−魔女でも賞金稼ぎでも、前世も知らないし、ましてや暗殺者でもないけれど。 なんと言うか、さ。 …うん。 私達にはないけれど。 …何が? 守るとか、守らないとか。 まぁ、そういうの。 …。 よくさ、あるじゃない。 君は俺が守る、みたいなさ。 …物語か何かでね。 そうそう。 …で、何が言いたいのかしら? だからさ、ないじゃない? …。 誰かに狙われているわけでもないし。 …まぁ、普通はないわね。 あ、ストーカーがいるか。 いるの? 今のところ、いない。 …今後もそう願いたいわね。 うん、まったくだ。 けれど若しも、そうなった場合。 個人じゃ、どうしようも出来ないわ。 怖いよね。 ええ、本当に。 でもそうなっても、私は蓉子の傍にいるよ。 …。 いる。 …ありがとう。 蓉子も見捨てないでね。 …見捨てるわけ、ないでしょう。 うん。 …そんな事にならないのが一番だわ。 やだね、絶対。 …。 …。 …ねぇ、聖。 んー。 どうしてそんな事を言い出したの? なんかさ、多いじゃない? そういうパターンの話。 …。 守るとか、守らないとか。 …まぁ、王道だし。 ただ、それだけ。 …然う。 …。 …。 …もう、夏かぁ。 ねぇ蓉子、今日のお風呂は 聖。 …ん? ……守られてると、思うわ。 え? 菖蒲湯。 …へ。 だから。 お風呂、洗っておいてね。 私が? 貴女の仕事。 それはお願い? …一緒に生活してる事で必要なものは? 持ちつ、持たれつかな。 私はお夕飯の支度をするわ。 じゃ、私はそれまでに洗っちゃおうかな。 うん、お願いね。 蓉子もおいしいごはん、よろしく。 ええ。 −合歓木。 魔が差す、とはこんな事を言うのだろうか。 ただいま。 …! うぅ、寒い寒い。 て、この中ももうそんなにあったかくないし。 …。 お待たせ、紅薔薇さ…ま? ……。 え、と? 何してるの? …いえ、別に。 別に? 然うよ。 そのわりには何か不自然じゃない? 不自然じゃ、ないわ。 …。 それより、遅かったじゃない。 人の事、待たせておいて。 いやいや、レストルームが大変混雑しておりまして。 こんな時間に? 然う、こんな時間に。 もう少し上手な嘘はつけないのかしら? ばれたか。 ばれるわよ。 そんな下手な嘘ではね。 これ、渡されてさ。 どれ? これ。 多分、一年生。 ……。 待たせてる人が居るからって、話もろくに聞かないで受け取っちゃったけど。 どうしようかな、これ。 …受け取ったのだから、それなりの対応をしなくてはいけないでしょうね。 それなりの? …返事。 でも名前、書いてないんだよね。 中に書いてあるかも知れないでしょう。 中…ねぇ。 読まないつもり? どうしようかな。 読むべきだわ。 紅薔薇さまだったら? 私は受け取ったならば、読むわ。 返事は決まっているのに? ええ。 律儀だねぇ。 そういう問題ではないわ。 人として、当たり前の事よ。 真面目。 …貴女が軽薄なだけよ。 はいはい、然うねぇ。 …。 ま、これは後で考える事にして。 とりあえず、帰ろうか。 …ええ。 て、あれ。 …。 コート、どこに置いたっけ。 …。 この椅子に掛けておいたと思ったんだけど。 紅薔薇さま、知らない? …。 あ、これだっけ。 …。 ……て、あれ、袖が短い。 ……。 …。 …。 あー…、蓉子? ……。 それ、もしかしないでも? ……。 間違えた…って顔じゃない、かな。 …。 んー…。 ……何よ。 いや、何も言わないんだなって。 …何を言えば良いのよ。 怒らなくても。 …怒ってないわ。 顔が怒ってる。 だから、 それ、貸してあげるよ。 その代わり、私はこれを借りる。 …。 少し、短いけど。 着れなくもないし。 …どうして、何も言わないのよ。 言ったじゃない。 無断で着たのよ。 うん、聞いてない。 なのに、 着たかったんでしょう? …ッ! なら、良いよ。 …良くないわよ。 そもそも蓉子に良し悪しを言う権利、ある? 勝手に着ちゃった張本人なのに。 …。 私が良いって言ってるんだから、良いのよ。 ……。 怒らないでって。 …怒ってない。 顔が怖い。 …悪かったわね。 笑えば、綺麗なのになぁ。 ……。 私にはあまり、笑ってくれない。 …これ、返すわ。 良いわよ。 私にはこれがあるし。 それは私のコートだわ。 それは私のコートだね。 だから、 もう少し、着ててよ。 そうだな、門までなんてどう? …。 その時、返してくれれば良い。 …何よ、それ。 私も…いや、やっぱりなんでもない。 何よ。 何でもないって。 さぁ、帰ろう。 聖。 電気、消しちゃうよ。 一寸、 蓉子さんは暗いところ、得意じゃないでしょう? そんな事、 …消しても、思ったより暗くならないか。 ……。 折角だから、月見でもしてこうか。 薔薇の館で月見、結構風流じゃない? …二人揃って、風邪をひくだけよ。 ・ …ぅ。 …。 ……しろばらさま。 ん? ……。 お目覚めですか、紅薔薇さま。 …これ。 そのままだと風邪、ひいちゃうからね。 ……白薔薇さまの? 然う、私の。 …。 眠いなら、もう少し寝てなよ。 受験でお疲れだろうから。 …もう、大丈夫よ。 然う? 試験も全部、終わったし。 めでたく解放? …まぁ、今はね。 おめでとう。 …未だ全ての結果は出ていないわよ。 蓉子なら、大丈夫だよ。 …。 ん、どうした? …もう薔薇さまじゃないのよね、私達。 まぁ、ね。 おかげで肩が軽くなったわ。 重くなるほど、負っていたかしら? 蓉子さんが厳しかったので。 私のせいとでも? はは。 …。 けど、これで普通の高校生に戻った。 …普通、ね。 とは言え、あと僅かだけどね。 …然うね。 もう少し、高校生やっても良かったかな。 留年、してみる? ああ、それもありかも。 そしたら祥子や令と同級生だ。 …冗談よ。 ん、分かっているわ。 …。 蓉子と同じ、大学生になりたいしね。 …学校は違うけれど。 然うだね。 春からは違う学校だ。 …これ、返すわ。 未だ良いよ。 ううん、もう良いの。 ありがとう。 然う。 じゃあ、どういたしまして。 …私のは。 そこに掛けてある。 でも、私のが良いかなと思って。 …何故? …。 聖? …蓉子のコート、蓉子の匂いがしたよ。 …。 ふと、思い出しまして。 …思い出さなくて良い事ばかり。 それが佐藤聖です。 ……。 また交換っこ、する? しない。 ばっさり。 ……。 リリアンのコートを着るのも、あともう少しだ。 …ええ。 なんだったら、あげるけど? 要らない。 じゃ、後輩にでもあげようかな。 誰にあげるのよ。 未だ見ぬ孫にでも。 多分、受け取ってくれないと思うわ。 かな。 サイズもあるでしょう? 大は小を兼ねる。 貴女よりも身長が低いとは限らないわよ。 そりゃ然うだ。 じゃあ、やっぱり蓉子かな。 で、蓉子のを私が貰う。 それ、何の意味があるの? あまり無い。 却下。 ですよね。 …。 …ねぇ、蓉子さ。 …何。 今なら、聞いても良いかな。 …。 あの時、 聖。 …ん? 結局、あの時の手紙の返事はどうしたの。 あー…。 まさか、 一応、読みました。 で? それが名前、中にも書いてなくて。 …。 いや、本当に。 …一応、信じるわ。 それで? 顔も覚えてないから、どうしようもありませんでした、まる。 ……。 それが佐藤せ どうせ、探そうとも思わなかったのでしょう。 多分、だけど。 …。 ただ、知って欲しかっただけなんじゃないかなぁ。 …知って? ロサ・カニーナ、じゃないけど。 …。 なんにせよ、春になればほとんどのものが新しくなる。 そしたらそっちが良くなるよ。 …言い訳。 はは。 …。 …。 …そろそろ、帰りましょうか。 それは一緒に帰るの意味で受け取っても? …どうぞ、ご勝手に。 じゃあ、お言葉に甘えて。 …。 コート、取って差し上げましょう。 …。 はい、蓉子。 …聖。 うん? 自分でも、分からないのよ。 …ん? ありがとう。 …。 はい、聖… …。 …の。 …。 ……何よ、突然。 …自分でも分からないじゃ、駄目かな。 ……。 …。 …聖、もう。 誰も来ないよ。 …。 …ねぇ。 ……なに。 どちらが良い? …どちらって? 私と… …。 ……私のコート、と。 …。 蓉子は……。 ・ …ん。 …。 ………ここ、は。 …。 ……あぁ。 …。 そうだ…わたし。 …。 ……はぁ。 …。 ……なれないもの、ね。 …。 ……。 ……おちつかない? …。 …天井、違うと。 ……おきていたの。 そっちこそ。 …。 …それとも、眠れなかった? ……と、いうより。 …。 めがさめた、といったほうがただしいわね…。 …じゃあ、眠れてた? ……ええ。 そのまま、眠っててくれれば良かったのにな…。 …くるしいわ。 そんなに強くしてない…。 …。 ……蓉子、さ。 うん…。 …後悔、してる? ……なぜ? うん、何故だろうね…。 …。 ……。 …そろそろ、帰らないと。 帰るの? …ええ。 …。 …止める? ……無駄だって、分かってるから。 …。 …。 …のわりには、離さないのね。 悪あがき。 …自分で言うの? 言うわよ。 …。 …行動は時に、言葉よりも伝える力が強いもの。 …。 …。 …悪あがきと言うより、子供が駄々を捏ねているみたい。 じゃあ、それでも良い。 …大きな子供ね。 子供心を失わないって言って。 …。 ……。 …もう、帰らないと。 帰ってこられる前に… ……蓉子。 …。 …私、家を出るわ。 …然う。 然うしたら…。 ……魔が差す。 え…? って、どういう意味だったかしらね…。 …いきなり、何? 貴女のコートを、着てしまったとき…。 …。 ……ふと、思ったのよ。 …。 ……帰るわね。 蓉子。 …。 …いくらなんでも、言葉が悪いよ。 …え。 まるで、犯罪者みたいじゃない。 ……犯罪。 良く言うじゃない。 魔が差したって。 …ああ、そうね。 その通りだわ。 …。 でも…あったのかも知れない。 …。 罪悪感のようなものが…。 …。 だから…。 …蓉子にとっては罪なの。 …。 私を…好きになった事は。 …いいえ。 …。 でも、貴女のコートを着たとき……私は、貴女に抱かれてるのを思った。 …。 貴女の匂いの中で……私は、それを夢想してしまった。 ……。 軽蔑、するでしょう…。 …どうして。 …。 それが…私以外の誰かだったら、イヤだけど。 …嫌の種類が違うわ。 でも、つまり。 軽蔑はしないわ。 …。 ……だけど、これだけは知りたい。 …なに。 私と… …。 …コート。 ……。 どっちが…ん。 ……。 …よう、こ。 ……それ、前にも聞かれたわ。 …でも、蓉子は答えてくれなかったわ。 …。 …。 ……時に、行動は。 …。 …そう、教えてくれたのはあなただから。 ……。 …でしょう? ……あの時は、教えてくれなかったんだけど。 ん…。 ……けど、今はこれで。 ・ …ん。 …。 せい…。 …やぁ、目が覚めた? …。 最近、疲れてるみたいだね。 …。 蓉子が思っている以上に、さ? …そうなのかしら。 何か、飲む? ……ん。 …。 …なに? こういう蓉子の顔、見られるの。 私だけだよなぁって。 …。 起き立てで、目がとろんとしてる。 なんかちっちゃな子供みたい。 ……ひるねあとの? そう、そんな感じ。 …それ、せいにいわれたくない。 あはは、ごもっとも。 …。 …ん? ……。 よーこ? …あのね。 うん。 ……。 どうしたのかな、蓉子ちゃん? …もぅ、ふざけないで。 あまりにも可愛いから、つい。 …。 …こういう時の蓉子は、拙い感情を素直に出してくれるから好きよ。 ……いつもは、 聞く? ……やめておく。 そりゃ、残念。 …。 …で、なぁに? ……ゆめを、みたの。 夢? それはどんな? …。 …覚えてない? ……くわしくは。 でも…。 …お。 ……せいの、においがした。 ……。 ……すきよ、せい。 …蓉子。 ……。 んー…あー…。 …? …それは私が傍にいたからか。 それとも…これの、おかげか。 ……これ? 毛布。 …かけてくれたの? そのままには出来ないでしょや? ん…。 …どっちだと思う? …。 ……私か、それとも。 どっちもおなじなのに…。 …同じじゃないよ。 …。 毛布は私じゃないもの。 …でも、あなたのよ。 然う、だけど。 でも、違う。 ……。 …どっち? ……ふふ。 って、笑うとこじゃないって。 …すこしだけ、おもいだしたの。 …。 せい。 …なに。 ……だきしめて。 …。 …つよく。 ……いい、けど。 …。 …。 そう…そうだった。 …一人で納得されても。 …。 ……。 …コート、もうふ…シャツ…あなたの、へや。 どれもあなたのにおいがするけれど…。 …。 ……これが、いちばんあなたのにおいがする。 …。 …。 あー…それは、どういう意味で受け取れば? …どういう? つまりは? ……。 そろそろちゃんと教えてくれても、さ。 同棲しようなんて、考えてるんだしさ…。 ……まだ、だーめ。 えー。 …。 …いつになったら教えてくれるのかな、蓉子さんは。 ……? ん…? ……どうせい? そう、同棲。 いま、どうせいって…。 一緒に生活をする、例のヤツ。 ………。 …しようよ、蓉子。 …ッ! …そしたらずっと、この匂いで包んであげられる。 ぁ……。 蓉子は……ずっと私だけの、もの。 …せ、い。 ……今日は泊まり、でしょ? ……。 …朝まで起きなかったら、どうしようかなって思ってた。 ……ここ、で? もちろん、ちゃんとベッドで…ですよ。 ……。 でもその前に、飲み物を、ね。 起き立てで喉、渇いてるだろうし、これから渇くコト、たくさんするから。 …ほどほどにして。 どーしようかなぁ。 蓉子さん、意地悪するしなぁ。 …。 ししし。 …どっちがいじわるなのよ。 そりゃあ…ねぇ? …そのかお、みせてあげたいわ。 どんな顔…? …いじのわるい、かお。 −ばかばなし。 …むぅ。 聖? …なに。 テレビ見ながら、どうして眉間に皺を寄せているの? …そう? そもそも貴女がそんな顔するのが珍しいわ。 しかもテレビを見ながらなんて。 …。 珍しく民放を見てると思ったけれど。 何か気に入らない場面でもあったのかしらね? うん、面白くない。 どこが面白くなかったの? …。 ん? …CM。 CM? ……さっきの。 どれ? …。 よっぽどなのね。 ……蓉子。 なに? 膝。 …膝? ……。 わ…。 ……寝る。 いきなりね…。 ……。 何がそんなに気に食わなかったのかしらね。 ……なんとなく。 なんとなく? 蓉子に似てるなって、思ってる女〈ひと)がいた。 …私に? 蓉子の方がずぅっと、きれいだけど! …え、と。 それは女優さん?それとも 知らない。 …私と比べるのは失礼だと思うけれど。 向こうは 蓉子にね! …。 …。 ……それで? …。 …聖? 気に入らない。 …だから、なにが? …。 …不貞寝するほどなの? 眠くなっただけよ。 …眠く、ね。 30分くらい、寝る。 貴女は良いかも知れないけれど。 私は身動き、取れないわ。 …。 …せめて、理由をちゃんと教えなさい? …。 ……聖? …男と、いちゃついてた。 はい? ……言ったよ。 ……。 …。 …うーん。 …。 それは…仕方ないんじゃない? でも、いやなの! あくまでもテレビの中の人であって、私じゃないのに。 …でも、いやなの。 なんとなく似てる、ぐらいなのに。 …うーー。 …。 …。 …やれやれ、しょうがないわねぇ。 ……。 30分だけよ? …うん。 …。 …。 …貴女が寝てしまうと、つまらないから。 ぅ…。 ……だから、絶対に起きてね。 …。 …。 ……蓉子さん。 寝るの、止めるのかしら? ……。 …だめよ? つまらないって言ったのは、蓉子。 だからって、こんな時間からはしません。 …。 丁度良いから本を取ってくるわ。 うーー。 はいはい、良い子良い子。 …つまらないって、言ったくせに。 買ったまま、読んでいないのが何冊かあるのよ。 ……。 誰のせいかしらね。 ……。 …ん? …私にはやっぱり、無理かも。 なにが? 読書されるのが? ……。 聖…? ……AV、とか。 は…? …蓉子に、似ている …! 聖…! わ…ッ。 何言ってるのよ、もう…! と言うか見たことあるの…?! ないよ、ないない! じゃあ、なんでそんな話が出てくるのよ…! そ、それは、たまたま見たマンガに… 貴女、マンガなんて見ないでしょう…! だから、たまたまなんだって。 大学でマンガ描いてる子がいて、感想が聞きたいって言うから 莫迦、最低! 見てないし、想像もしてないし、と言うか私だって嫌だ! だったら、言わないでよ! 蓉子が男となんて だから、言わないで! −Dondequiera es(放浪記) 蓉子。 …。 蓉子。 …ん、ぅ。 蓉子。 ……なに。 夜と朝の、間。 …。 起きて、そして、見てごらん。 ……。 さぁ。 ……どうしたの。 どうしたのって? …まだ、はやいじゃない。 目、覚めた。 …。 さ、蓉子。 ……こども? なんでも良いじゃない。 ほら、ほら。 ちょ、やめて…。 早くしないから。 …なんでそんなにごきげんなのよ。 起きない? …おきるわよ。 じゃあ、早く。 ……。 こっちに来てから、ちょこちょこ見るようになったのよ。 …ふぅん。 蓉子には珍しくもなんともないでしょうけど。 …日の出と一緒に起きる機会なんて、早々なかったわよ。 初日の出は? …それは一年に一回でしょうが。 それに毎年見てたわけじゃありません。 一度、一緒に見たっけね。 確か、江利子も一緒だったような気がする。 …。 寒いよ。 毛布は離さない方が良い。 …うん。 …。 …何よ。 拙い。 …うるさい。 はは。 ……。 …。 …今日も、始まるのね。 それの繰り返しだからね。 …。 面白い。 …なにが? 同じ太陽なのに、違うような気がするでしょう? …でも、同じだわ。 季節も、時間も違うのにね。 …。 …。 ……きれいね。 でしょう? …どうして貴女が得意げなのよ。 さぁ、なんとなく。 …。 …。 …でも、確かに。 うん? 貴女がこんなところまで、一人で、来ていなければ。 …。 ……私は貴女を見つける為に、ここまで来たけれど。 …けれど? 見つけた後の事なんて、考えていなかったような気がするわ。 …。 兎に角、それだけだった。 …それだけ、ね。 …。 …。 …終わりだと思ってた。 心のどこかで。 どこまでもついていく、なんて。 高らかに宣言しちゃったくせに? …高らかになんて、してないわよ。 したけどなぁ。 してません。 じゃあ、そういう事にしておこう。 …。 …。 ……思いも、しなかった。 ん…? …だから。 …。 …。 …さっきの曲がり角で。 …? 始まったばかりなのかも知れない。 …。 終わりに近付いたのかも知れない。 ……。 道は一つだけ。 二つあったとしても。 …好きだったわよね。 うん。 …あの時間がずっと、続くなんて。 蓉子。 …。 莫迦だなぁ。 …む。 しし。 …! …蓉子。 ……終わらないのね。 …。 どこまで、行くのかしら。 さて、どこまで行こうか。 …終わりを見つけるまで? 終わりは始まりとも言いますが? 始まりは一つの終わりだわ。 成る程。 …。 …。 ……せ ふぁ。 ……。 さぁて。 見るものも見たし、寝直そうかな。 未だ早いし。 …。 私の顔、何かついてる? …目と鼻と、口。 眉毛、も追加しておいて。 黒くなくてうっすいけど、ちゃんとあるから。 …。 と…? さっきのお返しよ。 あー、成る程。 …このまま取ってやろうかしらね。 そしたら鼻詰まりとは永遠に、さよならだけど。 だけど? 間の抜けた顔になっちゃうなぁ。 私の取り得なんてこの顔だけなのに。 笑えない。 −江利子の冷徹。(俺屍版) 曰く。 賽の河原で永遠と積み上げ続けるらしいわ。 は? え? 確か、積み石で塔を完成させると父母の供養になると言う話でしたね。 …は? …しまこさん? けれど完成させる前に鬼が来て全部、ぶっ壊してくれるのよねぇ。 何度何度も塔を完成させようするのですが、その度に鬼に破壊されてしまうんですよね。 報われない努力、徒労の意味で使われる話でもあるそうです。 …。 …。 ところで、江利子さま。 うん? なんでまたそんなお話を? なんとなく、思い出したのよねぇ。 顔、見てたら。 顔、ですか? 然う、顔。 …。 …。 ……なによ、じろじろみないでよ。 けれど、志摩子。 はい。 そんな話、良く知っていたわね。 この間、蔵の中のものを整頓している時に見つけた書物を読ませて頂きました。 ああ、道理で。 あれはどなたの書物なのでしょう? 蓉子さまのものとは少々、趣が異なると思うのですが。 の、お姉さまのよ。 …。 …。 ああ、蓉子さまの。 蓉子は書物の虫だけれど、あの方は鬼よ。 鬼ですか。 ええ、書物の鬼。 うっかり踏もうものなら…。 踏もうものなら? 人は其れを烈火の鬼神と呼んだわ。 …れっかの。 …きじん? 書物が余程、お好きだったのですね。 ええ、鬼のようにね。 しかも雑食。 蓉子さまがそこまでじゃなくて良かったかも知れません。 然うだったら今頃、貴女のお姉さまは言葉にも出来ない有様になっていたかも知れないわ。 ふふ、然うかも知れませんね。 …ねぇ、よしのさん。 れっかのきじんってなんだろ…。 というかいまの、わらうところ? で、話を元に戻すのだけれど。 はい。 親より先に死んだ子供が行くのよね、賽の河原って。 …。 …。 だからなんでわたしをみるのよ。 ごめんなさい、由乃さん。 えりこさまにつられて、つい…。 いみわかんない。 時に。 志摩子の母親はもう居ないわね。 はい。 私がこの家に来る前に。 祐巳すけ。 ゆみすけじゃないですよぅ。 貴女の父親も。 はい、このあいだぽっくりと。 さいごにあきのさんまをもうひとくち、たべたかったそうです。 ぽっくりって。 祐巳さん、そういう言葉は使うものではないわ。 え、そうなの? ええ。 誰に教わったの? ………せいさま。 蓉子さまにお伝えしておきましょう。 え、いいの。 何故? …しまこさんがいいなら、いいんだけど。 で、由乃。 …。 …。 なによ、さっきからじろじろみて、なにがいいたいのよ。 よしのさん、あまりいっきにいうといきが これくらいだいじょ…っ。 ほら。 だいじょうぶ? …だ、だいたい、でこちんが 貴女の親は生憎、まだまだ元気なのよねぇ。 …。 …。 ああ。 …て。 なにが「ああ」なのよ、しまこさん! よしのさん、またせきがでるよ。 おちついて。 と言うわけで。 はい、休憩はお仕舞い。 続き、やるわよ。 はい、分かりました。 …え、と。 つかなんなの、ほんっとなんなの。 そうそう、思ったのだけれど。 はい、なんでしょう。 うちの子供が賽の河原に仮に行ったとしても。 はい。 恐らく、返り討ちにすると思うのよね。 子供が積んだ石如きを壊す鬼なんか。 然うかも知れませんね。 見てみたいわ。 江利子さま。 冗談よ。 由乃。 …なによ。 字が間違っているわ。 あ。 これだと由乃ではなくて、由刀になってしまうわね。 私に黙って改名したと言うのならば何も、言わないけれど。 こ、これは… それでなんて読むのかしら? 「よしとう」?「ゆうがたな」?ああ、「ゆうと」かしら。 まぁ、なんとでも読めるわね。 ち、ちがうわよ。 何が? だ、だから、わざとよ。 へぇ、わざとなんだ? そ、そうよ。 へぇ、然うなの。 へぇ。 だ、だから……あーもう! …由乃さん。 なによ! …江利子さまはね、 志摩子。 …。 面白く無い。 …はい。 なんなのよ、もう…! −Navidad del verano.(放浪記) クリスマス、なのかしら。 うん? そういえば。 ああ。 季節が反対だから。 暑いクリスマスなんて、初めてでしょう。 ええ、然うね。 北半球人にしてみれば、寒い方が良いって。 いつか出逢ったドイツ人が言ってたな。 ドイツは発祥の地とも言われてるから。 へぇ? ツリーとかね。 クリスマスマーケットのイルミネーションはとても綺麗だそうよ。 良く知ってるね。 誰かと行く為に、調べた? 調べてはいないわ。 行く人だって居ない。 それは残念ね? …わざと、言ってるでしょう。 悪意は無いよ。 無ければ良いってものでは無いわ。 クリスマス、ねぇ。 …ホワイト、は無理ね。 異常気象なんて一言じゃ、済ませなくなっちゃうかもね。 ……。 帰りたくなった? いいえ。 そ。 貴女の誕生日だと、思っただけよ。 そういえば、そんなのもあったね。 南半球だと夏生まれになってしまうのね。 うん。 …。 でもやっぱり私は冬生まれの方が良いけどね。 …然うね。 その方が貴女に合っているわ。 それ、辛気臭いって意味で? 冬は辛気臭くなんかないわ。 寒いけれど、空気の澄んだあの冷たさが私は好きだもの。 はは、物好きだ。 失礼ね。 …ね、あれ見てよ。 うん? クリスマスプレゼントかね。 そうかも知れないわね。 誰かに贈るのかしら。 さぁねぇ。 ……。 蓉子? あの店、寄ってみても良いかしら。 …どうぞ、蓉子さんのお気に召すままに。 見て、聖。 うん? きれいな水筒だわ。 ああ、確かに。 で、欲しいの? 欲しいわけではないけれど。 買ってあげようか。 少し小さいけれど、水入れに。 聖。 ささやかなクリスマスプレゼントなんですけど。 生憎、買えないわ。 なんで? ここ、見て。 A ver... (どれどれ…) Vendido(売り切れ)、ですって。 ああ、本当だ。 でもこれは? これ、張りぼてなのよ。 あらら。 さっきの女の人が買っていたのかしら。 髪の赤い? ええ。 クリスマスプレゼントに水筒? その言葉、そのまま貴女に返してあげるわ。 はは。 子供に買っていたのかも知れない。 子供に? サイズが丁度良いもの。 子供、ねぇ。 そんな風には見えなかったけど。 屹度、然うだわ。 はいはい、然うね。 何よ。 別に。 で、蓉子は何が欲しいの? 生憎、その水筒は売り切れちゃったみたいだけど。 別に要らないわよ。 クリスマスだから。 だったら、聖。 貴女は何が欲しい? 別に要らない。 誕生日だから。 そんな金があるなら、今夜の宿でも探そう。 そう、しよう。 聖。 プレゼントとか、そんな特別っぽいのは要らないよ。 だったら、私も要らないわ。 子供も居ないし。 そこ、かしら。 サンタさんだね、さっきの人は。 …子供にとってはね。 居たら、の話だけど。 恋人、でも良いじゃない。 恋人に水筒? …若しかしたら、コレクターなのかも知れないわ。 ああ、なるほど。 …。 サンタ帽子、要らないかな。 …サンタ帽子? 髪の毛、赤かったから。 服は流石に着られない。 それは…どうかしら。 雰囲気を出したかったら 寧ろ、被らされたりしてね。 …。 伴侶に。 …仕合わせなら、良いじゃない。 …。 …何よ。 いいえ、別に。 さ、行こうか。 ええ。 何か、おいしいものでも食べようか。 たまには。 いつも、食べているわよ。 じゃあ、良いか。 ええ、いつもどおりで。 でも、一つだけ。 うん? 誕生日、おめでとう。 …。 は、言わせてもらうから。 …もう、言われた気分だけどね。 最後の話はどっかの一家に絡めてみました。 |