…お前は、お山のものとなる。 ……。 今日までの事は一切、その名さえ、捨てなければならぬ。 それでも尚生きるか、或は死ぬか。 それは己で決めよ。 ……。 だがしかし、異形であるお前が子を生す事は許されぬ。 決して。 ……。 子は七つまでは神のうち。 本来ならば、お前は神の元に還るべき子だった。 だが、しかし。 ……。 …不憫だが、致し方が無いのだ。 これ以上お前をこの里に置いておけば災いが起こる。 起こり続ける。 ……。 十二。 お前は生きた。生き過ぎた。 もう、十分だろう。 養親に感謝せよ。 ……あたしは。 養親共の真の子は流行り病で死んだと言うのにな。 皮肉なものよ。 ……。 出立は今宵、直に籠が来る。 お前の存在は誰にも知られるわけにはゆかぬ。 分かっているな。 ……。 お前は初めからこの世には居ない存在だった。 だから誰もお前の事を知らぬし、養親だった者共もたった今からは赤の他人。 ……。 全て、忘れろ。 全てを、捨てろ。 名も、記憶も、一切。 ……。 …お前は生まれてきてはいけない子だったのだ。 生きていてはいけない子だったのだ。 ……あたし、は。 ……。 ……せめて。 ならぬ。 お前が持って行って良いものは其の身、其の命のみ。 他は罷り成らぬ。 ……。 …お前を産んだが為に、お前を産んだ女は死んだのだ。 お前が生きていたが為に、あの者共の子は死んだのだ。 お前は命を喰らう、魂を喰らう、人喰い人なのだ。 人の世に居ては成らぬ存在なのだ。 ……。 ……。 ……。 ……籠が来たようだ。 ……。 …せめて其の命、山の神の為に。 さすれば…お前の母も少しは浮かばれるであろう。 ………。 …山には数年前、他の里より自ら進んで入った者が居ると聞く。 生きていればお前と同じくらいだと言う。 ……そのものは、 同じ、異形の子だ。 髪と瞳が…燃えるような赤だと聞いた。 ……。 …生きているかは分からぬがな。 若しも生きていれば…そうだな、其の者と番え。 ……。 番えたところで、子は産まれぬ。 絶対に、な。 ……。 …詳しくは籠の者が知っている。 望むのであれば、請えば良い。 ……。 …さらばだ。 二度と会う事は無い。 ……。 ……。 …誰だ。 ……。 …てめぇ、何しにきやがった。 此れより、数刻後。 …去ね、さもなくば殺す。 新たな供物が山へと捧げられる。 ……なんだと。 ……。 てめぇ。 …番いたければ好きにすれば良い。 …! 子は、生せぬ。 巫山戯るな…ッ。 ……。 …若しも、此処に連れてきてみろ。 殺すぞ。 殺すも、喰らうも、汝の勝手にすれば良い。 それでこそ、人を喰らう子よ。 命を喰らう子よ。 ……ッ。 汝がせずとも、か弱き供物は死ぬ。 山の、禽獣共の餌となろう。 ……。 数刻後。 籠が来る。 ……。 さらばだ、異形の子よ。 …待てよ。 ……。 そいつは… ……。 ……。 ……。 …ち、この人形(ヒトカタ)め。 さっさと消えろ。 ……。 ……。 ……。 …籠。 供物…。 ……。 ……厄介なもの、持ってきやがって。 ……。 女……。 ……。 …眠っているのか。 いや、違うな…。 ……。 …眠らされせた。 あいつらのやりそうな事だな。 帰り道なんぞ、意識があったとしてもこの闇じゃ分からないってのにさ。 ……。 …わざわざ月の無い夜を選んでも、尚。 ……。 乱暴は……されてないな。 ……。 …あくまでも神の供物である者には手を出さない。 仮令、それが形だけであっても。 ……。 …ま、あいつら人形にそんなもの、ねぇけどな。 ……う。 ……。 ……う、ぅぅ。 ……。 ……? …。 ……だ、れ。 赤い髪の子供と、青い髪の子供。 異形とされている、者共。 これはそんな者共の話。 廻 合 ……。 ……。 …あんた、さぁ。 いつまでしょぼくれた面、してんだよ。 ……。 気が滅入る。 …みなきゃいいでしょ。 見たくなくたって、目に入ってくるんだよ。 ……。 …そんなにあたしといるのが、 いやにきまってるでしょ。 …は。 どうしてあたしが…どうして、あんたとなんか。 …そりゃ、こっちの言葉だよ。 今夜初めて会ったって言うのに、その言われようだ。 ……あたしはすきでこんなところにきたんじゃない。 だから? …きづいたら、こんなところにいて。 で? ……あたしは、あんたのところにくるつもりなんてなかった。 独りでくたばるつもりだった、と? ……。 でも、此処にいる。 あんたの意思なんか、初めから、あってねぇもんなんだよ。 ……。 歳は? …どうでもいいでしょ。 里は? どこから来た? …しらない。 名前は。 ……。 全てを忘れろとでも言われたか。 律儀なもんだな、体よく捨てられたってのに。 ……。 なんにせよ、あのままだったらあんたは獣共の餌になってるところだった。 少しは感謝して欲しいところなんだけど。 …だれもたすけてくれなんていってない。 ああ、言ってないな。 けど、拾われた事実は変わりないんだよ。 ……。 出て行くか。 出て行けるものなら、行ってみなよ。 ……。 闇は人の恐怖を駆り立てる。 けれど、闇は獣を活かす。 ……あんたは。 夜目が利くんだよ。 だからあんたの顔も見えてね。 火の灯りが眩しいくらいだ。 ……。 あんたさ。 …ちかづかないで。 ……。 こないで、そんなきたないかっこうで…。 …黙れ、殺すぞ。 う……。 ……あたしと番えとでも、言われたか。 …ッ。 …そうなのかよ。 ……や、だ。 は…まるで、獣扱いだな。 ……。 あんたさ……好きな男でもいたんだろう。 …! な、なにを 当たりかよ。 ……。 ま、しょうがないね。 そんな形じゃ。 …すきで、こんなかみのいろにうまれたわけじゃない。 あたしもだよ。 でもしょうがないだろ。 ……。 で、その好きな男とやらには別れの挨拶は出来たのかい? …あんたにはかんけいない。 は。 なんだよ、出来なかったのか。 意気地ねぇな。 …! うるさい、だまれ!! それとも何か、相手にもされてなかったのか? そうだよなぁ、そんな髪じゃな。 だまれ、だまれ、だまれ!! 挙句、あれだろ。 美しい女と一緒になっちまった、或いは、なるんだろ、その男。 残念だったなぁ。 ……、やる。 あ? ころしてやる! あんたなんか、ころしてやる…! へぇ…。 …ぐ。 やれるもんなら、やってみなよ。 ヒヨっこ。 ……。 …ほら、どうした? 力、もっと込めてみなよ…そんなんじゃ、人は殺せないよ。 …う、…うぅぅ。 ふん…てんで、話にならないな。 ……あんた、と。 …。 あんたとつがいになるくらいなら、されるくらいなら、しんだほうがましよ…。 じゃあ、死ねよ。 …ッ。 ほら、早く。 死んでみせてくれよ。 さぞかし、キレイなんだろうなぁ。 …あん、た。 あたしの髪の色…瞳の色もなんだけど、血の色みたいだろ? だからさ、それはもうさんざ、言われたよ。 気持ち悪いってねぇ。 …。 一つ言い方を変えれば、お天道様だって言うのにさぁ。 酷いと思わない? ……。 で? 死なないの? ……。 じゃ、あたしが殺してあげようか? あたしだってあんたみたいな厄介なヤツ、御免なんだ。 …ぐ。 どう殺されたい? 首を絞める?刃物で喉元を切り裂く? 苦しみたい?それとも苦しみたくない? …や…め……。 ほら、答えてよ。 ………、だ…。 なんだい? ……たく、……な…い…。 …。 ……す、…て。 なんだよ。 つまらねぇ。 ……は。 出来もしねぇこと、言うんじゃねぇよ。 ……あん、た。 改めまして。 ……。 あたしは、杏の子って書いて、杏子だ。 あんたは? ……。 言いたくないなら、別にいい。 でも。 ……あ。 あんたは今から、あたしに抱かれる。 それが番になるってことだからね。 ……。 …抵抗、してみなよ。 ……したって。 諦め? は、ほんっとつまらねぇ。 さっきまでの威勢はどこに行ったんだか。 ……あんたなんか、きらい。 だいっきらい…。 奇遇だね。 あたしもだよ。 ……。 ……。 ……あたし、あんたといっしょう。 …どうだかね。 ……。 …独りは、ある意味自由だ。 誰にも、頼らない。頼りにされない。 誰も、あてにしない。されない。 自分だけ、生かせばいい。 ……。 …だけど、今日からは。 あたしがあんたの同類だ。 あんたにはもう、あたししか居ないんだよ。 ……う。 あんたの名は? ……。 …ま、別にいいさ。 それじゃ、始めようか……アオ。 ……。 あたしのことは…そうだなぁ、アカとでも呼べばいい。 ……。 …いい肌だ、アオ。 ……あぁ。 ……。 ……。 起きたか。 ……。 朝だよ。 あんた、なんだかんだで寝ちゃったからな。 ……あ、さ。 目ぇ、覚めて。 めそめそ泣いたら、それこそ殺してやろうかと思ったけど。 …あさ。 まぁ、いい。 おはよう、アオ。 ……。 なんだよ、その面。 …ひの、ひかり。 別に珍しいもんじゃないだろ。 朝になれば、お天道様は昇るんだ。 天気が悪くない限り、日は差すんだよ。 ……。 …。 ……あかるい。 …肌の色。 いや…まさか、な。 ……。 おい、アオ。 いつでもぼんやりしてるつもりだ。 ……。 いいねぇ、その面。 ちょっと気に入ったよ。 …。 …何はともあれ。 これであたしとあんたは晴れて番になったわけだ。 ……。 ま、末永く宜しくとは言わないよ。 あんたはあんたで好きにすればいい。 …なにを、すればいいの。 は? …あたしにはもう、なにもないのに。 …。 ……あたしには、さ。 あんたの事なんか、どうでもいい。 …なによ、それ。 聞いてどうにかなるもんじゃない。 だったら、聞かない方がマシだ。 なによ、それ! …うるせぇな。 興味ねぇって言ってんだよ。 ……いっしょになったひとにたいして、それなの。 好きでなったわけじゃ、ないんだろ。 死んだ方がマシとも言ってたな。 ま、結果的には命乞いしてくれたけど? ……。 ふん。 泣くよりはいい。 ……あんたって。 過ぎた話をするより今だ、アオ。 腹、減ってないか。 …へってない。 ふん。 そうかい。 …どこにいくの。 飯の調達。 あるにはあるんだけど…ま、折角の初夜明けだからね。 ちょっとはそれらしくしてやるよ。 ……のぞんでない。 だろうね。 …。 あんたは此処にいればいい。 出て行きたきゃ、勝手に出て行け。 ……も、いく。 うん? あたしもいくっていってるの。 …。 …ここで、あんたとくらすのなら。 ……。 きめた。 しんだって、かんたんにしんでなんかやらないんだから。 何だそれ。 言ってる事が滅茶苦茶じゃねーか。 うるさい、ばかアカ。 …おいおい。 開き直るの、早くねーか。 つかばかアカってなんだ、このボンクラ。 はぁ? あぁ? ……。 ……。 …ふん、だ。 …かわいくねー。 そのかわいくないヤツとむりやりいっしょになったヤツはどこのどいつよ。 好きでなったんじゃねーよ。 だったら、ならなければよかったでしょ。 ひろってくれとも、いってない。 …。 あたしをひろって、あたしをむりやりだいて、あたしとつがいになったのはあんた。 …こいつ。 なによ。 …はぁ。 まぁ、いい。ついてこいよ、アオ。 おっとづら、しないで。 あたしのほんとうのなまえ、しらないくせに。 ……。 あたしはあんたのなまえ、おしえてくれなんてたのんでないのにあんたがかってにいったから、しってるけど。 でも、よんでなんかやらない。 …うぜぇ。 すげぇ、うぜぇ…。 はぁ…はぁ…。 …おい。 ……。 うちから出て、まだ一寸だぞ。 ありえないだろ。 ……。 さっきまでのイキオイはどこに行ったんだよ、ウスノロ。 …うるさ、い。 ……。 …はぁ、……はぁ。 お前、もう帰れ。 帰って、大人しくしてろ。 ……。 ここまで酷いとは思わなかった。 これじゃ足手纏いにしかならないじゃねーか。 …あんたの、せい、よ。 あぁ? あんたが、めちゃくちゃ、して、くれた、から……。 …。 だか、ら…。 もう、いい。 喋るな、うぜぇ。 ……かえ、らな、い。 ……。 はぁ……はぁ……、はぁ。 …ほんと、うぜぇ。 ……ぁ。 …。 ……うぅ。 お前さ。 (……なに、よ。) 言葉に出来てねーぞ。 ……。 …お前さ。 まともに外出るの、いつ以来だ。 …! どんだけ、閉じ込められてた。 (……あんたには、かんけいない。) ……。 ……い、ぅ。 ……。 うぅぅ…。 …めんどくせー。 ……。 歩けないなら歩けないって、言えよ。 足、捻ったんだろ。 ……。 それとも、本気で置いてかれたいのか。 言っとくけどな、ここは人里の中とはわけが違うんだよ。 ……。 …狼に喰われたいのかって、言ってるんだ。 ……。 簡単にくたばってなんか、やらないんだろ。 だったら詰まらない意地、張ってんじゃねぇよ。 ……あんた、は。 お前と違って、長いからな。 鍛え方が違う。 ……。 …ほら。 ……なに。 なに、じゃねぇ。 察しろ、ばか。 ……。 なんだよ、その面。 …あんたのせわには、ならない。 なりたくない。 …。 …いっ。 ……。 …ひとり、…で。 ああ、そうかよ。 じゃあ、一人でずっとそうしてな。 ……。 ……。 う……。 ……。 ……あたしは、…ひとりでも…。 …あぁ!! ……。 うぜぇ、ほんっと、うぜぇ!!! …あ。 お前、ほんとばか女だな! な、なにすんのよ…。 うるせぇ、黙れ。 おろして、あたしは…んぅ? ……。 ……こ、のッ。 …?! いっ…ッ。 いつまでも、ちょうしに、のってんじゃないわよ…。 …思い切り噛みやがって! なにすんだ、このばか女…! ばかは、あんたでしょ…。 お前がぎゃーぎゃー喚くから だからって、くち、ふさぐんじゃないわよ…。 うるせーからだろ! うるさいのはあんたでしょ、ばかアカ…。 あぁぁ?! …ほんっと、ばか。 だいっきらい…。 …あたしだって、お前なんか。 ……。 ……。 ……。 …ああ、くそ。 行くぞ、もう。 …このまま、いくの。 落とされてーのか。 ……。 …たく。 ほんっと、めんどくせー……。 ……。 …ここでじっとしてろよ。 なに、するの。 …。 ちょっと。 …あたし達は人と看做されなかった。 ……。 禽獣と一緒だって言うなら、そうしてやればいい。 …なにを、するの。 ……。 やめて。 …動くなよ。 やめてって、いってるの。 …人の話、聞いてたか。 あのはたけのもの、ぬすむんでしょ。 …ああ、そうだよ。 でも、それのどこが悪いんだ。 わるいわよ。 …。 ひとのものをぬすむことは… 禽獣以下なんだよ、あたし達は。 …。 …あたし達は捨てられたんだ。 人と同じじゃないから、捨てられたんだよ。 ……。 …髪の色、瞳の色、それらが違うだけで。 たったそれだけの理由で。 …。 …人間ってのはさ、アオ。 群れの中に少しでも違うヤツがいると、そいつを除け者にしなきゃいられないイキモノなんだ。 ……。 …あたし達の髪と瞳は黒くなかった。 排除するには、十分すぎる理由だ。 …もう、やめて。 ……。 …もう、かえろう。 帰るのは、あれを盗ってからだ。 アオ、どれが食いたい? …。 特別だ、花嫁であるお前の好きなものを盗ってきてやる。 …いらない。 …。 いらないから…かえろう。 …盗らなければ、腹は減ったままだ。 それでもいいよ…だから。 …。 …だって。 あれは、だれかがいっしょうけんめい、つくったものなんだよ…。 …それがどうした。 そんなの、どうでもいい。 ……。 猪や狐はあれを盗って喰う。 それは悪い事じゃない。 …でも、だれかにとってはいいことじゃない。 とられたら、こまるにきまってるんだ…。 だから、それがどうした。 あいつらはあたし達を捨てたんだ。 それは良い事か。 ……。 あたしにお前をあてがって。 なぁ、なんでか分かるか。 ……。 あたしは女で、お前も女だからだよ。 ……。 あたしが男だったら、お前は多分身篭るだろう。 子供が、出来るだろう。 そしたら…また異質なものが生まれてくるだろう。 そう、自分達と違うものが。 ……。 …だから、お前は。 ……。 …分かった。 畑のものが嫌なら、鶏を盗ってきてやる。 それならいいだろ。 ……。 …アオ。 ……。 …じゃあ、お前にはやらない。 自分の分だけ… …。 …離せ。 ……。 アオ。 …ねぇ、かえろう。 アカ…。 ……。 …ここには、いたくない。 いたくない、の…。 …。 …かえろう、うちに。 ………このボンクラが。 ……。 …あーあ、今朝はご馳走だった筈なのに。 ……。 あー…。 ……。 …やっぱ、盗って だめ。 …。 ぜったい、だめ。 …お前な。 どんだけ目出度いんだよ。 …。 食わなきゃ、生きていけないんだよ。 …そんなの、しってる。 どうだか。 …しってるの。 ……。 …たべなきゃ、いきられない。 でも、それでも、ひとからぬすむのは ばかか、てめぇ。 …う。 さっきからキレイゴトばかり並べやがって。 ……。 …お前の躰、このままだともたなくなるぞ。 ……。 …ろくすっぽ、食ってこなかったんだろ。 ろくに、食わせてもらえなかったんだろ。 ……あ。 …うっすいカラダ、しやがって。 や、やだ…。 …お前がこんななのは、誰のせいなんだ。 お前のせいなのか? …みない、で。 なぁ、アオ。 ……もう、みないで。 答えろ、アオ。 ……あたし、が。 …。 あたしのかみが、ひとみが…こんな、いろだから。 だから、りょうしんも、さとのおさも…あのひとも、だれも 違うだろ! ばかやろう!! …ぅ。 ……違うんだよ。 ……。 …お前は、何も悪くないんだ。 何も、悪くないんだよ。 ……。 ……。 ……。 …ちくしょう。 ……。 …。 …どこ、いくの。 腹が減ると、ろくな事を考えない。 …ぬすむの。 ……。 …あたしは、たべない。 勝手にしろ、ばか。 …。 ……行ってくる。 ……。 ……。 ……とって、きたの。 ……。 とって、きたんだね。 ……。 ……だったら、いらない。 ばかか。 誰がてめぇにやるって言った。 …。 てめぇみたいなヤツにくれてやるもんなんか、一つもない。 最期までキレイゴト並べて、勝手に死ねよ。 …。 ここにいたくなきゃ、どっかに行っちまえ。 野垂れ死んじまえ。 …。 何が簡単にくたばってなんかやらない、だ。 我慢してれば、いつか誰かが助けに来てくれると思ってんのかよ。 救ってくれると、思ってるのかよ。 誰も、助けてなんかくれねーんだよ。 誰も、迎えになんか来てくれねーんだよ。 …。 てめぇの命は所詮、てめぇにしか守れないんだ! それが分からないお前は…! ……。 …。 ……。 …くそ。 ……。 待てよ。 …はなして。 …。 …どっかにいけって、いったじゃない。 ああ、言ったよ。 …いたく、ないの。 …。 あんたなんか、と…。 ……。 だから…。 湯を、沸かせ。 …。 それくらいなら、出来るだろ。 まさか、出来ないとか言わないだろうな。 ……。 その間に、あたしはこいつを捌いてくる。 …? 見て分からないのか。 野兎だよ。 …のうさぎ。 獲ってきた。 盗んできたんじゃない。 ……。 これなら食えるだろ。 言っとくけど、嫌いとか言うなよ。 食い物粗末にしたら、それこそ、許さねーからな。 …。 鍋はそこにある。 ほら、さっさとしろよ。 …どうして。 は? …さっきまで、あんなに。 お前みたいなどうしようもないばかでも、一緒になったんだ。 だから、しょーがねぇだろ。 …いみ、わかんない。 ぐだぐだうるせーな。 早くしろよ、すぐには食えねーんだから。 いたくないって、言ったのに。 だから、 知るか、もう。 …。 お前は…あたしのもんだ。 どうしようが、あたしの勝手だ。 …なによ、それ。 …。 あたしは…あたしは、すきであんたなんかと…。 …。 …あんたなんかと。 知ってるよ。 …。 …山菜も採ってきた。 それも入れる。 ……。 …アオ。 ……はなして。 ……。 …みず、どこ? 裏に、湧いてるとこがある。 …そう。 あたしが、汲んでくる。 お前はここにいろ。 …ゆをわかせって、いったじゃない。 足痛めた上に、ふらふらしたヤツに水汲みを任せられるか。 …あんたって。 なんだよ。 ……。 …なんだよ。 それ。 あ? …みてても、いい? …。 …さばくの。 …。 …だめなら、いい。 邪魔しないなら、な。 …。 …水、汲んでくる。 …ねぇ。 …。 てぎわ、いいんだね。 …慣れてるだけだよ。 …。 ……。 …ぬすむだけじゃ、ないんだね。 …。 ……さきにいってくれれば、よかったのに。 …どうしようもない時だって、あるんだ。 ……ねぇ。 …。 どれくらい、ひとりでいたの…? …どうでもいいだろ、そんなこと。 おしえてよ。 …聞いて、どうするんだよ。 どうもしない。 …は。 ねぇ…きかせてよ。 いやだ。 ……。 ……そろそろ、出来るぞ。 …あたしのいばしょ。 …。 …ここしか、ないんだね。 ……。 …もう、ここしか。 そうだよ。 …。 …食って、体力つけろ。 そんな躰じゃ話にならない。 …むりやり、したくせに。 ……。 …ねぇ、まだ? もう少しだって言ったろ。 …ちぇ。 ……。 ……。 …数えてないから、分からない。 …? どれくらい、ここにいるのか。 …そう、なんだ。 …。 あたしがくるまで、ひとりだったんだね…。 …。 …さびしく、なかった? 知らない。 …なによ、それ。 好きで来たんだ。 だから、知らない。 ……。 ……。 …ねぇ、アカ。 ……。 …すきになるよう、がんばってみるから。 いいよ、別に。 …。 …ひどい事、したんだ。 ……。 ……。 …へんなヤツー。 うるさい。 きにするくらいなら、しなきゃいいのに。 …うるさい。 あたし、はじめてだったんだけどなー…。 …。 …アカは? ……どうでもいいだろ。 よくない。 …。 …どうなの? ……初めてだよ、悪いか。 やっぱり。 …は? ふふ。 …何がおかしいんだよ。 んーん。 ……。 …できた? ほら、食えよ。 …わ。 残すなよ。 残したら、許さないからな。 …うん。 ……。 ……あつ。 当たり前だろ、出来立てなんだから。 ……。 ……。 …はじめて、なんだ。 あ? ……こんなの、たべるの。 ……。 ……いつも、つめたいのばっかりだったし。 …。 …。 …うまい、か。 ……わかんない。 初めてでも食えるんだったら、うまいんだよ。 …。 めんどくせぇから…そういう事にしとけ。 ……やだ。 …。 …。 …めんどくせぇ。 ……アカ。 何だよ。 …なんでもない。 赤い髪の子供と、青い髪の子供。 異形とされている、者共。 これはそんな者共が生きた話。 あたしは外に出てくるけど。 あんたは大人しくしてろよ。 どこいくの? 薪拾い。 …あたしも。 邪魔だ。 ……むぅ。 足、冷やしとけ。 ……。 おい、アオ。 聞いているのか。 …あれ、ほん? ……。 そうなんでしょ。 …だから、何だよ。 ……ねぇ、みてもいい? は? …おとなしく、してるから。 ……。 ……。 …しょうがねぇな。 ……。 ほら。 ……ん。 じゃあな。 …ねぇ。 なんだよ。 …ここで、なにをしてたの。 何って、此処で暮らしてるんだよ。 ……いばしょ、なかったから? …。 …すてられたから。 あたしが捨ててやったんだ。 …。 …その本、汚すなよ。 ……。 て、おい。 それ、逆さまだぞ。 ……。 ……。 ……。 …読めないのか。 ……。 ……。 …あたし、いかされていただけだから。 ……。 …うまれてきては、いけなかった。 いきていては、いけなかったから…。 常套句だ。 …。 言ったろ、あいつらは自分達と違うものを排除したがるんだ。 その割には災いが起こると全部、こっちのせいだ。 莫迦らしい。 ……。 …字、教えてやるよ。 ……べつにいい。 大方、自分の名前も書けないんだろ。 …。 あたしはあんたの名前、知らないけど。 とりあえず、身近なもんから教えてやる。 ……か。 は? ……なんでもない。 またそれかよ。 これ、ながめてる。 …そうかい。 アカ。 …なんだよ。 ……いって、らっしゃい。 …。 …なに。 なんでもねぇよ。 …ひとのこと、いえない。 …。 …。 …行ってくる、アオ。 うん…。 BGM... “蟲音” 増田俊郎 |