−Amantes.(聖蓉)





   蓉子さん。


   …。


   蓉子さん。


   …だめよ。


   うん、分かってます。


   なら、良いけれど。
   …本当に、だめよ?


   うん。


   …とりあえず、そこを退いたら?


   や、もう少しこうしてたいなぁ、と思うんです。


   …あ、そ。
   じゃ、私はリビングに…


   蓉子さん。


   ……。


   蓉子。


   …だめだと言ってるわよね?


   私は蓉子の名前を呼んでいるだけだよ?


   …。


   蓉子、蓉子さん。


   …私は向こうでお茶を飲んでるから。
   飲みたくなったら来なさい。


   ねぇ、蓉子。


   ……だめよ?


   ふふ、それで何回目だろ?


   …何よ。


   これからは。
   ずっと一緒、なんだね。


   ……ええ。


   一緒、一緒なんだ。


   …落ち着かないの?


   落ち着く筈が無いです。


   …だからって。


   ベッド、ふかふか。


   ……。


   ダブルでも良かったけど、やっぱりセミダブルで正解だったかな。


   …まぁ、ね。


   蓉子。


   ……だからだめだって。
   未だ明るいのに。


   うん。
   蓉子は恥ずかしがり屋さんなのよね。


   ……そうじゃなくて。


   よーこ。


   ……私、いつまで付き合えば良いのかしら?


   いつもの蓉子だったら適当なトコで見切りをつけるもん。


   …。


   …おいで?


   ……聖。


   おいで、おいで。
   ふかふか、だよ。


   …そもそも、貴女が気に入ったんだものね。


   だってベッドは大事だよ。
   躰を任せるんだから。


   ……。


   睡眠は重要です。


   …そうね、その通りね。
   但し、安眠でないと駄目だと思うけれど。


   蓉子。


   …埃、立つから。
   ぼふぼふしないの。


   おいで。
   さぁ。


   ……。


   お茶が飲みたいのならば、後で、私が淹れてあげる。


   ……。


   おいで、蓉子さん。
   聖さんの隣に。


   …少しだけだからね。


   うん、十分。


   ……で?


   いらっさい。


   ……もう、良い?


   未だ、だめ。


   ……。


   ふふ。


   ……ごきげんな子供みたい。


   うん、ごきげんなんだ。
   蓉子も、ごきげんよう?


   …はいはい、ごきげんよう。


   ふふ、ふふ。


   …はぁ。


   …。


   ……て、こら、聖。


   …ちゅー、だけ。


   だめだと、


   だから、ちゅーだけ…。


   あ……。


   蓉子…蓉子…。


   ……もう。
   それ以上はだめよ、絶対。


   …うん。


   ……だめだって。


   蓉子…。


   ……聖。


   ……。


   これ以上したら、暫くお預けにするけれど?


   …それは、困る。


   ならば…


   ……困るの。


   ……だったら、止めれば良いのに。


   今の蓉子は怖くない。


   ……いつも、怖いみたいね?


   …怖くないけど。
   厳しい…。


   ……甘やかしてばかり居たら、とけてしまうでしょ?


   さとう、だけに?


   ……。


   えへへ。


   …私が、よ。


   ん…。


   ……さ、今はこれでお仕舞い。
   お茶にしましょう。


   ……。


   聖。


   ……本当にお預けになっちゃうかな。


   …諦めが悪い子ね?


   うん。


   そもそも初めからだめだと言っているのよ、私は。


   …聞いた。


   ……。


   蓉子…。


   ……抑えが利かないのね?


   ……どうしよう。


   ……。


   頭の中、いっぱいいっぱいになってる。


   ……全く。
   貴女の頭の中は…。


   嬉しくて嬉しくて。
   叫びたい。


   それは止めて。


   けどそうでもしないと…ん。


   ……夜、我慢しなさいよ?


   ………無理。


   我侭。


   …素直、って言って欲しい。


   ……たく。
   ああ言えば、こう言う。


   ………だめ?


   だめ…


   …。


   …なのよ、本当は。


   ……本音は?


   ……。


   今、何処にあるの…?


   ……さぁ、何処かしらね。


   ようこ……。


   …。


   ……ようこ。


   ………どれだけ。


   …。


   ……とかされれば。
   気が、済むのかしらね…。








   …。


   ……ん。


   …。


   ……。


   すぅ…すぅ…。


   ……寝顔。


   ん…。


   …相も変わらず、子供みたいね。


   ……んん。


   ……全く。


   …。


   お茶、淹れてくれるんじゃなかったのかしらね…?


   ……えへへ。


   …。


   よ…こ…。


   …。


   へへ…。


   ……ばぁか。


   ……ふ?


   仕合わせそうに寝てるんじゃ、無いわよ。


   ……。


   …大体、ね。


   ……。


   “お昼寝”なんか、しちゃったら。
   また、無駄に元気になっちゃうじゃないの。


   ……うぅ。


   もう、だめなんだから…


   ぅ…。


   ……。


   ………。


   …………ね?


   …!


   ……。


   ぶ、はぁぁ…?!


   …さて、と。
   お茶でも淹れますか。


   な、なになになに…?


   あら、起きたの?


   あ、ようこ…。


   なに、聖。


   て、あれ…?


   寝惚けてるのかしら?


   あ、いや……て、あれ。


   私、もう起きるからね。


   え…。


   そもそも。
   こんな中途半端な時間に寝る予定は無かったのだから。


   まってよ。


   …もう、だめ。


   う…。


   …少しは抑える事を覚えなさい。
   昨日今日の付き合いでは無いのだから。


   …。


   それに、これからはずっと一緒なのだから。


   ……むりっぽい気がする。


   いつまでも若くはないのよ、私達。


   う、わ…。


   ん?


   …蓉子。


   節度は大切、でしょう?


   …そりゃ、そうだけどサァ。


   ふふ。


   ……んー。


   逃げや、しないわよ。


   …。


   私は。


   ……うん。


   だから貴女も。
   居なくならないでね?


   …はい。


   うん、宜しい。


   ……あ、かわいい。


   じゃ、聖も起きて。


   いぇ…。


   丁度、目も覚ました事だし。
   お茶、淹れてくれるんでしょう?


   …それなんだけど、さ。


   何、まさか約束を違える気とか?


   いや、お茶はちゃんと淹れさせて頂きますケド…。


   勿論、美味しくね?


   お、おー。


   で、なぁに?


   …なーんか、良い夢を見てたような気がするんだけど。


   うん。


   …でも途中でなーんか、息苦しくなったと言うか。


   それで?


   実際、苦しかったような。


   でしょうね。


   へ…。


   鼻、抓んでやったから。


   ……えぇ。


   だって仕合わせそうに寝てるんだもの。


   …蓉子サン。


   だからつい、ね?


   …。


   ん?


   ……くそぅ、かわいいなぁ。


   さ、起きて起きて。
   寝るのは未だ、勿体無いわ。


   お…。


   さぁ、聖。


   う、うん。


   ふふ、お昼寝後の子供みたいな顔。


   …ねぇ、蓉子。


   なにかしら?


   鼻だけ?


   と、言うと?


   抓んだの。


   ほっぺたとか?


   ……じゃ、ないなぁ。
   そんな感触、残ってないし…。


   でしょう?
   だって抓んでないもの。


   ……でも、なぁ。


   気になる?


   気になる。


   そ。


   いや、そ、て。


   ふふふ。


   よ、蓉子…?


   鈍い人。
   人の事、言えない。


   ……え、と。


   教えてあーげない。


   え、えー…。


   さ、聖。
   こんなコトしてる場合じゃないわ。


   わ…。


   私、喉が渇いちゃった。
   誰かさんのせいで。


   あ、あー…。


   早く起きて起きて。


   あ、うん、分かった、分かったから…。








  −Tú quién es bonita.(聖蓉と山百合会)





   蓉子の髪って綺麗だよね。


   然う。


   何て言うんだっけ…えと、緑色の髪?


   緑の黒髪。
   緑色の髪の毛なんて、そんなの、架空の世界だけだわ。


   はは、そりゃそうだ。


   …。


   で。
   蓉子の髪の毛って綺麗だね。


   …然う。


   褒めてるんだけどなぁ。


   有難う。


   …なんか、そっけないなぁ。


   わざわざお礼まで言ったのに?
   お世辞の。


   お世辞じゃないよ。


   然う、それは有難う。


   …何だかなぁ。


   それより仕事をして下さらないかしら、白薔薇さま。


   していますよ。
   ちゃんと。


   だったら、ちゃんとこれを片付けて。
   今日中に。


   善処していますが。


   もっとペースを上げて欲しいのですけれど。


   飛ばしてやっても疲れてしまいますわ、紅薔薇さま。


   日々、やっているわけではないくせに?


   ええ、だからこそ、ですわね。
   わたくし、慣れない事で肩がこってしまいました。


   …本当に口が減りません事。


   はは。
   そんなわけで少し息抜きをしようよ、蓉子。


   …そんな暇は無いわ、聖。


   まぁ、然う言わずに。
   お茶のお代わり、ひっさびさに私が淹れてあげるからさ。


   …。


   要らない?


   然うね、貰うわ。


   素直な事は良い事だわ。


   いつもは素直じゃないような言い方。


   然うね、例えばついさっきとか?


   お礼は言ったわ。


   あくまでもお世辞としての、ね。


   …世辞でなければ何だと言うの。


   世辞でも何でもなく、私の本音からの言葉だとしたら?
   それでもあんなにそっけないもの?


   …。


   蓉子。


   …何よ、触らないで。


   真っ直ぐな黒髪。
   蓉子のようだね。


   …黒いとでも言いたいの?


   ああ、然うじゃない然うじゃない。
   真っ直ぐ、てところがポイント。


   …。


   何より、綺麗。
   本当に痛んでない。


   ……ありがとう。


   ん?


   ありがとう。


   世辞としてじゃなく?


   然うよ。
   …どうせ私は素直じゃないから。


   今は素直だったじゃない。


   …。


   …ねぇ、蓉子さ。


   ……近いわよ。


   好きだよ、私は。


   ……。


   蓉子の髪、が。


   ……ああ、然う。


   そっけないなぁ。


   …いちいち、気障なのよ。
   言い方が。


   それは失礼。
   でも世辞でも何でもありませんので、そこら辺を考慮して頂けると幸いです。


   …は。


   うん?


   お茶は?
   淹れてくれるのではなかったの。


   ああ、今淹れますよ。
   江利子。


   …ん〜?


   貴女は?
   ついで、で良いのなら淹れてあげても良いけれど?


   個人的には蓉子に淹れて欲しいわ。


   じゃ、お前の分は無し、だ。


   この際だから我慢してあげるわ、白薔薇さま。


   最初から然う言えば良いと思うわ、黄薔薇さま。


   祥子、令、そんでもって由乃ちゃん。
   折角だから君達の分も淹れて差し上げよう。


   いえ、私達の分は…


   はい、私が淹れます。


   良いから良いから。
   座って、由乃ちゃん。


   ですが…


   白薔薇さまにお茶を淹れて貰うなど…


   令。


   …紅薔薇さま。


   やらせてあげて。
   じゃないと、益々、遅くなるわ。


   そーそーそういう事。


   ……分かりました。


   んじゃ、美味しいの淹れてくるから。
   期待して待っててね。


   お願いします、白薔薇さま。


   はいな。
   ねぇ、蓉子。


   何。


   期待して、待っててね?


   …分かったから。
   いちいち、近いわよ。


   だってわざとだもん。


   …。


   良い匂いがするもんでね。
   つい。


   …ッ
   莫迦でしょう…!


   良いね、そういう素直な態度が好きだよ。


   …ああ、もう!


   …。


   …。


   …え、と。
   仕事、仕事は…。


   ふむ。
   今日も平和ねぇ。








  −Pubertad.(聖蓉)





   蓉子!


   …はい?


   良いトコで会った。


   これから薔薇の館で会うでしょう。
   …貴女がすっぽかさなければ。


   しし。
   これ、あげよう。


   は、突然何。


   貰ったの。


   誰に。


   名前は知らない。
   けど、リリアンの生徒だよ。
   クラブで作ったんだって。


   …何を。


   和菓子?


   …疑問系?


   かしわ餅、って言ってたかな。


   和菓子じゃない。


   あげる。


   は?


   蓉子に。


   …何を言っているの。


   だから。
   蓉子にあげる。


   …。


   私、甘いの得意じゃないから。
   ほら、蓉子は甘いの好きじゃない?


   …。


   蓉子、手ぇ出して。


   要らないわ。


   え。


   要らないと言っているの。


   どうして?


   それは貴女が貰ったものよ。


   然うだけど。
   私はあまり好きじゃないから。


   じゃあ貰わなければ良かった。


   でもくれるって言うから。


   だったら責任を持ちなさい。


   責任って。


   その子は貴女にくれたのでしょう?


   然うだけど。


   貴女に食べて欲しいから。


   …。


   だったら。
   貴女はそれを食べないといけない。


   …なんか、堅くない?


   然うよ。
   私はどうせ、堅物だもの。


   でもさ、私は美味しく食べてくれる人に食べてもらった方が良いと思うんだよ。


   だったら貰わなければ良かったと言っているの。


   だから何で然う考えるのさ。


   どうせヘラヘラ笑いながら受け取ったのでしょう。


   …む。


   そうやって、喜ばせておいて。
   やっぱり好きじゃないから他の人にあげるだなんて、莫迦にしているわ。


   何もそこまで言わなくても良いじゃない。


   聖は軽薄過ぎるのよ。


   ……。


   少しはそれをくれた人の気持ちを考えたら?


   ……何、それ。


   兎に角、私は受け取らない。


   ああ然う。
   じゃ、祐巳ちゃんにでもあげようかな。


   …。


   あの子なら屹度、喜ぶよ。
   蓉子と違って、とても素直な子だから。


   …。


   然うと決まったら蓉子にはもう用は無いね。
   じゃ。


   …然うよ。


   …。


   私は素直じゃないわよ、どうせ…!


   …だったら!


   …ッ


   素直に受け取れば良いじゃない!
   嬉しいって笑って見せたら良いじゃない!


   でも!
   それは聖がもらった、聖を想ってくれたものじゃない!
   なのにどうして私が受け取れるの!


   だからそれが堅いって言ってるのよ!
   大体、そんな大袈裟なものじゃない!


   然うよ、私はどうせそういう人間なのよ!


   確かに私が貰った、けど!
   それを私がどうしようが私の


   そういう考え方、私は嫌い。


   …!


   まるで踏み躙るみたいで、私は嫌なのよ。


   ……。


   ……聖にしてみれば、どうでも良い事かも知れない。
   けど、


   蓉子は、考えすぎなのよ。


   …。


   …。


   …。


   …。


   …薔薇の館に行かないと。


   …。


   貴女も来るのよ。


   …。


   聖…白薔薇さま。


   …あの子は。


   …。


   私を佐藤聖としてではなく、あくまでも白薔薇さまとして見てるだけだ。


   …それは、違う。


   違わない。


   けれどその子は貴女を佐藤聖だと認識してるでしょう。


   勝手なイメージを重ねて、ね。


   …。


   私は空想の世界の人間じゃ無い。
   私は彼女が思っているような、そんな人間じゃあ無い。


   ……。


   …。


   …けど、やっぱりそれは貴女にくれたのよ。


   ……。


   …行きましょう。


   ……。


   …薔薇の館に行けば、祐巳ちゃんも居る。
   どうしても要らないと言うのならば


   ……私は蓉子に食べて欲しかったんだ。


   …。


   …。


   ……聖、私は


   もう、分かった。
   蓉子はどうしても受け取ってくれない。


   …。


   …。


   ……行きましょう。


   …。


   …聖?


   ………は、


   え…。


   …………………あ、まぁ。


   ………。


   …蓉子。


   な、何…。


   渋いお茶、淹れて。
   薔薇の館で。


   …。


   ブラックコーヒーでも良い。
   口の中が甘い。


   ……分かった、けど。


   けど、何。


   …口の端にあんが付いてる。


   ……。


   ………ふふ。


   …何よ。


   何でもないわ。


   …あ、然う。


   じっとしていて。


   …。


   とれた。


   …じゃ、そのまま動かさないで。


   え…あ。


   …やっぱり、甘い。


   せ、聖…ッ


   …食べたわよ。


   そ、然うだけど。


   …薔薇の館に行くんでしょ。
   早く口の中を何とかしたい。


   ……。


   蓉子…紅薔薇さま。


   …ええ。
   行きましょう、白薔薇さま。








   …はい、お茶。


   …サンキュウ。


   …。


   …あつ。


   …言わなかったけど。
   熱いから気をつけて。


   …うん。


   …。


   …。


   …。


   …紅薔薇さま。


   ……何。


   今日はどれ、やれば良いんだっけ。


   …貴女はこの書類を今日中に纏めて。
   それから必要な備品申請。


   …了解。


   ……。


   ……。


   白薔


   紅薔


   …。


   …。


   ……今度は何。


   …そっちこそ、何。


   …。


   …。


   ……真面目にやってね、と言おうと思っただけよ。


   …やるよ。
   じゃなきゃ、また怒られる。


   ……不真面目なのがいけないのでしょう。


   …。


   …で、そっちは?


   ……お茶、美味しい。


   ……。


   ……それだけだよ。


   …そんなの、報告してくれなくても良いから。


   ……あ、然う。


   …。


   …。








   ……お姉さま。


   …んー?


   何かまた、気まずい雰囲気になってますよね…。


   然うね。
   でもいつもとは違うわね。


   …然うでしょうか。


   喧嘩の雰囲気とは違うわよ。
   分からない?


   …私には。
   ……祥子、分かる?


   ……。


   …令さま。


   え、なに。


   紅薔薇さまと白薔薇さまは良くこんな雰囲気になるのですか?


   …え、と。


   祐巳。
   それよりも貴女は早く仕事を覚えなさい。


   は、はい…。


   こっちは。
   たまに、なるわよ。


   …黄薔薇さま。


   でも確かに喧嘩してるようには見えませんよね。


   分かるわね、由乃ちゃん。


   ……まぁ。


   ま、結局は“いつもどおり”なのだけれど。


   …。


   …あ、あの、お姉さま?


   …手を動かしなさい。


   は、はい…すみません。








   白薔


   紅薔


   …何よ。


   …いや。


   用も無いのに呼んだの。


   そっちはどうなの。
   そっちが先だったんだから、紅薔薇さまから先にどうぞ。


   私は…。


   そっちこそ、用も無いのに呼んだの?


   …私は、ただ。


   ……何よ。


   …。


   …。


   ………本当。
   “青くさい”、のよねぇ。








  −Juventud.(江利子と蓉子)





   で。
   今度は、何だったの?


   …何が。


   ぎくしゃくしている原因。


   …。


   白薔薇さま…いえ、聖と。


   …別にぎくしゃくしてなんか


   目を合わせない…と言うより、合わせられなかったみたいだけど?
   お互い。


   ……。


   分かるわよ?
   それなりの付き合いだもの。


   …貴女達ほどでは


   十分でしょう?
   六年、あれば。


   …未だ六年では


   あげ足取りに終始するつもり?
   らしくないんじゃない?


   ……そんな事を言う為に付いてきたの?


   ええ、然うよ?


   …いけしゃあしゃあと。


   あら、私の為じゃないわよ。
   下の子たちが落ち着かないから、その為。


   ……。


   薔薇の館に着いた早々、渋いお茶なんて淹れてあげちゃったりもしたし。
   どんなサービス?


   …サービスなんかじゃ。
   ただ、聖が


   飲みたいって言ったから?
   それをサービスと言わないのならば…甘やかし、かしら。


   …江利子。


   うん?


   本当に何でも無いのよ。
   喧嘩をしているわけでも無いわ。


   それは分かるわ。
   喧嘩だったら聖は来てないでしょうから。


   …。


   もう一度言うわね。
   今回は何が原因?


   ……。


   なんて。
   聞いたところで答えるわけ無いわね、蓉子は。


   …。


   まぁ、何かあったのは分かったから。


   ……かしわ餅。


   ん?


   聖がかしわ餅を貰って、ソレを私の前で食べただけ。
   ただ、それだけよ。


   …へぇ?
   それはどこの誰に?


   リリアンの生徒。
   名前は知らない。


   聖も?


   …らしいわ。


   ふぅん…。


   …さぁ、戻るわよ。


   そうね、戻りましょう。


   …。


   まぁ、あれね。


   …。


   気を引きたがっているようにしか、見えない。


   …。


   蓉子。


   ……早く戻らないと。


   聖は、貴女の事を


   江利子。


   …。


   冗談でも止めて。


   …冗談、ね。


   ……有り得ないわ。


   それは、どうして?


   …有り得ないのよ。


   ……。


   ……。


   …これはこれは。


   ……。


   まぁ、蓉子が選ぶ事だし。
   私がとやかく言うべき事ではないわね。


   ……。


   けど。
   下の子たちが落ち着かないから。
   特に新しい子は貴女達の、完璧である筈の薔薇さま達の知らない面を見て、戸惑っているわよ。


   …完璧な人間など、居ないわよ。


   然うよ?
   けど、私達は“薔薇さま”だもの。
   曰く、生徒達の模範である。


   …。


   ま、卒業までにはもう少し、時間があるわけだし。
   …いえ、てっとり早く卒業してしまった方が良いのかも知れないわね。


   ……。


   貴女は諦めきれるのかしら?


   …諦める事など、初めから無いもの。


   然う?


   然うよ。


   …ま、当たり前に会えてるうちが花、てね。


   ……。


   どうせならやって後悔した方が、残らないわよ。
   多分。


   …今度は何の話。


   んー…人生の楽しみ方、かしら?


   …。


   手を伸ばさないと。
   何も手に入らない、し、何も起きない。
   そんなの、楽しくないじゃない。


   …楽しいと言うより、面白く無い、でしょう?
   江利子の場合。


   私は、ね。


   …今日の江利子は無駄にお喋りね。


   ま、お年頃な会話も良いじゃない。
   たまには。


   ……。


   ま、親友達に幸あれってね。
   どんな形であれ。


   ……。


   ん、何?


   …気持ち悪い。


   あら、失礼な発言ね?


   …だって、江利子じゃないみたいなんだもの。


   私はただ、面白がっているだけよ。
   でも然うね、そろそろ新しい要素も欲しいところかしらね。


   …。


   ま、何であれ。
   つまらない結果だけは御免だわ。








  −Canta para mí.(聖蓉)





   聖、何処に行くの?
   散歩?


   うん。


   私も行っても良い?


   良いけど。
   寒いよ?


   大丈夫。


   然う?
   じゃ、おいで。


   うん。








   はぁぁ。
   息、真っ白。


   ふふ、本当ね。


   寒くない?


   平気よ。
   ありがとう。


   いえいえ、何の。
   蓉子さんが風邪をひいたら大変ですから。
   ほら、もっとくっ付いて。


   あんまりくっついたら歩きづらいでしょう?


   あったかいから、へーき。


   ふふ。


   今夜は明るいな。


   だって、月が明るいもの。


   月?


   ええ。
   ほら。


   …あぁ、確かに。


   今夜は…満月、なのね。


   これなら街灯が無くても、そこそこ明るいかも知れない。


   街灯が無くても?


   うん。


   …然うかも知れないわね。


   蓉子は暗いの、苦手だもんね?


   …。


   でも大丈夫。
   聖さんが居るから。


   …自分で言うの?


   自分で言っちゃう。


   聖もあまり得意では無いくせに?


   だって蓉子さんが居る。
   だから、どんな闇の中でも、平気。


   …いつも居るとは限らないわよ?


   えぇぇ。


   …なんて、ね。


   心臓に悪いよ。


   大袈裟。


   本当だもん。


   こら、顔が近い。


   誰も見てない。


   だぁめ。


   …ちぇ。


   ふふ…あ。


   …でも諦めないもんね。


   ……もう。


   今の蓉子は怒らないって気がしたから。


   …全く、そんな事ばかり見抜いて。


   へへ。


   お仕置き、しちゃうわよ?


   あまぁいお仕置きが良いな。


   ばか。


   しし。
   …ねぇ、蓉子。


   うん?


   こんな夜は歌いたくならない?


   歌?


   何となく、口ずさみたい気分。


   じゃあ私はそんな貴女の歌を聞きたいわ。


   えー、私は蓉子の歌を聞きたいのに。


   でも貴女がそんな気分なんでしょう?


   蓉子はそんな気分にならない?


   ご近所迷惑になってしまうもの。


   鼻歌で良いんだって。


   と、言われても。
   何を歌って良いか、直ぐに思いつかないもの。


   何でも良いんだよ。
   それこそ…然うだ、マリア様のこころでも。


   マリア様のこころ?


   そうそう。


   うーん…。


   て、なんか違うか。


   …何か、違うわね。


   結構、何でも良くないもんだなぁ。


   …ね、聖。


   んー?


   やっぱり貴女の歌が聞きたい。


   …。


   聖の声、好きなんだもの。


   …え、と。


   何でも良いのでしょう?


   それが良くないもんだなって。


   じゃあ…月の歌は?


   月の歌?
   例えば?


   ……。


   蓉子?


   …難しいわね。


   でしょう?


   …月の砂漠?


   うわ、蓉子さんってば古い。


   仕方ないじゃない、ぱっと思いついたんだもの。


   もう、蓉子さんってばー。


   お願い、聞かなかった事にして。


   どうしよっかな。


   聖だって知ってるんだから同じでしょ。


   まぁね。
   でも月の砂漠は無いなぁ。


   …もう。


   …あ、然うだ。


   うん?


   歌詞は覚えてないけど。
   丁度良いかも。


   …聖?


   ん〜……。


   ……。


   …ん〜。


   …何の歌?


   …名前は知らない。
   でも月の歌だったと思う。


   …然う。


   あまり覚えてないんだけど。


   …けど、綺麗な曲。


   然う?


   ええ。


   そっか。
   じゃ、暫く…蓉子さんのリクエストにお応えして。


   ……聖。


   …んー?


   もっと、くっついても良い?


   勿論。
   歩きづらくないのなら、どうぞ。


   ……ん。








  −Ellas pueden hablar español.(放浪記)





   訛り、があるわよね。


   ん?


   貴女の。


   寧ろそっちの方があると思うけど。
   どこで覚えたの?


   …。


   まさか現地?


   それは貴女でしょう?


   はは、英語が全然通じない時はどうしようかと思ったけど。
   何とかなるもんだね。


   私は


   ああ、分かった。
   テレビの何とか講座、とかでしょ?


   いいえ、ラジオ。


   あ、ラジオか。


   毎日やっているから。


   テキスト買って?


   辞書とCDも買ったわ。
   聞くだけで覚えられたら苦労しないのだけれど。


   でもそれだけ?


   それだけって?


   ほら、あるじゃん?
   駅前留学とか。


   行ってないわ。


   おー。


   何よ。


   流石、と言うか。
   それでそこまで話せるようになっちゃうあたり、優等生だね。


   必死、だったんだもの。


   私に逢う為に?


   …。


   逢えるかどうかも、分からなかっただろうに。


   …だから、なのよ。


   へぇ。


   …。


   あ、そっか。
   分かった。


   いきなり何。


   あっちのだ。


   あっち?


   こっちとあっちじゃ若干、違うんだってさ。


   …。


   まぁほら、日本語も場所によって違うじゃん?


   …その例えは正しいのかしら。


   でも似たようなものじゃない?


   似たようなもの、ね。


   そうそう。


   …。


   でもさ。


   …うん?


   母国語って、忘れないものよね。
   こっちに来てからは話す相手、居なかったのにさ。


   …。


   染み付いてるのかなぁ。


   忘れてなくて良かった。


   ん?


   貴女とこうして、母国語で話す事が出来たから。


   それ、貴女が言う?


   ええ、言うわよ。


   そっちの方が離れてる時間、短かっただろうに。


   問題は時間じゃないのよ。


   と、言うと?


   貴女と話せた事。


   …。


   それに貴女が母国語を忘れたら。
   ますます“アメリカ人”になっちゃうところよ?


   未だアメリカ人?


   そう、アメリカ人。


   ひっどいなぁ。


   ふふ。


   ちぇ。


   …ねぇ。


   んー?


   教えて。


   何を。


   言葉。


   もう十分に話せるじゃん。


   貴女ほどじゃないもの。


   私もそんなでもないよ。


   けどよりネイティブだわ。


   口語的な意味ではね。
   語彙もそんな無いし。


   語彙なんて、辞書開けば載ってるわよ。


   まさか、とは思うけど。


   なに?


   持ってる?
   辞書。


   一応ね。


   …流石。


   あれば役に立つかなと思っただけ。


   立った?


   立たせる前に貴女を見つけた。


   それは要らないって事なんじゃないの。


   …。


   ん、なに。


   安心しちゃったのよね。


   …へ?


   貴女を見つけて。


   …で、辞書はもう要らないと?


   いいえ?


   ふぅん。
   ま、良いけどね。


   でしょう?


   一人より、二人、か。


   …。


   慣れてたつもりだったけど。
   改めて言葉にされると、じわじわ来やがんの。


   …どういう意味?


   教えない。


   良いじゃない。


   良くない。


   ねぇ。


   一人の方が気楽だった。


   でしょうね、貴女は。


   なのにさ。


   厄介なのが来た?


   ほんとだよ。


   悪かったわ


   おかげで思い知らされちゃったじゃん。


   …。


   あーあ。
   もう、戻れないかも知れない。


   …戻りたい?


   聞いてなかった?
   今。


   だから。


   二度は言わない。


   言いなさいよ。


   いやだ。


   ねぇってば。


   やだ。


   ねぇ、聞かせてよ。


   やだね。


   ねぇ。


   ¡Nunca lo enseño!








   聖蓉祭とエル・カザド祭。(真顔)