花、花、どんな花
こぼれるように咲き誇る
父上。
やぁ。
持って参りました。
有難う。
…ん、それは?
そんな格好では風邪をひいてしまいます。
今宵はそこまで冷えてはいないけど…。
いいえ、いけません。
お躰は大事にしないと。
大切な戦いが控えているのですから。
ああ、然うだね。
有難う。
……。
どうしたんだい?
隣においで。
は、はい。
それとも小さき頃のように、膝の上に座るかい?
…ッ!
お父さん…!
はは。
…私はもう、豎子ではないのですから。
君は今でも、僕の大事な宝物だよ。
……。
お父さん。
以前は僕の事、然う呼んでいたね。
…はい。
僕はね、今でも君に初めて然う呼ばれた日の事を覚えているんだよ。
…。
嬉しかった。
とても、嬉しかったんだ。
この子の為なら、何でも出来ると強く思った。
…。
…あの日の思いは今でも、変わらない。
僕の中でずっと、生き続けている。
…お父さん。
君は…あの頃より、大きくなった。
けれどね…。
…。
…君は、僕の大切な娘だよ。
うん…うん…。
僕は、君を守る為に戦いに往く。
…。
そして、全てが終わって帰ってきたら。
どうかおかえりなさいと言って、僕を、僕達を迎えて欲しい。
もちろん、です…。
……。
…どうか。
どうか、無事に帰ってきてください…。
…。
どうか、生きて…帰ってきて、お父さん。
ああ…約束するよ。
やぶったら…。
これまでに僕が君との約束を破った事があるかい?
…あるから、言ってるの。
躰、そんなに強くないのにいつも無理をして…。
……。
けど此度の約束だけは…此度、だけは。
ああ…必ず、生きて帰ってこよう。
……。
終わったら、次の正月は皆でゆっくりと過ごそう。
いや、ゆっくりは無理かも知れないけど…そうだ、また餅をつこう。
下の子らが喜ぶように。
…初めてだからきっと、喜ぶわ。
君もだろう?
私は…
皆で食べる正月の餅は、とても、美味しい。
君にも知って貰いたい。
……。
……。
…お父さん。
お父さん…。
…今宵は月がとても綺麗だ。
…。
マミ。
…はい。
僕達が留守の間、家を。
子供達を頼んだよ。
はい、父…当主様。
当主様、ご出陣…!!!
…マミさま。
ああ、イツ花。
……また、ですか?
ええ。
今頃、当主様達が戦っていると思うと落ち着かなくて…。
…。
私には祈る事しか、出来ないから。
……。
子供達は未だ寝ている?
…はい。
然う。
でもそろそろ、ね。
……。
…。
…あの、マミさま。
大江山。
…。
其処で、当主様達は戦っている。
…。
そうそう、イツ花。
そろそろ、お正月の支度をしないといけないわね。
…お正月。
ええ。
お酒はどれくらい必要かしら。
皆、屹度沢山飲むわ。
……。
皆で過ごすお正月。
楽しみだわ。
…。
…全てが終わって。
呪いも、解けて。
普通の人間として、生きられるようになったら。
……。
もう、戦わないで良くなる。
そうしたらね、イツ花。
…。
私…
当主様達は全滅なされました。
…え。
大江山にて討死されたそうです。
…何を言っているの、イツ花。
天界の神さまより、お知らせが参りました。
……。
…マミさま。
酷と承知で申し上げます。
…うそ、よ。
当主様達は…当主様はもう、戻ってこられません。
嘘よ…!!
…。
ねぇ、嘘なんでしょ?!
そんな嘘を吐くなんて性質が
嘘では、御座いません。
…!
マミさま。
……うそよ。
だって、帰ってくるって…生きて、帰ってくるって…。
今日より年長者である貴女様が、此の家の当主様です。
約束、したのよ…ねぇ。
…それが、此の家の。
万が一の時の為にと、当主様が定めた慣わしです。
………。
…お辛いでしょうが。
どうか、これを…。
……こんな、もの。
貴女様の…お父上様のものだったものです。
これよりは、貴女様のものになります。
どうして、こんなものだけが…!!
…。
どうしてよ…ねぇ、どうしてよ…イツ花…。
…あの鬼の力はあまりにも強大です。
でも、お父さんは…!
……。
お父さんの、弓は…術は……。
……。
…だれ、よりも。
……マミさま。
どうか、家を…いいえ、子供達を、皆様が遺していかれたものを…どうか。
……あ、ぁ。
その身に背負うには、あまりにも…。
あぁぁ…。
…ですが、マミさま。
…ぁぁ。
……申し訳ありません、マミさま。
あああああああああぁぁぁぁああああぁぁぁぁあああああああああああぁ……!!!!!!!!!!
花 花 どんな花
心やさしく
父さん!
…うん?
これ、焼き立てだって。
皆の分も買えたかな?
もちろん。
そうか。
…でも。
うん?
……。
どうしたんだい?
う、ううん、なんでもない。
え、と、あいつの分はどうするかなぁ。
あいつ?
あいつ、なんか可愛くないんだよね。
赤ん坊の頃なんてあたしがだっこしてやると、いっつも、泣いてたしさ。
でも、いつもお前の後を付いて回っていた。
今も、なんだかんだで一緒にいる事が多い。
多くないよ!
あの子は屹度、お前が気になるんだろうね。
はぁ?
遊んで欲しいのだろう。
…そのわりには、可愛くないんだけど。
いつだったか。
木に登って遠くを見ているお前を、あの子は下から羨ましそうに見ていたよ。
え、いつ?
ふむ…いつだったかな。
……あ、だからか。
ん?
あいつ、一人で木に登って降りられらなくなったことがあっんだ。
だから、助けてやろうとしたのに、いらないとか言いやがってさ。
半べそ、かいてたくせに、ほんっとに可愛くない。
そんな事があったのか。
うん、父さんたちが討伐に行ってる時に。
それでも、助けてやったのだろう?
…。
お前が泣いてる子を放っておける筈など、無いものな。
…その後、いらなかったいらなかったって、さんざ、泣き喚かれたよ。
ほんっとなんなんだよ、あいつ。ちびのくせしてさぁ。
けれど、放っておけない。
…。
そのお団子を屹度、嬉しそうに食べるだろう。
だからちゃんと、あの子にもあげないといけないよ。
…分かってる、けど。
でも、嬉しそうにするかな…。
お前も…あの子も、素直ではないだけだ。
あたしは…
杏子。
…うー。
…。
…あたしのこと、ばかって言うんだ。
いつも。
言葉は、心の、裏返し。
…。
本当に嫌いならば、お前の後を付いては行かないよ。
…ふぅん。
さぁ、家に帰ろう。
温かいうちに、皆で食べよう。
うん。
…。
ねぇ、父さん。
なんだい?
あんこのも、みたらしのも、やっぱりなかった。
…そうか。
ねぇ、父さん。
あんこの、いつになったら食べられるのかな。
そうだなぁ…私達がもう少し、頑張って。
都の人が頑張ろうって、思えるようになったら。
そうしたら、必ず。
…。
杏子?
…父さんたちは、がんばってるよ。
いっぱいがんばってるのに…なのに。
……。
…都のみんな、は。
みんな、冷たい目であたしたちを…。
人は希望を持たなければ、生きてはいけない。
だけど都の人々は未だ、希望を抱けない。
…。
一縷でも良い、ほんの僅かでも希望を抱けたら。
都は必ず、変わる。人は、立ち直る。
前を向いて、歩いてゆける。
…。
人は弱い。
けれども、人は強い。
だからこそ、信じなければいけない。
……。
私達が都の皆を信じなければ、都の皆も私達を信じてはくれない。
だから、杏子。
…。
希望を捨ててはいけない。
希望を疑ってはいけないよ。
……う
だ、だれかぁぁぁ…ッ!!!
…ッ。
……。
と、父さん…!
……こんな、まさか。
いや、しかし…。
父さん、どうしたの…?!
…杏子。
は、はい…!
家の者を呼んできてくれ。
私一人では手に負えないかも知れない。
あたしが戦うよ!
あたしだってもう、戦えるんだ!
お前の足なら、さほど時間は掛からない。
父さ…
早く行くんだ、杏子!
でも
た、すけて……。
…あ、あ。
都の中だと言うのに…いや、荒れ果てた今のこの地では。
と、父さん、早くしないと…!!
……。
あ、父さん、なんで…ッ!
…杏子、家の者を呼びに行かぬのなら。
そこから動くな。
動いては、ならぬ。
結界を解いて、父さん…!
父さん…!!
……。
父さぁぁぁぁぁぁぁぁぁん……ッ!!!!!
……。
…杏子さま。
これ。
…これは。
見て分かんないの。
猪だよ、猪。
わ、分かりますけど…これ、杏子さまが?
そうだよ。
ま、またそんな無茶を
こんなの、簡単だよ。
こいつらは向かってくるしか能が無いんだ。
だからって
金があろうが無かろうが、腹は減るんだよ。
う…。
常備してた食い物は尽きた。だけど、金もない。
元より、金があったって、あいつらは餓鬼になんぞ売ってくれない。
……。
今の当主は使い物にならない。
そもそもこの面子じゃ、討伐にも行けない。
だけど、腹は減る。
…。
腹が減ったら、尚更、戦えない。
戦えないあたしらに、価値なんて無い。
黙って、くたばるしか無いのさ。
そんなの、あたしは御免だね。
…。
大体、いつまで篭ってんだか。
泣いて、嘆いて、自分を責めて、死人が戻ってくんなら。
皆、万々歳だよ。
杏子さま、
なぁに?
本当の事でしょ。
……ですが。
目の前でさ、自分の親が鬼に頭から喰われるの、見たことある?
無いよねぇ?
…ッ!
骨ごとばりばり、喰われるんだよ。
挙句、不味いもん喰っちまったって、吐き出されてさ。
知ってるかい、イツ花。
…。
喰うなら、生娘。
男は相当、不味いんだってさぁ。
…杏子さま。
で。
そこまでして助けてやっても、人は、うちのもんには感謝なんかしないのさ。
……。
…あいつらなんか、くたばっちまえばいいんだ。
いけません、杏子さま。
そのような事を仰っては
で?
泣いて、喚いて、嘆いて、死ぬほど後悔して?
何に為るの?何にも為らないよね?
…ですが。
それ、鍋にでもしてよ。
今日は猪鍋だ。
…。
そうそう。
他の奴等にはくれてやらないから。
特にあいつには。
…一人でお食べになるおつもりですか。
ま、どうしてもって言うのなら、話は別だけど。
…分かりました。
今夜は鍋に致しましょう。
応。
…。
イツ花は?
食うかい?
…頂きます。
そうこなくっちゃな。
良いよ、くれてやるよ。
…ありがとうございます、杏子さま。
さて。
また、どこかに?
魚、獲ってくる。
干しておけば、日持ちするだろ。
…。
何だよ。
…いいえ。
頼りにしてますね、杏子さま。
は、止めろよ。
全部、自分の為だ。
…それでも。
今、この家には杏子さましかおりませんから。
花、花、どんな花
あなたらしく 咲き誇って
…ういじん、ですか?
ええ。
…でも、わたし。
この家の子として生まれた以上、戦いに身を投じるが必然。
それは分かっているでしょう?
…はい。
……。
…おかあさん。
本音を、言えば。
…。
私も嫌だった。
逃げ出してしまいたかった。
だって。
…。
殺すのも、殺されるのも…とても、怖い事だわ。
それは今でも、消える事が無い。
ここだけの話ね、今でも手が震えるのよ。
…おかあさんが。
うん。
私、そんなに強くないから。
…。
唯一、言うとすれば。
私は独りでは無いから。
…。
例えば初陣の時、お母さんが一緒だった。
貴女から言えば、おばあちゃんね。
…。
いつもとても優しいお母さんだったけど。
戦いの時はその背中がとても心強かった。
とてもとても、強くて格好良く見えた。
けどね、お母さんは言ったわ。
独りじゃないから、私は戦えるのって。
……。
独りじゃ、戦えない。
屹度、誰もね。
…はい。
貴女は独りじゃない。
私達上の世代が一線を退いても、貴女にはマミや杏子がいるわ。
それから、貴女の後に続く子達も、貴女と一緒に戦ってくれる。
…。
…ほむら。
…。
怖いわよね。
嫌よね。
貴女は、心優しい子だから。
…ちがい、ます。
ん…?
…わたしは、おくびょうものです。
こころよわきもの、です…。
……。
…だから、からだだって。
ほむら。
よわく、て。
ちょっとうごいただけで、ねつが、でて。
…。
…でも、そのせいで。
たたかわなくていいかもって…おもってしまう、じぶんがいて。
そんなわけ、ないのに…。
……。
…ぶけのこ、なのに。
たたかえないわたしにかちなんて、ないのに…。
価値が無いなんて、己で決め付けてしまったら勿体無いわ。
…え。
貴女の存在が、誰かを強くする。
貴女が生まれてきてくれたから、私は少しだけ強くなれた。
おかあ、さん…。
母は強しって、言うけれど。
それは強さを貰うから。
…。
貴女がこの家に来た時、私の指を掴んだのよ。
そう、とても強く。
…そう、なの?
思いの外、強かっただけって事なのだけど。
けれど、この強さがこの子の命の証なんだって。
……。
ねぇ、ほむら。
…はい。
貴女は強くないかも知れない。
それはそれで、良いの。
だって皆、そうなのだから。
…。
だから、誰かと一緒に生きるの。
誰かと一緒に、戦うの。
……。
それにね、守る者が出来た時の人って、結構、凄いのよ。
鬼なんかに、負けないんだから。
…わたしにも、できるかな。
ええ、出来るわ。必ず。
だからね、ほむら…。
ほむらさまが…!!!
…はぁ…はぁ。
なんて酷い熱…。
…おかあ、さん…。
今までで一番、酷い…。
……おかあ…さん…。
イツ花、薬を…!
はい…!
はぁ……はぁ…。
…ほむら。
おかあ、さん……。
…大丈夫よ、ほむら。
お母さんが必ず、なんとかしてあげるわ。
……。
お持ち致しました…!
有難う。
さぁ、ほむら。
…。
…これを飲んで暫く眠れば屹度、大丈夫。
…はぁ…、はぁ……。
お母さんがずっと、傍に居るわ。
ずっと、ずっと、傍に居るから…。
…う。
……。
……ッ。
あ。
……っ、……ッ!
ほむら…!
……。
イツ花…!
はい、ここに…!
ほむら、もう一度。
もう一度、これを…。
……。
…?
ほむら…?
ほむらさま、ほむらさま…!
……。
ほむらぁ…ッ!!!
ほむらさま、気を確かに持ってください…!
ほむらさま…!!
……。
……イツ、花。
……。
私、決めたわ。
…。
…だって私、この子のお母さんだもの。
私より先に逝ってしまうなんて、見てられないもの…。
…。
…当主様に、話してくるね。
もう、決めてしまわれたのですね…。
…うん。
……イツ花は。
イツ花は…。
…そんな顔、しないで?
……申し訳、ありません。
貴女が謝る事では無いわ。
ほむらは生来、躰がとても弱かった。
だから。
……。
…本当なら、このまま逝かせてあげる方が楽なのかも知れない。
でも……。
…。
…イツ花。
どうか、お願いね…。
…はい。
……ほむら。
…。
これから貴女は…戦いの日々に身を投じていく事になるでしょう。
けれど、独りじゃないから。
…。
どう、生きても構わない。
けれど、どうか。
…。
どうか、貴女らしく生きて。
…。
さようなら、私の愛し子。
二度と逢えないけれど、私はいつだって。
……。
…あ。
……いつ、か。
ほむらさま…!
わた、し…。
良かった…良かった…。
……みん、な。
…おかあ、さん?
あ…。
ねぇ……おかあさん、おかあさんは?
……。
ねぇ…。
……。
……あ。
…。
おかあさん…。
……。
…?
おかあさん…?
……を、執り行いました。
いつか…?
…反魂の儀を、執り行いました。
え…。
…さまは、ほむらさま、貴女さまに命を
うそよ…。
…。
うそよ、ねぇ、うそでしょう…?
…嘘では、御座いません。
…さまは、そのお命を、ほむらさまに…。
……あ、ぁ。
だから…。
あ、ぁあぁ…。
……どうか、貴女らしく。
……ッ!
…生きて、と。
あぁぁぁぁぁぁあぁぁぁ…………。
ほむら。
…。
相変わらずだな、あんたは。
何考えるか、分からない。
…なに。
飯の支度、手伝え。
…分かったわ。
杏子は?
魚、取ってくる。
…干すのね。
ああ、そうだ。
考える事は分からないが、物分かりはいいな。
…。
ちびどもは?
…眠っているわ。
ふん。
…当主様は?
未だ、だよ。
全く、使い物にならねぇ。
…。
だらしねぇ。
こんな家で生きてるくせに。
…杏子も喪っているのでしょう。
だから?
それでべぇべぇ泣いてて、何になる。
それにあんたもだろ。
…。
あたし達は生きてるんだ。
生きるには、飯を食わなきゃならないんだよ。
泣いてて、腹が膨れるか。
…然うね。
貴女の言うとおりよ。
だろ。
…ところで。
ああ?
今日は何を。
猪。
…。
今夜は鍋だ。
…残った肉は干し肉にしましょう。
そうしてくれ。
言っとくけど、無駄にするなよ。
殺すぞ。
…分かってるわ。
ほむら。
…何かしら。
…。
…杏子?
いや、なんでもねぇ。
あの子なら、眠っているわよ。
さっき、聞いたよ。
それにそんなの、聞いてねぇ。
気になっているようだから。
気になってなんかねぇよ。
誰が、あんなちびなんぞ。
…ふ。
つか、ほむら。
あんたもそろそろ討伐に連れて行くからな。
初陣だ。
…当主様は?
首に縄を括っても連れて行く。
それで死んでしまったら元も子もないけれど。
は。
そんなくだらねぇ死に方しやがったら、思い切りぶん殴ってやるよ。
…。
…兎に角。
このままじゃ、駄目なんだよ。
…呪いを解く為に。
そんなんじゃない。
呪いなんか、二の次だ。
…。
あたしはくだらねぇくたばり方をするのは御免なんだ。
…ふ。
何が可笑しい。
いいえ、別に。
…ふん。
お腹を減らして、目を覚ますでしょう。
あん?
…。
ちびどもが。
悠長に寝てやがって。
…言葉の割には、だけど。
うるせぇな。
あんたこそ、思い入れがありすぎなんだよ。
もうかたっぽのちびにも少しは分けてやれ。
あら、それは貴女の役目じゃないのかしら。
はぁ?
懐かれているようだから。
どこがだよ。
ばか、あほ、おたんちん、とんま、ぼけ、言いたい放題だぞ。
ほら。
何がほらだよ。
そのままの意味よ。
意味分からねぇ。
…。
あーもう、いい。
行ってくる。
ええ、行ってらっしゃい。
花 花 どんな花
生命 燃やして
…ここから、だ。
……。
あのひと、かな…。
……。
…わぁ、すごいすごい。
……。
すごい、きれいなおと……。
……。
もうすこし、そばにいって…だいじょうぶ、だよね。
……。
…そっと。
そっと…。
……。
…。
…迷い子かい?
あ。
あ、君は…。
あ、あの、えと、あたし…。
…蒼い髪、蒼い目。
ああ、君はあの家の子だね。
そうだろう?
え、えと、あたし、その、ふえのおとがきれいだったから、だから、その…。
僕の笛の音?
う、うん。
そうか。
あ、あの、
もう少しだけなら。
え…え?
今なら、僕一人だけだから。
い、いいの?
うん。
でも、姿は見せない方がいいかな。
君の髪の色はとても目立つから、すぐに見つかってしまう。
あ、う、うん…。
……。
…。
……。
…やっぱり、きれ
おい、ぼんくら。
…あ。
あたし、言ったよな。
一人でうろうろすんなって。
……。
言うコト聞くって言うから、わざわざ、連れてきてやったんだ。
…だって。
だってじゃねぇ!
一人でうろつく事がどんだけ危険か、話して聞かせてやっただろうが!!
どんだけバカなんだ、てめぇは!
…う。
…?
どうしたの?
……。
面倒な事になる前に、帰るぞ。
…やだ。
は?
やだ!
もうすこしここできいてたいの!
聞くだけなら外でも出来るだろうが!
それをわざわざ屋敷の中になんぞ入ってきやがって!
だって
だってじゃねぇ…!!!
あたしら家のもんがここでどんな風に思われてんのか、分からねぇのか!!
……。
兎に角、帰るぞ。
ここには二度と
君は…いや、君もあの家の子だね。
…ち。
君は…赤い髪、そして額の翠の石。
…。
そうか、話は本当だったんだ。
呪われた一族と言う、話は。
……のろわれ、た。
ねぇ、その額の石は呪われた証なのだろう?
きれいな色をしているね。とても呪われているようには見えないよ。
…帰るぞ、ぼんくら。
……。
待って。
もう少しだけなら
これ以上、見世物になるつもりはねぇ。
見世物だなんて。
僕は
てめぇ、言ったよな。
ああ、そうだよ。うちは呪われてんだよ。
この額の石はその証さ。
あ…。
…こっちはさぁ、いやって程味わってるんだよねぇ。
そうさ、てめぇらのせいでさぁ。
な、なにを…。
糞の役にも立たねぇくせに、くだらねぇ見得ばっかり張ってやがって。
んなもん吹いてる余裕があんなら…手ぇ土で汚せ!
血で穢せ!!
う、あ…。
…とにかく、近付くな。
うちにも、うちのもんにも、一切。
興味本位で近付きやがったら…その時は殺す。
お、おに……。
…!
ああ、そうだよ。
その通りさ。
……。
…行くぞ、ぼんくら。
…でも。
でもじゃねぇ。
…分かっただろ。
あたし達は…所詮、穢れた鬼子なんだ。
あいつらはそう、教えられてるんだよ。
……。
ま、待って。
…。
…。
良かったら、また聞きに…。
…!
二度と、来ない。
二度と、来させない。
ぶん殴ってでも、止める。
きょう
さやか…!
……。
二度は言わない。
うちに近付くな、関わるな。
殺すぞ。
おい、ぼんくら。
早く歩け。あたしはさっさと帰りたいんだ。
…の、ばか。
あぁ?
きょうこのばか!
おたんちん!
なんだと。
…なんで、あんないいかたするのよ。
なんで
あたし達は、あいつらとは違う。
どこがちがうの?!
かみのいろ!?
みぶん?
それとも
全部だッ!
…ッ。
…あたし達は、違うんだ。
あいつらとは、何もかもが。
……わからない。
…。
わからないよ!
きょうこのとんま!!
じゃあ、分からせてやろうか。
…ぁ。
口で言って分からねぇ莫迦には、躰で分からせねぇとな。
な、なによ、やってみなさいよ…。
木から吊るして、飯抜き。
…え。
これで一人分、浮いた。
あたしが食ってやるから、あんたは安心して吊らさがってろ。
そ、そんなの
マミにもイツ花にも餌はやらねぇように言っとくからな。
己の仕出かした事を思う存分、味わえ。
…!!
……。
…あたしはわるいこと、してない。
してないのに…!
…。
あたしはただ、ふえのねがききたかっただけなの…!
それだけなの…!
いいか、さやか。
…してない…してない…してない…。
あいつらにとってあたし達は…ただ鬼を狩るだけの道具なんだ。
呪われた、さ。
……。
…ほら、帰るぞ。
腹が減ったんだ。
……。
ほら、手。
また勝手にどっかに行かれたら面倒だからな。
…きょうこの、ばか。
うるせぇ。
親がいねぇからって勝手に親代わりにされたあたしの身にもなりやがれ、ばか。
……。
…。
……。
…やぁ。
…。
久しぶりだね。一ヶ月ぶり、かな。
また、来てくれたんだね。
……。
…?
どうしたんだい?
今なら僕は一人だから
……。
…え。
……。
君は…だれ?
…ッ!
蒼い髪…君は確かにあの家の子なのだろうけど。
でも僕が知ってるのはもっと…
……。
…ああ、そうか。
それが君達一族にかけられた
呪い、だよ。
小僧。
あ。
……。
…行くぞ、さやか。
待ってくれ。
せっかく、来てくれたのだから…
…分からなかった。
え…。
あたしが、だれか。
そ、それは…。
……どうして、なの。
それが、あたし達だからだ。
……。
呪われた一族の子、だからだ。
……そっか。
そういうこと、か…。
…。
…あたしたちは、普通じゃないんだ。
……だけど、これがあたし達の普通なんだよ。
あ、あの…。
…杏子、帰ろ。
おう。
待っ…
……でも、さいごに。
…え。
おい、さやか。
……。
ひ……。
…。
止めろ、さやか!
……。
…や、やめろ、来るな。
…。
僕に、触るな…。
…。
く、来るな…お、おに…。
…!
てめぇ…!
さ、さわるな、けがれる…。
…あたし、こわい?きたない?
そうだよね、あたし、呪われてるもんね…鬼子、だもんね…。
……、…。
…あーあ。
やっぱりあたし、人の子じゃないんだ。
なかったんだ…。
さやか。
…行こう、杏子。
もう、ここにも来ない…もう、二度と。
……ああ。
あ、あぁぁぁ………。
……。
…。
……あーぁ。
起きたか、ぼんくら。
…ぼんくらじゃない。
飯だ。
さっさと来い。
……。
もう一人のちびならとっくに起きて、ほむらが連れてった。
…起こしてくれればよかったのに。
それから、あたしはちびじゃない。
あんたが気持ち良さそうにぐぅすか寝てるからだ。
…。
あんたが来ねぇと飯、食えないんだよ。
たく、面倒な家訓作りやがって。
…。
おい、さやか。
聞いてるのか。
…きいてるわよ、ばか杏子。
…。
…あんたのせい、で。
いやなこと、思いだしちゃったじゃない。
はぁ?
ぜんぶ、あんたのせい。
そんなの、知るか。
あんたのせいっていったら、あんたのせいなの!
…。
……。
ほら、さっさとしろよ。
うすのろ。
うすのろじゃない。
じゃあ、さっさと起きろ。
……。
今夜の飯は猪鍋だ。
…とってきたの?
獲ってこなきゃ、食えねぇだろ。
……いい、いらない。
は?
…たべたくない。
……。
…だからもうちょっと、え。
…。
ちょ、ちょっと…ッ。
あーあー、ほんっと、がたがたうるせぇちびだな。
おろして、おろせ…!
言っただろ、あんたが来ないと飯が食えねぇって。
それとも何か、あんた、うちの家訓知らねぇってわけじゃないよな。
あ、あたしは…そう、からだが
どこがだよ。
さんざ、抵抗してるくせに。
……。
…あんたもこの家に来て、二ヶ月になろうとしている。
…。
当主は…あの有様だ。
……。
…食えよ。
食わないと、力は出ない。
何事においても、だ。
……杏子。
あんまり手ぇ焼かせるな、ひよっこ。
…!
ひよっこじゃない…!
どうだかな。
術の印もまだ、満足に結べないちびのくせに。
そんなことない…!
あたしだって…!
初歩の術なら、誰でも出来るよ。
ばか。
…うーーッ。
食ったら、しょうがねぇから稽古してやる。
覚悟しとけ。
同じ花は咲かなくても
いつか願った実を結ばんと
……ま。
……。
…様。
ん…。
お休みのところ、申し訳ありません。
…ううん。
どうしたの…?
夕餉が出来ましたので…皆様、もうお待ちになっておりますよ。
え、もうそんな頃?
わ、日が暮れてる。
はい。
ああ…。
…何をなさっていたのですか?
うん、家系図を見ていたの。
家系図…近々、交神でもなさるのですか?
ううん、そういうわけじゃないんだけど。
ちょっと見たくなって。
…そうですか。
そちらは…幻灯ですか?
うん。
……。
幻灯の中にいるお母さんは…ちょっと、厳しそうだなって。
…お心がとてもお強い方でございました。
それから、いつも背筋がぴんっと真っ直ぐに伸びていて。
イツ花は惚れ惚れとしたものです。
うん…。
…さやかさまのお父上様はちょっと風変わりなところがありました。
ですが、歌が好きな方で、いつもイツ花に詠んで下さいました。
……。
ほむらさまのお母さまは…とても、お優しい方でございました。
庭の花が咲いているのを見つけては愛で、かと言って摘む事はせずに、ありのままの姿を大事にしていました。
……。
杏子さまのお父さまは…人を信じて止まぬ方でございました。
人に尽くし、人を想い、人を敬い…ご自分の信念を最期まで曲げずに。
……。
マミさまのお父さまは…生来、お体があまり強くはありませんでした。
けれど、とても聡明で真摯で…家の誰もが、あの方を信頼しておりました。
…ねぇ、イツ花?
はい。
わたしのお母さんも、さやかちゃんのお父さんも。
マミさんのお父さんも、杏子ちゃんのお父さんも…そして、ほむらちゃんのお母さんも。
……。
ここで、生きていたんだね。
ここで、家族と。
…はい。
あ。
はい?
もちろん、イツ花も。
ふふ…ありがとうございます。
……。
…皆様はこの家に咲いた希望の花でございます。
え?
と、さやかさまのお父上さまが。
……。
さやかさまは覚えてはいないでしょうけど…満面の笑顔で抱き上げてはそう歌っておりました。
出立する朝も。
…そう、なんだ。
貴女様のお母さまは。
…。
あたしに似て屹度、美人な子だよ。ほんと、楽しみだ。
そう、仰って。
…わたし、お母さんに似てるかな。
美人じゃ、ないけど…。
面差しが良く、似ていますよ。
…だったら、いいな。
……。
みんな、待ってるんだよね。
呼びに来てくれて、ありがとう。
いいえ。
……。
…。
…どんな気持ちだったんだろう。
……。
大江山で戦って…大江山、で。
……。
杏子ちゃんのお父さんは…都の人を、守ろうとして。
でも、杏子ちゃんの目の前で…。
……。
ほむらちゃんのお母さんは…ほむらちゃんの為に。
…イツ花には推し量る事は出来ません。
ですが…。
……。
…さやかさまのお父さまの歌をお借りすれば。
皆様はこの家の希望の花、けれど、未だ小さき花を残して逝くのとても辛い事でしょう。
されども、皆様がいるからこそ、希望の実は残されているのです。
…希望の実。
花は咲き、いずれ、散ります。
ですが、実をつけ、種を遺す。
そうして再び芽吹き、蕾をつけ、次の花が咲くのです。
……。
この家にはまだ、花が咲いています。
だから…。
…イツ花。
はい。
大江山、登ろうと思う。
……。
わたしたち…ううん、わたしはまだ、弱い。
お母さんたちのようには、まだ戦えない。
でも…それでも、わたしは前へ歩いていきたい。
…ああ。
…?
イツ花…?
その眼差し、お母さまにそっくりです。
やっぱり、まどかさまはあの方の忘れ形見なのですね。
……。
間違っても良い。
若いうちに何度でも躓いて、転んで、その度、立ち上がれば良い。
それが若いって事なんだ。
…。
…だけど。
命は一つ、たった一つだけ。
勝てそうにないならさっさと逃げろ、どんなにみっともなくても、逃げろ。
生きてりゃ、なんとでもなるんだ。何度でも、何度だってやり直せる。
然う、死なない限り、希望は其処に残される。絶望なんて、恐かないんだ。
良いかい?それを決して、忘れるんじゃないよ。
…それもお母さんが?
はい…。
…うん、分かった。
ありがとう、イツ花。
お母さんと話してるみたいだった。
…さぁ、まどかさま。
いえ…当主様。
うん。
行こう、イツ花。
はい。
きっと、待ちくたびれちゃってるね。
特に
杏子さま、ですか?
ふふ、うん。
あと、それから…。
“花” 樹原涼子
“WILL” 樹原孝之助
俺の屍を越えてゆけ
おっせーぞ、まどか。
おっそーい、まどか。
…まどか、遅かったようだけどどうかしたの?
何にせよ、早くしてくれ。
腹が減った。
杏子はそればっかり。
本当、食い意地張ってるんだから。
まどか、疲れているのでは無い?
ここのところずっと、夜が遅いようだから。
あまり眠れていないのでは無いの?
うっせーぞ、ぼんくらさやか。
お前だってさっきまで背と腹がくっつくー!って騒いでたくせに。
ぼんくらって言うな、ばか杏子!
まどか、あまり根を詰めないで。
何かあるのなら…その、私に言ってくれれば…
ぼんくら、ぼんくらー!
あーもう、餓鬼かあんたはー!
まど
はいはい、皆そこまで。
これで皆、揃ったのだから。
ね、まどか。
はい、マミさん。
えと、待たせちゃってごめんね。
ほんとだよー。
まどか、ちゃっちゃとお願い。
じゃないとこのばかがうるさいから。
まどか。
ほむらちゃん、心配してくれてありがとう。
でも大丈夫だよ。
それではお願いね、当主様?
うん。
それじゃあ…
いただきます。(!!)
花 〜 W I L L 〜
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