-Bon appétit!(現世1) ……。 ......I looked up to the water surface, It looks like a starry sky. ……。 ......Embracing it everything gently . ……ん。 ......While coloring it with smiles and tears, together with you tomorrow too. ……亜美、ちゃん? あ。 ……亜美ちゃん。 まこちゃん。 ……んーと。 良かった。 ……うん? 丁度、出来上がったの。 ……なにが? ふふ。 ん、あれ……? ね、起きられる? あ、うん、大丈夫だけど……と言うかあたし、寝てた? うん。 そっかー……。 呼び鈴を鳴らしても、返事がなかったから……悩んだのだけれど。 鍵、使って呉れたの? ……ごめんなさい、勝手に入り込んで。 良いんだ、その為にあげたんだから。 使って呉れて、すごく嬉しい。 ……うん。 でもそっか、あたし、寝ちゃってたのか。 ……最近ずっと、忙しかったから。 ……。 だから、疲れが溜まっていたのだと思うの。 ……体力には自信があったんだけどなぁ。 まこちゃんだって人間だもの、疲れちゃう時もあるわ。 それでも情けない。 有り余る体力だけが取り柄なのに。 情けないなんて、言わないで。 ……ん。 まこちゃんの取り柄は、体力があることだけではないから。 ……。 だからそんなこと、言わないで……ね? ……うん、言わない。 あ……。 ……目が覚めたら亜美ちゃんが居た、しあわせ。 ……。 すごく、しあわせ……。 ……まこちゃん。 ねぇ、亜美ちゃん……。 ……なぁに? なんだか……。 ……うん。 いいにおいが、する……。 ……。 とっても、おいしそうなにおい……。 ……ね、まこちゃん。 ん……? おなか、空いてる? ……おなか? そう、おなか。 ええと……うん、すいてるかも。 ふふ、良かった。 えーと……若しかして。 来て。 わ……。 来て、まこちゃん。 待って、亜美ちゃ ……きゃっ。 あっ。 ……。 ご、ごめん、引っ張っちゃった。 ……びっくり、した。 ごめんよ、亜美ちゃん。 痛いところ、ない? ない、けど……ふふ、びっくりしたぁ。 ごめんね。 ううん、いいの。 ……。 ふふ、ふふ。 ……あぁ。 ん……まこちゃん。 ……かわいい、な。 え、なぁに? ……食べちゃいたい。 え……? ……食べて、しまいたい。 おなか、そんなにすいてるの……? ううん……。 ……? ……亜美ちゃん、を。 私……? ……このまま、たべて、しまいたい。 私、を……? ……う、ん。 ええと……。 ……。 まこちゃんは私のこと、食べたいの……? ……許して、もらえるなら。 私なんて、きっと、美味しくないわ……。 ……いや、絶対に美味しいよ。 そう、かしら……。 ……そう、だよ。 ……。 ま、まだ、だめかな……。 ……どうしてもと、言うのなら。 い、いい……? だけど……そんなに、美味しくないと思う。 そ、そんなこと、ないよ。 ……どこも。 ど、どこもきっと、 強いて言えば、太腿……かしら。 ふ、太腿……。 ……私、全体的に肉付きが良くないから。 に、肉付きなんて……きっと、なめらかで……。 食べられるところなんて、あまりないと思うの。 とても、触り心地が……え? ……太腿なら、人並とはいかなくても。 あ、亜美ちゃん……? ……他よりは、付いていると思うし。 も、若しかしないでも、何か、勘違いしてる……? 太腿以外……思いつかない……胸も、薄いし。 あ、亜美ちゃーん? ……だめだわ、どう考えてもこの躰は食べ甲斐がない。 こんなことなら、ちゃんと食べておけば良かった……。 亜美ちゃ まこちゃん。 な、なに。 私の躰……薄くて、固くて、ちっとも美味しくないと思うの。 それでも、良いのなら 待った、待った待った。 ……? あ、あたしが言ってるのは、然ういうことじゃない。 と言うか、いきなりの猟奇的な展開でびっくりしたよ。 ……でも、食べたいって。 食べたいとは言ったけど、然ういう意味じゃなくて。 ……然ういう? 然ういう意味じゃ、ないんだよ……。 ……。 あたしが言ってるのは、ね。 ……うん。 い、言ってるのは……。 ……言ってるのは? 言ってる、の……は。 ……? ……。 まこちゃん……? ……うん、ごめん、分かりづらかったよね。 ……。 え、えと……。 ……ごめんなさい、まこちゃん。 え? 私、また勘違いをして……ううん、酷い間違いをして、まこちゃんを困らせてる。 ううん、あたしの言い方が悪かったんだ。 本当に、ごめんなさい……。 あ、謝らないで。 あたしは、困ってなんかいないから。 ……でも。 本当に、困ってないから。 ……ううん、困ってるわ。 あたしこそ、亜美ちゃんを困らせているよ。 ごめんね、亜美ちゃん。 ……。 と、とりあえず、起きようか。 まこちゃんは、私を食べたいのよね……? ……。 そう、よね……? うん……でも、亜美ちゃんが思ってるような意味じゃないんだ。 どう、食べたいの……? ……。 「食べたい」って、「食べものを噛んで飲み込みたい」という他に、意味があるの……? ……。 あるのなら、教えて……知りたいの。 ……。 ねぇ、まこちゃん……。 ……いい、けど。 けど……? ……。 ……然うよね、自分で調べなきゃだめよね。 後で、調べて…… 待って。 ……。 後で、あたしが教えてあげる……から。 ……ううん、だめよ。やっぱり自分で調べないと。 それでも分からなかったら……その時は、ん。 ……。 ……まこ、ちゃん。 後で、教えてあげるから……。 ……あと、で? そう……後で。 ……。 今は、起きよう……。 ……ねぇ。 なに……。 ……キス、どうして。 ……。 まこ…… ……。 ……どう、して。 好き、だから。 ……。 ……ごめん、びっくりさせちゃったよね。 うん……すこし、だけ。 ごめん……もう、しないから。 ……。 そ、それより、おいしそうなにおいが気になるんだけど。 ……言わないで。 うん? ……もう、しないなんて。 ……。 ……また、後で。 亜美ちゃん……。 ……ん。 それじゃあ、また後で……。 ……うん。 ……。 ……。 ……ところで、亜美ちゃん。 ……。 おなか、すいた……。 ……あ。 は、はは……。 ……いけない、冷めちゃうわ。 ……。 ……来て、まこちゃん。 うん……どこにでも。 ……どこにでも、だなんて。 亜美ちゃんに来てって、言われたら……どこにでも行っちゃうんだ、あたし。 ふふ……まこちゃんったら。 ……あぁ。 来て、まこちゃん。 ……やっぱり、かわいいな。 まこちゃん。 うん、今行くよ。 ん。 ……本当に、いいにおいだ。 テーブルにはまだ、並べていないんだけど……。 うん……。 ……。 ……これ、は。 ね、どうかしら……。 ……亜美ちゃんが? うん……。 ……。 ……作って、みたの。 いつも、作ってもらってばかりだから……。 ……ハンバーグ、だ。 あ……キッチン、勝手に使ってしまってごめんなさい。 ううん、いいよ……。 ……。 幾らでも使って……亜美ちゃんなら、いいんだ……。 ……後片付けはちゃんと、 ふたりで、しよう。 ……。 後で。 ……ううん、私だけで。 したいんだ、ふたりで。 ……。 だめ、かな。 ……まこちゃんは疲れていると思うの、だから。 疲れなんか、どこかに行っちゃったよ。 それに疲れていると言うのなら、亜美ちゃんだって。 ……私、は。 亜美ちゃん。 ……。 ふたり、で……しようよ。 ……。 ね……。 ……うん。 ん……。 あの……まこちゃん。 ……キャロットラペに、マッシュポテト。 食べて、呉れる……? ……食べても、良いの? 食べて呉れたら、嬉しいわ。 ……。 ……一緒に。 一緒、に……。 ……まこちゃんのように、上手には 亜美ちゃん。 な、なぁに。 ……。 きゃ……。 ……ありがとう、すごく嬉しい。 まこ、ちゃん……。 ……本当に、食べても良い? うん……食べて、欲しい。 ……。 まこ……ん。 ……。 ……まこちゃん。 ね……一緒に、食べたい。 ……。 一緒に、食べよう……亜美ちゃん。 ……うん、まこちゃん。 ごちそうさまでしたぁ。 ……お粗末さまでした。 お粗末だなんて、ご馳走だったよ。 タネの割合も焼き加減も丁度良くて、ふっくらとしていてさ、本当に、本当に、美味しいハンバーグだった。 ……良かった。 亜美ちゃんは、料理が上手だね。 ……ううん、そんなことない。 そんなこと、あるよ。 ……私はただ、レシピどおりに作っただけだもの。 レシピどおりにちゃんと作れるのは上手だからだよ。 亜美ちゃんは素直だから、それがまた良いんだ。 それにね、包丁は一朝一夕で使えるようになるものじゃない。 普段から、触ってないと。いきなりは、無理なんだ。 ……包丁には、家庭科の調理実習で触るくらいで。 普段は、そんなに……。 そんなにと言うことはさ、全く触らないわけではないってことだろ? ……。 お勉強が優先でも、それでも……お母さんに代わって、料理をしてきた。 然うじゃなきゃ、こんなに手際良く作れないよ。 ……。 うさぎちゃんと美奈子ちゃんを見てれば、分かるだろう? あのふたりが包丁を持つと、それだけで、危なっかしくてさ。あれこそが、普段から触ってない姿だよ。 うさぎちゃんは自分の都合の良いように持っていこうとするし、美奈子ちゃんは全体的に雑だし。 ……素直だとは、思うのだけれど。 ふたりとも教えた通りには本当にやらないから、料理に関してはあまり素直じゃない。 ……不器用なのも、あるのではないかしら。 いや、あそこまでいくと器用不器用関係ない。 そりゃあさ、全く関係ないわけじゃないけど……あのふたりは正直、あたしでもお手上げなんだよ。 分量だっていつもいい加減にやろうとするだろ? おかげで、はらはらが止まらないんだ。 ……。 包丁を持っている時なんか特に。 いつ、指を切ってしまうか……気が気じゃないんだよ、本当にさ。 ……ふふ。 笑いごとじゃないんだよ、亜美ちゃん。 だって、まこちゃん……楽しそうに、話しているんだもの。 え、どこが? 笑いながら、話してる。 呆れてる、つもりなんだけど。 ふふ、ふふ。 まいったなぁ。 今度はいつ、教えて欲しいって来るかしら。 暫くは、来なくて良いかなぁ。 うさぎちゃんは、衛さん絡みでちびうさちゃんに刺激されたら。 美奈子ちゃんは、新しい恋人が出来たら、かしら。 美奈子ちゃんの場合は、料理よりも二股をかける悪癖をなんとかする方が先だと思うよ。 この間なんて、尻軽って言われてフラれたんだから。 しりがる……。 もう少し、節操があればなぁ。 ……しりがるって、なに? え。 しりがるって……足軽とは、関係あるのかしら。 ……お尻が軽いってことだよ。 お尻が、軽い……。 ……。 まこちゃん? ……二股をかけるような女のことを、そんな風に言ったりするよ。 美奈子ちゃんのようなひと? うん、まぁ……そう、かな。 とりあえず、一線は越えてないって言ってたけど……。 いっせん……。 そ、それより。 ……。 ハンバーグだけじゃない、ソースも美味しかった。 キャロットラペも、マッシュポテトも、どれもすごく美味しくてさ。 ……え、なに。 ハンバーグもソースもキャラットラペもマッシュポテトも、どれもこれも、美味しかった。 すっごく、すっごく、美味しかった。 そんな……褒め過ぎよ。 美味しかったから美味しいって、素直に伝えてるだけだよ。 ……。 ね、このソースはどうやって作ったの? 和風でとても美味しかったから、あたしも作ってみたいな。 えと……これは、ね。 うん。 フライパンに残った肉汁に、ポン酢とお砂糖、それからお醤油を加えて煮詰めて。 それを、すりおろした大根にかけたの。 へぇ、わりとシンプルなんだ。 お肉にはしたけれど、疲れているようだったから、ソースはさっぱりしたものの方がお腹に優しいかなと思って。 うん、さっぱりしてて、とても食べやすかった。 まさに、今日のお腹が欲しがってたものだよ。 ……。 パンも美味しかった。 改めて、ありがとう。 ……ごはんでなくて、良かった? うん。 あ、でも。 ……。 ごはんでも、食べてみたいな。 ……。 だから、その……また作って呉れたら、嬉しい。 ……うん、また作る。 ありがとう、亜美ちゃん。 ……ん。 はぁ、しあわせだな……。 ……ねぇ、まこちゃん。 ん、なんだい? ……。 ? どうした? ……そろそろ、教えて。 え? ……食べたい、の、意味。 あ。 ……どんな意味で、言ったの? ……。 まこちゃん……? ……片付けの後じゃ、だめ? ……。 あ、いや……分かった、教えるよ。 ……言い難いこと、なの? ……。 そう、なのね。 ……あのね、亜美ちゃん。 うん……。 ……あたし、亜美ちゃんのことを抱きたいってずっと思ってる。 ……。 亜美ちゃんを食べたいってのは、つまり……亜美ちゃんを抱きたいって、意味なんだ。 ……抱きたい。 ずっと、思ってたんだ……。 ……私を。 キ、キスだけじゃあ、もう……。 ……。 ……。 ……まこちゃん。 な、なんだい……? ……はい。 え……? ……食べ終わったし。 え、ええと……。 だから……はい。 それは……いいって、こと? ん……。 ほ、ほんとうに? ……私のこと、抱きたいのでしょう? う、うん……とても。 ……だから、ね。 亜美ちゃん……。 ……。 ……。 ……? まこちゃん……? ……若しかして、だけど。 どうしたの……? 抱きたいって意味、分かってない……? ……え? あぁ、やっぱり……。 抱きたいって……「躰を抱き締めたい」という意味ではないの? ……。 ま、まこちゃん……? ……だよねぇぇ。 あ……。 ……わかってた、うん、わかってた。 若しかして私、また、勘違いしてる……? ……。 ご、ごめんなさい……。 ……とりあえず、抱き締めても良い? え。 ……良い? う、うん……。 ……。 ……まこちゃん。 はぁ……やらかい。 ん……。 ……いいにおいだなぁ。 あの、まこちゃん……。 なに……亜美ちゃん。 ……まこちゃんが本当に伝えたかったことって、なに。 ……。 教えて……。 ……それは、ね。 うん……。 …………。 …………え。 …………。 …………ええ、と。 ……まだ、だめだと言うのなら。 まこちゃん、は……。 ……。 ……私と……ス、したい、の。 ……。 そう、なの……。 ……うん、そうなんだ。 ……。 ……。 ……。 ……は、離れた方が、 ……!!!! え……。 ……。 亜美、ちゃん……? ……。 亜美ちゃん……ッ!! …………。 ……。 ……はぁ。 ……おちついた? ん……大分。 ……だいじょうぶ? うん……もう、だいじょうぶ。 まだ、少し赤いけど……。 ……痒みは、治まったから。 そっか……よかった。 ありがとう、まこちゃん……お薬、塗って呉れて。 ……あたしのせい、だから。 ううん、まこちゃんのせいではないわ。 けど、あたしがあんなことを言わなければ……。 ほんの少し、躰が驚いてしまっただけ……ただ、それだけのことだから。 ……驚かせたのは、あたしだ。 ……。 ……ごめんね、亜美ちゃん。 私こそ、ごめんなさい……。 亜美ちゃんは悪くないよ。 ……ラブレターだけだと、思っていたの。 ……。 ごめんなさい、まこちゃん……。 ……亜美ちゃんは、全然、悪くない。 だけど……ん。 悪いのは、あたしなんだ。 ……まこちゃん。 あたしが、言わなければ……。 ……。 ……もう、 だめ。 ……。 ……だめよ、まこちゃん。 だけど……。 ……ねぇ、まこちゃん。 ……。 私達は、両想いで……お付き合いを、しているのよね。 ……うん。 あのね、まこちゃん……私ね……。 ……。 まこちゃんのこと、中学生の頃からずっと好きだった。 だけど、私達は同性同士だから……この想いが叶うことなんて、ないと。どれだけ待とうとも、そんな日は来ないと。 だから、想いに蓋をして、「ともだち」としてあなたの傍に居よう……それだけで、十分だからって。 ……亜美ちゃんは、難しく考えてしまう癖があるから。 然うね……本当に、然う……。 ……同性同士とか、好きになってしまったらそんなのはどうでも良い。 ……。 関係、ないんだ……。 ……然うは、思えなかった。 ……。 自分は、どうでも良いことだと思っていたとしても……相手は、然う思わないかも知れない。 告白することで、今の関係性が壊れてしまうかも知れない……であるならば、叶えたいなんて、最初から思わない方が良い。 今だけでも、好きなひとの隣に居ることが出来れば……それだけで、良いと。 ……早く、告白すれば良かった。 ……。 然うすれば……もっと、早く。 ……まこちゃん。 だけど……あぁ、然うだな。 あたしにとって、どうでも良いことでも……亜美ちゃんにとっては、どうでも良いことではないかも知れない。 あたしも、亜美ちゃんと同じことをずっと考えて……悩んで、いたんだ。 今だから、どうでも良いなんて言い切れるけど……あの頃は、然うは思えなかった。 ……。 異性に告白するよりも、ずっと、ずっと、難しかった……。 ……まこちゃんは、いつ頃から、好きになって呉れたの。 うん? ……わたしの、こと。 分からない……気付いたら、好きになっていたから。 ……。 若しかしたら、一度死んだことが大きかったのかも知れない。 ……前世? ううん、前世じゃないよ。 前世は正直、過去のことで終わったものだと思っているし、ジュピターのことも、自分に良く似た他人ぐらいでしか思ってない。 あたしにとってはさ、自分の前世であるジュピターの死なんて他人事でしかないんだ。 だから特別悲しいとも思わないし、影響もあまりないと思ってる。 ……。 だけど……マーキュリーの死は、然うは思えなかった。 ……マーキュリーの? うん。 前世の世界が滅んで、マーキュリーもまた命を落としたと知った時、仮令過去のことだと分かっていても、酷く悲しいと感じた。 まるで、今の亜美ちゃんに起こった出来事のように思えて……涙が、溢れてきたんだ。 ……。 あたしにとって、前世は過去のことで、ジュピターの死も自分のことではない。 けど、マーキュリーのことは……。 ……北極圏Dポイント。 ……。 前世で、なければ。 ……自分が一度死んだことで、他人事だった死が、我が事として思えるようになった。 ……。 今の生だって、いつまで続くか分からない……然う考えたら、ふと、亜美ちゃんの顔が浮かんだんだ。 笑ってる顔、怒ってる顔、困ってる顔、ちょっと恥ずかしそうな顔、寂しそうな顔、悲しそうな顔、お勉強している時の顔、戦ってる時の顔……。 ……。 一通り浮かんだところで、どうしてだろうと考えた……そして、はっとした。 考えてみなくても、あたしは、ジュピターよりもマーキュリーの死の方が悲しいと、辛いと感じていたんだって。 然う、今の亜美ちゃんに起こったことのように感じて……。 ……。 その気持ちはあたしの中で、何故か当たり前のように存在していて、だから、深く考えたことなんてなかった。 亜美ちゃんの顔が、浮かぶまで。 ……。 あたしは、亜美ちゃんの最期を知らない。 けど、記憶にないというだけで、その事実は知っている。 ……。 その事実を知った時、あたしは、抑え切れない程の悲しみと、どうしようもない程の痛みに襲われた。 それは、前世のマーキュリーの死を知った時よりも……。 ……。 ジュピターはマーキュリーのことが好きで、どこまでも一途に愛していた。 だけど、その想いはあたしのものじゃない……だから、考えたことなんてなかったんだ。 自分が……自分もまた、マーキュリーに惹かれているだなんて。 ……マーキュリー。 自分の死の記憶、マーキュリーの死の事実。 それらを得て、あたしはやっと気が付いた。亜美ちゃんのことが、好きだということ。 いつも隣で、柔らかく笑って呉れる亜美ちゃんのことが……水のように、優しく包んで呉れる亜美ちゃんのことが。 ……マーキュリーでは、なくて。 今のマーキュリーは……亜美ちゃん、だろう? だけど……。 亜美ちゃんがマーキュリーだから、悲しかったんだ。 マーキュリーが死んだということは、つまり、亜美ちゃんが死んでしまったということに他ならないのだから。 ……。 今の生が、いつまで続くか分からないのなら……それなら、その時まで。 あたしは、亜美ちゃんと一緒に居たい……好きだから、死の間際まで一緒に居たい。 ううん、死んでも……傍に、居たい。 ……まこちゃん、は。 ……。 今の生に、なってから……私のこと。 正確には……前の生から、かな。 自覚が、なかっただけで……。 ……違うひとに、夢中だったから。 そ、そうだったね……。 ……センパイって。 あ、亜美ちゃんへの気持ちを自覚したら、亜美ちゃんしか見えなくなったんだ。 センパイのことだって、言わなくなっただろ? ……然ういえば、言わなくなったわ。 だろ……? ……でも、少しは。 あたし、自分で言うのはなんだけど、一途なんだ。 ひとりのことしか追えないし、目にも入らない。 ……前世のジュピターと同じくらい? いや、前世のジュピターよりも。 ……前世のジュピターは、幼い頃からマーキュリーのことだけを愛していて、マーキュリー以外のひとを見ることなんてただの一度もなかったと。 そ、それは、ふたりが幼馴染だったからであって、あたし達だって、幼馴染だったら。 ……多分、同じにはならないと思う。 ……。 けど、まこちゃんが一途だということは良く知ってるわ。 亜美ちゃん……。 ……中学生の頃から、だったのね。 うん、そうなんだ……。 ……わたしと、おなじ。 もっと早く、告白したかった……高校生に、なる前に。 ……気持ちが分からないのは、怖いことだと思うの。 ……。 今のまこちゃんも、屹度、然う……。 ……え。 ねぇ、まこちゃん……私ね、まこちゃんとなら良いって思っているの。 良いって、何が……。 まこちゃんとなら、私……だって、ずっと、望んでいたんだもの。 ……。 ……まこちゃんじゃなきゃ、いやなの。 それっ、て……。 ……。 のぞんで、くれていたの……ほんとう、に? ……ん。 あ、あたしと……あたしと、なら……。 ……。 して、も……。 ……ごめん、なさい。 え……。 ……これ以上、は。 ……。 その……また。 あ、あぁ……。 ……。 痒いかい……? ん……まだ、へいき。 そっか……良かった。 ……然うだわ。 うん……? 私、ね……。 う、うん……。 ……まこちゃんになら、食べられても良いの。 ……! ううん……食べて、欲しいの。 亜美、ちゃん……。 ……使い方、間違っているかしら。 ま、間違ってない……。 ……意味、伝わってる? うん……すごく、伝わってきた。 ふふ……良かった。 亜美ちゃん……あたし。 ……キスして欲しいって、思ってた。 ……。 ……それ以上の、ことも。 ……ねぇ、亜美ちゃん。 なぁに……? い、急がないから。 ……? 今直ぐじゃなくても、良い……いつか、その、蕁麻疹が出ないようになったら。 あぁ……。 ……今はただ、気持ちを知ることが出来て。 さわってみても、いい……? ……へ。 いい、かしら。 う、うん……良いよ。 ……ありがとう。 ……。 ……。 ……。 ……きれいな、ひと。 ……きれいなんかじゃ、 ううん、とてもきれい……。 ……あ。 すき。 亜美、ちゃん……。 ……だいすきよ。 あ、あたしも……。 ……キス、 しても、いい……? ……。 だ、だめ……? ……ふふ。 は、はは……。 ……して、まこちゃん。 ……。 ……して、ほしいわ。 う、ん……。 ……。 ……。 ……ふふ、くすぐったい。 も、もっと。 ……? ふ、深いのを、してもいい……? ……不快の? ……。 不快では、ないけど……。 ……うん、多分違う漢字に変換されてるね。 ふかい……。 ……深層心理の、深だよ。 深層心理の深……深い? 然う、その漢字……。 ……深い、キス? だめ、かな……。 ……。 え、えと……。 ……してみて。 ……。 ……言葉でなく、行動で教えて。 あ、あぁ……。 ……おしえて、まこちゃん。 亜美ちゃん……。 ……ん。 ……。 ……っ? ……亜美ちゃん。 ま、待って……あ。 ……ごめん、待てない。 まこ、ん……ふ、……ん。 ……。 んん……。 ……。 ……は、ぁ。 あみちゃん……。 ……これ、が。 ほんとは、もっと……。 ……なれてきたと、おもってたのに。 なれて……? ……また、呼吸するのが難しくなっちゃった。 ……ッ。 キスって、難しいのね……? ……たべて、しまいたい。 ん……。 ……けど、いまは。 ね、まこちゃん……。 な、なんだい……? 同性同士って、どうやってするの……? ……は? 異性同士なら……その、ね? だけど、同性同士は……。 ……。 ……? まこちゃん……? ……まさか、役に立つとは思わなかったんだ。 役に立つ……? 何が……? ……前世の、記憶。 前世、の……。 ……ジュピターとマーキュリーは、恋人同士だった、から。 こいびと、どうし……あ。 ……と言っても、あたしは初めてだから。 ……。 あ、亜美ちゃんも……だよ、ね? ……。 ……? 亜美ちゃん……? ……おもい、だした。 え。 ……!!!! あ、亜美ちゃん……?? ……。 亜美ちゃん……!!!! …………あぁ、もう。 だ、大丈夫かい……!? そ、然うだ、薬、薬……!! ……ふふ。 待ってて、亜美ちゃん! 直ぐに薬を、薬を塗ってあげるから!! ……ねぇ、まこちゃん。 な、なに……? ……あまり、またせないから。 そ、そんなに痒いのかい!? どこ、どこだい?! ……。 え……あ。 ……そのときは、だいてね。 だ……っ。 …………。 あ、あぁぁぁぁぁ……。 ……かゆい。 ……はっ。 まこちゃん……。 そ、そうだった……ここ、ここでいいかい? うん……。 あ、あとは……。 ……ね。 ここと、それから……。 ……たのしみ、に。 あぁ、どんどん赤く……ッ。 ……してくれたら、うれしい。 え、な、なに……? ……なんでも、ない。 -Le temps heureux.(現世2) ほうれん草とベーコンのキッシュ、スパニッシュオムレツ、鶏肉のささみともやしのナムル、豚肉とししとうのガーリック炒め、野菜スティック……。 ……。 水菜と油揚げのサラダ、チーズ明太餅に枝豆、えのきの豚バラ巻、軟骨のから揚げ、果てには締めのラーメン、からのバニラアイスとレモンパイ……。 ……残ったのはもやし、ししとう、それから野菜スティック、それら以外はきれいになくなったわね。 いくらなんでも、きれいすぎる……あたし達はほとんど食べてないのに。 他のものも、少しは残ると思っていたのだけれど……。 あたし達がまともに食べたのって、もやしとししとうと野菜スティックぐらいだよ……。 全て、お野菜ね……。 美味しかったね……もやしと、ししとうと、きゅうりと、にんじんとだいこん。 お野菜だけでなく、まこちゃんが作ったディップソースもとても美味しかったわ。 ピクルスタルタル、ごまと豆腐、ヨーグルトとハーブ……わざと、亜美ちゃんが好きなのばかり作ったんだ。 生野菜もと思って一応用意したけど、多分、あまり減らないだろうとも思ってたから。 ……まさに、予想通りになったね。 ごめんね、残りもの担当のようにしてしまって。 ううん、気にしていないわ。 まこちゃんが用意して呉れるお野菜は、いつだって美味しいから。 うん……ありがとう、亜美ちゃん。 だけど、あのふたりはもう少し野菜を食べないとだめだわ。 脂質と糖質、あとは塩分も多く摂り過ぎているようだから。 然う、思うんだけどね。 そうそう、亜美ちゃんが淹れて呉れたコーヒーも美味しかったよ。 シナモンローストの。 ふふ、ありがとう。 久々に皆で集まって、美奈子ちゃんとうさぎちゃんが飲んで食べまくる中、 亜美ちゃんとあたしがまともに口にしたのは野菜とコーヒー、他の料理はほんのちょっとつまむ程度。 予想通り過ぎて、面白くなってきた。 レイちゃんは食べてた? 一応、食べてたよ。 キッシュとか。 然う……良かった。 ……。 まこちゃん? 亜美ちゃんが作ったキッシュ、半口ぐらいしか食べられなかった……。 あぁ。 ……楽しみに、していたのに。 ええ、と。 最初に取り分けておけば良かった……あたしの、亜美ちゃんのキッシュ……。 また、作るわ。 ……作って、呉れる? もちろん。 ……。 だから、ね? ……うん、楽しみにしてる。 ん。 ……いつに、なるかなぁ。 え、なぁに? ……なんでもない。 ……。 ……はぁ。 それにしても。 ……うん? お酒を飲むひとの食欲ってすごいのね。 いや、あのふたりがおかしいだけだと思う……あんなに食べるの、なかなか居ないって。 ……。 学生の頃からよく食べるなぁと思っていたけど、酒を飲むようになったら余計に食べるようになったんじゃないか。 ……太っちゃうって言いながら、食べていたわね。 手、止まることがほとんどなかったよ。 喋ってる時か、飲んでる時ぐらいかな……。 料理がほぼほぼなくなった頃だったかしら……手が完全に止まったのは。 うん、然うだったと思う。 胃は、どうなっているのかしら……CT検査の結果を、一度で良いから見てみたいわ。 普段はあまり食べないって言ってたけど……それは、なさそうだよね。 うさぎちゃんは衛さんが居るからまだ良いと思うけど、美奈子ちゃんは一人暮らしで自由気ままだから、それはもう不摂生な生活をしていそうだよ。 夜中に酒を飲んだり、ラーメンや牛丼、それからケーキ、アイス、ポテトチップス……その他諸々を食べたり。 ……ねぇ、まこちゃん。 ん? 美奈子ちゃん……前に会った時よりも。 ……丸くなってた、確実に。 やっぱり、然うよね……。 レイちゃんに言われてたよ。 ……躰、大丈夫かしら。 部活をやっていた頃と同じように食べていたら、なぁ……。 うさぎちゃんも……ちょっと、顔が丸くなっていたわ。 おなかぽよぽよなの~~って見せられた時は、どうしようかと……。 ……衛さんが、好きなのよね。 本当、どうしようかと……。 ……レイちゃんは、変わってなかったわ。 レイちゃん、か……。 ……? 顔色を変えずに、黙々と酒を飲んでる姿は怖かった。 飲み始めた時は、喋っていたのに。 時折、何か言っていたと思うけど……。 ぶつぶつと、だろ……余計、怖かったよ。 色々、あるんだろうけどさ……。 みんな、大変ね……。 うさぎちゃんは、そんなに大変じゃなさそうけどね……。 分からないわ……衛さんと喧嘩したって、時々メールが来るもの。 あぁ、然うだった……離婚よ、離婚って騒ぐ時もあるんだった。 だけどさ、直ぐに衛さんが謝って最後は惚気て終わるから……よっぽどのことがない限り、大丈夫だと思うよ。 然う、よね。 ……多分。 ……。 なんて言いつつ……あたし達も、それなりにはあるんだけどね。 ……然う、ね。 ……? 亜美ちゃん……? ううん……なんでもないの。 そうかい……? ……うん。 あるのなら、言って欲しい。 本当に、ないの。 ……本当に? 強いて、言うなら。 ……言うなら? まこちゃんともっと一緒に居たい、かしら。 ……あるじゃないか。 ふふ……然うね。 あたしも、亜美ちゃんともっと一緒に居たいよ。 ……ん。 ……。 ……。 ……なんとなく、美奈子ちゃんの声が聞こえてきたような。 まこちゃんも……? なんとなく、だけどね。 私も……なんとなく。 聞こえなかったことに、しよう。 ……美奈子ちゃん、また、ふられたのよね。 ……。 だから、あんなに……。 亜美ちゃん。 ……。 ……その話は、止そう。 ええ……然うね。 ……。 ……美奈子ちゃん、健康診断は受けているのかしら。 どうだろうなぁ……あいつのことだから、分からないな。 ……。 うさぎちゃんもさ、専業主婦だろ。 ちゃんと、受けてるかどうか……未だ若いし、なんて言ってさ。 若いからって、油断してはだめなのに。 今から、気を付けておかないと。 ……亜美ちゃんも、気を付けて欲しいな。 なに? 亜美ちゃんも、躰を大事にしてね。 私は……。 ふたりとは、別の意味で。 食事と睡眠だけは、ちゃんと、摂って。 ……。 あたしの一番の心配事は、亜美ちゃんなんだからね。 ……はい。 うん。 ……まこちゃんも、気を付けてね。 あたしは……。 まこちゃんも、無理をしてしまうタイプだから。 幾ら、体力があると言っても……限界は、あるの。 ……。 まこちゃんに何かあったら、私……。 ……はい、分かりました。 ……。 お互い、気を付けよう。 ……うん。 ……。 ……。 ……美奈子ちゃんとうさぎちゃんは、何かあったら泣きついてくるだろ。 然うなる前に、気を付けて欲しいのだけれど……。 まぁ、うさぎちゃんは衛さん次第かも知れない。 ……衛さんの言い方次第、かしら。 衛さんなら、上手くやって呉れるだろう……多分。 ……然うだと、良いけれど。 うさぎちゃんは兎も角、美奈子ちゃんは……目に見える形で示されないと、分からないと思うんだ。 ……示されても、分からないかも知れない。 ……。 或いは、見て見ぬふりをするかも。 ……そんなことないよ、とは、言えないのがなぁ。 都合が悪いことから、目を逸らす……それでは、だめなのに。 あたし達が言ったところでろくに聞かないだろうし、下手をすればお節介だと喧嘩になりかねない。 レイちゃんだったら、とは思わなくもないけど……面倒って、言いそうだし。 ……困ったものね。 はぁ……。 ……まこちゃん? ん、いや……ね。 お腹、どうかした? ちょっと、足りないなって。 お野菜だけじゃ、然うよね。 ね、何か買って……ううん、食べて帰らない? ……。 亜美ちゃんは、そこまでじゃない? ……あまり重たいものは、食べられないかも。 そしたら、ファミレスにでも入ろうか。あそこなら、適当に選べるし。 どうだろう? 然うね……然うしましょう。 ん……じゃあ、行こうか。 ……ん。 ……。 ……まこちゃん。 良いだろ……? ……うん。 何、食べようかなぁ。 キッシュは、どうかしら。 えぇ。 ふふ、冗談よ。 亜美ちゃんのキッシュを食べるまで、他のキッシュは食べない。 自分でも、作らない。 そこまで? それだけ、楽しみにしてたんだ。 ……。 あーぁ。 ……実は、私も。 ん? まこちゃんが作ったお料理、食べたかったの。 野菜と……ディップソースの他にも? だって、普段は作らないようなものもあったでしょう? えのきの豚バラ巻とか、チーズ明太餅とか、軟骨の唐揚げとか。 今回は酒のつまみになりそうなものを作ったからなぁ。 じゃないと、美奈子ちゃんがうるさいし。 ……楽しみにしていたのに。 亜美ちゃん……。 うさぎちゃんと美奈子ちゃんったら、ひどいわ。 みんな、食べちゃうんだもの。 はは、本当だねぇ。 笑いごとではないの。 ん、全くだ。 ……。 ……。 ……ふふふ。 あはは。 ね、まこちゃん。 また今度、作るよ。 ん。 まぁ、一度に全部は無理かも知れないけど。 一度に全部は食べ切れないわ。 はは、然うだよね。 ……。 ……ね、亜美ちゃん。 なぁに……? ……手を繋ぐだけじゃ、足りない。 え……? ……到底、足りない。 ……。 だから……今夜は、さ。 ……。 ね……明日は、ふたりで寝坊しようよ。 ……。 ね……? ……もぅ、まこちゃんは。 ん……? ……外でする話ではないわ。 流れで、つい。 そんな流れじゃなかった。 ……。 ん……まこちゃん。 ……亜美ちゃんで、満たしたい。 ……。 躰も……心も。 ……もぅ、ばか。 ……。 ......The floating bubbles on the far surface of the water, ……。 ......Please deliver my wish. ……。 ......While sharing it with joy and sorrow, together with you tomorrow too. ……ごきげんだね。 ん……。 ……とっても、きれいだ。 ありがとう……。 うん……今朝は、素直。 ……もう、朝ではないわ。 未だ午前中、だろう? だったら……。 ん……もぅ、だめ。 ……だめ? だめ……。 ……もう一度だけ。 だめよ……まこちゃん。 と……。 ……一日が、終わってしまうから。 これで終わるのも悪くないと思うな……久しぶりだもの、こんな時間は。 ……兎に角、もうだめ。 他に何かしたいことでもあるの……? ……ぁ。 それは、あたしとこうしていることよりも大事なこと……? ……。 ねぇ、亜美ちゃん……。 ……比べられないわ。 比べられない……? ……どちらも、大事なことだから。 ふぅん……。 ……あん。 面白く、ないな……。 ……まこちゃん。 あたしよりも、 まこちゃんのことよ。 ……うん? ね……勘違い、してるでしょう? ……。 ふふ……やっぱり。 ……だって、さ。 どちらも、大事なあなたと過ごす時間だから……。 ……む。 比べることなんて、出来ないの。 ……。 ね……分かって? ……あたしのことって、なに? それは……起きてから、ね。 ……。 さぁ、起きましょう……? ……この温もり、離したくない。 ……。 せめて、もう一度だけ……。 ……もぅ。 どうしても……どうしても、いやだと言うのなら……我慢、するよ。 ……ゆうべも、そんなこと言って。 言って……? ……なんども、したじゃない。 うん、したね……。 ……まだ、足りないの? 足りない……。 ふふ……くすぐったいわ。 望んで呉れるのなら……直ぐにでも、違う動きにするけど。 ……もう、まこちゃん? だって……。 ……だって、なぁに? いくら一緒に住んでいるからってさ……いつも出来るわけじゃないだろ? それは、然うだけれど……。 ……ふたりの時間が合わなければ、出来ない。 それでも、別々に暮らしていた頃よりは……あ、ん。 ……分かってるよ、分かってるけど。 ……。 ん………亜美ちゃん。 ……どうしようも、ない。 ……。 なんて、欲深いのかしら……ひとの心って。 ……それは、あたしだけ? ……。 それは、あたしだけなの……? ……いいえ、あなただけじゃないわ。 ……。 ……わたしも、ね。 ふふ……良かった。 ……ね。 なんだい……? この、におい……あなたの、におい。 ん……。 ……だいすき、よ。 あぁ……。 ……こんなに、ゆっくりするのは。 一ヶ月ぶり、だよ……。 ……。 もう、すごくたまってるんだ……。 ……わかるわ。 だから……。 ……しょうがない。 ……。 ……もう一度だけ、ね。 うん……もう一度、だけ。 ……あ。 亜美ちゃん……亜美。 ……まこ、ちゃん。 ちゃんは、いらないって……ゆうべも、言ったろう? ……だって。 だってじゃ、ない……。 ……。 亜美……。 ……あかるい、わ。 カーテンは、開けてないけど……。 ……それでも。 それでも……? ……みえる、から。 じゃあ……これなら、どうだい? ……。 ね、これなら……呼び捨て、で。 ……も、ぅ。 呼んで、ゆうべのように……甘い、声で。 ……にくらしい、かお。 う……。 ……まことの、ばか。 ……。 ……。 ……あぁもぅ、ほんとかわいいなぁ。 もう、よんであげない……。 ……そんなこと、いわないで。 まっくらじゃないから、いや……。 ……頭から、被ろうか? それじゃあ、くるしいじゃない……。 ……平気な時も、あるのにね。 いまは、いや……。 ……うーん。 ……。 ……しょうがない、なぁ。 ……っん。 だったら……。 ……まこ、ちゃん。 ゆうべみたい、に……。 あ……、……。 呼べるように……。 ……まこ、 なる、まで……? ……。 ……。 ……まこちゃん。 ……。 待って、まこちゃん。 待たない……待てない。 ……誰か、来たから。 そんなの、 だめ。 ……。 ……だめよ、まこちゃん。 うー……誰だよ、こんな時に。 ……。 ……まさか、美奈子ちゃんじゃないよな。 この鳴らし方は……美奈子ちゃんでは、ないわ。 ねぇ、留守ということに……。 ……しない。 えぇ……。 ……。 でもまぁ、こうしている間に……む。 ……上着は、どこ? ……。 まこちゃん。 分かった、出るよ。 亜美ちゃんは、このままで。 ……。 とりあえず、上着……はい、はーい、今出るからね。 ……はぁ。 はい、どちら様ですか……え、宅配便? 分かりました。すみませんが、少し待っていて貰っても良いですか。 はい、すみません。 ……宅配便。 お届け物だって。 ……。 着替え、着替えと。 ……まこちゃん、何か頼んだの? ん、いや、あたしは何も頼んでないよ。 亜美ちゃんじゃないの? 私も、頼んでないわ。 じゃあ、誰からだろう。 ……。 良いか、すっぴんでも。 ……若しかして。 じゃ、行ってくるね。 あ、うん……お願いね。 はーい。 ……。 すみません、お待たせしてしまって。 はい、木野まことはあたしです。サインで良いですか。 ……あぁ。 はい、ありがとうございます。 ご苦労様でした。 ……。 あたし宛てなんだけど、誰から……え。 ……。 ……ええ、と。 まこちゃん……。 ……亜美ちゃんのお母さんから、なんだけど。 ……。 何か、言ってた……? ……メールが、来てた。 それは、いつ……? ……つい、さっき。 つい、さっきって……。 ……ふたりでどうぞ、ですって。 いや、それなら、亜美ちゃん宛てでも良くないかな……? ……分かって、やってるのよ。 あ、あぁ……。 ……届く頃に、メールを寄越すだなんて。 えと、何を送って呉れたんだろう……ん、三重? これ、三重から発送されてる……若しかして、取り寄せ? ……母、伊勢に行っているみたい。 伊勢……? ……然う、伊勢。 んー……と、言うことは。 日持ちするものだとは、思うけれど。 あの名物は、どうだったっけ? なまものだし、日持ちはあまりしなかった筈よ。 そっか、じゃあ違うかな。 ……。 とりあえず、お礼の連絡をしなきゃ。 ……ごめんなさい。 ん、どうして? ……母が、迷惑を。 迷惑なんかじゃないさ。 ……住所、教えなければ良かった。 それはだめだよ。 ……でも。 あたし達は後ろめたいことなんて、一切、していないんだ。 であるならば、住所を教えることぐらいなんでもない。 ……然うじゃなくて。 うん? 唐突にこんなことをされたら……戸惑うし、驚いてしまうでしょう? それは……まぁ、吃驚はするかな。 ……ごめんね、まこちゃん。 大丈夫だよ。 ……。 あまり気にしないで、亜美ちゃん。 これはこれで、あたしは楽しいからさ。 まこちゃん……。 ね。 うん……ありがとう。 起きる? ……うん、起きる。 そっか……然うだよね。 ……ごめんね。 ううん、良いよ。 ん……まこちゃん。 ……また、ね? うん……また。 ……。 ……ん。 ね……メールより、通話でお礼した方が良いかな。 ううん、メールで大丈夫よ……多分、出られないだろうから。 ん、分かった……じゃあ、然うする。 ……。 携帯、携帯、と……あ、あたしのところにも来てる。 ……ねぇ、まこちゃん。 ん、なんだい? 中を確認してからでも、良いと思う。 中? でないと、何が届いたのか分からないまま、お礼をすることになってしまうから。 あ、そっか。 確かに然うだ。 開けてみて。 うん。 ……。 テープは、ここか。 これを……これは、ハサミを使った方が良いかな。 ……丁寧。 ん、何か言った? ううん、何も。 然う? ん。 そっか……良し、きれいに切れた。 ……。 んー……これ、ぜんざいだ。 ……ぜんざい? 感想、聞かれるかな。 聞かないと思うわ。 然うかな……じゃ、良いかな。 ……。 え、と。 ……ね、まこちゃん。 ん? 母からのメール、ちょっと見せて貰っても良い? ちょっと、気になることがあって。 気になること? うん……だめかしら。 ううん、良いよ。 はい。 ありがとう。 うん。 ……。 このぜんざい、お餅も入ってるんだな。 なになに、オーブンレンジで……。 ……あぁ、もぅ。 うん? ……。 あ、亜美ちゃん? ……携帯をありがとう、まこちゃん。 あ、うん。 ……。 気になることは、解決した……? ……母からのメール。 う、うん。 私に送られてきたものには、もう少しだけ続きがあるの。 続き……? ……然う、続き。 な、なんて……? ……。 だ、大丈夫、どんな内容でも受け止めるよ。 ……原文のまま、読み上げるわね。 うん。 ……いつに、なったら。 ……。 まことさんは私のこと……お義母さんって、呼んで呉れるのかしら。 ……。 ……。 ……呼んでる、よね? 「亜美ちゃんのお母さん」とは、ね……。 ……。 母が、望んでいるのは……。 ……義理の母と書いて、お義母さん? ……。 ……。 ……聞かなかったことに、する? そ、然ういうわけには……。 ……。 いかない、よ……。 ……目が、泳いでる。 そ、そんなこと……。 ……あるわ。 ……。 ……無理は、しないで。 む、無理はしない……よ。 ……母には、私から。 い、良いのかな。 ……え? お、お義母さんって、呼んでも。 ……。 ……良いのかな。 母が……然う、望んでいるから。 ……。 ……まこちゃんのことを、娘のように思っているみたいで。 娘……。 だからこそ、まこちゃん宛てにこれを送ってきたのだと思うの。 つまるところ、母ははしゃいでいるのよ。 そう、なんだ…… ……呼んだら、絶対に喜ぶわ。 ……。 ……だけど、無理強いはしたくないの。 亜美ちゃん。 ……なに。 亜美ちゃんのお母さんのこと、これからは。 ……。 お、お義母さんって……呼ぶ、よ。 ……まこちゃんが、それで良いのなら。 お義母さん……これからは、お義母さん。 ね、まこちゃん。 どうしよう……緊張、してきた。 お礼は、今でなくても。 はぁ……よし。 まこちゃん。 えと、こういう時の書き出しは……ご無沙汰しています……いや、ついこの間会ったよな。 ……緊張で、聞こえてない。 あ、間違えた。 ……。 あ、また。 ……。 あ、あれ、おかしいな。 ……。 また、間違えた……なんで。 ……落ち着いてからに、しましょう。 ……はぁ、送れた。 お疲れさま、まこちゃん。 ん、ありがと。 亜美ちゃんも返した? ええ。 そっか。 ……。 ぜんざい、かぁ……ねぇ、亜美ちゃん。 ……なに。 夫婦善哉って知ってる? ……織田作之助の短編小説。 うん、然うだね。 確か、売れっ子の芸者と妻子持ちの旦那が駆け落ちしてみたいな話だったね。 だけどね、あたしが言ってるのはそっちじゃなくてさ。 夫婦善哉は、大坂にあるお店の名前。 うん? そのお店では、一人前のぜんざいをふたつのお椀に分けて出すのだけれど。 それが、夫婦善哉だったりする? ええ、然うらしいわ。 そっかー。 ぜんざいを夫婦ふたりで食べれば、もれなく、それは夫婦善哉になる。 然う思っていたの? うん、思ってた。 お義母さんも、それで送って呉れたのかなって。 ……はい? ぜんざいだから、然ういう意味も込められてるのかなって、ちょっとだけ思ったんだ。 ……母は、そんなことは考えていないと思うけれど。 然うかな。 お義母さんって、わりとお茶目なひとだから、 お茶目? 母が? うん、結構お茶目で面白いよなぁって。 ……面白い。 まぁ、それでも緊張はするけどさ。 ……。 あれ、あたし、何かまずいこと言った……? ……母の、どこら辺がお茶目なの。 えと……例えば、いきなりぜんざいを送ってくるところとか? 分からないわ。 ……。 私から見た母は……今も昔も、お茶目なんかじゃないもの。 それは、親子だからじゃないかな。 あたしはほら、他人だからさ。 ……仲が良いのね、母と。 あー……。 ……別に、良いけれど。 親子って、難しいと思うんだ。 だからさ、他人のあたしの方が話しやすいってのはあるんじゃないかな。 ……。 なんて、あたしが言っても説得力はないと思うけど。 ……あまり仲良くしないで。 え? ……まこちゃんは、私の。 ……。 ……ごめんなさい、私。 あたしは。 ……ん。 あたしは、亜美ちゃんのパートナーだよ。 遠い昔から今に至るまで、そして、ずっと先の未来でも。 まこちゃん……うん。 よしよし。 ……もぅ、やめて。 だってかわいいんだ、とても。 ……もぉ。 あはは。 ……ふふ。 うん、やっぱりかわいいな。 ……。 亜美ちゃん……。 ……因みにね。 うん……。 夫婦善哉は……夫婦で食べると、夫婦円満。 ……へぇ? 恋人同士で食べると恋愛成就、ひとりで食べたら 寂しい思いをする? ……もう、それでは商売にならないじゃない。 はは、然うだよね。 ……ひとりで食べたら良縁来たる、よ。 あぁ、なるほど。 それなら、食べたくなるな。 そもそも一人前なのだから、ひとりで食べても良いじゃない。 まぁ、然うなんだけどさ。 周りが夫婦や恋人同士ばかりだと、ね? 肩身が狭いと言いますか。 然ういう考え、良くないと思うわ。 だけどさ、 誰でも好きなように食べれば良いの。 そんなことを気にして食べられない方が……よっぽど、寂しいわ。 ……。 だから……気にせず、食べれば良いの。 うん、然うだね……ごめんね。 ……どうして謝るの。 然うは思っても、なかなか出来なかったから。 ……今でも、気にするの? いや、今は気にしない。 好きなように食べれば良いと思ってるから。 ……そう。 だけど……亜美ちゃんが傍に居て呉れるから、然う思えているだけなのかも知れない。 ……。 あたしって、勝手だなぁ。 ……ごめんなさい、まこちゃん。 ん? なんで? ……。 良いんだ、気にしないで? あたしは亜美ちゃんの然ういうところも、好きだから。 ……。 でも、そっか。 このぜんざいをふたりで食べても、夫婦善哉にはならないんだね。 ……そんなに残念なこと? だってさ、夫婦ふたりで食べれば夫婦円満なんだろ? ……それが、商売文句だったとしても? 商売文句? 夫婦善哉は……一杯のぜんざいを二杯にした方が量があるように見える、つまり錯覚を利用して、且つ、縁起物として売り出したものだから。 あぁ、なるほど。 ……それでも、残念? うん、残念。 縁起物の善哉なんてさ、良いじゃないか。 そんな善哉を、あたし達が食べれば……あたし達も、夫婦円満になれる。 ……食べなくても。 よし、じゃあこうしよう。 ……? あたし達がふたりで食べれば、どんなぜんざいでも、たちまち夫婦善哉。 これなら、どう? ……ええ、と。 どんなものでもふたりで仲良く食べる、時にははんぶんこにして食べる。 然うしていれば、ずっと夫婦円満。うん、良いんじゃないか。 ……。 だめ? ……もぅ。 ん? つまり、ぜんざいでなくても良いということじゃない。 え、そんなこと言った? どんなものでも、と言った。 あー。 意図的、ではないわね。 ぜんざいの話をしてるつもりだったんだけど……ん。 ……。 亜美ちゃん……。 ……あなたのそういうところ、好きよ。 うん……。 ……ね。 なんだい……? ……大好きよ。 あたしも……大好きだ。 ……。 ……。 ……ぁ。 ね……ベッドに、戻る? ……。 ……戻る? もどらない……。 ……そっか。 それよりも……。 ……それよりも? 昼食……どうしましょうか。 ……色気よりも、食い気? ……。 なんて……確かに、おなかがすいてるかも。 ……もぅ、ばか。 ん、ごめん。 ……。 んー……昼食、か。 ……昼食には少し早いけれど、朝食と呼ぶにはもう遅いから。 どうしようかなぁ……何か食べたいの、ある? 然う、ね……。 然うだ。折角だし、ぜんざいにしようか。 ……え? お餅だけじゃなく、ほうじ茶まで入ってるしさ。 美味しそうじゃない? ……美味しいとは、思うけど。 早速、夫婦善哉ってね。 ……。 足りなかったら、何か軽いのを作ることにしてさ。 どうだろう? ……まこちゃんが、それで良いのなら。 うん……? ……私は、構わないわ。 亜美ちゃん? ……どうやって作るのかしら。 ねぇ、亜美ちゃん。 お餅をオーブンで焼いて、それから、 待って。 ……どうして? 何か、食べたいものがあるのなら……。 ……別にないわ。 ……。 ん……まこちゃん。 ……素直な言葉が、聞きたい。 ……。 だめ、かな……? ……。 ……亜美ちゃん。 ……キッシュ。 きっしゅ……キッシュ? キッシュが、食べたいの? ……ううん。 ……。 その……昨日、食べられなかったでしょう? だから……だから、ね。 ……あぁ。 ほうれん草とベーコンは、ないけれど……他のもの、で。 ……。 ……まこ、ちゃん。 作って、呉れるの……? ……あなたが、食べたいと思って呉れるなら。 食べたい……すごく、食べたい。 ……ぜんざいじゃなくても、良い? ぜんざいは、今日じゃなくて良い……それよりも、亜美ちゃんのキッスが……キッシュが食べたい。 ……。 ……ん。 ……。 ……噛んで、得しちゃった。 ふふ……。 ……ね、作って呉れる? 時間、貰っても良い……? ……もちろん。 うん……。 あたしは……然うだ、サラダとスープを作ろう。 私は、キッシュと……それからコーヒーを淹れるわ。 よし、然うと決まれば……と、その前に。 ……。 ……おはよう、亜美ちゃん。 おはよう……まこちゃん。 マグカップを使うなんて、可愛いし面白いなぁ。 手軽に出来ると書いてあったから、試してみたの。 食パンがパイ生地の代わりなのかな。 キッシュとは、言えないかも知れないけれど……。 いやいや、あたしから見れば十分にキッシュだよ。 ……ん。 入ってるのは、ウィンナとブロッコリーにチーズ。 うーん、すっごく美味しそうだ。 ……まこちゃんのサラダとスープも。 サラダはブロッコリーとゆで玉子とミニトマトのフレンチサラダ、スープはシンプルにオニオンスープにしてみました。 ふふ……とても美味しそうね。 はは。 それじゃ、食べようか。 ええ。 いただきます。 いただきます。 ……。 ……どう? ん、とても美味しい、すごく美味しい。 ふふ……良かった。 ん、亜美ちゃんはサラダから? ……だめ? ううん、そんなことない。 どうぞ、お好きなように。 ……。 ……どう? うん……とても、美味しい。 ん、良かった。 ドレッシングが本当に美味しい。 亜美ちゃんのキッシュも、淹れて呉れたコーヒーも最高に美味しいよ。 とっても贅沢だ。 もぅ……大袈裟なんだから。 思ったことを素直に言葉にしただけさ。 ……。 あぁ、しあわせだなぁ。 ……私も。 亜美ちゃんも? ……うん。 そっか。 ……。 うん……本当に、しあわせな時間だ。 ……。 ……。 ……大事なあなたと過ごす、大切な時間。 ん……? ……やっぱり、比べられないわ。 ……。 ……。 ……あぁ、然ういうこと。 まこちゃん……。 ……亜美ちゃんの言う通りだ。 ……。 亜美ちゃん。 ……なぁに。 美味しいね、ごはん。 ……ん、とても。 ……。 まこちゃん。 ……なんだい。 今度、キッシュを作る時は。 ……。 ほうれん草とベーコンのに、するから。 ……ん、楽しみしてる。 うん……。 -Ça va ?(現世3・名字呼び) ……あたしも、食べたかったな。 ……。 ……はぁぁ。 ……。 さばのみそ煮……ほうれん草のおひたし……豚汁……。 ……木野さんも作ったでしょう。 作ったけど……家で作るのと、大して変わらないし。 ……でも、調味料が少し違うでしょう。 調味料は、あたしが用意したんだ……家にあるものでいいって、言われて。 ……私ひとりで作ったわけではないから。 そうだけど……。 ……私が作ったのはさばの味噌煮だけで、 さばのみそ煮……食べたかったな……水野さんが作った……。 ……だから、私ひとりで作ったわけではないから。 隣のクラスなのに、どうして合同ではないんだろう……体育は合同なんだから家庭科、調理実習だけでも合同でいいじゃないか。 その方が効率がいいだろうに……いや、絶対にいいに決まってる……。 生徒が少ない方が、先生の目が行き届いて良いのでしょう。 包丁や火を使うのだから。 なんだったら、あたしは水野さんと同じ班でも……寧ろ、して欲しい……。 ……。 はぁ……水野さんの、手料理……。 ……調理実習で、作っただけじゃない。 つまりは、手料理だろ……? 繰り返すけれど、ひとりで作ったわけではないから。 三年生になったら、同じクラスに……いや、待てよ。 仮にクラス替えがあったとして、その結果、同じクラスになれないどころか隣のクラスでもなくなって、 寧ろ、より離れてしまったら……そんなことになったら、死活問題じゃないか。 大袈裟。 そもそも、クラス替えなんてないわ。 だって、合同体育と昼休みだけが学校での楽しみなんだ。 図書室での逢瀬も、我慢しているし。 クラスが離れて、体育の授業を一緒に受けることがなくなっても、昼休みは変わらないでしょう。 昼休みは変わらなくても、体育の時間が別々になっちゃうのは……。 無駄な心配はもういいわ。 クラス替えは、ないのだから。 ……。 ……。 ……図書室での逢瀬を だめ。 たまにで、いいから。 授業をさぼるのは、もう、止めたのでしょう? ……そう、だけど。 だけど? ……授業中の、あの静かな空間がたまに恋しくなるんだ。 ……。 水野さんと、静謐な時間をふたりきりで……。 ……帰れば、ふたりきりじゃない。 部屋とは、違うんだ……だから。 ……だめよ。 ……。 今は……授業に出て、ちゃんと。 ……わかってる、よ。 ……。 だけど……息苦しくなってしまう時があるんだ。 教室という狭い「はこ」の中で、ひとに囲まれていると……どうしても。 ……分からないわけでは、ないから。 ……。 抜け出せそうな時が、あれば……その時は、ふたりで。 ……あるかなぁ。 難しいとは、思うけれど……。 ……。 ……。 ……さばのみそ煮。 は……? ……はぁ。 そんなに、食べたいの……? うん……そんなに、食べたい。 ……さばのみそ煮に話が戻るとは思わなかったわ。 それだけ、食べたかったってことだよ……。 ……残しておけば良かったとでも? うん、残しておいて欲しかった……一口だけでも、いいから。 さばのみそ煮を? 今日のお昼に、水野さんが作ったさばのみそ煮……考えただけでも、しあわせだな……。 ……。 豚汁よりは、なんとかなると思うんだ……。 ならない。 兎に角、諦めて。 ……。 木野さん。 ……どうしようもないことは、ちゃんと分かってるよ。 ……。 分かってるから……。 ……しょうがないひとね。 ……。 ねぇ、木野さん。 ……なんだい。 今日のお夕飯は? 今日は……て、え? 何を作る予定なの? 今日はねぇ、寒いから大根と手羽元の煮物にしようかなって! そう、楽しみにしてるわね。 うん! ……。 ……。 ……本当、冷えるわね。 あの……。 ……何。 いや、その……。 ……。 ……寒いね、今日。 ええ、本当に。 ……手、繋いでもいい? だめ。 ……知ってた。 図書館、寄ってく? ううん、今日はいいや。 お買い物は? 付き合ってくれる? ええ、いいわよ。 ん。 ……。 雪、降らないかな。 木野さんは雪が好きなの? 好き。降ってる時は、きれいだろ? 積もった後の雪掻きは面倒だけど。 ふぅん。 ……ね、水野さん。 だめよ。 ……名前を呼んだだけなのに。 手袋をしていたら、感触が分からないでしょう? ……外す? 寒いから、いや。 寒かったら、あたしの制服のポケットに、 歩きづらい。 けど、あったかいよ。 温かいだけなら、手袋でも 心が、あったかくなるよ。 ……。 だから、ね。 ……別に、寒くないもの。 ……。 ……木野さんと、一緒にいれば。 水野さん……。 ……木野さんは、寒いの? 寒くは、ないけど……。 ……けど、なに。 寒くは、ないよ……水野さんと、一緒にいれば。 なら、いいわね。 ……あー。 なぁに? ……なんでもない。 そ。 ……うん。 はぁ。 ……真っ白だ。 気温、今週はずっと低いままなのよね。 朝は氷点下なんだっけ。 風邪をひかないように気を付けないと。 そうだね。 はぁ……ふふ、本当に真っ白。 ……かわいいな。 なぁに? その吐息ごと、 木野さん? ……今夜は暖かくして寝ようね、一緒に。 ……。 夕飯、大根と手羽元の煮物と……あとは、どうしようかな。 ねぇ。 ……なに。 今日は、無理。 ……うん? だから、今度のお休みの時に。 ……時に? 作ってあげても、 ありがとう、楽しみにしてるよ! ……。 ふふ、やった。 ……多分。 ん? 木野さんが自分で作った方が美味しいと思うわ。 そんなこと、 あるわ。 ないよ。 どう考えても、 水野さんの味は、水野さんにしか作れない。 ……。 あたしじゃ、作れないんだ。 どう頑張っても、水野さんのさばのみそ煮は。 ……木野さんが作った方が美味しいと、私は言っているのだけれど。 それは、水野さんの感想だろう? あたしは、そう思わないかもしれない。 ……もしも、美味しくなかったらどうするの。 どうもしないよ。 ……後悔、するわ。 しないよ。 不味いものを 後悔なんて、しない。 ……。 だから、水野さん。 ……知らないから。 うん。 ……楽しみになんて、しないで。 無理、かなぁ。 ……。 ん……水野さん? ……期待に、応えられないかもしれないから。 ……。 ……だから、楽しみにしないで。 ん……分かった。 ……。 じゃあ……ほどほどで。 ……分かってないじゃない。 ほどほどでも、だめ? ……だめ。 じゃあ……ほんの少しだけ。 ほんの少しだけでも、だめ。 全然、楽しみにしないのは……難しいな。 やっぱり、 とにかく、 期待に応えようなんて、思わなくてもいいよ。 ……。 ね。 ……それが。 うん? 難しいと言っているのよ、ばか。 ……あ。 鈍感。 え、えぇ。 ……。 み、水野さん? ……だって、それが私の性分なんだもの。 ……。 ……。 ……はは。 なによ……ん。 ……水野さんは。 ちょっ、と……。 ……やっぱり、真面目だなぁ。 ……。 ……うん、痛いです。 離れて。 ……もう、少しだけ。 木野さん。 ね……こうしてると、あったかいだろ? ……。 ……寒さなんか、気にならない。 ……。 ん……水野さん。 ……離れて。 ……。 早く、しないと……。 ……しないと? 塾の時間になって、一緒に買い物に行けなくなってしまうわ。 ……。 それでも、いいの。 ……うん、離れる。 ……。 ええと、行こうか。 ねぇ。 んー? ……。 ……へへ。 いやなら、 いやなわけ、ない。 ……そ。 うん。 ……。 ふふ、あったかいなぁ。 ……手袋をしてるから、分からないわ。 あたしは、分かるよ。 私は、分からない。 手袋越しに、伝わってくるから。 ……。 少しも、伝わってこない? ……知らない。 そっか。 ……。 空、なんだかどんよりとしているなぁ。 ……木野さん。 なんだい? ……。 手袋、外す? ……外さない。 ポケットに、 歩きづらいから。 じゃあ、このままで。 ……ねぇ。 なぁに? ……帰ったら、温かいものが飲みたい。 何がいい? ……ミルクティー。 ん、任せて。 とびきり甘いのを ……あんまり甘くない方がいい。 水野さん。 ……。 甘くないミルクティーを淹れたけど、飲むかい? ……ありがとう。 お勉強は、まだ? ……どうして? 眠たそうだったから。 ……。 集中、切れてない? ……少し。 そう……じゃあ、今日はここまでにしたらどうかな。 ……木野さん。 ん? ……となり。 うん。 ……。 ……これくらい? もう少し……。 ……これで、どう? ……。 膝枕でも、いいのに。 ……これで、いいの。 なんだったら、腕枕でも……。 ……これが、いいの。 分かった……だけど、気が変わったらいつでも言って。 あたしは、いつでも構わないから。 ……はぁ。 今日……。 ……。 そんなに疲れてしまうようなこと、あった……? 塾では、ないよね……? ……調理、実習。 調理実習……? ……言ったでしょう、私ひとりで作ったのではないと。 聞いた、けど……。 ……苦手なの。 料理が? いや、でも、あたしとふたりでする時は……。 ……班で、行動するのが。 ……。 特に、調理実習みたいな……みなで、やらなければいけないことが。 理科の実験なら、そうでもないのだけれど……。 ……理科の実験は、まぁ、調理実習とは違うよなぁ。 さばのみそ煮……誰も、やりたがらなかったから。 ……だから、水野さんが買って出た? そういうわけじゃないわ。 ああでもないこうでもないと言ってるのが、酷く耳障りで、鬱陶しかっただけ。 時間の無駄でしかなかった? どうせやらなければいけないことならば、さっさと終わらせてしまう方がいいでしょう。 それなのに……くだらない。 けど、さばって切り身だったよね。 一から捌くわけではないし、そんなに難しいものではなかったと思うけど。 切り身に触るのが、嫌なんですって。 はぁ? 手が汚れるだの、気持ちが悪いだの。 えー……。 ……手なんか、洗えばいいだけの話なのに。 だけどさ、ひとりくらいおうちで料理してるって子がいてもいいと思うんだけど……。 ……曰く、クッキーやパウンドケーキは作るそうよ。 あぁ、なるほど。 ……この間、学校に持ってきて食べていたわ。 バレンタインも、近いしなぁ。 ……。 お菓子作りが好きなのか、それとも、単に男子受けが良いからなのか。 さて、どっちだろう。 ……さばのみそ煮でもいいじゃない。 男子に? さばのみそ煮の何が悪いというの。 あたしは別に悪いとは思わないけど、 木野さんみたいなひとだって、いるかもしれないでしょう。 え、あたし? 諦めきれずに、ぐだぐだ言うような。 あー……まぁ、ぐだぐだ言うのはいるだろうね。 さばのみそ煮に限らず……。 ……。 男子って、どちらかと言うと肉が好きらしいから。 魚は、あまり受けが良くないのかもしれない。青魚が苦手というひともいるし。 ……詳しいのね。 いや、全然。 ……。 今の学校だけでなく、前の学校でもそうだったんだけどさ、聞くつもりがなくても勝手に耳に入ってくるんだよ。 急に甲高い声を上げたりもするから、休み時間は教室にいるのがいやで。 ……抜け出して、そのまま授業をさぼる。 戻るのが、億劫になっちゃって。 ……。 けど、ま、そんな子ばっかりではないんだろうけどさ。 ……? だけど、そういう子の声はかき消されて、あるいは口を塞がれてしまって聞こえないことが多いから。 ……どうして、そう思うの。 うん? ……そんな子ばっかりじゃないって。 あぁ……前の学校に、物語を書くのが好きな子がいてさ。 その子は、恋愛の話をするよりも、文章を書いてる方が好きだったみたいで。 ……親しかったの? いや、親しくはないよ。 たった一度だけ、助けたことがあるってだけ。 ……助けた? 特定の男子達から、嫌がらせを受けていたみたいでさ……その時は、書いたものを取り上げられて、音読されてたんだ。 それがあたしの目の前でだったから、思わず、手が出てしまった。 ……一度だけ? 一度、叩きのめせば……まぁ、事足りるからね。 ……そのひととは、 転校して、それきりさ。 名前も、なんだったか。 ……そう。 思えば、その子もいつもひとりだった。 ……親しくなろうとは、思わなかったの。 親しく? ……ひとり、だから。 助けは、したけど……親しくなろうとは、思わなかった。 あたしが求めていたひとでは、なかったから。 ……。 あぁ、だけど……。 ……なに。 男子達を殴り飛ばして、あたしが大人達から責められている時に、その子は声を上げてくれてさ。 大人達の決め付けを、全部、否定してくれたんだ。 その子は日頃から真面目な生徒だったから……大人達は、その子の言葉をあっさり信じてね。 ……。 普段は声が小さくて大人しかったけど、その時だけは全く違ってさ。 毅然とした態度で、先生達に言ってくれたんだ。 ……。 あたしもさ、その子が言ってくれたことと、全く同じことを何度も主張したんだけど……ま、聞いてくれるわけがない。 ……。 まぁ、こんなもんなんだよなぁって。考えるのを止めた。考えるだけ、無駄だし。 だけど、助けてくれたことには感謝したよ。おかげで、殴り飛ばしたのはやりすぎだって言われるくらいで済んだから。 ……。 そんな顔、しないで。 ……木野さんが、助けたから。 うん、そう言われた。 あたしが、助けてくれたからって。 ……木野さんは、ひとりではなかったのね。 え……? ……分かってくれる人も、いた。 ……。 ……私とは、違う。 水野さん……。 ……頭が、重い。 休む……? ……ううん。 だけど……。 ……もう少しだけ、こうしていたいの。 ……。 ……もう少ししたら、ベッドに。 ん、分かった……その時は、言って。 ……。 調理実習……班の組み合わせが、悪かったんだね。 ……私、いつもひとりだから。 ……。 ……数合わせに、丁度いいの。 数合わせ、か……。 ……木野さんは、どうだったの? あたしも、数合わせだよ。 ……。 だから、さっさと作って、さっさと終わらせた。 ……さばのみそ煮? そう、さばのみそ煮。 ……。 そういえば、水野さんは食べたいって言わなかった。 ……いつも、木野さんが作ったものを食べているもの。 そうだけどさ、少しはさ? あの日のお弁当も美味しかったわ。 あの日? あなたが、調理実習の日。 コンビニでサンドイッチを買うから、作らないでいいと言ったのに。 ……あの日は、なんだったっけ。 メカジキの照り焼きとたまごやき、それから春菊の胡麻和え。 そうそう、メカジキが安かったんだ。 ……だから、ねだる必要なんてないの。 だけど、さばのみそ煮はまだ、 そのうち、作ってくれるでしょう? ……。 木野さんって、そういうひとだもの。 ……分かってるね。 ええ、そうよ。 まいったなぁ。 そんなこと、思ってないくせに。 うん、思ってない。 けど、水野さんが食べたいって言ってくれたら、やる気が違うから。 ……。 食べたい? ……食べたいわ。 よし、作ろう。 ……私が作らなくても、 水野さんが作ってくれて、しばらく経ったら、作ることにする。 ……。 つまり、水野さんが作ってくれなきゃ、あたしのさばのみそ煮は食べられないってわけ。 あ、それならそれで、なんて言わないでくれよ? ……ふふ。 言おうと思ったろ。 ……ええ、思ったわ。 まったく。 ……。 水野さん? ……つかれちゃった。 ……。 ん……きのさん。 ……実習が、合同だったらな。 ……。 そしたら、ふたりで作れたのに。 あれぐらいだったら、水野さんとあたし、ふたりで十分だ。 ……そうはいかないでしょう。 クラスが、同じだったら……。 ……クラスが同じだったとしても、ふたりでなんて、やらせてはくれない。 ……。 そういうものでしょう……学校って。 ……面倒だなぁ、さっさと大人になりたいよ。 大人になっても、同じよ……。 ……。 同調圧力……個よりも、全……輪に入れない者……和を乱す者……そういう存在は、組織に必要とされない。 だったら、組織に入らなきゃいい。 ……個人で? そうだよ。 ……それでも。 組織の歯車にされるよりは、いいと思うけどな。 ……社会の歯車に、なるだけ。 ……。 まぁ……私達が大人と呼ばれる年齢まで、無事に生きていられるか分からないけれど。 使命なんかで死ぬつもりは、これっぽっちも、ないよ。 ……。 水野さんもだろう? ……使命なんかで、死ぬつもりはなくても。 う。 ……ひとりで生きていくなんて、いやよ。 ……。 いやよ……そんなの。 ……あたしも、いやだ。 ……。 それ、飲み終わったら……今夜はもう、休もう。 明日も……楽しい学校が、待ってるから。 ……ねぇ。 ん……? ……あしたのおべんとうは、なに。 明日は……炊き込みご飯。 ……なんの。 ごぼうと、そぼろ……。 ……おかず、は。 甘辛い、かぼちゃのきんぴらと……たまごやき。 たまごやき……? ……甘いの、出汁巻き、あるいは、しょうゆ。 どれが、いい……? ……。 ……どれでも、いいよ。 ねぇ、きのさん。 ……ん? 私が作ってみても、いい……? ……。 ……きのさんのようには、つくれないとおもうけど。 水野さんの、たまごやき。 ……。 ……たのしみ。 もぅ……。 ……う。 たのしみにしないでって、いった。 ……たまごやきも? たまごやきも。 ……そっか。 ん……ちょっ、と。 ……ね、甘いのがいいな。 ……。 だめ……? ……いい、わ。 やった……。 ……きの、ん。 ……。 …………つかれてる、の。 わかってる……だから、ふれるだけのキスを。 ……。 ん……みずのさん。 ……つれてって。 ……。 つれてって……まこと。 ……任せて。 ……。 ね……ベッドでは普通の枕と、 ……あなたの、うで。 ……。 ……が、いい。 うん……分かった。 ……。 ……はぁ。 木野さん。 ……みずのさん。 鼻のつまりは、どう? 片方が、つまってる……。 もう片方は? 今はつまってないけど、しせいをかえるとつまる……。 ……完全に鼻声になってるわね。 ん……。 ……熱、朝よりも少し上がってる。 うつっちゃうよ……。 ……だから、ずっとはいないわ。 ……。 ……喉は、痛い? すこし、いたいかな……。 ……典型的な風邪の症状ね。 どうして、ひいたのかな……思い当たることが、ないんだけど……。 ……疲れ。 つかれ……。 ……知らず知らずのうちに、たまっていたのでしょうね。 うーん……。 ……。 ごめんね……みずのさん。 ……何が。 あさごはん、つくれなくて。 ……気にしないで。 それから、がっこう……やすませて、しまって。 ……。 ごめん……。 ……ひとりだったら、行かない方がいいもの。 ……。 何日か休んだところで、問題はないから。 ……あたしは、どうだろう。 授業のことなら、全く問題ないわ。 私が、いるもの。 ……。 今は考えないで、熱が上がったら厄介だから。 ……うん、かんがえない。 ……。 ねぇ……みずのさん。 ……何。 へやにいない時があったみたいだけど……どこかに、行ってたの? 起きていたの? ……目がさめたら、みずのさんのけはいがしなかったから。 ……。 どこに、行ってたの……? ……買い物。 かいもの……あぁ、そっか。 果物の缶詰とヨーグルト、それからりんご。 あとは、色々。 だいじょうぶだった……? ほどう、されなかった……? ……私の心配よりも、 ……。 ……ええ、大丈夫だったわ。 そっか……よかった。 ……。 いっしょに、いきたかったな……。 ……無理でしょう、そんな状態じゃ。 そう、だけど……。 ……ところで、食欲は? しょくよく……? お腹は、空いてない? ん……すこし、すいてるかも。 今用意したら、食べられそう? うん? お昼、大分過ぎているから。 え、もう、そんな……? ……二時、過ぎてる。 あー……じかんのかんかくが、いまいちないや。 食べられそうにないのなら、 ううん、たべられる。 ……食べたくないものは、ない? あぶらっこいのは、ちょっと。 卵は? へいき。 半熟? 完熟? んー……かんじゅくが、いいな。 そう……分かった。 ……。 なに、にやにやして。 ん……うれしいなぁって。 ……。 たのしみとは、いってないよ……。 ……言ってるようなものよ、その顔は。 かお……。 ……まぁ、いいわ。 ん……。 でも……今だけ、だから。 ……うん。 ……。 ……ふふ。 ねぇ、木野さん。 え、なに……。 ……雑炊とおうどん、どちらがいい? あ、えと……うどんが、いいな。 そう……。 ありがとう、みずのさん……。 ……どういたしまして。 ……。 ……すぐに、出来るから。 ……? すぐに……? ……鼻づまり、酷くなってるわね。 あー……片方は、つまってないと思ってたんだけどな。 鼻の下は痛い? ううん、まだへいき。 あんまり、でないんだ……つまってるだけで。 ……そう。 まぁ、たれっぱなしよりはいいかもしれないけどさ……。 ……どっちもどっちよ。 はは……そうだよね。 ……すぐに、戻るから。 うん、まってる……。 ……うつっちゃうって、言ったくせに。 え……? 本当は、そばにいて欲しい……違う? ……ちがわない。 今日はもう、出かけないから。 ……じゅくは? 休む。 ……。 だから、早く元気になって。 ……うん、がんばる。 ……。 ね、みずのさん……。 ……なぁに。 なにか、うたって……。 ……は? みずのさんのこえを、きいてると……あんしん、するんだ。 ……会話では、だめなの。 だめじゃ、ないけど……。 ……喉が、辛いの? ……。 ……そうなのね。 つらいと、いうより……なんか、つかれてきちゃって。 ……その状態を辛いと言うのよ。 ……。 ……それだけ、躰が弱っているの。 ねつをだすの、ひさしぶりすぎてさ……。 ……。 こんな、だったっけ……。 ……とにかく、今は休んで。 うん……。 ……。 はぁ……。 ……少しだけよ。 え……? ……歌。 ほんと……? ……長くは、歌わない。 それでも、いい……ありがとう、みずのさん。 ……。 ……。 ......If I dive into the quiet night, I'll hear it. ……えいごだ。 ......Gently swaying, around my body ……。 ......Rhythm of bottom is the rhythm of life. ……なんとなく、わかるかも。 ......I looked up to the water surface, It looks like a starry sky. ……。 ......Embracing it everything gently . ……やさしいなぁ。 ......While coloring it with smiles and tears, together with you tomorrow too. ……あしたも、いっしょに。 ……。 ……。 ……。 ん……あれ? ……。 え、と……おわっちゃっ、た? ……木野さん。 あ、みずのさん……。 出来たわ。 ……へ。 ごはん。 え、もう……? すぐに出来ると言ったでしょう。 それにしたって、はやいと思うんだけど……。 ほとんど、出来ていたから。 ……ほとんどって。 ほとんど、出来ていたの。 そ、そうなんだ……ん? におい、分かる? うん、わかる……これは、みそのにおい? そう……正解。 みその、うどん……? ……おしょうゆの方が、良かった? ううん、みそがいい……ふふ、おいしそう。 躰、起こせそう? ん、だいじょうぶだとおもう。 ……無理は、しないで。 わかってる……よいしょ、と。 ……。 ね、だいじょうぶだった。 ……もぅ。 へへ……。 ……熱いから、気をつけて。 はぁい……。 ……。 ……お? ……。 これ、さかな……? ……そうよ。 ふむ……。 ……。 もしかして……さばの、みそに? ……さばは、免疫力を上げるから。 へぇ……これは、おもしろいなぁ。 こういうのは、かんがえたことないや……。 ……缶詰を使った方が、手間がかからないのだけれど。 つくって、くれたの……? ……。 ……うれしいな。 ……食べられそう? うん、たべられそう……。 そう……一応骨は取ったけれど、気をつけて。 ん、わかった。 ……。 しょうがと、ほうれん草……ふふ、たまごはかんじゅくだ。 ……もしも。 ん……? ……美味しくなかったら、 いただきます。 ……。 ……あつ。 もぅ……熱いから気をつけてって、言ったでしょう。 はは……。 ……しょうがないひとね。 こんどは、気をつけるよ……。 ……ふぅふぅ、してあげましょうか。 え、ほんと? 冗談よ。 ……だよね。 貸して。 ……え。 早く。 う、うん。 ……。 あ……。 ……。 ……。 ……顔、緩んでる。 や、だって……。 ……はい。 ん、ありがとう。 ……こんなので、冷めたとは思えないけど。 きもちが、うれしい。 ……。 あらためて、いただきます。 ……どうぞ。 ……。 美味しくなかったら、 ……ん、おいしい。 ……。 すごく、おいしいよ。 ……無理は、 してない、ほんとうにおいしい。 うどんはやらかくて、食べやすいし、さばも、くさみがなくておいしい。 ……。 これなら、すぐに元気になれそうだよ。 ……食べ終わったらお薬を飲んで、また休んで。 うん。 ……。 ね……これ、どうやって作ったの? ……さばのみそ煮と白だしを入れて、 うんうん。 ……治ったら、教えるわ。 え。 ……治すのが先。 けど、きくだけなら……。 治すのが、先。 ……はい。 ……。 ね、みずのさんの分は? みずのさんもまだ、たべてないだろ? ……私は。 たべなきゃ、だめだよ。 みずのさんまで、かぜをひいてしまう。 ……。 ね、みずのさん……あ。 ……そんなの、あなたに言われなくても分かってるわ。 みずのさん、どこに……。 ……。 ……? 食べれば、いいんでしょう。 え、と……それ、みずのさんの? ……そうよ。 うどんじゃ、ない? ……私のは、雑炊。 ……。 なに。 ……もしかして、どちらでもいいように。 ……。 ……。 うん……まずくは、ないわね。 ひとくち。 ……は? ひとくち、ほしいな。 ……。 たべたい。 ……あなたは、おうどん。 ぞうすい……。 ……。 たべたいな……。 ……はぁ、ちょっと待ってて。 うん、まってる。 ……これなら、大丈夫そうね。 え、なに? なんでもない。 ……。 はい、一口。 うん、ありがとう。 ……。 いただきます……。 ……。 ん……ぞうすいも、おいしい。 ……満足? うん……。 ……そ、なら良かった。 ……。 ……もう一口、あげるわ。 やった。 ……。 ……。 ……。 ……ね、みずのさん。 まだ、欲しいの。 ……ううん。 ……。 ……。 なに……木野さん。 ……あの、さ。 ……。 すこしのじかんで、いいから。 ……。 てを……つないで、いて。 ……。 ……ねむるまでとは、いわないから。 ……。 ……だめ、かな。 いいわ。 ……。 眠るまで、繋いでいてあげる。 ……。 ……それで、いい? うん……ありがとう。 ……。 へへ……おいしくて、うれしいな。 ……ねぇ。 ん……? ……手なんか、幾らでも繋いであげるから。 ……。 ……少しでも早く、治して。 ……。 ……。 ……うん、すこしでもはやくなおすよ。 ……。 じゃないと……いっしょに、ねむれないから。 ……ばか。 中 |