私の下に蓉子の躰がある。
   それは思っていたとおり…いや、思っていた以上に柔らかくてキレイだった。


   手の平で触れる。
   撫でる。
   その都度、蓉子が何かに堪えているような、反応を見せる。
   熱い吐息。
   今まで聞いた事がないような、声。
   私の心臓がいちいち反応して、激しく波打つ。
   口から飛び出してしまいそうなくらい。
   自然と息遣いが荒くなってくる。
   別に息苦しいとかじゃないし、勿論、わざとじゃない。
   それはあくまでも自然なコトで…まぁ、生理現象ってヤツだ、多分。
   つまりは、簡単に、端的に言えば。



   …あまり、見ないで。



   その柔らかい丸みを手の平の中に収めたまま。
   つい、見惚れてしまって我を忘れる。
   と言うか、そもそも、何でこうなったんだっけ。
   今日は蓉子がご飯を作ってくれるって言って



   …見ないで、って言ってるのに。



   …大体。
   私と蓉子は付き合っているのだ。
   こんなコトがあったって別に変じゃないんだ。
   キスだってもう何度しているんだ。
   その身だって、数え切れないくらい、この腕で抱き締めた。
   同じベッドで幾度も眠った。
   そのたび、その体に触った。
   ああ、だけど、だけど。



   …聖。



   こういうコト、は。



   聖…。



   したくなかったわけじゃない。
   寧ろ、したかった。
   したくて、したくて、頭がおかしくなってしまいそうなくらい、したくて。
   だからそれはもう、機会を窺っては試みた。
   けれどうまくいかなかった。
   蓉子がこういうコトに疎い、と言うか、鈍感、と言うか。
   何となくそんな雰囲気になっても、何となく、かわされてしまうと言うか。
   キス、までは出来るのだ。
   キスした後、耳まで赤くした蓉子に、言葉に出来ないくらいの興奮だってするのだ。
   どこまでも初心で可愛い蓉子。
   そんな蓉子を見るたび、私の躰は熱くなった。
   けど。


   やっぱり、その先には進めないでいた。


   のに。



   今、目の前には蓉子の裸身。
   同じく、自分も裸身。
   有体に言えば、生まれたままの姿。
   お風呂なんかで見るのとは全然違う。
   いや、お風呂で見る時もぶっちゃけ、性的に見てないコトも無いのだけど。
   ああ、でも、やっぱり違う。
   どう言って良いか分からんけど、違うものは違う。



   せい…。



   掠れた、鼻にかかった、甘えられたような声。
   こんな声、知らない。
   聞いたこと、ない。
   と言うか、なに、これ。
   こんなにかわいい人が私の恋人で良いんだっけ?
   いや、良いんだよ、蓉子は私の恋人、かわいいかわいい私だけの恋人なんだから。
   だから、だから、こういうコトをしたくなるのは自然の成り行き上、正しい…いや、仕方が無い…
   いや、いや、待てよ、仕方が無いは無くないか。
   私は蓉子が好きで、蓉子は私が好きで、だからこういうコトはなるべくして起こるわけで……ああ、もう、何でも良いや。



   ……せぃ。



   兎に角。
   私の下には蓉子の躰。
   触れ合っているのは滑らかな肌。
   これ以上のものは、何も無いし、要らない。
   欲しいのは蓉子だけなんだ。
   そう、そうなんだよ。
   やっと、やっと、叶うんだよ。
   心臓がやかましいくらいに、高鳴っているんだよ…!



   …?



   ああもう、だめだ、蓉子が欲しい蓉子が欲しい蓉子が欲しい…!
   蓉子だけが欲しい、欲しい欲しい欲し…



   …!
   せ…!



   ……?
   ………あ、れ?
   なんか、今、クラっとしたような…。



   聖…!















   私の上に聖の躰がある。
   それはずっと私の上にあるままで動かない…と言うより、固まっているようで。


   手の平で触れられる。
   撫でられる。
   だけど相変わらず、その目は私の躰を凝視しているようで。
   熱い吐息。
   それが私の肌を擽り。
   私の心臓の鼓動を嫌が応にも高めていく。
   あまりにも高まりすぎて、そのまま心不全にでも陥ってしまいそうな。
   息が詰まる、呼吸が上手く出来ない。
   息苦しい、呼吸をしたいのに聖の視線がそれを許してくれない。
   見られている、そう思うとどうにも居たたまれなくなって、でも躰は熱くなって、益々苦しくなる。
   ああ、このままだと私は……。



   …きれいだ。



   ぼそりと呟かれた言葉に、躰が震える。
   乳房を手の平に収められたというのもあるけれど、それよりも。
   そもそも手は止まったままで…その、何と言うのだろう…え、と、その、いわゆる…性的な動きはしてなく、て。
   大体今日は聖にご飯を…放っておくと適当に済ませるクセのある聖にバランス良く、そして温かいご飯を食べて貰おうと思って



   ……ああ。



   ……大体。
   改めて思わなくても聖と私は付き合っていて。
   だから…その、こういうコトはいつか起こるコトで。
   キスは…まぁ、それなりにしているし。
   大抵、聖からで…だけど時には強請られて、拗ねられて…だから、少しだけ頑張って。
   優しく抱き締められて、私は私より少しだけ広いその背中に腕を回して、抱き合って。
   部屋に泊まる時は大抵…と言うより、いつも一緒に眠って。
   そのたびに布の上からだけど体に触れられて…触れて。
   ああ、でも、でも。



   …蓉子。



   こういうコト…は。



   蓉子…。



   …したくないわけじゃ、ないの。
   ただ…少しだけ、ほんの少しだけ怖かった。
   何がそんなに怖いのか……考えてみたところで、形あるはっきりとした答えは出なくて。
   だから、聖のそんな視線を感じるたび、心が震えた。
   応えたい、けれど、応えるコトが出来ない。
   聖が私と…その、こういうコトを望んでいる、望んでいてくれているのは凄く嬉しかった、のに。
   何度かそんな雰囲気になって、でも、いつも私はそんな空気から逃げるようにしてしまって。
   キス、までは出来るのだけれど…。
   キスした後、聖がそれ以上を求めるような目をしているのに。
   優しい聖、愛しい聖…そんな聖とは違う聖。
   そんな聖を見るたび、私の心は熱くなった。
   …けれど。



   臆病な私はいつもその先には進めなくて。


   …それなのに。



   今、目の前には聖の裸身。
   同じく、私も裸身。
   有体に言えば、生まれたままの姿。
   お風呂…たまに一緒に入る時に見るそれとは全く違う…ような気がする。
   キレイな聖の躰、それはお風呂で見る時とは何ら変わらない。
   ああ、でも…やっぱり違う。
   どう言って良いか分からないけど…多分、雰囲気が違うのだと思う。



   よーこ…。



   掠れた、鼻にかかった、甘えたような声。
   甘えを多分に含んだ声は、求められている時のソレ。
   ひたすらに愛しくて、胸が締め付けられる。
   ああ、ああ。
   なんてかわいい私の恋人。
   聖は…そう、私の恋人、かわいいかわいい私だけの…なんて言ったらおこがましいのかも知れないけれど、でも。
   だから、だから、こういうコトは私達が動物である以上必然なコトで、起こるべくして起こるコトで。
   私は聖が好き、そして聖は私が好き、で…だから、これは私が望んでいるコトでもあって。



   ……よぅこ。



   兎に角。
   私の上には聖の躰。
   触れ合っているのはすべらかな肌。
   これ以上のものは、何も無いし……必要無い。そう、言葉すら。
   欲しいのは…私が欲しいのは聖だけ。
   そう、そうなのよ。
   なのに、私は怖くて……何かが変わってしまうような気がして、その何かなんて分からないのに、不確かな事なのに。
   ああでも心臓が、私の臆病さなんかどこかに追いやってしまうように鼓動を早めて早めて…ああ、もう、どうにも出来ない!



   …はぁ。



   ……聖が欲しい、聖が欲しいの、ずっとずっと欲しかったの。
   聖を私だけの人に、私を聖だけの人にして欲しか…



   はぁ…。
   ようこ…よ…こ…。



   …?
   ……あ。
   あ…ッ!



   ………ぁぁ。




















  
ベ イ ビ ー リ ー フ




















   消えて無くなってしまいたい。


   近くなのに、遠くから響いてくるようなシャワーの音を耳にしながら、私は結構本気で思った。
   ついさっきまで私の目の前にあった蓉子の躰は今はもう、無い。
   今あるのは、鼻を気にしながら自分のベッドの淵に居心地悪げに座る、私一人。


   …はぁ。


   無意識のうちに何度目かのため息が漏れる。
   頭を抱える。
   私は、一体、何をやっているんだろう。
   本当だったら今頃…。
   ……ああもう、格好悪いったら、ありゃしない。
   そりゃあさ、蓉子には色んな姿を見られてきましたよ。
   みっともない姿、格好が悪い姿、得てして見られたくない姿ってヤツをいっぱいいっぱい見られてきましたよ。
   これ以上、何があるのかって、思うくらいですよ。
   でも、自分が思っているよりも、世の中にはまだまだあるもんなんですよ。


   ……ああ、死んでしまいたい。


   実際問題、格好悪いどころの騒ぎじゃない。
   ここに穴があるのなら、そこに入って、永遠に埋められてしまいたい。
   ああ。
   あんなに心待ちにしていたのに。
   この日が来るのをどれだけ待ち侘びただろう。
   蓉子に嫌われたくない、どこにも行って欲しくない、置いていかれたくない、その一心で抑制した心。
   眠る前、ふざけるようにして触れあった、いや、触っていたのは主に私だけど、おまけにうっかり眠れなくなった時もあったけど!
   …だけど、我慢、したんだ。
   眠る蓉子を見ながら、それまで待とうって。
   だってそうでしょう、若しも蓉子に嫌われてしまったら私は…立ち直れる自信なんて、全く持って、無いんだもの。


   ……蓉子ぉ。


   今は居ない、恋人の名前を呟く。
   本当だったら、本当だったら、その名前は熱に浮かされながら呼んでいた筈なのに。
   蓉子を腕に抱いて、蓉子の胸の中で、心が満たされるまで、互いを求めていたハズなのに。
   あああああ、もう…ッ
   消えて無くなってしまいたい、私なんか、私なんか。


   ああもう、死にそう…。


   知識はそれなりにある。
   ただ、経験はと問われると……うん、まぁ、そこは横に置いておこう。
   でもこういうコトは勢いで何とかなるもんなんだ、多分。屹度。
   技術なんて、そんなものは後。初めてな人が下手糞なのは仕方が無い、そう、それこそ仕方が無いと思うわけですよ。
   大事なのは想い。
   互いを想い、求める心。
   …なんて、ああ、似合わない、私には似合わない。


   ………ああ、ホントに死にそう。





   遠くでシャワーの音が止んだコトには気付かず、私は改めて頭を抱え直した。





   ……聖?



   熱いシャワーを浴びて…一応、パジャマを着て部屋に戻ってくれば素肌にシャツ一枚だけを羽織り、頭を抱えて唸る私の恋人が一人。
   声を掛けても気付いてはもらえずに、そのまま頭を抱えている。
   ベッドの淵にちょこんと座る姿がどこか間抜けで…かわいらしい。


   聖…


   もう一度、声をかけた。
   今度は届いたようで、はっとしたような感じで、頭をあげる。
   暗がりだから良く見えないけれど、その顔は屹度、情けない顔をしているのだろうと思う。
   だけどそんな顔も好き。いや、大好きだと言っても過言じゃない。
   だってそんな顔を見るたび、私は聖を抱き締めたくなる。
   抱き締めて、大事に大事に胸の中で、慈しんであげたくなる。
   …甘いのは分かっているのよ。
   でも分かっていたってそういう気持ちになるんだもの、どうしてもなってしまうんだもの、自分ではコントロール出来ないんだもの。


   聖。


   その名を呼びながら、そっと近づいていく。
   …本当、だったら。
   聖の腕の中で、聖の熱を感じながら、聖の匂いに包まれながら、呼んでいたかも知れない名前。
   そんな考えが脳裏によぎった時、かぁっと顔が熱くなるのを感じた。
   そう、本当だったら今頃。
   私達は…初めて、の。


   ……よーこ。


   名を呼ばれて、はっとする。
   かと言って一旦熱を持ってしまったが為に、顔の火照りはそのまま。
   袖を掴まれて、引っ張られるままに、聖の隣に腰掛ける。
   聖との間に若干の隙間を空けながら。


   …よーこ。


   自分との間に隙間がある事に気付いた聖は俯き、しゅんと萎んだようになった。
   同時に、何事かを呟いたのが聞こえた。
   ため息ではなく、何かの言葉を。


   え、なに…?


   思わず聞き直してしまって、少しだけ後悔する。
   聖の姿がますます、小さくなってしまったから。
   多分、聞かれたくなかったのかも知れない。
   …ああ、でも。
   聖のそんな姿が私は嫌いじゃない。ただ、私以外の人には見せて欲しくないだけ。
   曰く、格好悪い姿や、みっともない姿を私はいっぱい見てきた…らしい、けど。
   そんな事を思うより、私はただ、ただ、そんな聖が愛しくてたまらなかった。
   聖への恋心を自覚してからは特に。


   ……ごめん。


   小さくなってしまった聖が、謝罪の言葉を紡いだ。
   私はどうして謝られているのか分からなくて、何も返せなかった。
   聖は俯いてしまったきり、顔をあげない。
   責めてるわけでは無いのに…寧ろ、どうして謝るのか、私は知りたいだけ。
   だって、いつ、聖は私に対して謝らなければいけないようなコトをしたの?
   無理矢理だったわけじゃない。
   強引だったわけでもない。
   それどころか、聖はどこまでも優しかった。
   だから私は、自然の流れのように、躰を許した。
   許そうとした。
   それなのに。
   聖は何故、謝るの。





   ……。





   謝っても、蓉子は無言だった。
   ああ、屹度、怒ってるんだ。
   凄く、凄く、怒ってるんだ。
   あんな、無様な姿で、強制終了させてしまったから。
   いや、本当は嫌だったのかも知れない。
   なのに私が求めるから…疎いけど蓉子は優しいから、自分の心を押し殺して、身を委ねてくれようとしたのかも知れない。
   そしてそして、それっきり、一度きりで、私の前から……。


   ……いっそ、殺して欲しい。


   負の考え、スパイラル。
   昨今のデフレスパイラルにすら、負ける気がしない。
   世は不景気だけど、私の心は不景気どころか、絶賛どん底中。
   マリア様でも、仏様でも、その他諸々の神様でも良い、誰か、誰か、私をこのまま埋めて…!





   ……。





   聖の周りの空気だけやたらに暗くて…淀んでいるようにさえ感じる。
   情けない聖を見るのはいやじゃないけど…何がどうして、そんなに落ち込んでいるの。
   …まさか。
   本当は、実は…そんなにしたくなかった、とか…?
   ……いえ、それは多分無い…と思うのだけど…でも分からないわよね、人の心は日々変わっていくものですもの。
   でも、じゃあ……。


   ……私、一人でその気になって?


   そんな考えに至った瞬間、顔だけじゃなく、躰全体が熱くなった。
   …なんて、こと。
   ああ、誰か、誰か私を、こんな私を消して、屹度、屹度、いやらしい人だと思われたに違いないもの。
   私はなんて…ああ、マリア様、私はなんて、なんて、淫らな女だったのでしょう.…!





   ……。





   蓉子は相変わらず、何にも言ってくれない。
   隙間も埋めてくれない。
   さっきまでの熱が嘘だったように、冷たい。
   震える、凍える、さっきまではあんなに熱かったのに。
   ねぇ、蓉子。
   もう、我侭は言わないないから。
   もう、勝手な事はしないから。
   もう、抱こうなんて……蓉子が良いって言うまで頑張って我慢するから。
   だから、だから…。





   ……。





   聖は相変わらず俯いたまま、一向に顔をあげようとしてくれない。
   隙間も空いたまま。
   さっきまではあんなに熱を孕んでいたのに。
   寒い、寒いわ、聖、ついさっきまではあんなに熱くて満たされていたのに。
   ねぇ、聖。
   もう、私の事は抱いてくれようとしないの?
   もう、私の事は求めてくれないの?
   もう、私みたいないやらしい女、嫌になってしまったの…?
   お願い、お願いだから…。





   ……あ。





   仄かな温かさ。
   微かに触れた指先。
   それはとてもささやかな熱だったけれど。
   そこから躰全体にじわじわと広がっていくようで。





   …蓉子。


   …聖。





   蓉子の顔が目の前にある。
   聖の顔が目の前にある。
   それは女神のようにとてもキレイで。
   それは泣いている幼子のように愛らしくて。


   私は無意識にその躰を抱き締めた。




















   …。


   …。


   …はぁ。


   …聖。


   …蓉子、蓉子。


   …。


   …嫌わないで。


   どうして…。


   ……本当は、いやだったんでしょう?


   ……。


   我慢、するから。
   蓉子が良いって言うまで…我慢、するから。


   ……聖、だって。


   …。


   本当は…その、こんなコトするつもり…無かったのでしょう?


   ……え?


   だって…。


   いや、待ってよ。


   …。


   あ、あのさ…。


   …うん。


   私は、その…どちらかと言うと、その。


   …。


   し、したかったんだけども…それはもう、すごく。


   …え。


   む、寧ろ、蓉子の方が…し、したくなかったんじゃないか…と。


   …どうして、そうなるの。


   だ、だって…。


   …。


   ……ごめんなさい。


   ……そんなわけ、ない。


   あ…。


   …聖。


   よ、蓉子…。


   ……ごめんなさい。


   え、え…。


   …ずっと、待たせていたのは私なのに。


   …。


   ごめんなさい、聖…。


   あ、いや…。


   …。


   ……蓉子。


   ん…。


   …。


   …ん…ん。


   ……はぁ。


   ………せい。


   欲しい…です。


   …。


   蓉子が…欲しい、です。


   ……聖。


   …でも。
   強引にとか、無理矢理とか…出来るだけ、したくないから…だから。


   …。


   がんばっ……て。


   …欲しい、の。


   …。


   ……私だって、聖が…ずっと。


   ……。


   ……だから。


   ……よーこ。


   だから…その…。


   ……良いの。


   …。


   ……本当に、良いの。


   ……う、ん。


   …止まらなく、なっちゃうよ。


   ……いいの。


   やっぱり、いやだったなんて…。


   …言わないから…だから。


   ……。


   聖…どうか、わたしを…。


   ……ッ


   あ…。


   蓉子…!
   蓉子…ッ!


   ……せ、ぃ。




















   私の下には蓉子の躰。
   熱い、熱い、蓉子の躰。



   私の上には聖の躰。
   熱い、熱い、聖の躰。





   もどかして、うまく出来なくて、痛くて、苦しくて、熱くて、愛しくて、堪らなく愛しくて。





   たとえ、全てが弾けてしまっても。





   こんな熱があったコトを一生、忘れまいと。




















   …。


   …。


   …ん。


   …。


   ……ようこ。


   …。


   なに…?


   …。


   ようこ…?


   ……せい。


   ん…?


   …あ、の。


   …。


   はな、だいじょうぶ…?


   ……!


   …?
   せい…?


   ……わすれてた、のに。


   あ…。


   ……うぅぅ。


   ご、ごめんなさい…。


   ……。


   で、でも、その…しんぱい、だったから…。


   ……とりあえずはへいき、のようです。


   そ、そう…。


   …。


   …。


   ……ああ、かっこわるい。


   え…。


   だって…まさか。


   …。


   まさか、こうふんしすぎて…なんて。


   …びっくり、したわ。


   …ですよね。
   でもたぶん、わたしのほうがびっくりしたとおもいます…。


   ……せい。


   ……ああ。
   まさか、はなぢをだす…なんて。


   …。


   しかもようこのからだに……あぁぁ。


   せい…。


   あ…。


   かわいい…。


   ……ぅ。


   ありがとう…せい。


   ……。


   おもってくれて…ありがとう。


   ……あ、いや。


   …。


   あ、あの、ようこ…?


   …なぁに?


   こ、このしせいは…その、やばいかな、と。


   …?
   やばい…て?


   いや、その、む、むねが…ね?


   ……。


   だ、だから……。


   ……いいの。


   …へ。


   せい、だから…。


   そ、それは…。


   …せいだけ、だから。


   あ…う。


   ……すきよ、せい。


   …ッ


   だれよりもすき…だいすき。


   よ、よーこ…ッ


   あ…。


   ……ま、また。
   その…いい、よね?


   う…ん。


   ……。


   あ…ん…あ、ぁ。


   よーこ…よーこ…よーこ…!


   せ…ぃ。
   ……あ。


   ……ッ!


   せ、せい、まって。


   …はぁ、はぁ。


   せい、はなが…。


   ……うう…ぅ。


   ………。


   よーこ…よ…こ…すき、す…き…。


   ………せぃ。




















   いつか笑い話になる、その時まで。





















   …お、おはよう。


   ……おはよう。


   ……。


   ……。


   ど、どこかいたいところは…。


   …だいじょうぶ。


   …。


   …。


   そ、その…。


   …なぁに?


   ……ごめんなさい。


   …?


   だ、だから…その。


   …良いの。


   で、でも…。


   …シャワーを浴びれば良いコトだから。


   でも今度はシーツも…。


   洗ってはみるわ…でも、だめだったら。


   …はい、買い直そうと思います。


   …大体、聖のものなんだからそんなに恐縮しなくても良いのに。


   いや、だって…。


   …。


   まさか、また出す…なんて。
   しかも…。


   …しかも?


   そ、そのまま続けるなんて…わたし、どんだけ…。


   …うん。


   ……うぅ。


   ごめんなさい。


   …へ。


   そうまでさせたのは、私だから…。


   …。


   だから…ね?


   ……。


   …と、とりあえず、シャワーを浴びてくるわね。


   う、うん…。


   …。


   …。


   ……聖。


   え、な、なに…。


   …あまり、見ないで。


   え、あ、あぁ。


   ……。


   ……。


   …よ、蓉子!


   え、な、なに…?


   い、一緒に入っても良い…?


   え…?


   しゃ、シャワー…!


   …!


   で、出来れば一緒に入りたいな、って…!


   だ、だめ…ッ


   けど…ッ


   だ、だめよ、そんなの…ッ


   …。


   だ、だって…だって。


   …だって、なに?


   は、はずかしいじゃ…ない。


   ……。


   わ、わたし、いくわね…?


   や、やっぱり…!


   え、あ…。


   わ、わたしも入る、入りたい…!
   絶対…ッ!


   せ、聖…ッ


   蓉子…ッ


   ……あ、う。


   蓉子…はなれたく、ない。


   ……。


   はなれたくない…。


   ……もう。
   ばか…。




















   それから二人で熱いシャワーを浴びた。
   浴槽にもお湯を張って、二人で温かなお湯に浸かった。
   蓉子の躰を抱えて。
   聖の腕に抱えられて。
   二人で、ゆっくりと浸かった。
   でも、少しだけキスをして。
   少しだけ、昨日の続きをした。
   これからも、二人で一緒に居られる間は、ずっとしていくであろうコトを。
   そして願わくば、そんな時がずっと続いてくれるように。
   私は蓉子を愛し。
   私は聖を愛した。



   思えば。
   結局、私が恐れていたことは何も無かったのだと。
   聖に、聖の唇に、手の平に愛されながら。



   聖は相変わらず、甘えたで。

   蓉子は相変わらず、恥ずかしがりで。

   相変わらず、私のかわいいかわいい恋人で。




















   …蓉子。


   ん…。


   ……好き。


   …うん。


   だ、だから…。


   …好きよ、聖。


   ……。


   好き…だから。
   だから…。


   …ずっと、いっしょにいて。


   …。


   ずっと…。


   ……いっしょにいましょう。


   …。


   …ずっと。




















   月日が流れても。
   こんなトキがあったコトを。


   どうか、忘れないように。










   どうか、忘れないでいて。