(…腹、減ったな。) 杏子、今日もおつかれさま! ごはん、出来てるよ!! (…今日は何かな。早く帰りたいな。) それとも、お風呂が先の方がいい? (…いや、飯がいいな。腹が減ってもう、倒れそうだよ。) じゃあ、手洗いとうがい、ね? 洗濯ものはかごに入れておいてね。 (……さやか。) おかえり、杏子。 (…早く、帰りたい。疲れた…。) 杏子。 (…あぁ、そうだ。あの店のケーキ、さやか好きなんだよな…。) わぁ、ここのケーキおいしいよね。 マミさんのもおいしいけど、ここのケーキもあたし好き。 まぁ、ちょっとお高いけど。 (……たまには。) ありがとう、杏子! 大好き! V o i c e s …ただいま。 お帰りなさい! さやか。 ごはん、出来てるよ! ごはんが先でいいでしょ? …うん。 じゃあ、手洗いとうがいと… …。 …杏子? ただいま、さやか…。 ……。 …。 …今日、忙しかったの? いつもより遅かったもんね…? …突発の休みが出て。 インフルだってさ…。 ああ、今流行ってるみたいだもんね。 大学でも休んでる子、いるみたいだし…。 おかげでしばらく、一欠だよ…。 そっか…お疲れさま、杏子。 ……。 …へへ。 お帰りなさいのキス。 …さやかぁ。 こらこら、それは後。 うー…。 お腹、空いたでしょ? …うん、減った。 インフルの予防も兼ねて、ちゃんと手洗いうがい。 ね? …おう。 うん、よろしい。 ……さやか。 ん? これ…。 …。 …お土産。 気になってはいたんだけど…それ、あたしに? うん…さやか、好きだから。 ……。 …さやか、この店のケーキ好きだろ。 だから…。 ああもう、疲れてるのに! …。 なんでそんな時に、買ってきてくれるのかなぁ…。 …ふと、さ。 うん…。 …さやかの喜ぶ顔が見たいって。 ……。 だから…さ。 杏子! …いらなかった、か。 ううん、嬉しい! ありがとう、大好き! …。 二人で食べようね、杏子。 …うん、さやか。 ん……。 …へへ、さやかぁ。 だーかーら、後でだって。 …ちょっとだけ。 もう、しょうがないなぁ…。 ……。 …少しは元気になれた? うん…やっぱり、さやかが一番だ…。 ……。 …ただいま、さやか。 ただいま…。 …お帰りなさい、杏子。 ……。 杏子、杏子。 …ん。 お風呂、沸いたけど…どうする? 一人で入れそう? …うん、入る。 一人で? …。 …一人で、大丈夫? ……さやか。 なぁに? …一緒に、入ろう。 本当? いいの? …溺れ死にそうになったら、助けて。 ん、分かった。 さやかちゃんに任せなさい。 ……。 背中、流してあげるね。 …うん。 あ、そうだ…。 うん、なに? …食器、洗ってない。 ちょっと、待ってて…すぐ、やっちゃうから。 杏子。 …なに。 今日はあたしがやるから。 …。 やるから。 …でも、約束…したろ。 時と場合。 …。 ね…お風呂、入ろ? あたし、準備してくるから先に行ってて? …さやか。 ほら。 ね? …うん、さやか。 …はぁ。 やっぱりお風呂はいいねぇ…生き返るわぁ。 それ…おっさんくさいぞ、さやか。 やかましい。 ……。 …ねぇ、杏子。 ケーキ、おいしかったね…。 …ああ、そうだな。 うまかったな…。 …ね、杏子。 なんだい…。 …今度、温泉行かない? 旅館に泊まって…温泉に入って…おいしいごちそう、二人で食べるの。 …いいかもなぁ、それ。 ホテルじゃなくて、旅館ってところがミソなの。 畳にお布団が敷いてあって…多分、二組敷いてくれるだろうけど。 …。 …二人で、一つのお布団で寝るの。 眠る前に、今日は楽しかったね、とか…ごはんおいしかったね…とか、 明日は何しよう…とか、他愛も無いこと、話しながら。 …ああ。 それで…ね。 話が終わったら…。 …。 …たまには違う場所も、いいなって。 いつ、行こうか…。 …いつ、休み取れそう? そうだなぁ…。 …ん、杏子。 ……お前が、休みの時に合わせて。 う、ぅん……。 ……。 …きょう、こ。 今日は、疲れてるんじゃ…。 ……。 (もしかして…ねぼけて、る?) ……。 (だとすると…むいしき?) ……。 (ああ、まるで…たぐられてる、みたい。) …さやか。 あ、ん…ぅ…。 ……。 …は、…きょうこ。 ……。 (…うごかない。はいった、だけ。やっぱり、むいしき…なんだ。) ……なぁ、さやか。 な、に…。 …結婚するってことはさ、一つの罪を犯すってことなんだよ。 え…。 …愛しても、愛しても、心から愛しても。 でも…愛し足りることなんて、ないんだ…。 ……。 …だって、ほら。 あたしは…お前をこんなにも愛しているのに…こんなにも愛しく想っているのに。 それでもまだ、溢れてくるんだ…。 (……ああ、わかるきがする。) 多分、あたしは…お前を愛し尽くせたなんて、言えない…。 屹度、言えないんだ…。 (……あたしもだよ、きょうこ。) …結婚とは。 その罪を一生、負っていくんだ…。 ね…。 …うん? それ…お義父さんが? ……うん。 …。 ……さやか。 ふたりで、おっていくんだね…。 …。 …ずっと、ふたりで。 おばあちゃんに、なるまで…。 …さやかが、ばあちゃん。 あ、こら、そうぞうしないで…。 …きっと、かわいいばあちゃんになるんだろな。 ……。 …さやかは、かわいいからな。 あたしの…たったひとつの、たからものなんだ…。 …ほんとう? ん…。 あたし…きょうこの、たからもの? …ああ、そうだよ。 やっと、みつけたんだ…もう、はなさない。 きょうこ…。 なくさない…もう。 (……あ、うごく。) ……さやか。 (でも…もう、でないと。) ……。 きょ、う……ぁっ。 さやか…さやか…。 あ、あ、ぁ…。 …。 …ホットミルク作ったけど、飲む? ん…。 ほんの少しだけ、砂糖入り。 …のむ。 うん。 じゃあ…はい。 おう…。 ……。 …となり。 うん。 ……。 …ねぇ、杏子。 杏子ってさ…。 …あまい。 …。 …おいしい、な。 そっか…良かったね。 さやか…。 …。 …あったかいな。 うん……。 ……いいにおいが、するよ。 杏子も同じ匂いの筈だけど…。 …やさしいにおい、…さやかのにおい。 ……。 …あんしん、する。 ……飲んだら、寝る? さやか…? …あたしも一緒に、ね。 ……。 …杏子はたまにしか、あたしに甘えてくれないから。 …。 …だから、そのたまにが凄く嬉しいの。 …。 …でもね、杏子。 本当はもっと甘えて欲しいんだよ…。 …さやか、くすぐったい。 指先、荒れてる…。 …。 …クリーム、塗った? ううん…まだ。 …じゃあ、忘れてしまう前に。 あたしが塗ってあげる…。 ……。 …まずは、左手から。 うん…。 ……小さなささくれが出来てる。 ……。 ……。 …さやか。 なぁに…? …なんか、こそばゆい。 ふふ…じゃあ、次は右手ね。 おう……。 ……あぁ。 …? さやか…どうした…? …右手の方が酷い。 このささくれ、痛いでしょう…? ん…ち、でた。 仕事中はバンドエイドで保護しないと…。 ……。 ……はい、おしまい。 おう…ありがと。 ……。 …さやかは、のまないのか? うん…? …ぎゅうにゅー。 あたしは…この時間はちょっと。 …。 砂糖入りなんて飲めない…。 …さやかのはらのにく、あたしはすきだぞ。 ……。 …さわりここちが、いい。 きもち、いい…。 …こらこら、杏子。 それ、嬉しくないから…。 なんで…? こんなにきもちいいのに…。 …ああん、もう。 ふにふにしないで…。 ……へへ。 …牛乳、早く飲んじゃいなさい。 はぁい…。 ……。 …さやかぁ。 はいはい、なぁに…? …さやかは、あまいなぁ。 …それはどういう意味で? ぎゅうにゅーより、あまぁいんだ。 ……。 …あまい、…あまい、…あたしのさやか。 (……舌足らず。) さやか…。 (…最近は随分、潜めていたのに。) ……。 (……それでも、あまいこえ。あまく、あまく…あたしのなまえをよんでくれる、こえ。) ……。 …飲み終わった? ……うん。 じゃあ…杏子はもう一度、歯磨き。 あたしはマグ、洗ってくるから。 …。 …一人で、行けるかな? ……。 …じゃあ、ちょっとの間だけお別れ。 ね…? やだ。 …杏子? おわかれなんてことば、きらいだ… …。 …きらいだ。 ……杏子。 ……。 (……屹度、明日になればいつもの杏子。) ……。 (…だから、今だけ。) ……。 …て。 ここで寝たら、駄目でしょう…? …うぅ。 はい、歯磨き行っておいで。 その後、ベッド。 どっちが早いか競争。 …。 だからって、歯磨き適当にしちゃ駄目だからね。 …きょうそう、な。 うん、競争。 じゃあ…よーい、どん。 さやか。 …。 さやか、さやか。 …。 さーやか。 …何? 聞こえてるなら返事しろよー。 だから、したじゃない。 それで、何? あそぼーぜ。 却下。 えー、なんでだよー。 宿題してるから。 そんなの、後でいいじゃん。 それよかあたしと遊ぼう。 それよか、あんたも宿題しなさい。 なぁなぁ、さやかぁ。 …。 なぁってば。 …ナイトメア、今夜も出ないとは限らないんだから。 でも、出ないかもしれねーじゃん。 …だと、いいけど。 なぁなぁ、さやか。 ……。 ちぇ…しょうがねーな。 ……。 よっこらせっと。 …立つなら。 冷蔵庫から… ……。 …杏子。 へへ。 …あんたねぇ。 だから、宿題やんなさいって。 さやかは真面目だなー。 そんなに真面目だと頭、禿げちゃうぞー。 …全国の真面目さんに謝れ。 …。 ……。 …さやか。 ……首に顔、うずめないで。 息が、くすぐったいから。 …さやかはいい匂い、するよな。 …そうでもないわよ。 ううん…いい匂いだ。 母さんを思い出す…。 …あたしはあんたの母さんじゃないんだけどー。 さやかあちゃんのくせに。 …明日の朝ごはん、抜かれたい? ごめんなさい。 …よろしい。 ……。 …宿題、見せてあげないわよ。 ナイトメア。 …。 …たまには出なくていいんだけどなぁ。 そればかりはどうしようもないから。 …さやかは。 …。 …。 …あたしは、なに。 たまに、冷たい感じがする。 ……。 …こんなにあったかいのに。 もう人間じゃないから、かもね。 …え? …。 さやか…? …なんて、ね。 杏子。 …お。 はぁ。 しょうがないから、遊んであげる。 お、ほんとか?! 後から抱っこされてたら、落ち着かない。 し、耳元で喋られると、集中出来ない。 結果、宿題が全く捗らない。 だったら。 だったら? この甘えたの誘いに乗ってしまった方が、いっそ、楽。 お…。 …それで? 何して遊ぶの? そ、そうだなー…何するかなぁ。 何よ、考えてないの? 人の邪魔、さんざしておいて。 ゲームか、それともテレビ見るか。 両方、いや。 じゃあ あたしが提案してもいい? あ、ああ、いいぞ。 …じゃあ、離して。 …。 早く。 う、うん。 …ふぅ。 さやか…? 遊ぼう、杏子。 え……え? …あたしと。 さ、さや……んん。 ……。 …ん、…は、…さや…。 ……ベッド、で。 …! …なに? いやなの…? や、やじゃねーけど…。 …けど? ナ、ナイトメアが…。 …出なければ、いいのに。 ……。 …ねぇ、杏子? お、おう…。 …いっぱい、遊んで。 …。 …邪魔、したんだから。 満足させてくれないと…許さない。 …ッ! …あと。 そんなつもりじゃなかった、も…許さない。 ……あ、う。 きょうこ…。 ……。 …早く、遊んで。 さやか、は…。 …なぁに、甘えん坊さん? ば、ばか…。 …さぁ、早く。 ……ナイトメア。 …。 …今夜は、出んな。 ん…同感。 …さやか。 ……。 さやか…さやか…。 (……これは、いつのだっけ。) …はぁ、……さやか…。 (…あの世界の杏子は、今と違って、とても甘えただったような気がする。) ……ぅ、………さや、か…。 (…無邪気で。明るくて。あたしの見た事の無い、知らない、杏子だった。) はぁ……。 (…そうだ。この杏子は、あの子が作った世界の。) …さや、か。 (……あの子が夢見た世界の。あまい、あまい、夢。) ……すき、だ。 (…ともすれば。) すきだ…すきだ、さやかぁ……。 (……にしても、かわいかったな。) ……。 (……あたしに甘える杏子、甘えてくれる杏子、かわいいあたしの杏子。) ……さや、か。 (……どの杏子も好きだけど。そう、あたしを殺そうとした杏子さえ。だって、くれた痛みはあたしだけのものだから。) ……さやか? (………だけど。) ……。 …杏子? …。 …寝ちゃったの? ……。 …競争、あたしの負けだね。 ん…。 子供みたいな寝顔…かわいい。 ……。 …寝顔だけは、変わらないね。 ……そんなこと、ない。 …。 …さやか。 起きてたの…? それとも起こしちゃった…? …一人で、寝ていた頃は。 …。 いつだって、気を張ってた…緩めることなんか、出来なかった。 …。 …変えてくれたのはさやか、お前だ。 ……杏子。 ……。 …杏子。 知らない夢を、見たような気がする…。 …どんな? ……あたしがガキみたいに、締りの無い顔で笑ってる夢さ。 …。 お前が隣にいる…それだけで嬉しくてたまらなくて、はしゃいでる、そんなあたしの夢。 ……そっか。 なぁ、さやか…? …うん? あたしは…。 …眉間に、皺。 う…。 …締りのない顔、寧ろして欲しいな。 ……。 …そう、あたしに甘えきった、そんな顔。 ……。 ……。 …? さやか、何して…。 ……。 さやか…。 …ね、杏子。 お願いが、あるの…。 …なんだい? 服、脱いで欲しいの。 …。 …して欲しいわけじゃないの。 ただ、服を脱いで欲しいだけ…。 …さやか。 貴女を感じるのに…その布が、邪魔なの。 ……。 …ごめんね。 疲れてるのにね…。 …。 ……。 …分かった。 ちょっと待っててくれ…。 ……。 ……。 ……。 …はぁ。 ……。 …おいで、さやか。 うん…。 ……。 …きょうこ。 さやか。 きょうこ…きょうこ…。 あたし、かんじられるか…? …うん、かんじるよ。 かんじられるよ…。 …うん、あたしもだ。 ……おとが、きこえる。 うん…。 ……。 …さやかはやっぱり、いいにおいがするな。 おかあさんなんて、いわないでね…。 …いわないよ。 いうわけ、ないだろ…。 よかった……。 …さやかは、あたしのよめだ。 ん、きょうこ……。 ……。 ……。 …ん。 ……月ノ明リ…。 さやか…? …タダ静カニ、照ラス…。 (……また、だ。また、遠くを見てる…。) ……錆ビ付イタ、コノ胸…… (……あたしなら、ここにいるのに。ここにいるんだよ、さやか…。) …掻キ乱スヨニ…。 (…そこに、何があるんだよ。そんな目で遠くを見るなよ…見ないでよ。…どこにも、行かないでよ。) …月ノ明リ……。 (…あたしを、おいて。もう、どこにもゆかないで。あたしは、ここにいるの…さやかの、そばに。) ……青イ夜ニ、光ル……。 (…そうだ。“あたし”は、ここにいる。) …アノ日々ノ、輝キ……。 (…どの時間でも、どの世界でも。あたしは、ここにいる。離れる事なんて、出来ない。) …照ラシ出スヨニ……。 (さやか、お前の傍に。…だから、さやか。) ……。 さやか。 …ん。 ……。 ナイトメア、出なかったね…? ……。 …なんて。 まだ、分からないか。 夜はこれからだし…。 …。 …杏子? なぁに、まだ遊び足りない…? ……。 …? 杏子…? ……。 ……貴女は、いつの? ……。 ……。 …そらの、はてに。 ……ん。 こころを、とばすのは…。 ……。 …あなたの、すぐそばに。 ……きょうこ? だれも、いないか…ら。 …。 あめの、おとに……みみを、すましながら。 ……。 とじこめた、ことばは………うもれて、しまう…。 杏子。 …。 …杏子。 ゆめを、みるんだ…。 …どんな。 …。 …。 …おまえが、どこかとおくをみつめていて。 …。 そのなかに、あたしはいないんだ…。 …。 …どんなにちかくにいても。 どんなにからだをかさねても…おまえのひとみのなかに、あたしはいない…。 ……。 ねぇ、さやか…。 …なに。 あたしは、ここにいるよ…。 …。 ここに、いる…。 …うん。 とおくなんか、みないで…。 …。 ……あたしを、うつして。 あたしは、もう。 …。 …あたしはもう、あなたしか見えない。 ……さやか。 だから…。 …。 …あたしはもう、あなたから離れない。 二度と、離れたくない…。 ……さやか。 …今度こそ、この世界で。 あなたと今を生きたい…一緒に、生きていきたい…もう、どこにも行きたくない…。 いくな…どこにも、いくな…さやか。 …。 …もう、ゆかないで。 じゃあ、つなぎとめて…つよく、つなぎとめて。 あたしを。 …ああ。 きょうこ……あたし、の。 ……。 ……いつか、きっと。 …。 やみにしずむふねを……。 …。 ……あなたが、みちびいて。 ……。 ……。 『…ひかりのなかへ。』 ……。 ……。 …さやかぁ。 あ、起きた? …うん。 起こしに来たんだけど、大丈夫だったみたいだね。 おはよ、杏子。 …おはよう、さやか。 疲れ、取れた? んー…まぁ、それなり。 凄い疲れてたみたいだから、今朝は起こさなきゃダメかなーって思ってたんだけど。 流石は杏子? ……。 でも少し、ほーっとしてる? …なぁ、さやか。 うん、なに? その……あー。 なに、どうしたの? …ごめん、何も覚えてない。 うん? いや、だから、その……シたの、か? ああ。 シたんだよ、な…? ……なんで? なんでって…。 何も着てないから? …うん。 ……。 さ、さやか? …酷い。 何も覚えてないだなんて。 あ。 あたし、イヤだって言ったのに。 それなのに杏子は無理矢理あたしの事押し倒して。 あ、ああ。 …もう、ね。 壊れるかと思うくらい、滅茶苦茶だったんだから。 ナカ、強く掻き混ぜられて。 ……。 …その感覚が今でも残ってて、立ってるのも精一杯なのに。 全部、覚えてないだなんて……酷い。 ごめん、さやか。 ごめん。 ……。 さやか…。 ……なーんて。 あ? 昨夜(ゆうべ)は何もしてないよ。 本当に。 …本当、か? うん、本当。 …じゃあ、なんで。 杏子、昨日の記憶どこから無い? ……。 ベッドに来たのは? …正直、風呂の途中からあまり覚えてない。 お風呂の途中から? さやかを後から抱えて…温泉? 行きたいってさやかが言って…。 …。 ……それから。 結婚する事は一つの罪を犯す事って話してくれた事は? …おぼろげに。 あと、なんとなくホットミルクを飲んだような…。 杏子ね。 …うん。 お風呂の途中で、寝ちゃったんだよ。 …あー。 あたしと一緒じゃなかったら、やばかったかも? …洒落にならなかったな。 一緒に入って、良かった? ああ、良かった。 そんな死に方したんじゃ、死んでも死に切れない。 …そうだよ? ん…。 …あたしを置いて、お風呂で溺死なんて。 ……で、さやか。 ん? だから、あたしは何も着てないのか? …。 でも、ホットミルク飲んだのは… 飲んだよ。 あたしが作ってあげたの。 だ、だよな。 服は…お風呂出てから、自分で。 半分寝ながらだったから、覚えていないのかも。 じゃあ、なんで何も あたしが、脱がしたの。 そう、したかったから。 …え? で、あたしも裸で。 文字通り肌を重ねて寝ました。 ……シて、ないんだよな? うん、してない。 …少し、したけど。 え、し、したのか。 …さぁ? さやかぁ。 …まぁ、それはお風呂の時になんだけど。 ふ、風呂で? それは、兎も角。 う。 早く服を着て? 折角起きられたのに、遅刻したら元も子もないから。 お、おう、そうだな。 朝ごはん、出来てるから。 ああ、分かった。 早くね。 おう。 ……。 …な、さやか。 うん、なぁに…? その…良く寝られたよ。 …。 …。 …いっそこれからはずっと、そうしちゃう? え。 何も着ないで。 ば、ばか。 だってそれで杏子が癒されるなら。 良いかなって。 良くないだろ。 さやかが風邪でもひいたら大変じゃねーか。 あたしの心配? それとも、ごはんの心配かな? ばか。 さやかの心配に決まってるだろ。 …うん、知ってる。 でもね、あたしは良いと思うけどな。 だって直接感じられるのはやっぱり、気持ち良いもの。 …。 …だから、ね? さやか…。 …さ、早く支度して? 本当に遅刻しちゃう。 …さて。 もう行く? うん、行く。 疲れ、大丈夫そう? ああ、大丈夫だ。 あたしのおかげ、かな? ばーか。 なによぅ。 …でも、そうなんだろうけどな。 …。 …さやか。 ふふ。 じゃあ…はい、今日のお弁当。 …ありがとう。 今日のお弁当はなんだい? さぁ、なーんでしょ? 楽しみだな。 それから、柚子茶ね。 おう。 これ、すっかりお気に入りだね。 これ飲むとなんだかほっとするんだよな。 冬だからかな。 それとも、甘いからかな。 どっちもあるんだろうけど。 けど? …。 杏子? なんかうまく言えない。 そっか。 ……。 ん、杏子…。 …さやか。 …なぁに? ……。 …杏子。 …うまく、言えないけど。 でもなんとなく、さやかを抱き締めた時の安心感と少し、似てるような気がする。 …あたしは柚子茶なの? そうじゃなくて…。 じゃあ…? …だから、言ったろ。 うん、聞いた…。 …。 …安心、する? うん……。 …うん、あたしも。 さやか…。 …ね、杏子。 …。 杏子が帰ってくる場所は、ここだから。 …うん。 杏子が帰ってくる場所が、あたしの場所だから。 あたし達の家だから。 うん…さやか。 ……。 さやか…今日も行ってくるよ。 …うん、気をつけて。 無理、しないで。怪我にも気をつけてね。 うん、分かってる。 …遅くなりそう? あまり遅くならないようにしたい。 …うん。 さやか…。 ね。 …なんだい? 今日も疲れて帰ってきたら。 …。 …あたしが癒してあげる。 …。 いつだって、杏子を癒すのはあたしであって欲しい…他の誰かなんかじゃ、なく。 …そんなの。 そんなの…? …当たり前だ、ばか。 絶対、だからね…。 …ああ、絶対だ。 ……。 ……。 …行ってくる、さやか。 うん…行ってらっしゃい、杏子。 Song... “月の明り” 伊田恵美 “光の中へ” 大木理沙 BGM... “滅びし煌めきの都市” from 「聖剣伝説 Legend of Mana」 下村陽子 “Малка Мома” ブルガリア民謡(ブルガリアン・ヴォイス) “愛のテーマ” from FINAL FANTANSY 4 植松伸夫 ただいま、さやか。 おかえり、杏子。 ごはん、出来てるよ。 さやか、これ。 …? 今日も? おう。 今日は 動物まんじゅう。 色んな動物の顔がまんじゅうになっててさ、結構、かわいいんだ。 さやか、気に入ると思ってさ。 …。 後で一緒に食べような。 ねぇ、杏子。 うん? 杏子、お小遣い足りてる? ? 足りてるけど? 欲しい物、ちゃんと買えてる? 買ってる? なんだよ、さやか。 急に。 だって。 だって、なんだよ。 杏子、いつもあたしにお土産買ってきてくれて。 他に何か買ってるように思えないから。 他? そう、他。 食べ物ばかりなのは昔からだけど、その食べ物も最近はあたしへのお土産ばかりのような気がして。 確かにさやかへの土産でもあるけど。 自分でも食うから。 そうだけど。 食べ物以外で欲しいの、今でもやっぱり無いの? …。 もしもあるなら、 よく分かんないんだ、今でも。 …。 食うに困らない事。 それから、さやかと一緒にうまいものを食うコト。 それがあたしの欲しいものだから。 …杏子。 それに一番欲しいものはもう、ここにいてくれるしな。 ……。 ……。 …でもね、杏子。 …なんだい。 靴、そろそろ買おう? 靴? でもまだ、 だめ。 底、大分減っちゃってるんだから。 滑ったりしたら、危ないでしょ? 他にも替えは 替えも大分、くたびれてる。 だから今度、一緒に見に行こ? はい、約束。 …さやか。 杏子は一人じゃ行かないから。 だから、嫁であるさやかちゃんが一緒に行ってあげないとね? …でも、さやか。 なに? …この靴、気に入ってるんだ。 …。 …赤に、その、青いラインが入ってるだろ? だから…。 …知ってる。 あたしが、選んだんだから。 …。 でも、新しいのは必要だから。 ね、分かって? ……。 杏子。 …分かった。 じゃあ、今度行こう。 うん。 …。 ね、杏子。 …ん? お小遣い、足りる? 足りるよ。 会社の人とお付き合いとかあったら 行かないから。 …そんなに早く、さやかちゃんの所に帰ってきたい? ばか。 それにそういうの無いんだよ、うちの班。 …あっても、行かないって言ったけど。 家が、一番だからな。 さやかがいる、この家が。 ……。 さやか、あのな…。 …うん? …。 杏子…? …さやかの喜ぶ顔とか、な。 …。 さやかの嬉しそうな声、とか…そういうの。 …もうちょっと詳しく? だから…その、見たいってのもあるんだけど。 うん。 ……思い、浮かぶんだ。 …。 それで…そう、なってくれたらって。 …。 …。 あたしね、杏子。 ……おう。 杏子が買ってきてくれて、杏子と一緒に食べられるから、嬉しいんだよ。 …。 だから…ありがと、愛してる。 お…。 …。 …さやか。 キス(こういうの)は期待、してなかった? ……。 …してなかったのかな? ………してた。 …。 ……と、思う。 ふふ。 じゃあ動物まんじゅうはお茶と食べようね? …おう。 じゃあ、まずは…。 さやか。 …ん? 今日も…その、疲れた。 ……。 …疲れた、よ。 …一緒にお風呂、入る? ……。 じゃあ…いっぱい、癒してあげるね。 お風呂だけじゃなく。 ……うん。 ……。 …え、と。 さやか、今日の弁当もうまかった。 ん…良かった。 えと、夕飯はなんだい? さぁ、なーんでしょ…? 腹、減った。 さやかの飯、早く食いたい。 任せて、すぐに準備しちゃうから。 おう。 でも、その前に。まずは手洗い。 ね…杏子? |