ねぇ、あんたの誕生日っていつ?
…は?
誕生日よ、誕生日。
あんたにだってそれくらい、あるでしょ。
無かったら、この世にはいねーだろ。
そうよ。
だから、いつ?
と言うか、いきなりなんだよ。
別にいいでしょ。
黙って教えなさいよ。
黙ったら、口利けないじゃん。
…。
…。
…いいから、教えてよ。
忘れた。
…は?
誕生日なんぞ、とっくの昔に忘れたよ。
…なによ、それ。
覚えておく必要なんか無いだろ。
生まれた日なんて。
…。
ゾンビに、誕生日なんて関係
杏子…!
…うるせぇな。
近くで怒鳴んじゃねーよ。
……。
…おい、さやか。
……。
さやか…おい。
……。
…なんで泣いてんだよ。
あんたが泣く必要なんて、無いだろうが。
…教えてよ、杏子。
……。
あんたはいつ、生まれたの…。
…知って、どうするんだ。
…。
来年なんか、無いかも知れないのに。
…来年が、無いとしても。
……。
もしかしたら、今年があるかも知れない。
…。
…もう、過ぎたの?
それとも…。
……。
杏子…お願い、だから。
…あんたらしくないな。
…。
お願い、だなんて。
さやからしくない。
……。
…誕生日は、良い思い出しか無かったんだよ。
…。
家族に祝ってもらった、思い出しか。
どんなに貧しくたって、皆、あたしを祝ってくれた。
おめでとうって、生まれてきてくれて、大きくなってくれてありがとうって。
…。
…ケーキもご馳走も、その日食べるごはんすら、ままならなかった。
けど、それでも、あたしは幸せだった。
……。
…でも。
でももう、そんな思い出は出来ないんだよ。
……。
…あたしは、魔女だから。
皆を殺してしまったから。
…。
だから、誕生日なんて要らない。
一人で過ごす誕生日なんて、もう、要らないんだよ。
…あたしは、死んでない。
…。
あたしは、あんたに殺されてない。
殺されなかった。
…そんなの、分からないだろ。
何しろ、あたしは魔女なんだ。
一緒に居ると、殺してしまうかも知れない。
若しも、そうなるなら。
…う。
あんたも、道連れにしてあげる。
…。
…あたしが、あんたを殺してあげる。
ああ…。
…だから。
あたしがあんたを殺したら、あんたはどうやってあたしを殺すんだよ。
…それは。
出来ないだろ。
…言ったでしょ。
…。
道連れにしてあげるって。
一人でなんか、逝ってあげない。
…馬鹿だな、あんた。
あんたにだけは、言われたくない。
…。
…あたしを、死なせて呉れなかった。
あんたなんかに、言われる筋合いは無いの。
……。
…ねぇ、杏子。
杏子の生まれた日、あたしに教えて。
……だったら、さやか。
…。
あんたの誕生日も、教えろよ。
…知って、どうするの。
その言葉、そのまま返してやる。
…祝って、あげるわよ。
は、笑わせてくれるな。
…おめでとうって。
生まれてきて
さやか。
…。
…あまり、あたしを笑わせるなよ。
…。
要らないんだよ、そんなの。
…あんたが、要らなくても。
要らないんだよ、もう!
…そんなの、知らないわよ!
んだと!
……。
さやか、あんたは
…ねぇ、杏子。
……。
…あたし達は明日、死んでしまうかも知れない。
……。
生きている、と思っている、今だって。
本当は死んでいるのと一緒で、所詮、あたし達はゾンビと変わりなくて。
…ああ、そうだよ。
だから…!
…。
…せめて、生まれてきた日ぐらい。
覚えて、おきたいのよ…。
……わけが、分からない。
…。
生まれてきた日、なんか…。
…おめでとう、杏子。
は…?
…生まれてきてくれて、今まで生きていてくれて。
ありがとう…。
……さやか。
ねぇ、杏子……?
……。
…ゾンビだって。
思い出を作ったって、良いじゃない…。
…。
…代わりなんて、なれない。
そんなの、分かってる…それでも、杏子。
さやか。
……。
…あんたはどうしようも無いくらい、馬鹿だな。
……あんたにだけは、言われたくない。
……。
……。
…あたしの誕生日は、未だだよ。
だから
…。
…だから、その言葉は取っておいてくれよ。
その日が来るまで。
…教えてくれなきゃ、分からないわよ。
さやかも教えてくれるんだろ…?
……。
…祝ってやるよ。
あたしが。
…あんたが?
なんだよ、不満かよ。
…ありがとう、杏子。
……。
…ね、杏子。
なんだい…さやか。
…それまで、生きていてね。
ああ…あんたもな。
C R E I D
あんたってさ、意外に髪の毛綺麗よね。
…あ?
肌も。
手入れなんて、してないだろうに。
……。
むかつく。
…何が言いたいんだ、あんた。
褒めてんのよ。
…。
…本当、むかつくわ。
喧嘩なら幾らでも買ってやるよ。
……でも、小さな傷が残ってる。
…。
傷治すの、苦手なんだ…。
…さやか。
……。
う…。
…これで、綺麗になった。
余計な事、するな。
…折角、治してあげたのに。
頼んでない。
…本当、綺麗。
さやか。
…あたしなんかより。
…。
…ずっと、綺麗。
……目、腐ってんじゃねーの。
ゾンビ、だし。
は、おもしれー。
…。
…離れろよ、鬱陶しい。
あたしは。
…。
まどかみたいに優しいわけじゃないし、可愛くもない。
…。
…仁美みたいに、綺麗で自分に自信を持っているお嬢様でも無い。
…。
あんたみたいに、
くだらねぇ。
……あんたには、分からないわよ。
ああ、分からないね。
分かりたくも無い。
…。
さやかは所詮、さやかにしかなれないんだよ。
他の誰かになんか、なれやしないのさ。
…いっそ、あんたが。
…。
男だったら、良かったのに。
…は。
…。
そしたら、魔法少女なんて糞のような存在にならなくて済んだのにな。
…それだけじゃない。
…。
…男だったら、良かったのに。
どこまで行っても、あたしは女だ。
魔女になる為に生まれてきたんだよ。
…。
…そして、何度だって家族を殺すんだ。
……。
あたしは、あたし以外の誰かになんて、なれない。
…ねぇ、杏子。
帰れよ。
…帰る?
あんたには待ってる人達が居る。
だから、帰れ。
…。
拾った命、今度こそ自分の為に使え。
人の為になんか、もう、使うな。
…帰る場所なんか、無いわ。
…。
もう、無いの。
…ふざけんなよ。
ふざけてなんか無い。
あんたには家が、家族が、在るだろ。
友達だって
あたしはもう、あの人達が知ってる美樹さやかじゃない!
…。
…もう、以前のようにはなれない。
戻れない。
…何言ってんだ。
あんたはどこまで行ったって美樹さやかだろうが!
…あんたには、分からない。
さや
あんたには、分からない!
…さやか、てめぇ。
もう、普通に笑えない。
もう、普通に話せない。
もう、普通に…。
……。
…家に居るのが、ずっと、苦しかった。
…。
…元々、まどかんちみたいに仲の良い家族じゃ無かったけどさ。
帰っても親、いつも居ないし。
……。
…だから、夜中に外をうろついていても何も言われなかった。
なんでだよ…なんでそんな事、言うんだよ。
…あたしは、あんたと同じだから。
…。
あたしも…魔女、なんだよ。
…違う。
違う…!
違わない!
違う!
あんたの親がいつ、あんたを魔女だなんて言った?!
…興味なんて、持ってないから。
あたしの事なんか。
…ッ!
……あの人達は。
でもだからって、いつあんたを憎んだ!?
いつ、憎悪に満ちた目であんたを見たんだ!!
…興味を持たれない事は。
あんたが思う以上に、きついものなのよ。
くだらねぇ我侭ばかり言ってんじゃねぇよ!
…ぅ。
帰れ。
早く、帰れ!
……。
…頼むから、帰ってくれ。
……い、や。
さやか…!
…だって、苦しいの。
独りは、苦しいの…。
…っ。
ねぇ、杏子…助けてよ。
さや、か…。
死なせて呉れなかった責任、取ってよ…。
……どうしてだよ。
どうして…。
…。
さやか。
…苦して、仕方が無いの。
…。
…あたしが人間じゃない事、改めて思い知らされるの。
……。
誰にも分かって貰えない…親にも、仁美にも、まどかにさえ。
…。
きょう、すけ…だって。
……。
そして、黒い黒い感情が湧いてくるの。
全部、壊して…無くしてしまいたくなるの。
然う、何度だって。
……。
だから、もう…あの場所は、あたしの帰る場所じゃない。
もう、帰れない。
……。
…でも、一人は淋しいの。
誰かに一緒に居て欲しいの…。
…。
…ねぇ、一緒に居て。
傍に居て。
…あたしは、独りだった。
…。
帰る場所を失って。
ずっと、独りでやってきた。
…。
…今更、誰かとなんて
じゃあ、どうして。
…。
…あたしを、生かしたの。
傍に居てくれたの。
…それ、は。
杏子。
……。
…二人で、二人だけで、生きよう?
……。
…あたしの帰る場所に、なって。
…。
あたしを…抱き締めて。
…さやか。
ねぇ…嘘でも良いから。
あたしの事、好きって言ってよ…必要だって、言ってよ。
…。
…あたしの事、愛してよ。
嘘で、良いのか。
……良いよ。
それで、あんたは本当に良いのか。
…嘘だって、何も無いよりかは良いから。
そうやって、あんたはあたしに嘘を吐き続けるのか。
…。
…嘘の感情で、自分を偽って。
それだって、苦しいだけじゃないか。
…淋しいのは、嘘じゃない。
…。
嘘じゃ、無いの…。
……。
きょうこ…きょうこ…きょ、う…こ…。
……。
……。
…さよなら、は。
…。
言わなくて、良いのか…。
…うん。
……。
…帰れなんて、言わないで。
だって、あたしの帰る場所は…
…勝手に決めやがって。
……。
…馬鹿野郎が。
杏子。
…。
きょーうこ。
…。
杏子、起きて。
…。
起きて、杏子。
…。
…起きろ、このボンクラ!
うるせーな、起きてるよ。
じゃあ、とっとと起きて。
ごはん、出来たよ。
…。
ほら、起きた起きた。
…ああ、ほんとうるせぇ。
あったかいうちに食べてよ。
折角、さやかちゃんが作ってあげたんだから。
…頼んでねーよ。
食べないの?
…。
食べ物、粗末にしたら殺すって言ったのは誰だっけ。
…食うよ。
うんうん。
じゃ、起きて。
…ああ。
んー…♪
…。
着替えて。
洗濯、してあげる。
…良いよ、別に。
だめ。
ほら。
な、なにすんだ。
脱がせてあげようかと思って。
止めろ、自分で脱ぐ。
なーんだ、残念。
……。
……。
…さやか、今日は何作ったんだ。
味噌汁とごはん。
…おかずは。
ベーコン、焼いてみましたー。
…焦げてないだろうな。
今日はばっちり。
あとね、ハネムーンサラダ。
…は?
レタスだけのサラダのこと。
そう言うんだって。
…そうかい。
ほら、早く脱いでよ。
と言うか、見てんなよ。
良いじゃない。
女同士なんだし。
……。
それともなぁに?
やっぱりさやかちゃんに脱がして欲しいとか?
んなわけ、あるか。
…たく、さやかが居るとめんどくせーな。
…。
…。
…ごめんね、面倒臭くて。
……。
……。
…シャツ、取ってくれ。
お願いします、は?
…お願いします。
うん、宜しい。
はい。
…あんがと。
どういたしまして。
……。
…杏子ってさ。
良い躰してるよね。
…。
なんて言うかな、筋肉って言うの?
すごく締まってる…。
…触るな。
良いじゃない、少しくらい…。
……。
…ずっと、独りで戦ってきたんだね。
ずっとじゃ、無いよ。
…え?
……。
…誰かと一緒だった事、あるの?
ああ。
…誰?
あんたも良く知ってるヤツだよ。
あたしが…。
…。
…まさか、マミさん?
……。
…あんたが、マミさんと。
昔の話だ。
時間にしたら、独りの方が長い。
…そう、なんだ。
……。
……。
…さやか。
飯にしようぜ。
…。
あったかいうちに食べようぜ。
そのなんだ、折角さやかが作って呉れたんだから。
…!
……。
杏子。
…なんだよ。
顔、ちゃんと洗ってからだからね?
…分かってるよ。
いただきます。
…。
……。
…杏子ってさ。
…。
結構、律儀だよね。
…何が。
いただきますって、ちゃんと言うから。
…。
…。
…律儀とか、そんなんじゃねーよ。
じゃあ、なんなの?
…日々の糧。
ヒビノカテ?
感謝と、祈りを。
…。
…食べるって事は、命を頂くって事なんだ。
そんなのも、知らないのか。
……。
……。
…なんだ。
あたしへの言葉じゃないんだ。
……。
……。
…作ってくれた人へ、感謝を。
…。
……。
…ね、おいしい?
食える。
…なにそれ。
……。
……。
…さやか。
…何よ。
若布、切れてない。
…え。
豆腐、潰れてる。
…う。
ベーコン、硬い。
…うぅ。
レタスは…まぁまぁ。
…洗っただけだし。
でも、食える。
…。
……。
…絶対、おいしいって言わせてやる。
……。
…?
あれ…。
…なんだ。
味噌汁……。
…。
…ダシ、入れ忘れたかも。
…。
ね、杏子。
これ、
…。
…杏子?
おかわり。
え。
ごはん。
あ、ああ。
うん。
…。
どれくらい?
一杯。
ん、分かった。
…。
…はい。
どうも。
おかず、足りる?
なんだったらあたしのベーコン、あげるけど。
さやかは良いのか?
杏子にあげる。
食う?
…。
言っとくけど、粗末にしてるんじゃないわよ?
…分かってるよ。
じゃあ、食べる?
…食う。
うん。
じゃあ、はい。
……。
ね、杏子…この味噌汁、美味しくないでしょ?
不味くもない。
…でも、お湯に味噌溶けてるだけだよ?
食えるから。
…。
…次、忘れなきゃ良いだろ。
……うん。
……。
…こんな事なら家庭科、真面目に受けておけば良かったな。
…。
ねぇ。
杏子は料理、出来る?
…。
あー、出来ないんだ。
…別に作らなくても食えたし。
そうかもしれないけど。
あんたの場合は栄養が極端に偏りすぎ。
…。
これからはさやかちゃんが栄養管理してあげます。
…数を増やすのが先じゃねーの。
何?
…なんでも。
うんうん。
よし、頑張ろう。
絶対、杏子に美味しいって言わせてみせるんだから。
…。
て、何笑ってんのよ。
ばかだなぁと思って。
なんだとぉ。
ばかさやか。
何よ、ばか杏子。
…。
…。
…さやか。
…何よ。
味噌汁、おかわり。
え。
…残ってるんだろ。
残ってるけど…。
…次、忘れなきゃ良いんだ。
……うん、忘れない。
……。
ね、杏子。
…ん?
杏子の誕生日までには、上手くなるから。
…。
数も、増やしとくから。
…だと、良いけどな。
そうなるの。
…そうかい。
『ごちそうさまでした。』
杏子、杏子が洗ってね。
…。
あたしが作ったんだから、当然でしょ?
…言われなくても、分かってるよ。
お、杏子もやっと分かってきたかぁ。
……。
ねぇねぇ、杏子。
…なんだい、さやか。
今日はどうする?
…どうするって?
どっか、連れて行って?
……。
学校行ってた時は、思わなかったけど。
行ってなきゃ行ってないで、暇なもんだね。
…ベンキョウでもすれば?
教科書なんか、持ってきてないもん。
…知ってるよ。
じゃあ、言わないで。
…。
ねぇねぇ、連れて行って。
行きたきゃ、一人で行けば良いだろ。
いや。
…つか、鬱陶しい。
離れろ。
ねぇ、杏子。
お出掛け、しよ?
昨日も連れて行った。
だから、昨日行ってないところ。
…あのな。
あたしだって暇じゃないんだよ。
えー?
…。
ねぇねぇ。
…少し、寝たいんだ。
眠いの?
でも食べてすぐ寝たら牛になっちゃうぞー?
牛でも豚でもなんでも良いよ。
ねぇ、杏子。
…昨日、あまり寝てないんだ。
……。
だか、ら…?
……。
…さやか。
……昨日、帰ってくるの遅かったもんね。
……。
心配、したんだよ…。
……。
…ねぇ、杏子。
……。
…淋しかった。
さやか…。
…淋しかったよ、杏子。
……。
……。
…あんたはまだ、戦えない。
連れて行ける状態でも無い。
一緒に居て。
…だから今、居るだろ。
……。
…狩りに行かないわけにはいかない。
普通の生活をしてたって、勝手に濁っていくんだ。
それはあんたも知ってるだろ。
…。
あたし一人なら…
……。
…分かった。
どこに行きたいんだ。
…まだ、行った事の無いところ。
あたしだって、全部を知ってるわけじゃない。
でもあたしよりずっと、風見野には詳しい。
…。
ね、二人で杏子も知らない場所に行こ?
…。
…ね。
たいやき。
…?
食いたい。
今日はクレープが良いな。
絶対、たいやき。
クレープ。
たいやきじゃなきゃ、行かねー。
じゃあ、あんこの入ったクレープ。
それで手を打って?
なんだよ、それ。
カスタードが良い?
たいやきとクレープじゃあ、
ね、今日はクレープにしよ?
うん、決まり。
…さやかは我侭だな。
だって、自分の為に生きろって言ったじゃん?
誰かが。
……。
はい、じゃあちゃっちゃと洗っちゃって。
それから、
少し、寝たい。
…。
…あんたもあまり、寝てないんだろ。
……。
……あたしが帰ってくるまで、眠れなかったんだろ。
……。
だから…
…一緒に寝ても良いの。
…いつも寝てるだろ。
いつもじゃない。
…。
…夜は一緒に居て欲しいの。
一緒に眠って欲しいの。
…。
分かってるの。
だって、あたしも魔法少女だから。
でも、でも…。
…。
…夜が、暗闇が、怖いの。
……。
…一人に、しないで。
…。
杏子…。
…一緒に眠ろう、さやか。
……。
出掛けるのは、それからだ。
…抱き締めてくれる?
……。
…抱き締めて、杏子。
…幾らでも抱き締めてやる。
だから。
…絶対、だからね。
…ああ、絶対な。
ん……。
…じゃあ、ちょっと離れてろ。
あんたがひっついてると、片付けられない。
……。
さやか。
…早く、ね?
……ああ。
…風見野に?
……。
…そう。
……。
それで、どうするつもりなの。
…別にどうもしない。
元々、あたしの縄張りはあっちだから。
…美樹さやかはもう、戦えないわ。
…。
足手纏いにしかならない。
それでも連れて行くのね。
…放っておいたら、あいつのソウルジェムは濁りきってしまう。
だから?
…。
仕方の無い事だわ。
戦えない魔法少女に生きている価値は無いのだから。
…てめぇ、それでも
私はもう、人間では無いわ。
貴女も、それから美樹さやかも。
……。
…貴女にとって美樹さやかは、荷物にしかならない。
それでも。
…放っておけないのね。
……悪いな。
何故?
ワルプルギスの夜。
…構わないわ。
私一人でも戦うだけだから。
…。
…そんなに、美樹さやかが大事?
……あんたもだろ。
…。
鹿目まどか。
あんたはあいつが
私は私の願いの為だけに戦っているの。
あの子は関係無いわ。
…あいつの話をした時だけだよ。
…。
あんたの顔色が変わるのは。
……。
…別に良いんだよ。
守りたいもの、たった一つだけの為に戦えば、戦えればそれで良いんだ。
……。
もう、マミは居ないけど…見滝原には未だ、あんたが居る。
だからあたしは…さやかを連れて、風見野に帰る。
……。
…じゃあな、ほむら。
生きてりゃまた、会えるだろ。
…会うつもりなんて、無いわ。
……そうかい。
…ぅ、ん。
……。
……。
(……今、何時だ。)
……。
…さやか。
……。
(…腕の感覚が、無い。)
……。
(……でも、良く眠ってる。)
……。
(出掛けるんだったな…。どこに行くか…)
…ょ、う……。
……。
…きょ…ぅ……。
…なんだい、さやか。
……。
…あんたは、あたしが守ってやる。
だから…。
……、け。
……。
…きょ、ぅ……す…け……。
(……分かってたさ。)
……。
(…所詮、嘘だ。嘘を塗り込めただけだ。)
……。
(…さやかは、あたしのものにはならない。なる事は、無いんだ…。)
……。
……ちくしょう。
……。
ちくしょう…ちくしょう…。
……。
…さやか。
さやか…。
……。
……。
……。
(…父さん。)
……。
(…貴方の言うとおりだよ。あたしは人を惑わす…だけじゃ飽き足らずに、欲までも深い魔女だった。)
……。
(…ごめんなさい、母さん。)
……。
(…モモ。ごめんね…モモ…。)
……。
…ごめんな、さやか。
……。
でもさ…、やっぱり嘘は…淋しいよ。
……。
……。
……。
……。
……ょ、…。
……Nil faic nach geifea…
…ぅ……。
Ni mor leat an t-eagla…
……。
…Ag siuil I dtreo na gaoith’ I measc tonnta na bhfocal…
Le imeacht ama stadann an chine…
……。
Creid…
…きょう、こ。
……。
きょうこ…。
…起きたか。
……。
……。
…きょうこのうたが、きこえた。
……。
なに、うたってたの…?
…何も歌ってないよ。
うそ…なにか、うたってた。
…。
…なんか、ふしぎなことばだった。
でも…とても、きれいだった…。
……。
…ね、なに?
……昔の歌さ。
そう、ずっと昔の…。
むかしの…う。
……。
…きょうこ?
起きられそうかい…?
…。
起きられるんだったら、退いて欲しい。
腕の感覚が無いんだ。
……。
…出掛けるんだろ?
ねぇ、杏子…。
…ん?
……キス、しよう。
…。
…して。
……寝惚けてんのか。
ううん、あたしはおきてる…。
…。
杏子…キス、して。
……。
…してくれない、なら。
…!
杏子…。
…駄目だ。
……どうして。
そういうのは…本当に好きな人とするもんだろ。
…ほんとう、に。
それをあたしなんかと…
…好きよ。
…。
杏子が…好き。
…止めてくれ。
あ…。
…止めて。
……。
……。
…杏子は、あたしを守ってくれる。
あたしと、一緒に居てくれる…。
…。
…こんな役立たずなあたしの為に戦って、傷付いて。
あたしが居なかったらもっと…ラクなのにね。
……。
…ねぇ、杏子。
……。
…キス、して。
して、欲しいの…。
…さやか。
……あたしの初めて。
杏子に、貰って欲しいの…。
……。
…それとも、なぁに?
若しかして杏子は、初めてじゃないの…?
…。
だれ、杏子の初めての相手…。
ねぇ、だれなの…。
…居ないよ、そんなの。
……。
…した事なんて、無い。
そっか…じゃあ、あたしが杏子のハジメテを貰うんだね。
…あんたは。
ね…杏子。
……。
…して、ください。
……良いのかよ。
…。
…本当にあたしで、良いのかよ。
杏子も、あたしで良い…?
…。
…ねぇ、いい?
さやか…!
…ん。
……。
…きょうこ。
……。
……。
……。
…ふふ。
……なん、だよ。
ハジメテ、あげちゃった…。
…。
…どうだった?
どうだったって…。
…杏子の口唇って案外、柔らかいんだね。
案外って何だよ…。
ね…あたしのは、どうだった?
…。
…きもち、わるかった?
ばか…そんなわけ、ない。
…じゃあ。
……柔らかかった。
それだけ…?
…。
きょ、ん……。
……。
……きょうこ。
……。
…やぁだ。
杏子ちゃんったら、顔真っ赤…。
……うっせ。
……。
…出掛けるんだろ。
それとも、止めにす
……。
……さや、か。
あたしからも、するのだ…。
……。
…これからは毎日、しようね。
まい、にち…。
…そ、毎日。
嬉しいでしょ…?
…別に嬉しくなんかねーよ。
杏子ちゃんは、素直じゃない…。
…うっせ、ばか。
つかほら、早く起きろよ。
あんたのせいで、腕の感覚がねーんだよ。
杏子、手繋ご。
…は?
手。
…。
ちょっと、無視しないでよ。
…そんな事、してられっかよ。
なんでよー。
…。
さやかちゃんが迷子になったりでもしたら、君はどうするつもりかね?
…なるのかよ、迷子。
そりゃあね、慣れてない場所だし。
杏子と逸れちゃったら…帰れなくなっちゃうかも知れない。
ある程度は覚えただろ。
毎日のように出掛けてんだから。
……。
おい、さやか。
…キスする仲になったのに。
…。
……。
…さや
ねぇ、杏子はさ。
……。
若しもあたしが迷子になって、杏子のところに帰れなくなったら。
どうする?
…。
…どうも、しない?
探すよ。
…。
…探して、連れて帰るよ。
……。
…なんだよ、文句でもあるのかよ。
んーん、無い!
…おい。
でもあれだね、予め迷子にならないようにしておくのが大事だよね。
そうは思わないかい、杏子君。
……。
……。
…。
…杏子。
迷子になんて、させねーよ。
……。
…させない。
うん……。
…だから。
たいやき、な。
…え?
たいやき。
今日はカスタードと、そうだな、栗あんも良いな。
クレープって言ったじゃない。
それと、たいやき。
て、二つも食べるつもりなの?
ああ、そのつもりだよ。
えー…。
さやかは食わなくて良いよ。
太るだろ?
…!
杏子!
はは。
自分は太らないからって!
しょうがないだろ、太らない体質なんだから。
ずるい、ずーるーいー!
不公平だ!
何とでも言え。
どうせ、現実は変わらない。
むぅぅぅ。
でも、
…そんな事言う杏子には!
うぉ…ッ。
……へっへっへ。
おい、さやか…。
…腕、組んじゃうもんねー。
と言うか、いきなり体重かけんな。
重たいだろ。
重たいって言うな!
あー、重い重い。
…。
…ッ!
いてぇ!!
……。
いてぇな!
何すんだよ、さやか!
……。
おい、
…傷付いた。
は…?
……ばか杏子。
……。
……。
…悪かったよ。
……。
さや
キスしてくれたら、許す。
…は?
キス。
…ちょっと待て。
外だぞ、此処。
だから?
……さっき、しただろ。
さっきは、さっき。
…出掛ける直前にも、しただろ。
今は、今。
……。
じゃなきゃ、許してあげない。
…。
あたしの乙女心は深く、ふかーく、傷付いたんだから。
…乙女心?
そうよ。
……。
…て、ちょっと。
何笑ってんのよ。
いや、笑うとこだろ。
今のは。
なんでよ!
……。
杏子!
…さやか。
もう、許してあげな…ん。
……。
……。
…ばーか。
……。
ほら、行くぞ。
…ずるい。
あ?
ずるい、ずーるーいー。
しろって言ったのは、さやかだろ。
そうだけど、ずるい!
…意味が分からねーぞ。
不意打ちは、ずるい。
……。
だから、やり直しを要求する。
…マジか。
マジだ。
さっきのは
ノーカウント。
……。
…杏子。
……。
ん……。
……。
…ふふ。
もう、良いだろ…。
…どうしようかな。
……。
…このままで、良いなら。
許してあげない事も無い…。
……。
……杏子。
…好きにしろ、もう。
うん…好きにする。
……。
…なに?
いや…なんでもない。
さては…さやかちゃんのあまりの可愛さに見惚れたかぁ?
自分で言うか、普通。
…ね、杏子。
なんだよ。
…ありがとう。
何だよ、急に。
…言いたくなったの。
らしくねーな。
……あたしだって、言えるよ。
……。
……。
…さやか。
杏子と居ると、楽しい。
…。
…こんなに楽しいなら、もっと早く好きになってれば良かった。
……。
あたしの事、考えてくれる…想ってくれるのが、嬉しい。
嬉しい…。
…。
…。
…とりあえず行くか、さやか。
ね、どこに連れて行ってくれる…?
そうだな…。
……。
……。
…きょーこ。
んー?
ばかと何とかは高いところが好きって言うけどさー。
隠せてねーぞ、それ。
いきなり、魔法少女になったと思ったら。
これ、何なの。
眺め、良いだろ?
良いと言うか、良過ぎるわよ。
遮るものが何も無いからな。
此処からなら、一望出来るんだよ。
あ、やだ、押さないで。
落ちたらどうすんのよ。
そん時は一緒に落ちてやるよ。
冗談に聞こえない!
…冗談なんかじゃ無いからな。
……。
…心配するな、さやか。
ん、杏子…。
ちゃんと捕まえておいてやるから。
…魔法の無駄使い。
使ってねーよ。
…魔法少女の無駄使い。
ソウルジェム、濁っちゃったらどうすんのよ。
これくらいで濁るかよ。
でも、
どうせ、何もしないでも濁るんだ。
だったら、これぐらい良いだろう。
……。
…ん、さやか?
絶対、だから。
…?
ちゃんと、捕まえておいて。
…おう。
と言うか、抱いててやるって言って欲しかったな。
杏子にはそういう乙女心が無いのよね。
…悪かったな。
……。
……。
…景色、見滝原とは違うね。
当たり前だけど。
ああ。
…此処に杏子は家族と一緒に居たんだね。
……。
ねぇ、妹が居たって言ってたよね。
…ああ、居たよ。
やっぱり、可愛かった?
…まぁな。
モモは…
モモって言うの?
…ああ、そうだ。
佐倉モモちゃんかぁ。
ふふ、可愛い名前だね。
…名前どおり、可愛かったよ。
……。
いつも、あたしの後ろにくっついてきてさ。
何をするにも、あたしの真似をするんだ。
……。
人懐こくて。
いっつも、にこにこしてて。
おねえちゃん、おねえちゃんって。
……。
…だから。
腹を空かせて、元気が無くなっていくあの子を見るのは辛かった。
……。
…あたしはお姉ちゃんだから。
妹を守ってやらなきゃいけないって、思ったんだ。
…。
…だから、林檎を盗んだ。
それをモモにやったんだ。
…ああ。
モモは喜んだよ…喜んで、みんなで食べようって。
腹、空かせてるのに…モモは家族みんなの事も心配してたんだ。
一番、小さいのにさ…。
……。
あたしは…罪の意識とモモの笑顔に挟まれる事になった。
仮にも神に仕える者の娘がさ、盗みを働くなんて絶対に赦される事じゃないからね。
…。
…いつか、あんたが言ったろう。
貰っても嬉しくないって。
…杏子。
言い訳なんかするつもり無いけど。
けど…腹は、空くんだよ。
どうしようもなく。
……。
…弱っていくモモを見てられなかったんだ。
杏子…。
…神さまに毎日祈ったよ。
あたしは良いから、モモを守ってあげてって。
でも、神さまは助けてなんか呉れなかった。
誰も親父の話を聞いてなんか、呉れなかった。
……。
…そんな時さ。
あいつがあたしの前に現れたのは。
……。
…他に選択肢なんか無かったんだ。
あたしは…魔法少女になって、親父を、母さんを、そしてモモを助けたかった。
……。
…戦いに勝つと、いつも此処に来たんだ。
風見野が見渡せる此の場所に。
…。
あたしがこの町を守ってるんだって。
家族を、モモを守ってるんだって。
笑っちゃうよね。
…ううん、笑わない。
結局、あたしのせいで家族が壊れた。
壊れちゃったのに、何が…。
…。
…何が、正義の味方だよ。
お姉ちゃんだよ。
ふざけんな。
……。
…結局、魔法で救えるのは自分だけなんだ。
誰かを救えるなんて、そんなのただのエゴだ。
……。
…だから、あんたを初めて見た時。
昔の自分を見ているようで、見せられているようで……無性に、殺してやりたくなった。
…。
…謝って赦される事じゃない。
そして、あたしは罪ばかり重ねていく。
どうしようも無い程に。
……。
…此処に来るのは久しぶりなんだ。
家族が壊れてから、あたしは此処に来なくなったから。
……。
此の町はあの頃と何一つ変わってない。
変わったのは…あたしだけだ。
……。
…悪いな。
こんなしみったれた話、聞かせちまって。
…ありがとう、杏子。
話してくれて。
さやか…。
…ねぇ、杏子。
うん…?
…あたしが、赦すよ。
…。
杏子の罪、全部全部、あたしが赦してあげるから。
…そんな、事。
世界の誰もが…杏子の家族が赦してくれなくても。
あたしだけは、赦すから。
…。
…だからもう、泣かないで。
……。
杏子の家族の代わりなんて、なれない。
なれないけど…。
…。
…これからはずっと、あたしが居てあげる。
ずっとずっと、居てあげる…。
……。
…だから、離さないで。
ずっと、離さないで…。
…さやか。
独りぼっちは…淋しいから。
…ッ!
……。
さやか、あたしは…ん。
……。
…さや、か。
ねぇ…。
…。
…昔の歌、もう一回歌って。
……。
あの歌…きれいだった。
とても、とても…。
…モモも、そう言ってたよ。
…。
あんたは…お前は、モモよりも手が掛かるけど。
それって、あたしが妹みたいって事…?
…。
…キス、しておいて。
それは…。
…恋人で、良いでしょ?
……。
ねぇ、杏子…あたしの恋人。
……。
…また、泣きそうな顔、してる。
……。
ね…あの歌、なんて言うの?
…あれ、は。
うん……。
…祈りって、言うんだ。
ほら、あなたにとって、大事な人ほど、すぐそばにいるの。
…。
ただ、あなたにだけ、届いて欲しい、響け恋の歌。
…。
ほら、ほら、ほら…
……。
…響け、恋の歌!
さやかは元気だな。
…。
…ん?
どした?
本当だなぁって。
…何が?
すぐ傍に居たから。
…。
過ごした時間は未だ、短いけど。
何しろ、最初は殺し合いだったしね。
…人の傷、さり気なく抉るなよ。
わざとだもん。
だろうなぁ。
と言うか、傷になってたの?
わざとだろ?
うん、わざと。
槍がね、お腹に刺さると痛いんだよねぇ。
…。
…なんて。
今はもう、ただの思い出。
そんなあっさりと?
うん。
…そんなもんか。
そんなもんよ。
恋する乙女は強いのだ。
破れると、弱いけどな。
…う。
お返しだ。
…人の古傷、抉るような事を。
いつか、思い出にしてやるさ。
そう、ただの。
なんと言う、すごい自信。
…。
…でも、そうして貰お。
うん。
……。
きょーこ。
…なんだい、さやか。
さやかちゃんの新しい恋は、破れないのだ。
…。
…でしょう、杏子。
ああ…そのつもりだよ。
つもりじゃ駄目です。
…じゃあ、何て言えば良いんだい。
そうする、って言い切れば良いだけ。
大体、思い出にしてくれるって言ったばかりじゃない。
…。
ねぇ、杏子。
…さやか。
ん…。
…お前の恋はもう、破れない。
あたしがそうさせない。
…。
…。
…うん。
……腹、減ったな。
たいやきとクレープ、食べたのに。
あと、台無し。
飯が食いたい。
じゃあ、もう帰る?
どっかで食っていけば
杏子のごはんは、あたしが作ります。
なんだそれ。
いいの、作るの。
そうかい。
じゃあ、作ってくれ。
おう、任せろ。
で、何を作る気だい?
豚汁。
…は、豚汁?
そう。
文句ある?
いや、ねーけど。
なんで豚汁?
なんとなく。
なんとなくかよ。
でも、作れるのか?
味噌汁に豚肉入れれば、豚汁。
…。
…。
…まぁ、間違っちゃいねーな。
でしょ。
と言うか、あれか。
今朝の味噌汁のリベンジか?
ダシ、今度はちゃんと入れるんだから。
…そうかい。
うん。
……。
…ね、杏子。
うん?
楽しい時間って、早いよね。
…そうだな。
なんでこんなに早いのかな。
…楽しいから、だろ。
そのまんまじゃない。
他に言いようが無いだろ。
……。
…さやか?
ずっと、続けば良いのに。
…。
…こんな時間が、ずっと。
……ああ、そうだな。
……。
……。
…月、綺麗だね。
うん…。
…でも少し、怖い気がする。
…。
ね…今夜も行くの。
…。
今夜は、行かないで。
…。
ねぇ、今夜だけは…。
…ソウルジェム、見せて。
……。
さやか。
…いや。
さやか。
いや。
…。
…。
…直ぐに、戻るよ。
杏子…!
ごはんが出来るまでには、戻る。
…いや、行かないで。
……。
ねぇ、今夜だけで良いの…良いから。
…。
…あたしはずっと、傍に居てあげるって言ったよ。
だから、杏子も…。
…なぁ、さやか。
う…。
…こいつが、濁りきっちまうと。
どうなるか、知ってるか…?
……。
…魔女になっちまうんだってさ。
…!
信じられないよな…。
…それ、誰が言ったの。
…。
…ほむら、でしょ。
そんな事言うの、あいつしかいないもの…。
…どうしてそう思うんだ。
なんとなく…でも、そうなんでしょ。
ああ…そうだ。
……。
……。
…あた、し。
……。
……。
…さやか。
……分かるような気が、するんだ。
……。
…心が、暗くなっていって。
恨みや、妬みで、いっぱいになって。
…。
みんなみんな、憎くて……ああ、これが呪うってコトなのかなって。
思った、から…。
…。
…あの時、杏子が居なかったら。
あたし、は…。
…。
…魔女になってたのかな。
……。
若しも、なっていたら…杏子に殺されたかったな。
…そんな事、言うな。
でも、それがあたしの正直な想いだから。
お前はならなかった。
だから、あたしはお前を殺さない。
…うん。
…魔女になんか、あたしがさせない。
杏子…。
…だから、あたしは行くよ。
お前を、守りたいんだ。
……あたしの為に、魔法を使うの。
…。
自分の為だけに、使うんじゃなかったの…?
…自分の為でも、あるさ。
…。
お前は…あたしの帰る場所だ。
もう、失いたくないんだ…。
……。
…必ず、お前のところに還るから。
だから、さやか。
一つだけ。
…。
杏子のパーカー、あたしに貸して。
…パーカーを?
着て、待ってるから…。
…。
…だから、貸して。
…分かった。
……。
ほら、さやか。
…うん。
……。
…ふふ、杏子の香りがする。
…。
まるで…杏子に抱かれてるみたい。
…やっぱり、返せ。
やだ。
…。
だって本当にそう思うんだもん…。
…恥ずかしいヤツだな。
……。
……。
…待ってるから。
ごはん、作って…待ってるから。
…おう。
……。
……。
……行って、らっしゃい。
…行って、きます。
美樹さやかは何れ、正気を保てなく為るかも知れないわ。
いえ、為るでしょうね。
…。
ソウルジェムに入った罅。
あれがどういう影響を齎すか…。
…。
魂に傷が付いたのだから、
そんなのは、どうでも良い。
さやかが生きている。
それだけであたしは十分だ。
…濁り方も、通常の時よりも早い。
けれど、美樹さやかはもう戦えない。
グリーフシードを自分で得る事はもう、出来ない。
……。
…グリーフシード、どうしたの。
あれは最初から、さやかのもんだった。
…。
あんたも見てただろ。
さやかが、滅茶苦茶したのを。
…それを使わずに取って置いたと。
貴女らしく無いわね。
…でも、それで。
美樹さやかが命拾いした。
…そういう言い方、止めろ。
本当の事でしょう。
本来ならば、美樹さやかは
さやかは、なんだよ。
…。
…なぁ、ほむら。
…何かしら。
ソウルジェムが壊れたら、あたし達魔法少女は
死ぬわ。
…じゃあ。
濁りきったら、どうなるんだ。
……。
やっぱり、死ぬのか。
どのみち、魔法が使えなくなるだけじゃ済まないだろ。
何しろ、魂そのものなんだから。
…どうして、私に聞くのかしら。
あんただからだよ。
……。
なぁ、ほむら。
あたし達って、なんなんだろうな。
魔法少女よ。
…そんなのは、知ってるよ。
あたしが言ってるのは、魔法少女の事だ。
…。
…一度きりの奇跡の為に、他の事を全て諦めて。
……。
…人間としての感情すらも。
いいえ。
…。
恨みや妬み、そして絶望だけは、そのまま残されるわ。
寧ろ、それだけが強く根付く。
…割りに合わねーな。
然うよ。
だから、為るものじゃないの。
…は。
もうなっちまってるんじゃ、どうしようもねーな。
……。
…何にせよ、さやかは生きている。
正気を保てなく為ろうが、なんだろうが、さやかはさやかだ。
…貴女は美樹さやかに入れ込み過ぎている。
…。
そんなに愛しいの。
ば、ばっか!
そんなんじゃねーよ!
……。
……。
…人は、未来を信じない。
…?
ほむら?
真実からも、目を背ける。
……。
今回の貴女はどうかしら、佐倉杏子。
…今回の?
ソウルジェムが濁り切ったらどうなるか、だったわね。
答えは至極簡単よ。
…つまり、なんだよ。
魔女に、生まれ変わる。
…は?
ソウルジェムがグリーフシードを生む。
それが孵化すれば…杏子、後は貴女が知っている通りよ。
…なんだよ、それ。
信じるか、信じないかは、貴女次第。
じゃあ、あたし達は魔女になる為に
ええ、然うよ。
…ふざけんな!
現実よ。
ふざけてなんか、居ないわ。
……ちくしょうが!
美樹さやかは、貴女の判断がもう少し遅ければ確実に魔女に為っていた。
そうなればもう二度と、美樹さやかには戻れない。
…。
祟りながら、ただ、生きていく。
ただ死ぬよりも、性質の悪い結果。
……。
どう?
信じられるかしら?
……さやか。
……。
…どんな事になってもあたしが、あたしだけは傍に居てやるからな。
……。
…信じるよ、ほむら。
……然う。
……。
…何にせよ、ソウルジェムを修復する手段は無いわ。
ああ…。
……。
……少し、遅くなっちまったな。
…。
…さやか、怒ってるかな。
それとも…。
……ぅ。
…まぁ、良いや。
ただいま、さやか。
……。
…?
さやか?
…。
電気も点けないで…もう、寝ちまったのか?
…ぁ、……ぁッ。
うん…?
……きょ…ぅ…、…。
起きてるのか、さやか。
…はぁ……はぁ…ぁ…。
さやか、入るぞ。
良いか。
…ぅ、ぁぁッ。
…!
さやか…?!
…は、ぁ…。
どうした、さやか!
苦しいのか、どっか痛いのか?!
…ぁ……きょ、う……きょ…う……。
さや……
…ぁ、ぁあ。
……え。
………。
…さや、か。
………みない、で。
……。
……。
……。
……見ないで、杏子。
お願い、だから…。
…あ、あぁ。
……。
わ、悪い…あたし、向こうに…
……まって。
…。
……いかないで。
でも、さやか…。
…ここに、いて。
……。
……。
…その、悪かった。
見るつもりじゃ、無かったんだ…。
…分かってるよ。
……。
…ごはん、冷めちゃった。
自分で温めて、食うから…。
……遅かったね。
…。
…怪我、しなかった?
あぁ…大丈夫だよ。
…でも血の臭いが、する。
こんなの、かすり傷だから。
……。
…さやか。
ねぇ…杏子。
……なんだい。
あたし、いやらしいんだ…。
…。
…すごく、汚いんだ。
……そんな事、ねーよ。
だって。
…。
…だって、自分で自分を慰めてるんだよ。
それで、気持ち良くなってるんだよ…。
…だからって、汚いって事にはならないだろ。
なるよ…!
……。
…なるんだよ、杏子。
……。
ね…教えてあげるね。
……。
あたし…杏子を想いながら、してたんだよ。
…あたし、を?
そう…杏子に抱かれてるのを、想像して…それで。
……。
…杏子が、耳元で甘い言葉を囁いてくれるの。
それから、甘い甘いキスをくれて。
…。
口唇だけじゃない…。
……。
…杏子の手が、舌が。
あたしの躰を…
…もう良い、さやか。
……最後に、指が。
あたしの中、に…。
さやか。
…その時にね、杏子は決まってあたしの事愛してるって。
ずっと離さないって…言って、くれるの…。
……。
……。
……。
…キス、した事。
してくれた、事…嬉しかった。
……。
…でも。
…。
でももう、してくれないよね…。
…なんでだよ。
……。
なんでだよ、さやか。
…だってあたし、気持ち悪い女だもん。
…。
…キス、する前から、あたし。
して、たんだよ…。
……。
…今夜なんて、杏子のパーカーを抱いて。
……。
…勝手に、こんな事。
気持ち悪くないわけ…。
なぁ、さやか。
…。
…あたしは、さやかの恋人なんだろ。
……。
…だったら、そういう事だって、あるだろ。
……。
…だから、気持ち悪いなんて思わないよ。
きょう、こ…。
…なぁ、さやか。
う…。
……。
…うぅぅ。
さやか、飯は食ったのか?
……。
未だだったら、一緒に食お…
……。
…さや、か。
……こっち、見て。
けど…
…お願い、見て。
……。
……。
…さやか。
……初めてのキスを、したばかりなのに。
さ、さやか、あたしは…。
…でも、あたしは。
あ、ぅ…。
…それだけじゃあ、もう、足りないの。
……さや、か。
ねぇ、杏子……。
…。
……恋の先を、教えて。
……。
…躰だけに、分かる、言葉で。
あたし、は…。
……あたしを、愛して。
……。
……。
…Creid i d'aisling is beidh leat in aineoinn imeacht ama、
……。
Le titim na hoiche gaelann na scamaill le solas na gealal…。
…やっぱり、きれい。
……。
…ね、どこのことばなの?
悪い、起こしたか…?
…うぅん、おきてた。
……。
…ね、どこのことば?
どこの、うた…?
どこの言葉かは、あたしも知らない。
…。
どこの歌かも…良くは知らないんだ。
…そうなんだ。
ただ…昔、祈りの時に歌った。
皆で。
…だから、いのりのうた?
うん…。
…やっぱり、きょうかいのこなんだね。
…。
ん…きょうこ。
…今となっちゃ、神の教えに背きまくった悪い娘だよ。
……。
…。
…もしかして、どうせいのこういうのも、だめ?
さぁ、どうだったかな…。
…。
…なんにせよ、構わないさ。
神なんか、怖くない。
きょうこ…。
…躰、大丈夫かい?
……。
…やり方、良く分からなかったから。
それは、いまもじゃない…?
……。
…でもきょうこ、かわいかったな。
は…?
…ひっし、で。
というか、あたままっしろ…?
……。
…かわいい。
うっせー…。
…ふふ。
……。
あ。
……。
…やだ、そっちむかないで。
知らねーよ。
…きょうこ。
……もう。
…。
言わないか…?
…。
…じゃなきゃ、いやだ。
そういうとこが。
…。
…かわいい、のに。
さやか。
……ね、こっちむいて。
……。
きょうこ…。
…なぁ、さやか。
ん…。
本当に、良かったのか…?
…?
あたしと…。
…いいに、きまってるじゃない。
……。
きょうこは、あたしのこいびとなんだから…。
…。
…だれよりも、すきで。
だれよりも、こういうこと、してほしかった…。
……。
…だから、うれしかったし。
いま、すごくしあわせ…。
…さやか。
えへへ…。
……。
あれかなぁ、これがしあわせすぎてこわいってやつなのかな…?
…そうかもな。
もしかしてきょうこも、おんなじこと、おもってくれてる…?
……。
…ふふ、うれしい。
さやか…。
…ね、もういちどしよ。
……。
…いいよ、ぶきようでも。
むしろ、そのほうがうれしい…。
…なんでだよ。
痛いだけかも知れないのに…。
…てなれてるほうが、やだもん。
…。
へへ…。
…さやかの言ってる事、良く分からない。
いいの。
…。
それに…もとめられてるって、おもえるから。
…。
きょうこに、もとめられているのが、うれしいから。
…。
…らんぼうでも、もとめてくれたら、それでいいから。
それこそ、ころすくらいでも…あ。
…殺すくらい、か。
きょう、こ…。
……この下に、さやかの心臓があるんだ。
ん……。
…破れても、修復すれば。
……は、ぅ。
……血を、どれだけ流しても。
…ぁ…。
…あたし達の躰は、死なない。
……ひ、ぁ。
…これが、終わったら。
きょうこ…きょうこ…ぉ…んん。
……。
……。
…ソウルジェム、浄化させよう。
う、ん…。
……。
…あと、めし?
……。
…ん?
……忘れてた。
…。
…そう、だった。
きょうこが、ごはんのこと、わすれるなんて…。
…。
…そんなに、あたしにむちゅうになっちゃったの?
…。
あん…。
…そうせたのは、誰だよ。
だれ…?
……お前だろ、さやか。
ふふ…うれし。
……。
きょうこちゃんは、あたしのこいのまほうにかかったのだ…。
…そんな魔法も、あんのかよ。
こいびとにだけ、きくの。
…。
…もう、ちょうきょうりょくなんだから。
そうかい…じゃあ、解けないな。
うん…とけない。
ずっと、とけない…。
…。
…まほうしょうじょじゃなくても、まほうは、つかえるんだから。
みたいだな…。
…ね、きょうこ。
なんだい…さやか。
…あたしも、かかってるんだよ。
…。
きょうこの、こいのまほう…。
…それは大変だな。
ずっと、解けないだろうから。
そうなの……だから、ね?
だから…なんだい?
…せきにん、とってもらうからね?
ぜったい…。
ああ、分かったよ…さやか。
…美樹さやかは屹度、忘れないわ。
いいえ、忘れられない。
……。
…正気を保ってるうちは未だ良い。
けれど…。
……。
…貴女はそれで良いの。
……。
想いが届かないのは…とても、辛い事だわ。
…あんたらしくないな。
……。
…分かってるよ。
分かってて尚、受け入れると言うの。
…なんでかな。
……。
自分の為だけにって、ずっと思ってやってきたのに。
…。
…今更、誰かと一緒に居たいだなんて。
……。
…でもさ、それも自分の為なんだよ。
結局全部、自分の為なんだ。
…美樹さやかの瞳は貴女を映さない。
……。
偽りの感情しか、与えられないかも知れない。
…ほむら。
……。
さやかと一緒に居られれば、良いんだ。
…。
…それだけで、あたしは。
美樹さやかと一緒ね。
……。
…必ず、何処かで綻びが出来る。
見返りを求めない人なんて、居ない。
人の欲は深いものだから。
…知ってるよ。
……。
…分かってるさ。
あたしは屹度、求める…いや。
…。
…求めてるんだ、さやかを。
……。
欲しいんだ…さやかだけを。
……。
…どうしようも、無い。
杏子…。
…やっぱ、きついなぁ。
……。
きついよ…ほむら。
…ええ、然うでしょうね。
きょーこ!
…うん?
あれ。
…あれ?
もう、ちゃんと聞いてた?
あー…なんだっけ?
あれ、取って。
…どれ。
あれ、あのひよこちゃん。
…未だ、欲しいのか?
だって、可愛いんだもん。
もう、幾つか取ったじゃねーか。
あれ、あれで最後。
最後、ねぇ。
うん。
…自分で取ってみれば?
自分で取れるなら、杏子に頼んでない。
あたし、クレーンゲームで取れたコト、ないんだもん。
一度も?
一度も。
だから、ね?
しょーがねぇな。
あれで最後だぞ?
うん!
よし。
じゃあ……て、あれは無理だ。
え、なんで?
クレーンが届かない。
…そうなの?
ああ。
えー……。
どうしても欲しいのか。
うん、欲しい。
じゃあ、しょうがねぇな。
あ、魔法はだめ。
使わねーよ。
店員を連れてくるんだ。
店員さんを?
なんで?
位置を直して貰う。
…それって、ズル?
ちげー。
位置直しは普通にある事なんだよ。
そうなの?
クレーンが届かなきゃ、そもそもゲームにならないだろ?
そうだけど…。
ズルでもなんでもない。
これも一つの手なんだよ。
…ふぅん。
ま、さやかが要らねーって言うんなら
要る、欲しい。
じゃ、決まりだな。
すみませーん。
……。
あのひよこを……はい、ありがとうございます。
…意外に礼儀正しい。
よし。
待ってろさやか、今取ってやるからな。
うん。
……。
……。
……。
……。
…よっしゃ。
わぁ。
ほれ、さやか。
ひよこちゃん。
ふふ、今日から君もうちの子だー。
じゃ、もう行くか。
…。
さやか?
…ううん。
ありがとう、杏子。
どういたしまして。
…。
持ち切れないだろ。
持ってやる。
大丈夫、自分で
良いから、寄越せって。
…ありがと。
……。
…えへへ。
……。
これで腕、組めるね。
…そうだな。
あ、これが狙いだったとか?
ちげー。
またまたぁ。
杏子ちゃんったら、素直じゃないんだからぁ。
ウゼェ、ちょーウゼェ。
…。
……。
…杏子は、優しいね。
そうでもねーよ。
…ううん、優しい。
いつだってあたしの事、想ってくれるから…。
……。
あ。
…ん?
ミルクセーキだって!
ミルクセーキ?
杏子は知らない?
甘くて美味しいんだよ。
へぇ。
懐かしいな。
子供の頃ね、飲んだ事あるんだ。
今も子供だ
きょうすけと。
本当、懐かしい…。
……。
ねぇ、飲もうよ。
…。
杏子?
…ああ、飲もうか。
うん!
……。
じゃあ、早く行こ。
…引っ張るなよ、さやか。
焦らなくても
だって早く飲みたいんだもん。
…しょーがね
ほら早く!
きょうすけ!
…っ。
何がいいかな。
バナナ、いちご、チョコレート…ううん、ここはやっぱり、普通のかな。
昔飲んだヤツ!
……。
ね、きょうすけは…
さやか。
…え?
あたしは…。
…どうしたの、杏子?
……。
杏子はバナナが良い?
それとも
…さやかが子供の頃、飲んだのはどれだ。
普通の。
じゃあ、それで。
ええ、それじゃ一緒でつまんない。
なんでだよ。
違うのにして。
そしたら、ちょっと貰うから。
…。
ねぇ、杏子。
…じゃあ、さやかの好きなのにしろよ。
ほんと?
ああ。
じゃあね……バナナ!
じゃ、それで。
すみません、普通のヤツとバナナの下さい。
……。
さやか、ほら。
わぁい。
……。
…んー、あまーーい。
……。
甘いね、きょう…
…。
……。
…どうした、さやか。
ううん…なんでもない。
……。
…冷たくて、甘くて。
おいしいね、杏子。
…ああ、そうだな。
杏子の、ちょうだい。
うん。
あたしのもあげる。
…うん。
バナナ、食べても良い?
どうぞ。
…甘い。
……。
……。
……。
…ね、杏子。
ん…。
…どっちが、甘い?
どっちも…
…ううん、そうじゃないの。
……。
あの、ね…。
…。
…あたし、と。
杏子にとって…
さやか。
…。
…て、言って欲しいんだろ。
……違うもん。
本当に…?
…ばか杏子。
ひでぇなぁ。
……えへへ。
……。
…ね、帰ったら。
さやかは、好きだな…。
…杏子も好きでしょ。
お前程じゃない…。
…うそつきー。
…。
…杏子。
もう、帰るのか…?
…。
…なんだよ。
やっぱり、杏子の方が好き…。
…。
…すけべ。
納得いかねーな、それ…。
……。
………Lonradh na realt ag mealladh na huain、
……。
I dtreo luascadh de shior na mara……。
……。
…傷持てる我等、光の中を進まん。
……。
……光の中なんか、もう、進めない。
…ん。
……。
…きょ……ぅ……
(…ソウルジェムの濁り方が異常に早い。)
……。
(さやかが壊れていくのを、止められない…。)
……。
(…いや、さやかは本当に壊れているのか。)
……。
(…壊れてなきゃ、あたしとこんな事。)
……。
(なんにせよ…分かっていた事だろう。)
……。
(…そうさ、分かっていた事だ。)
……。
(……手放す方が、おかしくなっちまうだろう?)
……。
(…一緒に居られる。それだけで、良いんだ。)
……。
(…でも、若しも。)
……。
(…あたしが、男だったら。さやかは、あたしを見てくれたのかな。)
……。
(……あいつを、忘れて。あたしだけを、見てくれるのかな。)
……。
(……ああ、いっそ。)
……。
(……。)
ぅ……。
…さやか。
……。
……男に、なってやろうか。
……。
男だったら良かったのに…お前は、そう言ったよな。
…。
…そしたら、あいつを忘れられるんだろ。
……。
良いよ…なって、やるよ。
ふ…。
……。
…きょ…ぅ…?
……。
……ぁ。
…言って、無かったよな。
きょ、う…。
…あたしの魔法の属性は、幻惑なんだ。
……ぁ…。
…この力で、家族を壊した。
その時、失くした筈だった。
……。
…でもな、さやか。
ぅ…あッ。
……。
…きょう……、…。
なぁ、さやか。
次は、お前を壊してやるよ。
……や…。
……。
やめ、て…。
…目、瞑れよ。
やだ…やめて…。
……。
……きょう…、……。
ああ。
…。
…いっそ、あの坊やだと思ってくれても良い。
……。
優しくはしてやれないと思うけど…あいつだと思えば、さ。
大抵の痛みは、我慢、出来るだろ。
…な…ん、で。
なんで?
さぁ、なんでだろうなぁ。
……。
なぁ、さやか……お前、本当はさ。
…ぅ…う。
此処に、何を受け入れたかった?
…。
あたしの指なんかじゃ、無かったんだろ。
なぁ。
……ぁ、……っ。
なぁ……本当は、あの坊やを。
……きょう…
自分を慰めるのだってさ…本当は、あいつを想いながらやってんだろ…?
……ち、が……。
…良いよ。
もう、なんでも良い。
ひ、ぁ……。
…なぁ、さやか。
あ、ぁ、ぁ、……。
…あたしを、受け入れてくれよ。
……。
…受け入れて。
ぁぁぁ……ッ!
……う。
…いた、い…いた…ぃ…ぁ、ぁ…ぁ。
力、入れるな……奥まで、入れない…。
……、…。
…さや、か…。
…ぁ…ぁ。
はぁ…。
……。
…さやか…さやか…ぁ…。
……、こ。
……。
…きょ、ぅ…こ。
…!
……なかない、で。
なん、で…。
……。
…なんで。
なんで…ッ!
…きょうこ。
…なんでだよ!
なんで今…!
……。
なんで……。
…すきよ、きょうこ。
……。
だから…。
…いやだ。
だから…いいの。
…やめて。
やめない…。
…あたしは!
……。
あたしは…あたしはぁ……。
…きょうこ。
あ……あぁぁ…。
…ごめんね、きょうこ。
……。
…おとこになんて、ならなくても。
…。
…すき、だったのに。
すきに、ちゃんとなれたのに…。
……うぅぅぅぅ。
……。
…ごめん…ごめんなさい……。
…ううん。
あやまるのは、あたしのほう…。
あたしは、あたしは、あたしは……。
……。
…ごめんなさい、父さん。
ごめんなさい、母さん…。
……。
壊すつもりなんて、無かったのに…。
壊したくなんか、無かったのに…。
……。
…ごめん…ごめんね、モモ……。
……。
…さやか。
……きょうこ。
さやか…さやか……。
…ありがとう。
……。
こんなあたしを、あいしてくれた…。
……。
…ばかな、あたしを。
ずっと、まもってくれた…。
……。
…だから、いいんだよ。
う……あぁぁぁぁぁ…。
……。
……。
…いくの。
……。
…もう、いいのに。
……。
だって、あたしはもう…。
…させない。
……。
……。
…どんなことになっても、いっしょにいてくれるんでしょう?
……。
だったら…もう、いいよ。
……。
ね…このまま、ふたりで。
まじょに、なっちゃおうか…。
……。
…そしたら、もう、はなれない。
ころされたって、ふたりで…。
……。
きょうこのことだけ、ずっとおもっていられる…。
……行って、くるよ。
……。
…。
……きょうこの、ばか。
知ってるよ…あたしは、大馬鹿さ。
……。
……。
ね…あたしたちでも、すすめるかな。
…?
……きずもてるわれら、ひかりのなかをすすまん。
…。
…ああ。
すすまん、だから、すすんでないのか…。
…いや。
…。
意味としては「進む」で良いんだよ。
…。
…光の中じゃなくても、構わないさ。
あたし…。
…。
…すすみたく、ない。
…。
ずっと、ひとつのところにいたい…きょうこと、いたい。
……。
…ひかりなんて、いらない。
すすめなくたって、いい。
…。
…いっそ、あしをきりおとしてしまいたい。
そしたら…もう、出掛けられない。
…だって。
だって…なんだよ。
…きょうこはいつか、あたしをおいていっちゃう。
そんなきが、するから…。
…。
だから、きりおとしてしまえば…。
…さやかは、ばかだな。
う…。
…なんであたしが、お前を置いて行くんだよ。
……。
置いて行くぐらいだったら、初めから助けてなんかいない。
…。
…けど、さやかがそうしたいなら。
そうするかい…?
……。
…さやか。
……。
…行ってくるよ、さやか。
……。
…帰ってきたら、また。
続きを、しよう…。
…さっき、の?
あ、いや…。
…もう、しない?
……ごめんなさい。
いいのに…。
……。
…ちゃんと、杏子を想ってるから。
どんな杏子でも、好きだから…。
……。
…だからもう、そんな顔しないで?
……。
…必ず。
…。
必ず、帰ってきて…必ず。
…約束、する。
破ったら、赦さないんだから…。
…破らない。
……。
…行ってきます、さやか。
…忘れる事は無いだろうけれど。
……。
グリーフシードは本来、自分の為に使うもの。
それを忘れないで。
…。
…決して。
分かってるよ。
……。
…分かってるさ。
……。
その為に、あたしが何をしてきたか…知ってるだろ。
……。
助けられる人間を、見殺しに
さぁ、知らないわ。
…惚けやがって。
貴女と出逢って、どれ位だと思ってるの。
…数日、かな。
……。
…でも、どうしてかな。
それ以上だと、思ったんだよ。
今。
気のせいね。
…は。
私は貴女の身の上の事なんて何も知らない。
あたしも、あんたの事情なんて何一つ知らない。
興味も無い。
同感。
……。
……。
……さやかばか。
あぁ…?
……。
……。
……。
……。
…杏子。
元気でな、ほむら。
……。
…忘れないよ。
(……。)
……。
(…杏子。)
……う。
(……。)
……はぁ。
(……。)
気ぃ、失ってた…か。
(……。)
……あぁ。
(……。)
凄く、疲れた……。
(…だから、言ったのに。)
……。
(だから、言ったのよ。)
躰、重てぇ……。
(……。)
……あーぁ。
(……貴女は、もう。)
真っ暗、だ……。
(……。)
…星も、見えない。
(……。)
……。
(……。)
……さやか。
(……貴女は。)
さやか、さやか、さやか、さやか、さやか……。
(何度も、繰り返す……。)
……。
(…然う、何度だって。)
……帰ろ。
(……杏子。)
さやかに、帰ろ…。
(……まるで、貴女は。)
はぁ……。
(……いいえ。)
……さやか。
(……。)
今、帰るよ……。
(……私は。)
さや…か……。
おっかえりぃ、杏子!
…え。
今日もお疲れさま!
……。
んー?
ただいまはー?
…ただいま。
……。
…うぉ。
へっへっへ。
さや
ただいまのちゅーは?
……。
ちゅー?
…頭でも、打ったのか。
うん、実はさっき。
ベッドの角に。
マジか!
お。
大丈夫か、さやか!
痛くないか?!
…んー。
若しも痛いような…んん?!
……。
……。
…えへへ。
おかえりなさいのちゅー、でした。
……。
…おかえり、杏子。
……さやか。
怪我、しなかった?
……。
きょ…ん。
……。
……。
……ただいま、さやか。
ふふ…ただいまのちゅーだ。
……。
…なぁに?
さやかちゃんと離れてたのが、そんなに淋しかったの…?
ばか、そんなんじゃねーよ…。
…ふぅん。
……。
…あたしは、淋しかったのになぁ。
……。
杏子が居ないと淋しくて死んじゃうかも。
…何言ってんだ、ばか。
……えへへ。
……。
杏子の躰、あったかい……。
…お前も。
良かった…ちゃんと、帰ってきてくれた。
当たり前だ…ばか。
…ね、お腹空いたでしょ?
ごはん、出来てるよ。
…。
…抱き合ってるのも、気持ち良いけど。
お腹はふくれないでしょ?
……。
だからこれは…また、後でね。
…うん。
じゃあ手、洗ってきて。
ごはんにしよ。
おう。
ふふふ。
なんだよ、ご機嫌だな。
うん、ご機嫌なの。
だって。
だって?
うーん、やっぱり今は内緒。
なんだよ、それ。
それよりほらほら、早く早く。
て、押すなよ。
だってモタモタしてるんだもん。
分かった、分かったって。
じゃーん!
…おお。
ご馳走、でしょ?
カレーだ。
そう、さやかちゃん特製カレーなのだ。
それから、さやか特製サラダか。
そうそう。
普通だな。
それと、もう一つ!
…ん?
じゃーーーん!
……。
頑張っちゃった!
どうどう?
…それ、なんだ?
見て分かるでしょ?
…。
分かんないのー?
……なんかの物体としか。
残念!さやかちゃん特製ケーキでした!
…ケーキ?
そうそう。
て、それが?
…て、いてぇ!
それが言うな!
どう見てもケーキでしょ!
どう見てもって、お前。
兎に角、ケーキなの!
と言うか、残念って自分で言ったよな?
……。
…え。
…杏子は食べたくないんだ。
だからそういうコト、言うんだ…。
く、食いたくないとは言ってないだろ。
じゃあ、食う?
食う、けど…。
…。
…はい、食います。
宜しい。
でもどうしてケーキなんて。
……。
さやか?
杏子の今年の誕生日分。
…え?
おめでとう、杏子!
いや、ちょっと待て。
あたしの誕生日は
先、なんでしょ。
前に聞いた。
じゃあ、なんで。
今年の誕生日分って言ったでしょ。
…意味が分からないんだけど。
ばか?
うっせ。
しょうがないなぁ。
理解力に欠ける杏子ちゃんに、このさやかちゃんが教えてしんぜよう。
…なんか、むかつくぞ。
そもそもだ、杏子。
何だよ。
事の発端は、杏子の誕生日はとっくに過ぎていたって事から始まるのだよ。
……。
それを先だなんて、ぬかしおってからに。
いや、先だろ。
来年のは。
あ、の、ね。
あたしは今年お祝いしたかったの。
んな事言ったって、
だ、か、ら。
今年の誕生日分なの。
ドゥーユゥーアンダスターン?
……。
なに。
…頭悪そうな英、いてぇッ!
んーー?
…分かった。
兎に角、今年分なんだな。
そう。
良く分かりました。
…。
あとね。
…あと、なんだよ。
……。
さやか。
…あたしと同棲してくれたお礼。
……。
今更、だけど。
…してくれた、は、おかしいだろ。
ん……。
…こっちは望んでしたんだ。
だから。
……。
…だから、さやか。
杏子。
……。
…そんなあんたが、好き。
……さやか。
へへ…。
……。
…杏子は?
ん…?
…あたしの事、好き?
……。
…杏子、言ってくれないから。
……。
……。
…好きだよ。
……本当に?
ああ…。
……。
…好きだ、大好きだ。
あたしも。
……。
…杏子が、大好き。
さやか……。
…ねぇ。
なんだい…?
…今日から佐倉さやかって、名乗っても良い?
良いけど…突然だな。
…意味、分からないの?
意味…?
杏子のにぶちん。
……。
…分かってよ。
……。
…ちょっと、本当に
ああ、結婚か。
……。
…て。
はぁ?!
……何よぅ。
……。
……。
…ふぅ。
さやか。
…はい。
結婚、するか。
…。
しようか。
…うん、する!
……。
……。
…あたしが幸せにしてやる。
必ず。
…ううん。
…。
二人で、なるの。
あたしだけじゃ、駄目。
…あたしは、ん。
……。
……。
…今日は結婚記念日なのだ。
なんだか盛り沢山だな…。
…楽しいでしょ?
……。
ね…杏子。
…うん。
……。
…さやかが居れば、記念日じゃなくても楽しい。
……。
ところで…カレー、食っても良いか?
腹、減った…。
…もう、雰囲気台無し。
だってよー…。
…ふふ。
じゃあ二人で食べますか。
おう!
Song...
“CREID” from 「Millennial fair」 光田康典
(original title:“傷もてる我ら 光のなかを進まん” from 「Xenogears」)
“小さな恋の歌” モンゴル800
脳内BGM...
“and I'm home” 美樹さやか・佐倉杏子
Creid:ゲール語。「信じる」の意。
…殺すのかい?
……。
美樹さやかを。
……。
暁美ほむら。
……。
佐倉杏子はもう、此処には帰って来ない。
美樹さやかはもう、魔女に生るしかない。
…だから?
僕としては殺さないでいてくれた方が良いのだけれどね。
……。
佐倉杏子から回収出来たエネルギーは少量だった。
これは少し計算外だったよ。
彼女には素質があったからね。
……。
美樹さやかの場合は
杏子は絶望しなかった。
最後の、最期で。
然うだね。
どちらかと言うと、魔力切れのようだ。
…いつでも貴方達の計算通りになんて行かないわ。
でも大概の人間は僕達の計算通りに行ってくれるけどね。
特に君達のような少女は。
……。
……。
…穏やかな顔。
幸せな夢を、見ているのね…。
…?
……。
暁美ほむら、君は感傷に浸っているのかい?
…感傷?
君の現在のような状況を人間は然う言うのだろう?
違うのかい?
違うわ。
…。
…。
それで。
殺すのかい?殺さないのかい?
……。
暁美ほむら?
…私の場所は此処じゃない。
……。
……。
…人間と言う生き物はつくづく、わけが分からないよ。
……。
…ん。
……。
…きょぅ…こ?
……。
…おかえり、なさい。
……。
…?
……。
…それ、おうじさまのつもりなの?
……。
うまになんか、のっちゃって…。
……。
…でもそのかっこう、なんか、ちがうし。
……。
ふふ、へんなのー…。
……。
え、なに…?
……。
…のせて、くれるの?
えー、どうしようかな…。
……。
…うそ。
のる…のりたい…。
……。
…まって。
いま、おきるか……あれ。
……。
…あたし、あしがないや。
どこに、やったんだっけ…。
……。
…どうしよう。
きょうこに、おいていかれちゃうよぉ…。
……。
きょうこ…きょうこ…。
……。
…あ。
……。
きょうこ……。
……。
…えへへ、おひめさまだっこだ。
……。
…ん、はなさないで。
ずっと、はなさないでね…。
……。
…つれて、いって。
きょうこ…。
……、か。
……。
…た、だ、イ…マ。
……。
さ…や、カ。
う、ん…。
……。
…オカ、えり。
キョウ、こ……。
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