そんなとこで何してるんだ。


   あれ?
   蓮ちゃん、聖ちゃんと一緒にお風呂に入らんかったの?


   入るか!


   なーんだ。
   てっきり一緒に入ったかと思ったー。


   …で、何してるんだ。


   お月見?


   おにぎりで?


   だってお団子、無いんだもん。
   てか、あれ、葵ちゃん?


   入らないわよ?


   なーんだ。
   聖ちゃん、つまらないだろーなぁ。


   …本気で言ってるのか。


   お団子、もう少し早く帰ってきたらあったのにね。


   それ、かーさんにも言われた。


   でも今日、帰ってくるとは思わなかったわ。


   思い出した、から。


   思い出した?


   お月見。


   と言うか、団子が食べたかったんだろ。


   うん、みんなと食べたかった。
   だって久々じゃん。


   智はあまり、居ないからね。


   まぁ、そうなんだけどね。
   あー、やっぱりかーさんの茄子お新香が一番だなぁ。
   他のはどうにも、あ。


   それは同意見だ。


   て、それ、私のだよ。


   一切れぐらい良いだろ。


   だめ。
   返せ。


   無理。


   団子も食べたくせにー。


   さっさと帰ってこない智が悪い。


   むーー。


   もう、蓮は。
   お夕飯で食べたじゃない。


   人が食べているのを見ると食べたくなるもんだ。


   …ま、良いや。
   未だあるし、かーさんに言えば出してくれるだろうし。


   じゃあ、もう一切れ


   だめ、もうやんない。
   食べたいなら、かーさんに言えー。


   …。


   んー…。


   こら、智。
   お行儀が悪いわよ。


   でもこうすると、月が良く見えるよ。
   首も痛くならないし。


   それに寝転びながら食べたら喉に痞えて危ないわ。


   そうならないように食べる。


   駄目。
   ちゃんと起きて食べなさい。


   …ちぇー。
   葵ちゃんはおかーさんみたいなんだよなぁ。


   みたい、じゃないもの。


   …。


   …ああ、そっか。
   そうだよなー。


   …雨、結局、降らなかったな。


   でも雲が出てきてる。
   分からないわ。


   ……ねぇ、蓮ちゃん、葵ちゃん。


   何だ?


   何?


   お風呂なんだけどさー。


   …言っとくが、一人で入れ。


   だからさ。
   うち風呂じゃなきゃ良いと思うんだよね。


   …と、言うと?


   温泉に行こうよ。
   みんな、でさ。


   …。


   …ああ、温泉。


   良いと思うんだよねー。
   …うん、良い!


   て、おい。


   いつが良いかな。
   葵ちゃん、お仕事いつだったらお休み取れそう?


   んー、然うねぇ。


   蓮ちゃんは…まぁ、いっか。


   良くないだろう。
   私にだって都合が


   あんの?


   あるに決まってるだろ!


   ふぅん、あるんだー。


   …聖と一緒にしてるだろう。
   絶対に。


   聖ちゃんとおかーさんにも聞いてみないとなー。


   聖ちゃんは喜んで乗りそうだけどね。


   …何処が良いかな。


   …。


   …。


   …何。


   なーんだ、蓮ちゃんも行きたいんじゃん。


   どうしてそうなる。


   だって、ねぇ。


   蓮は昔からこういう人だから。


   て、おい。


   私、蓮ちゃんの小さい頃、知らないんだよなぁ。
   もう一寸、早く生まれてたらなぁ。


   …実際、妹が出来たって言われた時は吃驚したけどな。


   でも嬉しかったな、私は。


   へへ、でしょうでしょう?


   …自分で言うな。


   蓮ちゃんだって嬉しかったくせに。


   は。


   なんだかんだ言っても智のお世話、良くしてたくせにね。


   うるさいぞ、葵。


   けど。
   何処が良いかな、のんびり出来るとこが良いよねぇ。


   然うねぇ。


   ……。


   みんなで何を話しているのかしら?


   あ、かーさん。
   へへ、内緒。


   あらあら、私は仲間外れ?


   違う違う。
   後でのお楽しみ、だよ。


   然うなの?


   ええ、然うです。
   その方が屹度、楽しめると思いますし。


   楽しい事?


   …多分。


   多分、なの?


   多分じゃ、無いよ。
   もう、蓮ちゃんは。


   ふふ、じゃあ楽しみにしているわ。
   聖と一緒に。


   うん、しておいてー。


   …智の話し方、ますます聖に似てきたな。


   …ふふ、然うだね。


   おかーさん、おかーさんのお新香、美味しい。


   然う、それは良かった。


   私、蓉子さんのようには出来ないんだよなぁ。


   葵は蓉子には敵わない。


   あら、そんな事無いわよ。
   葵のも美味しいもの。


   …然う、かな。


   ええ。
   それは蓮、本当は貴女が一番良く知ってるでしょう?


   ……。


   あ、そっぽ向いた。


   ふふ。





   「あーさっぱりしたーー」





   あ、聖ちゃんが出てきた。


   なになに、みんな揃って何してるの?


   お月見の延長戦、かしら?


   えー私が風呂に入ってる間にずるーい。


   別に意識して始めた事じゃない。


   私も仲間に入れてよぅ。


   とりあえず、髪の毛をちゃんと拭いた方が良いと思いますけど。


   蓉子、蓉子。


   はいはい、早くこちらにいらっしゃい。


   はぁい。


   あと、上までちゃんとボタンを留めて?


   留めてー。


   私は貴女の髪の毛を拭くので手がいっぱい。


   むー。


   どちらが良い?


   …髪の毛。


   はい。
   じゃあボタンは自分で留めて。


   はーい。


   …と言うか、良い歳して有り得ない。


   …まぁまぁ。


   なんて、蓮もしてもらってるんじゃないの?


   誰がしてもらうか!


   ねぇ、葵?


   …まぁ、たまに?


   な…ッ?


   へぇぇぇ。


   ば、莫迦言うな、葵!


   …だって、そのまま寝ちゃう時があるもの。


   けど、頼んで無い!


   濡れたままだと、風邪、ひいちゃうじゃない。


   そ、そうかも知れないけど…だからってだな!?


   …蓮く〜〜ん。


   ……。


   やぁっぱり血は争えないと言うか?


   い、一緒にするな!


   あらあら、動揺しちゃってる?


   …葵!


   聖さん、気持ち良い?


   うん、気持ち良いよ。
   頭、撫でられてるみたいなんだよねー。


   だって、蓮。


   し、知るか!
   もう!


   …ふふ。


   ねぇねぇ、聖ちゃん。


   んあー?


   いつ、暇?


   いつだって暇。


   おかーさんも?


   いつだって、と言うのには語弊があるわね。


   でも、前よりかは暇になったよね。


   私はそれなりに忙しいわよ?


   あれ、然うなの?


   ええ、主に貴女の面倒で。


   ああ!


   …それはずっとだと思うが。


   然うなの、幾つになっても手が掛かる人なの。


   でも楽しそうなんですよね、蓉子さん。


   まぁ、ね。
   昔は色々あったけれど、今となっては楽しいわね。


   と言うか聖ちゃんがおかーさんに甘えなくなったら、それはそれで変だと思うなぁ。


   だろだろ?
   だから、これで良いのさ。


   威張って言う事じゃない。


   けどな、私が甘えたじゃなかったら君らは居なかったかも知んないぞー?


   …。


   …。


   うん、かもねー。


   いやぁ、ぶっちゃけもう二人ぐらい居ても良かったんだけどねー。


   もう。
   聖ったら、何を言っているの。


   …有り得たかも知れないと思うと、な。


   …寧ろ、三人で済んだのは蓉子さんの頑張りのおかげかも知れないね。


   はは。
   もっと欲しかった?


   智だけで十分だ。


   気にはなるけど…。


   私はそれでも多分、一番下のような気がするなぁ。


   確かに智は蓮たちと一回り、離れているから。
   可能性的には然うかも知れないわね。


   蓉子さんが良いって言ってくれたら、なァ?


   ばか。
   はい、お仕舞い。


   もう、お仕舞い?


   ええ、お仕舞い。


   じゃあ、ありがと…。


   …はいはい、どういたしまして。


   …。


   …。


   聖ちゃんはおかーさんのコト、好き?


   愚問だなァ、智。
   好きじゃ足りないくらい、好きさ。


   おかーさんも?


   …まぁ、ね。


   よーこ、まぁね、じゃ分かんないよー。


   …はいはい、好きよ。


   うん、ありがと…。


   …こら、もうお仕舞いって言ったでしょう?


   髪の毛拭くのは、でしょや?


   これも、よ。


   したのは言われた後だもんね。


   じゃあ、言い直す。
   これももう、お仕舞い。


   …良いじゃん、もう一回だけ。


   て、言われて何回されてきたのかしらね、私。


   へへ…。


   もう…。


   …聖と蓉子を止めてくれ、葵。


   …無理、かなぁ。


   良いじゃん。
   仲良しじゃないよりはずっと、さー。


   …。


   …。


   んー?


   …然うだとしても、限度があると思うぞ。


   …まぁ、確かに智の言うとおりなんだけね。


   けど、蓮ちゃんと葵ちゃんだって似たようなもんだよ?


   …。


   …然う、かしら。


   うん、かなり似てると思う。


   ……。


   あ、蓮ちゃん、本気で凹んだ?


   ……もう、どうでも良くなった。


   ふふ、よしよし。


   …。


   ほら、葵ちゃんに頭撫でられると悪い気がしない顔してる。
   そっくり、じゃないけど、似てないとも言えない。


   …もう、良いから。
   勘弁してくれ。


   でも、アレだな。
   君達の仲が良い事は親として、とても嬉しいなぁ。
   ねぇ、蓉子さん。


   然うね、聖さん。


   …。


   あ、戻ってきた。


   で、だ。
   智。


   うん?


   さっきはいつでも暇って言ったけど、実は然うでもなかったよ。


   そーなの?


   蓉子さんとの時間を満喫するのに暇なんて言ってる暇も無いと、今し方、思ってね。


   あ、そっか。
   うん、それはそうだね。


   て。
   そんな理由を本気で受け取らないの、智。


   でもおかーさん、今までずっと仕事で忙しくしてたから。
   聖ちゃんの言ってる事は間違いじゃないと思うんだ。


   智、本当に良く分かってるねぇ。


   …あらあら。
   これは参ったわねぇ。


   …。


   …。


   ん?
   どーした、二人とも。
   急に黙りこくって。


   …だから、もう良いって言ってる。


   て、蓮が不貞腐れてしまったから。


   はは、なるほど。


   …。


   蓮もお風呂、入ってしまったら?


   …そうする。


   なら、葵も一緒に入っちゃえば良いよ。
   背中、流してあげな。


   …。


   あれ、反応無し?


   臍を曲げすぎると、後で宥めるのが大変なんです。


   はは、違いない。
   蓮君のそーいうトコ、蓉子さんに似てるから。


   ……。


   聖、また蓮で遊んで。


   これも同じ顔だから、かなぁ。
   でも反応が違う、だから面白い。


   それに人の事、言えないでしょう?
   貴女も。


   ははは。
   だけど私の方が単純だったよ、蓉子さん?


   単純と言えば単純だったけれど、手間の掛かり具合は一緒。
   寧ろ、体力勝負で本当に大変だったわ。
   仕事の事なんて、考えてもくれないんだから。


   あははは、違いない。


   …好きで似たんじゃない。


   はいはい、よしよし。


   てか蓮ちゃんは存外、分かり易いんだよねー。


   ……あーもう、くそぅ。








   ……ふぅ。


   飲む?


   え?


   これ。
   蓉子のお手製。


   …。


   水で薄めてあるから、大丈夫さ。


   …でも、良いんですか?


   ん、何が?


   二人で飲むのに


   はっはっは。


   …。


   子が親に遠慮とか、要らないんだって。
   特には葵は、さ。
   然う、蓉子と教えたろう?


   …はい。


   ああ、何だったら私お手製の方が良いかな?


   聖さんの?


   私のは梅。
   蓉子のは杏。
   でもって蓉子のはちみっと甘い。
   知ってる?


   ふふ、はい。


   とは言え、あんまし甘いのばっかじゃいかん歳になってきたからねぇ。


   …。


   と、蓉子さんが良く言うんです、最近。


   …まぁ、取り過ぎは駄目ですよね。
   でもそれは若くたって同じですよ。


   葵は相変わらず、真面目だなぁ。


   はい、蓉子さんの娘なので。


   でもな、蓮もああ見えて良く似てるんだよな。


   正直、私以上に真面目かも知れませんね?


   顔は私なのになぁ?


   聖さんだって。


   ん?


   蓉子さん、言ってた事がありますから。


   んー……。


   貰っても、良いですか?


   どっち?


   聖さんが飲んでる方を。


   お、大人な女のセリフだねぇ。


   然うですかね?


   多分。
   ほい。


   ありがとうございます。


   堅苦しいって。


   あ、ありがとう、聖さん。


   ちゃん、で良いよ。
   今ぐらい。


   …。


   ね?


   ……聖、ちゃん。


   うん、それそれ。


   ……おいしい。


   でしょ?
   私も好きなんだ、これ。


   甘いの、苦手でしたよ


   堅い。


   …昔は甘いの、あまり得意じゃ無かったんだよね。


   十代の時は苦手だったな。


   うん、聞いた。


   でも蓉子さんが好きなのは、私も好きになった方が楽しいから。
   どうせなら楽しい方が良いじゃん?


   うん。


   ついでだから、私のも飲んでみる?


   聖ちゃんの?


   これよりは甘かないけど。
   蓉子さんも好きだよ。


   蓉子さんは聖さんが作ったの、何でも好きだから。


   へへ。


   良いなぁ。


   まぁ、蓮君は偏食家だからなぁ。


   それでも大分、食べられるようになったんだよ。


   それは葵が居たからさ。
   あいつは何だかんだ言っても、葵が作ったのは食べるんだ。


   然うでもないけど…。


   いや、然うだよ。
   私が言うんだから間違いないさ。


   …じゃあ、然う言うコトにしておくね。


   うん、しておけ。


   ん。


   あ、然うだ。
   智に見つかったら、全部、飲まれるから。
   ひーには秘密な?


   あの子、あまり強くないくせに好きなんだよね。


   特に私らが作ってるのが好きでなぁ。
   良いけど、自分が飲もうとした時に無いとがっかり感が凄まじい。


   特に蓉子さんの?


   おおよ。


   …けど、本当に美味しい。


   どうせだから、半分くらい、持って行けば良い。


   え。


   蓮とサ、飲めば楽しいよ。


   ……うん。


   ふぅ。


   聖ちゃん?


   いや、少し疲れた。


   …。


   んー?


   …なんでも無い。


   て、顔じゃないなぁ?


   ……。


   …歳、取った?


   ……。


   君らが良い歳なんだから、仕方ないさね。
   ひーもあれで、四捨五入すりゃ、三十路だ。


   ……。


   …蓉子、さ。


   …うん。


   少し、小さくなったんだ。
   抱く肩が細くてさ…。


   …。


   蓮もそれに気付いたみたいなんだよなぁ。


   …蓉子さん、私達が子供の頃は大きかったのに。


   葵。


   …はい。


   私も小さくなったかな?


   ……。


   ははは。
   葵は嘘がつけないなぁ。


   …ごめんなさい。


   だからってさ、別に気にしなくても良いんだよ。
   君らもいずれ、そうなると思うから。


   …けど


   私は蓉子さんを愛している。


   …え。


   一生。
   ここまで来たら、それぐらい、言っても間違いじゃあ無いだろ?


   …うん、そうだね。


   葵。


   ん…。


   仕合わせ?


   ……うん、仕合わせだよ。


   …そっか。
   なら、良いんだ。


   …蓮も。


   …。


   仕合わせなら、良いな…。


   …私は蓉子さんが仕合わせにしてくれた。


   …。


   蓉子さんが、くれた。
   だから私も…


   …蓉子さんは、お母さんは。
   聖ちゃんと居る時が一番、


   蓮も貰ってる筈さ。


   …。


   私は然う、思ってるよ。


   …ありがとう、聖ちゃん。
   それから…ごめ


   子の仕合わせを願うのは、親の、最も当たり前な感情さ。
   蓉子さん曰く、ね。


   …うん…うん。


   美味しい?


   …あまくて、おいしい。
   なんだか、懐かしい味がする…。


   それはおかしいな?
   ちびン頃に飲ませた事は無かった筈なのにな?


   聖ちゃんとお母さんが作った杏のおやつの話だもの。


   ああ、そういや作ったかもなァ。


   でも内緒で舐めた事、あるんだけど。


   蓉子さんには内緒でね?


   結局、ばれてしまったけれどね。


   あん時は失敗したなぁ。
   猫にまたたび、蓮君に杏酒ってね。


   …あの時は未だ、お手製では無かったけれど。


   うん、然うだった。


   ……聖ちゃん。


   うん?


   私…


   …うん。


   聖ちゃんとお母さんの子供で居て…良い?


   …。


   いて、いい…?


   そんなの、当たり前だろう?


   ……。


   葵も蓮も、蓉子と私の大事な子供さ。


   …けど


   何があっても、何が起きても。
   それは変わらない。


   …。


   愛しているよ、葵。


   …ッ


   蓮も、ね。


   …せい、ちゃん。


   蓉子も君達を愛している。
   忘れちゃ、いけない。


   ……うん…うん。


   …ほら。
   涙が入ったら、折角の甘いのがしょっぱくなっちゃうぞ?


   ……うん。


   あらら、困った子だなぁ。


   …ごめんなさい。


   よしよし。


   …。


   と言うかさ?
   葵を泣かしたのがばれたら、蓉子さんにこっぴどく怒られちゃう。


   …もう、聖ちゃんったら。


   はは。








   …。


   …。


   んー…あ〜れ〜?


   ひー。


   あれ、聖ちゃん?
   どったのー?


   …智。


   あー葵ちゃんだー。
   どう?一緒に飲むー?


   …見つかった、か。


   …みたいですね。


   あははははは。


   没収。


   あーーーー。


   これ以上飲んだら、聖さんの分が無くなる。


   良いじゃん、聖ちゃんにはおかーさんが居るじゃーん。
   おかーさん、飲んでれば良いじゃーーん。


   言ってる事が滅茶苦茶よ、ひじ


   いや、蓉子さんは飲むものじゃなくて食べるものだから。


   食べる…?


   然う、例えるなら甘いお菓子。


   これとどっちが甘いー?


   そりゃ勿論


   て、聖さん。
   真面目な顔して何を言ってるんですか…。


   いや、蓉子さんの甘さについて?


   …良いですから。
   智。


   あ〜〜?


   兎に角、没収。


   あーー…。


   あー、じゃない。
   飲みすぎ。


   未だ、そんなに飲んでないよぅ。


   これだけ飲めば十分です。


   え〜…。


   聖さん、これ、片付けておきますね。


   うん、サンキュウ。
   さて私は、と。


   あーあ…。


   智、飲んでも良いけれど飲まれるのだけは止めなさい。
   特に外では


   んー?
   飲まれてないよ、飲んでるよ?


   …全く、あまり強くないのに何で好きなのかしら。


   甘いの、美味しいよねー?


   …。


   ねぇー?


   …まぁ、聖さんと蓉子さんのは美味しいけど。
   私は基本、お酒は飲まないから。


   お子さま?お子さま?


   …。


   あいたー。


   …。


   うーー。


   全く。


   何、してるんだ。


   あ、蓮。
   智が。


   …。


   いたいー。


   阿呆。


   ひーどーいーーー。


   もう、寝ろ。


   えーー折角蓮ちゃん達と会えたのに、勿体無いじゃんかよーう。


   酔っ払いを相手にする趣味は無い。


   酔っ払いじゃないもーん。


   良いからもう、寝ろ。
   歯磨きは忘れるなよ。


   何よぅ、蓮ちゃんってばおかーさんみたいー。


   みたいじゃ、ない。


   …あれぇ、どっかで聞いたような?


   葵、それは?


   蓉子さんが作ったんだって。


   …ふぅん。


   蓮君、飲みたいなら飲んでも良いよ。


   …じゃあ。


   えーーー蓮ちゃんずっるーーい!


   うるさい、早く寝ろ。


   子ども扱いしてーー!


   智はもう飲んだろうが。


   もっと飲むーー。


   だめだ。


   だめ。


   ええーーーー。


   …ふむ、やっぱり面白いなぁ。


   …聖。


   あ、蓉子さん。
   いつから?


   今、かしら。


   そっか。
   蓉子はいつだって最後だったんだよねぇ。


   ええ。
   でも葵が綺麗にしておいてくれるから。


   うん。


   それで、また?


   まぁ、そんなところだね。


   大体、智はな、


   直ぐ、調子に乗るから。


   外でそんなになって、


   何かあったらどうするつもりなの。


   うえ〜…。








   …。


   ルレクテシーエーカーヲキトーナカーヤダー


   …。


   オニロココノシーターワー


   …どこの言葉だ。


   んー、日本語?


   に、全然、聞こえないから聞いている。


   智、やっぱり酔っているでしょう?


   蓮ちゃん、葵ちゃん、知らない?


   それは何についてだ。


   歌ってる人。


   …たった今、歌ってただろう。


   …やっぱり、もう飲まない方が。


   然うなんだよねぇ。
   日本じゃ、いまいち、知られてないんだよねぇ。
   あっちだと有名なのになぁ。


   …。


   …。


   ま、良いや。
   …タイツワザデカーズーシーテーシソクナーマエーー


   …やっぱり、日本語には聞こえないな。


   …うん、私も。


   後ろから読めば分かる仕組みなんだなー。


   …。


   …。


   ターハトオクメシヒーニーリモノコーーー


   …。


   智は


   ねぇ、蓮ちゃん葵ちゃんさぁ。


   …何だ。


   …なぁに。


   ひー、で良いよ。


   …。


   …。


   なーんか、智ひじり言われてると何だかなぁ、って感じだから。


   お前の名だろう、


   蓉子さんがくれた…。


   もっと言えば聖ちゃんから取った、なんだけどねー。


   …気に入らないって言うのか、今更。


   ……。


   まっさかー。
   好きだよ、この名前。
   ほっとんど、然うは読んでは貰えないけど、それをひっくるめて好き。


   …じゃあなんで、


   智って呼ぶのはだめなの?


   だめじゃないよ。
   けど、ひー、で良いよ。


   …。


   …。


   なんか、家族、って感じがするじゃん?


   …然う言うものか?


   智…ひーにとっては然う言うものなんでしょうね。


   そうそう、それー!
   さぁさぁ、蓮ちゃんも。


   …お。


   蓮ちゃーーん。


   あー分かった、分かったからまとわりつくな、ひー。
   零すだろうが。


   はは、それそれ。


   …たく。


   アーーアーーアーーアーー。


   …もう、本気で止めておいた方が良いな。


   …うん。


   あーー気持ち良いなーー。


   …。


   …ひーは歌うのが好きよね。


   うん、好きー。


   然う言えば蓉子も好きだったな…。


   ええ。
   ひーは屹度、蓉子さんに似ているのね。


   おかーさんの歌も好きーー。


   けど、パッと聞いただけでは意味が分からないのが好きなのは聖似だな。


   歌が無いのも、ね。


   日本語の歌も好きだよー。
   けど流行りものは分かんなーーい。


   あ、こら。


   ひー、眠いのならお布団に


   あーーーーー…。


   ひー、流石にもう運んではやれないぞ。


   だから、こんなところで寝ちゃだめ。


   ……。


   …て、おい。


   …いえ、待って。


   ……あーー、しあわせーーー。


   …。


   …。


   やっぱ、うちは良いなぁ…。


   …全く。


   ひー、起きて。


   蓮ちゃん、葵ちゃん。


   運んではやれないぞ。


   二人がかり、も無しよ。


   絶対、行こうねぇ。


   …あ?


   何処に?


   えーーもう忘れちゃったのー?


   …。


   …え、と。


   お風呂、温泉。
   聖ちゃんとおかーさんと、みんなで。


   …ああ。


   …うん、然うだね。


   聖ちゃんとおかーさん、喜んでくれると良いなぁ…。


   …。


   …。


   ……うーん。


   て、寝るな!


   一寸、ひー…智ってば。


   ……むにゃ。


   ……あー。


   …こうなると、起きないのよね。


   だから、言ったんだ。


   とりあえず、何か掛けるも…


   智、寝ちゃったでしょう?
   はい、これ。


   あ、蓉子さん。


   昔からお布団の無いところで寝る子だったから。


   …冷蔵庫の前、とか。


   物居れの中とか。
   あの時は探したね…。


   大人になったら少しは…と思っていたけれど、治らないものね。


   寧ろ、ひどくなっているかもなァ。


   …聖。


   ほれ、見てみ?
   寝顔は小さい頃のままだ。


   …。


   …うん。


   多分、適当な時間に起きてお布団の中に入るとは思うから。


   トイレ、とかね。


   貴女達もそろそろ寝る支度をしなさい。
   疲れたでしょう?


   話足りないかも知れないけど、続きをするのは明日…てかもう今日か。
   起きたらでも良いさね。


   …別に


   あるでしょう?
   蓮。


   …葵。


   さぁ、寝ましょうか。


   うん、寝よう寝よう。
   …で、蓉子さん。


   ん?


   えへへ。


   はいはい、それはまた後でね。


   はぁーい。


   …。


   …。


   君達も遠慮は要らないよ。
   見て無いからさ?


   付き合いきれない。


   蓮、良いの?


   …。


   お?


   …寝る。
   おやすみ。


   あ。


   ははは。


   ……たく、どいつもこいつも。


   蓮。


   …。


   おやすみなさい、また明日ね。


   ……うん。








   眠れない?


   …。


   それとも、目が覚めてしまった?


   …蓉子。


   月、綺麗ね。


   …。


   蓮?


   …蓉子こそ。


   ああ。
   何でかしらね。


   ……。


   でもね。
   たまに目が覚めるのよ。


   …。


   それで。
   隣に聖が居るのを確認して、安心するの。
   変でしょう?


   …別に


   夫婦になってもう、どれぐらい経つかしら。
   付き合っていた時間を合わせれば…。
   それでも不安になるものなのかしらね、人間って。


   お互い様だと思う。


   うん?


   聖と。
   寧ろ、聖の方がひどそうだ。


   …。


   聖は、甘えた、だから。


   …ふふ、然うね。


   …。


   …でもね、それも愛しいのよ。


   …知ってるよ。


   …。


   …。


   …ねぇ、蓮。


   なに。


   ……。


   …なに。


   ううん…。


   ……。


   ……大きくなったなぁ、って。


   ……もう、子供じゃない。


   うん…然うね。
   分かってはいるのよ。
   けれど…私は親だから。


   …。


   蓮と葵は小さくて。
   本当に小さくて、私は心配してばかりだったけど。


   …けど?


   聖はあまり気にして無かったわ。


   …。


   小さかろうが、何だろうが。
   蓮と葵は私達の子なんだから、問題は何も無いって。


   …は。


   人の子となんて、比べた事無かったわ。
   うちの子はうちの子だって。


   聖らしいと言うか…楽観的と言うか。


   然うなの。
   でも聖が居たから、私は。


   …。


   …良かった。
   貴女達が良い子に育ってくれて。


   ……。


   でも…子はいずれ、離れていってしまうものだけれど。
   分かっていても、やっぱり、淋しかった…。


   ……。


   ……。


   …蓉子、私達は


   伸ばせば、届く。


   …?


   て、聖が。


   ……。


   本当に然うだった。
   思えば私、聖に教えてもらってばかりだったわね。


   …。


   良かった。


   …。


   蓮と葵、貴女達が居てくれて。


   …。


   …貴女達が。
   私達の子で。


   …。


   ありがとう…生まれてきてくれて。


   ……さん。


   うん?
   なぁに、蓮。


   …いや。


   そぉ?


   …。


   蓮?


   …聖に似てるよ。


   ふふ。
   最近ね、よく言われるのよ。


   …例えば?


   貴女も良く、知っている人達に。


   ……。


   人の縁って不思議よね。


   …。


   貴女にも居るでしょう?
   然う言う人達が。


   …変わり者が多いけどね。


   あら、貴女もそのうちの一人でしょう?


   蓉子も?


   ふふ、然うね。


   …。


   あの館は今、どうなったかしら。


   大分、古かったから。


   然うなの。
   私達の頃でも階段がぎしぎし言ってて。


   私達の時には床もぎぃぎぃ言ってた。


   智の時はどうだったのかしら。


   壊れそうになったんじゃないの。


   うん?


   アイツは容赦が無い。


   プリーツは乱して?


   そしてセーラーカラーを翻して。
   曰く、駆け回ってばっかりだったらしいから。


   ふふ、あの子は然うでしょうね。
   箱庭なんて屹度、狭すぎるから。


   …。


   …ふぁ。


   眠い?


   …少し、ね。
   そろそろ戻らないと。


   …聖が、うろうろする前に?


   ふふ。


   …。


   蓮は?


   水を飲んでから寝るよ。


   然う。
   じゃあ…


   蓉子?


   おやすみ、蓮。


   …うん、おやすみなさい。


   …。


   …?
   なに?


   …いいえ。
   柔らかくなったなぁ、て。


   …。


   …双子で、良かったのね。


   …。


   …本当に。


   ……。


   じゃあ、また明日…。


   …母さん。


   …。


   母さん。


   ……れ、ん。


   ……。


   …ああ、吃驚した。


   …。


   蓮…。


   …また、明日。


   ええ、また明日…。


   …。








   …。


   …。


   …蓉子。


   ……。


   ちび達、寝た…?


   …なぁに、起きてたの?


   どっちだと思う…?


   さぁ…どっち?


   …教えて欲しい?


   欲しいと…言ったら?


   ちゅー、一回。


   …じゃあ、要らない。


   こっちに来る、でも良いな。


   …貴女から来てるけれど?


   …へへ、ばれたか。


   で、どっちだったの…?


   ……声、で。


   …ああ。
   それは悪い事をしたわね?


   …んーん、良いんだ。


   本当?


   …少し、妬けたけど。


   ……ばかねぇ。


   …ん。


   蓮は子供でしょう?


   …まぁ、昔からだから。


   もう…。


   …よーこ。


   こら…。


   …えへへ。


   …甘えたさん。


   うん…。


   ……蓮に、ね。


   …。


   母さん、て。


   ……うん、聞こえた。


   初めて、だから…。


   …然うだっけ?


   ええ…然うよ。


   …そっか、然うだったか。


   貴女のせいなのよ?


   …私の?


   貴女が私の名前を連呼してるから。


   …でもさ?
   それを言うのなら蓉子も同罪じゃない?


   …。


   蓉子も私を名前で呼んでたから。


   …けれど。
   貴女の場合は半分自分のせい。


   …あれ?


   聖さん、て。
   自分の事、名前で言ってたから。


   はは。


   …ずっと、蓉子、だったから。


   これから先もだと思うよ…多分ね。


   …思えば智だけね。


   …。


   変わらず、お母さんって呼んでくれるの。


   …淋しい?
   それとも


   …淋しいとは違うわね。


   …。


   ねぇ、聖。


   …ん?


   私、ちゃんとあの子達のお母さんだったかしら…。


   ……。


   ちゃんと、してあげられたかしら…。


   …蓉子。


   …。


   ばかだなぁ。


   …。


   本当に、ばかだ。


   …なによぅ。


   ……ちゃんと、て何さ。


   …。


   蓉子以上に素敵なお母さん、世の中にゃ早々居ないってのにさ。


   …茶化して。


   …真面目に、話してるよ。


   …。


   私が言うんだから…間違い、無いさ。


   …んもぅ。


   ……。


   ……。


   …ちび達、何を企んでいるのかね?


   …もう、ちびじゃあ無いわよ。
   智だって…。


   ちびだよ…ずっと、さ。


   …とか言って。
   こら、聖。


   …あり。


   どさくさに紛れようとしたって、駄目なんだから。


   或いは済し崩し、とか?
   ほら、私達、然う言うの多かったじゃない…?


   だぁめ。


   …寝相が悪かったコトにすれば良いんだよ。


   蓮にまた、言われちゃうわよ。


   …今に始まったコトじゃないもんねぇ。


   …。


   ……やっぱり一つで良いよ、私達には。


   もう、ばかなひと…。















   んー………といれ。


   …。


   …。


   …てか。
   なんでこんなトコで寝てるんだっけ…?


   …ん。


   …。


   ……ま、いっか。
   よっこらせー、と。


   …。


   …。


   え、と、なんだっけ…そうだそうだ、トイレトイレ。


   …。


   …。


   …うーん。
   みんな、良く寝てるなぁ。
   うんうん、良いコト良いコト。


   …ん、ううん。


   …。


   はは、聖ちゃんはやっぱりかーさんにべったりー。


   …。


   …へへ。


   かーさんは聖ちゃんをだっこしてるし。
   てか、お布団二つは要らないンだよねぇ。


   …。


   …。


   かーさんの隣が葵ちゃんかぁ。
   …て、蓮ちゃんと一緒じゃないんだー。


   …んん。


   …。


   …でも。


   …。


   ……。


   …ふっふっふぅ。
   やっぱりなんだかんだ言っても、てヤツだねぇ。


   …。


   ……る、さい。


   しし、仲が良きコトはいーコトかな、だよ。
   蓮ちゃん。


   …。


   …と。
   トイレトイレ…。


   ……。


   …え、なに?


   …。


   気のせい、かにゃー?


   …。


   うん、気のせい気のせい。


   …。


   …ん?


   …。


   …え、と。
   ま、いっか?


   ……。


   てか、子供は寝る時間だよ。


   …。


   とりあえず、今夜は隣にお邪魔するからねぇ。
   話はまた明日、いっぱいしてあげるさー。


   …。


   ああ、そっか。
   寝物語でも良いかなぁ。


   …。


   けど、蓮ちゃんに怒られちゃうから。
   やっぱり明日ね。


   …。


   さ、おやすみー?


   …。


   みんなで温泉、楽しみだなーと。


   ……ん。