−チサト・モリタカ。





   蓉子が小母さんになったら、私も小母さんかー。


   …今、さらっと失礼な事言わなかった?


   失礼なコト?
   そんなコト、言った?


   聞いてるのは私でしょう。
   問いに問いで返すのは貴女の悪い癖よ。


   だって言ったつもり、ないもん。


   …誰が小母さんですって?


   誰だってなるでしょや?


   そうだけど、それを聖に


   言われなくない?


   …。


   私は年上が好きだから。
   大丈夫だよ、蓉子。


   …嘘ばっかり。


   あれ?


   …祐巳ちゃん(若い子)、好きなくせに。


   うん、好きだよ。
   可愛いからね、蓉子に似てて。


   …誰も祐巳ちゃんなんて言ってないわ。


   今、言った。


   …。


   ね。


   …私が小母さんだったら、聖だって。


   だからそう言ったじゃない?


   …。


   同い年なんだから。


   …私の方が少しだけ早いもの。


   うん?


   …。


   それ、もしかして気にしてる?


   …いいえ。


   気にしてない?


   …気にしてないわよ。


   なのに口にしちゃったの?


   …うるさいわね。


   蓉子さん。


   何よ、にやにやしないでよ、鬱陶しい。


   はいはい、ごめんね。


   て、何よ、この手。


   勿論、蓉子さんを抱き寄せようと思いまして。


   いいわよ。


   良いんだ。
   んじゃ遠慮なく。


   そのいいじゃなくて…て、聖!


   駄目な理由は?


   は?


   駄目な理由。
   ちゃんとした理由なら止める。


   ちゃんとした理由って


   無いなら、このまま続行。


   せ


   …。


   …い。


   蓉子。


   …。


   しし。


   ……。


   いたたたたたた。


   ばか。
   誰が良いって言ったのよ。


   …手の甲は痛いですって、蓉子さん。


   自業自得。


   ちゃんとした理由、言わなかったじゃん。


   そもそもそれがおかしい。


   おかしくないよぅ。


   おかしいの。


   と言うかさ、理由も無いのに駄目っておかしいじゃん。


   また屁理屈を言う。


   いやいや、これは屁理屈じゃないよ?


   正当とでも?


   うむ。


   ばか。


   えー。


   真面目な顔をして。


   だって真面目に言ってるんだもの。


   付き合い切れない。


   じゃあ、抱かせて。


   じゃあの意味が分からない。


   恋愛はいつだって、不可解で難解さ。


   は?


   分からないから不安になる、し。
   どきどきもする。
   分かるかしら?


   何を言い出すかと思えば。


   蓉子。


   要は…ただの口実でしょうが。


   口実だろうが、何でも良い。
   今はただ、蓉子の感触に溺れたい。


   …。


   蓉子。


   …私が小母さんになったら。


   ん。


   なっても。
   貴女は同じコトを言えるのかしら。


   当然。
   蓉子は幾つになっても蓉子。
   私はそれだけで、良い。


   …台詞めいた事を。


   本心だもの。


   …。


   …好きだよ、蓉子。


   それすらも…。


   …なんでも良い。
   蓉子が抱きたい。


   ……何よ、それ。


   何でも良くない?


   …全然良くないわよ、ばか。


   そっか…んじゃ、ごめんなさい。


   ……。


   …私も小母さんになるよ。


   …。


   蓉子と一緒に。


   …そうだとしても、なんかイヤ。


   …。


   聖に…聖にだけは、言われたくない。


   …じゃあ、もう言わない。


   …。


   …。


   ……前に、ね。


   ん…?


   …小学生の女の子が話していたの。


   なんて?


   大学生なんて、小学生から見ればオバサンなんですって。


   …笑っちゃうなぁ。


   貴女は笑ってしまうのね。


   分かってないのさ。


   …分かってない?


   本当に良い女ってのは、歳を取らなきゃなれないってコトを。
   勿論、ただ取れば良いってわけじゃない。
   何もしなければ、何も出来ない女になるのさ。


   …。


   そもそも小さい母と書く小母さんと、人を小馬鹿にしたオバサンは違うと思うんですよ。


   …貴女らしい言い回しですこと。


   日本語は美しい言葉。


   …。


   蓉子は気にしたの?


   …いいえ、特には。
   でもそんなのものなんだな、て。


   言いたいヤツにだけ言わせておけば良いのさ。
   分かる人にだけ、分かればそれで良い。
   皆に分かって貰う必要なんて、初めから、無い。


   …聖とか?


   そう、私とか。


   …。


   …蓉子は小母さんじゃないけどね。


   まだ、ね?


   …へへ。


   ……。


   やっぱり蓉子の感触は気持ちが良いな…。


   ……聖も。


   …。


   …。


   …もう一回、言って欲しいな。


   ……いや。








  −残寒。(俺屍版)





   ふぁ。


   蓉子、眠くなった?


   ん…いえ、未だやる事があるから。


   ふぅん。


   記録、ちゃんとまとめておかないと。


   明日、やれば良いのに。


   明日は明日でやる事があるのよ。
   貴女がちゃんとやってくれるのならば私がやる必要は無いのだけれど。


   当主の仕事ってそんなにあるんかねぇ…。


   溜めなければ、ね。
   特に家の記録。
   貴女が当主になってから全然、書いてなかったのよ。


   忙しかったから。
   色々と。


   …暇になっても書かないけれど。


   と言うかさ、お姉さまン時もそんな書いてないじゃん?


   …本当、姉妹揃って。


   ふぁーあ。
   ねぇ、もう寝ようよ。


   ここまでは書いておきたいのよ。


   ここまでって、どこまでさ。


   志摩子が家に来た頃まで。


   …志摩子が?


   ええ。


   と言うか、良く覚えてるもんだ。


   …忘れないわよ。


   ふぅん…。


   先に寝ても良いわよ。


   やだ。


   …じゃ、起きてなさい。


   眠い。


   ああ然う。


   蓉子。


   …未だ、寝ないわよ。


   当たり前になってきたね。


   …何が。


   この部屋で蓉子が寝るの。


   …誰かがしつこいから。


   私は蓉子の部屋でも構わないって言ったけど。


   …。


   ねぇ、蓉子。


   …なに。


   寒くない?


   …。


   今年は春になるの、少し遅い気がするんだ。


   …それでも少しずつ、春の気配が近付いてきているわ。


   でもまだ雪は残っているし、夜になればとても冷える。


   …。


   羽織っていても、冷えるでしょう?


   …。


   …風邪、ひくよ。


   大丈夫よ。


   …私が大丈夫じゃない。


   ……。


   蓉子。
   そんなに焦らないで。


   …焦る?
   私が?


   …。


   何に焦ると言うの。


   …焦る、とは違うかも知れない。
   でも。


   …。


   蓉子。
   未だ二月だよ。


   …けれど直に三月よ。


   …。


   三月になったら。
   御前試合に出るのでしょう?


   …うん。


   私達にとっては


   その先は聞きたくない、し。
   その為に出るわけじゃない。


   …。


   …蓉子、もう寝よう?
   私達には明日があるんだ。


   ……聖。


   おいで、蓉子。


   …。


   蓉子。


   …。


   おいで。


   …お布団からは出ないのね。


   出ない。
   出たら、冷えちゃうから。


   …。


   さぁ。


   ……行かないって言ったら。


   蓉子は来るよ。


   …。


   本当は引き入れてしまいたいけど。
   しない。


   …どうして。


   来れば、分かるよ。


   …手を伸ばせば届く距離なのに。


   だからこそ、今の蓉子の冷たさを知ってる。
   分かる。


   …。


   …さぁ、蓉子。


   ……ばか。


   あ、蓉子。


   …なによ。


   布団、あまり大きくめくっちゃ駄目だよ。


   …冷えるから、でしょう。
   分かっているわよ。


   うん。


   …火、消すわよ。


   ん。


   …我侭ばかり。


   …。


   ……これで、よし。


   …今夜は月が明るいな。


   はいはい、然うね…。


   …。


   …あ。


   …蓉子。


   ……。


   蓉子は、本当は寒がりだから。


   …貴女には言われたくない。
   朝、お布団から出られなくて駄々を捏ねる貴女だけには。


   それは蓉子と離れたくないからだよ。


   …あまりくっつくと、冷えちゃうわよ。


   ……。


   …。


   …蓉子、冷たい。


   ……だから、言ったでしょう。


   へへ…。


   …。


   蓉子…。


   …冷えちゃうから。


   …。


   聖…。


   …二人なら寒くないって。
   教えてくれたのは蓉子だよ。


   …。


   だから…腕を回して。
   足を絡めて。


   …聖。


   さぁ…蓉子。


   でも…。


   蓉子。


   ……うん。


   …。


   …。


   …直ぐにあったまるよ。


   ……然うだと良い…ん。


   …。


   …。


   …ほら。
   少しだけあったかくなった…。


   ……ばか、今夜はしないわよ。


   うん…。


   ………せい。








  −ゆいいつのもの。






   たまには乗ってみる?


   …?


   ねぇ。


   ……なんのはなし?


   ないような気がして。


   だから、なんの話なの。


   腕に頭を、ってのはほぼいつもだけど。
   それとは状況が違うし。


   聖。


   蓉子、


   いやよ。


   なんの話って聞き返したくせに、話聞かないのってどうなのかな。


   きっと、ろくでもないわ。


   じゃあなんの話って、聞かなきゃ良いのにね?


   …。


   きっと、であって、絶対じゃないのなら。
   聞いてから決めても、決して遅くないと思うんだけどな。


   …都合の良い流れに持ち込むくせに。


   そんなコト無いって。


   そんなコト、あります。


   あ。


   …。


   蓉子。


   …。


   …聞くだけでも良いから、聞いてよ。


   …。


   ねぇ、お願い…。


   ……。


   …蓉子。


   ……勝手に言えば良いじゃない。


   聞いてくれる?


   …聞くつもりはないけど。


   …。


   ……聞こえてしまうのは仕方ないもの。


   …。


   …。


   …へへ。


   言っておくけど、聞きたくはないのよ。


   うん。


   …。


   あのさ、蓉子。


   …。


   私の上に乗って。


   ……。


   先に言っておくけど、別にして欲しいわけじゃない。
   蓉子も知ってると思うけど、私はされるよりする方が好きだしね。
   まぁ、嫌いではないけど…さ。


   …。


   …蓉子は覚えてるか、分からないけど。


   …。


   …私の背中に腕を回して。
   私の重みを体中で感じるのが好きだって。


   ……。


   …眠る前に、言ったのよ。


   ……。


   ……蓉子。


   ……。


   …。


   …重いなんて言ったら、怒るから。


   重み、は許して欲しいな。


   …。


   …乗ってよ、蓉子。


   ……乗せれば、良いのよ。


   ん…?


   …どうしても、したいのなら。


   …。


   ……許さないなんて、言ってないのだから。








   …。


   …。


   …ふむ、これは。


   …もう良いかしら。


   だーーーめ。


   ……。


   へっへ。


   …楽しそうね。


   蓉子の気持ち、分かるかも!


   ……。


   これ、気持ちいい。


   …そう。


   上は上でね、蓉子の中にいるみたいで気持ち良いんだけど。
   下は下で上とは違った良さがある、うん。


   …そうかしら。


   蓉子がここにいるって、凄く感じるコトが出来る…。


   …。


   たまには、と言うか、毎回しても良い?


   …毎回?


   うん、毎回。


   それって私が


   するのは、私。


   ……。


   下からでもしようと思えば、出来るし?


   …。


   方法は多い方が良いじゃない?
   マンネリ化防止の為にも。


   …するの前提なのね。


   うん。


   ばかなこと、ばっかり。


   お。


   ……。


   蓉子、だめだよ。


   駄目じゃない。


   駄目だって。


   離して。


   やだ。


   聖。


   蓉子ばっかり、ずるい。


   は?


   こんなに気持ち良いのなら、教えてくれても良かったんだ。


   …それ、自分の事を棚に上げてるわよ。


   …。


   聖、いいかげんに


   …本当に、気持ち良いのよ。


   ……。


   もっと早くに知りたかったな…。


   ……聖。


   蓉子…蓉子…。


   …苦しいわ、聖。


   …。


   そんなに強く抱き締めたら、貴女だって苦しいでしょう…?


   …苦しくない、幸せだから。


   …。


   そう、蓉子は私だけの…。


   …。








   ……。


   …聖。


   …うーん。


   一寸、聖。


   …。


   まさか、寝てるんじゃないでしょうね…。


   …寝てない。


   …。


   ああ、堪能したぁ…。


   …じゃあ、もう良いわね。


   うん。


   …全く。


   その代わり。


   …は?


   よーぅこ。


   ちょ、聖。


   だっこ。


   …はぁ?!


   蓉子、蓉子。


   …て、何が抱っこよ。


   んんー?


   逆になっただけじゃないの。


   元に戻った、とも言うかな?


   おりて。


   や。


   あ、こら…。


   …ふふ、やっぱりこっちも良いな。


   ……。


   …ぎゅうってしてよ。
   いつもみたいに。


   …いつもなんて、してません。


   してるって。


   してない。


   …そっか、無意識か。


   は?


   と言うより。
   しがみつく、の方が日本語としては正しいのかな。


   勝手に話を進めないで頂戴。
   何を言っているの。


   …いや、両方かな。


   せ、い。


   蓉子ね。


   …。


   …終わると。
   ぎゅうって、するのよ。


   ……。


   ぎゅうって。
   私、それがたまらなくてね。
   それで私も


   聖。


   …で、呼吸を整えてる間も私を離さないでいてくれるのよ。


   ……。


   それが


   ばか。


   …え?


   …


   蓉子?


   …これは、私が先に見つけたんだから。


   え、なに?


   何でもないわよ、莫迦。
   鈍感。


   あれ、増えてない?


   さぁ、知らない。


   蓉子。


   …。


   よ、う


   ……聖。


   ……。


   …はい、お仕舞い。


   …。


   せーい。


   …まだお仕舞いじゃない。


   …。


   やっぱり、こっちの方が好きかも…。


   …それ、どっちになっても言うのでしょうね。


   へへ…。


   …本当、勝手なんだから。


   ……。


   ……そのまま、寝ないでね。


   はぁい…。


   …。


   ……。


   …まったく。
   ここまで当てにならない返事は無いわね…。








  −Love holic





   …。


   …。


   …。


   …蓉子。


   うん?


   …。


   せ





   かぷ。





   …ひぁッ。


   んー…。


   い、いきなり何するのよ!


   いや、きれいだなって思って。


   はぁ?!


   と。
   蓉子さん蓉子さん、包丁は人に向けちゃいけないと思います。


   貴女が悪いのでしょう!?
   人がごはんの支度をしてる時に何を考えているのよ!


   あーうん。
   ごめん、蓉子。


   謝るぐらいなら初めからしないで。


   …。


   聖。


   今度はちゃんと事前に言う事にします。


   言えば良いってものではありません。


   でも黙ってするよりは良いでしょや?


   料理している時、特に包丁を持っている時は駄目。
   危ないでしょうが。


   …。


   聖。


   …なんかね、時々無性にしたくなるんだよね。


   は?


   これって病気かなぁ?
   ラブシック?蓉子ホリック?


   …何言っているの、貴女。


   蓉子の髪型ってさ、たまに見える首筋が堪らないんだよね。
   それより短くても駄目だし、長くても駄目。
   こう、絶妙って言うか。


   …伸ばそうかしら。


   蓉子はこのままが良い。


   このままでいて、包丁で手を切ってしまったらどうするつもりなのよ。


   うん、それは駄目だと思う。と言うか駄目。
   だから、包丁持ってる時はしない。


   …包丁持ってない時も急に噛むのは止めて頂戴。


   本、読んでる時とか?


   そうよ。


   でも、してる時は良いでしょう?


   …。


   ん?


   …ごはん。


   ごはん?


   出来るまでこっちに来ないで頂戴。


   手伝おうと思ったんだけど。
   なんでもするよ。


   良いから。
   あっちで大人しくしてて頂戴。


   ちぇ。


   …全く。


   ねぇ、蓉子。


   な


   …。


   …聖。


   ふふ、楽しみだなぁ。
   蓉子のごはん、


   …分かったから。
   早く食べたいなら、あっちで大人しく待ってて。


   んー…。


   課題、あるのでしょう?
   少しでも進めておいた方が良いわよ。


   蓉子が来てるのに……あ、そっか。


   …ああ、いやな笑顔。


   夜はゆっくりしたいもんねぇ。
   へへ、じゃあそうしよ。
   じゃあ蓉子、また後で。


   ……お酒でも飲ませてさっさと寝かせてしまおうかしら。








  −さんしん。(音楽聖蓉)





   聖、それ。


   ん、これ?


   どうしたのよ、それ。


   借りてきた。


   誰に。


   大学の人。
   沖縄の子でね、“この子”のサークルもやってるんだ。
   珍しいでしょや?


   珍しいけど、良く貸してくれたわね。


   人徳のなせる業?


   くれぐれも壊さないでよね。


   スルー?


   大事なものなのでしょうから。


   おじいちゃんの形見って言ってたかな。


   …絶対に壊さないで。
   寧ろ、今直ぐ返してきなさい。
   何かあったら責任取れないでしょう?


   練習しようと思って。


   練習?


   その子がこの子を鳴らした時の音が凄い良くてね。
   一寸教えて貰ったんだ。


   だからって直ぐ、それが出せるわけないでしょう?


   そうなんだ。


   なのに、


   蓉子、聴いてて。


   え。


   んー…。


   一寸待って。
   何を





   …テン。





   ……。


   どう?


   …聖。


   大丈夫だって。
   もう一回。





   テン、テン。





   ……。


   私にはこれが精一杯。
   この子の持ち主はこれよりもずぅっと良い音を鳴らすんだ。


   …然うでしょうね。


   今度、一緒に聴かせて貰う?
   サークル、一人で活動してるみたいだから喜んでくれるよ。
   この子を知ってほしいんだって。


   リリアンに潜り込んで?


   卒業生だし、いける。


   大学の、じゃないのだけれど。


   大丈夫だよ。
   私と居れば。


   …。


   おいでよ、蓉子。


   …一緒に聴きたいから?


   うん。
   音源で聴くのも良いけど、目の前にして聴くのとはやっぱり違うから。


   …それ、いつ返すの?


   明日。
   今日は蓉子が来る日だから。


   それだけで?


   釣る為に。
   蓉子、なにげに弦楽器が好きだから。
   和楽器含めて。


   …お礼、ちゃんと言うのよ。
   大切なものを貸してくれたのでしょうから。


   うん、勿論。


   …ねぇ、聖。


   ん?


   もう一度、鳴らしてみて。


   うん。
   でもかろうじて音が出せるだけで、鳴らせはしないんだけどな。


   貴女の音が聴きたいだけ。


   ん、分かった。


   ……。





   テン…。








  −ヴァレンティヌスの日・2012





   ごきげんよう。


   ごきげんよう。


   今日も寒いね。


   然うね。


   でも、良い天気だ。


   乾燥が気になるのだけれど。


   大丈夫。
   貴女の肌はいつもしっとり。


   その言い方は止めて。


   じゃあ、滑らか。


   貴女は何もしなくても綺麗で癪。


   生まれつき。


   でも。


   ん。


   唇。
   ちゃんとケアしなさいって、言ってるでしょう?


   してもらう為だから。


   誰に?


   あれ?
   それ、言わなきゃ駄目?


   自分でなさい。


   してもらいたいんだもん、良いじゃない。


   何が良いんだか。


   良いんだよ、恋人同士なんだから。


   意味が分かりません。


   そのままの意味で受け取って下さい。


   分からないのに受け取れません。


   じゃあ、分からなくても良い。


   何よ、それ。


   蓉子。


   何。


   行こう。
   やっぱ寒い。


   だから迎えに来なくても良いって言ったのに。


   来た方が一秒でも長く居られるじゃない?


   はいはい、然うね。


   間違ってない時は否定しない。


   …で。


   うん?


   それ。
   まさかとは思うけど直行?


   だって一度帰るの、面倒じゃない?


   然うだけど。


   ぶーぶでお迎え、の方が良かった?


   いいえ、別に。


   でしょ?


   何が「でしょ?」なんだか分からないけど。


   だって、ねぇ。


   繋がないわよ。


   こんな表通りじゃね。


   貴女の手、冷たいんだもの。


   手袋してるのに分かるの?


   …。


   分かる?


   …分かるわよ。


   じゃあ温めて?


   嫌。
   そもそもなんでいつもしてないのよ。
   一緒に買ったじゃない。


   かたっぽ、行方不明。


   …それで幾つ目?
   いっそばらばらでも良いんじゃない、貴女の場合。


   良いかも。
   でも、蓉子と逢う時はしない。


   …指先、赤い。


   今日は本当に寒いね。
   まさにお誂え向け。


   風邪、ひくわよ。


   そういえばさ、インフルさんが流行ってるみたい。
   うちの学校。


   高等部の方も?


   むしろ、そっちの方が。


   …然う。


   心配?


   貴女より、ずっと。


   ええ、それは一寸妬けちゃうなぁ。


   はいはい。


   …。


   聖。


   …ん。


   気をつけて。


   …はい。


   …。


   …。


   …蓉子。


   ん。


   今年は何くれる?


   さぁ。
   言ってしまったら詰まらないでしょう?


   それ、どっかのでこちんみたい。


   影響、あるかも。
   親友だし。


   えー。


   でも一番は貴女。


   私?


   自覚無し?


   もっと染まってくれないと。


   ばーか。


   あて。


   さ、早く帰りましょう?


   うん、帰ろ。
   楽しみが待ってる。


   さぁ、それはどうでしょう。


   待ってるもんね。


   だと、良いわね。


   然うだよ。


   ところで、聖。


   んー?


   そのお返し、どうするの。


   どうしようかな。


   ちゃんと返しなさい。


   私には蓉子がいるし。


   ならば、受け取らなければ良いのに。


   ん、やきもち?


   いいえ。


   それは残念。
   でもさ、蓉子。


   …何。


   私なんて所詮、練習台みたいなもんだから。
   本気の子なんて居やしない。


   分からないじゃない。


   分かるさ。
   蓉子みたいな表情じゃないもん。


   私みたいって。


   ふふ。


   聖。


   蓉子みたいな可愛い顔、してない。
   そういう顔は屹度、本命の為に取ってあるんだと思うんだ。


   …。


   これ、蓉子の影響。


   …ばか。


   でこちんの影響なんて吹っ飛ばせ。


   …何言ってるんだか。








   …。


   …。


   …ごきげんよう、江利子さま。


   ごきげんよう、志摩子。
   久しぶりね。


   はい。


   今年もやったの?


   はい。


   大盛況だった?


   はい、お陰さまで。


   私は何もしていないわよ。


   江利子さまは


   卒業したら。
   貰うこと、無くなったわね。


   …。


   アメリカ人ほどじゃないにしても。
   蓉子も私もそれなりには貰っていたのよね。


   …貰う事は無くても、差し上げたのでしょう?


   気になる?


   いいえ。


   それで貴女は?
   貰ったの?


   …はい。


   あの日本人形みたい子から?


   乃梨子の事ですか?


   そう、その子。


   はい。


   良かったわね。


   江利子さまも。


   私?


   令さまから。


   …あの子、律儀なのよね。
   今年もちゃりんこ、飛ばして来たわよ。


   ちゃりんこ、ですか。


   ええ、ちゃりんこ。
   でも息が切れないのは流石だわ。


   ふふ、然うですね。


   …。


   …。


   …行きましょうか。


   …良いのですか。


   何が?


   …お約束は


   無い。
   そもそもしてない。


   …。


   娘から貰うでしょう、屹度。


   …それで良いのですか。


   良いも何も。
   別にどうでも良いわ。


   …。


   これっておかしいかしら。


   …おかしくは無いと思いますが。


   乙女宜しく、手作りのでも渡した方が良いのかしらね。


   …。


   想像つかないって顔。


   …すみません。


   否定しないところが、あいつの妹って感じがする。


   …。


   面白いわよね。


   …何がでしょうか。


   聖と蓉子。


   …。


   適当なくせに、ちゃんと合わせる聖も。
   几帳面なくせに、ちゃんと合わせられる蓉子も。
   昔はあんなに喧嘩ばかりしてたのに。


   …寧ろ、だからなのでしょう。


   …。


   全てを分かり合うなんて事は出来ませんが。


   …ふ。


   …。


   志摩子。


   はい。


   私達は合わないわね。


   …然うですね。


   けど、嫌いじゃないのよ。
   こういう空気。


   …。


   貴女は?


   …私も嫌いではありません。


   然う。


   …。


   何か希望は?
   奢ってあげるけど。


   特にはありません。


   じゃ、そこらのジャンクフード。


   分かりました。


   …。


   …。


   冗談よ。
   そんなの、私が食べたくない。


   然う仰ると思っていましたから。


   …。


   …。


   貴女が考えていること、分かる気がしないわ。


   だからこそ、だと。


   …。


   …然う、思うのは私の我侭なのでしょう。


   …。


   …。


   ま、良いんだけれど。


   …はい。








   …そもそも。


   ん…。


   …蓉子が一番、なんだよね。


   …。


   チョコよりも、甘い。


   …止めて。


   お…。


   …。


   蓉子、蓉子さん、首が。


   嫌だっていつも言っているのに。


   …だって良い匂いなんだもの。


   わざとらしくしないで。


   わざとらしくじゃなきゃ、良いんだよね。


   …。


   ね?


   …然うよ。


   へへ…。


   …聖、だから。


   息をしているだけだって…。


   …。


   …ふふ。


   聖…くすぐったいから。


   この感触、良いなぁ…。


   …。


   蓉子のお腹はいつも柔らか


   …。


   …蓉子、痛いです。


   …。


   よーこぉ…。


   …だったら抓まないで。


   気持ち良いのに…。


   …もっと強くされたい?


   違うコトでなら大歓迎だけど…


   …。


   痛い、痛い。


   …こんなことなら、許さなければ良かったわ。


   えー…。


   バレンタインだからって…


   …蓉子はイベント好きだもんねー。


   うるさい。


   …いたい。


   …。


   ちぇ…。


   ……で。


   うん?


   …今年はどうだった?


   そりゃ、蓉子さんはいつだって


   然うじゃなくて。


   …勿論、蕩けさせて頂きました。


   …。


   私好みのハズなのに、凄く甘くて…。


   …。


   …虫歯になっちゃいそう。


   ……聖。


   甘い、甘い、私だけのお菓子…。


   …せ、い。


   もっと、食べたい…。


   ……も、う。


   …。


   さんざ、食べてるくせに…。








  −Hope Isolation Pray





   …聖。


   …うん?


   コーヒー、飲む?
   淹れてみたのだけど…。


   ああ。
   勿論、貰うよ。


   うまく淹れられているかどうか、分からないけれど…それでも良い?


   大事なのは。


   …。


   蓉子が私の為に淹れてくれた事、でしょや。


   …じゃあ。


   うん。


   …。


   それ、蓉子の分?


   …ええ。


   珍しい。


   たまには飲んでみようと思って。


   コーヒーを飲む事もだけど。
   何より。


   …?


   ブラックってあたりがね。


   …ああ。
   貴女の淹れてくれたのが美味しかったから。


   香りが良いって言ってたね。


   …でも、駄目ね。


   うん?


   私が淹れたのは…貴女が淹れてくれたのとは違う。


   …。


   …苦いだけだわ。


   美味しいよ。


   …。


   これが蓉子のコーヒーだから。


   …苦いだけよ。


   そもそも、苦いものだからね。


   …それでも。


   …。


   貴女が淹れてくれるブラックは…ん。


   …蓉子。


   聖…。


   …飲んだら、しよう。


   急に何を…ん、ん。


   ……。


   …待って。


   飲み終わってないから?


   …そうじゃなくて。


   じゃあ?


   …最近の貴女、ぼんやりしている事が多いわ。


   …。


   そうかと思ったら、難しい顔をして何か考えているようで…。


   …コーヒー、美味しい。


   ……。


   …蓉子こそ。


   ……。


   何か、考えてる。
   私以外の誰かの事を。


   …私は。


   ……誰。


   …。


   他に誰か気になるヤツでも


   聖。


   ……。


   …。


   ……。


   …ねぇ、聖。


   ん…。


   ……江利子。


   …あいつがどうしたって。


   …。


   …。


   …思えば、私はあの子の心配をした事があまり無かった。


   ……だから?


   ……。


   あいつは…詰まらなければふぬけて。
   いつだって自分を楽しませてくれるものを探してた。


   …ええ。


   それが令であり…由乃ちゃんだった。


   …だから。
   薔薇さまだった頃の江利子は…今思えば一番、楽しそうにしていたと思うわ。


   ……。


   …それが、今は。


   …。


   …江利子、山辺さんと別れるそうよ。


   …もう、飽きたって?


   違うとは言っていたわ。


   …どうだか。
   大方、自分のものになって


   聖。


   …。


   …もう少し、江利子の事を考えていたら。


   蓉子が考えて、あいつがどうにかなるなんて思えない。


   …。


   ましてや、他人がどうこう出来る事柄じゃない。


   …そうよ。
   だけど。


   …。


   …話を聞くぐらいなら、出来たわ。


   それだけだよ。


   …。


   …それにあいつは、いつだって。


   …。


   自分で決める。
   他人の言葉なんかで素直に動かされるヤツじゃない。


   …最後は結局、自分で決める。
   誰になんて言われようが。


   …。


   …分かるのよ。
   人は誰だって、最後には自分で決めるんだって。


   …うん。


   それでも、私は話して欲しかった。


   …話したんじゃないの。


   …。


   蓉子をわざわざ呼び出して、言ったんでしょ。
   熊と別れるって。


   …。


   それだけでも、良いと思うよ。


   …。


   蓉子。


   ……。


   栞の時の事、思い出してたら怒るよ。


   …!


   ……。


   …私。


   蓉子はお節介だ。


   …。


   …それが時に、誰かの傷を抉る事だってある。


   ……ごめんなさい、聖。


   …。


   聖…。


   …と言うか、さ。


   ん…。


   一緒にされたくない。


   …ごめんなさい。


   …。


   …あ、ん。


   ……ベッド。


   待って…まだ、飲み終わって…。


   …温くなってしまったコーヒーは飲めたもんじゃない。
   たとえ、蓉子が淹れてくれたものだとしても。


   あ…んん。


   …コーヒーの匂い。


   ……お願い、もう少しだけ。


   …そんなに。


   あ、ぃや…。


   …あいつが、心配?


   …。


   …。


   ……江利子、は。


   …。


   一人でも平気だと思ってた…。
   そう、一人でも…。


   …。


   …ねぇ、聖。


   …なに。


   志摩子…。


   …志摩子?
   志摩子がどうしたって?


   …。


   蓉子。


   ……何か、聞いていないの。


   何かって?


   …。


   どうして志摩子の事が、ん。


   ……。


   …蓉子。


   ……ここでは、いや。


   …。


   …あ。


   ……蓉子。


   だめ…ベッドに…。


   蓉子、蓉子…。


   …ねぇ、せい……。


   ……。


   …なにを、かんがえているの…。


   ……ようこのこと。


   うそ…。


   …どうして。


   ……。


   蓉子…。


   ……セックス。


   え…?


   ……してるのよね。


   …まだ、してない。


   でも、していくのよ…。


   …。


   ……これからもわたしは、聖と。
   聖とだけ…。


   …いやなの。


   ううん……聖じゃなきゃ、いや。


   …。


   いやなの…。


   …うん。


   だから……わたしは、わからないまま。


   …何を。


   …。


   蓉子。


   …江利子の、あッ。


   …そんなの、分かる必要があるの。


   せ、せい…。


   …あいつの事なんか、考えないでよ。


   まって、まだ…。


   …今、蓉子の中にいるのは私だけで良いのよ。


   ん、んん…ッ!


   ……。


   ……せ、い。


   …動かすよ。


   まって、まって…おねがい。


   …いやだ。


   んぁ…ッ。


   ……痛いのは、自業自得だよ。


   ……。


   …泣いたっ、て?


   …、……。


   …。


   ……し、て。


   ……。


   どうして、えりこは…。


   …まだ言うの。


   だって…!


   …。


   …。


   ……だって、なに。


   …だって。


   ……。


   …こんなに、あなたとするセックスは。


   …え。


   こんなに、こんなにも……。


   ……。


   …それなのに。


   …。


   ねぇ、聖…。


   …なに。


   私は、分からない…。


   …。


   …分からないけど、私は。
   あなたを、愛してるわ…。


   …。


   …愛してるの。


   …。


   ……言って、くれないの。


   …蓉子。


   ねぇ、言って……言って、聖。


   …分からないって言ったくせに。


   ……。


   …I love you、なんて。
   これほど、日本人には合わない言葉は無い。


   …。


   …あまり、好きじゃないんだ。
   最近、気が付いた。


   …。


   でも、蓉子…。


   …。


   …私には、蓉子だけだ。
   これからも、ずっと。


   …。


   …ずっと、傍に居て欲しいのは蓉子だけなんだ。


   ……せい。


   私が好きなのは蓉子だけなのに…それなのに。


   …それなのに。


   …。


   せい…。


   …なんでもない。


   いや。


   …。


   …私じゃない誰かを想って。
   私を抱こうとしているの、なら…。


   違う!


   …。


   …私はもう、蓉子だけなのよ。
   蓉子以外…誰も、いらない。


   ……。


   もう、誰も私の中に…。








    俺屍版の反動ってすごいですね。(他人事)