…正気なのでしょうか、当主様。


   正気も正気。
   私はいたって平常だよ、イツ花。


   だけど。
   だって、そんな。


   つかさ?
   どうしてそんなに気にするのかな。
   別に良いじゃんか。


   いや、だって。
   当主様は腐っても女子なのですよ。


   当たり前じゃん。
   てか腐っても、て。


   髪を切られてからと言うもの、パッと見じゃなくても男子に見えてわーお、なのに。


   わーお、て。
   イツ花、何か変なモノでも食った?


   兎にも角にも。
   この期に及んでどーして、何でまた、男子の装束が良いなどと仰るのですか。


   この期に及ぶも何も。
   そっちの方が良いなーと思ったから。
   其れだけだよ。


   だから、何でですか。
   このイツ花、女子の装束については其れはもう丹念に、丹精込めて作り上げていると言うのに。


   てーと、何?
   男子のはぞんざいなの?


   ぞんざいではありませんけど。
   イツ花も女子、矢張り女子の装束の方が力が入るというものなんですよ!


   じゃ、其の意気で女子の着る男子の装束も作ってよ。


   いや、だからですね。
   当主様はただでさえ、髪の毛も短くいらして、普段の出で立ちも男子のようなのにですね。
   何も戦装束まで、男子のにしなくても良いじゃないですか。
   それとも何ですか、当主様は男子になりたいとでも言うのですか?!


   うん、なりたくないよ。
   其れだけは絶対に嫌。生まれ変わっても嫌。


   じゃあ、何故…!?


   動きやすそーから。


   …は?


   前々から思ってた。
   男子の装束の方が動き易そうだなーて。
   女子のはね、何かいまいち、なんだよね。
   足も開けないし。


   …それだけ、なんですか?


   うん。


   でも男子のは胸とかお腹のトコロがバーンとぉ!開いてて…。


   さらしでも巻いときゃ、へーき。
   ほら、腹に巻いているのがあるでしょや?


   其れは然うかも、ですけどぉ……蓉子さま!


   うん?
   何、イツ花。


   蓉子さまからも何か言って上げて下さい!
   ただでさえ見かけが男子だってーのに、更に男子化したいってんですよ!


   いや、そんな事一言も言ってないよ。イツ花。


   当主様…聖さまは子供の頃からそれはもう美人さんでいらっしゃるのに!
   あーもう、どうして!


   聖。


   何、蓉子。
   若しかして蓉子もやだ?


   嫌、じゃないけど。
   そんなに男子の装束の方が良いの?


   うん。
   蓉子もどう?


   其れは。
   拳法家の男子の装束がどんなものなのか、知っている上で言ってるのよね?


   勿論。
   なに、全開な胸はさらしを巻いて…。


   無理。


   ですよね。
   てか、蓉子は女子の装束のままで良いです。
   あの、見えそーで見えない太股内側が堪らなくよ


   其れ以上言ったら、オとすわよ。


   はい、ごめんなさい。
   なのでとりあえず、首から手を離して下さい。はい。


   …もう一度聞くけど。
   男子の装束が良いのね?


   うん。
   私なら屹度、似合うと思うんだ。


   はいはい。


   若しかしたら、見惚れちゃうかもよ?


   自信過剰。
   イツ花。


   はい、蓉子さま。


   手間を掛けてすまないけれど。
   作ってあげて頂戴。


   えー?!


   何を着ても、仮令男子の装束を着ても、聖は聖だから。
   と言うより、妄りにだらしなくされるよりは良いわ。


   は、はぁ…。


   ねぇねぇ。
   其れって一寸した告白だよね、蓉子さん。
   大事なのは外見じゃなくて、中身みたいな。


   莫迦。


   …やっぱり。
   当主様は男子の装束を着ると言い張るのですね。


   と言うか、着るよ。
   もう決定事項だし。


   でも…。


   あ、然うだ。
   じゃあ蓉子が作って。


   …は?


   待ちなさいよ。
   どうして私が。


   蓉子が作って呉れたのを着たい。


   莫迦な事言わないで。


   私は本気だよ、蓉子。


   一寸待って下さい、当主様。
   其れってイツ花が作ったのだとご不満だと言うのですか。


   不満じゃないけど。
   でも矢っ張り好きな人に作って貰えたら格別だと思わない?


   ば…ッ


   あー、なるほど。


   て、イツ花!
   そこで納得しないでよ!!


   だって、ねぇ。


   ねぇ。


   な、何で此処で意見が合うのよ!


   蓉子さまも賛成された事だしぃ。
   こうなったら最後まで当主様のご希望どおりにした方が良いのかなー、なんて。


   だよねぇ、イツ花。


   わ、私は作らないわよ!


   えぇー。


   えぇー。


   えぇ、じゃない!
   何なのよ!


   作ってよ、蓉子ー。


   作って上げて下さいませー、蓉子さまー。


   ちょ、聖!
   纏わり付いてこないで…!


   作り方なら今直ぐにでも教えて差し上げます。
   なーに、蓉子さまならお茶の子さいさいですよー。


   そうそう!
   蓉子なら出来る!


   あぁもう……!!!




















 コ ロ モ ガ エ




















   へっへー。


   気が散るから。
   あっち行ってて。


   や、だってさー。
   嬉しくて、さー。


   其れは良かったわね。
   私は良い迷惑だわ。


   未だ出来ないのかな。


   悪かったわね、不器用で。
   令のようにはいかないわよ。


   あれは特別。
   剣を握らせておくのが勿体無いと思うくらい。


   どうせ殴っている方が似合ってるわよ、私は。


   ふむ、蓉子ちゃんはご機嫌ナナメだ。


   誰のせいよ。


   誰かしら。


   そもそもどうして私が。


   だって蓉子に作って欲しかったんだもん。


   だもん、じゃない。
   可愛く言ったって駄目なんだから。


   はは。


   笑うところじゃないわよ。


   拗ねてる蓉子も可愛い。


   ……。


   あ、皺が一本増えた。


   …はい。


   うん?


   とりあえず、羽織ってみて。
   具合を知りたいから。


   はーい。
   …お、ピッタシ。


   そ。
   じゃあ、返して。


   ふふ、流石は蓉子さん。
   私の躰の隅々まで知り尽くしていらっさる。


   語弊のある言い方は止めて。


   でも間違ってないじゃない。


   隅々までなんか、知らないわよ。


   けど傷の数は知ってるよね。


   …。


   何気に。
   数えているでしょ?


   数えてない。


   あら。


   上だけでも今日中に仕上げてしまいたいから。
   もう、邪魔しないで。


   ほーい。


   …。


   あー、嬉しいなー。


   …。


   蓉子の手作り。
   あー、楽しみだなー。


   …聖。


   んー?
   なになにー。


   うるさい。
   気が散る。


   ごめーん。


   …。


   …ふふー。


   …。


   …へへー。


   聖。


   何かしらー?


   脇腹。


   へ?


   浅い傷が残ってた。
   ちゃんと治さなかったのね。


   ああ。
   でもコレ位だったらと思ったから。


   どうしてちゃんと治さなかったの。
   膿んだりしたら厄介だわ。


   大丈夫だって。


   高熱が出る可能性だってあるのよ。


   平気だって。
   心配性だなぁ。


   其れの何が悪いのよ。


   あ、や…。


   ……。


   え、と。
   ごめんなさい。
   けど一応、薬はぬっておいたから。


   …然う。


   痕は…残ったかも知れないけど。
   けど、蓉子が心配してるような事にはならないから。


   …折角、綺麗な躰なのに。


   あー…。


   あまり、心配させないで。


   はい。








   ・








   …。


   …ん。


   ……。


   なに…?


   …ううん。


   そう…?


   うん…。


   …。


   …。


   そんなに…気になる?


   …。


   気になるんだね?


   …どうして?


   ずっと、なぞられているような気がする。


   …。


   昼間言ってたところ…かな。
   と言うか、然うだよね…?


   …聖だって。


   私…?


   執拗に舌と歯、で……あれって、わざとでしょう…?


   うん。


   …。


   角度と光加減によっては。
   浮き上がって見える時があるのよ。
   例えば…此処、とか。


   …気になる?


   私は…ね。


   ん…。


   ね…蓉子は、気になる?


   …。


   …私の傷。
   気にして呉れる…?


   …。


   よう…あ。


   …。


   う…。


   …いや?


   …じゃ、無いけど。
   珍しい、な…て。


   …。


   はぁ…。


   …こっちのは。
   少し、深いわ…。


   …。


   こっちのは…もっと。


   …ようこ。


   …こんな事、しても。
   消えるわけでは無いけれど…。


   …。


   せめて…あ。


   …蓉子。


   聖…。


   交代…しようか。


   …さっきまで。
   してた、じゃない…。


   蓉子にされたら…また、したくなった。


   …。


   正直に言うと昂ぶった。
   始める前より…ずっと。


   …前、だって。
   人の話をろくすっぽ聞かないで始めたくせ、に…。








   ・


   ・


   ・








   …。


   ……。


   ……。


   …これで良し、と。


   …出来た?
   若しかして、出来ちゃった?


   ええ。


   わーい、やたー。


   少々の動きで解れてしまわないよう、本返しで縫ってみたのだけれど。
   縫い目が一寸、歪になってしまったわ。


   良いよ、気にならない。
   それより貸して貸して、良く見せて。


   はいはい。
   どうぞ。


   わー、さっすが蓉子ー。
   針仕事も


   お手の物、てところかしらね。


   …む。


   江利子。


   どれどれ。
   んー…。


   こら、でこ。
   勝手に見んな、じろじろ見んな。


   令ほどじゃ無いけれど、まぁ、なかなかの出来じゃない。
   流石、蓉子。
   ねぇ、令?


   なかなか、と言うより、良く出来ていますよ。
   縫い目も綺麗だし、なにより、全体的に見て歪みがありません。
   これなら違和感無く着られると思います。


   だって。
   良かったわね、蓉子。


   有難う、令。


   いえ、偉そうな事を言ってしまい、申し訳ありません。


   てか、でこ。
   お前、いつから居やがった。


   さぁ、いつからでしょう。


   あぁ?


   其れより。
   早速着るんでしょ、其れ。
   さっさと着てみたら?


   お前に言われるまでもねぇよ。


   聖、言葉遣い。


   貴女に言われるまでもありません事よ。
   て事で、はい、蓉子。


   自分で着られるでしょう?


   男子のは初めてだから、上手く着らんないかも知れないじゃない。


   自分で着たいと言い出したのよ。


   着たいとは言ったけど、着られるとは言ってなーい。


   屁理屈。


   よっこー。


   大体、構造的に女子のより難しくな


   手伝ってよ、蓉子。


   ……。


   あー、はいはい。
   そんじゃ私らは外に出てるわねー。
   れーい。


   あ、はい。
   それでは当主様、蓉子さま。
   どうぞ、ごゆっくり。


   おー、ありがとー令。


   …て、令!
   ごゆっくりって何…?!
   着付けにゆっくりも何も無


   蓉子さん。


   …ッ


   男子のってさ。
   胸も腹もバーンとぉ、開いているんだよね。
   イツ花曰く。


   …だから。
   さらしを巻くんでしょ。
   ほら、こ……れ。


   …うん?
   どうか、した?


   …いきなり脱ぎ出すのはどうかと思うわ。


   勝手に、て。
   言ったのは蓉子、だよ?


   言った、けど…。


   目、逸らしちゃって。
   今更。


   …貴女には。
   羞恥心と言うものが無いの。


   蓉子は。
   いつまで経っても初心、だね。


   ……。


   え、と。
   先ずは此れを…ありゃ。


   …何。


   落っこちちゃった。
   誰かに抑えてて貰わないと駄目かも。


   お腹のところで結ぶ紐があるでしょう。
   良く見て。


   えー、無いよ。


   嘘。
   ちゃんと付けたもの。


   でも無いよ。


   そんな筈無いわ。
   確認したもの。


   そこまで言うなら。
   見てみてよ、蓉子。
   無いから。


   …嘘だったら。


   早く早く。
   いつまでも素っ裸ってのも、流石に、ねー。


   …もう。










   …ね、あった?


   …だから。
   あると言ったじゃない。


   ごめん、私には見つけられなかった。


   嘘ばかり。


   折角なので。
   蓉子さんが結んで下さいな。


   …。


   ね、良いでしょ?


   …良いわ。
   但し…


   但し?


   貴女が放して呉れたなら、の話。


   あぁ。
   ふむ、どうしよっかなぁ。


   放して呉れないと。
   結べない。


   確かに。
   けど…


   …。


   この状況を手放すのも惜し…いだ。


   調子に乗らない。


   よ、蓉子、背中に爪立てるのはありだけど、爪で抓んのは無…いだだだ。


   そもそも。
   押し倒されている意味が分からない。


   ひ、捻んないで、ほ、本気で痛いから。


   放してくれるのね?


   …むぅ。


   ねぇ?


   …ちぇ。
   

   …。


   あだだだだ…ッ
   放す、放します、今直ぐに…ッ


   はい。


   …これが、夜だと。
   蓉子もある程度正直で可愛いんだけどな…。


   さっさと立ちなさいよ。
   着付け、するのでしょう?


   …あーい。


   それから。


   え…?


   此れは嘘を吐いた罰。





   ゴスッ





   …!
   い、ってぇぇぇ………ッッ


   な、何事ですか、当主様、蓉子さ…!?


   あらー。
   矢っ張り、と言うか。


   ……失礼、しました。
   続きはどうぞ、ごゆるり、と。


   令の反応もいちまち…あ、いや、訂正。


   お姉さま、やぁ、今日は天気が宜しいですね。


   然うね。
   ねぇ、令。


   はい、何でしょう。


   鼻、拭く?


   ……あ。


   知っているとは言え。
   元服前の子供には刺激が強いわよね、矢っ張り。










   さっきのは。
   洒落になってなかったよ、蓉子。


   自業自得。


   健康度、うっかり赤字表示な勢い。


   因果応報。
   と言うか、そこまでやってない。


   いや、あれはかなり効いた。
   軽く、目の前白くなった。


   嘘を吐いた挙句、裸同然で人を押し倒しておいて。
   おまけに令にまで見られた。
   最悪。


   確かに調子には乗ったけどさぁ…。
   てか、令に見られたのは蓉子さんが思いきし殴って下さったからで…


   何?


   あ、いや、すみません。
   今後、昼に押し倒す場合は人が居ないのを確認してからにしようと思います。
   は、ぃ゛…ッ


   ……。


   し、締めすぎ、締めすぎですって…ッ
   蓉子さ、ん…ッッ


   あら、ごめんなさいね。
   うっかり、手に力が入ってしまったみたい。


   ……絶対、わざとだ。


   なぁに?


   あ、いえ、何でもありません。


   さ、下は此れで良いわ。
   次は上。


   …うぅ、お腹痛いよぅ。


   聖、姿勢、正して。


   蓉子、お腹が痛い。


   冷やしたのね。
   そんな格好で居るからよ。


   違うよ。
   蓉子が思い切り、締めたからだよ。


   あくまでも。
   自分のせい、でしょう。


   …蓉子のばか。


   自分のやった事は棚に上げて。
   本当に仕方が無い人ね。


   …。


   後でさすってあげるから。
   今は先ず、此れを着てしまって。
   じゃなきゃ、本当に冷やしてしまうわ。


   …絶対?


   うん?


   さすって呉れるの、絶対?


   嘘なんて吐かないわ。


   じゃ、我慢する。


   ん、良い子。










   …結局。


   さ、さすってあげる、て…。


   着付けはしてあげるし。
   相も変わらず、だわ。


   …。


   聖は甘えただけど、其れを許しているのは何だかんだ言っても蓉子なのよね。


   ……。


   ところで、令。


   はい?


   落ち着いたかしら。


   え?


   鼻。


   あ、は、はい。
   止まったみたいです。


   然う。


   其の、吃驚してしまって。


   うん。


   や、当主様と蓉子さまの事は一応…其の、然うなのかな、て。


   あれだけ、べったりだとね。
   気付かない方が逆に凄いと思うわ。
   幾ら、鈍感だと言えど。


   …です、けど。
   まさか、昼間からとは…其のぉ、思っていなく、て。


   実際、其の場に出くわしてみたら…思っていた以上で吃驚した、と。


   ……は、い。


   まぁ、あんなもんよ、あの二人は。
   昔から其の本質は変わってない。
   ただ、表向きが違うだけで。


   は、はぁ…。


   ま。
   初っ端にアレは、流石に、刺激が強いと思うけど。


   ……。


   令、鼻。


   …あ。


   いちいち、気にしていたら。
   体、持たないわよー。


   …すみません。


   とは言え。
   元服前の子供に何てものを見せるのかしら。
   て、蓉子なら確実に言いそうよね。いや、言うわね。絶対。


   …だから、祥子は。


   ん?
   祥子が、何?


   あ、いえ、何でも無いです。
   え、と、そろそろ、着付け終わりますかね?


   そろそろ、着付けは終わると思うけど。
   何しろ、其の後はお腹をさすってあげるそうだから。


   …其れって、矢っ張り。


   勿論、直に、でしょうねぇ。
   槍使い男子の装束は令も見たとおり、あんなだし。


   …。


   ま、素肌に触るのなんて、お互い…て、令。


   …すみません。
   もう少し手巾をお借りしていても良いでしょうか…。


   いっそ、あげるわ。其れ。


   す、すみません…。


   江利子?
   居る?


   居るわよ。


   もう、中に入っても良いわよ。
   着付け、終わったから。


   着付けは、ね。


   …?
   江利子?


   お腹はどうするのかしら?
   場合によっては未だ入らない方が良いのではなくて?


   …いえ、先に見てしまって。


   然う?


   えぇー。
   それよりお腹をさすってよ、蓉子。


   後で、と言ったでしょう?


   …言ったけど。
   そんなに後なの。


   そんな時間は掛からないから。
   ねぇ、江利子。


   まぁ、蓉子が然う望むなら。
   令、鼻の方は大丈夫かしら?


   は、はい、一応。


   じゃ、ちゃっちゃっと眺めて行くわよ。


   はい…!










   ふむ。


   わー…。


   ぴったり、ね。


   はい…。


   さっすが、私の蓉子ちゃん。
   私の事を知り尽くしていらっさる。


   誰が誰の、よ。


   だってぴったりだもん、此れ。
   緩くも無く、かと言ってきつくも無く。
   此れは矢張り、私の躰を隅々まで知り尽くしてなきゃ出来ない業と見た。


   だから。
   誤解を招く言い回しは止めて。


   誤解を招くどころか、生じもしないわね。
   知られ過ぎていて。


   何か言って?江利子。


   いいえー。


   や、もう、凄いですね、蓉子さま!
   初めてでいらっしゃるのに!
   流石、蓉子さま!


   褒めすぎよ、令。


   や、だって、矢っ張り凄いですよ!


   へへー、凄いだろー。


   はい、凄いです!


   どうして其処で貴女がえばるのよ、聖。


   だって自慢したいじゃない。
   ふふー。


   まさに。
   ご機嫌、ね。


   で、どうかなどうかな?
   似合ってるかな?


   ええ、とても良く似合ってますよ、当主様。
   ねぇ、お姉さま。


   あー、良いんじゃなーい。


   どう、蓉子。
   惚れ直しちゃいそう?
   あー良いや、皆まで言わなくても。
   もう、分かってるから。


   阿呆か。
   てか擦り寄らないで。


   はーい、私らの評価なんぞ最初
〈ハナ〉から聞いてないしー。


   でも良いなぁ、当主様。
   私も…


   へへ、良いだろー。
   特別、だぞー。


   聖。
   子供相手に大人気無い。


   ところで。
   そろそろ、突っ込んでも良いかしら。


   あー?
   何だ、でこ。


   ソレ、何かしら?


   …あー。


   有体に言うと。
   腹巻、よ。


   あ、矢っ張り?


   以前から思っていたのよ。
   槍使いの装束は寒々しくて、お腹が冷えるんじゃないかって。
   特に男子のは。


   永久氷室に行った時なんかは痛々しい程よね。


   でしょう?


   でも。
   露出に関しては拳法家も大して変わらないと思うなー…。


   けどお腹は出てないわ。


   けど腕はもとより、太股より下もバーンと出てる。
   しかも裸足。


   永久氷室に行く時は流石に裸足じゃ無いわよ。
   大体、槍使いだって履物があると言えども素足じゃない。


   それでも寒々しさだったら、槍使いに負けてない。


   だから首巻をしていくわ。


   其れだったら私もしてるよ。


   それから外套も羽織っていくわ。


   勿論、私も。


   其れらは全部、私が支度をしているんじゃないの。


   うん、有難う。


   どういたしまして。
   …じゃ、無くて。


   此れ、確かにあったかいんだけど。
   うーん…。


   大体、お腹が痛いって言っていたでしょう。
   丁度良いじゃない。


   だから冷やしたんじゃないって言ったじゃん。


   然うかしら。


   然うだよ。
   てか着たらさすって呉れるって、絶対って約束したじゃん。


   …あの、お姉さま。


   んー?


   何か、居たたまれなくなってきました…。


   然う?


   何と言うか…邪魔虫とでも言うか。


   駄目よ、令。
   気にしたら負けよ。


   や、勝ち負けがあるんですか?


   無いわね。


   は、はぁ。


   つーわけだから、でこ。
   お前、邪魔。


   あら、やっとこっちに回ってきたわね。


   お前が居ると蓉子がお腹をさすって呉れない。
   どっか行け。


   どっかって言われてもねぇ。
   此処、私の家でもあるし。


   他の部屋に行けって言ってんのよ。


   えー、どうしようかしら。
   天狗面の腹巻姿、もう少し眺めておきたいんだけど。
   話の種に。


   せんでいいわ。
   令。


   はい、当主様。


   然う言うわけだから。
   このでこ、とっとと連れて行って。


   …え、と。


   何かしら?令。


   ……ええ、と。


   早くして、令。


   ………う。


   一寸、二人とも。
   令が困っているじゃないの。


   よ、蓉子さまぁ…。


   あ。


   お。


   子供相手に。
   本当に大人気無いんだから。


   …。


   ふむ。
   何気にやるわね、令。


   令、もう大丈夫よ。


   は、は…


   ……。


   …い。


   …?
   令、どうかして?


   や…。


   蓉子。


   うん?


   まさに。
   ご機嫌ななめ、になってるわよ。


   ………。


   …聖、貴女ね。


   蓉子のばか、嘘吐き。


   待ちなさいよ。
   誰が嘘吐きだって


   蓉子。


   …聖。


   もう、良い。
   着替えるから、皆出てけ。


   待ちなさい、聖。
   人を嘘吐きだと勝手に決め付けないで。


   だって嘘吐きじゃん。


   聖。


   良いよ、もう。
   令を連れて出ていけば良いだろ。


   あ、あの、当主様、私…。


   …何。


   あ、や、そ、其の…。


   令、とりあえず此方にいらっしゃい。
   貴女がそのまま蓉子にしがみ付いていると、状況は先ず変わらない、寧ろ悪化する事請け合いだから。


   は、はい、お姉さま。


   聖、何でそんなに苛々しているのよ。


   …ッ


   …蓉子って。
   たまに空気が読めないのよねぇ。


   全部、蓉子のせいじゃんか…!


   私が何をしたと言うの。


   嘘、吐いた。
   絶対、って言ったのに。


   だから決め付けないで。


   うるさい。
   出てけ。


   聖、直ぐに癇癪を起こすのは貴女の悪い癖よ。


   …!
   うるさいって言ってんだろ…!


   聖!


   …。


   …江利子。
   悪いけれど、


   はいはい。
   お邪魔虫はさっさと退散する事にするわね。


   …ごめんなさいね。
   けど、説得力は無いかも知れないけれど…お邪魔虫だなんて、言わないで。


   …んじゃ令、行くわよー。
   ごきげんよう、蓉子。


   はい。
   それでは蓉子さま…え、と、当主様、ごきげんよう。


   ごきげんよう。
   また夕餉の時にでも。


   はーい。


   はい、蓉子さま。


   ……。


   …さて、と。
   聖。


   …何で残るんだよ。
   一緒に行けば良かっただろ。


   約束、したでしょう。


   …果たす気なんて初めから無かったく、せ


   …。


   …に。


   いい加減にしなさい。


   ……。


   私は初めから果たす気の無い約束なんて、したくない。
   仮令、其れが嘘が元で交えた事だったとしても。


   …。


   …さぁ。
   そのままが良い?
   それとも横になる?


   …。


   さすってあげるわ。
   貴女が満足するまで。


   …。


   さぁ、聖。


   …寝る。


   然う、横になるのね。


   違う。
   寝る。


   …。


   膝枕、して。


   お腹は?
   痛いのでしょ…きゃッ


   座って。


   …力尽くは、止めて。


   …。


   待って、体勢を変えるから。
   足が痺れてしまうと大変なのよ。


   ……。


   …さ、良い


   …。


   ……もう、仕方の無い人ね。


   …。


   聖、そんなにくっ付くと息が…


   …髪、触って。


   …。


   撫でて。


   …はいはい。


   …。


   そんなに丸くなって。
   赤子
〈ヤヤ〉みたい。


   …。


   お腹はどうするの…?


   …痛くないから、別に良い。


   然う。
   じゃあ…。


   …何するの。


   貴女の着物を取って、お腹にかけるのよ。
   何度も言うけれど、冷やしてしまうから。


   …ねぇ、蓉子。


   ん…?


   どう、だった…?


   …。


   私の…装束姿。


   …然う、ね。


   似合って無い…?


   若しも似合って無いと言ったら。
   着るの、止めるの?


   …。


   …聖。


   …なに。


   ……似合ってるわ。


   …本当に?


   ええ。
   とても良く、似合ってる。


   じゃ、私の事、好き?


   …唐突ね。


   ねぇ、好き?


   苦しいわ、聖。
   あまり強くしがみ付かないで。


   ねぇ…。


   …ええ。


   其れじゃ、分からないよ。


   …聖は私のこ、と


   好きよ…好き。


   …。


   蓉子は…?


   …私も、聖の事…が。


   嘘じゃない…?


   嘘なんか、吐かない。


   じゃあ…何処にも行かない?


   私の家は聖、貴女が居るこの家だから。
   何処にも行かない。


   …うん。


   ねぇ、聖。


   …。


   令は未だ、子供だから。


   …。


   其れを…どうか、分かって。


   …今は子供でも。
   直ぐに大きくなるよ。


   確かに然うだけれど…。


   …。


   …もう。
   本当に困った人…。


   ……。


   …聖?
   眠るの…?


   …うん。


   だったら、ちゃんと…。


   このままで…このままが、良い…。


   …。


   手…止めない、で。


   …分かったわ。


   ……きも…ち、…い。


   あ…。


   …?
   よう…こ?


   …何でも無いわ。
   おやすみなさい…聖。


   ……う、ん。










   令。


   …。


   れーい。


   …あ、はい、何でしょうか、お姉さま。


   意識、何処かに飛んでるみたいだけれど。
   また吃驚しちゃったのかしらね?


   …はい。


   素直ねー。


   当主様の目が…其の、一瞬だけだけど、凄く…


   あー、アレね。


   …怖いと思ってしまって。
   失礼ですよね…。


   失礼、と言うよりも。


   …。


   子供みたいでしょう?


   …え?


   実際、子供なのよ。
   自分のモノを取られそうになると、精一杯、場合によっては形振り構わず自分の存在を主張しようとするの。


   …。


   で、ね。
   今は屹度蓉子の膝にでも頭を乗せて、丸まって寝てるに違いないの。


   …。



   見てなさい。
   起きて、しかも直ぐ傍に蓉子が居れば、午睡後の子供のようにさっぱりしてるから。


   …当主様、は。


   単純でしょう?


   …単純、と言うか。


   正直、単純すぎて、面白みが無いのよね。
   毎度、一つの型しか無くて。


   面白み…て。


   ずっと、変わらない。
   もう一寸波乱があっても良いと思うのよねー。


   ……。


   あら、令。
   苦笑いのような表情をしているけれど、どうかした?


   お姉さまは凄いな…て。


   何が凄いのかしら?


   だって…いえ、良いです。


   何よ、気になるじゃないの。


   お姉さま。


   んー?


   私も作ってみようと思います。


   何を?


   何れ来る、妹の装束を。


   と言うか、妹って決まってるの?


   はい。


   うっかり、男子だったら?


   そしたら祥子の妹でも良いです。
   あぁ、いっその事、二人分作っても良いな。


   何?
   祥子の下も妹なの?


   何となく、然う思うんです。


   何となく、ね。


   当主様のように喜んでくれたら、嬉しいなぁ。


   あれほど単純なのは、然う、居ないわよ?


   良いんです。
   少しでも喜んでもらえたら、其れだけで私は嬉しいですから。


   …。


   然う言えばお姉さま、見ました?
   当主様が装束を着てはしゃいでいらっしゃる時の蓉子さまのお顔なんですけど、凄く、嬉しそうでしたよね。
   私、其のお気持ちがすっごく分かるんです。
   大切だと思っている人に喜んでもらえると凄く嬉しいんですよ!


   …良い子、ね。


   はい?
   何か仰いましたか?


   いいえ、何も。
   じゃ、私も何か作ってもらおうかしら。


   あ、作ってますよ。


   あら。


   これから“冬”が来て本格的に“寒く”なるそうなので、首巻を。


   首巻なら持ってるわよ。


   だけど、少しくたびれているようだったので。


   装束じゃないの?
   あれも結構着てるんだけど。


   あ、じゃあ、首巻が出来たら作ってみようと思います。


   うん、有難う。令。


   はい!








   ・








   良く寝られるわね。


   …う、ん。


   そんな姿勢で。
   慣れ?


   …あぁ。
   江利子…。


   足、痺れてしまわない?
   そんなの乗っけていて。


   …。


   ああ。
   其れも慣れ、なのね。


   …慣れ、と言うより。
   乗せ方や其の場所が問題なのよね…。


   ふぅん。


   …令、は?


   祥子と遊ぶ、て。


   祥子と…?


   何をして遊ぶのかしら、あの祥子と。


   令は…良い子、ね。


   私の子だもの。


   同じ血をひいている筈なのに。
   不思議な事って本当にあるのね…。


   何気に。
   失礼な事、言ったわねー。


   …。


   然うしていると。
   本当にお母さんのようよ、蓉子。


   …本当に母と呼ばれるべきは。
   貴女の方でしょう、江利子。


   冗談。
   こんな天狗面な子供、間違っても要らないわ。


   …然うじゃなくて。


   ふむ。
   こうしているとただの、大人しい、子供ね。


   其れ、皮肉?


   ええ、然うよ。
   否定、する?


   敢えて、しない。


   ふふ。
   しかし、良く寝てるわね。


   えぇ。


   蓉子も、だったけれど。


   …。


   蓉子。


   …なぁに。


   眠い?


   …いいえ。


   気になるの?


   …え、と?


   其処、寝てる時も触ってたわ。


   …。


   何、禿でもあった?


   …無いわよ。


   あったら少しは面白いかな、て。


   冗談でも止めて。


   で?


   …薄く、なのだけれど。


   うん。


   …矢っ張り止めておくわ。
   本人も未だ、知らないだろうし。


   ふぅん。
   二人だけの秘め事にでもするつもりなのね。


   そんな大仰な事じゃないわよ。


   ……ん。
   よう、こ…。


   あ、起きやがった。


   聖。


   ようこ…。


   ごめんなさい。
   起こしてしまった…?


   …ううん。


   聖…?


   お腹…。


   痛いの?


   …空い、た。


   ……。


   そろそろ、お八つの時間ですものねー。


   …?
   えり…


   ねぇ、蓉子。
   今日のお八つは茶饅頭なんだけれど、要る?


   …どうしたの、其れ。


   勿論、買わなきゃ無いわね。


   …また、イツ花に?


   ま、そんなところ。


   …!
   江利子、でこ…!


   あら、おはよう?


   おはよう、じゃない!
   てか聞くな!
   つかなんでお前がまた此処に…?!


   一寸、蓉子をお八つに誘いに。


   んだとぉ…!


   一応、あんたの分らしきお饅頭もあるけれど。
   要らないわよね、はい、決定。
   って事でこれは蓉子にあげるわね。

 
   勝手に話を進めるな、でこすけ…!


   だって嫌いでしょう?甘いの。


   嫌いじゃない、苦手なだけだ…!


   はい、蓉子。
   あーん。


   ちょ、え、江利


   がぁ…!


   あ。


   横取り、しよった。


   ひょうひょに、ひゃーんやっへもひぃのは、ひゃたひひゃへだっふーの…!
   (蓉子に、あーんやっても良いのは、私だけだっつーの…!)


   聖、食べながら話さないで!
   餡が口から飛ぶから…!


   起き立てのくせに生意気ね。


   うっへー…!








   ・


   ・








   よーーーー、こ。


   …間延びした呼び方は止めて。


   よーこ、よーこさん。


   何よ、何なのよ。


   へへへ。


   裾、掴まないで。
   それから気持ちが悪い。


   私は今、お腹がいっぱいです。
   ひどい発言も聞き流せるくらいです。


   そりゃあ、夕餉前にお饅頭を一つ食べて、夕餉も珍しく残さず食べればお腹もふくれるでしょうね。


   それから。
   お昼寝もしたので、目もばっちし冴えてます。
   しゃきーん。


   其れは良かったわね。
   と言うか、其の変な音は何なの。


   と、言うわけなので。


   …。


   私の部屋に行きませんか、行きましょう。


   嫌です。
   行かないし、行きたくありません。


   今宵は長い夜になる予感。


   あぁ、然う。


   付き合って。


   冗談じゃない。


   一緒に過ごそう。


   一人で過ごして。


   ぶっちゃけ、眠れそうに無いんだよねー。


   其れは先刻聞いた。
   目が冴えてる、て。


   だ、か、ら。
   ね?ね?


   何が、ね、なのか分からない。


   蓉子。


   何。


   したい。


   ……。


   抱きた


   つい最近。
   したばかり…でしょう。


   蓉子が装束を作って呉れるって言った日、ね。
   私の中ではもう、大分前の事、になってます。


   一週間も経ってないじゃない。


   三日も経てば昔の事。


   其れは貴女の価値観。


   蓉子、おいでよ。


   行かない。


   おいで。


   いや。


   眠れない。


   眠れなくても。
   布団に入って、目を閉じてれば良いのよ。


   …。


   兎に角。
   今夜は行かな


   …蓉子。


   …止めて、放して。


   来て。


   聖。


   …傍に、居て。


   だか、ら…


   私が、討伐に行ってしまう前に。


   ………。










   ……また。
   読めなかった…。


   蓉子って、さぁ。
   本当、好き、だよね。


   好きよ、悪い?


   いえいえ。
   悪いだなんて、そんなコトありませんよ。


   今夜で読み終えるつもりだったのに…。


   ちなみに。
   今、読んでいるものは?


   伊尹。


   イイン?
   其れは何?


   人の名前。


   日本
〈ヤマト〉の人?


   大陸の人。


   ほぉ。


   詳しく、聞きたい?


   いや、良い。
   長くなりそうだから。


   そんなこと無いわ。
   伊尹は商の子履、後の湯王に仕えた人で稀代の賢臣とされているの。
   夏王朝を討ち、商王朝成立に大きく貢け、ん…。


   …褥の中で。
   そんな話、無粋、だよ。


   …もう。


   ふふ。
   其れ、最早口癖だよね。


   誰かさんのせいでね。


   そんなに面白いかな。


   興味深いだけ。


   ふーん。


   …今度、此の部屋にも何冊か置いておこうかしら。


   あ、其れは良いかもね。
   是非、然うしなよ。


   …。


   ん、何?


   てっきり、迷惑がると思ったのに。


   何で?


   あまり、と言うか全然読まないし。


   うん、私は、ね。


   …?


   けど、蓉子は読む。


   何が言いたいの。


   つまり。
   此の部屋に置いておけば気兼ねなく、蓉子を連れてこられる。


   …。


   いっそ、毎晩此の部屋で眠れば良いんだよ。
   うん、良い考えだ。


   矢張り、止めておくわ。


   えー、何でさー。


   ほぼ確実に読めない、と言う事が分かったから。
   と言うより、邪魔されるコト請け合いだから。


   そんな事無いよー。


   絶対邪魔するに違い無いわ、貴女。


   まぁ、たまにはするかもね。


   たまに、じゃなくて、毎回でしょ。
   特に夜は。


   信用無いなぁ。


   日頃の行い。


   私はただ、本ばっかり見てないで私を見て欲しいだけだよ。


   性質
〈タチ)が悪いのよ。


   性質が悪い、ね…。


   然うよ。
   いつもいつ、も…


   …どうせだから。
   もっと性質が悪いこと、しちゃおーかな。


   …。


   例えば。
   とても目立つ所に刻んでみる、とか。


   …そんなの、いつもじゃない。


   いやいや。
   これでも一応、遠慮しているのよ。
   だから…


   ん…ッ


   目立たない胸の間
〈コンナトコロ〉とか、にね。


   …こういう事ばかり。
   器用、なんだから。


   でしょう?
   もっと褒めて褒めて。


   褒めてない。


   じゃ、もっと頑張らないと。


   は、ちょ…


   褒められるよう、に。


   ……聖。


   何?
   まさか一回で終わり、なんて思ってないでしょう?
   昼寝のお陰で、お互い、睡眠はばっちりなんだからさ。


   ……昼寝なんかしてなくても、一回じゃ済まさないクセに。


   …ん、其の通り。











   …せい。


   ん…?


   あの…


   …未だ、足りない?


   …ばか。
   ちがうわよ…。


   じゃ…なにかな?


   …ぶじ、に。


   うん…。


   かえってきて、ね…。


   …待っててくれる?


   あたりまえじゃない…。


   じゃ、元気に帰ってきてただいまって言わないとだね。
   で、蓉子は


   おかえりなさい…て。


   うん。
   んー、よーこー…。


   もう、だめ…。


   分かってる。
   だから、少しだけ。


   ……も、ぅ。


   …おやすみ、蓉子。


   ん、おやすみなさい…せ
































   …い。


   それでは当主様、蓉子さま、祥子さま、令さま。
   此度の討伐面子は以上の方々と言うコトで宜しいんですね?当主様。


   うん、イツ花。


   よし、今度は頑張らないと。


   あまり気負わない方が良いと思うわ。
   貴女の場合、空回りしそうだから。


   え、然う?


   空回った挙句、どつぼに嵌るのよ。


   どつぼ…てか、断言しないでよ、祥子…。


   …え、と。


   と言うわけだから。
   蓉子、着付けしてー。


   其の前に。
   聖、これは一体どういう


   今回は永久氷室に行くから。
   寒さ対策もしていかないと、だよ。


   一寸待って、聖。
   此度の討伐って私も行くの?


   然うだよ。
   そうそう、祥子、令、永久氷室はさっむいから。
   それなりの準備をしていった方が良いよ。
   あと防水対策とか。


   あ、はい、分かりました。


   言われずとも然うしますわ。


   あ、でも。
   剣と薙刀は元からあったかだからあまり気にしなくても良いのかな。


   聖…!


   ん、先刻から何?


   此度の事、何も聞いてないわよ。


   言ってないもん。


   いつ、決めたの?
   若しかして昨日の夜には…


   うん。


   …ッ


   あ、でもね。
   詳しく言うと決めたのは蓉子が眠った後だから。
   言わないじゃなくて言えなかったのよ。
   折角良く眠っている姫君を起こすわけにはいかないもの。


   そんな子供じみた言い訳、信じられるわけ…ッ


   いーや。
   天狗面ならやりかねないわね。


   …江利子。


   だって。
   初めてあの装束で


   其れ以上は言うな、でこ。


   ふぅん?


   ね、蓉子。


   …何よ。


   今回はね、蓉子が作ってくれた装束を着ていくんだ。
   と言っても、これからはずっと然うするんだけど。


   だから、何。


   だから蓉子に見てて欲しい。


   …。


   初めて、だもの。
   やっぱ蓉子が居てくれなきゃ。


   ……。


   ねぇ、蓉子。
   子供じみた、じゃなくて、まんま子供なのよ。
   其れは蓉子が一番、然う、身をもって知っているのではなくて?


   ………。


   ん、蓉子?
   どしたの、頭を抱えて。
   頭、悪い?


   痛いのよ、莫迦!


   え、あ、いた…ッ


   莫迦!
   本当に莫迦!


   ちょ、蓉子さん…!
   痛い、痛いよ、本気で殴らないで…!


   何が、私が討伐に行ってしまう前に、よ…!
   私も行くんじゃないの!


   ゆ、歪む、其れ以上は歪むって…!


   莫迦当主…!


   ごめん、ごめんって蓉子…!


   待ちなさい…!


   やだ、待たない…!!


   逃がさないわよ…!


   わ、わぁ…ッ


   …よ、蓉子さまが。


   ……はぁ。
   頭が、痛いわ…。


   ふむ。
   今回は激しいわね。










   聖の…ッ


   ご、ごめんってー…!!


   ばかーー…ッ























   当主様、ご出陣……!!!!!



















 戦 装 束 替 エ 了




















   …の、前に。
   私、もう死にそうなんですけど、蓉子さん…。


   知らないわよ、ばか。