−Voz silenciosa. …。 …雨、止まないね。 …ああ。 今日は出掛ける予定だったのに…。 …。 …蓮は雨が降ると外に出るの、嫌がるから。 …面倒。 たまには良いじゃない…。 …冬の雨は、冷たい。 …。 …。 …夏の雨だって、好きじゃないくせに。 …。 ねぇ、まだ時間はあるよ…。 …。 …ねぇ、蓮。 行かなくても良い。 …。 …今度にすれば良い。 蓮の今度は当てにならないの…。 …。 …今度、今度って。 然う言って、果たされなかった約束、幾つあると思う…? …その代償は払ってきた。 代償なんて、言い方…。 …。 …。 …。 ……雨の音しか、しない。 …ああ。 何か、話して。 …何かってなんだ。 なんでも良いの。 …。 じゃないと…。 …別に無い。 何も無いわけ、無い…。 ……。 …蓮は、あまり話してくれない。 …。 それが…どれだけ淋しいか、蓮には分からない。 …一緒に居るだろう。 だから、なのよ。 …。 …雨の音が、いや。 …。 ……貴女の声を、聞かせて。 …。 ねぇ、蓮…特別な事じゃなくて良い、他愛の無いコトで良いの。 私はそれでも…。 ……知ってるだろう。 …。 …私の事は誰よりも、お前が。 …。 …。 ……だから、なのに。 …。 だから、なのよ…。 …葵。 蓮は聖さんに似ているけど…全然、違う。 …当たり前だ。 …。 …寧ろ。 ……う。 葵の方が、似ている。 …私、が? …。 …似てないよ。 似てるなんて、言わないでよ。 …最初に言ったのは、お前だ。 …。 …鏡を、見るたび。 …。 私は…蓉子さんの子供だって、思い知らされるの。 …。 蓮も…顔は、全然似ていないのに。 …。 似ていないのに…似てる。 …。 ねぇ、蓮…もっと、貴女から話して。 …話してる。 違う、貴女から話して。 …。 …子供の頃から、私ばかり話していたわ。 蓮はいつも、いつだって、黙ってばかりだったから。 …。 …私が、どんな思いで 葵。 ……いや。 …。 終わったら…淋しくなるの、悲しくなるの。 特に今日は…。 …。 …雨が、降っているから。 …。 熱は…冷えていくだけだから。 …。 蓮…やめて…。 …。 ……わたし、は。 …もう、話すな。 ん、んん…。 …。 ……葵。 …やだ、呼ばないで。 …。 …そんな声、で。 聞きたいと言ったのは…お前だ。 …。 ……聞かせてやる。 あ、いや…。 …。 …おねがい、やめて…れん。 ……。 …わたしは、ただ。 …。 あなたのこえが……。 …。 ききたい、だけ…なの、に…。 …。 こんなの、じゃ…ない、のに…。 …分からない。 れ、ん…。 これしか、思いつかない…。 …。 ……どうしたら、いい。 …。 そんなに聞きたいのなら…全部、お前にあげてしまえれば、良いんだ。 そうすれば…。 …それじゃ、いみがないの。 …。 ないのよ…れん。 ……。 わたしは、れんの、れんのことばで…あなたのこえが、ききたい。 …。 ……あの人みたいに、あいのことばじゃなくてもいい。 あなたのことばなら…なんでも、いいの。 …なんでも。 そう、なんでも…だって。 …。 それが…わたしのすきな、あなたなのだから。 ……。 ねぇ、なにか…なにか、はなして……。 −十八の春。 見て、蓮。 桜が満開。 …。 今年は開花が遅かったけど、ちゃんと咲いて良かった。 …。 子供の頃はみんなでお花見、行ったよね。 …今年も行くみたいだけど。 うん。 …。 きれい。 …今日は風が強いし、明日から天気が崩れる。 若しかしたら 散らないわよ。 だってあんなに寒かった冬を越えたんだもの。 …散る時は、散る。 でも全部じゃないわ。 …。 きれいね。 …花が終われば、芋虫で大変になる。 もう、蓮は。 背中に落ちてきて、半狂乱になったのは誰だ。 は、半狂乱になんてなってないわよ。 本気で泣いた。 だ、だって吃驚したんだもの。 蓮だってあまり得意ではないじゃない。 得意な人間はそういう類が好きな人間だけだろう。 もう、蓮は…! …。 …折角、こんなに綺麗なのに。 …。 …今年で、最後なのに。 来年もその先も、見ようと思えば見られる。 でもこの制服を着て見るのは最後だもの。 なんだったら、在校生のふりをして紛れ込めば良いだろう。 その時は蓮も一緒だから。 冗談じゃない。 じゃあ、言わないでよ。 一人で 嫌。 ……。 …。 …。 …今年で、最後なのね。 桜自体はここにある。 何も変わらない。 …。 …。 …蓮、見て。 …? 花びら、きれいでしょう? …何やってるんだ。 桜色と、この制服の色。 私、大好きだった。 …。 蓮も来て。 …一緒に回れって? うん。 面倒。 蓮、お願い。 …。 れ…きゃ。 葵。 ……吃驚した。 風が強いと言ったろう。 でもこんなに強く吹くなんて思っていなかったから。 …。 ありがとう、蓮。 …転んだら良いネタ扱いにされてたかも知れない。 …。 …。 …もう、紅薔薇さまは皮肉ばっかり。 もう、違う。 …じゃあ、元紅薔薇さま。 ……。 違わないでしょう? …いつまで見てるつもりだ、元白薔薇さま。 もう少しだけ。 …ね、蓮。 …なんだ。 聖さんと蓉子さんも一緒にこの桜を見てたのかな。 …知らない。 けど、見てたよね。 屹度、私達みたいに。 ……。 −宵桜。 蓉子さん、お花見に行こうよ。 お花見? 然う、お花見。 今から? 然う、今から。 夜桜も良いもんだよ。 それは良いけれど。 子供達が 双子は大きいし、ひーは双子が居るから大丈夫。 然うだけど…。 なんだったら皆で行っても良いんだ。 でも屹度、付き合ってくれないと思うんだ。 特に蓮とか。 智なら喜んでついて来そうだけれど。 じゃあ、連れて行く? 未だそんなに遅くないし。 と言ってももう、九時よ。 でしょう? もう一寸早く言ってくれれば良かったのに。 二人きりになりたかったの。 …はい? 二人きり。 …えーと、聖? 手繋いで。 二人で。 …。 それに明日、また春の嵐になるかも知れないって。 …言っていたわね。 うん。 だから。 …。 30分くらいだよ。 遅くなるつもりなんか、無い。 …昔は。 ん? 然う言っては良く、連れ出してくれたわね。 …子供達が未だ、居なかったからね。 居ても、見に行ったじゃない。 蓮は私が肩車して、葵は蓉子が手を繋いで。 だけど帰りは二人ともすっかり寝ちゃってさ。 蓉子は葵をおんぶしたね。 いつも二人が眠る時間に言い出すから。 蓮なんか人の頭の上で涎垂らしながら寝てくれてさ。 葵はそんな事、無かったわね。 蓮はたまに寝惚けて髪の毛引っ張るしさ。 私も葵が良かったなー。 蓮は貴女の肩車がお気に入りだったから。 それに嫌じゃなかったんでしょう、貴女も。 へへ。 智は…どこに行った帰りでも元気だったなぁ。 蓮と葵の間で。 あの子は貴女に似ているから。 いつかどこに行っちゃいそうな気がしてならないのよ。 なら、帰ってくるよ。 うん? 私には帰る場所があるから。 …。 …ここに、ね。 ……んもう。 とまぁ、そんなわけで。 ここ何年かは二人で夜桜見物が出来なかったわけだ。 双子が大きくなってきたと思ったら、智が出来ちゃったし。 …貴女のおかげで、ね。 でも嬉しかったでしょ? …嬉しくないなんて、言えるわけじゃない。 へへ。 …。 …ね、行こうよ。 こうしてる間にも時間は流れていっちゃうよ…? …もう。 ふふ、決まりだ…。 でも遅くなっちゃ、やぁよ? 分かってるって。 満開ね。 うん。 昼見るのと夜見るの、やっぱり違うなぁ。 然うね。 お酒でも持ってくれば良かったかな。 聖。 冗談。 …。 蓉子さん? …智には可哀想な事をしてしまったわ。 ああ。 やっぱり連れてきてあげれば良かった。 あの子にしては珍しくぐずっていたし…。 お母さんだなぁ。 貴女もでしょう? まぁ、ね。 …蓮と葵には智を見てもらってばかりで。 うん。 …。 蓉子さん。 …ん? 腕。 …腕? 手、繋ぐだけじゃなくてさ。 …。 結婚してそれなりに経つけれど。 恋人気分は抜けきってないんだ。 …三児の親のくせにね。 二児、で行こうかなと思っていたんだけどね。 けれどやっぱり嬉しかったわ。 智が生まれてきてくれて。 でしょう? 貴女が威張る事じゃないから。 でも、蓉子のお腹に せーい。 …はぁい。 …。 ん…。 …綺麗ね、桜。 うん…綺麗だね。 …。 …蓉子さんはもっと綺麗だけどね。 はいはい、ありがとう…。 …。 …こら。 桜を見なさい。 …つい、こっちの花に釣られてしまって。 全く…。 …二人きり。 …。 ひーには悪いけれど…たまにはこういう時間も欲しいんだ。 …聖。 近頃は…あっちの方もご無沙汰だし? ……ばか。 …淋しくない? ……お互い、忙しいから。 それを言い訳にしたら…駄目なのさ。 …。 ……ね、良いでしょう? …それが、目的? まさか。 …そのわりには桜、見てないじゃない。 見てるんだけどな。 …。 …。 …ねぇ、聖。 …いい? …。 …蓉、む。 ……その話は帰ってからにしましょう? …帰ってから? ……然う、帰ってから。 …。 …。 …うん、分かった。 …。 …明日、いっぱい遊ぼうかな。 ん…? ひーと。 …ええ、そうしてあげて。 …。 …ねぇ、聖。 …なに。 …綺麗、ね。 ん、然うだね…。 …さぁて。 そろそろ、帰ろうか。 子供達が待っているわ。 ひーは、ね。 双子はどうかな。 あれでなかなか、お年頃だから。 ふふ、然うね。 そのうち、連れてきたりするのかねぇ。 連れて? 娘さんをください、てヤツ。 ああ。 若しも連れてきたら、どうする? とりあえず、帰って頂く。 門前払い? 葵の場合は。 でも蓮のは見てみたい。 で、何処が良かったんですかって聞くの。 貴女の娘よ? だからこそ、さ。 小難しいもん、ヤツは。 ただの面倒くさがりなだけで、根は優しいのよ。 貴女と一緒で。 やだなぁ。 根は優しいは認めるけどあそこまで無愛想じゃないよ、私は。 無愛想じゃない、ねぇ。 あ、青かった頃の話は無しの方向で。 知ってるから、無しには出来ないけれど。 思い出すと結構、恥ずかしいんだって。 …恥ずかしいだけ? …。 …無しにするんだったわね。 ごめんなさい。 ねぇ、蓉子さん。 …なぁに? 私と結婚してくれて、有難う。 …え? 蓉子さんと家族になれて、本当に良かった。 ……聖。 蓉子と、こうして夜桜を見ながら。 昔の事を笑い話に出来る事がとても嬉しいし、仕合わせで仕方無いんだ。 …。 有難う、蓉子。 私をちび達の親にしてくれて。 …そんな、の。 ん…? …私だって。 うん、知ってる。 …。 にしし。 …んもう。 キス、はおうちに帰ってから? 今夜は一寸期待しちゃってるんだよなぁ。 ばか。 あはは。 ねぇ、いっぱい見た? 貴女よりは、ね。 満足して頂けたでしょうか、王妃様。 王妃様? 王様の嫁は王妃様、でしょ? …まぁ、お姫様と呼ばれる年齢では無いけれど。 昔、やったじゃん? 何を? 王様と、王妃様。 ……ああ、学園祭の。 それはもうお似合いでしたよ、紅薔薇さま。 貴女こそ貫禄のあるお腹がとても似合っていたわ、白薔薇さま。 でしょう? 褒めてないのだけれど? あら、やっぱり? ふふ。 さぁ帰りましょう、聖。 お言葉のままに、お姫様。 …。 その方がお気に召すようなので。 もう、ばか。 ただい にゃーーーー!! …ぐはっ。 せーちゃんのあほー! ひ、ひー…。 せ、聖、大丈夫? …ひ、久しぶりで油断してた。 智、人のお腹に体当たりをしては駄目だと言っているでしょう? だってひーのこと、おいてった! そ、それは、悪かった…けど。 これで少しは思い知ったろう。 …れ、蓮君や。 アラフォーのやわいお腹にはきついものがあるのだよ…。 贅肉。 そりゃ、蓮君のお腹は鋼みたいだから良いけどさぁ…。 …行け、ひー。 らじゃー! や、待った、待った! もう一回喰らったらマジやばいから! にゃーー 智、駄目。 …むぅ。 蓮も。 ……。 智。 蓮と葵の言う事、ちゃんと聞いていた? …。 聞かなかったの? …。 蓉子さん。 …葵。 ひーは聖さんと蓉子さんを待ってたんです。 どうしても蓉子さんと一緒に寝るって。 …然うなの、智。 …。 怒らないから、言ってみて? …かーさんとせーちゃん、まってたの。 然う…。 うぅぅ。 …ごめんね、智。 んー…。 夜桜、綺麗でしたか? あん? 智、どうしても待ってるって聞かなくて。 ごめんなさい。 良いよ。 葵が悪いわけじゃない。 寧ろ、聖が悪い。 へぇへぇ。 もう、蓮は。 ひーがあそこまでぐずるのは余程の事だ。 だけど、 いつもは布団に入れたら直ぐ、だろう。 …然う、だけど。 葵、良いよ。 でも聖さんが蓉子さんと 綺麗だったよ。 え? 夜の桜。 今度は皆で見に行こう。 …はい。 蓮、流石にもう肩車は出来ないから寝るなよ? ……。 はは。 …ねぇねぇ、かーさん。 なぁに? いっしょにねても、い? …然うね。 聖。 うん? 今夜は ひー、聖さんも一緒だぞう。 …。 ん? かわのじ! お、良く知ってるな? ひー、ものしり?ものしり? うんうん、物知り物知り。 …しし。 よぉーし。 聖さんのところにもおいで、智。 うん! うんうん、機嫌直ったかな。 ねぇ、蓉 …。 なに、どったの? …やっぱり、そっくり。 へ、何が? やっぱり親子なのね、て。 やだなぁ、当たり前じゃない。 ねぇ、蓮君? …。 ほら、蓮君の眉間の皺とか。 蓉子のそれを彷彿とさせます。 …風呂、入る。 良くあったまるんだぞぅ。 …。 ふふ。 葵も。 …はい? 然うしていると、聖に似ているわね。 …然うですか? ええ。 だって…。 −The sky of my sweet home. 夕空晴れて、秋風吹き 月影落ちて、鈴虫鳴く 思へば遠し、故郷の空 ああ、わが父母、いかにおはす… …黄薔薇さま。 んおー? 今の歌…。 ああ、聞いてた? なんだ、早く言ってくれたら良いのにぃ。 …早く言っていたらどうするおつもりだったんですか? もうちみっと、上手に歌った。 …十分、お上手でしたよ。 んーん、駄目だよ。 でもご機嫌の良さは伝わりましたから。 然う? ならいっか。 …まぁ、黄薔薇さまはいつだってご機嫌ですけど。 いやいや、そんなコトはないよ。 例えば今だって 今だって? これ、どうするか考えててヤになってきたところ。 そうは思えませんけど。 いやいや、やだね。 あーあ、もういやだ。 …のわりには、顔が笑ってるんですよね。 この顔は生まれつき。 母さんに似てるハズなのに、聖ちゃんに似てるって言われるんだよねぇ。 なんでだろ。 …。 昔々の、白薔薇さまだよ。 はい、知っています。 あらそ? 「母さん」である蓉子さまは紅薔薇さまだったんですよね。 うん、だったの。 お姉さまである蓮さまと葵さまも。 紅白、なんだよねー。 改めて思うと、凄いご家族ですよね。 なんで? 揃って薔薇さまなんて。 リリアン始まって以来かも知れません。 別に凄かないよ。 たまたま。 たまたまと言えてしまうのもある意味、凄いと思います。 そんなもんかなぁ。 分からないや。 …けれど。 んー? 智さまだけが黄、なんですね。 うん、そーなの。 だからさ、私はえりりんの流れになるんだー。 えりりん? でこちんとも言う。 …もしかして、江利子さまでしょうか。 そうとも言う。 いえ、そうとしか言えませんから。 でもでこちんはでこちんなんだけどなぁ。 …それ、白薔薇さまには仰らないで下さいね。 もう言ってる。 子供の頃からの付き合いだし。 …。 でも怒らないよ。 なんかね、どっしりしてるんだよねぇ。 あいつは。 …はぁ。 でこちんじゃなくて母さんに似てるんだろうなー。 おでこも光ってないし。 …ところで。 ところで? 先ほど歌っていた歌は… 知ってる? …聞いた事はあるのですが。 故郷の空って言うんだって。 元はスコットランドの民謡なんだってさ。 スコットランドの? 蛍の光みたいですね。 ああ、あれも然うだっけかー。 智さ…黄薔薇さまは良く知っていますよね。 良く? その、民謡と言いますか。 知ってるのかなー。 この間は埴生の宿を歌っていました。 その前は…確か、みかんの花咲く丘でした。 んー…まぁ、子供の頃から歌っていたし。 子供の頃から、ですか。 好きな姉妹がいてねぇ。 それ聞いてたら覚えちゃったんだって。 姉妹って…。 今でも大好き。 蓮さまと葵さまの事でしょうか? あはは。 好きだけど、蓮ちゃん達じゃないよ。 …えと。 じゃあ、誰ですか。 え、知らない? 有名姉妹なんだけど。 …聞けば分かるかも知れませんが。 じゃあ、そのうち教えてあげよう。 そのうち、ですか。 答えは自分探してなんぼ、よ。 その方が面白いでしょや? …。 ま、有名だから直ぐに分かるよ。 …然うでしょうか。 だから宿題。 頑張って調べるように。 はぁ。 にしても。 これ、どうするかなぁ。 …。 …ゆーそらはれて、あきかぜふきー ……。 つきかーげおちて、すずむしーなくー …。 おーもへばとおし、こきょうのそらー …。 ああ、わがちち、はは、いかーにおーはすー …。 …ん、何? …。 さと? …いえ、何でもありません。 ふぅん。 …智さま。 手伝ってくれるとか? だったら嬉しいなー。 …。 …さと? …。 どした? …それ、故郷の空と言うんですよね。 うん、そだよ。 原曲の歌詞は全然違うみたいなんだけどねー。 …。 さと、見てみ。 …え。 空。 今日も青いよ。 …晴れていますから。 こんな日に部屋ん中篭ってるのはどうかと思うんだ。 …だとしたら、どうするのですか。 ちょっとお散歩へ、ゴーゥ。 …紅薔薇さまに叱られても知りませんよ。 大丈夫、あいつはあいつで子狸だから。 へーき、へっちゃら。 …然う言うこと、普通は言えませんから。 行く? 行かない? …私も、ですか。 掴まれてるから、ね。 あ…。 よし、行こう行こう。 あ、ちょ、 今日のさと、一寸変だからさー。 気分転換、した方が良いって。 絶対。 わ、私は ははは。 ……ああ、もう。 −Three Roses. 葵、疲れているみたいだね。 …え。 そういや丁度、忙しい時期だっけね。 確か。 …私。 ちゃんと眠れてるかい? …。 疲れているのに、眠れない。 蓉子さんも然うだったよ。 …蓉子さんも? 真面目だからなぁ。 一人でなんでも背負わなくても良いのに。 …。 まぁ、それは私にも責任があったんだけどね。 …聖さんたちは。 うん。 どんな、薔薇さまだったんですか…? 普通だよ。 普通の薔薇さま。 普通…。 生徒会長で、しっかりしているように見えても…やっぱり、高校生だからね。 思春期特有の悩みもあるし、ほんの些細な事でも簡単に傷付く。 あと…。 …あと? とてもささやかな事が、とてもとても嬉しくて幸せだったりする。 例えば…夢が叶った日に受験したってだけで、第一志望じゃないのに、進学しちゃうとかね。 …それって。 はは。 …。 ねぇ、葵。 薔薇さまは三色だろう? …はい。 思えば、三色って良いシステムだと思うな。 ほら、どっかのなんちゃらも言ったでしょや? …なんちゃら? 一本の矢じゃ簡単に折れても、三本なら簡単には折れない。 …毛利元就、ですね。 だっけか。 じゃ、それだ。 …。 まぁ、私は機能してたか分からんけど。 あのでこちんも。 …していましたよ。 それはどうして? 然う、思うんです。 見てきたわけではないですけれど…でも。 だと、良いなぁ。 蓉子さんを見ていれば、分かりますから。 蓉子を? …はい。 んー…。 …。 一色でどうにもならない事でも、三色あればなんとかなる。 多分、ずぅっと然うしてきたんじゃないかな。 歴代の薔薇さま方ってのはさ。 ……はい。 特に君には…。 …ん。 蓮君が、居るだろう? ……蓮。 こんなに近くに居るのは、早々無いぞ? ま、近過ぎても厄介なコトがあるかも知れないけど、それでも君らは双子だ。 親の私達にも想像出来ないくらいの繋がりがあったりするんじゃないかな。 …。 それに。 あいつは結構、シスコンだからね。 口ではなんだかんだ文句言っても、その実、結構甘いんだ。 ひーに対しても、さ。 …そんな事。 たまには思い切り、寄りかかってやりな。 あんなんでも佐藤三姉妹の一番上なんだから。 下は上に甘える権利があるんだよ。 ……。 よし。 今夜は特別な紅茶を淹れてあげよう。 良く眠れるようにね。 …特別? 蓉子さんには内緒だぞう? …? 最初に蓮が出てきたんだ。 …。 で、次に葵。 嬉しかったよ。 …。 今でも、忘れない。 …。 まぁ、立ち合わせては貰えなかったんだけどね。 …はい。 葵は良い子だなぁ。 蓮に言うと何度も聞いたって言って、最後まで聞いてくれないんだ。 …。 葵。 …はい? ゆっくり眠れるように。 どうぞ。 ……お酒のにおい? と言っても香り付けの為、ほんのちょっぴりしか入れてないよ。 未成年だからね。 …。 それよりこっちがメイン、かな。 …りんご? そう、りんごとそのジュース入り。 …。 濃い目のアイリッシュアフタヌーン、その半分にりんごを加えてさ、小さな鍋であっためるの。 蓉子さんには好評だったよ。 …蓉子さん。 蓉子もあまり強くないからね。 …ラム酒、ですか? うん。 …。 さぁ、どうぞ。 白薔薇さま。 …そんな。 まさか自分の娘が、妹の妹のそのまた妹のずっと先の妹になるなんて思わなかったな。 それも葵が。 …。 蓉子も屹度、同じかな。 あっちは紅薔薇だもんなぁ。 …相応しく、ないですか。 なんで? …蓮はともかく、私が 葵。 …。 どっちかと言うと、紅薔薇みたいだけどね。 私が知ってる紅薔薇は葵のような子のイメージが強いから。 …。 でも、私は嬉しいな。 葵が白薔薇で。 ……でも 相応しいとか、相応しくない、とかで言ったら。 私の方がよっぽど相応しくなかったよ。 そんなこと て、葵は言ってくれる。 蓉子だって…まぁ、手は焼かせたけど、相応しくないとは一度も言わなかった。 軽薄が制服着て歩いてる、とは言われたけどね。 …。 さぁ、葵。 冷める前に飲んで欲しいな。 ……うん。 …。 …おいしい。 そりゃ、山百合会で鍛えられましたから? …。 と言っても。 こんなお茶、リリアンじゃ淹れられないけどね? …ふふ。 はは。 聖ちゃ…聖さん。 ちゃんで良いよ。 …。 私達の前では薔薇さまじゃなくても良いんだ。 特には今は、さ。 ……ん。 で、何かな? …聖ちゃんのお姉さまって、どんな人だったの。 私の? 話した事、なかったっけ? …あまり聞いた事、ない。 そっかぁ。 んー…。 …? お姉さまには、敵わなかったなぁ。 …そうなの? うん、あの方には今でも敵う気がしない。 聖ちゃんが…。 でさ、私の事、妹に選んだ理由がまたおかしいの。 …なに? この顔。 …顔? そう、顔。 お姉さま、面食いでねぇ。 …。 …でもま、それだけじゃなかったんだけどね。 ……聖ちゃんは。 うん。 敵わない人、二人いるんだね。 ん、然うなの。 一生、敵う気がしないの。 特に人生の伴侶になってる人には、ね。 ……ふふ。 …葵。 …。 葵。 ……ん。 おやすみ、は、お布団の中で、ね。 …わた、し。 本当は抱っこして連れていってあげたいところだけど。 …! さ、ベッドに行ってお休み? 明日も仕事が待ってるんだろう? …聖ちゃんは。 未だ、帰ってきてないんだ。 …まだ。 今日は遅くなるとは言ってたんだけどね。 ちょっと、遅いかなぁ。 ……お母さん。 然う、お母さん。 今日も今日とて頑張ってるみたい。 本当はあんまり頑張りすぎて欲しくないんだけど…まぁ、こればかりは仕方無いのかな。 葵のお母さんだしね。 ……むかえ、に。 これからね。 メールが来たんだ、珍しくね。 ……。 でも良く分かったね。 …着信音が、聞こえたような気がして。 そっか。 葵は耳が良いなぁ。 …。 葵にも、来てるよ。 …? 迎えが、ね。 …むかえ? ねぇ、蓮君。 ……。 …れ、ん? 心配なら心配って、声に出して言えば良いのになぁ。 その性格、どっちかと言うと損だぞぅ? ……うるさい。 れん…。 じゃ、後は蓮に任せるから。 葵、ちゃんと歯磨きして寝るんだよ。 …はい。 よし。 じゃ、聖さんはちょっくら愛しの蓉子さんを迎えに行ってくるかな。 あの、聖さん…。 ん? ああ、忘れてた。 おやすみ、葵。 あ、おやすみなさい…。 おやすみ、蓮。 …。 ん? ……おやすみなさい。 うん。 じゃ、ね。 おいしかったです。 お? あの、お茶…。 ああ。 また飲みたくなったら言って欲しいな。 いつでも淹れてあげるよ。 聖。 勿論、蓮にもね。 酒は駄目だ。 お。 …。 真面目だなぁ。 流石、蓉子さんの遺伝子。 …葵は、弱い。 うん、然うだね。 ……。 分かってるよ…だから、ちょっとだけね。 …。 …もっと、寄りかからせてやりな。 ……。 薔薇は一色だけじゃないんだからさ。 …聖に言われたくない。 へぇへぇ、そうかい。 ……。 …。 …。 …葵。 …ん。 ……。 …。 …おい。 あれ…。 …だから、言ったんだ。 でも、匂いだけだったのに…。 …味醂の匂いで酔ったのは誰だ。 だれだっけ…。 …。 ……歯磨き、しなきゃ。 …真っ直ぐ、歩け。 うん…。 …。 ……あれ。 葵。 ……。 …葵? ……うふふ。 …。 紅薔薇さま…。 ……おい。 …甘えても、いい? 今は薔薇さまじゃない。 いじわる。 …。 んー…。 洗面所はそっちじゃない。 …ああ、そっか。 …。 れん、いっしょにおふろにはいろ? …は? はいろ。 何言ってんだ。 もう入ったろうが。 はいってないよぅ…。 入った。 今、何時だと思ってるんだ。 なんじ? 12時。 じゃあ、おひる? 0時。 んー…。 …しっかりしろ、葵。 してるよ、してるから…。 …してないだろうが。 …。 …おい、葵。 ……ねぇ。 …寝るぞ。 キス、して。 …あ? キスミー。 ……。 ねぇ…。 ……聖の真似するな。 せい…せいちゃん? しっかりしろ、酔っ払い。 私、よっぱらってないよ…。 じゃあ、なんなんだ。 …なんで、してくれないの。 …。 キス、してよ。 …。 して、よ…。 …したら、寝るのか。 うん、ねる…。 …。 れん…。 …歯磨き、してからだ。 今、して。 だめだ。 じゃあ、いっしょにねてもいい? …話が繋がってない。 ふふ、やったぁ。 良いとは言って だいすきよ。 …。 だいすきよ、れん。 …だいすき。 ………だから、言ったんだ。 おかえり、蓉子さん。 …ただいま。 ありがとう、聖。 どういたしまして。 …? なに? 素直になったなぁって。 ……。 一人でずっと立ってるのは、疲れるからさ。 たまには寄りかからないと。 …然うね。 で。 うん? アルコールの匂いがする。 まさかとは思うけど、 飲んでないよ。 じゃあ、 葵に、ね。 飲ませたの?! 違う違う。 酒は飲ませてない。 …どういう事。 ちょっとお茶の匂い付けに、ね。 眠れないみたいだったから。 …。 薔薇さまのことで、悩んでるみたいだよ。 …然う。 もっと気楽にやれば良いのにね。 高校生なんだから。 …その時は、そう思えないものよ。 そうみたいだよねぇ。 …白薔薇さま。 うん? 貴女じゃなくて。 ああ、葵? …大丈夫よ。 と、言いますと。 その為に三色、居るのだから。 それは私も入ってた? 当たり前でしょう。 そっか。 …薔薇さま、か。 私達がそう呼ばれていたのはもう、大分前になってしまうのね。 今でも続いてるけど。 いつまで、続くのかな。 きっと、この先もずっと…。 −頼りになるヒト。 聖。 …。 聖、起きて。 …んお? この辺り全域で断水、ですって。 …だんす? よーこ、おどりたいの? だ、ん、す、い。 ……。 水、止められるんですって。 今、役所からメールが来たわ。 放送も流れた。 …なんで? 昨日の夜、浄水場で有害物質が検出されたらしいの。 …ゆうがい。 夜中に一度、浄水場の取水が止められて再開はしたのだけれど…。 …有害。 水、確保しておかないと。 うちには小さな子供がいるのだから。 ……。 断水されたら、緊急の給水所が設けられるらしいわ。 場所はこれから発表される。 もう、止められてるの? いいえ。 でも正午を過ぎたら順次、止められていくって。 …汲み置き、しておかないと。 空いたペットボトル、洗面器、あとはバケツに。 お風呂の水も抜かないで良かったわ。 …水、買いに行く? 買い置きはあるけれど…あと、飲むだけならお茶も買ってあるわ。 …復旧はいつぐらいだって? それは分からない。 だから、貴女を起こしたの。 …分かった。 とりあえず、必要な事だけはやっておこう。 ええ。 と、言っても。 ほとんど蓉子さんがやってくれちゃったみたいだけど。 そんな事ないわ。 でもお湯、沸かしてあるでしょや? ええ、ポットに入れてある。 あとは…トイレ、か。 お風呂の水もあるけど…。 うん。 ……ゴミ箱。 え? ポリ容器の、あったよね。 …ああ。 そこに入れておこう。 間に合わないかも知れないけど、無いよりはマシだ。 然うね。 あとは… あまり使わないようにしないと。 私たちはそれで良い。 けど、ちび達は然うはいかない。 でしょ? ええ。 復旧、早いと良いけど。 そもそもどうしてそんな事になったんだろう。 今、特定しているみたいだけど。 問題、広がらなきゃ良いけど。 本当に…あ。 お、と。 あー、あー。 よしよし、蓮君。 聖さんのところに来たいのかい? あーー。 蓉子。 ん。 あーうー。 葵も? さっきまで蓮がぐずっていたから。 そっか。 じゃあ、葵も貸して。 大丈夫? ん? 起きたばかりなのに。 平気、平気。 さ、おいで、葵。 うー。 …ふふ、やっぱり良い匂い。 蓉子のお 聖。 ……ミルクの匂いがするねー。 もう、いつもどおりなんだから。 蓮君、とりあえず穴を見つけたら指突っ込むの止めよーね。 …でも。 葵、葵は髪の毛引っ張らないでー。 ……それが、良いのよね。 −春桜。 やぁ、今年も満開だねぇ。 ……。 久しぶりに見たけど、やっぱり変わらないね。 …お花見がしたいならば、他の場所でも良かったでしょうに。 わざわざ、ここまで来て。 ここは特別だから。 それは貴女にとって、でしょう。 私にとっては特別では無いわ。 特別だと思うけど。 いいえ。 でも、来たじゃない。 それは貴女が 中には入れないかな。 一寸、止めなさいよ。 中で見たいじゃない。 だったら昼に来れば良いでしょう。 卒業生なのだから、身分を証明すれば 夜桜が良かったんだよ。 じゃあ、貴女一人で行って。 私は行かないわ。 山百合会の仕事が遅くなった時、みんなで見た桜。 それが見たかったんだけど。 ……。 お姉さまはもう、いなかったけどね。 …ええ、然うね。 入れないか。 残念だなぁ。 …貴女の大姉なら、入りそうね。 ああ、確かに。 で、貴女の曾お祖母さまに叱られるの。 …。 あのふたりの子供、面白いよね。 …面白い? 血を引いてるのが良く分かる。 あんなに似てたら、疑いようも無い。 …ええ、然うね。 それから菜々の曾お祖母さまの子供もさ。 貴女のお姉さまの子供でもあるでしょう? …あまり似てないんだもん。 似てるわよ。 そうかな。 それでも妹なのかしらね? 何をぅ。 やっぱり似ているわ…だって、血の繋がった親子だもの。 …。 …。 …子供ってどんな感じなんだろう。 作れば? 誰と。 一人じゃ作れないし、どうでもいい相手となんか作りたくない。 じゃあ、無理ね。 それ、本気で言ってるの? ……だとしたら? 紅薔薇さまって言うのはどうしてこうも、偏屈なのかな。 偏屈ですって? 祐巳さまだけ、異色だった。 聞き捨てならないわね。 私達のどこが 貴女が特に。 はぁ? なんだかんだ言っても、蓉子さまは聖さまとくっついた。 まぁ、あの二人はそうならない方がおかしかったけど。 良く知りもしないくせに。 そうだけど。 話を聞いてれば、誰だって、そう思うよ。 …。 祥子さまは…あれで可愛いところがあるし。 誰かしら。 さま付け問題で思い切り、噛み付いていたのは。 あったっけね、そんな事。 ええ、あったわよ。 あの時は本気だったんだよ。 …。 でも、今となってはただの思い出。 …ああ、然う。 ……。 ……。 …さて、帰ろうか。 中に入らなくても良いのかしら? うん。 …あっさりね。 風邪、ひいても仕事は休めない。 体調管理も仕事のうちだわ。 て、言われるから。 …。 瞳子。 …何。 帰ろう。 …ええ。 おでんが食べたい。 おでんですって? あったまるじゃない、おでん。 嫌よ。 私は食べたくないわ。 コンビニで、 乃梨子。 じゃあ何が良い? 私は…。 |