-夜の魂(前世・少年期)





   ……メル?


   ……。


   どうしたの、メル。


   ……ユゥ。


   わ……。


   ……。


   先生は?
   もしかして、ひとりで来たの?


   ……ごめん、なさい。


   どうして、謝るの?


   こんな、時間に……。


   ううん、来て呉れて嬉しい。


   も、もう……眠ってた、でしょう……?


   横にはなってたけど、眠ってはいなかったよ。
   なんとなく、眠れなかったんだ。
   だから、メルに会えて嬉しい。


   ……。


   嘘じゃないよ。


   ……うん。


   さ、中に入って。


   いいの……?


   もちろんさ!


   ……ッ。


   躰が冷たくなってる、あっためないと。


   ユ、ユゥ……。


   寝台で良い?


   え?


   座るの、椅子より寝台の方が良いかなって。
   横にもなれるし。


   あ、あの……わたしは、どこでも……。


   じゃ、寝台にするね。


   う、うん、ありがとう……。


   ん!


   ……。


   メル、おろすよ。


   う、ん……。


   よし。
   じゃ、あったかいのを淹れるから待ってて。


   そ、そんな、いいわ。
   急に来てしまったのだし、


   メル?


   ……ありがとう、ユゥ。


   へへ、どーいたしまして。
   あ、好きにしてて良いからね。


   ……ん。


   寒くない?


   あ、えと、だいじょ……


   これ、掛けてて。


   あ、ありがとう……。


   うん!


   ……。


   えと、どれが良いかな。
   甘いのが、良いかな。


   ……ユゥの、におい。


   ね、メルも眠れなかったの?


   ……え?


   然うなのかなって。


   え、あ、う、うん……そう、なの。


   そっか、同じだね。


   ……。


   あのね、メル。


   な、なに……。


   あたし、メルのことを考えてたんだ。
   そしたら会えた、すごく嬉しい。


   ……。


   来て呉れてありがとう、メル。


   ……わた、し。


   だけど、ひとりじゃ危ないよ。
   今は「夜」だから。


   ……。


   逢いたくなったら言って。
   そしたら、迎えに……ううん、逢いに行くから。
   ね。


   ……ユゥだって、あぶないわ。


   あたしは、大丈夫だよ。


   そんなこと、ない……。


   あたしはメルを守るって決めてるから。
   だから、大丈夫。


   ……そんな、の。


   メル?


   だいじょうぶな、りゆうになんて、ならない。


   あ。


   ……ならない、の。


   メ、メル。


   ……。


   え、えと、その、ご、ごめんよ、メル。


   ……も、う。


   メ


   こない。


   え。


   ……こない、から。


   な、なんで。


   ……。


   あ、メル。


   ……ほんとうに、ごめんなさい。


   待って、外に出たらだめだよ、メル。


   ……。


   だから、だめだって!


   ……いたっ。


   あ……。


   ……。


   ご、ごめん、ごめんよ……ッ!


   だいじょうぶ……すこし、びっくりしただけ……。


   け、けど、けど……。


   本当に、大丈夫だから……私、帰るね。


   い、いやだ……!


   ……あ。


   いやだ、帰らないで。


   ユゥ。


   帰っちゃ、いやだ。
   いやだよ、メル。


   ……。


   ここにいて、いてよ。
   いてほしいんだ、メル。


   ……おゆ。


   メル、


   おゆが、わいているわ……。


   え、あ、え……。


   ……はなして、ユゥ。


   で、でも。


   ……かえらない、から。


   ほ、ほんとう?


   ……うん、ほんとう。


   ……。


   あなたの寝台……もう一度貸してもらっても、良い?


   な、何度でも……!


   ……。


   ……。


   ……さぁ、ユゥ。


   う、うん……。


   ……。


   さ、寒かったら、毛布、掛けててね。


   ん……そうする。


   ……。


   ……前を見てないと、危ないわ。


   あ、甘いのと!
   甘くないの、どっちがいい?!


   えと……じゃあ、甘いの。


   分かった、とびきり甘いのを淹れるね!


   そ、そんなに甘くなくても……。


   じゃ、じゃあ、程ほどにするね!


   ……。


   よ、よし。


   ……。


   お、お待たせ、メル。


   ん……ありがとう、ユゥ。


   え、えと……。


   ……ユゥ、すぐとなりに。


   ……。


   ……きて。


   い、いい……?


   ……あなたの、寝台じゃない。


   そ、それでも、だよ。


   ……きて、ユゥ。


   う、うん。


   ……。


   あの、メル……。


   ……ごめんね、ユゥ。


   ど、どうして。


   ……いきなり、来てしまって。


   う、ううん、いいよ。
   メルなら、いつでも来ていいよ。


   ……「夜」の時は、もう。


   む、迎えに行くよ。


   だめよ、あなただって危ないもの。


   あ、あたしは……。


   ……それに、伝える手段がないわ。


   ……。


   ……。


   ……そう、だった。


   ……。


   離れていても、伝えられるものがあれば、良いのに……。


   ……あるには、あるけど。


   あたし達じゃ……あー。


   ……。


   師匠とメルの先生は、持っているのに。


   ……私達は未だ、こどもだから。


   こどもだって、持ってても良いじゃないか……。


   ……。


   なにか、方法は……。


   ……おいしい。


   え?


   お茶……とてもおいしいわ、ユゥ。


   ほ、ほんと?


   うん……ほんのりと甘くて、おいしい。


   良かった……。


   あの……ユゥの分は?


   ……。


   ユゥ……?


   忘れてた……。


   ……。


   は、はは……。


   ……もう、ユゥったら。


   でも、良いや。


   ……飲まないの?


   うん、あたしは良い。


   ……。


   ん、どうしたの?


   ……半分。


   それはメルに淹れたものだから。


   でも。


   メルに飲んで欲しいんだ。
   飲んで、あったまって欲しい。


   ……。


   そ、それで……あったまったら、その……い、一緒に……。


   ……ねむっても、いい?


   ……!
   う、うん!


   ……。


   でさ、眠る前に少し話そうよ。
   メルの声が、聞きたいんだ。


   ……私もユゥの声が、聞きたい。


   メル……。


   ……あったかいわ、ユゥ。


   うん……良かった。


   ……お茶以上に、あなたが。


   え……?


   ……あったかいの。


   ぁ……。


   ……。


   メ、ル……。


   ……どうしても、あなたに、あいたくて。


   ……。


   ユゥ、わたし……あなた、に……。


   ……だいても、いい?


   ……。


   あ、いや、そうじゃなくて……え、えと……。


   ……あたためて、くれる?


   ……。


   ……あたためて、ユゥ。


   だいても、いいの……?


   ……。


   や、ご、ごめん、そういういみじゃ……ん。


   ……。


   あま、い……。


   ……ユゥ。


   あまい……におい……。


   ユゥ……。


   ……メル。


   ……。


   ごめん……メル……。


   ……。


   ……ごめん、よ。


   あやまらないで……。


   ……だけ、ど。


   あなたは、まちがってないわ……。


   ……。


   ……まちがって、ないから。








   ……メル。


   ……。


   どこに、いくの……?


   ……どこにも、いかないわ。


   じゃあ、どうして……。


   ……どこにも、いけない。


   メル……?


   ……お茶、折角淹れてもらったから。


   あぁ。


   ……。


   もう、冷めてしまってるだろう?


   ……ううん、それでもおいしいわ。


   あったかいの、淹れ直すよ。


   ありがとう……でも、


   一緒に飲んで呉れたら、嬉しいな。
   ほら、さっきは自分の分、忘れちゃったからさ。


   ……。


   だめ、かな。


   ……ううん、だめじゃない。


   じゃあ、一緒に飲んで呉れる?


   ……うん。


   やった。


   ん……ユゥ。


   じゃあ……待ってて。


   ……ん。


   ……。


   ……。


   これ、便利だよね。


   ……どれ?


   メルの先生が、作ったの。


   あぁ。


   入れておくと、お湯が冷めない。
   本当、便利。


   ふふ、然うね。


   ね、甘いのと、そうでないの、どっちが良い?


   えと……ユゥと同じものが、飲みたいわ。


   甘くないのになっちゃうけど……良い?


   ん。


   うん……それじゃ。


   ……。


   ……。


   ……やっぱり、来て良かった。


   うん、なに?


   なんでもない……。


   そう?


   うん。


   ……よし。


   ……。


   お待たせ。


   ありがとう、ユゥ。


   熱いから、気を付けてね。


   ん……。


   ……。


   ……?
   なぁに……?


   メルが居て呉れて、嬉しいなって。


   ……あんまり見られてると、恥ずかしいわ。


   あぁ……。


   ……。


   かわいいなぁ……。


   ……もぅ、ユゥ?


   へへ、ごめん……て、あっつっ!


   だ、大丈夫?


   う、うん……あぁ、びっくりした。


   舌、見せて。


   大丈夫だよ、


   見せて、ユゥ。


   う、うん……。


   ……。


   ……?


   ……。


   メ、ん……。


   ……。


   ……メ、ル。


   えと……おまじない。


   おまじ、ない……?


   ……火傷、してないように。
   していたら、早く治るように……。


   ……。


   ……いや、だった?


   う、ううん、いやじゃない……もっと、してほしい。


   ……このおまじないは、一回だけ。


   そ、そうなの……?


   ……。


   そ、そっか……残念。


   ……。


   だけどこのおまじない、口付けをしてる時によく……む。


   ……言わないで。


   あ、うん……分かった。


   ……。


   ……顔、


   ユゥ。


   ……なんでもない。


   ……。


   へへ……。


   ……ふふ。


   ね……躰、大丈夫?


   ん……大丈夫。


   ……無理、してない?


   してないわ……。


   ……腕は、痛くない?


   腕……?


   ……さっき、強く掴んでしまったから。


   あぁ……うん、平気よ。


   だけど……赤く、なってる。


   これくらい、なんともないわ……心配、しないで?


   けど。


   少し、赤くなっているだけ……骨は、折れていないから。


   ……ごめんね。


   ユゥ……。


   ……ん、……メル。


   あなたは、いつだってやさしい……やさしく、してくれるから……だから、これくらい……。


   ……これくらい、なんていわないで。


   ……。


   それじゃ、だめなんだ……だめなんだよ、メル……。


   ……ねぇ、


   こわいんだ。


   ……え?


   メルを守る為の力で、メルを壊してしまうのが、怖いんだ……。


   ……。


   あたしの、この力は……む。


   ……ねぇ、ユゥ?


   なに……。


   私ね、何も言わずに出てきてしまったの。


   ……え?


   先生に……だから明日が、怖いの。


   言って、こなかったの?


   ……言っても、きっと、許してもらえないから。


   そ、それは、そうかも……。


   ……多分、もう気が付いていると思う。


   き、気付いていると、したら……。


   ……どうしよう、連れ戻しに来たら。


   え、えぇぇぇ……。


   ……来ないとは、思うけど。


   ……。


   ふふ……びっくり、した?


   す、すごい、した……。


   ……初めてなの、先生の許しを得なかったこと。


   メルが、そんなこと、するなんて……。


   ……いつも、ユゥばかりだから。


   あたしは、良いんだよ。
   師匠は何も言わないし、師匠も勝手に居なくなるし。今夜も居ないし。
   だけど、メルは……


   ……ユゥ、知ってる?


   え、何を?


   ユゥのお師匠さんが、行く場所。


   ……メルの先生のところ、だろ。


   今夜も、来ているの。


   ……。


   だから、ね……先生は、来ないわ。
   なんだかんだ言っても、先生はお師匠さんに甘いから。


   だけど……それなら、ばれないんじゃ。


   ううん、ばれてしまうと思うわ……先生は、鋭いから。


   ……。


   ユゥ……?


   多分、だけど。


   ……。


   メルの先生は、いざとなったら、師匠のことなんか蹴っ飛ばしてメルを追いかけると思う。


   ……どうして、然う思うの。


   メルの先生はメルのこと、大事にしているから。
   見てると、分かるんだ。なんとなく、だけど……。


   ……。


   だから……来ないと言うことは、メルのことを信用しているから、じゃないかな。
   然うじゃなきゃ、とっくに連れ戻されて……いや、ここまで来られなかったかも。


   ……でも、叱られるわ。


   そ、それは……然う、かも。


   ……。


   ……あたし、思うんだけどさ。


   ……。


   自分達だって逢ってるんだから、あたし達だって良いじゃないか。


   ……こども、だから。
   特に今は「夜」だし……。


   おとなは、ずるいな。


   ……ね。


   ちぇ……。


   ……それでね、ユゥにお願いがあるの。


   なに、なんでも言って。


   えとね……


   分かった、一緒に謝るよ。
   なんだったら、全部、あたしのせいにしたって良いよ。


   ユゥのせいになんて、しないわ。
   悪いのは、私なのだから。


   ううん、あたしが悪い。
   腕を強く掴んで、赤くしちゃったのだって……て、あ。


   ……。


   そ、そうだ、腕、腕の話……。


   ……ええ、と。


   あ、あたし……んん。


   ……。


   ……メ、ル。


   これで、ゆるしてあげる……。


   え、えと、えと……。


   ……だからもう、言わないで?


   や、でも、


   ユゥ……?


   ……でも、メル。


   私のお願い、聞いて呉れていないわ。


   ……へ。


   聞いて、呉れる……?


   う、うん、なんでも聞くよ。


   ……。


   な、なんだい……?


   ……明日、帰る私の手を握って欲しいの。


   手を?


   ……叱られる勇気を、私に与えて欲しい。


   そ、そんなの……。


   ……だめ?


   だめじゃ、ないけど、そんなことで良いの?


   うん……然うして、欲しいの。


   い、一緒に叱られて


   ううん、だめよ。


   ……。


   ユゥは、私を部屋に入れて呉れただけ。
   温かいお茶を淹れて呉れて……私を、温めて呉れただけ。
   そんなあなたを、先生はきっと、叱らない……。


   ……だったら。


   ……。


   送っていくよ。
   手を、繋いで。


   ……。


   それだったら、良いだろ……?


   ……ユゥ。


   最初から、送っていくつもりだったんだ。
   だから、だから……。


   ……ありがとう、ユゥ。


   そ、それじゃあ?


   ……おくってもらっても、いい?


   うん、任せて。


   ……。


   メル……。


   ……ねぇ。


   なに……。


   ……いつか、ふたりで。


   ……。


   ここではない場所へ……行ってみたい。


   ……どこへでも、行こうよ。


   ……。


   ふたりなら、行けるよ……行こう、メル。


   ……う、ん。


   ……。


   ……お茶、おいしいわ。


   ん、良かった……。


   ……あなたが淹れて呉れたお茶は、いつだって。


   ……。


   ……ね、ユゥ。


   ん……?


   私ね……あなたの部屋で、こうしてみたかったの。


   ……こうして?


   だって、いつも私の部屋だったから……。


   ……。


   ……あなたの部屋で、抱かれてみたいって、ずっと思っていたの。


   ……っ。


   ユ、ユゥ?!


   へ、へんな、とこに、はいっ、た……っ。


   ご、ごめんなさい、わ、私が変なことを言ったから……!


   う、ううん、へ、へんじゃ、な……っ。


   ユゥ、ユゥ……。


   ……………あぁ、びっくりしたぁ。


   ごめんなさい、ユゥ……。


   ううん、謝らないで。
   それより、メル。


   え。


   それ、本当?


   ……。


   あ、あたしの部屋で……だ、抱かれて、みたいって。


   …………うん、ほんとう。


   ……!


   ……。


   メル。


   ……だめ、まだお茶が。


   飲み終わったら。


   ……。


   ……もう一度、いい?


   ……。


   だめ……?


   ……う、ううん。


   いい……?


   ……あまり、きかないで。


   けど……。


   ……ユゥの、ばか。


   う、わ……。


   ……。


   か、かわいい、メル、ほんっと、かわいい…………。


   ……こぼれちゃうわ、ユゥ。


   抱いても……ううん、抱くね。


   ……。


   の、飲み終わったら。


   …………ん。


   ……。


   だからって、そんな急がなくても……。


   ……きょう、すごくさむいなっておもってたんだ。


   ……。


   それで、ねむれなくて……メルのこと、おもって……そしたら、よけいに。


   ……。


   でももう、さむくない……さびしく、ない。


   ……ユゥ、も。


   メルも……?


   ……。


   ……そっか、おなじだったんだ。


   …………たましいが、ふるえる。


   え、なに……?


   ……ひどくさびしく、おもう、よるは。
   たましいが、ふるえているから……。


   ……。


   だから、よりそってくれるぬくもり、が……。


   ……。


   ……ユゥ、まだ。


   ごめん……。


   ……もうすこしだけ、まって。


   うん……まってる。
   となりで、まってるよ……。


   ……。








  -悠久(パラレル)





   ……良い風。


   大夫。


   ……まことさん。


   気分は、どうだい?


   はい……大分、良くなりました。


   それは良かった。


   ……ん。


   顔色も、良くなってきているね。
   さっきは、真っ青だったから。


   あの……御迷惑を、お掛けして。


   迷惑だなんて思っていないよ。


   ですが、まことさんには畑があるのに……私のせいで、手を止めさせてしまって。


   そんなことは良いんだ。
   大夫の方が……その、大事だから。


   ……。


   そ、それより、こんなところで休ませてしまって。
   最初は家に連れて行こうと思ったんだけど……途中で、外の方が良いかなって思ったんだ。
   大夫、ここのところ元気がなさそうだったから……心が、沈んでいるのかなって、然う、思って。
   狭い所よりも、広い所に居た方が心は晴れるものだし、だから……。


   ……外で良かったと思います。


   ……。


   ……ここのところずっと、気鬱で。
   感じていた以上に、心に負担が掛かっていたのだと思います。
   だから……家の中で躰を休めたとしても、きっと、心は晴れることはなかった、と。


   ……あのさ、大夫。


   ……。


   頑張っている大夫のことは、その、好きだけれど……頑張りすぎて、倒れちゃうのはだめだよ。
   もう少し、自分のことも大事にしないと……躰だけじゃない、心も。


   ……ごめんなさい。


   ……。


   ……?
   あの……。


   ん、いや、なんでもない。
   そろそろお昼にしようと思っているんだけど、一緒にどうだい?


   お昼、ですか……?


   あぁ、然うだよ。
   食べられそうかい?


   あ、はい……あまり、沢山は頂けませんが……。


   少しでも良いよ、食べられるのなら。


   ……。


   ん、何か気になることでもある?


   あの……此処で、食べるのですか?


   いやかい?


   いやでは、ありませんが……。


   外で、食べたことはない?


   ……はい。


   じゃ、これも経験のひとつだと思って。


   経験、ですか。


   あぁ、たまには良いよ。
   外で食べるのも。


   ……此処は。


   ん?


   此処は本当に、風が気持ちが良いですね……。


   然うだろう?
   特に今日みたいな日は本当に気持ちが良いんだよ。


   ……。


   あたしのお気に入りの場所でさ、いつも此処でお昼を食べてるんだ。


   ……然うなんですね。


   ね、たまには外で、こうやってのんびりするのも良いだろう?
   大夫は往診以外、外に出ることはあまりないだろうから。
   だけどそれじゃあ、息が詰まってしまう。心だって、疲れてしまうよ。


   ……。


   あ、いや、ひとそれぞれだから、然うだとは言い切れないか。
   ごめんよ、大夫。


   ……いいえ、まことさんの言う通りです。


   ……。


   ん……まことさん。


   ……良かったら、さ。


   ……。


   たまには、あたしとこんな風に過ごさないかい……?
   お気に入りの場所は、他にもあるんだ……良かったら、一緒に。


   ……。


   あ、いや、嫌なら良いんだ……ごめん。


   ……ううん、過ごしたい。


   え……?


   ……あなたとふたりで、こんな風に過ごしてみたいです。


   ほ、本当に?


   ……はい。


   じゃ、じゃあ、然うしよう。


   ……。


   ……。


   ……?
   まことさん……?


   あ、や、なんでもない……。


   ……然う。


   お昼、握り飯と大根の漬物なんだけど……良い、かな。


   あぁ……とても美味しそうですね。


   に、握り飯の具はさ、大根の葉なんだ。
   えと、大根ばかりなんだけど……。


   まことさんが作るお大根は、とても美味しいから……好きですよ。


   ……!


   ……あんなに美味しいお大根、都では食べられません。


   そ、然うか……はは、嬉しいなぁ。


   私がまことさんから初めて頂いたお野菜はお大根でしたね。


   そ、然うだったね。
   あ、あの時は、驚かせてしまって。


   ふふ……本当に、驚きました。
   あまりにも、突然でしたので……。


   大夫、言葉に詰まっていたよね……。


   ふふ、然うでしたね。
   あの時は失礼な態度を取ってしまって。


   いや、あれはあたしが悪いから。
   どう考えてもあたしが悪かったんだ、うん。


   そんな、そこまで言わなくても。


   自分よりもでかいのがのしのし歩いてきて、いきなり大根を差し出してきたら。
   恐怖でしかないって、後で美奈に言われたよ。


   美奈子ちゃんに?


   うん……あと、気が利かなすぎるとも言われた。


   ……?


   あいつ、見てたわけじゃないのに、


   あの、どういう意味ですか……?


   ……え。


   気が利かないって……。


   ……。


   まことさん?


   ……都から来た女に贈り物をしたいのならば、玉(ぎょく)とか櫛とか笄(こうがい)とかにしろって。


   ……。


   あ、ふ、深い意味はないんだ。
   た、ただ、都から来た大夫に贈るものが大根……


   ……贈り物、だったのですか。


   あ。


   ……確か、あの時はお裾分けだと。


   あ、や、ち、ちが


   ……違うのですか。


   わない、けど、


   お大根の他にも、色々頂きました……若しかしたら、あのお野菜達も。


   ……ッ。


   ……然う、なのですか。


   あ、あぁ……。


   ……まことさん。


   う……。


   ……。


   ……然う、です。


   ……。


   ……ごめんなさい。


   どうして、謝るのですか……?


   ……嘘を、吐いて。


   ……。


   だ、だけど、下心があったわけじゃないんだ。
   ただ、大夫に、大夫と、出来れば、親しく、なりたくて……だから、その。


   ……それは、下心と言うのでは。


   うっ。


   ……。


   ……。


   あの……まことさん。
   そんなに、落ち込まなくても……。


   ……もう、要らないかな。


   え……?


   もう、要らないよね……。


   ……。


   ……下心でいっぱいの、あたしから、なんて。


   いっぱいだったのですか……。


   ……。


   ……。


   ……いっそもう、埋まってしまいたい。


   えと、まことさん。


   ……あい。


   ……。


   ……はい。


   えと……お野菜、もう、頂けないのですか……?


   ……え。


   ご、ごめんなさい……図々しいですよね。


   そ、そんなことない……!


   きゃっ。


   よ、良かったら、これからも貰って呉れると嬉しい……!


   ……。


   ……あ。


   まこと、さん……。


   ご、ごめんよ……っ!!


   ……。


   あ、あたしは、なんてことを……っ。


   ……私は、大丈夫ですから。


   い、いや、でも、だ、抱き締め……あぁぁぁ。


   そ、そんな、大袈裟です、私は本当に、大丈夫ですから。


   だ、だけど、よ、嫁入り前の……


   嫁入り前なんて、今時そんな、


   ごめん、ごめんなさい。


   私は、大丈夫ですから、むしろ、嬉しかっ


   ……。


   ……。


   ……。


   ……おやさい。


   ……。


   頂けると、その、私も嬉しいです……。


   ……どうぞ、貰ってやって下さい。


   ありがとう、ございます……。


   ……。


   ……。


   あ……。


   ……この手で、作っているんですよね。


   う、うん……大した手では、ないけど。


   ううん、そんなことない……あなたの手は、素敵な手です。


   あ、あぁ……。


   ……いつも、本当に。


   う、ん……。


   ありがとうございます……まことさん。


   ……ッ。


   ……。


   だ、大夫……。


   ……まことさん。


   ……。


   ……。


   ……昼ごはん、食べよう、か。


   然う、ですね……。


   えと……ちょっと、待ってね。


   あ、はい……。


   ……手、出して。


   こう、ですか……?


   ……そのまま、で。


   はい……。


   ……。


   あ……。


   ……手、気にするかなって。


   ……。


   で……これで、拭けば良いかなって。


   ……貴重な、お水を。


   く、汲めば良いことだから……それにほら、もう一本あるんだ。
   いつも二本、持ち歩いて……あ。


   ……。


   ……ごめん、これは大夫がひとりで飲んで。


   けど、それだとまことさんの分が……。


   あたしは、良いんだ……後で、飲むから。


   ふたりで、分けて飲みましょう。


   でも、それじゃ、


   ……。


   ……いい、の。


   はい……これは、ふたりで。


   うん……。


   ……。


   ……あのね、大夫。


   ……。


   ……あたし、ひとりで居る大夫のことが心配なんだ。
   だから、だからさ……毎日でなくても、良いから。


   ……。


   ごはん、一緒に食べませんか……。


   ……御迷惑に、


   ならない、ならないから。
   寧ろ、あたしが迷惑に


   なり、ません。


   ……。


   ……なりませんから、だから。


   ……。


   だから……どうぞ、宜しくお願いします……。


   こちら、こそ……。


   ……。


   ……早速だけれど、今夜、どうですか。


   こ、今夜ですか……?


   だ、だめ、かな……。


   ……お昼も、頂いてしまうのに。


   そ、そんなのは、気にしないで。


   ……。


   どう、ですか……。


   ……はい、喜んで。


   ……!
   やった……!


   きゃ……っ。


   何か食べたいものはあるかい?
   あたし、張り切って……?


   ……。


   ……あ。


   …………まことさん。


   ご、ご、ごめっ!!


   はなれない、で。


   え……。


   ……このまま、で。


   え、で、でも……。


   ……すこしだけで、いいから。


   う、ん……。








   ……。


   ……。


   ……良い、風ですね。


   あぁ……然うだね。


   ……ごめんなさい、まことさん。


   ん、いや……こちらこそ、ごめんね。
   急に、抱き締めたりして……しかも、二回も。


   ……いえ。


   せ、責任は取るから……。


   ……責任?


   よ、嫁入り前の大事な、か、からだ、だから……。


   ……だったら、私も取らないといけませんね。


   へ?


   まことさんだって、嫁入り前の大事な躰でしょう?


   あ、あたしは、別に……嫁に行く予定なんて、一生、ないから……。


   私も、然うですよ。


   大夫は、


   私を貰って呉れる、そんな風変わりなひとなんて居ません。


   そ、そんなこと……!


   ……。


   そんなこと、ないよ……。


   ……だったら、あなたが貰って呉れますか。


   え……?


   ……。


   大夫……?


   ……都では、婚前交渉なんて珍しいものではありませんでしたから。


   は……。


   ですから……抱き締めるぐらい、なんともありませんよ。
   どうか、気にしないで……?


   ……。


   まことさん……?


   ……そう、なん、だ。


   まことさん、どうかしましたか……?


   ん、いや……なんでも、ないよ。
   うん、なんでもない……。


   少し、顔色が。


   ねぇ、大夫……。


   どこか、お加減が優れないようでしたら、


   大夫には、待っているひとは、居るの……?


   ……はい?


   み、都に、待っている、ひとは……。


   ……。


   や、ごめん、あたし、何を聞いて


   居ませんよ。


   ……。


   誰も、居ません。


   ……そう、なの。


   はい。


   ……そっか。


   けれど、どうしてそんなことを……。


   ……。


   ……まことさん。


   大夫、あたしね……。


   ……はい。


   良かったって、思ってるんだ……大夫に、そういうひとが、居なくて……心から、良かったって……。


   ……。


   ごめん、よ……。


   ……どうして謝るのですか。


   酷く、嬉しいんだ。


   ……。


   ……大夫のことを、待ってる人が居ないと言うことが。
   若しかしたら……このまま、村に残って貰えるかも知れない、ことが。


   ……。


   最低だ……あたし。
   大夫の気持ちも、考えないで……。


   ……私は。


   ごめん、大夫……ごめんなさい。


   まことさん、私ね……。


   ……。


   私は……都に居る頃は、ずっと、ひとりだったの。
   然う……いつだって、ひとり。


   ……。


   母と暮らしていたのだけど、母は国の医生だったから……家を、空けがちで。
   父は、母と出逢うまではずっと放浪しながら絵を描いていたらしく……だからでしょうね、私が物心を付く頃にはもう、家には居なかった。
   ただの一度だって、帰ってくることは、なかった。


   ……。


   母と同じ医生になる為に、小さい頃からずっと勉強ばかり……友人と呼べる存在は、ひとりも居なかった。
   年頃になって、周りが恋人や縁談の話をしている時も、部屋に籠ってずっと本を読んでいて……誰かと付き合うことも、交わることもせずに。
   そんな私だから、陰で悪く言うひとも居たらしく……いえ、薄々気が付いてはいたの。
   ただ、目を背けていただけ。


   ……。


   ……他の誰かと親しくなったり、深い仲になることが、私にはどうしても、出来なかった。
   だから、待っていて呉れるひとなんて……ひとりも、居ないんです。


   あたしは、なんてことを……。


   ……ううん、良いの。


   けど、


   あなたが、喜んで呉れて、私は嬉しい。


   ……。


   ……こんな私でも、必要とされてる。
   初めて、然う、思うことが出来たから……。


   それでも。


   ……。


   それでも、喜んじゃいけないんだ……自分の都合で、喜ぶなんてこと、してはいけないんだ……。


   ……誠実な、ひと。


   それなのに、あたしは……。


   ……ねぇ、まことさん。


   ……。


   私が若しも、この村に残る選択をしたら……あなたは、喜んで呉れますか。


   そ、それは、もちろん……。


   ……あなたのそばに居ても、良いですか。


   あたし、の……。


   ……私は、私を必要として呉れているひとの傍に、居たい。


   あたしの、そばに……。


   ……ひとりぼっちは、さびしい。


   ……。


   ひとりぼっちは、さびしいから……誰かの傍に、居たい。
   寄り添いたいし、寄り添って欲しい……きっと、誰しもが、然う思って。


   ……居て、呉れますか。


   ……。


   あたしの傍に、居て欲しい……都になんて帰らずに、ずっと、あたしの傍に。


   ……あなたが、望んで呉れるならば。


   ……。


   ……まこと、さん。


   いやだったら……言って欲しい。


   ……いやじゃ、ない。


   ……。


   いやじゃないわ……まことさん。


   ……うん。


   ……。


   ……あたしも、ずっと、ひとりだった。


   ……。


   あたしの母は……あたしを産んだことで躰を壊してしまって、あたしが物心を付く前に。
   父は男手ひとつで、育てて呉れたけれど……病に倒れて、そのまま。
   それからずっと、あたしは、ひとりで生きてきた……。


   ……。


   ……友人は居ない、信じられるひとも、居ない。
   誰かを好きになることも、出来ず……ずっと、ひとりで。


   ……。


   だけど、大夫……君が、この村に来て呉れて。
   初めて、誰かの傍に居たいと……居て欲しいと、然う、思ったんだ。


   ……。


   あたしは……大夫の傍に、居ても良いかな。


   ……居て下さい。


   ……。


   ずっと……私の、傍に。


   ……うん、ありがとう。


   ……。


   だけど、あたし……下心ばっかりだけど、良いかな。


   ……。


   あ、やっぱり、だめかな……。


   ……下心を抱くのは、何も、悪いことばかりではないと思います。


   そ、そうかな……。


   下心を、抱いたからこそ……私達はこうやって、ふたりで居ることが出来ているのですから。


   そ、そういうものなんだ……って、ん?


   ……。


   あたしは、そうだけど……大夫、は。


   ……私にだって、ありますよ。


   え。


   ……にんげん、ですから。


   そ、そう、なん、だ……いや、でも、


   ……下心がある私は、いやですか。


   い、いやなわけない、むしろ、嬉しいよ……!


   ……。


   ……。


   ……ふふ。


   は、ははははは……。


   ……ね、まことさん。


   な、なんだい……。


   ……責任、取って呉れるんですよね?


   えっ。


   ……取って、呉れますか。


   と、取るよ、幾らでも取る……!!


   ……。


   大夫、あたしのところに…………。


   ……。


   ……なんで、こんな、時に。


   ふふ……おなか、すきましたね。


   うん……そうだねぇ……。


   おにぎり、頂いても良いですか……?


   うん、どうぞ……。


   ……ありがとうございます。
   それでは、いただきます……。


   はぁ……あたしも、食べよう。


   ……美味しい。


   うん?


   おにぎり、美味しいです……すごく、美味しい。


   それは、良かった……漬物も、良かったら。


   はい……いただきます。


   ……うん、今日のは美味く出来たな。


   ……。


   あぁ、そっか……大夫と、一緒に食べているからだ。


   ……?


   大夫と一緒なら、いつだって美味しいんだろな……ごはん。


   ……。


   ……大夫と、ずっと一緒に、食べたいな。
   一生……一緒に……ふたりで……。


   まことさん、あの……。


   ……え、なに。


   若しかして、ひとりごと……。


   あ、あたし、なんか言った?


   ……。


   だ、大夫……?


   ……お気に入りの場所。


   う、うん?


   ……他にも、あるんですよね。


   う、うん、あるよ。


   ……連れていって、呉れますか。


   も、もちろん。


   ……楽しみにしてますね。


   えと、いつ行こうか。
   あたしはいつでも良いんだけど、大夫は……?


   ……。


   あ、あれ、気が、早かった……?


   ……もぅ、まことさんったら。


   は、はは……。


   ……今夜、その話をしましょう。


   今夜……?


   ……ごはんを、一緒に食べながら。


   ……!
   うん、然うしよう……!


   きゃ……。


   迎えに、行くよ。
   行くから。


   ……。


   あ。


   ……もう、落としてしまったら、どうするんですか。


   ご、ごめんなさい……。


   ……。


   ……。


   ……ふふ。


   はは……。


   ……ね。


   なに……。


   ……風、気持ち良いですね。


   ん……然うだね。








  -夢を結ぶ。(原初・R-18・雌雄同体





   きもち、いいかい……?


   ……ん。


   じゃあ……もう少し、こうしていよう。


   ……おきなくて、いいのかしら。


   あぁ、良いんだよ。


   だけど……ん。


   そんな野暮な奴は、此処には居ない。


   わかって、いるのね……いつもの、ことだから。


   いつもの、こと?


   ……だって、そうでしょう?


   いや、何時(いつ)ものことではないよ。


   そう……?


   然うだよ。


   ……。


   此の話は、止そう。
   褥で、そんな話をするのは……お互い、気持ちが良いものではない。


   ……ねぇ。


   それよりも……。


   どんな朝を、迎えていたの。


   ……。


   わたしいがいの、ん。


   ……聞きたくないのに。


   ユゥ……。


   ……聞くな。


   ……。


   然うだな……ひとつ、言えることがあるとすれば……此の部屋で私と朝を迎えたことがあるのはメル、君だけだ。


   ……うそ。


   嘘じゃない。


   ……このしとね、で。


   君と私以外、此処で眠ったことがある者は一人も居ない。
   君が知りたがりなのは分かったが、知りたくもないことまで知ろうとするな。


   ……。


   さぁ……もう、良いだろう?
   今日はこのまま、ふたりだけの時間をゆるりと過ごそう……。


   ……ずっと、こうしていられるの。


   あぁ……君が、望んで呉れさえすれば。


   ……こんな時間の、使い方。


   此れが……此の星での、時間の使い方さ。


   ……とても、贅沢だわ。


   はは。


   ……。


   メル……君の髪は、本当に美しいな……。


   ……ねぇ、ユゥ。


   ん……?


   ……、なの。


   言っておくが、先刻(さっき)の話の続きはしないぞ……?


   ……。


   それで、なんだい……?


   ……ふしぎ、なの。


   ふしぎ……?


   そう……ふしぎ。


   どんな風に、不思議なんだい……?


   自分の躰の筈、なのに……自分のものでは、ないみたい……ううん、なくなってしまったみたいなの。


   ふむ……それは、不思議だね。


   これは、なんなのかしら……。


   ……不快、かい?


   いいえ……不快では、ないわ。
   不快では、ないのだけれど……あぁ、なんと言えば良いのかしら。
   丁度良い言葉が、見つからないわ……。


   然うか……。


   ん……ユゥ。


   ……ねぇ、メル。


   なぁに……。


   ……痛くは、なかったかい?


   ……。


   メル……?


   ……初めては痛いものだと、聞いたことはあったけれど。


   痛かった、かい……?


   ……痛みは、ほとんど、感じなかったの。


   ……。


   あなたが優しくして呉れたから、かしら。


   ……した……が、あった。


   え、なに……。


   いや……痛みがなかった様で、良かった。


   ……ほんの少しは、痛かったわ。


   そ、然うか……まぁ、きつかったしな。


   ……。


   い、いや、なんでもない……なんでもない。


   ……然う、きつかったのね。


   ……。


   入って、良かったわね?


   や、入らなければ、其れは其れで……。


   其れは、其れで?


   は、初めてなのだから、其れも致し方ないと……徐々に、慣らしていけば良いだけ、で……。


   慣れているのね、扱いに。


   ち、違……っ。


   ……。


   メ、メル、誤解だ、慣れてはいない。
   た、ただ、処女と言うものは、慣れていないものだと、然う、聞かされて、


   聞いた上で実践済み、ではなくて?


   ……。


   ……別に、良いけれど。


   メル。


   ……なに。


   私が相手をさせられたのは皆、処女ではない。
   皆、子を産んだことがある者ばかりだ。
   何故ならば、経験がある方が何かと都合が良いからだ。
   私の子を産む為に、都合が、良いからだ。


   ……。


   ……頼む、もうこんな話はさせないで呉れ。


   ユゥ……。


   ……君が思っている様なものでは、ないんだ。


   ごめんなさい……ユゥ。


   ……メル。


   ん……ユゥ。


   ……君の中は、とても、温かった。


   ……。


   まるで、抱かれているようで……叶うのなら、何度でも。


   ……これから、は。


   メルの中が、一番、良かったよ。


   ……。


   比べようも、む。


   ……ばか。


   え、な、なんで……。


   ……もぅ。


   ご、ごめん……。


   ……はぁ。


   あの、メル……。


   ……ねぇ、ユゥ。


   な、なんだい……?


   ……これで、やどったのかしら。


   うん……?


   契りを、交わすと……赤子が、お腹に宿るのでしょう?
   だとすれば、私の胎内に、あなたの子が……。


   えと……メル?
   確かに赤子は、契りを交わせば胎内に宿るものとされているけれど……一度だけでは、難しいと思うよ。


   一度では、なかったわ。
   あなた、三度は、私の中で果てたでしょう?


   ……。


   ユゥ? どうしたの?
   私、何かおかしなことを言ったかしら。


   いや、言ってはいない……言っては、いないけど。


   けど……なぁに?


   た、確かに、三度くらいは果てたと思うけど……


   三度よ、ちゃんと憶えているもの。


   そ、それでも、一夜だけでは、赤子は授からないのでは、ないかな。


   ……可能性すら、ないの。


   いや、全くないわけではないだろうが……。


   ……ならば、分からないわ。


   其れに時機も、あるだろう?


   時機?


   其の、卵の……。


   ……。


   ま、まさか、本当に分からない、のかい……?


   ……其れならば、大丈夫よ。


   え。


   ……其の時機、だから。


   そ、そんな、本当に?


   ……其れとも、嫌なの?


   い、嫌ではない、決して、嫌ではないよ。


   本当に?


   ほ、本当だ。


   其のわりには、動揺している様に見えるけれど。


   た、確かに動揺はしている……なんせ、己の子が宿るのは初めてのことなんだ。


   え?


   ……え?


   ユゥには、もう、居るのではないの?


   ど、どう言う意味だい……?


   私以外のひととの、子。
   もう、居るのでしょう?


   ……。


   居ると、するならば……私は、会わなくて良いのかしら。
   私は、貴女の……?


   ……居ない。


   ユゥ……?


   子など、居ないよ。


   まさか……。


   本当に、居ない。


   ……本当に、居ないの。


   あぁ、本当だ。


   けれど……幾人、も。


   確かに、望まぬまま何度も宛てがわれた。
   が、子は、ただのひとりも、生してはいない。


   ……貴女は、此の星の守護者よ。
   然うなれば……。


   あぁ、其れも私の務めのひとつだ。
   だが、果たす気はなかった。


   ……本当は、何人居るの?
   若しも、私のことを気に掛けているのなら……。


   ひとりも、居ないよ。


   ……。


   本当だ、ひとりも居ないんだ。


   ……望まれたでしょう?
   子を、作るように……其れで、幾度も。


   私が望んでいない。
   望んでいないのに、作れるわけがない。


   けれど、其れではいつまでも、


   子など、要らないと思っていたんだ。
   だから……相手にはしたが、子が出来るようなことは、一度もしなかった。


   ……。


   つ、つまりだな……。


   ……詳しくは、言わないで。


   ……。


   言いたくない、でしょう?
   私も、聞きたくないわ。


   ……メル。


   辛かったのでしょう……?


   ……うん。


   ごめんなさい、ユゥ……。


   ……ううん、良いんだ。


   ……。


   もう、宛てがわれない……宛てがわれたとしても、全部、蹴ってやる。
   私にはメル、君が居る……君が、居て呉れるなら。


   ……居るわ、貴女の傍に。


   うん……。


   ……ねぇ、若しも。


   ん。


   若しも、私との間に、子が出来たら……。


   ……泣いて、喜ぶ。


   望んで、呉れるの……?


   メルとの間の子ならば、何人でも、欲しい……。


   ……。


   最低でも、三人……いや、五人……。


   ……待って。


   え?


   何人、産めば良いの……?


   其れは、メルが許して呉れるのなら、何人でも。


   ごめんなさい……躰が、もたないわ。


   あ、あぁ、然うか。


   歳星の民はどれくらい産むものなの?


   ひとにも、よるが……少なくとも、五人は。


   五人……。


   因みに、辰星の民は……?


   ……多くて、二人。


   そ、然うなのか……。


   辰星の民は、歳星の民の様に、躰が頑健ではないから……出産で命を落としてしまう者が、多く、居るの。


   な……。


   ……三人は、難しいかも、知れないけれど。


   歳星の民でも、命を失う者が全く居ないわけではないが……其れ程まで、なのか。


   ……。


   わ、私はメルを失いたくない、失うくらいならば、子は望まない。
   私はメルと、


   二人、なら。


   ……え。


   二人なら……多分。


   だ、だめだ、メルに無理はさせられ


   貴女の子が、欲しいの。


   ……!


   ……欲しいの。


   メル……。


   ……だけど。


   無理は、しないで欲しい……此方のことは、何も気にしないで良い、良いから……。


   ……ううん、違うの。


   ……。


   辰星の民の血が、混ざることで。
   貴女の子は、頑健なからだを、失うかも知れない。


   辰星の民……いや、君の血を引くことで、とても利発な子になるだろう。


   ……育たないかも、知れない。


   然うだと、しても。


   ……。


   メル……私は君との子が、欲しい。


   ……ユゥ。


   けれど、だからと言って、君に無理はさせられない。


   ……大丈夫よ、ユゥ。


   だけど……。


   ……私、そんなに弱くないわ。


   ……。


   私を、信じて……ね。


   ……約束、して欲しい。


   なぁに……?


   ……無理だけは、しないと。


   分かったわ……ユゥ。


   ……。


   無理は、しない……貴女をひとり、残したりなんかしないわ。


   ……。


   ユゥ……。


   ……無事に、生まれてきて呉れたら。


   ……。


   ふたりで、大事に育てよう……。
   何よりも、大事に……いや、私は君も大事にする。
   君と子を、必ず、守る……。


   ……。


   ……必ず、だ。


   かならず、よ……。


   あぁ……必ず。


   ……。


   メル……?


   ……ねぇ。


   ……。


   ……もう、一度。


   良いのかい……?


   ……だめ、かしら。


   まさか……嬉しいよ、メル。


   ん……。


   ……私は、何度だって、抱きたいんだ。


   ……。


   あぁ、きれいだ……きれいだよ、メル……。


   ……なんども、きいたわ。


   いいじゃないか……なんどだって、いいたいんだ。


   ……きれいなんかじゃ、ないのに。


   きみいじょうに、きれいなものなんて、ない……。


   ……も、ぅ。


   ……。


   あ、ん……、だめ……。


   ……ごめん、メル。


   ……?


   ……もう、なかに。


   ……。


   だいじょうぶ……いたく、しない。
   やさしく、するよ……。


   ……あまり、いたく、しないで。


   やくそく、する……。


   ん……ん……。


   ……。


   …………ふふ。


   ん……なん、だい……?


   ……むねが、すきなのね。


   ……。


   あかごみたいで……なんだか、かわいらしくおもえるわ……。


   ……あかごは、こんなこと、しないだろう。


   ん、そう……ね……。


   ……む。


   ふふ……ふふ……。


   ……。


   ……?
   ユゥ……?


   ……はやく、なかにはいりたいんだ。


   まって……ま、だ。


   いや、それが、そうでもない……。


   ……あぁ、ん!


   けど……もうすこしと、いうところか……。


   ……ゆ、び。


   いたい……?


   ……。


   ん……よかった。


   ……ユ、ゥ。


   ねぇ、メル……じぶんのこえに、びっくりしなかった?


   ……そんな、こと。


   ほんとうに……?


   ……そうだと、したら……なに。


   いや、べつに……?


   ……。


   かわいいと、いってほしかった……?


   ……ば、か。


   はは……かわいいな。


   ……これ、から。


   うん……?


   ……なんど、ん、……あなたと、こうすることが、あるのかしら……。


   それは、まぁ……かなうなら、なんどでも、したい。


   ……こが、できても?


   こが、できても……。


   ……としを、とって……も?


   としを、とっても……できるかぎり、したい。


   ……おもうの、だけれど。


   ん、なに……。


   ……なんでも、ないわ。


   そうとは、おもえないな……。


   ……なんでも、ないの。


   なにか、かんがえて……。


   ……いつか、わかる……わ。


   ……。


   そう……ぁ、そのときが……きたら……ね。


   ……そのときがきたら、か。
   なら、ば……。


   ……。


   ……たのしみに、していようか。


   ん……そう、して……。


   …………。


   ……ん、………ユゥ……ユゥ……ぁ、……あ。


   ……。


   ……は、……ぁ……。


   メル。


   ……ぅ。


   ちから……ぬいて。


   も、ぅ……。


   ……いれるよ、メル。


   ……。


   だから、ちからを……む。


   ……いわない、で。


   ……。


   ば、か……。


   ……。


   ……あ、ぁ。


   メル……。


   ……。


   いたくは、ないかい……?


   ……ん。


   ……。


   ……ユ、ゥ。


   あたたかい、よ……メル。


   ね、ぇ……。


   ……うん?


   おく、に……。


   ……あぁ。


   ……。


   メル……あいして、


   ん、あ……あ、


   ……あいして、るよ。


   あぁぁぁぁ……。


   ……く、ぅ。


   ユ、ゥ……。


   ……だいじょうぶ、かい?


   ……。


   もう、すこし、だ……。


   ……、……。


   ……は、ぁ。


   …………ユゥ……。


   ん……。


   ……。


   ゆっくり……うごく、よ。
   いい、かい……?


   まっ、て……。


   ……すこし、だけなら。


   ……。


   ……メル。


   わたしの、かたちが……かわって、ゆく。


   ……。


   あなたの、かたち、に……。


   ……そう、か。


   ね、きつい……?


   ……すこし。


   そう……。


   ……けど、すごく、きもちいいよ。
   きつく、だかれているようで……。


   ……。


   いたくは、ない……?


   ……う、ん。


   そ、か……はぁ……。


   ……ユゥ。


   ごめん……もう、げんかい、だ。


   ……きて。


   ……っ。


   きて……ユゥ。


   あぁ、メル……。


   ……んっ、……っあ。


   はぁ……メル……メル……。


   あっ……ユ、ゥ、……あ、ぁっ。


   メル……メル……っ。


   ユゥ……ユゥっ……ユゥ……っ。


   ……すき、だ……すきだ、すきだ、すきだ……。


   ユ……ゥっ……んっ、あっ……あぁっ……。


   ……っく。


   わたし、も……、あっ、……す、…き……っ。


   はぁ……っ、はぁ……う、……はぁ……。


   ……ユゥ……っぁ、ユゥ……ユゥ……。


   こ、が……、ほし、い……。


   ……っ、わた…し…も……。


   うんで、くれる、かい……。


   ……うん、で、……、みた……い……。


   ……ッ!


   ね……わたし、に……あなた、の……。


   あぁ……!


   あ、……あぁっ、ぁぁ……っ。


   メル……メルっ……メル……、っ……。


   ……ユ、ゥ……、……あ、ぁ……ぁ……。


   う……っ、く……。


   ……きて……ユゥ……。


   ……ぅっ、……。


   …………なんど、でも。










   ……。


   ……きもち、いいわ。


   ん……?


   ……あなたに、こうされているの。


   じゃあ、ずっとしていよう……。


   ……ずっとは、むりよ。


   じゃあ、おきるまで……。


   ……ふふ。


   なんだい……?


   ……しあわせなんて、ずっと、わからなかったけれど。


   けれど……?


   ……いまなら、わかるきがするわ。


   あぁ、わたしもだ……。


   ……これから。


   もっと……なろう、ふたりで。


   ……うん。


   ……。


   ねぇ、ユゥ……今更、なのだけれど。


   ん、なんだい……メル。


   ……歳星の民と辰星の民、種族が違う者同士で子を生すことは出来るのかしら。


   それは……今更、だなぁ。
   今まで、出来る前提で話していたと言うのに……。


   ……出来ると、思う?


   あぁ……勿論、出来るさ。


   ……。


   然う、信じよう……メル。


   ……然うね、ユゥ。


   ……。


   ん……ユゥ。


   ……宿っていたら、良いな。


   ……。


   宿って、いたら……。


   ……今は、叶わなくても。


   ……。


   私達の想いが、変わらなければ……。


   ……変わらないよ、ずっと。


   ならば……いつか、きっと。


   いつか、きっと……?


   そう……いつか、きっと。