−人とは。(聖蓉) 綺麗な人だな、と。 聖は私を前にしながら、平然に然う、のたまう。 そんな事をするのは別に昨日今日始まった事じゃない。 そのせいで何度か些細な喧嘩をした事だってある。 だって、然うでしょう? 直ぐ前には私が居るのに。 久しぶりに逢えた日も。 私の手を離すまいと握っている日も。 それなのに。 知っている。 いつだってヘラヘラと笑う聖の軽薄さは、己を守る手段の一つだと言う事を。 ヘラヘラと笑いながら、軽い台詞を吐き、だけれど必要以上には踏み込ませない。 今でこそ、社交辞令も当たり前のようにこなしているけれど。 その本質は人見知りで、そもそも人間と言う種に興味が無くて。 容易にはその心を開く事はない。 何より。 暫く目で追って、飽きたのかそれとも満足したのか、悠然と私に目を戻す。 これ、結構美味しいね、などと。 何事も無かったように食事を再開する。 今は聖が散歩中にたまたま見つけたと言う、小さなスパニッシュのお店で、 窓際の席を陣取って、スペイン料理と言えばパエリアかなぁと言う聖に従い、 魚介類がふんだんに入っているそれを取り分けて食べている。 少し油っぽいのが気になるけれど、確かに味は悪くない。 サラダで油に飽きた舌を休ませながら、女二人では少々多いそれを、少しずつ食べ進める。 それ以上の会話は無く、ただ黙々と。 気付けば。 聖はまた、窓の外に視線を巡らせていた。 また聖好みの女〈ヒト〉でも通りかかったのかも知れない。 然う思って、軽く唇を噛んだ。 店を出ると、腹ごなしの散歩をしようと言う聖に手を引かれて、何処へ行くとも無くただ歩いた。 子供たちの声が響く公園。 誰かの家の庭に咲く木芙蓉。 穏やかに笑いあう老夫婦。 遥かなる空を飛ぶ鳥。 私達は通り過ぎていく。 屹度、記憶の片隅にも残らない其れらを背にして。 若しも、今、この手を離したら。 貴女は。 聖は動植物が好きで、たまにぼうっと其れらを見ている事がある。 だけどそれらがどういった種なのかには興味が無いらしく、正しい名が出てくる事は稀だった。 殊、人になると、親しい人間以外は全くと言って良いほど。 例えば今日話したとしても、分かれれば其れまで。 聖は其の人の顔も声も覚えてない事がざらで。 だから、然う。 聖の目が他の女に向けられていたとしても、気にする事なんて無いのかも知れない。 だってどうせ覚えてないのだから。 目で追った事だって、綺麗だな、と呟いた事だって覚えてない。 そんなものはすっかり忘れて何も無かったように、夜、私の肌を求めてくるのだ。 子供のように。 …蓉子? 温かい手を振り解いた。 聖が怪訝そうに私を見ているのを肌で感じる。 そのまま私は後ろを向いて走り出す。 聖の私の名を呼ぶ声が聞こえる。 このまま人の多いところまで駆けて、人ごみに紛れて。 私が消えてしまったら。 貴女は私を忘れてしまう? 他の女と、人と同じように。 だけれど私は簡単に捕まってしまった。 そんな莫迦みたいな事を確かめる事は出来ずに。 思えば初めて逢った時からずっと、聖の方が足が速かった。 しかも今私が履いているのはミュール。聖はスニーカー。 走りやすさで言えば、断然、聖の方。 息すら、切れてない。 どうしたの? そのまま引き寄せられる。 心がざわめく。 私は何をしようとしたのだろう。 聖は私を覚えてくれている。他の女とは違う。 忘れる事なんて、多分、無い。 …忘れられない人になれなくても。 蓉子。 聖の手に力が込められるのを感じる。 心が震える。 ああ、私は貴女を忘れられない。 何があっても、此の先、別れが待っていようとも。 私は。 −ハルモニア〜夢のはじまり。(パラレル) ……ん。 せ、い…? …あ、起きた? ……? なにを、しているの…? 支度。 …したく? なん、の しかし。 本当に乱痴気騒ぎだったね。 ……。 酒が入った皆を見るのは、楽しい。 あまり見る事が無かったから、殊更。 …聖。 でこぐらいだよね、つまんないの。 何であいつはあんなに酒に強いんだ。 何杯飲んでも平然としてやがってさ。 聖。 皆は良く眠っているよ。 騒ぐに騒いだから、疲れたんだね。 聖…! …し。 そんな大きな声を出したら皆が目を覚ましちゃう。 ……あな、た。 やっぱり、此処ほど居心地の良い場所は無いのかな。 どうし…て。 特に蓉子の隣は陽だまりにいるみたいで。 どうして…ッ …。 どうしてそんな、ん…ッ ……だから。 起きちゃう、て。 ……行かないで。 …。 約束、したでしょう…。 うん。 ねぇ。 もう、何処にも行かないで。 私を一人にしないで。 一人にはしないよ。 だけど何処にも行かない事は出来ない。 何を、言って… ね、帰ってきた時、さ? 話すことがいっぱいあるって、私、言ったよね。 …。 だけどさ。 やっぱ一緒に見た方が良いやって思い直した。 え…。 だから、はい。 え、ちょ、何…。 何、じゃないよ。 蓉子も支度をして。 支度、て…。 とりあえず着物を着て。 そんな格好では連れて行けないでしょや? …。 分かんない? 蓉子も一緒に行くって事なんだけど。 行くって、何処に…? さぁ? 行き先なんか決めなくたって、行こうと思えば何処にでも行けるよ。 …。 なに、帰ってきたいと思えばいつだって帰ってくれば良い。 此処が私達の故郷であり、家なんだから。 逢いたい人達も皆、此処に居る。待っててくれる。 ……。 もう、いつまで呆けているのかな。 と言うか自覚してよ。 自覚…て、何を? 蓉子ってさぁ。 昔からそんなに寝起き悪かったっけ? …。 婚礼の儀を終えて、契りも交わした。 蓉子は私の、正式な、良人になったんだよ。 そこんとこ、分かってる? う、うん…。 だから、一緒に連れて行く。 一人にはさせない、もう二度と。 …。 それとも何、一緒に行きたくないの? そ、そんな事無いわ。 じゃ、言って。 連れて行って、て。 …。 付いて行く、て。 行って。 聖、私…。 蓉子。 ……。 行こう、蓉子。 世界は広い、果てしなく。 見せたいものが、二人で見たいものがいっぱいある。 ……うん。 欲しいのは其れじゃ無いなぁ。 …連れていって、聖。 ん、喜んで。 …。 然うと決まれば。 …今から、行くの? 然うだよ。 だけど皆には… そっと。 何かに書いて置いていけば良い。 せめて江利子ぐらいには 余計、要らないよ。 だけど。 腐れ縁だから。 必要、無い。 …。 さ、蓉子。 早く着物を着て。 私がまた、欲しくなってしまう前に。 え…ひゃ。 …若しも、そんな事になったら。 出立が遅れてしまうでしょや…? …。 名残、惜しい? …ううん。 また帰ってくる、帰ってこられるから。 うん。 ね、聖。 ん? 私の寝起きの事。 ああ。 蓉子はいつも私より早く起きて、朝ごはん作ってくれていたよね。 貴女は朝が弱いから。 いつもご飯要らないって言って。 食欲が、ね。 いまいち湧かないんだよね、寝起きは。 だけど、少しずつ食べてくれるようになった。 ゆっくりだったけれど、其れがとても嬉しかった。 蓉子の作ってくれるご飯はいつも美味しい。 そーいや、色んなところに行ったけど蓉子のご飯より美味しいご飯を食べる事はとうとうなかったな。 然うかしら? そーだよ。 だって蓉子が居ないんだもん。 私が居ない? どんなに美味しくても蓉子が居なければ味は半減。 其れって。 私が作る作らない、関係無くない? 関係有るよ。 蓉子が作ってくれて、蓉子と一緒に食べる。 これに勝るものなんて一つも無いんだ。 ……。 蓉子? 私、ね。 本当はそんなに朝強くないの。 え、然うなの? まぁ、聖ほどでは無いけれど。 だけど弱そうには見えなかったなぁ。 だって。 うん。 若しも寝過ごして、隣に貴女が居なかったら。 其れが何より、怖かった。 …。 だからたまに貴女より遅く目覚めて隣に貴女が居ないと、探したりしたのよ。 其れは…知らなかった、な。 でしょう? 悟られないようにしたもの。 強がり。 私が蓉子に何も言わないで旅に出る筈無いのに。 だけど時たまフラリと居なくなる時もあったじゃない。 山の上で星が見たくなったとか言って。 しかもいつも事後報告。 けど一晩ぐらいじゃん、それ。 貴女にとっては其れだけの事かもしれない。 私にしてみれば、そのまま居なくなってしまいそうで怖かった。 ……。 だから。 せめて貴女と夜を共にした時は貴女より早く起きようって決めてた。 どんなに遅くても、貴女が眠るのを確認してから で、寝不足で体調を崩したりして。 莫迦だねぇ。 …うん、莫迦だったのよ。 だけど然うさせたのは私だから、私が一番莫迦かもね。 いいえ、私が勝手にやった事だか、ら。 蓉子。 …。 もう、怖がる事は無いよ。 …うん。 信じてくれる? 信じてるわ、聖…。 …ん。 …。 目、閉じて…? ……うん。 感じる? 感じるわ。 私も感じる。 これからはずっと、一緒なのよね? 然うだよ。 ……嬉しい。 蓉子…。 聖…。 …。 …。 …さ、そろそろ行こうか。 …うん。 其れじゃ…行ってきます、と。 …ふふ。 どした? 何か不思議な気分だな、て。 私はずっとずっと「行ってらっしゃい」だったから。 そっか。 …。 蓉子、行こう。 うん。 …行ってきます、みんな。 …江利子さま。 行った? はい。 然う。 今、お茶を煎れますね。 有難う。 …お綺麗でしたね。 蓉子が、ね。 それからとてもお仕合わせそうでした。 然うね。 お姉さまも。 あれの場合ははしゃぎすぎ、とも言えるけれど。 仕方がありません、願いが叶ったのですから。 …どうぞ。 ま、然うなんだけど。 …ん、美味しい。 恐れ入ります。 何処へ、行くのかしらね。 恐らく、行き先などは決まっていないのでしょう。 お姉さまは蓉子さまと一緒であらば其れで良いのでしょうから。 分かっているわね? 私はあの方の妹ですから。 今頃は蓉子の手を無邪気に引っ張って、やっぱりはしゃいでいるのだと思うわ。 蓉子さまは困ったような笑顔を浮かべられて、されど嬉しそうに引っ張られているのでしょうね。 その実、手綱は確りと握っているのだけれどね。 然うですね。 んーー…。 江利子さま? 静か、ね。 はい。 …。 …お淋しいのですか? 然う言うわけではないのだけれど。 何かしらね、感傷とでも言うのかしら。 …。 …さて。 お茶も飲み終わった事だし、私も一眠りしようかしら。 江利子さま。 うん? お二人は屹度、帰ってこられます。 そんなの、当たり前でしょう。 はい。 で、お土産の一つでも貰わないと。 留守を預かってあげるのだから。 くす、然うですね。 それに。 離れてたって、みんな同じ大地〈バショ〉。 はい? 蓉子曰く。 ああ。 …。 …。 志摩子。 はい。 聞こえた? …はい。 然う…。 江利子さま…? 行ってらっしゃい。 …届きますでしょうか? さぁ? 届かないのなら、其れで良いわ。 だけど向こうのが届いたのだから、屹度。 はい。 …蓉子? どした? …聞こえた。 うん? 聞こえたの。 江利子の声が、行ってらっしゃい、て。 …。 江利子…。 …ふぅむ。 …。 蓉子。 なぁに? 土産、て言いそうだと思わない? …。 あいつの事だから。 面白いのを持って帰らないと、絶対、なんか言うに決まってるんだ。 …ん、然うね。 −当たるも八卦、当たらぬも八卦。(聖蓉) ひとかたに なびくと 見せて 青やぎの ゆくえさだめぬ 人心かな ……。 蓉子蓉子、蓉子は何だった? ……。 私はね、吉。 可でも不可でもなくって良いのかな。 …然う。 で? 蓉子は何だった?見せて見せて。 あ、一寸。 なになに…小吉? やった、勝った。 おみくじに勝ち負けなんて無いでしょう。 返して。 ねぇねぇ、女難に気をつけろって書いてあるよ。 女なのに女難なんて面白いね。 …ある意味、当たってると思うわ。 え、何? 蓉子さんって大学でももてもてなの? 違うわよ。 と言うか大学でもって何よ。 いやぁ、紅薔薇さま時代はそれもう、多くの女の子たちから慕われてましたから。 それは貴女でしょう。 かつての白薔薇さま。 曰く、軽薄が制服を着てるだっけ? “軽薄が制服を着て歩いているよう”。 そんな事も言ったわね。 その節はお世話になりました。 いいえ、どういたしまして。 あ、旅行〈タビダチ〉では色情〈イロゴト〉慎めだって。 …いい加減、返しなさいよ。 待人は来るってさ。 良かったね。 ああ、もう。 貴女のも見せなさい。 やだー。 …けんか、売ってるの? 新年早々、そんな物騒な事はいたしませんよ。 てか、そんなものは一年中取り扱っていません。 平和主義者なもので。 ああそう、無意識って怖いわね。 はは。 じゃ、一つだけ教えてあげる。 は? 待人。 待ってないで己から動け、ってさ。 ……で。 うん? 私はどうして、貴女とこんなところに来てあまつさえおみくじなんて引いているのかしら。 そりゃ、新年だもの。 あけましておめでとー? 約束、してなかった筈よね? 私達の間柄に約束なんて必要? 初詣に行こうって。 日も明けてない朝っぱらからいきなり家に押しかけてくるのはどうかと思うわ。 おかげで両親に説明するの、大変だったじゃないの。 あくまでも無下にしない、そんな蓉子が好きよ。 はいはい。 て、一寸、くっつかないでよ。 えー、くっついている方があったかいじゃない。 ほらほら、もっとくっついて。 も、もう、何なのよ。 去年は一緒に来られなかったから。 祐巳ちゃんと来たのでしょう? うん。 あの時は面白かったな。 それは良かったわね。 …妬いた? どうして妬かないといけないのかしら? 釣れないなぁ。 で、これからどうするの。 もう、帰って良いのかしらね? 帰しません。 はぁ? 蓉子はこれから、うちに来るんだからさ。 勝手に決めないでよ。 小父さまと小母さまには悪いけれど。 あのねぇ…。 私だって暇じゃないんだけど。 まさか元日早々、大学のレポートやるとか言わないでしょ? …言わないわよ。 まさかやるつもりだった? いいえ。 図星。 だから、 蓉子と来たかったのよ。 …は? 今年は。 …初詣に? 欲を言えば初日の出も見に行きたかったんだけど。 それは事前に連絡必須だわね。 いっそ、お泊りしてもらえば良かったなぁ、とも思ってみたり。 そうすりゃ迎えに行く手間も省けたし。 あーはいはい、然うね。 だから今年の大晦日は私の部屋で過ごしなよ。 今年が始まったばかりだと言うのに、もう大晦日の話? 気が早いわね。 鬼には笑われないよ。 何にせよ、事前に連絡して頂戴。 唐突、及び、思いつきは止めて。 だから、もうしたじゃない。 …? たった今。 …貴女ねぇ。 蓉子。 何よ。 もう、待つのは止めたんだ。 …あ。 蓉子には待人が来るって言うし。 なんかもう、これは新年早々幸先が良いとしか。 …女難の相が出てるのだけれど。 然うね。 だから私以外の女〈ヒト〉は見ちゃ駄目。 ……。 蓉子、す 止めてよ。 …む? おみくじの結果に惑わされて。 そんな事、言わないで。 おみくじなんて。 初めから、信じてない。 …?! 蓉子。 せ、聖、近いわ… …好きよ、蓉子。 ……。 にひひ。 な、何よ、その笑い。 ううん。 さ、行こ? あ、こら。 返事は私の部屋に着いてからでも良いって事にしてあげる。 …ノーだったらどうするのよ。 そしたら…その時、考える。 今考えなさいよ…ッ ・ 蓉子の作ったお雑煮、美味しかった。 …ありがとう。 ふふ、蓉子。 ああもう、くっつかないで。 だって。 もう、寒く無いでしょ。 ちぇー。 ま、そーいうのはこれから、かな。 そういうのって何よ。 そりゃ…諸々? あ、だけど色情慎めって書いてあったっけね。 …ところで。 貴女のには何て書いてあったのよ。 私の? 人のは勝手に見ておいて。 自分のは見せないだなんて。 ああ、然うだったっけ。 惚けて。 だけど、残念。 もう手元には無いから見せたくても見せられない。 ごめんね。 憎たらしい。 じゃ、一つだけ教えてあげる。 また? 来ないんだって。 来ない? 待人。 だからね、ならば動こうと思いまして。 …うそつき。 うん。 だけど、動いて良かった。 …若しも。 ん? 来るって書いてあったら? その時は…やっぱり蓉子はこの部屋に来てたと思うよ。 結果は同じなのね。 うん。 …。 …蓉子。 何、よ。 未だ、駄目かな? 駄目も何も… 良いよね? あ…ん。 …ほら、良かった。 ……。 けど、ちょこっとカサカサ? ………ばか。 −アルベド・−3(聖・蓉子) 蓉子と眠る。 私の腕の中で眠る彼女は温かくて、どこまでも穏やかだった。 強さを秘める黒耀の瞳も今は隠されている。 髪に触る。 指で梳く。 さらさら、と流れては、私の指から逃げていく。 どうしても蓉子に逢いたかった。 私はいつも然うだ。 感情に流される。 飢えて、飢えて、どうしようもなくなる。 だから昨日も。 約束なんか、してなかった。 大学の友人と居る彼女を見つけた時、私の中での渇望は限界を振り切った。 私ではない人に笑みを向け、親しげに話す蓉子の姿。 声を掛けるよりも先に、その腕を掴んだ。 驚きに目を見開き声も出せない彼女を、力尽くで引きずっていって車に乗せた。 何があったの。 こういう時の蓉子は優しい。 有無も言えず、無理矢理連れて来られたと言っても語弊は無いこの状況でも。 頬を撫でられ、その黒耀で見つめられる。 いや、これはある種、逃げ道を無くす為の行為だ。 ベッドに押し倒す。 それでも怯まない彼女の瞳に、少しの苛立ちを感じながら。 力任せにシャツを引きちぎる。幾つかのボタンが弾け飛んだ。 手加減なんて出来ない。出来るわけ無い。 噛み付くようにその白い肌に歯を立て、舌を這わす。 甘いなどとは程遠い、ただ貪り食うような口付け。 忙しく動かす手。柔らかな乳房。 ああ、握りつぶしてしまいそうだよ。 カラカラに渇いて飢えた心。 満たす事が出来るのは彼女。 満たして何が悪い。 私は蓉子が好き。愛してる。 この渇望を、満たせるのは蓉子だけ。 だから、だから。 聖…。 悲しげな声など、聞こえない。聞きたくない。 私に溺れた声が聞きたい。聞かせてよ。 私の飢えを満たしてよ。 −無意識って、時に罪作りだと思うんだ…。(聖蓉) 聖。 へ…わ、つめた。 どうしたのよ、これ。 何が? 何がって。 てか、よっこの手が冷たいんですけど。 赤くなってる…と言うより、完全に傷だわ。 や、こそばゆ…。 しかも一箇所だけじゃない。 う、ぁ…。 お腹から腰にかけて何箇所も…。 …蓉子さん、蓉子さん。 何と言うかわたくし、ちみっとアレな気分になってきたんですけど、も。 これ、若しかしないでも引っ掻き傷? あれかな。 今日はお休みだから散歩がてらデートなんかしようかななんて思っていたけど、いっかな。 いいんだよね、きっと。 一寸、聖! ちゃんと聞いているの?! はいはい、聞いていますよ。 引っ掻いたのね? うん。 こんなになるまで…。 痒かったの。 痒かったの、て貴女。 なんだろね。 この時期になると毎年痒くなるんだよね。 …あ、言っておくけどお風呂にはちゃんと毎日入っていますよ? ……。 ところで蓉子さん。 そろそろ、 聖、一寸来なさい。 え、何処に…てか、え、ええ、うわぁ。 薬、つけないと。 痕になったら大変だわ。 あ、うん、そだね…。 何処にしまってあるの。 どうせ貴女の事だからろくすっぽつけてないのでしょう? え、えと、そこら辺にあるか、と…。 そこら辺って何処よ。 あー、えーと…。 もう、この間来た時にちゃんと分かりやすいところに片付けておいたのに。 あなたの悪い癖よ、物を無意識に置くの。 す、すんませ、ん…。 聖? あ、そ、然うだ。 確かベッドの…。 ベッドの? …はい、ありました。 …なんでそんな所に? 無意識って怖いですね…て、話。 …本当に。 ? まぁ、良いわ。貸して。 え、若しかしてつけてくれるの? そのつもりだけど。 嫌なら自分で つけてください。 …良いわ。 じっとしていてね。 はい。 …やたらに素直ね。 とりあえず、先ずは腰から… …う。 それから脇腹…。 ……。 あとお腹…此処は特に酷いわね。 ……うぅ。 …何、唸っているの? いや、別にそういうつもりではないんだ、け、ど。 はい、良いわ。 だけどこまめにつけないと駄目よ。 …。 あとはちゃんとしたケアをして。 お風呂から出たら保湿剤を…? ……。 聖。 さっきから何を もう、駄目。 限界。 は? 蓉子こそ。 今の自分の格好、分かってる? え……あッ そんな格好で、指先で躰をなぞるようにして薬ぬられて。 あ、いや、そんなつもりじゃ… 蓉子。 ま、待って? もう朝だし… だから? だ、大体、着替えをしようとしたら貴女の躰の傷が目に入って、だから… だから? いや、だから…ね、聖? うん。 だからね、蓉子。 や、やだ、だめ… じゃ、ないでしょ。 せ…ん。 …と、言うわけだから。 着替えはまた後で、というコトで。 …も、う。 無意識って。 ほんと、怖いよねぇ…。 −ウェブラジオでの篠原さんと豊口さんの会話は聖蓉そのものだった件。(聖蓉) …むぐ、でさぁ。 …。 …だと、思ふんだほね。 …。 だから 聖。 ひゃい? 喋るのなら。 飲み込んでからにしなさい。 …ん。 はい、飲み込んだー。 じゃあ、たった今口に含んだのも飲み込んで。 それから、話して。 やー、ひゃってさぁ。 行儀が悪い。 …んぐ、だってさぁ。 昼休みなんてあっという間に終わっちゃうじゃん? 然うね。 だけど、口の中に物を入れて喋るのは行儀が悪い。 むーーー。 ……。 蓉子ってさ、食べている時は静かだよね。 ……貴女が騒がしいだけ、よ。 食事は楽しい方が良いじゃん。 ……。 ねー、よーこ。 お喋りしようよー。 ……はいはい。 つーれーなーいーー。 早く食べないと。 お昼休み、終わっちゃうわよ。 よーこー。 ……。 あ、その卵焼きちょーだい。 いや。 自分のを食べなさい。 あーん。 ……。 …ちょーだい? ……。 あー。 ご馳走様でした。 よーこのけちー。 けちで結構。 それより早く食べたら? よーこの手作り卵焼き、食べたかったのにー。 私の大好物なのにー。 ……。 よーこの手作りー、食べたかったよーー。 …しつこい。 あーあー。 食べたかった、食べたかったなーー。 …ああもう、うるさいわね。 だって食べたかったんだもん。 甘い、て文句言ってたのは誰よ。 しかも勝手に取っておいて。 あれはあれでありだと思う今日この頃。 おかずと思わなければ良いだけだもんね。 ……どうせ甘党よ。 ねーねー蓉子ー、次はいつ持ってくるのー? さぁ、いつかしらね。 よーこーーー。 ああ、もう。 その時はあげるわよ、あげればいいんでしょう。 その時っていつ? 明日? いつか。 えーー。 さて、そろそろ教室に戻らないと。 蓉子。 …聖。 ねぇ、明日食べたい。 …あのねぇ。 明日。 …。 ね? ……うん、と言わなければ。 うん? 離してくれなそうね、貴女。 さて、どうでしょう? ……はぁ。 分かったわ、じゃあ明日ね。 わぁい。 全く。 じゃあさじゃあさ、あーんもや それはやりません。 あー。 今日もつまんないくらいに平和ねー。 −黄薔薇ノ乱。(俺屍版黄薔薇) 蓉子、蓉子。 はいはい、分かってるわよ。 大人しく待ってなさい。 はーい。 えへへ。 ……。 あら、どうしたのかしら? …別に何でもないです。 なぁに? 若しかして由乃も骨をとってもらわないと食べられないの、未だ。 …そんなこと、一言も言っておりません。 と言うかまだ、って何ですか、まだって。 ふぅむ。 これもひとえに令が甘やかした結果、かしら。 令ちゃんは関係ありません。 魚ぐらい、一人で食べられます。 まぁまぁ、そんなに無理しなくても良いから。 あ、一寸、人の魚に箸をつけない下さい! 何だかんだ言っていても未だ未だ子供なのよね、由乃は。 だぁもうぅぅ!! 骨ぐらい自分でとれるっつーの!! ほらほら、由乃。 見て、こんなに大きな骨。 喉に刺さったら大変なコトになるわよ。 聞けよでこちん! て、令なら言いそうよね〜。 ああ、もう!! もう、ほっんとに良いですから! これ以上触んないで下さいてか自分のを大人しく食べてろ!! はい、ついでにほぐしてみました〜。 軽く無視すんな!! もっとついでに。 はい、あーん。 あ…むぐ。 よく噛んでね〜。 …………。 美味しいかしら? …………。 あらあら、美味しすぎて返事も出来ない? 仕方ないわねぇ、そんな由乃の為にこの私が。 ………。 なんて、するんでしょうねぇ。 ………。 つくづく。 令って由乃には甘いわよねぇ。 …………。 まぁ、面白いから良いけど。 面白がるな、でこちん…ッ!! はい、とれたわよ。 わーい。 ちゃんと良く噛んで食べるのよ。 ただいま! 由乃!由乃! ……。 ただいま、由乃! ……。 ほら、見て。 由乃にお土産。 欲しがってたでしょ? ……。 あれ? ……。 由乃、どうしたの? 嬉しくなかった? ……か。 じゃあこっちは? …それともこっちが良いかな。 ……。 ねぇ、由乃。 どっちが良い? あ、いっそ両方が良い? ……ばか。 うん、そうだ。 はい由乃、あげる。 令ちゃんの、ばか…!!! …え? ばかばかばかばかばかばかばかばかばか…!! わ、わ、な、なになに…っ もう、ぜんっぶ…! 令ちゃんのせいよ…!! え、な、なんで、てか何が? お土産? 欲しいの、これじゃなかった? …本っ当っ ばか、なんだから…っ!! え、えぇ…。 … −花開く。(聖蓉) ……ん。 ……。 ……わ、たし。 目、覚めた…? ……せい? うん。 なん、で…。 …さて。 え…。 なんで、でしょう…? せ、聖…? ……蓉子、やわらかかったな。 ……あ。 思い、出せた…? ……! 蓉子…。 わ、わたし…。 かわいかった…。 ……っ う、ぇ? あ、あの…! うん。 わ、私…! とりあえず、落ち着いて? あ…。 大丈夫、大丈夫。 ………。 …どこか、痛い? ……わからない。 でも…。 でも? ……わからない。 …そっか。 ……。 蓉子? 苦しくない? …だ、だって。 蓉子、初めてだったんだね。 ……っ! ごめんね? な、んで…!! お、わ。 謝るのよ…! なんで、て。 そ、そりゃあ、聖はこういうコト初めてじゃなくて慣れてるんでしょうけど…! だからって…!! 蓉子。 …なんで、謝るの…よ。 うまくね、出来なかったから。 ……? 指先、震えちゃった。 こんなに緊張したの、初めてだよ。 ……きんちょ、う? もうね、頭ん中、真っ白。 そのくせ、心臓はバクバクうるさいし。 ……うそ。 なんで然う思うの? だ、だって… 好きな人を初めて抱くのに。 私、そんなに図太くないよ。 だって、だって…。 ……大体、さ。 ……。 蓉子が言うほど、慣れてないよ。 ……だって。 知ってるくせに。 私が本当はそんなに人が好きじゃないって事ぐらい。 …。 こんなに人に近づきたい近づけさせたいと思ったの……無いよ。 ……でも。 信じてもらえない? ……貴女、余裕だったわ。 然う見えてただけだよ、屹度。 ……私はいっぱいいっぱい、で。 同じだよ。 …だけど、優しかったわ。 声も、指先も…。 いっぱいいっぱいで。 どうして良いか、途中、本気で分からなくなった。 ……。 ……蓉子。 せ、聖…。 もう一度、聞いても良い? な、何を…。 本当に、どこも痛くない…? 私、ひどいことしてない…? …。 …。 ……わからない、わ。 ……そっか。 だって…。 ……。 聖、優しかったから…。 ……今、思えば。 …。 蓉子の中入る時、心臓、よく止まらなかったな…なんて。 ……。 …余裕なんて、無かった。 …ん。 ……。 聖…。 ……本当、に。 …うん。 信じて…くれる? ……。 やっぱり、信じられない…? ……ねぇ、聖。 ん…? 一つだけ、教えて…。 …一つと言わず。 幾つでも…。 ……私の、こと。 …うん。 その…。 ……。 ……す、き? 好きだよ。 ……ぁ。 好き、蓉子が好き。 せい…あ。 …ふふ。 せ、せい…。 ……よーこ。 だ、だ…め。 …やだ。 ……。 隠さないで。 …そんなこと、いわれて…も。 ……よく、見せて。 あ、ん…。 …きれい。 ……あまり、みないで。 …無理だよ。 こんなにきれいなのに…。 ……。 蓉子…蓉子…。 んん…。 ようこ……。 …せい……。 ……よ…こ…。 せい…、……せ…。 ………。 …締めはやっぱり聖と蓉子で、やっぱり聖蓉ばかり。 |