お前さ、子供の好きなのって知ってんの?
子供?
あんたの?
お前のだよ、でこちん。
私の?
他に誰が居るんだよ。
だから、あんたと蓉子の。
うちの子供の好きなの知っててどうするんだよ。
卵と鶏肉が好きで野菜が嫌いなのよね、アメリカ人二世は。
それでもう片方は好き嫌いはあまり無いけどレバーは苦手、だったかしら?
うちのちび達のじゃないって言ってんだろ。
と言うかなんで知ってるんだよ。
良く一緒に食事をしているからかしら?
勝手に来て、勝手に食べてるだけだろ。
美味しいわよね、佐藤家のごはん。
褒めても何も出さない。
別にあんたの事は褒めてないわよ。
さっさと帰れ。
今日は蓉子のよね。
楽しみだわ。
いっそ、食費払え。
でもそうねぇ、うちの子は何が好きなのかしら。
払う気が無い上に、知らないのかよ。
だって興味無いし。
最悪、だ。
別に知らなくても困るものでもないし。
最低、だ。
お前、そのうち親として認識されなくなるぞ。
こっちは認知しているのだから良いんじゃない?
認知と認識は違う。
そうかしら。
同じようなものだと思うけど。
違う。
例えば、どこが?
認知は
辞書で引いた事はあるけれど。
同じよ、結局は。
…よーこ。
少なくとも私にとっては。
よーこーー。
ちょ、何よ。
私、やっぱりこいつ嫌い。
はい?
やだ。
なんでこいつが志摩子の…ああ、もう嫌だ。
あらあら。
江利子、何の話?
子供の好きなものを知っているかと聞かれたから、知らないと答えただけよ。
ねぇ、お義姉さま?
うるさい黙れ、でこっぱち。
江利子、本当に知らないの?
ええ。
…。
あら、眉間に皺?
…それはどうかと思うわ、江利子。
然う?
ええ、然うよ。
ふぅん、そんなものなのかしら。
然うよ。
貴女はあの子の親なのだから。
認知するだけで親になれるのに?
親子ってそういうものではないでしょう?
…。
…。
…。
…何よ。
何って?
じろじろ見ないでって言ってるのよ。
あら、どうして?
気が散るのよ。
と言う事は気にしてくれていたのかしら?
…。
それ、好きなの?
それ?
飲んでるの。
ミルクティー、かしら。
嫌いなら、飲まない。
ふぅん。
あ、一寸
…甘い。
人のもの、勝手に飲まないでよ。
甘いの、好きなのね。
そういう気分だっただけよ。
いつもは
いつもは?
…あんたには関係無いじゃない。
まぁ、然うね。
…。
…。
…だから、
江利子さま。
うん?
江利子さまも如何ですか?
このミルクティー、恵麻の最近のお気に入りなんですよ。
ママ!
然うねぇ、甘いから要らない。
お砂糖を控えればそんなに甘くは無いですよ。
あら、これ砂糖を入れてたの?
……。
甘いのが好きなのね。
…いつもは入れないわよ。
いつもは、ねぇ。
…。
ところで。
貴女は何が好きなのかしら?
…は?
好きな食べ物、と言うのかしら。
何でも良いじゃない。
まぁ、良いのだけれど。
親友が、ね。
…?
貴女がその昔、私の愛人呼ばわりした奴とその嫁。
……。
聖さまと蓉子さまはお元気そうですね。
ええ。
特に聖は相変わらず無駄に元気で、蓉子が大変そうなの。
あの調子だともう一匹、増えるかも知れないわ。
ふふ、然うかも知れませんね。
…。
で、何が好きなのかしら?
どうせ興味なんて、無いんでしょ。
言ったって無駄だわ。
ええ、無かったわよ。
…。
でも今は聞くくらいにはあるわよ。
言ったからって、
グラタン。
……。
へぇ、グラタンねぇ。
特にシーフードのグラタンが好きなんですよ。
ママ…!
ふむ。
こっちはこっちで負けず劣らず分かりやすいものだったわねぇ。
別にグラタンなんて
チーズとホワイトソースが好きみたいですね。
となると、シチューはホワイトでチーズ入りが好みかしら?
はい。
余計なこと、言わないでよ!
こんな人に
志摩子。
はい、江利子さま。
今度来る時は作ってみようと思うのだけれど、食べる?
はい、勿論。
………。
久しぶりです。
うん?
江利子さまの作った料理を食べるのは。
そんな良いものでは無いわよ。
モト、買ってきて作るだけだから。
いいえ、それでも嬉しいです。
…ふぅん。
それに江利子さまはご自分が思っているより、凝り性なところがありますから。
モトを使ったとしても、それはとても美味しいものになるんですよ。
…然うかしら。
恵麻。
…なに。
楽しみね。
…別に楽しみじゃないし。
ふふ。
H a p p y S y n t h e s i z e r
葵。
うん?
…。
恵麻?
どうしたの?
今日、葵の家に行っても良いかしら。
うち?
うん、良いよ。
…葵。
あ、蓮。
丁度良かった。
恵麻が今日、
私は葵に聞いているのよ。
……。
えと。
…葵、帰ろう。
あ、うん。
でも今日は恵麻も一緒に
…。
恵麻?
考えなくてもアメリカレンコンも一緒なのよね。
…うるさい、でこすけ。
はぁ?
でこが眩しい。
何ですって。
前髪後退。
あんただって頭、薄いくせに。
髪の毛が細いだけ。
私だって後退してるわけじゃないわよ。
今、は。
…。
…。
ああもう、二人とも止めて。
どうして顔を合わせると喧嘩になるの。
喧嘩?
そんなもの、
してない。
労力の無駄だわ。
…時間の無駄。
…。
…。
だから…ああ、もう。
兎に角帰ろ?
聖ちゃんがおやつ作って待ってるよ。
…今日はシフォンケーキ。
そうそう、シフォンケーキって言ってた。
聖ちゃんのシフォンケーキ、美味しいよね。
…蓉子のが食べたい。
もう、蓮は
マザコン。
…。
…恵麻。
ふん。
はぁい、ごきげんよう。
…。
…。
…江利子、さん?
あーおーい。
え、え…きゃ。
ごきげんよう?
は、はい、ごきげんよう。
…。
…。
そっちの二人も。
ごきげんよう?
…な、んで。
……。
んー?
…つか。
おいこら、でこちん。
聖、おやつは未だかしら。
子供達が帰ってきてしまったのだけれど。
お前に食わせるものはないっつの。
と言うか葵から離れろ。
…。
この子、抱き心地が良いのよねぇ。
蓉子の遺伝子が強いだけあって。
良いから、早く、離れろ。
……。
はいはい、怖い親子ねぇ。
…どうして、いるの。
ごきげんよう、恵麻。
学校は楽しかったかしら?
…なんでここにいるのよ。
なんでって?
どうして分かったのよ。
別に分かってなんかないわよ?
じゃあどうして
簡単に言えば、おやつを食べに。
だから食わせないっつの。
おやつはちび達と蓉子の為に作るんだ。
誰がお前なんかに
だって、恵麻。
残念ね。
…別に。
恵麻ちゃんもちび、だから。
お前だけにやらない。
…ちび。
ケチねぇ。
うるさい。
蓮、葵、こんなでこちんはどうでも良いから早く上がって上がって。
恵麻ちゃんもどうぞ。今日はやたらに冷えたねぇ。
でこちんはさっさと帰…
手洗いとうがいはちゃんとするのよ。
て、おいこらでこすけ。
蓉子、早く帰って来ないかしらねぇ。
ねぇ葵、最近蓉子は忙しい?
え、と、最近はそうでもないと思います…。
然う?
は、はい。
…葵、着替えるぞ。
あ、うん。
じゃあ江利子さん、また後で。
あらあら。
……。
恵麻、貴女は上がらないのかしらね?
……最悪。
人様の家に上がる前に先ず言う事は何かしら?
…なんで、あんたに。
志摩子はそんな事も教えていな
お、邪、魔、し、ま、す。
はい、良く出来ました。
と言うか、お前がそれを言うか。
親、だし?
臍で茶を湧かせるな。
あら、それは興味深いわ。
是非、見せて
黙れ、でこちん。
……むかつく。
むかつく、むかつく…。
ふぅん。
まぁまぁね。
黙れ。
これは柚子かしら?
蓮、葵、恵麻ちゃん。
今日のシフォンケーキは柚子のなんだけど、どう?
…柚子。
柚子の良い匂いがして、おいしい。
…ちょっと苦いわ。
葵は気に入った?
うん。
私、これ好き。
そっかそっか。
蓮君は苦手?
…。
まぁ、食べてるから大丈夫か。
合わないと食べないもんなぁ。
恵麻ちゃんの口には合わなかったかな?
…。
素直に言っても良いのよ、恵麻。
不味いって。
うるさい、お前は黙れ。
…良い匂いだとは思うんですけど。
苦いのが駄目?
……はい。
そっか。
じゃ、今度恵麻ちゃんが来る時は違うのを用意しよう。
…。
あら、貴女もそんなに来るの?
あんたと一緒にしないでよ。
私はそんな頻繁には来ないわよ。
嘘付け、このでこっぱちが。
そうねぇ、一ヶ月に一回くらいかしら?
今月はこれで三回目だ、でこちん。
それで恵麻は?
佐藤家には良く遊びに来るの?
…。
葵?
…そんなには。
ねぇ、蓮。
…。
ふふ。
まぁ、そうかもね。
私も聖の家になんか、行かなかったもの。
呼びたくもないね。
そのくせ蓉子はちゃっかり呼んでるのよね。
しかもお泊りだし。
親がいるのに良くやるわ。
うるせぇ。
と言うかあの頃は未だ何もしてない。
未だ、ね。
食ったのなら、もう帰れ。
さっさと帰れ。
そうねぇ。
ああ?
ところで、聖。
なんだよ。
食ったのなら、早く帰れよ。
私は蓉子の家、行ったわよ。
それなりに。
は?
一人暮らしの時も。
同じベッドで眠った事もあるわ。
は…?!
ところでこれ、生の柚子は使ってないでしょう?
江利子、
柚子の加工品…ジャム、或いは柚子茶かしら。
それより同じベッドで
当たり、ね。
最近はシフォンケーキに凝ってるらしいわね。
蓉子が言っていたわ。
そんなの、聞いてないぞ…!
私は言ってないもの。
蓮と葵はなんのシフォンが一番好き?
…。
えと…あずきの、です。
おいこら、でこちん…!
へぇ、渋いわねぇ。
蓮は?
…別に。
ああ、蓉子のが一番なのね。
聖と同じで。
…。
聖、お茶をもう一杯貰えるかしら?
…江利子。
飲んだら、帰るから。
一寸やらなきゃいけない事があるのよ。
まぁ、ある程度の支度は済ませてきたのだけれど。
…。
さっきの話、詳しくは蓉子に聞いてみなさいな。
私が話したところで納得はしないだろうし。
ま、誰が話したところで内容は変わらないだろうけど、それでも印象は変わるでしょうから。
……。
そろそろ夕飯の支度の時間かしらね。
恵麻。
…。
えーま。
…何よ。
これ、飲んだら帰るから。
帰れば良いでしょ。
私は
志摩子が待っているわよ。
それとも黙ってお泊りなんかして心配でもさせるつもりかしら?
え、お泊り?
…葵、お願い。
え、でも、
うちは良いよ、葵。
でも、聖ちゃん。
恵麻ちゃんと江利子は別問題だからね。
それに恵麻ちゃんの気持ちは分からないでもないから。
あら、私の娘でも守備範囲内?
莫迦か。
蓮、蓮も良い?
…いやだ。
蓮君、女の子には優しくしないと駄目だぞぅ?
…。
しかし良く食べるねぇ、蓮君は。
そんなに気に入ってくれたかにゃ?
聖。
…あ?
今日のところは連れて帰るわ。
約束があるのよ。
は、約束?
然う、お約束。
ねぇ、恵麻?
……。
そんなのがあるのなら、
然う言うわけだから、帰るわよ。
恵麻。
嫌よ、私は
恵麻?
嫌だって言ってるでしょ。
……。
な、何よ。
面白いわ。
は、はぁ?
さぁ、帰るわよ。
人の話を、
はぁ。
恵麻ちゃん。
な、何ですか。
スッポンの江利子。
…え?
一度喰い付いたら離れないんだよ、こいつは。
然う、昔からね。
……。
今度は何企んでんだよ、お前。
別に何も。
蓉子に宜しくね、聖。
嫌だ。
お夕飯、一緒に食べられなくてごめんなさいって伝えておいて。
絶対に嫌だ。
蓮、葵。
ごきげんよう。
またね。
……。
ご、き、げ
…ごきげんよう。
え、と。
ごきげんよう、江利子さん。
恵麻、また明日ね。
……。
じゃーーーん。
…。
見て見て、蓉子。
…はいはい、今度は何かしら?
これ。
…。
買っちゃった。
…貴女ね。
帽子だけで幾つあると思っているの。
でもさ、これは今までに無いでしょ?
くまさんのがあるわよ。
耳つきの。
あれも可愛いけど、これも可愛いと思うんだ。
…。
パンダ帽子!
ね、蓉子も然う思うでしょ?
…蓮、葵。
ね?ね?
貴女達の聖は貴女達が可愛くて仕方ないのね。
うん、可愛い!
しぃ。
…おう。
折角、お昼寝してるんだから。
でも、帽子…。
起きたらね。
当てるだけ…。
だめ。
置くだけでも…。
だーめ。
…蓉子のけち。
何ですって?
…はい、起きてからにします。
宜しい。
…ちぇ、つまんない。
聖。
…なに。
それ、良く見せて。
…見たい?
…。
見たい?
…見せてくれないなら、
はい、蓉子。
…。
にしし。
…どれどれ。
可愛いでしょ?
蓉子のもあるよ。
私の?
なんで。
蓉子、パンダ好きじゃない。
好きだけど、だからって
はい、蓉子の。
……。
蓉子のは耳あて。
…どこで買ってくるのよ、貴女。
な・い・しょ。
…で、貴女のは?
私のは無いよ。
似合わないもん。
そんな事無いわよ。
合わない合わない。
こういう可愛いのは、蓉子みたいな可愛い人に似合うの。
……。
ん?
…貴女ってそんな人だったかしら。
変わった?
…子供達が生まれてから拍車が掛かったような気がするわ。
なんの?
…子供達に甘くて、可愛がってくれるのは良いのだけど。
私にも…
私にも?
その…甘くなったと言うか。
え、今更?
…。
そんなの、前からだったでしょや?
…聖。
だって私の可愛い蓉子さんだもの。
蓮と葵が来る前から、ずっと…。
…。
よーうこ。
…。
これ、つけてみて。
…いや、一寸。
え、なんで?
流石にこの歳でこれは…
良いじゃない。
可愛いんだから。
…あのね、聖。
うん?
貴女は然う言ってくれるけど…
…。
…て、聖。
貴女、何して
家ですれば良いよ。
…家で?
外でするのが恥ずかしいなら、さ。
……。
ふふ、思ったとおり。
可愛いな。
……聖。
ちび達も早く起きないかな。
絶対、似合うと思うんだ。
ね、蓉子。
…はいはい、然うね。
ふふ。
でも私はくまさんの方が可愛いと思うんだけど。
特に蓮には。
え、然う?
ええ。
…だから。
む…。
屹度、貴女にも似合うわ。
…え?
くまさんの帽子。
……。
だって蓮にそっくりなんだもの。
えー…。
今度、編んであげるわね。
え、まさかの手作り?
何よ、要らないの?
手作りは嬉しいけど…くまさんは、なぁ。
家でかぶれば良いじゃない。
貴女が言ったのよ。
…。
私のパンダさんと一緒に。
ね、聖。
…けどそれを言うなら、蓉子にも似合うよね。
くまさん。
私?
葵もくさまんが似合う。
その葵に蓉子はそっくりなんだから。
…。
お揃いにしちゃう?
…耳つきで?
然う。
…どんな家なのかしらね、うち。
佐藤家。
然うだけど。
アニマル佐藤家?
……どんな家なのよ、それ。
結局、蓉子はくまさん帽子は編まなかったのよねぇ。
…。
アニマル佐藤家、見てみたかったのに。
残念だわ。
…と言うか。
帰るんじゃなかったのかよ。
だって、恵麻が動かないんだもの。
つか、お前はなんでまるで見ていたかのように話すんだよ。
そりゃあ、見てたもの。
はぁ?
と言うのは勿論、冗談。
あんたも知ってる通り、蓉子から聞いたのよ。
…どうして蓉子は
まぁ、親友だし?
親友だから、たまに同じベッドでも寝たし。
…。
はいはい、今更嫉妬するもんじゃないでしょ。
うるさいな。
くまさん帽子、蓮と葵は流石にもう被らないのね。
良く似合っていたのに。
もう、赤ん坊じゃないからな。
淋しい?
別に。
蓉子になら簡単に洩らすくせに。
…。
ま、別に聞きたいわけでもないから良いけれど。
それに蓉子に聞けば分か
淋しくはない。
…ふぅん?
昔も今も、ちび達はちび達に変わりない。
あ、そ。
じゃあ、そういう事にしとくわ。
…。
…くまさん帽子、ね。
うちはどうだったのかしら。
ちびの好き嫌いも知らないで、良く言えるな。
然うかしらね。
どうせ、どうでも良いんだろう。
…ふふ。
何がおかしいんだよ。
あの白薔薇がまさか、ここまで親莫迦になるとは思わなかった。
まぁ、ある程度までは予想していたけれど。
…ふん。
今更だけど、蓉子との子はそんなに可愛い?
…。
可愛いのね、とても。
自分にそっくりだとしても。
…だから、だよ。
だから?
…蓉子の中から、私そっくりの子が生まれてきた。
だから。
…ふぅん。
そんなものなのかしら。
…。
ま、良いわ。
恵麻、志摩子が待っている。
……。
返事無し、と。
聖、シフォンケーキごちそうさま。
江利子。
うん?
お前がどんな風に思っていたとしても。
あの子はお前の子だ。
…。
そして…志摩子の子だ。
…それでも。
あそこまでそっくりに生んでくれるとは思わなかったわ。 あれでは認めざるを得ないもの。
…。
もう少しあの子に似ていれば、ね。
そんなの、大して関係ないだろ。
お前は。
あんたの場合は大いに関係あるのよね。
…。
あの子達は、かつての私達の姿に良く似ているけれど。
でもそれだけなのよね。
恵麻ちゃんはお前と違って良い子だよ。
だって、志摩子が混じってるもの。
けど志摩子の気質とは違うのよ、あれは。
志摩子はあんなじゃないわ。
…。
親になれば、親の気持ちが分かるとは言ったものだけれど。
貴女はどうかしら?分かった?
そんなのはどうでも良い。
あ、然う。
じゃあ今度、蓉子にでも聞いてみるわ。
勿論、あんた抜きで。
…本当、むかつくでこちんだな。
ごきげんよう、志摩子。
ごきげんよう、江利子さま。
……。
おかえりなさい、恵麻。
…。
恵
た、だ、い、ま。
ふふ、おかえりなさい。
……。
部屋に行くの?
…そいつが帰るまで、出ない。
あら、私ってばそいつ呼ばわり?
恵麻。
何があっても、出ないんだから!
じゃあ、入るのは良いのね?
…!
ねぇ、志摩子。
江利子さま。
は、入るのなんてもっと駄目に決まってるでしょ!
莫迦じゃないの!
有難う。
は…!?
さて、志摩子。
キッチン、借りるわね。
はい、どうぞ。
恵麻。
何よ、ママが何と言っても今日は
ごはんが出来たら、呼びに行くわね。
だ、だから
恵麻。
……。
お腹、空いているでしょう?
……別に空いてない。
あら、然うなの?
…葵の家でシフォンケーキ、食べたから。
柚子の、ね。
柚子?
……。
恵麻、本当に食べたの?
…食べたわよ。
柚子の味、しなかったの?
……。
風味は柚子そのものだったわね。
苦味もあったわ。
それでも、食べられたの?
…うん。
然う。
志摩子、何か問題でも?
いいえ、ありません。
そ。
恵麻、ちゃんとごちそうさまって言ってきた?
…いつまでも子供扱いしないで。
あら、貴女は子供よ?
……。
未だ、許されているのだから。
でしょう、志摩子。
…江利子さま。
……絶対に、呼びになんか来ないで。
いいえ、行くわよ。
面白そうだから。
……最悪。
ふふ。
志摩子、手伝いは要らないわ。
はい、分かりました。
それ、動画?
…!
ノックは、したわよ。
相変わらず鍵は付いてないのね、この部屋。
志摩子らしいわ。
何、勝手に入ってるのよ!
耳。
は?
こんなの付けてるから、聞こえない。
自業自得。
ちょ、勝手に触らないでよ!
で?
これ、何?
…なんでも良いでしょ。
随分、機械的な声ね。
…。
好きなの?
どうでも良いでしょ。
ふぅん。
だから、勝手に触らないでよ!
…へぇ、面白いわね。
……。
テレビの中から聞こえてくる綺麗事ばかりの歌なんかよりも、よっぽど、面白い。
……。
貴女はこういうのに興味があるのね。
…どうでも良いじゃない。
ええ、良いわ。
だからこそ、面白いのよ。
どうでも良いけど、出て行ってよ。
勝手に入ってこないで。
……。
無視しないでよ!
……。
ちょっと
これ、面白いわ。
は?
恵麻、貴女は音楽が好きなのね。
……別に。
作ってたり、するのかしら?
…!
曲?
それとも詞?
ど、どうでも良いじゃない…!
ごはん、出来たわよ。
は、ごはん…?
そう、ごはん。
佐藤家風に言えば、ね。
いらない、出て行って。
志摩子はもう、待ってるわ。
関係ない。
貴女が来るまで、食べないって言っても?
……。
いつも二人で食べているのでしょう?
…あんたに、何が分かるって言うの。
分からないわ、でも、知っているわ。
……。
これ、後でまた聞いても良いかしら?
絶対に、駄目。
然う、有難う。
じゃあまた後で。
駄目って言ってるでしょ、と言うか帰ってよ!
これ以上、ママに
帰ってるわよ。
…え。
帰ってる、って言ったの。
……何よ、それ。
恵麻。
……ママ。
だから言ったでしょう?
はい、言われました。
……。
恵麻、手は洗った?
…これ、なに。
今夜のごはん、かしら。
ママ、これどういう事なの…!
恵麻、好きでしょう?
私が好きなのはママが作ってくれたのよ!
あら、誰が作ったとは言ってないけれど。
流れで大体、分かるわよ!
ママ!
恵麻。
絶対に食べない、食べてなんかやらない!
……。
今更こんな事して!
ばっかじゃないの!
志摩子。
…はい。
味、普通過ぎて詰まらないかも知れないわ。
江利子さまの普通はいつだって、美味しいですから。
て、なに無視してんのよ!
しかも一寸作り過ぎたわ。
失敗も良い所ね。
珍しいですから。
江利子さまが失敗するのは。
面白い?
はい、とても。
……!!
恵麻、さぁ、食べましょう。
ママ…!
恵麻。
どうして、どうしてよ…!
…。
どうして私の話を聞いてくれないのよ…!
どうしてこんなヤツばかり…!
…恵麻。
どうしてなの、ママ…!
お腹が空いていると。
…え。
怒りっぽくなる。
貴女は小さい頃から然う。
……っ!
だからさぁ、食べましょう?
恵麻。
………。
江利子さま、頂きます。
どうぞ。
……。
…ん、熱い。
グラタン、だから。
はい…。
……。
冷めたら、美味しくなくなるわよ。
元から、美味しくないんでしょ。
だったら、変わらないわ。
熱が誤魔化してくれる分だけ、マシ。
程度の話。
あんたのそういう態度、ほんっと、むかつくわ。
有難う?
……。
飲み物は?
甘いミルクティー?
…ほんっと、むかつく。
江利子さま。
うん?
美味しいです。
そ?
はい。
……。
ああ、若しかして猫舌なのかしら?
…!
じゃあ、冷たい方が良いわね。
飲み物。
……。
志摩子は?
同じもので良いかしら?
はい、有難う御座います。
……。
…恵麻。
……。
入っても、良いかしら?
…あいつは。
お風呂に入っていらっしゃるわ。
珍しいでしょう?
…勝手に、入ってきたわ。
ああ。
……。
……。
…貴女が。
…?
音楽が好きなのは、江利子さまに似ているのかも知れないわね。
…どこが。
全っ然、似てないわよ。
…然うね。
似てる、じゃないわね。
……私はあいつになんか。
江利子さまは絵。
貴女は音楽。
私には無かったものたち。
……。
江利子さまの絵、貴女は見た事
ないわよ。
あんな、売れもしない…
…。
……。
…でも、私は好きよ。
あの方が描く絵。
……。
そして。
貴女の作る音楽も。
な…。
絵も音楽も、屹度、その人の中から生まれてくるもの。
その人そのもの。
だから、ね?
……。
恵麻。
……何。
美味しかった?
……。
グラタン。
…ママが作る方が、美味しい。
ありがとう、恵麻。
…本当の事を言っただけよ。
……。
……でも。
…でも?
もう一度くらいだったら、食べてやっても良いわ。
結局、無くなっちゃったわね。
…然うですね。
結構、食べるのね。
あの子。
ダイエット、してる筈なんですけど。
ダイエット?
あれで?
私もそう言っているんですが。
甘いミルクティー、飲んでおいて?
女の子、ですから。
そんなものかしらね。
なのでしょうね。
ああ、でも。
はい。
蓉子も甘いのが好きだわ。
そのちび達も。
でしょう?
いつだか、気にしてた。
…体型、ですか?
曰く、油断していると直ぐにつくそうよ。
聖はもう少しついてる方が良いって言っていたけれど。
ふふ。
…。
…。
……。
……。
…志摩子。
……はい。
グラタン、普通だったわ。
貴女にとっては、然うでも。
…。
…あの子にとっては、特別だと思いますから。
あれぐらいで特別になるのだったら、
なりますよ。
…。
あの子にとっては。
…そ。
はい。
…詰まらないわね。
でしょうか?
…ええ、詰まらないわ。
……だったら。
……。
普通に、して下さいませんか。
…。
……。
…志摩子。
…はい。
普通は、詰まらないわ。
はい。
……。
……。
…だから。
ん……。
…少し、面白い事でも起こそうかしら。
江利子さま……。
…まぁ、計算は出来ないけれど。
出来たら、詰まらない…でしょう?
は?
だから、グラタン。
グラタン?
グラタンがどうかしたの?
食べたいのよ、蓉子の作ったの。
いきなりなんなんだ。
つか、お前はまた勝手に
江利子、グラタンが食べたいの?
ええ。
今日は丁度、蓉子もお休みみたいだし。
夕ごはんは蓉子が作るのでしょう?
然うだけど…。
蓉子、良いから。
こいつの言う事、聞かなくても
今日は寒いから。
へ?
良いかも知れないわ、グラタン。
でしょう?
蓉子…!
聖は嫌?
嫌じゃないけど、でも
じゃあ、良い?
良いけど、寧ろ大歓迎だけど!
だったら、決まりね。
蓮も葵も好きだから。
良いけど、良いけど…なんか、納得出来ない。
あんたの分、食べてあげても良いけど。
ふざけろ、でこちん。
ところで、聞いたのかしら?
は?
私と蓉子が同じベッドで寝た事。
え?
……。
ねぇ、蓉子。
…ええ、聞かれたわ。
ふふ。
と言っても、ただ寝ただけじゃない。
ええ、然うよ。
だって蓉子はただの親友だもの。
………。
聖、また何考えているのよ。
…それでも、面白く無い。
聖。
蓉子。
何。
もう、駄目だからね。
絶対、駄目だからね。
…もう、莫迦なんだから。
だってこいつ、志摩子に
志摩子に?
……。
手、出したから?
…。
聖、そんな今更の事…
……。
…ああ、はいはい。
ごめんなさいね?
…志摩子の事は良いんだ。
うん。
志摩子は良いんだけど、蓉子は駄目。
絶対に、駄目。
…本当に莫迦ね。
そんな事あるわけ無いじゃない…。
…蓉子。
莫迦すぎて、もう見飽きたわ。
うるさい、でこちん。
ねぇ、蓉子。
うん?
貴女、お腹に子供がいるのではなくて?
え?
なんとなく、だけど。
きゅ、急に何?
いるの?
いないの?
……え、と。
…。
聖は知っているのね?
…二ヶ月、よ。
然う。
おめでとう。
…笑わない?
あら、どうして?
だって…
人の事、言えないと思うから。
…え?
…は?
まぁ、分からないけれど。
ちょ、ちょっと待って。
それって
江利子。
何かしら、聖。
本当なのか。
さぁ。
さぁってなんだ。
未だ、分からないって言わなかったかしら?
また、お前は
でも、恵麻の時とは違うわ。
分かって、やっている事だから。
……。
……。
何?
い、いいえ、少し驚いて。
驚く?
……。
聖?
そんなに驚く事かしら?
自分も蓉子に仕込んでるくせに。
…お前と一緒に、
仕込むとか言わないで…!
あらあら。
……。
…蓉子さん、痛いです。
貴女達も今更、なのに。
…だって。
予定外、だった?
……。
でも、欠かさずにしてるんでしょう?
セックス。
え、江利子…!
まぁ、良いじゃない。
ねぇ、聖?
…ふん。
おめでとう、蓉子?
…ありがとう。
どういたしまして。
貴女も、おめでとう。
ありがとう、かしら。
未だ分からないのに。
これからは一緒に暮らすの?
さぁ、それはどうかしらね。
江利子。
グラタン。
…?
……。
好きなのよ。
だから。
恵麻。
…。
あの子の名前は、
捻りが全く無いわね。
今、聞いても。
…。
もう少し、面白い名前にすれば良かったのに。
江利子さまが考えて下さい。
私が?
次が、若しもあるのなら。
その時は。
……。
あれば、の話です。
…考えておくわ。
はい、お願いしますね。
…江利子の、え。
…。
志摩子の、ま。
確かに「聖」や「芙蓉」のように、関連付けて考えるのは難しいけれど。
…それでも、意味が無いわけではありません。
屹度。
聞いた事は無いけれど。
…。
……。
…私はもう、聞けません。
……。
……。
…けれど。
はい。
志摩子のし、江利子の
流石にどうかと思います。
面白いの範疇も超えています。
…然うね。
流石に無いわ。
でしょう?
……。
……。
…志摩子。
はい、江利子さま。
期待、あまりしない方が良いわよ。
…はい。
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