−ヨーグルトを買ってきて。
散歩中に蓉子から送られてきた一通の、そんなメールが出会う切欠だった。
「ちび達が好きなヨーグルトは……と、あったあった」
頼まれたヨーグルトを買い、どうせだからと蓉子と葵、蓮は素直に言わないけど好きなシュークリームでも買っていこうかと考えていた時。 私はそれを見つけた。 最初はなんかの間違い、と同時に、目の錯覚かとも思った。 幾ら大好きとは言え、そこまで言ったら一種の病気だ。
確かに世の中には依存症と言う病もあるけど、でもって私がそれじゃ無いかと問われたら…まぁ、一応否定はするけど。
するけど、街中や店中で踊る文字と特定の人物の名前が重なって見えるとなると…完全なる否定は出来ないかなぁ、うん。
…ごめん、知ってる。本当は知ってるんです。だけど…うん。
「中のクリームはチーズのような風味で………冷蔵で3日間、持ちますよ」
ナチュラルなメイクで、顔は一寸私好みなおねーさん(年下と見た)がニコリと笑いながらしっかりと営業活動をしている。 見た目はちっさいどら焼きのような、あんぱんのような、だけれどもその正体は洋菓子と言う。
「いかがですか?美味しいですよ」
ショーケースも兼ねる冷蔵庫に収められているそれをマジマジと見る。 然うか、冷蔵庫に入れておけば3日持つのか、然うか。
「宜しければ試食してみませんか?」
あそこのシュークリーム、蓉子好きなんだよなー。
買って帰ったら屹度、喜ぶだろーなー。無駄使いをして、とか言いながらもさー。 でもたまにはこーいう目新しいのもあり、かなー。ありかもなー。 蓉子、チーズクリームも好きだしなー。甘いのは基本、何でも好きだけどさー。
てかさ、頬張って仕合わせそうに食べている姿、食べちゃいたいくらい可愛いんだよねー。
「あのぉ…お客様…?」
…喜んでくれる、かなー。
せ い み ー つ よ ー こ
………で?
嬉しい?
私が頼んだのはヨーグルトだけよね?
うん。 ね、嬉しい?
……気持ちは嬉しいわ。
だけどまた、無駄使いをして。
無駄使いじゃないよ。 蓉子が喜んでくれるんなら。
…はいはい、有難う。
へへ。 んじゃ早速お茶を淹れる準備をしないと、だねー。 ちび達は牛乳で良いかなー。
子供達ならお昼寝中。
あら、残念。 でもま、起きてからでもいっかー。
待ちなさい。
ぐえ。
本当は何を思って買ってきたのかしら?
だから蓉子が喜ぶかなーて。
本当に、それだけ?
いつも同じじゃ詰まんないし。 たまには見知らないのも良いんじゃないかな、て。
口に合わなかったら?
そんなの、食べてみなきゃ分かんないじゃん。 でもって当たりだったら幅が広がって良いじゃんね。
…。
それにほら、蓉子ってばわりとチャレンジするの、好きだし。
聖。
あい。
名目上では私の為、と言うコトになっているようだけど。 本音を言うと?
蓉子さんの喜ぶ顔が
聖。
……あー。
貴女の本音、は?
……え、と。
見た瞬間、ドゴォ、て来ました。
は?
最初は見間違えたのかな、と思ったんだけどさ。 良く見たらやっぱりそうでさ。
…。
や、もう、これは…!て思ったよ。
…それで。
これはもう、買うしかないな、と。
……。
だって、マダムヨーコ、だよ? 蓉子がマダムなんだよ? どんな味か気になるじゃん。
…あくまでもお菓子の、よね?
うん、こっちの蓉子の味はもう知ってるから。
……。
だけど全然飽きないんだけどね。
良ければ今晩も頂いちゃおうか……
…へぇ。
…なーんて。 今はマダムヨーコについてだったね!
要は名前に釣られたわけね。
だって蓉子がマダムなんだもん。
…莫迦でしょう。
マダム、それは既婚女性に対する敬称。 つまりは人妻!
……。
人妻蓉子…! ああもう、響きだけでエロ…いたぁッ
大莫迦。
でも、ドゴォって来たのよ。
と言うか私、貴女の妻なんだけど。
はい、勿論。
なのにどうして。
いやいや、これがどうして。 例えばそういうシチュもありかな、と思ったら衝動が…!
ありかな、も何も。 私は貴女の妻なのよ。
いや、それはそうなんだけどね。
でもね、分かっていてもね、蓉子さんに人妻って言葉の組み合わせはね、クるもんがあるわけで…て、ああ、やっぱり響きがエロ
……。
…あ、はい、今はお菓子のマダムヨーコの話でしたね。 つまりは名前に釣られたのです、はい。
よぉく、分かったわ。 で。
はい。
幾つ、買ってきたのかしら。
え、と。 20個入り、かな?
うちの家族の人数は?
私と愛しいお嫁さんである蓉子さん、それから愛の結晶である蓮と葵…
…つまり?
4人、です。
今のところは。
……今のところ?
あ、いや、4人でございます。
はい。
このお菓子の賞味期限は? これ、生菓子よね?
冷蔵で3日間って言ってました。
……。
若しかして20個じゃ足りなかった?
足りすぎよ! 寧ろ、多いくらいだわ!
え、そう?
そうでしょう! 1人5つの計算になるのよ!?
あ、私の分は蓉子にあげるね。
ありがとう…じゃなくて!
だいじょぶだいじょぶ、食べちゃうって。 蓉子は言わずもがな、ちび達も気に入ると思うし。
それだとまるで私が食い意地を張っているみたいじゃない!
食い意地は張ってないけど、甘党だよね。
…う。
ね?
…否定はしないわ。 だけど…!
とりあえず、食べてみよ? 数の問題はその後で良いじゃん、ね?
あ、こら…。
蓉子は紅茶が良いかな。 ちび達はお昼寝中、なんだっけねー…て。 おー。
…せい、ちゃん?
葵、良いタイミングで起きたねぇ。 んじゃ、葵にも淹れてあげようね。
…?
せ
さぁさぁ、蓉子は葵と一緒に座って待っててねー。
葵、蓮は未だ寝てる?
…うん。
はーい、おまたせー。 ほい、蓉子。
有難う。
葵は牛乳たっぷりな紅茶、で良かったかな?
あ…え、と、ありがとう、ございます。
やだなぁ、葵。 ありがとうで良いって、いつも、言ってるでしょや? それとも少し、寝ぼけてるのかな?
……おかーさん。
ん、未だ眠い?
…。
んー。
眠たそう、だね。
聖が帰ってきた早々、騒いでいるから。 起きちゃったんだわ。
え、私だけのせい?
原因を作ったのは貴女。
えー、なーんか腑に落ちないですけどー。
…せいちゃん。
ん? 眠いのなら、抱っこ、してあげようか。
…んーん、へいき。
葵、眠いのならもう少し
あ、分かった。 若しかしてお腹が空いたとか?
……。
丁度、お八つの時間だしね。 ねぇ、蓉子。
…一寸。 どうして私に振るのよ。
蓉子も小腹を空かしてるかなと思って。
…貴女はどうしても、私を食い意地の張ってる人間にしたいのね。
それは大きな誤解だって。 蓉子はただ単に大の甘党なだけであって、食い意地は張ってないって。
…それ、果たしてフォローと言えるのかしら。
あまと…?
葵も甘いの、好きだよねー?
うん、すき…。
うん! 葵も蓉子とおんなじ、甘党っこ!
……?
あーもう、かわいいなぁ!
う、にゃ…。
…意味が分からないわ。
ん、なになに? 蓉子もぎゅうってして欲しかった?
いや、して欲しくないから。
ごめんごめん。 今直ぐしてあげるから、ね?
いや、だから結構だ……と。
へへ〜。
………。
…あの、聖ちゃん。
ん、なに、葵?
これ、なぁに…?
ああ、そうだった! ごめんね、蓉子。 聖さん、もう離れるね?
とっとと離れて頂戴。
その釣れなさも
もう、良いから。 葵が待ってるでしょう。
はーい。 さぁて、葵。 これこそが本日のお八つだよ。
…おやつ?
はいな。 散歩中に見つけたのです。
…。
手作りじゃないけれど、これも屹度美味しいから。 ね?
…うん。
また適当な事を。
だって、蓉子が不味いわけないもん。
だからその思考から離れなさいよ。
そんなコト、言われてもなぁ。 蓉子さんは本当に美味し
ば、莫迦…ッ
むが、むがが?
子供の前で何言い出すのよ、貴女は…ッ
……おかーさん、おいしいの?
……ッ
うん、とぉっても。
せ、聖ぃぃ…ッッ
…! いだぁ…!!
本当に、本当に莫迦なんだからぁ…ッ!
……め。
お、落ち着いて、蓉子。 話せば分かる…ッ
分かんないわよ、もう…ッ
…だめ。
ほ、ほら、葵が何か言って…
聖の莫迦!変態…!!
へ、変態って。 何も葵の前で言わなくても…!
本当の事じゃないの…!
おかーさん……ちゃ、
え、なに…?
…だめ、なの。
聖…ッ
あ、ああ、ごめん、ごめんなさい。
だから一寸黙ってて…!
な…ッ
良い子だから、ね?
ちょ…む
で、なに?
葵。
聖ちゃん…、
うん。
……おかーさん、たべないで。
…はい?
たべちゃ、だめ…。
…。
だめなの…。
…え、ええと。 だそうです、蓉子さん。
……はぁ。
あのね、葵。 食べると言っても本当に食べるわけじゃ無くてね?
と言うか似て非なるもの、とでも言うか。
貴女は黙ってて。 葵。
…。
私は聖に食べられたりしないし、聖も私を食べたりしないから。 だから、大丈夫。
……ほんとう?
ええ、本当。 ねぇ、聖。
……ここは素直に“はい”と応じるべきなんだろうけど。 だけど応じたら今夜の
せーい。 大丈夫、よね?
…大丈夫だよ、葵。 聖さんが愛しい蓉子さんを食べるわけない。
……。
ね、葵?
……うん。
………ま、違う意味で頂きますけど。
…何か言った?
いえ、何も。 さぁ葵、何はともあれお八つにしようか。
うん!
……ふ。
……。
……?
…あ、おい?
うん、結構いけるじゃんか。
クリームと言ってもそんなに甘いって程でもないし。 ね、蓉子もそう思わない?
…。
葵は? どうどう、美味し?
うん、おいしい。
で、蓉子はどうなの? お気に召さない?
……美味しいわ。
でしょでしょ?
ふわふわとしていて。 チーズ風味のクリームもくどくないし。
でっしょーう? まさしく聖さんの見立てどーり、って感じだよね。
…。
おかーさん? どうしたの?
ん、何でもないわ。 …少し複雑なだけで。
ささ蓉子さん、もう一ついかがですか? 何、こんな事もあろうかと数ならあるでよーぅ。
そのふざけた言葉使いは止めて。 子供達が真似るようになったらどうするのよ。
それではMadame、もう一つ如何ですか?
止めて。 無駄に発音が良いのも止めて。
フランス語は愛を語る為の言語なのさ。 Yoko,
Je t' aime du fond de mon coeur...!(蓉子、心から貴女を愛しているよ…!)
何を言ってるの。 貴女はアメリカ人でしょう。
んじゃあ英語で…て、おいおい。 私はれっきとした日本人ですって。
聖ちゃん、あめりかじんだったの?
そうよ、葵。 だから私達はね、実は国際結婚だったの。
わぁ…。
いやいやいやいやいや、私、ちゃんとしたにっぽんじんよー?
知ってるわよ。
当たり前じゃないの。
ふふ、聖ちゃんへん。
ね、変よね。 頭の中はいつも、桃色だし。
ああもう、ひどいなぁ。 そんなコトばっかり言ってると、べろちゅー、しちゃうぞ?
力いっぱい、殴るわよ?
ぎゃ。
…。
…あれ?
聖、貴女こそもう一つ食べたらいかが? お気に召したようだから。
蓉子さんが食べさせてくれたら食べる。
そ。 じゃ、食べないのね。
食べたいので是非、口移しでお願いします。
ばぁか。
……。
…蓮?
………。
およ?
蓮、起きたのね。
…。
てか、そんなとこでぼさっとしてないでさ。 こっちに来なよ、蓮。
…。
蓮、きょうのおやつはね、聖ちゃんがかってきたおかしなんだよ。
…。
ふむ、返事無しか。 寝ぼけてるのか、それとも目を開けたまま未だ寝てるのか。 さて、どっちかしら?
…。
何であれ。 聖がうるさくするから起きちゃったのね。
はい、やっぱり私が悪いと。
…。
相変わらず、ぶーたれた顔してるね。
蓮は貴女にそっくりなんだけど。
えぇー。
…だっこ。
ん?
よーこ、だっこ。
あらあら。
眠りが中途半端なものだから、少しぐずっているわね。
てかさー、抱っこグセがつくって言ってたのは誰さー。 ただでさえ、蓮は蓉子にべったりなんだからさー。
そうね、じゃあ聖が代わりにしてあげて。
私、ですか。
ええ。
うーん…。
ね。
…仕方が無いなぁ。 どれどれ…
や。
ありゃ。
せー、や。
よぉこぉ、やっぱりな反応してくれましたけどー?
…。
蓮。
よーこ、だっこ。
ねぇ、蓮。
蓮はもう、一人で歩けるわよね?
…。
私のところまでおいで。
やだ、だっこ!
ちゃんと一人で来られたら、膝の上で抱っこしてあげる。
…何だってー。
…。
蓮。
……。
おお、よりへちゃむくれな顔に。
と言うか蓉子の膝の上で抱っこと言う何とも羨ましい条件が提示されていると言うのに何が不満だと言うんだ全く。
聖。
へい、すみません。
蓮、おいで。
……。
ね、蓮。 お願い。
……。
お。
よーこ。
さぁ、おいで。
よーこ、よーこ。
あともう一寸よ、蓮。
よーこ。
うん。
良い子ね、蓮。
と言うか連呼し過ぎだっつーの。
…聖。
あーい、何でもありませーん。
美味しい?
蓮。
う!
…ほれ蓮、牛乳。
よーこ、もいっこ。
二つ食べたから。 今日はもう、お仕舞い。
と言うかさー、甘いにも程があると思うんですよー私は。
葵に甘い貴女に言われたくない。
よーこ。
だーめ。
てか蓉子の膝の上であーんはかなり羨ましすぎるだろ、くそう。
聖、言葉使いが汚い。
だってさぁ!! 私だってしてもらったコト無いんだよ!?
体の大きさを考えなさい。
でも蓉子はよく、私の膝の上に座るじゃん。
…それは貴女が無理矢理そうさせてるからでしょう。
積極的な時だってたまにはあるじゃん。 こう、腰をくゆ
聖。
…え、えと。 お茶のお代わり、淹れてきまっす。
葵も要るわよね。
うん。
へーい、ただいまー。
おかーさん、もうひとつだけたべてもいい?
ええ、良いわよ。
葵、たべた。
わたしはまだ、ひとつしかたべてないもん。 蓮はふたつ、たべたでしょ?
…よーこ。
今日は二つずつ。
明日のおやつの時間になったらまた食べましょうね。
…うー。
はーい、お待たせー。
お茶ですよーー。
・
よーこ、よーこ。
ん?
どうかした?蓮。
じかん。
おやつ。
もうそんな時間?
う。
葵、葵はお腹空いた?
えと、すこし。
そう。 じゃあ
さぁ、蓉子!
蓉子を食べる時間だよ!!
…。
よーこ、たべる。
……。
お、おかーさん…?
お茶はわたくしめがお淹れ致しますので。 ささ、蓉子さん達はこちらへ。
…ありがとう。 でもその前に。
ん??
その言い方は止めて。
ん、どの言い方?
だから
蓮は蓉子、気に入った?
……。
ほら、蓮も珍しく私が言った事に素直に頷いてる。
だからね、聖
葵も好きだよねぇ、蓉子。 美味しいもんねぇ。
すき、だけど…。
もっちろん、私も蓉子が好き! 今直ぐにでも食べちゃいたいよ!
……。
ねぇ、蓉
それは勿論、マダムヨーコのお話ですわよね。
…う、ぉ。
ねぇ、聖さん?
…よ、蓉子さん、眉間に皺が寄りまくってますよ? 折角のお美しいお顔が
心配、ありがとう。 で。 聖が言っているのはこのお菓子の事なのよねぇ?
も、勿論です。 さ、さて、お八つの支度をしないと
よーこ、たべるー。
……。
あ、あのね、蓮。 その表現の仕方はやっぱりちみっと問題があってだね…?
…聖。
本をただせば誰のせい、かしら?
だ、誰でしょうね…。
…へぇ?
え、えと…聖、だけに。
私のせい、かなぁ〜、とか? へへ、へへへへへ
ギュゥゥゥゥゥゥ。
……よぉこぉ。
…。
よぉこってば。
…。
ねぇ、
うるさいわよ。 眠れないじゃない。
こっち向いてよぉ。
嫌。
そんなこと、言わないで…
嫌なものは、嫌。
調子に乗った事は謝るから、と言うかちゃんと謝りたいから。 ね、こっち向いて。
と言う事は。 昼間はちゃんとしていなかったのね。 最低。
……。
兎に角。 私はもう、寝るから。 おやすみなさい。
…蓉子。
…。
蓉子。
…。
…。
…。
…ごめんなさい。
…。
よーこと同じ名前で、なんか嬉しくて…
…。
…浮かれてたの。
……たかが、それくらいの事で。
うん。
単純。
…うん。
子供。
……。
…聖。
…。
苦しいから、離れて。
…やだ。
聖。
やだ…ッ
貴女はいつから蓮になったのかしら?
…どうせ子供だもん。
じゃあこのまま寝ても良いのね。
……。
貴女の方に向かなくても、良いのね?
…。
…はぁ。 聖。
よう、こ…ぉ。
こら、直ぐにそれじゃ顔が見えないじゃないの。
…だって。 昼間からずっと口はきいてくれないし、目すら合わせてくれないしで…。
調子に乗った罰。
…。
ちゃんと謝る、のでしょう?
…ごめんなさい。
だめよ。 ちゃんと私の目を見て言って。 近くても、良いから。
……調子に乗って、ごめんなさい。
…はい、良く出来ました。
ん…。
…さて。 寝ましょうか。
…。
…こぉら。
…怒る?
ん…?
蓉子が食べたい、て言ったら怒る?
…それはお菓子の話?
此処に居る、私が一番好きな蓉子の話。
…明日は早いのだけど。
幼稚園には私が連れて行くから。 だから…、
……。
蓉子…。
本当、仕方の無いひと。
・
…。
せい。
ん…。
聖。
…んん。
聖、起きて。
も…、ちょっ…と…。
子供達を幼稚園に連れて行ってくれるって。 約束、したでしょう?
…かったる…い。
…だから、言ったのに。
…と、いうか。 よっこはなんで…?
お陰さまで。 だるいわよ。
……。
だけどもう、学生ではないの。 そんな理由では休めない。
……がくせいのときから、そうだったくせに。
ええ、だって“私”だもの。 貴女の好きな。
…。
違う?
…ちがわない。
…さぁ、起きて。 朝ごはんが冷めてしまうから。
…ちゅ
…これで、良い?
……あい。
着替えはそこに置いておいたから。 子供達の事、宜しくね。
…ふたりは?
まだ夢の中。
…もう、いくの?
早いと、言ったでしょう?
…いってきます、の、は?
もう。 行ってきます…
へへ…。
…聖は?
ん…いってらっさい。
…じゃあ、宜しくね。
…あーい。
あ、そうそう。
んー…?
貴女のお気に入りのお菓子も、添えてあるから。 デザートにでもどうぞ。
…よーこはどっちかというと、どるちぇ、かな。 あまい、あまい…。
はいはい。
お願いだからそのまま夢の世界に戻らないで、ね。
あら?
…はい?
……ふぅん。
あの、どうかされましたか?
これ、見てみて。
何でしょう。
良いから。
はい……あ。
ねぇ?
…あるものなのですね。
ねぇ。
だけど。
…。
喜んで飛びつきそうだと、思わない?
…はい、思います。
寧ろ、そんな姿が容易に浮かんでくるわ。
ふふ、そうですね。
それで怒られる、と。
買いすぎて、ですね。
けれど悪気は無いと思うんです。
屹度、喜ぶお顔が見たくて、
それもあるけれど。
それよりも調子に乗りすぎて、の方が主な要因になると思うわね。
ああ、確かに。
尻尾、ぶんぶん振ってそうだわ。
いつからわんこになったのでしょう?
手綱を握られた時から、じゃないの?
でも最近、猫にリードを付けて散歩している方を見かけました。
哀れ、ねぇ。
だけれどお姉さまの場合、喜んでそうされているような気がします。
気、じゃないわね。
はい。
そう考えると、矢張り猫なのかしら。
でも狼はイヌ科なのよね。
ふふ。
おかあさん。
うん?
なんのおはなしをしているの?
このお菓子について、よ。
おかし?
…わぁぁ。
欲しい?
たべてみたい。
だって、志摩子。
どうする?
お菓子なら家に帰ればあります。
だって。
残念だったわね。
ええーたべたい。
それに買ったばかりですから。
あれはクッキーだわ、ママ。
けれど約束した筈よ。
暫くは買わないって。
…。
ねぇ、志摩子。
はい?
これ、私が食べてみたいわ。
…。
どんな味がするのか、興味があるの。
…名が同じ、だからですか?
あくまでもこのお菓子に、よ。
…。
ママ、ママ。
わたし、いいこにするわ、マリアさまにおいのりだってするわ。
……。
じゃあ、家族分ね。
……駄目と言っても。
聞いては貰えないのですね。
だって志摩子も気になってるでしょう?
…。
それにこれの販売、期限が限られているみたいだから。
本来は大阪の店らしいわよ。
…。
ママ。
…仕方がありませんね。
じゃ、三つ。
はい。
と言うわけだから。
食べられるわよ。
やったぁ。
しかし。
どんな顔をしながら食べたのかしらね。
…さぁ。
何?
今更、嫉妬?
いいえ。
そ。
…。
ところで。
…はい、何でしょうか。
私が出しましょうか。
いいえ、結構です。
あら、然う?
はい。
すみません、マダムヨーコを三つ下さい。
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