※この話では蓮が両性具有者として描かれています。苦手、或いは受け付けない方は、決して、読まないで下さい。
     尚、読んでしまったが為に気分が悪くなった、などの苦情は受け付けられません。
















































































   私の最も深い場所で。
   それまでの激しさが嘘だったかのように、動きを止めて。
   低い呻き声と共に、痙攣し。
   果てていく、その脈動を感じながら。



   おなかの中が、熱い。
   それは私の中に流し込まれる、数え切れないほどの命の種の証。
   この人が私にくれるもの。
   最後の最後まで、一滴すらも残さず全て、受け取ろうとして。
   私は、震えながら種を植え付ける、その躰を強く抱き締めた。



   この瞬間が、好きだった。
   二人の、命の熱を感じる、その時が。
   愛しくて、愛しくて、無意識に抱き締める腕に力が込もる。爪が食い込む。
   私の躰の最奥に愛しい人が居る。
   いつもは分かたれている二つの躰が、今だけは、一つに戻れたような錯覚。
   それが、いつまでも、続くような気がして。




















  く お ん の き づ な





















   蓮が大きな息を一つ、吐いた。
   いつまでも、永遠に続くように思えた、その時が終わった事を私に教える。
   けれど直ぐには結合を解かず、蓮は私に躰を預けるようにして沈む。
   蓮の重み。
   それはいつだって私を仕合わせにしてくれる。



   「おなかがあついわ…れん」



   私はそっと、蓮の耳元で囁いた。
   返事は返ってこない、けれど。
   肩でする程荒かった息が少しずつ、私の中で落ち着きを取り戻していくのが返事代わりのように思えて。







   蓮と躰を重ねるようになって。
   私は直ぐにそれに夢中になって、溺れた。
   最初なんて、その行為を今まで何故してこなかったのか、怖かったのか、理解に苦しむほどだった。
   蓮と一つになれる、唯一の方法、だったのに。
   初めて口付けをして。
   初めはそれだけでも、恥ずかしくてでも嬉しくて、満たされていたのに。
   近づけば近づくほど、心は益々、蓮を欲して。
   その想いが私の中で暴れ、翻弄し、それでも欲しいとは言えずに、時には蓮を困らせた。
   普段、蓮はあまり優しい言葉をくれないし、だからと言って態度にも表してくれない。
   口付けを交わす関係になっても、好きなどと言う言葉は、貰ったことがなくて。
   蓮がそういう人間だと言うのは、私が一番知っている…けれど。
   それでも何を考えているのか、私は知りたかった。
   何を考えているのか…私の事を本当に想ってくれているのか知りたくて、でも、分からなくて。
   それが私には、蓮を欲していた私には、苦しかった。
   蓮にしてみれば、口付けなど、何とも無かったのかも知れない。
   若しも、その時が来れば。
   蓮は私を置いて別の人の元へ行ってしまうかも知れない。私から去ってしまうかも知れない。
   そう考えれば考える程、私は追い詰められて、どうして良いか…いや、分かっていても臆病な私には出来ず、一人で泣く事しか出来なかった。
   誰にも蓮を渡したく無い。蓮は私の半身。蓮が居るから、私も居る。蓮が居なかったら、私の存在だって無い。
   だから。
   蓮が私に触れた時、それが叶えられると知った心は、私に涙を流させた。
   怪訝な顔をされ、或いは蓮にしてみれば心配してくれたのかも知れない、離れていく蓮の手を引きとめて、そのまま私の胸に抱いた。
   言葉にすれば、欲しい、の一言。
   でも、上手に言葉に出来なかったから。
   私に出来る精一杯の事。若しも伝わらなければ、私はまた、一人で苦しみ続けなければならない。
   それが伝わったかどうかは分からない。
   けれどその日、そのまま私は蓮に抱かれて、蓮の、命の種の熱を、知った。



   以来。
   蓮は私を求め、私も蓮を求めた。
   無言での時もあるし、いや大抵は無言の時が多い。
   暗い寝室に連れて行かれて問答無用で押し倒される日もあるし、
   ベッドの中で私が蓮の背中に抱きついて…言葉にはやっぱり出来なかったけれど、ねだった事もある。
   私は蓮を拒まなかった。
   あの時でさえ、蓮が求めてくれば、応えた。
   蓮は……気分屋だから。
   無い時は本当に無いし、求める時は……しつこいくらい、それこそ疲労で起き上がれなくなる日だって。










   「…れん」



   時間の経過と共に、私の中の蓮は力を失い、自然に結合は解かれた。
   解かれた事によって、蓮が私にくれた命の種、その多くは私の躰から流れ出てしまうだろう。
   一滴でさえも惜しくて、勿体無くて、私の中に受け入れたのに。それが為す術も無く、出て行ってしまう。
   それが悲しくて淋しくて…私は蓮の名を呼んだ。










   そんなわけ、ない。
   初めての夜、私は蓮にそんなことも知らないのか、と言った表情で言われたこと。
   余韻と気だるさと言葉に出来ない幸福の中、蓮の温かな躰に寄り添っていた時、私は下腹部に違和感を覚えた。
   痛みは…勿論あったけれど、それではなくて、中から何かが流れていくような感覚。
   私はそれが何を意味するのか、知らなかった。
   本当に知らなくて。
   呆れながら、無知、と言われてしまった。


   私はそれまで。
   植え付けられた種は中に残って躰に吸収されていくものなのだと、何の疑問も抱かずに思っていた。
   よくよく考えてみれば蓮の言うとおりなのだ。
   一つの卵に対して、例外はあるけれど、基本、一つの種。
   じゃあ残った種達は?
   吸収されるわけではないのなら?










   「……ぅ」



   あれほど熱かったおなかの中の熱はもう引いてしまった。
   おなかに手を当てようとも、蓮の躰が私の上にあるから出来ない。
   けれど、今度こそ…と、思う。










   初めての時から私達は避妊具を付けなかった。
   本来ならば付けなければならないだろう。いや、付けるべきなのだ。
   避妊具を使わなければ妊娠の可能性は必然的に高まる。
   けれど私達は何も言わなかったし、必要性も感じなかった。


   快楽。
   無いと言えば嘘になる。
   直接蓮と繋がるのはとても気持ちが良いし、何より、より一つになれたように思える。然う、まるで互いの躰が吸い付くようにして。
   だけど本当の理由はそんな事じゃない。


   私達の両親が私達を得て親と言う存在になったように、私達がそうなる事。
   仮令、誰にも祝福されなくとも。
   両親が私達を愛してくれたように、私も。
   蓮と一緒に。
   屹度、蓮も。










   「………あおい、どいて」



   ふと、躰がほんの少しだけ軽くなるのを感じる。
   蓮の重みが離れていく事に心許無さを感じながらも、蓮の言葉に従って、背中に回していた手を下ろしてその躰を解放した。
   ずっとでも、良いのに。
   そんな事を真面目に思いながら。
   離れた蓮の躰は、とさりと音を立てながら、私の隣で仰向けになった。
   私はいつも通りその躰に寄り添う。その腕に抱き寄せられる事を期待して。



   「れん…」


   「……」



   やっぱり答えは返ってこない、けど。
   蓮の腕がもそりと動いた事に期待は大きく膨らんだ。
   だから私は少しだけ躰を浮かした。蓮の腕が通るだけの空間を生む為に。



   「……ねむい?」



   「……」



   蓮の顔を覗きこんで、自分でも分かるくらいの、鼻にかかった声を出す。
   まだ眠るのは勿体ないよ、まだ早いよ、って、言えたらどれだけ良いだろう。
   こんな関係になってもう大分経っているのに、未だ、言葉に出来ない。
   鬱陶しがられるのが怖い。拒否されるのが怖い。冷たく、適当に、あしらわれるのが、怖い。



   「…れん」



   首元に鼻を摺り寄せて。
   腕を、脚を、蓮の躰に絡ませる。
   お願い、もっと熱が欲しいの。
   もっと、もっと、蓮が欲しいの。
   お願い、蓮。



   「……あぁ」



   気だるそうな声。
   閉じられた瞳、私を見てくれない蓮。
   相手にしてくれないのが無性に切なくなってきて。
   見てくれるよう、構ってくれるよう、冷たい肩に口付けて、舌を這わす。
   塩気のする、肌。
   蓮がしてくれるように、強く吸い上げて、軽く噛む。
   私を見て。
   見て、見て、見て、見て。



   「……」



   蓮の躰。
   ついさっきまで私の上にあった。
   絡めていた腕を動かして、脇腹を指先でそっとなぞる。
   そのまま線に沿うようにして、お腹に流れて……それから。



   「……あおい」



   “蓮”に触れる寸前。
   止めさせようと思ったのか、私の躰を抱いていない方の手が伸びてきた。
   視線も感じる。
   ああ、やっとまた、私を見てくれた。
   伸ばされた手は髪の毛に埋められ、くしゃりと、握られる。
   それから軽く頭を撫でられて。
   それが嬉しくて、もっと、と、せがんだ。



   「葵は…言葉には出来ないくせ、に」



   少し呆れているような声。
   また、私が何か間違ったことを言って…はいないから、してしまったのかな。



   「挙句、自覚が無いのだからタチが悪い」


   「…私、何かした?」



   返事の代わりにため息を一つ、盛大に吐かれる。
   だけど私はやっぱり分からなくて。
   撫でられる手の温かさに軽く涙が零れそうになりながら、考えたけれど。
   でもどうしても、分からなくて。



   「…葵は好きものだ」



   然う言われた時、気付けば、蓮の躰は再び私の上。
   体重は、蓮は未だ自分の腕で躰を支えているから、私には掛かっていないけれど。
   唇がゆっくりと下りてくる気配を感じて、目を瞑る。



   「……そんなに欲しい?」



   目蓋に口付けされるのを確認してから、こくりと、首を振る。



   「……やっぱり、好きものだ」


   「…すきもの、て?」



   もう一度、盛大なため息。
   それから、



   「…葵のこと」



   然う紡いだ唇が私のそれと重なり。
   直ぐに侵入してきた舌を、私は喜んで迎え入れて、自分のと絡めた。




















   「あ、あ、あ、あ、あ…っ」



   叩きつけられる熱情と、狂おしいほどの恋情。
   翻弄されて、私は声を上げるだけ。
   四つん這いにされ、後ろから小さな乳房を揉み扱かれ、背中を舐め上げられ、何度も何度も突かれ貫かれ、突き上げられ。
   声にもならない声を、上げ続けるだけ。



   「蓮っ、れん…っ、あ…っ、あっ、あぁ…っ」



   蓮以外、何も感じられない、感じられなくても良いの。
   だから、だから…っ



   「すきっ、すき…っ、あ、あぁ、アァァ…ッ!」



   もっと、して。
   もっと、壊して。
   もっと、滅茶苦茶に。
   もっと。
   もっと、もっと。
   もっと、もっと、もっと…!



   「……あ、お…ぃッ」


   「…て、きて…っ、きて……っ」



   私の中に。
   蓮を。
   植え付けて。
   私の中を。
   蓮で。
   いっぱいにして。



   「………くっ」



   私を。
   蓮で。
   満たして。























   「…おなか、あつい」



   二度目の果てを迎えて、私に躰を無防備に預ける蓮を抱き締めながら、呟く。
   結合を解く前に、寝息を立てて眠りの世界に旅立ってしまった、蓮。
   だからその耳にはもう届かない。それを知っていながら、それでも。
   綺麗な髪の毛を梳く。
   指に絡めては、さらさらと流れていく。
   私は目蓋を閉じた。
   この熱をずっと、私のものとして覚えていられるように。










   ずっと、ずっと。
   蓮、と。