーみーーーぃぃ。
わ、わたしはあとでたべます。
あー、だめだめ。
え、なんで…。
今直ぐ食べて、感想を聞かせて。
次の参考にするから。
え、えぇぇ。
とりあえず蓉子はお気に入り、と。
…求肥も美味しいものね。
あ、祥子。
葛菓子、祥子が食べないなら祐巳ちゃんにあげちゃうけど、良い?
……あぁぁぁぁ、もうッ!!
いやいや。
怒れる祥子、だったね。
だから言ったでしょう?
うん、言われた。
全く。
でもさ、良かったでしょ?
何が。
私達は屹度、行けないから。
…。
術も見せられたし、一石二鳥。
後付でしょう、それ。
ううん。
実は前からほんのり思ってた。
…。
本当は芙蓉の花が咲く頃が良かったんだけど。
…それは
でしょう?
だから。
……。
ところで、さ。
…うん?
祐巳ちゃんって実際、どんな感じなの?
どんなって?
術。
職業柄、どうなのかなって。
筋はあるわよ。
それは誰と比べて?
志摩子。
じゃあ、大丈夫だ。
由乃ちゃんとだったら…ちと、きついもんね。
確かに由乃は…少し、厳しいわね。
ま、大丈夫でしょ。
志摩子と祐巳ちゃんが居れば。
その為にも。
祐巳には確りと修練させないと。
だね。
いつでも言って。
もう、貴女は良いわ。
二人で教えれば効果は二倍、てね。
志摩子に教えれば?
あの子はでこちんがほっとんど、教えちゃったから。
誰かが適当な態度を取ってるからでしょう?
かな?
…ま、結果的に言えば江利子に教わるのは良い事なのだけれど。
でしょ?
だからって、貴女がすべき事だった事には変わり無いわ。
だから祐巳ちゃん、に。
構いたいだけでしょ、ただ。
はは、だって面白いんだもん。
程ほどにしてよね。
祐巳ちゃん、大丈夫かな。
大丈夫だとは、思うけど。
なんだかんだ言っても祐巳ちゃん命、だからね。
祥子は。
…可愛いもの。
うん、かわいいね。
けど
その先は言わなくて、良い。
言わせてよ。
言わせない。
……全く。
お姉さま、おちゃのおかわりはいかがですか?
貰うわ。
大体、祐巳も
お姉さま、蓉子さまの鳥はすごくきれいでした。
…然うでしょうね。
わたしもいつか、あんな鳥をよべたらいいな。
…。
あと…その、当主さまも
祐巳。
あ、ご、ごめんなさい。
私の鳥を、見せてあげるわ。
…へ。
いらっしゃい。
え、いまからですか?
然うよ。
で、お姉さまの鳥は鳳?
それとも、凰の方かしら?
あ、え、えと、オウショウライって言ってました。
然う。
なら私は鳳ね。
え、え。
早くいらっしゃい。
は、はい…!!!
ねぇ、蓉子ってば。
やかましい。
よーこぉ。
……。
香 水 月 季 了
凰、招来〈オウ、ショウライ〉。
ふぅ。
片付いたね。
…。
由乃さん、どうかした?
どこか怪我でも
祐巳さんの鳥っていつ見ても、あれよね。
え、あれ?
あれって何?
綺麗よね、ってコトよ。
然うかなぁ。
聞いた事があるんだけど。
え、何を?
蓉子さまのに良く似てるらしいわね。
ええ、然うかなぁ。
でも鳳はあまり似てない。
そりゃあ、やっぱり蓉子さまには敵わないよ。
だって蓉子さまの
鳳は祥子さま譲り、なんでしょ。
…教えては頂いたけど。
あと。
え、未だ何かあるの?
真名、よ。
真名!
…真名がどうかした?
祐巳さん、紅のくせに真名も得意でしょ。
ええ、然うでも無いよ。
然うでもあるわよ!
私なんか
あ、然うだ。
雷獅子〈カミナリジシ〉と言えば、志摩子さん。
…ん、なに?
志摩子さん、雷獅子、特に得意だよね。
得意って程でも無いのだけれど。
つーか志摩子さんの雷獅子はでこちんのソレとそっくりなのよ!!!
ええ、然うかしら。
あまつさえライジシって呼ぶし!!
…まぁ、それは確かに。
然うよ!!
白の志摩子さんがなんででこちんの雷獅子なの!?
なんで、真名が聖さまのに似てないのよ!!!
…と、言われても。
ああ、私なんてさぁ!!
そういえば、由乃さんと言えば令さま直伝の武人重ねがけよね。
そこは萌子って言ってちょうだい!!
じゃあ、萌子?
取ってつけたかのようじゃない!!!
しかも聞かないで!!
…まぁ、志摩子さんの梵ピンの方が効率が良いんだけどね。
何気に令さまも使えたし…。
祐巳さん、聞こえてるわよ!!
まぁ、由乃さんは術専門じゃないし。
良いじゃない。
良くない!!
なんで?
なんか、面白く無いのよ!
それにほら、一応は使えるのだし。
一応、って何よ!
まぁ…一応?
ねぇ、志摩子さん。
…ええ、一応ね。
…。
それより、先に進もうよ。
とりあえず、蛸のとこまでは行きたい。
蛸?!
え、百足の方が良い?
と言うかそれよりって何よ、それよりって!
私の術はどうでも
志摩子さんはどっちが良い?
蛸と百足。
然うねぇ…。
あぁぁぁもう!
ほんっと、面白くない!!!
香水月季・・・ロサ・キネンシスとロサ・ギガンティアの自然交雑種と考えられているロサ・オドラータの中国名。
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