−ホースアンドキャロット。 …うーあーーー。 聖。 よーこー…。 終わったの? …大体、は。 然う。 疲れたよぅ、首だけじゃなく背中も凝り固まってるよぅ。 もっと余裕を持ってやらないから、よ。 パソコン、きーらーいー。 手書きも嫌いでしょう? うー。 はいはい。 どこ行くの? 休憩、するのでしょう? しないと無理、死んじゃう。 これくらいじゃ死にません。 うーー。 凝り、ほぐしながら待っていて。 あーあ、折角蓉子との休日なのに…。 …。 …つまんない。 だったら、ちゃんと片付けておいて。 これからは。 …。 なんて言っても、変わらないのでしょうけど? いや、変わる。 へぇ? 蓉子との休日を満喫する為に、私は変わる。 本当に然うなれば良いけれど。 なる。 はいはい、期待しているわ。 うん。 凝ってるだけ? うん? 痛みはない? うん、ない。 然う、良かったわ。 んー…。 …。 よーこー。 …うん? これから休憩、なんだけど。 ええ。 だから? 癒して。 …。 よーこ、よーこ。 然うね。 終わったら、ね。 えー。 その方が早く終わるでしょう? …。 …。 …馬? 人参? …。 …。 …今夜は? さぁ、どうかしらね。 …。 …。 …分かった。 飲んだら、ちょっくら終わらせてくる。 休む時はちゃんと休まないと効率、上がらないわよ? はい、ハーブティー。 聖さんは少しでも早く蓉子さんに癒して欲しいのです。 と言うか、ハーブ? 祥子の家の。 …へぇ。 流行ってるらしいわよ、今の山百合会で。 それはそれは。 苦手? まぁ、飲めなくもない。 じゃあ、どうぞ。 …。 …。 …なんとも言えない。 目の疲れに良いそうよ。 ふぅん…。 …。 …何、してたの? 読書。 …ごめんねぇ。 どうして? いちゃいちゃ出来なくて。 静かだから世界に入れて良いのよね。 …。 …。 ……よーこー。 はいはい、一番なのは貴女よ。 …。 …。 …もうちょっと、頑張ってくる。 ええ、頑張って。 …でももう少し、休む。 うん。 …。 …。 …へへ、蓉子だぁ。 あとどれくらいなの? 推敲と、それに伴う加筆修正と…。 …。 ……夕ごはんまでには。 何か希望は? …蓉子のごはんが食べたい。 …。 …。 ……目、疲れた? ん…。 ……少し、眠る? …10分くらいしたら、起こして。 …。 ……これ、一寸したつまみぐい? 言葉が良くない。 …へへ。 −Day of kisses. …。 …。 …そう、いえば。 うん。 …今月の23日って、キスの日だったんですって。 ふぅん、そうなんだ。 なんで? …。 …。 …日本の映画で初めて、キスシーンが登場したからですって。 日本ってそういうの、好きだよねぇ。 …ねぇ。 …。 …。 …それで? うん? それだけ? …それだけって? 深い意味は? …ないけど。 …。 …。 …。 …聖。 んー。 …。 なに、蓉子。 …いいえ。 …。 …。 …。 …あの。 なに。 …。 …。 …。 …うん。 蓉子。 …なに。 私達は毎日がキスの日です。 ……。 だからその日に限定するもんじゃないわけさ。 …。 ねぇ? ……聖。 反応が薄くて淋しかった? いいえ。 そうかな? そうよ、ばか。 あらら、不貞腐れちゃった。 不貞腐れてないわ。 そうかなぁ、そんな風に見えるんだけどなぁ。 鬱陶しいわね。 なら、もう止める。 …。 …ん? …。 蓉子、蓉子。 …何。 えっへっへ。 …その笑い方、止めた方が良いわよ。 蓉子はさ、結構天邪鬼だよねぇ。 貴女に言われたくない。 ああ、そっか。 …? …一緒に居るから、うつったのかも。 ん……。 …。 …。 ……こんな他愛の無いキス、なんかで。 …。 ねぇ、そうは思わない? ばか。 むぎゃ。 …。 蓉子、蓉子ちゃん。 ちゃんづけは止めて。 可愛いのに。 じゃあ、蓉子さん。 …。 今日もキスの日、でした。 …。 しし。 …未だ終わってないわよ、ばか。 蓉子さんがその気なら、それで終わらせても良いな。 …。 どうかしら? …聖。 今日ももう、良い時間だし。 ……。 …ねぇ、蓉子。 ……キスだけじゃ、終わらないでしょう。 終わらない? …終わらせないでしょう。 うん、終わらせない。 …ああ、嫌な笑顔。 良い、の間違いだと思うな。 ……言わなきゃ良かった。 聞いて、良かった。 −メディカ、メントス。 かわいいもの。 …。 かわいいもの、ねぇ。 …。 ねぇ、紅薔薇さま。 紅薔薇さまだったらどういうのが …は? お。 …仕事に関係ないこと、言わないでくれないかしら。 関係ない? …ないわ。 でもこれ、 ……。 ふむ。 今日の紅薔薇さまは少々、ご機嫌ななめのようで。 ……。 天気が悪いからかしら? まぁ、そろそろ梅雨に入るって言うし。 …黄薔薇さま。 こっちに振らないでね、紅薔薇さま。 ……。 それは兎も角。 白薔薇さまが言うように、あまり芳しくはないようね。 …。 機嫌、ではないけれど。 …江利子。 眉間に皺。 ……。 紅薔薇さま? …良いから。 今日中にこれだけは終わらせてしまいたいの。 だからちゃんとして、協力して、白薔薇さま。 …協力って。 だ、然うだから。 ちゃんと協力してあげなさいな、白薔薇さま。 …。 …。 …私はさ、紅薔薇さま。 …。 今まで「かわいい」なんて、思った事がなかったような気がするのよ。 ……だから? ただ、それだけ。 …そう。 志摩子、お茶のお代わりを貰える? あ、はい。 …。 今度は貴女の眉間に皺。 …うるさいな。 それは兎も角。 蓉子。 …なに。 薬は? …さっき、飲んだ。 薬? ……。 白薔薇さまが気になってるようよ。 …なんでもないわ。 蓉子。 …聖。 私には言えない事なの。 …。 …。 ……あまり、話しかけないで。 …蓉子。 お腹が…痛いのよ。 …お腹が? ……もう、良いでしょう。 ……。 人は自分に無いものに対しては、とんと疎いものなのかも知れないわね。 ……。 …薬は飲んだから。 そのうち、治まってくるわ。 …あ、そ。 …。 …。 あの、黄薔薇さま…。 ああ、放っておいて。 これが最近の傾向だから。 はぁ。 それよりお茶のお代わりは? どうぞ。 ありがとう。 さて、あともう少しね。 かわいい。 …。 かわいいなぁ。 …聖。 んー。 …。 ……私、さ。 …。 かわいいものとか、全然興味なかったのよ。 …それ。 ん…。 …高等部の頃、聞いた。 言ったっけ。 …仕事、している時に。 蓉子が言うなら、そうかも。 …。 兎に角。 かわいいものなんて、興味なかった。 …知ってる。 でも 聖…。 …ん。 …。 良さが、分からなくてね。 …好みが、あるもの。 でも、蓉子が反応するのは可愛いと思うよ。 ねことか、くまとか、ペンギンとか。 あとあれ、でかいねずみ。 …カピバラ。 あと柴犬のちまいの。 …。 兎に角、蓉子さんはかわいもの好き。 ……。 でもあまり持ってないよね、ぬいぐるみとか。 …集めだしたら切りが、ないもの。 でも少しだけ、持ってるけど。 …貴女が、くれるから。 蓉子が好きだから。 …。 …でも、私がいる時は駄目だけどね? ぬいぐるみにやきもちを焼くのなんて、屹度、貴女ぐらい…ん。 …然うよ。 だから、守ってね。 ……。 …どう、少しは紛れた? ……あまり。 じゃあ、もう少し…。 …ねぇ、聖。 ん…? …こうしてて、いいかしら。 ……。 …効いて、くるまで。 ……効いても、これで。 ……うん。 −El Violín canta, pero el Fiddle baila. -Dos- …。 聖。 お、来た来た。 羊は? セトは優秀。 貴女は怠け者。 それで世の中、均衡が保たれているものだよ。 莫迦を見る人の気持ちも、少しは、考えて欲しいものだわ。 相容れぬ者だからなぁ。 なかなか難しい。 …。 手入れ、してるみたいだね。 …当たり前でしょう? 形見、だっけ。 貴女のもでしょう。 まぁ、然うだ。 この村で生まれ育った子は全て、死に行く者から受け継ぐ。 例外を除いて、余程の事が無い限り。 良い具合でボロよ、これ。 でも未だ“踊れる”わ。 弦、切れたけど。 直したわ。 おかげさまで。 …全く。 腕、鈍ってない? さぁ、それはどうかしら。 その顔は鈍っていると言う顔じゃない。 昔のまま。 どんな顔よ。 ヴォランタリ時代の、自信に満ち溢れまくってた頃の顔。 嫌味かしら。 うんにゃ、褒めてるつもり。 そうは聞こえないわ。 擦れちゃったなぁ。 貴女に言われたくない。 大分、丸くなったと思うけど。 それに私はいつも、自信に満ち溢れていたわけじゃないわ。 寧ろ、 知ってるよ。 …。 蓉子は、本当の顔をいつも隠したままだった。 当時はそれが嫌いだったけど。 …今は? どっちが良い? …。 好きか、嫌いか。 …嫌いで構わないわ。 じゃあ、好きで。 …天邪鬼。 ありがとう。 それだけが変わらないものなのよ。 未だあるでしょう。 と、言うと? 人見知り。 人見知り出来るほどもう、この村は広くないけどねぇ。 行商人は? それくらいは平気ですよ、蓉子さん。 あ、然う。 それで?いつ、始めるの。 いつでも。 …。 蓉子から初めて良いわよ。 貴女が合わせるとでも? 最初は。 ふぅん。 合うかどうかは、分からないけど。 合わせられるのが嫌いだったくせに。 はっは。 …じゃあ、始めるわよ。 じゃ、私も始めるよ。 ……。 ……。 …はぁ。 流石。 …何が。 腕、落ちてない。 …。 蓉子らしい音だった。 …変調、し過ぎ。 ん? …付いて行くのが、やっとだったわ。 やっとだって? …。 楽しかったよ。 …。 それで、良いじゃない。 …貴女は、ね。 久しぶりに貴女と踊れて。 …昔は楽しそうじゃなかったけれど。 あはは。 …三人で。 …。 昔は三人で、良く…。 あなたとワルツを。 …。 二人の方が良いよ、今となれば。 …どこがワルツなのよ。 嘘ばっかり。 はは。 さて、戻るかな。 …。 蓉子。 …うん? また、歌って踊ろう。 二人で。 …気が、向いたらね。 向いて欲しいな。 …考えておくわ。 だって、私に付いて来られたのは。 …。 結局、貴女だけだった。 昔も、今も。 …貴女は昔から滅茶苦茶だった。 だから、 然うよ。 …。 腕、やっぱり鈍ったな。 昔はもっと、無茶をしたのに。 …。 やっぱり、合わせる人が必要なのかも? ……話半分で、聞いておくわ。 うん、それで十分だよ。 −愛着と面倒のバランス。 聖って。 うん? 携帯、ずっと同じのを使ってるわよね。 うん。 替えようとは思わないの? 別に思わない。 あんまり使わないし。 然う。 …。 …。 …え、終わり? 終わりだけれど? 見に行きましょう、なんて展開には ならないわね。 言ったところで面倒くさがるでしょう、貴女。 人が多いから、とか言って。 …平日なら空いてるんじゃないかしら。 じゃあ、行く? 携帯を見に? 携帯じゃなくても構わないわよ。 あー、あれは無理。 落として踏んで割る自信がある。 具体的ね。 まぁ、家の中で行方不明になるくらいだし。 この間は炊飯器から出てきたわね。 いやぁ、ごはんと一緒に炊かないで良かった良かった。 流石にそれはないと思うけど。 ないかなぁ。 その前は冷蔵庫。 冷凍庫じゃなくて良かった。 どうしてそんな所に置くのかしら。 自分でも分かんない。 佐藤聖クオリティ、よね。 分かっていらっしゃる。 もう5年くらい使ってるわよね、その子。 子? …。 蓉子ってさ。 物に対してもそういう言い方、するよね。 …悪い? いいえ。 それも蓉子さんの可愛いところの一つです。 …。 蓉子の影響、じゃないけれど。 結構、愛着があるのもまた事実なのよね。 愛着? 聖に? 私にだってありますよ。 そのわりには扱いがぞんざいだと思うけれど。 多少の傷はあれど、この子はまだまだいける。 …。 頑張ってくれてるうちは、この子で十分。 …然う。 蓉子こそ、替えないよね。 ええ、まだ使えるし。 新しいものとか、追っかけない。 新しければ良い、と言うものではないじゃない。 流行りのあれに替える予定は? 今のところ、ないわね。 便利なんだろうけどね。 けれど、混雑時に操作されていると迷惑だわ。 それは携帯でも言えるけどねー。 然うなのよね。 それで、お出掛けする? うん? 携帯、は見ないけど。 どっか行こうか。 どこへ? んー…散歩とか? 散歩、ねぇ。 今日は風が爽やかだから良いかも知れないわね。 じゃあ、行こう。 …。 ん、なに? 聖って。 うん。 出不精のわりに、散歩は好きよね。 人があんまり多くないから。 …。 人を見るより、花を見る方が良いのさ。 花なんて、ろくに見てないくせに良く言うわよ。 見てるよ。 花の名前、いつも適当のくせに。 蓉子。 …は? 芙蓉の花は完璧です。 ……。 ばっちり。 …どんな花かも知らないくせに。 蓮の花でしょや? …。 今となっては、基本です。 木芙蓉は? モクフヨウ? は、知らないのね。 違うの? ええ、全く違うわよ。 蓉子はどっちだろう。 どっち? 蓮の花と、モクフヨウと。 …。 どっちが好き? うーん…。 ん? …考えた事、無かったかも。 あら。 どちらも綺麗な花だけど…。 それ、自分の事? …聖。 あはは。 −青空に誓って 今日も空は高くて、青い。 聖。 …ん。 またこんなところで。 …蓉子こそ。 貴女が居るからでしょう? 逃げ道? 言い訳? あのねぇ。 …。 もう、夏ね。 …その前に梅雨だけどね。 …。 湿気が無ければ、この国の夏も過ごしやすいかも知れない。 けれどあるわ。 北にでも言ってみようかな。 無いわけでは無いわよ。 …と、言いますと? 現れにくいだけで。 ここより湿気が無ければ、それで良い。 …行くの? いや…。 …。 …。 ……聖。 ん…。 眠っては、駄目よ。 …眠らないよ。 …。 …。 …。 …行くの。 ……ええ。 もう、戻らないと。 …どこに。 …。 戻る場所なんて、もう無いのに。 …あるわ。 もうあの場所には戻れない。 …あの場所には戻れなくても。 新しい場所があるわ。 …。 …貴女にも。 ……蓉子、は。 …。 大地に足を付けて。 真っ直ぐと歩いていく。 その姿がとても似合う人。 …いいえ。 …。 真っ直ぐに歩いていける人なんて屹度…。 …。 …行きましょう、聖。 …。 …。 ……蓉子。 …。 もっと濃ければ良いのに。 …空? 薄い。 …ええ、然うね。 だけど、私は。 …。 夏の空も好きよ。 雲も、空も、明るくて、輝いて見えるわ。 …蓉子さん。 ……何。 なかなか面白かった。 …それは、有難う。 んーーー…。 …。 じゃ、行くかな。 蓉子。 うん? 今度、お食事でも如何でしょう? …。 無理にとは言いませんが。 …良いわ。 いつ? 然うだなぁ。 …。 雨が、止んだ。 …雨? その時に。 ……。 …。 …もう、止んでいるわよ。 ん? 私達の空は今日も、青。 …。 …。 はは。 蓉子、最高。 …うるさいわね。 決めた。 今日これからにしよう。 今日これから? 行こう、蓉子。 ちょっと。 蓉子が食べたいもので良いよ。 そういう問題じゃなくて。 私達がここにいるのは 抜け出そう。 …。 可愛い後輩達には悪いけれど。 …聖。 出来ないのは知ってる。 それでも、連れ出すよ。 …。 空へ。 …。 …。 ……貴女も十分面白いわ、聖。 いやいや、蓉子の恥ずかしさには及びませんって。 …。 ははは。 ばか。 −モア、クリア。 …。 …蓉子? …ん。 どうかした? …いえ。 蓉子。 …なんでもないわ。 …。 映画、何を観るか決まった? …。 それとも展示ものでも見に行く? 今日なら平日だから… 蓉子。 …え。 ……。 なに、どうしたの? やっぱり出掛けるのは止める? 止める、止めた。 本当に? 珍しく楽しみにしていたじゃない。 ちゃんと話して。 何を? 蓉子のなんでもない、は。 大抵、なんでもなくない。 …。 最近、あまり寝ていないでしょう? …寝ているわよ。 …。 聖、どこに… そこ、座って。 …。 早く。 …分かったわ。 …。 …それで、どうすれば良いの。 眩暈。 …。 しているでしょう。 …してないわ。 今は。 …。 決めた。 今日はゆっくりする。 …いつもじゃない。 休みと言ったら… …。 ……聖。 楽しみにしていたのは、蓉子だよ。 …。 勿論、私も。 だけど。 …。 また今度にしよう。 …でも。 今は良くても。 後で必ず、皺寄せが来る。 分かっているでしょう? …。 少し眠った方が良い。 …楽しみにしてたの。 知っているよ。 …。 蓉子…。 ……。 ごきげんよう。 …。 気分はどうですかな、お姫様。 …それ。 どれ? …めがね。 似合う? ……いつ。 蓉子が持ってるのと似てるの、見つけてさ。 買っちゃった。 …でも、あなたはわるくないじゃない。 いや、それがさ。 …。 最近、少し落ちたみたいで。 …きいてない。 私も気付かなかったから。 …。 でも、慣れないもんだね。 …だいじょうぶ? うん、何が? …なれていないのでしょう? 今はない方がラクかなぁ。 …。 何? …せっかく、よいめをもっていたのに。 まぁ、現代人だったってことかな。 私も。 …。 次の免許更新の時、は…? ……うそつき。 不意打ちですか、蓉子さん。 …ど、はいってないじゃない。 うん、いれてない。 …。 まだ、いらないって。 …よかった。 どうして。 …せっかく、よいのだから。 …。 きれいなめ、だから…。 おかげで、眩しいけどねぇ。 …。 太陽はよっぽど、私を苛めたいと見える。 ……ねぇ、せい。 ん…? わたし、どれくらい…。 正味、一時間ってところかな。 …そう。 少しは楽になった? …。 寝不足になると、微熱。 蓉子は言ってくれない上に、気付かせないから。 …。 おまけに、眩暈。 流石にそんな状態で外に連れ出すなんて事、出来ない。 ……ごめんなさい。 反省してるのなら、寝なさい。 …もう、大丈夫よ。 だーーーめ。 …う。 もう少し、貸してあげるからさ。 いつも借りてばかりだから、お返し。 ……つまんなくない? ん? ひとりで…。 一人じゃないよ。 蓉子がいるじゃない。 …けど。 蓉子の寝顔、じっくり見られる機会なんて早々無いし? ……。 だから、大丈夫。 …ねぇ、せい。 ん…? …めがね。 ああ。 面白くなかった? …。 …ん? ……にあっているわ。 …どきどき、してくれた? …。 してくれたら、大成功なんだけどな…? ……ばかなことばかり。 …。 蓉子、私の眼鏡知らない? …! ん? …。 …え、と? …はい。 ああ、ありがと。 …。 これ、度、入ってないけど。 …知ってるわ。 ですよね。 …それ、使うの? 今度、蓉子とデートする時に掛けていこうと思って。 …そう。 ところで、気分はどうかしら? …おかげさまで。 それは良かった。 …ねぇ、聖。 そうだ。 夜のデート、しようか。 夜の? と言っても、ごはん食べに行こうって話なんだけど。 どうかな。 良いけれど…。 けれど、寝足りない? …これ以上寝たら、夜、眠れなくなってしまうわ。 それだと本末転倒じゃない。 眠れなかったら、付き合ってあげるけど? お気持ちだけ十分よ。 じゃあ、お付き合いする方向で。 聖。 まぁ、たまにはね。 何が 外食。 …。 一番は蓉子の手料理だけど。 まぁ、ほんのたまには。 …ああ、そう。 けど、蓉子が本調子じゃなければ行かない。 行かないって言ったら、 私が作るよ。 …それ、掛けていくの? どうしようかな。 蓉子はどう思う? 貴女が掛けていきたければ、掛けていけば良いと思うわ。 んー…。 …。 じゃあ、蓉子も眼鏡で。 …はい? 眼鏡。 どうして私も お揃いってコトで。 ……。 蓉子が眼鏡掛けてるの、好きなんだよねぇ。 なんか、ぐっと来るものがある。 …そういう発言はどうかと思うわ。 じゃあ… 言い直さなくても良いから。 兎に角、好きなのよ。 あの蓉子になら怒られても良い。 だから…。 …。 ……ちょっと。 …。 せ、聖…。 …アレの時、掛けてよ。 …ッ! なんて、さ。 …最低。 あれ…。 …。 蓉子、蓉子さん? ばか。 おわ。 食べに行かない。 うん、分かった。 じゃ、うちで食べよう。 ごはんは貴女が作って。 はい、蓉子さまの仰せの通りに。 うるさい、ばか。 …。 ん…ぅ。 ……。 あ…や……ぅ…。 …。 …。 ……うん。 …? …。 …せい? 見える? …え? 私の顔。 …なに、いきなり。 見える?見えない? …みえる、けど。 ぼんやりと? …そこまではなれてしまうと。 じゃあ…ここなら? …みえるわ。 でも、それがどうかしたの…? つまり、は。 …え。 蓉子が見てる世界は基本、ぼんやり。 ……せい。 たまにはさ、クリアな世界にしてみない? …クリア? そう、クリア。 ……。 コンタクト、は宜しくない。 そのまま寝てしまうかも知れないから。 …。 でも、 あ。 ししし。 いや。 良いじゃない、たまにはさ。 いや。 ぜったいに、いや。 …ねぇ、お願い。 やだ。 ぜったいに、やだ。 どうして。 どうしても。 ねぇ、よーこ。 お願い。 い、や。 ねぇ。 しつこくいうなら、もうしない。 それは困る。 なら、 でも、蓉子も困る。 …こまらない。 ふぅん? …や、ん! これでも、困らない? ……。 ししし。 …ばか。 せいなんて、 知らない? ……。 …蓉子、今夜だけで良いから。 そんなこといって。 ほとぼりがさめたころに、またいうにきまってるんだわ。 へらへらしながら。 流石、蓉子さん。 分かってる。 ……。 む…。 すけべ、へんたい。 でもさ…すけべじゃなきゃ、困るでしょや? こまらない。 いやいや、困るって。 こまらな…ッ? …ねぇ? せ、い…! ね、蓉子。 掛けてよ、眼鏡。 いや、ぜったいにいや、いや、いや。 わ。 ……。 蓉子、小さな子みたい。 …うるさい、あなたにいわれたくない。 わがままばっかりいって。 …じゃあさ。 こうしよう。 …。 蓉子の我侭を聞いてあげる。 だから、私のを聞いて。 かけたくない。 それはだめ。 どうしてよ。 それだと私の我侭が通りません。 だから、却下。 だいたい、そのはつげんじたいがたんなるわがままじゃないの…! うーん…。 …。 …世界が、回ってる感じ。 わるくなるわよ。 ん? …なっても、知らないんだから。 どんな感じなんだろう。 悪くなると。 …それ、腹が立つわ。 羨ましいもの? …。 …蓉子。 …あなたがさっき、言ったとおりよ。 さっき? …ぼやけて、見える。 はっきりとしない、世界。 …。 矯正しなければ…あなたの顔さえ、まともに見えない。 でも。 …。 …この距離なら、見えるでしょや? …。 でしょ? …近すぎて。 …。 かえって、見えない。 …うお、と。 近ければ良いってものじゃないわ。 でも、離れると見えない。 …。 丁度良い距離ってのは、どれくらいなのかしら? …。 ね、蓉子…。 …少なくとも。 少なくとも? これは、近すぎる。 …おでここっつん? …。 まぁ、確かにこれは見えないね。 まぁ、これはこれで良いんだけど。 …。 ねぇ、蓉子。 …なに。 どうだった? …なにが。 はっきりとした世界、は。 ……。 ん…? …。 …蓉子? ……うるさい、ばか。 あら。 …。 …恥ずかしかった? …! よう、むご。 うるさい、ばか! …あー。 …もう、しない。 あんなこと、もう二度としない。 …二度と? そうよ。 ……。 …あんなの、もう。 そんなに、恥ずかしかった? …ッ。 でもあれが、私の見てる世界なんだよ。 蓉子。 …。 …私が見てる蓉子なんだよ。 う……。 …私にとってはさ、可愛くて仕方ないのよ。 せ、い…。 …だから。 い、や。 …。 …もう、流されないんだから。 ……んー。 とにかく、もういや。 …恥ずかしがり、は良いトコでもあるんだけど。 ……。 ま、また今度にね。 今度なんて、ありません。 そんなの、分からないと思うけどなぁ。 は…あ。 …先のコトなんて、さ。 ……。 …目の縁まで真っ赤。 ……それ、は。 ん…? 怒ってるからよ、ばか…! −黄薔薇ノ戦 ……。 ……。 …理由を聞いても良いだろうか。 …。 何故、俺を選んだ。 …では何故。 む…。 何故、あれの母を選ばれなかったのでしょうか。 ……。 問いに問いで返す無礼など、この場には無いと思っております。 …。 …。 ……。 …さぁ、始めましょうか。 …。 今更、でしょう。 貴方があの子を作った時から。 …。 無くなったとお思いですか? …いや、思ってはいない。 が…。 …。 ……俺とお前は、血が近い。 其れが、何か。 分かっていて尚、進むか。 貴方も進む道を選びましたが。 …。 問答をしに来たわけではありません。 それとも貴方もしたのでしょうか。 …。 据え膳喰わぬはなんとやら。 祖父は然う言っていました。 …兄上と同じにされては困る。 それとも、今の家の現状を知らないとでも仰るおつもりですか。 …。 もう、既存の神では足りぬのです。 …分かっては、いる。 が、しかし…。 貴方の娘は。 …。 複雑そうな顔をしていました。 …お前と俺は、兄妹だ。 それは分かっているのだろうな。 勿論です、兄上様。 ……。 ですが所詮、神側から見ればの話です。 …お前はどんな子を望んでいるのだ。 家の悲願達成の為に優秀な子を、とでも言えば? …若しも、 若しも、とは? …いや、もう何も言うまい。 然うですか。 ならば、さっさと事を済ませてしまいましょうか。 …お前は。 これでももう、一児の母ですから。 …然う、だったな。 貴方の娘は母になる道を捨てましたが。 …俺に言う事は何も無い。 その道を行くと決めたならば、それで良い。 俺が選ばなかった道を。 選べなかった、の間違いでは無いでしょうか。 ……。 全体を生かすか、一つを生かすか。 そこが男と女の違いなのかも知れません。 まぁ、人なんて星の数程居るらしいので、一概には言えませんが。 …始めるか。 ええ、いつでも。 ああ、でも。 …今更、退けぬぞ。 その気になれるものなのですね。 …何を言っている。 妹、己の子と同じ程の。 欲情出来るものか、此処に来るまで、考えていましたが。 ………。 無駄でしたね。 ……お前は。 まぁ、交神は男女の情交とは違いますが。 ……屹度、俺の娘は苦労しているであろうな。 あら、それは誰のせいでしょうか。 ……。 業を遺すものは先に逝く者、それが道理ですから。 ……違いない。 が……。 …ん。 ……変えられるのは、生きている者だけだ。 ……。 …目を、瞑れ。 ……。 …直ぐに終わらせよう。 そして、 嫌です。 …何だと。 折角、ですから。 どんなお顔をされるのか、見て行こうと思います。 女は初めてでは無いのでしょうが。 ……。 …どうせ、覚えてなどいませんが。 ……。 …親子、ですね。 ……俺は。 あれの母親とは、契りを交わせましたでしょうか。 ……。 …。 ……あの家に生まれた事を改めて、悔やむ。 生まれる家など、選べません。 誰にも。 …然うだとしても。 ……。 …どうか。 ……。 良い子が、生まれるよう……。 あら、蓉子。 …あ。 ただいま、かしら。 お帰りなさい、江利子。 まさか、出迎えられるとは思わなかったわ。 ……。 お風呂、焚いてあるかしら。 ゆっくり浸かりたい気分なのだけれど。 え、ええ。 けれどイツ花は 私が。 然う。 有難う。 …。 聖は? 聖、なら…。 ああ、そこに居るのね。 居ないわけ、無いわね。 …あの、江利子。 覚えてなど、いないわよ。 あ…。 交神なんて、そんなものだから。 一度してみれば分かるけれど。 ……。 子供の顔は、見えた? …え。 見えるでしょう? ほんの僅か。 ……。 まぁ、良いわ。 見えてしまったら、詰まらないもの。 …。 令は? …今は祥子と。 然う。 なら、良いわ。 …江利子。 うん? 子供、楽しみね。 ええ、然うね。 |