−Schwarzwälder Kirschtorte. キルシュ? いや、キルシュヴァッサー。 キルシュ、はそれにダークチェリーを漬けて作る酒なんだってさ。 ふぅん。 それで作るの? ん? キルシュ。 んー…。 これ、アルコール度数は…40%? 私には無理ね…。 いや、これはそのまま飲むものじゃないから。 流石にねぇ。 どうするつもりで買ってきたの? 一緒に作ってみようかと思って。 一緒に? キルシュを? いや、飲むんじゃなくて、食べる方。 食べる? 蓉子は聞いたこと、ないかな。 何を? シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ。 …。 知らない? …聞いた事はあるわ。 確かドイツの… そう、ドイツのケーキ。 長い名前だよねぇ。 貴女の事だから意味も調べたのでしょうね? 流石、私の蓉子。 はいはい。 で? 黒い森の、さくらんぼケーキ。 キルシュ、が さくらんぼよね。 なんだ、やっぱり知ってるんじゃない。 聞いた事があるだけよ。 詳しくは無いわ。 それだけ知ってれば十分さ。 こら…。 …蓉子もお酒みたいだからね。 話、繋がってないから。 ふふ。 で、作ろうと思って。 シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ、を? 一回で覚えられる長さじゃないと思うんだよねぇ。 特にシュヴァルツヴェルダー、とか。 いつ作りたいのかしら? 乗ってくれる? そうねぇ。 一人だったら、やらない。 これ、買ってきておいて? さくらんぼでも漬けてみるかな。 材料は他に何が必要なの? ココア風味の生地なんで如何でしょう? 貴女好みのビター風味? 生地とクリームにはこれをたっぷりと入れて大人風味。 あまり強いのは嫌よ? 酔わせて襲おうなんて、思ってないから。 知ってる? 酒を飲ませて襲ったら、地獄に行くんですって。 そういう地獄もあるらしいから。 あらら、マリアさまの箱庭育ちなのに。 だから、やぁよ? しないって。 しなくても…。 …だから、だめ。 ねぇ、いつ付き合ってくれる? そうね…とりあえず。 とりあえず? 必要な材料を買いに行きましょうか。 二人で。 …。 貴女の事だから思いつきで買ってきたのでしょう? …へへ。 ん? やっぱり酒なんて要らないなぁ。 …どういう意味? だって。 …。 …私は蓉子が居ればいつだって、酔える。 だから、繋がってない。 今夜は…良い? …。 明日は休みだよ…。 …話、ちゃんとしてから。 貴女から振ってきた話なのだから。 相変わらずのきっちり具合で…。 …貴女は思いつきで動きすぎ。 それが私で…だからこそ貴女が必要だと思うのよ。 …ような、じゃなくて? そう、ようなじゃなくて…。 ……ん。 −Otras palabras. Lo importante es que disfrutéis y que seáis muy felices. ……。 あら、渋い顔。 …江利子まで。 私まで? それ、スペイン語でしょう? ええ、然うね。 それで? …最近、聖が使うのよ。 スペイン語なんて、選択してないくせに。 ああ。 …あの人、何だかんだで好きみたいなのよね。 何が? 言葉。 ふぅん。 まぁ、アメリカ人だし。 関係無いと思うわ、それ。 分からないから、良いのでしょう。 どうせ。 …。 まぁ、無駄に長いしね。 付き合い。 …そうなのよね。 羨ましい? …いいえ。 まぁ、長ければ良いってものでは無いし。 寧ろ、長いからこそ無理ってのはあると思うわ。 無理? ええ、無理。 貴女のようにあれとは付き合えない。 …。 未だに赤くなるのね。 …からかわないで。 そんなつもりでは無かったのだけれど。 まぁ、良いわ。 …。 それで、意味は分かるの? …と言うか、どうして江利子まで話せるのよ。 私? ええ、貴女。 第二外国語として選択しているから。 江利子が? スペイン語を? あれ、見てみたいのよねぇ。 あれ? 着工から百年以上経ってるのに、未だ建築途中な世界文化遺産。 …江利子ってそういうのに興味、あったの? 然うみたいね。 知らなかったわ。 私も、知らなかったから。 …大学の影響? 然うかもね。 面白い? 今は。 然う。 貴女は? 私? 第二外国語。 私は…ドイツ語。 ああ、なんかあってるわね。 それ、聖にも言われた。 聖は? フランス語。 見事にばらばらねぇ。 然うねぇ。 だけど貴女のスペイン語は意外だったわ。 然うかしら? 人が選ばないのを選択すると思ってた。 でも、わりとマイナーよ。 日本では。 うーん…。 日本人はどうしても、イタリアとフランスが好きみたいだから。 料理にしても、ファッションにしても。 …ああ、然うかも知れないわね。 それで? 今回の痴話喧嘩の要因は何かしらね? ……。 聞いて欲しかったのでしょう? …忘れてた。 ん? …何でもないわ。 ところでなんて言ったの? うん? さっきのスペイン語。 ああ、あれは…。 …江利子? 聖に聞いてみたら? 聖に? 然う、貴女の恋人に。 …江利子。 分からないかも知れないけれど。 …聞くにも、覚えていないわ。 と言うより、覚えられない。 じゃあ、書いてあげましょうか。 良いわよ、別に。 手帳、ある? 良いって… …ああ、これで良いわ。 ちょっと江利子。 ………。 江利子ってば。 はい、蓉子。 …面白がってない? だってあの紅薔薇さまが分からないんだもの。 あの紅薔薇さま、が。 何よ、それ。 ふふ。 …江利子までなんなのよ、もう。 ところで、蓉子。 …何。 聖の事、あの人って言うのね。 …え? いよいよ、夫婦めいてきたわね。 …! そ、そんなつもりで はいはい、ご馳走様。 と言うよりもういい加減、お腹いっぱいだわねぇ。 ……なんなのよ、もぅ。 Lo importante es que disfrutéis y que seáis muy felices. …。 …何これ。 ……読めるのね。 ほぼ、ローマ字読み。 …。 …スペイン語は、フランス語やドイツ語より日本人に向いてるのよ。 読みや発音に関してだけ言えば、だけど。 …そう。 それで? ……。 …これ、誰が? スペイン語は選んでない筈よね? ……。 …言いたくないのに、見せたの。 ……江利子、が。 ……。 ……。 …なんかあるとすぐ、あいつんとこに行くのね。 蓉子は。 ……。 …まぁ、良いけど。 親友、だろうから。 …。 …で、まだ怒ってるの? ……もう。 …。 …。 ……大切な事は。 …? 君達が楽しんで、仕合わせになる事。 …それは。 そう、書いてある。 ……そう。 …。 …聖。 ……ごめん、蓉子。 あ…。 …。 ……私こそ、意固地になってごめんなさい。 …。 …。 …お腹減ったよ、蓉子。 ……うん。 −EURO〜20×× あら。 んー。 今年の、始まったの? うん、始まった。 面白そう? んー、楽しみではあるかな。 そう。 隣、隣。 少し待って。 少しー? 何か飲むでしょう? ああ。 何が良いかしら? じゃ、マテ茶。 マテ茶? ペットボトルの。 ああ、あれ? そう、あれ。 美味しいのかしらね。 どうだろう。 でも珍しいわよね。 何が? 新しいの、あまり飲まないのに。 なんか気になって。 これの影響かしら? ん? 語学番組。 そーいうわけじゃないと思うんだけど。 でも野菜嫌いの人には良いかもしれないわね。 そーなの? 飲むサラダなんですって。 へーぇ。 私も貰おうかしら。 うん、あげる。 一緒に飲もう。 でもって一緒に見よう。 はいはい。 −爪切り小話。 パチン、パチン。 んー。 聖、爪を切っているの? うん。 本音を言えば蓉子に切って欲しかったんだけどね。 人の爪を切るのって怖いのよ。 切りすぎてしまいそうで。 蓉子は器用だから大丈夫だと思うんだけどなぁ。 ありがとう。 でも、出来ればやりたくないわ。 じゃ、私が動けなくなった時にでもやってよ。 動けなく? 然う、動けなく。 簡単に言えば 冗談でも止めて。 あーい、すみません。 そういう事は冗談でも口にするものじゃないわ。 言葉の力、だっけねぇ。 ええ。 蓉子は結構、そういうのにこだわるよね。 こだわっているわけでは無いわ。 けれど、口にしてしまうと本当に起きそうな気がして嫌なの。 ふぅん、そんなものかな。 …。 ん、なに。 夜に爪を切ってはいけないって、聖は言われた事ない? 夜に? なんで? ある? ない? ない、かなぁ。 だってほら、風呂上がりの方が切りやすいじゃん? で、なんで? 親の死に目に会えない、から。 そうなの? 夜に爪を切る事を「夜」の「爪」と書いて「夜爪」と言うのだけれど。 そのまんまだね。 これは世の中の「世」に詰めるの「詰め」、「世詰め」と語呂が一緒で、忌み嫌われたのよ。 世詰め? 世を詰める、つまり寿命を縮めると言う意味よ。 へぇ、そうなんだ。 他には「夜」を「詰め」る、で、「夜詰め」。 こっちは通夜の事。 ほぉ。 なんにせよ、良い意味には繋がらないでしょう? まぁ、確かに。 でもそんなの、迷信でしょや? ええ、迷信。 けれどちゃんと知恵が込められているものでもあるのよ。 と、言うと。 昔は今と違って、夜と言えば暗いものだったでしょう? まぁ、電気なんか無いしねぇ。 そんな時に爪を切ったら、どうなると思う? うーん…。 手元が狂ったら大変な事になるし、切った爪をうっかり踏んだりしたら痛いでしょう? なるほどねぇ。 つまりは戒めみたいな感じ? まぁ、然うね。 あとは、そもそも夜に爪を切る事は作法として良くないと言うのもあるらしいわよ。 作法云々より、痛い方が嫌だな。 ふふ、でしょうね。 で、ちっこい頃から真面目だった蓉子さんはそれを信じていたと? 別に信じていたわけではないわ。 でも律儀に守っていたんでしょう? …。 良いねぇ、素直だねぇ、可愛いねぇ。 面白がって。 蓉子さんは意外に素直。 うるさい。 へへ。 爪、飛ばさないでよね。 へいへい、分かってますって。 もう。 よし、お仕舞い。 …聖って。 見て見て、きれい? 爪切り、丁寧よね。 そりゃ勿論。 引っ掛けたら痛いじゃん? 引っ掛ける? 蓉子に傷がつくのはいかんでしょ。 私? 然う、蓉子さん。 ……。 ん? 今、なに考えた? 特に何も。 足の爪って盲点だよね、意外に。 足? 手の方が良かった? …続きは? 足絡めた時に引っ掻く可能性があります。 ……。 寝てる時はねぇ、無意識だからねぇ。 …そこまでは伸ばさないでしょう。 それがねぇ、伸びるのが早いんだ。 確かに聖って爪が伸びるの早いわよね。 うん、然うなの。 新陳代謝が良いのね、屹度。 知ってる? 何を? 手より足の方が遅いんだよ、伸びるの。 …言われてみれば、そうかも。 手は利き手の方が早いって言うけど。 足だって毎日使ってるのにねぇ。 然うねぇ。 でも良く気が付いたわね? 蓉子さんとお付き合いを始めて暫くしてから気が付きました。 …また私? うん、また蓉子さん。 ……。 聞きたい? いいえ。 聞いてよ。 いや。 じゃ、言わない。 …。 ん? やっぱり聞きたい? 聞きたくない。 そうだ。 ねぇ、蓉子。 なに。 爪、見せて。 爪? 私の、見せたでしょや? 見せてなんて言ってないけど。 でも見た。 見て、どうするの。 どうもしない。 ただ見たいだけ。 …ただ、ね。 足のね。 は? あんよ、プリーズ。 …いや。 いいじゃん、見せてよぅ。 て、なに、その手つき。 へっへっへ。 ふざけて見るのなら じゃあ、真面目に。 蓉子さん、お願いします。 …やっぱりどこかふざけているように見えるのだけれど。 私の場合、どうやってもふざけてるように思われるような気がしてなりません。 日頃の行い、とは良く言ったものよね。 ねー。 …未だ諦めてないのよね? うん、全然諦めてない。 …。 よーこー。 でもなんで今更。 然うでもないよ。 うん? 手、は見る機会あるけど。 足って結構、無いもの。 …。 家の外では靴。 家の中では靴下、或いは家履き。 蓉子さんってば夏でも裸足でいること、あまりないし。 夏の冷えは、冬になってから出るのよ。 らしいねぇ。 聖は冬でも裸足だから見てるこっちが寒くなるわ。 でも流石に裸足でサンダルは無理だよ? それだけは止めて。 大丈夫、しないから。 …。 蓉子。 …少しだけだからね。 十分でっす。 …。 私さ、蓉子の足って好きなんだよね。 …やっぱり止めた。 あれ。 …。 蓉子、蓉子さーん? …やっぱり、ろくでもないんだわ。 ねぇねぇ、蓉子ぉ。 見せてよぅ。 いーや。 どうしてもだめ? だめ。 じゃ、手は? 手? そう、手。 …諦めないわね。 うん、頑張ってる。 頑張りどころが違う。 いや、違わない。 …。 蓉子。 …もう。 手だけだからね。 うん。 …。 よーこ。 …はい。 わぁい。 …そんなに喜ぶことでもないでしょうに。 んふふ〜。 …ごきげんね。 やっぱり蓉子の爪の形ってきれいだな。 はい? きれい。 …そうかしら。 形だけじゃない。 いつもきれいに切り揃えてある。 変に伸ばさないし、マニキュアも必要以上に塗らないし、何より派手じゃない。 ごてごてしてて派手なのは好きじゃないのよ、私。 初めて聞いたわ。 言わなくても知ってると思ってた。 …。 蓉子のそういうところが、好きなんだ。 …それはありがとう。 どういたしまして。 …聖のもきれいよ。 そうかなぁ。 …ええ。 好き? …好き? 私。 …爪? も。 …。 私は好きだよ。 自分の事? まっさか。 …。 蓉子。 …あ。 ……捕まえた。 …もう、捕まえてるくせに。 足の、今度見せてよ…。 …大して変わらないわよ。 それは私が決める…。 せ…ん。 …蓉子。 …。 蓉子を形付けているもの、すべてがきれいなもの。 …何を言ってるんだか。 心から思ってるんだけどな…。 …ああ、そう。 そっけない…。 …そういうつもりではないのだけど。 どうやったら信じてもらえるのかな…。 …。 …私は、心からそう思ってるんだよ。 聖は…。 …。 …こういう時、嘘は言わないわ。 いつも言わないつもりだけど…。 …言ってるそばから。 本当だよ…。 …こぉら。 蓉子に関しては…いつも、本当のこと。 …。 私の蓉子…。 …じゃあ。 ん…? 聖は、とてもきれい。 …。 ぜんぶ…あなたを形付けているもの、すべて…。 …どこが? ほら、あなただってそう返すじゃない…。 …そりゃ、返すわよ。 私にとっては…あなたはこの世界で一番きれいな人。 う、わ…。 …ふふ。 ……うーん。 分かった…? …けど、やっぱり蓉子はきれいだよ。 …。 きれい…。 ん…せい…。 んー…やっぱり、足の爪もきれい。 …。 ふふ〜。 …聖。 形も、色も。 …ひゃ。 食べたくなっちゃう。 …蹴っても良い? うわぁい、それは止めてー。 じゃあ離して頂戴。 もう、良いでしょう? だって次はいつか分からないし。 …そもそもそんな格好で。 莫迦みたいよ、貴女。 大丈夫、寒くないから。 春、バンザイ。 …明日からまた、寒くなるらしいけど。 今年は遅いんだってね。 そういや、あそこの梅もやっと咲いたよ。 今度、見に行こうね。 …。 ね? …はいはい。 じゃあ、今日ね。 は? Today! …いや、今日って。 日、替わってるもんね。 …然うだけど。 大学生の春休み、バンザイ。 …まぁ、良いけれど。 やった。 じゃあ決まり。 …ところで、聖。 お弁当、作っていこうよ。 卵焼き、卵焼き。 聖。 ふが。 いい加減、戻ったらどうなの。 わぁ、蓉子さんに足蹴にされちゃった。 …聖。 それって戻って欲しいって事? そのままそこで寝てくれても良いわよ、別に。 寧ろ、 やだー。 …なら、早く戻ったら。 うん、喜んで。 ……。 …へへ。 …やっぱり冷たくなってるわよ、貴女。 でも冬の冷たさじゃないでしょや? …と言って油断していると風邪、ひくのよね。 だからそうならない為に温めるんだ。 今日は花見だしね。 …行く気満々ね。 卵焼き、卵焼き。 ほい、蓉子。 言わないわよ。 作るのは私なのだから。 あ、卵サンドも良いな。 卵、好きよね。 蓉子の卵料理がね。 …。 茹でただけでもとても美味しいのは蓉子の愛じょ、ふご。 恥ずかしい。 …うへへ、むが。 その笑い方も止めて。 −Cynical World. …さま。 …。 お帰りになられるのですか。 …だとしても。 貴女は起きなくても良いし、そもそも見送る必要も無いわ。 …。 …。 ……喉、渇きませんか。 …特には。 …。 …。 ……然うですか。 …だから、起きなくて良いわ。 何か、飲みたいのです。 …。 …私が。 ……ああ、然う。 …。 …。 ……一杯だけでは勿体無いので。 案外、貧乏性なのよね。 …裕福な家では無いですから。 然うかしら。 あんな立派な家に住んでいて。 …私のものではありません。 相続すれば、然うなるでしょう。 …。 …ああ。 貴女、一応一人っ子では無いのよね。 ……然うですね。 …。 …。 ……酷い事を言っている自覚ぐらい、あるわよ。 …。 だけれど、貴女は何も言わないのね。 …本当の事ですから。 だから? 本当の事ならば言わせたままで良いとでも? …。 …。 ……分かっているんです。 …何を。 貴女は…。 …。 …。 …続けなさい。 …。 続けなさいと言っているの。 ……私を、求めてはいない事。 …で? …。 で? …だから、私も求めてなんかいません。 …。 …。 …そんなの飲むと、眠れなくなるわよ。 別に構いません。 …。 …ただ、眠りたくないのです。 …。 …。 …私のようになるわよ、肌。 ……構いません。 物好きね。 …人の事、言えないと思いますが。 …。 …。 …。 …? ……私は、寝るわよ。 …。 少し、眠りたい気分なの。 …相変わらず、気紛れですね。 あら、知らなかったの? …いえ、知っています。 誰よりも、なんて言わないでよ。 言いません。 し、思ってもいません。 そ。 …言われたいのであらば、言いますが。 言わないでと言っているのだけれど。 …それと、言われたいのとは別の話ですから。 生意気。 有難う御座います。 …。 …。 …。 ……継ぐ気なんて、ありません。 …。 あの家を。 ……ええ、知ってるわ。 −Fiction. 祐巳ちゃんと、志摩子。 蓉子はどっちが良い? …は? 子供にするなら。 何言っているの。 どっちが良い? …。 私は、どっちかなぁ。 …白薔薇さま。 何でしょう、紅薔薇さま。 意味が分からない。 分からない? 分からない。 然うかな。 祐巳ちゃんと志摩子、子供にするなら 聖。 …。 どうしてそんな話になるのか、分からない。 …由乃ちゃん、の選択肢はないんだよなぁ。 は? あの子も可愛いのに。 …。 それで、紅薔薇さまはどちらが宜しいかしら。 …。 ん、無視? …。 無視、は淋しいなぁ。 …。 淋しい。 …貴女は。 私、は? …。 蓉子。 …はぁ。 お茶。 砂糖は? …知っているでしょう。 それでも聞くのが礼儀ですから。 …。 夢、をね。 …。 見たのよ。 …然う。 祐巳ちゃんが私の子供になってるのよ。 他の夢では志摩子が。 変な夢を見たものね。 ええ、変な夢でしょう? 本当に変な夢だわ。 うん。 願望でもあるのではなくて? 冗談。 分からないわよ。 意識していないだけで。 深層心理と言うもの? 然うね。 貴女も女ですもの。 然うかしら。 分からないけれど。 …。 …あまり時間をかけると渋くなるわよ。 何しろ、久しぶりなので。 …。 蓉子はどちらが良い? …貴女はどちらが良いの。 志摩子は無い。 …でしょうね。 けど、祐巳ちゃんみたいな子なら良いかも知れないわね。 面白いから。 自分の子供でも玩具にするつもり? 今だって玩具にはしていないわよ? どうだか。 機嫌を損ねた祥子の顔、本当にひどいものだわ。 面白くない、ではなくて? …。 貴女も人間だものね、紅薔薇さま。 …お茶は未だ? ええ、只今。 …。 それ、いつまで? …明日。 然う。 蓉子のクラスはうちより進みが速いみたいね。 …。 これと言った集まりも無いのに、それでもわざわざ薔薇の館で来るだなんて。 紅薔薇さまはよっぽどここが好きなのね。 静かだからよ。 確かにね。 けれど、台無しにされてしまったわ。 ありがとう。 お礼を言うところではないわよ。 それだけ、私の存在を気にして頂けたようなので。 …馬鹿馬鹿しい。 然う、馬鹿馬鹿しいわ。 …。 だからこそ貴女の意見も聞きたいのよ、蓉子。 …祐巳ちゃんか、志摩子か。 然う。 …。 教えてよ。 …両方、無いわ。 両方? ええ。 …然う。 ま、それも然うね。 これで良いかしら、白薔薇さま。 蓉子との子供だったんだ。 ……は? 私と。 ……。 変な夢でしょう? …つまり、 私と蓉子との間に生まれた子供と言う設定。 ……何よ、それ。 私が聞きたいわ。 貴女の夢でしょうが。 自分の事が、分からない。 …全然、分からないわ。 だからこそ、聞いたのよ。 …そもそも、有り得ないじゃないの。 うん。 …。 でも若しも。 若しも、も無いわ。 …夢が無いわね。 あのね、せ… …。 ……聖。 …だったらさ。 …っ。 双子、なんてどうだろう。 ……だから、 蓉子に似ている子と。 私に似ている子。 …。 私に似ている子は屹度、可愛くないだろうけど…。 ……。 …産むのは、蓉子ね。 可能か不可能かは、この際どっかに追いやって。 …貴女だって産めるでしょうが。 苦しいのは嫌。 …それを、私に? 私は屹度、耐えられないわ。 耐えられない…。 …寧ろ、私は。 ん…。 …ただ待っているだけなんて、耐えられない。 …。 何も出来ない方が、苦しい。 …それが本音? 貴女の戯言に付き合ってあげただけよ。 …。 …離れて。 …ふふ。 何が可笑しいのよ。 可笑しいじゃない。 …どこがよ。 ただの迷惑だわ。 −緑ノ渦。(俺屍版) ……。 蓉子。 …聖? こんなところで、何してるの? 何って…何かしら。 はは、何それ。 何をしているように見えた? 分からないから、聞いたんだけどな。 それも然うね…。 …此処、は。 私が此処に居る事、良く分かったわね…? 簡単だよ。 …然うかしら。 残していったのを、手繰っていけば良いだけの事だもの。 分かるの? 分からない筈が無い。 …。 此処、気持ち良いね。 …貴女も然う思う? 思うよ。 …然う。 京にこんな場所、あったんだね。 蓉子が見つけたの? 貴女が、見つけたのよ。 私が? …迷子になった時にね、此処に居たの。 いつの話? もうずっと前の話。 ……。 然う、ずっと…。 …蓉子? ……此処ね、緑が明るくて綺麗なの。 でも夜は真っ暗そうだ。 ううん、そんな事無いのよ。 うん? 昼には太陽が。 じゃあ、夜には何がある? ……月、かな。 然う、月…。 …でも満月じゃないと、明るくないよ。 ふふ、然うね…。 ……蓉子。 だめよ。 …しないよ、怒られるもの。 じゃあ、この手はなにかしら…? 手も、蓉子が好きなんだよ。 …聖の一部だから? 然う、私の一部だから。 …じゃあ、仕方ないわね。 でしょ…? ……。 ……此処は、淀んだ気配がしない。 うん…。 此処は…鬼が入ってこられない何かがあるような気がする。 …私もそれは感じてた。 実際、此処は荒らされた痕が全く無いの…。 人の手にすら…。 …うん。 だけど、それが何か分からないの…。 何だろうな…。 …私達には分からない事かも知れないわ。 然うかも知れないね。 目では捉えられない何かがあるのかも知れない。 …。 …。 ……此処、ね。 ん…。 …誰に言っても、そんな場所無かったって言われるのよ。 え…。 …無いって、皆、言うの。 父上もお姉さまも、藤花さまも菊乃さまも…江利子さえも。 誰も、見つけられなかった…。 …。 …でもね、貴女は確かに此処に居たの。 一人で、この緑に守られて。 …どうして、蓉子だけが見つけられたんだろう。 分からないわ…。 そして、貴女もどうしてこの場所に居たのか…。 ……全然、覚えてないんだ。 …。 全く、思い出せない…。 ……。 …? 蓉子…? …貴女、消えそうになっていたのよ。 消え…? …緑に、溶けて。 白が、緑に染まって…そのまま。 ……。 一瞬、久遠さまが見えた…陽炎のように、揺れて。 だから、私…。 ……蓉子が居なかったら。 …。 私は、あちら側へ行っていたんだ。 …。 ……母さんは、どうしても私を連れて行きたかったのかな。 聖…。 ……蓉子が居て、良かった。 …。 ねぇ、蓉子。 …ん。 蓉子は、私が連れ戻すから。 ……うん。 …。 …緑の、渦。 …緑の渦? の、ようでしょう…? …ああ。 然うだね。 静かで、穏やかで、でも、どこか… ……怖い気もする。 …。 …。 ……聖。 帰ろうか。 …かえ、る? …私達の家に。 皆が蓉子を探しているよ。 みんな…? …此処は、皆には見えない。 だから…。 …。 …此処にずっと、居ては駄目だよ。 あ…。 …さぁ、蓉子。 待って、聖…。 大丈夫、私は蓉子の手を離さないから。 ずっと、離さないから。 ……。 …さぁ、行こう。 皆が、蓉子を、待ってる…。 ……うん。 お姉さま…!! 蓉子さま…!! ……。 本当に、居た…。 志摩子、江利子さまに…! はい…! みんな…。 蓉子さまぁ…! ……ゆ、み? 蓉子さまですよね、ちゃんと蓉子さまですよね…?! ……ええ、そうよ。 でも、おかしな子ね…? だって蓉子さま、どんどんすけていって…! …すけて? とけるように、きえてしまったから…だから! ……。 祐巳が此処だと言って聞かなかったのです。 緑がたくさんある場所だと。 …さちこ。 早く行かないと蓉子さまが連れて行かれちゃうって。 祐巳ちゃんは然う言って、私達を此処に。 …れい。 祥子も私も、最初は何を言っているか分からなかった。 …。 こんな場所に緑がある筈無いと、何度言っても祐巳は、 ……あるわよ。 …。 そう、みどりはたしかに……。 …。 そう、ゆみにも……。 …よう、こ、さまぁ。 ……みえるのね。 ともあれ、ご無事で何よりです。 帰りましょう、お姉さま。 家に。 …。 お姉さま。 蓉子さま。 …。 ……さぁ、蓉子。 ……せい。 …蓉子さま。 おうちに、かえりましょう…? 江利子さまも、由乃さんも…。 ……。 さぁ、帰ろう。 家へ、私達の家へ。 さぁ、蓉子。 …ええ、そうね。 蓉子さま…? …かえりましょう、みんなで。 ! はい…!! −And other. 上級生がまだ誰も来ていない薔薇の館で、一年生三人で髪の話をしていた。 薔薇さま方の、お姉さまの、令さまの、由乃さんの、志摩子さんの、そして私の。 なんでもない、本当に他愛もない会話だった。 志摩子さんの髪はふわふわで色もきれい、とか。 由乃さんの髪はちょっと硬い、とか。 私のはまとめるのに苦労する、とか。そんな感じの。 その中に白薔薇さまが珍しく、そう、あの紅薔薇さまより早く来たんだ。 で、相変わらず人に抱き付いてきて、反応を面白がって、なんの話してたのーなんて。 だから、髪の話をしていたんですよ。 髪の? なんで? なんでって。 んー? まぁ、なんとなく。 ふぅん。 で、祐巳ちゃんはどうしていつも二つに結ってるの? なんでって。 さっきと同じ返答だよ、それ。 …まぁ、特に理由はありませんけど。 あれでしょ? まとめるのに楽、とかでしょ? …。 あはは、当たりだ。 …別に良いじゃないですか。 悪いなんて言ってないよぅ。 …それより、今日の白薔薇さまは早いですね。 そっかな。 他のヤツらが遅いんじゃない? そんな事無いと思いますけど。 お姉さま、何か飲みますか? じゃあ、コーヒー。 はい。 志摩子さん、私も手伝 祐巳ちゃんは私の相手。 あと由乃ちゃんもねー。 …はぁ。 私もですか? うん。 いや? …まぁ、良いですけど。 で、髪だっけ? そんな話、面白い? …面白いですよ。 ふーん。 白薔薇さまは興味、無さそうですね。 そんな事無い、あるよ? そうは見えませんが。 例えば… …あ。 祐巳ちゃんのこれ、解いたら。 どんなかな、とか。 ちょ、止めて下さい。 たまには良いじゃん、下ろしてよ。 たまには、って。 由乃ちゃん、由乃ちゃんも。 私もですか。 うん、私も。 白薔薇さま、リボン、リボンを返してください…! やだよ。 や、やだって。 さ、もう片方も。 だめです! まとめるの、大変なんですから! じゃあ、そのままでいれば良いじゃない? はい、解決。 解決してません…! 由乃ちゃんも解いて欲しい? …自分でやります。 そ? でも由乃ちゃんも大変そうだよね。 れ…お姉さまが結わいてくれから。 ああ、令にね。 そっかそっか。 白薔薇さま! ん、解いた? 解いてません! 早く、解いちゃば良いのに。 ああ、もう…! あははは。 そんな事、仰るのなら白薔薇さまも変えて下さい。 私? 私達ばっかり、ずるいと思います。 そうですよ、白薔薇さま! でもなぁ、私は結んでないし。 だったら、結べば良いじゃないですか? うん? 由乃さんの言うとおりです。 私のリボン、貸してあげますから。 えぇ、どうしようかなぁ。 そうだ、代わりに志摩子を 『駄目です』 お、ハモった。 どうしますか? 嫌ならリボン、返してください。 んーー…。 なんだったら、私が結んであげますよ。 じゃあ、良いや。 返す。 ……。 ……え。 志摩子、まだ? 今、参ります。 うん。 …あっさり、だったわね。 …うん。 もっと、絡んでくると思ったけど… あの、白薔薇さま。 なに、由乃ちゃん。 白薔薇さまの髪って、綺麗ですね。 …そうかな。 はい。 ねぇ、祐巳さん。 え、あ、うん。 その、色素が薄くて… ……。 日本人のそれじゃないようで、綺麗だと思 綺麗なんかじゃ、ない。 ……。 …あ。 と。 ごめん、ごめん。 髪の事触れられるの、あんまり得意じゃないんだ。 …いいえ、すみませんでした。 …すみません、白薔薇さま。 ああ、良いよ良いよ。 気にしないで。 お姉さま。 ありがとう、志摩子。 あら、白薔薇さま? お、紅薔薇さま。 ごきげんよう。 ごきげんよう。 珍しいわね? たまには、ね。 いつも、なら良いのだけれど。 はは。 一年生の子達と何を話していたのかしら? 髪について。 紅薔薇さまの髪は綺麗な黒髪だって。 ねぇ、一年生達? え、ああ、はい。 祥子とどっちが綺麗なのか、論争してたみたいよ。 ねぇ? そうなの? え。 甲乙つけ難し、と話していました。 よ、由乃さん。 祐巳さんは祥子さまと言いたげでしたけど。 よ…! あはは、分かり易いねぇ。 そう。 ち、違うんです、紅薔薇さま。 わ、私は 良いわよ、私も綺麗だと思ってるから。 …へ。 祥子のは私のとは違うわ。 生まれ持ったもので、本当に綺麗だもの。 紅薔薇さまだって 蓉子も綺麗だと思うよ。 …え。 それに蓉子のだって、生まれ持ったものでしょう? …だから? 私は蓉子の方が好きかな。 ……。 ……。 …それは有難う、白薔薇さま。 心から、言っているのに。 そうね。 志摩子、お茶頼んでも良いかしら。 はい、今直ぐに。 有難う。 いいえ。 ところで、白薔薇さま。 何かしら、紅薔薇さま。 貴女の髪、私は綺麗だと思うわ。 …色素が薄くて、かしら? それだけじゃないわ。 …ん。 手入れ、ろくにしてないだろうに。 傷んでない。 ……。 逢った頃から。 …なるほど。 それはどうも有難う、紅薔薇さま。 …どういたしまして。 ……。 …由乃さん? さっきと、違うわ。 え、何が? ……。 由乃さん? −Raven おかえり。 …。 何か食べてきた? …来てたの。 うん、来てた。 ……。 ビール、飲む? 飲まない。 そ。 …飲みすぎないでよ。 飲んでも、呑まれない。 そういう問題ではないわ。 何か、食べる? …要らないわ、食べてきたもの。 ふぅん。 …それで、何があったのかしら。 何がって? 人の部屋に上がり込んでいるのだから。 近くに来たから、一緒に飲みたくなって。 何をしに、この近くまで? 貴女の好きなものはこの辺りには無いわよ。 私はそればかりじゃないよ。 高校受験、それで失敗したのは誰かしら。 それ、言う? ええ、言うわ。 私はあの学校で良かったと思ってるから、失敗じゃなくて、寧ろ成功。 行き当たりばったり。 運の問題。 …貴女は何か食べたの。 いか。 ……。 …帰ってきたら、何か作ろうと思ったんだけど。 食べてきたって言うから。 …何も食べないつもり? いか。 …貴女がそれで良いなら、私は構わないわ。 じゃあ、何か作るかな…。 …汚さないでよ。 汚すほどのもの、作らないし。 ごはん、ある? 無いわ。 …相変わらず、日本人じゃない。 失礼ね。 洋食も良いけど、和食も忘れないでね。 貴女、酔ってる? 酔ってないよ。 ……。 …酔えないし。 それだとまるで、酔いたいように聞こえるわ。 酔ったら、追い出される。 当然だわ。 ……。 …一寸。 もう、寝る…。 …食べないで、良いの。 いか、食べたし…。 …そんな塩辛いもの。 うん……。 …何か作れば良いでしょう。 それ、何が入ってるの。 …白いごはん。 ごはん? …ない、って思ってたから。 そしたら本当になかった…。 ……。 ……。 …風邪、ひいても面倒なんてみないわよ。 ……。 と言うより、寝るなら片付けてからにして。 …。 …。 …先祖帰り。 は? …いつだか、祐巳さまから聞いたって。 でもあっちの方が甘いような気がする…。 ……。 …。 …限りなく、どうでも良いわ。 |