…蓉子。




   …。




   ねむい?




   …ん。




   …。




   …せい?




   ……此処に。
   私、此処に居ても良い…?




   …どうして?




   …怒られるかな、て。




   …。




   …だって、さ。
   いつも、其の…。




   …。




   …強引にしてた、から。




   …。




   何度も噛み付いたりしたし…。




   …。




   其れに…。




   …それに?




   今までは。
   どんなに抱き締めても、抱き締め返して呉れなかったから。




   …。




   だから。
   蓉子が眠ったのを確認してから…。




   …うん。




   最初は…別に其れでも良かった。
   蓉子を抱けさえすれば、其の躰を自分のモノに出来れば其れで良いって。




   …。




   いっそ壊してしまおうかとさえ思った。
   そうすれば交神するだなんて言えなくなるだろうし、何より蓉子はずっと私の物になるって。
   だけどね…。




   …ん。




   …壊すように抱いて。
   其れこそ、蓉子が気を失うまで抱いて。
   だけどある時ふと、このまま蓉子が目を覚まさなかったら…と思った、ら。




   …。




   私、さ…。
   蓉子の温もりが凄く好きなんだ。
   夢中…て、言い換えても良いくらいに。




   …。




   だけど気を失った蓉子は…あんなに熱かった筈なのに、何処か冷たい感じがして。
   其れが凄く怖かった。




   …こわい?




   …だから、さ。
   意識を失った蓉子がちゃんと息をしているのか、確認したりして…さ。
   馬鹿みたいだよね。
   壊してしまおうと思ったくせに。




   …。




   …蓉子、さ。
   自分が死んだら…て、言ったけど。




   …。




   私は忘れない…けど。
   だけど…死なないでよ。




   …。




   いや、無茶な事を言っているのは分かってる…けど。
   其の、何と言うか…。




   …聖。




   あ…。




   せい、せい…。




   あ、あの、蓉子…?




   …いて。




   え…?




   ここ、に。




   …。




   ここに…いて。




   …うん。




   …。




   …ねぇ。




   …なぁに?




   蓉子の胸、柔らかくてあったかい…。
   何だか、安心する…。




   …。




   …蓉子。




   ……ん。




   …私を、捨てないで。




   …。




   一人に、しないで…。




   …ばか、ね。




   …。




   …ね、せい。




   …なに。




   わたし、ね…ふあん、だったの…。




   …。




   だって、わたし…。




   …うん。




   どうして…せいが…。




   …。




   …せ、い…が…。




   …。




   …。




   …?




   ……。




   …蓉子?



























   ……おやすみ、蓉子。






















































   ・








   …。


   お早う、蓉子。


   ……。


   もしもーし?


   ………。


   目、開いたから起きたのかと思ったけど。
   若しかして未だ寝てる、とか?


   ……どうして。


   あ、起きてた。


   どうして、どうして聖が此処に居るの…ッ?


   どうして、て。
   ひどいなぁ、蓉子が言ったんじゃない。


   わ、私が?


   眠る前の私語
(ササメゴト)で。
   此処に居て、て。


   ……。


   うん?
   思い出した?


   …。


   蓉子?


   ……。


   もしもし、蓉子さん?
   顔、真っ赤だけれど大丈夫かしら?


   …そんなの、言った覚えないわ。


   私の頭を胸に抱えて言ったのに?


   ……覚えて無いのだから、仕方が無いでしょう。


   ふーん。


   …何よ。


   いや、さ。
   思い出しちゃったのよ。


   …何を。


   昨夜の蓉子、凄く可愛かったなぁ、て。
   眠いと子供のようになって。


   …。


   まぁ、あの時の蓉子も…十分、可愛かったけど。


   …ッ


   今みたいに顔、真っ赤にして。
   いや、もっと赤かったかな。目元、とか。 
   特にね、イった時なんか…


   ば…ッ


   ば?


   莫迦ッ


   うん、莫迦だから。


   ちょ、一寸…。


   もう一回、見たいなぁと思うわけだ。


   だ、駄目よ。


   見せてよ。


   嫌よ…。


   良いじゃない。


   良くない。
   其れにもう、起きないと。


   未だ早い。
   日が明けて間も無いよ。


   いつもならもう起きる時間だから。


   そういや、蓉子って朝早いよね。
   そんなに早く起きて何してんの?


   何って。
   主に鍛錬や書物を読んでいるけれど。
   たまに廊下の雑巾がけもしてるたり…。


   う、わ。


   …何よ、其の「うわ」って。


   いや、流石蓉子さんだなと思いまして。


   良かったら聖も如何?


   うん、無理。


   ええ、然うでしょうね。


   わ、ひどい。


   だって貴女、朝と言っても起こしに行かないと起きてこないんだも…の。


   はい、仰る通り。


   …聖。


   うん、何?


   この手は…何?


   さぁ、何だろう。
   何だと思う?


   …駄目だって言ってるでしょう。


   …良いじゃない。
   たまには寝坊してみるのも。
   折角、一緒に朝を迎えたんだから。


   あ…。


   私、嬉しかったのよ?


   …。


   ね、蓉子。
   また背中に腕回してよ。


   …だから。


   もう一度。
   背中に爪、立てて。


   …ッ


   蓉子の印、もっと私に付けてよ。


   …いや。


   …。


   今は…いや。


   …どうして?


   もう、起きないと…。


   起きるなんて無粋な事、後で良いよ。
   其れよりも、今、は


   …。


   ねぇ、蓉子。
   良いでしょう…?


   聖…。






















   …私ね、見つけた事があるの。


   …な、に。


   一人でするよりも。
   二人でした方が、断然、気持ち良いって。


   …。


   然う思うとね。
   昨夜こそが“初めて”だったんだなぁ、て。


   …。


   蓉子も。
   然う、思うでしょう…?


   …しらない。


   えぇ、釣れないなぁ。


   あ、もぅ…。


   だーめ。


   ん…あ…。


   …未だ、足りない。
   もっと蓉子が…欲しいよ。


   ば…か。


































   ・








   あー、もう少しゆっくりしていたかったのに。


   もう、十分過ぎるほど寝坊してしまったわよ。
   莫迦。


   えー此の位で?
   多分、未だ朝餉も出来て無いよ。


   でも皆が起きてきていてもおかしかくない時間よ。


   別に良いじゃない。


   貴女は良くても、私は良くない。


   もう、蓉子さんったら真面目なんだから。


   ええ、其の通りよ。


   けど然ういうとこも好きだけど、ねー。


   …茶化さないで。


   ねぇねぇ、蓉子。
   背、また縮んだ?


   貴女の背がまた伸びたのよ。
   屹度、成長期なんでしょうね。


   ふぅん、そっか。


   一寸、聖。
   人の頭の上に手を乗せないで。


   ふふ。
   少し前までは蓉子の事、見上げてたのに。


   …一寸前までは聖の事、負ぶってたのに。


   いや、其れは大分前の話だと思う。


   然うかしら。


   然うだよ。















   然うだわ、聖。


   んー。


   お帰りなさい。


   …何、突然。


   言ってなかったから。


   ?
   何の話?


   聖が…私を初めて抱いた、日。


   …え、と。


   貴女、言おうと思ったらさっさと行ってしまうんだもの。 


   …然うだったっけ?


   然うよ。


   まさか。
   そんな前の事、気にしてたの?


   行ってらっしゃい、て送り出したら。
   お帰りなさい、て迎えてあげたいもの。


   然う言うもの?


   ええ。


   分かった。
   じゃあ、ただいま。蓉子。


   お帰りなさい、聖。
   …其れと。


   未だあるの?


   朝の挨拶。
   貴女は言ったけど、私は未だ言ってなかったでしょう?


   ああ、然う言えば。


   と言うより、言えなかったのだけれど。


   朝っぱらから照れちゃったからねぇ。
   本当、可愛いんだから。


   …其れだけじゃ無かったでしょう。


   然うだっけ?


   然うよ、もう。


   へへ。
   其れで?
   朝の挨拶、とやらはどうするの?


   するわよ、勿論。
   お早う、聖。


   ん、お早う。蓉子。


   …さて。
   行きましょうか。


   何処に?


   顔を洗いに。


   顔、ですか。


   ええ、然うよ。
   だって。


   だって?








































   今日と言う日がまた、始まるのだから。






























































  みんな、自分の好きな方に歩いて行けば良いのよ。



  どの道も間違ってないわ。


























   蜩 ノ 翅 了