好きです。
その一言で私と彼女の関係が変わった。
所謂、親友から、恋人に。
もっと言うと私の世界も変わった。
…だけど。
……聖さま。
ねぇ、どう思う?
…どう、と言われますと?
私の話、聞いてた?
聞いてましたけど。
だったら、どう思う?
…。
ここは私の通う大学の一角、お茶を飲むところ。
またの名を喫茶店。
私服の私が座るその向かい側に今はもう懐かしいリリアン高等部の制服を着た子が一人。
この子のトレードマークだと言っても過言ではないツインテールは残念ながら、今は解かれている。
ぴこぴこするのが何気に好きだったのに、非常に、残念だ。
私としては。
折角、晴れて恋人同士になったんだから色々としたいんだけど…。
…それ。
お姉さまのお耳に入ったら間違い無く、修羅場になりますね。
だから。
この事はご内密に、ね☆
気色悪いです。
ずず、とお茶を飲む(ちなみに私のおごりだ)リリアン生。
祖母、姉、と比べてやはりどこか庶民的な雰囲気。
いや、祖母も実は結構庶民的でかわいかったりするんだけど、それは私だけの秘密にしておこう。
で、どうしたら良いと思う?
知りません。
きっぱり。
どきっぱり。
ああ、すっごく清々しいなぁ。
てか、こういうところは確実に遺伝してるんかなぁ。
冷たいなぁ。
かつての先輩がこうして相談していると言うのに。
だったら私より、今でもご親友の方のほうが宜しいんじゃないですか。
そう言われてぱっと浮かぶは、おでこがきらり、な、あのすっぽん。
面白いものを見つけた時の笑い声付き。
うん、それは無い。
じゃあ、妹はいかがですか。
親友とやらをきっぱりと否定すれば、今度は妹。
今や、すっかり孫と仲良しになってしまった妹。
少し淋しいけれど、それで良い。
彼女の隣に居るのは私、なのは昔の話だから。
いや、それも無いなぁ。
どうして、ですか。
ん、どうしても。
何ですか、それ。
少し温くなってきたコーヒーを一口。
うん、コーヒーはやっぱり熱い方が美味しい。
でも愛しいあの子はちょっぴり猫舌なんだけど、ね?
何ですか、と言われても。
と言うか何で私なんですか。
由乃ちゃん、じゃなぁ。
あっちは幼馴染同士で、私達とはケースが違うし。
私だって知りませんよ。
でも君は孫だし。
…。
あ、今、眉間に皺が寄った。
え、何、こんな所も遺伝しちゃうもの?
流石に妹、は無いでしょ?
…私も面白く無いんですが。
ああ、やっぱり?
ごめんねー。
皺が一本、追加。
凄い、私の彼女さんである祖母にそっくり。
もっと言えば姉にもそっくり。
そういや曾祖母もそんなだった気が。
紅薔薇の遺伝子って、面白い。
…戻っても良いですか?
やるべき事があるので。
えー、もう一寸相談に乗ってよ〜。
私は暇じゃないんです。
お茶、ご馳走様でした。
あ、祐巳ちゃん。
それではごきげんよ…
U n b o u r g e o n d e l ' a m o u r
ね、そう言わずにさ?
もうちみっとだけ聞いてよ。
ね?
…。
ん?
……で?
うんうん、それでこそ祐巳ちゃん。
今、力尽くでしたよね?
かなり。
ん?
気のせいじゃない?
は。
うわ、いつからそんなかわいくない態度を取るようになったのー?
将来の義理のおばあちゃんとしては
認めてません。
えぇ。
で?
早くしてくれませんか私だって暇じゃないなんですよこの時期の忙しさは聖さまも分かっていますよね。
早口すぎて分からないよぅ。
聖さまが蓉子さまとお付き合いし始めたのはよーく、分かりました。
で、何が言いたいんですか、と言うか何を聞きたいのですか、私に聞いてどうするんですか。
ちゅー、したいの。
………は?
ちゅー。
………すれば良いんじゃないですか。
うん。
けどね。
…けど゙、何ですか。
手、繋ぐ事は出来るんだけどね。
……だから?
いざ、となると、さり気なく逃げられちゃうと言うか。
………。
蓉子はああ見えて凄く可愛いのよ?
……ああ、そうですか。
でさ。
知りません。
えぇー。
何で私が分かるんですか、知りませんよ、て言うか知りたくもありません。
ぶっちゃけ、ちゅー以上のコトもしたいんだよねぇ…。
ため息混じりに言わんで下さい、寒気がします。
最高に気色悪いです。
どうしたら良いかなぁ?
だから、知りません。
祐巳ちゃんだったら好きな人とナニしたい?
何、て何ですか、何って。
ナニ?
……。
祥子とはナニとかしないの?
しませんから……ッ
えー、そうなの?
お姉さまを聖さまと一緒にしないで下さい!
失敬な!!
いや、失敬って。
兎に角、私は知りません。
知りたくない、聞きたくない、大体蓉子さまが聖さまの…
…ちゅー、したいなぁ。
……あぁぁぁぁ!!
ん?
私はこれで失礼します!
ごきげんよう!!
祐巳ちゃん。
何ですか!!
そーいうトコ、好きだよ。
は?!
蓉子もそうなんだけど、ね。
…ごきげんよう!!
最後に一つだけ答えてよ。
嫌です!
祐巳ちゃんだったら両想いになったらどうしたい?
私は…!
うん。
……ただ、一緒に居られれば
したくないの?
色んなコト。
……!!
あーもう!!
しし。
そーいうとこ、ホントかわいいなぁ。
蓉子と似てて、さ。
・
…ところで、聖。
なになに?
…。
あ、今日はあのお店ね。
おいしいらしいんだ。
…それは良いんだけど。
値段も良心的。
学生に優しい、らしいから。
そう、それは良いわね。
でしょでしょ?
へへ、情報収集して良かった。
聖。
うん?
お、雰囲気も良さげだー。
祐巳ちゃんに話したんですって?
祐巳ちゃん?
何のコト?
私達の事を。
ああー。
話したって言うか、相談しただけだよ。
相談って。
何を。
色々。
色々って。
祐巳ちゃんだったら両想いになったらナニしたいかな、て。
……。
ま、あの子は一緒に居るだけで良いんだって。
あれじゃ祥子も可愛くてしょーがないんじゃない?
……聖。
あ、よーこ。
見てみて、スイーツもあるよ。
これとか、よーこ、好きそうじゃない?
……もぅ。
あ、でも、ランチとは別なんだ。
でも良いや。ここは一つ、奮発しちゃう。
良いわよ、もしも食べたいと思ったら自分で払うから。
あと私の孫に変な事を聞かないで頂戴。
ははは。
つかさ、今日、誘ったのは私だし。
ね?ね?
でも私も会いたかったから。
…。
…何?
それ、本当?
…嘘なんて言わないわよ。
……。
…だから、何。
…ふふ、へへ。
一寸、店の前で気色悪いから。
だって。
…恥ずかしいから。
だって、さぁ。
へへへ…。
もう、恥ずかしい人ね。
へへ。
…中に入るの?
入らないの?
いつまでも店先のメニューばかり見てたって仕方が無いわよ。
そうだね。
私、お腹空いちゃった。
もう、何をはしゃいでいるのよ。
そりゃ、はしゃぐさぁ。
蓉子と一週間ぶりのデートだもん。
夜まで、一緒にいられるんだもん。
…。
ね?ね?
…。
…え、まさか夜までじゃない?
……それは、大丈夫だけど。
やったぁ。
…だから店先ではしゃがないでって。
ふふ、ふふ。
…その笑いも止めて頂戴。
お願いだから。
よーこ。
…。
一緒?
…はいはい。
でさ、蓉子。
分かったから口に入れたまま喋らないの。
うん。
…でね?
…分かってないでしょう?
ううん。
それから、袖口がスープに入りそうよ。
おー。
ご飯も私も逃げないんだから。
少しは落ち着きなさい。
うん。
全く。
子供みたいなんだから。
へへ。
それで、どうしたの?
そうそう、それでね。
あ。
あ?
ああもう、だから言ったのに。
あらら。
とりあえず拭くから。
じっとしてて。
あい。
…丸っきり、子供の返事ね。
えへへ。
ある意味、高校時代より手がかかるのだけど?
じゃあ、蓉子の世話焼きは私だけのものにしちゃおうかな。
焼きすぎると鬱陶しがるくせに。
へへへ。
大体。
今日の貴女、はしゃぎすぎ。
何がそんなに楽しいのかしらね?
そりゃ、楽しいよ。
だって蓉子と居るんだもん。
はいはい、ありがとう。
蓉子は?
蓉子は楽しくない?
と言うより、楽しんでる暇が無いのだけど。
なんで?
子供のような貴女の世話を焼いてばかりで。
楽しくない?
…。
楽しくないの?
…まぁ、楽しくない、とは言わないわ。
でも食事の時くらい、落ち着かせて頂戴。
はぁい。
…ふふ。
…。
ん?
全く。
なぁに?
何でもない。
さ、食べましょう。
気になるよぅ。
大した事じゃないわ。
余計、気になるよぅ。
…。
よーこ。
…本当に大した事では無いのだけど。
うん。
聖。
はい。
…やっぱり止めとく。
えぇ。
だって。
だって、なに?
…。
よーこよーこ。
ネジ、緩みっぱなし。
ねじ?
ずっと。
んー…?
頭の。
…ああ!
締まりの無い顔して。
だってさぁ。
けど、嬉しいのよね。
…?
貴女のそんな顔を見られて。
本当は嬉しいの。
……。
けど、あまり締まりの無い顔ばかりしないで?
頭の中、蕩けちゃう。
よーこの?
さぁ、誰のでしょう?
…。
聖。
…なに?
ご飯、美味しいわね?
…うん!
ふふ。
あー、食べた食べたー。
袖口、染みにならないと良いけど…。
だいじょーぶだいじょーぶ。
でも無いと思うけれど。
ねぇねぇ蓉子、他にどっか行きたいところある?
そうね…。
本屋?
今日は良いわ。
この前、いっぱい見たもんね?
…あの時はたまたまよ。
うん、そっか。
…。
映画は?
そういや、観たいのがあるって言ってなかったっけ?
もう終わっちゃったわ。
あれ、そうなの?
ええ、そうよ。
観たの?
観てない。
言ってくれれば良かったのに。
レジメ、提出期限ぎりぎりで切羽詰っていたの、だぁれ?
あー、誰だっけ。
あれほど早くやってしまいなさいって言ったのにね。
だってさ、ここのところずぅっと、蓉子のコトばかり考えててさ。
他の事、考えてる余地が無かったんだもん。
…。
もうね、これは一種の病気だよね。
恋の病。
……はいはい。
さっきからそればかりー。
映画はDVDで観るから良いのよ。
DVD?
貴女と。
…私と?
ええ、そうよ。
だって貴女と一緒に観たかったんだもの。
…。
それにDVDだったら部屋で寛いで観られるし…。
…。
…さて、どこ行きましょうか。
よーこ!
うん?
あ、あのさ。
うん。
い、行きたいところが特に無いのなら、さ?
わ、私の部屋に行こうよ。
…え。
でさ、二人でゆっくりしよ?
ね?
…。
夕飯もうちで…あ、そだ、夕飯何が良いかな?
…お昼、食べたばかりだけど。
あ、ほら、うちってばあまり食べ物置いてないから。
…知ってる。
そだ、買い物、していこう。
私、蓉子のご飯が食べたい。
私が作るの?
え、あ、いや、その…だめ、かな?
…ふふ。
…よーこ?
良いわよ。
何が食べたいの?
お、お味噌汁…!
お味噌汁だけ?
あ、あとは…卵焼き、とか。
くす。
お味噌汁の具は何が良いのかしら?
え、と…。
店に行ってから考える?
う、うん。
じゃあ、行きましょうか。
…。
…聖?
……。
あ…。
い、行こう。
……聖。
…。
あの…。
……繋いでたい。
…。
今だけで良いから。
蓉子と。
……うん。
そもそも。
人は何故、好きな人に触れたくなるのでしょう。
本能に基づいていると言うのなら、ぶっちゃけ、生殖目的が大という話。
人間の場合、そこに快楽が混じってくるから面倒なだけで、本来の目的はやっぱり種の存続、
と言うより己の血を残す為なのかも知れない。
でもそれは男女のお話。 けど、こういう話もある。
征服欲。
それを満たす為だけに…と。
…と言うか待て待て。
種の存続とか、そんな大層なコトを言いたいわけではないのだよ、私は。
とりあえずそーいうコトは横に…いや嘘、本音を言えば興味ありまくり…と言うか、
したいと言うかやりたいと言うか出来るのなら直ぐにでも…。
……うん、まぁアレだ。
人は何故、好きな人に触れたくなるのか。
答えは簡単、好きだから。
…そう、そうなんだよね。好きだから、なんだよね。だからそーいうコトもしたい、てなるんだよね。
でもって私の触りたい人はココに居るわけなんだよね。
柔らかそうな唇、柔らかそうな躰、手の平は温かくて柔らかい、だから蓉子を形作るものはぜんぶぜんぶ柔らかいに違いない。
触れたい、触れたいなぁ、手だけじゃなく、手だけじゃ足りない、その唇に、その躰に。
……ああ。
ちゅー、したいなぁ…。
…聖?
ひゃい?!
…ひゃい?
あ、や、な、何?
ぼんやりとしているみたいだけど…。
私の顔に何か付いてる…?
べ、別に何でもないよ。
うん、何でもない。
さ、入って入って。
…?
はは、ははは。
…何か、焦ってる?
い、いやいやいやいや、何も、なんにも焦ってないよ。
うんうん。
……。
さ、入って。
ね?
え、ええ。
お邪魔します。
はい、どうぞどうぞ。
…。
…。
…。
…え、えと。
…。
そ、そうだ!
…なに?
あのね、蓉子がうちに来た時の為にと思ってさ。
うん。
こ、これ…!
……これ?
蓉子の座布団!
……。
買ってみましたー…なんて。
……わざわざ?
だ、だって、ほら、やっぱり必要かな、て。
…私のが?
う、うん。
…。
それにこの色、蓉子の色だなぁ…なんて。
…そう。
い、いやさ?
蓉子が当たり前のようにうちに来て当たり前のように寛げたら良いなぁ…とか。
…。
い、要らなかった…?
……ううん、嬉しい。
あ…。
でも悪いわ。
わ、悪くない悪くない、全っ然悪くない…!
せ、聖…?
だ、だから遠慮なくうちに来て。
どんどん来て。
ね、ね?
……。
あ、いや…その。
…変な聖。
で、ですよね…。
…ふふ。
……。
買ってきたもの、冷蔵庫に入れても良いかしら?
あ、うん…。
じゃあ…。
じゃ、じゃあ私はとっておきのコーヒーを淹れるね。
ありがとう。
……。
…冷蔵庫の中。
相変わらず、なのね。
そ、そう?
ええ、そう。
ほとんど飲み物と調味料だけ。
一応、料理とかはしてるんだけどな。
本当に一応なのよね。
…作った方が安いし。
バランスも考えないと、ね?
…。
卵、一パックじゃ多いかしら…。
…蓉子が考えてよ。
え、何?
な、何でもない…。
…?
コーヒー、コーヒー、と。
……。
あ、入れ終わったなら適当に座って待ってて。
…うん。
よーことコーヒー、ららー。
……変な聖。
……。
それでね、
…うん。
…だったのだけど、
…うん。
で…。
…うん。
…?
聖?
うん…。
…聞いてる?
うん…。
…。
…うん。
…今日のお夕飯、椎茸の肉詰めにしようと思っているのだけど。
…うん。
聖、椎茸苦手だったわよね?
うん…。
まぁ、生椎茸なら未だ食べられるとは言っていたけど。
…。
…卵焼き。
甘くても良い…?
…うん。
甘いの、苦手なくせに…?
うん…。
……お味噌汁の具、何が良い?
うん…。
……。
…うん。
……私、帰るわね。
うん…。
……。
…。
…じゃあ、帰る。
…うん。
……。
…。
じゃあ…また。
うん…え。
…。
蓉子、どこ行くの?
…帰るの。
え、何で?
…。
わ、私、なんか変なコトした?
…。
と言うか、まだ来たばかりじゃない。
なんで?どして?
……だって。
蓉子、待って、帰らないで。
…。
ごめん、何か変なコトしたなら謝るから。
…何も、してないわよ。
へ…。
つまらなそうだった。
え、え?
貴女、私と話していても。
心ここにあらず、で。
そ、そんなコトないよ!
だって私、ずっと蓉子のコトばかり考えてて…!
…さっきまではあんなにはしゃいでいてくれたのに。
や、だから…!
…じゃあ、またね。
蓉子…!!
…っ
か、帰らないで。
…。
お願いだから、帰らないで。
……。
蓉子、帰っちゃイヤだ、いやだよ…。
……せい。
夜までで、良いから…だから。
……う、ん。
…帰らない?
うん…。
良かった…。
…あ、あの。
うん…?
…。
蓉子…?
……帰らないから…その、離して。
あ…っ
……。
ご、ごめ…っ
……。
あ、いや、その…と、咄嗟だったから、その…っ!
…別に謝らなくても。
で、でも、吃驚させちゃったよね…?
…。
あ…。
…。
…ごめんなさい。
…謝らないで良いから。
け、けど…。
…良いの。
あ、う、うん…。
…。
…。
……聖。
な、なに……あ。
…。
あ、う…あ。
……謝らないで。
あ、は、はい…。
……。
よ、蓉子…。
…良いから。
……!
……ん。
蓉子…!
……きつい。
あ、ごめ
良いの。
……はい。
…。
…。
…聖の体、
な、何でしょう…?
あったかいわ…。
…。
…それに、やわらかい。
…よ、蓉子も!
…。
蓉子も…やらかくてあったかい。
…うん。
…。
…。
…蓉子。
…なぁに。
あの…。
…。
…あの、さ。
…うん。
き、キスしても…い?
……ばか。
う…。
…ばか。
ごめ…。
…もう、そればかり。
……。
…好きよ、聖。
…ッ!
ん…。
…。
…んっ?
…。
…せ、せい。
……よーこ。
し、舌が…んん。
……。
…………せい。
はぁ、おいしかった…。
椎茸、ちゃんと食べられたわね。
乾燥椎茸は嫌いだけど、ねー。
感触、だったかしら?
そうそう、あのぶにっとした感触がさぁ。
あと味もいやー。
子供みたい、ね。
へへ。
あと、ほうれん草と油揚げのお味噌汁も美味しかったなー。
勿論、卵焼きも!
ありがとう。
そう言ってもらえて嬉しいわ。
へへへ。
食器、洗っちゃうわね。
あ、良いよ。
私がやる。
そう?
そうそう。
蓉子は座って寛いでて?
…。
蓉子?
…そろそろ、帰らないと。
え、もう?
食器、洗ってから帰ろうと思ったのだけど。
…。
半分、洗うわ。
…ねぇ、蓉子。
ん…?
…。
あ…。
蓉子。
な、なに…。
…あの。
う、うん…。
…。
…。
…よ、良かったら。
…。
と、泊まっていかない…?
……。
あ、や、も、勿論、一緒に寝るってわけじゃないから。
…そうなの?
え…。
……。
よ、蓉
夜まで、て言っていたのに。
あ、あー…。
…。
……だめ、かな。
泊まるとは言ってこなかったから。
…それはご両親に、だよね。
…ええ。
ま、まぁ、急だもんね…そうだよね。
…。
…え、えと。
送っていくよ。
…ありがとう。
…。
…。
…今度、いつ逢える?
…そろそろ試験の準備をしないと。
…そっか。
…聖もでしょう?
…うん、まぁ。
…ちゃんと勉強しないと駄目よ?
…はい、蓉子さま。
…もう、ふざけて。
…。
…。
…。
…。
…よ
…せ
…。
…。
…なに?
…聖こそ、なぁに?
蓉子からで良いよ。
…聖の方が先だったわ。
いや、同時だったと思うよ。
…そうかしら。
うん……多分。
…。
…え、と。
なに、蓉子?
…聖から先に言って。
わ、私から?
……うん。
…え、ええと。
…。
だ、だめだってコトは、分かってるんだけど…。
……。
や、やっぱり諦められないって言うか…。
…。
…ねぇ、蓉子。
夜までって言ってた事、明日の朝まで延ばしちゃだめかな…。
…。
む、無理強いするつもりは無い、けど…。
……聖。
は、はい…。
……着替えが無いの。
あ、ああ、そっか………そっか。
……だから、その。
…?
シャ、シャツを……。
……。
あの…貸して、もらえたら。
…っ
そ、それから…。
幾らでも貸すよ…!!
……。
勿論、下も…って、ジャージしかないんだけど…。
…うん。
ほ、本当に…?
…連絡、しないとね。
…!
……でも明日の服、
それも貸します!!
……。
あ、てか…ほら、一回うちに帰って着替えてから学校に行けば良いじゃないかな、て。
…ふふ。
よ、蓉子…?
ううん、なんでもない。
…。
…
…よーこ。
…ん?
嬉しい…。
…。
嬉しいな…。
……うん。
…。
…聖。
あ、蓉子…。
お風呂、ありがとう。
ど、どういたして。
…本当に先に貰っても良かったの?
う、うん、良いんだ。
蓉子に先に入ってもらう、て決めてたから。
…そう。
え、と。
服、どうかな?
別のヤツの方が良いかな。
…ううん、大丈夫よ。
ありがとう。
そっか。
…。
え、何?
ううん、何でもない。
そ、そう?
…うん。
……。
…なぁに?
い、いや…。
…。
そ、そうだ。
何か飲む?
聖はお風呂に入らないの?
や、入るけど…。
冷めないうちに…。
う、うん、そうだね。
…何、見てたの?
え?
テレビ、ついているから。
あ、ああ。
そういえば。
…そういえば?
……見てた記憶が無いと、言いますか。
つけてただけ?
…うん。
…。
じゃ、じゃあ、私も入ってこようかな。
…。
もし何か飲みたかったら適当に飲んでて。
…て、ロクなの無いけど。
…そんな事ないわ。
ありがとう。
ん…じゃあ、行ってきます。
…行ってらっしゃい。
て、お風呂に入るだけなんだけどね…?
…ふふ、そうね。
…。
…。
…よ、蓉子。
…うん?
その…良い匂いがするな、て。
…。
あ、いや、ふ、深い意味は、その…無いんだけど。
…聖が使ってる石鹸、借りたのよ。
…。
…だから。
…。
…。
…蓉子。
…。
…。
…せ
あ、あー…!
…ッ
と、とりあえず!
お風呂、行ってきます…!
…い、行ってらっしゃい。
…。
…はぁ。
やばかった、さっきはやばかった、本気でやばかった。
あのまま抱き締めていたら、多分、キスだけじゃ済まなかったよ。
てか、何。
お風呂あがりの蓉子のあの姿、反 則 過 ぎ や し ま せ ん か ・ ・ っ?
湿った髪、ほんのりと桃色なほっぺた、大きめのシャツからちらりと見えた鎖骨…項〈ウナジ〉、そして。
鼻をくすぐった石鹸の匂い、蓉子の匂い。
……ああ。
思い出しただけでも顔ん中が沸騰しそう…。
…ぶくぶく。
と言うか。
キス、しちゃった…なぁ。
咄嗟だったとは言え…。
でも嫌がられなかった…し。
…柔らかかったなぁ、蓉子の唇。
……本当にしちゃったんだ、蓉子と。
………しかも舌、まで。
…………。
…ぶくぶくぶく。
…今夜は蓉子が泊まっていく。
蓉子と一緒に明日まで…。
で、でも、一緒に寝るわけじゃない…し。
……ない、し。
…。
……き、聞いてみようかな。
もしかしたら、良いって言ってくれるかもしれない…なんて。
…も、もし、良いって言ってくれたら。
眠る前に抱き締めて。
それから…キス、して。
…キス、して。
それから…それから…。
…ぶくぶくぶくぶくぶく。
……蓉子の感触。
どんなかな…。
キスした時は…ぶっちゃけ、頭の中が半分真っ白であんまり記憶に無かったりするんだけど。
でも、やわらかくて、良い匂いがして…。
…。
…蓉子、頬が紅くなってた。
耳なんて真っ赤で…さ。
…思えば、少しだけ涙ぐんでたような気がする。
ああ…かわいかった、かわいかったなぁ。
……。
……もしも。
もしも、この手で抱いたら…。
どんな顔、するんだろ…。
屹度…いや絶対、かわいんだろうな…すごく、すごく、かわいんだろうな…。
…ぶくぶくぶくぶくぶくぶく。
…。
…今夜、本当に蓉子泊まっていくんだ。
私の服を着て…私と同じ匂いを纏って。
朝まで一緒なんだ…。
……。
……一緒に眠りたい、な。
だめ、かな…けど、泊まっていくの了承してくれたんだから……もしかしたら。
もしかしたら…、もしかしたら…。
……。
………一緒に寝たい寝たい寝たい寝たい寝たい、眠りたい。
朝までずっと、抱き締めていたい…!
……ぶくぶくぶく。
…。
…そういえば。
ついさっきまで蓉子は…。
……。
…同じお湯、使っているんだ。
……そうだ、ついさっき、まで。
…。
………ぶく。
……蓉子、が。
蓉子が。
蓉子が!
蓉子が…!!
ぶくぶく…。
蓉子の体に…!
蓉子の躰を…!
蓉子の…!
ぶくぶくぶくぶくぶくぶく………。
……あぁぁぁぁぁぁぁ。
……聖!!
……うー。
大丈夫、聖?
あーくらくらする…。
あ。
……。
あ、あの、聖…。
…うん。
頭をのせるのなら枕の方が…。
あー…きもちいー…。
…。
てか、なにしてんだろー…わたし。
…なかなか出てこないから。
…。
あの、勝手に様子を見に行くのもどうかと思ったのだけど…。
…いや、蓉子が来てくれなかったら確実に、溺れてた。
…。
ほんと、なにしてんだろー…。
…お水、飲む?
もう少し、こーしてたい…。
そ、そう…。
……しかし。
まさか風呂場で鼻血を噴くとは…。
屹度、のぼせてしまったんだわ。
あー…。
…でもどうして?
お風呂はそんなに長湯するタイプじゃ無かったわよね?
え。
だから、その、心配したのだけど…。
…ま、まぁ、今日くらいはゆっくり入ろーかな、て。
今日くらい…。
あ、いや、別に変な意味じゃなくて…。
……どんな意味なの。
ど、どんなって…。
…。
な、何と言うかな、ちょ、一寸考え事をしてて、さ…?
そ、そう、蓉子のご飯美味しかったなーとか。
…ありがとう。
あ、や、どういたしまして…。
…でものぼせてしまうくらい、考えてたの?
だ、だから、そのぅ…。
…。
…ええ、と。
…。
…よ、蓉子の唇の感触を思い出してたと言うか。
…わたし、の。
そ、それから…一緒に寝たい、な…とか。
…とか。
……。
………ごめんなさい。
…。
よ、蓉子…?
…。
…お、怒った?
…。
蓉子、蓉子…?
……もう、大丈夫なの?
へ…。
くらくら、しない?
す、少し…。
…する?
う、うん…まだ少し。
…じゃあ横になっていて。
い、良いの…?
…何か扇ぐものがあれば良いのだけど。
団扇なんてないわよね?
し、下敷きなら…。
…どこ?
……確か、ノートの間に。
どの?
……え、と。
……横になって。
え…。
まだ少し、くらくらするのでしょう…?
は、はい…。
…。
……呆れた?
ううん…聖らしいから。
……。
……。
…よーこ。
…ん。
よーこの膝、やわらかくてきもちいい…。
……もう。
ばか…。
…。
今夜は…うん、そう、聖の部屋に…。
…。
…え。
…。
服は聖に借りて…うん、うん…。
…。
明日も学校だから…一度、家にはちゃんと帰ります。
着替えないといけないし…うん。
…。
…迷惑?
……全然、迷惑じゃない。
え、なぁに?
…ううん、何でもないよ。
そう?
うん。
…それじゃ、そう言うことですから。
お父さんにも伝えて…え?
あ、はい、分かってます……はい、おやすみなさい。
…。
…ふぅ。
良いって?
…うん。
やった…!
…。
あ、いや…。
…でもお風呂に入っちゃった後に了承を得るなんて。
順番が逆だと思わない…?
あ、確かに。
かつての紅薔薇さまがするコトとは思えない、かな。
…ふふ。
…へへ。
聖。
ん…?
大丈夫?
うん、もう平気みたい。
そう、良かった。
よーこ…。
…つ。
え、どこか痛いの?
怪我した?
…少し、ね。
何、どしたの…!?
…足、痺れちゃった。
…。
慣れない、から…。
…っ
…?
聖…?
あ、や…。
…ふふ。
?
な、なに…?
あ、いや。
…へ?
貴女、そればかり。
え、そうだった?
うん。
…。
…。
……蓉子。
ん…?
かわいい。
……はい?
蓉子、かわいい。
え…あ。
かわいい…。
せ、聖…きゃ。
…よーこ。
ま、待って、聖…。
……。
せ…あ、ぅ。
…あ。
……あ、足が痺れて。
……。
ご、ごめんなさい、今は、さ、触らないで…。
……はい。
……くぅ。
だ、大丈夫?
…うん。
でも暫く、そっとしておいて…。
う、うん…。
……。
座布団、持ってこようか…?
ありがとう…。
けど、暫くしたら治るから…。
…。
…こんなに痺れたの、久しぶり。
……ごめんなさい。
…。
わ、私が調子に乗って…乗ったから。
…本当にのぼせていたんでしょう?
…。
のぼせていなかった…?
…くらくらしてたのは本当。
だから、良いのよ。
…。
…。
…聖。
…ん。
母が、ね。
…小母さま?
聖に宜しく、て。
…。
泊まらせて貰うのだから、て。
……そう。
…。
…。
母は…私たちの事、知らないから。
……うん。
…。
…。
…聖。
…蓉子。
…。
…。
ん……。
…。
…。
……足、まだ駄目そう?
…大分、楽になったわ。
そっか…。
……寝る前に。
ん…?
はみがき、してこないと…。
あ、新しいの、あるから。
出すよ。
…それも私の?
え…。
…違った?
あ、いや…そう、そうなんだ。
……ありがとう。
い、いや、私が勝手に用意しておいただけだから。
…。
…。
…。
…手。
…。
…貸すよ。
…うん、ありがとう。
じゃあ、電気消すけど。
良いかな…?
うん…。
…あ、そうだ。
…?
なに?
蓉子はどっち派だっけ?
…どっち?
何もつけない?
それとも茶色?
…茶色って?
これ。
…ああ。
蓉子の孫が正月に言ってました。
…ふふ、なんからしい。
でしょ?
うん。
どっちが良い?
私はどっちでも平気よ。
自分の部屋で寝る時は?
…何もつけない、かしら。
じゃ、そうしよう。
…。
じゃ、おやすみ…。
…おやすみなさい、聖。
…。
…。
…。
…。
…。
……聖。
……ん?
…あの。
…慣れない場所では眠れない?
……そういうわけでは、無いのだけど。
…やっぱり茶色にする?
…。
…蓉子?
…ねぇ、聖。
…?
やっぱり…。
…枕が変わると眠れませんか、蓉子さま。
……もう、茶化さないで。
…遠慮なんか、しないで。
遠慮じゃないのよ。
…。
だけど…。
…ほら、遠慮しちゃってる。
だから…。
…。
…予備のお布団、無いのなら。
あー、だいじょぶだいじょぶ。
こんな時の為の長座布団。
ぐーたら用じゃないんだよー、てね。
…。
それにほら、毛布もあるし。
だめよ。
…だめ、ですか。
このベッドは聖のものだもの。
まぁ、そうだけど。
私が座布団で
それはもっとだめ。
…。
泊まるよう、言ったのは私だし。
……。
だから、使ってよ。
未だ、慣れないとは思うけど。
…。
…あ、未だとか言ってるけど、別に深い意味はないから。
うん…。
…聖。
……ほら、早く寝ないとお肌に悪いよ?
聖。
…ん。
お…。
…。
よ、よう、こ…?
…。
な、なに…?
…寝て。
へ…。
ベッドに。
あ、いや、でも…。
早く。
え、ええ…。
早く。
で、でも…だね?
……。
やっぱり蓉子を座布団で寝かせるわけには…。
…私も寝るから。
え……。
…私もベッドで寝るから。
心配は要らないわ。
………。
…だから、早く。
そんなんじゃ体が痛くなっちゃうわ。
い、いや、けど…。
聖。
は、はい…。
…お願いだから。
………。
…お願い、聖。
……シングル。
…。
ベッド。
……そうね。
だから…体、くっついちゃうんだけ、ど。
…ええ。
…。
…。
…良いの。
…。
くっついちゃっても…良いの?
…どうして聞くの。
……だって。
嫌じゃない。
…。
…聖だもの。
…。
聖だから。
…蓉子。
…嫌なはず、無いじゃない。
……。
……だから、聖。
……。
……一緒に寝たいと言ったのは。
あな…
蓉子…っ
……。
…良いの?
本当に、良いの?
……えぇ。
……。
……。
・
さてさて。
その後、どーなったと思う?
…。
ヒント。
ちゅーは出来ました。
…聖さま。
はい、祐巳ちゃん。
お姉さまを連れてきても良いですか。
はい、だめです。
じゃあ帰ります。
まぁまぁ。
折角だから聞いてよぉー。
あ?
あら、感じ悪いわ。
あのですね、この間も言いましたけど。
今忙しいんですよ、凄く忙しいんですよ、猫の手も借りたいくらいなんですよ。
うん、そっか。
だと言うのにまた!
全く、何なんですか!
だって、聞いて欲しいじゃーん?
私は聞きたくないって言ってるんです!
大好きなお祖母ちゃんを取っちゃってごめんね?
…!
でも新しいお祖母ちゃんが出来たことだし、良いよね。
幸い、祐巳ちゃんは新しいお祖母ちゃんの事も大好きだし?
…。
でさ、ちゅーしたんだ。
もうねぇ、凄いかわいくてねぇ。
……て良いですか?
ん、何かな?
殴って良いですか。
寧ろ殴らせろ。
わー。
なんで、なんで蓉子さまはこんな人と…!!
あ、こんな人発言出た。
しかもどうでも良い、てか聞きたくないって言ってんのに!
第三者の意見が聞きたいと思いまして。
私じゃなくても良いじゃないですかって言ってるんです!
耳悪いんですか耳鼻科と言うか脳外科でも行った方が良いんじゃないですか!?
いや、医者行っても治んないし。
そうですね生まれつきですもんね頭が弱いのは。
いやいや、恋の病は草津の湯でも治せない、治せないのだよ〜。
……。
でさでさ、どうなったと思う?
…知るか。
いや、さぁ。
おやすみのちゅーをしたまでは良かったんだけどさぁ。
ふん!
わ、なになに。
帰ります。
それじゃごきげんよう。
てか、ふん、て。
今後、私の大好きな蓉子さまのお話をしようと言うのなら。
お姉さまと一緒に聞きしますから。
良いですね。
えー、さっちんは怖いよー。
さっちんって!!!
失礼。
さっちゃんは怖いよぉー。
……っ!
あ、蓉子もたまには怖いけどね、けど基本、とってもかわいい人なんだよ。
…あーあ、あともう少しだったんだけどなぁ。
…あ゛ー!
お。
聖さま。
うん、何かな?
かわいい義理の孫よ。
…ぶっとばしても良いですか、良いですね。
お、やるかやるか?
こんのアメリカ人がぁ…!
・
…。
…。
…よ、蓉子。
…。
起きてる…?
…ん。
…あ、あのさ。
…。
…。
…。
…蓉子!!
ん…。
蓉子、蓉子…。
…。
蓉子…。
ん…ん。
……ようこ。
…。
よーこ…。
…。
……?
……。
……よーこぉ。
……せ、ぃ。
え、な、なに…?
…。
ね、ねご、と…?
…。
……嘘、でしょう。
…。
蓉子、蓉子ってば…。
…んん。
……。
……。
……本当に、寝てるの?
…。
……あぁ。
…。
…。
…。
……はぁ。
…。
ま、いっか…なぁ。
…。
…。
…おやすみ、蓉子。
…。
…。
…。
………はぁぁぁ。
………。
…ま、これからかなぁ。
大体、聖さまは…!
…聞いてるんですか!?
はいはい、忙しいんでしょ?
戻らなくても良いのかな?
…!
元はと言えば…!!
あはは。
かわいい孫だなぁ。
聖さまの孫になんて、絶対になりません…!!!!
|