コーン…。
聖、そちらはどう?
あー、良いんじゃない。
音は?
悪くない。
真面目にやってる?
うん。
音以外に異常は?
平気じゃないかな。
ちゃんと其の目で確認した?
うん、した。
本当に異常は無かった?
そんなに言うのなら自分で確認したら良いじゃん。
私はもう、自分の持ち場をちゃんとやってきたの。
うん、私もやった。
もう、完璧。
……。
ま、そんなに心配しなくても、此の橋は未だ大丈夫でしょう。
此の間の野分けの時に直したばっかしだし。
だからこそ、良く点検する必要があるんじゃないの。
此の先、祭があるわけでも無いしねぇ。
大量の人間が橋の真ん中で立ち往生しなけりゃ、平気。
…で、報告はどうするの?
そこら辺は蓉子のお任せにする。
勿論、貴女も同席するのよ?
付いていきますよ、一応は。
欠伸なんてしたら、此の前貸した一朱、すぐさま返して貰うから。
万が一、そんな事になったらご飯が食えなくなります。
私の知った事ではないわね。
んじゃ、蓉子に食べさせて貰おうかな。
冷や飯で良いのなら。
冷や飯でも麦飯でも。
お湯も頂ければ最高です。
あと、漬物?
最高ですね。
世の中、そんなに甘くないわ。
蓉子と私の仲、じゃない?
馴れ合うのは嫌なの。
助け合い、って言ってほしいなぁ。
貴女にいつ、助けて貰ったかしらね。
私。
いつもいつも、助け合って仕事してるじゃない?
いつも、ね。
はい、いつも。
勿論、今も、さ。
どうせ、かったるいとでも思いながら遠くを眺めてたんでしょう。
そんな事ないよ。
ほれ、木槌だって此の通り。
飾り、ね。
今となっては。
容赦無いなぁ。
聖。
うん?
今日中にもう一橋、回るわよ。
えぇ。
不平なら聞かないわ。
そろそろお腹が減ってきたんですけど。
終わったら。
いやいや、腹が減っては戦も出来ませぬよ。
戦じゃないもの。
例え、と言う言葉はご存知かな?
知ってるわよ。
だから?
お腹が減りました。
そ。
蓉子。
行くわよ、聖。
ねぇ、蓉子ってば。
終わったら、と言ってるでしょう。
軽く、でも良いから。
あ、ほら、見てみて。
あんな所に都合良く蕎麦屋が。
……わざとらしい。
ちょこっと手繰って行こうよ。
ね?
奢り?
へ?
此の間、奢ってあげたわよね?
私。
…然うでしたっけ。
ええ、蕎麦を二枚。
……あー、然う言えばそんな気も。
で、奢り?
……えーと。
ふふ。
冗談よ。
は?
貴女に奢ってもらおうなんて、思ってないわ。
奢る事はあるのに、ね。
ふむ。
その代わり、お腹が空いてやる気が出ないなんて言ったら承知しないわ。
蓉子。
うん?
蕎麦一枚、で良いのなら。
良いわよ。
言ったでしょう?
冗談だって。
いや、たまには良いかな、と。
……どうしたの?
うわ、真顔だよ。
お金、大丈夫なの?
だって貴女なのよ?
うん、否定出来ないのが痛い。
自分で払うから良いわ。
有難う。
いや、今回は奢らせて頂きます。
…何よ、真面目な顔をして。
その代わり、夕餉を食わして下さい。
……は?
蓉子んちのご飯が食べたいです。
……其れが目的?
然うとも言います。
……。
大丈夫、蕎麦代くらいならある。
……はぁ。
分かった、良いわよ。
じゃあ、
但し、蕎麦代も結構。
れ?
仕事をちゃんとしてくれれば良いわ。
お…。
良いわね?
……。
聖。
じゃ、お言葉に甘えて。
仕事、ちゃんとやるのよ?
はーい。
ご馳走様でした。
あー、食べた食べた。
満足、かしら?
うん、ぼちぼち。
二枚も食べて?
本番は蓉子んちのご飯、ですから。
いつからそんなに食い意地を張るようになったのかしらね。
お茶漬けで良いから。
はいはい。
蓉子こそ、さ。
何よ。
いつも思うんだけど、小食だよねぇ。
一枚で足りるわよ。
いいや、このお勤めは体力勝負だからねー、取るもんはちゃんと取らないといかんわけよ。
勝負になるほどしてないわよね、貴女。
いやいや、拙者は江戸市中を歩き回ってへとへとでござるよ。
其れは単なる怠けぐせ。
日頃から鍛錬していない証拠。
だって動くと腹が減るじゃん。
どれだけ食い意地が張ってるのよ。
張ってるのは食い意地だけは無いよ?
何だったら今夜あたりにでも証明してあ
殴るわよ。
あ、と。
蓉子さん、木槌〈ソレ〉は商売道具ですから。
仕事にも身を入れなさいよ。
少ないとは言えど、俸禄を給わっているんだから。
でた、蓉子の十八番。
あのねぇ。
まぁ、生活の為だし。
適当に頑張りますか。
……呆れた。
飯が食えなきゃ、何にも出来ませんよ。
蓉子は出来るのかしら?
……。
何だかんだ言っても、誇りやら沽券やらじゃ飯は食えません。
…じゃ、働きなさいよ。
だからこうして、今日も今日とて蓉子とお勤めに励んでいる次第で候。
…全く。
ああ言えばこう言うんだから。
はっはっは。
…はぁ。
さて、腹もそれなりに満たされた事だし。
これからどうすんだっけ?
元柳橋に行くわよ。
ほう?
若しかして蓉子ってば五色団子目当て?
違うわよ。
でもついでに買おうなんて、
思ってないわよ、失礼ね。
まぁまぁ良いじゃない。
あそこの団子は有名だしね。
貴女と一緒にしないで。
あそこの屋台の団子なら安いし。
どれ、聖さんが買ってしんぜよう。
結構、よ。
私は務めを果たしに行くの。
なになに。
ご遠慮なさるな、蓉子殿。
してません。
本当は好物のくせに〜。
うるさい。
ま、良いじゃない、団子の一つや二つ。
そう、堅い事ばかり申されるな。
聖。
日頃の感謝の気持ちを込めて。
ね。
そんな事、全く思っていないくせに。
そんな事無い。
蓉子にはいつも感謝してますもの。
例えば?
ご飯を食べさせてくれる。
……。
本当に大助かり。
…なんでこんなのと幼馴染なのかしら。
おまけに仕事まで一緒なんて。
粋な計らいってのは本当にあるもんだね。
……はぁ。
橋 廻 り 同 心 控 、 或 い は 。
と。
今年の文化祭はこんな感じにしたいのよ…!
…。
と言うかさ。
何、紅薔薇さま!
時代劇なのは分かったけれど。
良いとこに気付いたわね!
いや、普通は気付くと思うよ。
ねぇ、瞳子。
…ええ、まぁ、そうですね。
流石ね、紅薔薇姉妹!
…流石ってここで使う言葉じゃないよね。
…お姉さま、それを言うと話がこじれますので。
…確かに。
うんうん。
で、白薔薇姉妹の二人はどうかしら?!
…どうかしら、と言われましても。
ねぇ、黄薔薇さま。
何かしら、白薔薇さま?
要は時代劇をやりたいと言うのは分かったのだけれど。
あら、反応が無いからてっきり分かってないと思っていたわ。
…いや、普通は分かりますよね、紅薔薇さま。
…だよね。
何、乃梨子ちゃん。
何か文句でもあるの?
いや、文句はありませんけど。
けど、何よ。
お姉さま。
はい、菜々!
ところで何故、聖さまと蓉子さまに配役されているのですか?
お二方は卒業生ですよね?
良いところに気付いたわ!
流石、私の妹!!
……だから、気付くよね。
…お姉さま、今はとりあえず余計な事は言わない方が宜しいかと。
お姉さまは聖さまと蓉子さまに出演して頂くつもりなのですか?
まぁ、無理でしょうね!
何と言うかノリよ、ノリ!!
…。
…。
…ここは突っ込んでもいいところだよね。瞳子。
……ノーコメントでお願いします。
個人的にはあのでこさまこと、江利子さまに出て欲しいのよねぇ。
江利子さまは何の役なのですか?
あら、菜々ってば聞きたい?
ええ、まぁ。
……と言うか今年の文化祭、本当に時代劇にするつもりなのかなぁ。
…止めるならば今のうちです、紅薔薇さま。
…白薔薇さまはどう思う?
……私は別に時代劇でも構わないけれど。
……ええええ。
…ほら、去年はとりかえばや物語をやったし。
…志摩子さん、それと時代劇は違うと思うよ。
そこ、さっきからこそこそして!
ちょこざいな!
……ちょこざいな、って。
…世界に入りきっているのでは無いでしょうか。
…止めるならば今です、紅薔薇さま。
言いたいことがあるのならば、はっきり、言う!
え、えと。
じゃあ…
はい、紅薔薇さま!
とりあえず一寸落ち着いて
それで江利子さまの役は何なの、黄薔薇さま。
あら、白薔薇さまも気になっちゃう?
ええ。
そこの方たちも、かしら?
……えーと。
…紅薔薇さま、頑張ってください。
止められるのは、今は、紅薔薇さましか居ません…多分。
……。
どうなの?!
さっさと答える!!
……うん、じゃあ一応。
……えええええええ。
そこの二年生二人は?
…そうですね、気にはなります。
……一応。
……じゃあ、私もそういうことにしておきます。
何よぅ、消極的ねぇ。
だめよ、そんなんじゃ!
今のご時世、渡ってはゆけないわ!
……。
それで、お姉さま。
江利子さまは?
勿論!
鳥居耀蔵よ…!!!
……とりい、
……ようぞう。
……と言うか、だれ?
鳥居耀蔵は
ああ、南町奉行の人ですか。
…そうよ、良く知ってるわね。
ええ、それくらいは常識だと思います。
……知らない、私は全然知らないよ。
…私も、です。
…確か、歴史の教科書には載って居なかった筈ですわ。
…と言うか瞳子は知ってんの?
……生憎、時代劇は未だ、演じた事が無いわ。
けれど甘いわ、菜々。
鳥居耀蔵は南町奉行だけではなく、
中奥番、徒頭、西丸附目付、目付・勝手掛、勘定奉行・勝手方、ですか?
……や、やるわね、菜々。
まぁ、普通だと思います。
……全っ然、普通じゃないよ!
……ねぇ瞳子、今年の文化祭、どうなると思う?
……私に聞いても答えようが無いわ、乃梨子。
と、兎に角。
江利子さまには鳥居耀蔵が適任だと思うの。
でも、何故?
それはね、白薔薇さま…
まさか、名字が一緒だから、じゃないよね。
ノンノンノン、この私がそんな理由付けをすると思って?
紅薔薇さま。
……由乃さんならすると思う。
何、祐巳さん。
あ、いや、何でもないよ。
で、どうしてなの?
それは勿論!
よ
妖怪、ですか?
………。
……よーかい?
…お姉さま、恐らくは妖怪ですわ。
町々で惜しがる奉行、やめ(矢部)にして、どこがとりえ(鳥居)でどこが良う(耀)蔵。
こんな落首があるほど、江戸の市民からは嫌われていたみたいですね。
え、江戸の市民からだけでは無いわよ。
大体、鳥居耀蔵と言えば時代劇、例えばみんな知ってるところで遠山の金さんなんかでは悪役中の悪役で…
けれど、何故。
江利子さまなのですか?
私が見たところ、そんなに悪いような人には見えなかったのですが。
あ、甘い、甘いわ!菜々!!
はぁ。
あのでこさま、もとい、江利子さまは!
それはもう悪評高くてね!
それは由乃さんだけにだと思う。
…祐巳さん、何か言った?
……ねぇ、白薔薇さま。
今年の文化祭でやる劇の事
黄薔薇さま。
…何?!
……なんだけ、ど。
聖さまと蓉子さまは橋廻りで、江利子さまは鳥居耀蔵なのは分かったのだけれど。
結局はどうしたいの?
ど、どうしたいって…だから!
…直球勝負。
流石、お姉さま…。
……矢張り、頼りにすべきは白薔薇さまですわね。
……と、瞳子ぉ。
やっほー、蓉子。
…。
お、眉間に皺。
連絡は?
私はいつもサプライズw
…。
あ、ごめん、ごめんなさい。
ドアは閉めないで。
…で、何の用。
言っておくけれど今日はレジメ製作で忙しいから。
…分かってるよぅ。
で、何。
こんなの、送られてきたんだけど。
しかも私と蓉子の連名で。
…なんで。
蓉子とは未だ、同棲してないんだけど。
いやぁ、分かってるなぁ。
うんうん。
…で、どれ。
こんなの。
誰から?
山百合会、からかな。
は?
いやだって山百合会って書いてあるんだもん。
…何だって?
いや、何と言うか、台本?
でもってとりあえず中に入れて欲しいなv
…台本?
思うに今、丁度文化祭の準備時期だからじゃないかと。
ねぇ蓉子、とりあえず中に…
…で、どうして台本?
私と蓉子の名前が載ってた。
は、なんで?
私達は卒業生でしょ?
OGだから?
一寸待ちなさい。
確かにOGだけれど、だからって
こんなのも来た。
…今度は何。
でこからメール。
……で?
面白そう。
以上。
…江利子はやる気なの。
どうだろ?
蓉子の携帯には?
………待って。
うん。
…。
と言うか、文化祭かぁ。
そっか、もうそんな時期かぁー。
……。
大学の文化祭、あまり興味無いからなぁ。
なんかいまいちなんだよなー。
…。
で、どう?
……「面白そう」。
で、しょーう?
いやいやいや、有り得ないわ。
無理。
卒業生も混ぜての時代劇、面白いと思いませんか?
…よいしょ、と。
はぁ?
と言うか勝手に入らないでよ。
て、書いてある。
ここに。
……こんなのを考えるのは、
由乃ちゃん、しかいないだろうねぇ。
あのメンバーの中じゃ。
…我が孫は何をしているの。
志摩子はほわほわしてそうだなぁ。
言う時は言うんだけど。
兎も角、今年は時代劇をやろうとしているのね?
ん、そーみたい。
…はい、お邪魔します。
私は出ないわよ…て、聖。
未だ入って良いなんて
言うと思った。
…普通に考えたら無理でしょう?
うん、そだね。
そうそう、今日の夕飯は私が作ってあげるねv
…貴女、楽しそうね?
美味しくなかったら承知しないんだから。
いや、出るつもりは無いけどさ、と言うか蓉子が出ないと私が出る意味無いし。
美味しいのオッケーイ、任せて。
…どういう事?
私と蓉子、恋人同士の役みたいなんだよねー♪
………。
だからね、出るなら一緒じゃないと。
無理、却下。
でも現実に恋人同士じゃん?
だからってひけらかすひちゅ要はありません。
蓉子、噛んだ。
…必要はありません。
でも所詮、劇じゃん?
ああ、けど、然うね、自然に醸し出すものがあるものね。
そっかそっか、そうだよなぁ。
私は出ません。
以上。
しし、そーいうと思った。
当たり前でしょう。
嫌よ、今更。
今更じゃなきゃ、良いの?
…。
そういやさ、シンデレラやった時だっけ?
…何の話よ。
私が王様で、蓉子が王妃様やったじゃん。
…だから?
軽く夫婦役だったよね♪
………。
あの配役考えたの、誰だったっけ?
祥子をシンデレラにするって言ったのは蓉子だったけど…
聖。
んー?
私は嫌よ。
絶対。
…。
……全く。
今の山百合会は何を考えて…
本当は幼馴染で橋廻りを一緒にやってるってだけの役なんだけど。
……は?
私達の役。
……。
ししし。
な、何よ。
んーん。
……忙しいのよ。
うん。
忙しいの。
うん、知ってる。
だからこそ、今日の夕飯は私めにお任せを。
…。
そういや蓉子、大学の文化祭で何かすんの?
……。
ん?
…それなりにはあるのよ。
うんうん。
……嫌よ、絶対。
と言うか現実的に無理です。
幾ら母校とは言え
おまけに元薔薇さまとは言え?
…そうよ。
ま、そこは孫達の頑張り次第だね。
そうすりゃ
頑張るべきところが違うわよ…!
コーン……。
蓉子、はい。
……。
機嫌、未だ直らない?
…要らないわよ。
仕事は無事に終わった。
なら、良いじゃない。
……聖は、甘い。
蓉子が厳しいんだよ。
草の一本や二本で、くどくどくどくど、さ。
管理が悪い事を指摘する事の、何処が、厳しいのよ。
当たり前の事だわ。
まぁ、そうなんだけどね。
草だけじゃない。
床板の目地に埃も溜まっていた。
此れがどう言う意味か分かる?
へいへい。
板を腐らせる要因になっちゃうんだっけね。
若しも橋が崩落する事になったら。
今みたいにへらへらしてられないのよ。
だから私達が居るんでしょ。
然うならない為に。
だったら、
けれど、此の橋はちゃんと管理されてる方じゃない。
此度はたまたま掃除係のじーさんが体調を崩してただけなんだしさ。
だったら代わりの者を直ぐに出すべきだわ。
なのに…!
はいはい、蓉子さんの仰る通りです。
だから此れでも食べて落ち着いて。
…団子を買うお金など、持ってないくせに。
ん?
どうせ、其れが目的だったんでしょう。
違うよ。
断じて、違う。
へらへらと受け取って。
だから奉行所の評判が落ちるのよ。
蓉子は潔癖症だからなぁ。
皆がしてるからって、己がして良い事にはならないわ。
うん、然うだね。
だけど此れは主人からの“心付け”、だよ。
だったら有難く頂いておくってもんさね。
……。
莫迦な岡っ引きどもが如く、力尽くで要求したわけじゃない。
……。
はい、蓉子。
お団子、美味しいよ。
……。
強情だなぁ。
……ふん。
そんなにふくれっ面ばかりしてたら。
可愛くない、って言われてしまうよ。
…良いわよ。
どうせ、かわいくないもの。
あらあら。
…私、このまま詰所に向かうわ。
だったら私も行くよ。
約束、だからね。
約束なんてしてない。
約束破ると嫌われちゃうからね。
そうなったら私は誰に飯を食わせてもらえば良いのか…!
私は貴女の飯盛り女じゃないわ!
あら、蓉子さん。
良くそんなお言葉をご存知で。
知ってるわよ、それくらいは。
でも間違い。
蓉子は春を鬻〈ヒサ〉いでない。
……。
ん?
……私、行くから。
良し。
じゃ、行こうか。
…。
はい、蓉子。
……何。
五色団子。
好きでしょう?
……。
団子には何も罪は無いよ?
……。
はい。
……お金は?
要りません。
今回は聖さんの奢り。
……もう。
蓉子。
…何よ。
今夜、泊まっても良い?
…だめ。
良いじゃない。
だめ。
ご飯食べたらさっさと帰って。
やった、ご飯が食べられる。
然うよ、食べさせてあげるわよ。
けれど泊めたりはしないわ。
ものはついでと言うではござりませぬか。
泊めて泊めて。
だめ。
よーこ。
だめったら、だめ。
子供の頃は良く、一緒に寝たじゃない。
こ、子供の頃は子供の頃、よ。
だから、大人になっても。
だから、じゃない。
…身分は問題無し。
せ、聖…ッ
あはは、冗談なのに。
……。
…冗談じゃ、無いけど。
……ッ!
さて、と。
本日も晴天、橋にも異常無し。
さっさと帰って、報告、しちゃいましょーか。
……。
そしたら今夜は蓉子んちにお泊り。
ちょ、な、何をするのよ。
手を繋いでみたの。
小さい子供みたいに。
は、離しなさい。
未だ勤め中よ。
じゃ、仕事が終われば良いんだ。
良いんだよね。
…!
屁理屈ばかり…!
良いじゃない、たまには。
役人ってヤツはいつも偉そうにしてるから嫌われるのよ。
少しは庶民的なトコも見せないと。
手を繋ぐのは関係ないわよ!
そうでもないさ。
そうでもあるの!
威厳と言うものが
あー、今日は夕日が綺麗かな。
…もう、ばか!
然う言えば、お姉さま。
時代劇をやるとしたらお姉さまはどんな役をするおつもりなのですか?
私は勿論、岡っ引きよ!
でもって当然、主役ね!
主役は兎も角として岡っ引き、ですか。
然うよ!
十手を握り締め、時には銭を投げ、
ですが岡っ引きって真っ当な人はあまりいなかったようですよ。
……は?
どちらかと言うと、嫌われ者が多かったそうですよ。
犯罪を起こした人間もいたそうですし。
それと公式には十手は持てない筈ですよ。
あくまでも非公式な存在ですから。
……菜々。
はい、何でしょうか。
私がやる岡っ引きは正義の味方なの!公式とかそんなの関係ないの!
心には常に、悪を憎んで人を憎まず、そんな正義の炎が燃えているの!
然う、銭形平次のような!
まぁ、文化祭での劇ですし。
実際と異なっても良いのかも知れませんね。
…。
ですがこの台本は正直、どうかと思いますが。
もう少し、時代考証を
…菜々。
はい?
貴女って子はぁ…!!
…ねぇ、瞳子。
はい、何でしょうか。
この書類の推敲をお願い。
はい。
乃梨子ちゃん。
はい、紅薔薇さま。
これ、お願い。
出来れば早めに。
はい。
菜々はどぉうして、いつもいつも!
私はただ、思ったことを言っただけですが。
間違っていましたか?
間違っていないからタチが悪いんじゃないの!
そうですか。
そうよ!
ならば時代考証をしましょう。
は…?
お姉さまは時代物がお好きですから、苦にはならないでしょう?
そ、それは然うよ!
はい。
では、また後で。
今はやるべき仕事をしましょう。
し、仕方ないわね。
菜々が然う言うのなら。
私、お茶のお代わりを淹れてきますね。
うん、ありがとう。
…はーぁ、なんだかんだで今日も平和だねぇ。
ねぇ、瞳子。
然うですわね。
蓉子、出来たよ。
聖さんお手製カポナータ。
…。
ん、なぁに?
…良い匂い。
でしょう?
さ、座って座って。
…自分の部屋のようね。
私の部屋は蓉子のもう一つの部屋だよ?
…。
へへ。
…なに。
蓉子にご飯作るの、最近マイブーム。
自分の為にも作って。
面倒くさい。
…。
でも蓉子のご飯、大好きだから。
ね?
……それはおねだり?
うん。
……全く、もう。
今日、泊まっていくね?
…好きになさい。
うん、するする。
…朝ごはん、二人分ね。
志摩子。
江利子さま。
久しぶりね。
ごきげんよう?
はい、お久しぶりです。
お元気そうですね。
ま、ね。
貴女も。
ありがとうございます。
で、早速なのだけれど。
はい。
私、鳥居耀蔵なんですってね?
…。
面白いわね。
本当にやるの?
それは未だ。
然う、じゃあ是非。
スケジュール、空けておくから。
聖さまと蓉子さまは…。
さぁ、どうかしら。
でも入った方が面白いでしょ?
…江利子さまは相変わらずですね。
然う?
はい。
大学の文化祭って、いまいち、なのよねー。
…だから、ですか?
それも、ある。
…。
どうせなら面白い方が良いじゃない。
時代劇、大いに結構。
私達の頃には無かった発想だわ。
…はぁ。
聖と蓉子は夫婦役なんでしょ?
複雑?
いえ、特には…。
あら。
幸せそうですから。
確かに。
でももう一寸、何かがあった方が面白いのにね。
…江利子さま。
ふふ。
乃梨子ちゃん、だっけ?
…はい。
好き?
…好きですよ。
そ。
なら、良いわ。
…わざと仰っているのですか?
わざも何も。
ただ、言っただけよ。
……私は
志摩子。
…はい。
そろそろ、文化祭の準備が始まるわ。
忙しくなるわね。
……はい。
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