−芽生、15年後。(双子)





   蓮?


   …。


   どうしたの?


   …いや。


   くまさんに何か御用?


   …。


   今、良い歳してと思ったでしょう?


   …さて、どうだか。


   良いじゃない。
   この子はくまさんなんだもの。


   へぇへぇ。


   そういえば蓮のぺんこ、結局私の所に来たよね。


   …ふん。


   大事にしてたくせに、ね。


   …。


   でも、どうしたの?
   急に。


   …急に?


   くまさんを見て、物思いに耽っていたように見えたけど。


   …別に。
   そんなんじゃない。


   ふぅん?


   …たまたまだ。


   たまたま、ね。


   …。


   蓮?


   …本当に何でも無い。


   そぉ?


   しつこい。


   …ふふ。


   ……。


   でも改めて見ると少しくたびれてしまっているわね…。


   そりゃあ、子供の頃からだからな。


   ん、そうだね。


   …。


   一緒に寝たりもしたっけ。


   …。


   ね、蓮は覚えてる?


   …何がだ。


   くまさんの手の事。


   …。


   蓉子さんが治してくれたの。


   …だからか、少し歪んでるの。


   蓮。


   …。


   蓉子さんは屹度、私の事を思って治してくれたんだと思うの。
   だからそんな事、全然気にしてない。


   …お前はそういうやつだな。


   じゃあ蓮は気にすると言うの?
   寧ろ、蓮の方こそ気にしなさそうじゃない。


   …。


   あの時は嬉しかったな…。


   …貰った時以上に、か。


   うーん…どうだろう。
   でも、そうかも。


   ……。


   だってお母さんが治してくれたんだもの。


   …ふ。


   と言うか、蓮。
   くまさんの腕は蓮にも責任があるのよ。
   ちゃんと覚えてる?


   …何を?


   惚けて。
   本当はちゃんと覚えてるくせに。


   …さぁ、どうだか。


   もう。


   …。


   ねぇ、蓮。


   …なんだ。


   あの時、どうしてあんな事したの?


   …。


   ねぇ、どうして?


   …今更、聞くのか。


   だって今更気になったんだもの。


   知らない。
   覚えてない。


   蓮。


   覚えてないのに、説明なんて出来ない。


   うそ、本当は覚えてるんでしょ。


   覚えてない。


   教えて、蓮。


   無理。


   あ、どこに行くの。


   キッチン。
   喉渇いた。


   待って、蓮。


   やだ。


   …。


   …葵。


   教えてくれるまで離れないんだから。


   鬱陶しい。
   離れろ。


   いや。


   葵。


   いや。


   覚えてないって言ってるだろうが。


   うそつき。


   あのなぁ。


   蓮は覚えてる筈だもん。


   どうして葵に分かるんだ。


   分かるよ。
   双子だもの。


   ……。


   何よ。


   …呆れて言葉が出ない。


   だって


   …全く。


   大体、嘘を吐いてる蓮が悪いんじゃない。


   だからだな。


   本当は覚えてるんでしょう?


   ……。


   ねぇ、蓮。


   ……ああ、面倒な奴だな。


   じゃあ話して。
   教えて。


   ……。


   蓮。


   ……面白くなかった。


   面白く…。


   …。


   それだけ?


   …。


   …くまさん、かわいそう。


   だから…謝った。


   …。


   …もう、良いだろう。


   ……そっか、面白くなかったんだ。


   …。


   ふふ。


   …面白い事なんて言ってない。


   うん。


   …。


   ふふふ。


   …ふん。








  −Mi nombre.(智)





   智
〈ヒジリ〉さま。


   …。


   智さま。


   …。


   ひ、じ、り、さ、ま!


   …あ、何?


   あ、何。
   じゃないですよ、もう。


   …。


   て、智さま。


   ちーちー鳴いてる。


   …はい?


   ウグイス。
   面白いなー。


   …いや、それはメジロだと思います。


   でもあの鳥、鶯色してるよ。


   ウグイスの色って何色か知ってますか?


   鶯色。


   鶯色は本来、灰色がかった緑褐色の事を言うんです。


   ミドリカッショク?


   あの鳥は柔らかな黄緑色をしていると思いませんか?


   黄緑、黄緑…うーん、そうかも。


   だからあれはメジロです。
   ウグイスはあんな色をしてません。


   …。


   大体、目の回りが白いでしょう?
   だからメジロ、です。


   ふーん。


   もっと言うとウグイスは滅多に人の前に出てきません。
   警戒心の強い鳥ですから。


   詳しいねー。


   好きですから。


   そっか、そうだった。


   智さまも動物はお好きなのに、あまり覚えていらっしゃらないですよね。


   鳥は鳥だもん。
   犬とか猫とかじゃない。


   …まぁ、そうですけど。


   そっか、あれはメジロかー。
   ま、何でも良いや。


   …いい加減ですね。


   グラシアース。


   褒めてませんよ。
   今度はスペイン語ですか?


   うん。


   ところで、智さま。
   そろそろ、


   ねぇねぇ。


   ……何でしょうか。


   私の名前、知ってる?


   ……はい?


   私の名前ー。


   …佐藤智さまです。


   下の名前だけで良いよー。


   智さま。


   さまも要らないよー。


   …。


   んー?


   …流石に呼び捨てにするのは


   良いって良いって。


   …。


   ほらほら早くー。


   …え、と。








   …ひじり?


   然う、ひじり。
   良いでしょう?


   良い、けど。


   あまり良いようには聞こえないけど?


   …いや、何と言うか。


   今度は私の番。


   は、良いンだけど。
   もっと他にもあるじゃん?


   蓮と葵は私から取ったでしょう?


   …まぁ、そうだけど。


   だから今度は貴女の番。


   ……。


   渋い顔。


   …うー。


   好きだから。
   良いでしょう?


   …でもさぁ。


   うん?


   漢字、どうするの?
   まさか一緒?


   でも良い?


   や、それはどうかと思うよ。


   そう?


   そうだよ。
   てか、同じ家に同じ漢字の名前が二人居たら分かり辛いじゃん。
   まるっきり同姓同名だしさ。


   ふふ、そうよねぇ。


   どうすんのさ。
   いっそ平仮名?


   ひじりって日に知るって書くの、知ってる?


   日に知る…?


   知らない?


   知らない。


   それが貴女の名前の字源なのも?


   知ってる筈無いじゃん。


   そもそも耳口王じゃないのよ、貴女の名前って。
   王じゃなくて壬なの、本当は。


   …へぇ。


   意味としては耳の口が良く開いていて、普通の人の耳では聞こえない神さまの声が良く聞こえる事。
   そしてそれは干支や節季などの暦を良く知ってる人の事を言うようになったんですって。


   そんな声、全然聞こえないし、暦も適当にしか知らないけどね。


   ふふ、そうね。


   と言うか良く知ってるね。


   だって調べたもの。


   …ふぅん。


   とても尊敬されていたらしいわよ?


   止めてよ。
   何だかこの辺が痒くなる。


   ふふ。


   …で。
   その“日に知る”がどうしたって?


   だから、それがこの子の名前。


   …は?


   手、貸して?


   ……。


   日に知る…で。


   ……えぇ。


   ね、良いでしょう?


   と言うか知るに日じゃない、これ。


   書き順だとそうなるけど。
   良いじゃない、日に知る、て。


   耳口王と大して変わらないと思うけど。


   全然、違うわよ。


   てか、なかなか読めないじゃん。


   私達はちゃんと、読めるわよ?


   いや、それは然うだけどさぁ。


   ……。


   てかさ、何も私の名前からじゃなくてもさ、また蓉子の…


   ……だめ?


   …う。


   ねぇ、聖。


   ……。


   だめ?


   …いや、だから。


   私、貴女の名前好きなんだもの。


   …。


   好きなの。
   とても。


   ……あー。


   好きな貴女の名前から貰いたいの。


   ……うー。


   ねぇ、良いでしょう…?


   …。


   ねぇ…?


   ……負けました。


   勝ち負けなの?


   …と言うか、苗字の時もそうだったような気がする。


   別に勝負してるわけじゃないのにな…。


   …。


   …聖?


   …蓉子さんには本当、敵いません。


   ……じゃあ、良い?


   …。


   それとも…


   …良いよ、それで。


   諦め?


   …。


   ねぇ、聖。
   諦めたのなら…


   蓉子は私の名前、好きなんでしょう?


   …うん、好き。


   つまり、私の事が好き。


   …ええ、好きよ。


   だから、良いんだ。


   …。


   蓉子が好きって言ってくれるから。


   …本当に?


   ぶっちゃけると、ね。
   蓉子がそう言ってくれた頃から、あんまり嫌いじゃなくなったんだ。


   …。


   だから。


   …うん。








   ぶっちゃけ、一発じゃ読めないよねー。


   …まぁ、そうですね。


   ま、それが良いんだけど。


   良いんですか?


   うん、良いよ。
   面白いじゃん。


   …面白いものなんですか。


   私の両親の事、知ってるー?


   話、いきなり飛びますよね。
   さっきから。


   そうかな。


   そうですよ。


   で、知ってる?


   …かつて薔薇さまだったとか。
   しかもお二方とも。


   らしいねー。


   お姉さまお二人も


   名前、知ってる?


   ……ご両親の、ですか?


   とりあえず、佐藤、は知ってるよねぇ。


   …まぁ。


   ちなみにもう一人のかーさんの旧姓は水野って言うんだよ。


   そうなんですか。


   佐藤のかーさんは本当は水野が良かったって。
   いつだか言ってったっけなー。
   でもかーさん、水野のかーさんにめろめろだから。


   ……めろめろって。


   私の名前、かーさんの名前なんだー。


   …それは


   佐藤、の方の。


   …同じ、なんですか?


   同じと言えば同じー。
   でも違うけどねー。


   ……。


   蓮ちゃんと葵ちゃんは水野のかーさんの名前。
   三人とも、芙蓉の花、なんだよ。


   …はぁ。


   佐藤さんちの子供はみーんな、親の名前を受け継いでるんだよねー。


   …嫌なんですか?


   全然。
   好きだよ、名前。


   …。


   好き、なんだけど。


   …けど、何ですか。


   暫くの間、呼ばれること、無くなっちゃうなぁ、て。


   ……。


   まぁ、かーさん達は呼んでくれるけどねー。


   クラスの方々も呼んでくれると思いますが。


   そうかな。


   多分、ですけど。


   そっか、そうかもなぁ。


   …。


   うーん。


   智さま。


   うーん?


   呼んでも良いですか?


   呼んでるじゃん。


   …名前じゃなくて。


   …。


   だから、そのぅ…そろそろ


   うん、良いよ。


   …あっさりと。
   今までのは何だったんですか。


   本当は名前のままが良いんだけどね。
   君がそうしたいって言うなら、仕方ない。


   ……。


   さーて。
   そろそろ、行こっかなぁ。


   …あの、智さま。


   呼びに来たんでしょやー?


   ……。


   怒られちゃうかなー。


   …かも、知れませんね。
   何しろ、忙しい時期ですから。


   あーあ。


   自業自得です。


   ちぇー。


   ……。


   じゃ、ダッシュね。


   …は?


   ダッシュ!


   あ…。


   早くしないと置いてっちゃうよー。


   ちょ、待って下さい!


   やだ、待たないー。


   …ああ、もう!


   ははは。


   待って下さい、智さま…!








  −いちばんめ。





   蓮さん、お願いがあるの。


   …。


   今度の試合、是非とも出て欲しいのよ。


   …。


   一寸待ちなさいよ。


   何よ。


   蓮さんは今度こそ、我が部の試合に出て貰うのよ。


   いえ、蓮さんは私達陸上部が


   と言うより、蓮さんは元々私達剣道部の


   この間の試合は蓮さんがいてくれて本当に助かったの。
   だから今度も、人助けだと思って


   大体、ずるいわよ。
   二度も連続だなんて。


   そうよ。


   だから蓮さんはうちの


   …。


   「「「「て、どこにいくつもりなの!?」」」」


   …うるさくないところ。


   ねぇ、蓮さん。
   お願いよ。


   いや、蓮さん。
   今度こそ、我がソフトボール部に


   蓮さん、蓮さんが居てくれたら百人力なのよ。


   と言うか顔ぐらい見せてくれても良いでしょう?
   先生も待ってるわ。


   ……。


   「「「「ねぇ、蓮さん!!」」」」


   ……。


   あ、居た!
   ねぇ蓮さん、お願いがあるの!!
   今度、バスケの試合に出て欲しいんだけど


   …。


   駄目よ、蓮さんはうちが


   何を言っているの。
   蓮さんは我が部が先に


   いいえ!
   蓮さんは


   だから蓮さんは


   ……。


   「「「「「蓮さん!!!」」」」」


   …面倒だから全部、出ない。
   それで良いだろう。


   そ、そう言わずに!


   お姉さまに言ってきてしまったのよ。


   お願いよ、蓮さん。


   先生も屹度、待ってるわ。


   どうしても蓮さんの速さが必要なのよ!


   ……。


   蓮、一緒にごは


   「「「「「だめよ!!」」」」」


   え、な、何が…?


   …葵。


   あ、葵さんだったのね。


   良いトコロに来てくれたわ。


   蓮さんにお願いしているんだけど、


   どうしても必要なのよ、蓮さんが。


   葵さんも先生の事、知ってるでしょう?


   …え、と。
   また?


   …見たとおり。


   「「「「「ねぇ蓮さん!葵さん!!」」」」」


   …うーん。


   葵。


   うん?


   お腹、空いた。


   …うん。


   そうだ。
   今度の報酬は蓮さんの好きなパン一つ、いや二つでどうかしら?


   それならうちは三つで


   我が部は飲み物もつけるわ、だから


   一寸、物で釣るなんてはしたないわ。


   じゃあ引き下がりなさいよ。


   それは出来ないわよ。


   だったらどうすると言うの。


   …い、一週間分のお昼ごはんはどうかしら!


   い、一週間分ですって。


   だったら


   …て、蓮さん?
   蓮さん??


   居ないわ!


   いつの間に!


   そうだ、葵さん!
   葵さんは!?


   葵さんも居ないわ!


   ああ、また!!


   薔薇の館、屹度薔薇の館に!


   でも待って、そうとは限らないわ!!


   あーもう!!
   今回こそはと思ったのに!!


   …はぁ。
   先生、今回も駄目でした…。








   ……。


   ねぇ、蓮。


   …何。


   出てあげれば良いのに。


   …体、幾つあっても足りない。


   だから順番を決めて


   面倒。


   …もう。


   ……。


   蓮は面倒くさがりのくせに運動神経が良いから。
   勿体無いね。


   …別に、どうでも良い。


   …。


   それに。


   …それに?


   パンより、お弁当の方が良い。


   え、本当?


   勿論、蓉子の。


   …蓉子さんは忙しいからあまり作れないじゃない。


   …。


   ねぇ、蓮。
   今日の卵焼きは…


   …。


   …もう、また狸寝入りして。
   ばか蓮。








  −にばんめ。





   だから…。


   うん…。


   …つまり、


   ねぇ、これはどうしてこうなるの?


   えとね…。


   …うん。


   …になるから、


   …。


   ……なのだけれど。


   …うーん。


   えと。
   もう一回、説明した方が良い?


   ううん。
   ありがとう、葵さん。


   どういたしまして。


   葵さんの説明っていつもながら先生より分かりやすいわ。


   そんな事ないわよ。


   そんな事あるわよ。
   ノートも見やすいし。
   もう、本当に助かるわ。


   ねぇ、葵さん。
   私も聞きたい事があるのだけど、良いかしら。


   何?


   私は英語なのだけれど。


   あ、うん。
   良いわよ。


   ありがとう。
   じゃあ…


   …うん。


   あ、葵さん。


   え?


   良かった。
   お願いがあるのだけど。


   一寸、今は私が葵さんに聞いているんだけど。


   私は委員会の話で急なの。


   どうしたの?


   それがね…。


   ……そうなの。
   分かったわ。


   何とか出来そう?


   それくらいなら。


   わぁ、やっぱり葵さんは頼りになるわね。


   私だけじゃないよ。


   でも葵さんにだと話がしやすくて。
   蓮さんだと…。


   ……。


   …あ。


   蓮、いつから?


   …英語あたりから。


   言ってくれれば良いのに。


   …。


   葵さん、良いかしら?


   うん。
   …あ、でも。


   ……。


   蓮、もう少し待っててくれる?


   …一人で食べる。


   あ、待って。


   …。


   うーん…。


   葵さん?


   ごめんなさい。
   また後でも良い?


   え。


   蓮がお腹空かせてるから。


   ……えーと。


   ごめんなさいね。


   あ。


   蓮、待って。
   私も行く。


   …。


   …。


   …葵さんって。


   過保護、よねぇ。


   ……と言うより。


   ?
   なに?


   過保護と言うより、あれは…。








   もう、先に行って。


   別に一人でも良い。


   そんな事言って。


   …葵は。


   何よ。


   世話焼き過ぎる。


   そんな事無いよ。
   寧ろ、蓮が適当過ぎるのよ。


   …面倒だろ。
   みんなを相手にするのは。


   またそんな事言って。


   …ふん。


   もう。
   大体、蓮は…あ。


   …。


   人の卵焼き!


   …まぁまぁだ。


   返してよ!


   生憎、もう返せない。


   蓮のをくれれば良いでしょ。


   いやだ。


   頂戴。


   やだね。


   もう!


   そもそも、授業聞いてれば分かるだろう。


   は?


   わざわざ葵に聞かなくても。


   …。


   …何。


   じゃあ蓮は聞いてないから、私に聞くのね。


   …。


   特にお昼後の授業。


   ……そういう時もある。


   そういう時ばかりじゃない。
   そもそも蓮は


   ……やっぱ一人でも良かった。


   ねぇ、ちゃんと聞いてるの?


   ……。








  −さんばんめ。






   智さん。


   なに?


   今度の


   良いよー。


   え、本当に?


   うん。


   一寸待った。


   んー?


   て、何よ。


   今度はうちの番。


   あれ、そうだっけー?


   そうよ。
   ほら、順番表。


   んー…あ、ホントだ。
   じゃあこっち。


   待って智さん、先にお願いしたのは私よ。


   そだね。
   でも書いてあるからなー。


   ええ…。


   そういう事。
   残念でした。


   …うう。


   で、何すれば良いんだっけ?


   智さんにはリベロをして貰おうかと思って。


   リベロ?


   守備専用ポジション。


   守備かー。
   攻撃は出来ないの?


   残念ながら、リベロはそういうポジションだから…。


   そっかー。
   ちみっとつまらないなー。


   智さん。


   うん?


   うちは守備だけでなく、攻撃もしてもらいたいの。


   へぇ?


   智さんの運動能力は守備だけじゃ勿体無いわ!


   そーかな。


   だめよ、今度はバレーボール部なんだから!


   うん、バレーボールも面白いよね。


   でしょう?!


   いえいえ、智さんの運動能力はソフト部の方が生かされるわ!
   走塁も素敵だし!


   うん、ソフトも好きだなー。


   どうせなら好きな方をやりたいと思わない?


   でも両方好きだよ?
   動くの、好きだもん。


   …。


   …。


   ねぇ、試合は何時からなの?


   午後の1時だけど。


   そっちはー?


   うちは…朝の10時。


   そっかー。
   じゃ、両方やるよー。


   …え。


   …はい?


   朝はソフト。
   昼はバレー。
   うん、なかなか面白そうだねぇ。


   ま、待って。


   ん?


   両方だなんて。
   流石の智さんでも


   だいじょーぶ、だいじょーぶ。
   そこら辺は考えてやるし、


   し?


   何より、面白そう。
   だから、だいじょーぶ。


   ……。


   ……。


   あ、でも。


   …でも、何?


   ソフトの試合、長引いたらどうしようかなー。


   …本当にやるつもりなのね。


   まぁ、長引かないようにすればいっか、うん。


   ……智さんが言うと本当にそうしそうだから、不思議よね。


   じゃ、決まりで良いかなー?


   え、ええ、智さんがそれで良ければ。


   こちらとしては出てもらえるのならば、大助かりだし…。


   うん。
   じゃ、決まりー!


   …。


   …。


   で。


   …?


   くれないの?


   …あ。


   お弁当もあるけど。
   くれるなら、嬉しいなー。


   も、勿論。
   はい。


   あ、うちも。


   へへ、やったー。


   でも二つも食べられるの?


   うん、平気ー。


   …いつも思うけれど、凄い食欲よね。


   …本当に。


   マスタードタラモサンド!
   これ、美味しいよねー?


   え、ええ、そうね…。







   楽しい楽しいお昼ごはーん。


   …智さま。


   んーー?


   お行儀が悪いですよ。


   はーい。


   …今度の日曜、試合が入ったそうですね。


   うん、入った。
   楽しみ。


   …。


   タラモサンド、聖ちゃんに持って帰ってあげよっかなー。


   智さま。


   なにー?


   私との約束は…。


   約束?
   あったっけ?


   …。


   じゃあ、夕方で良いかなぁ?


   え。


   あれ、だめー?


   …良いですけど。


   じゃあ、夕方ね。


   …元気ですね。


   うん、家族から良く言われる。


   …。


   あー、おかーさんのお弁当がやっぱり一番だー。


   …。


   ん?
   あげないよ?


   要りませんから。


   美味しいのにー。


   くれるんですか?


   今日は特別。
   おかーさん特製卵焼き。


   …本当に良いんですか?


   良いよ。
   ほい。


   …。


   聖ちゃんの卵焼きも美味しいけどねー。


   …いただきます。


   うん、いただいてー。


   ……あ。


   ね、美味しいでしょー?


   甘い…。


   そう、そこが重要!
   で、美味しい?


   ……美味しいです。


   うん、よしよし。


   …。


   ねぇ、智〈サト〉


   …何ですか。


   今度の日曜、晴れるといーねぇ。


   ……はい。








  −Hello, Again.(Música)





   蓮?
   何聴いてるの?


   …。


   ねぇ。


   …。


   …隣、良い?


   …。


   …もう。


   …。


   何を聴いているの?


   …ん。


   うん?


   名前は知らない。


   …ふぅん?


   …。


   …くっついても良い?


   くっつかなきゃ聴けない。


   …うん。


   ……。


   …昔の歌、かな。


   …。


   懐かしの歌でやってたような気がする。


   …いつのでも良い。


   …蓮はそうだね。


   …。


   …サビの部分、覚えてる。


   …よく覚えてるな。


   …。


   …葵?


   …なんか、物悲しくなったから。


   …。


   …。


   …。


   …記憶の中でずっと二人は生きてゆける。


   …。


   ……。


   …なに。


   …私は、生きていけるかな。


   …。


   蓮がいなくなったら。


   …。


   ……。


   葵。


   …なぁに。


   無い話で落ち込んだって仕方ないだろう。


   …え。


   …。


   …本当?


   何が。


   無い話なの?


   …。


   ねぇ、蓮。


   …一応、そう言ったつもりだ。


   …。


   …。


   ……蓮。


   …。


   いなくならないで。


   …。


   …ずっと、隣にいて。


   葵が離れなきゃ良いだけだ。


   …。


   …。


   ……もう、蓮は。


   …。


   居てくれるとは言ってくれない。


   …ふん。


   ……たまには言ってよ。


   …。


   …一生のお願い。


   …。


   …。


   そんな事で一生の願いだなんて、言うな。


   …だって。


   …。


   …。


   …葵。


   ん…ん。


   …。


   …れん。


   ……隣に居れば良い。


   …。


   …私は、居る。


   ……う、ん。








  −Tú eres mi heromana, siempre.





   おかえりなさい。


   …あれ?


   いたら、おかしいですか?


   いや、べっつにー。
   でも良く分かったなぁ、てね。


   …教えて頂いたんです。


   そっか。


   誰からは、気にならないのですか。


   私を知ってる誰か、でしょ?
   だから、良い。


   …日に、焼けましたね。


   もう落ちないかなー。


   かも知れませんね。


   ところで何か食べない?
   久しぶりなんだよね、醤油。


   醤油限定ですか?


   カレーでも良いや。


   カレー?


   うん、カレー。
   あ、でもそれはうちのが良いや。
   かーさんのカレー、大好きなんだ。


   …なんだったら


   Sushi!


   …は?


   回るやつ。
   一皿で100円ので良いや。


   正しくは105円ですけど。
   それに良いやって、まさかとは思いますが


   ご馳走様。


   …。


   お腹、空かせておいて良かったなー。


   …機内食、しっかりと食べたでしょうに。


   出されたものは食べないと。


   好き嫌い、無いですよね。


   あるけど、食べるよ。
   食べられない状況を思えば、食べられる。
   人が食べられるものなら、ね。


   それはもう、嫌いとは言いませんから。


   そっかな。


   そうです。


   まぁ、良いや。
   ごはん、行こ。


   回るので良いんですか?


   他のでも良いよ。
   そうだなぁ、牛丼とか。


   …。


   他には…うーん、蕎麦でも良いや。
   天ぷらが入ってるの。


   …立ち食い、ですか?


   向こうじゃ無いからねー。


   せめて座って食べてください。


   うん、座っても良いよ。


   …はぁ。
   智さま。


   んー?


   私が決めても良いですか。
   要するにカレー以外なら何でも良いんですよね。


   うん、日本の味がするなら。


   なら、私の家に来て下さい。


   うん?


   日本の味ならば、良いのでしょう?


   うん、良いよ。


   ならば


   けど、そこまでもたない。


   …は?


   しし。


   ……相変わらずですね。


   この国に帰ってくるとお腹が空くんだよねー。
   良い国だよね、お金があれば。


   …それはどこの国だって同じだと思いますけど。


   でもこんなに色んなのを食べられる国ってあんまり無いさ。


   …。


   あーでも、どれもやっぱり日本の味なんだけどね。


   …まぁ、日本人の好みに合わせてますから。


   でもね、南米の…え、と、どっかの国の味は美味しかったよ。
   あっちはこっちから移り住んだ人が多いんだってさ。


   どっかって。


   そう、どっか。


   自分で行っておいて。


   今回はそっちじゃなかった。


   …。


   おなか、すいた。


   …何かご希望はありますか。


   白いご飯と、お味噌汁。
   それからおしんこ。


   …。


   あと、卵焼きがあればご馳走。


   …お新香は浅漬けでも?


   良いよ。
   漬けてるなんて、思ってないから。


   ……焼き魚もお付けしようと思ったのですが。


   やった。


   ……。


   楽しみだなー。


   …智さま。


   なに?


   …。


   お土産?
   何かあったかなー。


   …要りません。


   あ、あった。


   そんなの、要りません。


   要らないの?


   要りません。
   そんな物よりも


   でも、あげるよ。


   あ。


   面白いでしょ、それ。


   …不細工ですね。


   面白いんだって。


   …。


   向こうで会った子が作ったんだ。
   足が無くても、手はあるからって。
   良く笑う、可愛い子でさー。
   また会う約束をしたんだ。


   …え。


   だから、あげる。


   ……。


   さ、行こ。
   ごはん、ごはん。


   待って下さい。
   そんな大事なもの、受け取れません。


   なんで?


   なんでって。
   これは約束の


   約束はさ、物が無くてもこの中にあるさ。


   …。


   離れていても。


   …離れていても。


   そだよ。
   離れてても家族は家族だし、友達は友達だし、それに。


   …。


   君は君でしょや?


   …!


   分かった?
   じゃ、行こ。


   …いつか。


   んお?


   …。


   なんか言った?


   今回はどこへ行ってきたんですか?


   ああ。
   今、聞きたい?


   歩きながら、で。


   うん、分かった。


   でもちゃんと日本語で話してくださいね。


   あはは。


   ……。


   あ、でもさ、今日だけじゃ終わんないよ。
   それでもいい?


   ならば、泊まっていってください。


   お泊り?


   はい。
   ご迷惑で無ければ。


   んーー……。


   ご家族も待っているでしょうから、無理にとは言いませんが。


   良いよ。


   …。


   今日、帰ってくるとは言ってないしねー。


   ……。


   変な顔。


   …智さま。


   今回は


   智さま、ちゃんと連絡してください。


   良いって、いつもの事だし。


   蓮さまに叱られます。


   ああ、蓮ちゃんかー。
   でも平気、葵ちゃんがいるから。


   聖さまや


   聖ちゃんも大丈夫。


   …ならば、お母さまはどうですか。


   ……う。


   お母さま…蓉子さまにはちゃんとご連絡した方が良いと思いますが。


   …や、でも。


   でも?


   ……分かったよぅ。


   宜しい。
   では、今。


   え、今?


   勿論です。


   ごはん食べてからじゃ


   駄目です。


   でも携帯なんて、


   貸して差し上げます。
   番号も入っていますから。


   …自分ちの番号ぐらい、覚えてるよー。


   ならば、尚。


   …へぇい。


   では、どうぞ。


   うー…。


   ……。


   …………出ないよ。


   早すぎです。


   ……で、あ、かーさん?


   …。


   あ、うん、今日帰ってきた。
   うん、元気だよ、大丈夫。…うん、おなかは空いてるけど、で、ごはん食べてくから。
   で、泊まって…え、と、リリアンの、あ、うん、そう…迷惑なんてかけないよー。


   …すみません、蓉子さま。


   聖ちゃんは?散歩中?そっかー。
   うん、じゃ、聖ちゃんによろ…わ、蓮ちゃん?
   いたの?


   …。


   だから大丈夫だって、つか、吃驚したよー。
   葵ちゃんは元気?


   …。


   あ、うんうん、明日帰るから。
   だからかけないって、どうせだから葵ちゃんの声も聞きたいなー。


   …すみません、蓮さま、葵さま。


   葵ちゃん、ただいま。元気だよ。
   それから葵ちゃんでしょ?


   …。


   はは、やっぱり。
   そだ、お土産あるから、楽しみにしててねー。


   …。


   …はい、おしまい。
   さ、行こ。


   …。


   どした?


   いえ。


   そ?
   なら、良し。


   持たせる為に、蕎麦でも食べますか?


   うん、食べる。
   でも平気?


   もう、慣れてますから。
   貴女のおかげで。


   うん、良い事だ。


   …。


   じゃ、行こっか。
   智。


   はい、智さま。