…。
…。
…おめでと。
ん…。
それから、おはよ。
……あ。
朝ですよ…。
…。
蓉子…。
……。
…蓉子?
……あ、あの。
…?
なに…?
………だから、その。
うん。
………。
……とりあえず、こっち見て?
…ッ
……れ。
………。
…。
…。
…苦しくない?
…だって。
?
だって?
……だって。
……蓉子。
あ…。
不安、になっちゃうんだけど。
…え。
……と言うか、なった。
な、なんで…?
だって蓉子がこっち向いてくれない。
だ、だって、それは…。
それに…なんか、他人のようだし。
た、他人だなんて…。
…ま、確かに他人かも知れないけどさ。
ち、ちが…。
…どう、違うの?
…ぁ。
ねぇ…どう、違うの?
せ、聖…。
…ねぇ。
い、息が…。
…だって蓉子がそっぽ向いてるから。
そっぽ向いてるわけじゃ…。
……初めて、だったのに。
…。
こうやって年越したの…。
あ、う…。
ね、こっち向いてよ。
……だって。
もう、何度も聞いたよ。
……。
……ねぇ。
……だって、どんな顔して良いのか分からないんだもの。
…どんな?
……。
どーいう事?
……聖は、平気なのよね。
平気じゃないよ。
早く蓉子の顔が見たいよ。
……。
…見せてよ、蓉子。
………あの、ね。
ん…。
……は、
…は?
は…ずかしい、の…よ。
………え?
だ、だから…。
……。
恥ずかしい、から…だから、その…どんな顔して良いか…分からない、と言うか…。
………。
け、決して聖が他人だから、とか、嫌だとかじゃなくて…。
…じゃなかったら、なに?
……。
言ってくれないと分からないよ。
……意地悪。
違うよ。
……笑ってる、絶対にやにやしてる。
意地悪してるわけじゃない。
…。
たださ、慣れない蓉子が好きだな…て。
…やっぱり、にやにやしてる。
蓉子、こっち向いて。
私を、見て。
…。
……蓉子の顔、見たいよ。
………。
お願い…。
………向いたわよ。
て、もぐったままじゃ見えないよ。
……見なくて良いから。
むぅ……あ、分かった。
…?
……あ。
………やっと、見えた。
……ッ!
だめ。
……せ、せい。
…私ももぐれば見えるんだよね。
……。
……改めておめでと、蓉子。
……う、ん。
…返してくれないの?
……おめでとう、聖。
今年もよろしくね…?
…ぁ。
……ん。
は、鼻…。
…ちゅーの方が良い?
……。
んじゃ…。
…あ…ん。
……えへへ。
……。
…ちゅーも良いけど。
鼻の頭をこすり合わせるのも気持ち良いよね。
……くすぐったいわ。
それが良いんだよ…。
……も、う。
…で、蓉子の答えは?
…?
今年もよろしく?
……。
…蓉子。
……よろしくね、聖。
……。
…聖?
慣れないままでも良いから…ね?
…!
せ、聖…ッ
ふふ。
……もぅ。
ばか…。
L a D l o c e V i t a
すごい人だったねぇ。
そうねぇ。
今から帰らない?って提案したら却下されたし。
たこやき食べてはしゃいでいたのはだぁれ?
たこやきはやっぱり、あつあつが良いよね。
はいはい、そうね。
あーん、やりたかったなぁ。
…。
でもってやって欲しかった。
ばか。
さ、早く帰りましょ。
はぁーい。
よ、と。
…良いお天気。
晴れて良かった。
……ん?
ねぇ、聖。
……。
聖?
どうしたの?
無い。
……何が?
…鍵。
…。
どっかで落とした、かも。
ポケットに入れておいたのよね?
うん、ここのポケットに。
本当に無いの?
ちゃんと探してみて。
ラジャ。
他のポケットも。
ラジャラジャ。
……。
……。
…どう?
……無い。
……。
え、と。
どうしよ、蓉子。
…まさか本当に使うことになるなんて。
え?
でも、そうよね。
あれ、それ…。
貴女がくれたのよ。
そだっけ。
そうよ。
…んーと。
部屋の鍵は覚えてるんだけども…?
一緒にくれたの。
……。
本当に忘れてたの?
あはは…。
…はい。
お。
それでとりあえずは大丈夫でしょう?
うん、まぁ。
今後は気をつけてね。
へー……あり?
今度はなに?
あった。
何が?
鍵。
…はい?
どうやら付けっぱなしだった模様。
……。
ほら、ちと古い車だから?
関係ありません。
…あい、すみません。
今回は何事も無かったから良かったけど…。
全くです。
でも無くしてなくて良かった。
はい、蓉子。
ん?
これ、返す。
……。
また、持ってて?
…私が居る時なら良いけれど。
居なかったらどうするの。
そん時は注意する。
居ても注意して。
うん、する。
絶対よ。
うん、絶対。
全く。
蓉子、乗って。
…。
蓉子。
…ええ。
…。
…。
…ねぇ、蓉子。
うん?
…。
今度は何が無いの?
家の鍵?
帰るってどこに?
…。
蓉子んち?
それとも
…私の荷物、どこにあるのかしら?
…。
…。
…うん、そだった。
…顔、にやけてる。
えへへ。
もう、ちゃんと運転してよね…。
ね、蓉子。
なに。
蓉子のお雑煮、また食べたいな。
はいはい、また作ってあげる。
あと卵焼きー。
はいはい。
やたー。
…もう。
蓉子。
…今度はなぁに?
来年も来ようね。
…混んでるから嫌なのではなくて?
蓉子と一緒なら火の中水の中。
…はいはい、とりあえず帰りましょうね。
はーーい。
…ふふ。
ごちそーさまでした。
はい、おそまつさまでした。
…あぁ、おいしかったなぁ。
まんぞく、まんぞく…。
ねぇ。
…んー?
聖のうちのお雑煮ってどんななの?
…うちの?
そう。
何、急に。
気になったから。
……どうだったっけな。
…聖?
あんまり食べた記憶がない。
そうなの?
うん…ない、なぁ。
…覚えてないだけじゃなくて?
…。
聖?
…あの人、は。
…。
あんまり、得意じゃなかったみたいだからねぇ。
とくに…。
…とくに?
和食、とか。
…。
蓉子がつくってくれるごはん…ほら、和食がおおいでしょ?
すごくおいしいんだよね…。
食べ慣れてないのに?
アイアムにっぽんじーん。
…。
デミグラスより、しょーゆがいい。
…料理にもよるでしょうけど。
なははー。
おばさまは洋食が得意なのかしら。
…どうかなー。
でも料理自体、あまり得意じゃない気がするなー。
…。
…あまり作ってたような記憶もないし。
…出来合え?
かもねぇ。
ああ、でも焼き魚ぐらいはたまに出たような…。
どんな?
………さけ?
…実際は貴女があまり覚えてないだけじゃない?
覚えてない、と言うか…。
…。
…味気なかったと言うか。
味気…?
や、ほら、私ってばさ、うち、好きじゃなかったから。
だからかなぁ、なんて。
…。
…まぁ、だからなんだ。
…。
蓉子さんには食べる楽しさを教えて頂いてとても感謝しております、はい。
…。
え、えと…。
…ごめんなさい。
や、やだなぁ、別に謝るトコじゃないでしょや。
…。
そんな顔しないでって。
蓉子をそんな顔にさせたいわけじゃないんだよぅ。
…聖。
ね、ね?
……うん。
うん、良かった。
え、と、片付けてくるわね。
あ、私もやるよ。
ううん、ありがとう。
いやいや、こちらこそご馳走になったんだし。
一緒に並んで洗うなんて…その、新婚さんみたいかな、て。
…。
なーんて。
……もぅ。
へへ。
じゃあ、自分のは自分で洗うことにしましょうか。
いやいや、そこは反対でしょう、やっぱり。
反対?
私が蓉子のを洗う。
んで、蓉子が私のを洗うの。
…。
ね、そうしよ?
…聖がそうしたいのなら。
うん、したい。
……ん。
へへ、新年早々新婚さん気分。
ばかねぇ。
えへへ。
…ふふ。
そーいやさ、一寸思い出したんだけど。
うん?
菜っ葉、おいしくなかった。
…菜っ葉?
蓉子のお雑煮にも入ってるけど、まずくない。
…。
何でだろ。
うちのお雑煮はほうれん草を入れるのだけれど。
あれ、ほうれん草なんだ。
…分からないで食べてたの?
うん。
野菜の名前とか、あまり知らないし。
…いや、ほうれん草くらいは知ってて。
うちのはなんでまずかったんだろ。
どんな味だったの?
うーんと…なんか変な味。
…。
ま、どうでも良いけど。
小松菜、かしら。
ほ?
小松菜を入れる家もあるのよ。
コマツナ…。
若しかしたら、と思ったのだけど。
見た目、ほうれん草に少し似てたのでしょう?
似てた、かな。
兎に角、美味しくない菜っ葉だったよ。
まぁ一口に菜っ葉、と言っても種類があるのだけれどね。
小松菜…うん、あれは美味しくない。
あと何が入ってたか、思い出せる?
あとは……あぁ、人参が入ってた。
人参…あまり好きじゃないわよね、聖は。
うん。
あとは…そうだ、焦げた味がした。
焦げた?
蓉子のは焦げた味、しないよね。
うちのはお餅を焼かないから。
聖のうちのお雑煮はお餅を焼くのね。
そっか、うちのは焼いてあったのか。
私は焼かない方が好きだな。
蓉子は?
…私も焼かない方が。
やった、お揃い。
…と言うより、焼餅のお雑煮を食べたことが無いだけなのだけど。
あとは……ああ、鶏肉が入ってた。
そこは蓉子のと一緒。
鶏肉を入れると旨みが出るのよね。
肉は鶏肉が一番好きだな。
そうなの?
うん、好き。
蓉子は?
私も鶏肉が好き。
一番、さっぱりしてるから。
お、またお揃い。
やっぱり私達はぴったりだ〜。
もう、ばかなことばっかり言って…。
ふふ。
…。
へへ。
…。
……ふふふ。
聖。
なぁにー。
さっきからどうしたの?
さっきから?
笑ってる。
うん、笑ってるの。
…何か面白いの?
うん、面白いというか仕合わせなの。
…。
よーこぉ。
…なぁに?
えへへへ。
…もう。
さっきから変よ、貴女。
あのね、今私の頭の中、ふわふわなんだ。
…ふわふわ?
一緒に年越して。
一緒にごはん食べて。
一緒に初詣行って。
でもってまた一緒にごはん食べて。
今、一緒におこたに入ってる。
なんか、とけそう。
……。
うふふ。
…え、と。
私、病気かも知れない。
…言われてみれば顔、少し赤いかも。
熱が
さわってさわって。
……無い、わね。
へへ、気持ちいい。
……。
ね、よーこ。
もっとくっついてもいーい?
と言われても一角に二人は無理でしょう?
大丈夫大丈夫、任せてー。
……。
後ろからだっこ、してあげるね。
でもそれだと…
よいしょ、と。
うん、ばっちりー。
…ばっちり、なのかしら。
ばっちりだよ。
くっつけるし、ちゃんとあったかいし。
…。
…あーもう、好き。
だいすきー。
…耳元で言わないで。
どこなら良い?
…。
…ね、やっぱり耳元が良いでしょ?
…だめ。
……ほんとに?
息が、くすぐったいから。
…息だけ?
…。
……好きだよー。
…聖。
好き…大好き。
……。
…耳、赤い。
……ばか。
…へへ。
…お茶のお代わり、淹れてくる。
…の前に。
……。
今夜も…一緒、だよね?
…。
ね…蓉子。
……。
…明日まで一緒にいよ?
…どうしようかしら。
え…。
最初はそのつもりだったのだけど…。
…帰っちゃうの?
…。
蓉子…。
…だって。
…。
このままじゃ…私まで、ふわふわになってしまうもの。
……。
…二人でふわふわしてたら問題じゃない?
……良いじゃない、お正月なんだから。
…良くないでしょ。
いつもはしっかり者。
だからお正月くらい、お休みしよう。
…。
…ふわふわ蓉子も屹度、いや絶対、すごくかわいい。
……ああ、もぅ。
…ね。
明日まで一緒だよ…?
…そんなコト言って。
ん…。
明日になったらまた、同じコトを言うに決まってるんだから…。
…ふあぁぁ。
ん…。
あ、ごめん。
…だいじょうぶ。
…。
…うで、しびれない?
だいじょうぶだよ。
…うん。
…。
…。
…えへへ。
……またわらってる?
うん、仕合わせだから笑ってる。
…ねぇ。
なぁに?
こういうのって…たぶん、いろぼけって言うのよね。
かなぁ?
…きっと、そうだわ。
…ふふ。
…。
くちびるまでの距離、今なら1cmもない。
…ちかすぎて、あなたのかおがよくみえないわ。
じゃあキスしよう。
……ん。
……。
……せい。
で、こうすれば良く見える?
…もう。
へへ。
……ねぇ。
ん。
…。
よーこ?
…せいのにおいがするわ。
……。
しあわせ…。
……。
……せい?
あ、いや…。
…?
なぁに…?
…へへ。
どうしたの?
やっぱり予想通りだったな、て…。
…。
それに…こんな時じゃないと、きっと。
……せい。
わ…。
せい…すきよ。
……。
…すき、だいすき。
……ようこ。
ふふ、わたしもふわふわしてるわ。
あなたといっしょ…。
…うん、いっしょ。
…おしょうがつ、だから。
たまには…ね?
…いまだけ、なんだから。
…もっと増やしてほしいな。
だぁめ、ふやさない。
せめて、誕生日とか…。
…。
…ありかな、と思った?
…ひみつ。
おしえてよ。
だぁめ、ひみつなの。
…ちぇ。
……せぇーい。
わ…。
…せい、わたしのせい。
…。
……わたしの。
たいせつな、ひと…。
…あぁ。
……。
……ね、ようこ。
…ん。
ようこはわたしのにおいがするって言ったけど。
…うん。
わたしにはようこのにおいだよ。
……わたしの?
そう…すごくあまくて…とけてしまいそうな、におい。
…。
…でもようこにはわたしのにおい。
ふしぎだね。
…そうね、ふしぎね。
……へへ。
……ふふ。
ようこ…。
……また?
…うん。
……あまえんぼうさんね?
うん…だから。
…。
もっと、あまえさせて…?
……。
…。
…ぁ。
・
蓉子。
…。
蓉子ぉ。
…。
ねぇ、本当に今日帰っちゃうのぉ?
…そもそも昨日帰るつもりだったから。
なんで?
…今日で三が日もお仕舞いなのよ?
良いじゃん、冬休みが終わるまで一緒に居ようよ。
後期の試験勉強も再開させなきゃ駄目でしょう?
貴女も私も。
何とかなるよ、そんなの。
…と言うか大してしてないし。
…本当なの、それ。
いや、全然じゃ…ないけど。
私の目を見てちゃんと言って。
してなくはないよ?
…。
それよりさ、冬休みが終わるまでは一緒に過ごそうよ。
試験が始まったらなかなか逢えなくなっちゃうし。
ね、そうしよう?
…聖。
ごはん、蓉子がいると作る気が湧くんだ。
だから
…。
試験勉強もちゃんとする。
蓉子がごはんを作ってくれたら頑張れるのよ。
…だめよ。
え…。
屹度、やらないわ。
…分かんないじゃん、そんなの。
兎に角、私は今日帰るから。
両親にもそう言ってあるから。
じゃあ、電話をかけて…。
聖。
……。
お願い、分かって。
……また、逢えなくなっちゃう。
ずっとじゃないでしょう?
…やだ、いつも一緒に居たい。
…。
居たいんだよぅ…。
…聖。
……。
夜まではちゃんと居るから。
でも帰っちゃうんでしょ。
今夜からはまた一人で寝ないといけない。
…。
…淋しいよ。
……。
……一緒に居て欲しいの。
……聖。
欲しいんだ…。
……。
……。
「こんなところで、お取り込み中?」
…え?
あけまして、ごきげんよう。
ことよろ、だったかしらね?
え、江利子、どうしてここに?
んー、年始の挨拶?
急に来るなよ。
あら、急じゃないわよ。
ちゃんとお知らせしたと思うけど。
お知らせ…て。
送ったでしょう?
蓉子にも、聖にも。
何を。
正月に届くと言ったらアレじゃない?
…あれ?
アレってなんだよ。
アレと言ったらアレよ。
ところでお買い物帰りなのよね、二人とも。
…そうだけど。
なに、今日のごはんの材料?
アルコールはあるの?
なんでお前に教えなきゃいけないんだ。
アルコール、私も一応持ってきたのだけど。
じゃーん。
…え、と。
だからアレってなんだよ、アレって。
それより中に入らない?
ここだと冷えるわ。
あ、江利子…。
勝手に決めるなよ。
別に大丈夫でしょう?
え?
何がだよ。
におい、とか。
…におい?
……。
ねぇ、蓉子。
蜜月は堪能出来たかしら?
み、蜜月って、そんな…
…でこちん。
ま、良いじゃない?
正月なんだし。
……。
…と言うか、いきなり来るな。
だからいきなりじゃないって言ってるでしょ。
若しかして本当に見てないの?
だから、何を。
だから、アレよ。
…佐藤様方、水野蓉子様。
ふむ、本当に届くものなのねぇ。
…そのつもりで出したのでしょう?
ええ、勿論?
でもなんで聖の住所に…。
その方が可能性が高いでしょ?
…可能性って。
現に居たし?
……本当は昨日帰るつもりで
あら、ちゃんと元日に届くように書いたのだけど?
…聖。
一応、郵便受けから持ってきてはいたよ。
…確認はしてないけど。
……。
そういや祐巳ちゃんからも来てたっけ。
…お願いだから他のもちゃんと見て。
蓉子のは勿論、チェック済み。
今年も宜しくって書いてあったけど…今年は直接聞けたから凄く嬉しかったなぁ?
あ、こら…。
へへ。
…髪の毛で遊ばないで。
聖がろくすっぽ見てないのは分かるけど、蓉子が見てないのは少し意外だったわね。
…と言うより普通は見ないでしょ、人の家の郵便物なんて。
然う?
然うよ。
でも家族の郵便物だったら裏は兎も角、表だけでも見ない?
それは…見るけど。
じゃあ、ね?
て、待って。
それは家族での話であって、私と聖は…
いずれはなるのだろうから良いのではないの?
な…。
ねぇ、聖。
……そうなったら良いとは思ってるよ。
せ、聖…。
聖、貴女は蓉子に見られたら嫌?
…別に、良いけど。
いやいや良くないわよ。
特に請求書なんて個人情報にも関わる事だし
でも封は開けないでしょう?
蓉子は。
あ、当たり前でしょう。
別に良いのに。
駄目よ。
だって蓉子だもの。
そもそも見られてまずい手紙なんて、来ないしさ。
請求書だって携帯のぐらいだし。
手紙なんて先ず、来ないでしょうね。
ああ、来ないね。
だ、だから…ああ、もう。
ところで、でこちん。
んー?
今年はハワイとやらには行かなかったのか。
今年は山辺さんと一緒に過ごそうと思ったのよねぇ。
…え。
でも、失敗。
残念。
と言うか小父さまと兄貴達が黙ってないだろう、それは。
だから秘密に決まってるじゃない。
…。
…。
たまにあんたらが羨ましくなる時があるわ。
…そう、かしら。
ま、ほんのたまにだけど。
…と言うか無いだろ、ぶっちゃけ。
ま、良いじゃない。
とりあえず飲まない?
私は
堅いコト、言いっこなし。
去年、めでたく二十歳になったんだから良いじゃない。
そうだけど…。
蓉子は苦手なんだよ。
あら、然うだったっけ?
…ええ、まぁ。
甘いのは?
……少し、なら。
なら、少しだけ。
聖、何か無い?
何かって?
つまみ?
……無いよ。
うそ。
出しなさい、さっさと。
お前なぁ。
蓉子が作ってくれるのもありよね。
ねぇ、蓉子。
…と、言われても。
おつまみになりそうなの、何かあったかしら…。
蓉子、良いよ。
いきなり押しかけてきたヤツに…。
…へぇ。
…何だよ。
人の家の冷蔵庫を開けるのは平気なんだな、て。
…。
…蓉子、何も作らなくても良いよ。
……江利子。
んーー?
なるとで良い?
なると?
蒲鉾じゃなくて?
他には…。
そうだ。
お雑煮でも良いわよ、この際。
…。
…。
丁度、お腹もすいてきた頃合だし。
…お酒にお雑煮?
…蓉子、作らなくて良いよ。
こいつに蓉子のお雑煮は勿体ない。
聖が大好きな蓉子のお雑煮、是非とも食べたいわ。
……聖、聖はお腹空いてる?
私は普通…てか、でこちん。
なんで私が蓉子のお雑煮が好きだとか
だって好きでしょう?
…。
…。
楽しみね。
…出来た、けど。
わぁい、待ってましたー。
お餅、とりあえず一つで良いのよね?
ええ、ありがとう。
…聖も。
…ありがと。
あら、反応薄いわねぇ。
もう飽きた?
……。
え、と。
熱いから気をつけてね。
うん、分かってる。
いただきます、蓉子。
はい、召し上がれ。
くれぐれも喉に詰まらせないようにね、アメリカ人。
…。
て、蓉子が言ってみて。
…聖、良く噛んで食べてね。
そのまま飲み込んでは駄目よ。
うん、蓉子。
本当、分かい易いわー。
…うるせぇよ、でこちん。
蓉子、蓉子も食べなさいよ。
ええ。
…偉そうに。
うーん…。
……どう、かしら?
ふむ。
確かに、美味しい。
そう。
良かったわ。
なんかお母さんの味って感じがするわねぇ。
うちの母とはまた、違うのだけれど。
…お母さん?
そう、お母さん。
何と言うのかしら…安心する味、とでも言うのかしらね。
ねぇ、聖。
……。
蓉子、聖はどれぐらい食べたの?
え?
お雑煮。
何杯?
…そんなに食べてないわよ。
毎食ってわけでもないし。
じゃあ今年になって何回、ごはんを作ってあげた?
…え、と。
……。
蓉子?
…ねだられた分だけ。
……。
と言うと。
毎食、かしらね。
ううん、聖も作ったわよ。
ねぇ、聖。
蓉子にしか作らないし、食べてもらいたくない。
別に良いわよ。
知ってるから。
……ねぇ、江利子。
ん?
これ、貰っても良い?
勿論。
その為に買ってきたのだし。
でも、大丈夫?
うん、少しだけだから。
そう。
じゃあ、どうぞ。
…うん。
聖は?
…。
聖はどうする?
一応、あんたの分もあるんだけど。
…蓉子と同じのが良い。
高いわよ?
……。
冗談よ。
けどそれ、甘いわよ?
……。
蓉子。
…ん?
えらく、懐かれたものね。
……あま。
だから言ったのよ。
……。
…ね、江利子。
ん?
今年もよろしくね。
あら、急になぁに?
言ってなかったから。
ああ。
こちらこそ宜しく。
ええ。
アメリカ人も。
……お前なんかとよろしくしたくないわ。
…。
蓉子。
…。
蓉子。
……。
よーうこ。
……え?
寝てた?
う、ううん…で、なぁに?
私、そろそろ帰るわね。
あ、じゃあ私も…。
……。
それじゃあまたね、アメリカ人。
今日は二人に会えて楽しかったわ。
…結局、何しに来たんだよ。
会いに。
今言ったし、書いてもあるでしょ?
…。
そういやあんたからは年賀状、未だ、来てないのよね。
…そもそも書いた記憶も無いし。
あんたらしいわ。
蓉子にすら、書かないものね。
……ねぇ、蓉子。
…。
やっぱり帰っちゃうの?
…また、来るから。
…。
そんな顔、しないで。
……。
残ったの、全部あげるわ。
飲みすぎないようにね。
…。
蓉子、お雑煮美味しかったわ。
ご馳走様。
ううん…。
顔、赤いけれど歩ける?
大丈夫よ…。
あまり飲んでないのに、ね。
…ね。
ま、無理して飲むものでもないし。
でも江利子が持ってきたの、美味しかったから…。
…私、自分では買わないからほとんど知らないのよね。
それは良かった。
……。
それじゃ行きましょうか。
ええ…行きましょう。
蓉子。
……聖。
何?
送ってくれるの?
…。
だめよ、聖。
今日はもう、車の運転は出来ないでしょう?
分かってるよ。
となると、歩きだわね。
…。
三人で歩くのも良いわね。
…そういえば久しぶりね。
ええ、本当に久しぶり。
…。
はぁ。
未だ未だ、寒いわね。
…ええ。
どう?
少しは醒めてきた?
大分。
未だ少し、顔が赤いみたいだけど。
火照ってる?
…それでもさっきよりは良いのよ。
無理させた?
いいえ、それは無いわ。
なら、良いけど。
何より、楽しかったもの。
江利子と会うのは久しぶりだったし。
思えばほぼ毎日、顔合わせてたのよね。
あの頃は。
薔薇の館に行けば、例外が無い限り、会えたものね。
ええ、本当にね。
…。
聖?
…。
寒いの?
大丈夫?
…。
蓉子の言う事を聞かないから、ね。
…。
…聖?
本当に
…平気だよ。
…。
には見えないわね。
全然。
…。
…聖、これを。
…大丈夫だって。
ううん、大丈夫じゃないわ。
…。
…今度、返してくれれば良いから。
……。
代わり、あるの?
ええ、家に帰れば。
けど聖に桃色のマフラーって。
なんか、面白いわね。
……。
…そう、かしら。
かわいいと思うけど…。
…。
かわいい、ですって。
…うるさい。
うさぎさんみたいよー?
だから、うるさい。
てか桃色のうさぎなんてい
て、蓉子に言われたら照れながらも嬉しいでしょ?
…!
はい、図星。
……お前に言われても嬉しくないわ。
でしょうね。
分かってて言ってるんだもの。
…。
蓉子、首、寒くない?
ええ、コートがあるから。
そ。
…。
…。
で?
毎回、こうなるのかしら?
…え。
…。
離れる時。
…。
…。
まぁ、私には関係ない事だけれど。
…江利子。
…。
じゃあ、ここまでで良いわ。
…?
江利子?
あとは二人で行きなさいな。
二人でって、江利子はどこに行くの?
駅は…
勿論、行くわよ?
え…?
…。
蓉子。
な、なに。
今日は、楽しかった。
…ええ、私も。
聖。
…。
そんな顔、してると。
仕合わせ、逃すわよ。
……なんだよ、それ。
そのまんま、よ。
…。
それから、もう一つ。
蓉子、今、携帯持ってる?
…携帯?
持ってる、けど…。
本当に?
ちゃんとここ、に……。
ある?
…………。
…蓉子?
………無い。
でしょう?
だってテーブルの下にあったもの。
……。
…でこちん、お前。
私じゃないわよ。
でも教えてくれたって…。
ふふ。
…笑うところか。
あの完璧だった蓉子がこんな風になってしまうんだもの。
笑わないでなんか、いられないわ。
性悪め…。
でもどうしてテーブルの下に…。
何にせよ、取りに戻らないとまずいんじゃない?
流石に。
…。
…。
今の時期は月が綺麗だから、ね?
…。
…。
ま、困らないなら良いんじゃない?
…江利子、面白がってない?
だってメール送っても気付かないんだもの、貴女。
…メール?
まさか、年賀状だけだと思った?
…。
…。
一応、二人に送ったのだけれどね。
揃って気付いて貰えないとは思わなかったわ。
……ごめんなさい。
と言うか、わざとだったりして?
…。
ふふ、それではごきげんよう。
あ、江利子…。
…。
……。
…帰ろ、蓉子。
…。
蓉子。
私…ひぁッ?
…。
……冷たいわ、聖。
…ごめんなさい。
…。
…。
…星、良く見えるわね。
…うん。
……。
……。
……取りに戻るだけ、だから。
…。
…。
…はぁぁ。
…。
見て、蓉子。
息、真っ白。
…そうね。
マフラー、返す。
良いわよ。
だって蓉子、寒そう。
貴女も寒そう。
私なら大丈夫だよ。
見てる私が大丈夫じゃない、の。
…お。
分かった?
うん、分かった。
…こら。
二人になった、から。
…でも楽しかったくせに。
そんなコトないもん。
蓉子と二人の方が良いもんね。
うーそ。
嘘じゃないよぅ。
江利子とは言いたい放題出来るじゃない。
ヤツとはただの腐れ縁。
お酒だって。
酒なんぞ、別に飲まなくても良いモノ。
蓉子とコーヒーブレイクの方が好き。
…ああ言えば、こう言う。
へへ。
…。
寒いねぇ。
…寒いわねぇ。
見て見て。
息、白。
分かった分かった。
蓉子のも白。
そりゃあ、ねぇ。
へへ。
…あのね、聖。
蓉子。
…。
空、綺麗だよ。
…冬は星が良く見えるわよね。
光が少ないトコに行けば、満天の星、なんだろうな。
ね、蓉子、いつか行こうよ。
考えてみれば蓉子とどっか行ったコトない。
いつか、っていつ?
いっそ、直ぐにでも。
ばか。
試験はどうするの?
じゃあ終わったら。
どこに?
どこが良いかなぁ。
考え無しなのよね?
そだ。
二人で温泉に入りながら、星を見るってのも良いなぁ。
と言うか、貴女ってそんなに星が好きだったっけ?
好きだよ。
口実にもなって。
こら。
えへへ。
…ねぇ、聖。
うん?
…。
…。
…今日は、
帰る、でしょ。
…。
分かってるよ。
…うん。
お正月はもう、お仕舞いだもんね。
…うん。
あーあ…。
…。
…ていッ
きゃ…ッ。
ふふ。
い、いきなり何するのよ。
顔、赤い。
…だから?
酒、少し残ってる?
…残ってない。
嘘だ。
残ってないわよ。
大体、貴女だって…。
私だって、なに?
…顔、と言うより鼻が赤い。
じゃ、赤鼻の聖さんって呼んでくれ。
赤鼻の聖さん。
わ、本当に呼んだ。
呼べと言ったのは貴女でしょう?
そーですけど。
…。
はぁ。
…聖。
ん。
風邪、ひかないでね。
…。
それから一人でもちゃんとごはん食べて。
貴女は食事に対して適当なところがあるから…。
…。
…メール、するから。
声が聞きたい。
…。
文字よりも、声が良い。
…うん。
…。
…。
…蓉子。
…ん。
…。
…。
……やっぱり、帰らないで。
…。
…明日。
明日になったら我慢するから、だから…。
…だめよ。
…。
…ずるずると、してしまうのが怖いの。
…。
……。
…明日は四日だから。
…。
…だから…だから。
聖…。
……。
………聖。
…。
……携帯。
…。
…早く、帰らないと。
…。
ね、帰りましょう…?
…。
聖…貴女の部屋に。
…あ。
帰ったらお風呂に入って…冷えた躰を温めて。
…。
それから…。
…それから?
……それから。
「携帯、あったでしょ?」
…ええ。
「で?今何処に居るの?」
……そうぞうにおまかせするわ。
「…疲れてる?」
……だいじょうぶよ。
「それじゃ、眠い?」
……すこしだけ、ね。
「蓉子は相変わらず、聖に甘すぎ」
……わかってるから。
「でもま、今は正月だし、お年玉ってトコかしらね」
……えりこ。
「んー?」
わかってて、やった?
「何を?」
……けいたい。
「いいえ?大体、たまたま思い出しただけだし」
…たまたま、ね。
「ま…」
…蓉子。
え…。
それ、もう切って。
あ、ま、まって…。
「…蓉子?」
な、なんでもないわ。
「もしかして、お邪魔だったかしら?」
そ、そんなこと…あ。
…邪魔。
かえして、せい。
…。
…もしもし、もしもし?
「……ツー、ツー、ツー」
……。
…蓉子も出なくても良かったんだ。
でも…。
……良いって言ったら、良いんだよ。
あ…。
……ようこ。
……せい。
…また、ふわふわさせてあげる。
…ぁ。
……。
せい…だめ……ん、あぁ。
……あたまのなか、とけちゃえばいい。
………。
とけちゃおう…?
……あぁ。
・
・
よーこー。
…聖?
ごきげんよう、蓉子。
ごきげんよう、聖。
へへ。
…うん?
正月以来だね。
そうね。
えへへ。
…ぺたぺた触らないの。
だってー。
…試験、どうだったの。
ぼちぼち。
落とさない自信はそれなり。
そう。
…。
ん?
へへへ。
なに?
久しぶり。
久しぶり…と言うほどではないでしょう?
ね、ちゃんと我慢出来たでしょ?
…のわりにはメール、ちょこちょこと飛んできたけど。
だって全く連絡しないのは無理なんだもん。
…はいはい。
ね、先ずはごはんに行こうか。
何食べたい?
タコス?
…なんでタコス。
テレビで見たから。
どこで食べるの?
と言うかタコスってどこの料理だっけ。
…えーと。
ま、良いや。
兎に角、行こ。
適当。
蓉子と一緒なら何でも良いんだ。
じゃあピーマンでも食べる?
…うー。
ふふ。
…。
お腹は空いたの?
ぼちぼち。
じゃあ、歩きながら決めましょうか。
買い物もして帰ろう。
夕食の。
…今日はどっち?
勿論、蓉子!!
…はいはい。
へへ、顔がにやけるー。
子供じゃないんだから。
蓉子。
うん?
一緒にふわふわ、しようね。
…それはお正月限定。
限定解除の方向で是非。
いや。
そういわず。
い・や。
おねがい。
やーだ。
よーこぉ。
と言うか、こんなコトしてても良いのかしら。
え。
時間、どんどん過ぎていっちゃうわよ。
あ、そうだ。
行きましょう?
うん。
じゃあ、はい。
…手?
うん、手。
…もう、仕方ないんだから。
ね、蓉子。
私さ。
うん?
今年一年、蓉子が一番やりたい事になるよ。
…はい?
だってほら、年を越す時にしてたコトが…て、言うでしょや?
…。
知らない?
……ばか。
えー。
そんなの、だめ。
でも蓉子だって、
だめなものは、だめなの。
あ、蓉子。
先、行っちゃうから。
あー。
早く来ないと置いていっちゃうんだから。
待ってよ、蓉子。
いやよ、ばか。
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