−真夏日。(三姉妹+聖)





   ……あつい。


   うん、今日は暑いね…。


   ……。


   蓮、お行儀が悪いよ。


   …蓉子みたいだな。


   だって私はお母さんの娘だもの。


   …私も、だけど。


   蓮は聖さんの娘じゃない。


   …と言うか、葵もだろ。


   ただ暑いだけなら良いのにな。


   …あ?


   湿気が無ければ何とかなるのに、て。


   …ここは日本だからどうしようもないね。


   でも昔、夏休みにみんなで安曇野へ行った時は涼しかったじゃない。


   ここは東京、関東平野。


   …そうだけど。


   暑い。


   …クーラー、つける?


   嫌いだから、良い。


   …私も苦手だけど。


   こんなに暑いのに良く寝てられるよな…。


   うん?


   ちび。


   ああ、智?


   良く寝てる。


   智は夏生まれだから。


   そういう問題か。


   多分。
   ほら、聖さんは冬生まれで夏が苦手って。


   蓉子は夏の暑さが残る頃の生まれだけど暑いのは苦手だって言ってた。


   梅雨の暑さと残暑では違うのよ。


   暑いものは暑い。


   あまり暑い暑い言わないでよ。
   余計、暑くなるじゃない。


   …アイス、食べるかな。


   あ、私も食べる。


   …へぇへぇ。


   ありがと。
   でも本当に良く寝てるね。


   …起こすなよ、面倒だから。


   もう、蓮は。
   智は私達の妹なのに。


   うるさいだろ、起きると。


   ……もう。





   「う、へぇぇぇ」





   あ、聖さん。


   今日は暑い、地味に蒸し暑くて蒸し焼きになりそうだねぇ。


   蒸し焼きにはならんだろ。


   お、蓮君。
   良い物を持っているのね?


   聖の分は持ってない。


   またまた〜。


   これは葵の分だ。


   ありがとう、蓮。


   じゃ、ついでだから聖さんの分もプリーズ。


   ……。


   プリーズ、蓮君。


   …と言うか仕事、捗ったのか。


   こう、暑いとね〜。
   やる気が無くなるよね〜。


   あるとこ、見たこと無い。


   やだなぁ、そんな事無いよ蓮君。


   …。


   お、サンキュ。
   おー、ひゃっこーい。


   …。


   冷たい、て意味ね?


   …知ってるよ。


   しっかし、ひーは良く寝てるね。
   こんなに暑いのに、平気なんだねぇ。
   まぁ、助けるけど。


   あの、聖さん。


   んー?


   聖さんは暑いの、苦手なんですよね?


   苦手だねぇ。
   頭の中が溶けそうになるから。


   いつも溶けてると思う。


   蓉子さんと居る時は、そりゃあねぇ。
   ラブラブですから!


   …これ以上暑くする気か。


   お望みならば☆


   鬱陶しい。


   あらら。


   ふふ。


   ん、何か可笑しかったかい?
   葵。


   はい、少し。


   見ろ、蓮。
   蓮のせいで葵に笑われた。


   知るか。


   あーもう、つれないなぁ。
   そのつれなさは蓉子そっくり。


   ……。


   でもまぁ、こうしてると思い出すねぇ。


   思い出す?


   君らがちびだった頃。
   ま、今でもまだまだちびだけどね。


   …うるさい。


   君らは二人だったから。
   大変だったよ。


   …そうなんですか?


   うん。
   泣くと大抵二人一緒、だったから。


   …。


   けど、私達も二人だったから。
   蓉子が居たから、どんな時でも大丈夫だったけど。


   ……。


   …結局、惚気か。


   はっはっは。
   さて、そろそろ飯でもこさえるかね。
   お腹、減ったろ?


   あ、今日は私が作ります。


   お、それは嬉しいねぇ。
   ちなみに何を作るのかな?


   暑いから冷たい麺でも、て思っていたんです。


   良いねぇ、賛成。


   …。


   蓮は?
   それで良い?


   良いけど、紫蘇は嫌いだ。


   出た、蓮君の好き嫌い。


   大丈夫、今回は紫蘇は必要ないから。


   …。


   今回は冷たいカレーうどん、だから。


   ほう、冷たいカレーうどんとな?


   この間、お母さんと買い物行った時に見つけたんです。


   そういや、冷蔵庫に見慣れないものが入ってたっけな。


   美味しいらしいですよ。


   へぇ。


   蓮、カレー好きでしょ?


   …まぁ。


   大丈夫、お肉も入れるから。


   ……どうやって。


   肉と玉葱を軽く塩胡椒で炒めて、うどんの上にのせるの。


   …玉葱。


   ちゃんとふにゃふにゃにしてあげる。


   ……。


   あぁ、葵は良いお嫁さんになれるね。
   まぁ、誰にもやらないけどね。


   …親ばか。


   はい、そーです。


   ふふ。
   じゃ、作るから待っててね。








  −母譲り。(葵)





   …はぁ。


   もう止まないな、今日は。


   …蓮。


   本当の事を言っただけ。


   だからって


   葵が不貞腐れたところで天気が変わるわけじゃない。


   ……もう。


   ま、アレだねぇ。


   …聖ちゃん。


   七夕は雨の確立、高いからねぇ。


   そうなの?


   そうらしいよ。


   ……。


   ま、大丈夫だよ。
   雲の上はいつだって晴れだからね。


   …そうだけど。


   聖。


   なんだい、蓮君。


   そういう問題じゃ、ないだろ。


   ん?


   葵。


   ……。


   蓉子に似てロマンチスト。


   ああ、そっか。
   てか、蓮君。


   ……。


   なかなかに、葵想いじゃないの。


   …うるさいな。


   やっぱねぇ、そうだよねぇ。


   鬱陶しい。


   なのに意地悪なコト、言っちゃうんだよね。
   素直じゃないなぁ。


   ……。


   ただいまー。


   あ、蓉子だ。
   蓉子、蓉子!


   ……いい年して。


   ただいま、聖。


   おかえりなさーい!


   ただいま、蓮、葵。


   おかえり。


   …おかえりなさい、お母さん。


   うん?
   葵、元気が無いわね?
   何かあった?


   …。


   雨。


   雨?
   雨がなぁに?


   今日、七夕。


   …ああ。
   そういえば今日は七日だったわね。


   なんて言っちゃってるけどね。
   イベント好きな蓉子さんだもん、本当はちゃんと覚えてたくせに。


   …あのね、聖。
   私だってもう


   はいはい、そうだね。


   …んもう。


   で、蓉子さん。
   それ、なぁに?


   ………。


   その箱、どっかのケーキ屋さんのだったり?


   ……今日までの限定だって言うから。


   ふふ、そんな蓉子さんが大好きです。


   …でも七夕とかそういうことは


   そだね。


   ……。


   蓉子。


   …え。


   とりあえすそれ、食べても良いの。


   あ、うん。
   お夕飯の後に食べましょうね。


   こら、蓮君。
   先ずはお土産ありがとう、だろ。


   …ありがとう、蓉子。


   いいえ。


   …。


   葵、葵はベリー系のフルーツ、好きでしょう?


   …うん。


   ……だめ、かしら。


   葵は雨が止まないから…ね。


   この調子だと、今夜は難しそうだものね…。


   ……。


   まぁアレだ。
   こーいう時は美味しいものを食べよう。
   お腹がふくれれば凹んでいても、それなりに、元気になれる!


   単純。


   こら、蓮君。
   そう、冷静にツッコミを入れない。
   葵を元気にしようと言う気持ちが分からんのかね、君は。


   …。


   全く、
   どんどこ、小生意気になっていくなぁ。


   ……はぁ。


   葵。


   …お母さん。


   そんな顔しないで?


   ……。


   ケーキ、食べましょう?


   聖さんも美味しいごはん、作っちゃうぞー。


   ……うん。








  −La puerta de la agua.(家族)





   たまりー!


   蓮、濡れちゃうから思い切り足踏みしちゃだめよ。


   にゃ!


   せいちゃん。
   みずたまりのむこうに“ちがうせかい”があるってほんと?


   葵、何だか難しいコトを知っているね。
   そうだよ、水溜りは私達の居る世界と違う世界とを繋ぐ一枚の扉なんだよ。


   わぁ。


   だからあまり…そう、蓮君みたいにあまりぱしゃぱしゃしてるとあっちに行っちゃうかもしれないよ。


   え…。


   ほら、そんな事を言ってる間にも蓮君が…


   れん…!


   にゃッ?


   れん、だめ、もうだめ!


   ?
   あお?


   …聖、貴女ね。


   あはは。
   ちっこい子はかわいいなぁ。


   本気にしちゃってるじゃない。


   だってかわいいじゃない。
   水溜りの向こうに違う世界がある、なんてさ。
   ちびっこの特権だね。


   だからってね…。


   あお、や。


   でもれんが…。


   や。


   …。


   蓮君、葵は心配なんだよ。


   …?


   蓮君がどっか行っちゃったらって。
   だから、嫌がっちゃいけないな?


   ……。


   葵、大丈夫よ。
   この水溜りは違う世界なんかには繋がっていないから、蓮はどこにも行かないわ。


   …ほんとう?おかあさん。


   ええ、本当よ。
   だから離しても大丈夫。


   ……うん。


   蓮、葵は蓮の事を心配してくれたんだよ。
   蓮があまりにも水溜りではしゃぐもんだから。


   ……。


   れん、あのね…。


   にゃ。


   …。


   …全く。
   ありがとうとは、言えないのなぁ。


   意味が良く分からないのかも知れないわね。


   …好きな人が突然居なくなるのはきついのにね。


   聖…。


   と、雨が強くなってきたね。
   よ


   よーこ。


   聖、雨が本降りにならないうちに早く帰りましょう。


   そだね。
   てか、言おうと思ってたのにね。


   …。


   あお。


   …れん?


   かえる。


   うん、かえろ。







   水溜りの向こうは違う世界、ね…。


   …聖はそういうの、信じてた?


   うん?


   子供らしい発想。


   さて、どうだったかなぁ。


   また、“覚えてない”?


   子供らしい発想かどうか分からないけど。
   魚の鰓が苦手だった。


   魚の?


   だって身体の中、見えるじゃん?


   まぁ、確かに。


   あとなんか内側赤いし。


   …まぁ、そうね。


   自分の首に出来てる夢を見た時なんて、ね。
   泣いたような気がするよ。


   それは蓮と葵ぐらいの時?


   かも。


   …ふぅん。


   子供らしい?


   今は平気なの?


   …。


   ほら、聖ってあまり魚を食べようとしなかったでしょう?
   要因ってもしかして骨だけじゃないとか。


   …蓉子。


   あ、図星なんだ。


   …調理してあれば、平気ですよ。
   一応。


   ふぅん?


   子供の頃ほどじゃないよ。


   でも苦手?


   ……。


   ふふ、聖にもそういうの、あるのね。


   言わなきゃ良かった。


   私は嬉しいのに。


   …でも、なんかなぁ。


   聖は私の苦手なの、知ってるくせに。


   だって蓉子ってば案外、分かりやすいんだもん。


   私としては見せないようにしてたのに。


   それがかえって裏目に出てた。


   …そういうものなのよね、実際。
   聖も分かりやすいし。


   …で、蓉子は?


   ん?


   水溜りの向こう側。


   私は…そうね。


   あるんだ?


   私の場合は鏡の向こう側。
   特に合わせ鏡。


   …似たようなものだね?


   そうね。


   やっぱり向こう側に行っちゃうとか?


   だから夜は怖かったわね。


   ……。


   聖も知っているでしょう?


   …案外、怖がり。


   ねぇ。
   頭では分かっているのだけどね。


   子供の頃はそうもいかない、てね。


   そうなのよ。


   ……。


   本当、あの頃は…。


   …蓉子。


   え?


   …今は怖くない?


   ……。


   私と一緒だから。


   ……そうね、怖くないわね。


   私は真面目に言ってるの。


   私も真面目に答えているわよ。


   顔が笑ってる。


   だって本当に真面目な顔、してるんだもの。


   …。


   …でも本当よ?


   ……。


   怖くない。


   …蓉子。


   ……また、これ?


   またって言われるほど、最近してない。


   聖の最近はあてにならない。


   良いの。


   …私の意思は?


   ……良いでしょ?


   さぁて…。


   …連れて行ってあげる。


   …それはどこに?
   水溜りの向こう側?鏡の向こう側?
   それとも…


   熱いところ。


   …もっと上手な言い回しだったら良いのに。


   じゃあ、二人だけの世界。


   ……まんま、じゃないの。








  −ころし。(蓮、三歳)





   蓮、葵。
   おばあちゃんから玉蜀黍が届いたわよ。


   とーもろこし?


   ええ、そうよ。
   ほら蓮、見て。


   …。


   蓮?


   …ころし?


   いやいや、蓮君。
   そんな物騒なものは届いてないよ。


   …?


   と、う、も、ろ、こ、し。
   ほい。


   ……ころし。


   蓮、とうもろこし、よ。


   ……こし。


   …。


   …。


   まぁ、いっか?


   ……心配だわ。


   大丈夫だって。
   まだまだ三歳児なんだから。


   …。


   おかーさん、おばーちゃんってどっちのおばーちゃん?


   ああ。
   私の方よ。


   わぁい!


   でも今頃に玉蜀黍って珍しいね?


   長野のなんですって。


   へぇ、長野。


   箱で買ったみたいよ。
   だから。


   いつもどおりだね。


   夫婦二人では食べきれないの、分かっているのに。


   いやいや、私達の分までちゃんと含んでの買い物、でしょ?


   …なのかしらね、やっぱり。


   お礼の電話、掛けないとね。
   蓮君、葵、おばあちゃんに電話掛けるぞー。


   …。


   はぁい。


   蓮君、あんまり乗り気じゃないみたいだけどどうしたにゃ?


   …。


   好きでしょ、蓉子んちのおばあちゃん。
   お話、したくない?


   …ばあ。


   蓮、おばあちゃんが蓮の声を聞いたら屹度喜ぶわよ。


   …にゃ。


   よしよし。
   んじゃ、葵。
   葵が掛けてみる?


   わたし?


   そう、葵。


   …え、と。


   番号、覚えてる?


   …。


   聖、それは


   おぼえてる。


   …え。


   さっすが、我が家の葵ちゃん。


   本当なの、葵。


   うん。


   …。


   ね、蓉子。
   凄いでしょ?


   いつの間に…。


   見てて覚えちゃったみたいだよ。


   子供の記憶力って本当に驚かされるわね…。


   ねぇ。


   …。


   あれ、蓉子。


   …蓮は、大丈夫かしら。


   大丈夫だって。
   蓮くんだって色々、覚えてる最中なんだからさ。


   …最中?


   そう、最中。


   …そうね、そうよね。


   もう、蓉子さんったら心配性なんだから。


   聖が楽天的過ぎるからよ。


   だからこそのこのバランス感。
   なーんてね。


   …もう。


   せーちゃん、おかーさん。
   でんわ、かけてもいい?


   おう、そうだった。
   良いよ良いよ。


   …。


   聖、届かないのよ。


   あ、そうか。
   はい、葵。


   ありがとう、せーちゃん。


   なんのなんの。
   蓮君、蓮君は葵の隣でスタンバイ。
   オーケイ?


   にゃ。








  −とーもころし。(蓮、五歳)





   あ、おかあさん。


   うん、なぁに。


   とうもろこし、うってるよ。


   あら、本当ね。


   なになに?
   葵、とうもろこし食べたい?


   んー…うん。


   そっかそっか。
   蓉子、どうする?


   そうねぇ…。


   …。


   ん?
   蓮君も食べたいのかな?


   …とーもころし。


   いやいや、蓮君。
   やっぱりどことなく、物騒だから。


   …と言うか、どこかで聞いた事があるわね。


   …。


   蓮君にとっては玉蜀黍が言い難いのかな。


   語呂はそんなに悪くは無いのだけど…。


   ま、無理矢理直すもんでもないし、そのうち直るでしょ。


   …聖。


   ん?


   楽天的、よね。


   だって二人で心配してたら重くなっちゃうじゃん?


   …そうだけど。


   それに蓮は未だ五歳だし、これからこれから。


   もう、五歳よ。


   でもまだ五歳だよ。
   まだまださ。


   …そうね、貴女は初めからそんな柄じゃないものね。


   そんなコトないさぁ。
   心配する時は心配する。
   けど、蓮の言葉はそんなに心配するものでもないから。


   …。


   ほら、蓉子。
   蓉子があまり心配してると、蓮君もどうして良いか分からなくなっちゃうよ。


   …蓮。


   とーもこ…とーもろころし。


   ああ惜しいな、蓮君。
   ね、蓉子、惜しかったよね。


   …本当。
   もう少しよ、蓮君。


   ……。


   そだ!
   蓮、唐黍って言えば良いよ。


   …び?


   と、う、き、び。
   とうもろこしの事だよ。


   …きび。


   とうきび。


   とーきび。


   おお、良いねぇ。
   蓮君、その調子だ。


   …。


   ねぇ、蓉子。


   …ええ。


   よーこ?


   蓮、もう一回言ってみて?


   とーきび。


   うん、良く出来ました。
   ね?


   ええ。


   とーきび!


   うんうん。


   …聖。


   うん?


   ごめんなさい。


   謝ることじゃないさぁ。


   …。


   おかーさん?
   どうしたの?


   …ううん。
   ねぇ葵、またおばあちゃんから玉蜀黍、送られてくると良いわね。


   うん!


   蓮も。


   う!


   いっぱい送られてくるだろうから、また、冷凍しておいてシチューに使おうっと。
   あとサラダとか。


   ええ、そうしましょう。








  −とうきび。(蓮、十七歳)





   あ。


   …。


   ねぇ、蓮。
   とうもろこしが売ってるわ。


   …。


   ほら、見て。


   …。


   焼いているのかしら。
   お醤油が良い匂いね。


   …。


   ねぇ、蓮。
   聞いてる?


   …白薔薇さま。


   え。


   …。


   …あ。


   …。


   え、と、紅薔薇さま。


   …ああいうのは無いな、リリアンには。


   「あれに興味があるのですか?ならば買いに行かせましょう」


   あ、いえ、お構いなく。


   …。


   ねぇ、紅薔薇さま。


   …要らない。


   黄薔薇さまも。


   良いじゃない、貰えば。


   え。


   折角、奢って下さるそうだから。


   え、恵麻…。


   私に振ったのがそもそもの間違い。
   ねぇ、紅薔薇さま?


   …。


   と言うわけだから。
   ありがとう、花寺の方々。







   …。


   …。


   なかなか良い匂いね。
   私、こういうのを食べるのは初めてだから面白いわ。


   …。


   …ああ、もう。


   結構、熱いわね。
   冷めないと食べられないわ。


   …葵。


   …なに。


   はしゃぎすぎ。


   はしゃいでいたわけじゃ…。


   …。


   …だってこういうの、子供の頃以来だったから。


   …。


   あら、紅薔薇さまは熱いのが平気なのね。


   …お前とは違う。


   ああ、そう。
   白薔薇さまは?


   え…。


   折角なのだから、頂いたら?
   それとも薔薇さまであろう者が大口を開けて食べる事にでも抵抗があって?


   それは…少し。


   …家では


   紅薔薇さま。


   ……。


   大体、家でだって


   美味しくない。


   …え?


   味。


   味?


   送ってくれる唐黍の方が美味しい。


   …?
   とうきび?


   そんなに違うの?


   違う。
   これはあまり美味しくない。


   …美味しそうなのに。


   醤油の匂いに釣られただけ。


   …う。


   ねぇ、とうきびって?


   …。


   黄薔薇さま?


   とうきび。


   …食べてるだろ、今。


   これは玉蜀黍でしょう。


   唐黍とも言うのよ。


   …。


   …知らなかった?


   別に知らなくても生きていけるわ。


   それは、そうだけど。


   じゃあ聞くな。


   で、なんであんたはとうきびって言うのよ。


   …は?


   言わないでしょ、普通。


   …。


   葵。


   そんな事無いわよ。
   ほら、北海道を特集してる番組なんかで


   ここは東京都。


   …そうだけど。


   蓮。


   …どうでも良い。


   良くないわよ。


   でこすけの好奇心に付き合ってる暇は無い。


   何ですって。


   紅薔薇さま、黄薔薇さま、止めて。


   …。


   …。


   良いじゃない、呼び方なんて。
   自分にとって言い易いのを言えば…


   ああ、成程。


   …。


   つまり。
   このレンコンは言えなかったのね、玉蜀黍が。


   え…?


   ……。


   ああ、そう。


   え、恵麻?


   ふぅん。


   で、でも今はちゃんと


   そりゃそうでしょうね。
   ただ単に言い易い方を言ってるだけ、で。


   ……。


   ……葵。


   ………ごめんなさい。








  −こねこころころ。(にゃんこさとーけ)





   ふにゃーーん!!





   今度は何
〈にゃん〉だ。


   …。


   う、う…ッ


   よしよし、もう泣
〈にゃ〉かないで。
   ね?


   にゃ、にゃ…。


   葵、そっちは


   うん、任された。


   …で。


   …。


   黙っていては分からにゃい。


   …。


   …全く。
   何度〈にゃんど〉も言うようだけどにゃ。


   …。


   お前の方がお姉ちゃんにゃんだぞ。


   …!


   下をいじめて何〈にゃに〉が面白いんだ。


   ……もん。


   この間は玩具を取り上げて。
   その前は転ばせて。
   怪我をしにゃかったから良かったが、


   ちあうもん…!


   …あ?


   おねえちゃんじゃ、にゃいもん…!


   あ、こら、待


   れんちゃんの、ばかーーー…!!


   ……あーー。


   …蓮。


   ……あぁ、全くもう。


   まぁ、分からにゃいでもにゃいのだけど。


   けど、どうしようもにゃいだろ。


   …まぁ、ね。


   たく。
   聖は?


   …お昼寝中。


   …はぁぁぁ。


   こっちは落ち着いたから。


   一人にさせて大丈夫にゃのか。


   一人じゃにゃいよ。


   …?


   聖ちゃんとお昼寝中。


   …あぁ。


   あっち、にゃんとかしにゃいとね?


   …たく。
   面倒にゃコトばかりだ。


   愚痴らにゃい、愚痴らにゃい。


   …てか、また増えるとか有り得にゃいにゃ。


   ……楽しみだけど。


   ものには限度があるだろにゃ。


   ……うん。








   …。


   いつまでそんにゃトコにいるつもりにゃ。


   …。


   不貞腐れてたって、しょうがにゃいだろ。


   …。


   ほら、怒ったりしにゃいから出て


   れんちゃん、きらいにゃ。


   ……にゃろう。


   蓮。


   …でもにゃ、葵。


   良いから。


   …。


   ね?


   …分かった、任せる。


   うん、任せて。


   …。


   ね、そろそろ出てこにゃい?


   ……あおいちゃん。


   今はもうあの子も泣いてにゃいし、蓮も怒ってにゃいわ。
   と言っても蓮は最初から怒ってたわけじゃにゃいの。


   …。


   ね、聖ちゃんもそろそろ起きると思うにゃ。
   そしたら大好きにゃおやつの時間にゃ。
   聖ちゃんの作るおやつ、好きにゃ?


   …。


   みんにゃで、食べよ?


   ……にゃ。


   ねぇ?


   …。


   ……。


   …頑固なやつだにゃ。


   蓮。


   …へぇへぇ。


   …。


   さぁ、出ておいで。


   …。


   そんにゃ暗いトコロに一人でいにゃいで?
   一人ぼっちは、淋しいにゃ。


   …あおい、ちゃん。


   さぁ、おいで?


   あおいちゃん…!


   うん、良い子良い子…。


   にゃぁ…。


   …やれやれ、だにゃ。








  −こねこころころ、そのに。(せいようと、べにばらしまい)





   祥子、祐巳ちゃん。
   今日はありがとう。


   いいえ、こちらこそありがとうございました。


   ごはん、とても美味しかったです。


   良かったらまた来てね。


   はい、お姉さま。


   はい、是非!


   …祐巳。


   え?


   少しは遠慮にゃさい。


   あ…。


   ふふ、良いのよ。
   うちで良かったら、いつでもおいで。


   でもお姉さま、お姉さまにもご都合が


   来てくれたら、嬉しいもの。


   …。


   ねぇ、祥子。


   …はい、お姉さま。
   また近いうちに


   そうそう遠慮にゃんかいらにゃいよ、てねぇ。


   ……。


   ……。


   ん?


   …。


   …。


   てかさ、祐巳ちゃん。


   …にゃんですか。


   ちょいと懐を失礼。


   にゃ…ッ?


   聖さま…ッ!


   一寸聖、にゃにしてるの。


   いやいや、だってねぇ?


   ……にゃぁ。


   …あ。


   うん、いたいた。


   ……。


   祐巳、これはどういう事にゃの!?


   あ、いや、その…。


   祐巳ちゃん?


   …う。


   ま、気持ちは分かるけどねー。


   ……だ、だって。


   だってにゃんにゃの!


   よ、蓉子さまのミニチュア版みたいで…。


   …。


   だから…その…。


   ふにゃぁぁ…。


   …!
   あぁぁぁかわいい…!


   かわいかろかわいかろ?
   だって蓉子と私の子にゃもんね。


   …未だに信じられません、にゃ。


   ほらほら、こっちは私のちっこい版。


   …にゃ?


   ……。


   うんうん、あまりのかわいさに言葉も出にゃいにゃ。


   …にゃんでこんにゃ方が。








  −Sis puella magica.(Música)





   歌う、歌う、歌う。


   二人で、二人だけで。


   この世界ならば。


   二人で生きている、と。








   ……。


   …はぁ。


   貴女達の演奏には鬼気迫るものがあるわね、相変わらず。


   …。


   …恵麻。


   何がどうして、そんなに切羽詰らないといけないのかしら。


   …いつから、居た。


   ずっと居たわよ。
   気付かない方が悪い。


   …。


   …。


   もう歌わないのかしら?
   それともそんなに二人で無ければ駄目?


   …。


   …ただ、合わせ易いだけよ。


   双子だから?


   …ええ。


   ただの?


   え…?


   ただの双子でも、そういうもの?
   一卵性でも無いのに?


   …それはただの偏見だろう。


   そうね。
   実際は分からないから。


   …。


   …蓮の音と合わせると。
   自分の音が良く、聞こえてくるの。
   良いところも、悪いところも…蓮が教えてくれるの。


   自分の音だけ?


   …。


   音だけじゃないのよ。
   貴女達の場合。


   …。


   …。


   片方だけになると途端に質が落ちる。
   先生も嘆いていたわよ、使いづらいって。


   …どうでも良い。


   貴女も?


   …私は。


   ソリストは無理ね。
   そのままなら、一生。


   ……一人になるつもりは無いから。


   あ、そう。


   …。


   …。


   使い辛いとまでは、言ってないにしても。
   もう少し安定したら良いのに。
   ひどいのよ、本当に。


   …。


   特に葵。


   ……。


   貴女は蓮に寄り掛かりすぎている。
   それは自覚しているのでしょう?


   …。


   いつか、いえ今まさに、それが致命傷になっている。


   …っ。


   このまま続けるのならば


   黙れ、恵麻。


   本当の事を教えてあげるのは、友達だからよ。


   …好き、なの。


   …。


   …。


   …蓮の音が。
   傍にあると、安心するの…。


   それは音だけ?


   …。


   さっきの、歌。
   鬼気迫るものがあると言ったわよね、私。


   …。


   主に貴女が、よ。
   葵。


   ……。


   思い詰めて、張り詰めて。
   最後には壊れてしまうわ。


   …。


   バイオリン、は。
   自分の悲壮を歌う為だけに、あるんじゃないわ。


   だから、なんだ。


   …。


   葵、行くぞ。


   ……れ、ん。


   そうやって。


   …。


   甘やかすから。
   だから、葵は駄目になるのよ。


   葵は駄目になどなっていない。


   あんたがそうしてるって言ってるのよ。


   …。


   私は別に、血だとか姉妹だとか。
   そんなのはどうでも良いのよ。
   だって。


   …。


   …え、ま。


   好きになったものは、仕方が無いもの。


   ち、違う。
   わたしは


   葵。


   違う、違うの…。


   …。


   ……帰ろう、葵。


   れん、わたし…わたし…。


   …もう、良い。


   でも…。


   良いと言ってる。


   ……う、ん。


   …。


   …先刻の二重奏。


   …。


   …。


   結局、入れなかったわ。


   …。


   …。


   低音。
   あるのと無いじゃ、全然違うわよ。


   …別に無くたって良い。


   だから、駄目なのよ。
   低音の良さが分からないだなんて。


   …。


   ねぇ、葵。


   …うん。


   それは、どっちの「うん」?


   え、と…。


   ほら、位置につく。


   …。


   …恵麻?


   大体、分かったから。
   さっさと始めて。


   …。


   で、でも


   良いから、早くする。


   ……。


   ……うん。








    本編は見たことないのですが。
    この曲をバイオリンで弾いている動画を見て、心が震えたので。