-戀(現世1) ……。 ……ん、ぅ。 ……。 …………まこちゃん。 やぁ、気が付いたかい……? ……。 あたしの部屋だよ。 ……そう。 説明、しなくても? ……ええ、必要ないわ。 然う……ならもう少し、そうしてな。 ……どうなったの。 そこは説明が必要かい? ……あなたと私が無事、それだけでは十分だとは言えない。 なるほど……。 ……みんなは、無事なの。 あぁ、一応……まぁ、なかなかの満身創痍ぶりだったけど。 マシなのはうさぎちゃんくらいかな。 ……まこちゃんは。 あたしも、まぁ、大丈夫だよ。 戦えと言われたら、まだまだ やめて。 ……。 ……そんなわけ、ないでしょう。 骨の一本や二本、折れてたってあたしは大丈夫さ……あたしは、ジュピターなのだから。 ……やめて。 ジュピターは、いつだって誰よりも前に出て……みんなを守る為に、戦う。 このからだを、命を、失うことになっても……あたしは、戦わなければいけない。 やめてって、言ってるでしょう。 ……誰よりもそれを分かっているのは、 お願い、やめて。 ……。 もう、やめて……今は、聞きたくない。 分かった……今は、言わない。 ……。 ……耳を塞いだって、変わらない。 分かってる……分かってるわ、そんなこと。 然う、誰よりも……亜美ちゃんが一番、分かってる。 だから、あたしは…… ……私には、背負えない。 亜美ちゃん……。 ……もう、いやなの。 ……。 ……。 ……聞かなかったことに、するよ。 聞いて。 ……。 ……お願い、聞いて。 はぁ……。 ……っ。 ……しょうがないな。 まこちゃん……。 ……。 まこちゃん、私……。 ……本音を言えばね、死にたくない。 ……。 怖いんだ……死ぬのは、怖い。 怖くないなんて……そんなのは、嘘だよ。 ……。 なんて、さ……聞かなかったことに 出来ないわ。 ……。 ……聞かなかったことになんて、出来ない。 だよなぁ……。 ……敢えて、言ってくれたのでしょう? それは買い被りすぎだよ……あたしは、そんなに頭良くないんだ。 ……あなたの、そういうところが。 強いて、言うなら……亜美ちゃん、だから。 ……。 ……亜美ちゃんにだから言えることは、確かにあるんだよ。 ただ、それだけのことだよ……。 ありがとう、まこちゃん……。 ……お礼を言われるようなことじゃないよ。 それでも、言わせて……ありがとう。 だったら、あたしも言わなきゃな。 ……? あたしだから、言ってくれたんだろ……弱音。 だから、ありがとう……亜美ちゃん。 ……。 若しも、若しもだよ……あたしにしか言えないのなら、もっと、言っても良いから。 ちゃんと、聞くから。ひとりで背負う必要なんて、ないから。 ……ん。 亜美ちゃん、あたしは……。 ……はぁ。 あ、いや……さぁ、ちゃんと休まなきゃね。 今夜はゆっくり休むんだよ……お勉強なんて、以ての外だ。 ……やりたかったのに。 はは、亜美ちゃんは本当にお勉強が好きだなぁ。 ……まこちゃんと、したかった。 え、あたしと……? ……苦手なところ、まだまだあるでしょう? ある、けど……あー。 ……私達は戦士であると同時に、普通の中学生でもあるのよ? テストだって、あるし……ちゃんとしなきゃ、ね。 両立させるのはほんと大変だよ……とほほ。 ふふ……。 ……何か食べたいものはあるかい? いいえ……今は。 そ……じゃ、また後でにしようか。 まこちゃんは、休まないの……? あたしは、まぁ……。 ……だめよ、そんなの。 う……。 ……あなただって、傷だらけでしょう。 いや、手当てはしたし……。 ……。 ん……亜美ちゃん。 ……一緒に。 あたしなら、本当に……。 ……休んで。 それは。 ……。 マーキュリーから、ジュピターに? ……いいえ、水野亜美から木野まことに。 ……。 ベッド、ありがとう……。 ちょ、待った待った。 私は、床で良いから……使って。 良いわけないだろ、何を言い出すんだよ。 あたしが床に いいえ、私が床で そんなのは駄目に決まってるだろ。 どうして? このベッドの所有者はあなただわ。 所有者であるあたしが亜美ちゃんに使って欲しいと言ってるんだから、気にしないで良いんだよ。 大体、亜美ちゃんは今まで気を失ってたんだぞ。そんな亜美ちゃんを床で寝かすなんてこと出来るか。 絶対に出来ない。 ……そこまで、言うのなら。 譲れないからね。 ……一緒に、休みましょう。 え……? ……だったら、良いでしょう? うん、ちょっと待って。 一緒に?あたしが、亜美ちゃんと? ……いや? いや、では、ないけど……狭くなっちゃうよ? 私は、構わないわ。 いやいや、でも。 ……まこちゃんは、構う? あ、あたしは……。 ……。 ……その、ついてるな、なんて。 ついてる……? あ、いや、なんでもない、なんでもないよ。 うん、あたしは何も言ってない、言ってない。 ……言ったわよね? 言って、ないよ? ……聞こえたわ、ついてるなって。 ……。 何がついてるの……? あ、いや、その……。 ……。 あ、亜美ちゃん、あたしは……。 ……マーキュリーからと言った方が、聞いてもらえるのかしら。 ……。 水野亜美からでは、だめなのね……。 ……水野亜美からの方が、効くよ。 なに?聞こえないわ。 分かった、分かったからって、言ったんだよ。 分かったの……? 分かったよ……一緒に、休むよ。 ……いやなら、 いやなわけ、ないだろ……! ……。 あ、ごめ……。 ……いやでは、ないの? う……。 だったら……よかった。 ……あぁもう、ほんとにかわいいな。 ……。 あ。 ……今、 あーあー!!な、なんでもない、なんでもないよ!! よし、じゃああたしも休もうかな!!うん、休もう!! ……。 あの、亜美ちゃん……? あ、うん……待って。 今、ずれるわ……。 あぁ、亜美ちゃんは動かなくて良いよ。その代わりじっとしていて。 ……え。 よ、と。 きゃ……。 ……やっぱり、軽いな。 ま、まこちゃん……あの。 ……ん、これで良し。 ……! じゃ、じゃあ、改めて休もうかな……亜美ちゃんと、一緒に。 ……。 ん、亜美ちゃん……? どした……? ……なんでも、ないわ。 本当に……?顔、赤いけど……まさか、熱も。 ほ、本当になんでもない、から……ない、の。 今、体温計を……。 い、いいから。 けど、 ……いいから、早く来て。 な……。 ……。 ……。 ……? まこちゃん……? ……亜美ちゃん。 な、なに……。 ……そういうことを言うの、出来ればあたしだけにして。 まこちゃんに、だけ……? ……他の誰かになんて、絶対に言っちゃだめだよ。 あの……。 ……。 そういうことって、なに……? ……分かってて、言ってる? わ、分からないわ……何を言ってはだめなの。 ……。 ちゃんと教えて、まこちゃん……じゃないと。 いいから、早く来て。 ……。 ……兎に角、他の誰かになんて言っちゃいやだ。 分かった、言わないわ……でも、どうして。 ……もう、勘弁してよ。 まこちゃん……?顔が、真っ赤だわ……若しかしたら、熱が。 この熱は、そういうのじゃないよ。 ……どういうこと? 今は、分からなくても良いよ……。 けど、気になるわ……高熱だったら、それこそ。 ……この熱は、冷めることがないから。 ……。 亜美ちゃん……良いかな、入っても。 あ、うん……。 ……。 ……あ。 …………亜美ちゃん。 まこ、ちゃん……? ……ふたりで、休も。 う、ん……。 ……。 ……思っていたよりも。 ん……? ……ちかい、わ。 そりゃ、そうだよ……あたしのベッド、そんなに大きくないんだから。 ……。 ……やっぱりひとりの方が。 う、ううん。 ……。 このまま、で……。 ……うん、亜美ちゃん。 ……。 ねぇ、亜美ちゃん。 ……なに。 今度、ふたりでどこかに行こうよ。 ……ふたり、で? そう……ふたりだけで。 けど、みんなは……。 ……ふたりだけが、良いんだ。 いや、かな……。 ……ううん、いやじゃないわ。 だったら……いい? ……私とふたりじゃ、楽しくないと思うわ。 そんなこと、ない。 けど、私……。 亜美ちゃんはあたしとふたりではいや? そ、そんなこと……。 じゃあ……いい? …………うん。 ん……じゃあ、決まり。 ……。 どこに、行くか……ふたりで、話して決めよう。 ……私は、どこでも。 あたしは、ふたりで話して決めたいんだ。 ……。 ね、良いだろ……? ……うん。 -ススメ、コイゴコロ。(現世2) ……うーん。 まこちゃん? わっ。 え。 あ、亜美ちゃん? な、なんでここに? ……ごめんなさい、驚かせてしまって。 あ、いや、ちょっと吃驚しただけだから。 平気、平気。 ……それは。 あー! な、なに。 そ、それで亜美ちゃん、どうしてここに? 借りた本を返しに来たのだけれど……まこちゃんの姿が、見えたから。 その、声を掛けたのだけれど……。 あーうん、そっか。 あの、まこちゃん……。 あ、あたしも、本を借りに来たんだ。 うん、そうなんだ。 ……お邪魔、だったかしら。 え、いや、そんなことは……。 ……それ、お手紙よね。 へ。 見てしまって、ごめんなさい。 う、ううん、良いんだ。 大したものじゃ、ないから。 ……。 あ、亜美ちゃん、これは、その。 ……若しかして、だけれど。 えと、だから、 ラブレター、よね……それ。 う。 ……何通も、貰ったのね。 いや、な、なんでだろうね? あたしにも、よく分かんないんだけど……。 ……男の子から? いや、女子から……。 ……男の子からのものは、ないの? ……。 ……ないの? い、一通だけ……でも、全然、知らないんだよ。 ……ふぅん。 ほ、本当だよ? 後輩かなぁ、ぐらいで。 ……。 いや、本当に、全く知らないんだ。信じて、亜美ちゃん。 ……別に、そんな必死にならなくても。 本当にね、なんでか、分からないんだよ。 最近、妙に貰う事があって……本当、よく分からないんだけど……。 ……。 あ。 ……ごめんなさい、私、もう行くわ。 ま、待って、お願い待って。 でも、私がいたら読むのに邪魔だわ。 こういうものは、ひとりで読むものでしょう? お願い、亜美ちゃん、ちょっとあたしの話を そもそも学校で読むものなのかしら。 ひとがいない場所でなら大丈夫なもの? だけどやっぱり、こういうのは家の方が良いんじゃないかしら。 あの、亜美ちゃん、 私にはよく、分からないけれど。 あ、う……。 ……それじゃ。 待って! ……まこちゃん。 は、はい……。 ここは図書室、よ。 ひとがいないからって、大声を出すべきではないわ。 ご、ごめんなさい……。 ……それで、なに。 こ、断るつもりだから。 ……。 ぜ、全部。 ……然う。 だ、だから、あのね……? まこちゃんが然う決めたのでしょう。 その決定に意見を言う権利なんて、私にはないわ。 そ、そんな言い方……。 ……仮令、受けるにしても。 ……。 ……私になんて、ないのだから。 亜美ちゃん。 ……もう、良いでしょう。 良くないよ。 ……委員会の用事を思い出したの。 それでも、このまま行かせるわけにはいかないんだ。 ……お願い、離して。 お願いだよ、亜美ちゃん。 あたしの話を聞いて。 ……。 あたしは、誰からも受けるつもりなんてないんだ。 ……誰からも。 あたしはもう、決めているひとがいるんだ。 たとえ、叶わなくても……それでもあたしはそのひとと以外、誰ともそういう関係になったりしない。 なろうとも思わない。 ……気持ちは、変わるわ。 変わらないよ、この気持ちだけは。 隣にいて欲しいのは、そのひとだけなんだ。 ずっとあたしの隣にいて欲しいって、思うんだよ。 叶わないのに、どうして然う言えるの。 ひとは変わるわ、気持ちなんて簡単に 亜美ちゃんは、然うなのかい。 ……ッ。 亜美ちゃんは、変わってしまうの。 ……現に、まこちゃんが然うだったじゃない。 ……! ふられたら、また、違うひとを好きになって……今までそうやって来たじゃない。 ……。 だから、叶わないのなら……それが分かっているのなら、今まで通り、次に行けば良いのよ。 若しかしたら、手紙をくれた人の中に良い人がいるかも知れない。 まこちゃんを、大切に想ってくれるひとが。 ……。 ……叶わない想いをずっと、抱いているより。 想ってくれる誰かと…… 確かに、あたしは……。 ……。 ……亜美ちゃんの言う通りだよ、あたしは惚れっぽくて。 そしていつだって、真剣だった。 ……。 良く、考えて……決めて。 私から言えるのは、それだけ……。 ……。 ……もう、行くわね。 う、ん……。 ……さようなら、まこちゃん。 また、明日……。 うん……さようなら、亜美ちゃん。 ……。 ……。 ……。 ……やっぱり、いやだ。 ……。 亜美ちゃん! ……声が、大きいわ。 あたしは、諦めないよ。 ……それを、私に言ってどうするの。 知っておいて、欲しいんだ。 ……。 あたしはずっと、そのひとを想い続ける。 たとえ、叶わなくても。 ……っ。 亜美ちゃ まこちゃんは。 ……。 ……まこちゃんは、自覚した方が良いと思うわ。 自覚……何の? ……あなたは、とても素敵なひとだと言うこと。 は、え?あ、あたしが、すてきなひと……? ……自覚がなさすぎるのよ。 けど……えぇ? もう少し、自覚して。 は、はい、分かりました。 ……。 だけど、自惚れにならないかな……それ。 ……貰ったラブレターの数がその証左でしょ。 いやいや、これぐらいじゃ……。 ……これぐらい? ほ、ほら、もっと貰ってるひとはいるだろうし……たとえば、亜美ちゃんとか。 ……。 そ、然うだよ、あたしだって亜美ちゃんに言いたいことがあるんだよ。 亜美ちゃんだって、貰って 苦手なのよ、まこちゃんだって知ってるでしょう?! ひ、ひぇ。 それに、私は受けるつもりなんて全くないもの! あたしだってないよ! そんなの、分からな 分かってよ……!! ……。 ……亜美ちゃんだって、自覚してよ。 自覚って、私は別に……。 亜美ちゃんは誰よりも、この世界で一番素敵な女の子なんだよ! な……。 ううん、性別なんてどうでも良いんだ。 兎に角、亜美ちゃむが。 だから、声が大きい! ……ふが。 まこちゃんの、ばか。 ……だって。 だって、じゃ、ない。 だ、だけど、どうせ誰もいないし……。 そういう問題じゃない! ここは学校なのよ!? あ、亜美ちゃんも声、大きいよ。 それは、だって、まこちゃんが……む。 ……だから、大きいって。 ……。 ちょっと、恥ずかしい……ね? ……まこちゃんが、いけないのよ。 いや、でも……あーうん、あたしがいけない。 全部、あたしのせい。 ……。 それで改めて、言うけど。 ラブレターに関しては全部、断る。 好きなひと以外からのは、絶対に受け入れない。 ……そんなの。 いいかげん、泣くよ。 ……は? もうね、なんか、泣きたくなってきたんだよ……。 ま、まこちゃん……? ……後悔先に立たずって、こういうことを言うのかなぁ。 ほ、本当に泣いているの……? ……。 ごめんなさい、まこちゃん……その、言い過ぎたわ。 だから、その……泣かない、で? ……慰めて。 え、なに……。 ……慰めてよ、亜美ちゃん。 え……え? 言い過ぎたと思ってるんだろ……だったら、慰めてくれたって良いじゃないか。 な、慰めるって……な、何をすれば良いの……。 ……そうだね、とりあえず今夜はうちに来て貰おうかな。 な……ッ。 ……別にやましいことをして欲しいって言うわけじゃないよ。 ま、まこちゃん、何を言っているの、私達は未だ 高校生、だろ。 知ってるよ。 あ。 そういうわけだから、今夜、うちに来てよ。 ……! 塾だったら、迎えに行くから。 な、泣いてないじゃない……。 いや、さっきまで泣いてたよ? ま、まこ ……。 ……。 ……来てよ、亜美ちゃん。 …………あぁ、もぅ。 ん……決まりだ。 ……勝手に、決めないで。 もう約束、したからね……守って、くれるだろ? ……。 塾、何時に終わりそう? ……いつも通りよ。 そっか、じゃあその時間に行くね。 ……時間よりも早く、来るんでしょ。 ん、もちろん。 ……もぅ。 ごはん、何が良い? ……なんでも、 なんでも良い、は、なしだよ。 ……まこちゃんのおすすめは、なに。 そうだなぁ……て、これじゃだめだよ。 ……だったら、きのこの炊き込みご飯が良い。 お、良いねぇ。 ……あとはまこちゃんが考えたもので良い、から。 えー? ……お願いよ、まこちゃん。 うーん、しょうがないなぁ。 それじゃ……鮭のお味噌汁ってどうかな? ……ん、食べたい。 おかずは……うん、スーパーで考えようかな。 本音を言えば、亜美ちゃんと行きたいところだけど。 ……少しで良いのなら、付き合えるわ。 え、ほんと? やった。 ……。 じゃ、また帰りに。 委員会の用事が終わるの、図書室で ……ないわ、そんなものは。 え。 ……ないの。 あー……。 ……だっ、て。 亜美ちゃん、かわいい。 な、なんでそうなるのよ。 いや、だって……ラブレター、書いちゃおうかな。 ま、まこちゃん……ッ。 はは、冗談だよ。 ……今は、だけど。 もぅ……もぅ……。 じゃ、とりあえず教室に戻って。 それから、帰ろうか。 ……。 ね、亜美ちゃん。 ……まこちゃんのばか。 さぁ、どうぞ。 いっぱい、食べてね。 ……こんなに食べられないわ。 亜美ちゃんが来るから張り切って作っちゃった。 お勉強、疲れたろ?頭に栄養、あげなきゃね。 ……だからって、限度が。 おかわりあるから、どんどんしてね。 え、えぇ……。 ま、残ったら明日食べれば良いんだし、お弁当にしたって良いんだし。 そうだ、亜美ちゃんのお弁当作っても良い? 残りものになってしまうけど。どうかな? ありがとう。 けど、 残りものじゃ、いや? 残りものだなんて、思わないわ。 じゃあ、良い? ……断っても、押し切るじゃない。 亜美ちゃんが食べてくれると助かるなぁ。 ……私が食べなくても学校に持っていけばうさぎちゃんと美奈子ちゃんが 亜美ちゃんに食べて欲しいな。 ……。 作っても、良い? ……ありがとう、まこちゃん。 うん! だけど。 うん? ……言い訳、考えておいてね。 言い訳?なんの?誰にするの? うさぎちゃんと美奈子ちゃん。 ふむ? ……お弁当が同じだったら、言われるでしょう。 あぁ。 ……いただきます。 はい、召し上がれ。 だけどさ、それって今更じゃないか。 ……美味しい。 ほんと? ……ほんと。 あぁ、良かった。 味付け、亜美ちゃん好みに出来たかなって心配してたんだ。 だから、すごく嬉しい。 ……いつも美味しいわ。 へへ、ありがと。 ……。 で、お弁当の中身が一緒なのは、今に始まったことじゃないだろ? これまでもちょいちょい作っていたし。 ……亜美ちゃんばかりずるいって言われる身にもなって。 別にずるくないと思うけどなぁ。 いつも思うんだけどさ、何をもってずるいって言うんだろ。 それは……はぁ。 亜美ちゃん? だから自覚してって言ってるでしょう。 自覚って……うさぎちゃんと美奈子ちゃんにはそういうの、要らないだろ? まこちゃんが作ってくれるお料理はどれも美味しいの。 だから、 うん、ありがと。 亜美ちゃんに言われるのが一番、嬉しいよ。 ……。 最近……いや、結構前に気が付いたんだけどさ。 あたし、亜美ちゃんに美味しいって言われるのが一番嬉しいなって。 ……まこちゃん。 ん、あれ?亜美ちゃん、顔が赤い? 本当に自覚して。 いや、だから、 兎に角、私ばかりまこちゃんの手料理を食べているということが、あのふたりにしてみればずるいということになってしまうの。 いい加減、気が付いて。 だけどさ、あのふたりにもちゃんと作ってるじゃないか。 ……回数の問題、よ。 回数……。 ……高校に入ってからは、明らかに多いでしょう。 然う、かな。 ……然う、よ。 だけどケーキだったら、亜美ちゃんよりあのふたりの方が多く食べて ケーキは、別。 え、えぇ、どれだけだよ……それ。 ……あまり言われると、流石にちょっと面倒になってくるのよ。 なんか、ごめん……。 ……いいえ、私にも問題があるのは分かっているから。 亜美ちゃんに問題なんて ……だって、強く拒めないんだもの。 ……。 ……拒める、わけ。 だから……泊まりに来てくれる回数が減ったの? ……。 然う、なんだ……。 ……それだけと言うわけじゃないわ。 ……。 ……それだけじゃ、ない。 だとしたって。 ……。 それは、しょうがないじゃないか。 ……何がしょうがないの。 だってあたしは、亜美ちゃんのこと……。 ……。 ……亜美ちゃんのこと、が。 ……。 ……お味噌汁の味、どう? ……美味しいわ。 そ、そっか……うん、良かった。 ……それで、なに。 え。 ……まこちゃんは、私のこと。 あ、あー、その、それは……まぁ、ね。 まぁ、なんなの……分からないわ、それじゃ。 ……。 ……まこちゃんは、食べないの。 あ、うん……食べる、よ。 ……。 …………やっぱり、亜美ちゃんとふたりで食べた方が美味しいな。 ……私も、同じ。 ……。 私も……まこちゃんとふたりで食べると、美味しく感じるの。 ……。 まこちゃんの手料理はとても美味しいわ、だけどふたりだともっと……。 亜美ちゃん……。 ……もう、ひとりで食べていた頃には戻れないかも知れない。 ……。 ……まこちゃん、私。 亜美ちゃん、お寿司は何が好き? ……は? いや、なんとなく。 ……ハマチ以外なら、なんでも食べるけど。 ハマチ、嫌いなんだ? ……えぇ、まぁ。 へぇ、意外。 ……何が。 好き嫌い、ないと思ってた。 なんでも食べてくれるから。 ……私にだってあるわよ。 そ、然うだよな。 だから、イナダも好きじゃない。 え、イナダ? ハマチは関西での呼び方、イナダは関東での呼び方。 あ、あれ同じなんだ。 東と西では呼び方が違うの。 だけど、関東でも養殖されたものはハマチと呼ぶみたいね。 へ、へぇ……。 北陸だとまた違った名で呼ばれているみたいだけれど。 ま、地域によって違うと言うことでしょうね。 あとは天然か、養殖か。 ……因みにブリは好き? ……。 確か出世魚、だろ? ……ブリは好きよ。 然うなんだ。 ……味が、違うもの。 味……違ったっけ? 違うわよ。 そ、そっか。 脂の含有量が違うの。 あ、あぶら、ですか……。 と言っても、背中とお腹で あ、あー、もう良いです、お腹いっぱいです。 ありがとうございました。 ……そ。 ……。 ……それで、なに。 な、何がでしょうか……。 ……わたしのこと、なに。 あ、あー……あー。 ……。 ……す、 ……。 …………すきやき、美味しいよね。 ……それ、私と関係ある? き、嫌い? ……好きよ、生憎。 あ、生憎ではないんじゃあ、ないかな……。 ……。 ……。 ……食べ終わったら、お勉強しましょうね。 あ、はい……。 ……はぁ。 あの、亜美ちゃん。 ……なに。 す、好きだよ。 ……。 ……好き、だよ。 ……ありがとう、まこちゃん。 あ。 私も好きよ。 ほ、ほんと ……これからもおともだちでいてね。 え……。 ……。 ……ずっと、ともだちなの。 いつか、離れる日が来るかもしれないけど……その時、までは。 亜美ちゃん。 ……あ。 あたしは好きなんだ、亜美ちゃんのこと。 ……私も、 そうじゃなくて。 ……。 ラブレター、書いても良い? ……苦手、だと。 じゃあ、読み上げるから。 触らなければ大丈夫なんだろ? ……それ、大分恥ずかしくないかしら。 は、恥ずかしいよ、多分死んじゃうくらい恥ずかしい……いや、想像しただけでも、すごく恥ずかしいよ。 …………。 あ、亜美ちゃん、あたしは ばか。 え? ……まこちゃんのばか。 あ、亜美ちゃん……? ……お寿司の話なんて、どうしてするのよ。 いや、それは……その……や、だから……。 ばか、まこちゃんのばか。 あ、す、すみません……もう、しません……。 もうしないでなんて、言ってない。 は、はい……じゃあ、またします……。 時と場合を考えてって言ってるの。 と、時と場合、ですね……はい、分かりました……。 もぅ…………もぅ……。 亜美ちゃん、牛みたいだよ……? ……今度は焼肉の話でもするつもり? し、しないよ。するわけ、ないよ? ……。 あ、あの、それで、答えは……。 ……お勉強。 と言うか、亜美ちゃん、顔が真っ赤……。 ……ッ。 あ、ごめん、余計なことを言いました……。 ……。 そ、それで、お勉強は……あ、今日は数学かな……うん……。 その後に、言うから。 ……へ。 ……。 亜美、ちゃん……? ……返事。 ……。 ……だから、待ってて。 ……。 ……今は、それで。 うん……分かった、待ってるよ。 待ってるから……。 ……お勉強は、ちゃんとしてね。 はい、します。 ちゃんと。 ……。 さ、今はとりあえず、ごはん食べよ。 おかわり、いる? ……そんなに、食べられない。 -長恨歌(現世・名字呼び) ……図書室は、授業をさぼる為にあるわけではないのだけれど。 ……。 今日は何を読んでいたの。 超古代文明の謎。 ……プラトンの時代の9000年前に海中に沈んだとされているアトランティスとか? 他にもムー大陸とか、アガルタとか、この国のものだと与那国島海底地形とか。 オーパーツにでも興味があるのかしら? なかなか面白いよ、胡散臭くて。 オーパーツもだけど、オリハルコンとかヒヒイロカネとかも見られるものなら見てみたかったな。 オーパーツとされているものなら、今でも見られなくはないわ。 所詮は、オカルトの域からは出ないけれど。 とは言え、海の底に沈んでしまったものは流石に無理だろう? 冒険家にでもなって潜水艇に乗ってみる? あはは、海の底はちょっと行きたくないなぁ。 地に足がついてないと落ち着かないんだよ、あたし。 ……。 海外は、遠いなぁ。 一生、行くことないかもしれない。 ……それは、残念ね。 うん、本当にね……水野さんと行ってみたいところ、たくさんあるんだけど。 どうして私が出てくるの。 そりゃ、好きだからね。 好きなひとと色んなところ、行ってみたいじゃないか。 ……。 ふむ。 ……もう、読み終わったの? うん、なかなか興味深くて詰まらなくもあった。 ……そう。 地球国については何も書かれてなかったよ。 それはそうでしょうね。 月の王国についても。 ……。 どっちの国もなかなかだと思うよ。 話したところで夢物語、誰も信用しないどころか、真剣に話せば話すほど頭がおかしいヤツだと思われる。 ……そうね、かなり胡散臭いもの。 あの月にそんな文明があったとか、さ。 せいぜい、うさぎが跳ねてるくらいだと思ってたのに。 それもどうかと思うわ。 良いじゃないか、ロマンチックで。 月の海。 うん? 残念ながらただの溶岩よ。 んー、水野さんはロマンが分からないみたいだなぁ。 ……悪かったわね、堅物で。 悪くはないよ、そういうところも好きだから。 ……。 ところで水野さん、どうしてここに? 今の時間は授業中の筈だろ? それ、あなたが言うの? あたしは、いつも通りだよ。 それにしたって、あたしがここにいるのよく分かったね。 ……自惚れないで。 うん? 別にあなたに会いたくて来たわけじゃない。 それ、会いたいから来ましたって言ってるようにも聞こえるよ。 都合の良い解釈ね。 その方が嬉しいからね。 ……座っても? もちろん。 ……。 あれ。 ……隣になんて、座るわけないでしょう。 何をされるか分からないから? ……今更よ、そんなの。 だったら、隣に座ってくれても。 ……今は、この距離が良いの。 そ……でもまぁ、水野さんの顔が良く見えるから悪くない。 ……。 水野さんも何か 生徒指導室に、呼ばれたわ。 ……うん? 担任、学年主任、生徒指導、教頭や校長までいた。 へぇ……それは、なかなかの揃い踏みだね。 ……。 ……それで? あなたにはもう関わるな、と。 ま、そんなところだろうね。 それで、水野さんはどうしたいの? ……。 わざわざ授業をさぼってまで、会いに来てくれたんだろ。 そうまでしなくても、帰り道に……あ、いや、それも見られているのか。 面倒だな。 ……私は、なんなの。 水野さんだよ。 あたしの好きな、ね。 成績は落としてない、校則だって破っていないわ。 何かを言われる筋合いなんて、どこにもない。 絵に描いたような優等生だもんな。 私に何を求めてるの。 十番中学きっての、天才。 私は天才なんかじゃないわ。 知ってるよ、水野さんは天才と言うより秀才だ。 努力を積み重ねて、今の水野さんがいる。 今の私はただ、自分の目標の為に勉強をしているだけ。 大人にとって都合の良いこどもになる為じゃない。 ひとつ、聞いても良い? ……なに。 水野さんはどうして公立の中学に? 私立にだってその気になれば行けただろ。 ……勧められたわ、それも。 だろうね。 ……勉強なんて、どこでだって出来るもの。 塾に毎日、通って? ……私立に行っていたとしても、塾には行くわ。 あー、なるほど? ……なんとなく。 ん? なんとなく、十番中学でも良いと思ったのよ。 なんとなく?水野さんが? ……。 水野さんがなんとなくで決めるなんて、にわかに信じられないな。 ……分からないの。 え、何が? 私が私立に進学していたら……木野さん、私はあなたと出逢うことはなかった。 ……。 ……呼ばれたような気がしたの。 そっか……。 ……嬉しいって、言わないの。 いや……嬉しすぎると、かえって言えなくなるみたい。 ……何よ、それ。 今のあたし、だらしない顔してない? ……してる。 あぁ、やっぱり。 ……結局、使命に過ぎなかったけれど。 あ、それ言っちゃうか……。 ……前世、なんて。 ……。 どうしろと言うのよ……今だけでも、精一杯なのに。 前世のシュピターとマーキュリーは恋人同士だったね。 ……。 あれ、そこは思い出してない? ……。 うん、その顔は思い出してるね。 ……だとしたって、今の私達には。 だからなのかなぁ、あたしが水野さんのことを好きなのは。 ……ッ。 いいや、違うな。 前世は前世、今は今。 今のあたしは水野さんが好き、この気持ちに前世のふたりは全然関係ない。 ……どうして、言い切れるの。 そりゃあ、言い切れるさ。 だって前世のジュピターが好きなのはあくまでも前世のマーキュリーだ。 水野さんじゃない。 その影響が木野さんに全くないなんて、どうして言えるの。 言えるよ。 どうして……。 どこまで行っても、あたしの気持ちはあたしだけのものだ。 前世なんか、関係ない。 だから、どうして……。 ……。 ……前世が、なかったら。 木野さんは……きっと、私じゃないひとを……。 水野さん。 ……やだ、さわらないで。 ん、ごめん。 ……だから、触らないでって言ってるでしょう。 ごめん。 木野さん。 水野さんは、どうしたい? ……。 先生たちに、大人たちにとって都合の良いこどもを演じたい? 前世から続く使命ってやつに、殉じたい? ……私は。 あたしは、水野さんがしたいようにすれば良いと思う。 もう、あたしに関わりたくないと言うのなら……それでも、あたしは構わない。 ……! と、言っても、あたしは諦めないけどね。 学校を卒業しちゃえば、こっちのもんだし。 ……。 まさか、卒業した後までは追いかけて来ないだろ? だけど、あたしは違う。どこまでも追いかけられる。 ……使命は、どうするの。 それはそれ、これはこれ。それなりにはこなすけど、ただそれだけ。 命を 今のマーキュリーの為だったら、懸けても良いよ。 そんな、軽く……。 今のあたしが叶えたいのは水野さんと恋人同士になること、そのひとつだけなんだ。 ……。 呆れた? ……すごく。 はは、だよな。 ……。 ん、水野さん? 例えば、今。 うん。 ……キスしてって言ったら、木野さんはしてくれる? ……。 ……したいんでしょ、私と。 うん、したい。 ……じゃあ。 でも、しない。 ……。 水野さんがあたしを好きになってくれるまで、しない。 …………私がお願いしても? お願い、されても……それでも、しない。 本当にして欲しいって、水野さんが思ってくれるまで、は。 ……本当か、どうかなんて。 今の水野さんは、どこかやけになってるようで。 それじゃ、だめだと思うんだよ。 自分を大切にしろとでも? あなたが言うの、私に。 あたしは、ただ……。 もう、したくせに。 え? だって、もうしたじゃない。 ……。 初めて私が授業をさぼった時に、まさにこの場所で。 あー……。 あー……じゃ、ない。 忘れてるなんて、最低。 いや、忘れてないよ。 嘘。 ファーストキスだったのに。 ……。 ……最低。 え、と……水野さん。 ……どうして、あなたなんか。 今から、正直なことを言う。 出来るならば、信じて欲しい。 ……。 本当は、ちゃんと憶えてる。 感触も、においも、あの時の水野さんの顔も。 ……言い訳なんか、聞きたくない。 ……。 ……木野さん? どうしようも、なくなるんだよ。 ……。 ……あの時のことを、思い出すたびに。 そんなの……。 ……今のあたしの顔、真っ赤だろ。 ……。 あたしも、あれが初めてだった……初めて、好きなひととキスをした。 想像してた以上に……その、刺激が、強かったみたいで。 ……。 だから、なるべく……なるべく、思い出さないようにしてた。 けどまぁ、無理だったんだけどね……。 ……。 ……だけど。 ……。 あの時は、自分の感情に流されるがままキスをしてしまって……水野さんの意思とか、全く考えてなかった。 それが、今でもしこりみたいになって残ってて……後悔、って言うのかな。 ……そんな風には、見えなかった。 あぁ、うん……。 キスだけじゃないわ、耳に勝手に触れてきて……唇だって、寄せてきたくせに。 ……うん。 あんなこと、しておいて……。 ……水野さん。 キス……して、くれないのね。 ……。 ……なら、もう。 したいよ、正直。 ……だったら。 したくて、したくて、しょうがないんだ。 だったら、すれば良いじゃない! ……。 ……私のことが、好きなら。 好きだと、言ってくれるなら……。 ……。 ……木野、さん。 何度も、何度もしたよ……頭の中で、何度も。 そのたびに、欲しくなって……たまらなくなるんだ。 ……。 ……前世とか、使命とか、そんなのはどうでもいい。 今は……今は水野さん、と……。 ……。 ……みずの、さん。 ……。 あ、えと……その。 ……顔、真っ赤。 水野さん、も……だけど。 ……決めたわ。 え、何を……。 ……勉強は、続ける。 だけどそれはあくまでも自分の為、自分の目標の為……先生も、親ですら、関係ない。 う、うん……。 でも、たったひとりだけ、そのひとの為ならば……私は。 ……。 ……然う、そのひとを守る為に。 えと、それは……だれ。 ……。 やっぱり、プ 木野さん。 あ、はい。 私を諦めない、そう言ったわよね。 うん、言った。 だったら、あなたには乗り越えなければいけないひとがいる。 それは、 私の母。 …………。 厄介よ、あのひとは。 ……水野さんの母親、だもんな。 どういう意味かしら。 いや、別に深い意味はないよ……うん。 無駄に頭の回転が早くて、理屈っぽいから。 それ相応の覚悟はしておいてね。 もちろん、ひとりで対応させるつもりなんてないけれど。 ……水野さんの大人版、かな。 あのひとと私、一緒にするのはやめてくれないかしら? 私はあんな風にはならない。 す、すみません。 けどまぁ、いざとなったら駆け落ちすれば良いだけの話なのだけれど。 え。 だけどそれだと逃げるようでいやなのよね。 かけおち?今、かけおちって 言ってないわよ? いや、言ったよね? いいえ? 言ったと思うんだけど。 妄想の度が過ぎて、幻聴でも聞こえたんじゃない? も、もうそう……。 違うの? 頭の中で何度も私と あーあー、言わないで。 ……ふ。 あぁぁ……。 ……ねぇ、木野さん。 な、なに……。 ……今日はこのまま、私をあなたの部屋に連れて行って。 え、え? いやなの? いやじゃ、ないけど。 じゃ、行きましょ。 待った、待った。 なに。 だから、堂々とし過ぎなんだって。 そうかしら。 そうだよ。 自分ではそんなつもり、ないのだけれど。 ……ほんと、参ったな。 なにが? あたしは一生、水野さんには敵いそうにない。 敵うなんて、思っていたの? いや、考えたこともなかった。 だったら、それが答えね。 あー……。 木野さん、早く。 あぁ、うん。行こう、水野さん。 木野さん、手が止まっているようだけれど? ……はぁ。 分からないところがあるのなら、すぐに言ってね? ……まぁ、こうなるよなぁ。 木野さん? あぁ、今考えてるところ……。 そう? なら、良いけれど。 ……水野さん。 なぁに、どこが分からないの? どうして鞄を持っていたのか、知りたくて。 どうしてって。 早退するつもりだったから、だけれど? 早退……さぼりじゃ、なくて? 早退よ。 形の上ではね。 なんて言って? 気分が、優れなくて。 それで良いものなんだ……。 優等生、だもの。 あくまでもあの人たちにとっては、だけれど。 生徒指導室に呼ばれたのに。 一度くらいで揺らぐものではないの。 ゆ、優等生……。 ええ、そうよ? だけど、それももうやめるつもり。 やめることは、ないと思うけど。 その方が何かと都合が良いと思うし。 だから、それを利用するの。 これからは、ね。 うわぁ。 なに? 水野さんなら軽く出来そうと思って。 ……。 水野さん? ……木野さんの、影響。 え、あたしの?どこら辺が? 自分で言うのもなんだけど、先生達からの信用なんてないに等しいよ? ええ、先生達には散々な言われようだったわ。 あー……容易に想像出来る。 そんなのを聞かされたところで、私は不愉快になるだけ。 それがあの人達には分からないの。 ……。 木野さんの何が分かると言うの。 うわべだけで判断して、その本質を見ようとしないだなんて。 教師なのに、それで良いと思っているのかしら。 ……辛辣。 私にしてみればあの人達なんかよりずっと、木野さんの方が。 ……あたしの方が? ところで、木野さんの鞄は学校よね。 話、逸らされた……。 どうするの、鞄。 うーん、どうするかな……こっそり、取りに行こうかな。 あら、一応は気にしてるの? そりゃするよ。 鞄が残っていたら面倒だろ、色々と。 ふふ、そうかも。 う。 なに? ……さっきからずっとかわいいな、と思って。 それで時々、手が止まっていたの? ……それも、ある。 それも? ……ほとんどが、それ。 そう。 ……。 木野さんだけよ。私のこと、そんな風に思うのは。 周りの奴らの見る目がないにも程がある。 どう考えても節穴過ぎる。 ……蓼食う虫も好き好きとは、言うけれど。 或いは水野さんがただ単に、そういう感情に鈍いだけってこともあるんじゃないかな。 興味なかったんだもの、しょうがないじゃない。 それに、そんなことをしてる暇もなかったの。 うん……だよね。 そもそもどうしてそんなに恋人が欲しい欲しいと騒ぐのか、私には理解出来なかった。 男子と女子が一緒にいるだけで色めきだって、あることないことを面白可笑しく広めたり。 勝手に騒ぎ立てられて、それが嫌だと感じる人だっているでしょう?一体、それの何が面白いと言うの? ひたすら迷惑なだけじゃない。 あ、いや……まぁ、そうやって騒ぐような子達は恋愛脳なんじゃないかな。 恋愛脳? そ。 大体の中学生なんて、そんなものだろ。多分。 木野さんも? あたしは……まぁ、水野さんのことが好きだし。 違うとは、言い切れないかも。 木野さんは違うと思うわ。 え。 だって、私にしか興味がないでしょう? ……。 違った? ちが……わない、かな。 じゃあ、違うわ。 誰彼構わず、面白がってるような人達とは。 ……。 それで、どこが分からないの? 今は、とりあえず、大丈夫……うん。 木野さん、図形が苦手よね。 あと、関数も。 うん、そうなんだ。 正しい式さえ立てられれば、ちゃんと計算は出来る。 読解力があるから、文章問題もそこまで躓くことはない。 だけど苦手なんだよなぁ、数学。 苦手意識が強いのかもしれないわ。 でも、大丈夫。 ……。 もっと私とお勉強、しましょうね? ……はい。 そして、同じ高校に行きましょ。 え、水野さんと同じ高校? それはちょっと、と言うより大分厳しいかと。 良いの、私と別々になっても。 そりゃ、同じ高校に行けたら良いなとは思ってるけど……。 私が木野さん以外のひとに興味を それはやだ、だから毎日迎えに行く。 毎日は、流石に。 だったら、週に四回は行く。 それはほぼ毎日、ね。 塾にも迎えに行って、週末には泊まりに来て貰って、一緒に過ごす時間を増やす。 そこまでするの。 しなくても、それくらいの気持ちはあるってことだよ。 ……。 ……やなんだよ、どうしても。 ……。 そ、そんなじっと見られても……。 ……ふふ。 それくらい、好きなんだ……しょうがないだろ。 本当に好きなのね、私のこと。 そ、そうだよ。 知ってるだろ。 えぇ……知ってるつもり。 つもりって……。 ふふ……ふふ……。 ……あぁ、もう。 さ、お勉強の続きをしましょ? ……節穴ばかりで、良かったな。 え、なぁに? 水野さんの周りにいる奴らが見る目のない節穴ばかりで良かったって言った。 おかげで水野さんの可愛さを知ってるのは、多分、世界であたしだけだから。 ……。 ねぇ水野さん、少し休憩しないかい? おやつでも作るよ。まぁ、簡単なものになっちゃうけど。 頭が疲れた時はさ、やっぱり甘いものだろ? ……待って。 ん? あ、まだ、休憩だめ? ううん。 そ? ねぇ、木野さん。 なんだい? ……。 水野さん? ……私のもの、少しだけ置いても良い? うん? この部屋に……その、着替えとか。 ……うん? だめ……かしら。 いや、良いけど。 良いけど、急にどうしたの。 その方が……何かと都合が良いと思って。 都合……。 今後……増えると思うの。 増える……それは、若しかして……。 ……木野さん、私が泊まりにくれば嬉しいでしょう? そ、そりゃ、嬉しいよ。 すごく、嬉しいけど。 ……けど? い、良いの? なにが? この部屋に、水野さんのものを置いても。 それは私の台詞だわ。 は、歯ブラシとか、マグカップとかも? 歯ブラシは、必要ね。 ずっと借りているわけには 今使ってるのを、水野さんのものにすれば良いんだよ。 ほら、だって、あたしが使うわけにはいかないだろ? ……。 こっちとしてみれば、そうなったら良いなって思ってたし。 ……使おうと思ったことが? ないよ!!流石に!!! ……。 本当だよ、いくらあたしでもそれは 木野さん。 し、信じて。 信じてるわ、誰よりも。 え……。 ……信じてる、から。 水野、さん……? ……。 え、えと……お母さんは、大丈夫? 大丈夫よ。 あぁ、そう……。 ……お金のことも、心配しないで。 お金?どうして? 泊まることが増えたら……食費ぐらいは、出さないと。 え、良いよ、そんなのは。 だめよ、そこはちゃんとしないと。 けど、まだ中学生だろ。 使えるお金と言ったら、それはお母さんが そうよ、母が稼いだものよ。 だったら、 一万円。 ……え? それが私の、一週間の食費。 ……どういうこと? 私、母が作った料理をあまり食べたことがないの。 あのひと、ほとんど作らない……と言うより、作れないから。 ……。 仕事人間だから家に帰ってきても仕事ばかりしていて、食事なんて二の次。 たまに私を連れ出して、外食をすることはあったけれど。 ……それで、お金だけを? ええ。 出来合いのものばかり、食べていたの? もちろん、自炊も少しはしたわ。 上手に作れているかどうかは分からなかったけれど、食べられればそれで良かったし。 効率を考えて何かを作るのは楽しかった。 ……そっか。 お金はいつも余るの。 私、そんなに食べないから。 水野さん、食が細いもんね。 それもあるけど……。 ……ひとりで食べても、美味しくなかった? ……。 ……。 ……だから、 それでも。 ……。 それでも、受け取れないよ。 ……どうして。 水野さんのお母さんは、水野さんを やめて。 ……。 ……やめて、お願い。 ごめん……。 ……。 あの、水野さん、お金のことは……ごはんは一人分より二人分作る方が経済的だし、ね……? それに毎日ではないのだから……。 ……。 ……水野さん。 早く、大人になりたい。 ……あ。 そうすれば……。 ……。 ……ごめんなさい、木野さん。 やっぱり、 分かった。 ……え。 幾らかは、貰うことにする。 ……。 そのお金は水野さんの食費なんだろ。と言うことは、だ。 水野さんがあくまでも自分の為に使うのであれば、誰からも文句を言われる筋合いはない。 あたしが、言わせない。 でも、さっきまでは、 考えが変わった。 それじゃだめかい? う、ううん……だけど、本当に。 それに、食費以外にも何かと必要だろ? その……泊まりに来る回数が、増えるなら。 ……。 あ、食費以外に使ってはだめなのかな。 ううん、そんなことはないわ。 生活に必要なものならば、そこから出すようにしていたし。 なら、決まりだ。ね。 うん……ありがとう、木野さん。 どういたしまして、水野さん。 ……。 ……。 ……。 えと……ねぇ、水野さん。 ……なぁに。 あの、あのね……若しかして、だけど……。 うん……。 水野さんは、あたしのこと……。 ……。 話の、流れとか……その、考えると。 ……。 あ、あと、恋愛に関して興味なかったとか暇もなかったとか理解出来なかったとか、妙に過去形ばかりだっただろ? それって今は違うってことなんじゃないかって……。 ……やっぱり、気が付いてた。 勝手に騒ぎ立てたりするのは今でも好きではないし、そういう人達を良く思っていないのは変わっていないのだろうけど。 ……何が、言いたいの。 だ、だから…………水野さんは、あたしのことが……その、好き……なのかなぁって。 ……。 あ、いや、あたしの思い違いだよな、うん。 と言うかなに言ってんだろ、あたし。 ……。 えーと……おやつ、作ってくるね。 な、何が良いかな……。 ……思い違いでは、ないわ。 え、な、なに。 ねぇ、木野さん。 な、なんだい、水野さん。 在天願作比翼鳥、在地願為連理枝。 ……。 ……この意味が、分かったら。 それ、白楽天の長恨歌の一節だろ。 ……。 言ったろ……あたし、これでも読書家なんだって。 ……えぇ、聞いたわ。 忘れちゃった? ……私が忘れると、思う? いや、思わない。 ……意味は、分かるの。 分からないと、思うかい? ……分からないわ、そんなの。 水野さんは未だ、あたしのことを知らないみたいだ……。 ……木野さんだって、私の何を知っているの。 うん、まだまだ知らないことばかりだ……だから、もっと知りたいと思ってるよ。 ……。 水野さんは……? ……。 ……あたしのこと、もっと知りたい? 知りたいと、思う……? ……思う、わ。 じゃあ……知って。 ……木野さんも。 うん……。 ……もっと、教えて。 うん、幾らでも……だから、水野さんも教えて欲しい。 ……ん。 ……。 ……。 ……良い? ……。 キス……しても。 ……だめ。 そっか……。 ……図書室で、してくれなかったから。 あー……。 ……だから、また言うわ。 ん……? ……キス、して。 ……。 今度は、して……ん。 ……。 …………も、ぅ。 ……好きだよ、水野さん。 -忘れえぬ想い(前世) あたしは君の名前を知らないし、今聞いたところで、屹度憶えることも出来ない。 興味が、無いから。 ……。 それじゃあ。 ……。 あー、参ったなぁ。余計な時間を取られてしまった。 えと、この時刻なら……多分……。 ……これで、何人目かしら。 お? 泣いていたわ。 マーキュリー、丁度良かった。 今から探しに……じゃ、なくて、会いに行こうと思っていたんだ。 士気に影響が出たら、問題なのだけれど。 うん、何の話? あたしならいつだって行けるけど。 知ってる、私が言ってるのは貴女のことじゃない。 え、じゃあ誰? あたしの知らない奴? はぁ……貴女、それでも四守護神のひとりなの。 一応、然うだよ。 あの子、貴女の下に居る子でしょう。 え、然うだっけ。 然うよ。 どうして憶えていないの。 んー……入ったばかり、とか? そんなわけ、ないでしょう……覚えが悪いにも程があるわ。 影が、薄いとか。 それなりの結果は残している。 少なくとも、私が知っている程度には。 マーキュリーが知らないことってあるの。 ほとんど無いんじゃない? 色恋沙汰については知らないわ。 色恋沙汰、かぁ。 ……告白、されたのでしょう。 多分。 貴女ね……。 されたところで、興味無いし。 ……もう少し、やりようがあるでしょう。 でも、ちゃんと言った方が良いじゃないか。 然うだけれど、言い方が マーキュリー。 ……何。 気にして呉れているの? 別に。 怒ってる? いいえ。 じゃあ、拗ねてる? ジュピター。 ところで今、暇? そんなわけ、ないでしょう。 けど、あたしとこうやって話して呉れてる。 それってさ、時間に少しだけ余裕があるってことだろ? そんなもの、無いわ。 あ。 無駄な時間を過ごしてしまった。 待って、あたしも行く。 貴女は、これから。 う。 プリンセスの体錬。 今から向かわないと間に合わない。 ……。 はぁ……その忘れっぽさ、もう少しなんとかして。 マーキュリーのことだったら、憶えているんだけどな。 ……。 マーキュリーのことなら、憶えられるし。 はぁ……ジュピター。 私のことはどうでも良いって? けど、あたしにとってはどうでも良くないんだ。 出来るだけ、忘れたくない。 もう良いわ……時間の無駄にしかならない。 貴女も急いで。 ねぇ、マーキュリー。 そして、あの子のことは貴女が配慮して。 え、どうして? 貴女の下に居る子だからに決まっているでしょう。 えー。 あの状態だと暫くは影響が出るかも知れない。 万が一、それが長く続くようだったら、戦力低下も避けられない。 あれくらいで? 民の数が限られているこの月の王国で、人的資源はとても貴重なもの。 使い物にならなくなれば、それが仮令一時と言えど、 そこまで大袈裟なことになるの? そんなに大仰なこと? ひとの心は不安定で脆いものでもあるの。 色恋に関しては、特に。 ふぅん。 ……本当、嫌になるわ。 それでも、壊れるよりは良いと思うけどな。 壊れちゃったら、それこそ、使い物にならなくなってしまう。 ……。 ね、然うだろ?マーキュリー。 ……兎に角、出来るだけ早く、 それは、あたしじゃない方が良いよ。 と言うより、あたしがやるべきことじゃない。 ……どうして。 あたしには何も出来ないよ。 彼女は貴女の下に居る者なのよ。 然うだね。 だけど、これに関してはあたしに出来ることなんてひとつもない。 してあげようとも、思わない。 ジュピ だったら、抱けば良い? それで、壊せば良いの? ……ッ。 それは、やだなぁ。 とてもじゃないけど、そんな気分にはなれない。 マーキュリー以外の奴に触るのも触られるのも、どっちもごめんだ。 ……どうして然うなるのよ。 それが、ジュピターだから。 ……。 それに然う言われたんだ、一度だけでも良いって。 あたしは一度だけでも嫌だ。 ……。 あたしにとって、大切に出来るのはマーキュリーだけなんだ。 他はどうでも良い。 ……他にもやりようがあるでしょう、もう少し頭を使って。 んー……。 抱くとか、抱かないとか……然ういうことじゃ、ないの。 どうして、ジュピターという者は……。 うん、やっぱりあたしには無理だ。 他の誰かに任す。 ……もう何でも良いから、配慮だけはして。 分かった、誰かに言っておく。 絶対に、忘れないで。 うん。それ、なんだけど。 何よ。 いい加減、 また言ってよ。 確実に忘れちゃうから。 ……。 と言うわけでこの後、何処に居る? ……教えると思ってるの。 会いに行っても良い? プリンセスの体錬が終わったら。 ……。 良い? ……終わったら、プリンセスとお茶会をするのでしょう。 え。 ジュピターと約束したって。 プリンセスはとても喜んでいたわ。 ……あー。 がっかりさせるつもりなの。 いや……分かった。 でも、どうするかな……何も、考えてなかった。 忘れるくらいなら、約束なんてしないで。 約束した時は憶えていたんだけど。 果たすまで、忘れないで。 プリンセスは貴女のことが マーキュリーも来られない? ……は? お茶会。 おいでよ、プリンセスも喜ぶ。あたしも、忘れない。 私は プリンセスには言っておくから。 じゃ。 ちょっとジュピター。 がっかり、させる気かい? 勝手に決めないで。 待ってるよ、マーキュリー。 それとも呼びに行った方が良いかな。 その為には何処に居るか聞いておかないと。 だから、 それと今夜、部屋に行くから。 は……。 行くから、逢いに。 ……。 待ってて。 ……勝手なことばかり、言わないで。 それで、何処に居る? ……いつもの場所。 ん、分かった。 じゃあ、迎えに行くね。 ……。 好きだよ、マーキュリー。 ……あぁ、もう。 あはは。 良いから、早く行って。 うん?なに? ……だから、手配しておいたと言っているの。 てはい?なんの? 戦、近いの? ……やっぱり、忘れてる。 んーー……。 ……けれど、無用だったわ。 うん? ……どうして、そんな直ぐに。 マーキュリー? ……貞操観念って、どうやったら育めるのかしら。 ていそう、かん? って、なに? ……この国には無いものよ。 んん? マーズくらいね、それを持っているのは。 マーキュリーは? ……。 マーキュリーは、持ってないの? ……。 ……持ってる? 私は……然う言ったことは、好まない。 然う言うことって? てい、そ……なんだっけ。 ……違う。 じゃあ、なに? ……言いたくない。 そっか。 ……。 マーキュリー。 ……なに。 あたしは、マーキュリーだけだよ。 ……知ってるわ。 うん。 ……ジュピター。 好きだよ、マーキュリー。 ……それも、知ってる。 ん。 はぁ……。 ……きれいだなぁ。 務めは、果たすから。 ……ん? 済んだら……帰って。 ……。 ……未だ、仕事が残っているのよ。 しないよ。 ……だったら、何の為に来たの。 マーキュリーに、逢いに。 言わなかったっけ。 ……それだけの為に。 いつも、然うじゃない。 ……。 今夜は此処で寝るよ、良いだろう? ……駄目だと言っても、どうせ聞かないくせに。 マーキュリーが本当に嫌だと言うのなら、帰るよ。 ……。 居ても、良い? ……邪魔だけは、しないで。 ん、分かった。 ……。 疲れてる? ……いいえ。 何か淹れようか。 ……結構よ。 お茶の葉、持ってきたんだ。今、淹れるよ。 仕事しながら、待ってて。 ……要らないのに。 然ういえばお茶会で出したの、どうだった? ……どうだったって。 美味しかった? ……プリンセスは喜んでいたわ。 あたしが聞いてるのはマーキュリーの感想だよ。 ……。 美味しく、なかったかな。 ……美味しかったわ。 そっか、良かった。 マーキュリーの好みに合わせたんだ。 ……プリンセスを蔑ろにしたと言うの。 蔑ろにはしてない。 ちゃんと喜んでいたろう? ……。 はい、お待たせ。 気持ちが落ち着くお茶、熱いから気を付けてね。 ……すっかり、馴染んでるわね。 うん? この部屋に。 えへへ、然うかなぁ、然うだったら嬉しいなぁ。 ……。 この部屋に居るとね、落ち着くんだ。 ……私は貴女が居ると、落ち着かないわ。 マーキュリーのにおいがする、ずっと此処に居たい。 ……迷惑よ。 うん、だから我慢してる。 ……仮に。 うん。 貴女がこの部屋で生活するようになったら……貴女の部屋に居る子達は、どうするの。 もちろん、ちゃんと面倒は見るよ。 なんだったら、あの部屋をあの子達専用にすれば良い。 あたしは毎日、この部屋から通うんだ。 ……馬鹿々々しい。 あたしは本気だよ。 本気で然うなったら良いと思ってる。 ……。 ……~~♪ ちょっと。 ん、なに? もう、寝る? 寝ない。 おかわり、要る? 未だ飲み終わってない。 美味しい? 気に入って呉れたら 歌わないで。 え? 歌わないで、気が散るから。 ん、歌ってた? 無意識なわけ、ないでしょう。 んー…………。 ……邪魔をするのなら、 ねぇ、マーキュリー。 ……。 ていそう、かんねん、だっけ? ……それが、なに。 それは無くてはいけないもの? 然うだとしたら、どうして? ……そもそも貞操観念がどういったものか、ちゃんと分かっているの。 ううん、分からない。 分からないのに、私だけって言ったの。 うん。 ……何よそれ。 ね、あたしにはある? ……。 無い? ……私だけ、なのでしょう? うん? ……抱きたいと、思うのは。 うん、然うだよ。 他のひとには触るのも触られるのも嫌なのでしょう? うん、嫌だ。 気持ち悪い。 ……だけど、しようと思えば出来る。 うん、ジュピターだからね。 ……だとしたら、無いわね。 けどしないし、出来ないよ。 出来るって言ったじゃない。 あたし以外のジュピターの話。 私が聞いているのは あたしは、出来ないよ。 ……。 たったひとりだけ、その子だけをずっと。 子供の頃に然う、決めたんだ。 ……貴女だって所詮はジュピターじゃない。 うん。 熱が、どうしたって籠るでしょう。 今だって。 ねぇ、憶えてるかな。 ……何を。 あたしの、師匠。 ……。 あのひともねぇ、ひとりだけだったんだよ。 ……。 マーキュリーの先生、そのひとだけ。 ……だから、何。 然ういうジュピターが居たって良いじゃない。 ……悪いなんて、言ってないわ。 うん、然うだった。 ……。 ん、マーキュリー? ……大丈夫なの。 ん、何が? ……ずっと、してないでしょう。 ……。 本当に……ん。 ……あたしのこと、もう一度好きになって。 ……。 務めとか、然ういうのじゃなくて……心から、愛し合いたい。 ……私は、もう。 どうしても……だめなのかな。 ……。 ……なら、待ってるよ。 ずっと、待ってる……。 ……? へへ……。 ジュピター、貴女……。 ……なんでもないよ。 うん……なんでも、ない。 熱い……。 なんでもない……これくらい、なんでもない……。 貴女、やっぱり躰に熱が籠って 大丈夫、寝れば治まるよ……マーキュリーと、眠ることが出来れば……だいじょう、ぶ……。 ジュピター! ……それより、しごと。 動けるうちにベッドに行って。 私じゃ、貴女を運べない。 いやだ……ここで、まってる……。 我儘言わないで。 わが、まま……。 聞き分けて、ジュピター。 私達はもう、こどもじゃないの。あの頃のようには、もう……。 あぁ、ここはほんとうにマーキュリーのにおいがする……いいにおい、だな……。 ……。 マーキュリー……ねぇ、マーキュリー……むかしの、きみのへやを、おもいだすんだ……。 ……。 あのへやも、きみのにおいがして……あのへやに、いると……いつも、あんしんした……きみが、いてくれたから……。 ……。 すきだよ……だいすき、なんだ……ずっと……あいたく、て……また、あえたのに……また、あえたから……きみ、と……。 ……好きに、して。 ん……。 私を、好きにしても良いから……だから、お願いよ。 ……ううん、しないよ。 どうして。 ……あいし、あいたいんだ。 ……! あのころ、みたいに……こどもだった、あのころの、ように……。 ジュピター……! ……だから、しない。 いまは、まだ……しない……できない……。 そんなこと、言ってる場合じゃないでしょう……! ……。 どうして、黙っていたの。 ……。 とっくに限界だったのでしょう……それなのに、どうして。 ……つとめとか、いやなんだ。 だと、したって……! いや、なんだ……どうして、も……。 このままだと、貴女……壊れてしまうかも知れないのよ……。 まだ、こわれないよ……。 ……いっそ、私以外の誰かで やだ。 ……。 ……いわせないでよ、もう。 ジュピター……。 はぁ…………。 ……。 だけど……もう、かなわないの、なら。 やめて。 ばかなこと、言わないで。 ……ほんき、だよ。 知ってる。 だからお願い、やめて。 だって……だめなんだよ、マーキュリー。 ……。 つとめじゃ、だめなんだ……。 どうしてだめなの、ジュピターとマーキュリーはずっとそうして……。 とっくのむかしに、だめになってたんだよ……あたし。 ……そんな、こと。 あたしのねつは、もう、はれることは、ないんだ……マーキュリー。 そんなことないわ、あってはならないのよ。 あたしはやっぱり、かけてたんだ……。 ジュピター……お願いだから、言うことを聞いて。 ごめんね……マーキュリー……あたし、こまらせて、ばかりだ……。 ……ほんとう、よ。 しごと、のこってるんだろう……あたしのことは、いいから……。 ……出来ない。 うん……? あなたを放っておくことなんて、出来ない。 ……。 ……出来るわけ、ないじゃない。 せんりょくが、ていかしちゃうから……ね。 だけど、だいじょうぶだよ……あたらしい、ジュピターがくる……そう、すれば……。 ユゥ。 ……。 ……嫌よ、そんなの。 メル……? ……貴女以外のジュピターに務めを果たすくらい、なら。 メル……。 代わりなんて居ない。 然う言ったのは、言って呉れたのは……ユゥ、あなたじゃない。 ……おぼえていて、くれたんだ。 忘れるわけ、ない。 そっ、か……へへ、うれしいな……。 ……終わる時は、一緒だと。 あぁ……なら、もう、いいかな……。 ……ユゥ、やめて。 だいじょうぶ……おいては、いかないよ……。 ……。 ベッドに、いくね……。 ……。 でも、しばらくは、こないで……ちょっと、みせられないこと、するから……。 ……。 ……ごめんね、マーキュリー。 よごしたら、せんたく、するから……あぁ、あたらしいほうが、いいか……。 ユゥ。 ……ん。 私を、抱いて。 ……できないよ。 出来るわ。 ……。 ……わかって、いたのに。 メル…………。 ……抱いて、ユゥ。 でも、だって……。 ……好きに、されたいの。 ぁ……。 ……わたしが、そう、のぞんでいるの。 メ、ル……。 ……もう言わせないで、ユゥ。 ……。 ……行きましょう。 まっ、て……。 ……。 つれて、いきたい……。 ……無理よ、今のあなたじゃ。 そんなこと、ないさ……。 ……ぁ。 …………ね。 ユゥ、あなた……。 ……けど、ずっとはむりみたい。 あたり、まえよ……ばか。 はは……。 ……むりは、しないで。 うん……。 ……。 ……はぁ。 ユゥ、おろして……。 ……ん、へいきだよ。 ……。 ……さぁ、ついたよ。 ん……。 ……好きだよ、メル。 ……。 メル、は……ん。 ……いまは。 い、い……? ……きかないで。 け、ど……。 ……はやくわたしをあいして、ユゥ。 ぁ……ぅ……。 ……わたしも、あなたを。 -Baby Leaf(前世・少年期) ……なに、してるの? んー? あ、あの……ごめんなさい。 どうしてあやまるの? わるいことなんて、なんにもしてないよ? う……。 うん? ……ごめん、なさい。 あ。 ……。 まって、ここにいて。 ……で、も。 メル。 …………。 となりに、すわって? ……でも、わたし。 メルにいてほしい。 いても、いい、の……? もちろん。 さ、メル。ここ、ここにきて。 ……う、ん。 うん、よかった。 ……なに、してたの。 あのね、青い星を見てたんだ。 あおいほし……? うん、今日も青くてきれい。 メルもそう思わない? ……きれい、なの? うん、きれいだよ。 メルとおんなじ、きれいな青色。 わたしと、おなじ……。 でも、メルのほうがきれいかも。 え。 えへへ。 そ、そんなこと、ないわ……あの星の青の方が、ずっときれいよ……。 んーん、メルの青の方がきれいだよ。 う……。 ……ほら、とってもきれい。 ユ、ユゥ……。 ね、どうしてこんなにきれいなの? こ、この色は、その……マーキュリーの、いろ、だから……わたしが、とくべつ、きれいなわけじゃ……ない、の。 んー? せ、せんせいも、おなじいろ、だし……その、ずっと前から、マーキュリーは……このいろ、で……。 マーキュリーのことは、よく、わかんないけど。 メルの青は、とってもきれいで、すきだよ。 あ、う……。 あれ、赤くなった。 …………。 青だときれいだけど、赤だとかわいいね。 ……。 メル? ……ユゥの、みどりも。 うん、なぁに? ユゥの、みどりも……とっても、きれいよ。 あたしのみどり? ……ひとみの、いろ。 あぁ、目の? う、うん……。 そうかな、きれいかな。 そ、それから、かみのいろ、も……。 ふぅん……。 ……とても、すてきだとおもうわ。 ね、すき? え……? あたしの色。 ……。 すき? ……す、き。 そっか! ……あ、あのね。 うん。 あおい、ほしには……みどりがたくさん、あるんだって。 それは、とてもうつくしいものだって……せんせいが、はなしてくれたわ。 へぇ、そうなんだ。 ……いつか、いっしょに。 ここは、色があんまりないから。 ……。 少し、羨ましいな。 ……そう、ね。 他にはどんな色があるんだろ。 ……いろどりに、あふれてる。 ん? 青と緑だけじゃない、赤、黄、紫、橙、桃……それから。 そっか……見てみたいな。 ……。 そうだ。ねぇ、メル。 いつか一緒にあの星に行こうよ。 え……。 ふたりで、行こう。 それで、たくさんの色を見よう。 わ、わたしと、ふたりで……。 そう、ふたりで。 ……わたしで、いいの? メルと行きたい。 ……。 みどり、かぁ、ここからじゃ見えないなぁ。 ……いっしょにいっても、いい? うん、行こう。 約束。 ……うん、やくそく。 へへ、やった。 ……。 ねぇ、メル。 あの白いのは、なに? ……しろいの? そう、青を隠してる、あれ。 あぁ……あれは、雲。 くも? それって、なに? 雲は……え、と、空中に浮かぶ水や氷の小さな粒の集まりなの。 へぇ。 海……あの青はすべて水なのだけれど、 あれ、水なの? ええ、そうよ。 へぇぇ、すごいなぁ! あの青や地面から水が蒸発すると、水蒸気と呼ばれるものになって空気にとけこむの。 水蒸気は普段、目には見えないんだけど……。 へ、へぇ? その空気が上空にのぼって冷えされると水や氷の粒になるの。 それらがたくさん集まって白く見えるようになったのが、雲。 な、なるほど? ユゥ、水を沸かすと何か見えたりしない? え、なんだろう。 白いものが見えたりしない? あ、うん、見える。 あれもね、水蒸気が冷えて白く見えるようになったものなの。 へぇ、そうなんだ。 じゃあ、雲と同じなの? 発生する機序は同じよ。 ……きじょ? えと……仕組み、かな。 しくみかぁ、なるほど。 ……水や氷の粒の量が足りなくて、ずっと冷やされているわけでもないから、湯気はすぐに拡散されてしまって浮かぶことはないの。 その点が雲との違い。 ね、水蒸気は冷えるとどうして白く見えるようになるの? それはね、光が関係しているの。 光? うん、光。 ふぅん。 雲の話に戻してもいい? うん、いいよ。 雲は水や氷の粒で出来ているのは先に話した通りなんだけど。 うん。 その粒に太陽の光が反射することによって、白く見えるようになるの。 だから雲の本来の色は無色透明なんだって。 じゃあ、太陽の光って白いの? ううん。太陽の光は赤、橙、黄、緑、青、紫などの、色の可視光線の集まりなの。 色んな色の集まりってこと? 然う。本当は可視光線だけではないのだけれど、ここでは割愛するわね。 じゃあなんで白く見えるの? 可視光線が混ざると、白く見えるようになるの。 雲の中には黒く見えるものもあるのだけれど、それは太陽の光が雲の中でどのくらい散乱して、どのくらい透過することが出来るかで雲の色が決まるから。 え、えーと。 例えば、青い星から見る空に青や赤、紫や橙があるのは……? ……。 ……ユゥ? とりあえず。 ……とりあえず? メルと一緒に、それを全部、見たい。 ……。 約束? ……ん、やくそく。 ふふ、楽しみだなぁ。 あの……ユゥ? なぁに? その……わかりづらかった? うん、難しかった。 ……ごめんなさい、もっと上手に説明出来ていれば、 んーん、メルは悪くないよ。 あたしの頭が悪いだけ。 ううん、わたしが悪いの……わたしがもっと、上手にできれば……。 ふむ……。 ……ごめんなさい、ユゥ。 あたしもメルと一緒にお勉強しようかなぁ。 ……。 ね、メル、お勉強って楽しい? うん……たのしい。 知らないことを知るのは……すごく、たのしいの。 そっか……じゃ、してみようかなぁ。 あの……いっしょに、する? と言っても、メルの先生の話はあたしには難しすぎるから。 メルに教わろうかな。 わ、わたしに? うん。 で、でも、わたしより、 メルがいいんだ。 ……。 あたしのマーキュリーはメルだから。 ずっと、メルだから。だから、メルがいい。 ユゥ……。 あ、でも、いやだったら言ってね。 う、ううん、いやじゃない……いやじゃ、ないわ。 そっか……へへ、よかった。 ……。 ん……メル? ……あの、ね。 つかれた? ……ううん、へいき。 そう? うん……だけど。 なに? ……すこしだけ、ほんのすこしだけ……こうしてても、いい? いいよ。 ……ありがとう。 ふふ……メルのにおい、いいにおい。 ……ぁ。 くっついてると……よく、わかる。 ぅ……。 ね……あたし、すきだよ。 ……え……ぇ? メルのにおい……とっても、やさしいにおいがする。 こうしてると、なんか、おちつく……。 わ、わたしなんか、そんな……。 だいすきだ。 …………。 ……ん、メル? わ、わたし、わたし……。 なぁに、メル。 ……わたしも……す、き……。 ほんと? あたし、くさくない? ……くさくなんて、ない。 ……。 その……すき、よ……ユゥ……が……。 メル! ……きゃ。 ふふ。 ユ、ゥ……? ……もっとくっついたら、もっと、よくわかるよ。 ……。 ね……。 ……。 ……~~♪ ……? ~~~♪ ……うた? ~~♪~~~~♪ ……きれい。 ん……メルも、歌う? わたし、は……しらない、から。 へぇ……メルでも知らないこと、あるんだね。 わ、わたしなんて、まだ……ぜんぜん、だから……。 ぜんぜん……? な、なかなか、おぼえられなくて……きょう、ならったことだって……。 んー…………。 ……せんせいを、こまらせて、ばかりで。 どうして? わたしが、もっと……もっと、ゆうしゅうだったらって……。 んんー……。 ……かわりは、いくらでも、いるから。 このままだったら、わたし……でも、きっと、そのほうが……。 歌、教えてあげよっか? ……え? で、一緒に歌お? で、で、でも、わたし……。 メルの声で歌ったら、とってもきれいだと思うんだ。 だって、話してる声がきれいだから。 な、な……。 あたしもね、すぐに忘れちゃうから。 メルの気持ち、ちょっとだけ分かるんだ。 ……。 ね、メル。 ……な、に。 これからも色々、教えてよ。 あたしさ、メルが教えてくれることなら、忘れないような気がするんだ。 ……。 たとえば、今日習ったのとか。 昨日習ったのでも、いつのでも、いいんだ。 勉強のことだけじゃない、メルのことも、知りたい。 わたしの、こと……。 もっと、知りたい。 今よりも、もっと、もっと、もっと。 ……わたしのこと、なんて だって大好きなんだ、メルのこと。 ……。 大好きなひとのことを知りたいって思うのは、当たり前のことなんだよ。 だい、すき……わたしの、こと、が? うん、誰よりも好き。 い、いろじゃ、なくて……? 色も好きだよ。 ……においじゃ、なくて。 においも、大好き。 ……。 メルの色が、においが、あたしは好き。 これってさ、メルのことが好きだからだと思うんだ。 …………わたし、なんかを。 なんかじゃ、ないよ。 あたしの大好きなひとだよ。 ……。 だからメルの声で、聞かせてほしいんだ。 ……ユゥ。 それにほら、えと、なんだっけ。 お勉強には、ふ、ふ、ふ……が、大事だって。 ……復習? そう、それ。 それになって、いいんじゃないかな。 ……。 あれ、ちがったっけ? ううん……ちがわない。 じゃ、じゃあ? ……ふふ、たしかに復習にいいかも。 ね、ね、いい考えでしょ? ええ……とても。 ふふ、やった。 ……ありがとう、ユゥ。 あたしこそ、ありがとうって言わなきゃ。 これからよろしくね、メル。 うん……こちらこそ。 へへ。 ……ふふ。 歌、一緒に歌う? ……おしえて、くれる? もちろん! ……わ。 なんの歌にしようかな。 ……ッ、あ、あ、ぁ、ぁ……。 んー、あれがいいかなぁ。それとも、あれかなぁ。 ユ、ユ、……ユ……ゥ……。 ね、メルは……て、メル? …………。 メル?どうしたの?具合、悪い?どこか、痛い?おなか?あたま? ……ちか、い。 え、なに? ……かお、が……ちか……い……。 え、え? ……。 メル?メル?な……あ。 ……。 メ、メル、すごい、真っ赤だ……それに、あつい……こ、これって。 ……。 も、もしかして、びょ、びょうき……? え、あ、ど、どうしよう、あ、あたしじゃ……あ、そ、そうだ、せんせい、メルの、せんせい……! ……ち、ちが……。 い、いき、苦しい?苦しいよね? い、今すぐ、呼んで……ち、ちがう、あたしが、つれていくんだ、はやく、メルを ま、まって……。 メル、まってて、すぐにつれていって、あげる、から。 ち、ちがう、の、ユゥ、ちがう、から。 お、おんぶ、いや、だっこのほうが だ、だから、まって……わたしは、だいじょうぶ、だから……だから、まって……。 け、けど……。 びっくり、した、だけ、だから。 び、びっくり? びっくりって、なに?なにに、びっくりしたの? そ、それ、は……。 メ、ル……? ……ぁ、う……。 ……! や、やっぱり、だいじょうぶじゃないよ……!! ほ、ほんとう、に、だいじょうぶ……だいじょうぶ、だから……。 だめだよ、メル、帰って、メルの先生に見てもらわないと……このままじゃ、メルが ユゥ、わたしは、ほんとうにだいじょうぶ、なの……ただ、その 壊れちゃうよ……ッ。 ……! そ、そんなの、いやだ、いやだよ、メル……ッ。 ユ、ユゥ、お、おちついて、ユゥ。 あ、あたしのメルが……マーキュリーが……。 ユゥ、きいて……おねがい、きいて……。 そんなの、いやだ……いやだ……いやだよぅ……。 ユゥ、ユゥ……。 ……ひとりに、しないで。 ぁ……。 おいて、いかないで……マー……、リー……。 …………。 うぅ……ぅぅぅぅ……。 ……ジュピター。 ……。 落ち着いて……ジュピター。 ……だ、れ? わたし……私は、大丈夫。 ……マー、キュリー? ごめんなさい……ジュピター。 マーキュリー……。 ……大丈夫。 でも、でも……。 ……大丈夫よ、ジュピター。 本当、に……? うん……本当。 ……こわれ、ない? ん……今は、未だ。 ……。 ジュピター……。 ……はぁ。 私は、未だ幼いから……。 う、ん……。 ……。 はぁ……。 ……ユ、ゥ。 ……。 ……ごめんね、ユゥ。 ううん……メルが、だいじょうぶなら、いいんだ……。 ……。 …………よかった、メル。 ありがとう……しんぱい、してくれて。 そして、ごめんなさい……。 いい、んだ……メルが、だいじょうぶなら……それで、いい……。 ……。 ……よかったよぉぉ。 ユゥ…………。 う、う……。 ……。 ……あ、……きもち、いい。 えと……いやじゃ、ない? いやじゃない、きもちいい……。 ……。 ……もっと、して。 ん……。 ……へへ、やった。 ……。 はじめてだ、こんなの……すごく、おちつく……。 あの、ね……せなかをなでられると、ひとは、おちつくんだって。 ……。 せんせいに、おそわったの……せんせいも、よくしてあげるんだって。 そう、なんだ……へへ、ほんとにきもちいい。 ……ねぇ、ユゥ。 なに……メル。 ……おちついたら、うた、おしえて。 うん、いいよ……て、そうだった。 ……。 なにが、いいかな……。 ……さっき、歌ってたのがいいな。 さっき? ……うん。 ん、わかった……じゃあ、聞いてて。 え、もう……? うん、もうだいぶ落ち着いた……メルのおかげだね。 ……。 ね、聞いてて? ん……きいてる。 よし、それじゃあ…………~~♪ ……。 ~~~♪ ……ほんとうに、きれい。 ~~♪~~~~♪ ……。 ~~♪ ……すき。 ~~~♪、……。 ……だい、すき。 …………。 ……?ユゥ……? メル……。 ……ん。 …………ずっと、そばにいて。 ……。 あたしの、そばに……いて。 ……ユゥ。 あたし、あたしは……。 …………だいすきよ、ユゥ。 え、なに……? ……ううん、なんでもない。 え、と……。 ……ずっとそばにいても、いい? う、うん、いてほしい……メルに、いてほしい。 ……じゃあ、やくそくする? うん、する。 約束しよう、して、メル。 ん……それじゃ、やくそく。 そ、それでね。 ……? なぁに……? ま、また……せなか、なでて。 ……うん、いつでも。 や、やった。 ふふ……おおげさ。 だ、だって……。 ……つづき、うたって? う、うん……。 ……。 ……~~~~♪ -夢想(パラレル) ……まことさん。 はぁ……。 まことさん……。 ……大夫。 まことさん……まことさん……。 ……いい? ん……。 ……あぁ。 ……。 きれい、だ……大夫……亜美さ……。 まことさん? ……へ。 あぁ、やっぱり。 あ、あ……。 まことさん。 あ、亜美さ……ッ。 はい? あ、いや……。 会えて、良かった。 ……! 実は、今から会いに……あ、いえ、お伺いしようと思っていたんです。 あ、あたしに……? はい……あの、まことさん。 な、なに……。 若し、若しも、今夜、お時間があるようでしたら……良かったら、私の家に……。 ……ッ。 いつも美味しいお野菜を頂いたり、お料理をご馳走になってばかりだから……その、少しでもお礼がしたくて……。 ……。 ……? まことさん……? ……。 あの、どうしたのですか? 若しも、お加減が優れないのでしたら ……はっ。 え。 ち、ちがうんだ……! ま、まことさん? あ、いや、ちがう、ちがわない、 な、何がですか? な、何がって、だから、その、あの……そうじゃ、なくて……だから……。 どうしたのですか?まことさん。 ど、どうしたって、な、な、なにが……。 何か、あったのですか? な、なにか……いや、な、な、なにも……。 あ、あの、落ち着いて下さい。 あ、亜美さん……ッ。 は、はい。 …………。 ま、まことさん……? ご、ごめん!! ……え? あ、あたし、あたしは まことさん、その、良く分からないのですが……あ。 そ、そんなつもりじゃ、いや、そりゃ、ちょっとは……いや、だからって……。 ま、まことさん、何をして……顔を、顔を上げて下さい! そ、そもそも、まだ、なにも、なにも、つたえていないのに、どうして……どうして、あんな、ゆめを……。 一体、どうしたと言うの……額、額が地面に! そんなに擦り付けては怪我、怪我をしてしまいます! こ、これくらいじゃだめなんだ、もっと、もっと……! 兎に角、顔を上げて下さい!! あ、あたしは、なにを、かんがえて……。 まことさん!! ……ッ! 顔を、上げて!! は、はい……!! ……。 亜美さ……あ、いや、大夫。 ……何があったのか、話して呉れませんか。 ……。 まことさん。 ……は、話せません。 ……。 ご、ごめんなさい……だけど、とてもじゃないけど、話せない……。 ……然うですか。 だ、大夫……その……。 私に話せないこと、なのですね。 ……は、い。 然う……。 ……あ。 額から血が出ています。 手当てをしますから、私の あ、いや、これくらい大丈夫……。 でしたら、此処で手当てを。 じ、自分で! ……。 自分で出来る、よ。 ……。 大夫、忙しいだろう? だから、手を煩わせるわけには……。 ……分かり、ました。 ……。 患部と手をきれいな水で洗って……それから、このお薬を塗って下さい。 ……ありがとう。 じゃあ、私はこれで……お大事に。 う、ん……。 ……。 ……。 ……ごめんなさい。 え……? ……話し掛けなければ、良かった。 大夫……? ごめんなさい。 あ、大夫……! ……。 ま、待って……! ……。 待って、待って、大夫……! ……いや、離して。 あ、ご、ごめ……。 ……。 ……なみ、だ。 見ないで。 う……。 ……ごめんなさい、離して下さい。 ……。 手当て、ちゃんとして下さいね……。 ……ごめん、離せない。 ……。 大夫が、泣いてる……。 ……これは、埃が目に入っただけです。 今は、信じられない。 ……。 ……あたしのせいだなんて、そんな烏滸がましいことは、思ってない。 だけど、だけど、万が一、あたしが、あたしが悪いのなら……謝りたい。 まことさんは、悪くないですよ。 悪いのは、私です。 大夫は何も 帰り、ますから。 ……。 ……お願い、離して。 …………うん。 じゃあ……さようなら、まことさん。 さよう、なら……大夫。 ……。 …………大夫。 ……まことさん。 ……。 名前で、呼んで呉れて、嬉しかった。 ……。 呼ばれることなんて、屹度ないって……思っていたから。 だから……嬉しかっ ……。 まこと、さん……。 ……言葉には出来ないような、夢を、見ました。 ゆめ……? ……あたしが、大夫、に。 ……。 これ以上は、言えない……。 ……まことさんが私に何かをする夢、なのですね。 ……。 …………ねぇ、まことさん。 ……。 それは、まことさんにとって、悪い夢でしたか……? ……。 だったら……そんなに、気にしないで下さい。 いや、でも。 夢、なのでしょう? 夢なら、仕方がないじゃないですか。 けど、 私だって夢ぐらい見ます。 誰だって……見るんですよ。 ……。 それに、私は……まことさんの夢に出られて、嬉しい。 な……。 ……。 大、夫……。 ……やっぱり、私の家に来て頂けませんか。 ……。 手当て、したいですし……それに、お礼も。 大したことは、出来ませんが……それでも、ほんの少しだけでも、お返しがしたいと。 ずっと、思って……ん。 ……。 …………まことさん。 あたし、大夫に伝えたいことがあるんだ……。 ……なんでしょう。 あたし、あたしは、大夫のことが……む。 ……ごめんなさい、まことさん。 あ、あぁ……。 ……続きは、私の家で。 ……。 それでは……いけませんか。 ……そんなこと、ない。 でしたら……。 行っても、良いですか。 はい……まことさんさえ、良かったら。 ……大夫。 ぁ……。 大夫……。 ……なまえ、で。 ん……。 ……呼ん、で。 あぁ……。 ……まこと、さん。 亜美さん……好き、だ。 ……わたしも……あなたが……。 大夫? ……。 あの、大丈夫かい? ……はい、大丈夫です。 若しかしたら、疲れているんじゃないか? だとしたら、 本当に大丈夫ですから。 ……。 もう動いても良いですよ。 あ、うん……ありがとう、大夫。 もう、あんなことをしてはいけませんよ。 うん? きれいな肌を自分で傷付けるような真似は、もう二度と、しないで下さい。 ……。 まことさん、聞いていますか。 あぁ、うん……聞いているよ。 ならば、 うん、もうしない。ごめんよ、大夫。 ……。 えと、やっぱり大夫は手際が良いね。 あたしじゃ、こうはいかない。 ……念の為、患部を綿紗で覆っておきます。 取り替えるのは私がしますので、お手数ですが通って頂けると。 分かった、治るまで診療所に通えば良いんだね。 ……或いは、私がお伺いします。 いや、それは悪いよ。 こんな傷ぐらいで、大夫の手を煩わせるわけにはいかない。 いいえ、それが私の勤めですから。 勤め……。 ……もう暫く、待っていて貰っても良いですか。 え? 片付けと、それと支度をするので……。 あ、あぁ……幾らでも、待ってるよ。 ありがとうございます。 け、けど、その前に……あ。 ……。 ……やっぱり、さっき。 まことさん、お酒は飲めますか。 酒? あぁ、少しくらいなら。 頂いたものがあるんです。 如何ですか。 じゃあ、頂こうかな。 なんの酒なんだい? 柘榴酒です。 へぇ、柘榴か。 と言うことは、 はい、美奈子ちゃんの家で頂きました。 なるほど、じゃあ美味しいな。 然うなのですか? あぁ、あいつの家で作っている果実酒は美味しいんだ。 若しかして大夫、飲んでいないのかい? 私、お酒は飲めなくて……だから、頂いたままになってしまっていて。 断れば良かったのですが……押し切られて、しまって。 酒に弱いのかい? ……一口飲むだけでも、気分が悪くなってしまうんです。 然うか……それじゃ、困ったろう。 お気持ちはとても有り難いのですが……。 有難迷惑とも言うからなぁ。 そ、そこまでは……。 はは、良いんだよ。 美奈にはそれとなく言っておく。 あいつなら上手く言って呉れるだろ。 ……ありがとうございます。 いや、なんてことないさ。 あの、かえってまことさんに押し付けるようなことになってしまって そんな風には思っていないよ。 持て成して呉れようとしてるんだろう? ありがとう、大夫。 ……。 ところで、大夫。 ……はい。 何か手伝えることはないかい? ただ待ってるだけじゃどうにも落ち着かなくて。 いえ、どうか待っていて下さい。 支度はひとりで 大夫。 ぁ……。 ……大夫。 まこと、さん……。 ……やっと、目が合った ……ッ。 大夫……。 ……まことさん。 どうしても先に言いたいんだ。 酒が、入ってしまう前に。 ……。 大夫、あたしは……君のことが。 ……わた、し。 出逢った時からずっと……好き、だった。 ……! 好きだ……大夫。 ……。 ……大好き、だ。 ……。 答えは、今直ぐじゃなくて良い……ずっと、待ってるから。 ……。 ごめん……帰った方が、良いかな。 ……いや。 ん……? ……かえらない、で。 ……。 帰らないで……。 ……分かった、帰らない。 ……。 えと、やっぱり何か手伝わせて欲しい。 動いてないと、その、落ち着かない。 ……。 だめ、かな……。 ……なまえ、で。 うん? よん、で……。 ……大夫? なまえで、よんで……くれません、か……。 あ……。 どうか、名前で……。 ……。 ……う。 いい、かな……名前で、呼んでも。 ……よんで、ください。 ……。 よばれたい、の……。 ……亜美さん。 あぁ……。 ……好きだ、亜美さん。 どうか……どうか……この想い、君に届いて欲しい……。 ……。 ずっと、待ってる……だけど、迷惑だったら……。 ……ゆめを、みたんです。 え、ゆめ……? ……あなたに、なまえを、よばながら。 ……。 抱かれる、夢を……。 ……え? ゆめでも、うれしかった……うれしかった、の。 あ、亜美さん……。 ……ごめんなさい。 ど、どうして、謝るんだい……? 亜美さんは何も……。 ……。 ……あたしも、うれしいよ。 ……。 亜美さんの夢に出られて……嬉しいって、思って貰えて。 それってさ……それくらい、あたしのことを想って呉れてるってことだろう? ……。 ね……悪い夢では、なかったんだよね。 ……は、い。 ありがと……亜美さん。 ……お礼、なんて。 好きだよ……これからもずっと、亜美さんが好きだ。 ……。 ……夢に見るくらい、あたしは、君を想っている。 だけど……夢だけじゃもう、足りない。 ……。 ……亜美さんも同じ想いだったら、嬉しい。 わたし……わたし、も……ん。 ……。 …………あぁ。 ごめん……答え、聞いていないのに。 ……いいえ……いいえ……。 ほんとうに、ごめん……。 ……あやまらないで。 そんなかお、しないで……。 ん……。 ……こたえ。 ……。 ……きいて、くれますか。 聞くよ……それが、どんな答えであろうとも。 ……はぁ。 ……。 まことさん…………わたしは、あなたのことが……。 ……。 であったときから……ずっと…………ずっと……。 ……この命を、君に。 ……? ぇ……? ん……ずっと愛していると、言ったんだよ。 ……。 ……ごめんよ、つい。 ちゃんと……きいて。 ……うん。 -最先(原初) 我が星へようこそ御出で下さいました、辰星の姫君。 我が名はユピテル、歳星の守護を務める者。 どうぞ、以後お見知り置きを。 此の度はお招き頂き、まことに有難く存じます。 私は辰星の守護を務める者、名はメルクリウスと申します。 こちらこそどうぞ宜しくお願い申し上げます。 長旅でさぞかしお疲れであろう。早速だが、お連れの方々は彼方へ。 ……ユピテル様、何を。 先ずは疲労したであろう其の御身体をゆるりと癒して貰いたいと思っている。 何も取って食おうと言うものではない。どうかそんなに警戒召されるな。 お気遣い、まことに痛み入ります。 ですが、 貴女の部屋は私が案内しよう、どうぞ此方へ。 まぁ、気に入って頂けるかは分からぬが。 ……。 貴女とお連れの方々に危害を及ぼすような者はこの城には居ない。 何より、貴女には此の私が傍に居る。何人たりとも近付けさせはしない。 いえ、其の様なことでは。 話ならば、其の部屋でしよう。 ……何故、ですか。 何故、とは? 私達は此れからのことを話し合う為に来たのです。 斯様な持て成しを受ける為に此処まで来たのではありません。 貴女は私の伴侶になるかも知れない御方。 であるならば、盛大に持て成したい。良い思い出を作って帰って貰いたい。 また此処に来たいと、此処ならば嫁いでも良いと、少しでも然う思われる様に。 思って、貰える様に。 ……何を。 簡単に言ってしまえば、私は貴女に良く思われたいと思っている。 もっと言えば、私は貴女とふたりきりになりたい。 ふたりで、話がしたい。 ……。 つまるところ、ただの下心さ。 した、ごころ……。 とは言え、疚しい事は一切しない。安心して欲しい。 ……。 本当だ。だから、其の様な顔をしないで欲しい。 ……いえ、疑っているわけではありません。 ただ、 あぁ、食事の支度もしてあるぞ。それとも湯浴みが先の方が良いか。 何方も抜かりはない、好きな方を選んで欲しい。 酒は飲めるか、若しも飲めぬ様なら他のものも置いてある。 足らぬものがあれば私にでも構わない、直ぐに言って欲しい。 ユピテル様。 因みに食事の支度は私がした。 少しでも楽しんで貰えれば、嬉しく思う。 ……貴女様が、ですか。 あぁ、料理は数少ない趣味のひとつなんだ。 料理が、趣味……。 貴女はしたことはないか? なかなか楽しいぞ。特に皆が美味い美味いと言って食って呉れることが何よりも楽しい。 …… が、信用為らぬと言うのなら、私が毒見をしよう。 とりあえず先ずはゆっくりと寛いで欲しい。堅苦しくて面倒な話は其の後だ。 然うだな、明日からにしよう。あぁ、其れが良い。 ……。 ……返事が、ないが。 若しかして……呆れて、いるのか? ……。 けれど、私は堅苦しいものが心底苦手なのだ。 肩も凝るし、何より、空気が重い。 であるならば、先ずは来て呉れたことを感謝し、持て成しをするべきだと。 だから其れ以外のものは、全て、後回し。 ふむ? お噂は、予予(かねがね)。 はは、然うか。ならば、話は早いな。 其れと、面倒臭い話し方も此の後は一切無しだ。 ……其れも苦手だから、でしょうか? あぁ、然うだよ。 そんな話し方は面倒な話の時だけで十分だ。 肩どころか、背中まで凝ってしまう。 ……。 と言うわけだ、宜しく頼む。 ……ふふ。 うん、可笑しかったか? ……いえ。 嘘を付け、笑っているぞ。 ……これはとんだご無礼を。 ははは、面白い御方だ。 ……其方こそ。 詰まらないよりも、面白い方が良いだろ? 何事も、さ。 ……。 な? ……信用、しても? あぁ、勿論。 ……。 難しい話だろうが……どうか、私を信じて欲しい。 ……良いでしょう、貴女を信じます。 然うか!やった! え……なっ。 ははは、君は羽根の様に軽いな! な、何をして、 良し、このまま行こう! お、おろして! む。 ……下ろして、下さい。 あ……これは、失礼。 ……。 つい、調子に乗ってしまった……どうか、許して欲しい。 ……。 えと……ごめんよ。 嬉しいと直ぐ調子に乗ってしまって……。 ……おかしな、ひと。 とは言え、いつもではないんだ……嬉しいことなんか、早々ないし。 だから、余計に、 もう、良いわ。 え、良いの? ええ、言い訳はもう聞きたくない。 い、言い訳……。 ふふ……さぁ、連れて行って。 私の信用がなくなってしまう前に。 お、応。其れでは行こうか、メル。 ……? メルクリウス、だから、メル。 私のことはユゥと呼んで欲しい。 其の方が落ち着くんだ。 ……。 さ、流石に不躾だったか……。 いいえ……噂以上だと思っただけよ。 うん? 守護者のわりに人懐こい方だと、聞いてはいたけれど。 まさか此処までとは思わなかったわ。 あはは、然うか。 でも、私だって人は選ぶよ。 あら、然うなの? あぁ、然うだ。 例えば、どの様な方にはこんな砕けた態度を取るのかしら? 例えば、君の様なひとに対してはこういう態度になる。 私の様な? と言うより、君だからこうなっている。 調子に乗ってしまうくらいに? ……うん、然うだよ。 ふふ……余程の物好きなのかしら。 物好き?どうして? 私のような女と、親しくなりたいと思う者なんて居ないもの。 ……。 それこそ、余程の物好きでない限り。 メルは私の好みなんだ。 ……。 君の様なひとは此の星には居ないだろう。 いや、銀河中を探し回っても見つからない。 ……口がお上手なのね。 いや、私は本気で言っているよ。 口説いていると言っても間違いじゃない。 ……。 口説かれるのは、初めてかい? ……ええ、生憎。 然うか、其れは周りに居る者共の見る目がないな。 いや待てよ、私にとっては好都合なのか? ……私の話は、何処まで聞いているの。 うん……? 予め、聞いているのでしょう? 堅苦しくて融通が利かない。淡々としていて、何を考えているのか分からない。 書物ばかりを相手にして、読み耽り、人の機微に疎く、表情が変わらず感情が読めない。 冷たい女とも。 ……ええ、間違ってはいないわ。 が、其れは誰かが勝手に言っている話であって、君の本当の姿ではないかも知れない 私は己の目で見て確かめる、そして、己で決める。 ひとの話など、最初から当てになどしない。 ……。 まぁ有体に言ってしまえば……一目惚れ、なんだ。 ひとめぼれ……。 あぁ、然うだ。 いつか見た君に私は惚れたんだ。 好みは人其々(それぞれ)では、あるけれど……貴女の好みは少し、いえ大分、他の者とずれているようね。 ずれていようが全く構わない、兎に角私は君のことが好きだ。 だから、君と伴侶になる話が持ち上がった時は其れはもう嬉しかった。 其れこそ、飛び上がらんばかりにね。 守護者を制止しなければならない、周囲の方々の御苦労を思うと 飛び上がろうとしたけど止められたから、仕方なく、龍に飛び乗って此の星を駆け巡ったよ。 歓喜の声を上げながらね。 ……流石に同情するわ。 あはは、私の喜びは其れ程までのものだったってことさ。 ……所詮は、繋がりを作る為だけの縁談なのに。 別に構わないさ。 仮令、戦略的外交の為だったとしても、君と繋がれるのなら……。 ……ん。 人質になど、決して、させぬ。 ……先程から少々、お戯れが過ぎるかと。 あぁ、済まない……また、調子に乗ってしまった。 気ばかり急いて、いけないな……。 ……。 しかしまさか君の星から此の様な話が出るとは夢にも思わなかったよ。 ずっとどうしたものかと、考えていたから。 ……私は貴女の星から出た話だと。 然うか、其れなら其れで良いんだ。 なにぶん、君の星と此の星は遠く離れているし、会いたいと言う理由だけで会えるわけでもない。 どうすれば親しくなれるか、どうすれば伴侶にすることが出来るか、ずっとずっと考えていた。 だから、わざわざ出迎えて呉れたの。 だって一番に会いたいと思うだろ。まぁ、結局は一番にはなれなかったけど。 けれど良く、周囲が許したわね。 押し通したんだよ。 心から喜ぶ私を本当に止められる者など、此処には存在しない。 ……。 此処だけの話、昨夜は君に会えると思うとなかなか眠れなかったんだ。 気付いたら朝になっているし……然う、今日の支度は私が生きてきた中で最も早く済ませたと言っても過言じゃない。 おかげで従者達を盛大に驚かす事が出来て愉快だったよ。 ……変わったひと。 さぁ、着いた。此処がメル、君の部屋だ。 母星にある君の部屋の様にはいかないだろうが、ゆっくりと過ごして欲しい。 護衛は常に私が引き受ける。 然うはいかないでしょう? いや、然うでもない。 なんせ、私は此の星で一番強いからね。 然う言う問題ではないわ。 貴女には守護者としての立場があるでしょう? 良いじゃないか、少しくらい。 君は私の生涯の伴侶になるかも知れない相手なんだ、成る可く一緒に居た方が良いだろ? そもそも私と言う存在はそんなに重要じゃない。 政には、決定権はあるとは言え、ほぼ関わる事はないしね。 ……。 そんなもんなんだよ、私は。 ……疚しいこと、考えてはいない? 考えては……いや、少しは期待している。 素直ね……。 嘘は苦手なんだ。 けど、本当に決まるまではしない。決して。 そのつもり、ではなくて? ……。 ふふ、ユゥは手が早そうね。 然う言って、数をこなしてきたのでしょう? ……そんなことは。 図星。 いや、実は然うでもない。 ……へぇ? 本当だよ。 どうだか。 これでも守護者なんだ、従者を含め守るべき民に手を出すようなことはしない。 それとこれとは、話が違うでしょう? ……。 図星。 ……口説くのはメルが初めてなんだよ、これでも。 はいはい、然うね。 メル。 別に良いわ、私は気にしない。 むぅ。 其れにしても、此の星って緩いのね。 緩いかも知れないけど、やる時はやるさ。 例えば君の星を守る時とか、ね。 ……期待、しているわ。 そして、君のことは私が守る。 ……。 ところでメル、さっきの話の続きなんだけど。 しょうがないひとだと言うことは、分かった。 む。 有難う、ユゥ。 部屋は好きに使わせて貰うわ。 うん、是非然うして欲しい。 ところで食事と湯浴み、何方を先にする? 然うね……強いて言えば。 強いて、言えば? 一緒に湯浴み、する? する!! ……。 良し、然うと決まれば早速支度を 冗談、なのだけれど。 え。 いや、流石に。 えー……。 食事は一緒でも構わないけど。 湯浴み……。 其れは、無理。 ……はい。 でも。 でも? 護衛は、して呉れるのでしょう? ん、任せて。 覗かないでね。 の、覗かないよ。 そりゃ、見たいけど。 ユゥ? ……一緒が良かったな。 ユゥ。 ……はぁい。 ……。 じゃ、湯浴みの支度を……。 ……聞いていた話以上、に。 メル、支度が出来たら声を掛けて。 ねぇ、ユゥ。 ん? 私ね、ひとを好きになったことがないの。 ……。 いつかこんな形で誰かの伴侶になるかも知れないと、考えてはいたわ。 だけど、そのひとを好きになることなんて屹度ないと……一生、ないと。 ……。 伴侶が貴女で良かった……貴女は私に、然う、思わせて呉れるかしら。 ……。 叶うなら……貴女で良かったと、然う、思いたいわ。 任せて、メル。 あ。 ……我が命、此の一生を懸けて、君を愛する。 誓いは未だ、早いわ。 決まっても、いないのに。 決めるよ、必ず。 私は頑固なんだ。 頑固で決められる程、外交は甘くはないわ。 貴女も知っているでしょう? メルと私、辰星と歳星、此れ以上の良縁はないよ。 然うだろ? ……。 だからメルにも協力して欲しい。 どうしてもユピテルと一緒になりたいと、ユピテル以外では嫌だと。 感情論でどうにか出来る様なら するのさ、君と私で。 守護者として生きてゆく上でお互いの存在が絶対に必要だと。 だから、 此の話は、必ずまとめる。 必ず、だ。 ……もぅ。 ねぇ、メル……。 ……なに。 若しも、若しも私を好きになって呉れたら……とても、嬉しい。 ……。 君に好かれる為ならば、その、なんでもするつもりだ……。 ……なんでもなんて、簡単に口にすべきではないわ。 む、無理強いは、出来ないが……。 ……私の為に。 メル、私は本気で君と契りを交わしたいと、 私の為に、其の命と一生を懸けて呉れると。 其の言葉に偽りはないのでしょう? ……あぁ、偽りなどない。 なんだったら、来世だって懸けても良い……。 ……。 メル……む。 ……未だ、だめ。 あ、はい……。 ……。 むぅ……。 ……しょうがない、ひと。 ……。 ……ユゥ? 本当、なんだ。 ……なにが? 本当にメルが初めてなんだ。 ……。 守護者に、自由はない……其れは君も良く知っているだろう。 ……。 だから……嬉しかった。 一目惚れした君と、伴侶になれるかも知れないということが……本当、に。 ……信じても、良いの? 信じて、欲しい……。 ん……ユゥ。 ……君が、好きだ。 ……。 好きだ……む。 ……だめ。 はい……。 ……本当に信じても良いのかしら。 どうしたら、信じて呉れる……? ……証明、出来たら良いのだけれど。 証明……だったら。 ……然う言うこと、以外で。 いや、別に然う言うことをしようと言うのでは……其れに其れで証明出来るとは、流石に……? ……。 ……期待、して呉れた? してない。 だけど、顔が赤く……いた。 ……。 メ、メル……? ……なんにせよ、信じさせたいなら証明して。 ん……分かった。 ……其れと、いい加減離れて。 もう少し……む。 もう、だめ。 |