−初めての。(佐藤家)
ただ
おっかえりぃー!
……。
おかえり、蓉子!
……え、と。
ん?ん?
…何事?
何事、て。
愛しの蓉子が帰ってきたからそのお出迎え?
……ああ、そう。
ね、ご飯出来てるよ。
それとも先にお風呂に入る?
あ、若しかして
その先は言わないで良いから。
えー、言わせてよぉ。
だめ。
もう、蓉子ちゃんったらぁ。
気色悪いから。
と言うかなんでそんなに上機嫌なの。
何か悪いものでも食べた?
んーん、食べてないよー?
……。
ん?
何々?
いよいよ気色悪いんだけど。
んふふ。
……お酒でも飲んだ?
ちび達が居るのに、飲まないよぅ。
それに最近は蓉子と飲むのがマイブームなの。
……マイブーム、ねぇ。
ね、ね、蓉子、聞いて聞いて。
それより、私はいつまで玄関に突っ立っていれば良いのかしら。
あ、そっか。
どうぞどうぞ、お帰りなさいまっせー。
……本当になんなの。
でね、蓉子。
今日ね…
あーーーー。
あ。
聖、子供達は…
寝てたんだけど、今、起きた模様。
…聖。
あはは。
あはは、じゃないわよ。
あーーーー、あーーー。
あーはいはい。
今行くよー。
全く。
あーー。
ほーら、蓮、葵、蓉子が帰ってきたよ。
あー。
うー。
ただいま、蓮、葵。
あーう。
きっと、おかえり、って言ってるんだ。
うん、そうね。
……んー。
聖?
言うより、早いかなー。
…?
蓉子、蓉子、そこに座って座って。
そこ?
今、立ってるところ。
どうして?
良いから良いから。
良くない。
何故、私は此処に座らないといけないの。
それを今から説明してくれます。
してくれます、て。
貴女がするのでしょう。
いや、葵が。
…貴女ね。
葵は未だ
ほら、葵。
あそこに蓉子がいるよー。
……。
ほら、葵ー。
大好きなお母さんだよー。
…うー。
…。
……あれ?
…で?
何がしたいのかしら?
ほらほら葵、大好きな蓉子だよ。
帰ってきたよ。
……。
あっれぇ…。
…聖。
葵ってば、ほら、あそこに蓉子がいるよ。
葵を待ってるよ。
…う?
いや、う?じゃなくてだね?
…。
……だから。
何なのよ。
……あっれぇー。
あーあー。
うーん、おかしいなぁ。
…聖。
私はいつまで
あ、いやね。
実は今日ね、葵が
あーー!
…て。
あーーあーー!
…蓮?
う…
あ。
え?
なー、なー。
……凄いわ、蓮!
なー♪
……て、うっそぉ。
ねぇ、聖!
見た?今、見た?
うん、見た…。
でも、さっきは…
蓮が初めて歩いたのよ!
う、うん、そうだね。
でもさっきは…
あーあー。
…え。
うー。
あ、葵…?
…て、今?
……聖!
…はいはい、何でしょう。
葵が…!
葵も…!!
と言うかね、これを見せたかったんだけどね、と言うかさっきまで蓮は何言っても駄目だったのにね。
聖!
蓮と葵が立って歩いたわ!
私のところまで来ようとしたわ!
…うん、そうだね。
ああ、もう!
…え、と。
座って貰った理由、これで分かって貰え
蓮、葵、凄いわ…!
……蓉子ぉ。
え、何?
私の事、忘れないで。
は?
何言っているのよ。
…だって。
もう、何言ってるのよ。
変な聖ね。
……。
聖、ほら。
……何。
聖も。
……。
やだ?
…やだじゃない。
うん。
…よーこー。
−気になるお年頃。(蓉子と葵)
お母さん。
なぁに、葵。
…。
葵?
…あのね。
うん。
…え、と。
どうしたの?
…何か欲しいものでもあるの?
う、ううん、そうじゃないの。
じゃあ、どうしたの?
言いづらい事なの?
…ううん。
じゃあ、なぁに?
…お母さんは
うん。
聖ちゃんとどうして結婚したの?
……え?
聖ちゃんのどこが好きなの?
……。
あ…。
…葵。
ご、ごめんなさい、わ、私、
葵。
…ごめんなさい、お母さん。
謝らなくても良いのよ。
謝る必要なんて、無いのだから。
でも…。
ねぇ、葵。
…はい。
葵は好きな人、居る?
え…。
それとも未だ、居ないのかしら。
わ、私は…
ね、葵。
……。
私の初恋、誰だか分かる?
お母さんの…。
然う。
分かる?
……。
葵の、よぉく、知ってる人。
……聖ちゃん。
…然う。
私の初恋は聖なの。
…。
私と聖が初めて逢ったのは、
リリアンの中等部の入学式、だったよね。
…然う。
…その時から、好きだったの?
然うね…。
……。
気にはなっていたわね。
…気になるだけ?
だってあの外見でしょう?
一人、浮いていたのよ。
…。
とは言え、私は外部組だったから。
…じゃあ、お母さんは
だけど本当に気になり始めたのはクラブ見学の時。
…本当に?
ちゃんと話したのはその時が最初なの。
だから、ね。
…。
その時にね、中学受験組って言われたのよ。
どうして?
佐藤さん、て呼んだから。
…あ。
リリアンでは名前にさん付けする事、知らなかったのよね。
だって生徒手帳にはそんな事、一言も書かれてなかったんだもの。
リリアンじゃなかったら、どうやって呼ぶの?
苗字にさん付け、かしらね。
あとは呼び捨てか、名前にちゃん付けか、渾名。
…へぇ。
珍しい?
はい。
ふふ、然うでしょうね。
聖も然う言っていたから。
…聖ちゃんも?
だってあの人、生粋のリリアン育ちなんですもの。
一時期、“佐藤さん”ブームになったくらい。
ああ。
話を元に戻しましょうか。
…。
聖とどうして結婚したのか。
簡単よ、私は聖が好きだから。
この人と一緒に居たいと思ったから。
…うん。
あと聖のどこが好きなのか。
これは難しいわね。
…え、そうなの?
葵は聖のどこが好き?
……。
ね、難しいでしょう?
………うん。
どこが、と言われてもうまく言葉に出来ない。
他の人はどうか知らないけど、少なくとも私は然うね。
……でもお母さんは聖ちゃんのこと、好きなんだね。
…ええ。
………。
でも然うね…聖の優しいところは好きね。
けど。
…けど?
基本、女の人には優しいから。
……ああ。
まぁ、今更だから。
あの人、自称紳士なのよね。
自称?
然う、自称。
……。
根っこは人見知りだから。
蓮と同じ。
…。
…でも、人当たりが良くなった分…ね。
…お母さん?
ううん、何でもないわ。
…?
お、お二人さん。
何話してんのー?
…。
ああ、聖。
蓮。
なになに、聖さんも仲間に入れて。
然うね、どうしようかしら。
ね、葵。
え…。
葵、良いよねー?
え、えと…。
え、駄目なの?
……。
だ、だめじゃないけど、その…。
じゃあ、良いよね。
良かったねぇ、蓮。
…私は別に。
またまたぁ。
……。
で、何話してたの?
恋話。
…へ?
……。
ねぇ、葵。
あ、いや…その、
葵、好きな人でも出来たの?
誰?
そ、そういうわけじゃ
…葵。
蓮、違うの。
あら、違うの?
お、お母さん!
ふふ。
−そんなお年頃。(高等部双子)
蓮って夜のお散歩、好きだよね。
…。
昼間にはあまり行かない。
…だから?
聖さんと同じ。
……。
あ。
…そんな事を言う為に付いてきたのか。
ううん、一緒に歩きたかったから。
……。
…だめ?
…。
やっぱり、迷惑…?
…余計な事を言うのなら。
ねぇ、蓮。
…。
どうしてそんなに嫌がるの?
…。
一度、聞いてみたかったの。
だって蓮は…
…。
蓮は聖さんのこと…嫌いなの?
……。
あ、待って。
……。
蓮、速いよ。
…。
蓮。
……。
どうして怒るの?
…怒ってない。
でも不機嫌じゃない。
葵がうるさいからだ。
だって…。
別に嫌いなわけじゃない。
それで良い?
…。
それとも今から一人で帰りたい?
……小さい頃は、
……。
一緒に遊ぶのが好きだったのに。
……未だ、言うのか。
……だって。
……。
蓮…。
…さっきも言ったろう。
別に嫌いなわけじゃない。
…でも好きでもないの?
…。
…。
……葵。
…なに。
多分、お前ぐらいだ。
…え?
その歳で。
親の事を好きだなんて、臆面も無く言えるのは。
…そうかな。
多分、と言った。
……。
嫌いじゃない。
それで良いだろう、今は。
……うん、分かった。
……。
…手、繋いでも良い?
……。
良い…?
……好きにすれば良い。
うん……。
−かつての自分の姿。(佐藤家)
……。
…。
どうしたの、智〈ヒジリ〉。
ねぇねぇれんちゃん、あおいちゃん。
…またロクでもない事を思いついたな。
おみそしる、ストローでのんでみてもいい?
……。
だめ。
えーなんでー?
熱いから火傷するわ。
大丈夫だよー。
いっそ、させれば良い。
蓮。
どうせ言い出したら聞かない。
でも
いい?いい?
やれば良い。
わーい。
ストロー、ストロー。
智、だめよ。
でもれんちゃん、いいっていったよ。
でも、だめ。
えーー。
危ないから。
えーなんでなんでーー??
なんでって。
熱いのをストローみたいな細いので飲もうとしたら、
やりたいやりたい!!
智
やらせれば良いのに。
蓮!
……。
やーりーたーいーー!!
智、聞き分け
葵。
…聖さん。
やらせて、あげなよ。
でも。
ねぇ、蓉子。
……。
大丈夫、舌を火傷したくらいじゃ死なない。
ねぇ、蓉子。
…葵。
蓉子さん…。
この子は一回、興味を持つとやってみないと気が済まないのよ。
知ってます。
だからって
大丈夫。
なんだかんだで冷めてはきているから。
…そういう問題なんですか?
自分なりの答えを出さないと、だめなのよ。
…私の小さい頃と一緒で。
……。
と、言うわけで。
智、やってみ。
いいの、せーちゃん。
おーよ。
わーい!
…。
心配なんて要らないだろ。
…でも、痛いじゃない。
葵。
……。
氷の準備をして貰っても良いかしら。
…氷?
ええ。
いざとなったら直ぐに放り込めるように。
…あ。
お願いしても良いかしら?
はい。
−親としての悩み、人としての苦しみ。(両親)
…。
蓉子。
…聖。
目、覚めたみたいだね。
ん…。
起きられそう?
…ねぇ、聖。
ん?
…今、何時かしら。
そだねぇ。
夜の10時前、て、とこかな。
…そう。
お腹、空いた?
……ううん。
何も要らない?
…水分くらいなら。
然う言うと思って。
はい、桃ジュース。
…もも?
と、言っても。
時期的に生桃ジュースじゃ、無いんだけどね。
…ありがとう。
飲ませて欲しい?
…いいえ?
そか。
それは残念。
…智は?
もう、寝てるよ。
……そう。
ちびなりに、心配、してるから。
早く元気にならないとね。
…ん、そうね。
…。
…?
聖…?
…顔色、未だ少し白いけれど。
でも、さっきより良くなったみたいで良かった。
…。
…ねぇ。
本当にお腹空いてない?
…聖特製のお雑炊?
今回は自信作、なんだけど。
…いつも、のくせに。
ふふ。
ね、一口、でも良いんだ。
…。
絶対、美味しいから。
…絶対なんて無い、て言うくせに?
けど本当に美味しいから。
…。
ね、蓉子。
少しだけ、ほんの少しだけで良いから。
食べてよ。
……じゃあ、貰おうかしら。
本当?
…ええ。
無理、してない?
大丈夫よ。
それに一口でも良いって言ったのは貴女でしょう?
うん!
じゃ、直ぐに持ってくるね!
…あつ。
熱い?
ふーふー、する?
…大丈夫よ。
いやいや、蓉子さんの舌が火傷したら大変だし、やっぱりここは一つ、ふーふーしてからあーんの組み合わせで行こう。
ありがとう。
お?
気持ちだけ、貰っておくわ。
今は。
今は?
そう、今は。
じゃ、仕方ない。
熱いから気をつけて食べてね。
ん、ありがとう。
ゆっくり、で良いからね?
…心配性、なんだから。
当たり前です。
だって蓉子さんは私の大事な人ですから。
…私だけ?
ちび達に関しても、ね。
みんな、私の大事な人。
…ん。
食べ終わったら着替える?
…そうしようかしら。
じゃ、着替えは手伝うから。
…良いのに。
やだ、手伝いたい。
…もう。
体も軽く拭く?
さっぱりするよ。
…それは、どうしようかしら。
勿論、手伝う次第です。
顔が笑ってるけど…。
いやらしく、では無いでしょ?
…さぁ、どうかしら。
やましい気持ちは無いもの。
…少しも?
一寸だけ触りたいな、くらいで。
……。
けどやましさからじゃ無いよ。
…信じてるわ。
弱ってる人に欲情しませんって。
…今は?
然う、今は。
…。
と言うかあれだ、弱り方にもよるんだな、これが。
で、今は手を出しては駄目な時の弱り方。
…はいはい。
で…さ。
…。
どう?
ん…おいしい。
ほんと?
ほんとう。
あー、良かった。
自信、あったのでしょう?
あったけど、さ。
最終的には蓉子次第、だから。
とてもおいしいわ。
へへ、やった。
聖の作るお雑炊はいつだって、とてもおいしいわ。
でも蓉子には敵わないんだ。
蓉子のはすっごくおいしいから。
あら、聖のお雑炊の方がおいしいわ。
や、蓉子のがおいしいよ。
胃に優しいし。
聖のだって優しいわ。
いやいや、蓉子の雑炊の方が上、だよ。
そんな事無いわ。
聖、の…?
…。
…なに?
…あのね。
…うん。
蓉子のご飯、は。
私に食べることの楽しさを教えてくれた、から。
…。
私は蓉子には一生、敵わないんだよ。
…聖。
だから、そういうことにしておいて?
…でも。
蓉子が然う思ってくれてるだけで、とても嬉しいんだ。
…。
…というわけで。
もう少し、食べる?
…もう、お腹いっぱい。
……そっか。
ご馳走さま、聖。
とてもおいしかった。
それは何より。
……。
それじゃ、着替えようか。
着替え、着替え、と。
……ねぇ、聖。
んー?
私、聖の事、愛してるわ。
…。
誰よりも。
…どうしたの?
聖は?
…勿論。
誰よりも、愛しているよ。
誰を?
蓉子の他に誰が居るの?
…ちゃんと、言って。
蓉子を。
私は誰よりも愛してる。
……。
蓉子…。
…。
…何か、怖い夢でも見た?
……。
蓉子。
……私、聖が居ないなんて、嫌。
考えられない…。
……。
嫌なの…。
…私だって。
蓉子が居ないなんて嫌だよ。
…。
…。
……でも。
…。
もしも、もしも…。
…もしも、何。
聖と私が、結ばれなかったら。
あの子達が、血の繋がった姉妹として生まれていなかったら…。
……。
あの子達は…。
……蓉子。
ねぇ、聖。
私達は結ばれない方が良かった…?
あの子達は私達の子として、生まれない方が良かったの…?
若しも“他人”として、生まれていれば…。
……。
ねぇ、聖…。
……。
聖、教えて…。
……蓮と葵は私達の子だよ。
それは変えられない、変わらない事実なんだ。
だから…。
私達が結ばれたから、あの子達は居るんだよ。
結ばれなければ、居なかったんだ。
……。
蓉子。
…でも、んん。
…。
……せ、い。
…そんな事、言わないで。
…。
私は…蓉子が居てくれたから。
蓉子じゃなきゃ、駄目なんだよ…。
……聖。
蓉子は、違った…?
違ったの…?
……。
蓉子…。
…違わない、違わないわ、聖。
貴女以外の人なんて……考えられない。
……。
けど、考えてしまうの…。
聖が好き、愛してる、離れたくない…。
でも、でも…
……。
私達が…ぁ。
……。
せ、い…。
……。
…だ、め。
…このまま。
……。
今日はもう…寝よう、蓉子。
……ぃ、や。
傍に居るよ。
ずっと抱いていてあげる。
……。
もう少し…心が、元気になったら。
その為に…今は、眠ろう?
……せい。
愛しているよ、蓉子…。
………。
蓮も葵も、智も
……あぁ。
…。
私、わたし、は…。
……。
ぁ、ぁぁ……。
……。
せい…せ、ぃ…どこ…も、いかな…で…。
……どこにも行かない。
私は、ずっと蓉子と居る。
……れん…あおい…、れ、ん…あお、ぃ…。
…どんな事があったって、私達の子だよ。
何があろうが、あの子達は。
…どう…し、て。
誰かが、悪いわけじゃない。
何かが、悪かったわけじゃ…ないんだ。
…ぁぁ、…ぁぁ、ぁ。
ただ、あの子達は互いを求めた…心が、求めてしまった。
求め合う心は私達もあの子達も、誰もが、同じなんだ…。
……。
例え、全てに背いて…歩む道がいばらの道、だったとしても…。
……。
……けれど、今は。
…。
おやすみ…蓉子。
……せ…い。
…おやすみ。
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