…。


   …。


   何?
   また、喧嘩?


   …またってなんだよ。


   …別にそんなんじゃないわよ。


   どう見てもそうじゃない。
   ねぇ?


   …。


   …。


   まぁ、良いわ。
   蓉子、最近どう?


   …体調は悪くないわね。


   そう?
   それなら良いけど。
   悪阻は?


   今は落ち着いているわ。


   それは何より。
   アレは辛そうだものねぇ。


   …それよりでこちん、お前は何をしてきたんだ。


   何って。
   親友達のおうちに訪問?


   いきなり来るな。


   ところで、聖。


   人の話を


   お茶、貰えるかしら?


   ……お前は


   何?
   まさか、身重な蓉子に淹れて貰えとでも?


   ………お前なんか出涸らしで十分だ。


   聖。


   ……。


   ちゃんと買ってある筈よ。
   それを


   ……。


   聖。


   ……。


   あらあら。
   完全に不貞腐れているみたいねぇ。


   ……不貞腐れてなんか、いねぇよ。


   とりあえず、聞くけれど。
   何が、あったのかしら。


   …喧嘩をしているわけでは無いのよ。


   じゃあ、何?


   それは…。


   別に喋らなくても良いよ、蓉子。


   でも


   一応、会話は出来るようね。


   ……。


   ……。


   でも気まずい、と。
   マタニティブルーにでもなったのかしら。


   …。


   …。


   ふむ。


   …ほれ、お茶。


   ありがとう。


   …。


   何?


   …でこちんでもお礼が言えるんだな。


   失礼ね、相変わらず。
   で、蓉子のは?


   …あるに決まってるだろ。


   そう?
   なら、良し。


   ……偉そうだな。


   で、蓉子。
   最近、してる?


   …してる?
   何を?


   営み。


   ……。


   ……。


   あら、分かりづらかった?
   じゃあ、セ


   分かってるよ。


   蓉子は?


   ……分かってるわ。


   そう?
   で、してるの?


   …。


   …。


   別に平気よ?
   やり方をちゃんと考えれば。


   ……お前な。


   ……江利子、そんな事を言う為にわざわざ?


   いいえ。
   でも親友達が欲求不満そうだから。
   特にアメリカ人。


   ……。


   蓉子はどちらかと言うと減っちゃったみたいね。


   ……。


   ま、たまには良いと思うわよ。
   心が満たされて、落ち着くから。


   あのな。


   ん?


   決め付けんの、止めてくれませんかね。


   例えば、の話として聞いていれば良いのよ。


   寧ろ、してくれなくても結構だ。


   蓉子も?


   ……。


   ねぇ、蓉子。


   …なに。


   心配、してるのかもしれないけど。
   大丈夫、そんなにやわじゃない。


   ……。


   確かに乱暴なのは絶対に駄目だけれど。
   大丈夫よ。


   ……。


   それに貴女も


   でこちん。


   はいはい、止めるわよ。


   …たく。


   いっそ、志摩子の方が良いかしらね。


   …志摩子が何だって。


   だってあの子の方が分か


   やっぱ良い。
   それ以上、言うな。


   なかなかうるさいわね、アメリカ人は。


   聞きたくないんだよ。
   てか、もう帰れ。


   来たばっかりなのに。
   つれないわね。


   江利子。


   うん?


   …ご飯、食べていくのでしょう?


   流石、蓉子。
   分かってるわね。


   …毎度の事だものね?


   あら、然うでもないわよ。


   たく、でこちんってヤツは遠慮知らずで困る。


   今日は聖が作るの?


   …文句があるなら、食うな。


   無いわよ。
   然うね、安心しても良いわよ。


   は?


   …。


   長居、はしないから。
   遅くまでは、ね。


   ……。


   ……。


   あと。
   親が微妙な雰囲気になってるのって、お腹の子も分かるらしいわよ。
   本当かどうかは、知らないけど。


   ……。


   ……。


   さて、今日の佐藤家のご飯は何かしらねぇ。









   電気、消すよ。


   …ええ、お願い。


   よいしょ。


   …。


   え、と。
   じゃあ、おやすみ。


   …ええ、おやすみなさい。


   ……。


   ……。


   …よ


   …せ


   …。


   …。


   …呼ぼうとした?


   …貴女も。


   うん、まぁ。


   …なぁに?


   いや…でこちんは急に来るから迷惑だな、と。


   …誰かさんも然うだったけど?


   ……アイツほどじゃない。


   そう?


   そう。
   そこ、重要。


   …ふふ。
   でも江利子が連絡無しに来るようになったのって、結婚してからよね。


   …私達が?


   うん。


   …そうだっけ?
   たまに、あったよ。


   …そうだったかしら。


   喧嘩して気まずくしてる時とか。
   どっかで見られているのかって思ったくらいだもん。


   ……ああ、言われてみれば。


   …今回も、然うだし。


   ……。


   あ、いや、喧嘩はしてないけど…そのぉ。


   ……ねぇ、聖。


   …はい。


   ……。


   ひゃ…。


   ……。


   よ、蓉子…?


   ……。


   ……ま、待った!


   ……。


   な、何を考えているの?


   ……ごめんなさい、聖。


   と言うか、意味分かんないよ。


   ……。


   でこちんが言ったコト、気にしてるの?


   ……。


   だったら


   違うの。


   …何が、違うの。


   ……。


   蓉子、ちゃんと話して。
   こんなの、蓉子らしくない。


   ……聖。


   ……そりゃ正直に言えば、嬉しいけど。
   でも、だめだよ。


   ……我慢、してるでしょう?


   ……。


   ずっと。


   ……もう、蓉子だけの躰じゃない。


   …。


   だから…。


   ……


   ……蓉子がその気にならないなら、私は手を出しちゃいけないんだ。


   …!


   私一人の欲を満たす為に、無理強いしてはだめなんだ。


   …違う。


   …無理矢理は駄目だって。
   約束、したじゃない。


   ………。


   だから、止めよう…?


   ……。


   お腹の子に障るよ?
   もう、寝よ?


   ……それで、良いの。


   …。


   聖は…。


   ……良いに決まってるじゃない。


   ……。


   今は、蓉子が何より大事なんだ。


   …。


   …それから、子供達の事も。


   ……そんな、の。


   ……おやすみ、蓉子。
   また、明日…。


   ……今の私じゃ、だめなの?


   …え?


   もう…そんな気、湧かないの?


   …何を言っているの?


   ……。


   そんな事あるはず無いよ。
   今だって…。


   …だったら。


   ……。


   聖…。


   …だめだよ、蓉子。
   江利子に言われたからって


   …最近、ずっと考えてた。


   ……。


   貴女は優しい。
   すごく、すごく。
   そんな貴女に私は…


   …。


   …甘えてばかりで。


   …嬉しいよ、蓉子が甘えてくれるな


   それから、こわいの。


   …こわい?
   なんで…?


   ……。


   蓉子?


   ……。


   …蓉子。


   ……こんなに長い間、触れられなかった事、無いから。


   ……。


   …私がお母さんになる…なった事で、もう、女として


   蓉子。


   …あ。


   良いの?


   …。


   私は。
   蓉子を抱きたい。
   本当はすごく、すごく抱きたい……抱きたくて、抱きたくて。


   ……。


   子供達に教えてやりたい。
   私がこんなにも蓉子を愛している事を。
   蓉子と言う女〈ヒト〉をどれだけ、愛しているのかを。


   ……。


   …屹度、止まらなくなる。
   止めるのなら


   …止めないわ。


   ……。


   ……触れて。


   ……蓉子。


   つよくはだめだけど…それでもいいのなら。


   …良いに決まってる。


   あ、ん…ん…。


   ……ああ、もうだめだ。


   ……だめで、いい。


   ……。


   ……。








   …。


   …。


   はぁい、ごきげんよー。


   …また来たのか。


   江利子、来るなら一言連絡をくれれば…


   …。


   な、なに…。


   ふーん。


   …なんだよ。


   今日は一寸、顔を見に寄っただけなの。
   じゃあね、ごきげんよう。


   …は?


   ……。


   ああ。
   ご飯をご馳走してくれると言う気持ちだけはありがたく頂いておくわ。


   どんだけ食うつもりだよ、人ん家で。


   …用事でもあるの?


   まぁ、用事と言う程のものじゃないのだけどね。
   たまには顔を見せないと、と思って。


   見たくないし、たまにでもねぇよ。
   寧ろ、頻繁と言ってもおかしくないレベルだよ。


   残念。
   貴女達の事じゃないのよね。


   …あ?


   責任、もあるしねぇ。


   …志摩子?


   まぁ、そんな感じ。


   …てか、でこちん。
   お前まさか


   貴女こそ、たまには顔を見せてあげたら?
   幾ら奥様がかわいいとは言え、一応、“お姉さま”なんだし?


   お前に言われたくない。
   と言うかお前、


   はいはい、だから今から行くのよ。


   ……。


   ま、そんなわけだから。
   蓉子。


   …うん?


   良かったわね。


   ……なにが?


   肌の色、良くなってる。
   この前よりも。


   ……。


   ねぇ、言ったとおりだったしょう?


   ……江利子。


   あと、聖。


   …さっさと行けよ。


   顔が柔らかくなった。
   もう、大丈夫そうね。


   …。


   ん?


   …別に。


   ま、あんたの緩んだ顔は今に始まった事じゃないけどね。
   蓉子と然うなってからは。


   ……やっぱりでこちんはでこちんだ。


   まぁ、このおでこは生まれた時からだし。


   …。


   …。


   ともあれ。
   貴女達の平和顔を見ると心が和むわ。
   無駄なくらいに。


   ……気持ち悪い。


   …江利子、大丈夫?


   ふふ。
   じゃあ、また今度来た時にでも蓉子のご飯、頂くわね。


   お前には今後一切、一口たりとも食べさせるか。
   決めた、もう二度と食わせない。


   はいはい。
   今度は志摩子も連れてくるわ、蓉子。


   …然う、分かった。
   大丈夫だとは思うけど、気をつけてね。


   ありがとう。
   じゃ、ごきげんよう。








   ・








   蓉子。


   …ん?


   今夜は何食べたい?


   聖が作ったものなら。


   じゃあ食べたくないないものは?
   何でも、ってわけじゃないでしょ?


   そうねぇ。


   脂っこいのは駄目だし。


   さっぱりしてるものなら、何でも良いわ。


   さっぱり、さっぱりかぁ。


   毎日だときつい?


   んーん、平気だよ。


   自分の食べたいの、作っても良いのよ?


   蓉子と食べたいから、蓉子が食べたいのを作るんだ。


   …。


   今日はちょっと寒かったから、あったかいのが良いかな。


   ねぇ、聖。


   ん?


   ありがとう。


   …改まって。
   どしたの?


   言いたくなったの。


   …。


   …すごく、仕合わせだから。


   …蓉子。


   私、仕合わせよ…聖。


   …そっか。
   良かった、私も仕合わせだから。


   …この子たちも。


   するよ。


   …。


   するんだ。
   この家に生まれてきて良かったって、思えるように。


   …もう、なってるわ。


   …。


   なってる…。


   ……蓉子。


   聖…。


   ……絶対、だ。


   …?


   …絶対、離さないんだ。


   …。


   この仕合わせを…。


   …うん。


   …。


   …。


   ……ちゅー、しても良い?


   …。


   だめ?


   …もう。


   だって…ね?


   …ばか、なんだから。


   ごめん?


   …。


   蓉子…。


   ……ん。


   …。


   …。


   …やっぱり、何度しても良いな。


   …ばか。


   へへ。


   …ふふ。


   さて、と。
   今晩のごはん、考えないと。


   作るの、私も手伝っても良い?


   勿論。
   でも無理しない程度にだよ?


   うん、分かってる。


   宜しい。


   …。


   冷蔵庫にあるものは、と…。


   ……。


   豆腐があるなぁ。
   豆腐だと…卵と、ふわふわ丼でも作ろうかな。


   ……つ。


   スープものは…。


   …。


   ねぇ、蓉子。
   ふわふわ丼に合うスープと言えば…?


   ……。


   よ、蓉子?
   どうしたの?


   …せい。


   若しかしてお腹、痛いの?


   …。


   た、大変だ!


   …ちが、う。


   で、でも。


   た、ぶん…。


   …まさか!


   …おねが、い。


   わ、分かった!
   直ぐに支度するから、だから…!!!


   ……う、ん。










   …。


   …。


   …うー。


   聖。


   ……。


   うろうろしすぎ。
   少しは落ち着いて座れば?


   落ち着いてなんかいられないよ…!


   でもあんたがうろうろしたところで蓉子が楽になるわけじゃないわ。


   そんなの、知ってるよ。
   でも…あぁ!


   声が大きいわね。
   ここは病院。


   …分かってるよ。
   てかなんでお前がここにいるんだよ。


   蓉子に頼まれたからだけど?


   はぁ?
   そんなわけ


   聖の事だから絶対に心配しすぎて落ち着かないと思うから。
   都合がついたら来て欲しいって、以前に言われていたのよね。


   けど、時期なんて分からないだろ。


   まぁ、そうなのよね。
   でも私はここにいる。
   それで良いじゃない。


   ……。


   ん?


   …若しかして、お義母さん経由か。


   おかあさん?
   誰の?


   蓉子のに決まってる。
   うちの母親はお前の今の連絡先なんて知らない筈だ。


   さぁ、それはどうかしら?


   ……まさか。


   まぁ、良いじゃない。
   兎に角私はここに居る、その事実は変えようが無いし。


   ……。


   しかし今のあんたの姿、熊みたいね、


   ……熊?


   うろうろしすぎて。


   …うるせぇよ、でこちん。


   そんなに心配なら立ち会えば良かったじゃないの。


   …。


   んー?


   ……私だって出来れば、そうしたかったよ。


   ああ、嫌がられたのね。


   ……あまり見られたくないって。


   まぁ、そうかも知れないわね。
   でも直ぐ傍にいれば手を繋ぐ事ぐらい、出来たのにねぇ。


   …そういうこと、言うな。


   ああ、そのつもりだった?


   ……だって蓉子に嫌だって言われたら、しょうがないじゃんかよ。


   仕方ないわね。
   ま、次の機会があるわよ。


   ……は?


   だって。
   出来ない、とは限らないじゃない?


   ……双子、なんだけど。


   だから?
   あんたの場合、何人居ても構わなそうじゃない。


   ……。


   蓉子は大変だろうけど。
   でも、その大変さも仕合わせに変えてしまうのでしょうね、貴女達は。


   ……。


   で?
   少しは落ち着いた?


   ……全っ然。


   あ、そう。
   けどあんたが落ち着こうが落ち着かまいが、頑張るのは蓉子だから。


   ……せめて。


   うん?


   …半分でも良いから、分けられたら良いのに。


   何が。


   ………痛いのとか、苦しいの。


   ……。


   …蓉子…蓉子…。


   無理ね。
   物理的に不可能。
   精神的にと言っても、所詮それは思い込みに過ぎないわ。


   ……。


   睨んだって、答えは変わらない。


   お前は


   だって。
   私が身をもって立証済みだもの。


   ……。


   挙句、そんな事になっているのかさえも、気付かなかった。
   それでも分かるなんて、言える?


   ……。


   そんなわけだから。
   今の私達に出来る事はちび達が無事に生まれてくる事、そして。


   ……がんばれ…がんばれ、蓉子…。


   蓉子が、無事に出産を終える事を祈る事だけ。


   蓉子……蓉子……。


   ……。


   蓉子……。


   ……ねぇ然うでしょう、志摩子。








   お疲れさま。


   …きて、くれたのね。


   ええ、親友の頼みだし?


   …ありがとう。


   いいえ、どういたしまして。


   ……。


   ん?


   …せい、は?


   …それが、ねぇ。


   ……?
   なにか、あったの…?


   いいえ、何も無いわよ。


   …。


   そこのヘタレ。
   ぐずぐずしてる暇なんて、無いでしょう。


   ……。


   ……せい。


   ……よーこ。


   …どうしたの?


   …。


   いまにも、なきそうなこどものかお、してるわ。


   ……。


   そんなところにたってないで…。
   こちらに、おいで…?


   ……うん。


   せい。


   …蓉子。


   しんぱい、したのね…?


   蓉子…、ようこ…ようこ…。


   …そんなかおしていたら。
   わらわれちゃうわよ…。


   …?


   ね、みて…?


   ……。


   わたしたちの…あたらしいかぞく。


   …うん…うん。


   あなたに、にているわ。


   …蓉子に似てる。


   ねぇ?
   かわいいでしょう…?


   …うん、一番だよ。
   どの赤ん坊より、うちの子が一番だ…。


   …ふふ、いいすぎよ。


   そんなこと、ない。


   ……ん。


   あのね、蓉子…。


   うん。


   …お疲れさま。
   それから…。


   …。


   ありがと、…。


   ……あ。


   ……。


   …あらあら。


   よー…こぉ…。


   せい、せい…。


   ……うぅ。


   えりこ、なにかふくもの…


   蓉子。


   え…?


   私、帰るわね。
   “役目”はもう、果たしたから。


   …。


   また今度、ゆっくり出来る時にでも話しましょう?


   …えりこ。


   とりあえず、ハンカチ。
   返してくれなくても良いから。


   ……。


   蓉子は大変よね。
   いつだって、心配性で”泣き虫”な子供を宥めないといけないのだから。


   ……うる、せぇ。


   ふ。
   じゃあね、蓉子…と、甘えた。


   えりこ。


   …うん?


   ありがとう…。


   …どう、いたしまして。








   …。


   すこしはおちついた…?


   …うん。


   ふふ、うそばっかり…。


   ……うぅ。


   うれしなき?
   それとも…きんちょうのいとがきれちゃった?


   ……もう、わかんない。
   でも…。


   …でも?


   無事な蓉子を見て、無事に生まれてきた子供達も見て、そしたら、何だか抑え切れないものが込み上げてきた…。


   …そう。


   て、今も油断すると…。


   …もう。
   いまのわたしじゃ、おせわをやいてあげたくても、やいてあげられないのだからね…?


   うう、よーこぉ…。


   はいはい…よしよし。


   無事に生まれてきて、良かったよぅ…。


   すこし、ちいさいっていわれたけれどね…。


   小さいのなんて良いんだ。
   大事なのは蓉子も子供達もちゃんとそこに居るコトなんだ。


   ……。


   …あ、また鼻水が


   ねぇ、せい。


   …んあ。


   あなたのそういうところね…わたし、すき。


   ……。


   …ね?


   あ、あぁ、うん……。


   ……ふふ。


   ね、だっこ、してあげて…?


   …え。


   だいじょうぶ、ちかくにかんごしさんがいるから。


   や、で、でも…。


   だっこ、してあげて…?


   …。


   …だいじょうぶ。
   よわよわしいけれど、やわじゃないわ…。


   ……。


   さぁ…。


   ……え、と。


   ……。


   ひ、ひとりずつ、かな…?


   …だけなくもない、けれど。


   ん、と……じゃ、じゃあ、ひとりずつにする。


   ………。


   ……。


   ……だいじょうぶ、だいじょうぶ。


   う、うん…。


   ……どう?


   か、かるいね?


   ……。


   あ、あと、あったかい。


   …うん。


   うわぁ……。


   ……もうひとりのあかちゃんも。


   …うん。


   ……。


   …あ、動いた。


   そりゃあ、うごくわよ…。


   そ、そうだね。


   ……。


   …ああ、この子もあったかいや。


   …ええ。


   ……この子、目元が蓉子に似てる。


   さっきのこは…あなたににてるわ。


   …あぁ、本当に生まれたんだ。


   ん…。


   私達の子……。


   ……ね。


   うん…?


   なまえ…。


   ……。


   ふたつのなまえ…どちらにどちらのなをあげるの…?


   …蓉子は希望ある?


   きぼう…。


   うん。
   名前は私が決めたから…。


   そうね、わたしは……。


   ……。


   あなたににているこが……で、


   うん。


   わたしににているこが……。


   …そっか。


   ……ぎゃくのほうが、いい?


   ううん、私も然う思ってた。


   …ほんと?


   うん。
   蓉子と一緒で、嬉しい。


   ……せい。


   よし。
   じゃあ、決まりだ。


   ……。


   私に似ているこの子が……蓮と書いて、れん。
   蓉子に似ている子が……葵と書いて、あおい。
   両方とも、芙蓉の子。
   蓉子の、子。


   …そして、あなたのこ。


   ……うん。


   あなたは…さとう、れん。


   でもって君は、佐藤葵。


   あたらしい、かぞく…。


   …蓉子。


   ん…?


   …ありがとう。
   愛してるよ…。


   ……うん。








   ・








   蓉子、止まって。


   …うん?


   一寸、そこで待ってて。


   …ここで?


   うん。


   …どうして?


   どうしても。


   …何か、企んでる?


   うん、企んでる。


   ……楽しいこと?


   楽しいし、嬉しいし、何より、そうしたくてしょーがない。


   …ま、良いわ。


   あとね、ちび達抱っこ出来る?


   …二人とも?


   無理、かな。


   …ええ、少し無理があるわね。


   そっか、そうだよね。


   …でも抱っこして欲しいのね?


   うーん…。


   何を考えているの?


   止めた。


   うん?


   やり方を変えることにする。


   …やり方?


   うん。


   ……じゃあもう、止まってなくても良い?


   うん、行こ。


   …と言っても、もう着いてるのだけど。


   へへ、そだね。


   …部屋に何か仕掛けでも施した?


   ううん、しようと思ったけどしなかった。


   …何をしようと思ったの?


   クリスマスパーティーみたいな飾りつけ?


   …それは止めて正解ね。
   片付けが大変だわ。


   て、言われるかな、と思ったの。


   ……。


   偉い?偉い?


   …はいはい、偉い偉い。


   えへへ、褒められた。


   …子供返り?


   なんか、すごく甘えたい。


   …とりあえず、中に入らない?


   入ったら、良い?


   ばか。
   さっさと開けて頂戴。


   はぁい。


   …。


   お帰り、蓉子。
   久しぶりだね。


   ただいま、聖。
   でもそんなに久しぶりでは無いわよ。


   いやいや、久しぶりです。
   ああ、独り寝は淋しかったぁ。


   …。


   えへへ、今夜から一人じゃない。


   …少しは親になった自覚、持ってよね?


   はーい。
   大丈夫でーす。


   …もう。


   …。


   …なに?
   中に入らないの?


   あのね、蓉子。


   うん。


   おかえり。


   ……ただいま。


   それから。


   …?


   ようこそ。


   …ようこそ?


   ちび達は初めて、だから。


   ……ああ。


   ここが君達のおうちだよ。


   …なるほど。


   本当はね、私が蓉子とちび達を出迎えるシチュにしたかったんだけどねー。


   私は四人で家に入りたかったから、この方が良いわ。


   ほんと?


   ええ。
   だって、初めてだから。


   そっか。
   うん、そうだよね!


   こら、玄関先でそんなに大きな声を出さないの。


   えへへ。


   変わらないんだから。


   私は変わらないよ。


   少しは落ち着いて欲しいのだけれど。


   良いの、これが私なの。


   開き直って。


   あー!


   だから


   嬉しい、嬉しいなぁ。


   …。


   …本当、嬉しい。


   …聖。


   ……。


   …訂正。


   ん…?


   …少しだけ泣き虫になった。


   …。


   ね…?


   …そう、かも。


   …。


   …。


   …ふふ。


   …へへ。


   ただいま、聖。


   おかえり、蓉子。
   それから。


   ん…。


   ようこそ、佐藤家へ。
   今日からここが君達の…