−オルゴール小噺。





   よーうこ。


   …。


   へっへ。


   …はぁ。
   今度は何かしら?


   ため息吐かれた。
   聖さん、悲しいな。


   …。


   よーこ。


   …ごめんなさい。
   それで今度はなぁに?


   えとね……ほい!


   …木の小箱?


   うん。


   きれいな細工が施されているのね。


   蓉子、好きそうだと思って。


   …ええ、然うね。
   好きよ。


   やっぱり。


   今回は…小物入れ、かしら?


   それが違うんだ。
   はい。


   ありがとう。


   開けてみて。


   開ける?


   然う。
   さ、早く早く。


   …あら?


   あ。


   分かった。


   待った、言わないで。
   その前に開けて。


   …どうしても?


   うん、どうしても。


   開けなくても分かるのに。


   それでも。


   はいはい、仕方無いわねぇ。


   …。


   ……オルゴール、ね。


   然う!
   吃驚した?


   …。


   蓉子。


   …ええ、とても。
   こんな高そうなもの、どうしたの?


   実は然うでもないんだ。


   然うなの?


   フリーマーケット、やっててさ。
   そこで見つけたんだ。


   へぇ。


   ここ、見てみて。


   ん…?


   ここ。
   アルファベットで小さく、なんか書いてあるでしょ?


   本当ね。
   でも…英語じゃないみたい。


   スペイン語なんだって。
   珍しいよね。


   然うね。
   フランス語やイタリア語は良く見かけるけど、スペイン語ってあまり見ないわね。


   調べてみようかな。


   気になるの?


   まぁね。
   それより、聞いてみてよ。


   聖は聞いたの?


   ううん、未だ。


   聞かないで買ってきたの?


   良さそうだったから。


   良くなかったら?


   大丈夫、それは無い。


   根拠の無い自信。


   巻いてよ、蓉子。


   ん…。


   ……。


   ……。


   ……お。


   ……きれいな曲ね。


   ほら、私の言ったとおりだった。


   はいはい…。


   …。


   …でも。


   ん?


   少しだけ…。








   にゃー。


   あー。


   …ん?


   にゃ、にゃ。


   あうー。


   蓮!葵!


   にゃッ。


   …ぅ。


   あー吃驚したぁ。
   蓮、葵、これは玩具じゃないぞ?


   …。


   …。


   ん?
   二人ともどした?


   聖。


   え?


   貴女が突然、大きな声を出すから。


   そんなに大きかった?


   少なくとも私が見に来るぐらいには。


   …う。


   …うぅ。


   あ、いや、蓮君、葵、聖ちゃんは怒ったんじゃなくてね?
   君達がこれで、それはもう、遊んじゃいそうなイキオイだったから止めただけなんだ。


   …。


   …。


   そうだ。
   蓮、葵、高い高いしてあげよう。
   どっちが先か


   にゃーーー!


   あーーーー!


   ……あーー。


   大きな声を出すから吃驚しちゃったのよ。
   蓮、葵、よしよし泣かないで。


   …私も吃驚した。


   でもなんでそんな所にあるの?
   普段は子供達の手の届かない場所に置いてあるのに。


   久しぶりに蓉子と聞こうと思ったんだよぅ。


   それで?


   お気に入りの豆を挽いて、ちび達を膝に乗っけて、ソファでくつろいで。


   なんにせよ、子供達の手の届く場所に置いていては駄目じゃない。


   …すみません。


   蓮、葵、聖は怒ってないわよ。
   貴女達が可愛すぎて、怒った事なんて一度も無いんだから。


   蓮、葵、聖ちゃんのところにおいで。


   だって。
   蓮、葵、どうする?
   大きな声、出したから今は嫌よね?


   よーこー…。


   ふふ、冗談よ。








   ん〜〜♪


   ひー、何してるんだ。


   あ、蓮ちゃん。


   一人で勝手にいじくるな。


   だってこれは聞くものだもん。


   …。


   ねぇねぇ、蓮ちゃんも一緒に聞こうよ。


   聞かない。


   えーなんでー?


   なんでも。


   べんきょー?


   …。


   ちぇ、つまんない。


   蓮、古典の辞書なんだけど


   葵ちゃん。


   うん?


   一緒に聞こうよ。


   あら、そのオルゴールは…。


   聖ちゃんとかーさんがが大切にしてるの。
   ちゃんと知ってるよ。


   然う。
   壊さないようにね。


   ね、一緒に聞こ。
   お勉強、終わったんでしょ?


   ごめんね、ひー。


   えー。


   また後でね。


   むぅぅぅ。


   蓮、古典やるんでしょう?


   ああ。


   じゃあ


   つまんないよぅ。


   …ひー。


   …。


   かーさんはおしごとだし、聖ちゃんだっておしごとだし。
   一人じゃ、つまんないよぅ…。


   …。


   …。


   むー…。


   …はぁ。
   葵。


   ん。
   智。


   …なに。


   一寸だけ、だからね?


   …!
   ほんと?ほんと?


   うん、本当よ。


   やったー!


   …。


   ふふ。


   じゃあじゃあ、いっぱいまかないと!


   あんまり巻くな。


   そんなにいっぱい巻かなくても、止まったらまた、巻けば良いのだから。


   いいの!


   駄目だ。
   壊れる。


   古いものだから、ね?


   だっていっぱいまけば、いっぱい聞けるよ。
   そしたら、蓮ちゃんと葵ちゃんといっしょに、いっぱい聞けるもん。


   …。


   …。


   だから、


   智。


   あ。


   いっぱい巻かなくても、一緒に聴くから。
   ね?


   ……ほんとう?


   ん、本当。


   …えへへ。


   ……。








   あり?
   静かだと思ったらちび、寝ちゃった?


   …。


   …聖さん。


   良く寝てるね。
   お、オルゴール聞いてたのかー。


   …聖。


   ん?
   難しい顔してなにかな、蓮君。


   もう少し智を構うべきだ。


   うん?


   …。


   蓮?


   聖さん。


   ん、なに?


   忙しいのは分かっています。
   けれど…。


   …ふむ。


   少しだけでも良いと思うんです。
   最近、蓉子さんも忙しくて甘えられないから…だから。


   …そっか。


   じゃあ、私達は


   蓮、葵。


   …。


   …はい?


   お茶でも飲まない?
   一緒に飲もうよ。


   …。


   …。


   そんなに時間は取らないよ。
   飲んで、勉強に戻れば良い。


   …。


   …はい。








   今日、言われたんだ。
   蓮と葵に。


   二人に?


   思えば、蓮と葵の時は大変だった。


   …。


   最初の子、しかも双子。
   毎日がそれはもう、さ。
   泣けばステレオだし。


   …うん。


   そんな二人がもう、高等部。
   あの頃に比べたら、全然、手がかからない。
   私の子じゃないみたい。


   二人とも、ちゃんと貴女の子供。


   勿論です。


   …それで?


   智はどうだったかな、て。


   智?


   蓮と葵は私達二人で見てた。


   そんな事無いわ。
   周囲の人に…お義母さまにだってお世話になったもの。


   …まぁ、そうなんだけど。
   けど、家では二人だったでしょう?


   まぁ…ね。


   でも、智は違うのかな、て。


   …蓮と葵ね。


   智は双子の力によるものが大きいんじゃないかな、て。
   おしめ替えも葵なんかは進んでやってくれたし、蓮だってなんだかんだ言いながらも、ミルクを飲ませたりしてくれたしね。


   …ええ。


   今だって勉強の傍ら、遊んでくれる。


   …。


   一回り離れてるってのもあるのかも知れないけど。
   おかげで私達は凄くラクになった。


   …私もね、聖。


   うん?


   智に関しては思う事があるの。


   なに?


   蓮と葵にしてあげた事、智にはしてあげているのかしら…て。


   …。


   同じようにしているつもりだけれど…けれど実際は蓮と葵に任せっぱなしじゃないか、て。


   蓮と葵の時は仕事、休んでいたしね。
   まぁ、智の時も全く休まなかったわけじゃないけど…。


   …。


   うーん…。


   …ねぇ、聖。


   うん?


   今度の休み、久しぶりに皆で出掛けない?


   今度?


   駄目、かしら。


   いや、大丈夫。
   蓉子こそ、大丈夫?


   …どうして?


   疲れているでしょう?


   …大丈夫よ。


   …。


   家族の居る家に帰ってきて、子供達の顔を見て…それから。


   …それから?


   聖と過ごす時間があれば…私は大丈夫。


   …蓉子。


   …。


   蓉子のほっぺた、冷たい。


   …貴女のも同じようなものよ。


   でも、柔らかい。


   …ん。


   …。


   …。


   …でもさ、蓉子。


   なぁに…?


   夕ごはんはうちで食べよう。


   …。


   子供達にとって蓉子のごはんは、どんな料理よりも、ご馳走だからさ。


   …貴女のも、でしょう?


   さて、どうかなぁ。
   蓮なんか無表情で食べてくれるから、分からないんだな。


   あの子はあまり外に出さないから。


   それが蓉子のごはんだけは美味しそうに食べてるんだ、これが。


   そうかしら。


   そうそう、あいつは今の智よりもちびの頃から然うだった。
   葵はちゃんと笑って美味しいって言ってくれるのにさー。


   ふふ。


   智は…。


   …聖?


   今度、アップルクーフェンでも作ろうかな。


   唐突ね?


   なんかね、食わせたくなった。


   智に?


   頬張ってむしゃむしゃ食べるんだよね、ひーはさ。
   未だ口の中のもの、食べ切って無いのに次のを入れちゃって。


   蓮と葵はあまりしなかったわよね。


   表情もころころ変わってさ。
   見てて飽きない。


   それ、蓮と葵に対しても言っていたけれど?


   ちびって面白いな。
   同じちびなのに、みんな違うちびだ。


   こら、ちびちび言い過ぎよ?


   …はぁい、ごめんなさい。


   ん、聖…。


   …。


   …。


   …そうそう。
   アップルクーフェン、勿論、蓉子の分もちゃんとあるからね。


   ん…楽しみね。








   明日、おでかけするの?


   然うだよ、ひー。


   かーさん。


   然うよ、智。
   蓮と葵も一緒よ。


   蓮ちゃん葵ちゃんも?


   …拒絶する権利なんか、無かった。


   蓮。


   ……。


   蓮君は相変わらず、葵に頭が上がらないなぁ。


   …うるさい。


   はは。
   ひーはどこに行きたい?
   動物園?遊園地?それともインカ展?


   聖。


   あはは。
   そうだ、水族館も良いかな。
   兎に角、ひーの行きたいとこに行こう。


   んー…。


   智の好きなところで良いのよ。


   かーさんは、おしごと、お休みなの?


   ええ。


   聖ちゃんは?


   明日は一日オフさ。


   蓮ちゃんと葵ちゃんもお勉強しないの?


   試験、終わったから。
   ね、蓮。


   …ああ。


   わぁぁ!


   さぁ、ひー。
   どこに行きたい?
   お弁当を持って、大きな公園で遊ぶのも良いかな?


   あのね、あのね。


   うん。


   ひーは…。


   …。


   …智?


   ……。


   ひー?


   どうしたの?智。


   ふへへへ。


   …嫌な予感が


   蓮ちゃーん!!


   …ぐ。


   遊ぶー!!


   遊ぶ?


   蓮と?


   葵ちゃん!


   わ。


   えへへ。


   …げほ。


   智、蓮と葵と遊ぶの?


   うん、そう!
   おうちで遊ぶの!


   でもひー、明日は久しぶりのお出掛け


   聖ちゃん!


   うん?


   ケーキ、作ってーー!!


   ケーキ?


   うん!!
   りんごの!!


   林檎、か。
   これまたなんて素敵なタイミング。


   かーさん!


   なぁに?


   あのね、あのね。


   うん。


   へへへへ。


   なぁに、智。


   かーさんのごはん、食べたい。


   私の?


   うん!
   かーさんのたまごやき、食べたい!!


   それだけで良いの?


   それだけ?


   他にも作ってあげる。
   何が食べたい?


   えとね、えとね…んーと。


   …。


   なんでもいい!!


   なんでも?


   かーさんのごはんなら、なんでもおいしいもん!!


   …智。


   ひー、聖ちゃんのごはんは?


   聖ちゃんのもすきだよ。


   そっか、良かった。


   蓮ちゃんと葵ちゃんのも!


   ありがとう、智。


   …結局、明日は出掛けないのか。


   うん!
   だって!


   「「「「だって?」」」」


   明日はみんなで、オルゴール!!


   オルゴール?


   みんなで、聞くの!!
   かーさんと聖ちゃんの大切な、オルゴール!!


   …聖?


   なんか最近、お気に入りみたい。


   然う。
   智。


   なぁに、かーさん。


   じゃあ明日は智の言ったとおりにしましょう。


   ほんと?


   ええ、本当。
   ね、聖、蓮、葵。


   もっちろん!


   …。


   はい、蓉子さん。


   ん。
   じゃあひー、約束ね。


   うん、やくそく!!
   わぁぁい!!








   少し、何…?


   もの悲しい、かなぁ…て。


   もの悲しい?


   淋しげな印象を受けたのよ…最初は。


   じゃあ、今は?


   然うね…やっぱり、少し悲しそうだけれど。


   だけれど?


   智が歌うと、とても明るくて楽しい曲になるわ。


   ああ。


   蓮が歌うと、


   楽しそうに聞こえない。


   聖。


   へへ、ごめんなさい。


   蓮が歌うと少し冷たいけれど、でも真摯に聞こえる。
   葵が歌うと穏やかで優しく聞こえる。


   蓉子、良く聞いているなぁ。


   今日、思ったのよ。


   今日、ね。


   ええ、今日。


   ひー、はしゃいでたなぁ。


   ええ、本当に。
   あの子のあんな楽しそうな顔、久しぶりに見たような気がするわ。


   あの子はいつだって楽しそうだけど。
   と言うより、上機嫌。


   そうなのだけど、それでも。


   …。


   …。


   …このオルゴール、なんだかんだでうちの歴史をずっと見てるのかも。


   ええ、然うね…。


   また、家族で聞こうか。
   ね、蓉子。


   …ん。








  −同級生、親友、恋人、それから。





   …え?


   しない?


   …。


   そろそろ良いかなぁ…って。


   …。


   蓉子、聞こえてる?


   …聞こえてる、けど。


   けど?


   …いきなりだったから。


   前から思ってはいたよ。


   …。


   なんとなく、だけどさ。


   …でも。


   でも?


   聖がそんな事、思ってたなんて。


   そりゃあね。
   私だって一応、女だし?


   …。


   まぁ、憧れはしないけど。


   …でしょうね。


   うん、蓉子はやっぱり分かってるね。


   …。


   したくない?


   …そういう聞き方はずるいわ。


   じゃあ、したい?


   …憧れでは無かったら。


   うん?


   聖にとってそれはなんなの?


   私にとって?


   然う、聖にとって。


   んー…なんだろう。


   しなくても、一緒に居る事は出来るわ。
   今のように。


   然うだね。


   …でも、口に出したのね。


   うん、出した。


   …。


   今のままでも良いんだけど。
   なんだろう、なんか違うと思うんだよね。


   …なんか、ね。


   分かりやすいのは名前かな。
   それまで違うものだったのが、一緒になってさ。


   …。


   でも一番は。


   …一番は?


   家族になれる、ような気がする。


   ……。


   紙一枚の差なんだけど。


   …聖、は。


   ん。


   私と……


   なりたいよ。
   勿論。


   …。


   蓉子。


   ……本当に。


   うん、本当に。


   …。


   今直ぐにじゃなくても良いよ。


   …。


   それで離れる事は、無いし。
   無いよね?


   …無い、けど。


   へへ。


   …。


   …ねぇ、聖?


   うん?


   …どうして私を見て、言わないの?


   え?


   然う言うことを話すのなら…出来れば、ちゃんと見て言って欲しいのだけれど。


   見てるじゃない。


   でも目が泳いでいるわ。


   そ、然う?


   さっきから、全然、合わないもの。


   気のせいじゃない?


   気のせいじゃないわ。


   然うかなぁ。


   聖。


   おが。


   …。


   …。


   …ほら。


   …と言うか結構、力尽くでしたね、蓉子さん。


   …。


   …。


   ……。


   あー…。


   ……少し、時間をくれる?


   う、うん…。


   …。


   けど…。


   …けど?


   考えないと答え、出ないの…?


   …。


   …。


   …ちゃんと、考えないと駄目だと思うの。


   ふぅん…。


   …。


   …。


   …だって。


   だって…?


   ……貴女と私の将来に関わるお話だから。


   …。


   今までのようにはいかないと思うのよ。


   …と、言うと?


   同棲とは違うでしょう?


   同じようなものだと思うけど。


   貴女だって言ったじゃない。


   私が?


   なんか違うって。


   …。


   …家族になれるような気がするって。


   ……。


   …だから、ちゃんと考えないと。


   …。


   考えないと…。


   …それってさ。


   あ…。


   答え、出てるような気がするんだけど。


   …。


   …将来の事、考えてる時点で。


   ……。


   …。


   …聖。


   …うん?


   貴女も考えるのよ。


   私も?


   …二人の事、なんだから。


   …。


   …。


   ……。


   …顔、緩んでる。


   いや、だって。


   …だって、なによ。


   答え、貰ったようなもんでしょや?


   …未だ、あげてないわよ。


   じゃあ、そういう事にしとく…。


   …ちょっと、聖。


   掴まえてくれたのは、蓉子…。


   ん…。


   ……ふふ。








  −聖誕、20××年。





   Hyvaa syntymapaivaa!
   Dogum gunun kutlu olsun!
   Maligayang kaarawan!


   …。


   …。


   Cumpleaños felís!
   Alles Gute zum Geburtstag!
   あとは


   日本語で言え。


   えー。


   私達にはどこの言葉かさえ分からないわ。


   えと、フィンランド、トルコ、そんでもってタガログ、だったかなぁ。
   残り二つは分かるでしょや?


   タガログ?


   フィリピンの言葉の一つだよ。


   お前はどれだけ覚えるつもりだ。


   でも全部喋れるわけじゃないよー。


   それでも英語とスペイン語、それから中国語も少し喋れるのよね。


   最近はドイツ語もいけるよ。
   Toi toi toi!


   それはなんだ。


   おまじない!
   一日の始まりに言うと良いんだよー。


   それもドイツ語?


   そだよー。
   かわいいでしょ?


   然うね。
   それなら私でも喋れそうだわ。


   うん、いっぱい喋って。
   蓮ちゃんの分まで。


   …。


   ふふ、然うね。


   でもそっかー。
   やっぱ日本語が一番かー。
   そうだよなー。


   言われても意味が分からなければ意味が無いだろう。


   洒落?


   は?


   …ちぇー、蓮ちゃんは相変わらず固いなー。


   智。


   へぇい。


   今年は少し、早かったわね。


   うん、今年は分かりやすいとこにいたからね。


   サンタさんが居る場所?


   ついでに言えば凄く寒くてさー。


   ふふ。


   こっちは相変わらず恋人達のお祭みたいだねー。


   屹度、変わらないでしょうね。
   ねぇ、蓮?


   どうでも良い。


   だって、智。
   ずっとこんな調子の人も居るわよ。


   葵ちゃんも大変だねぇ。


   生まれた時から一緒だから、慣れちゃったわ。


   慣れないとやってらんなかったりして?


   かも。


   あはは、確かに!


   ……。


   蓮ちゃん、眉間に皺。
   と言うか最近、元に戻らなくなってきてない?


   智、それは言わないであげて?


   あ、禁句ってヤツ?


   ふふ。


   …で。


   んー?


   今年もいつもどおりか。


   うん。
   だって私にとっての一番は家族だから。


   …。


   …。


   それは一生、変わらないよ。


   …。


   恋人が出来ても?


   恋人は変わる。
   けど、家族は一生変わらない。


   …智。


   んー?


   いい加減、落ち着いたらどうなんだ。


   それ、蓮ちゃんに言われたくないなぁ。


   お前よりは落ち着いてる。


   だって、葵ちゃん。
   どうどう?


   うーん、然うねぇ。


   まだまだ子供なんじゃない?


   然うかも。


   …葵。


   ふふ。
   でも、智。


   ん?


   恋人だって籍を入れたら家族だからね。


   まぁ、そうなんだけどねー。
   元々あったものと、これから新しく作るものじゃ、一寸違うんだよなー。


   …それ以前に。


   なになに、蓮ちゃん。


   特定の恋人は出来たのか。


   あー。


   あー、じゃない。


   私はみんな、大好きだよー。


   聖さんみたいな物言いね?


   うん、博愛主義者だから。


   たく、お前は…。








   よーぅこ。


   ん。


   …へへ。


   なぁに?


   耳、噛んでも良い?


   だめ。


   聞こえない…。


   …こぉら。


   へへ。


   何をはしゃいでいるの。


   はしゃいではいないよ。
   ただね、綺麗な耳が見えたから。


   いつも見えてるでしょうに。


   今日は実行に移してみましたー。


   はいはい。
   離れてね。


   もう少し。


   だーめ。


   一寸だけ…。


   …こら、聖。


   もう、感じない?


   …。


   …それともへたになった?


   なに、言ってるんだか…。


   …。


   せい…。


   ……ふふ、良かった。


   もう、幾つになってもばかのままなんだから…。








  −Buongiorno mia madre!





   かーさん、おはよう!
   Buongiorno manma!


   ヒジリ。


   あ、ジョルジュ!
   Ciao!


   Ciao、ヒジリ。


   ヒー。


   お、アルも起きたんだ。
   Ciao!


   ……。


   んー、まだおねむ?


   はは、未だ半分眠っているみたいだ。
   ヒジリ、マンマに挨拶は終わったのかい?


   うん、ばっちり。


   一度聞きたかったのだけど、日本ではマンマはなんて言うんだい?


   おかあさん、だよ。
   母とも言うけど、普通はおかあさん。


   カーサン?


   そうそう、かーさん。


   ヒジリはカーサンが好きかい?


   もっちろん!
   大好きだよ。


   どんな人なんだい?


   一言では言えないなぁ。
   でもそうだなぁ、とっても綺麗だよ。
   アンジェレッタには負けないくらいね!


   アンジェレッタにだって?
   ヒジリがそこまで言うのなら、ヒジリのマンマは相当な美人なんだね。


   二人ともね!


   美人なマンマが二人も居るのかい?


   うん。
   優しいし、面白いし、ごはんは美味しいし、大好きだよ。


   そうか。
   ところでヒジリ、アンジェレッタが呼んでいたよ。


   なんて?


   朝食の準備を手伝って欲しい、と。


   そっか、じゃ直ぐ行く!


   ヒジリ、張り切りすぎて焦がさないように頼むよ。


   あはは!
   今日は大丈夫さ、屹度ね!








   ……。


   蓉子。


   …ん。


   挨拶、したの?


   聖は?


   私はいつだって蓉子と繋がってますから。


   はいはい。


   時間差、今はどれだけあるんだろうね。


   然うね。
   でも。


   でも?


   時間差がどれだけあっても。
   どこに居ても。


   …。


   元気なら。
   病気や怪我をしていないのなら。


   お母さんだねぇ。


   貴女もでしょう?


   はーい。


   …こら。


   私はいつだって蓉子の傍が良いな?


   はいはい、また子供達に呆れられるわよ?


   なんの。
   親が仲良しの方が子供達にとっても良いのさ。
   不仲は教育上宜しくないからね。


   もう、三人とも手を離れているのだけど?


   離れないよ。
   子供で無くなる事なんて、絶対、無いんだからさ。


   …。


   んー…いた。


   ごはんの支度、しないと?


   …少しだけ。


   だーめ。
   ほら、離れる。


   …じゃ、また後でにしよ。


   さて、智の好きなものでも作ろうかしらね。


   ひーの?


   然う。
   何が良いかしら?


   寧ろ、ありすぎて困っちゃうなぁ。
   全部作ったら凄いコトになる。
   時間が幾らあっても足らない。


   ふふ、然うね。


   あの子はあまり嫌いなものが無かったからねぇ。
   蓮君とは大違いでさ。


   蓮は偏食だったから。
   葵は偏食ではなかったけれど、


   何気に好みは似てた。


   ふふ。


   ひー、海の向こうでもなんでも食べてそうだなぁ。


   ええ、屹度。
   食べ過ぎてお腹、壊してなければ良いけど。


   はは、確かに。








  −おやばか、ばかおや。





   うっふっふぅ。


   …。


   ちっちゃいなぁ、かーいーなぁ。


   …。


   あーもう、たまんない。


   …。


   あー


   聖。


   なになに、蓉子。


   蓮の顔がひどいことになっているのだけど。


   蓮君の?


   貴女が蓮の足に頬ずりなんかしてるからだと思うんだけど。


   やだなぁ、そこまではしてないよ。


   じゃあ何してるのよ、さっきから。


   ふにふにして遊んでるの。
   次は葵で遊ぶんだ。


   止めて。


   なんでー?


   葵までひどい顔をしたらどうするの。


   と言うか、なんでひどい顔になんの?


   嫌なんじゃないの。


   どしてー?


   …蓮に聞いてみたら?


   蓮君、聖さんだよー。
   今日はごきげんだねー?


   ……。


   とてもごきげんな顔には見えないわ…。


   れ、おう。


   …?


   …。


   聖?


   …今、見た?


   今?


   蓮君に蹴られた。


   え?


   蓮君、蹴ったよ。


   …嘘でしょう?


   ううん、ほんと。
   こう、げしって。


   ……。


   やるなぁ、蓮君。


   …そういう問題なの。


   歩き出すの、早いかも。
   わぁ、楽しみだね、蓉子。


   …前向きと、言っても良いのかしらね。








  −おやゆずり。





   ぐえッ。


   ……。


   あ。


   ぐぇぇぇ…。


   ……。


   蓮、踏んでる、踏んでるから!








   ……あー、死ぬかと思った。


   …。


   聖さん、あの、大丈夫ですか…?


   いや、未だちと辛い。
   あー…。


   …。


   まさか自分の子に跨がれる事はあっても踏まれるとは思ってなかったなぁ。
   しかもお腹。


   ……。


   蓮、足元には気をつけてっていつも言ってるじゃない。


   …こんなところで寝てるとは思わなかった。


   そういう問題じゃないでしょう?
   そもそも聖さんは家の中でなら、どこでだって寝られるのだから。


   いやいや、葵。
   それ、あんまりフォローになってないかなぁ。


   あ…。


   まぁ、間違ってはないんだけどさぁ。


   でも聖さん、なんで私達の部屋の入り口なんかで寝ていたんですか。


   …と言うか勝手に入るな。


   いや、それが辞書を借りようと思ってさ。


   辞書?
   でも辞書なら


   これ。


   …古典?


   ちょっと気分転換に良いかなぁって。
   たまには違う辞書もさ?


   はぁ。


   で、眺めてたら…つい、うっかり。


   ……勝手に入るな。


   ところで、蓮。


   …。


   流石にお腹を踏まれるのはきつかったなぁ?


   …。


   蓮?


   …寝てるのが悪い。


   蓮、蓮が足元に気をつけていれば


   若しも蓉子さんが寝てたらどうするんだい?


   蓉子はこんなとこで寝ない。


   そうなんだけど、


   有り得ない。
   想像も出来ない。


   や、だからな?


   変なところで寝るなって、蓉子にいつも言われているのは聖。


   う。


   蓮、だけどやっぱり踏んでしまった蓮が悪いわ。


   間違った事は言っていない。


   だけど、踏まれたら痛いでしょう?


   ……。


   …蓉子さん、君の子はいつも正論を説く君にやっぱり似ています。


   だから聖さんに…て、聖さん?








   素直じゃないのは貴女似。


   …蓉子さんの方が素直じゃないよぅ。


   謝るべき時はちゃんと謝るわよ。
   貴女と違って。


   私だって謝るよぅ。


   あと、貴女も足元を見ない。


   えー…。


   蓮が小さかった頃、踏みそうになった事、あるわよね?


   …でも踏んでないよぅ。


   踏んでいたら大変な事になっていたわ。
   本当に良かった。


   …うー。


   で結局、蓮は謝ったの?


   うん。


   いやいや?


   いや、普通だった。


   然う。
   なら、良かったわ。


   …。


   聖?
   痛いの?


   いや、それは平気なんだけど。


   うん。


   …足、無駄にでかいよなぁって。


   蓮の?


   あんなにちっこかったのに。


   まぁ確かに、蓮の足は女の子にしては大きいわよね。


   葵はそんなに大きくないのに。


   途中までは一緒だったのにね。
   突然、蓮だけ大きくなって。


   ちびっこなのに。


   蓮は大きくなるかも知れないわね。


   成長期?


   あの子達は他の子よりも少し、遅かったから。


   ふぅん。


   それを心配した事もあったけれど、今となっては何でも無い事だったわね。
   貴女が言ったとおり。


   でしょ?


   覚えてるの?


   勿論。
   蓉子さんは心配症。


   …否定は出来ないけれど。
   そういう事ばかり。


   だからかな、三人目のちびに関してはあまり心配しないよね。


   …まぁ、ね。


   ちびは親の心配なんて、軽く超えていくもんね。


   軽く、かしら。


   あはは。


   ところで、聖。


   うん?


   ところ構わず寝るのは止めて頂戴。


   …。


   最近は智まで貴女のようになってきてしまって。
   この間なんてね、洗濯機の中で寝ていたのよ。
   覚えているでしょう?


   あ、うん、覚えてます。
   あの時は家族総出で探しましたので。


   テーブルの下なんて未だましな方なんだからね。


   でも流石に、私は洗濯機の中では


   聖。


   ……あい。








  −Vermillion





   …同じ血が、流れている。


   ……。


   同じって、何かな…。


   ……。


   …私が蓮で、蓮が私なの?


   ……。


   私は蓮じゃないし、蓮は私じゃない…。


   …。


   ……でも、同じものだと言う。
   何が、同じなんだろう…。


   ……親。


   …でも。


   ……。


   …私は、蓮じゃない。
   蓮は私じゃない…。


   …。


   …蓮と私は、同じじゃない。


   ……。


   …ねぇ、蓮。
   貴女もそう思うでしょう…?








   蓮。


   ……。


   何、腑抜けになってるのよ。


   …うるさい。


   こんなとこで何やってんのか、聞いてんのよ。


   うるさい。


   はぁ?


   ……。


   あんたの妹は、今、どうなっているのか。
   そしてあんたのもう一人の妹が、今、どうしているのか。
   分かってるの。


   ……。


   答えろ、このへたれ。


   ……。


   あんたのその目、本当に気に入らないわ。
   餓鬼の頃から。


   ……。


   ……。


   ……同じ、血。


   ……。


   だと、みんな、言った。


   …だから?


   だったら、何故。


   …。


   何故、私の血は使えない。


   ……。


   あおと私に、同じ血が、流れているのなら。
   何故、使えない。


   そんなの、簡単だわ。
   一緒じゃないからよ。


   …。


   兄弟姉妹、同じじゃないわ。
   一個一個、別の生き物よ。


   ……だったら。


   けれど、人には倫理がある。
   破ってはいけないものとして作った理が。


   ……。


   …あんたと葵は血液型が違う。
   あんたの血は、葵に使えない。


   …。


   あんたのもう一人の妹が、葵と同じ型だった。
   たまたま、同じだっただけ。


   ……。


   …。


   ……匂い。


   は…?


   味…。


   …。


   ……葵は私じゃない。


   冗談じゃないわ。


   …私は、葵じゃない。


   あんたみたいなのがもう一人、いたら。
   考えただけで、ぞっとする。


   …。


   だから……。








   …あ、れんちゃんだぁ。


   ……智。


   だいじょうぶ、だって…。


   …そうか。


   よかったねぇ…。


   …。


   …れんちゃん?


   ……。


   あー、わかったぁ…。


   …何を。


   なかまはずれ、って、おもってるんでしょ…。


   ……。


   でも、それはちがうよー…。


   …思ってない。


   だってそんなかお、してたもん…。


   …。


   れんちゃん、よかったね…。


   …智も少し休んだ方が良い。


   やすんでるよー…。
   いまはなにもしたくない、きぶんだし…。


   ……。


   …ほんとは、ほかのもあったんだって。
   でも、わたしのがいいかなぁ、って…。


   …聖のでも良かったんだ。


   でも、わたしがいいよ…やっぱり。


   ……どうしてそう思った。


   だって。


   …。


   しまい、だもの…。


   ……。


   …おなじち、だったら。


   …!


   わたしのが、いいでしょや…?


   ……智。


   なんか、いやじゃん…?
   あおいちゃんのなかに、しらないひとがはいるの…。


   …。


   …なんていったら。
   かーさんにおこられちゃうかなぁ…。


   …聖は、不貞腐れるかも知れない。


   へへ…。


   ……。


   …おなじで、よかった。


   智…。


   …れんちゃんと、おなじじゃなくてよかった。


   ……。


   なかまはずれ、っていみじゃないよ…?


   …思ってない。


   よかったね、れんちゃん…。


   ……お前はいつだって、主語が無い。


   だっておなじじゃないでしょや…。


   …。


   …れんちゃんと、あおいちゃんは。
   おなじ、じゃない…。


   …それを、屁理屈と言うんだ。


   へへ、かーさんみたい…。


   ……。


   …でも、わたしだって。
   おなじじゃない…。


   …。


   だってわたし、あおいちゃんじゃないもん…。


   …少し眠った方が良い。
   疲れたろう。


   ……。


   智…ひー。


   …あー、よかった。


   …。


   わたし、れんちゃんとあおいちゃんのいもうとで。


   ……。


   ね、わたしはれんちゃんとあおいちゃんのいもうとでしょや…?


   …当たり前だ。


   いもうとで、よかった…?


   …。


   …あ、れんちゃんがないてるー。


   泣いてない。


   めずらしい…あした、おおゆきかもー。


   …ひー。


   あはは……はぁ。


   ……。


   かえってきて、よかったなァ……。


   ……。


   …おなか、すいた。
   かーさんのごはん、いっぱい、たべたい…。


   …目が覚めたら。


   あおいちゃんもいっしょがいいな…ぁ。


   ……。


   ねぇ、れんちゃん…?








   蓮君。


   ……。


   酷い顔、してるなぁ。


   …聖。


   そんな顔、葵には見せられない。
   だろう?


   ……。


   …。


   ……。


   …蓮。


   ……。


   私は何も言わないよ。
   知っているけど。


   …。


   蓉子は…大丈夫。
   私が居るから。


   …。


   ん?


   …聖は、いつだって然うだ。


   そう、いつだって私は然うだよ。


   ……。


   …蓉子と蓮、葵、そんでもって智。
   みんな、私の家族で……蓉子がくれたものだ。


   ……。


   …君達三人は。
   みんな、私と蓉子の子供だ。


   …。


   …それが、君と葵には重たいものになってしまったかも知れない。
   けど、君達が生まれて来た時、私は嬉しかった。


   ……。


   蓮。


   ……。


   思うように、仕合わせにおなり。


   …。


   なんて、らしくない言い方かな。
   はは。


   ……。


   …私は、なったよ。
   私と蓉子は姉妹では無いけれど…それでも何も無かったわけじゃない。


   ……。


   喧嘩ばかり、してた。
   君と葵の姿を見ていると、昔の自分達を思い出す。
   まぁ、もっと激しかったけどね。


   …。


   私は蓉子を、酷い言葉を吐いては、何度も傷付けた。
   然う、何度も…。


   …もう、いい。


   ……。


   聞きたくない。


   …まぁ、然う言うなって。


   聖と蓉子は…同じじゃない。


   君と葵も同じじゃない、でしょや?
   強いて言えば近いだけだ。
   限りなく、さ。


   …。


   …でも、それだけさ。


   ……。


   私達は誰一人、同じじゃない。


   ……。


   だから蓮、葵に伝えてよ。


   …。


   思うように、仕合わせになれば良いって。


   ……言わない。


   素直じゃないのは、蓉子譲りだなぁ。


   …。


   やっぱり、親子だなぁ。








   ……。


   …。


   ……蓮。


   …。


   ……。


   ……。


   …聖は?
   知らない…?


   …直ぐ来ると思う。


   然う…。


   ……。


   …。


   …蓉子。


   その、呼び方…。


   …。


   …とうとう、そのままになってしまったわね。


   ……。


   あの人が貴女達が生まれてもずっと、然う呼ぶから…。


   …。


   …聖が、ずっと。


   ……。


   ……。


   …蓉


   ごめんなさいね…。


   …。


   …私、どうして良いか分からない。


   ……。


   貴女と葵が…こんな事になって。
   気付かなかった、気付けなかった自分が……赦せない、赦せなかった。


   …。


   ……でも、聖は。


   …。


   …茨の、森。


   ……。


   知ってる…?


   ……聞いた事ぐらいなら。


   葵なら、知っているかも知れないわね…。


   …。


   直ぐにそんな言葉が、思い浮かんだ…。


   ……。


   …離す事も、考えた。
   けど、離れらなかった…。


   ……。


   私ね、離婚、しようと思ったのよ…。


   …り、こん。


   そうして、別々のところに住んで…時間を掛けて、それから。


   ……。


   …でも、聖が。
   聖が…。


   ……。


   …いいえ、聖の事だけは言えない。
   私だって…。


   ……。


   ……。


   ……。


   …葵。


   …。


   ……蓮。


   …。


   それから……智。


   …。


   …一人ひとり、違う子。
   私達の子供だけれど…でも、一人ひとり、違う。
   そんな当たり前の事、どうして、直ぐに気が付かなかったのかしら…。


   ……。


   …蓮。


   ……。


   貴女は、泣かない…。
   泣かない、泣けない子…。


   …。


   …でも、そうさせてしまったのは


   智が、言ってたよ。


   ……なんて?


   お腹、すいた。
   蓉子の…。


   …。


   ……母さんのごはんが食べたいって。


   ああ、あの子らしいわね…。


   ……。


   …帰ったら、何か作ってあげないといけないわ。
   ねぇ蓮、何が良いと思う…?


   …卵焼き。


   ふふ、それは貴女の好きなものじゃない…。


   …。


   でもそうね、智も好きなのよね…。
   聖も、それから…


   …葵も。


   ……江利子に良く似た貴女達の友達も。


   …あいつは違うと思う。


   ふふ…。


   ……。


   でもそうね、みんなで帰って…そうしたら。








   同じ、血…。


   …。


   ……何が、同じなんだろう。


   …色。


   色…?


   …赤いだろう。


   …。


   …。


   …もう、蓮は。
   私が言ってるのは…ん。


   …。


   …れん。


   味…匂い……。


   …もう、何よそれ。
   人が真面目に話しているのに…。


   ……。


   ん、れん…。


   ……聖、と。


   …蓉子さん、と。


   …。


   私と蓮の中には半分ずつ流れてる…。


   …私達だけじゃないだろう。


   …?


   智。


   …ああ、そうだった。
   私達は三人だったね…。


   ……。


   ん、ん……。


   …。


   ……あの、赤い空より。


   …。


   ……熱くて、激しいもの。


   …。


   私達の中に、流れているもの…。


   ……。


   ……あぁ、れん。


   …あおい。


   ……。


   …?


   わたしのなか、に…


   あおい…?


   あなた、の……。