上 さ ま が み て る










   其の一





   はじめまして、ごきげんよー…は使っちゃ駄目と言われたので、こんにちは或いはこんばんは、若しくはおはようございます。
   僕は山百合家の・・・と言います。
   名前は一応あるんですけど、あまり重要じゃないので省略だそうです。ぞんざいです、知ってます。
   大体、存在が抹殺されているんじゃないかと思えるくらい影が薄い僕です。いちいち気にしていたら髪が抜けます。
   そんな僕ですが一応(二回目ですね)、祥子の父違いの兄だったりします。
   割と重要な立場だったりするんですが、そこら辺も省略だそうです。ひどいですね、知ってます(やっぱり二回目ですね)。
   もっと言うと母は椿です。更にもっと言うと蓉子は僕の妹です。
   本当だったら姉になる筈だったんですけど、勇兄
(いさにい)が散々ごねたせいで交神がずれこみ、
   其れにぶちぎれた母が「じゃあ私がやるわよ」と勢いでのたまった挙句、
   支度もろくすっぽ出来てないイツ花を交神部屋まで引きずって連れて行き、サクっと出来た子が僕です。
   生い立ちからして碌でも無い気がしますが、気のせいです。気のせいにして下さい。


   現在、山百合家の当主は聖がやって…るのはご存知の通りです。
   でも仕事はほぼ蓉子がやって…いるのもご存知ですね。
   この二人の仲も僕が言うまでもないと思います。
   僕が言うのも何ですが、最近の二人は恥ずかしくなるくらいです。ぶっちゃけ、恥ずかしいです。木っ端みじんこです。
   と言うか。
   も少し、人目を気にしろと言ってやりたい。特に聖。お前わざとやってるだろ。仮にも僕の可愛い妹に。こんにゃろめ。
   などと言える立場だったらどんなに良いか。
   僕は一応(三回目ですね)、蓉子より歳上なのに。
   其の蓉子ですら僕の存在を忘れている時がたまにあって、其の時は本気で厠に篭りたくなります。怒られるからしませんけど。
   いや、怒られる時は未だマシなんです。下手をすると冗談抜きで忘れられること、が…。
   ………。
   書いてて一寸涙が出てきました。でも負けません、こう見えても僕は日本男子ですから!
   あ、鬱陶しいですか、然うですか、然うですね。てか聖と蓉子を出せ、て感じですか。
   ……うぅ。





   …兄上?
   そんな部屋の隅っこの暗がりで何をなさっ…一寸、聖。
   何処へ行くつもりなの。これから今後の予定と方針を決めるって朝餉の時話しておいたでしょう?
   え、一緒に行こう?
   行かないわよ、それよりも私は本を影干ししたいの…て、ちゃんと聞いているの?
   と言うか、手を離し…



   あーもう、本当に蓉子は可愛いなぁ。
   今だってちょこっとほっぺたにちゅーしただけなのに、顔を赤くして黙っちゃうし?
   え、うるさい?
   そんな顔をして言われても、怖かないんだけど。
   ね、それよりさ、一緒に散歩に行こーよ。風も気持ち良いしさ。
   此の間見つけた、綺麗な椿が咲いている所に連れて行ってあげるよ。





   …とまぁ、こんな感じです。たまに声を掛けられたと思っても、このザマです。
   聖なんぞ眼中にも入れてやしねぇ。てぇかやっぱりわざとだな。いっつもいっつも僕の可愛い妹に何て事しやがる。このやろう。
   此処は一つ、勇兄に代わって僕が血で闘うと書いた血闘を聖に申(以下省略)








   其の二





   再び、ごきげ…あ、いや、こんばんは。こんにちは。お早うございます。
   最初の挨拶を途中で止めたのは背中にえっらく冷たい何かを感じたから、です。
   と言うか、良いじゃないですか。男子が言ったって。何が悪いと言うのでしょう。男子だって言いたいんですよ。
   でもって勢い余って語尾に「子」をつけたいんです。ええ、其れはも……あ、すみません、ただの戯言です。
   えと、名乗るのが遅れましたね。
   名乗っても省略されてしまう、若しくは強制終了、或いは・・・で消されてしまう、蓉子そして祥子の兄・・・です。
   どうでも良いですが、「きょうせい」の変換一発目で「嬌声」が出てくるのはどうかと思います。
   それもこれも白ち…聖のせいだと思うのは僕の気のせいでしょうか、いや気のせいじゃない。
   大体、僕の可愛い妹である蓉子を毎晩と言って良いほどに己の部屋に連れ込もうとするのは止めて頂きたい。
   切羽詰ってると己の部屋に行くのももどかしいのか、蓉子の部屋でコトに及ぼうとするのも止めて、つか止めろ。
   言っておくけど、僕は未だ認めてないんだ。
   蓉子の良人が聖、だなんて。どーして認められようか、否、認められない。
   影が薄かろうが、存在が消されてようが、抹殺されてようが、僕は断固、認めない。認めるものか。絶対、に。
   と言うわけで。
   姉上が…あ、此処で言う姉上とは藤花…さまの事です。(呼び捨てにすると後で刺されます・上下関係が厳しいんです・僕だけ)
   蓉子は聖のお嫁さん〜などとのたまって…いえ、仰ってましたが、其れに待ったをかけたいと思います。いや、かける。おお、かけるとも。
   だって。
   いつ、どこで、誰が、そんな事、了承したと言うのですか。それこそ、何年何月何日何時何分何秒?
   仮令、蓉子が其れでも良いと言ったとしても。
   僕も兄です。ええ、兄なんですよ。蓉子が可愛いんですよ。
   目の中に入れたって痛くないんですよ。(ちなみに祥子も勿論可愛いですよ・たまに視線がえらく冷たいですけど)
   なので、はい、然うですか、などと許すわけにはいきません。
   どうしても、と言うのであらば。
   僕の屍を越えてゆくがいい…!!





   「じゃあ、あんたを倒せば問題無いって事だね」





   おお、其の通りだ。
   仮令、此の身がぼろ雑巾のようになろうとも。
   僕は負けない。
   勇魚兄に誓って。そして兄としての想いに賭けて。
   どうしても蓉子の良人になりたいと言うのならば、この僕を





   「じゃ、さくっとやっちゃおうかな」





   そうそう、さくっとやっちゃえば…?





   「そうすりゃ、晴れて蓉子は私のお嫁さん。其れって今まで以上に何をしても良いって事だよね」





   ……て、おぉぉぉぉ?!





   「て、事で。さよなら、義兄上さまー」





   う、わ、相変わらず心こもってない、其れ以前にわざとらしい、非常にわざとらしい、
   つか兄上なんて、ましてやさま付けなんか今まで一度も無いだろ、てか何気に「義」を付けん…わぁぁぁぁッ





   「んー?往生際が悪いのはみっともないよー」





   ま、待て、卑怯じゃないか、自分だけ得物を持っていて。
   勝負と言うものはだな、常に正々堂々と、同じ条件を持って、いや得物が違うから全く同じにはならんけど、
   だからってだな、自分だけ得物を持っているのは、矢張り不平等だと思うわ…ぎゃーー!!





   「はーい、さよーならー」





   ……た。





   たっけてーーー蓉子ぉーーーーー!!!!
   鬼が、鬼が此処に居るよぉーーー!!





   「聖!」


   「あ」


   「家の中でそんなものを振り回したら危ないでしょう!何を考えてるの!!」





   ………よ。
   よ、蓉子ぉぉぉ…!!!
   嗚呼、僕の可愛い妹よぉぉぉ…!!!!





   「いや、嫁取りをしようと思って」


   「そんなものを持って?誰の?」


   「私の」


   「は?」


   「屍を越えたら、蓉子が貰えるんだよ」


   「…は?」





   あー…助かった。今回ばかりはやばかった。と言うか、鼻の頭に槍の先が当たって、いや軽く刺さったような気もしなくも無いけど。
   兎に角、助かった。危うく命を、まるで石ころを投げ捨てるかのように、ポイっと放り投げられるところだった。
   有難う…!有難う、僕の可愛い妹、蓉…





   「ま、今更なんだけどねー」


   「ちょ、一寸…ッ」





   ……子。





   「…ね、蓉子。蓉子は私のお嫁さんなんだよ?」


   「な、何莫迦な事言っているのよ!と言うか腰に手を回さないで!」


   「どして?」


   「どして、て…あッ」


   「んー、相変わらず此処弱いなぁ」


   「こ、こんな明るいうちから何考えてるのよ…!!」


   「そりゃ…蓉子も好きなコト」


   「せ、せい…ッ」





   …………て。
   こらぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ッッ
   何度も言ってるだろう…!!
   いちゃつくのならもっと人目を…つか、僕は未だ認めないんだからな!!!お前が蓉子の相手だなんて…!!
   忘れてもらっちゃ困るんだよ!分かってんのか聖!!てか聞け!!
   今日は水を差されてしまったけど、何れお前とは必ず、血闘と書い





   「此処、雑音があって五月蝿いなぁ。私の部屋に行こう、蓉子」


   「ま、待ちなさい、聖!未だ良いとは…あ、や、待って。お願いだから。待って、せ…ん、ふ」


   「…じゃないと、其の、甘い鳴き声を堪能出来ないし」


   「………」





   …た、勝負を、だな?
   するんであって、だな??
   其れでお前が僕に勝ったら…だな???
   其の時に初めて、蓉子は…





   「…優しくしてあげるね?」


   「……も、ぅ」





   蓉子は……蓉子、は………よぅこ、は。





   「蓉子、好きだよ…大好き、愛してる…」


   「………ばか」











   …泣くものか、僕は男子だ。男子たるもの、涙は見せてはならぬ。
   だから絶対に泣くものか、これは汗だ、べただけれど、汗なんだ、若しくはただの水なんだ。
   然う、涙なんかじゃ……





   「はーい。蓉子ちゃんは聖のお嫁さんにけってーい」





   ………うっう。








   其の三





   三度
〈ミタビ〉、参上!
   寒さも深まっていく今日この頃、皆様はどうお過ごしでしょうか。
   お久しぶりです、僕は元気で…あ、少しだけかぜっぴきです。
   鼻が詰まって、息もままなりません。ずぴー。(汚くてすみません)
   口で息をすると喉に良くないとこの前、蓉子が子供達に教えていたのを聞いたので、なるたけ、しないようにしてるのです。
   だけども幾ら喉が痛くなるとは言え、息をしないわけにもいかない、このもどかしさ。
   おかげでまんまと喉に痛みを覚えてます。ご飯を、唾を飲み込むだけで痛い。とても痛い。盛大に痛い。
   そんなわけで僕は今、実は布団の中にいたりするわけです。熱も微妙にあるみたいで、体もだるいです。何もする気にはなれません。
   ああ、外では鳥が鳴いている。寒いけれど、なんて穏やかな今日。
   これで隣に誰か…然うだ、かわいい妹である蓉子、或いは祥子、若しくは僕の子供である…あ、いや其れは駄目だ、祥子に怒られる。
   うっかり風邪を伝染したなんて事になったら、確実に、薙刀の餌食になる。なってしまう。(其の時の顔と言ったら…!ああ、思い出しただけでも寒気が…)
   ああ、この際誰でも良いから、僕を見舞ってくれまいか。
   幾ら影が薄い僕とは言え、かぜっぴきで寝込んで軽く弱ってる、そんな僕を誰か。





   「……ふーん」





   …あ、いや、訂正。
   誰でも良くない。全然、良くない。やっぱり優しい子、蓉子が駄目ならば志摩子、若しくは令が良い。勿論、贅沢だって事は分かってる。分かってるんだ。
   だけど、だけど…と言うか、そんな目で僕を見ないで。見んな。てか何其の顔、何笑ってんだよ、いやそうかこれが邪な笑いと言うものか、然うなんだな。





   「死にそう?」





   こ、ろ、す、な。
   未だ死なねーよ、こんな風邪くらいで、誰が死ぬかっつーの、ふざけんな。
   僕には未だ、やりたい事が…と言うかやるべき事があるんだ、例えばすっかり蓉子を娶ったつもりの白ちびに天誅を喰らわすとか、
   人目を憚らず、且つ、迷惑も顧みず、蓉子にべったべったくっ付いて蓉子を困らせ…微妙に嬉しそうだなんて、知るかぁ…!!
   兎に角!お前だけにやらん!やるか!!
   然うだ、勇兄だって草葉の陰から然う思っているに違いない!違いないんだ!





   「介錯、してあげようか」





   て言うか、腹切ってねぇし!切りたくねぇし!大体僕は剣士じゃねぇし!!
   …あ、いや、待てよ。僕も一応武家の者だから、うっかり何か仕出かせば切腹も有り得んのかしら?
   でもって、此の世の儚さをなんぞを思って辞世の句なんて読んじゃったり?
   ハラキリ、ハラキレ、ハラハチブンメ?





   「大丈夫、へまはしないから。槍でこう、さくっとね」





   つか、待て待て待て待て待て!!
   今、確かに貴族の世が衰退の一途を辿っているとは言え、未だ武士の世じゃないし!
   と言うか切腹っていつごろからの習慣(慣習?)か知らんけど、多分、未だこの時には無い筈だ…!
   そもそも腹切るのってどうなの、確実に痛いよね、痛いでしょう、それって、ああどう考えても、つか考えただけでもお腹が痛くなる思いだ、ああ…!





   「ま、安心して。蓉子は一生大事にするから」





   てか介錯は槍でするもんじゃないだろ!この力莫迦…!
   大体、僕より力があるってあたり職の差を感じるけど、ああ、然うじゃない、母上、母上、どうしてもっと僕の父神を考えてくれなかったのですか…!
   人外が嫌だった、実際僕も父が例えば牛だったら衝撃を覚えると思いますけれど、だからって…いや、よくよく考えてみればそんな低くないな、僕の父神。
   じゃあ、何でだろーなー…この差はなんなんだろーなー…なんつーか、なんで僕はこんなにも影が薄いんだろーな…ぁ。





   「じゃ、ごきげんよう。義兄上さま」





   僕は一体、何の為に生まれてきたのかしら…。
   誰か、誰か、教えておくれ。
   ああ、蓉子、ああ、祥子、それから…ああ、我が愛しの子、ゆ





   「聖、何してるの」


   「あ、蓉子」


   「様子を見に来てくれたの?」


   「其れは無いなぁ」


   「…然うよね」


   「蓉子は?」


   「手拭を替えに」


   「そんなん、イツ花にやらしておけば良いじゃん」


   「然うはいかないわよ。一応、兄上なのだし」





   ああ、これは空耳かしら…。
   蓉子が、蓉子が僕を兄上と呼んでくれている…ああ、蓉子、要らん虫が付いてしまった蓉子、ぼくのかわいいいもうと…ああ、ああ。
   祥子、どうか、僕の志を、半ばに散ってしまった兄の代わりに、どうか…。
   僕のとっておきの得物は彼処にある、其れでヤツのよこっぱらに穴を、風がスースーと通ってしまうような穴をひと…つ…。





   「なんかぶつぶつ言ってるよ」


   「熱でうなされているのかも知れないわね」


   「ま、どうでも良いけど」


   「聖。仮にも家族が熱で寝込んでいると言うのにそんな物言いは止めて」


   「だってさー、なんかいちいち目の敵にしてくんだもん。鬱陶しいんだよねー」


   「でも、駄目」





   母上、兄上…。
   僕は…僕は…蓉子、を……いや、待て。
   そもそも母上たちが…と言うより、姉上たちが、もう一寸…然うだ、然うだよ、あの風紀乱れ世代、め…!
   特に…もう少し、もう少しだけでも白ちびを、あの時の白ちびをどうにかしていてくれたら…!!
   あな、あな口惜しや…!





   「手拭も替えたし、もう良いでしょ?いこ」


   「待って、聖。もう少し様子を…」


   「うなされてはいるけれど、良く寝てる。以上」


   「うなされているのに、良く眠れているわけないじゃな…い」


   「…未だ、宵の口だけど。後はイツ花に任せて…行こう?」


   「……不謹慎よ」


   「未だ何処にとは言ってない…けど?」


   「あ、も…ぅ…」





   ……せめ、て。
   いちゃこらは、人目を気にして、いちゃつけよ…。
   僕、憤りと嘆き…そして諦めにも似た心のはい、く…。





   「あれー?其処にいらっしゃるのは当主様と蓉子さま?」


   「…ッ」


   「お、イツ花良いところに。後は任せるね」


   「はーい、お任せ下さいませー。てか、お二人してこんなところで何をなさっていたんですかぁ?」


   「ないしょ。さ、蓉子、行こうか」


   「…し、知らないわよ!」


   「て、あれ、蓉子?」


   「も、もう、本当にばかなんだから…!」


   「待って、待ってってば、蓉子ー」


   「ふふ、いつもいつでもあのお二人は仲睦まじくて、まさに当家始まって以来…かも?、なおしどりさんってヤツですね。
   ねぇ、・・・さまも然う思いませんか…て、あれ?」





   ……………。





   「うわ、寝ながら泣いていらっしゃるんだけどぉ…しかもぼろ泣きだし。
   …何か、悪い夢でも見ているのかなぁ」