−いっそ、ダメップルと呼んでも良いかしら?(聖蓉)





   聖。


   …ん。


   眠いの?


   ……うん。


   横になる?


   …。


   …掛けるもの、持って来るわね。


   だめ。


   …?


   このまま。


   でも横になるのなら何か掛けないと。
   それかベッドに…


   …このままで、いい。


   けどね、聖。
   このままだと私が重いのよ。


   …。


   それにこの姿勢だと、首が痛くなるかもしれないわ。


   …。


   聖。


   さむくない…。


   …そりゃあ、ね。
   でも扇風機をかけているから…。


   …ねよ。


   …?
   なに?


   …ようこも。


   私は眠くないもの。


   ……。


   兎に角、持ってくるから。
   身体を起こして。


   …。


   私が退けたら直ぐに横になっても良いから…あ。





   ゴツッ。





   …。


   ちょ、一寸、大丈夫?


   …だめ、かも。


   何で反対側に倒れるのよ。
   床に頭、ぶつけなかった?


   ねむくてバランスが…。


   ああ、もう。
   しっかりして。


   ……。


   そんなに眠いのなら、どうしてもっと早く言わないのよ。


   …だって。


   子供じゃないんだから。


   …どうせ、おもたいですよ。


   ……。


   ……ふん。


   …ああ、もう。


   ……あぁ、ねむ…い。


   枕、要る?


   …。


   聖。


   …。


   …不貞寝ってわけね。


   …。


   そのままだと腕が痺れるか、首が痛くなるわよ。


   …。


   重たいって言ったのは謝るわ。
   でもね、ずっと凭れられていると言うのも結構きついのよ?
   嫌では無いとは言え、ね。


   ……わかってるよ。


   …。


   …でもようこのそばがよかったんだよ。


   ……貴女は私が居ないと駄目なのね。


   ……。


   と、江利子が言っていたけれど。
   そうなのかしらね。


   ……。


   とりあえず、お腹に何か掛けないと。
   冷やしたら大変だから。


   ……ん。


   それから。
   仕方が無いから膝、貸してあげるわ。


   ……。


   でも。


   …?


   ちゃんと、貸し賃は貰うから。


   ……ごはん、つくります。


   宜しい。


   ……あつい、な。


   でも冷房を強くするのは嫌でしょ?


   ……。


   聖?


   ……。


   …ま、確かに。
   暑いと何かをしなくても疲れるものだしね…。








  −12歳。(聖蓉)





   何、見てんのー?


   …ああ、聖。


   なになに、写真?


   懐かしいのが出てきたの。


   蓉子の?


   うん。


   わぁ、聖さんも見たい。
   見せて見せてー。


   はい。


   わぁい。
   ……んー、これはもしかして?


   中等部入学式の当日に撮ったものよ。


   わぁ、蓉子ってば幼いーかわいいーー。


   …小学生の時の感想と変わりないのだけど。


   だって、かわいいよー?


   …まぁ、確かに。
   ほんの一寸前までは小学生だったし、仕方ないけれど。


   あー、今こうして見ると本当にかわいいなー。


   あげないわよ?


   じゃあ、ネガを。


   ばか、無いわよ。


   えへへ。
   …でも、そっか。


   うん?


   蓉子も、撮ったんだ。


   …聖も?


   …さぁ、どうかな?


   見せて。


   今?


   そう、今。


   あると思う?


   …。


   けどほんっと、かわいいなぁ。


   …ずるい。


   ははは。






   ・






   …聖?


   あ、蓉子…。


   何?


   いや、別に…


   何かを見ていたでしょう?


   ……良く見ていましたね。


   たまたま見えただけ、よ?


   …ん。


   見て、良いの?


   …蓉子だし。
   見たい、って言ってたし。


   ……あ、これ。


   …まぁ、そんなわけ。


   やっぱり聖も撮っていたのね。


   親が、ね。
   私としてはどうでも良かった。


   …ふふ。


   なに?


   そんな顔、してる。


   …でしょ?


   ええ。


   かわいくない、よねぇ。


   かわいいわよ。


   …え。


   こうして見ると聖も幼かったのね。
   あの頃はもっと…。


   ……もっと、なに?


   きれいで…私よりずっと、大人のように見えたの。


   …アメリカ人、じゃなくて?


   江利子じゃないんだから。


   ……そっか。


   でも然う、貴女も同じ場所で…。


   奇遇、だねぇ。


   同じクラスにもなったし。


   ねぇ。


   ……。


   蓉子?


   …ううん。
   ただ、少し…。


   …まさか数年後に“こうなる”なんて、ね?


   ……本当、ね。








  −中等部一年李組。(蓉子、聖、江利子)





   …蓉子さん?


   …え。


   ちゃんと聞いてた?


   …ごめんなさい。
   えと、何でしたっけ。


   …まぁ、良いわ。


   ……。


   やる気は、あるのよね?


   え、ええ、勿論。


   顔が少し、青いようだけれど?


   顔…?


   蓉子さんの。
   青白いように見えるわ。


   ……。


   プリント。
   私が集めて持って行くわ。


   あ、でも


   良いから。
   あと、具合が悪いのなら保健室に行ったら?
   場所、もう知ってるでしょう?


   …。


   保健委員、呼んであげましょうか?


   …大丈夫。
   一寸、寝不足なだけだから。


   寝不足?
   試験前でも無いのに?


   …最近、少し眠れなくて。


   ふぅん。
   …そうだわ。


   江利子さん、私も


   そこの、“聖さん”。


   ……。


   丁度良いわ。
   蓉子さんを保健室に連れて行きなさい。


   え…。


   …どうして私が。


   面倒だから、クラス委員命令。


   は?


   嫌なら保健委員を連れてきて。


   ……。


   江利子さん、私は


   先生には適当に言っておくわ。
   じゃ。


   あ、江利子さ


   ……。


   ……聖、さん。


   …面倒。


   ……。


   ……。


   …私は、大丈夫だから。


   …ああ、そう。
   なら私はどうでも良いわね。


   ……。


   ……。


   ……。


   ……はぁ。


   …?


   顔、青白いのよ。


   …。


   さっさと行った方が良いわよ。


   ……ええ、そうね。


   …。


   じゃあ…


   …ちょ、


   …。


   …蓉子さん。


   ……ごめんなさい。


   …。


   …。


   …はぁ。
   場所は?


   ん、大丈夫…ありがとう。


   ……そ。


   ……。


   蓉子さん。


   …うん?


   …。


   聖…さん?


   …面倒、なのよ。


   ……ごめんな


   “江利子さん”、が。








   ……。


   …貧血。


   ……。


   ……寝不足。


   ……。


   ……。


   …あの。


   ……。


   ごめんなさい…。


   …。


   それから…ありがとう。


   ……言ったでしょう。
   面倒、だって。


   ………うん。


   寝てれば、マシになるようだから。


   ……。


   …。


   …ねぇ、聖さん。


   ……。


   聖さんは…その。


   …。


   ……ごめんなさい、何でもない。


   ……薬。


   …。


   そういうの、あるんじゃないの。


   …そう、なのかな。


   残念ながら。
   ここには無いわよ。


   …。


   …。


   あら、邪魔になっちゃった?


   そ、そんなことは…。


   …。


   水野さん。


   …はい。


   無理、しては駄目よ?


   ……。


   これは病気では無いけれど。
   放っておいて何とかなるなら、誰も苦労はしないわ。


   ……はい。


   まぁ、未だ慣れないかも知れないけれど、徐々にそれとの付き合い方も分かってくると思うから。
   それから周期、今は安定していないだろうけれどいずれちゃんと安定する筈だから。


   …。


   佐藤さん。


   …。


   黙って行こうとしない。
   お友達、でしょう?


   …。


   心配じゃなきゃついて来ない、でしょ?


   …!


   とりあえず。
   保健室
〈ココ〉には飲み薬は基本、置いていないから。


   …。


   …。


   少し休んで、どうしても駄目そうなら帰りなさい。


   …でも


   貴女は重いようだから。


   …。


   今回のような事が出来るだけ無いように、ちゃんと考えなさい。
   自分の躰の事を本当の意味で考えてあげられるのは結局、自分だけなのだから。
   でも一人で考えたところでどうにもならないと思うから、周りの人にも相談すること。
   良い?


   …はい。


   私でも良いし、話しづらければお母さんでも良いわ。
   それから……佐藤さん。


   …。


   貴女も聞いてあげてね?
   若しも、の時は。


   …私は


   未だでも、既にでも。 
   話を聞くだけなら出来るでしょう?


   …。


   …。


   はい、とりあえず話はお仕舞い。
   授業、始まるわね。
   佐藤さんは戻っても良いわよ。


   …。


   水野さんは少し眠りなさい。
   楽になると思うから。


   …はい。


   …。


   聖さん。


   …。


   …ありがとう。


   ……いいえ。








   …。


   …。


   …蓉子さんは?


   …さぁ。


   …。


   …気になるなら、行けば。


   …。


   …。


   『…ふん』








  −私がオバさんになっても。(聖蓉)





   あ。


   あ?


   ……。


   聖?


   おはよう、蓉子!


   ……おはよう。


   今日もきれいだね。


   ありがとう。
   …で?


   で、て?


   あ。


   あ?


   って、言ったでしょう。
   今。


   はい、言いました。


   何?


   ヨーグルト、切らしていたから買いに行こうかな、と。
   一緒に行こうね。


   …あるわよ、ヨーグルトは。


   ……。


   封を開けていない買い置きが一つ。


   …そうだっけ?


   そうよ。


   ……んー。


   聖。


   あ、ヨーグルトに入れるブルーベリー酢が無いんだった。


   ……酢、ねぇ。


   無いでしょ?


   ……確かに。
   買い置きは無いわね。


   じゃあ、買い置かなきゃ。


   …。


   お休みだし、天気も良いし、二人でお買い物に行こ?


   それは、良いけど。


   じゃ、決まりー。
   先ずはごはんごは


   つまみ食い禁止。


   …あつあつたまごやきー。


   顔を洗ってから。


   …あーい。


   髪の毛、後ろがはねてる。


   うぃー。


   ……。


   今日はー買い物したらーそこら辺をぶらついてー…


   聖。


   んあー?


   で、何?


   …あ?


   あ。


   あ?


   何か…然うね、何かに気付いてしまったような反応と言うのかしら。


   …。


   私を見て言ったわよね?


   ……。


   何?


   ……んーーー。


   寧ろ、然う言う態度で居られる方が気になるのよ。


   ……。


   聖。


   分かった。
   んじゃ、言う。


   うん。


   ……。


   …言いづらいコト?


   …蓉子、気にするかなって。


   と言う事は、あんまり良い事では無いのね。


   …。


   それで?


   …髪の毛。


   髪の毛?


   ……白いのが、あった。


   ……。


   …一本だけ、ぴろんってなってた。


   ……なるほど。


   でも!
   私は全然、気にしないから。


   うそ。
   気にしてるくせに。


   ……。


   若しかしたら、私以上に。


   ……蓉子。


   貴女は若い子の方が好き?


   はい?


   好き?


   そんなコト、無い!


   あら、そんなに力強く断言しちゃっても良いのかしら?


   良いの!


   ぽけっと見ているコトもあるくせに?


   だ、だからそれは…!


   はいはい。
   どうせ、覚えていないものね。


   蓉子に似てるから!


   …はい?


   蓉子に似てるなぁ…て。


   …。


   ……だから、その。


   嘘じゃない?


   嘘じゃないよ。


   …私に似てれば誰でも良い?


   なんでそうなるのさぁ…!


   ふふ、ごめんなさい。


   …むぅ。


   むくれないで?


   …。


   でも、そっか。


   …?


   とうとう、貴女に見つかっちゃった。


   ……え。


   正直、初めてじゃないから。


   ……そうなの?


   然うなの。
   ……ショック?


   ……少し。


   あらあら。


   …。


   貴女がそんなに落ち込んでどうするのよ。


   …だって。


   本当なら私の方がショックなのよ?


   ……。


   貴女は腹が立つくらいに、変わらないし。


   ……へ?


   ほっとんど、変わってないじゃない。
   若い頃と。


   …ええ、と?


   なのに私は年相応になっていくでしょう?
   この気持ち、分かる?


   でも蓉子は綺麗だよ。


   て、貴女は言うけれど。
   やっぱり昔とは違うのよ。


   けど、それはそれで良いんだよ。
   私は今の蓉子が一番好きだよ。


   …本当?


   本当本当!


   じゃあ、若い子に走らない?


   なんでそうなるのさー?!


   だって、心配なんだもの。


   …。


   落ち込んだ?


   …そんなに信用ないんだ。
   ずっと一緒に居たのに…。


   信用が無いのでは無いのよ。


   …でも


   ただ、心配なだけ。
   勝手に心配して…と言うより、しちゃうのよ。


   …やっぱり信用が


   だから然うじゃなくて。


   …。


   人間って、改めて面倒よね。


   …?


   仕合わせ、なのに。
   それでもどこか不安があって、それは消えてくれない。


   ……。


   おかしいわよね。
   もう何年も、それこそ夫婦同然に一緒に暮らしてきたのに。


   ……。


   いっそ、貴女もそれなりになってくれれば良いのに、なんて。
   思ってしまうのよ。
   …それはそれで嫌なくせにね。


   ……蓉子ぉ。


   …さて。
   貴女の「あ」が分かったことだし。
   朝ごはんにしましょうか。


   うん…。


   聖。


   んー?


   後ろの髪の毛、未だはねてる。


   あい。


   …あと。


   うん。


   好き、って言って。


   …。


   私の事


   好き。


   …うん。


   蓉子。


   うん?


   好きだよ。


   ……うん。


   ずっと、好き。


   …。


   愛してる。


   ……聖。


   ずっと、ずっと


   …気持ちは嬉しいけど。


   大好き。


   …そういうのは一回、言ってくれるだけで良いのよ。
   その方が重みが


   でもいっぱい言いたい。


   ……。


   ……好きだよ。


   ……もう。








  −1.5センチメートル。(聖蓉)





   蓉子って。
   足のサイズ、幾つだっけ?


   …いきなり、なに。


   いや、改めて確認、みたいな?


   …23.5、だけど。


   やっぱり。


   満足?


   じゃあさ。


   …?


   足、出して。


   …は?


   出して、足。


   …意味が分からないのだけど。


   だから、足を…こう。


   ……で、どうするの。


   重ねるの。


   ……なんで?


   くらべっこ。


   …貴女の方が大きいじゃないの。


   サイズ的にはね。


   サイズ的にも何も、現に大きいでしょう。
   1pも。


   だから、本当かどうか比べてみようと思って。


   ……。


   わ、物凄くどうでも良さそうな顔。


   どうでも良いわよ。


   まぁ、そう言わず。
   ほれ。


   ……。


   だいじょーぶ、水虫じゃないから。


   …あのねぇ。


   さ、蓉子。
   蓉子も早く早く。


   …素足?


   が、良いなぁ。


   ……。


   さ、蓉子。
   カモーン。


   …でも、どうして?


   したいから。


   …。


   知ってるでしょ?


   …たまにはちゃんとした理由、無いの。


   したいって言うのもちゃんとした理由だと思うけどな。


   …。


   だめ?


   ……素足で、よね。


   うんv


   ……。


   あれ、どこ行くの。


   …洗ってくる。


   へ。


   …なんか、嫌じゃない。


   それは不潔って言う意味で?


   …何となく、気持ち的に。


   ふぅん。


   …。


   じゃ、私もそうしよ。


   …。


   ふんふーん。


   …ごきげん。


   うん、ごきげん。
   蓉子も、ごきげんよう?


   …はいはい、ごきげんよう。








   蓉子さん。


   …。


   準備、オッケイ?


   …凄く、楽しそうね。


   うん、楽しい。
   ほら、ごきげんだし?


   …。


   じゃあ、改めて。
   ほい。


   …この姿勢なの?


   他の方が良い?


   …他の。


   床にくっつけたままでも良いけどさ。
   やっぱ、浮かせた方が重ねたって気がするじゃんね?


   聞かないで。


   蓉子さん蓉子さん、早く早く。


   ……んもう。


   にひひ。


   ……。


   …あり?


   …。


   うーん…。


   …。


   うまく、重ねられないね?


   浮かせてるんだもの。


   いや、そんなコト無い。
   蓉子、もっと寄って。


   …素直に床につけて重ねれば良いじゃない。


   いや、浮かせて重ねたい。


   強情。


   さ、蓉子。
   レッツトライ、アゲイン。


   …トライってもんじゃ無いでしょ、もう。


   んー…。


   …。


   …お。


   …。


   おーーーーー。


   ……満足?


   蓉子、うまく重なったよ。
   ほらほら。


   はいはい、良かったわね。


   しし。


   もう、良い?


   ねぇ、蓉子。


   …なに。


   重なった。


   そうね。
   良かったわね。


   ……。


   と言うか、やっぱり貴女の方が大きいわね。
   当たり前だけど。


   うん、本当。


   …。


   蓉子の足、小さいな。


   小さいってほどじゃないけど。


   でも私より小さい。


   身長差もあるし。


   うふふ。


   …にやにやして。
   何がそんなに楽しいのかしら。


   気持ち良い。


   …は?


   気持ち良いじゃない。


   …そう、かしら。


   だってさ。
   躰を重ねるコトはあっても、足の裏を重ねるコトって無いじゃない。


   …普通、無いわね。


   大体、寝っ転がってる状態だと出来ないし。


   …お互いに足を向けて寝転がれば出来ない事は無いわよ。


   それじゃ抱っこ出来ないじゃん。


   …。


   だから。


   …くすぐったいだけだと思うけど。


   そこが良いんだよ。


   ……聖。


   んー?


   若しかして、だけれど。


   うん。


   比べる事より、重ねる事が主だった?


   …えへ。


   ……。


   あ…あー。


   全く。


   蓉子、もう一寸重ねてよーよぉ。


   もう十分でしょ。


   未だ、あともう少し。


   それに疲れる。


   筋肉の引き締めになって良いかもよ?


   …。


   ま、蓉子さんには無駄な肉なんて無いですけどね?


   ……。


   よーこ、よーこ。
   もーいっかーい。


   …貴女ねぇ。


   よーこ、よーこ。


   …。


   よーこ、よーこ、よーこ。


   …鬱陶しい。


   ねぇ、よーこってばーーー。


   うるさい。


   もっかい、しよーよ。
   ねー?


   何がそんなに良いのか、分からない。


   だから、分かるまでさ?


   い、や。


   じゃ、一寸で良いから。


   …。


   ぺた、とな?


   …全く。
   一寸だけだからね?


   うん。


   ……たく。


   はい、蓉子。


   ……はい。


   …。


   …。


   …へへ、こそばゆい。


   …そうね、だからもう良いかしら。


   それじゃ一瞬じゃん。


   ……。


   両足、は、この体勢だとちょっちきついかな。
   流石に。


   無理。


   ですよねー。


   …。


   でも、良いんだー。


   …ん?


   えへへ。


   ねぇ、聖。


   ん?
   終わり?


   良いのなら。


   やだー。


   ……貴女、少し大きくなったんじゃない?


   私?


   然う、貴女。


   …身長?


   足の大きさ。


   そう、かな?


   少しだけど。
   心当たり、無い?


   …うーん。


   私の気のせいなら、良いけれど。


   ……言われてみれば。


   心当たり、あるのね?


   靴が…一部だけど、少しきついのが。


   なんで早く言わないのよ。


   あ、いや、洗って小さくなったのかな、とか。


   服じゃないのだから。


   や、でもさぁ。


   多分、少し大きくなってると思うわ。


   …成長期はとっくに終わってるんですけど。


   そういう人もいるってコトでしょ。


   …ふむ。


   兎に角。
   きつくなっているのなら、履かない方が良いわ。
   足に良くないから。


   えー…。


   巻き爪の原因にもなるのよ?


   …痛いのは、やだなぁ。


   全て、じゃないのでしょう?


   うん。


   だったら、今度靴を買う時は今より少し大きいのを買った方が良いわね。
   ちゃんと試し履きをした上で。


   ちゃんと?


   そう、ちゃんと。


   ……。


   …なに。


   いや、ね。


   一人の方がゆっくりと選べるわよ。


   そうなんだけどね。


   …。


   ねぇ。


   ねぇって。


   どうせだからデート、しよ。


   …どうせ?


   いえ、デートが一番の目的です。


   ……。


   いつ、行こうかな。


   結局は付き合えと?


   ううん、デートだよ。
   靴を買うのはついで。


   ……屁理屈。








   …でも、さぁ。


   なに。
   言っておくけれど今日はもう、しないわよ。


   じゃ、また今度なら良いんだよね。


   …。


   クセになりそう。


   …で。
   何が“でも”なの。


   愛、かなぁ。


   は?


   蓉子さんったら私の事になると莫迦になってくださるようなので。


   ……。


   あ、無視?


   …。


   本格的に、無視?


   …。


   蓉子、無視はいや。


   ……。


   蓉子。


   ……私の問いに答えて。


   うん、喜んで。
   それで、何だっけ?


   …。


   あ、眉間に皺が。
   これは伸ばさないと。


   そんなのはどうでも良いから。
   何が、でも、なの。


   でも?


   でも、って言ったでしょ。


   ……ああ。
   その話ね。


   ……いい加減にしないと、いらっとしてくるのだけど。


   良く分かったなぁ、と思ったの。


   …良く?


   だってさ?
   当の本人でさえ、自覚してなかったのにさ?


   ……。


   しかもすごく大きくなったわけじゃないじゃん?


   …。


   ね、何で分かったの?


   重ねたから、よ。


   んー?
   そんなんで分かるの?


   分かるんじゃないの。


   他人事?


   分かってしまったんだから、仕方ないでしょ。


   なんで?


   知らないわよ


   本当に知らないの?


   しつこいわね。


   だって気になるじゃん。


   …何となく、よ。


   何となく、なの?


   そうよ、何となくよ。


   ……。


   それ以上でもそれ以下でもないわ。


   そっか。
   何となく、か。


   そうだと言ってるでしょ。


   …そっか。


   ……。


   蓉子。


   ……なに。


   私、愛されてるなぁって。


   …は?


   へへ。


   …頭、大丈夫?


   駄目かも。
   もうね、色惚け?


   ……。


   些細な変化に気付いてくれる。
   そんな蓉子が好き。


   ………。


   えへへ。


   …あーもう。
   貴女の頭の中は万年お花畑のようで、良いわね。


   蓉子もそうじゃん?


   断じて、違うわよ。


   でも、時にはそうじゃん?


   ……。


   無言は肯定?


   …聖。


   なになに?


   とりあえず、これ以上お花を咲かさないで頂戴。


   それは私の?
   それとも、蓉子の?


   どっちも、よ。


   どっちも?


   そうだと言っているの。
   いちいちしつこいわね。


   ……。


   ………なによ。


   へへへ〜。


   ……だらしない顔。


   とりあえず、今日のところは頑張ってみるね。


   …今日のところ?


   うん。
   だって無意識なんだもん。


   ……。


   蓉子も、ね?


   ……こんなだから、バカップルって言われてしまうのかしら。


   ん?


   なんでもないわよ、ばか。








  −Willow Bridge(時代劇)





   …上方へ、ですか。


   ええ。


   …。


   此処に居ては、知る事が出来ないから。


   …。


   次から違う人間が来るわ。


   …はい。


   …。


   …。


   …今日は顔色、あまり良くないわね。
   相変わらず、と言うべきかしら。


   …。


   下肢が少し、浮腫んでいる。


   …それでも以前よりは


   脚気になると脅した甲斐があったわね。


   …。


   美味しいものでしょう?
   蕎麦は。


   …はい、とても。
   特に…。


   …。


   …皆と共に食べたものは。


   知らないままで居たら、詰まらなかったわよ。


   …はい。


   …。


   …。


   …止める?


   …いいえ。


   それはそれで、あっさりとしたものね。


   …引き止めたところで、貴女が立ち止まるとは思えません。


   気持ちは?


   …。


   その気持ちはあるのかしらね。
   貴女に。


   …。


   待っていなくても、良いわよ。
   帰ってくるかも分からないから。


   …私は。


   貴女には貴女の道があるわ。


   …忘れろと仰りたいのですか。


   それが出来るのであらば。


   …。


   誰かを見ていると良く分かるわ。
   囚われたままで、何処にも行けない。
   生きているようで、生きてなんか無いのよ。
   今は今しか無いと言うのに。


   …けれど。


   …。


   あの方は生きています。
   あの方と共に。


   …。


   …。


   …人は一人だけじゃないわ。


   …。


   折角だもの、楽しまないと詰まらないでしょう?


   …。


   …。


   …酷な事、ばかり。


   然うかしら。


   …。


   元々、無理でしょう?
   貴女と私では。


   …身分、ですか。
   貴女様がそんな事に拘りを


   持っては、いない。
   けれど現実はどう?


   …。


   …然うね、現実なんかもどうでも良い。
   やろうと思えば何でも出来るもの。
   貴女を連れ去る事も。


   …ならば


   けど、それを望む?
   望める?


   …。


   重いのよ。


   …。


   その目が。


   ……ずっと。


   …。


   ずっと、然う思われていたのですか。


   ええ、然うよ。


   …。


   然う言えば、忘れて貰えるかしらね。


   ……貴女は。


   …。


   どうしても、居なかった存在になりたいと仰るのですか。


   …その方が軽くなれるでしょう?


   …。


   新しいものを得るのに。
   いつまでも、古いものにしがみ付いては何も得られない。


   …。


   …。


   …先程から。


   …。


   ご自身の事を仰っているのですか。


   …。


   それとも


   己自身の事よ。


   …。


   もう、此処には来ない。
   引継ぎも終えている。


   …いつ、ご出立するのでしょうか。


   さぁ。


   …。


   貴女は独りでは無いわ。
   そして、私も。


   …ずるいのですね。


   知らなかった?


   いいえ。


   然う。
   なら、良いわ。


   …。


   何があるのかしらね、向こうには。


   …さぁ。
   私は貴女様が知っているように、此処から出た事が無い故。


   …。


   …そして。
   これからも出る事は、無い。


   …。


   …。


   …絶対など、無いわよ。


   …。


   そんなものがあったら


   詰まらない。


   …。


   …でしょう?


   分かっているわね。


   …いつも、聞いていましたから。


   …。


   …だから。
   上方に留まる事も…。


   …。


   ……屹度、無いのでしょう。


   …。


   …。


   …さて。
   本日分もお仕舞い。


   ……もう。


   貴女は食が細い。
   そんなんだと、治るものもの治らないわ。


   …。


   と、何度言ってきたかしらね。


   …もう、幾度も。


   …。


   …。


   …支度らしい支度は、もう、無いのだけれど。


   …?


   でも然うね、強いて言えば…


   …。


   ……。


   …う。


   ……ごきげんよう。


   …。


   元気で。


   …最後の最後まで。


   …。


   …。


   ……覚えておく為では、無いわ。


   …分かっています。


   …。


   なのに…。


   ……。


   ……屹度、忘れない。


   …。


   屹度、私は…。


   …屹度、ならば。
   可能性は無くならない。


   …。


   …だから、それで良いわ。


   …。


   じゃあ、ね。


   …はい。


   …。


   ごきげんよう。
   どうか、貴女様もお元気で…。


   有難う。


   …。


   …。


   ……いつか、あの柳の橋で。








   一応、看板にしたので。
   時代物が好きなのです。