-Call(現世1) 亜美ちゃん。 ……ん。 聞こえてないね、それは。 ……聞こえているわ、一応。 一応、ね。まぁ、いいけど。 ……なに、まこちゃん。 ごはんの時間だよ。 おやつの時間でもいいけど。 ……どっち? どっちでもいいよ。 亜美ちゃんが食べたい方でいいから、亜美ちゃんが決めて。 ……ごめんなさい、今はどちらも はいはい、ストップ。 その選択肢はないよ、言ってないだろ? ……私に決めてと言ったのは、 あたし。 だけれど、それは選べない。と言うより、そもそも選べないだろ、あたしは提示してないんだから。 ……。 拗ねない。 ……拗ねてなんか。 あたしに言い負かされて悔しいのは分かるけど。 ……口論にすらなっていないわ。 はいはい、そうだね。 で、どっちがいいんだい?重ねて言うけど、選択肢にない答えはだめだからね。 ……聞かないでしょ、どうせ。 そうだよ、あたしの耳はさ、そういうのは聞こえないように出来てるみたいなんだ。 ……なによそれ。 ごはん、or、おやつ? ……とりあえず。 とりあえず。 ……喉が乾いたわ。 喉が乾いた、か。 ま、それでもよし。 なによ。 やっとこっち見たね。 ……まこちゃんがひとで遊ぶから。 遊んでない、これでも心配してる。 ……。 はい、拗ねない。 拗ねてない、ばか。 それを拗ねてるって言うんだよ。 ……。 亜美ちゃんのその表情。 みんなには見せないその表情、あたしは好きだよ。 あたしだけのもののように思えるから。 ……もぅ。 さて、喉の乾きを癒してくれるハーブティーでもお淹れしましょうか。 水星の姫様? やめて、今の私はただの地球人。 あはは、ごめんって。 ……甘い香りがするわ。 あぁ、パイを焼いたんだよ。 チェリーパイ? そ。 ……好きね。 好きってのもあるけど、さくらんぼが安かったからさ。 いいかなって。 ……ふぅん。 甘いカスタードクリームにするか、酸味のあるクリームチーズにするか、悩んだんだけど。 ……けど? それは、食べてからのお楽しみってことで。 あぁ、そう。 ふふ……どうやら、集中が途切れて鼻が効いてきたみたいだね。 となると、次はここかな。 ちょっと。 お腹、すいたろ? ……別にそうでもない。 へぇ、そうかな。 ……少しだけ、よ。 少しだけでも空腹は空腹だよ。 じゃ、おやつにしようか。必要だろ、糖分は。頭を使うのにさ。 ……はぁ。 約束。 ……? したろ、あたしと。 忘れちゃったかい? 忘れてなんか、いないわ。 だけど 集中すると頭の隅っこに追いやられてしまって、あたしがこうでもしないと真ん中に出てこない。 ……忘れてはいないもの。 無理は、だめだよ。 と言っても、無理なんかしてないって言うんだけどね、亜美ちゃんはさ。 ……本当にしてないんだもの。 けど、あたしにはそう見えない。 食事や睡眠、休息を摂らないなんてだめだ。 全く摂っていないわけでは…… 亜美ちゃん。 ……もう少し、なのに。 もう少しだからこそ、休むのさ。 もう少しのところでやらかしたらつまんないだろ。 ま、亜美ちゃんはしないかもしれないけど、それでも万が一ってこともある。 何事も過信はだめだ。そうだろ、マーキュリー? ……そう、呼ばないで。 ごめん。 さ、一緒におやつにしよう。 ここではなく、向こうの部屋でね。 ……。 亜美ちゃん? ……ん。 うん? ……。 ……あぁ、なるほど。 それじゃ……。 ……。 ……唇が、乾いてる? ……。 ふふ。じゃ、行こっか? まこちゃん。 なんだったら、抱っこしてあげようか? ばか。 -眩暈(現世2) 亜美ちゃん。 ……ん。 起きられそう? ……ん。 んー、まだ無理そうだね。 ……だいじょうぶよ、もう。 いいよ、ゆっくりしてな。 ……もう、した。 時間ならあるから。 ……でも。 でも? ……たいくつ、でしょ。 うん? ……ひとり、で。 ひとりじゃないよ。 亜美ちゃんがいるじゃない。 ……。 あれ、違った? ……かまって。 え? かまって。 あ、いや……。 ……なに。 もう十分構ったと言うか……ね? たりない。 え……えー。 ……はやく。 いや、亜美ちゃん? 寝惚けてる?それとも、目を開けたまま夢でも見てる? ねぼけてなんかいないし、ゆめもみていないわ。 あの、さ? 外、今はまだ明るいけど……。 ……それでも、したじゃない。 う……。 ……だめって、いったのに。 それについては、その、ごめんなさい……。 ……ゆるしてあげても、いいけど。 いい、けど……? ……もういちど、いわなきゃだめなの? いや、だめじゃないです……。 ……じゃなきゃ、いっしょう、ゆるしてなんかあげないんだから。 一生って……それまた長いなぁ。 せんねんって、どれくらいなのかしらね……? 分からないけど……ものすごく、きつそうなのは分かる……。 ……なら。 けど、亜美ちゃん。 かまって、くれないの。 もう、そういうきにはなれないの。 あー……。 ……はぁ。 からだ、だいじょうぶ……? ……。 その、無理させた……と、思うから。 ……ゆび。 ゆび……。 まだ、はいってるみたい……。 …………。 そんなにわたしのこと、ほしかったの……? ……うん。 わたしのこと、めちゃくちゃにしたかった……? ……ごめん。 しゃざいなんて、もとめていないの。 ねぇ、わかっているのでしょう? ……。 ひどいわ、まこちゃん……わたしを、こんなふうにしておいて。 じぶんだけ、さめてしまっているなんて……。 ……さめて、なんか。 じぶんさえ、まんぞくできればいいのね……。 そ、そんなこと、 ないって、いえる?ほんとうに? ……。 ねぇ……してくれるの、してくれないの。 ほんとうに、さめてしまったの……・ 冷めるわけ、ない。 ……。 ……冷めるわけ、ないだろ。 じゃあ? ……構っても、いい? だめ。 ……。 ふふ……。 ……亜美ちゃん。 なさけないかお。 そりゃ、情けなくもなるよ……。 ね……まこちゃん。 ……なんだい、亜美ちゃん。 わたしのこと……すき? ……好きだよ。 ほんとうに……? からだだけじゃ、なくて……? 好きだよ。 からだだけなんて、なんでそんなこと言うのさ。 きになって。 ……あたし、そんなに信用ないかな。 んーん、ちがうの。 ……じゃあ、何だって言うの。 ちょっとした、いじわる? さんざ、されたから。 ……。 なきそう? ……ほんとうに、ごめんなさい。 ふふ……ふふ……。 だけど、ん。 ……わかってる、つもりよ。 つもり……。 ……からだだけじゃないと、いうことは。 もっと、分かってよ……。 ……ぁ。 からだだけなんて、言わないでくれよ……あたしは、本当に。 ……ごめんね。 好きだよ、亜美ちゃん……大好き、なんだ。 もう、こんな言葉じゃ足りないくらいに……。 ……ことばで、ぜんぶ。 ん……。 ……つたえられたら、いいのに。 ……。 けど、だからこそ……からだで、つたえあうのかしらね。 ううん、つたえあおうとするのかしら……たりないぶんをおぎなうよう、に。 ……それでも、足りないんだよ。 ……。 ひとは、欲が深いんだ。 あたしも、そうなんだよ。ひとつ叶っても、次から次へとわいてくる。 ……そう、ね。 亜美ちゃんも、そうだったら……。 ……すきよ、まこちゃん。 ……。 だれよりも、すき……あなただけが、すき。 うん……ねぇ、亜美ちゃん。 ……なぁに、まこちゃん。 いい……? その、構っても……。 だめ。 ……。 ……ふく、ぬいで? あ。 ……それから、ね。 分かった。 ……ふふ。 ……。 ね……まこちゃん。 ……うん? まんぞく、させて……ね。 亜美ちゃん。 ……ん。 声、出しづらい? ……すこし。 何か持ってくるよ、何が良い? ……。 喉に優しいのはハーブティーかな。 ……なんでもいい。 なんでも? まこちゃんが、もってきてくれるなら。 そう……分かった、待ってて。 でも。 ……ん? ここに、いて。 どこにも、いかないで。 ……喉、辛くはない? まだ、だいじょうぶ……はなれるほうが、いや。 そっか……分かった。 けど、辛かったら直ぐに言って。 直ぐに用意するから。 ん……。 ……からだ、しんどい? ううん……。 ……。 ん……まこちゃん。 ……無理、させちゃった。 あなたは、いつだって。 ……。 ……やさしいわ。 そう、やさしすぎるくらい……。 そうでもないよ。 現にこうやって無理させちゃうこともあるし。 うれしいと、いったら? ……嬉しい? そう……うれしいと、わたしがおもっているとしたら。 あなたは、どうおもう……? それは……正直、とても嬉しいかな。 けど、だからって、無理をさせて良いわけじゃない。 それはどこまで行ってもあたしの欲でしかないから。 ……。 亜美ちゃん……? ……まこちゃんって、まじめ。 それ、亜美ちゃんが言う……? わたし、まこちゃんがおもっているようなおんなではないわ。 わりと、ふまじめなの。 不真面目……たとえば、どこら辺が? わからない? んー……分からない。 亜美ちゃんはあたし達の中で一番真面目だと思っているから。 ……。 楽しそうだね……。 ええ……とても。 と……。 ……あなたのこえが、あなたのせなかがここにあることがうれしい。 声と、背中だけ……? ……ぜんぶって、いってもいい? もちろん……。 ……ありがとう。 亜美ちゃんはやっぱり、真面目だと思うな。 ……おべんきょうも、しないで。 ん……。 ……すきなひとのうでのなかでおぼれてるおんなを、まじめとはいわないわ。 う、わ……。 ……?なに……? いや、その言い方……すごい、その。 おかしい……? おかしくは、ないけど……すごい、ささった。 ささる……? ぐさっと、ここに。 ……むね? こころ……? 亜美ちゃん、意図的にあたしの理性を揺さぶってくるの、上手になったよね……。 ……そうかしら? 分かって、やってるだろ……。 ……そうかも。 あぁ、もう……。 ふふ……。 ……あのさ、亜美ちゃん。 なぁに……? その……好きな人の腕の中で溺れることは、何も不真面目なことではないと思うよ。 寧ろ、そう思ってしまう亜美ちゃんはとても真面目だと思う。 ……。 今はこうしていても……後でちゃんとお勉強、するんだろ。 もちろん。 ……ですよね。 きょうのよるは、おべんきょう、しましょうね。 はぁ……やっぱり、真面目だよ。 テスト、終わったばかりなのに。 ふくしゅうすることは、だいじでしょう? まちがったところも、ちゃんとやっておかないとね。 それがたとえ、ケアレスミスだったとしても。 はい、分かってます……。 ……ね、まこちゃん。 はい……。 ……すきよ。 ……。 すき……。 ……うん、あたしも好き。 ふふ……ふふ……。 ……ね、亜美ちゃん。 うん……? ……満足、させてあげられたかな。 ……。 ど、どうかな……。 ……おしえてあげない。 -here and there(現世・名字呼びのままのふたり) 水野さん。 ……ん。 ごめん、待たせちゃったね。 ううん、大丈夫。 今日は日直だって聞いていたから。 日誌を書き終わって出しに行ったらお使いを頼まれちゃってさ。 これで帰れると思ったのに、やんなっちゃうよ。 ふふ、しょうがないわ。 でも、どんなお使いを頼まれたの? 社会科資料室まで資料を運んで棚に収めるお使い。 運ぶのはなんてことないけど、棚に収めるのが手間でさ。 あぁ、木野さんのクラス担任は公民担当だったものね。 だけど日直はもうひとりいるでしょう?ふたりで協力すれば さっさと帰っちゃったよ。 自分の分は終わったって言ってさ。 それはおかしいわ。 日直の仕事はあくまでもふたりでやるものでしょう? 用事があるんだってさ。 本当かどうか分からないけど。 ……おひとよし。 うん、なんだい? ううん、なんでもない。 雨が降りそうだわ、帰りましょう。 本当だ、真っ黒な雲がある。 あれに当たったら最悪だな。 木野さんは傘は持ってる? 持ってない。けど、持ってても役に立たないと思うな。 まぁ、ないよりかはマシだと思うけど。 水野さんは待ってるんだろ? ええ。 若しも降ってきたらあたしのことは構わないでいいよ。 そんなこと、出来るわけないでしょう? あたしは平気だよ。 木野さんが平気でも、私が平気じゃないの。 あたしは水野さんが濡れるのが 私も同じ気持ちだってこと、分かって? ……。 役に立たないのならいっそ、ふたりで濡れてしまうのも良いかもしれないわね。 ……たく。 さぁ、帰りましょう? 若しも、ふたりで濡れちゃったらうちにおいでよ。 ごめんなさい、塾に行かないと。 知ってるよ、知ってて言ってみただけだから。 ……。 言えば、若しかしたら欲しい答えを貰えたかもしれない。 だから言ってみたんだよ。言うだけならタダって、昔から言うだろ。 ……そう。 勉強、してた? うん。 水野さんは真面目だなぁ。 これから塾に行って勉強するってのに。 ……私にはこれしかないから。 ……。 私からお勉強を取ってしまったら、何も……何も、残らないもの。 本当にそう思っているのなら。 あ。 ……あたしは、悲しいと思うよ。 木野さん……? なんでだろうな、酷く悲しいと思ってしまうんだよ。 ……どうして。 んー……。 ……。 ねぇ、水野さん。 ……なに。 水野さんにとって、あたしはなに? え。 あたしは、あたしの存在は水野さんにとって……えと、取るに足りないもの? どうでも、いいもの? き、木野さん……何を、言っているの……。 使い方、あってるかな。 まぁ、そんなことはこの際どうでもいいや。 ……。 あたしは水野さんのこと、ともだちだと思ってるけど。 水野さんにとっては、 違うの。 うん? 取るに足りないって、そんなわけ……。 ……ほんの少しでもいいから、ともだちだと思っていてくれたなら嬉しいな。 木野さん、 勉強だけじゃない、水野さんにはあたしがいるよ。 ……ッ。 酷く見当違いなことを言ってるとは思う……けど、ね、許してよ。 あたしは、頭がいい方じゃないからさ……こんな風にしか、言えないんだ。 ……。 あたしは……水野さんのことが、好きだよ。 だから……自分には勉強しかないって、そんなこと、言わないでよ。 ……。 あー……えと、ごめん……こんなこと、言われても困るよな……。 ……。 ちょっと急ごうか。 雲に追い付かれ…… ……待って。 うん……? ……木野さん、私は。 ……。 私、私は……。 ……ゆっくりでいいよ。 ……。 雨が降ってきたら、その時はその時だ。 濡れちゃった水野さんをうちまで浚ってしまってもいい。 さ、浚うなんて……。 冗談だよ、困らせたくないしね。 ……若しも、若しもよ。 うん。 私からお勉強と言う取り柄がなくなってしまったとしても……木野さんは、私のこと。 好きだよ。 ぁ……。 ……大切だと、これからもずっと思ってるよ。 あぁ……。 だけど、夢を叶える為に勉強を頑張っている水野さんの姿を見ているのも好きだから。 あたしに出来ることがあれば、なんでも言って欲しい。 もちろん、勉強以外で。 ……。 あぁ、やっぱり勉強とあたしを並べるのは変だね。ごめん。 ……ありがとう。 ん……って、あぁ、降り出しちゃった。 もう、言わないわ……屹度。 ごめん、なに? 雷が、 私には、木野さんがいてくれる。 いて、くれるんだもの。 これくらいならまだ間に合う。 行こう、水野さん。話はまた後で聞くよ。 うん、木野さん。 水野さん。 ……え。 えと、 こんばんは。 木野さん、どうして。 諦めきれなかった、から。 え、なに?聞こえないわ。 いや……買い物のついで、かな。 こんな時間に?ひとりでお買い物なんて危ないじゃない。 いや、それを言うなら水野さんも危ないと思うけど。 私は、塾だもの。 慣れているわ。 慣れの問題じゃないよ。 寧ろ、そういうのが危ない。 そうだとしても、どうしてここに。 言ったろ、買い物のついでだって。 本当の理由は? 本当のことしか言ってないよ。 そんな手ぶらでお買い物に行ったの? うん、小さいものなんだ。 ポケットに入るくらいの。 お財布も? 財布は持ってない。小銭で足りるものだから。 それは今日でなくてはいけなかったの。 明日ではだめだったの。 うん、今日必要だったんだ。 木野さん。 水野さんに会えたらいいなぁなんて、少しも思ってないよ。 ……。 たまたま会えたことだし、一緒に帰ろう。 家まで送るよ。 ありがとう、でもひとりで大丈夫よ。 危ないよ。 お買い物したの、今日必要なものなのでしょう? だったら、早く帰らないと。あと数時間で今日が終わってしまうから。 明日の朝までにはまだまだあるよ。 夜更かしは良くないわ。 それ、水野さんが言う?帰ってもお勉強するんだろ。 私は まぁ、いいや。とりあえず帰ろ、一緒に。 木野さん。 ほら、水野さん。 もう。 はは。 ……。 うん?どした? ……来てくれるなら、言ってくれればいいのに。 言っても良かった? 言って欲しかった。 驚いた顔も見たくて。 お買い物のついでに? うん、そうなんだ。 それで何を買ったの? 消しゴムと、水野さんの笑顔。 ……。 て、こっちにはまだお金出してないや。 いる? いらない。 良かった。 まぁ、まだ見せて貰ってないけど。 ……。 鞄、持とうか? いいえ、結構よ。 疲れた顔、してる。 平気だから。 そっか。 ねぇ、木野さん。 なに。 ……。 なに、水野さん。 ……私に、会いたかったの? ……。 ……。 ……うん、実はそうなんだ。 ……。 ごめんね、迷惑だったよね。 それとも、気持ち悪いかな。 迷惑でもないし、気持ち悪くもないわ。 だけど。 だけど? ……あまり、驚かさないで。 次からはちゃんと言うよ。 ……。 ちゃんと言うから。 ……うん。 帰ろ? ……ねぇ、木野さん。 それとも、うちに来る? ……。 なんて、さ。 ……行っても、いい? もちろん、うちはいつだって大歓迎だよ。 でも、お母さんは大丈夫? 母は今日も仕事だから。 そっか、じゃあおいでよ。 うん……。 嬉しいなぁ。 嬉しい? うん、嬉しい。来て良かった。 ……そんなに。 贅沢をひとつ、言えば。 え? 水野さんも……いや、いいや。 言って? いいんだ。 言って、木野さん。 んー……。 ……聞きたい。 しょうがないなぁ、それじゃあ言うね。 うん。 あのね、水野さん。 うん。 水野さんも、その、あたしに。 ……。 ほんの少しでも会いたいって、思っていてくれたのなら。 すごく嬉しいなぁって。 ……。 流石にないと思うけど。 ……ね、木野さん。 なんだい、水野さん。 ……嬉しいわ、会えて。 ……。 おかしいわよね、月曜日になればまた学校で会えるのに。 ううん、戦いになればその時にだって。 変じゃないよ、別に。 木野さん……。 いいじゃないか、好きなひとに会いたいって思うくらい。 すきな、ひと……。 そういえば水野さん、ごはんはまだだよね。 一緒に食べよ。 木野さん、まだなの? うん、水野さんに会えたらって思ってたから。 会えなかったら……。 その時はひとりでごはん。 だから、会えて良かった。 ……次からはちゃんと言ってね。 うん、約束する。 けど、たまには約束なしでもいいだろ?驚かしたいんだ。 ……。 だめかなぁ。 ……だめ。 ちぇ、残念。 ……もぅ。 水野さん。 ……その手は、何。 なんだと思う? ……知らないわ。 その顔は知ってるって顔。 ……。 さ、また嵐が来てしまう前に。 行こう、水野さん。 ……嵐なら、もう来てるわ。 うん、なに? ううん、行きましょう。 手は、取らないけれど。 取ってよ、このままじゃ迷子になっちゃう。 いやよ、だってまだひとがいるもの。 -Limonium(前世) マーキュリー。 ……ん。 おはよう、マーキュリー。 ……おはよう。 うん、おはよう。 ……一度で良いわ。 うん。 ……時刻は? 起きるには未だ少し早いかな。 ……然う。 二度寝する?付き合うよ。 ……貴女は今日、演習の予定が入っていた筈よ。 うん、そうなんだ。 けど、支度をするにも未だ早いから。 ……支度なんて、する気もないでしょう。 まぁ、そうなんだけど。いや、そんなことはないよ。ちゃんとするし、しないと。 どうだか。 そんなことよりさ、今朝は何が食べたい?何が飲みたい? これと言って、別に。 マーキュリーとこうやって過ごす朝は久しぶりだからさ。 なんでも言って欲しい。 だったら。 うん、うん。 この手を、離して。 それは聞けないかな。 なんでもって言ったじゃない。 久しぶりだから、聞きたくないってのが本音。 嘘吐き。 うん、ごめん。 思っていないくせに。 顔色、少し良くなったかな。 話を逸らさないで。 マーキュリーのおでこって可愛いよね。 子供の頃から変わらない形。 ジュピター。 ねぇ、あたしにもあるかな。 子供の頃から変わらないもの、変わってないもの。 ……。 マーキュリーしか、知らないこと。 ……締まりのない、顔。 む。 子供の頃から、何一つ、変わっていないわ。 えーと、それは成長してないってことでは。 ええ、その通りよ。 少しはしてると思うんだけどな……。 してない。 むぅ。 ……本当に、貴女は。 うん? 私とこうしている時だけ、子供に戻るの。 然う、ジュピターではなく……あの頃の、貴女に。 ……それって。 本当に、厄介なひと。 マーキュリー、ううん。 ……ちょっと。 メル。 ……そういうところ、よ。 ずっと好きだよ。 ……知ってる。 これからも変わらないもの、変わることがないものだよ。 ……さぁ、それはどうだか。 ねぇ。 ……なに。 花、大事にして呉れて嬉しい。 見れば分かるんだ、とても大切にされてるって。 ……無駄に元気なのよ、あの子。 本当、誰かさんにそっくりだわ……。 あはは、元気なことは良いことだろ? だけどさ、どんなに元気でも……。 ジュピター……もう。 お水を貰えないと、枯れてしまうんだよ。 必要なのは水だけではないわ。 光や、養分だって 水生木。 ……それは。 うん……青い星の言葉。 青い星の何処で……いえ、覚えは良くないくせに。 こういうことは、忘れないみたい。 ……どうせ、その思想の全ては覚えていないのでしょうけど。 うん、覚えてない。 はぁ……本当に、あなたってひとは。 メルのことしか、興味ないんだ。 ……私と自分以外のこと、でしょう。 そうかも。 やっぱり、あなたはジュピターになるべきじゃなかった。 あたしがジュピターになったのはメルの傍に居る為だよ。 知ってる……だから私は、ん。 ね……愛してるひとの傍に居たいと思うことは、そんなに悪いことかな。 その、考えが……。 ……仮令、悪いことだったとしても、心は止められないよ。 プリンセス、に……影響、を……。 誰にも縛ることなんて、出来ないんだ……然う、誰であろうとも。 掟を……破る、ことは……許されては、ならないのよ……それがたとえ、プリンセスで、あっても……。 ……プリンセスに影響を与えたのは、あたしだけじゃない。 や、もう、だめ……。 だけど大丈夫だよ、メル……責めはぜんぶ、あたしが負うから……だから。 ジュピター、もぅ……。 メル……メル。 ……やめて、ジュピター。 む。 調子に、乗らないで。 だって未だ、聞いてない。 ……。 呼んでよ、メル。 ……いやよ。 どうしても……? ……ゆうべ、呼んだもの。 また聞きたい……何度だって、聞きたい。 ……もう、朝だから。 未だ、朝じゃない。 朝と言うには少し早い。 ……睦言を囁き合う時間は過ぎたの、もう戻らないと。 ふたりだけの時間は未だ終わっていない。 未だ、続いている。 ……。 終わったら戻るよ、いつものジュピターに。 いつだってそうして来たんだ。なぁ、知ってるだろ? ……ユゥ。 あ。 ……あまり我儘を言わないで。 うん、ごめん……。 ……ねぇ、ユゥ。 なんだい……メル。 ……プリンセスの、こと。 し。 ……。 今のあたし達は……ユゥとメルだよ。 ……。 ……好きだ、メル。 ……。 ね、メルは?あたしのこと……。 ……好き、よ。 ……。 ……あの頃から、ずっと。 あたしも……あたしも、ずっとずっと大好きだ。 ……もう、良い? うん……おかげで、今日も頑張れそうだよ。 ……今日だけなの? それは、メル……マーキュリー次第かな。 ……ジュピター。 一度だけ……これで、今朝はおしまいにするから。 ……これ以上は、本当に駄目よ。 ん、分かってる……。 ……ぁ。 分かってるよ……メル。 ……ぜんぜん、わかってないじゃない。 -愛の花を君に。 ……マーキュリー。 ……。 居るよね……今、良いかな……。 ……なに。 良かった、居て呉れた。 居なければ良かった。 居なかったら探しに行くだけだよ。 そんなことだからマーズから小言を貰うのよ。 今日すべきことはちゃんとしたよ。 今日すべきことが終わればそれで良い、あなたはいつもそういうけれど。 仮令そうであってもやるべきことは他にもある、何度言わせるの。 うん、だからそのやるべきことをしに来たんだ。 それはジュピターとして? あたし個人として。 ……。 部屋に入れて呉れたら嬉しい。 ……後ろ手に持っているものは、なに。 入れて呉れたら見せてあげるよ。 興味無いと言ったら? でも、気になったろ?少しだけでも。 ……。 マーキュリー。 ……入って。 うん、ありがとう。 見せたら、 少し居ても良い? ……。 少しだけ。 ……はぁ。 ふふ、マーキュリーのにおいだ。 帰って。 未だ入ったばかりだし、何よりこの子を見せてないよ。 この子? うん、この子。 ……これは。 株分け、したんだ。 それでマーキュリーに 持って帰って。 ……。 この部屋に置いても、面倒を見てあげられない。 萎れて、枯れて……そんなの、見たくないわ。 ……ふふ。 何。 マーキュリーは優しいね。 ……別に優しくなんか。 優しいよ、昔から。 ……ジュピター。 置いてあげて。 この子もマーキュリーの部屋に居たいって。 枯らしたくないの。 枯れないよ。 面倒が見られなければ、 あたしが見るよ。 は……? あたしが、見る。 ……それは、つまり。 通っても、良い? ……。 すごい呆れた顔。 つまり、私が居ない時でも部屋に入りたいと? その許可が欲しいと? うん、無理なことを言ってるのは分かってるよ。 だけど、言わないと伝わらないから。 たとえ、拒否されることであっても。 ……。 だめ、かな。 許可は出来ないわ。 そっか。だよなぁ。 そういうわけだから、その子は持って帰って。 その子だって、ジュピターの傍にいる方が良いわ。 マーキュリーの傍に居たいな。 ……貴女ね。 って、この子が言ってる。 言ってない、そんな声、聞こえない。 あたしには分かるんだ、この子はマーキュリーの傍に居たがってる。 ジュピター、いいかげんに。 ……お願いだよ、マーキュリー。 ……? ジュピター……? でも、そっか。面倒を見られないんじゃ、しょうがないか。 よし、じゃああたしと一緒に帰ろう。 ジュピター。 その代わりじゃ、ないんだけどさ。 これなら受け取って呉れるだろう? ……これは。 押し花。これなら枯れないよ。 なんだったら持ち歩くことだって出来る。 この花は……。 この子の花。 かわいいだろう? ……。 本当だったら、咲いている姿を見せてあげたかったんだけど。 出来なかったから、せめてと思って。 ……ありがとう。 受け取って呉れる? ええ……受け取るわ。 良かった。 ……。 じゃあ、帰るね。 この花の名前は? メルだよ。 ……。 可憐で、愛らしい。 けど、芯が確りしていて凛としている。 だから、メル。 ……そうじゃなくて。 マーキュリーじゃ直球すぎるかなと思って。 そうじゃなくて、本来の名前は。 だから、メルだよ。 貴女ね……。 あたしが作ったんだ、だから本来の名前はメルだよ。 ……品種改良をしたと言うの。 うん。 驚いた? 貴女が、この子を。 マーキュリーに一番に見て貰いたかった。 マーキュリーの傍に置いて欲しかった。 まさか、その為に……? ううん、あたしの為でもあるよ。 あたしの傍にも置いておきたかったから。 ……。 もう一度、聞くけど。 やっぱりだめかな。 ……もう一度、言うけれど。 ……。 自分の名前が付いた植物を置くなんて、いやよ。 あれ、理由が変わってる。 だから。 わ。 ユゥにするわ、名前。 え……あたし? 悪い? 悪くは、ないけど。 メルと言う名の植物なのは分かった。 だから、それとは別にユゥと名付けるの。 ええ、と……つまり。 地球人が愛玩動物に名を付けるのと同じね。 あ、愛玩……ん、愛玩? それでも良いのなら、受け取るわ。 本当? 貴女の名前が付いている子なら、無駄に元気に育って呉れるでしょうし。 いや、それはどうだろ。 せめてお水はあげて欲しいな。 それから。 ん? この子がこの部屋にいる間だけなら、許可してあげても良い。 けれど、他のものには触らないで。 うん、分かった! 声が大きい。 マーキュリーも入って良いよ、あたしの部屋。 それで、あたしの部屋に居る子にもお水をあげてやって欲しい。 あたしが居ない間。 ふたりが居ない間はどうするの? 時間が来たらお水をあげる装置の部屋用、作れないかな。 そんなものを作ったら、わざわざ通わなくても良いわね。 居る時は使わない、居ない時にだけ使うんだよ。 何よそれ。 へへ……マーキュリー、はいあげる。 ……ありがとう、ジュピター。 うん。良かったね、ユゥ。 可愛がって貰うんだよ。 言ってて恥ずかしくないの。 あ、でも待って。 ちょっと妬けるかも知れない。 ばか。 はは……それじゃ、また明日。 おやすみ、マーキュリー……。 ……ちょっと。 おやすみの、だよ……。 ……。 じゃあ、ね……。 ……ユゥ。 ん……? ……いえ、なんでもないわ。 んー……。 おやすみなさい、ジュピター。 ねぇ、マーキュリー。 もう少し居ても良い?なんだったら明日まで。 ……だめ。 本当に、だめ……? ……。 ……一緒に過ごそう、メル。 …………明日は、早いから。 ん……分かった。 ……分かっているようには、見えない。 そんなこと、ないよ……。 用は、済んだのでしょう……だったら。 ……うん、済んだ。 なら……。 ……帰りたくない、此処に居たい。 ……。 ……だめ、かな。 明日は早いと、言ったでしょう。 うん……だから、眠るだけ。 ……それで済むとは思えない。 マーキュリーがいやだったら、しない……。 ……。 しないから……。 ……初めから。 う……。 それが目的だったのでしょう……? ……期待は、してた。 花を口実にするなんて。 ……花を贈りたかったのは、本当だよ。 ……。 ……ゆるして、メル。 ……。 ゆるして、ほしい……。 ……しょうがない、ひと。 あ……。 ……忘れないで、明日は本当に早いの。 うん……うん、分かった……。 ……忘れたら、許さない。 分かった、忘れない……。 ……苦しいわ、ユゥ。 メル。 ……なに。 もう、ベッドでいい? このまま、連れて行ってもいい? だめよ、未だ仕事が残っているの。 うー。 聞けないのなら、 待ってる。 ……邪魔は、しないで。 しない、それだけ遅くなるから。 だけど、メル。 ……なぁに。 あんまり遅くなるのはだめだよ……明日、早いんだから。 ……。 ね……? ……はぁ。 ふふ。 ……本当、しょうがないひと。 -夢のかけら(前世・少年期) メル。 ユゥ。 今、へーき? うん、平気。 ちょっと待ってて。 うん。 ね、メル。 なぁに? お勉強、してたの? うん。 来ても大丈夫だった? ん、大丈夫。 ユゥが来てくれて、嬉しい。 そっか……へへ、良かった。 あたしも嬉しい。 怪我、大丈夫? ん、大丈夫。 だけど、みてくれたら嬉しいな。 うん、任せて。 今日も覚えること、いっぱいなの? ……うん。 そっか。 私、覚えが悪いから……たくさん復習しないと頭に残せないの。 覚えが悪いだなんて。 あたしなんて昨日食べたものどころか、今朝食べたものだって忘れちゃうよ。 それとはちょっと違うと思うけど……。 メルはすごいよ。 ……ありがとう、ユゥ。 へへ……。 ……お待たせ。 ううん、待ってない。 もっと待ってもいいくらい。 ふふ……。 ねぇ、メル。 ん……? 終わったら、すぐに帰った方がいい? え。 お勉強の邪魔、したくないし……。 ……。 メル? ……帰らないで。 ……。 すぐになんて、帰らないで……ここに、いて。 うん、分かった。いる。 ……ここ、痣になってる。 受け身、ちょっと失敗しちゃった。 けど、大したことは ……。 痛……ッ。 あ、ごめんなさい。 あ、ううん、大丈夫、大丈夫。 ……少しだけ力を入れて触るけど、大丈夫? うん、大丈夫。 今度は心の準備、しておくから。 ごめんね、ユゥ……ちょっとだけ、我慢してね。 うん、我慢する。 我慢は得意なんだ。 ……。 うー……。 ……うん、骨は大丈夫そう。 折れてない? うん、大丈夫よ。 ごめんね、痛かったよね。 へーき、へーき。 これぐらいなんとも ……。 痛い。 ね、ユゥ。 な、なんだい? ……我慢しなくて、いいからね。 え……? 私の前では、我慢しなくていいから。 ううん、して欲しくないの。 メル……。 痛かったら、痛いって言って欲しいの。 伝えて、欲しいの。 ……。 私じゃ、頼りになんてならないと思うけど……それでも、私にだけは。 好きだよ、メル。 え……。 だから、頼りにしてるんだ。 誰よりも。 あ、あ……。 ……だからメルもしないで。 わ、わたしも……? 我慢、しないで欲しい。 あたしは頭を使うのは、その、苦手だけど……全然、役に立たないと思うけど、それでも。 あたしには、我慢しなくていいから……。 ……。 え、えと……あ、あたし、何言ってんのかな。 だから、その……あ、あのね、メル。 ……うん。 あ、甘えても、いいからね……? あ……。 つらかったり、くるしかったり、したら……いつだって、あたしはメルのそばにいるから。 あたしが、守るから……。 ユゥ……。 あ、うん……やっぱり、何言ってんのかな。 そばにいたところで、なんだって言うんだって話だよね。 う、ううん、そんなことない。 あ。 ……そんなことない、嬉しい。 メ、メル……。 ……好き。 ……! 好き、だから……そばに、いてほしい。 いるよ、ずっといる。 ずっとそばにいて、メルを守るよ。 ……わたしにも、まもらせて。 うん……? もっと、もっと、お勉強して……ユゥを、あなたを守りたい。 ……メル。 ぁ……。 ……好きだよ、メル。 ユ、ゥ……。 ……いい? でも、まだ、手当て……。 ……いや? う、ぅん……。 ……じゃあ、いい? う、ん……。 ……いやだったら、言って。 いやじゃ、ない……。 ……良かった。 ユゥ……ん。 ……。 …………ユゥ。 ……大好きだ。 ん……ん。 ……大好きだ、メル。 わたし、も…………だい、すき。 …………メル。 ……。 メル…………。 ……ん。 ……。 …………ユゥ。 ……ぅ。 ユゥ……あったかい……。 ……。 ……てあてのつづき、しないと。 ユゥ、おきて……おきて、ユゥ。 うぅん……。 もう、おきないと……ね、ユゥ。 ……もう、すこし。 だめよ、ユゥ……今、起きないと……。 ……あさ、まで。 あ……。 あさまで、こうして、いたい……。 だ、だめ……もう、だめ……。 ……どう、して? だって、朝までずっとこうしてたら……本当、に……。 ……メルは、いや? ……ッ。 あたしと、こうしてるの……いや? いやな、わけ……。 ……じゃあ、もう少しだけ。 おねがい、ユゥ……じゃなきゃ、じゃなきゃ私……。 ……? メル……? ほんとうに、のぞんでしまうから……そしたら、私、もう……。 ……ごめん、メル。 ち、ちがうの……あやまらない、で……。 ごめん、メル……もう、起きるから。 ……。 メル……。 ……ずっと、あなたのことを考えてしまうの。 あたしも、考えてるよ……メルのこと。 眠る前なんて、特に……。 あいたいって……おもって、しまうの。 うん……同じだ。 でね、抱きしめながら眠りたいって……。 ……あなたのうでのなかで、ねむれたら。 ずるいよなぁ……。 ……え。 あのふたり。自分達ばかり、さ。 あ、あのふたりは……。 ……ずるいよ。 けど、あのふたりには、もう……。 ……時間が、ない。 私ね、分かるの……私だってきっと、そうなるもの……そうなって、しまうもの……。 ……。 今でさえ、こんな気持ちを抱えているのに……我慢なんて、出来ない……。 ……変わらないよ、あたし達だって。 ユゥ……。 ……代わりなんて、幾らでもいる。 あたし達が、相応しくないのなら……それで、終わりなんだ。 ユゥ、知っていたの……。 ……うん、聞かされた。 メルは、知ってたんだろ……? ……。 あたし達の代わりは幾らでもいる。 だけど、だけどさ、あたしにとってのメルは……メル以外には、いないんだ。 代わりのメルなんて、いらない……それは、あたしの好きなメルじゃない……。 だから……だから。 んん……。 ……少しくらい、ずるいと思ったっていいじゃないか。 あ、ぁ……。 ……もっと、メルと一緒にいたいよ。 ずっと、一緒にいたいよ……朝も、昼も、夜も、ずっと。 ユゥ、だめ……だめよ、ユゥ……。 どうしてさ……メルは、あたしと……。 ……おなじ、だから。 ぅ……。 おなじだから……あなたと、おなじなの……わかって、ユゥ……わかって……。 ……。 ……あなたいがい、いらないの。 あなたしか、ほしくないの……あなたと、いきていたいの。 どれくらい、いきられるかなんて、わからない……けれど、その時が来るまで……ふたりで、いっしょに。 ……番であるマーキュリーを失った、ジュピターは。 ……。 こわれてしまうんだって。 ……マーキュリーも、おなじよ。 壊れるくらいなら、一緒に終わりたいな……。 ……。 ……ふたりなら、こわくないからさ。 ほんとう……? ん……? ……私と、一緒なら。 こわくないよ……なにも、こわくない。 メルは……? 私は……私も、こわくない。 うん……良かった。 ……。 ……起きないと、だめだよね。 ねぇ、ユゥ……。 ……なんだい? また、来て……。 ……うん、また来るよ。 また……抱きしめて。 うん、何度でも……そうさ、何度だって。 ユゥ……ユゥ……。 ……だから、メルも。 うん……うん……。 -逢瀬(パラレル) 大夫。 まことさん。 往診の帰りかい? はい。 あの、まことさんは。 うん、今日はもうそろそろ仕舞いにしようと思っていたところ。 だから、丁度良かった。 ……。 一緒に帰ろう、大夫。 ……はい、まことさん。 少しだけ待っていて貰っても良いかい? はい、大丈夫です。 ありがとう、直ぐに支度をするから。 急がなくても大丈夫ですよ。 その、幾らでも待っていますから。 ……幾らでも? あ、いえ……その。 ……くすぐったいな。 え……? 許されるなら……今直ぐ、抱き締めたい。 抱き締めて、そのまま……。 まことさん……? ん……いや、ただの独り言。 夕餉、どうしようかなって。 そう、ですか……。 ん、これで良し。 行こうか、大夫。 ……。 ん、どうかしたかい? ……いえ、何でもありません。 けど。 本当に何でもないんです。 さぁ、帰りましょう。 うん……。 ……。 え、と……今日は何処の家に行ってきたんだい? はい、今日は……。 あぁ、あのじいさまの。 確か狭心症、だっけ。 労作性の狭心症です。 早歩きしたり階段を上ったりするだけでも発作を起こすんだよね。 ばあさまがよく小言を言っているよ、直ぐに調子に乗るから気を付けろってさ。 ふふ、今日も仰っていました。 でも、珍しいな。 いつもは夫婦で診療所に通っていただろう? 運動がてら、さ。 今日はお薬をお渡しする日だったのですが、おばあさまの調子があまり良くないと美奈子ちゃんが伝えに来て呉れたんです。 ですので、診療も兼ねてお薬を届けに行ってきたんです。 ばあさまは大丈夫なのかい? 少し胃腸が弱っていました。恐らく、疲れが溜まっていたのだと思います。 ここのところ、忙しくされていたようなので。 それで。 お腹に優しいものを食べて、安静にしていれば問題ありません。 お薬も今日中に届けるつもりです。 そうか、そしたら明日にでも何か作って持って行ってあげようかな。 て、今日薬を届けるのかい?今からじゃ遅くなってしまうだろう? 問題ありませんよ。胃腸のお薬は煎じてありますから、直ぐに出せます。 寧ろ、私の至らなさのせいで 待った待った。 え。 あたしも行くよ。 もう日が暮れてしまう。 大丈夫ですよ。 駄目だよ、大夫。 夜にひとり歩きは危ない。前にも言ったろう? ですが……灯りも、ちゃんと持っていきますし。 そういう問題じゃない。 でも……でも、まことさんに迷惑を掛けるわけには。 迷惑だなんて、思ってない。 それに、ばあさまの為でもあるだろ。 この村に来て大分経ちますし……だから、その。 そんなの、関係無いよ。 若しも野犬にでも遭ったらどうするんだい。 村の中では滅多に 今日がそういう日かも知れない。 そんなのは誰にも分からないんだよ。 けれど、まことさんだって帰ったらやるべきことがあるでしょう? お夕飯の支度も、明日の 亜美さん。 ……あ。 あたしが、付いて行きたいんだ。 …………。 迷惑、かい? ……そんな、こと。 だったら……良いね? ……は、い。 よし、そうと決まれば。 先ずは大夫を診療所に送って……薬は直ぐに出せるんだったよね? あたしが持つよ、薬も灯りも。 は、はい。 あ、でも。 なんだい? い、いえ……。 なんだい、大夫。 まことさん、その……。 未だ迷惑を掛けると? ち、違います……もう、思っていません。 と言いつつ、少しは思ってるんだろ。 それは……その。 あたしが好きでやっているんだ、迷惑だって言うのならあたしの方だよ。 こんな風に押し切ってまで付いて行こうとしているんだから。 ……。 ……好きなんだ、大夫のこと。 ごめんなさい……。 ……え。 まことさんの気持ちは、とても嬉しいです……。 あ、あぁ……。 でも、薬と灯りは私が持ちます。 え。 え? あ、いや、えと、そ、そうだよな。灯りは兎も角、薬は大事だもんな。 そんな大事なもの、あたしに そ、そうじゃなくて。 へ。 まことさんは若しもの時の為に、直ぐに動けるようにしておかなければならないでしょう? 薬は鞄に入れて身に付けるから良いですが、灯りを持ってしまったら手が塞がってしまいます。 まぁ、そうなんだけど……。 それに灯りも大事でしょう? 消えてしまったら真っ暗になってしまって……ほら、見て? うん? 今日は、新月ですよ。 新月……。 星も、明るいですが。 それでも、月には敵いませんから。 ……。 ね、そうでしょう……? ……。 ……? まことさん……? ……こんな時に、あれなんだけど。 はい。 こ、今夜、うちに来ないかい……? ……はい? ……。 まこと、さん……。 ……あー! きゃッ。 な、何言ってんだ、こんな時に! ほんっと、何言ってんだ!! ま、まことさん、落ち着いて。 ご、ごめん、聞かなかったことにして、して下さい。 け、けど、 ほんと、ほんとに……。 ……本当に、良いんですか。 良いから、本当に……。 ……本当に、良いの? あ……。 ……聞かなかったことにして、も。 ……! ……。 ……亜美さん。 ……はい。 薬を、届け終わって。 それから……それから、うちに来ないかい? ……まことさんが、良いのなら。 来て、欲しい。 ……。 出来るなら……明日まで、一緒に。 ……はい、喜んで。 ……大夫。 ……。 え、ええと……お茶、飲むかい? ……はい、頂きます。 ん。 ……ありがとうございます、まことさん。 ううん。 ……あの。 うん。 ……ごはん、美味しかったです。 あ、うん……良かった。 いつもご馳走になってしまうばかりで……。 ……大夫はいつもそう言うね。 あ……。 ……遠慮、そろそろしないで欲しい。 だけど……。 ……お礼だけで、良いよ。 いや、美味しいと言って貰えるだけで……あたしは、嬉しい。 まことさん……。 親しき中にも礼儀ありとは言うけど、あまり遠慮されてしまうと……その、寂しいよ。 距離を、感じてしまうようで……寂しい。 ……ごめんなさい。 ごはん、ふたりで食べると美味しいよね。 え。 ひとりの時よりも、ずっとさ。 ね……大夫もそう思わない? ……思います。 うん、同じだ。 ……まことさん。 はい。 ……今度、お料理、教えて下さいね。 あたしで良ければ、喜んで。 ……ありがとう。 でも、全く出来ないわけではないのに。 ……同じものを、作ってみたいんです。 同じもの? はい、まことさんが作って呉れるものと同じものを……私は、作ってみたい。 あたし、大夫が作って呉れるごはんも好きだよ。 私のは あ、そうだ。 ……? 大夫も、あたしに教えてよ。 大夫が作って呉れるごはん、あたしも作ってみたい。 わ、私が作るのは……その、大したものではないので。 ほら、またそうやって。 あ。 ……大夫はもっと、あたしに。 まこと、さん……。 ……。 ……ん。 兎に角、教えて欲しい……ね。 はい……まことさん。 ん……。 ……あ、の。 あぁ、これじゃお茶が飲めないね……。 ……。 ……もう少し、掛かりそうかい? いえ、そろそろお仕舞にしようと思っています……。 ……良いのかい? はい……今夜の分は、これでお仕舞いです。 そっか……。 ……。 これらはなんのお薬なんだい? こちらは皮膚のかぶれに効くもの、そしてこちらは咳を鎮めるものです。 うーん、いつ見てもすごいな。 大夫の手にかかればどんな草木でも薬になってしまう。 どんな草木でもお薬になるわけではありませんが……。 ほら、毒にも薬にもなりえるものがあるだろう? そういうのを知ってるのはすごいなって思う。 そんな、私はただ……。 し。 ……ん。 勉強、したんだろう? あたしが想像している以上に、大夫は。 誰かを助ける、救う為に。食べることも忘れて、寝る間さえも惜しんで。 ……。 その努力は……讃えられたって、良いんだよ。 誰がなんと言おうとも……あたしは大夫が、すごいと思う。 まことさん……。 偉ぶれとは、言わないけどさ……必要以上の謙遜はしなくて良いんだ。 少なくとも、あたしにだけは。 ……うん。 と言っても、直ぐには無理だろうから……まぁ、気長にね。 時間は、あるし……さ。 ……。 え、えと……気長の意味、ちょっとでも良いから伝わって呉れたら嬉しいな。 ……ちょっとだけで、良いんですか。 ……。 ……良いの? え、と……。 ……おばあちゃんになるまでには、改善しようと思います。 それは、気長すぎでは……。 ……ふふ。 はは……。 ……ふたりで、なれたら。 大夫……。 ……良い、ですね。 なろう。 ……。 ……ふたりで。 は、い……。 ……て、いけない。 お茶、冷めちゃったかな……淹れ直そうか。 いいえ……大丈夫です。 冷めて、飲み易くなっているので……このままで。 そ、そう? ……ね、まことさん。 うん……? ……あのね。 うん……。 ……待ってて。 え……? ……お布団を、敷いて。 ……! 片付けが終わったら、行きますから……。 う、うん、分かった。 ……。 じゃ、じゃあ、ま、待ってるね。 幾らでも、待ってるから。 ……そんなには、待たせませんよ。 そ、そっか……じゃあ、急いで敷かないと。 だからって、今直ぐでは……。 そ、そうだよね、じゃあゆっくり急ぐね。 あ、大夫はゆっくりで良いからね。 ふふ……もぅ、まことさんったら。 は、はは……。 ……それから。 う、うん? ……呼んで。 な、なんだい……? ……名前で、呼んで。 ……ッ。 ……大夫じゃ、いや。 うん……分かった。 ……。 ……待ってる、亜美さん。 はい……。 -この世の果てにて。(未来崩壊パラレル) ん……なんだい、亜美ちゃん。 ……。 寒いかい?ん、外? これと言った気配は……あぁ、雨か。 ……。 相変わらず、黒い……これじゃ、暫く動けないな。 でもまぁ、良いか。亜美ちゃんも良いだろ? ……ん。 亜美ちゃん、寒くはない? 寒かったら ……。 亜美ちゃんは素直じゃないからなぁ。 もう少し、甘えて呉れたって良いのに。 ……ぅ。 それでもま、出逢った頃に……いや、付き合い始めた頃と比べれば、幾分かマシだけど。 ね、何度も言ってるけどさ、あたしは亜美ちゃんに甘えられるのが好きなんだ。 だから、たくさん甘えて欲しいんだよ。特にこんな時は、さ。 ……。 本当はとっくの昔に分かってるんだろ? それで、わざと甘えて呉れないんだろ? (……あなたこそ、分かっているくせに) ね……甘えてみてよ、幾らでも応えてあげるから。 どうせ動けないんだ……たっぷりと、楽しもうよ。 (……だめよ) む……。 (まこちゃん) ちぇ……つまらないな。 ……。 なんて、冗談だよ……そんな顔、しないで。 (……あなたは今、どんな顔をしているの) ん、なに……はは、くすぐったいよ。 ……。 声が、聞きたいな……君の声が、聞きたい。 あたしを好きだという声が、しょうがないひとだって呆れる声が、拗ねてる時の声だって……。 ……あ、……あー。 ん、ありがとう……嬉しいよ、亜美ちゃん。 (まこちゃん……) ……もう一度、もう一度だけで良い、名前を呼ばれたい。 あ、ぅ……あ、あ……。 ……亜美ちゃん。 う、ぅぅ……。 ……困らせてごめんね、亜美ちゃん。 (まこちゃん……まこちゃん……) 分かってる……この中で呼んで呉れてるんだろ。 ちゃんと、分かってるよ……。 ……。 ちょっと早いけど今日は休もうか。 さぁ、亜美ちゃん。 ……。 ……寒かったら、言って。 (寒くなんて、ないわ……) ん、亜美ちゃん……? (あなたが、居て呉れれば……寒く、ないの) ……あたしも、寒くないよ。 ん……。 若しかして、未だ眠くない? そうだよなぁ、眠るには未だちょっと早いもんなぁ。 (……あなたの声を、聞かせて) 雨が、やんだら。 何処へ、行こうか……北か、南か。それとも、東か、西か。 亜美ちゃんと一緒なら 何処でも、良いんだけれど……出来れば、誰も居ないところが良いな。 ……。 ……人間ってさ、意外にしぶといものだよね。 こんな世界になっても、絶滅しないで……生きてる。 ……。 あたし達が今、こうしている間にも繁殖し続けて……と言っても増えることはもう屹度ないし、減っていくばかりだろうけど。 女の数も、産める数も、限られているし……生まれても、ほとんどが育たない。育つわけがない。 いつか、終わりが来る……。 ……。 それでも、繁殖を続ける……本当、滑稽だな。 これが、望んだ世界だと言うのなら……それをいやと言う程味わって、死んでいけば良い。 (……ひとの世の、終わり) いつかは滅びる……どんなものであろうとも。 ……。 この星は、いつまでもつかな……人間が滅びれば、もつかも知れないな。 いつだったか、人間が滅びた方がこの星にとっては良いって……増えすぎた人間は最早、星にとっては害でしかないと。 あれは、何処で聞いたんだっけ……確か、亜美ちゃんも一緒だった筈……。 (……未だ、女王が即位する前……ふたりで、博物館に出掛けて……あなたが興味を持って呉れたことが、嬉しくて……) どこで、こうなったのか……予め、こうなることは決まっていたのか……何にせよ、これでこの星が少しでも長く生きられるなら。 ……。 ……ごめん、もっと楽しい話をしようか。 んー、そうだなぁ。何が良いかな。 (ならば……あなたの歌が聞きたいわ、まこちゃん) ん、なに……口?口が、なんだい? ……。 ……キス? ……。 ん、違うの? (……分かってるくせに) ね、なんだい……何が、欲しいんだい……ねぇ、亜美ちゃん……。 (手が、熱い……くちびる、も) 未だ、眠れないのなら……楽しいこと、しようよ。 (結局……) ねぇ、亜美ちゃん……? (私達も、同じ……ただ、繁殖が出来ないだけで……いえ、出来たところで……) 良いかい、亜美ちゃん……ねぇ、良いだろ……? (…………むねが、くるしい) ……亜美ちゃん? ……。 泣くのは、未だ早いよ……未だ、何もしてない。 亜美ちゃんの良いところ、何処も触ってない……。 (まこちゃん、私は……私は、あなたが) 大丈夫……寒い思いは、させないから。 だから……楽しもう、亜美ちゃん。 あぁ……。 ……好きだ、亜美ちゃん。 (まこ、ちゃん……) |