-Love is Medicine(前世)





   お腹の調子はどうだい、マーキュリー。


   ……。


   うん、大分良くなった顔だ。


   ……ええ、お蔭様で。


   うん、良かった。


   今日も来たのね?


   今夜も来るよ。


   仕事は?


   それなり。
   今は、休憩中だから。


   休憩中、ね。


   点滴、未だ外れないのかい?
   もう、飽きただろ?


   飽きるも何も、仕方がないわ。
   経口摂取が、出来なかったのだから。


   出来なかった、から?


   然う、出来なかったから。


   と、言うことは……そろそろ、出来そう?


   然う、ね……。


   何か、食べられそう?
   食べても、良さそう?


   ジュピター。


   なに?


   何を作ってきて呉れたの?


   えへへ、それはねぇ。


   なぁに?


   これ。


   これは……麦粥、かしら。


   うん、然うなんだ。
   これなら、お腹に良いだろう?


   ……大麦?


   うん。


   然う。


   食べて呉れるかい?


   ……。


   食べられない、かい……?


   ……いいえ、食べられるわ。


   本当?


   本当。


   無理は、


   してない。


   それじゃ、


   知っていたくせに。


   うん?


   今日から、経口摂取をし始めると。
   だから、作ってきて呉れたのでしょう?


   ……。


   惚けて。


   あくまでも計画、だから。
   何事も計画どおりには進まないものだから。


   今回は順調に進んでいるわ。


   ……食べられそう?


   ねぇ、ジュピター。


   うん?


   食べられるから、食べさせて?


   ……!


   ね。


   うん!


   ん。


   あぁ、良かった。


   と言っても、たくさんは食べられないわよ?


   良いんだ、一口だけでも。
   今は、それだけで十分。


   ……ん。


   ね……元気になったら、たくさん、食べてよ。


   ……麦粥を?


   麦粥が良いなら、何度でも作るけど。


   麦粥でも良いけれど、他のものも食べたいわ。


   甘いものとか?


   ふふ……然う、甘いものとか。


   はは、分かった。
   じゃあ、いっぱい作るよ。


   食べ切れなかったら、勿体ないから。


   然うしたら、マーズあたりにでも


   マーズは甘いもの、苦手よ?


   あぁ、然うだった。
   じゃ、プリンセスにでもあげようかな。


   マーズよりも先にプリンセスでしょう?


   あはは、然うだった。


   もう。


   別に忘れてたわけじゃないよ。
   プリンセスにはいつも作ってるから、たまにはマーズにもって思っただけさ。


   それならば、良いのだけれど。
   いえ、良くないわね。


   はは。


   ふふ。


   それじゃ、マーキュリー。


   うん。


   先ずは、一口。


   自分で食べられるわ。


   食べさせて、と言ったのはマーキュリーだよ。


   あれは、然ういう意味ではないの。


   良いじゃない、こんなこと滅多にないんだから。


   ちょっと、ジュピター……。


   点滴が、外れるまで。
   あたしがマーキュリーの片腕になるよ。


   外れていなくても動かせるし、もう片方はしていないから。


   良いから、良いから。


   良くない。


   マーキュリー。


   自分で


   マーキュリー?


   ……。


   はい、マーキュリー。


   ……あぁ、もぅ。


   へへ。


   ……。


   んん?


   ……。


   うーん。


   ……。


   もう少し、開けて欲しいな。
   匙が入らないよ。


   ……これ以上は、恥ずかしいわ。


   え、然うなの?


   ……悪い?


   悪くない、可愛い。


   もぅ……ジュピター?


   あぁ、可愛いなぁ。


   そんなこと、言うのなら……もう、開けない。


   あ、ごめん。


   自分で食べる。


   一口、一口だけで良いから。


   いや。


   マーキュリー。


   ……。


   お願い。


   ……もう、揶揄わない?


   最初から揶揄ってない!


   ……。


   うん?


   ……もぉ。


   マーキュリー?


   ……。


   もう少し。


   ……。


   よし、分かった。
   それじゃ、こうしよう。


   待った。


   ……え?


   やっぱり、自分で食べる。


   な、なんで?


   口移しなんてされたら、咽てしまうから。


   ……。


   あなたのことだから、するつもりだったんでしょう。


   ……そんなつもり、ないよ?


   ないの?


   ない、よ?


   本当に、ないの?


   ……。


   ジュピター?


   ……ちょっとだけ、考えた。


   ちょっとだけ?


   ……だって。


   だって?


   ……開けて呉れないから。


   それは……あなたが、慣れていないから。


   慣れ……?


   ……あまり大きく開けると、零れてしまうから。
   だから……匙が入るくらいで、丁度良いの。


   いや、あれじゃいくらなんでも……それに、あたしの時は零れなかったよ?
   口、大きく開けたけど。


   ……。


   マーキュリーはさ、舌の真ん中あたりに置いて呉れるだろ?
   あれ、すごく食べ易いんだ。零れることも、あんまりないし。


   ……。


   あたしもいつか、マーキュリーにしてあげたいと思ってた。
   いつも、してもらうばかりだから。


   ……兎に角、自分で食べるから。


   どうしても、いや?


   ……。


   むぅ……。


   ……ジュピターにしてもらうの、思ってたよりも恥ずかしいんだもの。


   ……。


   ……だから、自分で


   あぁぁ、かわいいなぁ……。


   ……うるさい、ばか。


   へへへ……。


   ……食べたいから、早くして。


   点滴、邪魔じゃない?


   ……平気よ。


   でも、なぁ。
   ずれちゃったら、


   ずれないから。


   いや、やっぱりだめだよ。
   ここは、あたしに甘えて。思い切り。


   だから、それが恥ずかしい……


   ……。


   ……もぅ、ジュピター!


   だって、かわいいんだ……。


   ジュピ……ん。


   ……。


   ……。


   ……口移しは、しないよ。
   咽て、変なところにでも入ったら大変だから……。


   ……も、ぅ。


   ね……食べさせて、あげたいんだ。
   マーキュリーが……メルが、あたしにして呉れるように。


   ……。


   慣れる為にも、さ……?


   ……ひとくち。


   ん……?


   ……ひとくち、だけよ。


   うん……。


   ……。


   ……それじゃ、改めて。


   ……。


   ……。


   ……だめよ、ジュピター。


   と……。


   ……それだと、多いわ。


   あぁ、うん……分かった。


   ……。


   これくらい、かな。


   ……もう少し。


   …………これくらい?


   ん……。


   マーキュリー……口、開けて。


   ……。


   よし……。


   ……。


   ……。


   ……ん。


   あ。


   ……。


   出来た……?


   ……まぁまぁ、かしらね。


   じゃあ、もう一口。


   一口だけと、言ったわ。


   慣れるには、回数を重ねないと。


   ジュピター?


   ……はい。


   ……。


   ん……マーキュリー。


   ……ありがとう、ジュピター。


   うん……。


   ……ほんのり、甘いのね。


   然うなんだ……その方が、食べ易いと思って。


   ん……とても、食べ易いわ。


   もう少し、食べられるかい……?


   然うね……もう少しだけ。


   ……点滴は、いつ外れるの?


   もっと、食べられるようになったら……。


   そっか……早く、外れると良いな。


   ……外れないと、一緒に眠れないから?


   ……。


   ん……?


   ……それも、ある。


   だと、思った……。








   マーキュリー、お腹の調子はどうだい?


   ……。


   うん、治ったって顔だ。


   お蔭様で。


   へへ、良かった。


   ジュピター。


   ……本当に、良かった。


   大袈裟なんだから。


   だって、痛々しかったんだ。


   点滴姿が?


   うん。


   初めてでは、ないのに。


   ……マーキュリーの、この細い腕に。


   ……。


   点滴の針が、刺さってた……朝も昼も夜も、ずっと。


   ……もう、しょうがないひとね。


   マーキュリー。


   ……。


   お願いだから……もっと、自分を大切にして。


   ……ジュピター。


   マーキュリーが倒れたって聞くたびに、心臓が止まりそうになるんだ。


   ……これでも、気を付けてはいるのよ。


   ん……。


   ……以前よりも、ずっと。


   ……。


   あなたが、心配するから。


   マーキュリー……。


   だけど、然うね……あなたが居ないと、直ぐに無理をしてしまって。
   少しだけの無理なら……って。


   ……少しでは、ないよ。


   ……。


   少しだったら……こんなことには、多分、ならない。


   だって……然うでもしないと、思い出してしまうんだもの。


   何を……。


   ……分かっているのでしょう?


   ……。


   こうなることが、分かっていたから……かつての私は、あなたを遠ざけようとした。
   自分の心を……あなたを恋い慕う心を……凍らせてまで。
   全ては、使命に殉ずる為に……。


   ……マーキュリー。


   だけど……あなたは、私の凍てついた心をいとも容易く溶かしてしまった。
   陽だまりのような、温かさで……。


   あたしだけじゃ、ないよ。


   ……。


   マーキュリーが、自分で溶かしたんだ。
   中から、溶かして呉れたんだ……だから。


   ……あなたが、私を諦めないでいて呉れたから。


   ……。


   あなたの熱が、なければ……私は屹度、冷たい人形(ひとかた)のままだったでしょう。


   ……。


   ん……ジュピター。


   ……これからも。


   うん……。


   ……。


   ……温かい。


   ねぇ……。


   ……なぁに。


   どうしたら、良いかな……。


   ……それは、私もずっと考えているのだけれど。


   何か、良い手はないかな……。


   ……ねぇ、あなたはどうしているの?


   あたしは……ずっと、マーキュリーのことを考えているよ。


   それだと……余計に、寂しくならない?


   ……なる時も、あるけど。
   でも、考えないようにすることの方が寂しいんだ……。


   ……。


   考えないようにしたところで、忘れてしまうわけではないだろう……?
   心の中には、ずっと、居るんだから……。


   ……然ういう考え方もあるのね。


   マーキュリーは、敢えて考えないようにするんだろ……?


   ……然うね、出来るだけ頭の中から追い出して考えないようにしているわ。


   はは……あたしは、追い出されちゃってるのか。


   だって。


   ……だって?


   あなたのことを、少しでも考えてしまうと……募るばかりの想いが、溢れてしまうから。


   ……。


   溢れてしまって、どうにもならなくなってしまうから……だから。


   寝食を忘れて、仕事に没頭する……体調を崩して、動けなくなるまで。


   ……寝食は、あなたに繋がっているの。


   あたしに?


   ……言わなくても、分かるでしょう?


   分かるような、分からないような……?


   ……その顔は、分かってる。


   ね……溢れてしまった時は、どうしてるんだい?


   ……。


   言いたくない……?


   ……あなたが呉れた植物を眺めたり、その面倒を見たりしてる。


   あぁ。


   ……然うやって、心を慰めるのだけれど。


   なぐさめる……。


   ……?
   なに……?


   ……慰めるって。


   ……。


   痛い。


   ばか。


   な、なんで。


   なんとなく。


   え、えぇ。


   もぅ……。


   あれ……耳、赤い?


   ジュピター。


   あ、うん、ごめんなさい。


   ……。


   マ、マーキュリー……?


   ふふ……本当にばかね。


   ……へへ。


   ね……考えるのは一旦、ここで止めて。


   うん……。


   ……。


   マーキュリーの為に、いっぱい、作ったんだ。


   ありがとう。
   でも、作り過ぎよ?


   いっぱい、食べてもらおうと思って。


   こんなに食べたら、お腹が壊れてしまうわ。


   あ、それはだめ。


   こんなに作って……ふたりでは、食べ切れないじゃない。


   大丈夫、保存して明日食べれば良い。
   こう、小箱に詰めてさ、明日の朝とか昼とかに食べるんだ。


   小箱に?


   食べ物を詰める小箱。
   いつだか、マーキュリーが作って呉れたろ?
   あれ、便利なんだ。小箱によっては長期保存が出来るから、遠征にも持っていけるし。


   あぁ、あれね。


   然う、あれ。


   あれ、私が考えて作ったものではないわよ?


   え?


   ずっと昔のマーキュリーが考えて、作って、私はそれをほんの少し改良しただけ。
   渡す時に言った筈だけれど。


   なんだ、それじゃあやっぱりマーキュリーが作って呉れたんじゃないか。


   ずっと昔のマーキュリーが、ね。
   屹度、ずっと昔のジュピターがお願いしたのでしょう。


   あたしが持ち歩いているのは、今のマーキュリーが改良して呉れたものだよ。


   ええ、然うね。
   繰り返すけど、私がしたのは改良だけ。一から考えたわけじゃない。


   あの小箱、本当に便利なんだ。
   あっためることも出来るし、あったかいのを保つことだって出来る。


   加温や保存する機能を付けたのは私じゃないわ。
   大分前のマーキュリーよ。


   ……マーキュリーが改良したのは、どこ?


   もっと効率良く温められるように、形を少し改良したの。
   世代が代わると、食べるものが増えたり減ったり、変わったりもするから。
   それに合わせて、ね。


   で、あるならば。


   あらならば?


   あたしが持ってる小箱はやっぱり、此処に居るマーキュリーが作って呉れたものに違いない。
   流石、あたしのマーキュリー。


   ……もぅ、ジュピターは。


   へへ。


   ふふ……ね、あの小箱にはちゃんと名前があるのよ。


   名前? あるの?


   食糧携行箱。


   しょくりょう、けいこうばこ……。


   そのまんま、よね。


   そのまんま、だ。


   他に思いつかなかったのかしら。


   他、他か……うーん。


   ……。


   ……。


   ……分かり易いと言えば、分かり易いけれど。


   うん……特に、あたしには良いかも。


   若しかして、ジュピターが、


   あたしが、忘れないように?


   ……。


   ……。


   ……ふふ、なんだか腑に落ちたわ。


   あはは、然うだねぇ。


   ふふ、ふふふ……。


   笑いすぎだよ……マーキュリー。


   ふふ、だって……。


   ……もぅ、あんまり笑うと。


   笑うと……なぁに?


   ……口付け、しちゃうぞ。


   ええ、すれば良いわ……。


   ……良いの?


   したいんでしょう……?


   ……む。


   したいって顔、ずっとしてる……。


   ……物欲しそうな、顔?


   然うとも、言う……。


   ……マーキュリーには、なんでもお見通しだ。


   なんでも、なんて……ん。


   ……。


   ジュピター……。


   ……どんなに世代が代わろうとも、「ジュピター」には「マーキュリー」が必要なんだ。


   ……。


   お腹、大事にしないとだめだよ……?


   ……お腹だけじゃ、ないでしょう?


   うん、お腹だけじゃない……。


   ……ねぇ。


   ん……?


   ……「マーキュリー」にも、必要よ。


   ……。


   時代が、どんなに移り変わろうとも……「マーキュリー」には、「ジュピター」が。


   ……あたし達は、ふたりでひとつだ。


   ……。


   なぁ、然うだろう……?


   ……うん。


   ……。


   ……。


   ……マーキュリーの唇は、何よりも甘いや。


   あなたの唇も……。


   ……今夜は、一緒に。


   口付け以上のことは、だめよ……?


   ……うん、分かってる。


   もう少しだけ、待っていてね……。


   ……うん、待ってるよ。


   ……。


   ……。


   ……いい加減、食べようか。


   ふふ……然うね。


   腕に縒りをかけて、作ったんだ。
   マーキュリーのことを、想いながら。


   ね、何を作って呉れたの……?


   藍苺や木苺の麦粉焼、扁桃の焼き菓子に、豆の花、小豆寒天、甘蔗の金団。
   そして。


   どれも、美味しそうね。


   粉熟と餡子の黒蜜掛け。


   ……。


   一番、好きだろう……?


   ……あぁ。


   これだけは、外せないと思ってさ……。


   久しぶりだわ……。


   ……嬉しい?


   ええ……。


   ……。


   とても……とても、嬉しいわ……ジュピター。


   ん……良かった。


   手間……とても、掛かったでしょう?


   マーキュリーのことを想いながら、作ったんだ。
   だから、手間でもなんでもないよ。


   ……ありがとう、ジュピター。


   これを、食べて……もっと、元気になって呉れたら嬉しいな。


   ん……。


   麦粉焼は、朝ごはんにも出来るから。


   ……のせるものを、変えて?


   色々、楽しめて良いだろ……?


   ……お昼にも良いわね。


   ふふ、だろ……?


   ……ね。


   なんだい……?


   ……明日のごはんは、


   一緒に食べよう……朝も、昼も。


   ……夜、は?


   マーキュリーさえ、良ければ。


   ……分かってるくせに。


   一応、ね……?


   ……ばか。


   はは……。


   ……。


   ……。


   ……ユゥ。


   メル……。


   ……。


   ……お茶を、淹れるよ。


   待って、私も……。


   今日は、良いよ。


   でも……こんなに、作って貰ったんだもの。


   良いんだ……また、今度ね。


   ……ん。


   待ってて、メル……。


   うん……ユゥ。








  -Straightforward(前世・少年期)





   メルは、薄麦餅が好きだね。


   ……え。


   やっと、反応して呉れた。


   ……やっと?


   さっきからずっと、声をかけてた。


   そ、然うだったの……気が付かなくて、ごめんなさい。


   別に、良いけど。


   ごめんね、ユゥ……本当に、ごめんなさい。


   それ、好き?


   ……?


   薄麦餅。


   ……。


   好き?


   ……うん。


   ふぅん……。


   ユゥ……?


   最近は、そればかり良く食べて呉れる。
   前は、他のものも食べて呉れたのに。


   ……そんなことは、


   あるよ。


   ……。


   ねぇ、どうして?
   どうして、そればかり食べて呉れるの。


   ……それは。


   どうして、好きなの?
   どうして、他のものはあまり食べて呉れなくなったの。


   え、えと……。


   ねぇ、どうしてなの。


   ……あ、あの。


   うん。


   ……食べやすい、から。


   食べやすい?


   薄麦餅は、片手でも食べられるから……。


   ……。


   お野菜も、包(くる)めるし……。


   ……あぁ、然ういうことか。


   ちゃんと包めば……零れることも、ないでしょう?


   ……他のは、片手で食べられないから。


   ……?
   ユゥ……?


   最近のメルは、本を読みながら食べてることが多いけど。
   味、ちゃんと分かってるかい?


   え……。


   本ばかりに集中して、ごはんはただお腹に詰め込んでるだけ……そんなだと、味なんて分からないと思うんだ。


   ……。


   そんなこと、ない?


   ……。


   やっぱり、あるんだね。


   ……ごめんなさい。


   ごはんの味なんて、どうでも良い?
   本の方が、大事?


   そ、そんなこと、ないわ。
   ただ……本を読んでいると、他のことが忘れ勝ちになってしまって。


   それって、どうでも良いってこと?


   ど、どうでも良いわけではないの。


   あたし、思うんだけどね。


   う、うん。


   本を読みながら食べるのって、良くないんじゃないかな。
   本を読みながら食べるから、他のことを忘れちゃうんじゃないかな。


   ……。


   然うだろ?


   ……でも。


   あのね、メル。
   ごはんを食べるって、大事なことなんだよ。


   ……分かっては、いるの。


   だから、メル。


   でも……いざとなったら、完全栄養食があるし。


   ……完全栄養食ぅ?


   多くの月の民は、それで済ませているし……食事はそもそも、それだけで十分とされているから。


   十分かも知れないけど、あれ、美味しくないじゃないか。
   変に柔らかくて、無駄に甘くて、冷たいのかあったかいのかも分からなくて。


   ……ユゥは、然う言うけれど。


   ……。


   それでも、ちゃんと食べられるわ。
   味だって一応、色々あるし。


   あるけど、どれも美味しくない。
   作ったごはんの方が美味しい、食べてて楽しい。


   何より、それひとつだけで必要な栄養素が摂れるから……手間も時間も、かからないし。


   ……。


   ……あ。


   メルは、然う思ってたんだ。


   ち、違う。


   いつから然う思ってたの?
   ずっと前から? 小さい頃から?


   違うの、ユゥ。
   私は、あなたと、


   違わないだろ。


   あ、あぁ……。


   メルは……ずっと、手間だと思ってたんだ。
   ごはんの時間なんて、無駄なものだと思ってたんだ。


   む、無駄だなんて、言ってないわ。


   言ってるようなものじゃないか。


   ち、違う、違うの。


   完全栄養食だけで、十分なんだろ。
   あたしが作ったごはんなんて……もう、要らないんだろ。


   い、要らないなんて、


   ……だって、あんまり食べて呉れないじゃないか。


   それ、は……。


   食べていても、本ばかり読んでて。
   話そうと、思っても……全然、話せない。
   今だって……なかなか、気付いて呉れなかった。


   ごめんなさい……だけど……。


   ……夜だって。


   ユゥ、私は……。


   ねぇ、もう作ってこない方が良い?


   ……!


   食べるの、手間だろうし。
   本を読むのに忙しくて、味も、分からないだろうし。


   ……。


   ……もう、作って


   い、いや。


   ……。


   ごめんなさい、ユゥ……ごめんなさい……。


   ……謝らなくても良いよ、別に。


   ユゥ……。


   ……メルが、お勉強で忙しいのは分かってるんだ。


   ……。


   だけど、ごはんの時ぐらい……あたしと、話して欲しい。


   ……ごめんなさい。


   ……。


   あ、明日からは、ちゃんと……


   ……あたし、暫く来ない。


   な……。


   ……その方が集中、出来ると思うから。


   ま、まって、ユゥ、まって……。


   ……夜も、来ない。


   え……。


   ……来ない、から。


   ど、どうして……。


   ……ごめん、もう帰る。


   ま、待って、ユゥ……お願い、待って……。


   ……本、閉じちゃってるよ。


   本なんて、今は……。


   ……。


   どうでも、良いの……だからお願い、行かないで。


   ……。


   ……お願い、ユゥ。


   ……。


   いかない、で……。


   ……離して、メル。


   ……っ。


   離して。


   ……い、や。


   メル。


   ……。


   離してよ、メル。


   ……。


   はぁ。


   ……ごめん、なさい。


   良いよ、もう。


   ……。


   もう、良いから。


   ……でも、離したら。


   あのさ、メル。


   ……。


   食後の甘味があるんだ、食べる?


   …………え?


   食べて呉れるなら……本を読みながらは、止めて欲しい。


   ……。


   あと……少しだけで良いから、あたしと話をして欲しい。
   あたしが隣に居ること、忘れないで欲しい……。


   ……あぁ。


   どう、かな……。


   ……食べ、させて。


   本は……


   ……読まない、わ。
   だから……。


   食べたい……?


   ……食べたい。


   ん……分かった。


   ……。


   これ、なんだけど。


   ……これは。


   まずは、食べてみて。


   う、うん……。


   はい、匙。


   ……ありがとう、ユゥ。


   どういたしまして、メル。


   ……いただきます。


   うん、召し上がれ。


   ……。


   ゆっくり、食べてね。


   ……あの。


   ん、なに?


   ……これは、お豆?


   うん、甘く煮たんだ。


   甘く……。


   メル、甘いのが好きだろ?
   寒天に甘葛煎をかけたのとか、麦粉焼に甘くて小さい果実をのせたのとか、ほんのり甘い豆乳に甘いお芋を入れたのとか。


   ……これは、粉熟?


   うん。
   甘葛と合わせてあるから、それだけでも食べられるよ。


   ……きれいな、まんまる。


   他には、えと……。


   ……!


   と、とにかく、これなら、ちゃんと食べて呉れるかなって。
   師匠に、とっておきのを教わったんだ……それ、で。


   ……。


   あ、あの……どう、かな。


   ……。


   メル……?


   ……もちもち、する。


   も、もち……?


   ……。


   美味しく、なかった……?


   ……とて、も。


   と、とても……?


   ……。


   とても、まずい……?


   ……ううん。


   じゃ、じゃあ……?


   ……とても、美味しいわ。


   ほ、ほんと……?


   うん……本当。


   ……ッ。


   本当に、美味しい……お豆が甘くて、粉熟がほんのりともちもちしてて……ふたつが、とても合っていて。


   やっ、


   ユゥが作って呉れるものは、どれも、美味しいけど……でも、これは、その中でも……。


   やった……!!


   ……。


   あぁ、良かったぁぁ。


   ……あの、ユゥ。


   な、なに?


   ユゥの分は……私ばかり、こんなに美味しいものを……


   い、良いんだ。


   だ、だめよ。
   私ひとりで、食べるなんて……良くないわ。


   良いんだよ、メル。
   メルに食べて欲しくて、


   けど、


   あ、あたしを見て欲しくて、作ったんだ!


   ……。


   だから……!


   ……。


   あ。


   ……ユゥ。


   ……。


   ごめんね、ユゥ……。


   ……あたしも、ごめん。


   ユゥは、悪くないわ。


   ……邪魔して、ごめん。


   邪魔だなんて。


   ……でも、さびしかった。


   ……。


   ……夜だって、本ばかりで。


   よる……。


   ……。


   え、えと……ごめんなさい、ユゥ。


   ……それ、気に入って呉れた?


   ……。


   それ……また、食べたい?


   ……う、ん。


   分かった、また作るよ……作る、から。


   ユゥ……。


   ん……メル。


   ありがとう、ユゥ……私の為に、作って呉れて。


   メル……あたし。


   ……さびしくさせて、ごめんなさい。


   ……。


   ……これからは、ちゃんと食べるから。


   ほんと……?


   ……うん、ほんと。


   ……。


   ユゥと……お話、しながら。


   ほ、本は……。


   ……食べてる時は、読まない。


   ……。


   ユゥが……その、私のことを、想って。
   一所懸命に、作って呉れるのに……本に夢中になって、味が分からないだなんて。


   ……。


   そんなの……だめ、だもの。


   メル……!


   きゃっ。


   ……。


   ユ、ユゥ……ん。


   ……。


   ……。


   ……へへ、あまい。


   ユゥ……。


   ……ん。


   ……。


   メル……。


   ……あま、い?


   うん……とっても。


   ……あの、ね。


   うん……。


   ……よる、も。


   よる、も……?


   ……きて、ね。


   ……っ。


   ぁ……。


   来るよ……っ、絶対に……っ!


   ……。


   こ、今夜、来ても良い……?


   ……こんや?


   だ、だめなら、来ない……。


   ……ううん、来て。


   ……!


   ……来て、ユゥ。


   やっ、た……っ!


   ……ね。


   な、なに……?


   ……まってる。


   ……っ、あぁ……っ。


   ん……ユ、ゥ……。


   こ、こんやは、あんまりねむれなくてもいい……?


   ……え。


   ねぇ、メル……。


   ……わたし。


   だめ……?


   ……ぁ。


   いい……?


   ……う、ん。








   ……。


   ……ユゥ。


   ……。


   ……待たせてしまって、ごめんなさい。


   ……。


   ユゥ……。


   ……。


   ……?
   ユゥ……?


   ……ん。


   何、してるの……?


   ……。


   ユゥ。


   ……んぅ。


   あ。


   ……。


   ……眠れなくてもいい?
   なんて、聞いてきたくせに……。


   ん……。


   ねぇ、ユゥ……。


   ……、


   私ね……そのつもりで、いたの。今夜は、ユゥと……明日まで、って。
   その為に、視界に入らない場所に本を片付けて……湯浴みも、したの。


   ……。


   あなたを、待たせてしまったけど……でも、少しでも、きれいな私を見て欲しくて。


   ……。


   私なんかが、湯浴みをしたくらいで……きれいになれるなんて、本当は思ってない。
   だけど、それでも……ほんの少しだけでも、きれいになれたらって。


   ……ぅ。


   ……。


   ……。


   ……ふふ、かわいい。


   ……、


   きずあと……やっぱりもう、消えないのね……。


   ……。


   ……ごめんね、ユゥ。


   ……。


   ね……あの甘味を作るの、とても大変だったでしょう……?
   時間と手間を、かけて……私の為に、作って呉れて……本当に、ありがとう……。


   ……、


   ねぇ、ユゥ……起きて、呉れないの?


   ……。


   起こすなんて、出来ないの……だからお願い、起きて。


   ……また。


   え……?


   作るよ。


   ……あ。


   メルの為に。


   ……。


   メルが、笑って呉れるのなら……手間も時間も、何も惜しくない。
   全然、惜しくないんだ……。


   ……起きてた、の。


   うん?


   まさか、最初から……?


   ……?


   最初から、起きてたの……?


   ううん、寝てたよ。
   目を瞑って、待ってたら……


   ……いつ、から。


   え、なに?


   いつから……起きてた、の。


   あぁ……えと、ほっぺたを撫でて呉れた時に。


   ……あぁ。


   ふわって、いいにおいがして……それから、やらかい手のぬくもりをかんじて。


   ……。


   手を引いてしまおうって、思ったんだけど……。


   ……どう、して。


   何度か、声を出そうとしたんだ。
   でも、その……メルの話を、声を、聞いていたくなって。


   ……。


   あ、えと、ご、ごめんよ。


   ……おきて、いたのなら。


   お、起きたら、その、話が終わってしまうと思ったから。


   ……だからって。


   う、うん、ごめん……。


   ……。


   ね、ねぇ、メル。


   ……。


   メルは、きれいだよ。
   湯浴みを、しなくても……いつだって、とても、きれいなんだ。


   ……きれいじゃ、ないわ。


   ううん、きれいだよ。
   すごく、すごく、きれいだよ。


   ……。


   あ、でも。


   ……。


   湯浴みをすると、すごく、色っぽくなる。


   ……!


   すごく、艶めかして……そんなメルを見ると、誘われているようで、我慢出来なくなるんだ。


   ……。


   今直ぐ欲しいって、心が思う前に、躰が……い、今も、然うなんだけど、


   ばか。


   え。


   ユゥの、ばか。


   あぅ。


   ……ばか。


   メ、メル……。


   ……。


   ま、まっか……?


   ……いわない、で。


   ね、ねぇ、メル……。


   ……。


   そ、そのつもりで、いてくれたんだよね……?


   ……。


   ほ、本当に、然うするけど……いいん、だよね?


   ……だめ。


   へ……。


   ……いいと、おもってた。
   だけど……もう、だめ。


   え、え……。


   ……今夜は、もう。


   な、なんで、メル……。


   ……とにかく、だめ。


   ま、まって。


   ……またない。


   あ、あの……ぜ、ぜんぜん、し、しちゃ、だめ……?


   だめ。


   す、すこしも……?


   すこしも。


   ちょ、ちょっと、だけ……も?


   ちょっとだけも、だめ。


   え、えぇぇぇ……。


   ……起きて、なかったから。


   で、でも、起きたよ、ちゃんと。


   ……寝てたから、だめ。


   だ、だけど……ん。


   ……。


   ……、……。


   ……。


   ……め、る。


   ねないで。


   ねっ……!


   ……。


   ねない、もう、ねな……っ。


   ……しぃ。


   ……。


   ……声が、大きいわ。


   ち、ちいさく、する……。


   ……ねぇ、ユゥ?


   な、なに……。


   ……わたしよりもさきに、ねないで。


   ねない……ねない、よ。


   ほんとうに……?


   ……ほんとう、だよ。


   ……。


   ねむらない……ううん、ねむれない。


   ……わたしがもどってくるまで、ねむってた。


   そ、それは……いろいろ、考えてたから。


   ……いろいろ?


   ……。


   また、いえないようなことを、かんがえてたの……?


   ……。


   そうなの……?


   …………うん。


   ……。


   ち、ちが、た、たのしみで、だから、そ……んん。


   ……。


   ……める。


   ユゥ、の……すけべ。


   す、すけ……。


   ……。


   あたし……すけべ……。


   ……おししょうさんと、おなじ。


   ししょう、と、おなじ……。


   ……。


   ……うぁぁ。


   ユゥ。


   ……な、に。


   ごめんね。


   ……え?


   ……。


   あ、メル……。


   ……たぶん、きをうしなってしまうとおもうから。


   きを、うしなって……?


   ……そのときは、ゆるしてね。


   ん、んん……?


   ……。


   え、えと、えと……。


   ……やさしく、して。


   あ……。


   ……つよくされたら、きをうしなってしまうから。


   あ、あぁぁ……。


   ……でも、すこしだけなら。


   ……っ。


   ねぇ……ユゥ。


   ……いい、の。


   ……。


   い、いい、の……?


   ……うん。


   ……ッ!


   ……あしたは、ふたりで。


   ふ、ふたりで……?


   ……おねぼう、しちゃうかもしれないね。


   い、いいんじゃない、かな。


   ……いいと、おもう?


   う、うん、おもう。


   ……けど。


   だ、だいじょうぶだよ。


   ……だいじょうぶ?


   そ、そのときは、いっしょ、だから。


   ……。


   だ、だから、だいじょうぶ。


   ……ふふ、……うん。


   メ、メル……いっしょ、に。


   ……ん、いっしょに。


   ……。


   ……ユ、ゥ。


   いい……?


   ……もう、きかないで。


   でも……。


   ……もう、いいの。


   ん……。


   ね……さびしくさせて、ごめんね。


   うん……さびしかった。


   これから、は……。


   ……でも、じゃまはしたくない。


   ……。


   おべんきょう、は……メルにとって、ひつようなものだから。


   ユゥ……。


   ……ふたりで、おとなになるために。


   わたし、ね……。


   ……うん。


   あなたのとなりに、いたいの……ずっと。


   ……いて、ほしい。


   そのために……おべんきょう、しないと。


   あ、あたしも。


   ……?


   いまよりも、もっと、つよくなるために……たんれん、もっと、がんばるよ。


   ……。


   いっしょに、がんばろう……メル。


   ……うん、ユゥ。


   ……。


   ……はぁ。


   きれい、だ……。


   ……じっと、みないで。


   やっぱり、きれいだ……なによりも、きれいだ……。


   ……ユゥ、だけよ。


   ん……?


   ……わたしのからだを、みて。
   そんなことをいうのは、きっと……。


   ……。


   ……ユゥ?


   あたしだけ、だ。


   ……え?


   メルのからだを、みていいのは。


   ……。


   ほかのだれかに、なんか。


   ……ふふ。


   なんで、わらうの。


   ……あなただけ、だった。


   だから、ん。


   ……わたしのからだを、みていいのは。


   ……。


   ……これからも、ずっと。


   メル……。


   わたし……もっと、きれいになりたい。


   もう、きれいだよ……すごく、きれいなんだ。


   ……あなたに、もっと、あいされたい。


   メルが、のぞんでくれるなら、あたしは……。


   ……。


   もっと、もっと……あいし、たい。


   ……ありがとう、ユゥ。


   ……。


   ……すきよ、だいすき。


   あたしも。


   ……あ。


   すきだ……だいすき、だ。


   ……うれしい。


   ……。


   ね……きて。


   ……うん、メル。


   ……。


   ……。


   ユ、ゥ……。








   ……。


   ……ん、ぅ。


   ……。


   ……ユゥ。


   ……メル。


   ……。


   ……きがついた?


   わたし、やっぱり……。


   ……ごめんね、メル。


   ……。


   つよく、しちゃった……と、おもう。


   ……わたしこそ、ごめんね。


   ううん、いいんだ……あやまらないで。


   ……。


   ……今夜は、もう。


   いいの……?


   ……うん?


   その……ねむらせないって。


   あ、あぁ……。


   ……だから、その。


   つづき、してもいい……?


   ……う、ん。


   ……。


   ユゥ……。


   ……ね、メル。


   なぁに……。


   あたし、考えたんだけどね……。


   うん……。


   ごはん食べ終わって、メルが本を読み始めたらさ……。


   ……。


   その間……してても、いい?


   え……?


   ……邪魔は、しないから。


   え、えと……。


   ……だめ?


   ……。


   だめなら、しない……。


   ……わたしは、いいけど。


   やった。


   でも、ユゥはそれでいいの……?


   うん、良いんだ。
   ただ、見てるよりも、その方がずっと良いから。


   ……。


   じゃあ、明日から……ううん、今日からね。


   ……うん。


   ふふ……やった。


   ……。


   ……薄麦餅以外のごはんも、食べて呉れる?


   う、うん……食べる、わ。


   ふふ……よかった。


   ……。


   ……メルが気に入って呉れた甘味も、また作るね。


   うん……ありがとう、ユゥ。


   へへ……どういたしまして、メル。


   ……。


   ……それじゃ。


   ……?


   つづき、するね……。


   え……ぁ。


   ……。


   も、ぅ……。


   ……まだ、だめだった?


   だめ……、


   ……。


   ……じゃ、ない。


   ん……よかった。


   ……。


   あぁ……。


   ……な、に。


   やっぱり……メルは、きれいだ。


   ……。


   なんどだいても、そうおもう……。


   ……あきない?


   あき……?


   ……わたし、ばかりで。


   なんで、あきるの?


   ……。


   あきるわけ、ないよ。


   ……あっ。


   あきるわけが、ない……。


   ……きっと、しらないから。


   ……。


   もしも、しってしまったら……。


   ……なにを、しるの。


   ……。


   メル。


   ……きれいなひと、は……ん、……いっぱい、いる……わたし、なんか……より。


   ……。


   それを、しって、しまったら……。


   ……しまったら、なに。


   あ……。


   だれが、どんなに、きれいだったとしても。


   あ、あぁ……。


   だれかが、だれかを……メルよりも、きれいだといったとしても。


   ぁぁ……。


   あたしは、然う思わない。
   あたしにとってのきれいは、メルだけだから。


   ……。


   メル以上のひとなんか、居ない。
   その思いが強く、大きくなるだけなんだ。


   ユ……ゥ……。


   何度も……何度でも、言うよ。


   ……わた、し。


   メル。


   ……じしんが、ないの。


   じしん……?


   ……じぶんが、きれいだなんて、どうしてもおもえないの。


   メルは、


   ユゥは、いつだって……わたしのこと、きれいだといってくれる。


   だって、きれいなんだ。


   そのことばに、うそいつわりなんて


   嘘なんて、言わない。


   それは、わかってるつもりなの……でも、それでも。


   ……。


   ……いまはまだ、しらないから。
   しらないから、だから……。


   わかった。


   ……ぇ。


   一生、言い続ける。


   いっ、しょう……?


   メルはきれいだって、一生、言い続ける。


   ……。


   おとなに……ジュピターになれば、色んなひとを見ることが多くなると思う。
   だけど、それでも、あたしはメルが一番きれいだって、メルの傍で言い続ける。


   ……。


   言い続けられる自信、あるよ。
   だって、あたしはメルが好きなんだ、大好きなんだ。
   その気持ちは、ジュピターになったってずぅっと変わらないんだ。


   ……ユゥ、は。


   それにあたし、メル以外のひとに興味なんか持たないと思うんだ。
   なんとなくだけど、然う、思うんだ。


   ……そうだったら。


   多分、プリン


   それは、だめ。


   ……なんで?


   なんでって……。


   良いじゃないか、別に。
   使命さえ、果たせば良いんだろ?
   だったら、興味なんて持たなくても良いじゃないか。


   ……。


   とにかく。
   あたしはメルのことが大好きで、誰よりも愛してて、だから、メルが一番きれいなんだ。


   ……。


   分かった?


   ……。


   分からない?
   だったら、もう一度……


   ……わかった、わ。


   ほんとに……?


   ……わかったから、もぅ。


   今は分かっても、明日になったらまた自信がないって言うかも知れない。
   なら毎日、


   い、いわないで。


   やだ、言う。


   ユ、ユゥ……んん。


   ……。


   ……ぁ、……あ、ぁ。


   メル……。


   ……や、……ぁ、……あぁっ。


   きれいだ……きれいだよ……メル。


   あ……、ユ、ゥ……ぁ……ぁぁ。








   メル。


   ……。


   メル。


   ……あの。


   メル?


   ……本当に、いいの?


   うん、良いよ。


   ……。


   さぁおいで、メル。


   ……うん。


   ……。


   おじゃま、します……。


   ね、寄りかかっても良いよ。


   でも、重い


   重くないよ。


   きゃ……っ。


   ……ふふ。


   ユゥ、あの……。


   ん? これじゃ、読めない?


   よ、読めるけど……ずっとだと、重くない?


   うん、全然重くない。


   ……。


   ね、好きに寛いで良いからね。
   お茶も、ここに置いておくから。


   ユゥも……動きたくなったら、言ってね。


   うん。


   ……。


   それじゃ、邪魔にならないように。


   ……ねぇ、ユゥ。


   なぁに?


   ……さびしくなったら、いってね。


   ……。


   ね……。


   ……うん、メル。


   ……。


   でも、メルがあったかくて寝ちゃうかも。


   ……。


   なんて、さ。


   ……ふふ、ユゥったら。


   ねぇ、メル……。


   ……なぁに?


   きれいだよ。


   ……。


   ……とっても、きれいだ。


   もぅ……いわないでって、いったのに。








  -千々(パラレル・
R-18





   ……。


   ……ぅ。


   ……。


   ……。


   ……目、覚めたかい?


   ……。


   おはよう……亜美さん。


   ……おはよう、ございます。


   ん……。


   ……は、ぁ。


   だいじょうぶかい……?


   ……


   その、ゆうべは……。


   ……ゆう、べ。


   だいぶ……ね。


   ……だい、ぶ?


   むり、させちゃったとおもうんだ……だから。


   ……。


   からだ、だいじょうぶ……?


   ……あ。


   若しも、動けそうになかったら……今日はこのまま、休んでいて。


   ……。


   お腹は、空いてない……?
   未だ起きたばかりだから、空いてないかな……。


   ……あ、の。


   喉が、乾いているようだったら……。


   ……まこと、さん。


   ん……?


   ……ゆうべ、の。


   ……?
   亜美さん……?


   ……ゆうべの、わたし、は。


   えと……。


   ……どん、な。


   あぁ……。


   ……ひど、く。


   きれい、だったよ……。


   ……きれ、い。


   それに、すごく、かわいかった……。


   ……。


   めずらしく、何度も、ねだってくれて……それが、たまらなくて。


   ……もう、いわないで。


   うん……?


   ……きいておいて、ごめんなさい。


   それは、良いけど……。


   ……。


   亜美さん……?


   ……じぶんでも、わからないの。


   わからない……?


   ……どうして、あんなふうに。


   ……。


   ……おもいだしたく、ないくらいに。


   あたしとしては、嬉しかったけど……。


   ……。


   えと……ねぇ、亜美さん。


   ……。


   こちらを、向いて呉れないかな……顔を見ながら、話したい。


   ……かお。


   亜美さんの顔が、見たい……起きるまで、我慢してたんだ。


   ……。


   ね、見せて……。


   ……むり、です。


   ……。


   ……ごめん、なさい。


   いや……謝る必要なんて、ないよ。


   ……け、ど。


   それより、苦しいだろう……出ておいで。


   ……いや、です。


   うん……?


   ……かお、あわせられない。


   ならば、合わせなくても良い……良いから、出ておいで。


   ……それでも、むりです。


   ええと……。


   ……。


   そんなに、恥ずかしいかい……?


   ……だっ、て。


   だって……?


   ……しんねんそうそう、こんな。


   悪いことではないと、思うけど……。


   ……。


   今年は、良い年になりそうだなぁ……なんて。


   ……三が日が過ぎたら、気を引き締めないといけないのに。


   うん? 然うなのかい?


   今年の目標を、決めたり……すべきことを、まとめて……。


   とは言え、未だ正月じゃないか……正月は、ゆっくりと過ごすものだよ。
   然う、大切なひとと……ね。


   ……でも。


   村のみんなも、ゆっくり過ごしている……だから、良いんだよ。


   ……一年の計は元旦にあり、と、言うのに。


   あぁ、聞いたことはあるなぁ……それ。


   それなのに、私……未だ、何も。


   んー……。


   それ、どころか……ゆうべの、ような。


   都に居る頃は、然うだったかも知れない……けど、此処は都じゃない。
   今年のことは、正月が明けてから考えれば良い……。


   ……だめ、です。


   どうして……?


   ……どうしてって。


   あたしとゆっくり過ごすのは、いやかい……?


   ……。


   いやかい、亜美さん……。


   ……ずるい。


   ん、なに……?


   ……いやじゃない、わ。


   だったら……。


   ……いやじゃないから、だめなの。


   ……。


   ……このままでは、わたし。


   それは……、


   ……あなたに、おぼれたまま。


   悪いこと、かい……?


   ……。


   いやじゃないなら、良いじゃないか……溺れた、ままでも。
   悪いことではないさ……だって、今は正月なのだから。


   ……そんな。


   大丈夫……正月が明ければ、普段の亜美さんに戻る。
   戻っていくんだ……いつもの、日常に。


   ……。


   ……あたしも、然うさ。


   もどれる、の……?


   ……あぁ、戻れるよ。
   然う……酔いから、醒めていくようにね。


   ……。


   でも夜になったら、溺れて欲しいかな……毎晩でなくても、良いから。


   ……ひとりの時も、然うだったの。


   ……。


   ひとりの、時も……ん。


   ……ひとりの時は、こんなにしあわせではなかったよ。


   ……。


   必要なことしかしないで、ゆっくりしているのは……亜美さんが、傍に居るから。
   居て、呉れるから。


   ……ひとりだった頃は。


   ずっと、何かしらの作業をしていた……躰を動かしていないと、どうにかなってしまいそうだったから。


   ……毎年。


   然う、毎年……。


   ……。


   だから、初めてなんだ……こんなにしあわせな、正月は。


   ……だったら。


   ん……?


   ……分からないじゃない。


   ……。


   私だって、初めてなのに……このままだと、ふたりとも。


   ……あぁ。


   やっぱり、今日から……ん。


   ……。


   ……だ、め。


   なにが、だめ……?


   ……ま、た。


   また……なんだい?


   もぅ、だめ……。


   ……どうして、だめなの?


   もどれなく、なってしまうわ……。


   ……そうかな。


   そう、よ……。


   ……それなら、それで。


   いいわけ、ない……。


   ……。


   や……まこと、さん。


   ……。


   い、や……。


   ……本当に?


   は……ぁ……。


   ……本当に、いや?


   ……。


   ……本当に、いやならば。


   ま、た……。


   ……。


   ……あなた、に。


   あたしに……?


   おぼれて……しまう、から。


   ……溺れて、欲しい。


   あ……。


   ……あたしも、亜美さんに溺れたいから。


   もう、ひが……。


   ……かまわない。


   あ、ぁ……。


   ……。


   しんねんに、なってから……。


   ……。


   こんな、こと……ばかり……。


   ……考えて、みれば。


   や……。


   ……大晦日の夜から、元日にかけて。


   や、だ……。


   ……した、ね。


   や……いわない、で。


   ……何度も、求めて。


   いや、いわないで……。


   ……何度も、溺れた。


   ……。


   それから、幾度も……こう、して。


   ……。


   特に、ゆうべは


   おねがい。


   ……。


   ……もぅ、いわないで。


   ……。


   ゆうべの、ことも……。


   ……ひどく、みだらだった。


   ……っ。


   あんな姿、初めて見た……濡れた声で、鳴いて、強請られて。


   ……やめ、て。


   ひどく、たかぶったんだ……。


   ……。


   ……きおくが、のこらないほどに。


   ……。


   亜美……もう、一度だけ。


   ……あ、ぁ。


   みせてほしいとは、いわない……から。


   ……。


   ……せめて、顔だけ。


   まこ、と……。


   ……顔を、見せて欲しい。


   ……。


   お願いだ……亜美。


   ……。


   ……。


   ……まこと、さん。


   あぁ……。


   ……おはよう、ございます。


   ……。


   ……あなたのかおをみながらでは、なかったから。


   あぁ、そうか……うん、そうだったね。


   ……ん。


   おはよう……亜美さん。


   ……おはようございます、まことさん。


   ……。


   あ……ん。


   ……それでは、あらためて。


   ……。


   もういちど、いい……?


   ……もう、だめです。


   ……。


   これいじょうは……からだが、もたない。


   ……。


   ……もたない、から。


   えと……ごめんよ。


   ……そうさせたのは、わたしですから。


   ……。


   おねがい……けさは、もう。


   ……今朝。


   ……。


   え、と……。


   ……?
   まことさん……?


   あの、さ……亜美さん。


   ……なに。


   今更、なんだけど……。


   ……いま、さら?


   うん……かなり、今更……かな。


   ……まさ、か。


   今はもう、朝ではないんだ……疾うに、お日様は昇って。


   ……あぁ。


   なんとなくでしか、憶えていないんだけど……気が付いたら、また。
   それを、幾度も、繰り返してたような気がするんだ……それこそ、朝方まで。
   はっきりとは、憶えて、ないんだけど……。


   ……。


   こ、こんなこと、初めてだね……?


   ……。


   けど、その、悪いことでは……ない、と。
   あたし達は……然ういう関係、なのだし。
   こういうことは、これからも、あると……。


   ……きょう、からは。


   あ、あったら、いいな……と、思うんだ。


   ……もう、おきます。


   え。


   おきない、と。


   え、でも。


   そう、きょうから……。


   いや、けど、


   ……。


   ……亜美さん。


   ……からだ、が。


   ……。


   ……。


   ごめん……亜美さん。


   ……あぁ、もぅ。








   亜美さん。


   ……。


   そろそろ、布団を敷こうと思うのだけれど。


   ……。


   今夜も、冷えるし……良ければまた、ひとつの布団で。


   ……。


   え、ええと……今夜は、ひとりの方が良いかい?
   年が明けてから、その……ほぼ、ほぼ、していたし。
   いい加減、ゆっくりと眠りたいだろうから。


   ……。


   亜美さんが、ひとりでゆっくり眠りたいと言うのなら……。


   ……。


   あたしは……毎晩でも、構わないと思っている。
   今は、正月で……朝も、早くないし……ゆっくり、出来るし……なんだったら、昼まで眠っていたって、誰にも何も言われないから。
   だけど、亜美さんは……。


   ……。


   えと……今夜は、その、どうしようか。
   とりあえず、一組は敷こうと思うけれど……一応、もう一組も敷いておこうか。
   使わなければ、それはそれで良いのだし……。


   ……。


   未だ、眠らないと言うのなら……あたしも、起きているよ。
   あ、いや、邪魔だったら、先に休むけど……。


   ……。


   亜美さんは、眠る前に書物を読むだろう……?
   だけど、年が明けてから、その時間を取れてないと思うんだ……。
   だから、そろそろ読みたいのではないかと……。


   ……。


   良かったら、お茶を淹れるけど……飲むかい?


   ……ふ。


   ……?


   ……。


   亜美さん……?


   ……。


   どう


   まこと。


   ……え。


   まこと、さん。


   ……亜美、さん?


   ふふ、ふふ。


   今、あたしのこと……。


   此方に、来て。


   ……あ。


   そんなところに、居ないで……。


   ……。


   私のところに、来て……?


   ……あぁ。


   ね……早く、来て。
   お布団、なんて……今は、どうでも良いの。


   今直ぐ、行くよ……。


   ふふ……ふふ……。


   亜美さん……。


   抱いて。


   ……喜んで。


   ううん、然うじゃない……。


   ……どう、されたい?


   後ろから。


   ……後ろから?


   抱き締めて。


   ……。


   ねぇ、早く……。


   あぁ……分かった。


   ……ふふ。


   亜美さん、躰を……。


   ……あ、ん。


   ごめん、強かったかい……?


   ……あまり、強くしないで。


   あぁ、未だしないよ……。


   は、ぁ……。


   ……座り心地は、どうだい?


   ん……いいわ、とても。


   ……それは、良かった。


   ……。


   亜美さん……亜美。


   ……ねぇ。


   なんだい……?


   ……とても、美味しかったの。


   なにが……?


   ……猪鍋。


   あぁ……。


   ……。


   おせちや、雑煮ばかりだったから……作って、みたのだけれど。


   ね……。


   ……。


   あなたが作って呉れるものは、どれも……とても、美味しいわ。


   ……亜美さんが作って呉れるものだって、とても美味しいよ。


   ほんとう……?


   あぁ、本当だよ。


   うれしい。


   ……ぅ。


   ね、ふたりでなら……きっと、どんなものでも美味しいと思うの……。


   然う、だね……。


   ……でも、毒はだめよ。


   毒は、流石に……。


   だけど、だけどね……ふたりで心中をする、その時に呷る毒ならば……若しかしたら。


   ……美味しい、かな。


   ふふ、然うかも……。


   ……試して、みようか。


   ううん、今はだめ……未だ、その時じゃないもの……。


   ……その時が来たら、亜美さんが煎じて呉れるのかい?


   ええ、ええ、然うするつもりよ……。


   ……然う、か。


   ん……。


   ……吐息が、熱いね。


   からだも、あついの……まるで、なかから、やかれているよう……。


   ……あぁ、分かるよ。


   あなたの、手も……。


   ……これでは、冷ますことが出来ないね。


   ううん、出来るわ……。


   ……ん。


   あなたの手でしか……私の熱は、冷ませないの……。


   ……。


   あんなに、冷たい躰だったのにね……。


   ……あたしのせい、だ。


   そう、そうなの……あなたの、せいなの……。


   ……その、つぐないとして。


   ぁ……。


   ……今宵も、冷ましてあげようか。


   まことさんの、手……。


   ……だから、あたしの熱も。


   とても、熱くて……火傷、してしまいそう……。


   ……若しも、その痕が残ったら。


   ぜんぶ、あなたの……。


   ……もっと。


   ……。


   ……もっと触っても、良いかい?


   もう、触っているじゃない……。


   ……いや、もっとだ。


   ……。


   亜美さん……亜美……。


   ……だ、め。


   ん……どう、して。


   ……このままが、いいの。


   ……。


   このまま……後ろから、して。


   ……亜美が、のぞむのなら。


   あ……ん……。


   ……。


   ……ね、ぇ。


   なに……?


   あなたは、いつも……胸から、なのね。


   好きなんだ……とても、やわらかいから。


   胸なんて……ん、ただの脂肪の塊なのに……。


   ……あたしの手の動きに合わせて、形を変えて呉れる。
   ひどく、いじらしい……。


   むね、だけ……?


   ……もちろん、胸だけじゃないさ。


   ん……。


   ……亜美。


   ん……ん……。


   ……例えば、舌。


   は、ぁ……ん。


   ……その拙さが、酷く。


   ふ、……ぁ。


   ……。


   ……、……ん。


   どこまでも……。


   ……は、ぁ。


   いじらしい……。


   ……ゆ、び。


   だから……もっと、欲しくなる。


   ……もっ、と。


   もっと、奥まで……。


   ……おく、って?


   着物の……奥まで。


   ……着物の奥までで、良いの?


   その奥……。


   ……ねぇ。


   う……。


   もっと……はっきり、言って。


   ……着物の、更にその奥まで。


   も、っと……ん、ぅ。


   ……。


   ……まこ、と。


   にがさない……。


   にげる、なんて……ん。


   ……。


   ……、……っ、ふ……。


   ……からだのなか、そのおくに。


   ……。


   はいりたい。


   ……、て。


   おくまで、さわりたい……。


   ……さわっ、て。


   ……。


   ……あ、ぁ。


   ……。


   ……?
   まこ、と……?


   ……やっぱり、布団に。


   だ、め……。


   ……その方、が。


   だめ、なの……。


   ……何が、だめ?


   わからない、の……?


   ……ごめん、わからない。


   ばか……。


   ……だから、教えて欲しい。


   いや、いいたくない……。


   ……言い難いこと?


   わかっ、て……。


   ……言葉に、して欲しい。


   あ……ぁ……。


   ……じゃないと、布団へ連れて行ってしまうよ。


   い、や……。


   ……なら、ば。


   ……。


   ……はやく、ほしいのだろう?


   ……。


   ほしいのなら……いわない、と。


   ……も、ぅ。


   ……。


   いった、のに……。


   ……もう、いちど。


   ばか……まことの、ばか……。


   ……ばかだから、もう一度言って欲しい。


   ……。


   さっきは、言えたんだ……だから、今だって言える。
   然う、だろう……?


   …………、……。


   なに、きこえない……。


   ……。


   ……言って、亜美。


   …………この、まま。


   このまま……?


   ……うしろ、から。


   あし、ひらいて。


   ……え、……あ。


   ささえるから……からだ、あずけて。


   あ……、……あぁぁ……。








   ……。


   ……。


   えと……亜美さん。


   ……。


   昨夜の、猪鍋の残り汁で雑炊を作ったのだけれど……


   ……いりません。


   だけど、おなか……。


   いりません。


   お、美味しいよ。


   知ってます。


   あ、うん、然うだよね。


   ……今は、いりません。


   う、うん、分かった。


   ……だって、それを食べたら、また。


   うん、なんだい?


   ……私に構わず、食べて下さい。


   いや、亜美さんが食べないのなら……。


   ……。


   然うだ、七草粥……それなら、どうだろう?
   さっぱりしているし、お腹にも優しいよ。


   ……。


   ほ、他にも、紅白なますがあるよ。あとは、大根の煮しめも。
   ど、どうだろう?


   ……。


   だ、だめ、かな……。


   ……。


   そろそろ、出てきて呉れると嬉しいな……。


   ……まことさん。


   な、なんだい?


   ……わすれてください。


   え……?


   ……ゆうべの、わたしのこと。


   ……。


   ……おねがい、わすれて。


   ごめん……無理だと、思う。


   ……。


   目を瞑ると……目蓋の裏、に。


   ……。


   あ、でも、なるべく、忘れるようにするから……。


   ……。


   そ、それと……今日から、気を引き締めるから。
   こ、今夜から、暫く……その、しないように、するから。


   ……まことさん。


   は、はい……。


   ……。


   な、なんだい、亜美さん……。


   ……きもの、とってください。


   そ、それなら、枕元に。


   ……。


   て、手伝おうか……?


   ……いいです、ひとりで大丈夫です。


   ……。


   おねがい……みないで。


   ……はい。


   ……。


   じゃあ、着替え終わったら……言って。


   ……。


   外に、出てた方が良いかな……。


   ……そこまでは、しなくても。


   う、うん……。


   ……。


   ……。


   ……はぁ。


   やっぱり、外に……。


   ……まこと、さん。


   は、はい。


   ……からだが、おもいです。


   ……。


   ……てつだって、もらっても。


   わ、分かった……!


   ……。


   あ。


   ……もぅ、ばか。








  -純情(前世・先々代)





   ……。


   ……。


   ……ん。


   はぁ。


   もう、かきおわったの……?


   終わった。


   それじゃあ?


   今から、寝るところだ。


   然う……じゃあ、はい。


   ……其の手は?


   よぉく、分かってるくせに。


   いや、分からない。


   本当に?


   此処はお前の部屋ではないし、寝転がってる寝台もお前のものではない。


   然うよね、此処はあなたの部屋よね。
   此の寝台も、あなたのもの。


   分かっているのなら、


   ふかふかで、気持ちが良いわ。
   其れに……ふふ、あなたの匂いがする。


   ……嗅ぐな。


   だから、私は居るの。


   ……。


   あなたの部屋、あなたの寝台の中に。


   ……何が、「だから」なんだ。


   ね、早く。


   己の部屋に戻る気は?


   さらさら、ないけど?


   分かった。


   何処へ?


   床で寝る。


   良かった、部屋を出て行くわけではないのね。


   此処はあたしの部屋だ、どうして出て行かなければならない。


   慣れぬうちは、直ぐに出て行こうとしたから。


   あたしが出て行くのはおかしいと、考えを改めただけだ。


   うん、其の通りよ。だからね、ずっと其の考えでいて。
   此処は、何処まで行っても、あなたの部屋なのだから。


   気が済んだら、己の部屋に戻れ。


   あなたが床で寝ると言うのなら、私も床で寝るわ。


   ならば、あたしは寝台で寝る。


   だったら、私も寝台で寝る。
   あなたと、一緒に。あなたの、腕の中で。


   あたしは、ひとりで


   あなたの眠る場所が、今宵の私の在り処。
   他は、嫌なの。


   ……。


   ねぇ、本当は分かっているのでしょう?


   ……はぁ。


   ねぇ、床で寝る?
   それとも、寝台?


   端に寄って呉れ。


   端?


   お前が真ん中に陣取っていては、あたしが寝転がれない。


   であれば、私の上に来れば良いと思うの。


   寄って呉れないのなら、力で退かすが?


   待っていたの。


   知っているよ。


   ふふ、やっぱり気付いていた。


   いつだって勝手に入ってきて、当たり前のようにひとの寝台に潜り込む。
   鍵が全く役に立たない。


   交換する?


   したところで、意味は無いだろう。
   なんせ、お前が交換するんだから。


   複雑なものに交換してあげるわ。
   私以外の者が、間違っても、入ってくることがないように。


   其れだと、あたしが入れない。


   心配しないで、あなたは入れるから。


   ……今と、さして変わりがないだろう。


   ところで、未だ?


   ……。


   ね……もう、初めてではないのだし。


   ……はぁ。


   来て、ジュピター。


   お前、仕事は?


   私、優秀なの。
   知らなかった?


   よぉく、知ってるよ。


   私、優秀?


   あぁ、とてもな。


   ふふ、うれしい。


   然うかい。
   ところで、端に寄って呉れる気は?


   あなたに言われるのが一番、嬉しい。


   ……。


   心に響いて、泣きたくなるの。


   ……泣くな、枕が濡れる。


   だって他のひとが宣うことなんて、いつも上辺だけで、心がちっとも籠ってないんだもの。
   あなた以外、誰も、何も、信用出来ない。響かない。


   あたしが上辺だけじゃないと、どうして分かる。


   分かるわ。
   だってあなたは、とても正直で、嘘が吐けないひとだもの。


   嘘は嫌いだけど、吐けないわけじゃない。


   その嫌いな嘘を、私に吐ける?


   吐こうと思えば、幾らでも。


   ねぇ、それはどんな嘘?
   参考までに、聞きたいわ。


   は?


   聞きたいの、あなたの嘘。


   ……。


   ねぇ、聞かせて?


   ……今は、思いつかない。


   今は?


   ……。


   今は、思いつかないと言うのなら。
   いつ頃、思いつくの?


   ……。


   教えて、ジュピター。


   マーキュリー。


   なぁに?


   予め嘘だと分かっていたら、それはもう、嘘にはならないだろう。


   知りたいだけなの。
   あなたが私に吐く嘘は、一体どんなものなのか。


   だから、今は思いつかない。
   いつ思いつくか、そんなのも知るか。


   ……。


   この話は、仕舞いだ。
   いい加減、退けて呉れ。


   ……。


   マーキュ。


   ……私、此処に居ても良い?


   は……。


   ……駄目なら、出て行くわ。


   お前……。


   ……ジュピター。


   はぁ……もう良い、じっとしてろ。


   ん……。


   ……。


   ……ふふ、やっと来て呉れる気になった。


   埒が明かない。


   ……出て行けと言えば、其れで終わるのに。


   ……。


   あなたは、然うしない……決して。


   ……あたしは、寝たいんだ。


   ね……来て?


   ……行かない、今夜はゆっくり眠りたい。


   ゆっくり、眠れると思うけど。


   ……取り敢えず、離して呉れ。


   離したら、来て呉れるの?


   言ったろ、今夜はゆっくり眠りたいと。


   私も言ったわ、ゆっくり眠れると思うけどって。


   ……寝かせて、呉れないだろう。


   あなたが、私を、ね。


   ……。


   そんな渋い顔、しないで?


   ……あまり、揺さぶって呉れるな。


   私が、何を揺さぶると言うの?
   私は、何を揺さぶろうとしているの?


   ……もう、良い。


   や……半端に、しないで。


   ……。


   あ、ん……。


   ……言葉にするの、もう、面倒。








   愛は、命を繋ぎ……命は、愛を紡ぐ。


   ……相変わらず、「マーキュリー」らしくない言い草だな。


   仕方無いわ……だって、これが「私」なんだもの。


   ……。


   「私」は、生まれてこない方が良かったの。
   ううん、生まれてはならないものだったの。


   ……また、其の話か。


   ひとつの命として、生まれてこなければならないと言うのなら……然う、「私」は青い星の山々から湧き出る、水の一滴に生りたかった。


   ……其れは、命ではないだろう。


   ううん……命よ。


   水には、意思も感情もない。
   ただ流れてゆくか、ひとつの場所に留まって濁ってゆくか……其の、何方かしかない。


   あるわ……「ひと」には分からないだけ。


   ……。


   水の一滴に、生まれ……青い星を、巡るの。
   長い時間を、かけて。


   ……違う、水は命じゃない。


   違わないわ、ジュピター。
   確かに、水は原子の塊に過ぎないわ……でもね、それは「ひと」も同じなの。
   「ひと」だって、原子が集まって出来ているのだから……。


   ……ならば。


   ジュピター……?


   「あたし」は、なんだ。


   ……。


   お前が水の一滴だと言うのなら……「あたし」は、なんだ。


   ……「あなた」は、私が潤す柔らかな草。


   草?


   花……木でも良いわ。


   ……そんなもの、枯れてしまうじゃないか。


   然うやって、命は流転するの。
   永遠の命なんてものは、存在しない。
   星でさえ、いつかは終わるのだから。


   ……るてん。


   何度も生まれ変わる「あなた」を、「私」は何度だって潤すの……何度も、何度も、「あなた」を育むの。


   ……。


   そして、「あなた」は……生まれ変わった「私」を、慰めて、癒して呉れる……然う、信じているの。


   ……勝手に信じて呉れるな。


   ひとだって……ううん、この躰だっていつかは朽ち果ててしまうわ。
   其れは、草や花、木と、何ら変わりないの。


   ……お前は、


   水だって、いつかは終わる。


   ……。


   「あなた」という存在が、世界から、居なくなってしまったら……「私」という存在は、その意義を失くして、消えてしまう。
   終わってしまうの。


   ……。


   ねぇ……ジュピター。


   ……やっぱり。


   やっぱり……?


   ……眠れそうに、ない。


   ふふ……然う?


   ……然うだよ。


   ふふ……ふふ……。


   ……耳元で笑うな、息がかかる。


   くすぐったい……?


   ……耳に唇をくっつけて、喋るな。


   あなたの耳の形も……好き。


   ……マーキュ。


   傲慢なる、月の帝国……。


   あ……?


   それが、続く限り……私達の魂は、未来永劫、囚われたまま。


   ……。


   冷酷なる月の女皇が、此の宇宙(せかい)に君臨し続ける限り……秩序で、ある限り。
   解き放たれることなんて、無い……。


   ……お前。


   だから、後悔だけはしたくないの……。


   ……。


   だって、馬鹿げているじゃない。
   使命の為に、己の想いを殺さなければいけないだなんて。


   ……はぁ、またその話か。


   後になって、己の行動を悔やむだなんて……あまつさえ、悔やみながら終わってゆくなんて。
   そんなの、私は嫌なの。


   ……。


   私は、生きているうちに、あなたと愛し合いたい。
   私の願いは、其のひとつだけ。


   ……本当に、ひとつだけなのか。


   ううん、幾つもあるわ。


   ……だろうな。


   其れは全部、あなたと叶えたいもの。
   だけど其れらを叶える為にはまず、あなたと愛し合うという願いを叶えないといけない。


   ……あたしの意思や感情は、まるきり、無視してか。


   あなたの意思や感情は勿論、尊重するわ。
   無理矢理では、到底、叶ったことにはならないもの。


   ……。


   ジュピター、私はあなたのことが好き。
   誰よりも、好きなの。あなたのことが、欲しいの。


   ……知っているし、もう何度も呉れてやったろう。


   今、も……?


   然うだよ……だからもう、話すな。


   ……然う、したい。


   ……。


   ねぇ……。


   ……思考を、止めてやる。


   ……。


   ……其れが、お前の望みだろう。


   やっぱり、あなたが好き……大好き。


   ……。


   ……こわして。


   ……あぁ。








   ……。


   ……。


   ……なに、してるの。


   飯を作ってる。


   ……めし、ごはん。


   お前、どうせまたろくに食ってないだろう。


   ……分かる?


   分かるよ。


   抱いたから……?


   抱かなくても、分かる。


   見ただけで……?


   あぁ、然うだよ。


   ふふ、然うなのね。


   だから、然うだと言ってる。


   ふふ、ふふ。


   はぁ……早々に、疲れるな。


   癒してあげましょうか?


   もう、十分に癒して貰った。


   ……。


   何。


   ふふ……ううん、何でもない。


   はぁ。


   ね……何を作って呉れてるの?


   雑炊。


   ぞうすい?


   固いものより、柔らかい方が良いだろう。
   ろくに食っていないのなら。


   ……。


   味見、するか。


   ……する。


   ほら。


   其の前に、躰を起こして?
   寝転がったままなんて、お行儀が悪いじゃない?


   ……。


   ……優しく、ね?


   いつも優しい。


   ふふ……。


   ……力を、抜け。


   うん……。


   ……。


   ……。


   優しかったろう。


   ……ん、とてもね。


   ……。


   はぁ……。


   ……ほら。


   ん。


   熱いから、気を付けろよ。


   うん……ふふ、良い匂い。


   あたしが作ったんだ、当たり前だろう。


   然うね……当たり前、よね。


   ……。


   ……あつ。


   だから、気を付けろと。


   ……嘘。


   ……。


   ふふっ、騙された。


   ……で、どうなんだ。


   うん……美味しいわ、とても。


   然うか、なら良い。


   ……心配、だった?


   何が。


   美味しくないって、言われると思って。


   そんな心配、するわけない。


   そ?


   然うだ。


   ……なら、良いけれど。


   本当に減らず口ばかりだな、お前は。


   ……一応、「マーキュリー」だから。


   いや、其れは「お前」の素だろう。


   ……。


   何。


   ……好きよ。


   ……。


   ……あなたは?


   好きだよ。


   ……。


   気は済んだか。


   ……嘘?


   嘘だと思うなら、然う思えば良い。


   ……思わない。


   ……。


   ね、もうひとつのそれは?


   言えないものだ。


   言えないもの?


   だから、お前も誰にも言うな。


   ……若しかして、青い星の


   言うな。


   鶏の、た


   言うなと言ったろう。


   あなたと私しか居ないわ。


   其れでも、だ。


   ……。


   ……。


   ……其れは、甘い?


   どうだろうな。


   ……焼いたの?


   見た通りだ。


   ……いつか、青い星で。


   ……。


   ……あなたとふたりで食べたものは、甘かった。


   ……憶えてない。


   確か、新しい年を迎える時に食べるものだと……。


   ……あれとは、違う。


   ……。


   憶えてない。


   ……ふふ、然うね?


   ……。


   ……ねぇ。


   ……何。


   私の、為……?


   違う。


   ……己の、為?


   然うだ。


   ……じゃあ、私の為。


   はぁ……?


   ……。


   上衣。


   ……要らない。


   躰が冷える。


   ……衣よりも、肌の温もりが良い。


   ……。


   ……それ、どうしたの?


   白々しい。


   ……ん。


   お前が、知らないわけないだろう。


   ……知らない、かも。


   お前の管轄だ。


   ……だとしても、あなたには甘いから。


   ……。


   ……私の為に、持って来て呉れたの?


   違う……あくまでも、あたしがひとりで食う為だ。


   ……好きだものね、それ。


   美味いものは皆、好きだよ。


   ……どうやって、保管してたの?


   言わなくても、分かるだろう。


   ……言って欲しいの。


   お前が作ったものに入れておいた。


   ……。


   ……気は、済んだか。


   ジュピター。


   ……何だ。


   やっぱりわたし、あなたがすき。


   ……。


   ……だいすきよ、わたしのジュピター。


   勝手にお前のものにするな……。


   ……わたしは、あなたのもの。


   勝手に、あたしのものになるな……。


   ……嬉しいくせに。


   ばかか……。


   ……マーキュリーに、其れを言うの?


   お前だから、言うんだ……。


   ……ルピカ。


   ……。


   ……ずっと、ずぅっと、わたしだけのひとでいてね。


   ずっと、ずぅっと、面倒臭そうだな……ウカリは。








   ねぇ。


   ……。


   ゆうべの日記には何を記したの?


   言うわけない。


   見せて。


   見せるわけないだろう。


   後で見ても良い?


   良くない。


   「子」、また生まれたんだって。


   あぁ?


   青い星の王。


   またか……これで何人目だ。


   見せて呉れたら、教えてあげても良いわ。


   知らなくて良いことは、知らないままで良い。


   気になるくせに。


   全く、なっていない。
   どうでも良い。


   ふぅん?


   ……。


   あ、やっぱり気になってる。


   なってない。


   でも。


   飯を食ってる時に、青い星の王の話なんてするな。
   まずくなるだろう。


   私は、ならないけど。


   あの王はどこか獣臭い。


   獣?


   野に居るような。


   所詮、ひとのこも獣みたいなものだし。
   昔の昔、そのまた昔は、衣すらろくに着ないで穴倉に棲んでいたくらいなのだから、ね?


   ……。


   ……眉間に、皺。


   マーキュ。


   ……はぁい。


   ……。


   ジュピター……?


   ……色んな「女」と、こさえすぎなんだ。


   ……。


   ……何。


   ふふ……。


   ……だから、何。


   ジュピター……ルピカは、私だけだものね。


   ……言ってろ。