蓉子?


   …。


   …たからもの?


   …ええ。


   そっか。


   …ねぇ、聖。


   ん…?


   あの子達もいつか、大人になるのね…。


   そりゃそうさ。


   …そうよね。


   いつか、手を離れる時が来る。
   子供なんて、そんなもんだ。


   …ええ。


   でも。

















   …なに、してんの。


   あ、起き…あのねぇ。


   あ…?


   何か、着てよ。


   何か…?


   上着。
   シャツ、ベッドの脇に用意しておいたでしょう?


   …そうだったっけ。


   良く見て。


   それは失礼。


   いつも言ってるけど、そんな格好でうろうろしないで。
   今日は天気もあまり良くなくて気温も低めなんだから。


   ……。


   一寸聞いてる、わ。


   …で、何してんの?


   もう、吃驚するじゃないッ


   いや、少し肌寒かったので。
   暖をとろうかと。


   人でとらないでよ、莫迦。
   さっさと服を着なさい。


   なんか、つくってんの?
   そういや朝ごはんは?


   もう、お昼です。


   じゃあ、昼ごはんは?


   それより早く服を


   んー…。


   …蓮。


   これ、なに?


   …はぁ。
   ちらし寿司、よ。


   ちらし…?


   今年は作ってみようかと思って。
   蓮、好きだったでしょう?


   ああ。


   だけど。
   作り方、教わってくれば良かったな、て。


   材料は…まぁ、こんな感じだった。


   うん。


   人参は甘く。


   そのままだと蓮は食べないものね。
   と言うか、服を着て。


   …ふぅん。


   何よ。


   いや、別に。
   深い意味は無い。


   …蓉子さんのようには出来ないわよ、どうせ。


   ま、葵のご飯も好きだから。


   ……。


   さて、服を着るかな。


   …もう。





   ピンポーン。





   …?


   誰かしら。
   蓮。


   服、着てないんだけど。


   とりあえず、インターフォンに出てみて。


   …面倒だな。


   蓮。


   ……はい、どちら様ですか。


   『お、そのぶーたれ声は蓮だな?』





   ガチャ。





   蓮、どちら様だった?


   セールス。





   ピンポンピンポンピンポン。





   …本当に、セールス?
   もしかして悪質な…


   ………。


   『やだなぁ、蓮君。いきなり切っちゃうだなんて。
   だったらこっちだって合鍵使って勝手にあが』





   ガチャ。





   …蓮?


   来た。


   誰が?


   やぁ、蓮アンド葵。
   ごきげんよう!


   ……聖さん?


   …。


   やや?
   蓮君、時間はもうお昼過ぎだと言うのにすごい格好をしてるね。


   ……着替えてく


   れーーーーん!!


   ぐほッ


   お、決まった。
   頭突きスペシャル。


   蓮ちゃん、葵ちゃん、ごきげんよう!


   ひーも来たの?


   うん!


   ……。


   おやおや、蓮。
   少し離れている間に弱っちくなったねぇ。


   げほ。
   …智〈ヒジリ〉


   なぁに?!


   みぞおちは、止め…ろ。
   いきが、止ま、る。


   えー。


   えー、じゃない。
   …げほ。


   ところで、葵。
   エプロン姿って事は何か作ってんのかな?


   え?
   あ、ああ、はい。


   ん、なになに?


   あの、ちらし寿司を。


   おー、今日はこどもの日だもんねぇ。


   はい。
   久々に食べたくなって。


   と、思ったんだよ、こっちもさ。
   お、これは菖蒲かな。


   …はい?


   じゃーん。
   取り出したるはマイラブ蓉子さんのお手製ちらし寿司ー。


   じゃーん!


   …。


   …春で頭溶けてんじゃないか。


   多めに作ったからさ。
   要するにお裾分けって事だね。
   蓮も葵も好きだったでしょや?


   …。


   はぁ…。


   だけど。
   葵が作ってんなら、余計なお世話だったかな?


   ……。


   …いえ、そんな事は。


   んじゃ、こうしよう。
   葵。


   はい。


   葵の、少しお裾分けして?


   …は?


   おうちに持って帰って蓉子さんと頂きたいから。


   私もたべたいー。


   はは、ひーも食べたいかー。
   て、事だからさ。
   ね、良いでしょう?


   …だけど。


   良いんじゃない、別に。


   …蓮が然う言うなら。


   ん、なに?
   自信、無い?


   ……。


   おや?


   …だって、蓉子さんのようには美味しく


   良いんだよ。
   蓉子のは蓉子の味、葵のは葵の味。
   ねぇ、蓮。


   …どうしてこっちにふる。


   相変わらず、気が利かないなぁ。
   そんな事じゃもてないぞぅ。


   別に良い。


   …分かりました。
   だけど未だ出来てないから


   あー、待ってる待ってる。


   …ところで蓉子は?


   うちでお留守番。
   雨が降らない間に少しでも洗濯物を干しておきたいから、とか言って。
   そんなもんしまって、一緒に来れば良いのにねぇ。


   …。


   んじゃ、座って待ってようかな。
   蓮もさっさと服を着た方が良いと思うよ。















  ゆ る が な き も の − C h i l d r e n ' s A n d M o t h e r ' s D a y















   蓮ちゃん、これなぁに?


   …大学のテキスト。


   テキストってなに?


   教科書。


   何が書いてあるの?


   色々。


   色々って?


   色々は色々。


   じゃあ、それは?


   葵のだから知らない。
   後で葵に聞けば良い。


   じゃあ、じゃあ。


   それより。


   あー。


   葵、お腹減ったんだけど。


   …さっきまで寝てたくせに。


   寝てたから、何も食べてない。
   だから腹が減る。
   自然現象。


   もう。
   直ぐに屁理屈をこねるんだから。


   ……ふふ。


   ……。


   いや、懐かしい光景。
   昔を思い出すなぁ。


   …葵。


   今、よそるから。
   と言うか手伝ってよ。


   お腹が空いて動けない。


   …せめて飲み物ぐらい、自分で用意してよ。


   ああ、そんな事も良く言われっけなぁ。


   …。


   蓮。


   …仕方が無い。


   何が仕方が無い、よ。
   全く。


   葵。


   あ、はい?


   出来たとこ、早速だけど。
   これ、貰っていっても良いかな?


   良いですけど…。
   折角だから一緒に食べていきませんか?


   そうしたいのはやまやまだけれど、蓉子が待ってるからね。
   それにお腹はどっかのちびと違ってふくれてる。


   …。


   はは。
   蓮、葵のも良いけれど蓉子のちらし寿司も食べてやってよ。


   言われなくとも食べる。


   葵は?


   勿論、頂きます。


   然う?
   なら良いや。
   智、帰るよ。


   えー、もー帰るのー?


   蓉子が待ってる。


   もっと蓮ちゃんたちと遊びたい。


   じゃ、夜にでも迎えに来るよ。


   …は?


   というわけで蓮、葵、君らの妹を宜しく。


   …別に良いです、けど。


   明日も休みだし、何なら泊めてやって。
   そしたら久々に今夜は夫婦水入らず、だから。


   ……いい歳なんだから、程ほどにしたらどうなんだ。
   歳の離れた兄弟なんてもう、要らない。


   歳なんて関係ないね。
   そんでもってそん時はそん時。
   喜ばしい事には変わり無し。


   …。


   …え、えと。
   ひー、どうする?


   とまるー!


   ……。


   たまには姉妹水入らず、も良いでしょや?


   …体よく、追っ払っただけ。


   人聞きが悪い。
   智はただ単に、お姉ちゃん達が大好きなだけさ。
   ねぇ、ひー?


   うん!


   ……。


   駄目かな、葵。


   いいえ、大丈夫です。


   じゃ明日、迎えに来るよ。
   そうそう、蓮と葵のトコだからホームシックになる事は無いだろうけど、若しなんかあったら電話して。


   はい。


   んじゃ、またね。
   ごきげんよう、蓮。


   今度はちゃんと連絡してから来て欲しいね。


   あはは。
   蓮に言われちゃうのか、それ。


   ……。


   じゃね、葵。
   ちらし寿司、ありがとう。


   はい、またあし


   あ、そうだ、蓮。
   一寸、こっちに。


   ……何。


   …首元のここ、気をつけた方が良い。
   見えやすいわけじゃ、無いけど。


   ……?


   違う違う。
   蓮の、じゃない。


   ………あ。


   休日だからって油断しちゃあいけない、て、後で教えてあげな。


   ………。


   ははは、若いなぁ。


   ……さっさと帰れ。


   帰るよ。
   蓉子が待ってるもの。
   未だに素直じゃないんだ。


   ……。


   蓮、それから、葵。


   ……。


   はい?


   長期の休みじゃなくても、たまには顔を見せに来なよ。
   蓉子が喜ぶからさ。


   …分かってるよ。


   はい。


   うん。
   じゃ、ごきげんよう。















   ただいま、蓉子さ


   聖…ッ


   ん?


   お願い、手伝ってぇ…ッ


   ラジャ。








   …はぁ。


   やれやれ、危なかったね。


   急に黒い雲が来たと思ったら…。


   ま、元々天気は良くなかったからね。


   昨日もおとついも、おまけに明日も雨の予報で。
   今日は少し明るかったから、少しでも、と思ったのに。


   雨、て記憶、あんまり無いんだけどねぇ。
   黄金週間。


   子どもの日なんて特に良いお天気のイメージが強いの…あら?


   んー?


   そう言えば智は?


   置いてきた。


   ……は?


   いや、もっと遊びたいって言ったからさ。
   明日、迎えに言ってくるよ。


   まさか、押し付けてきたんじゃないでしょうね?


   親子で人聞きの悪い
   ちゃんと了解は得たよ。


   …。


   む、信用してないな?


   葵は面倒見の良い子だから。


   蓮は思い切り、しかめ面したけどね。
   でもま、何だかんだで可愛がってるんだよ。
   二人とも。


   …そうだけど。


   智、はしゃいでいたから、手を焼かせるかもなぁ。
   コーヒーにマーマレード入れたり、


   味噌汁をストローで飲んだり?


   ははは。
   流石にそれはもう、やらんでしょう。
   まんまと火傷したし。


   …。


   ん?


   それは?


   ああ。
   さて、何でしょう?


   …お弁当?


   いい所をついてる。


   いいところ…?


   蓉子さんと一緒に食べようと思って貰ってきたんだ。


   …葵から?


   と言うか、葵が作ったんだよ。
   じゃーん。


   あ…。


   葵特製、ちらし寿司。
   なかなか美味しそうでしょや?


   …。


   見て、蓉子さんが作るのと同じ具材。
   まさに親子二代で、て感じかな。


   …二代、じゃないわ。


   ほ?


   私が子供の頃、母が作ってくれたのよ。


   お義母さんが?


   そう、葵が…。


   …とりあえず。
   食べてみよっか。


   ええ、そうね。
   …そういえば私のは?


   美味しく食べるってさ。
   特に蓮なんか、見せた時の表情がちびの頃に戻ったみたいでね。


   …そう、良かった。


   おふくろの味、だね。


   …そうだと、良いわね。


   そうなんだよ。
   確実に。


   ……聖。


   かくいう私も。
   すっかり蓉子さんの味に染まってマス。


   もう、茶化して。


   …ね、蓉子。


   ん…?


   今日のお風呂、菖蒲湯だよね。


   そうだけど?


   一緒に入ろうよ。
   久しぶりに、さ。


   突然、何を言い出すのよ。


   折角の夫婦水入らず、なんだし。
   良いでしょ?


   …。


   ね?
   本当に久しぶりだしさ?


   …いい歳して?


   歳なんて、関係ない。


   …。


   ね、入ろ?


   …良いわよ。


   まぁ、そう言わずにさ、て。
   ホントに?ホントに良いの?!


   水入らず、なんでしょう?


   そう!
   そうなんだよ!
   わぁい、やったー!


   大袈裟。


   だって蓉子がそんな簡単に頷いてくれるなんて。
   あーもう!


   そんな事より、早く食べない?


   …色気より食い気ですか。


   気になるじゃない。


   あー、そーですね。


   私、小皿とお箸を持ってくるわ。


   そのまま食べちゃえば良いよ。
   箸だけ持ってきてさ。


   でも


   今更、間接キスなんて楽勝でしょ?


   …そういう問題じゃなくて。


   はは。
   どれ、私が持ってくるよ。
   ついでにお茶も持ってくるから、蓉子さんは座って待ってて。
   そうそう、気になるからって手掴みで食べちゃ駄目だよ?


   食べないわよ。








   蓮。


   あ?


   いただきます、は?


   …蓉子みたい。


   蓉子さんは私の母だもの。


   私の、でもあるんだけど。


   蓮は聖さんより。


   …。


   ふふ、すごい顔。
   江利子さんが言っていたそっくりの意味はこれなのかしら。


   私は私はー?


   ひーは…そうね、どちらよりかしらね。


   どっちよりでも良い。
   お腹空いた。


   もう、蓮は。
   ひーは、どちらよりと言うより、両方に似ていると思うわ。


   わぁい。


   ……ま、無駄に騒がしいところは聖似だね。


   それに好奇心が強いじゃない。
   蓉子さんも強かったんだって。


   は。


   鼻で笑うなんて、失礼よ。


   失礼。
   で、食べても良いのね。


   いただきます、は?
   じゃなきゃ、だめ。


   …いただきます。


   はい、召し上がれ。


   …口うるさいとこまでそっくりだ。


   いい加減なところなんてそっくりよ。


   ……。


   葵ちゃん、私も食べてい?


   良いわよ。
   今、よそってあげるわね。


   わーい。


   はい、どうぞ。


   いただきまーす。


   蓮、それだけで足りる?


   蓉子のがあるから。


   ああ。


   葵も食べたら?


   ええ。
   いただきます。


   ……。


   ねぇ、蓮。


   ……ん。


   その、


   蓉子のはやっぱり美味しい。


   …そうね。


   葵のは葵ので良い。


   良いって、何よ。


   推して知れ。


   命令形なのね。


   年季の差だね。


   年季って。


   葵も今の蓉子ぐらいになったら、屹度、同じような味になる。


   …じゃあ、今は?


   青い葵の味。


   ……語弊がある言い方ね。
   と言うか洒落?


   どこが?


   ……もう、いい。


   葵。


   うん?


   やっぱ後で言う。


   何よ。
   気になるじゃない。


   後で言う。


   れ


   葵ちゃん!


   ん?


   おいしい!
   おかーさんと同じくらい!


   ありがとう。


   褒めすぎ。


   もう、蓮は。








   あー、久々だー。
   気持ちいー。


   …。


   葵のちらし寿司、結構美味しかったね。


   …うん。


   酢の加減がちょろっと違うけど。
   後々、修正されていくのかな。


   全く同じ味にはならないわよ。
   私だって未だに母には敵わないもの。


   へぇ。
   そりゃ、一度食してみたいな。


   頼んでみる?
   多分、喜んで作ってくれるわよ。


   そうなったらやっぱり蓉子の実家に行かないと、だな。
   うん、どうせだから子供達も連れて行こう。
   孫の顔孫の顔。


   …行くかしら。


   たまには、だから。
   良いんだよ。


   ……だったら、嬉しいわね。


   ねぇ、蓉子さ。


   …うん。


   未だ、駄目なのかな。


   ……。


   ショックだったのは、分かるよ。
   私もあの子達の親だからね。


   ……。


   決して許される事では無い。
   そんなのは、分かっている。
   それは多分、葵が一番に。


   ……だけど、私は。


   …蓉子。
   誰が何と言おうと、私達はあの子達の親だ。


   ……そんなこと、分かってる。


   だけどあの子達だってもう


   だから幾つになっても子供なのよ。
   私達の。


   ……。


   実の姉妹、なのよ。
   …なのに。


   愛してるよ、蓉子。


   ……。


   蓮は私と良く似ている。
   蓉子が大好きなところは特に。


   …。


   そして葵も。
   蓉子、貴女に。


   だからって…ッ


   蓉子。


   …だから、て。


   あの子達は、私達の子。
   だから…誰よりも私達が守ってあげない、と。
   然う、もう手を引いてあげる必要は無いとしても。


   ……聖。


   自分が親になって、初めて分かった。
   私は親に愛されていた、いや、それは今でも。
   それが私にとって重たいものだったとしても。


   ……。


   蓉子、私の事愛してる?


   ……。


   それとももう、どうでも良い?


   …そんな筈、無いじゃない。


   じゃ、愛してる?


   …愛しているわ、聖。


   じゃあ、子供達の事は?


   ……。


   もう、愛する事を止めてしまった?


   …愛していないわけ、ない。
   ないじゃない…。


   …蓉子。


   聖、私は…。


   分かっている。
   誰よりも。


   ……。


   明日、一緒に行こう。


   ……。


   蓉子。
   私が一緒に居るよ。


   ……うん。
   あ…。


   菖蒲湯、気持ち良い。


   せ、せい、待って…。


   …水入らず、だから。


   だ、だからって…


   …いきなりは、駄目?


   ……。


   じゃ、少しずつする。


   あ、ん…。


   …で、本番はベッドで。
   ね?


   ……ば、か。








   よーこーー!!


   おかーさん!!


   蓮、葵、ただいま。


   よーこ、みて!
   はやくみてー!


   わ。
   な、何?


   見てあげてよ、蓉子さん。


   聖。


   と。
   おかえり、蓉子。
   休日出勤、ご苦労様。


   ありがとう、ただいま。
   えと、これは…


   おかーさん、私もかいたんだよ!


   え、と?


   ほらほら、二人とも。
   疲れて帰ってきた蓉子さんに先ず言うべき事は何かな?


   まー!


   蓮君、それは大きな間違いだなぁ。
   それとも笑いを狙ったのかな?


   おかえりなさい、おかーさん!


   あ。


   葵、大正解。
   で、蓮は?


   えりー!


   はい、良く出来ました。


   よーこ!よーこ!


   わ。
   れ、蓮、危ないわ。


   全く仕方が無いちびすけだなぁ。


   にゃッ


   はーい、このままリビングまで強制送還でーす。


   はーなーせーー!


   おかーさん、わたし、おかばんもつ。


   葵には重たいわ。


   いいの、もつの。


   だけど


   持ってもらいなよ。
   あ、そうだ。
   何だったら強制送還中のちびすけを貸すよ。


   ばかせー!


   何おう。
   そんな事を言う口は、こうだー。


   む、にゃーー!!


   あははははははは。


   聖、蓮を玩具にしないで。


   いやいや、あまりにも面白かったもので。
   ほれ、蓮。


   …よーこ!


   おかーさん。


   然うね。
   じゃあ、二人で持ってくれる?


   ひとりでへーき。


   わたしだって。


   葵のくせに。


   なによ。


   葵じゃ、むり。


   蓮だって!


   こら、二人とも。
   そんな事で


   蓉子、貸してみ。


   え。


   『あー!』


   ふむ。
   確かに、結構、ずっしりくるね。
   だけどこれくらい、聖さんにすれば朝飯前なのだ。


   せーー!!


   聖ちゃん!!


   時に蓮、葵。
   手、出してみ。
   ほれ、早く。


   もつの!


   聖ちゃん、ずるい。


   今、持たせてやるから。
   さぁ、さっさと出した出した。


   ……。


   ……。


   よし。
   んじゃ。


   ……にゃッ


   ……きゃッ


   ほぉら、重たいだろう?


   …き。


   …へいきだよ。


   そっかな?
   軽く載せてだけで悲鳴をあげたのになぁ?


   き!


   へいきだもん。


   二人で持てば、平気かも知れないけど。
   一人じゃ、どうかなぁ?


   ………葵。


   ………うん。


   お。


   蓮?
   葵?


   ふたりで、


   もつもん。


   出た、双子連携。


   …うん。


   せー、はやく。


   聖ちゃん、はやく。


   はいな。
   じゃあ任すけど、くれぐれも気をつけるんだよ。








   ……蓮。


   …ああ。


   どうしたの?


   別に。
   ただ、水を飲みに。


   …然う。


   今度の日曜は母の日だ。


   …然うだね。


   ……智は?


   よく寝てる。
   ホームシックなんて、全然かかりそうにない。


   一度寝付くと、簡単には起きないからね。


   ……ねぇ、蓮。


   ……。


   これを。


   …何。


   着た方が良いわ。
   今夜は冷えるから。


   着てるよ、一枚。


   もう一枚、何かを羽織って。
   そんなTシャツ一枚じゃ、


   心配性だな。


   ええ、そうよ。
   私はいつだって蓮を


   ……。


   蓮?
   あ。


   …葵。


   ま、待って。


   …。


   ひ、じりが…いるか、ら。


   …寝てる。


   で、でも、だ…め…んん。


   ……はぁ。


   き、昨日もしたでしょう…?


   昨日は、昨日。


   あ…、いた…ッ


   ……悪い。


   悪いなんて。
   全然、思ってないくせ、に…。


   ベッドには戻れない。


   床は、いや。


   …。


   だめ、蓮、だめ。


   ……葵。


   お願い、蓮。
   止めて…お願い、止めて。


   ……。


   蓮…おねがい、おねがいだから。


   …気にしてるの?
   今更?


   ……。


   聖が、来たから?


   ……ちが、う。
   だけ、ど…あ、んッ


   …すんなり入れてくれた。
   大したコト、してないのに。


   あ、あ、だ…め…。


   ……。


   あ、あぁ……ぁ。


   ……あお、い。


   れん…れ、ん…だ……め…ん。


   ……。


   ん、ん、ん…ッ


   …は。


   ……あぁぁッ


   ……ここ。


   は…ぃ、や…ぁッ


   油断するな、て言われた。


   ……ッ


   だから、今度は。


   蓮、蓮…れん、れん、れ…ッ


   …あまり大きな声を出すと。
   智に気付かれるよ。


   ……。


   …私は別に構わないけど。


   …や、
   ……い、で。


   …。


   ふさ…い、でぇ…。


   ……。


   ん、んんん…ッ


   …それで、我慢して。
   ま、自分が持ってきたものだし。


   ……ッ、…ッ


   …いい、表情〈カオ〉
   まるで、犯されてるみたいだ。


   ……ん
ッッ


   …葵。








   …ん、しょ。


   …はぁ。


   ありがとう、二人とも。
   重たかったでしょう?


   へいきだよ、おかーさん。


   よーこ、あたまあたま。


   ありがとう、蓮。


   へへ。


   それから。
   葵もありがとう。


   あ、う、うん…。


   葵?


   あらあら、葵ってばもじもじしちゃって。
   かーわいなー、もう。


   …あ、あのね、おかーさん。


   うん。


   これ…。


   あ!


   これは…?


   あのね、きょうはおかーさんのひだから…


   だーめー!


   あ…。


   む。


   こら、蓮!
   何をするの!


   さいしょはわたし、だー!


   ……い。


   よーこ、よーこ。
   みてー。


   …ひどい。
   ひどいよ、蓮…。


   れ


   蓮!


   にゃッ


   お前、今何をしたか分かってる?


   ……。


   分かってるよな?


   ……。


   謝りなさい。
   葵に。


   ……や。


   蓮ッ!


   にゅッ。


   せ、聖ちゃん…。


   謝りなさい、謝れ。


   ……よーこぉ。


   …。


   よーこ、よーこぉ。


   …蓮。
   今、貴女が葵にした事、分かる?
   分かるわよね?


   ……。


   蓉子。


   …聖。


   ……はぁ。
   分かった、任せる。


   蓮。


   …よー、こぉ。


   蓮、良く聞いて。


   …ぅ。


   葵を傷つけてまでしたかった事なの?
   しても良い事だったの?


   …。


   葵。
   もう一度、今度は良く見せて。


   で、でも、蓮が…。


   …ひっく。


   蓮のをさきにみてあげて、おかーさん…。


   …貴女は、優しい子ね。


   ……。


   蓮、貴女のも見せて?


   ……ーこ、ぉ。


   さぁ、葵も。


   う、うん…。


   …。


   …これは


   今日、描いたんだよ。
   二人とも、一生懸命に。


   …然う。


   きょう、おかーさんのひだから、だから


   この女の人は、私?


   うん…。


   蓮も私を描いてくれたの?


   ……う、ひっく。


   一応、補足。
   見れば分かると思うけど、字も二人が。


   …ん。
   ありがとう、蓮、葵。
   とても嬉しいわ。


   …。


   とっても良く描けてる。
   ねぇ、聖。


   宇宙人みたいだけどね。


   聖。


   だけど一生懸命に描いた、から。
   気持ちはいっぱい詰まってる。


   …よぉ…こ。


   ねぇ、蓮。
   先とか、後とか。
   肝心なのはそんな事じゃないの。


   ……。


   二人が一生懸命、私の為に描いてくれた事。
   それが、何よりも、嬉しい。
   だから。


   …。


   …ねぇ、蓮。
   貴女だって嫌でしょう?


   …。


   一生懸命描いた絵を誰かに、葵に、はたき落とされたら。


   ……い。


   貴女だって優しい子だから。
   ね…?


   ……なさ、い。


   れん…。


   …ごめん、な、さ…い。
   ごめ…ひっく、な…さい…。


   …葵に、言ってあげて?


   ひっ、ご、め…ひっく、ん…ひっく。


   …う。


   葵。


   ……おか…さ、ん。
   おかーさぁん…ッ


   …あらあら、葵まで。


   …ぁぁ。


   ……。


   やれやれ。
   とりあえずは二人とも、鼻水、拭こうか。








   …蓉子。


   …。


   そんな格好で。
   体が冷えてしまう。


   …ごめんなさい。


   何、見てるの。


   …懐かしいなぁ、て。


   ……あぁ。
   確かに懐かしい。


   ほら、見て。
   次の年も描いてくれたのよ。
   その次も。


   ん、知ってるよ。


   …少しずつ、上手になっていって。


   字も、ね。


   …私、嬉しかったの。


   うん。


   ありがとう、て思ってくれる心。
   何より、私を想ってくれる心が。


   …。


   嬉しかった…嬉しかったのよ。


   …うん。


   …いつからかしら。
   絵を描かなくなったのは。


   小さい時だけだからね、ああいうのは。


   …そうね。


   ね?
   蓉子も描いた事、ある?


   ええ。
   確か…小学校の低学年の頃に。
   母の日にちなんだ母親参観というのがあってね…。


   絵を教室に飾った、とか?


   …うちの母ったら。
   わざわざ写真を撮ったのよ。
   私、恥ずかしくて。


   ふふ…だろうね。


   参観日が終われば、持って帰るものなのに。


   でもさ、それだけ嬉しかったんだよ。


   …そうだったのね。
   母と同じ立場になって、初めて、分かった。


   やっぱり、親になって見ないと分からない事って、あるよね。
   特に親の心、とか。


   ……ええ。
   聖は、どうだった…?


   私…?
   …さて、どうだったかな。


   ……。


   授業で、描かせられたような気はするよ。


   …描かせられた、か。


   可愛くない餓鬼だったからね。
   蓮の方が、未だ、マシ。


   もう、聖は。


   …母親の差、だな。


   そんな事ない。
   お義母さまだって…


   …私と同じで。
   不器用だったんだ、屹度。


   …。


   蓉子…。


   …ねぇ、聖。


   うん…?


   寄りかかっても、良い…?


   …。


   …だめ?


   全く。


   せ、あ。


   …断る必要なんて、無いよ。


   ………うん。


   几帳面と言うか、相変わらずと言うか。


   …生まれ持ったものなんだもの。


   私だって、さ。
   支えてもらっていたあの頃に比べたら、少しは、成長しているんだよ?


   …あの頃だって、私は貴女が居たから。
   私こそ、貴女に…


   もっと、寄りかかってよ。


   …もう沢山、貴女に甘えたわ。


   全然、足りないよ。


   …。


   甘えたで、手が焼けるままだけど。
   私は…


   ……聖。


   ……蓉子。


   …ん。


   ……。


   せい…。


   …もう、戻ろう。
   風邪、ひいちゃうよ?


   ……うん。


   そうだ、久しぶりに抱っこ、してあげる。


   え…きゃ。


   …ふふ、まだまだいけるな、私。


   じ、自分で歩けるわ。


   良いから良いから。


   でも


   それに、さ。


   …?


   久々で腰が重たいでしょ?
   頑張っちゃったんだ、私。


   …もう、ばかなコトばっかり。


   ……軽くなった。


   え、なに…?


   蓉子、痩せたよね。


   ……変わらないわよ。


   そうかな。


   ……。


   ここら辺の肉付きとか、益々、薄くなったような気がする。


   …そんな、こと。


   ずっと、ずっと、蓉子を抱いてきた私を。
   なめちゃ、いけないな?


   …。


   蓉子の躰の事は、誰よりも、知っているつもりだよ。
   蓉子だけをずっと、求め続けてきたんだからね。


   ……。


   …あまり、思いつめないで。
   一人で抱え込まないで。


   ……。


   蓉子の直ぐ傍に、私は居る。
   どうか、忘れないで。


   ……聖。


   …愛しているよ、蓉子。


   せい、せい…せ、ぃ。


   …さぁ、今夜はもう、休もう。
   ね…?


   …そばに、いて。


   もちろん。


   だきしめて…。


   のぞむ、ままに。


   ……きす、を、


   いくらでも、あげる。


   ……あぁ。


   あいしてる…。


   すき…、だいすき…せい。


   ………うん。


   せぃ…。


   …おやすみ、ようこ。


   ……。


   …え。


   せい…。


   ……。


   ……はぁ。








   …………。


   …葵。


   ………れ、ん?


   ……はぁ。


   れん…?
   どうしたの…?


   ……息、してなかった。


   え……?


   ……。


   れん…、くるしいわ…。


   ……。


   ……わたしなら、だいじょうぶだから。


   ……。


   だいじょうぶ、だいじょうぶ…。


   …あおい。


   だか、ら……?


   …?
   あおい…?


   わたしたち、どうしてこんなところで……。


   ……。


   れ、れん、くるしいわ…。


   ……。


   …え、と。
   びっくりしたのね…?
   でも、だいじょうぶだから…ね?


   …一瞬じゃ、なかった。


   …。


   このまま、息をしなかったら…


   ……れん。


   ……あぁ。


   れんは…なきむしなところ、なおらないね…。


   …泣いてなんか、ない。


   せなか、ふるえてる…。


   …寒いだけだ。


   ……じゃあ、あたためてあげる。


   …手、冷たいんだけど。


   れんのせなかはもっと、つめたいわ…。
   ぬのごしなのに…。


   ……。


   ね…、もっと、くっついて…?


   …。


   あ…。


   ベッドに戻る。


   ……。


   明日…いや、今日は聖がまた来る。
   風邪声になんか、なってられない。


   …ん、そうだね。
   おきないと…。


   …。


   …んッ


   葵?


   …なんでもないわ。


   何でもない顔じゃ、無かった。


   …。


   乱暴に…した。


   ……そうね、すこしひりひりするわ。


   ……。


   だけど、へいきだから…。
   そんなかお、しないで…?


   ……動くな。


   え……れ、れん?


   …。


   ま、まって、なにをするつもりなの…?


   持ち上げる。


   な…。


   ……。


   だ、だめ。


   ……。


   わたし、おもたいわ。


   知ってる。


   ……だったら。


   …。


   ねぇ、きいて…ん。


   …黙って。


   ……蓮。


   …。


   ね、ねぇ、やっぱりむり…


   ……ん、しょ。


   ……よ。


   うごか、ない、で。


   ……。


   ん…ッ


   わ…。


   …はぁ。


   ……むりよ、このままじゃ蓮がたてないわ。


   ……。


   かかえてくれて、ありがとう。
   だけど…はなして。


   ……。


   …たつから、手をかして?
   ね…?


   ……。


   ん、ありがとう…。


   ……。


   …さぁ、もどりましょ


   立ち上がった状態なら。


   え、え…あぁ。


   ……暴れるな。


   あ、あばれないけど、でも、


   重い、から。


   ……おろして。


   ベッドで。


   今、おろして。


   人の好意は素直に受け取っておけば良いんだ。


   …元をただせば。
   だれのせいで…。


   さて、ね。


   ……。


   ……。


   ……もう。


   …ふん。


   …蓮のいじっぱり。


   どっちが。


   しょうわる。


   それはどうも。


   ばか。


   いつもどおり。


   ……ばか。


   息、くすぐったいんだけど。


   …しらない。


   あ、そ。


   ……。


   ……。


   …智、貴女のベッドで寝てるわ。


   知ってる。


   私のベッドにはいれてあげないから。


   勝手に入るから、良い。


   いや。
   蓮なんか、予備のおふとんでねればいいのよ。


   葵と寝る。


   いやよ。
   蓮となんか、


   着いた。


   …あッ


   重たかった。


   ……ばか、蓮なんてきらい。


   …。


   はいって、こないで。


   …やだね。


   だめって、いってるでんん。


   ……その口、うるさい。


   ………。


   おやすみ。


   え。


   …。


   ふ、服くらいきさせてよ。


   寒くない。


   そ、そういうもんだいじゃないのよ。


   ……。


   ねぇ蓮、おねがい。
   わたしの


   …うるさいな。


   おねがい、蓮、


   智より早く起きれば良い。
   あいつは寝起きが悪い。


   ……。


   じゃ、おやすみ。


   まって


   ……。


   蓮、蓮ってば。


   ……。


   ……。


   ……。


   ………ああ、も、う。








   …は、…は。


   あぁ、あぁ、ぁ、ぁ…ッ


   よーこ…よ…こ…・…ぅ。


   ぁ…。


   あ、う…ぅ…ぅ。


   ……せ………ぃ。
















   蓮。


   …。


   蓮。


   …くー。


   ひー。
   良いわよ。


   わぁーー、


   ん…。


   い!


   ぐぁッ


   さっさと起きて、蓮。


   起きろーぉ。


   ……ひ、ひじ、り。


   蓮ちゃん、朝だよ。
   お腹、空いたね。


   とり、あえず、下り、ろ。
   おもい、くるし、い、死、ぬ。


   えぇ。


   えぇ、じゃ、ないと、いって、る。
   というか、ひとがねてるとき、に、おもいきりとびあがっ、て、のしかか、るの、は、やめ…ろ。
   あさっぱら、から、ころす…気、か。


   蓮、起きたのならさっさと着替えて顔を洗ってきて。


   ……。


   蓮ちゃん、はやくはやくーー。


   ……。


   何よ、その顔。
   何か不服でも?


   …はぁ。
   もう一寸マシな起こし方をしろ。


   10時過ぎても起きない蓮が悪いのよ。


   …。


   そうそう。
   お陰様で私は起きられたわ。
   智よりも、早く。


   …それは結構なコトで。
   着替えは?


   目の前にあるでしょう。
   それとも未だ、寝惚けているのかしら。


   ……。


   あ、そのシャツ脱いで。
   洗濯するから。


   天気は?


   予報に反して。
   さぁ、早くして。


   ……。


   替えのシャツなら何とか乾いているから。


   …どうも。


   あれ?
   ねぇねぇ、蓮ちゃん、


   あ?


   背中、どうしたの?


   ……。


   赤くなってるよ。
   どうしたの?


   猫に引っ掻かれた。


   …。


   猫?
   猫、いるの?


   ああ、居るよ。


   どこにどこに?
   私、触りたい!


   目の前に。


   え!


   ……。


   …いないよ、蓮ちゃん。


   それはおかしいな。
   ねぇ、葵。


   ……蓮。


   ひーも良く知ってる猫なんだけど。


   えー、知らないよー。


   だってさ。
   葵、教えてあげれば?


   …。


   葵ちゃん、猫、どこにいるの?


   ……い。


   ねぇ、葵ちゃ


   さいってい…ッ















   やぁ、ごっきげんよーう。


   …え、と。
   ごきげんよう。


   聖ちゃーん!


   やぁ、智。
   どうやらホームシックにはならなかったようだね。


   うん、全然へーき!


   …葵。


   蓉子さん。


   久しぶりね…。


   はい。


   …蓮は?


   …。


   …どうかして?


   それがついさっきまで寝ていて。


   ……。


   はは。
   相変わらずだね、蓮は。


   …全くです。
   とりあえず、中に入って下さい。


   ん、そうするよ。
   蓉子。


   …え、ああ。
   じゃあ、お邪魔するわね。


   はい、どうぞ。








   おー、それはそれは。


   …。


   派手に赤くなってるね。


   …。


   朝ね、葵ちゃんに思いきりひっぱたかれたんだよ。
   ぱしーんって!


   へーぇ。
   さてはまた、何か余計な事を言ったな?
   大体、蓮にはデリカシーってものが無いだよねぇ。


   ……うるさいな。
   聖には言われたくない。


   蓮…。


   ……。


   えと、元気そうね。


   …まぁまぁだよ。


   然う…。


   ところでさ、葵。


   はい。


   朝ごはんは?
   もう、食べた?


   それが未だなんです。


   蓮ちゃんがなかなか起きないせいだよねー。


   …おかげで殺されかけた。


   そっか、それは良かった。


   思い切り、良くない。


   平手打ち一発なんて可愛いもんだよ、蓮君。


   ……どこが。
   と言うか、それだけじゃない。


   ま、若い頃はね。
   それも良いもんだよ。
   うん、昔を思い出すなぁ。


   ……。


   話を戻すけど。
   朝ごはん、食べてないのなら一緒にどうかな?


   でもご飯を炊いてしまって。
   おかずも…


   勿論、ここで食べるよ。
   ねぇ、蓉子。


   …ええ。


   それじゃ、どうかな、じゃなくて、良いかな、だろ。


   いやいや、どうかな、で良いんだよ。
   蓉子が作るから。


   は?


   え?


   お、二人揃って同じリアクション。


   作るって何を。


   そりゃ勿論朝ごはんを、ねぇ。
   材料も買ってきた。


   ……。


   け、けど、おかずなら…


   それは私達が食べる。
   二人は蓉子が作ったもんを食べる…けど、私も食べる。


   …なんだよ、それ。


   久しぶりだし、良いじゃんか。
   蓮だってちらし寿司以外の蓉子の手料理も食べたいでしょ?


   ……。


   葵も?
   ね?


   ……。


   …聖。
   やっぱり


   ほら、蓉子。
   二人とも食べたいって顔に書いてあるよ。
   早速作らないとねー。
   とりあえずは味噌汁からかな。
   葵、味噌は買ってこなかったから借りるよ。


   え、ああ、それは構いませんけど…。


   さ、蓉子。
   作ろう作ろう。
   あ、先ずは手を洗わないと。


   …。


   蓉子さん、ほらほら。
   聖さん、すっかりお腹空いちゃったよ。


   …葵、お台所を借りても良いかしらね。


   …はい。


   蓮、お腹空いていると思うけど、待ってて貰っても良いかしら。


   …別に良いよ。


   おかーさん、私もお腹すいたよぅ。


   ん、分かったわ。
   急いで作るから、大人しく待っていてね。








   はい、ご馳走様でした。


   ごちそーさまでしたー。


   蓮は?


   ……ご馳走様。


   はい、お粗末さまでした。


   蓉子さん、ご飯美味しかったです。


   こちらこそ。
   ご馳走様、葵。


   お粗末さまでした。
   だけどやっぱり、蓉子さんのご飯には敵わないです。
   同じように作っているつもりなんですけど…


   そんな事無いわよ。
   葵の煮物、とても美味しかった。


   …すみません、昨日の残り物なんです。


   いやいや、残り物にしとくのは勿体無い美味しさだよ。
   ねぇ、蓉子。


   ええ。
   味が染みていて美味しかったわ。


   蓉子。


   お、何かな、蓮君。


   …聖じゃない。


   …なぁに、蓮。


   卵焼き、美味しかった。
   葵のは甘過ぎておかずにならない。


   最近はあまり、甘くしてないじゃない。
   今日のだって。


   それでも甘い。


   だって、甘い方が美味しいじゃない。


   おかずにはならない、そもそもご飯に合わない。
   あれじゃせいぜい、智のおやつだね。


   そんなコト言うのなら、蓮が作ってよ。
   朝ごはんなんて、ほとんど、寝て待ってるだけなくせに。


   寝てればお腹空かない。


   起きれば空くでしょう。


   起きなきゃ良いだけだね。


   もう、ああ言えばこう言って。


   …なんだか懐かしい光景ばかりだなぁ。


   ……。


   でもま、確かに葵の卵焼きの方が甘かったかな。


   ほら見ろ。


   だけど昔の蓉子も然うだった。


   え、蓉子さんも?


   …ええ。
   私も聖に、今の蓮と同じ事を言われたわ。
   自分は寝て待ってるくせに、ね。


   ですよね!


   …嬉しそうだな。


   ええ。
   嬉しいわよ。


   本当は葵の作ってくれたものも美味しい。
   然う言いたいんだよねぇ、蓮は。


   ……別に言いたくないね。


   言いたくないって事は思ってるんだな?


   …別に。


   然う言うときは一言、美味しいって言ってあげな。
   それが仲良くする秘訣だぞよ。


   …どこの言葉だ。


   現に。
   私は言ってきたよね、蓉子。


   …然うだったかしら。


   少なくとも。
   不味いなんて、言った事無いよ。


   さぁ、どうかしら。


   無いったら、無い!
   いつだって蓉子のご飯は美味しいもの!


   はいはい、ありがとう。
   聖のご飯も美味しいわよ。


   わぁい。
   蓉子、愛してるー。


   調子に乗らない。


   …相変わらずだな。


   …本当だね。


   ねぇねぇ、知ってる?
   こういう二人を「ばかふうふ」って言うんだって。


   今更。


   智、それは誰から?


   でこのお姉さん。








   さて、と。
   腹もふくれたことだし。


   あ、蓉子さん。
   片付けは私が。


   自分達の分くらい、やるわよ。


   蓮ちゃん、遊ぼ遊ぼ。


   遊ばない。


   出掛けるぞー、皆の衆!


   え?


   は?


   待って、聖。
   未だ片付けが…


   じゃ、ちゃっちゃっとしちゃおうか。
   君らはお出掛けの支度でもしてなさい。


   聖さん、出掛けるって。


   そんな事聞いてない。


   うん、今言ったもの。


   待って下さい。
   行くって、何処に行くのですか。


   蓉子んち。


   ……はい?


   だから、蓉子んち。
   久しぶりに、ね。


   …蓉子。


   蓉子さん、本当なんですか?


   …ええ、残念ながら。


   電話したら、喜ばれちゃったー。
   はっはー。


   ………。


   ………。


   智、久々におばあちゃんちに行っくぞーぅ。


   え、本当?


   おー、本当だともー。


   わぁい!


   と言うわけだから。
   ほれ、さっさと支度する。


   誰も行くとは


   あ、そうそう。
   元祖ちらし寿司が食べられるから、こうご期待。


   ……。


   ……。


   朝からこんな調子なのよ。
   おまけに母も乗り気みたいで。


   ……面倒くさい。


   …だけど、お祖母ちゃんのちらし寿司って気になるわ。


   …食い意地。


   違うわよ。
   蓉子さんのお母さんのだから気になるだけ。


   蓮、葵。
   貴女達にも都合があるだろうから無理にとは言わないけれど…。


   ……。


   ……。


   …蓉子。


   …うん?


   味噌汁も、美味しかった。


   え…。


   おひたしも美味しかったです、蓉子さん。


   ……。


   智、着替えるから離れろ。


   すみません、蓉子さん。
   ほとんど片付けてもらってしまって


   ああ、良いわよ。
   ……葵。


   はい?


   ああ、離れろって。


   貴女は…


   …はい。


   …いいえ、何でも無いわ。
   さ、貴女も支度をしてらっしゃい。


   ……。


   …どうしたの?


   あの…お母さん。


   …。


   今度、お母さんのちらし寿司の作り方、教えて下さい。


   あ…。


   同じのは無理でも。
   私はお母さんのちらし寿司が好きだから。


   …ええ、良いわよ。
   また、今度にでも。


   ありがとう、お母さん。


   …支度、してらっしゃい。


   はい。


   …。


   …蓉子。


   ……。


   蓉子。


   …。


   二人は、何も、変わってないよ。


   ……うん。


   私達の子供のままだ。
   蓮は蓉子のご飯が好きだし、葵は蓉子を母として慕っている。


   …うん。


   ただ…お互いへの気持ちがそこらの兄弟より深いだけだ。
   無理に離そうものなら…。


   ……。


   ゆっくりと。
   ゆっくりと考えよう。


   ……うん、うん。








   ではでは。
   支度は万端かな。


   ……。


   はい、大丈夫です。


   はーい!


   蓮は?


   …不本意だけど。


   よし。
   んじゃ出発しようか、蓉子。


   ええ。


   蓉子。


   うん?


   今度の日曜、家に帰るから。















   あー、暫くはちらし寿司は要らないかなー。


   …安心して。
   暫く、作る予定は無いから。


   忘れてたわけじゃないけれど。
   油断してなかった、と言うと嘘になるなぁ。


   …聖が久々に、電話をしたものだから。


   いやぁ、お姑さんとの仲が良好で私は嬉しいよ。


   母は貴女が好きだから。


   やっぱり、母娘って好みが似るもんなんかね?


   …父は貴女のような人じゃないわよ。


   だけど割とお茶目な人だと思うんだけどなーお義父さん。


   ……。


   然う言えばさ。
   蓮なんか食べても食べても、まだ食べろまだ食べろ、て。
   仕舞いにはやけくそになってたっけ。


   お腹、壊さなければ良いけど。
   あの子、小さい時からあまりお腹が強い方では無かったから。


   葵も何気に食べてた。


   蓮ほどではなかったけれど。


   それでもあの量は半端じゃなかった。
   流石はお義母さん。
   冷麦を一箱10キロ、送ってくれる事はある。


   …程ほどにして、あれ程言っているのに。


   ま、良いじゃない。
   私はそんなお義母さんが好きだよ。


   ……。


   あ。
   今、一寸だけ妬いちゃった?


   莫迦ね。


   またまた。


   ああ、もう、何。


   でもね、一番は蓉子だからね?


   あーはいはい。


   もちっと可愛い反応が欲しいなぁ。


   年甲斐も無く?


   だーから。
   可愛いに年なんか関係無いんだっ……て。


   ……あら、本当。


   …不意打ちはいかんと思うんだ。


   ねだったのは貴女よ?


   …そーだけどさー。


   どうして不貞腐れるの?


   …別に。


   ほっぺた、赤い。


   あーー。


   ふふ。


   …そういや、さ。


   また?


   …今度の日曜、来るってね。


   …。


   二人。


   …泊まるって。


   と、言うと。
   土曜からかな。
   智が喜ぶな。


   …。


   蓉子。


   あの子達の部屋、あのままだから。


   うん。


   だけど少し、掃除しておかないと。


   けど、そんなに汚れてないでしょ。
   定期的にしてるから。


   でも埃があったら嫌じゃない。


   …。


   何?


   蓉子は、お母さん、だね。


   ……ええ。


   母の日、か。


   ……。


   流石に母の絵は無いだろうなぁ。


   ……ん。








   しかしだな。


   ふふ。
   ねぇ見て、蓮が書いてくれた蓉子の「う」の字、逆になってるわ。
   鏡文字みたいね。


   母の日、なわけなんだけど。


   葵は字が上手ね。
   しっかりと書けてる。


   私としてはちと淋しい。


   わ。


   よぅこぉ。


   な、何。


   こどもの日は蓮と葵。
   母の日は蓉子。
   じゃあ、私は?


   聖だって今日でしょう?


   …むぅぅ。


   え、え?


   …淋しいよぅ。


   …ねぇ、嘘でしょ?


   蓉子、慰めてよぅ。


   あ、ちょ…と。


   …優しく、抱き締めてよぅ。


   ……あらあら。


   ……。


   苦しくない?
   そんなに顔を埋めたら。


   …ばか。


   今日、何も無くても。
   未だ一日、残ってるじゃない。


   ……敬老?


   …そんなわけ無いでしょう。


   …父じゃ、無い。


   まぁ、そうなんだけど。


   ……別に良いもん。
   蓉子が慰めてくれるから。


   もう、仕方の無いひと…あら?


   ん…。


   ねぇ、聖。
   ここ、見て。


   ……やだ、もっとふかふかする。


   少しだけで良いから。
   ね?


   …………どれ。


   ほら、ここ。


   ……。


   多分、貴女よ。


   ……てか、ちっさ。


   だけど嬉しいでしょう?


   ………。


   照れてる?


   …そんなんじゃ、無い。


   ……ふふ、可愛いひと。


   …実は、さ。


   ん?


   葵はくれたんだよね。


   ……貴女、ね。


   だってさぁ…。


   …全く。
   何だかんだ言いながらも蓮も可愛いのよね。


   ……だって、蓉子が生んでくれた私の子だもん。


   …よしよし。


   ……よーこ。


   あ、じゃあ。
   私は慰めなくても良くなったのよね。


   ……。


   だって…ん。


   …慰めは要らない。
   けど、蓉子は欲しい。


   ……。


   本当に可愛いのは蓉子だってコト。
   教えてあげるね。


   ……何度教えてくれる気なの?








   だけど、さ。
   今、描いたらどうなんかね。


   少なくとも、宇宙人では無いと思うけど。


   はは、然うだと良いね。


   …せー、よーこ。


   …智?
   どうしたの?


   …。


   ひょっとして、眠れないのかな?


   …うー。


   久しぶりに蓮と葵と一緒に居たから。
   淋しくなっちゃったのね。


   …いっしょにねてもい?


   どうする、蓉子?


   聖。


   ですよね。
   ひー、おいで。


   おいで、智。


   …うん!








   …。


   …蓮。


   ……。


   起きてる?


   …なに。


   日曜…


   ……ばら。
   あかいのと、しろいの。


   カーネーションではなく?


   ……そのほうが、らしい。


   ……ん、そうかもね。


   …あおい。


   ん…きょうは、だめ。


   …しな、い。


   …でも、離れないのね。


   …。


   ……ね。
   お腹、もう大丈夫…?


   ……。


   蓮?


   ……。


   …おやすみなさい、蓮。















   …でも?


   私達にしてみれば一生、子供だよ。


   …!


   違う?


   …違わない。


   ま、二人じゃ足りないならもう一人、増やしても良いけど。


   ばか。


   ははは。


   …もう。
   珍しくまともなコトを言ったと思ったら。


   でも、さ。


   …ん。


   もしかしたら、できてるかも?


   …ばか。


   だって絶対安全な日なんて、無いもんね。


   でも今回は無いような気がするわ。


   そうなの?


   音がしなかったもの。


   音?


   そう、音。


   ふぅん。


   …聖。


   んー?


   …。


   蓉子さん?


   …あの子達のお母さんになれて、良かった。


   …。


   ありがとう、聖。


   …こちらこそ。


   ……。