ほーーしーーがささやーくー、イッツアーメーリーークリースマース♪
…。
つーーきーーとおでかーけー、イッツアーメーリーークリースマース♪
…あの、紅薔薇さま。
ん?
なぁに、祐巳ちゃん。
…。
祐巳ちゃん?
…いえ、やっぱり失礼かな、と思って。
?
何が?
……かわいらしいなぁ、て。
かわいらしい…?
凄い楽しそうで…何だか、
小さな子みたい?
はい…て、黄薔薇さまッ?
祐巳ちゃん、驚きすぎ。
いや、だっていきなり後ろから…
ねぇ、紅薔薇さま。
祐巳ちゃんが小さな子みたいで可愛らしいですって。
小さな子、ね…。
あ、いえ、そうじゃないんです…!
た、ただ、歌を口遊みながら飾り付けする紅薔薇さまが…
確かに、可愛いよね。
ごきげんな子供みたいで。
そうそう…て、白薔薇さままで!
ま、高校生とは言え、子供だしね。
……。
ロ、紅薔薇さま、私が言いたかったのはですね…?
ありがとう、祐巳ちゃん。
…へ?
かわいい、だなんて。
普段、言ってもらえない言葉だから嬉しいわ。
え、そうなんですか?
ええ、そうなの。
あら、そうなの?
そうよ、黄薔薇さま。
いつもは世話焼きとか優等生とかお節介とか生真面目とか堅物とか詰まらないとか。
直ぐ思いつくのと言えばそれくらいだわ。
いえ、かわいいとは思ってたわよ、私は。
口にはしないだけで。
はーい、私も私もー。
と言うか私は言ってるじゃーん!
嘘おっしゃい。
あと聖は…白薔薇さまはふざけているだけでしょうが。
ふざけてなんかないさ。
蓉子は可愛いよ…そう、誰よりも。
う、わ…。
いつもは完璧に装っているけれど、本当は…いて。
バカでしょう、貴女。
本心なのにー。
はいはい、それはありがとう。
ちぇー。
飾り付け、早く終わらせてしまいましょう。
祐巳ちゃん。
あ、はい。
向こうの飾り付け、引き続きお願いね。
はい、紅薔薇さま。
クリスマスなんてどーでもいーけどねー。
白薔薇さま。
んー?
そんなに暇そうにしているのなら買出しにでも行って貰おうかしら。
外は冷たい風が吹いていて、とっても寒そうだけれど。
はい、いやです。
じゃ、中でちゃんとやってくれるわよね?
えー面倒だなぁ。
ん?
でもまま、かわいい紅薔薇さまの頼みだ、頑張りましょう。
……あのねぇ。
…すみません、紅薔薇さま。
良いのよ。
祐巳ちゃんの言葉なら、嬉しかったから。
あら、私のは?
私の?
言ったでしょう?
“かわいい”と思ってるって。
…どこまでが本当なのか分からないのよ、貴女は。
あら、失礼ねぇ。
そんな事より、黄薔薇さまも手を動か
そういえば。
ねぇ、蓉子。
…何よ。
あの歌、一昨年も歌ってたわよね。
I t ’ s a M e r r y X ’ m a s
ほーーしーーがささやーくー、イッツアーメーリーークリースマース♪
…。
つーーきーーとおでかーけー、イッツアーメーリーークリースマース♪
…蓉子ちゃん。
あ、はい、何でしょう。
紅薔薇さま。
随分とごきげんのようね?
はい?
鼻歌じゃ足りなくて。
口遊んじゃってるくらいですもの。
あ…。
うん?
…あ、いえ。
あら、照れてるの?
……。
かわいいわねぇ。
…からかわないで下さい。
からかってなんかいないわよ。
ねぇ、白薔薇さま。
確かに、
…え?
かわいいわねぇ。
羨ましいわ。
わ…ッ
はい、驚きすぎ。
いや、だって、いきなり後ろから
ねぇ、蓉子ちゃん。
もっと歌って頂戴な。
え、え。
だってうちのは到底、ごきげんに歌ってくれそうになんて無いんだもの。
ねぇ蓉子ちゃん、蓉子ちゃんも然う思うでしょ?
あ、いえ、私は
だから、ね?
良いわね。
蓉子ちゃん、歌って歌って。
黄薔薇さままで…ッ
あらあら、私の孫は大人気ね。
いやだって貴重よ。
今時、あんなごきげんに歌うだなんて。
ねぇ?
そうそう。
私は飾り付けを…
じゃ、飾り付けしながらでも良いわ。
と言うより、元々飾り付けしながら歌っていたのだものね。
え、えぇ…。
そうだ。
ねぇねぇ、蓉子ちゃん。
は、はい?
蓉子ちゃんはいつまで、サンタの存在を信じてた?
サンタさん、ですか…?
……。
……。
……。
え、な、何ですか…。
サンタさん、ね…。
…ふむ。
うん、これは本当に貴重だわ。
え、え…?
蓉子ちゃん蓉子ちゃん。
は、はい?
…。
…?
何ですか、白薔薇さ…え?
いや、かわいいわ。
本当に。
……。
白薔薇さま。
勝手に人の孫の頭を撫でないでくれるかしら?
だってかわいいんだもの。
撫でない手はないわ。
次は私。
黄薔薇さま。
だってかわいいじゃない。
貴重な16歳だわ。
自分の孫でやんなさいな。
うん、後で。
あの、私、そろそろ飾り付けに…きゃ。
の前に、次は私の番。
ロ、黄薔薇さま…。
いいこいいこ。
……。
全く、貴女達は。
良い?蓉子ちゃんは私の孫なのよ。
良いじゃない、減るもんじゃ無し。
何だったらうちの孫のおでこ、撫でさせてあげるわよ。
あ、あの、飾り付けは…。
結局。
そのまま暫く、薔薇さま方に遊ばれるコトになったのよね。
んー、そうだったっけ?
覚えてないなぁ。
…と言うか。
そんな事、良く覚えてるわね。
まぁ、ね。
紅薔薇さまが…。
ん?
祐巳ちゃん、何か気になる事でもあった?
紅薔薇さまも蕾の妹だった時があるんですね。
……。
あははは、そりゃあそうだよ。
最初からこんな鋼鉄処女な薔薇さまだったわけじゃ、いたぁッ
…鋼鉄処女、て。
一体誰のことかしら、白薔薇さま。
すみません、間違えました。
間違え、ねぇ。
じゃあ
正しくは、鉄拳、でございました。
……。
申し訳御座いません、鳩尾と脳天は勘弁してくたッ!
…全く。
私だって最初から紅薔薇さまだったわけじゃないわよ、祐巳ちゃん。
そ、そうですよね。
こいつらもね。
あら、こいつら扱い?
白薔薇さまと一緒にされるなんて心外甚だしいわ。
…そりゃこっちの台詞だね、黄薔薇さま。
おーいたぁ…。
ご要望どおり脳天と鳩尾は勘弁してあげたわよ、白薔薇さま。
…だからって思い切り足を踏まんでも。
ん?
……ごめんなさい。
でもやっぱり、なんか不思議な感じがします。
薔薇さま達が蕾の妹だったなんて。
そう?
何と言うか、想像出来ないと言うか…。
蕾だった頃は?
…すみません、あまり。
ふむ。
…ま、そんなもんなのかもね。
当時の私だって、まさか自分が薔薇さまやってるなんて思いもしなかったし。
え、そうなんですか?!
おーそうそう。
やる気なんて無かったね。
ゼロよ、ゼロ。
ええ!?
そうしたら志摩子もここにいなかったわけだ。
おー、ふっしぎぃ。
……想像、出来ない。
ま、そんなもんだよ。
人生なんて。
人生は兎も角。
祐巳ちゃんも屹度、同じ事を言われるようになるわよ。
え、私がですか?
再来年には貴女が紅薔薇さまになってる…かもしれないのだから。
祐巳ちゃんが紅薔薇さまねぇ。
庶民的で良いかもね。
百面相が売りな、ね。
……もっと想像できない。
時に。
祐巳ちゃんはいつまでサンタを信じてた?
え、サンタさんですか?
……。
……おー。
……ふふ。
え、え、何ですか?
…いえ、何でもないわ。
時に。
蓉子はいつまで“サンタさん”を信じてた?
…わざと言ってるでしょう、白薔薇さま。
そう言えばあの時は結局、有耶無耶になってしまったわね。
…良いじゃない、そんな事。
今は祐巳ちゃんの
紅薔薇さまはいつまで信じていたんですか?
……。
ほら、蓉子。
祐巳ちゃんも気になるってさ。
白、薔、薇、さ、ま。
おっと、失礼。
紅薔薇さま。
で、いつまで信じてたのかしら?
いつまでだって良いでしょう、そんな事。
えー気になるよ。
何でよ。
だってかわいいじゃん。
サンタさんを待ってる幼蓉子。
…そういう貴女達はどうなのよ。
知りたい?
お前の場合は何となく想像つくから結構。
と言うか、どうで
親父と兄貴達が毎年交代してやってたんだけど、ま、大分早いうちに…そうね、
初等部に入る頃ぐらいには何となく気が付いてたわよ。
だって見えるところであからさまに何かやってるんですもの、分かんない方がおかしいわ。
そういや年によっては二つ、多くて四つ、プレゼントがあったりしたわね。
へぇ、それは良いですねぇ。
ところがそうでもないわよ。
後々の面倒が増えるだけなんだもの。
へ、面倒…?
そう、面倒。
で、白薔薇さまは?
…。
どうなの、白薔薇さま。
紅薔薇さまが言うんじゃ仕方ない。
うちはまぁ、アレだよ。
誕生日、だったからね。
え、白薔薇さまの誕生日って、
あれぇ、祐巳ちゃん知らなかったの?
言わなかったっけ?
はぁ、聞いてませんけど…。
ぶっちゃけ、どうでも良いコトですって。
勝手に訳すな、でこちん。
で、いつまで信じてたの。
さぁ。
そもそもサンタなんて行事、うちなんかにあったかどうか。
……。
ま、強いて言えば安易な名前を貰った事くらいかな。
安易な…?
…聖。
ほら、安易。
……。
ん?
蓉子がそんな顔してると、ちゅー、したくなっちゃうんだけど?
莫迦。
あはは。
で、蓉子…紅薔薇さまはいつまで信じておいでで?
…もう良いじゃない、そんな事は。
そんな事より飾り付けよ。
予定の時間までに間に合わなくなっちゃうじゃないの。
じゃ、後で教えてもらおっと。
二人きりの時にこっそりと。
莫迦?
うんにゃ、至極真面目ですけど?
待って。
それじゃ私が聞けないじゃない。
祐巳ちゃんも。
…江利子。
何、結構な歳まで信じてたの?
だ、だから…
……。
“紅薔薇さま、かわいい…。”
以上、祐巳ちゃんの心の呟きでしたー。
勝手に読むな。
だってねぇ。
人のは聞いておいてねぇ。
ああ、知りたいなぁ。
蓉子のことなら何でも知りたいなぁ。
聖は結局言わなかったじゃないの!
だって初めから信じてなかったもん。
言いようが無いじゃん?
………。
しし、間抜けな顔。
……。
…あ、あの、紅薔薇さま。
…何、祐巳ちゃん。
あ、え、えと、去年は歌わなかったのですか…?
何を?
さ、さっきの歌です。
…どうして?
黄薔薇さまが一昨年も歌ってたからと言っていましたから。
去年はどうだったのかな、て。
…去年。
……。
去年はねぇ、それどころじゃなかったのよ。
それどころじゃなかった…?
ねぇ、二人とも?
…。
…。
あの、それどころじゃないって何かあったんですか?
まぁ、色々ね。
色々…あ。
…それ以上は言わなくても良いよ、祐巳ちゃん。
すみません、白薔薇さま。
私、
ま、良いさね。
……。
あーもう。
黄薔薇さま、お前のせいで祐巳ちゃんが暗くなっちゃったじゃんか。
でも話せたのでしょう?
そうだけど。
でもどうして紅薔薇さまは歌わなかったんですか?
去年もクリスマスパーティー、やったんですよね?
……。
……。
…やるわね、祐巳ちゃん。
へ…?
…何と言うか、大物かね。
これは。
……え、と。
たまたまそういう気分じゃなかったんだと思うわ。
去年は。
そうなんですか。
ええ、そうよ。
ま、そんな気分になんてなれなかったでしょうね。
心配のしすぎて。
もうお前は黙ってろ、でこちん。
紅薔薇さま。
何かしら?
あの歌、何と言う歌なんですか?
ああ。
あれはね、イッツアメリークリスマス、よ。
うわ、そのまんま。
何、白薔薇さま。
いいえ、何でもございませんよ。
かわいらしい歌ですよね。
そうでしょう?
私が子供の頃に…
うんうん。
かわいい蓉子にぴったり、だね。
……。
あ、何?
照れてる?
…もう、それは良いから。
ししし、照れてる蓉子はやっぱりかわいいなぁ。
白薔薇さま。
はいはい、照れてる紅薔薇さまもかわいいですよ。
…もう。
・
ほーーしーーがささやーくー、イッツアーメーリーークリースマース♪
…。
つーーきーーとおでかーけー、イッツアーメーリーークリースマース♪
………聖。
白薔薇さまじゃなくて?
白薔薇さま。
はいはい、何でしょう。
紅薔薇さま。
止めて。
白薔薇さまを?
歌を。
何で?
何でも。
ヘタだった?
そうじゃなくて。
一緒に歌う?
だから。
ね、この歌の続きってあるの?
…。
ねぇねぇ。
…覚えてない。
嘘だぁ。
大体、貴女がクリスマスソングを歌うだなんて。
いけない?
いけなくは無いけど…。
じゃ、良いじゃない。
今は歌いたい気分なのよ。
……。
お姉さま。
…あぁ、祥子。
私達はもう、帰ろうと思うのですが…。
…そうね、帰りましょう。
パーティーはもう、お仕舞い。
あれ、帰っちゃうの?
ええ、帰るわよ。
貴女はどうするの。
どうしようかな…。
ふざけてないで、帰りなさい。
貴女がぐだぐだしている間に志摩子は
帰っちゃったね。
ま、別に良いけど。
…明日からは冬休みなんだから。
そうだねぇ。
…戸締り、お願いね。
ごきげんよう。
祥子。
……はい、何でしょうか。
君のお姉さま、私に貸して。
…。
蓉子、もう少し付き合って。
…聖。
少しで良いよ。
白薔薇さま…いえ、聖さま。
ん?
お姉さまはお貸し出来ませんわ。
ああ、だめ?
お姉さまは物ではありません。
うん、知ってるよ。
でも妹は貸してくれたじゃない。
つい最近、さ?
…。
…祥子、帰りましょう。
はい。
こんなに頼んでいるのに。
聖、私は祥子と祐巳ちゃんと一緒に帰るわ。
…ちぇ。
だから貴女も一緒に
…ま、一人でも良いや。
……。
じゃあね、蓉子。
また冬休み明けに。
……。
帰りましょう、お姉さま。
…。
紅薔薇さま…?
……分かったわ。
…お姉さま。
祥子、祐巳ちゃんと一緒に先に帰って。
私はこの莫迦を連れて帰るから。
お?
…結局はそうなるのですわね。
祥子、祐巳ちゃん、良いお年を。
…はい、お姉さまも。
良いお年を、紅薔薇さま。
なになに、蓉子を貸してくれるの?
言っておきますが。
お。
お姉さまはご自分の意思で貴女に付き合うだけです。
決して、貸し借りなんかではありません。
…。
お分かりでしょうか、白薔薇さま。
…ん、そうだね。
ごめんね、祥子。
…では。
ごきげんよう、お姉さま、白薔薇さま。
ん、ごきげんよう。
でもって良いお年を。
…祐巳。
はい。
紅薔薇さま、白薔薇さま、ごきげんよう。
ええ、ごきげんよう。
うん、ごきげんよう。
…。
あー、みんな帰ちゃった。
…で。
蓉子、こっちに来て。
……。
もっと。
……で。
静かだねぇ。
……。
まるで、さ。
今、この世界には蓉子と私しか居ないみたいだね。
聖。
あ、くさかった?
ごめんごめん。
…残念だけれど。
この世界には貴女と私以外にも居るわ。
沢山、居るわ。
…そんなの、知ってるよ。
そんなに真面目くさった顔で言われなくても、さ。
…帰りましょう、聖。
……。
聖。
ほーーしーーがささやーくー…
…。
…ね、蓉子。
蓉子はいつまでサンタを信じてた?
…またその話?
聞かせてくれたら…帰るよ。
……。
聞かせてくれなきゃ、帰らない。
…聞かせたら帰るのね。
うん、約束。
小学校二年生。
と言うと…8歳ぐらい?
ええ。
そっか…まぁ、普通なのかなぁ。
さぁ、どうかしらね。
だけど。
だけど?
サンタは親なんだって。
笑われながら、言われたわ。
……。
悲しかった。
……そっか。
今となってはただの思い出の一つよ。
蓉子は…全く。
何よ。
……。
聖?
こんなに、かわいいのに。
…一寸。
ん…?
近いわ。
離れて。
寒いでしょう?
暖めてあげる。
結構。
さ、帰るわよ。
……。
約束、したでしょう。
…帰りたくない。
は…?
帰りたくない。
……。
とか何とか言う女が目の前にいたら。
お持ち帰りするチャンスだと思うわけよ、蓉子さん。
…ふざけて。
お持ち帰り、してみませんか。
莫迦な事、言ってないで。
帰るわよ。
私は本気だよ。
聖。
蓉子、私を連れて帰って。
ええ、連れて帰るわよ。
たたし、貴女の家にね。
……。
…?
じゃあ、帰らない。
…聖。
帰りたくない
何かあったの…?
別に無いよ。
……。
…今夜はここに泊まって。
明日の夜にでも
分かった。
…え。
望みどおり、連れて帰ってあげるわ。
だから
私の家に。
その代わり、小母さまにはちゃんと連絡するから。
…。
付き合ってあげるわ。
…蓉子。
……離れて
…。
…これだと、帰れないでしょう。
…うん、ごめん。
……。
……さて、と。
じゃ、張り切ってお持ち帰りされちゃおうかな。
莫迦。
早くコートを着て、鞄を持ちなさい。
はーい。
ついでに窓の戸締りも今一度、確認して。
アイアイサー。
ガスの元栓も大丈夫、と。
窓も大丈夫ーー。
さぁ、帰りましょう。
聖。
…。
聖。
…。
帰らないの?
…。
ねぇってば。
…別に。
人の勝手でしょう。
でももう…。
……
ねぇ、聖。
…うるさいわね。
勝手に帰れば良いでしょう。
聖も帰りましょう?
……。
聖…?
ほーーしーーがささやーくー、イッツアーメーリーークリースマース♪
…。
つーーきーーとおでかーけー、イッツアーメーリーークリースマース♪
……はぁ。
あー、いいお湯だった。
はいはい、それは良かったわね。
ご飯も美味しかった。
母も喜んでるわ。
突然の来訪だったけれど。
蓉子んち、好きだなぁ。
好かれるほど、来て頂いた記憶は無いわね。
じゃ、これからはちょくちょく来ることにしようかな。
止めて頂戴。
三学期になったらあんまり会えないし?
私、受験生だから。
はい、私も私も。
…明日からは冬期講習が始まるのだけど。
折角のクリスマスなのに?
そんなもん、世の受験生の大半は関係無いわね。
彼氏も居ないしね?
……。
欲しかった?
別に要らない。
へぇ。
そういう聖はどうなのよ。
男は要らないね。
…恋人の事よ。
さぁ、どうだろうね。
……。
それにしても、さ。
…何。
この服、蓉子の匂いがする。
いーにおい。
…今直ぐ脱いで。
え〜、蓉子さんったら大胆。
気色が悪いのよ、莫迦。
だって本当に蓉子の匂いがするんだもん。
然う言うことは言わなくても良いから。
うふふ。
気色悪い。
……。
私、もう寝るけれど。
聖はどうするの。
……。
聖、ねぇ、ちゃんと聞いてる?
…ねぇ、蓉子さぁ。
言っておくけれど一緒には寝ないわよ。
…それは残念。
……。
ま、ご飯をご馳走になってお風呂にも入れさせてもらってその上着替えまで貸してもらって。
仕舞いには泊まらせて頂くのだから、これ以上の我侭は言えないか。
…その、お客様用のお布団で良いわね。
うん、十分。
……。
あと少し…だ。
…何が。
日が替わるまで。
……。
メリークリスマス、蓉子。
まだ早いわよ。
ま、イヴだし。
大目に見てよ。
…大目、ね。
あーぁ。
…。
ここはあったかいな…。
……聖。
…深い意味は無いよ。
……そう。
……。
……。
勉強、しなくて良いの?
…は?
受験生。
…貴女もね。
何とかなるさ。
そう。
じゃ、私は何もしないわよ。
気が向いたらお世話を焼いて。
暇があったら、ね。
うん、それでも良い。
…。
じゃ、何もする事も無いし寝ようかな。
おやすみ。
あ。
……くー。
そんなに直ぐ眠れるわけないじゃないの。
…電気は真っ暗が良いな。
……。
……寝込みは襲わないから、安心して?
莫迦。
聖。
…。
聖。
…何。
今日、薔薇の館でクリスマスパーティーをやるから。
…だから?
やるから。
…。
聖。
…分かった。
屹度、よ。
…。
屹度、だから。
…ええ。
……。
……。
…聖。
…あーあ。
なにを、している…の。
何をしているように見える…?
…。
思った答えが正解。
…何を思ったか分かるの?
分からない。
…。
気色悪い?
…え。
同性に。
こんな至近距離に居られて。
……。
良いよ。
本当の事を言って。
……。
帰れ、と言うのなら従う。
……。
蓉子。
…。
…何も言わないのなら。
…!
…。
……。
…どうして何も言わないの。
…何を言えば良いの。
そんなの、私は知らないわ。
蓉子じゃないのだから。
ん…ッ
…反応、良いんだね。
…悪ふざけは止めて。
ふざけてなんか、いない。
……。
蓉子。
…止めて。
…分かった。
……。
で、どうする?
……。
約束を破った私はどうすれば良い?
…未遂だわ。
気が付かなければ襲っていたよ。
今頃進行形か…過去形になってたかも知れない。
嘘。
…言い切るね?
そんな気など、“最初から”無いくせに。
じゃあ、あったら良いんだよね?
…。
あったよ。
本気で蓉子に触りたかった。
…。
蓉子が欲しかった。
…手に入れられなかったものの代わりに?
……。
私は…代わり、なのね。
代わりになど、ならないよ。
蓉子じゃ。
…ッ
蓉子は…蓉子だ。
……。
……。
……聖。
帰った方が…良いかな。
…。
こんなヤツと一緒に居たら、安心して眠れないでしょう。
いつ、寝込みを襲われるか分からない。
……どうやって帰るの。
もう電車は無いわ。
歩いて帰る。
な…。
夜明けまでに帰れれば良い。
帰りたくないって。
うん。
嘘だったの?
嘘じゃない。
けど
それは今も変わらない。
だから、帰らないかもしれない。
な…。
…ありがとう、蓉子。
…。
我侭に付き合ってくれて。
…聖。
よいしょ、と。
聖。
服、借りていくわけにはいかないでしょう?
待って。
…。
待ちなさい。
…どうして?
聖。
……。
良いわ。
…襲っても?
どうしてそういう言い方しか出来ないのよ…!
…。
いつもいつも。
ふざけて、軽くて…そんな風に装って!
……。
聖、躰が冷えてしまう前に。
……無理しないで良いよ。
無理、て何がよ。
……気色悪いでしょう。
…。
ほら。
大切な…友達と、一緒に眠るのに。
どうしてそう思うのよ。
……。
聖。
…駄目って言ったくせに。
それは…。
言ったじゃない。
……。
なのに。
…ふざけていなかったのね。
……。
聖。
…ここはあったかいんだ。
…。
……蓉子、は
聖、一緒に眠りましょう。
……。
…聖、起きてる?
…。
それとももう、眠った…?
…。
…。
…。
…。
…なに。
やっぱり、起きてた。
…だから、なに。
ううん。
…用も無いのに呼んだの。
確かめたかったの。
…。
…聖。
……。
寒くない?
…全然。
そう、良かった。
…。
おやすみなさい。
…蓉子。
…うん?
クッキー、おいしかった。
…今度、令ちゃんに言ってあげて。
…。
おやすみなさい、聖…。
…あたたかったのよ。
え…。
…。
聖…?
……。
聖。
…。
聖。
…。
聖、聞こえないの?
と言うか未だ、眠ってないでしょう?
…。
聖ってば。
…聞こえてます。
じゃあ返事ぐらいしなさいよ。
…そうですね。
何をそんなに畏まっているのよ。
…畏まってはいませんよ。
じゃあ、他人行儀?
…そういうつもりでもございません。
じゃあ何なの。
……いや。
聖?
……ある意味、似てる。
は?
…いいえ、何でもないです。
どうでもいいけど。
そんな端っこにいたら落っこちちゃうわよ。
…。
確かにそんな大きなベッドでは無いけれど。
だからってそんな端っこに居なくも大丈夫よ。
……。
聖…
…ッ!
え?
……いや、何でもない。
何でもないって。
…大丈夫ですから、お構いなく。
もう、何なのよ。
……。
寝込みを襲おうとしたクセに。
……ごめんなさい。
…。
…え、と。
私はこれで大丈夫です、おやすみなさい。
…。
…。
聖。
…。
聖。
…。
やっぱり駄目よ。
もっとこっちに…
…ひぁッ
……え。
………お、お気になさらず。
気になるわよ。
少し触れただけなのに。
……。
ねぇ、聖ってば。
……わざとやってないトコロが怖い。
は?
……いえ。
もう、良いわ。
……。
聖がそんななら…
…え、
…。
あ、いや、よ、蓉子…ッ?
…何よ。
あ、や、く、くっついて…。
そうよ。
貴女はどうしても端っこが良いみたいだから、私はいつもどおり真ん中で寝る事にしたの。
折角スペースがあるのだし、勿体無いでしょう。
…。
正論、でしょう。
…そ、そうですけど。
何よ、文句あるの。
大体、一緒にって言ったのは聖でしょう。
なのに。
……。
…もう、良い。
おやすみなさい。
…あ、う。
……。
……。
……。
…よ、蓉子ッ
…何よ、うるさいんだけど。
み、身動き、取れないんだけど…!
だから?
あ、いや、だからと言われましても…。
それからあまり大きな声を出さないで。
迷惑にしかならないから。
……うぅ。
若しも窮屈に感じて、やっぱり一人で眠りたくなったら勝手に出てくれても構わないから。
……。
じゃあ、おやすみなさい。
……こんな、の。
……。
蓉子がこんなに残酷な人だとは思わなかった…。
…は?
……。
どこが残酷だと言うの。
言ってみなさいよ。
……だって。
だって、何。
……蓉子の匂いがこんなにある中、で。
…で?
あったかくて…。
…。
……蓉子の体温がこんなに近くにあって。
……それで?
……。
聖。
……なんにも出来ない、だなんて。
出来ない?
何が?何を?何かしたい事でもあると言うの?
…。
はっきりと言いなさいよ。
……あぁ。
今度はため息?
……蓉子。
何。
……そっち、向いても良い?
良いわよ。
……。
なに?
やっぱり向かないの?
それとも向きたくない?
…そんなに、怒らないでよ。
怒ってないわよ。
…怒ってるじゃん。
怒ってません。
……。
で、向かないの?
……向くよ。
そう。
…でも。
何よ、さっきから煮えきらないわね。
だから身動きが取れないんだって…ッ
どうして?
動けるでしょう?
そ、そんなにくっついていたら…ッ
そんなにくっついては居ないのだけど。
いや、くっついてるって…ッ
ごめんなさいね、くっついていて。
そ、そういうコトじゃなくて…!
寧ろ、嬉しすぎて、だからどうして良いか分からなくて…!
…。
…あ。
……つまり。
何がしたいの、何が言いたいの、貴女は?
………こ、ここまで言ってて。
は?
……はぁ。
ちょ…
蓉子!
…と。
ほ、ほら、近いでしょう?
……。
か、顔なんてこんな距離だよ…?
……確かに。
近いわね。
ね、ね…?
でも仕方が無いわ。
このベッド、シングルだも…
……ぅぅぅ。
…聖?
苦しくな…
……あぁッ
い…。
……。
…聖。
……。
苦しいんだけど…。
…蓉子が、悪いんだ。
は、何で…よ。
……。
……熱い。
……だれのせい、で。
と、兎に角、離して。
苦しいから…。
……。
聖、聞いているの。
……。
聖ってば。
……はぁ。
聖、離れ
…蓉子。
…。
蓉子…蓉子…。
……。
………蓉子。
………聖。
……はぁ。
……そんなにきつく抱き締めなくても。
……。
私は何処にも行かないわ。
貴女を寒さで震えさせたりもしない。
もう、二度と。
…。
だから、大丈夫。
大丈夫よ。
……。
ね、聖…。
………。
聖。
……蓉子、は。
うん?
………やっぱり“孫”に似てるよ。
え、なぁに?
……何でもない。
…。
…。
…ねぇ、聖。
…なに。
このままで寝るつもり…?
……そうだけど、悪い?
悪いと言うより、寝辛くない?
この姿勢だと。
…。
朝起きたら。
体、かちかちになってそう。
…。
ね、聖。
……あの、さ。
ん…?
寝込みを襲う、の意味…分かってる?
……。
分かってないでしょ…絶対。
……分かってるわよ。
分かってたら、こんなコトになってないよ…。
……。
……ああ、もう。
色々とアレすぎて死にそう…。
一寸、大丈夫?
ああ、そこで本気で心配するし…。
当たり前でしょう?
死にそう、なんて。
……。
思えばさっきからやたらに体も熱いし。
若しかして風邪でもひいたんじゃ…。
……ああ、なんなのこの人。
何よ、心配しているのに。
……私、平熱高いからどうって事ないよ。
そうなの?
…大抵、36度台はありますから。
普通じゃないの。
……。
ともあれ。
このままだと私が寝辛いから。
…。
何処にも行かないから。
とりあえず、力を緩めて。
ね?
…。
聖。
…。
…もう。
…。
……そうだ。
…?
代わりに、手を繋いであげる。
……は?
手。
繋いで寝ましょう?
………。
その方が楽でしょう?
ね。
……子供だまし、だ。
ん?
私はこの方が良いって言ったの。
……。
……大体、布が邪魔なくらいなんだ。
え、何?
……独り言です。
ねぇ聖、お願いよ。
これだとやっぱり寝辛いわ。
……。
ね…?
………キス。
え、なに?
キス、してくれたら離れる。
…。
…。
…。
…冗談だよ。
…さっきの聖みたいに?
…。
……すれば。
その、離れるのね。
…いや、かえって逆効果。
?
聖、良く聞こえないわ。
してくれなくても、離れるって言ったの。
…。
……これで、良いでしょ。
…。
…手は?
…え。
繋いで、くれるんでしょう?
…ええ。
…。
…。
…。
…え、と。
やっぱりこっちの方が良いわ。
…それは良かったですね。
…。
……はぁぁ。
何よ、そのため息。
……何でもありません。
その割には大仰すぎない?
…気のせいですよ。
そうかしら。
…と言うか、そう言うことにしておいて下さい。
ふぅん…。
………これから、なのかなぁ。
何か言った?
……いいえ、なんにも。
嘘。
何か言ったでしょう?
……。
聖。
…これから、って言った。
これから?
何がこれからなの?
……さぁ、何だろうね。
…?
あー、なんか凄く疲れちゃった…。
…。
…あーぁ。
……でも。
ん…?
以前だったら、考えられないわね…。
……何が。
聖がうちに泊まりに来て…ましてや一緒のベッドで眠るなんて。
……あぁ。
不思議ね…。
……全くだわ。
……。
全く、どうしようもないんだもんな…。
どうしようもない…?
…いや、こっちの事。
さっきから濁してばっかり。
…深い意味は無いわよ。
本当に?
そうは聞こえないんだけど。
……ねぇ、蓉子。
ん…?
…もう一回だけ、抱き締めても良い?
……。
そのまま寝ないから。
……ん、分かった。
……。
……。
……はぁ。
聖…?
…いや。
……。
……怒らないで、聞いて。
…うん。
蓉子の匂いが、する。
……。
蓉子の温もり、熱いくらいに感じる。
…。
……凄く、安心する。
……そう。
怒った…?
……怒らないわよ。
……本当、は。
…本当、は?
……いや、今は止めておく。
…どうしてよ。
………自信が無い。
自信?
何の…?
口にしてしまったら…。
…。
…蓉子。
ん…。
え、と。
ありがとう。
…。
……さて、と。
それじゃ、本当に寝ようかな…うん。
聖。
……。
おめでとう。
…?
もう、日が替わってるから。
…。
お誕生日、でしょう?
クリスマスは。
……ああ。
これで同い年ね?
…うん、そうだね。
おめでとう、聖。
……ありがとう、蓉子。
……。
……。
……あのね、聖。
……うん。
私、クリスマスは元々好きだったのだけれど。
…見てれば分かる。
でも今、は。
……。
聖の誕生日だって事の方が重要になっているのよ。
……!
貴女が生まれてきた日。
クリスマスより、ずっと大切な事。
……。
……聖?
……いや、勘弁してください。
勘弁…?
……どんだけ我慢してると思ってるのさ。
ねぇ、何を勘弁するの?
……。
ねぇ、聖。
…あのさ。
うん。
プレゼント、欲しいんだけど。
プレゼント…?
そう。
誕生日プレゼント。
何が欲しいの?
あ、でも今は無理よ。
いや、今でも大丈夫なコトだから。
今でも…?
……。
………え?
…じゃ、おやすみ。
え、え…?
……。
せ、聖…?
……。
ちょ、一寸…。
……。
聖、今…。
……。
…!
……。
で、でも、そん…な。
……それ以上は、これからの為にとっておく。
…ッ
……。
ふと。
目が覚めた。
見慣れぬ天上。
馴染まないベッド、枕。
自分のではない温もり、匂い。
寝ている間に解かれてしまったのだろう、手。
くすぐられるような寝息。
そして。
安らかで、無防備な、寝顔。
心臓がドクンと跳ね上がり、鼓動が早くなる。
顔が熱い、と言うか躰が熱い。
……いち、に、さん、し…………きゅう、じゅう。
どうにかこうにか抑え付けた情動を、今一度、無理矢理に抑え付ける。
だけど急に熱くなった躰はなかなか元には戻ってくれなくて。
………少しだけ。
眠る彼女の体に腕を伸ばし。
少しだけ、少しだけと思いながら、その華奢な体をそっと抱き締める。
…いいにおい。
彼女の匂いが好きだった。
いつからか、好きになった。
いつも、いつでも傍にあったからだろうか。
諍いをした時も、傷つけたであろう時も。
どんな時でも。
……いい、におい。
クリスマス。
そして、誕生日。
どうしても家に帰りたくなかった。
家に帰ればあの人が居る。
し、一人で寝れば夢を見る。
一年前の、ほんの少しずつ薄れてはきたけれど、だけど決して消える事は無いあの時の夢を。
だからどうしても嫌だった。
だから。
……よーこ。
彼女なら。
彼女なら、と。
彼女の優しさに甘えて、縋った。
…。
その躰を腕の中に閉じ込めて。
だけれど匂いに包まれて。
鼓動は相変わらずだけど……。
……いっそ、このまま自分のものにしてしまおうか。
…。
……。
………。
再び、見上げた天井。
慣れない部屋の天井。
解かれてしまった手をもう一度握り締める。
少しだけ強く握ってしまったせいか、彼女の口から声が漏れたけれど。
構わず、そのまま握り締めて、目を瞑る。
起きるには未だ未だ早い時間。
彼女の匂いの中で。
彼女の手を握って。
来年もこんな誕生日を、と夢見ながら。
A Star whispers me, It’s a Merry X’mas!
I go out with moon, It’s a Merry X’mas!
...and.
I will say to you, Happy Birthday...!!
「It's a merry X’tmas」
菊田裕樹
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