-私だけが知ってるコト。(聖蓉)





   …くしゅ。


   ん?


   …。


   寒い?


   …ええ、少し。


   部屋の温度、少し上げようか。


   …。


   はしゃいで雪だるまなんて、作るから。


   …はしゃいでなんか、いないわ。


   へぇ、そうだったの?


   …。


   ちっちゃな雪だるま。
   二つ並べて、満足げにしていたのは誰だったのかな?


   …だって去年は積もらなかったんですもの。


   降らなかったっけ?


   …降ったわよ。
   でも朝には融けてた。


   ふぅん。


   …どうでも良いのなら聞かないでよ。


   いや、どうでも良くは無いけど。
   蓉子の事だし。


   …。


   蓉子ってさ、意外に子供っぽいところあるよね?


   …雪合戦がしたいなんて言い出す、貴女には言われなくない。


   かわいい、って言ってるんだけどなぁ。


   …。


   ココアでも飲む?


   …あるの?


   ええ、蓉子さん用に。


   ……。


   ヴァンホーテン、で良いんだよね。


   …自分は飲まないくせに。


   だから蓉子さん用なんだって。


   …わざわざ買ったの?


   じゃなきゃ、無いよねぇ。


   ……。


   へへ、一寸待って…くしゅん!


   …。


   …あれ?


   人の事、言えないじゃないの。


   まぁ、雪空の下、はしゃぐ蓉子さんに下お付き合いしたからなぁ。


   …最終的には貴女だって作ってたじゃない。


   そりゃ、作るでしょ。


   別に付き合ってくれなくても良かったのよ。


   だって一つじゃ、淋しいじゃない。


   …。


   蓉子さんの雪だるまの傍には聖さんの雪だるまが居ないと。


   …自意識過剰。


   じゃ、聖さんだるまの傍には蓉子さまだるまが居ないと。


   順番を変えただけじゃない。


   でも意味も変わってくるよね。


   …。


   そんなわけだから。


   …何がそんなわけなのよ。


   蓉子。


   …何。


   今日は。
   泊まっていくんでしょう?


   …。


   ねぇ。


   …どうしようかしら。


   帰さない。


   …あのね。


   蓉子はこの部屋に泊まるんだから。


   勝手に


   温めてあげる。
   風邪、ひかないように。


   …。


   私もコーヒー、飲もうかな。


   聖。


   うん?


   ココア、美味しく入れて。


   …はい、蓉子さまの仰せのままに。








  -I'll give you Romantic.(音楽聖蓉)





   …よぉこ。



   猫なで声。
   甘ったるい声。
   耳の奥…は勿論の事、心までくすぐられてしまいそうな。
   くすくすくすくす、と笑う声はまるで角砂糖が溶けていく音のよう。



   よぉこ…。



   密接した躰と躰。
   どちらの熱か、最早区別が付かないくらいに。
   それは多分、溶け合うという言葉が相応しいのだわ。



   …せい。



   回す腕に少しだけ力を入れて。
   ふふ、と声にはせずに笑うと、今まで見た事の無い顔。
   子供のようで、でも子供ではなくで。
   無邪気で、純粋で、でも、艶を彩って。
   ああ、見ているこちらが蕩けてしまいそうよ。



   ねぇ…。



   頬をぴたりと重ねて、それから鼻の頭をこすり付けあう。
   かと思えばぺろりと、薄桃色の舌で口唇を舐められる。
   応えるように中から少しだけ舌を覗かせると、もっととせがむ。



   …ん。



   ならば、と。
   敢えて、形の良い鼻の頭を舐め返す。
   そう、いつもやられてばかりだから。



   …よーこ。



   あ、不貞腐れてしまったかしら。
   声にほんのりと不満げな色。
   だけどそれがおかしくて。
   笑いが込み上げてくるのを抑えられない。



   ……。



   くすくす、くすくす。
   囁きのような音。
   そうね、今度は貴女に代わって私が角砂糖を溶かす番。



   …ねぇ。



   いつか形が良いと褒めてくれた私の胸は、さっきまでは貴女の意の侭に。
   今は貴女の柔らかなそれと重なり、柔らかな刺激を私にくれる。
   温もりと、鼓動と、そして、躰の言葉を分かち、伝え合う。
   口では上手に形に出来ない言葉も。



   ...Come on, I'll give you romance.



   そう、恥ずかしくて未だ言葉に出来ない事も。



    ...Come on, I'll give you paradise.



   掠れた、けれど熱を孕んだ囁き声。
   私の中の声は、いつの間に貴女のコトノハとして、私の耳へと。



   ...Liberate the “you” that keep you inside.



   想いを形にする役目を果たした口唇は、深く、深く、全ての言葉を封じるかのように重ねられて。
   何度も何度も、それを繰り返す。
   くすくす、くすくすと、笑いながら。








  -ぴたたん♪(祐巳とおかしな仲間達)





   『いぇい♪』



   …。



   「ちょっと もじもじと でーと」



   …。



   「きっと ずっと きみとぼく」



   ……。



   「ときめき どぎまぎ べりらっきー」



   ………これ、は。



   「ひとり」 『ふたり』 『ぴたり』



   …夢、なのかな。



   『ぴったん たんた もじぴったん♪』



   目の前で。



   『わんつー♪』



   あの、薔薇さま方がノリノリで歌っているだなんて。



   『りんらん らんら もじぴったん♪』



   しかもデュエット、で。



   『ぴたたん♪』



   紅薔薇さまと、白薔薇さま。
   すごい笑顔、とにかくすっごい笑顔、と言うかいつも、そう、凛々しいという言葉がお似合いになるあの紅薔薇さまが。
   笑顔だって美しい薔薇を連想させられるような、そんな紅薔薇さまが。
   あんな、子供のような、はしゃいでいるような笑顔をされるだなんて…。



   「こい した みたい むねいっぱい」



   …それにしたってノリノリ。



   「うきうき やきもき だいすっきー」



   どこまでいってもノリノリ。



   「あらら ら くらくら」



   黄薔薇さまは………なんだろう、合いの手?
   若干、不満げ?



   「ひとり」 『ふたり』 『ぴたり』



   ともあれ。
   お二方はノリノリすぎて



   『ぴったん たんた もじぴったん♪』



   ああ、手なんか繋いじゃってるし…と言うか白薔薇さまどこ触ってるんですか!



   『わんつー♪』



   うああ、隣のお姉さまから何だか良くない気配を感じるよー。
   由乃さんはマラカスなんか振ってるしー。
   令さまは何故か黄薔薇さまのおでこにライトなんて当ててるしー。
   志摩子さんは…あれ、志摩子さん?
   隣にいる子は誰ですかー?



   『ぴたたん♪』



   つーか、顔!
   顔が近いです、てか唇がもう…ああ!!
   だめ、だめですよ、こんなところ…



   「………」



   ……で。



   「ふふ」



   「はは」



   …え、と。
   今にもキスしてしまいそうな白薔薇さまと紅薔薇さまの「らぶらぶ」っぷりも、アレなんですが。



   「………ち」



   と、隣のお姉さまの雰囲気が何よりも怖過ぎて居た堪れません、マリア様……!!








  -しかして現実の距離は。(上の続き・聖と蓉子)





   …祐巳ちゃーん。
   おーい、おーい。


   ちか、い…ちかいぃ…。


   …ふむ。


   うぅ…うぅぅ…。


   なんだか楽しそうな夢を見てる模様。


   どちらかと言うとうなされているように見えるけど。


   とりあえず、寝かせておく?
   時間まで未だあるし。


   良いけれど。


   ん?


   これだと風邪、ひいてしまうわ。


   お。


   これで良し。


   優しいなぁ、蓉子お祖母ちゃんは。
   一寸、妬けちゃう。


   何言ってんだか。


   さて、未だみんな来ないし。


   …何、この手は。


   いや、まぁ、色々と。


   祐巳ちゃんにセクハラ出来ない代わり?


   寝込みを襲うのはね、いかんでしょ?


   は。


   …くっついていたら少しはあったかいと思うのですよ、紅薔薇さま。


   特別にお茶でも淹れて差し上げるわ、白薔薇さま。
   部屋が暖まるまで、それで凌ぎなさい。


   …。


   不満?


   …オーケイ。
   んじゃ、とびきり美味しいのをお願いするよ。


   それは高いわよ?


   と、言いますと?


   対価はちゃんとした労働。
   オーライ?


   …。


   白薔薇さま?


   …オーライ。
   頑張りますよ、紅薔薇さま。


   はい、宜しい。


   ……。


   座ってて。


   …ねぇ、蓉子。


   うん?


   期待、してるよ。


   …任せなさい。








  -ビタミンAが足りなくてもなるらしい。(聖蓉)





   …うーん。


   聖?
   どうしたの?
   課題は終わった?


   …。


   ごみでも入った?
   だとしたら、そんなにこすっては駄目よ。


   ううん、違うの。


   疲れた?
   ずっと向かっていたから。


   …まぶたが。


   目蓋?


   なんか、ぴくぴくするんだ。


   ぴくぴく?
   …痙攣?


   …あ、まただ。


   とりあえずこちらにいらっしゃい?


   …。


   両目?
   右目だけ?
   それとも左目だけ?


   …左だけ。


   そう。


   …よーこ、どこに行くの?


   蒸しタオルと冷やしタオルを作りに。


   …おしぼり?


   ええ。
   一寸、待っててね。


   …うん。




   ・




   聖。


   …よーこ。
   おしぼり、出来た?


   ええ。
   それで横になってもらっても良いかしら。


   横に?


   多分、その方が当てやすいから。


   …。


   別にそのままでも良いのだけど。


   …膝、貸して。


   膝?


   膝枕、して。


   …。


   して。


   …私に触るのは。
   課題が終わってから、の約束だったのだけど。


   …うぅ。


   こすっては駄目よ。


   …じゃ、して。


   …仕方ないわね。


   …。


   はい、どうぞ。


   …えへへ。


   全く。


   で、どうするの?


   これを当てるのよ。


   タオルを?


   熱いのと、冷たいのを五分くらいの感覚で交互に。
   血行が良くなるのよ。


   へぇ…。


   冷やしタオルは氷水に浸しただけの簡単なものだけど。


   …まぁ、何でも良いや。


   …目、閉じて。
   当てるから。


   うん。


   目を休めて…血行を良くすれば、多分、大丈夫だと思うけど。
   もしもずっと治らないようだったらお医者さんに行った方が良いわ。


   えー…。


   目の病気だったら大変でしょう?


   …。


   …はぁ。
   その時は私もついていくから。


   うん、じゃあ行く。


   ……子供なんだから。


   あー…気持ちいー。


   それは良かった。


   よーこの膝が一番気持ち良い。


   …あ、そう。


   あー…。


   …。


   ……。


   …まぁ、休むのも大事だし。
   でも今だけだからね、聖。


   ん…。


   …聖?


   ……。


   聖、一寸?


   ……。


   ……。


   すー…。


   ……全く。
   起きたらちゃんとやるのよ、聖。








  -Petite amie 2010(聖さんと蓉子さん)





   聖さん。


   …何。
   班の仕事ならちゃんとやってるけど。


   これ、あげる。


   ……何これ。


   チョコ。


   は、なんで。


   今日はそういう日だから。
   ほら、クラスの皆もそれぞれにあげてるでしょう?


   違う。
   何で私にか、って聞いてるのよ。


   あげたいと思ったから。


   だからなんで。


   …友達だから。


   ……。


   貴女がどうしようと、貴女に任せるわ。


   …何よ、それ。


   要らないのなら…その、捨ててしまっても良い…し。


   は、食べ物を粗末にするなって言う蓉子さんの言葉とは思えないわね。


   …だって押し付けてるようなものなんですもの。


   確かにそうね。
   私は欲しいだなんて、一言も、言ってないのだから。


   ……じゃあ、そう言うことだから。


   だから、返す。


   …え。


   要らないから。


   でも…。


   甘いの、好きじゃない。


   ……。


   だから、食べない。


   ……そう。


   …なに。


   でも持ってて。


   は…?


   じゃあ、ごきげんよう。


   一寸待ちなさいよ。
   人の話、聞いてなかったの?


   …。


   蓉子さん…蓉子!


   …!


   貴女の世話焼きにはうんざりするのよ…!


   ……。


   要らないと言ってるでしょう。


   …。


   さぁ。


   ……。


   食べないのに貰っても迷惑なだけなのよ。


   ……分かった。


   そう。


   ……じゃあ、これ。


   はぁ?


   飴。


   ……あのさぁ。


   コーヒーの。
   そんなに甘くないから。


   優等生の蓉子さんが。
   学校にチョコやら飴やらを持ってくるなんてね。


   …これも食べない?


   …。


   …。


   ……はぁ。
   貰うわ。


   …あ。


   断って更にしつこくされても面倒なだけだし。


   ……。


   ありがとう?
   蓉子さん。


   え、ええ。


   じゃ。


   ……。


   ……他意は無いけれど。
   そのチョコはどうするつもり?


   …家に持って帰るわ。


   あ、そ。


   ……。


   要らないから。


   ……うん。


   …。


   …。




   ・




   …。


   ごきげんよう。


   …。


   何。


   …いえ。
   今日は早いのね。


   たまには、ね。


   …そう。
   ごきげんよう、聖さん。


   …。


   …。


   ……あれ。


   …。


   …あ、め?


   …。


   ……コーヒー、の。


   ……。


   …聖さん。


   …なに。


   これ…。


   私は知らないわよ。


   …。


   蓉子さんの机の中に飴が入ってるのかなんて。
   私は知らない。


   …そうね。
   ごめんなさい。


   …別に。


   ……。


   ……。


   そういえば。


   …。


   今日はホワイトデーなのね。


   …らしいわね。


   …皆、やるのかしら。


   さぁ?


   ……。


   ……。


   …聖さん。


   …。


   聖さん……聖。


   ……何よ。


   あの…ありがとう。


   …お礼を言われることなんて、何もしてないけど。


   …言いたかったの。


   あ、そ。
   変な人。


   …。


   …。


   …ふふ。


   ……ふん。





   ・


   ・





   …。


   …え、と。


   …。


   あのさぁ、蓉子さん?


   ……何よ。


   ちょいと聞いても良いかしら?


   だから、何。
   さっさと言いなさいよ。


   いや、さぁ。
   少しは遠慮しながらの方が良いかな、と思いまして。


   ……。


   これ、見覚えあるんだけど。


   …そこら辺のスーパーで売ってるわよ。


   そうだよねぇ。
   て、そうじゃなくて。


   …。


   これ、いつの?


   …いつだって良いじゃないの。


   でも大分くたびれてない?
   この包装。


   気のせいでしょ。


   うわ、気のせいの一言で片付けちゃったよ。


   …。


   ねぇ、蓉子さん。
   若しかして、と思ったのだけど。


   ……。


   これ、あん時の?


   …あの時っていつよ。


   いや、だからさぁ。
   てか、蓉子だって当事者だったじゃん。


   …私、は。


   そういやあの時のチョコ、結局どうしたの?


   あの時って?


   蓉子さんが私に、初めてチョコをくれたあの日の。


   …食べたわよ。
   勿体無いもの。


   うわー…。


   …何よ。


   いや、切ないなぁ、と。


   …だって受け取って貰えなかったのだから仕方ないじゃないの。


   父親に回すとか?


   …別に用意しておいたもの。


   あ、そうか。


   ……。


   あ、あぁー…ごめんなさい?


   …良いわよ、別に。
   受け取ってもらえない事ぐらい、分かってたもの。


   そうなの?


   ええ、そうよ。


   うーん…。


   …。


   勿体無い事、したなぁ。


   …本当に然う思ってもらえるなら、嬉しいわね。


   本当も本当。
   でも、仕方ないんだけどさぁ。


   …。


   で、蓉子。
   この飴、あの時の飴だよね?


   …。


   初めてのホワイトディの。


   …貴女は知らないって言ったわ。


   え、そうだっけ?


   …そうよ。


   あ、そっか。
   あー…。


   …別に取っておいたわけじゃないわ。


   あり、そうなの?


   ええ。


   ふぅん…。


   …ただ。


   …。


   何となく、食べられなかっただけ。


   ……。


   …何よ、さっきから。
   人の顔、あまりじろじろと見ないで頂戴。


   蓉子。


   …。


   今はちゃんと、貰うし…と言うか貰ってるし。
   お返し、ちゃんとしてるから。


   …だから?


   えーと……好きです。


   ……それはありがとう。


   …しかし。


   …。


   ちと恥ずかしいな…。


   …別に貴女が恥ずかしがる事無いわ。
   貴女にはあくまでも、関係のない事なのだから。


   …じゃあ、然う言うことにしておこうかな。


   ええ、しておきなさい。


   じゃ、蓉子。


   …。


   ハッピーホワイトディ。


   …何よ、それ。


   バレンタインの時はハッピーって付けるでしょ?
   だから。


   …そう。


   あれ、受け取ってくれない?


   いいえ。
   ありがとう、聖。


   ……ちゃんと食べてよね?


   食べるわよ、勿論。








  -Llévame a Italia.(聖蓉)





   スペイン語?


   うん。


   なんでまた。


   何となく。
   最初はつけたらたまたまやってたから、そのまま何となく。
   あっちの風景とか、綺麗だったし。


   それで見続けた?


   結構、面白いんだ。
   ナビゲーターの女の子もかわいいし。


   …それが目的なんじゃないの。


   少しだけ。


   本当に少しなの?


   本当本当。
   私の目、嘘を吐いてるように見える?


   …。


   あり?


   …。


   蓉子さん?


   …ま、別に良いけど。
   今に始まった事じゃないし。


   やきもち?


   そういうところ、凄く、腹立だしい。


   あ。


   …。


   何するの?


   …課題。


   と言うか何で持ってきてるの。


   大学の帰りだから。


   私の部屋でそんなの、やらないでよ。


   貴女は語学番組を見るのでしょう?
   だから私は課題をやるの。


   今見るなんて言って無いじゃん。


   わざわざ録画してるんでしょ?
   どうぞ、私に遠慮無く見て頂戴。


   よーこー。


   …。


   …よっこぉ。


   …鬱陶しい。


   だって蓉子が。


   お構いなく。


   私が構うの。


   …かわいい女の子、見れば良いじゃない。


   だからそれだけじゃないんだって。


   …あ、そ。


   冷たい…。


   …。


   …。


   …。


   …蓉子ぉ。


   …重い。


   いつかさ、一緒に海外旅行行こうよ。
   どこが良い?


   景さんと行ったら?


   ……。


   …。


   …蓉子。


   ……なに。


   蓉子。


   だから、な…んん。


   …。


   ……聖。


   蓉子と行きたいの。


   だからって何でいきなりキスするのよ。


   蓉子。


   …。


   蓉子。


   …分かった、分かったわよ。


   じゃ、どこが良い?


   ……どこが良いかしら。
   スペインにでも行ってみる?


   ドイツは良いの?


   …どうして?


   ほら、ロマン何たら街道ってあるじゃない。


   …ロマンティック街道?


   蓉子、好きそう。


   ……。


   ね?


   …興味はあるけど。


   じゃ、決まり?


   イタリアは?


   イタリア?
   修学旅行で行った?


   貴女は景さんとも行ったけど。


   …うん、まぁ。


   私は貴女と一緒に回れなかったから。


   …クラス、違ったし。
   ルートも違ったんじゃなかったっけ?


   だから回れなかった。


   ……え、と。


   私は貴女と一緒に回りたかったの。


   う、うん。


   でも貴女と一緒ならどこでも良い。


   …え。
   あ…。


   ……なんてね。


   よ、蓉子…。


   やっぱり課題をするのは止めた。


   …。


   聖。


   …え、な、なに?


   ご飯、作って。
   今夜の。


   へ…。


   食べたい。


   で、でも。


   食べたいの。


   う、うん、分かった。


   美味しいの、期待してるから。


   任せて。








  -I reach for the sun.





   蓉子さま。


   うん?


   お久しぶりです。


   令。
   令じゃない。


   はい。


   本当に久しぶりね。
   元気?


   元気です。
   蓉子さまもお元気そうですね。


   ええ。


   聖さまは…?


   あそこ。


   …大学?


   コーヒーを、ね。
   今でも変わらず好きなのよ。


   そういえば聖さまの淹れたコーヒー、とても美味しかったですよね。


   聖、コーヒーには拘りがあるのよね。
   そのわりには缶コーヒーも飲むのだけど。


   缶コーヒーにだって拘りがあるんじゃないですか?


   そう?


   こっちでは売ってないのを買いに行っているのかも知れませんから。


   ああ、なるほど。


   ブラック、ですよね?


   無糖のね。


   私は未だに飲めないんですよね。


   私も飲めなくは無いのだけど、苦手。
   だから淹れて貰う時は大抵、ミルクとお砂糖を入れて貰うの。


   大抵と言う事はたまにはブラックですか?


   ええ、ほんのたまにだけどね。
   気分次第では飲めるから。


   由乃は角砂糖、二つは入れますよ。
   あとミルクもたっぷり。


   カフェオレ?


   より、甘いかも知れません。


   ふふ。


   蓉子さまは聖さまを待ってからですか?


   そのつもり。
   そういえば由乃ちゃんは?


   後で合流する、だそうです。


   後で?


   家、隣同士ですから。
   たまには違った事をしたいらしいですよ。


   待ち合わせ、とか?


   はい、そのとおりです。


   ふふ、由乃ちゃんらしいわね。


   笑い事じゃないですよ。
   遅れたりすると、大変なんですから。


   あら、それは大変ね。
   こんなところで油を売っていて大丈夫かしら?


   大丈夫です。
   時間より早く出てきたので。


   江利子には?


   連絡はしました。


   連絡だけ?


   館で、と。


   …そう。


   あの。


   うん?


   ご一緒しても、良いですか?


   一緒に?


   あ、お邪魔ですか?


   いいえ、良いわよ。
   一緒に行きましょう。


   はい、ありがとうございます。


   それにもう、ずっと一緒にいるから。
   それこそたまには変わったコト、しないとね。


   あはは。


   …それにしても。


   はい?


   何も、変わっていないわね。


   そうですか?


   ええ、あの頃のままだわ。


   …そうかもしれませんね。


   制服はもう、着ていないけれど。


   …。


   令。


   はい。


   薔薇の館は今でも変わらない?


   …。


   令?


   多分、そんなに変わってはいないと思いますけど。


   多分?


   行く事、あまり無いんです。


   …そう。
   そうよね。


   けどあまり変わってないと思うんですよね。
   根拠は無いんですけど…。


   …。


   住人は変わったけれど…。


   …そうね。




   おーーーい。




   あら、聖だわ。


   やぁやぁ、お待たせー。


   本当よ。
   じっとしていると寒いんだからね。


   そうだと思って、蓉子さまの分も買ってきたよん。


   それはありがと。
   聖は?


   私はこれ。
   やぁ、あって良かった。
   ぶっちゃけ、高等部には無かったヤツなんだよね。
   今は知らんけど。


   令の言ったとおりね。


   でも本当は分かっていらっしゃたんじゃないんですか?


   さぁ、どうかしらね。


   うん?
   何の話?


   こっちの話。


   えぇ、私にも教えてよ。


   聖さま。


   やぁ、令。


   お久しぶりです。


   うん、久しぶり。
   ごめんね、令の分は無いや。
   で、何の話?


   気にしないで下さい。
   たまたま、ですから。
   それから缶コーヒーのお話です。
   聖さまは屹度、こちらでは売ってないのを買いに行ってるんだろう、と。


   そっか。
   蓉子もこっちの方が良かった?


   いいえ、これで良いわ。
   ありがとう。


   どーいたしまして。
   そういや、由乃ちゃんは?


   …。


   …。


   ん?


   それ、私もさっき聞いたのよ。


   ありま。


   思う事は一緒なんですね。


   いやぁ、令と言ったら由乃ちゃんじゃないの。


   由乃はそろそろ来ると思います。


   一緒じゃないんだ?


   はい。


   ま、たまには良いかもね。


   じゃあ私達もたまにはそうしてみる?


   え、なんで?


   たまには良いじゃない?
   ずっと一緒に居るんだし。


   なんの、私達はこれで、


   …。


   良いんだって。


   …全く。
   ねぇ令、うちはいつもこんななのよ。


   ごめんね、令。
   見せ付けちゃって。


   はは。


   しっかし、もう14年かぁ。


   あら、大学時代は?


   含まれてません。
   同じリリアンでもなんか違うんだよね、大学は。


   ふぅん。


   令は今でもリリアンに居るんだもんね。


   生徒として、ではありませんけど。


   どう?
   ここは相変わらず?


   そうですね…マリア様の箱庭のままですよ。


   箱庭、か。


   と言っても。
   やっぱりジェネレーションギャップは感じますけどね。


   はは、それはしょーがないんじゃない?
   ねぇ、蓉子。


   そうねぇ。


   会話とか、全然分からないんですよ。
   今流行りの歌の話とかされる時があるですけど、もう、全然分からなくて。


   私は当時から分からなかったけど。


   聖は、ね。


   蓉子ちゃんは分かってたのー?


   貴女よりは。


   ふふ、そんなコト言って。
   あの頃から私に夢中だったクセにー。


   ねぇ、令。
   莫迦だと思わない?


   ふふ。


   ほら聖、令に笑われてるわよ。


   良いんだもん、本当の事だから。


   本当に莫迦な人で困っちゃうのよ。


   でも仕合わせそうですよ。


   うん?


   ねぇ、聖さま。


   おう、令は分かってるなぁ。


   だって蓉子さま、お綺麗なままですから。


   …。


   …。


   こう、内面から溢れているような気がするんですよね…?


   …。


   …。


   …私、変な事言いましたか?


   いや、全然。
   そのとおりだよ、令。
   蓉子はずっと綺麗なままなんだ。


   …もう。


   けど令、駄目だよ?
   蓉子は私の恋人なんだから。


   あ、はい。
   それは大丈夫です。


   聖。


   だって、ね?


   だってもあさってもありません。
   大体、貴女は…。




   令ちゃん!




   あ。


   なんで居るの!?


   由乃。


   もう、薔薇の館で会おうって言ったのに!


   蓉子さまと聖さまに会ったから。
   それで…


   やぁ、久しぶり。


   久しぶりね、由乃ちゃん。


   あ、お久しぶりです。
   …令ちゃん!


   ああはいはい、ごめんごめん。


   そうやって適当に流す!


   相変わらずだねぇ。


   ええ、相変わらずね。


   もう、折角一緒に来なかったのに。


   良いじゃない、ここまでは一緒じゃなかったんだから。
   そもそも行き先が一緒なのだから


   だめなの!


   うん。
   じゃあ、私は聖さまと蓉子さまと一緒に行くよ。


   は?!


   さぁ、蓉子さま、聖さま、行きましょう。


   おー。
   さ、蓉子。


   はいはい。
   でも手は離してね。


   やだもーん。


   こら。


   …。


   由乃は先に行ってても良いよ。
   そういえば菜々ちゃんはどうしたの?


   ……か。


   うん?


   令ちゃんの、ばーか!!


   お、出た。


   蓉子さま!


   え?


   私と一緒に行きませんか?


   …私と?


   こらこら由乃ちゃん、蓉子は


   そうね。
   たまには良いかも。


   ですよね。


   …て、よーこー。


   由乃、蓉子さまは


   良いって仰ったもの。


   じゃあ私もそっちに行く。


   聖はだーめ。


   よーーこーー。


   さ、由乃ちゃん。
   行きましょうか。


   はい、蓉子さま。
   じゃあね、令ちゃん。


   あーー…。


   …すみません、聖さま。


   …。


   …聖さま?


   やっぱりだめー!


   …わ。


   あ。


   良いじゃん、みんなで行けば。
   ずっと一緒で良いじゃん。
   悪くないじゃん。


   …。


   …。


   …やれやれ。
   そういうわけだから、令、由乃ちゃん。
   良いかしらね。


   …はい。


   ……。


   由乃。
   あの頃はずっと一緒だったけれど、卒業してからは初めてじゃない?
   リリアン
〈ココ〉に来るのは。


   …。


   だから行こう、由乃。


   …どうしても、って言うなら。


   うん、どうしても。


   …仕方ないわね。


   うん。


   そうそう、好きならやっぱりずっと一緒が一番ってね。


   貴女はくっつきすぎ。


   気にしなーい。


   少しは気にしなさい。
   若くないんだから。


   好きなのに、歳なんて関係ないもんね。


   …全くもぅ。


   聖さま、蓉子さま。


   『うん?』


   晴れて、良かったですね。


   ん、そだね。


   ええ。








   相変わらず聖蓉祭。
   そして令由は私のマリみて原点。