よーこ、よーこ。


   ん?
   なぁに、蓮?


   ん。


   うん?


   にゃ。


   …くれるの?


   にゃ!


   ふふ。
   ありがとう、蓮。


   にゃぁ。


   蓮、聖さんには?


   ……。


   あれ、華麗に無視?


   せいちゃん。


   なんだい、葵。


   あのね…あげる。


   わぁ、ありがとう、葵。
   やっぱり私には葵だ


   おかーさんにも。


   ありがとう、葵。


   …。


   …何よ。


   蓉子は蓮に貰ったじゃん。


   貰ったけど。
   折角葵がくれると言っているのだから、貰うわよ。


   ずるい。


   聖も蓮から貰えば良いじゃない。


   だってくれないんだもん。


   日頃の行いじゃない?


   …うう、ひどい。
   私はただ、ちび達と遊んでるだけなのに。


   遊び方に問題は無いのだけれど。
   構い方が問題なのよね、貴女は。


   だってふにゃふにゃ言って面白いんだもん…。


   だから、嫌がられるのよ。


   …蓮くーん。


   …。


   聖さんにもクッキー、ちょうだい?


   …。


   ね?


   ……。


   ……よーこぉ。


   仕方ないわねぇ。
   蓮。


   にゃ?


   聖にもクッキー、あげて?


   …。


   聖も蓮から欲しいんだって。
   あげたら屹度、沢山遊んでくれるわ。
   蓮、聖を遊ぶの、好きでしょう?


   …。


   ね?


   ……にゃ。


   聖、くれるって。


   お、ほんとほんと?


   にゃ。


   お、ありがとう、蓮君。


   ……。


   よーし。
   おやつの時間が終わったら遊ぼうか、蓮、葵。


   うん。


   ……よーこ。


   ん?


   あげた。


   うん、ありがとう。
   ね、聖、喜んだでしょう?


   ……。


   …ん、なぁに?


   …。


   あ。
   あーー!!















  い ぬ だ っ て く い た く な い 。















   …。


   聖、いつまでむくれているのよ。


   …。


   貴女がそんなだから、子供達、待ちくたびれて寝ちゃったわよ。


   …。


   もう、聖。
   未だ、気にしているの?


   …。


   相手は小さな子供よ。
   しかも自分達の子供じゃないの。


   …だから?


   自分の子供にまでそんなやきもちをやいて。
   大人げ、無いわ。


   ……口だった。


   唇じゃないわ。


   でも、限りなく近かった。


   貴女が思っているようなものじゃないわ。


   でもキスはキスだ。


   …聖。


   蓮は蓉子の事、大好きなのは知ってる。
   だから、面白く無い。


   貴女だって葵に良くしてるじゃない。
   蓮にも、今では逃げられているけれど、もっと小さい頃は…。


   …自分からするのとは、違う。


   ……。


   ……。


   …呆れて、何も言えないわ。


   蓉子も蓉子だよ。


   私が何だと言うのよ。


   嬉しそうな顔、しちゃってさ。


   あのね、聖。
   蓮は未だ小さな子供なの。


   そんなの、分かってるよ。


   貴女が思っているようなキスとは違うの。


   …。


   それとも、何?
   私に妬いているの?


   …は?


   蓮がしてくれないから。


   それは違う。


   本当に?


   …蓉子。


   ……。


   それ以上言ったら、その口、塞ぐよ。


   ……聖。


   兎に角、面白く無い。
   蓉子は私がキスしてもあんな嬉しそうな顔、してくれない。


   聖と蓮とじゃ、違うじゃない。


   然うだよ、違うよ。


   貴女は私の伴侶で、蓮は私達の子供。
   然うでしょう?


   …。


   ねぇ、聖。


   ……。


   せ…んん。


   ……。


   …せ、聖っ


   逃げるな。


   逃げ、る…て。


   蓉子は私のだ。


   ま、待って


   蓉子にキスして良いのは、私だけだ。


   …ッ


   他の人間に…





   パシ!





   ………。


   いいかげんに、なさい。


   ……。


   聖、貴女が今、何を言っているのか分かってる?


   …。


   自分の子供に嫉妬をするなんて。
   蓮は一度だって、貴女が思っているようなコトはしてない。


   ……。


   聖


   …一寸、出てくる。


   ……。


   …止めないの。


   然うね、頭を冷やした方が良いと思うから。
   お互い。


   浮気してきたら、どうするの。


   …。


   しないとは言い切れないよ。
   今の私なら。


   ……信じてるわ。


   …。


   私、聖の事、信じてるもの…だから。


   ……。


   ……気をつけてね。








   …。


   …お帰りなさい。


   …起きてたの。


   …ええ。
   子供達は…。


   …どうでも良い。


   どうでも良いって。


   …良いんだよ、今は。


   貴女…。


   ……シャワー、浴びてくる。


   聖、本当にどうしたの。
   今日の貴女、変よ。


   …別に。


   子供に嫉妬して。
   頭、冷やしてきたのでは無かったの?


   ……。


   …まさか。


   …まさか、何。


   ほんと、うに…。


   …。


   聖。


   …。


   聖…!


   ……ちび達、起きちゃうよ。


   ……。


   …気になる?


   ……。


   私がどこに行っていたか…気になるって言いなよ。


   …。


   ねぇ…蓉子。


   ……どこ、に。


   ……。


   …。


   …今、さ。


   ……。


   すっごく、欲求不満なんだよね…。


   …だめ、よ。


   蓉子のせいなんだから。
   責任、とってくれないと。


   ……。


   私ね、もう“蓉子”以外興味持てなくなっちゃったんだ。
   ま、元々人なんてあまり好きじゃなかったけどさ。
   だから浮気とか、分かんない。


   ……じゃあ、どこに。


   ぷらぷらしてただけだよ。
   いつもみたいに。


   ……ごはんは?


   食べたよ、適当に。
   でも美味しくなかった。


   ……。


   ねぇ、キス、しても良いよね。


   …。


   ちびとは違うキス。
   蓉子の好きな…。


   ……。


   ……違うんだよね。


   そんなの、当たり前じゃないの…。


   そうかな…。


   そうよ…。


   でも、好きってのは共通してるよね…。


   …変よ。


   …。


   どうか、してるわ…。


   …そうかもね。


   ……。


   別に憎いわけじゃないよ。
   勿論、可愛いし、何よりも大事だって思ってる…けど。


   …。


   …たまに。
   自分でも制御出来なくなる時があるだけだよ。


   ……。


   ……さぁて。
   続き、しようか…。


   やめて。


   ……。


   今は、だめ。


   …ふぅん。


   …お願い、聖。


   …。


   …。


   …シャワー、浴びて寝る。


   ……。








   ・








   …。


   …。


   …せー。


   …。


   ぽん…。


   …。


   せー、ぽん。


   ……。


   せー。


   ……。


   ぽん、ぽん。


   ……。


   ……にゅぅ。


   …。


   聖。


   …。


   聖。


   …なに。


   蓮が風船で遊んで欲しいって言っているわ。


   あ、そ。


   あ、そって。


   …葵。


   …?
   なぁに?


   あっちでお絵かきしよっか。


   …?
   なんで?


   さ、あっち行こ。


   あ…。


   …。


   聖、待って。


   …蓉子が遊んであげれば良いじゃん。


   蓮は聖と遊びたいのよ。


   …だから?
   蓮は蓉子の方が好きなんだから、蓉子が遊んであげれば良い。
   さ、葵、行こう。


   …。


   どうしてそんな事を言うの。


   …本当のコトを言っただけだよ。


   でも蓮は聖と遊ぶのが好きなのよ。


   …知らないよ、そんなコト。


   !
   聖…!


   …にゃッ


   …ッ!


   昨日の事、未だ気にしているの?


   …別に。


   嘘。
   どうしてそんなに気にするの。


   …どうせ、蓉子にしてみれば大したコトじゃないもんね。


   だって蓮は私達の子供なのよ。
   なのに


   葵も私達の子だよ。
   だから、私は葵と遊んでるんだよ。


   蓮も


   だから蓉子が遊んであげれば良いでしょ。
   どうせ、蓮は蓉子の方が良いんだから。


   なんでそんな事ばかり言うの。
   蓮は何一つ、悪い事をしていないわ。


   そうだね。
   どうせ、くだらない事で不貞腐れてる私が悪いんだよね。


   聖、お願いだからもう止めて。
   このままだと蓮が可哀想だわ。


   何度も言ってるけど。
   蓮には蓉子が居るじゃん。
   だから私は葵と遊んでるんだよ。


   だから


   しつこい。


   聖…!


   ……にゃ。


   ……う。


   …うるさいなぁ。


   ……貴女がそんな人だったなんて。


   見損なった?


   …。


   良いよ、別に。
   所詮私は…


   然う言う事が言いたいんじゃない。


   じゃあ何?
   一緒に居るの、もう嫌になったとか?


   聖、だから


   なんだったらいっそ、離婚
〈ワカ〉れちゃおうか。


   …何を言い出すの。


   だってそうじゃん。


   どうしてそうなるの。


   もう嫌でしょ、こんなヤツ。
   だからさ、離れた方が蓉子にとって良いんじゃないの。


   …そんな、の。


   そしたら


   にゃああああ…!!!


   わあぁぁぁぁん…!!


   …あ。


   ……葵?


   にゃああ…!


   わあぁぁ…!!


   蓮、どうしたの?
   れ…


   にゃッ


   ……蓮。


   葵、急にどうしたのさ?
   それよりもさ、お絵かきの続きを…


   ああぁぁぁん!ああぁぁぁん!!!


   ……なんだって言うんだよ。


   蓮、ごめんね。
   吃驚しちゃったのよね、ごめんね。
   私達は喧嘩してるわけじゃないの。
   だから…。


   にゃあぁぁぁ…ッ!


   葵も大丈夫だから。
   ね?


   わあぁぁぁん…ッ!


   二人ともごめんね。
   泣かないで…、泣かないで、蓮、葵…。


   …………。








   …で?


   …。


   …。


   こんな最悪の状況になった、と。


   …。


   …。


   はっきり言うわ。


   …。


   …。


   莫迦でしょう、あんたら。


   …。


   …。


   小さい子供にだってストレスぐらい、あるのよ。
   そんなコト、私だって知っているわ。


   …。


   …。


   どれだけの負荷をかけたと思っているの。


   …。


   …。


   引き付けを起こすくらいに、泣くだなんて。
   よっぽどだわ。


   ……。


   …ごめんなさい。


   私に謝ってもしょうがないでしょう、蓉子。


   …。


   聖。


   ……なんだよ。


   大莫迦にも程があるわ。
   いっぺん、殴ってあげましょうか。


   …お前に言われる筋合いは無いね。


   ええ、然うね。
   私もどうせ、ろくでなしだものね。


   …。


   蓉子。


   …はい。


   甘やかすから、とは今は言わないわ。
   貴女なら分かっているでしょうから。


   ……。


   たく。
   偶然寄ってみたらこんなコトになってるんだもの。
   これじゃまともにお茶も飲めないじゃないの。


   …と言うかお前は


   兎に角、聖。


   …。


   どこまで行ってもあんたの我侭のせい。
   逃れようも無い事実よね、それ。


   ……。


   何にせよ、このままだと子供達へのストレスは多大なものになるわよ。
   少しでも可愛いと思っているのなら、さっさと、止めなさい。


   ……。


   ……。


   全く。
   今日のご飯は何かしらと思って来たのに、台無しも良い所だわ。


   ……。


   ……。


   で、結局今夜のごはんはどうするのかしら?


   …。


   …結局、食う気かよ。


   ええ、そりゃあね?
   折角来たのだし。


   そもそも呼んでない。


   当たり前じゃない。
   勝手に来てるんだもの。


   それを世間では迷惑と


   蓉子。


   …今日はつぼだいを焼こうかと。


   へぇ。
   美味しいわよね、つぼだい。
   楽しみだわ。


   …ええ。


   で?
   今日は手伝うって言わないのね。


   ……。


   言ったでしょ。
   子供達への負荷、未だ続けるつもり?


   …今は寝てるよ。


   疲れて、ね。
   でもいずれ、起きてくるわよ。


   ……。


   あんたが折れれば良いだけでしょ。


   …。


   聖。


   ……分かってるよ。


   だったら…


   ……。


   犬も食わない。


   ……うるさい。


   ほら、言ってるそばから。


   …?


   蓮…。


   …よ、こ。


   葵も…。


   ……おかーさん。


   …二人とも起きたのね。


   けんか、しないで…。


   …!


   しないで…ひっく、しない、で…。


   …よー、こ。


   葵…蓮…ごめんね。


   …。


   …。


   ごめんね…ごめんなさい…。


   ……で?


   …。


   あんたは、どうするの。
   餓鬼みたいに、未だ、続けるつもり?


   …。


   あ、そ。
   じゃ、いつまでもそうやって不貞腐れて


   せー。


   …。


   …ふむ。


   せー…。


   …。


   さて、どうするかしらね?


   ……。


   こーんな小さな手だもの。
   簡単よね、振り払うのなんて。
   でも…


   せー、せー。


   …ねぇ?


   …。


   …聖。


   ……。


   せー……。


   ……蓮。


   にゃ…。


   ……なんでこんなに似てるんだよ、お前は。


   …?


   …ああ、もう。
   振り払えるわけ、ないだろ。


   にゃあ…。


   葵、ごめん。


   あ…。


   聖ちゃんは怒ってなんか…私と蓉子はもう喧嘩なんてしないから。


   せいちゃん…。


   …だから、蓉子。
   ごめん。


   ……うん。


   て、なんで泣くのさ。
   これじゃ、喧嘩が終わってないみたいだって。


   …ごめんなさい。
   一寸、気が昂ぶってしまって…。


   たく、しょーがないなぁ


   …ん。


   …ごめん?


   う、ん…。


   ふむ。
   まずまず、ってところね。


   …まずまずって何だよ、でこちん。


   まずまずは、まずまず、よ。


   ……えっらそうに。


   江利子、今、ご飯の支度するから。


   ええ、ありがとう。


   …ずうずうしいヤツだな、相変わらず。


   ま、良いじゃない?
   万事解決したのだし?


   …そもそもお前なんかいなくても、


   はいはい、そうねぇ。


   ……くそう。








   ま、アレね。


   そぉら蓮君、そっちに行ったぞー。


   にゃあ!


   江利子、お茶のお代わり、要る?


   ありがとう、頂くわ。


   葵、今度は葵だー。


   わあ!


   聖、あまり激しく動いてはだめよ。
   下に響くから。


   おー、分かってるよー。


   にゃ!


   せいちゃん、こっちこっち。


   おーよ。


   もう。
   はい、江利子。


   ありがとう。
   それにしても。


   うん?


   貴女達の痴話喧嘩を見てると改めて日本って平和だと思うのよね。


   ……はい?


   は、大袈裟だとしても。
   佐藤家は平和よね、確実に。


   ……。


   子供の些細なキスぐらいで、夫婦喧嘩になるなんて。
   屹度、あんたらだけよ?


   ……恥ずかしいわね。


   良いんじゃない?
   いちいち恥ずかしいなんて思っていたら、キリが無いわよ。
   貴女達の場合。


   ……そんなに?


   ええ。
   それこそ結婚する前からだったし。


   ……。


   よーし。
   蓮、葵、今日はここまでにしよっか。


   や、もっと。


   せいちゃん、もっとしたい。


   続きはまた明日。
   良い子にしてたら聖ちゃんは必ず、約束を守るよ。


   にゃー…。


   ほい、約束。
   指きりげんまん…


   …うそついたらはりのーます


   指きった!


   にゃ!


   た!


   うんうん、良い子達だ。


   ……本当、平和ね。
   この家は。


   …大変だけどね。


   しょうがないわ。
   でも蓉子はそれを維持する為の努力が出来るから。


   江利子…。


   ある意味、最も素晴らしき才能かもね。
   努力が出来るって。


   …。


   蓉子、私にもお茶淹れて?
   喉、渇いちゃった。


   よーこ、よーこ。


   おかあさん。


   …うん、今淹れるわね。


   ……ふ。


   む。


   良いわね。


   なんだよ、でこちん。


   いいえ?


   …全然、いいえって顔してないっつーの。


   そうだ。


   あ?


   蓮、こちらにおいで。


   にゃ?


   お姉さんのところにおいで。


   ……。


   うん。
   改めて見ると本当にあんたのミニチュア版ね。


   何か企んでるんじゃないだろうな。


   葵は蓉子のミニチュア版だし。
   遺伝って面白いわね。


   て、こら。


   …でこ?


   江利子、よ。
   蓮。


   …?


   え、り、こ。


   …え、い


   ……。


   …て。
   こら、おい…!!!








   聖、蓮が…蓮が固まったまま動かないわ…!


   れん、れん、どうしたの。
   ねぇ、れんってば…。


   ふむ。
   やっぱり蓉子のミニチュアな葵の方が良かったわ。
   気分的に。


   聖、蓮が…!


   せいちゃん、れんが…。


   うん。
   葵、お姉さんのところにおいで〜?


   聖…!


   せいちゃん…。


   葵〜、こちらにおい





   こんの、でこっぱちがぁぁぁぁぁ……!!!!!!





   ……。


   お前、本当に大概にしろよ。


   ……大した事では無いじゃない、大袈裟ねぇ。


   はぁ?!


   …。


   見ろ!
   あまりのショックで蓮が石になっちゃったじゃないか…!


   失礼ねぇ。
   親に似て。


   トラウマにでもなってくれたらどうしてくれるんだ、このでこっぱちが!!


   ……にゃ。


   蓮?


   …よーこ。


   れん?


   …あお?


   聖、蓮が。


   せいちゃん、れんが。


   …。


   蓮君、大丈夫かい?


   せー?


   もう、大丈夫だよ。
   恐ろしかったね。


   …なーんか、ひどい言い様ねぇ。
   ねぇ、蓮?


   …にゃッ。


   あ。


   ……うぅぅ。


   れーん、お姉さんのところにおいで〜?


   …やぁ!!!


   あ、蓮…。


   あら?


   おい、でこっぱち。


   …うん?


   お前は自分のやらかしたコトの大きさに、気が付いて無いにも程がある。


   大したコトじゃないわよ?


   どこがだ…!


   軽くキスしただけじゃない。
   口の端っこに。


   ふ、ざ、け、ん、な。


   一寸した挨拶じゃない。
   やぁね。


   ……江利子。


   ねぇ?蓉子。


   貴女はそのつもりでも。
   蓮は嫌だったみたいだから…。


   …あら?


   兎に角、だ。
   お前のしたコトはロクでも無いにも程がある。
   見ろ。


   ……。


   れん?
   れん、どうしたの?


   ……。


   蓮、大丈夫よ。
   もう、大丈夫だから…ね?


   …うぅ。


   こんな小さな子がこんなになるなんて。
   よっぽどだっつーの!!


   ……ふむ。
   私に対して、無駄なまでに失礼な親子ね。
   今更、だけど。








   ・








   たく。
   江利子のヤツは毎回、毎っ回、ロクなコトをしやがらない。


   毎回、でも無いでしょう?


   いーや。
   毎回、に近いね。
   限りなく。


   そうかしら?


   そうだよ。
   今回だってうっかりトラウマものだったじゃんか。


   確かに。
   あの時は一時とは言え、何をしても反応しなくて…。


   てか、本当にトラウマになってくれたらどうしてくれよう…。


   …そこまでひどくは無いんじゃない?
   江利子だって悪意があってやったわけじゃ


   寧ろ、その方がタチが悪いんだって。


   ……ああ。


   興味本位。
   アイツの行動理由を説明するのに他に何が必要?


   流石に今の江利子はそれだけでは無いと思うわよ。
   それなりの歳なのだし、いつまでも学生時代のままでは…


   いや、人なんぞ然う変わるもんじゃない。
   てか、アイツは一生変わらない。


   …もう、聖は。
   江利子の事となるとひどい言い様ばかりなんだから。


   大体ね、蓉子は何だかんだ言ってても江利子に甘すぎる。
   アイツは蓉子が思ってる程に


   私、江利子に甘い?


   甘いよ。
   もっと怒ったって良かったんだ。
   そもそも蓉子は学生時代の頃から江利子に


   …。


   …何。


   んーん。


   ……何か、引っ掛かるんだけど?


   聖は然う思ってたんだ、て。


   ……。


   私、聖に甘いって言われ続けてきたから。
   知ってるでしょう?


   ……。


   面白いわね?


   …全然。


   然う?


   然うだよ。
   何を言い出すのさ。


   だって私、聖にばかり甘いのかと思っていたから…


   蓉子さん。


   はい。


   面白く無い。


   …。


   私以外に甘いのは、面白く無い。


   …あらあら。


   蓮と葵は子供だから良い。
   でもアイツに甘いのは、嫌だ。


   …。


   ……嫌なんだ。


   …ふふ。


   笑うトコじゃない。


   ねぇ、聖。


   ……。


   昨日の私達が嘘みたい。
   然う、思わない?


   ……。


   あんなに険悪だったのに。


   …もう、良いじゃん。
   仲直り、したんだから。


   ええ、然うね。
   でも、ね?


   ……。


   今度は江利子に向けられているなんて。


   …どうせ、子供ですよー。
   単純ですよー。


   聖。


   …わ。


   もう少し、落ち着いてよね?
   二人の子持ち、なんだから。


   ……と言うか、さ。


   うん?


   なんで江利子のヤツはいつもああなんかね。


   …ああ?


   間が悪い時にフラっと来る。


   そんな時ばかりでは無いと思うけど。


   …。


   …甘い?


   ……。


   聖。


   ……今回だって、さぁ。


   でも。
   今の私達がこうしていられるのは江利子のおかげだわ。


   ……。


   聖、むくれないで。


   …別にアイツが居なくたって。


   ……私ね、時々思うの。


   …。


   私達二人では屹度、上手く出来なかった。
   江利子が居たから…


   !
   そんな事!!


   もう、いや。


   …む。


   ……険悪になるの、は。


   ………。


   ねぇ、聖。
   聖だって本当は分かっているのでしょう?


   ……。


   でも認めるのが


   ……でこちんは、でこちんだ。


   ……然うね。
   聖にとっては多分、ずっとそれで良いのかも知れない。


   …良くないって言わないの。


   だって私には分からない感情だもの。


   …。


   幼馴染には、なれない。


   ……。


   でも、良いの。


   …何が。


   だって今の私、聖の腕の中に居るから。


   ……。


   ねぇ?


   ……蓉子、さぁ。


   うん?


   間違いなく、アレだよね。


   アレ…て?


   誘ってる。


   ……どうして?


   いや、どうして、てさぁ。


   …ふふ。


   ……ああ、かわいい。


   ね、聖。


   …なに。


   蓮、貴女に似ているから。


   …だから?


   だから、江利子はしたんだわ。
   私に似ている葵にではなくて。


   ……嫌がらせだろ、どうせ。


   それは半分。


   ……もう半分は?


   あくまでも予想なのだけれど。


   …。


   貴女が蓮の為に怒れるか。


   は、まさか。
   アイツがそこまで考えて…


   …江利子は結構、策士だもの。


   ………。


   ほら、否定しない。


   ……ああいうのを悪辣、って言うんだ。


   …でも大切な親友。


   …。


   ね、聖…。


   …ッ


   ……でしょう?


   ……ああもう、やめやめ。


   どちらを?


   会話。


   ……もっとお話したいのに。


   …。


   …ん?


   あのさぁ。


   …なぁに、せい。


   食べてしまいたいんだけど、今直ぐに。


   …しょっちゅう、食べているくせに?


   ……足りることなんて、一生、無いよ。


   あ…。








   ・


   ・


   ・








   ねぇねぇ、蓮さん葵さん!


   …あ?


   蓮。
   その返事の仕方は駄目だっていつも言ってるの。


   …背後からいきなり大きな声で呼ばれて驚かない人はいないね。


   そうだとしても。
   もっと、他にあるでしょ?


   ……葵のようには出来ませんが。


   だからね、別に私のようにとは言って無いの。
   もっと普通に…


   だから、普通って何。
   そもそも普通って不変なものじゃないと思うけど。


   もう、直ぐに屁理屈をこねて。
   少なくとも「あ?」は止めた方が良いって言っているの。


   善処、してる最中。


   そのわりには


   …え、ええと。


   全然、改まりそうに


   葵。


   何よ。


   クラスメートが話を進められないってさ。


   あ…。


   ……お取り込み中だったら、今は止めておくけど。


   あ、えと…。


   …良い、かしら?


   う、うん。
   ごめんなさいね。


   良いのよ。
   いきなり大きな声で呼んだ私も悪かったのだ、し………。


   …。


   …。


   ……。


   ……何。


   ……あの、私達の顔に何かついてる?


   あ、いや…蓮さんと葵さんのご両親に仲が良いわよね、て。


   …は?


   …はい?


   昨日ね、蓮さんと葵さんにそっくりな…と言うより、二人を大人にしたような二人を見かけたのよ。


   ……だから?


   ……。


   それで、思い出したの。
   高等部の入学式の時、ご両親揃っていたじゃない?
   二人とも蓮さんと葵さんにそっくりで…。


   …と言うか基本、揃ってるけど。


   …然うだね。


   でねでね、あの二人は絶対そうだわ、て思ったの。


   ……それで?


   …蓮、態度が悪い。


   その時ね、手を繋いで歩いていたのよ。


   ………いつものコトだけど。


   ……うん。


   だから思ったの。
   蓮さんと葵さんのご両親はとっても仲が良いんだ!って。


   ……呆れるくらいに。


   …蓮。


   でね、ここからが本題なのだけど。


   ……今のだけで十分なんだけど。


   ……確かに。


   ご両親って喧嘩したこと、ある?


   ……。


   ……。


   見かけた時、凄く凄く、仲が良さそうで。
   だってうちの親は手を繋いで歩くなんてコト、絶対にしないもの!
   大体、あんなに楽しそうにして歩く事自体無いわ!
   あ、でも、別に険悪なわけでは無いのだけれど。


   ……。


   ……。


   で、あるの?


   ……。


   …え、えと。


   やっぱり無いの?


   ……人間、なんだけど。


   え?


   一言で言えば、あるよ。


   え、然うなの?


   ……。


   でも…。


   でも、何?


   ……。


   蓮さん?


   ……あまり、思い出したくない。


   え、まさかそんなにひどい喧嘩を…?


   ううん、そんなにひどい喧嘩では無かったの。
   ただ…。


   ただ…?!


   蓮にとってはあまり良い記憶では無いから…。


   葵さんは平気なの?


   勿論、喧嘩は嫌だったけど。


   けど、なに?


   ……。


   …蓮のそれは両親の喧嘩とはまた、違う話だから。


   違う…?


   もう、良い?


   え…?


   とは言え。
   私達の前で喧嘩したのはあれ一度だけだったけど。


   え、一度だけなの?


   葵。


   うん。
   もう、行かないと。


   あ…。


   ……。


   じゃあ、また後でね。


   あ、う、うん。


   …。


   蓮、今日は……








   よーこ。


   なぁに?


   ん。


   くれるの?


   う。


   ありがとう、蓮。


   にゃ。


   蓮君、私にはー?


   …。


   蓮君。


   …ん。


   お。


   …。


   くれるの?


   …う。


   …蓮君!


   にゃッ


   お礼に良い子良い子してあげよう!


   ……。


   でもって…。


   …!


   お礼のちゅーも、ね。


   ……。


   …て、あり?


   聖、蓮が凄い顔してるけど。


   おかしいな?


   せいちゃん、あのね…


   そだ。
   葵。


   え…あ。


   葵には先払い。
   葵はいつもくれるもんね?


   ……。


   …聖。


   …て、あれ?


   …。


   聖。
   葵、固まってるんだけど。


   …おかしいなぁ。
   もっとちっこい頃は良くしてたのに…


   ……よーこ。


   ん…?


   よーこ。


   ……ん。


   て、蓮君ったらまた!


   …。


   聖、これは


   よし。
   聖さんにもしてごらん?


   …はい?


   蓮君、私にも私にも。


   …や。


   ほら、ここ、ここ。


   や。


   ……まぁぶっちゃけ、同じ顔だからね、強制はしないけどね。


   …聖。


   だから、蓉子さん。


   は……あ。


   …!


   あ…。


   ……にひひ。


   ………聖。


   蓉子にも。
   良く考えてみれば私もすれば良いだけだもんね?


   ……貴女ねぇ。


   せー!


   ん、何かな、蓮君。


   よーこ!


   蓮君、蓉子はね、聖さんのお嫁さんなんだよ。
   だからねちゅーぐらい、しちゃうのさ。
   寧ろ、しないとね!


   にゃーー!


   はっはっは!


   せーーーー!!


   悔しいか、悔しかろ?
   ふははははいて。


   小さな子になんてコト言ってるの、ばか。


   いやいやけじめは大、いだ。


   止めなさいって言っているの、ばか。


   ……はぁい。


   ……おかーさん、


   あ、喧嘩してるわけでは無いわよ。


   うん…あのね。


   ?
   なぁに?


   おかーさんはせいちゃんに…しないの?


   …はい?


   葵、良い事言った!


   ちょ…


   さぁ、蓉子!
   ここ、ここに!


   せ、聖…ッ!


   さぁ、早く、早く!!


   うーにゃーーー!!!








   …蓮、凄い顔してるけど。


   思い切り、思い出した。


   …さっきの話?


   …。


   暫く、江利子さんに近寄ろうとしなかったものね。
   あ、それは今もか。


   …。


   眉間に皺、寄ってる。


   …本当に。


   うん?


   ずっと万年新婚夫婦のままだ、あの二人。


   …ん、そだね。
   でも、良いと思うよ。


   …。


   仲が悪いより、ずっと良いもの。


   …そういうものか。


   そうだよ。
   嫌じゃない、家の中が険悪なの。


   …ま、それはそうだ。


   でしょう?


   だけど、限度はある。


   ……かな。


   恥ずかしい。


   …だね。


   …。


   けど。
   それがうちの良さだと思うの。


   子供のキスに本気でやきもち焼くのが?


   うん。
   だって聖さんは蓉子さんの事、大好きだもの。
   それに蓉子さんも。


   知ってる。


   …手を繋いで、かぁ。


   …。


   いつまで、然うしていられるのかな…。


   ずっとしてるだろ、あの二人は。


   …ううん、あの二人の事じゃなくて。


   ……。


   …さて、と。


   葵。


   うん?


   お前は聖と蓉子の子だから。


   …蓮もじゃない。


   …。


   ね?


   ……ああ。















   よーこ。


   うん?


   はい。


   …。


   ね?


   …また?


   夫婦はずっと、だから。
   また、は無いんだよ。


   もう、またそんな理屈作って。


   良いんだって。


   …しょうがないわね。


   へへ。


   はい、これで良い?


   うん、ばっちり。
   夫婦はやっぱ、こうでなくっちゃね。


   結婚する前からだったくせに。


   はは。
   それじゃ、行こっか。


   ええ、行きましょう。