……。


   ……。


   …光とは。


   …。


   この手に、ありのままをうつすだけ。


   …。


   光とはこの手に、ありのままをうつすだけのこと。


   ……。


   見ていたくても、見たくなくても、光が差せば、見ずにはいられないの。


   …その歌。


   ……さぁな。


   ……。


   …さやか、本当にここにいるつもりか。


   うん…いるよ。
   そう、決めたから。


   …けど、守ってやれない。


   いいよ…別に。


   …。


   あたしは…あんたに守ってもらうつもりで、ここにいるわけじゃないから。


   …。


   …分かってるよ。
   あんたは…口は悪いけど、優しいから。
   多分、あたしを守ってくれようとする。
   だからあたしは、あたしがここにいることで、あんたの足を引っ張る。足手纏いになる。
   あたしには力がないから。


   ……。


   だけど…ここに、いるの。
   杏子のそばに。


   ……約束、か。


   …さぁ、なんだと思う?


   意趣返しか?


   …いしゅがえし?


   仕返し。


   …どうして?


   ……。


   ……。


   …さっきの歌な。


   ん…。


   母さんが、口遊んでた。


   …杏子ってお母さん似?
   それともお父さん似?


   なんだよ、唐突だな。


   あたしは…どっちかと言うと、お父さん似。


   …あたしは、どちらかと言うと、母さん似だな。
   特にこの髪の色は母さん譲りなんだ。


   きっと、綺麗な人だったんだろうね。


   …なんでそう思うんだ?


   杏子も、きれいだから。


   …は?


   ……。


   ……。


   …なんだかな。


   うん…?


   …そんな事言われたの、初めてだよ。


   じゃあ、あたしが初めの人だね…?


   ……。


   ……照れてる?


   と言うか恥ずかしいヤツだったんだな、お前…。


   …ふふ。


   …。


   杏子も、笑ってよ。


   この状況でか。


   うん、この状況でも。
   さ、早く早く。


   …。


   うん、見事に引きつってる。


   …意識して笑った事なんかねーよ。


   作り笑い、苦手そう。
   写真とか、あまり好きじゃないでしょ?


   …。


   当たり。


   …。


   ねぇ、杏子。


   …なんだよ。


   これが終わったら、二人でさ。


   ……。


   …二人だけの写真、撮らない?


   いやだ。


   …。


   …どうせ、ろくな顔にならない。


   いいじゃない、それでも。


   やだよ。


   …。


   …。


   ……どうしても、いや?


   ……。


   ……。


   …一枚だけだぞ。


   ええ…もっと欲しいよ。


   …。


   …一枚だけじゃなくて、何枚も。
   誕生日とか記念日とか……


   と言うか、さやかの誕生日知らない。


   あたしも杏子の誕生日知らない。
   だから教えて?これが終わったらでいいから。


   …お前が教えてくれるんならな。


   じゃあ、約束ね。


   …おう、約束だ。


   ……。


   ……さやか。


   …。


   恐くないか。


   …少し。


   ……。


   あれが、ワルプルギスの夜…。


   …あたしも見るのは初めてだ。


   ……あんなのと。


   だから、出ようって言ったんだよ。
   分かるだろ?


   …うん、分かる。


   でもま、仕方ねぇ。


   ……。


   …ん、さやか?


   ……今からでも


   さやか。


   なんて、言わない。


   ……。


   …ここに、いるから。


   …。


   ここに、いるよ。


   …ああ、ここにいてくれ。


   ……。


   じゃあ…さやか。


   …。


   …さやか。


   おかえりなさいって。


   …。


   …言って、あげるから。


   ……。


   …。


   …行ってくるよ、さやか。


   ん…行ってらっしゃい、杏子。








   おい。


   ……。


   おい、立てるか。


   ……う。


   手、焼かせんなよ。
   ほら、帰るぞ。


   ……。


   …。


   ……。


   …これに懲りたら。
   こんな時間に一人でうろうろすんな。
   あんたみたいな小娘、格好の餌食なんだからさ。


   ……した、の。


   あん?


   ……ころした、の。


   んなわけねーだろ。
   一応は生かしてあるよ。


   …。


   ただ、潰してやっただけさ。
   二度と使い物にならないように。


   …。


   知ってるか、さやか。
   性犯罪ってのは再犯率が最も高いんだよ。欲に直結してるからな。
   だから、その可能性を少しでも減らしてやった。
   ただ、それだけの事だよ。


   ……。


   あんたの躰は綺麗なままだ。
   まぁ、なんだ…良かったな。


   ……な、…よ。


   あ?


   ……余計な、お世話よ。


   なんだと。


   …助けてなんて、言ってない。


   ……。


   言ってな…う。


   …うるせぇ、ぼんくら。


   う…うぅ…。


   …もう一つ、教えてやる。
   あたしはああいう奴らが死ぬほど嫌いなんだ。
   だから、潰してやった。二度と、そんな気にならないようにさ。
   あんたを助けたのはそのついでだよ。


   ……。


   ……。


   ……。


   …くだらねぇ虚勢なんて張ってんじゃねぇよ。
   泣くほど、恐かったなら。


   ……ちが、う。


   違わねぇよ。
   たく、めんどくせぇ女だね、あんたは。
   ありがとう、の一言も言えないのかよ。


   ……。


   …ほら、帰ろう。
   うちまで送ってやる。


   ……い、い。


   うるせぇ。
   もう、決めたんだ。


   ……ぁ。


   家、あっちだったよな。


   …な、んで。


   なんででもいいだろ。
   さ、帰るぞ。ぼんくらさやか。


   ……おろして。


   だから、うるせぇって言ってるだろ。
   うすのろは大人しくしてりゃいいんだよ。


   ……。


   …さやか。


   ………。


   …あんたは独りじゃないんだ。
   それを…忘れんなよ。


   ……。


   …さぁ、帰ろう。


   ……。


   なんだったら……一晩くらいなら、その…傍にいてやるから。


   ……。


   …。


   ……。


   …ああ、もう!
   なんか言えよ!


   ……なんか。


   あぁ?


   ……。


   …あーもう、いい。
   たく、人が折角……別にいいけど…あー、くそ。


   ……きょうこ。


   あ?!


   …杏子。


   なんだよ、さやか。
   言っとくけど、降ろさな…え。


   ……。


   今、あたしの名前…。


   ……。


   さ、さやか…。


   …。


   え、と……。


   ……しょうがないから。


   …?


   …一緒にいてやってもいい。


   ……。


   ……。


   …ああ、本当面倒くせぇ。
   なんなんだよ、こいつ…と言うか、なんであたしは…?


   …。


   ……。


   …。


   …あんたの、そのめんどくささのせいで。
   そのせいで…放っておけないんだよ、ばか。


   ……おせっかい。


   うるせぇ、ばかさやか。


   …うるさい、ばか杏子。









   ……。


   ……。


   ……あぁ。


   ……。


   …ただいまって、言うのかな。


   ……。


   …なぁ、さやか?


   ……。


   なんて顔、してんだよ…おかえりって、言ってくれないのかよ…。


   ……。


   …ああ、気持ち悪いか。
   そうだよなぁ…こんな、だもんなぁ…。


   ……。


   …そんな顔しても、しょうがないよな。


   ……。


   …さやか、生きてよ。


   ……。


   あたしは…もう、こんなだから。
   歩けそうに、ないんだ…足、どっか行っちゃったし、さ。
   まぁ、足だけじゃないけど…。


   ……。


   治すの、苦手なんだ…ましてや、どっか行っちゃったのを復元するなんて芸当、あたしには出来ない。
   なぁ…?あんまり、万能じゃないんだろ…?魔法なんてさ…。
   やっぱり、お前はならなくて正解だったよ…。


   ……。


   生きてさ……他の誰かを、好きになって。
   もしかしたら、そいつの子供を産んで、さ…。


   ……。


   …それで、たまに思い出してくれよ。
   こんなヤツがいたなぁ、ぐらいでいいからさ…。


   …。


   …いや、思い出したくないならそれはそれでいいさ。
   それで、いいんだ…。


   ……。


   …そんな顔、するなよ。
   なぁ…お願いだからさ。


   ……あんたは、本当のばかだったんだ。


   なんだよ…やっと喋ったと思ったら…けんか、売ってるのか…?


   そうだよ…売ってるの。


   …よーし、買ってやろうじゃないか。
   で、どうするか…。


   あたし、本当は約束を守らないヤツはきらいなんだ。


   …ああ、同感だな。
   守れない約束なら、初めからしない方がいい。


   ……。


   どうした…もう、だんまりか?
   らしくねーじゃんか…。


   ……。


   さやか……ああ、不便だな。
   手がねぇってのは…。


   ……。


   …こんなになっても、まだ生きてる。
   気持ち、悪いよなぁ……。


   …。


   …ハードウェアだかなんだか、知らないけどさ。


   ……。


   なぁ、さやか…ならなくて、よかっただろう…?
   なぁ……。


   …。


   さやか…なぁ…。


   ……ばか。


   ……。


   …ばか。


   ひでーよなぁ…こっちは文字通り、手も足も出ねぇって言うのに。


   …守ってやれないって、言ったのに。


   あたしは…さやか曰く、優しいんだろ…?


   ……。


   …この街は、終わってしまったけど。
   でも…いつか。


   ……。


   …一緒にいたかったよ、さやか。


   …!


   ああ…いたかった…いたかったなぁ……写真、撮りたかった…。


   杏子、杏子…。


   ……さやか、お前にやる。


   …。


   胸の、ソウルジェム…これが、あたしの本体なんだ…。


   …これ、が。


   いらないと思うけどさ…やる。


   ……。


   あぁ…未練がましい、か……でも、さ、神さま…。


   ……。


   …こんな人生だったんだ…少しくらい、少しくらいなら、しあわせな願いをしてもいいだろう…?


   ……。


   なぁ……。


   ……ひとりに、しない。


   ん…。


   …どこまでも、あんたは。


   ……ひとりぼっちは、さびしいからな。


   …。


   …さやか。


   ……ねぇ、見て。


   …。


   …ここだけ、きれい。
   ここだけ…まるで何も無かったみたいに。


   …苦手、なんだ。


   ……。


   あたしは…どこまで行っても、攻撃ばっかりだから。


   ……。


   …あの魔女はもう、どっかに行った。
   で、どっかの街もこの見滝原のようにするんだろうな…。


   …。


   願わくば…お前が新しく生きる場所じゃないことを。


   ……杏子。


   う……。


   ……。


   …苦しいよ、ばか。
   殺す気かよ…。


   …あたしの誕生日、教えてあげる。


   え…?


   ……あたしの誕生日は。








   ……。


   ……。


   …え、と。
   杏子ちゃん、ハンバーグ食べる?


   …食う。


   じゃあ、はい。


   …おう。


   さやかちゃ


   …あたしはそいつの後なんだ。


   え?


   ……別にいいけどさ。


   え、えと…。


   …まどか。


   は、はい?


   これ、うまい。


   ほんと?
   良かった。


   …と言うか、なんでいるわけ。
   意味分かんない。


   ……。


   あ、あのね、わたしが来てって杏子ちゃんに頼んだの。
   その、一緒にお昼食べられたらいいなぁって思って。


   と言うかさ、なんで私服なわけ?
   学校は?この時間に何してるわけ?


   ……。


   さやかちゃん、それは


   大体、あたしに一言もなかった。
   いつも一緒に食べてるのに。


   さ、さやかちゃん…。


   …そしたらあたし、いらないじゃん。


   と言うかさ、なんであんたに断りを入れなきゃいけねぇんだよ。


   …。


   何をそんなに気に食わないんだが知らねぇけど。
   そんな辛気臭い面されてると飯が不味くなる。


   …!


   きょ、杏子ちゃん。


   まどか、あたしはもう来ないよ。


   え…え。


   その方がいいだろ。
   そこの青いヤツの為にもさ。


   …むかつく。
   ほんっと、むかつく。


   それはこっちの台詞だ、ばか。
   大体、あたしが何したって言うんだ。
   意味分からねぇ。


   …。


   は。
   じゃあな、まどか。
   ハンバーグ、ごちそうさん。


   待って、杏子ちゃん。


   ぐえ。


   あ…。


   …まどか、フード引っ張んな。


   ご、ごめんなさい…。


   …で、なんだよ。
   そっちの青いのが


   さやかちゃん。


   は?


   …?


   青いのじゃなくて。
   美樹さやかちゃん、だよ。


   ……だから、なんだよ。


   …まどか、あんた。


   でね、さやかちゃん。
   こちらは佐倉杏子ちゃん。


   ……。


   …だから、何よ。


   ごはん、一緒に食べよう?


   ……。


   ……。


   あ、早くしないと昼休みなくなっちゃう。
   さやかちゃん、ハンバーグ食べる?
   パパのお手製なんだ。杏子ちゃんもおいしいって言ってくれた。


   あたしは


   はい、さやかちゃん。


   ……。


   …礼も言えないのかよ。


   …!
   うっさいわね、言えるわよ!
   まどか!


   はい。


   ハンバーグ、ありがと!
   で、これ、まどかに!


   わ、わ…。


   …ゆで玉子。


   言っておくけど、あんたの分はないからね!


   はぁ?!
   別に欲しいなんて


   杏子ちゃん、お茶飲む?


   え、あ、おう。


   じゃあ、はい。


   …。


   …自分だって言えないじゃん、お礼。


   …!
   まどか!


   はい。


   ありがとな。


   どういたしまして。


   …。


   …。


   ふふ。


   …なんだよ。


   …なによ。


   んーん、なんでもないよ。








   ……。


   ……。


   …あんた、魔法少女になりたいんだってな。


   …!


   しかも他人の為に。


   …。


   …止めときな。
   あんたみたいな「しあわせばか」がなるもんじゃない。


   …なんであんたにそんな事言われないといけないのよ。


   あたしだから、だよ。
   ばか。


   …まどかに言われたの。


   言われてないよ。


   ……。


   ただの事故だった。
   ただ、ただ、運が悪かった。
   世の中にはごまんとある話さ。
   命が残っただけ、マシだよ。


   …。


   それはあの坊やが背負うべき因果だ。
   そしてそれを乗り越えるべきは、あの坊やだ。
   あんたが背負うべきものじゃない。


   …あんたに何が分かるのよ。


   何も分からないよ。
   あたしには関係ないからな。


   だったら、口出ししないでよ!


   …迷惑なんだよ。


   ぅ…。


   あんたみたいな甘ちゃんが、魔法少女になるのは。


   ……ぁ…が…。


   誰かの為に命を懸けるだとか、その為なら何も要らないとか。
   そんなのはただの綺麗事だ。欺瞞だ。


   ……、……。


   …あったかい飯を食って、あったかい場所で眠って。
   気の合う友達と、しあわせ家族に囲まれて、
   そんなあんたが魔法少女になんて、なるべきじゃねぇんだよ。


   ………。


   …それでもなるって言うのなら。
   真っ先に、あたしが潰してやる。
   あんたがまどかの友達とか、関係ねぇ。


   ……。


   二度は言わない。
   あんたは…あんただけは、絶対になるな。


   ……あんた、に。


   …。


   あんたに、なにが、わかるって、いうのよ…。


   分からねぇよ…!


   …。


   …命ってのは自分のものだ。
   誰かのものじゃない、どこまで行っても自分のものなんだ。


   …。


   願いも。
   そしてその願いは他人の願いと必ずしも一致するわけじゃないんだ。


   …。


   …あんたが願った分だけ、希望は生まれるかもしれない。
   だけどその分だけ、絶望も生まれる。巻き散らかされる。


   …。


   その絶望は…あんた自身から生まれないとは限らない。
   あんたは誰かの希望を祈った分だけ、絶望を受けるかもしれない。


   …それでも、かまわない。


   …。


   あたしが祈って、恭介の指が治るのならば…!


   …ばかが。


   う…。


   …だったら、見せてやる。
   魔法少女がどんなものか。


   そんな、の…。


   その目でもう一度、確かめろ。


   なに、を…。


   …今、まどかとマミが魔女の所に向かってる。
   そこに、連れて行ってやる。


   あ……。


   …安心しろよ、さほど遠くはないから。


   や、やだ、はなし


   場所は…あんたも良く知ってる所だよ。


   離して、離してよ…!


   ……。


   あんたなんかに、あんたなんかに…ッ!








   …。


   …まどか。


   杏子、ちゃん……。


   …グリーフシード、使っておけ。
   ソウルジェムが大分、濁ってる。


   ……。


   まどか。


   ……わたしの、せいで。


   …。


   わたしが、わたしが…。


   …気にするなとは、言わない。
   けど、いつまでも引き摺ってると次はあんたの番になるかもしれない。


   ……。


   …まどか、マミはあんたを助けた。
   結果的にマミは…魔女に殺された。


   …う。


   死んだ人間は生き返らない。
   これは虚構の世界の話じゃない。


   ……わたしが、もっと。
   わたしにもっと、力があれば…。


   ……グリーフシード。


   …。


   マミがあんたに遺したものだ。
   これからも魔法少女として生きるつもりなら、無駄にするな。


   …でも。


   マミはもう、いない。
   マミはもう、こいつを使えない。
   だったら、あんたが使うべきだ。


   ……杏子ちゃんは。


   …。


   ……どうして、そんなことが言えるの。


   魔法少女だから。


   ……。


   それが、魔法少女だから。


   ……。


   …そうやってしか、生きられないから。
   魔法少女になった、その日から。


   ……マミさん。


   …。


   マミさん…マミさん…マミさん……。





   ………。





   さやか。


   …。


   おい、立てよ。
   いつまでしゃがみこんでるつもりだ。


   ……マミさん、は。


   あんたも見てただろう。
   マミは死んだ、殺された。
   魔女に食われて。


   ……う。


   あの中で死んだら、この世界では行方不明扱いだ。
   なんせ、死体も何も残らないから。


   ……。


   ろくな死に方をしない。
   だけど、戦い続けなければならない。
   たった一つ、願いを叶えただけで。


   ……。


   マミは…独りだったけど、あんたには親がいる。
   あんたが行方不明になったら…多分、あんたの事をずっと探し続けるだろう。
   二度と、見つかる事はないあんたの事を。


   ……。


   …あんたは一人でそこまでなったつもりだろうけどな。
   それは、大きな間違いだ。
   あんたの命はあんただけのものじゃない。


   ……。


   …あんたは魔法少女になるべきじゃない。
   あたしやまどかはもう、手遅れだけど…いや、手遅れだからこそ。


   ……。


   …魔法少女だろうが、なんだろうが、人は簡単に死ぬ。
   明日もこの命が必ずあるなんて、そんな保証は、何処にもない。


   …。


   …坊やは、生きてる。
   だったら…支えてあげればいい。
   奇跡で指を治すなんて……


   ……もし、も。


   …。


   もしも、この場所であのまま魔女が…。


   …。


   ……はっきり言って。


   …病院は格好の餌場だ。
   なんせ、弱ってる人間が多いからな…。


   ……もしかしたら。


   ……。


   …そう、なの。
   そう、なんでしょ…。


   …結果的に誰も犠牲にはならなかった。
   そう、マミ以外は。


   ……。


   …さやか。


   ………それでも、あたしは。


   …。


   恭介……。


   ……ち。


   あたし、は………。









   ……。


   ……。


   ……ああ、なによ。


   …。


   なんで、まだいるの…あんた。


   …。


   …もう、いきなよ。
   こんなところに、いつまでもいないでさ…。


   …。


   …それ、やるっていったけど。
   すててくれても、かまわないよ…。


   …。


   ……なかなか、しなないもんだね。
   こんなからだになっちゃってるってのにさ…。


   …。


   …いたみも、かんじない。
   ちだって…もう、ながれないくらいに、ながれたはずなのに…。


   ……。


   …あたしは、ほんとうに。


   ……。


   …ゆめ、みてたよ。
   そんなむかしじゃないはずなのに…すごく、とおい…。


   ……。


   …まほうしょうじょになって、なかったら。
   あんたと…さやかと、ふつうのともだちになれたかな…。


   …。


   まどか、のようには、いかなくても…。


   ……。


   ……なれない、か。


   …そんなの、分からない。


   …。


   …分からないわよ、ばか。


   なによ……。


   …あんたってさ。


   ……。


   言葉使い、それが本来のなの?


   …?
   ほんらい…?


   …女の子っぽい。


   ……なんだよ、それ。


   …。


   …おんなじゃ、なかったら。
   そもそも、まほうしょうじょになれてなかったよ…。


   …そしたら、あたしと出逢ってなかったね。


   ああ、そうだなぁ…。


   …杏子が魔法少女になってなくても。


   ……ああ、そうだね。


   …。


   どっちにしろ…あたしは、さやかとともだちには、なれそうにないんだな…。


   …だから、勝手に決めるな。
   ばか杏子…。








   君のその願いは、君の命を懸けるに値するものかい?


   ……。


   君の命を差し出しても良いものなのかい?


   ……。


   良いだろう、美樹さやか。
   契約はせ


   待って。


   矢っ張り、止めるのかい?


   ……。


   …。


   …奇跡は本当に起こるの。


   勿論さ。


   …あたしが願えば、


   君の願いはあの少年の指を治す事だろう?
   それくらいの願いならば、君でも叶えられるだろう。


   …あたしでも。


   他人の為に願いを叶える。
   今までも居なかったわけじゃないしね。


   …どうなったの。


   勿論、願いは叶ったよ。
   そして彼女達は魔法少女になった。


   ……みんな、死んじゃったの?


   中には死んだ者も居るだろう。
   けれどそれは仕方が無い事だよ。
   何しろ、相手はあの魔女なんだ。


   ……。


   恐いのかい、美樹さやか?


   …!


   まぁ、無理も無いね。


   …もう少し、待って。
   もう少し、だけ…。


   僕はいつでも構わないよ。
   君が魔法少女になると心から決めた時にまた呼んでくれれば良い。


   ……。


   それじゃあね、美樹さやか。
   その時を待ってるよ。


   ……。





   ……。





   ……いるの。


   …。


   …いるんでしょ。


   ……。


   …出てきなさいよ。


   ……。


   …おかしいでしょ。


   …別に。


   ……。


   恐いと思うのは当然だ。
   むしろ、思わない方がどうかしてるんだ。


   ……。


   …もしも、あんたが契約しそうになったら殺してやるつもりだった。


   ……あたしを。


   ばかか。
   あの白いのだよ。


   ……どうして、そんなに。


   これ以上、ばかはいらない。


   …まどかは。


   落ち込んでるよ。
   分かってるだろ。


   …。


   …なぁ、さやか。


   ……。


   生きてるとな、飯が食えるんだ。
   まぁ、ただでは食えないけどな。


   …。


   生きてなきゃ、飯は食えない。
   生きてなきゃ、誰とも触れ合えない。
   死んだら、お仕舞いなんだ。


   ……。


   世の中、生きてたもん勝ちなんだよ。


   …。


   …生きてると、こんなに美味しい。


   ……。


   まどかがそう言ってたよ。
   親父さんの飯を泣きながら食って、な。


   ……。


   …あんたが契約しそうになったら、あたしはあいつを殺す。
   何度でも。


   ……あんたは。


   あ?


   …あんたはどうして、魔法少女なんかになったの。


   ……。


   …人にこれだけ言うんだから。


   ……。


   …言えないんだ。
   自分の為になったから。


   …ああ、そうだよ。
   結局は、自分の為だった。


   ……。


   …さやか、これ。


   …?
   なに…。


   食うかい?


   ……りんご。


   好きなんだ、あたし。


   ……。


   て、おい。


   …いらない、こんなもの。


   …!


   ……ぅ。


   …てめぇ、今何をした。


   …、……。


   …食い物を粗末にしたら、殺すぞ。


   …ぅ、…、…ぁ。


   ……。


   …。


   …あたしがどんな手段で手に入れようが、林檎には関係ない。
   関係ないんだよ…!


   ……、は…。


   ……あ。


   ……。


   …くそ。


   ……かはっ、…は、…っ。


   ……。


   …はぁ……はぁ…。


   ……分かってくれなんて、言わない。


   ……。


   ……どうせ、あんたには分からない。
   飢える事がどういうこと事か……。


   …。


   ……少しばかり、長い話になる。
   それでも、聞くかい…?


   ……きかせて。


   …。


   …。


   ……分かった。


   …りんご。


   …。


   ……なんでもない。








   …結局は、あたしの祈りが全てを壊してしまった。
   ただ、話を聞いて欲しかった…ただ、家族に笑っていて欲しかった…それだけだったのに。


   …。


   守りたかったものは、もう、ない。
   あたしは、ただ、生きてるだけだ。
   目的らしい目的もなく、ただ、ただ、その日を生きている。
   死ぬまで、生き続ける。


   …自分の為に、魔法を使って。


   ああ、そうだよ。


   ……。


   あたしは、決めたんだ。
   この力はもう、誰かの為に使わないって。
   全部、あたしの為に使って、あたし自身の為に使い尽くして、そして。


   ……。


   …跡形もなく、消してやる。
   消えてやる。


   ……。


   でもまぁ、それまでは好き勝手にしてやるさ。
   折角の力なんだ、有効に使ってやる。


   …それ、変だよ。


   はぁ?


   だったらどうして、まどかに優しくするの。
   守ってあげようとするの。


   …。


   マミさんが…殺されちゃった時だって。
   本当は助けたかったんでしょ。


   …。


   …あたしなんかが、いたから。
   あたしなんかに、関わってるから。


   …。


   そもそも自分の為だけに使うなら、あんた、この街に来なかったんじゃないの。


   …いや、それはない。
   見滝原は良い狩場なんだ。
   魔法少女にとって、こんな美味しい場所は無いってくらいに。


   だとしても。


   …。


   …あんたは今でも、人の為にその力を使ってるよ。
   あたしには、そう見える…そうとしか、見えない。


   ……。


   ねぇ…あんたさ。
   どうしてそんなにあたしに関わるの。
   関わろうとするの。


   …。


   …どうして、あたしなんかに。


   ……。


   あたしが魔法少女になったら、あたしを潰せばいいだけの事。
   それなのに、あんたは。


   ……。


   …あんたの祈りは、悪くない。


   …。


   お父さんの為に願った奇跡は…悪くなんか、ないんだ。


   …は。


   …。


   そのせいで、親父は首吊って死んだ。
   母さんと妹をずたずたに滅多刺しにして、くたばった。
   あたしが、そうさせたんだよ。


   違う。


   違わない。


   …違う。


   人の血の臭い、とりわけ濃い臭いってのはさ、鼻の奥にこびりついて落ちないんだよ。
   普通に暮らしてきたあんたには分からないだろう。


   …。


   家族の臭いだけじゃない。
   この間はマミ、その前は名前も知らない魔法少女、その前は…そうやって、積み重なっていく。
   そうして、慣れてしまう。


   …。


   最初のうちはさ、戻したりもしたよ。
   胃が空っぽでも、胃液とかさ。


   …。


   …今でもそれらの光景が、その臭いと共に、生々しく浮かび上がるんだ。
   その中に生首だけになったあたしが、けたけたと嘲笑って…。


   ……。


   …ぶち殺してやりたくなるんだ。
   もう、死んでるようなもんなのに…。


   ……そうやって。


   …。


   あんたは死ぬ為に、死ぬ為だけに、これからも生きていくつもりなの。


   …。


   …自分の為だけにって、言いながら。


   そうさ。


   …。


   それが、魔法少女だから。


   …。


   魔女は狩る。
   それは誰かの為にじゃない。
   自分の為に。


   …。


   魔法少女はそういう生き物なんだ。
   だけどあんたは屹度、自分の為だけに使うなんて出来ない。赦せない。
   溜め込んで、無理して…だから、あんたはなるべきじゃない。


   …あんたは、どうなの。
   そんな自分を、赦せてるの。
   本当に赦せているの。


   ……。


   …自分の為だけに使うなら、他人となんか関わらない筈だよ。


   ……。


   …あたしはあんたの祈りが間違ってたなんて、思えない。
   思いたくない…。


   ……それでも、壊れたんだ。


   …。


   一度壊れてしまったら…もう、元には戻らない。
   二度と、会えない…。


   ……。


   …あたしは、壊したくなかった。
   壊したくなんか、なかったんだ…。


   …。


   …あんな祈りさえ、あんな願いさえ、持たなければ。
   たとえ、行き倒れたとしても。


   ……。


   …あたしは、父さん達と一緒にいられた。


   それが、本心なんだね…。


   …。


   ……やっぱり、間違いなんかじゃない。


   …。


   ……。


   …赦さない。


   …。


   あんたみたいな奴が魔法少女になるだなんて…あたしは絶対に、赦さない。
   必ず、ぶっ潰してやる。


   ……。









   ……。


   ……。


   …もう、いきなよ。
   こんなとこにいたって、もう、なにもないんだから…。


   …何もなくない。


   …。


   …。


   …ほら、あめまでふってきたよ。
   ぬれちゃうよ…さやか。


   ……そんなの、どうでもいい。


   どうでもよくないよ…ほら。


   …。


   ……ないてるみたいじゃない。
   そんなわけ、ないのにさ…。


   …。


   そんなわけ、ないんだ…。


   ……。


   ……いつか。


   …?


   …いつか…きみと…ふたり。


   …。


   よるを…あさを…ひるを…ほしを…ゆめ、を。


   …唄。


   なつを…ふゆを…ときを…かぜを…みずを…そらを……。


   ……。


   …かあさんは、うたがすきだった。
   いつも、うたってきかせてくれた…。
   いもうと…もも、と、ふたり…。


   ……うん。


   さやかのも、すきだったよ…。


   …。


   …さやかの、おんがく。
   あんたのは、すんでるおとだった…。


   ……澄んで、なんか。


   いつ、だったかな…。


   …。


   …ないて、でてくる。
   それが、せい…。


   …それは。


   ないて、でていく……それが、し。


   …。


   …ざまぁ、みろ。


   ……杏子。


   さやか…。


   …。


   さ…もう、いきな。
   そして、いきて…さやか。


   ……。


   ……やくそく、まもれなくて…ごめんな…。


   ……。


   …ごめんなさい……。


   杏子……。


   ……。


   ……。


   ……。


   ……いるんでしょ。


   …。


   出て、きなさいよ。















   Song...
    “空気と星” 坂本真綾
    “光とは” 笹川美和

    “oblivious” Kalafina
















   おい!


   ……。


   おい!起きろよ!


   …ふが。


   ふが、じゃねぇ。
   いつまで寝てんだよ。


   ……。


   さやか!


   ……おはよ?


   …。


   …いた。


   いつまで寝てんだ、うすのろ!


   ……。


   …ふぎゃ。


   その口の利き方、いい加減直しましょーかねぇ?


   …ふふへぇ、ほんふら!


   ふぅーん、へぇー…?


   …うぅぅぅ。


   たく。
   本当、誰かさんみたいなんだから。


   ……。


   おはよう、杏子。


   …もう、おそようだよ。


   でも、起きたらおはよう。
   でしょ。


   ……。


   お、は、


   あー!
   おはよう!


   はい、良く出来ました。


   ……。


   お腹、空かしちゃってる?
   ごはんにしないとね。


   …さやか。


   んー?
   なんかリクエストでもあるのかね?


   …だれかさんって、だれだよ。


   誰かさんは、誰かさんです。
   うん、杏子の好きな甘い卵焼きにしよう。
   でも、ごはんのおかずにはならないから、もう一品かな。


   …。


   なになに、どうしたー?
   やきもち、やいちゃったとかー?


   うぜぇ、くっつくな。


   と言うかさ、そろそろ「かーさん」って呼んでくれても


   ぜってぇ、呼ばねぇ。


   えー、なんでよーぅ。
   いい加減、いいじゃないよーぅ。


   だから、うぜぇ!


   嬉しいくせに。
   ほれ、うりうり…ぐえ。


   う、ぜ、ぇ。


   …ちぇー。


   ……。


   …まぁ、いいか。
   急がない、急がない…。


   …と言うかさ。


   うん、なになに?


   さやかは結婚、しないのか。


   …へ。


   ……。


   なによぅ、やぶからぼーに。


   …別に、なんでもねぇよ。
   早く飯、朝飯、腹減った。


   はいはい、ちょっと待っててね。
   で、杏子。


   …う。


   別になんでもなくないでしょ?


   ……。


   まぁ、ね…結婚は、しないよ。
   多分。


   …なんでだよ。


   こんなでかい子供もいるし。


   …。


   …血は繋がってないけど、そんなのは些細な事。


   ……かーさんなんて、呼ばないからな。
   絶対、なんだからな。


   なんでそんなに頑ななのかねぇ…。


   ……。


   …ま、良いや。
   じゃ、


   さやか。


   んーー?


   …ほんとに結婚、しないのか。
   こいびと、いないのか。


   うん、しない。
   し、今のところ、いない。


   ……じゃあ。


   ん、杏子?


   や、やっぱなんでもねぇ。


   …。


   …。


   ……んー。


   ちょ、な、なんだよ。


   …可愛いなぁって。


   は、はぁ?


   ……。


   さ、さや


   ねぇ、杏子。
   いっそ、貰ってよ。


   な、なにをだよ。


   杏子が、あたしのこと。


   は…はぁ?!


   あたしの事、貰ってください。


   ば…ッ!


   …なんて、さ。
   冗談よ、冗談。


   …!


   んん?
   杏子ちゃん、お顔が真っ赤に


   しょーがねぇから!


   …え。


   も、もらってやる!


   ……え、と。


   ひとりぼっちは、さびしいからな!


   …あ。


   ろうごに!


   ……あー。








   「「いただきます。」」


   ……。


   …おいし?


   あ?


   本日の朝ごはん。


   …。


   ん?


   …いつもどおり。


   いつもどおり、ねぇ。


   …。


   美味いか、不味いか。
   あたしはそれを聞いているんだけど。


   ……。


   聞いてるんだけど。


   …うまいに決まってるだろ。
   いちいち言わせんな、ばか。


   言って欲しいものなのよ、作る方にしてみれば。
   杏子ちゃんはそこら辺が分かってない。
   そんなんじゃ、愛想尽かされちゃうわよ?


   誰にだよ。


   いつか出逢うでだろう誰かに、よ。


   …。


   ありがとう、とか。
   おいしい、とか。
   言われると嬉しいもんなの。


   ……。


   ま、杏子が作る立場になれば良いだけの話だけど。
   そしたら、分かるからさ。


   …さやか。


   んー?


   …誰かって、誰だよ。


   いつか杏子が出逢うだろ


   そんなの、いねぇよ。
   ばか。


   …。


   ……。


   …杏子、美味しい?


   …。


   ……。


   …さやか、おかわり。


   自分で。


   ……。


   ……。


   …うまいから、おかわり。


   はい、喜んで。


   …。


   いっぱい食べて、早く大きく…ならなくて良いかな。
   ちっちゃい方が可愛いし。憎まれ口は叩くけど。


   …あたしは、本気だからな。


   うん?


   本気だからな!


   …。


   早く、おかわり!


   …そう、慌てなさんなって。


   ……。


   はい、どうぞ。
   お味噌汁のおかわりは?


   いる。


   ん、りょーかい。


   ……。


   ……。


   ……。


   …ねぇ、杏子。


   なんだよ。


   …杏子が、大きくなったら。
   あたし、おばさんだねぇ。


   …は?


   て、杏子くらいの歳から見たら、今でもおばさんかー。


   …。


   ね、それでも、貰ってくれる?


   ばっかじゃねぇの。


   て、ちょっとぉ。


   さやかはさやかだろ。


   …え。


   おばさんだろうが、なんだろうが、さやかはさやかだ。
   くっだらねぇこと、言ってんな。


   …やだなぁ、もう。


   ああ?


   惚れちゃうじゃない、ばーか。


   ……。


   でもねぇ、やっぱりねぇ。
   あたしの今の立場は杏子の


   そんなの、どうだっていいだろ!


   …。


   とにかく、あたしは本気なんだ!


   …ああもう、可愛いなぁ。


   うっせぇ、ばかさやか!


   ……。


   …て、おい。
   な、なんだよ…。


   なんだか、泣けてきちゃいました。


   な、なんでだよ。


   さぁ、なんでだろーねぇ。


   な、泣くな、ばかさやか。


   …ばかって、言う?
   泣いてる人に向かって。


   な、泣いてるからだろ。


   …だって、しょうがないじゃない?
   意思とは関係なく、なんだから。


   ……。


   …本当に、そうなったら良いのにね。


   するよ!


   …。


   するんだ。


   ……。


   …一緒にいてやる。
   さやかがばあちゃんになっても。


   ばあちゃんって。


   だって、そうだろ。


   …まぁ、このまま順当に歳を取っていけばね。


   …。


   でも、あたしがいきなり結婚しますって言い出したら、


   そしたら、それでいいよ。


   …。


   …あたしはさやかが一人じゃなければいいんだ。


   何よ、それ。


   …あ?


   あんたは一人で良いって事?
   あたしに一緒にいてやるって言っておいて?
   何よ、それ。


   さ、さやか?


   …所詮、そんなもんなんだ。
   あんたの気持ちなんて。


   !
   ちがう!


   どう違うの?


   ちがうもんは、ちがうんだ!


   …だから、どう?


   ……。


   ……まぁ、良いけどね。
   あたしは…杏子の保護者って立場だし。


   …あんたこそ、なんだよ。


   …。


   …あたしは、本気なんだ。
   本気、なんだ…!


   ……。


   ……。


   …ね、杏子。


   ……。


   あたしと一緒にいて…しあわせ?


   ……。


   …そうだったら、良いな。








   あ、さやか先生だ。
   こんにちは。


   こんにちは、まどか…ちゃん。


   こんにちは、美樹先生。


   こんにちは、マミさ…マミちゃん。


   ……。


   杏子ちゃん、こんにちは。


   …おう。


   佐倉さん、あいかわらずね。


   …。


   こーら、杏子。
   マミちゃんにちゃんと返事しなさいな。


   ……。


   先生、今日はおでかけなんですか?


   うん、そうなの。
   この子の夏服、新しいの買ってあげようと思ってね。
   二人で遊んでるの?


   はい。


   これから鹿目さんちに行くんです。


   そう。
   二人は学年が違うのに仲が良いのねぇ。
   先生、羨ましいわぁ。


   うぇひひ。


   ふふ。


   杏子もねぇ、仲良しな子がいたら良いと思ってるんだけどねぇ。


   …。


   まどかちゃん、マミちゃん、今度はうちの杏子も


   さやか!


   おう?


   早く行こうぜ。
   腹、へった。


   て、こらこら。
   お昼にはまだ早いっつーの。
   どんだけ食うつもりかね、君は。


   うっせぇ。
   早くしろ、さやか。


   あーもう。
   と言うか、今のあたしは先生なんだけどー。


   休日はちがうって言ってただろ!
   この前!


   言ったっけ。


   言った!


   あーはいはい、分かった分かったから。
   じゃあまた学校でね、まどかちゃん、マミちゃん。


   はい、先生。


   さよなら、先生。








   ……。


   あの子達は、本当に仲が良いんだねぇ。
   学年、違うのに不思議だよね。


   ……。


   ま、仲良くなるのに学年なんか関係ないか。
   ねぇ、杏子。


   ……。


   あんたもさ…あたしにくっついてないで、良いからさ。
   友達と遊びたかったら…


   ……。


   …つぅか、なんでそんな不貞腐れ顔してんのかなぁ。
   折角のお出掛けデートなのに。


   さやかが、悪いんだ。


   えー、なんでー?


   先生顔、したからだ!


   …だって、先生だし?


   休みの日は違うって言った!


   言ったっ


   言った!


   …あー、うん。
   言ったね。


   ……。


   でもさ、生徒の前だし、しょうがないじゃない?
   あの子達にしてみればあたしは先生なわけだし。


   …。


   もぅ、杏子。


   …さやかは、あたしの保護者で。


   うん。


   先生、で。


   そだね。


   ……。


   家族とは、言ってくれないのかな?


   ……。


   …杏


   あたしは…!


   おう…。


   あたしは、さやかを嫁にもらうんだ…!


   ……。


   だから、だから…!


   …ごめんね、杏子。


   なんでだよ!


   …変な事、言ったから。
   あたしを貰ってくれる…なんて。


   変じゃない…変じゃない!


   …。


   いつか、必ず、大きくなって。
   さやかを嫁にもらってやる、必ずだ!


   ……。


   さやか、聞いて


   じゃあ、約束。
   学校の勉強はちゃんとやる事。


   …は?


   そしたら、貰われてあげる。


   な、なんだよ、それ。


   大事よ?勉強は。
   なんと言うかな、この歳になって分かった事とでも言っておこうかな。


   …!


   宿題もちゃんとやる事。
   はい、約束ー。


   ……。


   これはね、先生として言ってるわけじゃないの。
   分かって?


   ……分かった。


   わお、すんなり。


   …ちゃんと、する。
   するから、


   はい、貰ってください。


   約束だからな!


   うん、約束ね。
   でも。


   でも、なんだよ。


   あたし、おばさ


   関係ねぇって言ったろ!


   …はい、そうでした。








   さやか、うまいか?


   うん、美味しいよ。


   じゃあ、一口くれよ。


   えー、どうしようかなー。
   杏子の一口って一口じゃないんだもんなー。


   いいじゃん、くれよ。


   じゃあ、杏子のをくれたら良いよ。


   おう、いいぞ。


   ありがと。
   じゃあ、はい。


   …なに。


   あーん?


   …子ども扱い、すんな。


   子ども扱いなんて、してないよ。


   あーんなんて、


   ほれほれ、早くぅ。


   ちょ、さや…。


   あんたの嫁が所望してるんだからさ。


   よ、嫁?


   貰ってくれるんでしょ?
   勉強、ちゃんとして。


   お、おう。


   ま、予行練習みたいなね?


   こ、こんなこと、しないだろ。


   する夫婦になれば良いじゃない。
   はい、実に簡単。


   ……。


   いらないの?
   あたしのラズベリー。


   …いる。


   じゃあ…あーん?


   し、しかたねーな…あー…


   ……。


   ……。


   …おいし?


   あまずっぱい…。


   まぁ、ラズベリーだし?


   …。


   クリームチーズも入ってるんだけどね、杏子にはまだ早いかな。


   子ども扱いすんな、ばかさやか。


   はいはい、ごめんねぇ。
   杏子ちゃん。


   うー。


   杏子のも頂戴?
   あー…


   あ、あたしもやんのか。


   …当然。
   あー……


   しょ、しょうがねぇな……。


   ……。


   ……どうだ、うまいか?


   うん、美味しい。


   だろ?


   と言うかさ、杏子は林檎が好きだよねぇ。


   おう、好きだ。


   あたしとどっちが好き?


   は?


   あたしと、林檎。


   ………。


   ……。


   ………。


   …そこまで悩まれるとは思いませんでした。


   さやかと食うりんごが一番好きだ。


   …ほぅ?


   だから、その……。


   ……。


   …もう一口、くれ。


   あげたら、続き、言ってくれる?


   うーー……。


   …可愛い。


   ……。


   …杏子のもう一口くれたら、あげる。


   お、おう、いいぞ。


   ……。


   …うまいだろ?


   ん…おいし。


   ……。


   じゃあ、杏子。
   約束通り


   なぁ、さやか。


   うん?


   …服、ありがとな。


   何よぅ、いきなり。
   あんなに面倒くさがってたくせに…。


   ……。


   …?
   杏子?


   …身寄りのないあたしを、引き取ってくれて。


   …。


   ……ありがとう、さやか。


   杏子…。


   ……。


   …こっちこそ、ありがとう。
   杏子。


   …?


   あたしのところに、来てくれて。


   さやか…あ。


   …。


   あ、あう…。


   …初心だなぁ、杏子ちゃんは。
   ほっぺたにちゅって、しただけなのに。


   ば、ばか…ッ。


   ……。


   ……。


   …ねぇ、きょうこ。


   …。


   しあ


   さやか。


   …え。


   しあわせに、してやる。
   もっと、もっと、してやる。


   ……。


   あたしのしあわせ、さやかにも分けてやる。
   それがふーふってもんだから。


   …ああ。


   …。


   じゃあ…あたしのしあわせも、分けてあげるね。


   おう、たのむ。


   …うん、頼まれた。


   さやか。


   …なぁに?


   ばーちゃんになるまで、一緒にいような。
   ずっと、ずっと、一緒にいような。


   …うん、そうだね。








   ……。


   ……。


   …教えて。


   何をだい?


   …杏子は、本当にこれなの。


   …。


   魔法少女って、何なの。
   教えて。


   君が今まで聞いた事や見た事そのものだよ。


   それで全てなの。


   全てでは無いね。
   佐倉杏子のようなベテランでさえも知らない事はある。


   教えて。


   聞いて、どうするんだい?


   ……。


   美樹さやか。
   君はこの状況下にあって、それでも尚、魔法少女になりたいと思うかい?


   ……。


   そうだね、君の力ならば…死者を蘇らせる事は出来なくとも、
   四肢を失った佐倉杏子の躰を再生する事ぐらいは出来るんじゃないかな。


   …杏子は、死なないの。


   ソウルジェムが無事ならば、魔法少女は無敵だよ。
   それが本体なのだから。


   ……。


   分かり易く言うのなら、躰はただの


   ハードウェア。


   ああ、然うだ。


   …こんな躰にされて。


   それでも願いは叶った。
   僕が叶えた。
   これは取引になんだ。


   ……。


   佐倉杏子は未だ死んではいない。意識を失っているだけだ。
   だけど、放っておけば…然うだね、君達が言う死に限りなく近い状態にはなるだろう。


   …。


   なんにせよ、目を覚ましたところでその躰では佐倉杏子は何も出来ないだろう。
   微弱ながら治癒の力は働いているようだけれど…彼女の力では全再生は難しい。寧ろ、不可能だろう。
   彼女の魔法は治癒に特化していないからね。
   最後には魔力が尽きる。


   …。


   …?
   美樹さやか?


   …あたしを、魔法少女にして。


   叶えたい願いは、決めたのかい?


   …あたしには生き返らせる程の力はない。
   恭介、まどか、マミさんを生き返らせる力は…。


   ああ、その通りだ。
   君にはその力は無い。


   …だったら。


   治癒の力を望むのかい?


   ……。


   ……。


   …あたしは。









   ……。


   ……。


   …人間と言うものはつくづく、理解し難い生物だね。


   ……。


   それを君は幸福だと言う。
   それで君は幸福だと言う。


   ……。


   君はそれを、彼女にとっての幸福だとも言う。


   ……。


   君が恋焦がれていたのは佐倉杏子では無く、あの少年だったのだろう?


   ……。


   感情。極めて稀な精神疾患。
   矢張り僕には到底、理解出来ない。


   ……。


   けれど、僕達がそれを必要としているのは確かな事だ。


   ……。


   …さて。
   僕はそろそろ、行くよ。
   新たに魔法少女になってくれる子を探しに行かないといけないからね。


   ……。


   ……。


   ……。


   …美樹さやか、佐倉杏子。


   ……。


   しあわせな夢とやらは、見られているのかい?
   共に歩けているのかい?








   さやか。


   ん?


   晩飯はなんだ?


   て、本当に食べる事ばっかりだねぇ。
   杏子は。


   別にいいだろ。
   で、なんだよ。


   何が良いかな。


   あたしは


   あ、冷奴が食べたいかも。


   …えー。


   良いじゃない、冷奴。
   お酒にも合うし。


   …じじくさいぞ、さやか。


   何だと―。


   わ。


   早くおっきくなって、晩酌に付き合いやがれー。


   髪の毛、わしゃわしゃすんな…!


   よーし、よしよしよし。


   だぁ…ッ!


   …と。


   早くおっきくなって、さやかより大きくなって、やり返してやるからな!


   お。


   今に見てろよ。


   うん、今に見てるよ。
   だから、早くなってね。


   帰るぞ、さやか!


   じゃあ、はい。


   あ?


   手。
   繋いで、ね?


   …。


   きょーこ。


   しょーがねぇから…いいよ。


   うん。


   …帰るぞ、さやか。


   ん、帰ろう…二人のうちに。