どこかで続く悲しみが、落日を赤く染めていく。
最初は、ただの、打算だった。
人でなくなったあたしを愛してくれる人間なんていない。
だから。
同じように人でないあの人を選んだ。
そうじゃなきゃ、壊れてしまいそうだったから。
あの人も、あたしを受け入れてくれた。
ううん、それが分かっていたから、あたしはあの人を選んだんだ。
抱き締めてほしい。キス、して欲しい。
あの人はあたしの願いを戸惑いながら叶えてくれた。
最初は、その優しさを利用していただけ。
気持ちなんて、ない。
そう、なかったの。
だって彼に向けた恋情と同じ想いなんて、あの人に持てるわけない。
だから、いつか、ダメになる。
そう、必ず。
ダメになる…ハズ、だったのに。
…さやか。
……。
…好きだ、さやか。
好きだ……。
…きょうこ。
……。
あ、ぁ…。
……好きだ。
あたし、は……あたし、も。
…ずっと、そばにいてやる。
いて、やるから…だから。
…いて、きょうこ。
さやか…。
…あたしも、いてあげるから。
M e n u e t
何、これ。
浴衣って言うんだろ、これ。
知らないのか?
知ってるわよ。
どうしたの、これ。
祭って、こういうのを着るんだろ?
だから?
着てみてくれよ。
似合うと思うんだ。
いや。
なんでだよ。
絶対に似合うと思うのに。
あんたが着ればいいじゃない。
あたしは着ない。
あたしが着てどうすんだよ。
あたしはさやかに着て欲しいんだよ。
なんでよ。
見たいからだよ。
見て、どうするのよ。
どうするって。
とにかく、あたしは着ない。
…。
……。
…これ見た時、似合うと思ったんだよ。
…。
これ着たさやかと、祭、行こうと思ったんだよ。
…行って、どうするのよ。
行きたかったんだよ、悪いかよ。
悪いなんて、言ってないじゃない。
じゃあなんで、着てくれないんだよ。
なんでって!
う。
こんなの、一人で着られないからよ!
…え?
あんたは知らないだろうけど、浴衣を着るのは洋服着るのとは違うのよ。
そ、そうなのか?
そうよ。
そんなのも知らないで、簡単に…。
…そうなのか。
…。
な、なぁ、二人でなら着られるのか?
だったら、あたしが
あんた、着付けなんて出来ないでしょ。
き、きつけ?
きつけってなんだ?
着付けは着付けよ。
出来ないでしょ。
……。
…。
…そうだ、マミなら。
マミなら
杏子。
…。
そんなに、見たいの。
あたしの浴衣姿。
…うん、見たい。
見て、どうするの。
祭に、行ってみたい。
二人で。
バカじゃないの。
…!
うっせ、どうせあたしはバカだよ!
…。
…あたしはただ、さやかに似合うと思っただけなんだよ。
だから…。
…着れば、いいのね。
でも、着てくれないなら…え?
着るわよ。
ほ、本当か。
あんたの事だから、あたしに似合うと思って選んだんでしょ、これ。
お、おう。
…バカじゃないの。
こんなきれいなの、あたしに似合うわけないのに。
さやかだって。
…。
きれいじゃないか。
だから、そういうのがバカだと言ってるの!
…なんだよ。
あたしは本当の事を
もう、いい。
あんたも手伝うのよ、杏子。
え、でも、あたしは
うるさい。
あたしが手伝えって言ってるんだから、手伝えばいいの。
お、おー…。
どこ触ってんのよ!
…いてぇッ。
……。
さ、さやかが押さえてろって言ったんだろ!
だから、あたしは
触れとは言ってない。
触らなきゃ押さえらんないだろーが!
…。
さやか。
…もう、いい。
なんだよ、今日のさやか、ちょっとおかしいぞ?
…。
どうしたんだよ、さやか。
なに、いらいらしてんだよ。
で。
あ?
似合ってるって、まだ言えるの。
…。
浴衣。
あ、ああ。
んー。
…こんなよれよれで、ぐしゃぐしゃで。
似合ってる。
…。
よれよれで、ぐしゃぐしゃなのかもしんねーけど。
その浴衣はさやかに似合ってる。
つまり、あたしはよれよれでぐしゃぐしゃがお似合いってことね。
そんなこと、言ってねーだろ。
…。
さやか、本当にどうしちまったんだよ。
そんなに気に入らなかったのか、それ。
…いっそ。
さやか?
真っ白だったら、よかったのに。
真っ白?
浴衣がか?
…こんな金魚のなんか。
さやかは真っ白いほうがいいのか?
そうよ。
それで衿を左前にするの。
ひだりまえ?
…。
分かった。
じゃあ、換えてくる。
…。
そうしたら機嫌、直るんだよな?
知らない。
て、なんでだよ。
…。
さやか。
…もう、脱ぐ。
もう、脱いじまうのか。
もう少し、着ててくれよ。
…。
なぁ、さやか。
…あんた、は。
これを着たあたしと、祭に行きたかったんでしょ。
さやかが行きたくないなら、行かない。
…何よ、それ。
けど
……。
さやか。
……。
…なぁ、さやか。
……。
なんで、そんな顔すんだよ…。
…知らないわよ。
…。
……とにかく、脱ぐから。
待って。
…離して。
さやか、それ、ちゃんと着てみてくれよ。
マミに頼んで
いやよ。
なんでだよ。
いやなものは、いやなのよ。
さやか…。
…っ。
…さやか。
そんな声で、あたしを呼ばないでよ。
……。
…あたしなんか、呼ばないで。
それで、私のところへ?
…しばらく帰ってくんなって、言われた。
そう。
アップルパイ、丁度焼きあがったところなのだけど、食べる?
…食う。
飲み物は何がいい?
…マミに任せる。
分かったわ。
あー、なんなんだよ、さやかのやつ…。
浴衣、だったかしらね?
金魚の。
…似合うと思ったんだよ。
実際着てみたら、似合っていたし?
…うん。
どれくらい?
それがさ。
うん。
すっげぇ、似合ってた!
…。
かわいくて、きれいで、さやかにすっげぇ似合ってたんだ!
…でも、美樹さんの機嫌は直らないと。
……。
ここのところ、様子がおかしいとは聞いていたけど。
…ほむらか。
ええ。
佐倉さん、心当たりはないの?
…分かんねーんだよ、あたしにも。
近くにいすぎても、駄目なのかしら。
…でも。
でも?
…寝る時、あたしの方向いてくれなくなった。
前は、あたしの方向いてくれてたんだ。
…。
それで、その日にあったこととか、少し話して…それで。
それで?
…。
佐倉さん?
…キス、とか。
…。
でも、ここんところ、させてくれねーし…しても、くれねーし。
他には?
…。
?
…そんな趣味、あったのかよ。
趣味、と言うわけではないのだけど。
美樹さんは私のかわいい後輩でもあるから。
…。
佐倉さんは、私のかわいい弟子だしね?
…かゆくなる。
ふふ。
…腹、へったー。
マミ、アップルパイはまだかー。
真っ白い浴衣。
…あ?
って、言ったのよね。
おまけに左前とも。
ああ、言った。
だから、換えてこよーと思ったんだけど。
…。
どういうわけだが離さねーんだよ、さやかのやつ。
…。
…ああもう、意味わかんねー。
真っ白い…純白のドレスなら。
あ?
花嫁の結婚衣装。
は、はなよめぇ?
白い着物は…衿が右前なら、花嫁の衣装になるけど。
はなよめ…さやかが、はなよめ…。
でも、左前なら話は別だわ。
…いいな、それ。
全然、良くない。
…へ?
夢を、見るんだ。
現実と区別がつかないような、夢を。
その夢は、いつも最後が決まっていた。
そう、いつも、いつも。
展開は違うけど、行き着くところはいつも、同じ。
同じ、結果。変わらない、結論。
杏子が、死ぬのだ。
どんなに。
どんなに、道が違っても、行き着く場所はいつも同じで。
杏子は死んでしまう。殺されてしまう。
何度も、何度も。
ある時は、魔女になったあたしと、心中するかのように。
ある時は、魔女になったあたしを、杏子じゃない魔法少女が倒して、
突きつけられた現実に耐えられなくなった別の魔法少女に、胸のソウルジェムを撃ちぬかれて。
ある時は、魔女になったあたしが直接。
ある時は。
ある時は。
ある時は。
ある時は…!!
杏子があたしを押し倒して、あたしの躰に覆い被さった。
両腕をしっかりと、押さえつけられ。
両足も、また。
杏子は魔法少女の姿だった。
いくつかの傷を作って。
あたしはと言うと、何故か、制服姿のままだった。
あたしは変身しようとするけど、杏子がそれを許してくれない。
どいて!
あたしは、力の限り、叫んだ。
早く、変身しないと。
杏子の後ろに、とてつもない、禍々しいものがいる。
その気配が痛いくらいに肌に突き刺さる。
幾ら杏子が強いとは言え、こんなヤツ、一人じゃ無理だ。
早く、早くしないと。
でも、杏子は頑としてどけようとしなかった。
どいて、くれなかった。
杏子…!
必死に、杏子の名前を呼ぶ。
そしたら杏子のやつ、にやりと笑って、いやだ、とかのたまいやがった。
この顔は、あの時に似ている。
そう。
…夜、躰を重ねる前の、あの表情に。
ふざけないでよ…!
ふざけてねーよ。
ふざけてる、ふざけてる、ふざけてる。
こんな時に、こんなこと。
杏子、お願いだから…ッ!
杏子の躰が何かの衝撃で揺れる。
そのたびに、赤い何かが、杏子の躰から飛び散る。
早く、早くしないと、なのに、どうして。
どうして…!
…心配、するなよ。
優しい表情。穏やかな声音。
杏子の中にあった、本来の、感情。
ずっと、押し殺していた、もの。
杏子とこんな関係になって、知った、杏子の本当の姿。
…大丈夫だ。大丈夫だから。
杏子。
杏子。
杏子、杏子、杏子。
杏子……!
…だから、そんな顔すんなよ。
いや、いや、いやだよ、杏子…!
……ずっと、そばにいてやるから。
だったら!
だったら、どいてよ…!
どいてよ、杏子…!!
独りぼっちは、さびしいもんな…。
…そうだよ、だから。
だから、杏子…。
……さやか。
独りぼっちに、しないでよ。
そばにいてくれるんでしょ、ずっと、いてくれるんでしょ。
だったら、だったら…。
……。
…約束、守ってよ。
約束は、守るものだって言ったでしょ…。
…ああ、知ってる。
お前に教えてもらったからな…。
…だったら。
あたしを、独りぼっちにしないでよ…。
…さやか。
しないで…杏子。
杏子、杏子、杏子…。
心配すんな…あたしはずっと、お前のそばに
ぶつり。
唐突に、言葉は終わった。
それでもあたしの前には穏やかに笑う、杏子の顔。
未だに押さえられたままの、両腕。
だけど。
その、腰から、下、は。
…しに、しょーぞく?
そう…死装束。
佐倉さんは、知らなかったのね。
……。
白い着物。左前の衿。
それは、死んでしまった人が着るもの。
…なんだよ、それ。
美樹さんはどうして、そんなものを…
なんだよ、それ…!!
……。
さやかは、なんで、そん
あぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ…ッ!
…ぅ。
さや、か…?
…佐倉さん。
帰る…!
…ええ、その方がいいわ。
早く、帰ってあげて。
さやか……ッ!!
よ、さやか。
杏子。
ほれ、傘。
うむ、ご苦労。
傘ぐらい、持ってけよなー。
しょうがないじゃん、忘れちゃったんだから。
それにいざとなったら、あんたがいるし。
いなかったら、どうすんだよ。
いたから、どうもしなーい。
は、そーかい。
あんた、おいしそうなの食べてんね。
途中で買ってきたの?
と言うか、だから遅かったのね。
食うかい?
もっちろん。
じゃあ、ほれ。
わぁい、たいやきたいやきー。
じゃ、帰ろーぜ。
ねぇ、杏子。
うん?
傘、一本でよかったなって。
は?
さやかが持ってこいって言ったんだろ?
…。
さやか?
…この、にぶちん杏子め!
わ、なんだよ。
たいやき、落とすとこだったじゃねーか。
あたしより、たいやきの方が大事なの?
なに言ってんだ。
落としたら、勿体ねーだろ。
落としても食べるくせに。
食うけど。
止めなさい。
道、濡れてるんだから。
て、そういう問題でもないんだけど。
だから、落としたくねー…
……。
さ、さやか?
…ねぇ、いいでしょ。
これで。
…。
…なによ、まさかいやなの。
い、いやじゃねーよ。
な、なに照れてんのよ。
て、照れてねーし!
照れてる!
照れてねー!
……。
…もっと、くっつけよ。
濡れちまうぞ。
…ん。
……。
……。
…雨、今日はもう、止まないかな。
…かもな。
ねぇ、杏子。
ん?
あたし、雨ってキライじゃないんだ。
ふぅん。
て、もっと食いつきなさいよ。
押し出すな、濡れるだろ。
今のは杏子が悪い。
なんでだよ。
雨、キライじゃないの。
杏子は?雨、キライ?
別に、フツウ。
なにそれ。
フツウなもんは、フツウなんだ。
いいだろ。
……。
まぁ、キライじゃねーよ。
…とうめい傘に、おちてくる、雨のつぶかぞえる。
は?
200と8、その先は、もうむりだ、レインドロップス。
……。
悪気のない雨のつぶ、土をとおり、川に出る。
…さやか。
レインドロップス、旅のとちゅう、落ちるよ。
歌、へただなー。
…あんたのおでこに!
おわ!
ふん、だ。
なにすんだよ。
さやかちゃんが折角、美声を聞かせてあげたってのに。
美声だぁ?
そうよ。
貴重なんだからね。
昨日、風呂の中で歌ってたじゃねーか。
う。
散々、聞かせてもらった。
そ、それは、それ。
これは、これ。
なんだそれ。
はは、意味わかんねー。
杏子。
なんだよ。
罰として、歌いなさい。
あ、なんでだよ。
なんでも、よ。
冗談じゃねー。
冗談じゃないもん。
歌なんか、歌えねーよ。
だからこそ、歌ってよ。
はぁ?
あんたが歌ってるの、聞いたことないんだもん。
歌なんか、知らねーんだよ。
一緒に聴いてるじゃない。
…。
ねぇ、杏子。
…さやかが聴いてるの、あたしにはよく分からないんだよ。
じゃあ、他のでもいいから。
だから、知らねーんだって。
…。
…う。
……。
さやか。
…杏子の、けち。
け、けち…。
…。
たいやき、奢ってやったじゃねーか。
うまかったろ?
うん、おいしかった。
でも、けち。
な。
……。
さやか。
…人の歌、けちつけておいて。
自分は、なによ。
……。
……。
…大地を駆け抜ける風に、黄金の穂波がうねる。
…?
幾千も費やした人々の祈りを、確かめている。
…。
遙かなる時を超えてく思いが、降り止まぬ風に耐えうる強さが。
…。
やがて愛するもののすべてに注がれていけばいい。
……。
…もう、いいだろ。
なんだ、杏子もうまくないじゃん。
だから、いやだって言ったんだ。
続きは?
は?
つーづーき。
いやだっつの。
つーづーきー。
あーもう、さやかはめんどくせーな。
な、なんだとぅ。
いやなもんは、いやだ。
と言うかあんた、自分の…!
…あ?
じ、自分の…。
…さやか?
どした?
寒いのか?
…自分の、彼女に、そういうこと、言う、の。
……。
……。
…あー。
……杏子、は。
…。
あ、あたしのこと……好き、なんでしょ?
…。
な、なんか言いなさいよ…!
…なんか。
て、なめんなー!
……。
……。
…好き、だ。
……。
い、言ったぞ。
…杏子。
も、もう、言わねーからな!
杏子…!
わ。
……。
な、なんだよ…。
……あ、あたしも。
お、おう…。
その…。
……。
て、言わせんな!
ばか!
な、なんでだよ!
人には言わせておいて!
いいの、さやかちゃんは杏子の気持ちを改めて聞きたかっただけなの!
ず、ずるいぞ!
い、いいの!
はい、この話はおしまい!
こ、この…。
……。
…後で、言わせてやるからな。
…その時は杏子も言ってよ。
……。
……。
……。
…ね、杏子。
……。
怒ってる、の?
…別に、怒ってねーよ。
…。
…。
…さっきの、歌。
いつか、話しただろ。
…。
…うち、教会だったんだよ。
うん…。
…ガキのころ、よく歌わされたんだ。
さっきの歌も?
…いや、さっきのは。
……。
母さんが、歌ってた。
…そう、なんだ。
……。
…ねぇ、杏子のお母さんってどんな人だったの?
……。
……。
…フツウの、母親だよ。
さやかの母親と変わらない。
…杏子は、お母さん似?
それとも…。
……。
……。
…さやか。
……なに。
帰ったら、シャワー浴びろよ。
躰、冷えてるだろ。
…杏子と一緒にだったら、入る。
……。
……。
…さやかは、ばかだよなー。
だ、だから、そういうこと言うな!
…しかたねーな。
…。
入って、やるよ。
…さやかちゃんと一緒に入れるんだ。
ありがたく、思え。
あぁ?
杏子の、ばーか。
こ、このやろ…。
……。
さや
好き。
……。
…また、聞きたかったら。
後で、どうにかして。
……。
……黙らないでよ、ばか杏子。
う、うっせー!
……。
……。
…その時にさっきの歌の続き、聞かせてよ。
…やなこった。
ねぇ…聞かせてよ。
……。
…杏子。
……気が、向いたらな。
じゃ、約束ということで。
はぁ?!
約束は守るものだから、破ったら許さない。
お、おい、勝手に話を
楽しみだわぁ。
つか、歌うって言ってねーぞ!
あー、楽しみだなー。
人の話、聞けよ!
……きょう、こ。
だぁぁぁぁ!うぜぇぇぇ…!!!
…。
ちょろちょろすんじゃねえ!このウスノロが!
…すばしっこいから、ウスノロじゃないわねぇ。
マミ、あいつの動き、止めろ!
そうしたいのはやまやまなんだけど…。
うおりゃあああああ!
佐倉さん、やみくもに突っ込んではだめよ!
うっせー!
さっさっと片付けて、さやかんとこに早く帰るんだ!
それは分かってるわ!
だからこそ、佐倉さんが無事に帰れなきゃ意味ないでしょう!
ああぁ、ちくしょう!
どうしてこんな時に!!
……。
うぁぁ、イライラする!!
佐倉さん、ちょっと黙って。
あぁ?!
動きに一定のリズムがあるみたいだから。
リズム、だぁ?
……。
おい、マミ!
ちょっとの間、時間稼ぎしてて。
そんな
いいから!
早く、美樹さんのところに行きたいなら、そうしなさい!
…わーーったよ!
いくぜ!!
……。
うおぉぉぉぉ!!
…いち、に、さん。
このやろう…ッ!
……ちがう。
…おおおお!!
……。
くそ…ッ!
……。
…いいかげんに、
……。
しやがれぇぇぇ……ッ!!!
……。
おい、マミ!!
……。
まだか!!
待って、あともう少し……あ。
早く
美樹さん!?
!
なんだと!
どうしてあんなところに!!
さやか!
…動きが、おかしいわ。
変身すら、してない!
おい、さやか!
なにやってんだ!
ぼーっとしてんじゃねえ!!
…きょう、こ?
いけない!!
さやか!
さやか、逃げろ!!
……みつけ、た。
…ッ!
だめ!美樹さん…!!
……ぇ。
さやかぁぁぁぁぁ…!!
………。
……。
さやか、さやか…ッ!
……きょうこ。
ばかやろう、なにしてんだ…!!
……きょうこ、だぁ。
やぁっと、みつけた…。
…!
……あ、れ。
さやか、おい、さやか!
きょ…ぅ……。
さやか、さやか…!
…佐倉さん!
マミ、さやかのソウルジェムが…!
…こっちもそんな余裕、ないわ。
時間がもう、あまりない。
美樹さんのことを、含めても。
…くそッ!
だから…?
……。
…佐倉さん?
……マミ。
え。
さやかのこと、ちょっと、見ててくれ。
一人じゃ
うるせぇ!!
…。
…おい、テメェ。
あんまり、調子に乗ってんじゃねえぞ…!
…佐倉、さん。
ぶっ潰してやる…ッ!!
……自らを疑わず羽ばたく旅鳥は、最果ての地へ。
…。
もし今私が風になれたら、険しい山の頂を越えたら。
……。
やがて愛する人のもとに何を届けるのでしょう。
それは愛する人のそばで寄り添っているのでしょう。
……。
…おい、さやか。
……。
もう、いいだろ。
……。
さやか。
…さやか?
……。
寝ちゃったのかよ……。
……。
…あー、腹へった。
……メヌエット。
あ?めぬえっと?
メヌエットって、知ってる…?
…。
…ううん?
杏子、もしかして知らないんだ…?
…もう、歌わねーぞ。
知らないんだー?
…うっせ、ばか。
あ、不貞腐れたー。
図星ー。
……。
…メヌエットってね。
ヨーロッパの舞曲の一つなの。
…。
四分の三拍子で…優雅な舞曲なんだって。
…そうかい。
元々はフランスの…きゅうてい?で流行したんだって。
きゅうていって、宮廷のことだろ。
む…。
…なんだよ。さやかこそ、知らないじゃないか。
杏子のくせにー。
…て、なにしやがんだ。
こうしてやる。
…おい、こら。
……。
さやか。
……おしえて、もらったんだ。
……。
むかし…ちいさい、ころ。
…あの坊やに、か。
ふふ…。
…。
杏子は、坊やって言うよね…絶対、名前で言わない…。
……。
…でも、当たりだよ。
あいつは…ほんと、に。
……。
…なーによぅ。
さやかちゃんはもう、未練なんてないんですからね…。
……。
杏子……ねぇ、杏子…。
…なんだよ、さやか。
どこか、遠いところに行こうよ…二人、で。
…遠いところ?
だれも、あたしたちのことなんて、しらない…そんな、場所。
……この町出れば、みんな、知らないだろ。
そんな近くじゃ、だめなの…。
……。
もっと、遠い…ずっと、遠いところ。
サイハテの、島…。
…今時、ないだろ。
そんな場所…。
そんなの、やってみなきゃ分かんないじゃない…。
…。
…二人で、探して。
二人で、そこに住むの…そう、二人きりで。
…飯とか、どうすんだよ。
杏子はいっつも、ごはんのことばっかり…。
…飯は、大事だろ。
そんなの、杏子がなんとかしてくれる…むしろ、するの。
…狩りでもしろって?
だいじょーぶ、君ならできる…。
…なんだよ、それ。
じゃあ、さやかは何すんだよ。
あたしは…。
…。
…あたしは、あんたにごはんを作ってあげる。
狩りをして、おなかすかせて帰ってきたあんたに…おいしいごはん、作ってあげるの。
さやかが?おいしいごはん?
そうよ…嬉しいでしょ?
その前に目玉焼きくらい、焼けるようになれよ。
…む。
いつも失敗して、ぐしゃぐしゃに…ん。
……。
…さやか。
おいしければ、形なんて、いいじゃない…。
…うまければ、な。
……。
…ま、たしかにまずくはねーな。
さやかの飯は…。
おいしいって言ってくれなきゃ、つくってあげない…。
…。
あげないんだから…。
…言えば、いいんだろ。
こころから、だからね…。
…あたしは精々、狩りとやらを頑張るかな。
そうよ、ちゃんとあたしを養ってね…。
…さやかこそ、ちゃんとうまい飯、作れよな。
……。
……さやか。
とおい、ところ……。
…。
…みんな、わすれて。
まほうしょうじょのことも、まじょのことも…ぜーんぶ、わすれて。
……。
あんたと、ただ、いきていけたら…。
…それは無理だ。
……。
魔女を狩らなきゃ、あたしたちは生きられない。
……ねぇ、杏子。
…。
あたしたちは、ほんとうに、いきてるっていえるの…。
…さやか。
あたしのからだ…しんぞう、ちゃんと、うごいてる…?
…当たり前だろ。
ん……。
…さやかは、ここで、生きてる。
きょう、こ……。
……それに。
…ん。
みんな、忘れちまったら…お前がどうして魔法少女になったのかさえ、忘れてしまったら。
…。
きっと、だめだ…だめなんだよ、さやか。
…杏子の、ばか。
……。
あたしのこと、殺そうとしたくせに……。
…。
すごく、痛かったんだから……。
…ああ。
ばか…あんたなんか、きらい。
さやか。
…きらい、だったのに。
……。
…ねぇ、好きって言って。
あたしのこと、好きって…。
…。
…なんども、うたうように、ささやいて。
また、歌かよ…。
……。
…さやか。
……。
……好き、だ。
もっと…。
好きだ、さやか…。
…もっと。
…好きだよ、さやか。
好きだ…。
……だったら。
……。
あたし、なしでは…いきられなく、なってよ。
…。
なれば、いいのに…。
…。
なって…なってよ…杏子。
…さやか。
あたしだけ、みて…あたしにだけ、やさしくして…。
…。
独りは…さびしい…さびしいよ…。
…知ってるよ、さやか。
う…。
……独りぼっちは、さびしいんだ。
…。
さびしいんだよ…さやか。
…きょう、こ。
……。
ね…もう、いちど。
……。
ねぇ、きょうこ…。
…はら、へった。
……。
……。
…なによ、それ。
しょうがねーだろ…。
たいやき、たべたじゃない…。
…それしか、食ってない。
……なによ。
帰ってきたら…シャワーあびて、すぐ、これだろ…?
…あ、ん。
腹だって、へる…。
…きょぅ…こ…。
……だからさ、さやか。
……。
…あとでなんか、作ってくれよ。
なんかって、なによ…。
なんかは、なんかだよ。
…どうせ、うまくつくれないわよ。
いいよ、それでも。
…なんか、むかつく。
さやかの飯、なら。
……。
…なんでも、うまいから。
うそつき…ぅ。
……さやか。
きょうこ…きょうこ…きょぉ、こ……。
さやか。
…。
さやか。
……。
いつまで、寝てんだ。
いいかげん、起きろよ。
……。
さやか。
……、こ。
さやか。
…きょうこ。
……。
きょうこ…杏子。
よぅ。
……。
さやか。
…杏子。
杏子。
やぁっと、起きたな。
…どこ、行ってたの。
どこにも行ってないよ。
うそ!
だって、いなかったじゃない!
…。
め、さめたら、いなかったじゃない…。
…でも、よかったよ。
よくないわよ…!
………。
…え。
…おまえは、やわらかいな。
杏、子…?
…さよなら、だ。
さやか。
…え?
……ごめんな。
なに、いってるの…?
約束、もう、守れそうにない。
なに、いってるのよ…。
…でも、嬉しかった。
お前と、いられて。
なにいってるのよ…!
…もう、終わりなんだ。
もう、保ちそうにないんだよ。
…ッ!
…さやか。
あたしは、あんたと友達になれるだけで、しあわせだった。
でもそれ以上のものを、あんたはくれた。
杏子、待って、杏子…!
ありがとう。
あんたは…お前は、あたしの希望だった。
杏子、杏子…ッ!!
…ばいばい、さやか。
まって、いかないで、あたしも、いくから…。
…ああ、まってるよ。
でもできるなら、ゆっくりきてくれよ…。
あんたは、くるくせに…あたしをおって、すぐにきたくせに…それなのに!
……。
ひとりぼっちになんて、させない…ぜったいに、させないんだから。
……さやか。
だから、杏子…。
……また、な。
ひとりぼっちに、しないでよ…しない、で……。
…さやか。
いや…い、や……ぁ。
……。
いやぁぁぁぁあぁぁぁ……ッ!
…ッ!
気が付いたようね、美樹さやか。
は…、は…、は…。
まだ動かない方がいいわよ。
……。
美樹さん、良かった…。
…きょう、こ。
…。
…。
ねぇ、きょうこは…?
きょうこは、どこ…?
……。
……。
なんで、だまってるのよ…ねぇ。
…。
美樹さん…。
ねぇ、きょうこはどこ…ねぇ。
杏子なら、そこにいるわ。
美樹さん、あなたの隣に。
とな、り………あ。
………。
きょう、こ…?
連れ出すだけで精一杯だったわ。
…美樹さんを傷つけられて、それで佐倉さんは。
我を忘れたのよ。
怒りの感情に流されるなんて、致命的だわ。
…ねぇ、うそでしょ。
うそ、だよね…?
…。
…。
ねぇ、うそっていってよ…いってよ!
……。
……。
きょうこ、きょうこ、きょうこぉぉ……ッ!
…うっせー。
…え?
聞こえてるよ…。
杏子…?
…生きてるよ、勝手に殺すな。
…ッ!
よぉ、ボンクラ…目ぇ、覚ましたか…。
杏子…ッ。
…て、ひっつくな。
傷、塞がってねーんだから…。
…あ。
つか、マミ、ほむら。
黙って聞いてれば、お前ら、趣味悪いにもほどがあんだろ。
あら、私は一言も死んだなんて言ってないわよ。
…酷い傷だったのは事実だったし、ね。
最悪だ、お前ら。
人の女泣かせて、楽しいか。
泣かせたのはあなたでしょう、杏子。
あ…?
ぶっ潰す前に、ぶっ潰されそうになっていたのはどこの誰。
…う。
無様にもほどがあるわ、杏子。
う、うるせー。
でも本当、暁美さんが来てくれなかったら…ありがとう、暁美さん。
たまたまよ。
それより、美樹さやか。
…。
あなたのソウルジェム、かなり穢れていたわ。
浄化が間に合ったからいいけれど、もう少し、遅かったら。
……。
…さやか。
……。
…傷、塞がってないんだよ。
痛くはねーけど…。
……うぅぅ。
さ、さやか。
……。
…さやか、汚れちまうぞ。
なぁ、さやか…。
……。
…泣くなよ、さやか。
あたしは、ここにいるだろ…?
……。
さやか…。
さて。
用は済んだし、私は帰るわ。
…ほむら、帰るのか。
ええ。
後は自分でなんとかすることね。
私も帰るわ。
マミもか。
美樹さんも気が付いたことだし、もう、大丈夫でしょうから。
ねぇ、佐倉さん?
……。
……。
…なぁ、さやか。
……。
なに、してんだよ…。
……。
…ほんとに、危なかったんだぞ。
……。
……。
……。
…さやか、傷、治してくれよ。
あいつらの魔法じゃ、治らないんだよ…。
…。
…お前じゃなきゃ、だめなんだよ。
……杏子。
頼むよ、さやか。
…う、ん。
……。
……。
ただいま…さやか。
…!
…おかえりって、言ってくれないのか?
う、うぅぅ…。
…さやか、ただいま。
おか、えり…。
…。
おかえり…杏子…。
…ああ、ただいま。
さやか…。
佐倉杏子は弱くなっている。
…え?
美樹さやかと出逢う前に比べたら確実に弱くなったわ。
…何が言いたいのかしら?
魔法少女は本来、自分の為だけに戦えばいい。
それはあなたも分かっているでしょう?
…。
杏子は美樹さやかと関係を深めれば深めるほど、比例するように、弱くなっていく。
以前のあの子ならあんな魔女ぐらい、労せず倒せたはずよ。
そう、あなた無しで。
…。
自分の首を絞めている。
それを分かっていない。
…それは、どうかしらね。
…。
なんにせよ、私は羨ましいと思うのよ。
だって。
…。
自分を大切に想ってくれる存在がいる、誰かがいてくれる。
それは…とても、しあわせなことだもの。
甘いわね。
…どう言われても構わないわ。
……。
美樹さんは佐倉さんがいたから、立ち直れた。
それは
馬鹿だわ。
……。
美樹さやかは確かに、立ち直ったかもしれない。
けれど今度は杏子という存在のせいで、酷く不安定になっている。
…失うのが、怖くて?
……。
誰だって、大切な人を失うのは怖いと思うわ。
でも、だからこそ、大事にしたいって思うんじゃないかしら。
その想いが力になるということだって
それが、馬鹿だと言うのよ。
…。
…身を滅ぼしてしまうだけなのに。
そんな事も、分からないなんて。
暁美さん。
…。
…あなたにも、本当はいるんじゃない?
いないわ。
…。
私にはそんなもの、いない。
…そう。
……。
……。
…私は
そう、いえば。
…?
佐倉さん、自然に言っていたわね。
…何の話。
ふふ、あれはきっと無意識ね。
…?
佐倉さんね、美樹さんのこと…。
…。
…さすが、さやかだなぁ。
きれいになった。
…あとは?
どこ…?
いや、もう大丈夫だ。
ありがとな。
…ううん。
さやか、ソウルジェム見せてみろ。
え。
ほら。
い、いいよ、見なくても。
だめだ。
ほら。
杏
さやか。
……。
……。
…浄化、してくれたから。
気付かなかった。
…。
さやか、どうして黙ってんだ。
…そういうわけじゃないよ。
じゃあ、どういうわけだよ。
…だって、自分でも気が付かなかったんだ。
そんなわけ、
…ないなら、よかったね。
……。
…ごめんね、杏子。
追い出したりして。
あたし、どうかしてたみたい。
それはいい。
それよりも。
…。
…なぁ、さやか。
……。
あたしにはお前が何を抱えこんでいるのか、分からない。
分からない、けど。
あたしは、なにも…
…一人で抱えるの、もう、やめてよ。
…!
お前は独りじゃないんだ。
…。
…独りじゃ、ないんだ。
……。
…あたしじゃ、だめか?
あたしじゃやっぱり…
…そんなこと、ない。
じゃあ…
…あたし、杏子が好き。
……。
苦しくなるくらい、好きになっちゃったんだよ…。
…。
だから…ねぇ、杏子。
約束、してよ。
…いいよ。
どんな約束か、聞かなくていいの…?
ああ、聞かない。
…杏子は、ばかだね。
同類、だな。
……。
…お前が類、だ。
なによ…。
…それで、何を約束すればいい?
…。
さやか。
…その前に。
うん?
あれ、もう一回言って。
あれ?
人の女、泣かすなって。
は…?
マミさんとほむらに言ってたじゃない。
……。
あたし、杏子の女なんだ…?
…ッ!
ねぇ、もう一回、言ってみて。
つか、言ってねーよ!そんなこと!
んーん、言った。
い、言ってない!
言、い、ま、し、た。
さやかちゃん、この耳でちゃんと聞きました。
お、お前の耳がおかしいんじゃないのか?!
じゃあ今度、マミさんに聞いてみようかなー。
ちゃんと、聞いてたと思うし。
ば、ばか、やめろ…ッ。
じゃあ、言って?
だ、だから、言って
言ってなくても、いいから。
は、はぁ…?
言ってよ、さやかはあたしの女だって。
そ、そんなこと、言えるか…ッ。
…じゃあ、違うの?
う…。
あたし、杏子の彼女じゃないんだ…。
……っ。
…。
さ、さやかは…!
うん。
……。
杏子?
…あ、あたし、ほんとに言ったのか。
言ったよ。
しれっと。
マ、マミとほむらの前で…か。
…嬉しかったんだけどな。
と言うか今になって、じわじわ、来ちゃった。
……。
…ねぇ、杏子。
もう一度…聞かせて。
……さやか、は。
…うん。
あたし、の……女、だ。
……。
…あー!
杏子は。
…な、なんだよ。
もう、言わな
あたしの嫁、なのだー。
う、ぉ。
…だから。
……。
浮気したら、許さないんだから。
し、しねーよ。
…ほんとかなぁ。
するか、ばか。
…じゃあ、約束。
…。
あたしより、先に死なないで。
…え。
はい、約束。
破ったら、針千本、飲ます!
……。
…飲ます、から。
痛いのは、やだな…。
…だったら、破らなきゃいいだけでしょ。
ん…分かった。
……。
……。
…なぁ、さやか。
どこか遠いところ、行こうか。
…。
フランス、だっけ?めぬえっとの。
魔法を使えば
それより。
…ん?
デート、しよ。
あたし、あの浴衣着たいから。
でも
明日。
はい、決まり。
明日かよ…わがままだな、さやかは。
そうだよ。
あたし、杏子にだけわがままだもん。
…。
そうなるって、決めたの。
今更だめって言ったって、聞かないんだから。
あー、そうかい。
うん、そーなの。
…それは、恥ずかしいわね。
でも、それだけ本気なのよね。
……。
やっぱり、少しだけ羨ましい。
…そう、かしら。
そうよ?
…私にはどうでもいいことだわ。
最後には愛と勇気が勝つストーリーって、やっぱり、王道じゃない。
……くだらないわね。
子供縁日、ねぇ。
客、ほとんどいねーし。
平日だし。
学校、いいのかよ。
いいの、いいの。
まどかが心配すんじゃねーの?
メールしておいたから、問題なーし。
さぼりか。
おお、さぼりよ。
デートするって、約束したでしょ。
まぁ、あたしはいいけどな。
そうそう。
何かあったら、杏子のせいにするから。
おいこら。
この人に無理矢理連れてこられたんですぅ。
浴衣、わざわざ着せられてか?
この人、浴衣フェチなんですぅ。
制服は無理矢理脱がされて
よし、帰るか。
て、本当に帰ろうとしないでよ。
ばかには付き合ってらんね。
自分の女なのに?
…それ、もういいだろ。
だーめ。
一生、忘れてなんかやらない。
……。
あー、余計なこと言ったって顔してるー。
うっせ。
ふふ。
それより、さやか。
何か食わせろ、腹へった。
言うと思った。
縁日と言えば、焼きそば。
お。いいな、焼きそば。
他にはお好み焼き、いか焼き、りんごあめとか?
おー。
でも、ないみたいだけど。
あー?
人、あんまりいないし。
…なんだよ。
あー、腹へった…。
ねぇ、杏子。
あ?
あれ、やろう。
あれ?
どれだよ。
あれ。
…なんだ、あれ。
金魚すくい。
知らないの?
知ってるよ。
金魚なんかすくって、どうすんだよ。
勿論、飼うの。
は?
食料じゃありませーん。
ばか、誰が金魚なんか食うか。
杏子なら分からないじゃん?
大きくさせて、焼いて、ぱくっと。
知ってるか。
金魚って硬い骨ばかりで、食うとこないんだよ。
…え。
だから、
杏子、あんた金魚食べたことが…
あるか。
だって妙に生々しかったし。
そういう話だ、そういう話。
とにかく、食わねーよ。
あー、よかった。
お前なぁ、あたしをなんだと思ってんだ。
大食らい?
あーそうかい。
じゃあ、縁日はやめだ。
飯だ、飯。
ちょっと杏子。
どーせ、あたしは大食らいだしな。
…。
さやか、置いてくぞ。
…杏子。
…。
ね…金魚すくい、やろ?
へただな…。
あー…。
まぁ、一匹取れたんだし、いいんじゃ
よし、この子の名前は「きょうこ」にしよう。
は?
きょうこ、です。
よろしくね?
おい待て、なんであたしと同じ名前にするんだよ。
と言うわけだ、杏子君。
どういうわけだよ!
あたしも、すくって?
…は?
あの中から。
あたしを、救って。
……。
あの子、あの子がいい。
一番、かわいい。
自分で言うか。
じゃあ、杏子にとってのあたしは?
どの子?
あれ。
…て。
あれ、出目金じゃない!
そっくりだろ?
似てない!
ははは。
あの子、あの子をすくって。
自分でやれよ。
杏子にすくって欲しいの。
なんでだよ。
あたしを、救って。
……。
…きょうこと、一緒にするの。
あー…分かった。
やれば、いいんだろ。
言っとくけど。
あ、なんだよ。
あいつをとればいいんだろ。
あの子だけで、いいから。
…。
他はいらない。
二匹でいいの。
…分かったよ。
おっちゃん、一回ね。
きょうこ、と、さやか。
…。
最初はばけつで、慣れてきたら水槽に移すんだって。
慣れさせるの、ばけつの方がいいんだね。
らしいな。
それにしても見分けつくのか、それ。
こっちがきょうこで、こっちがさやか?
聞くな。
……。
……。
…餌、やらなくても。
しばらくは生きていられるんだって…すごいね、金魚って。
…。
どっかの誰かとは大違い。
飯、どうするかな。
ねぇ、杏子。
うん?
浴衣の金魚と、二匹の金魚。
…。
かわいい?
ばーか。
なによぅ。
ほら、行くぞ。
言ってくれたのに。
…。
ねぇ、また言ってよ。
……。
杏子。
…かわいい、よ。
似合ってる…?
…ああ、似合ってるよ。
……。
お…。
…杏子のばーか。
このやろ…。
今日から、君たちはあたしたちと一緒だ。
仲良く、やろう。
…そんなに嬉しいのか、金魚。
うん。
ふぅん。
……杏子がくれた浴衣と、同じだから。
…。
なーんてね。
は。
あ、鼻で笑いやがったな。
なぁ、さやか。
ん?
似合ってるよ、浴衣。
…。
…白いのは、やらねーからな。
……うん、いらない。
…。
これで、いい…。
けど。
…?
白いドレスだったら、いいだろ?
…。
にぶちんさやか。
…あ。
さ、さぁ、飯だ。
さやか、お前はなにが食いたい?
杏子。
…なんだよ。
夏になったら。
…。
お祭に行こうね。
花火にも。
…ああ、そうだな。
行こう。
その時は杏子も浴衣着て。
あたしはいいよ。
だーーめ。
あたしが選んであげる。
いいって。
だめなの。
さやか。
ね、杏子。
…。
楽しみだね…夏が来るの。
…ああ、楽しみだな。
ちゃんと連れて行ってね?
分かってるよ。
浴衣、着て。
着ない。
着、る、の。
着ねーって。
しつこいな。
杏子はどんな柄が似合うかなぁ?
おい、さやか。
飯、食ったら。
浴衣、見に行こ。
さやか。
きーまり。
勝手に決めんな。
杏子。
…。
楽しみに、してるから。
…さやか。
夏。
…おう。
でも浴衣は着ねー。
着させます。
絶対、着ない。
着ろ。
いやだ。
着て。
…。
ねぇ、杏子…?
…二人が“無邪気な”夏の約束を交わした、次の日。
二人は死んだ。
美樹さやかは、敵にソウルジェムを砕かれた。
佐倉杏子は、自分でソウルジェムを砕いた。
一瞬、だった。
一瞬の隙が、二人から夏を奪った。
永遠に。
美樹さやかは即死だった。
ソウルジェムが砕けることは、魂が砕けること。
殻の肉体はもう、動かない。二度と、その躰は脈を打たない。
杏子は、吼えた。人であらざるような、長い、長い、咆哮。
そして。
それが終わった時、杏子は敵に襲い掛かった。
愚直なまでに、真っ直ぐに。
その戦い方にかつての杏子の面影はなく、むしろ、それはさやかの面影を思わせた。
引き裂かれても、貫かれても、流した血液の致死量を超えても。
杏子はひたすら真っ直ぐに敵に向かっていく。
痛覚を、遮断して。
敵は、鬼気迫る杏子の手によって、無残な姿に成り果てようとしていたけれど。
尚も、杏子は攻撃の手を緩めない。
躰の限界を超えても、魂が健在な限り。
愛と勇気が勝つストーリーなんて、無い。
だってこれが私達、魔法少女の現実なのだから。
敵を完全に屠った後。
佐倉杏子は美樹さやかだったものの傍に立った。
それからその耳に唇を寄せ、二言三言呟いた後、胸にある赤い、今は黒く穢れてしまったソウルジェムを毟り取った。
そして、静かに、砕いた。
これが。
この時間軸での、二人の最期。
……さや、か。
……。
…なんだよ。
もう、ねちゃったのか…。
……。
…なつ、いけないな。
……。
もういちど、おまえのゆかたすがた、みたかったなぁ…。
……。
さやか……。
……。
…やくそくは、まもるもの。
だったよな…さやか。
……。
…ひとつは、まもった。
……。
…しんぱい、するなよ。
もうひとつもちゃんと、まもるさ…。
……
ずぅっと、いっしょにいてやる…。
……。
おまえにいてほしいんだ、さやか…。
……。
…ひとりぼっちは、さびしいから。
……。
なぁ、そうだろ…さやか。
最初は、恋情からだったじゃないこと。
あたしは、知ってた。
あの人は幼馴染のあいつが、好きで、大好きで。
心を壊してしまうくらいに、恋焦がれていて。
だから、その願いが叶わなかった時の喪失感を。
あたしは利用したんだ。付け込んだんだ。
だって、失うのが怖かった。
かつての自分に似たあの人を。
きらきら輝く、光のようなあの人を、失いたく、なかった。
間違いでも、構わない。
そばにいることさえ、出来れば。
それで、それだけで、良かったんだ。
…知らぬ間に夜の闇が包んでも、たとえ言葉を失ったとしても。
……。
あなたが見えるただひとつの光であればいい。
……。
あなたが触れるただひとつの安らぎであればいい。
…やがて。
……。
あなたの心の中に、注がれていけばいい…。
……。
……。
…よぅ、さやか。
遅い、遅刻。
また、たいやきでも買ってたの。
ああ、そうなんだ。
食うかい?
もちろん。
じゃあ、ほら。
…て、ないじゃん。
うそつきー。
…。
…。
…さびし、かったか?
…。
さや
だから。
…だから、なんだよ。
抱き締めて。
…。
キス、して。
…さやかは、やっぱり、ばかだな。
あんたに、言われたくない…。
…そんなの、言われなくたって、してやる。
……杏子。
……。
杏子は、ばかだね……。
…お前に、言われたくない。
……。
…さやか。
…約束、守ってくれてありがとう。
ああ…。
…あたしね、杏子の歌、好きだったよ。
過去形かよ。
じゃあ、好き。
へた、だけど。
お前に言われたくねー。
……。
……。
…ねぇ、杏子。
ん…。
…好き、だから。
……。
…なんで黙るのよ、ばか杏子。
さやか。
…。
…好きだ。
お前が、好きだ。
…もっと早く言え、ばーか。
うっせ、ばか。
……。
……。
…もう、さびしくないね。
うん、もうさびしくない…。
Song...
“メヌエット” 山崎まさよし
“アマモリズム” 木村カエラ
Battle's BGM...
“死への招待状 −The Battle with Death−” from 「ROMANCING SAGA −Minsterel Song−」
伊藤賢治
|