……。


   ……。


   ……。


   …あか


   義ハ山嶽ヨリモ重ク。


   …?


   死ハ鴻毛ヨリモ軽シ。


   ……。


   …。


   …さめて、しまうわ。


   鬼ノ山城、蛇ノ長門。


   …。


   イッソ赤城デ、首吊ロカ。


   …あかぎさん。


   ……。


   …。


   …ねぇ、加賀さん。


   はい…。


   …どうして私達には心があるのでしょうか。


   ……。


   どうして人の子の躰を持ち、更に心などと言う不安定なものを宿さなければいけなかったのでしょうか。


   …わかりません。


   どうしても生まれなければいけなかったのならば、鉄のままで良かったのに。
   戦わなければいけないのなら、心など、要らなかった。


   ……。


   …こんなものが、無ければ。


   あかぎさん。


   私は。


   …。


   …私は、為りたくなかった。
   人の子に模した姿になど、為りたくなかった。


   ……。


   …何処かでは慰み者のように扱われ。
   何処かでは、ひたすら使い捨てのように扱われる。
   ならば。


   …ここは、ちがうわ。


   ならば、心など、要らないでしょう。
   人の子にとっての道具なら、戦う為の兵器なら、心など!


   あかぎさん。


   私は、戦いたくなんか、なかった。


   …あ。


   ……。


   ……。


   …心など、無ければ。
   そんな事を思う事も考える事も……加賀さん、貴女を恋しく想う事も無かった。
   こんな苦しみも、痛みも、味わう事も無かった。


   …。


   ……私はただの兵器で、居られたのに。


   …わたしは、あかぎさん。


   貴女を想って、貴女だけを想って……誰かを面白くない、なんて。


   あなたをおもうことができて、しあわせよ…。


   …。


   …わたしたちは、“へいき”だけれど。
   それでも…わたしは、しあわせよ。


   …加賀、さん。


   たしかに、こころは…ふあんてい、で。
   あなたに、あえないと、さびしいとおもう、し…あいたいって、おもう。


   …。


   けれど…あかぎさん。


   …。


   …こうして、ふれたとき。
   ふれることが、できたとき…わたしは、うれしいと、おもうのです。


   ……。


   …こころが、なかったら。
   そう、おもうことも、なかったでしょうね…。


   …。


   でも、あかぎさん…あなたも、そうだったら。
   やっぱり、うれしいと…おもうのです。


   …う。


   ……ごめんなさいね。
   うまく、いえないわ…。


   ……。


   ……。


   ……。


   …ごはんが、さめてしまうわ。
   たべて、ください…あかぎさん。


   …。


   …わたしは、ここにいます。
   だから…ひとりじゃ、ないわ。


   ……。


   あかぎさん……。


   …お願いが、あるの。


   はい…。


   …酷く、自分勝手な事なの。


   …。


   ……貴女は、辛い思いを、しているのに。


   …いって、ください。


   ……。


   ……。


   …あなたに、ふれられたいの。
   その、あついて、で…ふれられたい、の。


   ……ああ。


   でも、けれど……。


   ……あかぎさん。


   ……。


   …なかないで、ください。


   ……私の心は屹度、欠けているのだわ。
   要らないなんて、思っていたから…。


   …。


   だから、だから……こんなにも、醜いのだわ。


   もしも、かけているとするならば。


   …。


   …わたしのこころ、で。


   ……。


   …ねぇ、あかぎさん。


   ……。


   きっと、わたしのもかけているのよ…。


   …かがさん、も。


   ええ……だから、ね。


   ……。


   …わたしたちは、ふたりが、いいのよ。
   ふたりで、やっと…ひとつのこころに、なるのよ。


   …。


   …ああ、だから。
   わたしは、あなたと…ちぎり……を。


   …加賀さん?
   加賀さん…。


   ……すみま、せん。
   すこし、つかれ、ました……。


   ……。


   ごはん、どうぞ、たべてください…。
   どうぞ…たべて、ください…。


   …分かった、分かったわ。
   だから、加賀さん…。


   …ああ、よかった。


   ……てを、かしていて。


   …はい、いくらでも。


   ……。


   ……。


   ……大好きよ、加賀さん。
   貴女さえ、居て呉れれば…私は。








   I know what it feels like...


   ……。


   Come on make feel alive...


   …。


   Feel alive, feel alive...


   …。


   あ、痛い。


   …ちゃんと反省しているの、あんた。


   何の?


   ……。


   痛い。


   …全く。


   ねぇ、蒼龍。


   何。


   あの頃の戦いは、何だったんだろうね。


   …何だったって。
   何が。


   だって今は、敵同士じゃないんでしょう?
   この国と、あの国々は。


   然うらしいわね。
   本当に仲が良いかは知らないけど。


   まぁ、殺し合いをしてないだけ、良いんじゃないの。


   …で。
   何が言いたいの、飛龍。


   あの頃の記憶は、私達の中にもある。


   …だから?


   難儀だよね。


   …それ、あんたの事じゃないでしょう?


   なんで?


   さっきの歌、あの頃で言う敵性語のものだった。


   うん。


   いつ?


   ラジオから聞こえてきた。


   で、覚えたの?


   うん、少しだけだけどね。


   ……。


   嫌?


   別に。
   酷く、溢れてるもの。


   然うだねぇ。
   あの頃だったら、半殺しにされるよね。


   半殺しで済めば良いけどね。


   くだらないって、思われてるのかねぇ。


   さぁ、どうだろ。
   それで、飛龍。


   はい。


   本題は?


   んー…。


   …赤城さんの事、でしょう。


   あの人さ、ただずっと漂うだけになってしまったでしょう?
   戦う事も出来ずに、誰も守る事も出来ずに。


   …。


   蒼龍が真っ先に沈んで。


   …ッ。


   …辛い?


   …続けて。


   次いで、加賀さん。


   ……。


   同時に攻撃を受けた赤城さんは…沈まなかった。
   黒煙を上げて、飛行甲板が反り返っても、真っ黒になっても、あの人は浮かび続けた。
   雷撃処分される、その時まで。


   ……うん。


   私も雷撃処分だったみたいだけどねー。


   …止めて、挟んでくるの。


   赤城さんさ、お腹の中から焼き尽くされていったんだって。
   とても、とてもとても、熱かっただろうね。


   ……。


   と言っても、あの頃は心なんて無かったけど。


   …赤城さんが、沈む時。


   ん?


   ……悲鳴のような音が聞こえてきたんだって。


   …。


   まるで、生きているかのような…そんな音が。


   …生きてたからね、鉄の塊だと言っても。


   ……。


   なんてさ、これも人の子特有の感傷ってヤツかもね。


   だけど。


   蒼龍?


   …私達は、生きてた。
   あの時、あの瞬間まで。


   ……。


   私に飛龍、あんたが居るように…赤城さんには加賀さんが居た。
   だけど、加賀さんが先に沈んで…あの人は、最期まで。


   …。


   確かに、別々の時もあったけれど。
   でも赤城さんの僚艦は…やっぱり、加賀さんだけなんだよね。


   …痛みは、消えない。


   ……。


   消えないけど、それでも、人の子は生きてゆく。
   赤城さんも加賀さんと、二人で、生きていけば良い。
   こんな姿でも、また逢えたのだから。


   …ごめんね、飛龍。


   ん、何で?


   …。


   あの時はあの時だよ。
   謝る事じゃない。


   …でも一人で、戦わせてしまって。


   それはそれ、今は今。
   だから、蒼龍。


   …わ。


   今度は、大丈夫。
   でしょう?


   ……。


   じゃないの?


   …分からないわよ、ばか飛龍。


   ここはさ、大丈夫って言うとこじゃないの?


   分からないのは、分からないの。


   もう、蒼龍は。


   ……。


   …お。


   ……心。


   …うん。


   ……悪いもんじゃ、無いよね。


   うん…悪いもんじゃ、無いよ。


   ……。


   だから、蒼龍。
   夏祭り、一緒に行こうね。


   …。


   ね。


   …それ、この流れで言う?


   へへ、言っちゃった。


   ……。


   お、苦しい。


   …飛龍の、ばーーーーーか。








   翔鶴さん。


   あ、はい。


   隣、良いですか。


   はい、どうぞ。


   有難う御座います。
   こちらは緑茶なのですが、如何ですか。


   …ああ。
   有難う御座います、頂きます。


   はい、どうぞ。
   ところで翔鶴さんは緑茶と紅茶、どちらがお好みですか?


   緑茶と紅茶、ですか?
   然うですね…どちらも好きです。


   然うですか。
   では今度、金剛さんが催すお茶会に参加してみたら良いかも知れませんね。


   お茶会、ですか?


   はい。
   金剛さんが淹れて呉れる紅茶はとても美味しいらしいので。
   そうそう、その時出される「すこーん」も美味しいですよ。


   鳳翔さんは参加した事は無いのですか?


   私は…どちらかと言うと緑茶の方が好きで。
   紅茶も飲みますが…味があまり良く分からないんですよね。
   でも「すこーん」は美味しいと思います。


   然うなんですか。


   そうそう、「すこーん」と言えば。
   此処に着任したばかりの頃の加賀さんの話なのですけど。


   はい。


   金剛さんの「すこーんが焼けた」を「酢昆布が焼けた」と聞き間違えて。
   真顔で「酢昆布が焼けた?それは美味しいのですか」と聞き返した事があったんです。


   酢昆布…それは。


   その時、加賀さんと一緒に居た赤城さんが一番に笑ってしまって。
   加賀さんのあまりの真顔ぶりに吹き出してしまったようなんですよね。


   …。


   加賀さんが来てから。
   あの子は、本当に良く笑うようになりました。


   …。


   …でも、あの姿があの子本来のものなのかも知れません。


   ……。


   赤城さんと加賀さんと言えば。
   お食事、持っていって呉れて有難う御座います。


   …いいえ。
   お役に立てて良かったです。


   …。


   …?
   鳳翔さん?


   夏祭り、本当に行かないのですか?


   …はい、私は。


   然うですか。


   あの、鳳翔さんは…。


   私は、どうしましょうか。


   …。


   人の子は面白いものですよね。


   …え。
   わ…。


   手を伸ばせば、こうやって、誰かに触れる事が出来ます。


   …。


   自分の足で歩く事も出来ます。
   然う、自分で考えて行動する事が出来る。


   …あ、あの。
   すみません、何を仰っているのか…。


   翔鶴さん、探しに行ってみましょうか。


   探す…?


   加賀さんが海から来たのは知っていますよね?


   …はい。


   赤城さんが、見つけてきたのです。
   寧ろ、呼び寄せたと言っても過言では無いかも知れません。
   それ程までにあの子はあの子を求めていました。
   自分だけの、あの子を。


   …。


   ずっと、自分の想いに蓋をして、気付かぬ様に、気付かぬ様にしていた。
   だけど、想いと言うものは日に日に大きく膨らんでいくようで。
   大抵、抑え切れるものでは無いのでしょう。


   …。


   心は、儘ならない。
   ふねの頃には無かったものでなかなか厄介だとは思うのですけど、でも、それが良いのかも知れません。


   …。


   翔鶴さん。


   …はい。


   寂しいと感じていますか?


   …!


   貴女の心は今、どんな感情を抱いていますか。


   ……さびしい。


   …。


   さびしい、です……とても、とても…。


   ならば。


   …鳳翔さん。


   一人、じっと待っていては想いは叶わないかも知れません。
   指を咥えて見ていても、欲しいものは、手に入らないように。


   ……でも、私は。


   次の討伐、貴女に出陣して貰います。
   つまり、初陣です。


   うい、じん…。


   はい。


   でも、私…。


   大丈夫です。
   貴女は一人では無いのですから。


   ……。


   翔鶴さん。


   …。


   …。


   …分かり、ました。
   私、翔鶴は。


   …。


   出陣、致します。


   …はい。
   この鳳翔、その言葉、しかと受け取りました。


   ……。


   翔鶴さん。


   …はい。


   屹度、叶います。
   いつか、きっと。


   …はい、鳳翔さん。








   ……。


   ……。


   …ぅ。


   ……加賀さん。


   …。


   …起こして、しまいましたね。


   ……あかぎさん。


   氷嚢を、取り換えたんです…温く、なってしまったので。


   …あかぎさん。


   はい、加賀さん…。


   あかぎさん……。


   …此処に、居ますから。


   ……。


   ……笑って、呉れるんですね。


   わらって、ましたか…。


   …はい。


   そう…。


   ……。


   ごはん…たべましたか…。


   …はい、頂きました。


   ん…よかった…。


   …加賀さんは、どうしますか。
   良かったら、私が…。


   わたしは…。


   …。


   …。


   …明日、は。


   ……。


   …一緒に食べましょうね。


   はい…あかぎさん。


   ……。


   …あかぎさん。


   なに…?


   わたしは…すきなんだと、おもいます。


   …。


   …あかぎさ、ん?


   ……また欲しく、なってしまうから。


   …。


   …だから、言わないで。


   ……。


   …加賀さん。


   ……あなた、の。


   ああ…やめて。


   ……の、すがたが。


   加賀さん…。


   ……たべて、いる、ときの。


   …え?


   ……すき、なんです。


   ……。


   とても……。


   ……あぁ。


   …すき、です。


   …もう。
   もう……。


   …ぁ。


   ……一人で、馬鹿みたいじゃないですか。


   あかぎ、さん…?


   ……ああもう。
   ばかだわ…本当に…。


   ……。


   ……。


   …よかった、ら。


   …。


   いっしょに、ねむりませんか…。


   …だめ、です。


   …どうして、ですか。


   貴女の熱が、下がってないからです。


   ……だいじょうぶ、ですよ。


   駄目です。
   絶対安静って、言われてるんです。


   …ぜったい、あんせい。


   然うです。
   だから…駄目、なんです。


   ……。


   …駄目です。


   じゃあ、てをつなぎながら…。


   …。


   それも、だめですか…?


   …それ、は。
   い、いえ、駄目です。
   今夜は貴女の看病、を…。


   ……だいじょうぶ。


   だめ、です……。


   …だいじょうぶよ。


   ……いけません。


   ……。


   ……。


   …おねがい、します。


   う…。


   …いっしょに。


   ……。


   ……。


   …ずるい。
   ずるい…ずるい…ずるい…。


   ……。


   そんなこと、いわれたら……いわれた、ら。


   ……いっしょ、に。
   ねむって、くれますか…。


   ……。


   …あかぎさん。


   ………。








   HEY、赤城、加賀!
   いいとこにいたネ!


   …。


   あ、はい。
   何でしょうか、金剛さん。


   Sconeが丁度、焼けたネー!
   一緒に、いかがデスカ?


   …すこ?


   ああ。
   どうしましょうか、加賀さん。
   金剛さんが作る


   Yes!
   今回も自信作ネ!!


   …。


   …加賀さん、どうしますか?
   加賀さんが行くのなら私も…


   加賀、赤城と一緒にドウデスカ?
   私が焼いたScone、是非、二人にも食べて欲しいデース!


   金剛さん。


   …?
   …加賀さん?


   何デスカ?


   今、なんと言いましたか?


   …え?


   Oh!加賀、聞こえてなかったんデスネ!
   All right!今度は良く、聞いててくださいネ!


   …そもそもなんと言っているか、分からないのですが。


   …加賀さん、金剛さんは英国生まれなんです。
   だから…


   Sconeが焼けたネ!
   赤城と一緒にいかがデスカ!?


   酢昆布が焼けた?
   美味しいのですか、それは。


   か、加賀さん?


   もちろんネ!
   私が焼いたScone、提督もおいしいって言って呉れるヨ!


   私にはとても、然う思えませんが。


   加賀さん、酢昆布では無くて…。


   Tea party、二人で来て欲しいネ!
   比叡、榛名、霧島もいるヨー!


   …赤城さん。
   酢昆布は焼くと美味しくなるものなのですか。


   加賀さん、金剛さんが焼いたのは酢昆布では……


   冷めないうちに早く早く、ネ?


   …どうも、美味しそうには思えないのですが。
   寧ろ、けったいな…


   だから…ふっ。


   Oh、赤城?


   …?
   赤城さん?


   ふふ、ふふ…。


   Wow!
   赤城、楽しそうネーー!


   …可笑しかったですか?


   だって、加賀さんったら…すこーんを、酢昆布だなんて……ふふ、ふふふ。


   赤城が笑うの、初めて見たヨ!!
   今日は良い事がありそうネー!!


   赤城さん。


   もう、加賀さんったら……ふふ、あははは。








   ……。


   ……。


   ……。


   …う。


   ……。


   ……かが、さん?


   …。


   …?
   かがさん…どこ…。


   …。


   かがさん…かがさん……。


   …私は、此処よ。


   どこ…。


   ……。


   かがさん、どこにいるの…。


   …赤城さん。


   ……あ。


   …私は、此処に居るわ。


   ……ああ。


   …。


   加賀、さん…。


   …貴女の、夢を見ました。
   出逢って間もない頃、の。


   私の…?


   貴女が笑っている…そんな夢を。


   …ん。


   赤城さん。


   あ…う…うぅ、ん。


   ……赤城さん。


   まっ、て……。


   …。


   だめ、です…加賀さん。


   …何故ですか。


   貴女は…熱、が。
   高い、熱が…あ。


   …大丈夫だと。


   や、だめ…あつ、い。


   大丈夫だと、言った筈です。


   加賀さ…や、ぁ。


   ……。


   駄目です…だめです…だ、め…。


   …もう、欲しくは無くなったのですか。


   そう、じゃない…そうじゃない、の…。


   …では、欲しいですか。
   私が、欲しいですか。


   …う、あ。


   ……。


   …あつい…あつい……あつい……。


   ……然うよ。


   だめ……とけ、て……とけて、しまう……。


   …それが、私の熱。
   今の私の生、命の…。


   ……ぅ…う……う…。


   …私はいつか、貴女を。
   焼き殺してしまうかも知れない…。


   …は、…ぁ…、あ、あ、あ、あぁぁ。


   ……。


   …あなたに、なら。


   ……。


   あなたになら…そうされて、も。


   ……。


   …かまわない、わ。


   ……。


   …ねぇ、かが。
   ねぇ、わたしのかが…。


   ……あかぎ。


   …もっと、ねつを。
   あなたのねつを、ちょうだい…。


   …。


   …わたしに、うつして。


   ……。


   わたしを、そのねつで、こわして。


   ……。


   …ころして、かが。


   ……だったら、笑って下さい。


   …。


   …笑って、あかぎ。


   ……。


   あぁ…きれい、です。


   ……。


   ……ほんとう、に。


   …かが。


   ……すきです。


   う…ぁあぁッ!


   すき…すき……すき……すき………すき………。


   ……、…っ、……ァ、…ぁああああッ。








   赤城さん…!!!


   ……ひこうかんぱん、は。


   これ、は……。


   ……ぶじ、ね。


   皆、聞いて下さい!!
   赤城、腹に被弾大破!戦闘不能!!


   ……さん、いま、いくから。


   従ってこれ以上の進撃は不可能と判断し、撤退を進言致します!!
   ……承認されました!
   比叡さん、榛名さん、殿をお願い出来ますか!


   分かりました!


   お姉さまと榛名にお任せ下さい!


   綾波さんは赤城さんに!


   はい!


   敷波さんは周囲警戒を!


   了解!


   では、参ります!


   …てったい、など。


   …!


   てったいなど、しません…。


   だめです、赤城さん…!


   …ひこうかんぱんは、ぶじです。
   いけます…。


   飛行甲板が無事でも、赤城さんの躰が…!!


   …このさき、に。
   このさき、で…。


   蒼龍さん、赤城さんが…!


   …ッ。
   赤城さん…!!!


   わたし、は…。


   赤城さん、撤退です!
   これは旗艦命令です!!


   …わたし、は。


   綾波さん、無理矢理でも良い、引き摺っても良い、赤城さんを!!


   わ、分かりました!


   ……はな、して。


   綾波、離しません!
   絶対に、離しません…!!


   はなして…はなし、て……。


   蒼龍さん、速度を上げて!


   敵に、敵に追いつかれてしまいます…!!


   敷波さん!!
   貴女も赤城さんについて!
   周囲警戒は全て、私が引き受けます!


   はい…!!!


   …いや、よ。


   赤城さん、だめです!


   撤退です、赤城さん!!


   いやよ、いやよ、だって、このさきに、このさきに…。


   生きていなきゃ!!!


   …いる、かもしれない、のに。


   生きていなきゃ、逢えるもんも逢えないんですよ…!!


   ……かが、さん。


   お腹に!でっかい!!穴開けて!!


   そのまま沈んでしまったら駄目です、赤城さん!!


   かがさん……かがさん……。


   敷波、そっちを!


   おーよ、任せて!!!


   かが…ああ……かがぁ……。


   榛名!!


   比叡姉さま!!


   あ、ああ……ぁぁ…。


   いつか、屹度…いつか、屹度…!!
   今は、その為に…!


   あぁぁぁぁぁぁ………。








   ……。


   …蒼龍。


   んー…?


   進んでないねぇ。
   酌、してあげよっか?


   …と言うか。
   あんた、飲み過ぎ。


   やだなぁ、そんな飲んでないよ。


   どうだか。


   考え事?


   あの時だけだったなぁって。


   あの時?
   どの時?


   赤城さんが敵の砲弾まともに喰らってお腹にでっかい穴を開けた時。


   うわぁ、痛そう。


   痛いでしょ、そりゃあ。


   腕一本吹っ飛んでも凄い痛いもんねぇ。


   …。


   でもあんまり血を流してしまうと何にも感じなくなるんだよね、不思議な事に。
   と、経験者は語る。


   …飛龍。


   痛いのは嫌なんだけど。
   戦う以上、こればかりは、しょーがないしねぇ。


   慢心だめ、絶対。
   なんでしょ。


   うん、然う。


   ……。


   んー…今宵のお月さんは欠けてるね。


   一度だけ、だった。


   うん?


   赤城さんのあんな姿を、見たの。
   加賀さんを求めていたのは、知っていたけど。


   …。


   どうしようもなくなっちゃったんだろうと思う。


   …。


   抑えていた自分が溢れ出してしまった。
   でも、あんな大きな怪我をしないと出せないなんて。


   …。


   …赤城さんのあんな姿、出来ればもう見たくない。


   加賀さんが居れば、見る事も無いよ。
   二度、と。


   …。


   ほら、蒼龍。
   もっと飲め、飲め。


   て。
   もう、要らないわよ。


   遠慮しない。


   してないから。


   まぁ、然う言わず。


   …て。
   ああ、もう…。


   んー……。


   …はぁ。
   飛龍。


   なに?


   …。


   蒼龍?


   あんたはあんたで待たせ過ぎなのよ、ばか。


   はい、ごめんなさい。


   …もう、寝る。


   えぇ、一寸早くない?


   明日は討伐だから。


   ねぇ蒼龍、酔ってる?


   酔ってない。


   蒼龍。


   …う。


   ……。


   …離して、飛龍。


   お腹。


   …。


   …穴開ける前に来られて、良かった。


   ……。


   私もこれ飲んだら、寝ようかな。
   だから待ってて、蒼龍。


   いや、よ。


   で、一緒に寝よう。


   狭いから、やだ。


   たまには、ね。
   良いよねぇ。


   聞け、こら。


   うん、聞かない。








   …。


   ……ぅ、ん。


   ……。


   …。


   …。


   …かがさん。


   …。


   ……?


   …。


   …う、で?


   …。


   ……うで、まくら。
   かがさんの、うで……。


   …。


   …かがさん、…かがさん。


   なんですか、あかぎさん。


   …あ。


   ……あかぎさん。


   あ、あの…あの、ね。


   …はい。


   その、うで…。


   …ああ。
   まくらが、なかったので…かわり、に。


   …このままでだいじょうぶ、ですか?


   だいじょうぶ、よ…。
   あかぎさんが、いやでなければ…。


   …そんなわけ、ありません。


   そう…なら、このままで。


   …。


   …ん。
   あかぎさん…?


   …おなかの、なか。


   おなか…。


   …とても、あつかったです。


   ……。


   …かがさんのねつが、わたしのなかに。


   いや、で…む?


   …なんど、いわせるのですか?


   ん…。


   …あなたのねつが、いやなわけ、ないでしょう?


   …。


   …すきなひとのうで、ゆび、くちびる。
   それから…。


   …。


   …あなたの、いのち。


   ……あかぎさん。


   ふふ、ふふふ…かがさん、かがさん…。


   …。


   ……このじかんが、ほしかった。
   ずっと、ずっと、ほしかった…。


   …。


   ……あなたのねつが、ほしかったの。


   うれしいわ…あかぎさん。


   …ほんとうに?


   わかりづらいかも、しれないけれど…これでも、とてもうれしいのよ。


   …かがさん。


   ……よあけまで、まだじかんがあるわ。


   …はい。


   ……。


   …あ。


   どうしましたか…?


   …ひょうのう。


   ああ…いったでしょう?
   もう、だいじょうぶだと…。


   …でも。


   ……あかぎさんと。


   う…。


   …こうして、いれば。
   わたしは…。


   ……。


   …。


   …も、う。
   そんなわけ、ないでしょう…ばか。


   …そんなわけ、あるのですが。


   ……いちおう、かえます。


   …。


   …かがさん。


   ……もどってきてくれますか。


   もどって…?


   …ここに。


   ……。


   …あかぎさん。


   ……いわせないで、ばか。


   む…?


   ……。


   …。


   ……うでまくら。


   …。


   …また、してくれるなら。


   ……いつまでもあけて、まっています。


   …。


   …。


   ……もう。
   ばか…。








   加賀さん!


   なに、赤城さん。


   ふふ。


   ?
   何か可笑しかったですか?


   楽しいの。


   楽しい…。


   加賀さんと一緒に居るから。


   私と?


   加賀さんは、どうですか?


   然うね…楽しいわ、赤城さん。


   あとね。


   はい。


   嬉しいの。


   嬉しい、ですか。


   ええ、とても。


   …。


   答えて?


   ?


   聞かれなくても。


   …。


   もう…加賀さんは。


   ん…。


   そういうところ、本当に変わらないんだから。


   …。


   …私は、嬉しいの。
   貴女と同じ時を過ごせて…同じ道を歩けて……歳を、重ねる事が出来て。


   …ああ。


   ねぇ、加賀さん…加賀さん、は。


   …。


   …加賀さん。


   嬉しいわ、赤城さん。


   ……本当に?


   …私は、変わらないわ。


   え…?


   …私はずっと、赤城さんだけよ。


   あ……。


   …伝わりましたか。


   ……。


   …赤城さん?


   ああ、もう…加賀さんは本当に、ずるいわ。


   ずるい、ですか…?


   …ずるい。


   ……謝るべき、かしら。


   …それよりも。


   …それよりも?


   ……抱き締めて下さい。


   …。


   …。


   …幾らでも。


   ……。


   赤城さん。


   …ねぇ、加賀さん。


   はい。


   …あの頃より、大きくなりましたね。


   …?
   大きく…?


   …背丈、です。


   ……ああ、言われてみれば。


   分かっていたくせに…。


   …確かに近くなりました。


   近く…?


   …貴女の、顔が。


   ……。


   …ですが、追い越す事は出来ないようです。


   ……そんなの、簡単な事よ。


   簡単…。


   …ええ、とても。


   ……。


   …試してみる?


   ……いいえ。


   良いの…?


   …私はこれで、良いと思っているので。


   …。


   ……赤城さん。


   はい…。


   …私の一生は、貴女のものです。


   ……。


   …。


   …私の一生は、疾うに、貴女に捧げました。


   ……。


   …加賀さん。


   …赤城さん。





   おかあさん…!





   …あ。


   …ああ。


   …。


   …。


   …ふふ。


   可笑しい…?


   …はい。
   とても…とても。


   …然うね。
   私も可笑しいわ…とても。


   …それから。
   嬉しいです…とても。


   ええ…私も。


   …。


   …。


   …行きましょう、加賀さん。


   …はい、赤城さん。








   ……。


   …。


   ……ゆ、め。


   …。


   ……おかあ、さん。
   でも、だれが…。


   …。


   ……。


   …どんな、夢を。


   あ…。


   …見たの、ですか。


   ……加賀さん。


   おはようございます…赤城さん。


   …おはよう、ございます。
   加賀さん…。


   …どんな夢を、見ていたのですか?


   ……。


   …赤城さん?


   覚えて、無いのです…。


   …。


   ……熱、もう大丈夫ですか。


   はい…良く、眠りましたから。


   …本当に良く眠れた?


   赤城さんと、一緒でしたから。


   …。


   ……貴女の熱を感じていると、酷く、安心するのです。


   …。


   …赤城さんは熱くて寝苦しくは、無かったですか。


   それ…今更、聞いてしまいますか?


   …ああ。
   それも、然うですね…。


   …もっと、ぎゅうってしてください。


   ……幾らでも。


   …。


   …赤城さん。


   はい…。


   ……赤城さんがどんな夢を見たのか。


   …。


   …気になって、仕方がありません。


   ……私も、です。


   …。


   自分がどんな夢を見たのか……けれど、どうしても、思い出せないの。


   …然う。


   …でもね、加賀さん。


   はい。


   …とても、しあわせな夢だったと思うのよ。


   しあわせ…。


   …お母さん、と。


   …。


   誰が誰の事を然う呼んでいたのかは…思い出せないのだけれど。
   でも、貴女が居た事だけは…はっきりと分かるのです。


   …どうしてですか?


   貴女の熱が、然う思わせて呉れるの。


   …。


   …私がしあわせな夢を見る、なんて。
   信じられないわ…。


   …。


   …夢、なんて。
   見たくも無かったのに…。


   …。


   屹度…加賀さんが居て呉れるからなのだわ。
   然う…加賀さんが、見せて呉れたのよ。


   …今度、見た時は。


   ん…加賀さん。


   是非とも…覚えておいて下さい。
   お話、聞きたいです。


   …もう、加賀さんったら。


   だって…気になるのよ。


   ……。


   …ん。


   ……赤城さん。


   …加賀さん。


   ……お腹、空きませんか?


   え…。


   …私は、空きました。


   ………ふふ。


   …可笑しい?


   はい…とても。


   …然う。


   加賀さんは、私を楽しくさせて呉れる才があるんですね…。


   …それは喜ぶべきでしょうか。


   喜んで呉れると…嬉しいです、私。


   …ならば、然うしましょう。


   …。


   …嬉しいわ、赤城さん。


   はい…。


   …。


   …朝ごはんは一緒に食べられますね。


   はい…一緒に。


   …良かった。


   赤城さん…。


   でもね、その前に…。


   …?
   はい…。








   …はぁ。


   …ふぅ。


   ……ふふ。


   …。


   …気持ち、良いですね?


   …ええ、本当に。
   昨日は結局、お風呂に入れませんでしたから。


   …。


   …ん、赤城さん?


   久しぶり、だったんですよ…?


   …久しぶり?


   だから、綺麗な躰で…と、思っていたのに。


   …。


   …なのに、加賀さんったら。


   ……。


   …分からないの?


   ……致した事、でしょうか。


   …。


   …う。


   もう、加賀さんったら。


   …赤城さん、鼻は。


   ……。


   赤…ん。


   ……。


   ……。


   …いつだって真面目な顔、で。
   本当、に…。


   ……赤城さん。


   …本当に、愛しい。


   ……。


   …貴女が、愛しい。


   私もです…赤城さん。


   …心なんて、要らなかった。
   けど、今は…。


   …。


   …貴女を愛しいと感じる、この心を。
   失くしたくない…。


   …大丈夫よ、赤城さん。


   ……。


   …屹度、大丈夫。


   加賀さんが。


   …。


   …大丈夫に、して下さい。
   私の心を…どうか、守って。


   …貴女が然う、望むのなら。
   私は…私の全てを以て、応えましょう。


   ……。


   …必ず。


   ……だったら。


   …。


   …貴女の心は誰が守るの。


   …。


   …誰に。


   願わくば。


   …。


   ……赤城さん、貴女に。


   …加賀さん。


   う…。


   ……もっと強く、はっきりと、言って。


   つよく、はっきり、ですか…。


   …私は貴女の伴侶なのだから。
   伴侶に主従のような振る舞いは、必要無いでしょう…?


   ……。


   …私は貴女の全て、を。


   ……守って下さい、赤城さん。


   …。


   ……守って。


   …はい、私の全てを以て。


   ……。


   加賀さ…ん。


   ……。


   …ああ。


   ……赤城さん。


   のぼせて、しまいそう…。


   …。


   …かがさん。





   お、お二人も朝風呂ですかー?





   ……。


   ……。


   お早う御座います、赤城さん、加賀さん。
   加賀さんは熱、大丈夫なんですか?


   …お早う御座います、飛龍さん。


   …お早う。
   熱は大丈夫よ。


   然うですか。
   それは良かった良かった。


   飛龍さんも、その、お風呂なんですね。


   はい、朝ごはんの前にさっぱりしたくて。


   …蒼龍は一緒じゃないのね。


   未だ、寝てますよ。
   朝寝坊ってヤツですね。


   …。


   …。


   ともあれ。
   今日も今日とて、お二人が円満で良かったー。


   …飛龍さん。


   …飛龍。


   お二人が円満だと此処は今日も平和だと思えるから、良い事なんです、よ。


   ……。


   ……。


   何と言ってもお二人はこの鎮守府唯一の夫婦、なんですから、ね。








   …。


   …。


   あぁ、良いお風呂だったぁ。
   朝からってのも良いもんですね、赤城さん、加賀さん。


   …然うですね。


   …然うね。


   さぁて、今朝のごはんは何かなぁ。
   んー、楽しみ。





   飛龍……!!!!





   あ、蒼龍。
   おは


   ……こん、の。


   え。


   ばか飛龍がぁ…ッ!!!


   あいたぁぁぁ…!!!


   今日と言う今日は…ッ。


   や、蒼龍、本気で痛…たぁッ!


   今日は討伐だって言ったわよねぇ、私は!!


   う、うん、聞いた、て、それは良くない、その握り拳は良くないよ、蒼龍…!


   …何が、かしらねぇ?!


   弓取りたる者、手を傷付けるような真似は……がぁッ!!


   ……こんの、石頭!


   り、理不尽だよ、蒼龍…。


   へぇぇぇ……?


   …はい、ごめんなさい。


   ……。


   ……。


   …ご迷惑とは存じますが。
   赤城さん、加賀さん、どうか助けて下さい。


   …と、言われましても。


   お早う、蒼龍。


   …お早う御座います、加賀さん。


   赤城さん。


   …はい、加賀さん。


   私達は一足先に食堂に参りましょう。
   これは二人の問題です。


   え、一寸、加賀さぁん?


   赤城さん、手を。


   え…あ。


   それでは、参りましょう。


   そんな殺生なぁ…。


   あの、加賀さん。
   一寸、待って貰っても良いですか。


   …。


   赤城さん、流石…!


   …お願いします、加賀さん。


   …分かりました。


   やった…やりました!


   有難う、加賀さん。
   蒼龍さ…えと、蒼龍、お早う御座います。


   お早う御座います、赤城さん。
   朝から加賀さんとお二人でお風呂ですか?


   …ええ、まぁ。


   然うですか。
   気持ち良いですよねぇ、朝のお風呂。
   ところで加賀さんは熱、もう大丈夫なのですか?


   ええ、大丈夫よ。


   それは赤城さんのおかげ、ですね。


   ええ…然うね。


   …飛龍さん。


   はい、赤城さん。


   貴女が何をしたのかは私達には分かりません。
   けれど尋常では無い怒り方を蒼龍さんはしているようなので、きちんと謝った方が良いと思います。


   ですよね、やっぱり。


   良かったですね、赤城さん。
   加賀さんが元気になって。


   はい。
   良かったです。


   それで、飛龍。


   はい、ごめんなさい。


   赤城さん、もう宜しいですか。


   …はい。


   飛龍。


   ごめんね、蒼龍。


   では、参りましょうか。


   はい…参りましょう、加賀さん。


   と言うか飛龍、あんた今日翔鶴と出陣だからね。


   はい、ごめ……え。


   翔鶴、初陣だから。
   ちゃんとするように。


   …聞いてないよ、それ。


   私も聞いてなかったから。


   じゃあ、いつ聞いたの。


   つい先刻。


   誰に?


   鳳翔さん。


   ……あー。


   言っとくけど、飛龍。


   …分かってるよー。
   そっか、翔鶴がねぇ…うん、そっか。


   で、話は戻るけど。


   戻るの…?!








   …お早う御座います、赤城さん、加賀さん。


   …。


   …。


   あ、えと…。


   …お早う御座います、翔鶴さん。


   お早う。


   あ、あの、加賀さんは熱はもう大丈夫なんですか。


   ええ。


   然うですか…良かったです。


   翔鶴さん。


   は、はい、赤城さん。


   改めて昨日は…有難う御座います。


   …え。


   加賀さんと私の分のごはんを、持ってきて頂いて。


   あ、いえ、そんな…。


   私からも有難う、翔鶴。


   い、いえ…あ、加賀さんは食べられましたか?


   …いいえ。


   然う、ですか……?
   となると、加賀さんの分は…


   …私が頂きました。


   あ、ああ…。





   皆さん、揃っているようですね。





   あ、鳳翔さん…。


   赤城さん、加賀さん、翔鶴さん、お早う御座います。
   加賀さんは…もう、大丈夫そうですね。
   けれど無理は禁物、ですからね。


   お早う御座います、鳳翔さん。


   お早う御座います。
   昨日はご心配をお掛けしてしまい、申し訳ありませんでした。


   あら、私よりも心配を掛けて、そして心配をして呉れた人が隣に居るでしょう?
   ちゃんとお礼は言いましたか。


   …いえ、未だです。


   それはいけませんね。
   伝えるべき事はちゃんと伝えないと。
   長く続ける為の秘訣ですよ。


   …すみません。
   赤城さん。


   加賀さん、私は


   有難う、赤城さん。


   …は、い。


   うふふ。
   加賀さん、お腹が空いたでしょう?
   沢山、食べて下さいね。


   はい、鳳翔さん。


   赤城さんも。
   今朝もごはん、たんと炊きましたから。
   おかずは焼鮭に目玉焼き、それから筑前煮、お漬物はお茄子と胡瓜の浅漬け、お味噌汁の具は榎茸と若芽です。
   おかわり、して下さいね。


   はい。


   翔鶴さんも、ですよ。
   空母はともあれ、食べないといけません。


   え…あ、は、はい。


   緊張しているのは分かりますが。
   いざと言う時に空腹で動けない、なんて、目も当てられませんから。
   せめて、お味噌汁だけでも食べていくんですよ。
   良かったら果物も剥きますから、遠慮せずに言って下さいね。


   …有難う御座います、鳳翔さん。


   鳳翔さん。


   なに、加賀さん。


   浴衣、なのですが。


   ああ。
   覚えていて呉れたのですね?


   …結局、袖を通せなかったので。


   ならば…然うですね。
   午前は執務があるので…お昼過ぎにまた、私の部屋に来て呉れませんか。
   勿論、赤城さんと一緒に。


   …赤城さん、良いですか。


   良いです…けれど。
   でも、今日の予定は…


   加賀さんの本日の予定は変更して、病み上がりの為休養。
   赤城さんは加賀さんが無理をしないように傍に付いていて下さい。


   …。


   けれど、良いのですか…?


   この場所の提督は。
   然ういう人、なのですよ。


   …。


   …。


   無理して戦果が出れば良し。
   でも、無理したところで出なければ無駄骨。
   そもそも疲労が溜まってる時に無理したところで戦果なんで到底出ない、出やしない。
   だったら美味いもの沢山食べて、気分展開して、でもって寝てろ。
   だ、然うです。


   …。


   …はぁ。


   まぁ、大丈夫です。
   なんだかんだで此処も大分、賑やかになってきたので。
   ねぇ、翔鶴さん?


   は、はい、頑張ります…!


   …。


   …。


   そうそう。
   今日、翔鶴さんは初陣なんです。


   初陣?
   翔鶴が?


   …翔鶴さんが。


   ……。


   翔鶴。


   は、はい、加賀さん。


   前を見据えて。
   目を、決して、逸らさない。


   は、はい。


   翔鶴さん。


   は、はい、赤城さん。


   背筋を伸ばして。
   真っ直ぐ空へ、矢を放つ。


   …はい。


   気を付けて。


   どうか、無事に。


   …はい、有難う御座います。


   ふふ。
   ところで蒼龍さんと飛龍さん、遅いですね。
   お寝坊、かしら。


   …。


   …。


   蒼龍さんとは先程、会ったのですが。
   二人とも、知りませんか?


   …犬も食わない、でしたか。


   え、と…直、来ると思います。








   …袖の詰めが少し甘いようですね。
   有難う、加賀さん。もう動いでも良いですよ。


   …はい。


   加賀さんは元々、腕が長くてすらりとしているのですが。
   少し、予想以上でした。


   …お手数をお掛けします。


   良いのですよ、好きでやっているのですから。
   寧ろ、楽しいのです。


   …。


   あの頃より少しだけ、大きくなりましたね。


   …そのようです。


   赤城さんの方は…ほんの少し手直しをすれば良さそうですね。


   ……。


   お気に召しませんでしたか?


   …いえ、そんな事は。
   その…有難う御座います、鳳翔さん。


   矢張り、楽しいものですね。


   …え?


   女の子の着物を仕立てると言う事は。
   色や柄、色々考えて…布地を用意して。


   …。


   …女の子。


   今回は赤城さんと加賀さんの分しか仕立てられなかったけれど。
   機会を見つけて、皆の分も仕立ててみようかしら。


   …。


   …。


   はい、そんな顔しないで。


   …。


   …鳳翔さん。


   加賀さん、貴女の瞳には赤城さんの姿はどう映っていますか?


   …赤城さんの。


   はい。


   ………。


   …加賀さん、あまりじっと見ないで。


   赤城さんは、どうですか?


   え。


   加賀さんの姿。


   ………。


   …赤城さん。


   ふふ。


   ……。


   ……。


   私、お邪魔かしら?


   …いえ。


   …そんな事は。


   ふふふ、なら良いけれど。
   ああ、そうそう。


   …。


   …。


   夏祭りの日、お二人は非番でお願いしますね。


   ……。


   …良いのですか。


   と言うより、その日はほとんどの娘が非番ですから。
   勿論、防衛の為の要員は残しますけどね。


   …。


   …。


   楽しみですね、夏祭り。


   ……赤城さん。


   …はい。


   それでは二人とも、有難う御座いました。
   今日はどうぞ、お二人でゆっくりして下さい。








   ……。


   …ねぇ、加賀さん。


   …何ですか。


   これから、どうしましょうか。


   …然う、ね。


   本当なら部屋に戻って休むべきなのでしょうけど…。


   …何かしたい事でもありますか?


   したい事…。


   …。


   …私は加賀さん、と。


   赤城さん。


   …はい。


   手を、繋いでも良いですか。


   …。


   …。


   ……はい。


   …。


   ……ねぇ、加賀さん。


   …はい。


   少し、お散歩したいです…加賀さんと、手を繋いだまま。


   …では、然うしましょう。


   それから、間宮さんに行って…餡蜜を一緒に食べたいです。


   …ああ、良いですね。


   それから、それから……。


   …。


   ……兎に角、加賀さんと一緒に居たいです。


   …赤城さん。


   加賀さんも同じ気持ちなら…嬉しい、です。


   …私は。


   ……。


   赤城さん。


   …はい。


   一緒に、居て下さい。


   ……。


   …。


   …喜んで。


   …。


   ねぇ、加賀さん…もう、夏なんですね。


   ええ…夏、です。


   …。


   …。


   …夏祭り。


   …。


   ……楽しみに、してます。


   赤城さん…。


   …だから熱、出さないで下さいね。


   …。


   …。


   …ええ、気を付けるわ。


   ……。


   …だから、一緒に。


   はい……。


   …。


   …ねぇ。


   なに…。


   空…夏の空色、ですね。


   夏の空色…ですか。


   …はい、夏の空色です。


   ……。


   だって、ほら…。


   …。


   …雲の輪郭が、あんなにくっきりとしていて。
   青と白が、はっきりと……。


   …ああ。


   ……だから、ね?
   夏の、空色…。


   …夏の空色。
   一つ、覚えました。


   …。


   …。


   …ふふ、ふふ。


   可笑しいですか…?


   …はい、とても。


   ……私も、です。


   …。


   …ゆっくり、行きましょうか。


   はい…加賀さん。









  夏 立 ツ 了


   Song...
    “Alive” Krewella
















   …。


   …美味しいですね。


   はい…とても。
   矢張り、間宮さんの餡蜜は美味しいです。


   …。


   …ん、赤城さん。


   くりーむ、が。


   …ああ。


   ふふ…子供みたいですね。


   ……。


   …気に障りましたか。


   いえ…ただ、私はこんななりなので。


   …。


   …せめてもう少し、この躰が大きくなって呉れれば良いのだけれど。


   なりましたよ…あの頃より。


   …。


   …私、考えてます。


   考える…?


   貴女は私のどこが、好きなのか。


   ……。


   聞かれたのでしょう?
   飛龍に。


   ……ああ、然う言えば。


   それで、考えてみたんです。
   私は貴女のどこが、好きなのか。


   …今、ですか?


   ええ、餡蜜を食べながら。


   …それで。


   気になります?


   ……。


   気になるって言って呉れたら…教えてあげても良いです。


   ……。


   加賀さん?


   …別に良いわ。


   え。


   ……。


   か、加賀さん?


   ……。


   …。


   ……。


   …加賀さんへの不満。


   …え。


   欲しい言葉を、呉れない事。


   ……。


   元々寡黙で、言葉数が少なくて、語彙が少ないだけかも知れないけど、何より不器用で。
   そんなところも好きです、好きですけど。


   …え、と。


   でも、言葉で教えて欲しい時だってあるの。


   う…。


   ……躰だけじゃ、駄目なんです。
   足りないんです…。


   ……。


   …ねぇ、気になって。


   ……。


   …じゃないと、私。


   なっているわよ。


   …。


   …ならないわけ、ないでしょう。


   だったら、言って。
   ちゃんと、言葉にして。


   …。


   …この口はごはんを食べる為だけにあるわけじゃない。
   それを教えて呉れたのは…加賀さん、貴女なの。


   …私が?


   然うよ。


   ……記憶に、無いわ。


   あるわけ、ないでしょう…?


   赤城…ん。


   ………。


   ……。


   …ねぇ、好き。
   好きよ…。


   …赤城さん。


   熱も、形も、声も、瞳の色も、肌の滑らかさも、掌の少し硬い部分も、髪が柔らかいところも、戦っている時の佇まいも、
   不器用なところも、私以外には無愛想で、でも本当はとっても優しくて。
   私に触れて呉れる指や唇はひたすら柔らかくて、熱くて、甘くて…たまに、壊れてしまいそうになるくらいに、激しくて。


   …。


   貴女の、全てが……ぜんぶ、ぜんぶ…。


   …。


   ……好きなの。


   …。


   ……ねぇ、教えてあげたわ。
   だから…ん、ぅ。


   ……。


   ……。


   ……そういう、ずるいところも。


   …。


   私を見つめる時の……真剣な、眼差しも。


   …好きです、赤城さん。


   ……。


   ……好きよ。


   …かがさん。


   ……。


   ……。





   あーーーーーーーーーーーーー……。





   …。


   …明石さん。


   え、と。
   お元気そうで何よりです。


   …。


   明石さん、昨夜は…。


   絶対安静、と、私は言いました。
   よね?


   …。


   …はい。


   ちゃんと、してましたか?


   …寝たわ、ちゃんと。


   はい…加賀さんはちゃんと安静にしてました。


   然うですか。
   でもまぁ結果的に、加賀さんが元気になられたのならそれで良いです、けど。
   私が仮眠しか、摂ってなかったとしても。
   お二人がばっちり睡眠を摂れたのなら、それはそれで結構なお話です、はい。


   …赤城さん。


   ……え、と。


   ああ、良いですよ。
   直ぐに行きますから。
   でも、ですよ?


   …。


   …加賀さん。


   お二人は夫婦で、しかも新婚さんで?
   出陣やら演習やら遠征やらで一緒に居られる時間が限られちゃって。
   だから、二人で居られる時は…まぁ、然うしたいでしょう、うん、分かりますよ、うん、分かります分かります。



   …。


   …。


   餡蜜、食べて下さい。
   アイスクリーム、融けてしまう前に。
   て、もう、融けてますかね?


   明石さん。


   はい?


   昨夜は、有難う御座いました。


   ああ、いえいえ。
   けど加賀さん、疲れたのならちゃんと休まないと駄目ですからね。
   疲労が抜けないまま出陣してうっかり大破なんて、笑えないんですからね。
   特に貴女の隣に居る人が。


   …分かっているわ。


   と、加賀さんは言いますけど。
   赤城さん。


   …私は


   加賀さんはどうも、私達には分かり辛いので。
   だから赤城さん、伴侶である貴女がちゃんと見ていてあげて下さい。


   …。


   …どういう意味でしょうか。


   そのままの意味、です。


   …。


   …。


   なんて偉そうな事、言ってしまいましたけど。
   でもそんなものだと思うんですよね、夫婦って。
   自分では見えないものでも、他所の他人には勿論見えなくても、生涯の契りを交わした者には見えるかも知れない。


   …。


   …。


   だから加賀さんも、赤城さんの事ちゃんと見ていてあげて下さいね。
   私達には、やっぱり、分かり辛いので。


   …。


   …。


   はい、以上です。
   私はこれから寝ます。
   おやすみなさい。


   …お休みなさい。


   …お休みなさい。


   あと、それから。
   一応、時と場所は選んだ方が良いかなぁと思います。
   駆逐艦の子達の刺激と話のネタにしかならないと思うので、はい。








   …。


   …赤城さん。


   …はい。


   餡蜜、美味しかったですね。


   …はい、とても。


   あいすくりーむ、ついてませんか。


   …はい、大丈夫です。


   然う…。


   …ん。


   ……赤城さんにも、ついていないわ。


   …残念です。


   ……。


   ……。


   …行きましょうか。


   …。


   お勘定、今回は私の番ね。


   私が、出します。


   いいえ、私です。


   加賀さんが元気になって呉れたから。
   だから、出したいんです。


   私が元気になったのは、赤城さんが傍に居て呉れたからよ。
   だから、私が出すわ。


   いいえ、私が。


   いいえ、私が。


   加賀さん。


   赤城さん。


   どうしても譲って呉れないのですか。


   そもそも今回は私の番なので。


   …。


   …。


   …ふ。


   …。


   本当、頑固ですね。


   赤城さんが、言いますか?


   私は加賀さん程では無いわ。


   私も赤城さん程ではありません。


   …。


   …。


   …じゃあ、こうしませんか。


   …じゃあ、どうするのですか?


   …。


   と……。


   …私のお願いを、聞いて。


   ……。


   …私も加賀さんのお願いを、聞くから。


   それは…どうなの。


   …駄目?


   ……。


   かが……ん。


   ……。


   ……刺激と、話題にされてしまいますね。


   …構いません。


   ……もぅ。


   それで…赤城さんの願いとは?
   但し、今回のお勘定は譲れませんが。


   …それはもう、譲ります。


   …。


   だから……加賀さんの熱をもっと、私に。


   …それで、良いのですか。


   ……それが、好きなの。
   どうしようもない、程に…。


   ……。


   …加賀さんは。


   ……貴女の柔らかな躰をこの腕にこうやって抱(いだ)く度。


   …。


   貴女の優しい腕に、抱かれる度…私は、私を止める事が出来なくなります。


   …止めなくて良いわ。
   寧ろ、止めないで。


   ……。


   …加賀さんの、願いは。


   ……今宵、貴女を抱く事を許して下さい。


   …。


   …。


   …私の願いと、同じ。


   ……赤城さん。


   …。


   …。


   ねぇ、加賀さん…もう少し、お散歩を続けても良いですか。


   …ええ、続けましょう。
   次はどこへ…。








   ………。


   んーーー?


   …。


   榛名、どうしたの?


   ……。


   榛名ー?


   …。


   おーい、榛名ー?
   どこ見てるのー?


   ……。


   んーーーー。


   …。


   …赤城さんと、加賀さん?
   て、おお……。


   ……。


   うーん…。


   …は。


   お、榛名?


   榛名は、大丈夫です!


   …へ。


   はい、榛名は大丈夫です。
   大丈夫、大丈夫…。


   え、と。
   榛名?


   え。


   何が大丈夫なの?


   ……。


   榛名?


   ……ッ。


   お…。


   ひ、比叡お姉さま…ッ。


   うん、比叡お姉さまだよ。


   ど、どうしてここに…ッ?


   榛名と一緒に居たから、かな。


   い、一緒に……は。


   榛名、赤城さんと加賀さんを見てたの?


   い、いいえ、いいえ、違います、見てません、見てません。


   そうかなぁ、見てたけどなぁ。


   み、見てません…ッ。


   お、おお…。


   見てません…し、良いなぁなんて、思ってません…ッ!
   思ってませんから…ッ!!


   そ、そう…?


   はい、榛名は見てません…!


   あ、うん…分かった。
   榛名は、見てない。うん、見てない。


   ……。


   …榛名?


   ……ぴゃッ。


   ぴゃ?


   ……。


   …うーん。


   ……。


   まぁ、いっか。
   行こ、榛名。


   …え。


   間宮さんの餡蜜、食べたいって言ったの。
   榛名じゃない。


   ……あ。


   忘れてたの?


   い、いえ…!


   じゃあ、行こっか?


   は、はい…ッ。


   あ、でも。


   お、お姉さま…?


   もうちょっと待ってようか。


   …?


   赤城さんと、加賀さん。


   ……あ。


   ね。