おかえり。


   …。


   さぁ、遠慮なく聖さんの腕に飛び込んでおいで。


   …寝てても良かったのに。


   あら、冷めた反応ね。
   淋しいわぁ。


   …酔ってる?


   ビールを少々。


   …本当に、少々?


   うん、本当。


   子供達に飲ませては無いわよね?


   まっさかぁ。


   …。


   まぁ、子供にはただの苦いシュワシュワだよね?


   …殴るわよ。


   今回は本当に飲ませてないって。


   面白がって。


   いやねぇ、蓮君のあの渋い顔がねぇ。
   面白くて、つい。


   …。


   ほら、子供の頃って色んなものに興味を示すじゃん?


   そうだとしても駄目なものは、駄目。
   蓮も葵も未だ、子供なんだから。


   葵はあんまり興味を示さないよなぁ。


   …聖。
   本当に飲ませてないのね?


   うぃ、マリア様に誓って。


   ……。


   そもそも子供達が寝てから飲んでたから。
   ちびちびと、ね。


   …なら、良いけど


   ところで、蓉子さん。


   …何。


   今日も一日、お疲れ様でした。


   …。


   疲れたでしょう?
   お風呂、入っておいで。
   追い炊きしておいたから。


   …ええ。


   ごはん、どうする?


   …食べる。


   こんな時間だし、さっぱりの方が良いよね。


   …。


   明日も早い?


   …うん。


   そっか。
   じゃあ今夜も駄目だね。


   ……ばか。


   へへ。
   さて、蓉子さんがお風呂に入ってる間に支度しちゃおうかな。


   …ねぇ、聖。


   んー?


   …。


   どーした?


   …寝ててくれても、良かったのよ。
   ごはんなら自分でも出来るし…。


   …。


   貴女にも仕事はあるのだし…。


   そういえば、蓉子さん。


   …え?


   おかえり、って言われたら何て返すんだっけー?


   ……言ってなかった?


   聞いてないなぁ。
   お小言は貰ったけど。


   ……。


   これはあれだ。
   行動でも示して貰わないと。


   ……。


   ね?


   ……。


   おいで、蓉子。


   …。


   来ないなら…


   …聖。


   ん……。


   …。


   …ん、ん。


   ……おかえり。


   …ただいま、聖。


   うん。


   ……お酒くさい。


   はい、ごめんなさい。


   …。


   出来ない代わりに、ね?


   ……お風呂、入ってくる。


   蓉子。


   …。


   …あんまり頑張りすぎては、駄目だよ?


   …。


   蓉子はたまに、限界に気付かないフリをするから。


   …。


   それから。
   私は蓉子さんの伴侶なんだから、ね?


   ……聖。


   ん?


   …汗、かいてるから。


   ……そんなに気にならないけど。


   …。


   そうだね。
   じゃあまた後でにしよう。


   ……。


   ゆっくりしておいで。
   あ、でも、くれぐれものぼせないようにねー。


   ……。


   さぁて、とー。


   聖。


   …ん?


   その…ありがとう。


   …どういたしまして。















  W e i r d  C o u n t e r p o i n t















   …。


   どした、蓮。
   食べないのかい?


   …。


   今日の朝ごはんは蓮の好きなツナごはんと卵焼きだよ。


   …。


   蓮?


   …。


   ふむ。
   葵。


   …。


   葵も好きだよね?
   甘い卵焼きとツナごはん。


   …。


   さぁ、冷めないうちに。


   …聖ちゃん。


   ん?


   お母さんは…?


   蓉子さんは今日もお仕事だよ。
   蓮や葵の為に頑張ってる。


   …。


   …。


   蓉子さんはね、毎日君達の顔を見ているよ。


   …。


   …見てないよ、聖ちゃん。


   ううん。
   昨日もね、君らの寝顔を…


   …蓉子の卵焼きが良い。


   …お母さんに会いたい。


   ……。


   …。


   …。


   蓮、葵。


   …。


   …。


   蓉子に会いたいよね。


   …。


   …。


   よし、じゃあ会おう。


   …。


   …でもお母さん、今日も


   起きてれば良いんだよ。


   …。


   …けど。


   大丈夫、蓉子は怒らない。
   何より、起きてる君らに会いたいってのは蓉子も一緒だ。


   …。


   …。


   てかさ、私も蓉子に逢いたいんだ。
   いつも逢ってても、ね。


   …。


   …聖ちゃん。


   そうと決まれば。
   さぁ、ごはん食べちゃおうか。
   で、さっさと学校に行ってこよう。


   …。


   …うん。


   そんで帰ってきたら少しお昼寝しよう。
   そしたら屹度、起きていられる。


   …。


   うん。


   でもねぇ、蓮。


   …。


   授業中に寝ちゃあ、だめだぞぅ?


   …聖じゃない。


   お、それはどーいう意味だ?


   蓉子、言ってた。


   なんて?


   聖は良く、薔薇の館で寝てた。


   良く、じゃあ無いけどなぁ。


   蓉子は嘘なんて言わない。


   うん、そうだった。


   …。


   …お母さんに、会えるかな。


   会えるよ。
   だからごはん食べて、今日も元気良く行っておいで。
   二人が元気無かったら蓉子さん、心配しちゃうだろ?


   …。


   …。


   さ、いただきますしよっか。


   …いただきます。


   いただきます、聖ちゃん。


   はい、召し上がれ。
   野菜もちゃんと食べるんだよ。









   ねぇ、蓮。


   …。


   お母さんに会えるかな。


   …会える。
   聖がそう言った。


   ん、そうだね。


   …。


   早く夜にならないかな…。


   …学校。


   分かってるよぅ。


   …。


   蓮、寝ちゃ駄目だよ?


   寝ない。
   誰かがうるさいから。


   ふふ。
   楽しみだね。


   …ん。








   ・








   …聖ちゃん。


   お、起きた?
   若しかしてごはんの匂いに釣られちゃったかにゃ?


   …。


   もちっと寝てても良いよ。
   も少しかかるから。


   あのね、お願いがあるの。


   聖さんで良ければ、どうぞどうぞ。


   お母さんに…卵焼き、作ってあげたいの。


   蓉子に?


   甘い卵焼き、お母さん大好きだから。


   うん、大好きだね。


   それに疲れてるときは甘いの、良いんでしょう?


   そのとーり。
   葵、良く知ってるねぇ。


   わ…。


   でも蓉子さんが帰ってくるのは遅い時間だから。
   出来ればあんまり甘くない方が良いかもなぁ。


   …なんで?


   女の子のほとんどが気にしてるコト。
   あとは年齢的なものも少々。


   …。


   葵には未だ、無いかなぁ?


   ……え、と。


   はは、まぁ良いや。


   …。


   甘いのは今度のお休みの時に作ってあげてよ。


   …でも


   だから今夜は出汁巻きを作ろう。
   お砂糖は隠し味でね。


   だしまき…。


   蓉子さんは出汁巻きも好きなんだよ。


   …うん、知ってる。


   しかもほんのり半熟の、なんだけど。
   葵に出来るかな?


   頑張る。


   よし、じゃあ頑張れ。


   うん。


   手伝ってって葵から言わない限り、聖さんは手伝わないからね?


   うん、良い。


   うん、その心意気や好し、だ。


   …お母さん、喜んでくれるかな。


   葵の作ったのだもん、喜ばないわけ無いさ。


   …だと、良いな。


   あーおい。


   きゃ。


   あったかいの、寧ろあっついのを食べてもらおう。
   ね?


   …う、うん。


   ん?


   聖ちゃん、髪の毛がぼさぼさになっちゃうよぅ…。


   あはは、ごめんごめん。


   …。


   お、蓮。
   起こされないで起きるなんて珍しいなー。


   …葵。


   分かった。
   葵がいないから探しに来たんだなー?


   …。


   蓮、そうなの?


   …ちがう。


   はは。
   まぁ、照れるな照れるな。


   …。


   蓮、もう少し寝てたら良いのに。


   …。


   あや、不貞腐れちゃったかな?


   …。


   蓮。


   …寝る。


   おう、夕ごはんの時間になったら起こしてあげるさ。


   ……。


   そうだ、蓮。
   蓮も作ろうよ。


   …?


   私ね、卵焼きを作るの。
   だから蓮も…


   …。


   蓮、蓮が何か作ったら蓉子さん喜ぶよ?


   …。


   と言っても蓮は食べる専門だからなぁ。
   そうだ、蓮はお茶漬けを作ろう。


   …。


   刻みのり、と…今夜の夕ごはんは魚の予定だからそれをほぐして。
   うんうん、これなら蓮にも出来る。


   …。


   な、蓮?


   …。


   蓮、やろう?


   ……ん。


   よしよし!


   ……。


   ん、面白い顔?


   …頭。


   元々ぼさぼさじゃないか、蓮君は。
   しっかも、寝起きだしなぁ。


   ……。


   ははは。








   …。


   …。


   二人とも、柚子茶でも飲む?


   …。


   …。


   体、あったまるよー。


   …。


   …お母さん、早く帰って来ないかな。


   如何かにゃ?


   …。


   わ。


   柚子茶、要る?


   …。


   …うん、貰う。


   オッケーイ。
   でも蓮は要らない、と。


   …いる。


   と、思ったから準備はしてあるもんねー。


   …。


   …。


   ふむ、今日は遅めだねぇ。
   でもま、絶対帰ってくるから大丈夫だよ。


   …。


   …うん。


   寧ろ、蓮。
   あんだけ寝たわりには眠たそうだけど、大丈夫かな?


   …。


   ん?


   …平気。


   そかそか。
   頑張れ。


   …。


   …。


   ほい、お待たせ。
   蓉子さんも好きな柚子茶でございます。


   …。


   ありがとう、聖ちゃん。


   なんの。
   で、蓮は?


   ……ありがとう。


   うんうん。


   …。


   …おいしい。


   そりゃ、聖さんがいれたんだ…


   …。


   聖ちゃん?蓮?
   どうしたの?


   蓉子が


   子供達、蓉子さんが帰ってきたよ。


   …。


   え?


   もう、ドアの前まで来てる。
   今に





   カチャリ。





   ……ただいま。


   …!
   蓉子!


   お母さん…!


   え…?


   おかえり、蓉子さん。


   ……聖?
   それに蓮、葵も…。


   …おかえりなさい。


   おかえりなさい、お母さん。


   ……これは、どういう事。


   一寸したサプライズ。
   ほら、最近は起きているちび達を見てなかったでしょ?


   ……。


   蓉子、鞄。


   あ、ああ。
   ありがとう…蓮。


   お母さん、先にお風呂入る?


   …そうね。


   私、追い焚きしてくる。


   ……。


   蓉子さん、さぁ。


   ……聖。


   ん?


   どうしてこんな時間に子供達が起きているの。


   どうしてだと思う?


   聞いているのは私よ!


   …。


   真面目に答えて。


   蓉子に会いたいから。


   …今、何時だと思っているの。


   日、替わったね。


   ふざけないで。


   ふざけてないって。


   明日も学校でしょう。
   こんな遅くまで夜更かしさせるなんて、貴女は何を考えているの。


   子供達は蓉子に会いたかったんだよ。


   だからって


   蓉子さん。


   …。


   お昼寝して蓉子が帰ってくるのを待っていたんだよ。


   …。


   蓉子。


   …。


   …どうした?


   …。


   ねぇ、蓉


   子供達を寝かせる。


   え。


   …。


   や、それは待ってよ。


   …。


   ねぇ、蓉子。
   子供達は


   離して。


   …蓉子。


   寝かせるわ。








   あ、お母さん。


   葵。


   …蓉子、座って。


   蓮。


   蓉子、一寸待ってって。


   聖は黙っていて。


   いや、少しだけで良いから私の話を聞いてって。


   …聖ちゃん?


   …。


   聞いて何になるの。


   いや、だから、と言うか本当にどうしたのさ。


   お母さん…?


   …。


   蓮、葵。


   なぁに、お母さん。


   …。


   蓉子、待っ


   今、何時だと思っているの。


   え…。


   …。


   こんな時間まで起きていて。
   聖が何を言ったのか大体の想像はつくけれど、こんな遅くまで起きていては駄目でしょう。


   …。


   …。


   さぁ、もう寝なさい。
   明日も学校でしょう?
   起きられなかったらどうするの。


   で、でも、わたし…


   …。


   早く部屋に戻りなさい。
   早く。


   …。


   …。


   さぁ、二人とも。


   ……。


   ……。


   蓮、葵。


   …。


   …。


   聞こえないの?


   …。


   …は


   戻らなくても良い。


   …。


   何を言っているの、聖。


   蓮、葵。
   計画通り、作ろう。


   計画…ですって?


   そうだよ。
   本当はサプライズだったんだけど、仕方ない。


   莫迦な事、言わないで。
   何度も言うようだけど、今、何時だと思っているの。
   計画だか何だか知らないけど、どうせ子供じみた事なんでしょう?


   …!


   違うよ、蓉子。
   子供達は蓉子に


   い、た!


   …え。


   葵?
   どした?


   蓮、痛い、痛いよ。


   …。


   はなして。


   …もどる。


   あ…。


   …。


   待て待て、蓮。
   蓉子は


   もどる!


   …。


   蓮、引っ張らないで…あ。


   !
   危ない!


   …。


   ……痛いよぅ。


   大丈夫か、葵。


   どこか怪我は…


   さわるな。


   …と。


   蓮、親に向かってその口の利き方は何なの。


   …あお。


   蓮、だめだよ。
   ちゃんと…あ。


   …。


   蓮、聞いているの。


   …。


   ご、ごめんなさい、お母さん。


   私は蓮に言っているのよ、葵。


   う…。


   ……。


   いたい、いたいよ、蓮…。


   蓮君、強く握り締めるから葵が痛がっているよ。


   …。


   聖ちゃん、お母さん…ごめんなさい、ごめんなさい。
   蓮を、蓮を怒らないで…。


   葵、私は


   蓉子。


   …聖がいつも然うやって甘やかすから。


   然うじゃないよ。


   でも!


   後で聞く。


   聖!


   蓉子。


   ……。


   蓮、葵。
   一寸部屋に行っててくれるかな?


   …。


   …うん。


   それから、蓉子。


   …何よ。


   少しだけで良いから、考えておいてくれると嬉しいな。
   お風呂に入ってる間。


   何をよ。


   どうして、起きていたのか。


   それは貴女が


   本当にそれだけだと思う?


   …いつもなら寝ているわ。
   それなのに


   然うなんだ。


   …?


   だからこそ。
   どうしてだと、思う?


   ……だから。








   蓮。


   …。


   葵。


   …。


   蓮くーん、葵ちゃーん。


   …。


   …ねぇ、蓮。
   聖ちゃんが


   れーん、あおいー。
   いるんなら、返事してくんないー?


   …。


   ねぇ、蓮。


   子供達の部屋には鍵は付けてない。
   つまり、入ろうと思えば入れるけれど…さて、どうするかな。


   …。


   蓮、どうしたの?
   ねぇ。


   今夜はそっとしとくべきかな。
   …でも、なぁ。


   …あお。


   蓮。


   ふむ…。


   …。


   …何を、怒っているの?


   ……先ずは蓉子、かな。


   …。


   ねぇ。


   蓮、葵。


   …。


   …。


   おやすみ。
   また明日。


   …。


   …。


   …さて。


   ……おこってなんか、ない。


   …でも。


   …。


   …聖ちゃん、行っちゃったよ。


   …だから、なに。


   蓮、お母さんの事待ってたじゃない。
   なのに…


   …ねろって言われた。


   …。


   怒られた。


   …そう、だけど。
   けど、


   …。


   んッ


   …。


   き、きついよ、蓮。


   …だから、ねる。


   わ、分かったけど…。


   …。


   このままだと私、眠れないよ…。


   …。


   ……蓮。








   ほい、柚子茶。


   …?


   さっぱりした?


   …。


   柚子茶。
   好きでしょや?


   ……ありがとう。


   良かった。


   …何が。


   はっきり言っても良い?


   …どうぞ。


   ちゃんと蓉子さんの「ありがとう」、だなぁって。


   ……何よ、それ。


   はは。
   夜食、どうする?
   一応、支度はしてあるけど。


   …聖。


   ん?


   子供達は…。


   寝たよ、多分。


   …多分って。


   確認はしてない。
   声かけても返事、してくんなかったし。


   …。


   けどまぁ、寝たよ。
   多分ね。


   …適当。


   気になるなら見ておいで。
   後で、ね。


   …。


   で、どうする?


   …今夜は良いわ。


   あらそう?
   んー折角支度しておいたのになぁ。


   …子供達の為、でしょう。


   蓉子さんの為、だよ。
   あくまでもね。


   …。


   ねぇ、蓉子さん。


   …。


   今日もお疲れ様。


   …うん。


   でもって、おかえり。


   …。


   おかえり。


   …?


   …気付かない、かな。


   ………あ。


   おかえり、蓉子。


   ……ただいま、聖。


   うん、おかえり。


   …。


   さて、と。
   それ飲んだらもう寝る?


   …。


   じゃ、洗うのは明日にしよっかな。


   ……何も言わないのね。


   と、言うと?


   …。


   ふむ。
   じゃ、言っちゃおうかな。


   …。


   目の下に隈、出来てる。


   ……。


   苦虫潰したような顔。


   …。


   眉間に深い皺の痕。


   …。


   化粧くらいじゃ、聖さんの目は誤魔化せません。


   …そういう事じゃなくて。


   葵、卵焼きを作りたいって。


   …たまご?


   蓮は食べる専門だからごはんにお茶でもかけさせようかな、て。
   よっぽどの事がなきゃ、誰だって出来るからね。


   …。


   あとはそうだな。
   蓮の顔、見た?


   …。


   葵の顔も。


   …。


   あの子達は蓉子の顔が、もっと言えば喜んだ顔が見たかった。
   ただ、それだけの事だったんだよ。
   ま、甘いと言われたらそれまでだけどね。


   ……。


   蓉子。


   ……。


   蓉子の「仕事」、昔のようにはもう手伝えない。


   …。


   けど今でも一緒に出来る事はあるよ。


   …。


   然う、今だからこそ。
   それに今は二人だけじゃない。


   …。


   ねぇ、蓉子。
   一人で頑張らないでよ。


   ……昔だって。


   ん?


   さぼってばかりだったくせに。


   はは、それを言われると痛いなぁ。


   そもそも手伝うじゃなくて自主的にしないと駄目だったのよ。


   はい、ごめんなさい。


   …。


   行く?


   …どこに?


   質問に質問で返す?


   主語が無ければ分からない。


   無くても分かる。
   だって私の蓉子さんだもん。


   …。


   さ、行こ?


   ……。








   ……ただいま。
   蓮、葵…。








   おはよう、子供達。


   …。


   おはよう、聖ちゃん。


   今朝は珍しく、蓮君が起きていたから手間が省けちゃったな?


   …。


   …。


   ん?


   あの…お母さんは?


   蓉子さんならもう、行ったよ。


   …。


   …そう。


   さ、君らも早く顔洗っておいで。
   朝ごはんにしよう。


   …。


   …はい。


   ところで蓮君。


   …。


   本当にちゃんと起きてるかな?


   …起きてる。


   じゃ、言う事は何かな?


   …おはよう。


   ん、良し。
   じゃ、さっさと洗ってきな。


   …。


   蓮、行こう。








   …。


   …ねぇ、蓮。


   …。


   まだ、気にしているの…?


   …。


   蓮。


   …知らない。


   知らないって。


   …。


   あ、待って。


   …先に行く。


   待ってよ、髪の毛がまだ…。


   …。


   蓮…。








   お、戻ってきたな。


   …。


   しっかし、蓮君の寝グセはガンコだねぇ。


   ちゃんと直そうとしないんだもの。
   直してあげようとすると嫌がるし…。


   …。


   折角だから直して貰えば良いじゃんか、蓮。


   …余計なお世話。


   て、いつも言うの。


   はは、仕方無いなぁ。


   …。


   身だしなみはきちんとしないとダメなのに…。


   蓮の髪質は蓉子に似てるんだけど。
   形がこうまで違うと似てるかどうか分からなくなるねぇ。


   …ふん。


   ま、今はとりあえず朝ごはんにしよっかね。
   二人とも座った座った。


   …。


   はい。


   今朝のメインは昨日に引き続き卵焼きでっす。


   …。


   …卵焼き。


   と言うわけで、いただきます。


   …。


   いただきます。


   蓮。


   …いただきます。


   はい、召し上がれ〜。


   …。


   ……あれ。


   ふふ。


   …。


   …この卵焼き。
   聖ちゃん、若しかして…


   待った。


   え?


   蓮は食べないのかな?


   …。


   それとも蓉子のじゃないと思ってるから食べたくないのかな?


   …別に。


   じゃ、食べなよ。


   ……。


   …蓮、美味しいよ。


   …。


   さ、蓮。


   …。


   …。


   …………あ。


   美味しい?


   ……。


   ねぇ、蓮。
   この卵焼き…


   …。


   あ、然うだ。
   若しかしたら今夜は早いかも、って。


   …?


   早いって?


   蓉子の帰り。


   …。


   本当?


   分かんないけど。
   待ってるかい?


   …。


   …。


   ん?


   …蓉子、怒った。


   ……。


   んー…。


   …。


   …。


   何と言うかな。
   人ってね、たまに思ってる事とは違う事、しちゃう時があるんだよね。


   …。


   思ってることと違うコト…?


   そう。


   …。


   …どうして?


   どうしてだろうね。
   でもそうなる時があるんだよ。
   特に弱っている時とかね。


   …。


   …。


   弱っているのに…どうしてか、素直になれない。
   不思議だよなぁ。


   …。


   私も、然うだった。


   …聖ちゃんも?


   昔の私はおおいに捻くれていたし。
   天邪鬼ってヤツでもあった。


   …。


   …。


   殊、特定の人に対しては本当にひどくてね。


   …。


   …。


   たまに思う。
   あの時、あの頃、若しも彼女が私に手を差し伸べるのを止めてしまっていたら…私は此処には居なかっただろう。


   …。


   …。


   本当、良く見捨てられなかったもんだ…。


   …。


   …聖ちゃんはその人の事、好きだったの?


   うん、かなりね。


   …。


   でも然う自覚したのは大分後になってからだったんだけどね。


   …。


   …。


   …だから、厳密に言うとちと違うんだけど。
   ま、似たようなもんだ。


   …。


   …。


   良く分からない、かな?


   …、の。


   うん?


   …。


   ねぇ、聖ちゃん。


   何かな?


   この卵焼き、お母さんが作ってくれたの?


   そうだよ。


   でもお仕事で忙しいのに…。


   作りたくなったんだってさ。


   …。


   美味しいかい?


   …。


   …うん、美味しい。


   うん、それは良かった。








   おかえり、蓉子さん。


   ただいま、聖。


   お、今夜はすんなり?
   流石に連日は無いかー。


   …。


   でも、さん付けが良いなー。


   …マイブーム?


   うん。
   てコトでワンモアプリーズ?


   …ただいま、聖さん。


   おかえり、蓉子さん!


   ……ああはいはい、とりあえず離れて。


   の前に、おかえりさなさいのちゅーを…。


   …。


   うん、これで良し。


   …疲れがどっと出るのだけれど。


   大丈夫。
   ここは憩いの我が家だから。


   …何が大丈夫なんだか。


   だって聖さんが居るじゃん?
   ほら、大丈夫。


   …はいはい。


   ほい、鞄貸して。


   …ありがと。


   えへへ。


   …。


   ん?


   …子供達は?


   あー。
   昨日、怒っちゃったからなぁ。


   …そもそも夜更かしは良くないもの。


   はいはい、そうだね。


   ……聖


   さん?


   …聖さん。


   はいはい何でしょう、蓉子さん。


   なんでそんなにご機嫌なの。


   蓉子さんと一緒なら聖さんはいつだってご機嫌ですよ。


   …言っておくけど、だめよ?


   うん、分かってる。
   明日は未だ、休みじゃないもんね。


   …そういう理由だけじゃないわよ。


   もう一寸早く帰ってこられたらなぁ。


   …。


   でもま、今日は少し早い。
   約束どおり。


   …約束は、していないけれど。


   蓉子さん、今夜はどうする?


   …。


   ごはん、食べる?
   今夜は食べてないでしょ?


   …そうね。
   今夜は頂こうかしら。


   ん、分かった。
   じゃ先ずはお風呂へどーぞ。
   今夜はばっちしですよ。


   …はいはい、ありがとう。








   …。


   …ふぅ。


   蓉子さん。


   きゃっ


   ああ、なんて可愛い反応。


   …なに、してるの。


   いや、お出迎え?


   …良いから。
   吃驚するから。


   良くあったまった?


   …。


   あったまらなかった?


   …あったまったけど。


   うん。
   じゃ、行こ。


   …。


   ん?


   …何を企んでいるの?


   何も企んでなんか無いよ。


   本当に?


   寧ろ、私はいつもこんなじゃない?


   …無駄に元気よね。


   ありがとう。
   実は凄く有り余ってるんだよね。
   ご無沙汰だから。


   ……。


   あはは。


   …同い年とは思えないわね。


   そぉ?


   そうよ。
   本当、無駄に元気で。


   うん、ありがとう。


   だから褒めてな


   お母さん。


   …え。


   おかえりなさい、お母さん。


   …。


   おかえりなさい。


   …葵、蓮。


   驚いた?


   …聖。


   昨日の今日、だから。
   無いと思った?


   何も企んでないと言ったじゃないの。


   うん、私は何も企んでないよ。


   けれど


   蓉子。


   …。


   夜更かししてごめんなさい。
   でも…


   …卵焼き、美味しかった。


   だから、これ…。


   …。


   蓉子さん。
   二人から蓉子さんに。


   …あぁ。


   時間を考えて甘くないものだけれど。
   熱々のうちに、どうぞ、召し上がれ。


   ……。


   …。


   …。


   …蓮、葵。


   …。


   …え、えと。
   私たち、もう寝ます。
   おやすみな


   待って。


   …。


   …。


   待って、二人とも。


   …。


   …あ。


   ……ちゃんと言わせて。


   …。


   …お母さん。


   ……ただいま。
   それから…








   ……ありがとう。








   ・


   ・








   あ。


   あらあら。


   …焦げちゃった。


   返しが遅かったのね。
   でも


   …お母さんみたいにうまく出来ない。


   元々、お砂糖は焦げやすいのよ。


   …。


   失敗は成功の元。
   失敗を繰り返して人は出来るようになるものなのよ。


   …でも何度やっても焦げちゃう。


   あおは不器用だから。


   …。


   こら、蓮。


   …。


   葵、今日はもう一度だけ作ってみましょう?


   でも卵焼きばかりじゃ…。


   だからもう一度だけ。
   大丈夫、今度こそうまくいくわ。


   …いつになったらできるんだ。


   ……。


   蓮。


   ……。


   しかし、蓮君はなかなかに葵想いだよねぇ。


   …。


   なんだかんだ言いながらも食べてるもん。
   ねぇ、蓮君?


   …うるさい。


   …本当はお母さんに食べて欲しいのに。


   私も食べているわよ。


   はーい、聖さんも聖さんも。


   違うの、焦げてないのを食べて欲しいの。
   お母さんが作る卵焼きみたいにふんわりして、焦げてないのを。


   確かに蓉子さんが作るとふんわりしてるよねぇ。


   と言うより、お砂糖を入れるとふんわりするものだから。


   …。


   …蓉子さん蓉子さん、それは逆効果。


   …あ。


   …。


   葵。


   …お仕事で疲れて帰ってくるお母さんに甘い卵焼きを作ってあげたいの。


   …葵。


   ……。


   ありがとう、葵。


   …。


   私は葵の作る卵焼き、好きよ。


   …でも。


   甘い卵焼きも、出汁巻きも。
   とても美味しいもの。


   …。


   あおは出汁巻きなら焦がさない。


   …。


   …蓮。


   蓮君、行動で示すのも確かにすごく大事なんだけどさ。
   時には優しい言葉ってのも必要だと聖さんは思うぞー?


   …。


   でもま、あれか。
   蓮君は照れ屋さんだから


   聖はうるさい。


   あらら、図星かにゃ?


   やかましい。


   おやおや。


   ……もう、良い。


   おっと。
   蓮君、どこ行くのかな。


   部屋。


   まぁ、待て待て。


   …。


   最後まで付き合ってあげなよ。


   …もう、十分食べた。
   しばらくは要らない。


   まぁ、然う言わず。
   な?


   ……。


   よしよし、良い子だ。


   聖の為じゃない。


   分かってるって。
   蓮はやっぱり、葵想いだ。


   ……葵。


   うん?


   …今日はもう、お仕舞いだ。


   …うん、分かってる。


   …。


   …ねぇねぇ、蓉子さん。


   …なに?


   なんかさ、双子って面白いよね。


   …面白い、のかしら。


   うん、感覚とか雰囲気とかが面白い。
   全然、分からなくて。


   …それは面白いと言うのかしら。


   言う言う。


   …双子とか、関係無い気もするけれど。


   お母さん。


   ん?


   もう一度だけ、やってみます。


   然う。
   それじゃあ…


   蓮君。


   …。


   葵は屹度、良いお嫁さんになるよ。


   …どうだか。


   聖さんには分かる。


   良い嫁の条件は料理が出来るってコトだけじゃない。
   若しもそれだけ要求してくるヤツがいたら、そんなの、ばかだ。


   お、珍しく長い。


   …。


   蓮君。


   …。


   君も作ってみる?


   …は?


   自分で言ったでしょや?
   ばかだって、ね。


   …。


   料理は出来た方が良いよ。
   好きな人に喜んでもらえる。
   お互いに作れば仕合わせは何倍にもなる!、てね。


   ……。


   卵焼き。
   蓮もだけど、葵も好きだろう?


   …なんで葵が出てくる。


   先ずは身近に居る好きな人から。


   …。


   別に私達でも良いけどね?


   …面倒くさい。


   そんなんじゃもてないぞぅ?


   …別に良い。


   あらら。


   …。


   でもまぁ、あれだ。
   葵は誰にもやるつもりは無いんだけど。


   …親ばか。


   おう、ありがとう。


   …。


   蓮君は誰かを貰ってきそうだね?
   私に似てるから。


   …知らない。


   はは。
   ま、私は貰って欲しかったんだけどね、蓉子さんに。


   ……。


   出来た!


   お?


   お母さん!


   ええ。


   なになに出来たの?
   見せて見せて。


   うん。


   お、すごい。
   ふんわりしてるし、ひどい焦げもない。


   今までの中では一番、ね?


   うん、一番だ。
   ねぇ、蓮君。


   …。


   蓮、どう?


   …。


   あ。


   あらら。


   蓮!


   聞いたのは葵。


   だからって!
   最初はお母さんに食べてもらおうと思ったのに!


   …。


   全く、蓮君は。
   仕方ないなぁ。


   蓮のばか!


   …。


   お母さん、食べてみて。


   ええ。


   私も食べても良いかにゃ?


   うん、勿論。


   じゃ、いただきまーす。


   いただきます。


   …。


   …どう?


   …うん、美味しいわ。
   ねぇ、聖。


   うん、美味しい!


   本当?


   ええ、本当


   まだまだだ。


   …え。


   ……。


   蓮、どうして貴女は然ういう風にしか言えないの。


   …。


   れーん。


   …にゃッ。


   お、懐かしい。


   ……ひゃなへ。


   蓮君には笑顔が必要のようだからね。


   ……。


   ……と言うかね、美味しいって笑顔で言ってあげれば、葵はもっと、上手になる。
   人ってね、わりとそんなもんなんだよ、蓮。


   …。


   分かった?


   ……ふん。








  
「Weird Counterpoint ~SK4 Ver.~」
   originar music:Hiroki Kikuta
   arrangement:Junya Nakano
   直訳:不可思議な対旋律