−なつのおもいで。(ういうい聖蓉)
…聖。
うん?
お待たせ…。
あ……。
…。
……。
…聖?
あ、いや…。
…。
その、自分で言ったんだけ、ど…。
…久しぶりだから。
う、うん、聞いた。
着るのに少し、時間が掛かってしまって…。
じ、自分で着付けするんだっけ?
…一応。
そっか。
…。
…。
……変、かしら。
え、どうして?
…だって、なんだか戸惑っているように見えるんだもの。
と、戸惑っているわけじゃ…。
…やっぱり着ない方が良かったかしら。
そ、そんなことない…!
…。
とても良く似合ってるよ!
綺麗だ…!
……。
…あ、れ。
…本当?
う、わ…。
…変じゃ、ない?
な、ない!
全然、ない…!
……良かった。
…。
…うん?
あ、あのさ。
うん。
予想以上だったから…その。
…。
……み、見惚れました。
…!
え、と…。
……ばか。
あ、うん…ごめんなさい。
…どうして謝るのよ。
だって…。
…変な人ね?
…。
…。
……え、と。
行く?
…ええ、そうね。
花火、きれいだと良いね。
…ねぇ、聖。
うん?
かなり混雑していると思うわ。
だろうね。
大丈夫?
何が?
…苦手でしょう?
…。
もしも
あの、さ。
…?
会場に行かなくても良いかな?
…どこに行くの?
花火は見える…と、思うから。
…。
あ、いや、やっぱり会場の方が良いよね。
…ううん。
蓉子…?
…聖が連れて行ってくれるところに、行きたいわ。
…。
花火、見えるのでしょう…?
う、うん…多分。
…なら、連れて行って。
…!
ね…?
…蓉子!
きゃ…。
…。
せ、聖、こ、こんなところで…。
……心臓、止まりそう。
え…?
…。
…。
……。
……聖。
…ごめん。
…。
あ、あのさ…。
…なに?
手、繋いでも…その、良いかな。
…。
い、良いよね。
…ん。
…。
…。
…じゃ、行こうか。
うん…。
…。
…。
…。
…ねぇ。
え、何…?
…。
蓉子?
…さっきから何も話さないから。
え、そうだっけ?
…。
えーと…。
…しなくても良いわよ。
え?
無理。
…?
無理をしてまで、話さなくても良いから。
無理なんか。
…。
と言うかさ?
蓉子も話さないけど、どうかした?
…私?
うん。
私は…聖が、話さないから。
それを言うなら、私だって…。
…私、何かしたかな、て。
何か…?
…聖を不機嫌にさせるようなこと。
…!
そんなこと…!
…でも、さっきから私を見ないようにしているわ。
そ、それは…。
…。
…さっきも言ったけど。
浴衣姿の蓉子は本当にきれいで…まともに見ようとすると、さ?
…。
髪型もいつもと違うし…その、特にうなじがね?
いつもはそんなに見えないし…白くてキレイなのは知って…るつもりだったけど、その…。
……聖。
え、な、なに?
その…恥ずかしいわ。
…。
…。
……うん、自分でも思う。
…。
は、はは。
…ふふ。
…。
…手。
離したくない。
…ん、離さないで。
…。
あのね。
う、うん。
…聖の手、好きよ。
……。
私のよりも少しだけ大きくて…指も長くて綺麗で。
それから…。
…それから?
少し…熱くて。
あ、熱い?
…ん。
そ、そんなに?
ううん、少しよ。
聖はきっと、少しだけ私より体温が高いんだわ。
そうなのかな…。
……だから、ね。
え…?
…残るの。
のこ、る?
…聖の熱が。
…!
…。
え、えと…。
…それが嬉しいの。
…ッ!
……。
……。
……聖?
あ、いや…。
どうしたの?
な、なんでもないよ。
けれど…。
なんでもないから。
でも、急に鼻を押さえたりして…
ちょ、ちょっと痒かっただけだから。
うん、なんでもない。
…そう?
うん、そうそう。
なんだろなぁ、急に。
もう、聖ったら。
でもなんでもなくて良かったわ。
は、ははは。
ふふ。
…。
…。
…。
……聖。
…なに。
…。
…。
…怒ってるの?
なんで?
…。
…。
…また黙っているし。
それに…顔が、少し怖いわ。
怖い…?
…。
…。
…
…あーー!
な、なに?
ごめん。
…。
確かに、不機嫌だったかもしれない。
ああもう、折角のデートなのに。
…私、何か
蓉子は悪くない。
…じゃあ、どうして。
…。
聖…?
……ちらちら、見てるんだ。
見て…?
振り返る奴もいる。
…。
手、繋いでるのに。
…ごめんなさい、聖。
言ってることが分からないわ。
…だから、さ。
うん…。
蓉子のこと、見てるんだよ。
…誰が?
野郎ども。
…そうなの?
気付かなかった?
…ええ。
あからさまな奴もいたけど。
…気付かなかったわ。
私がいなかったら絶対に、声を掛けられてた。
そんなこと、
ある!
…でもどうして私を
…。
…なに?
蓉子はさ、自覚がないんだよね。
自覚…?
すっごい美人だってこと。
……。
特に今は浴衣着てるから。
つか、蓉子のうなじを見るなっての。
…聖だって。
え?
見られてる。
私?
気付かない?
私じゃなくて蓉子を見てるんだよ。
絶対、そうだ。
ううん、そんなことない。
私には分かるわ。
違うよ、蓉子だって。
いいえ、聖よ。
蓉子。
聖。
蓉子だって。
聖。
だから私じゃなくて、
とても綺麗な人。
え…。
…とても、綺麗だわ。
…。
私、聖の顔が好き…とても、とても。
…。
…。
…顔だけ?
そんなわけ、ないじゃない。
…。
…。
…私は、さ。
…ん。
やっぱり蓉子を見てるんだと思うんだ。
…強情ね?
だって…。
…あ。
…こんなに美しいんだもの。
せ、せい…。
…誰にも見せたくない。
……。
蓉子は…私だけの恋人だから。
…もぅ。
そうだ。
蓉子、たこ焼き買おう。
たこ焼き?
うん、たこ焼き。
聖、たこ焼きが好きなの?
蓉子の孫と一緒に食べたんだ。
…祐巳ちゃんと?
ほら、蓉子が受験生だった正月に頼まれて祥子に行ったじゃない?
その時にね。
ふぅん…。
あの時は面白かったなぁ。
…。
ね、蓉子はたこ焼き、好き?
…普通。
普通?
…。
…蓉子?
でもどこで買うの?
聖が行こうとしているところにたこ焼き売ってるの?
ない、かなぁ。
じゃあどこで買うの。
え、と…。
やっぱり会場に行く?
そしたら多分、屋台があると思うけど。
混んでるから行かない。
…蓉子とゆっくり出来ないし。
じゃあどうするの?
…。
聖。
…ねぇ、蓉子。
何。
もしかして、怒ってる?
どうして。
別に怒ってなんかないわよ。
けど、言葉がきつい気がするんだけど。
気のせいでしょう。
…。
…。
…祐巳ちゃんの話をしたから。
いいえ。
……。
…。
……やきもち、だったり?
違います。
…。
…。
蓉子。
…なに。
へへ。
何がおかしいの?
なんか笑いたかったの。
…。
…へへ。
変な人ね…。
ねぇ。
…うん?
たこ焼きは今度にしよう。
…。
蓉子となら…いつ食べても美味しいし、楽しいと思うから。
……。
…祐巳ちゃんより、ね。
だから…。
…。
……聖。
だって私の恋人は、さ。
……。
蓉子だけ、だから。
…。
…だから。
聖。
ん?
…耳、赤い。
え。
…。
そ、そんなコトないさ。
…。
な、ないって。
…ねぇ、聖。
な、なに…。
…たこやき、いつか買ってくれる?
え…。
…駄目、かしら。
だ、駄目じゃない!
…。
そしたら一緒に食べよう。
約束。
…ん、約束。
…。
…。
…きれい?
ん、とても…。
…。
…きれい、だわ。
…。
…。
…でも蓉子の方がきれいだ。
…。
きれいだ。
…もぅ、ばかね。
…。
…。
よ
せ
…。
…なに?
あ、いや…蓉子から先にどうぞ。
…。
…。
…また、連れて来てくれる?
もちろん。
来年も、再来年も、ずっと。
…うん。
それで、聖は…?
わ、私は…
…。
…キ、キス、しても良い?
え…。
だ、だめ?
…花火が見られないわ。
そ、そうだよね…。
…。
…。
…聖。
蓉子…。
…。
…。
……約束、よ。
ん…?
…さっきのことと、たこ焼きのこと。
ん、約束…。
せい…。
…もう、一回だけ。
……ん。
−山百合長屋。
わぁ、今朝は鯵の干物かぁ。
…。
お新香は十八番の胡瓜の浅漬け。
味噌汁の具は…お、豆腐だ。
定番だね。
…。
じゃ、そんなわけで。
いただきま
と言うか、待ちなさい。
…あい?
なんで、貴女がうちに居るのかしら?
なんでって。
そりゃ、朝餉の時間だから?
やだなぁ、耄碌するには早いって。
ええ、然うね。
朝餉の時間よね、今。
でしょでしょ?
んじゃ、いただきま
…。
…うお。
私が訊いているのは。
なんで貴女がうちで朝餉を食べようとしているのか、よ。
なんでって。
そりゃ、同じ長屋の住人だから?
ほら、世の中持ちつ持たれつって言うじゃない?
貴女に関してだけ言えば。
持つ事はあっても、持たれる事は全く無いわ。
そんな事無いって。
此間だって、買出しに付き合ってあげたじゃない。
あれは貴女が勝手に付いて来たんでしょうが。
あまつさえ、自分の食べたいものまで買わせて。
買って呉れて有難う。
…。
ん?
…たまたま、私が食べたかったからよ。
も?
が。
…。
…。
うん、あれはついてたなぁ。
……。
ねぇ、それより早く食べないと冷めちゃうよ。
折角のあったかご飯なんだからさ?
…然うね。
じゃあ、ご飯を…。
わぁい。
て、違う。
え、何が?
今日こそは言うけれど。
たまには自分で作って食べなさい。
いつも言って無い?
私は貴女の給仕で無いのよ。
うん、そだね。
それから。
朝から他人の家に勝手に入らない。
だって蓉子は他人じゃないもの。
…は?
それに朝餉の時間だし。
…。
さ、食べよう食べよう。
……はぁ。
お椀は…
あ、こら、勝手に
あった、私専用のお椀。
いつから貴女専用のになったのよ。
忘れるくらい前。
……。
へへ。
…はぁ。
早く食べようよ、管理人さん?
…どれ位食べるの。
然うだなぁ、いつも通りで良いや。
あのね、管理人さんちの炊き立てご飯って美味しいから好き。
…あーはいはい、有難う。
味噌汁も好きだよ。
…。
お新香も。
…もう、良いから。
あ、然う?
……はぁ。
仕合わせ、逃げちゃうよ?
…誰のせいで。
私は仕合わせにしてあげる方だと思うなぁ。
自分で言っていれば世話無いわ。
本当の事なのに。
それより。
先々月の家賃、そろそろ払って欲しいのだけれど。
…。
先月、今月はどうせ未だだろうから良いわ。
え、良いの?
待ってあげるって意味よ。
…箸で人を指してはいけないと思うよ?
で、払うの?払わないの?
払わないのなら
蓉子。
…。
ご飯、今日もとても美味しいです。
…有難う。
でも、それは良いか
いっそ、夫婦の契り交わさない?
……は?
そしたら、私は毎日美味しいご飯が食べられるし。
家賃も払わなくても良いし。
まさに、一石二鳥。
……。
ね、蓉子。
然うしよ
聖。
…え?
殴られたい?
…。
うん?
……はい、ごめんなさい。
宜しい。
それで
……本気だったのに。
…聖?
あ、いや、もう少しお待ち頂けると…。
ふぅん?
……すみません、今月中には。
然う。
じゃあ、待ってるわ。
…はい。
−続山百合長屋。
見て見て、蓉子。
何よ?
忙しいんだけど。
これ、貰った。
…は?
お裾分け、ですって。
…どうしたの、その野菜。
だから、お裾分け。
誰から?
井戸端会議中の小母さま達から。
……。
挨拶したら貰っちゃった。
いやぁ、我ながらに受けが良いなぁ。
…どうせまた、へらへらしてたんでしょうに。
ね、蓉子、これあげる。
だから家賃
却下。
えー。
えー、じゃないでしょう。
えー、じゃ。
じゃあ、うー。
…ふざけてると、怒るわよ?
ふざけてないよ。
真面目も真面目、です。
私がこれを貰ったとしても、最終的には貴女のお腹に収まるでしょうが。
え、良いの?
は?
やった。
家賃がチャラになって、その上、ごはんの心配まで無くなった。
一寸、何勝手な事を
蓉子。
て、こら…
愛してるよ。
……。
と、言うわけで。
はい。
……聖。
うん?
これは要りません。
なんで?
貴女が貰ったんだから、貴女が自分で料理して食べなさい。
ううん、蓉子が料理した方が美味しいから。
は?
やっぱりね、美味しい方が良いじゃない?
…。
この野菜たちも美味しく食べられたいって。
いや、何を言っているのよ。
蓉子の煮物、美味しいよね。
あー楽しみ。
て、一寸…!
じゃ、後宜しく。
聖、待ちなさい!
あー、今夜の夕餉が楽しみだ〜。
聖…!
明日の朝餉も楽しみだな〜。
ごはんは、兎も角…!
家賃はちゃんと払って貰うから…!
−El niño salvaje(放浪記)
…。
…。
…あーあ。
…道路よね、此処。
Sí, claro que sí.
うん、勿論。
凄いわね…。
んー……。
…聖?
何してるの?
休めるトコ、探してんの。
バスの中では駄目なの?
ずっと座りっぱなしで疲れた。
足、伸ばしたい。
…。
こうなったらどんなに頑張っても先には行けないから。
あの濁流に飲み込まれたいなら別だけど。
ああ。
あ、あそこなんてどうだろう。
どこ?
あそこ。
丁度、日陰が出来てる。
うん、良いんじゃないかしら。
じゃ、あそこで休もうかね。
ええ。
日本に居た時、ゲリラ豪雨ってあったでしょや?
あったわね。
でも子供の頃はあんな酷い雨、無かったような気がするわ。
夕立くらいならしょっちゅうだったけどね。
然うね。
まぁ、それの凄い版ってとこかな。
うん?
あの川を作った原因。
へぇ。
ま、ゲリラもひどかったけどね。
冠水したし。
…亡くなる人も居たぐらいだから。
うん。
…あの流れに飲まれたら。
一溜まりも無いわね。
激流だからね。
…怖いわね。
凄いよね、自然って。
…。
守ろうなんて言うけどさ、実際は自分の身を守るだけで精一杯だよ。
…確かにね。
多分、二時間くらいは掛かると思うよ。
二時間?
あの流れが弱まるの。
…然う。
だから、暫しの休息時間ってね。
焦ってる旅でも無し、焦るわけでも無し。
詳しいのね。
ん?
…。
まぁ、伊達にふらふらしてたわけじゃないさね。
…。
初めての時は吃驚したけどね。
でもま、一人じゃ無かったし。
…誰かと一緒だったの?
今の状況と一緒さ。
今の?
みんな仲良く立ち往生。
…ああ。
待つしか無いんだ、こうなると。
…。
何?
…慣れているのね。
慣れてるわけじゃ、無いけど。
人間がどう足掻いたところで、自然には敵わないもの。
然うだけど…。
時間ならあるさ。
此処は日本じゃ無い。
…。
食べる?
え?
干し肉。
硬いけど、噛めば噛むほど味が出るよ。
…喉が渇くから。
うん、確かに。
じゃ、止めよう。
…ね、聖。
んー。
…。
蓉子?
……。
怖いだけじゃ、無いさ。
…?
雨、降らないと。
干からびちゃうしね。
動物も、大地も。
…うん。
幸い、嵐に遭ったわけじゃ無い。
それに。
…それに。
今は蓉子も居るし。
……。
退屈しない。
…一人が良かったくせに。
はは。
…。
…。
聖。
…。
聖、起きて。
…ん。
そろそろ良いみたいよ。
…弱まった?
みたい。
運転手が出発するから早く乗れって。
…ふわぁぁ。
んじゃ、行きますかね。
…。
ほら、蓉子。
…?
何?
お手を。
…。
ん?
…ありがとう、白薔薇さま。
でも
紅薔薇さま、お手を。
…。
さぁ。
……ありがとう。
De nada.
どういたしまして。
…。
ごめんね。
…え?
寝ちゃって。
…おかげで退屈だったわ。
おまけに寄り掛かってたみたいで。
重たかった。
これでも日本に居た頃より軽くなったんだけどね。
…。
はい、ごめんなさい。
…。
蓉子が気に病む事では無いよ。
…腕、細くなったわ。
腕だけじゃない…。
うん。
…。
だから。
…私が一緒に居る以上、ちゃんと食べてもらうから。
…。
もらうの。
…その為には。
これ、が無いとね。
…。
ま、そこら辺もぬかりは無さそうだけど。
あ、でもさ、一緒にバイトなんかしてみる?
タコス屋かなんかで。
ええ、良いわよ。
食費、浮きそうだし。
お。
ちゃんと働いてもらうから。
…余計なコト、言っちゃったかな。
長い目で見たら、必要な事だから。
…。
…然う、必要な事だわ。
長い目、ね。
…。
あーあ、やっぱ余計なこと、言っちゃったなぁ。
……。
−Sólo si...(放浪記)
…。
…。
…一人だと心配するくせに。
…え。
独りじゃないと、複雑な顔をする。
…何の話。
独占欲の話なのかな、これって。
…聞いているのは私よ。
然うですね。
…。
さっさと嫁にでも何でも行けば良かったのに。
…何を言っているの。
その気になれば、幾らでも相手は見つかっただろうに。
聖。
そしたら今頃、子供を抱っこなんかしちゃってたかも知れないのに。
聖!
…。
私は
私ら以外はじいちゃんと子連れのおっさんと運転手ぐらいしか、乗って無いけど。
大きな声を出すのはどうかな。
……。
私が独りで安心した?
…私は
ねぇ、した?
……。
…蓉子の子、一寸だけ興味があったよ。
蓉子に似てる女の子とか、さ…。
…。
目の辺りとか、そっくりでさ。
でもってやっぱり
…しないでよ。
…。
そんなの、勝手に想像しないで。
…。
…。
蓉子。
…。
向こう、暗い。
ほら。
…雨雲でしょう。
雷も混じってるかな。
…。
見ないの?
…見てどうするの。
見なよ。
嫌よ。
見てよ。
どうしてよ。
どうしても。
…見ないわ。
…。
…ッ。
…見ろって言ってるのよ。
……せ、い。
…。
…これでは外が見えないわ。
……。
見ろと言ったのは…貴女よ。
…見ないと言ったのは誰かな。
…。
…。
…止めて。
何を。
…。
私は蓉子に、何をしていると言うの?
…あ。
ねぇ、蓉子。
……。
…。
ん…。
……。
……どうして。
別に。
…。
なんか、腹が立ったから。
…別にじゃないわ。
然うかもね。
…。
どうせ、気にもならないよ。
私達が喋ってる事だって分からない。
…。
帰りたくなった?
…聖。
いつでも
唇が、荒れてる。
……は?
痛いでしょう、それでは。
…あのさぁ、蓉子。
貴女は無頓着だったから。
…。
だから…。
…触るな。
…。
むかつく、そういうの。
…。
…いつまでも保護者気取りなんだよね、蓉子はさ。
保護者…。
保護者なら、要らない。
そんなもの、必要無い。
私は保護者だなんて、
自覚が無いから面倒なのよ、紅薔薇さまはさ。
…!
学生時代の時から、いつもいっつも。
栞の時も然うだった。
違う、私はそんなつもりじゃ
そのくせさ。
私が独りだと……安心したような顔、するのよ。
違う…!
違わない。
違う、違う…!
違わないよ。
私が誰のものにもなってない事が、蓉子にとっては
お願い、止めて。
止めない。
その優等生面、滅茶苦茶にしてやりたいから。
う、あ…。
…蓉子。
せ、い…。
私はそんな蓉子は、保護者ぶった貴女なんて…要らないの。
…ッ。
顔も見たくない。
……。
だからさ…もう二度と、私の前に現れないでよ。
……。
……。
……。
……冗談だよ。
…。
…。
…。
…あの、さぁ。
…。
あんなに聡かった紅薔薇さまがこんなだと、拍子抜けするんだけど。
おまけに泣きそうだしさぁ。
…。
お得意の論理武装は何処に行っちゃったのさ?
……。
それとも何?
私と離れてたせいで、無くしちゃった?
…!
でもま、こんな蓉子も…ぐ。
……佐藤、聖。
ま、待った待った。
これはちょぉっと苦しいかなぁ?
…私がどんな気持ちで。
そんな事言われても
然うよ、分かる筈なんて無いわよね。
他人だものね、私達。
うん、分かんない。
…。
ぐぇ。
…このまま、絞め殺してあげましょうか?
い、いやいや、それは…ね?
…。
蓉子、目がこ
¡ Tanta!
ばか!
…。
……。
…や、蓉子さん。
それはどうかと…ほら、大注目されちゃってるよ、私達。
¿ Qué es ?
それが何よ。
Pues, así que...
Vamos a hablar japonés, ¿ no ?
いや、だから…日本語で話そうよ、ね?
Tú también hablas español.
あなただって話してるじゃないの。
あ、や、これはつい釣られたと言うか…。
何がつい、よ。
どこまで行っても日本人のくせに。
目、目が据わってますよ。
…あれが、本音のくせに!
…。
……でも、絶対に消えてなんかやらないわ。
やらないんだから…!
あー…うん。
……ひとりになんて、させないわ。
分かった、分かってるよ。
…絶対、に。
だから…あーもう、参ったなぁ。
……。
−Whiz Kid
…え、と。
何よ!
いや、それはこっちの台詞なんだけど。
ごめんなさいね、急に呼び出したりなんかして!
それ、全然謝ってるように聞こえないんだけど。
て言うか!
…。
なんで、志摩子さんがいるのよ!!
なんでって。
私が呼び出したのは祐巳さんだけなんだけど!!
そう言われても。
ねぇ?
ごきげんよう、由乃さん。
ごきげんよう、しま…じゃ、ねぇーーー!
今日はたまたま志摩子さんと買い物に行く約束をしてたんだもん。
は、いつ?!
いや、だから今日。
いつ約束したのかって、聞いてるの!
由乃さんも誘ったよ。
あ?
ねぇ、志摩子さん。
ええ。
メールも送ったけど、電話もしたじゃない。
忘れちゃったの?
……。
そしたら由乃さん、用事があるからって。
確か令さまの…て、そうだ。
…。
こんなとこにいても、良いの?
今日は
だぁぁ!
わ、由乃さんが壊れた。
壊れてねぇぇぇ!
あと、志摩子さんも一緒だけどいい?ってちゃんと返したじゃない。
はぁ、いつ?!
だから、その後。
電話だと凄いイキオイだったから、メールで送ったんだけど。
メール?!
うん。
…ほら。
………。
ね。
で、返ってこないから良いのかと思って。
まさか、いけなかったの?
…。
…もしかして、志摩子さんに言えない話だった?
分かった、志摩子さんの誕生日が近いからサプライズとか?
由乃さん、そういうの好きだもんねぇ。
だったら、私は聞かない方が良いのかしら。
そうかも。
なんだ由乃さん、それならそうと最初から
いけなくないわよ…!
と言うか、うっかり飛んでたわよ、もう!!
ええー。
それは今度にするわよ、祐巳さん!
ラジャー。
でももう、バレちゃってるけど。
…つか、志摩子さん!!
なぁに?
どこが良いの!?
…どこが?
そうよ!
…これ、そんなに変だったかしら。
ううん、志摩子さんにとても似合ってると思うけど。
確か、乃梨子ちゃんに貰ったんだよね。
ええ、然うなの。
去年の誕生日に
ブルータス、お前もか!
…やっぱり、壊れてるよね。
何かあったのかしらね?
乃梨子ちゃんとどうなってるのよ!
うん?
の、り、こ、ちゃ、ん!
乃梨子は元気だけれど…ああ、そうそう。
この間、奈良に
そうじゃないわよ!
と言うか、由乃さん。
何よ…!
とりあえず落ち着こうか?
私は落ち着いて
はいはい、由乃さん。
ちょ、祐巳さ…
息を吸って…
……。
……吐いて。
……。
もう一回、吸って…。
…。
…吐いて。
はい、すっきり。
……。
それで、どうしたの?
急に呼び出すから何かあったんでしょう?
……うん。
私が居ない方が話しやすい事かしら。
……なんで。
多分、私と無関係ではないと思ったから。
どういう事?
それは……ね、由乃さん。
……。
じゃあ、祐巳さん。
私は…
…いて。
うん?
志摩子さんも。
隠すの、いやなの。
…。
……親友だから。
然う、分かったわ。
でも、本当に良いの?
…。
由乃さん、良い?
…ごめん、志摩子さん。
いいえ。
ごめん、祐巳さん。
ううん。
……。
あのさ、もしかしてだけど。
昨日、家に帰ってない?
…どうして。
そんな気がしただけ。
そうね、私もそんな気がしたわ。
……うん、帰ってない。
どうして?
話せる事なの?
………いたの。
え?
うん?
……江利子さま、の。
…江利子さま?
…。
部屋、に……泊まった、の。
え、江利子さまの?
…然う。
で、でも、好きで泊まったわけじゃないのよ!
昨日は雪が降って、電車も
でも、ずっと止まってたわけじゃないよ。
だ、だから…
由乃さん。
な、なに…。
親友でも、話して良いこと、話さない方が良いこと、あると思うんだ。
……。
その話はしても良いと思う?
……。
でもこれはあくまでも私の勝手の想像だから、間違ってたら言ってね。
…祐巳さん。
ん?
蓉子さまみたいだわ…。
そうかな。
蓉子さまには全然、敵う気がしないよ。
今でも。
…ううん、紅薔薇特有のどっしり感があるわ。
ありがとう。
で、由乃さん。
……。
確か、帰ってないって言ったよね?
…うん。
だったら、鏡も見てない?
…鏡?
言い辛いけど……ここ。
え…。
赤く、なってる。
…ッ!
私が言うべきことじゃ、ないかも知れないけど。
……あの、女!
……。
由乃さん、落ち着いて?
…う、ん。
兎に角。
昨夜は由乃さんは江利子さまの部屋にいた。
間違いないんだね?
…ない。
でも、どうして?
…令ちゃんが呼び出されて。
でも令ちゃん、行けないから。
困りながら私に言うから…。
…。
……令ちゃんが、悪いのよ。
令さまは由乃さんに頼んだの?
……。
由乃さんはちゃんと分かってる、違う?
…。
でもそれくらい、傷付いたんだ。
…きずつく?
これもただの私の想像。
……。
志摩子さん。
…然う、ね。
…。
あの方は、そういう方だから。
そんなの…!
乃梨子とは、なんでもないわ。
…え。
そうなの、志摩子さん?
ええ。
そして今日、言うつもりだったの。
二人に。
…。
…江利子さまの時のように?
……ええ。
…志摩子さん、は。
あいつと選んだの。
…違うわ。
じゃあなんで…!
好きだから。
…。
…愛しているから、離れたのよ。
意味が分からない…!
それ、矛盾してるんじゃない?
…ええ、然うね。
でも…もう、決めた事だから。
い、つも…!
…後だね。
…。
いつも、いつも…江利子の時だって!
親友だからって、全てを相談して欲しいなんて言えないけど。
けど、少し淋しいような気がするな。
……ごめんなさい。
そんなに…そんなに、あいつが好きなの?
あんな…壊れてるあいつのどこが良いのよ!
由乃さん、それは由乃さんが決めることじゃないよ。
だって…!
志摩子さん。
…祐巳さん。
志摩子さんのそんな顔、初めて見たよ。
…どんな顔、してるのかしら。
見てみる?
…ううん、止めておくわ。
そっか。
……。
でもね、志摩子さん。
私は、私たちは志摩子さんの友達だから。
ずっと。
…。
友達ってさ、損な役回りだろうと引き受けるものだから。
私は志摩子さんのそれなら、良いかな。
いつでも。
…ありがとう、祐巳さん。
もちろん、由乃さんのも。
……。
……でも。
うん?
何かしら。
乃梨子ちゃんと、その、もうなんでもないなら。
それ、さ…。
これ?
やっぱり、似合わない?
いや、そうじゃなくて。
志摩子さん、由乃さんは誤解してるんじゃない?
誤解?
ああ、然うね。
は、何の話?
私、乃梨子とは恋人同士になっていないの。
始めから。
………え?
ああ、やっぱり。
て、祐巳さぁぁん!
だってそんな話、一度だって志摩子さんから聞いた事なかったじゃない。
……。
乃梨子は…大事な妹よ。
今でも。
で、でも、なんでもないって!
祐巳さんもそうなのって!
ええ、由乃さんが思っているような事はないわ。
だって志摩子さんがそう言うから、そう返したんだけど。
は、はぁ…?!
…でも、然うね。
私の言い方が悪かったわね。
それ、なんだけどさ。
離れたってどういう意味?
もう姉妹じゃないの?
…乃梨子が然う思っているのなら、然うね。
じゃあ、志摩子さんはどういう意味で?
距離を取ったのよ。
距離?
そう…距離。
じゃあ、解消したわけではないんだ。
…ずるいかしら。
乃梨子ちゃんは志摩子さんのこと、大好きだから。
そういう意味ではずるい。
…。
けど、江利子さまの方がずるい気がするかな。
…ふふ、祐巳さんは凄いわね。
そう?
ええ。
……私、志摩子さんが分からない。
…。
志摩子さんの好みが、特に。
ふふ、然うかも。
て、祐巳さん、笑えないから。
あーあ…。
ねぇ、由乃さん。
…あに。
私、やっぱり由乃さんのこと、好き。
……あ?
これからも…友達でいてくれる?
な、な…。
志摩子さん、私は?
勿論、祐巳さんも好きよ。
これからも友達でいてね。
もちろん。
ねぇ、由乃さん?
……あぁぁ、もう!
当たり前でしょ、そんなの!
そう…良かった。
……ああもう。
ほんっと、分かんない。
分かんないと言えば。
由乃さん、大丈夫なの?
……なにがー。
令さまが特に心配されていると思うんだけど。
携帯に連絡、来てるんじゃない?
……。
見てないの?
…そういえば携帯、電源落ちてた。
あらら。
でも落とした覚え、は…
…そういう方だから。
………でこちんんんん!!
小話30の「Strange Medicine」の続き。
受け継がれる紅薔薇の貫禄。
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