−夢灯籠





   あの部屋に、帰ったら。

   帰ったら、あの子が居る。

   あの部屋で、私を待っていて呉れる。





   冷たいだけだったあの部屋に、暖かな光を、灯して。





   ただいま…!!


   …わ。


   ただいま、榛名さん。


   おかえりなさい、比叡さん。
   今日は少し、早かったんですね。


   はい、然うなんです。


   ごめんなさい、未だごはんが…。


   榛名さんに会いたくて、気合、入れて、走って帰ってきたんです。


   あ…。


   …。


   …比叡さん、危ないです。


   ……一秒でも早く、会いたかった。


   …。


   良かった…ちゃんと、居て呉れた。


   …榛名は何処にもゆきません。
   ずっと比叡さんの傍に居ると、心に決めたのですから……。


   はい…。


   ……ん。


   ……。


   …。


   ……今日のごはんは何ですか?


   もう…比叡さん。


   ごめんなさい…どうしても我慢出来なくて。


   …キスとごはん、どちらが大事なのですか。


   それは…どちらも。


   …。


   あ、榛名さん。


   …知りません。


   いや、でも…ほら、お腹が空いてたら出来るものも出来ませんし。


   …何が出来ないのですか。


   それは…まぁ、色々と言いますか。


   色々とは何でしょう。


   …言っても良いですか。


   ……。


   ……今夜、良いですか。


   …ッ。


   ……駄目、かなぁ。


   もう…ッ。


   わ。


   比叡さんなんて、知りません。


   榛名さん。


   …。


   榛名さん。


   …。


   榛名さん。


   …そんなに私の名前を呼んだって、駄目です。


   キスの方が大事です。


   …。


   榛名さんが、大事です。


   ……そんな事言っても、駄目です。


   …。


   ……。


   …榛名さん。


   ………今日はシチュー、です。


   シチュー?


   …寒いから。


   やった。


   ………もぅ。


   榛名さん。


   …さっきから、呼び過ぎです。


   一番好きな名前、言葉なんです。


   …。


   榛名と言う、君の名前が。
   だから、何度でも呼びたい。


   …もう少しで出来ますから。


   はい。
   榛名さんのシチュー、美味しいから大好きです。


   …沢山、作りましたから。


   気合、入れて、お代わりします。


   …サラダ、作らないと。


   あ、私やりましょうか。


   いいえ、比叡さんは先ずは着替えて下さい。


   然う言えば帰ってきた格好のままでした。


   それから、手を洗って。
   今、インフルエンザが流行っているようなのでうがいもちゃんとやって下さいね。


   はい、分かりました。
   二人で罹ってしまったら大変ですものね。


   それから…。


   ……。


   ……比叡さん。


   …ああ、待ち切れない。


   ……それは、どちらが、でしょうか。


   …。


   …。


   ……榛名。


   …あ。


   榛名……。


   ……今は、我慢して下さい。
   あと、いきなり呼び捨てにするのは、反則です…。


   はい…分かってます。


   ……お腹が空いていたら、出来るものも出来ないのだから。


   え…?


   …なんでも、ありません。
   比叡さん、さぁ。


   うん、榛名さん。


   ……もう。








   ああ、食べた…美味しかったぁ。


   比叡さん、お行儀が悪いです。


   へへ…ご馳走様でした、榛名さん。


   はい、お粗末さまでした。


   …。


   …片付けが先です。
   それに食べたばかりですよ。


   はぁい…。


   …それにお風呂も未だです。


   ……。


   …。


   …一緒に


   駄目です。


   …久しぶりに


   駄目、です。


   ……。


   ……。


   ……どうしても、ですか。


   …どうしても、です。


   …。


   ……。


   ……榛名さんと入った方が疲れ、取れると思うんだけど。


   …一人の方が手足も伸ばせますし、ゆっくり入れる筈です。


   ……榛名さんは一人の方が良い?


   …。


   ……。


   ………榛名は、一人で、大丈夫です。


   …そっか。


   ……。


   食器、洗っちゃいましょうか。


   ……。


   …。


   ……何も、しないと約束して呉れるなら。


   …。


   ……のぼせてしまうような事をしない、と、約束して呉れるなら。


   はい、します。


   …。


   榛名さん、一緒に。


   ………ぜったい、ですよ。


   はい、絶対です。


   ……もう、そんなににこにこしないで下さい。


   だって、嬉しいですから。


   二人で入ったら…狭いですからね。


   それが、良いんです。


   …ゆっくり出来ませんよ。


   いいえ、出来ますよ。
   柔らかい榛名さんを抱っこして…。


   …駄目、ですからね。


   この比叡、約束は、守ります。


   ……本当でしょうか。


   本当です。


   …破ったら、夜は無しですから。


   ……。


   ……何でしょうか。


   明日、休みなんです。


   …知っています。


   朝、ゆっくり出来ます。


   …でも映画を観に行くと約束して呉れました。


   勿論、映画には行きます。
   お昼から。


   ……。


   食器、洗っちゃいますね。


   ……はい。








   あぁ、良いお風呂だった……。


   …。


   約束、守りました。


   ……はい、守って下さいました。


   ふふ、やっぱり榛名さんと一緒に入るお風呂は良いなぁ。
   然うだ、今度温泉とか行きましょうか。


   …温泉?


   お金、貯めて。
   休み、取って。


   ……。


   そんな遠くへは行けないかも知れませんけど…。


   …榛名は。


   何処か希望があるのなら。


   …榛名はこの部屋のお風呂が好きです。


   え…?


   ……比叡さんと躰を寄せ合って入れる、この部屋のお風呂が。


   ……。


   ………だから、榛名は。


   ああ…!


   …きゃ。


   榛名さん、榛名。


   ひ、比叡さん、いきなり抱き上げないで下さい…ッ。


   榛名が、あんまりにも、可愛いから。


   は、榛名は、可愛くなんて、


   世界の誰よりも、可愛い、私の恋人。


   も、もう、言い過ぎです…。


   …このまま、良いですか。


   駄目です、下ろして下さい。


   …離したくないんだけどな。


   だめです…。


   ……。


   比叡さ、ん。


   ……。


   ……比叡さん。


   榛名が、欲しいです。


   …。


   ……直ぐに、今直ぐに。


   ……。


   ……このまま、良いですか。


   …駄目と、言ったら。


   ……。


   ………良いです。


   …。


   …良いですよ、比叡さん。
   このまま榛名を……。








   …。


   …。


   ……はるな、おきてますか。


   …。


   それとももう、ねむってしまいましたか…。


   ……いえ、はるなはおきています。


   …。


   ん……。


   ……おんせん、やっぱりはるなといきたいな。


   …。


   ……わたし、がんばるから。
   そしたら、いっしょに…いきませんか。


   ……つれていって、ください。


   うん…わかった。


   ……。


   …はるな。


   ……あした、おやすみなんですよね。


   ん…そうです。


   ……。


   はるな……。


   ……えいがは、かならず、つれていってください。
   ひえいさんといくの…たのしみに、してたんですから…。


   ん…かならず、つれてゆきます。


   …。


   ……なんどだいても、たりない。


   …。


   …たりないです、はるな。


   ……もしも、たりてしまったら。


   …。


   ひえいさんは…んん。


   ……そんなひは、こない。


   …。


   こないよ…はるな。


   ……。


   …はるなにも、こなければいいな。


   ……きません。


   …。


   …そんなひは、ずっと、こない。


   うん……。


   …ん。


   ……もう、いちど。


   …。


   …はるな、あいしてる。


   ……わたしも、あいしています。








   ……。


   …。


   ……ん。


   …ひえいさん。


   ん……はるな。


   ……。


   …んん。


   ……ひえい、おねえさま。


   …。


   …すき、だいすきです。


   …。


   おさないときからずっと、あなたを…あなただけを、みつめて。
   あなただけと、こころにかたくきめて…。


   …。


   …だれよりも、あなたをあいしてます…あいして、いるから。


   …。


   だから…はるなのこと。


   …。


   …すてないで。


   ……。


   ……いっしょに、いて。


   はるな…。


   ……。


   ……ずっと、はなさない。


   …。


   …せかいなんか、こわくない。


   ……あぁ。


   ……。


   すき、だいすき……。


   …ねぇ、はるな。


   はい、ねぇさま…。


   ……しんでも、はなさない。


   …。


   ……かくご、しておいてくださいね。


   もう、はるなはできています…ねぇさま、こそ。


   …とっくにできています。
   からだをかさねる、ずっとまえから…。


   …。


   …わたしにはあなただけです、はるな。


   うれしい…うれしい、です…。


   …榛名。


   比叡姉さま…。


   …榛名さん。


   比叡、さん…。


   ……さめないゆめ、を。


   …ずっと、あなたと。








  −ずるいひと。





   おかえりなさい、比叡さん。


   ただいま、榛名さん。


   今日も本当にお疲れ様でした。
   ごはんの支度、出来ています。


   有難う、榛名さん。
   ああ、お腹減った。


   ふふ…。


   でも、その前に
   榛名さん。


   …?
   はい。


   これ、お土産です。


   …え?


   はい、どうぞ。


   …これは。


   なんだと思う?


   あったかい…。


   開けてみて。


   は、はい…。


   ……何だった?


   えと…お饅頭、ですか?


   うん、当たり。


   お饅頭……。


   職場の近くに新しいお店が出来てね。
   美味しいって話だから、買ってきてみたの。
   榛名さん、好きでしょう?


   は、はい…好きです。


   ふふ、じゃあ後で一緒に食べよう。


   …。


   ん、どうかした?


   あ…いえ、榛名は大丈夫です。


   …。


   …。


   …あまり、食べたくなかった?


   い、いえ、そんな事は…。


   …。


   …。


   …榛名さん?


   ……あ、の。


   うん。


   ……うれしく、て。


   うん?


   …本当に、嬉しくて。


   …。


   ……有難う御座います、比叡さん。


   …。


   …?
   比叡さん…?


   良かった。


   …あ。


   笑って、呉れた。


   あ、あの…わ。


   …榛名。


   ひ、比叡さん、お饅頭が…。


   …。


   …その、潰れてしまいます。


   ああ。
   それはまずい。


   …。


   榛名さん、お饅頭一寸良いですか?


   は、はい。


   …。


   比叡さん…?


   はい、あーん。


   …え。


   一口饅頭だから。
   だから、あーん。


   え…え。


   はーるな。


   …ッ。


   あ、茶饅頭よりも吹雪の方が良かったですか?


   い、いえ、榛名はどちらでも大丈夫です…ッ。


   じゃあ、はい。


   あ、あの、あの…。


   榛名。


   ………。


   …。


   ……。


   うーん、それじゃあ入らないかなぁ。
   もう少し、ね。


   こ、これ以上は…恥ずかしい、です。


   可愛いんだけどな。


   …!
   ひ、比叡さん…!


   はは。
   然う、そんな感じ。


   も、もう…。


   はい、榛名さん。


   ……うぅ。


   榛名?


   ……。


   ふふ…目は瞑らなくても良いのに。


   ……ん。


   …どう、美味しいですか?


   ………わかり、ません。


   あれ?


   ……。


   職場の人の話では美味しいって話だったんだけど…。


   ……比叡さんのせい、です。


   へ。


   …。


   あ、榛名。


   ……比叡さん。


   あ、はい。


   …あーん、して下さい。


   え。


   あーん、して下さい…!


   え、あ、は、はい。


   ……。


   あー……。


   ……。


   ……ん。
   んん?


   …如何ですか。


   美味しい。


   ……。


   美味しい、ですけど。


   ……うー。


   は、榛名さん?


   …比叡さんは、ずるいです。


   え、どうしてですか?


   …。


   榛名さん、榛名?


   ……。


   あ、あれぇ…?








  −愛にすべてを。





   この愛が間違っていると、誰が言えると言うのだ。

   私達を知っている者、知らない者。

   誰一人、そんな事を言う権利など無い。

   それでも間違っていると言うのなら、言えば良い。

   言いたければ、さぁ、言え。

   言われたところで、私達は従わない、頷かない。

   私達を否定出来る者が居るとするのなら。

   それは私達だけだ。

   他に、誰も居ないのだ。

   誰も、居やしないのだ。








   ……。


   ……。


   ……榛名。


   …お姉さま。


   ……怖い?


   …いいえ。


   じゃあ…寒い?


   ……いいえ。


   …なら。


   嬉しい。


   …。


   …私は嬉しいのです、比叡お姉さま。


   ……本当に?


   …。


   …榛名?


   ……手を離して下さい。


   …。


   …若しも、お姉さまが。
   私との、こんな関係を終わらせたいのなら…。


   ……離さないよ。


   …。


   …けど、榛名が終わらせたいと言うのなら。


   ……嬉しい、と。


   …。


   …今から触れて貰える、然う思うだけで。
   榛名の…私の躰は、心は。


   ………榛名。


   …幾度、その腕の中に抱かれても。
   その度に、震えてしまうのです……。


   …。


   ……お姉さま。


   …どうして、姉妹に生まれてしまったんだろう。


   …。


   他人同士だったら…。


   …兄弟姉妹は良く同じ血が流れていると、言います。


   …。


   …でも同じ血とは、何なのでしょうか。
   両親が同じと言う事だけで、全く同じものだと言えるのでしょうか…。


   …。


   だって、比叡お姉さまと私は違う人間で…容姿だって、違います。
   確かに似ている所はあるでしょう…けれど、違うのです。
   瞳の色も、髪の色や質も、手の形も、鼻の高さ、足の大きさも…然う、こんなにも、違う。


   …。


   姉妹同士だって所詮、他人同士……自分とは違う存在なんです。


   …匂いか、色か。


   …。


   或いは、味かも知れない…。


   ……味。


   少し、違うのかも…。


   ……ええ、屹度。


   …。


   …。


   私と榛名は…同じ存在じゃない。
   曰く、同じ血が流れているとしても。
   …然うだね、榛名。


   ……はい、お姉さま。


   …。


   ……。


   …若しも、子を生せたら。
   榛名は…


   …望みます。


   ……。


   貴女の子を…私は産みたい。


   …産んで呉れるの?


   はい…若しも、子を生せるのなら。


   …何人欲しい?


   何人でも…貴女が望むだけ。


   …私は榛名が望むだけ、欲しい。


   ……。


   …出来れば、私も産みたいよ。


   駄目です…榛名が産むんです。


   …。


   …お姉さまと私の子を。


   ……榛名は頑固だからなぁ。


   …嫌ですか。


   ううん…嫌じゃない。


   ……。


   …榛名、今夜は声を聞かせて欲しい。


   ………いつも、聞いているじゃないですか。


   …いつも以上に、聞きたい。


   ……。


   榛名……。


   ……だったら。


   …。


   …榛名の事だけを、考えて。
   余計な事は一切考えないで…榛名の事だけを考えて、抱いて下さい。


   …いつも、然うだよ。


   ……いつも以上に。


   …。


   ……もっと、夢中になって。
   他に何も要らないくらい、私に……。


   …もう、なってるよ。
   榛名さえ居て呉れれば……私は、何も要らない。


   ……絶対、ですよ。


   うん…絶対、だ。


   ……。


   …ああ、やっぱり違うんだ。
   こんなやりとり、何度もしている筈なのに……それでも、確かめ合わずにはいられないのだから。


   …。


   ……ねぇ、榛名。


   ………はい、お姉さま。








  −林檎





   貴女の下で初めての痛みとめざめを覚えたの。





   ……はるな。


   …ねえ、さま。


   ……いい?


   …。


   ………いい?


   …は、い。


   ……。


   あ…。


   …………はるな。


   あ、あぁ……ッ。


   …っ。


   …ひえい…ねえ、さま…。


   ……はぁ。


   …ぁ……あ。


   ……はる、な。


   …。


   …いたく、ない?


   ……。


   はるな…。


   ……どう、して。


   …。


   …だいじょうぶ、です。


   …。


   だいじょうぶ、だから……どう、か。


   はるな……でも。


   …おねがい、です。


   ……なみだ、が。


   やめないで、ください……。


   …。


   おねがいです、ひえいねえさま………おねがい、やめないで。


   …はるな。


   ……どうか、つづけてください。
   どうか…このまま。


   …。


   …はやく、はるなを。


   はるな……はるな。


   はやく、はやく、あなたの、ものに……。








   ……。


   …。


   ………わたしは。


   …。


   …私は。


   ……ねえさま。


   ……。


   おねえさま…。


   ……ごめん、おこしちゃったね。


   …いいえ。
   はるなは、だいじょうぶですから…。


   …。


   ……だいじょうぶ、ですから。
   だから…。


   ……ごめんね。


   …。


   ごめんね…はるな。


   ……いや。


   …。


   …いや、です。
   そんなこと、いわないで…。


   ……ごめん。


   いやです…いや…いやぁ…。


   …。


   はるなは…はるなは……。


   …がまん、できなかったんだ。


   …。


   ………だから、ごめん。


   …。


   …榛名は、妹なのに。
   妹、だから。


   ……いもうと。


   我慢しなくちゃ、いけなかったのに……私は、出来なかった。


   ……。


   ……ねぇ、榛名。


   …ねえさま。


   ………嫌いにならないで。


   え…。


   …私を、嫌いにならないで。


   ………。


   …。


   ……なりません。
   なるわけ、ないじゃないですか……。


   ……私で、良い?


   …。


   …本当に、私で。


   ねえさまじゃなければ、いやです。


   …。


   …いやです。


   榛名……。


   ……。


   榛名…榛名……。


   ……比叡、姉さま。


   …。


   ……榛名を、姉さまのお嫁さんにして下さい。


   お嫁さん……。


   …幼い頃の私が然う言った事、覚えていますか。


   ………。


   …覚えていないですよね。


   ……いや、覚えてるよ。


   …良いんです、仕方の無い事だから。


   榛名が大きくなったら。
   大きくなったら、私のお嫁さんにして欲しいと。


   …。


   …然う、言ったんだ。


   ………本当に。


   だから、私は……こう、答えたんだ。


   …。


   ……大きくなったらね、って。


   あぁ……。


   …覚えてる?


   ……おぼえて、ます。
   わすれることなんて、できない……。


   …。


   …うれしかった、うれしかったんです。
   ねえさまのお嫁さんになれる、ねえさまが榛名をお嫁さんにしてくれる……だけ、ど。


   …。


   ……姉さまと榛名は、実の姉妹で。
   幼い頃の私は、それを、理解してなくて……。


   …うん。


   幼いころから、姉さまが好きだった……その気持ちが、どんどん、大きくなっていって。


   うん……。


   …だけど、叶わないんだって。
   そもそも叶えてはいけない事なんだって…気が、付いて……。


   ……。


   ……でも、諦めることなんて、出来なかった。
   姉さまが居ない、なんて……わたしには、たえられない、から。


   ……私も出来なかった。
   榛名が居ないなんて、耐えられないから……。


   …ッ。


   …私は、最初から、本気だったよ。
   莫迦みたいに、本気だった…本気で、榛名を。
   実の姉妹で、無理だと知った後でも、でも、それでも。


   比叡、姉さま……。


   …榛名が、好きです。


   あぁ…。


   ……私のお嫁さんに、なって呉れますか。


   あぁ…あぁ……。


   …こんな事、してしまった後に言うなんて。
   卑怯かも、しれ…ん。


   ……。


   ……はるな。


   はるな、を。


   …。


   …はるなを、ねえさまのおよめさんに、してください。


   ……。


   して、ください……。


   ……はい、喜んで。


   ん…。


   ……はるな。


   ねえさま…ねえさま……。


   …ごめん、一度だけじゃ足りない。


   はるなも、ですから…。


   ……。


   …もっと、おしえてください。


   おしえる…?


   …もっと、ねえさまのねつを。


   …。


   どれだけ、ねえさまが…はるなのことを、あいしてくださっているのかを。


   ……あぁ。


   …よくばりで、ごめんなさい。


   いや…いいよ。


   …。


   …だけどね、はるな。


   は、い…。


   …たべてしまいたいくらいに。
   こわして、しまいたいくらいに…。


   …。


   ……すき、なんだよ。


   …。


   …それでも、いいですか。


   ……おなじ、ですから。


   …。


   はるなも、おなじですから……。


   ……そっか。
   やっぱり、しまいだね…。


   ……はい。


   …。


   …。


   ……すきだよ、はるな。
   あいしてる…。


   …はるなも、ねえさまのことがだいすきです。
   あいして……








  −おなじ星





   そう、この匂い…
   耳の後ろの匂い
   昔から知ってる





   榛名!


   …あ。


   榛名、遅くなってごめん。


   姉さま…。


   電車が、遅れてて…わ。


   …。


   榛名…あの。


   …姉さま、遅いです。


   あ、うん…ごめんね。


   …。


   ……待たせてごめんね、榛名。


   …ううん、良いんです。


   榛名…。


   来て、呉れたから…良いんです。


   …来ないわけ、ないよ。
   榛名に逢えるの、楽しみにしてたんだから…。


   ……楽しみにして呉れていたんですか。


   勿論だよ…逢いたくて、仕方無かったんだから。


   …嬉しい。


   榛名も…然うだったら。


   ……。


   その…嬉しいな。


   ……ずっと、一緒に居たい。


   え…。


   …逢いたかった。
   逢いたかったです…。


   ……榛名。


   …。


   …行こうか。


   ……はい。


   何か、食べようか。
   お腹、空いてるでしょう?


   …。


   空いてない…?


   …姉さまは。


   私は、空いてる。


   ……。


   榛名は?


   ……少し。


   うん。
   じゃあ、何が良い?
   榛名の好きなものにしよう。


   …榛名の。


   何でも良いよ。


   …辛いのは、嫌です。


   じゃあ、辛いのは無しで。


   ……。


   榛名が好きなものなら、何でも良い。
   遠慮しないで言ってみて。


   …榛名は。


   うん。


   ……榛名は早く姉さまのお部屋に行きたい。


   え。


   …早く、行きたいです。


   ……。


   ……姉さまのお部屋で。


   でも、何も無いよ。


   …それでも良いです。


   いや、良くないと思うけどな…。


   …姉さまは早く榛名とふたりきりになりたくないんですか。


   ……。


   ……榛名は、早く、なりたい。


   …参ったな。


   ………。


   …なりたくないわけ、ないじゃない。


   だったら…。


   …分かった。
   じゃあせめて何処かで買い物をしていこう。
   何だったら、ファストフードでお持ち帰りをしても良い。


   …。


   …何か、食べないと。
   明日の朝までもたないよ。


   ……榛名は、大丈夫です。


   …。


   榛名は…


   …いや、やっぱり駄目だよ。


   …。


   ……だって、さ。
   だって…その、今夜は…。


   …。


   ……長くなると、思うんだ。


   …長く。


   ………久々、だから。


   ……。


   …だから、何か食べよう?
   ね…?


   ……榛名は、眠れないんですね。


   …。


   ……。


   …だめ、かな。


   ………だめじゃ、ないです。


   …。


   …。


   …じゃ、行こうか。


   …榛名、ハンバーガーが良いです。


   ハンバーガー?


   ……姉さまと初めて食べたのが、良いです。


   ああ…。


   …。


   …本当にそれで良い?


   ……それが、良いです。


   …分かった。
   じゃあ、ハンバーガーにしよう。


   ……はい。








   …。


   …。


   ……ん。


   …ねえさま。


   はるな…。


   ……。


   …はるな?


   ……このにおい、はるな、だいすきです。


   におい…?


   ……むかしと、かわらない。
   ねえさまの、におい…。


   …。


   ……ねえさま。


   わたしも、すきだな…はるなの、におい。


   …むかしから、ですか。


   ……うん、そうだったのかもしれない。


   しれない…じゃ、だめです。


   …。


   …だめです。
   はるなは、むかしからすきだったのに…。


   ……すきだったよ。


   …。


   …はるなの、におい。
   ねえさまや、きりしまとは、ちがう……はるなだけの、におい。


   ……。


   …ふしぎなんだ。


   …なにがですか。


   あのね…。


   …はい。


   うまれるまえから、しってたような…そんな気がするんだ。


   …。


   ……ね、ふしぎでしょ。


   …でも、わかります。


   …。


   ……はるなも、そんな気がしていたから。


   そっか……じゃあ、おんなじだ。


   …はい、おんなじです。


   ……。


   ……ねえさま、まだよるはおわってません。


   うん…しってる。


   …ひえいねえさま。


   ……。


   …?
   ねえさま…?


   …ハンバーガーのあじがしたなって。


   ……。


   …はるなにおしたおされるとは、おもわなかった。


   ……だって。


   そんなにがまん、できなかった…?


   …。


   ……ねぇ、はるな。


   …ねえさまの、いじわる。


   うん…そうなんだ。


   …。


   ……だって、はるながすきだから。


   …だったら、いじわるしないでください。


   いつもはしないようにしてるんだけど…。


   …したかったんですか。


   うん…じつは、すこし。


   ……。


   …はるな、みみをひっぱるのは。


   ………いいですよ。


   …。


   ……こんやだけ、なら。


   …こんやだけ、ですか。


   ……そうです、こんやだけです。


   …じゃあ、いっぱいいじわるしちゃおうかなぁ。


   ……。


   …はるな、はなをつまむのも。


   ………ねえさまの、ばか。


   ん…。


   ……だいすき。








  −翔べ!イカロス





   すべて失っても。
   僕らは行くしかない。
   僕らは行くしかない。





   ……はぁ。


   …。


   ん…?


   …。


   ……はるな?


   …こなければ、いいのに。


   え、なに…?


   ……あさなんて。


   …。


   …あさなんて、こなければ。
   そうしたら、ねえさまとずっとこうして…。


   …はるな。


   ……ずっと、ずっと、こうして。


   …。


   ……。


   …はるな、なかないでよ。


   ……ないてなんか、いません。


   …。


   …いません。


   ……はるなは、ちいさいころから、そうやっていうんだ。
   ぽろぽろ、こぼして……こぼして、いるのに。


   ……。


   …なみだ、いいかげん、ふかせてよ。


   ……はるなは、ないてなんか、いません。


   …。


   ん……。


   ……いじっぱり。


   ねえ、さま…。


   …うごかないで。


   あ…だめ、です…。


   ……。


   やだ……ねえさま…。


   ……。


   ……ちいさいころ、も。


   …。


   …そうやって、くちびるで。


   ……。


   ……そんなこと、してくださるから。
   して、くださったから…。


   …どうすればいいか、ずっとかんがえてた。


   …。


   はるなが、なみだをながさなくてもいい…。


   ……。


   …ねぇ、はるな。


   ……ねえさま。


   …どこかに、いこうか。
   ふたりで、どこかへ。


   ……どこか。


   …そう、どこかとおく。


   ……どこかって、どこですか。


   どこがいいかな…。


   ……。


   …はるなとふたりなら、どこでもいいんだ。
   ずっといっしょにいられるなら…。


   ……このくにから、でることになってもですか。


   …。


   …それでも、いいといってくれますか。


   ……うん、いうよ。


   …。


   …ふたりで、いられるなら。
   わたしは、それでいい…。


   ……すべて、すてることになってもですか。


   …。


   …はるなのために。
   はるなだけの、ために。
   こんごうおねえさまや、きりしまを……。


   ……はるなが、なみだをながさなくてもよくなるのなら。


   …。


   わたしは、そうなっても、かまわない。


   …ッ。


   だから………はるな。


   ……、なさい。


   …?


   ……ごめん、なさい。


   …どうしてあやまるの。


   ……。


   はるな…。


   …こんごうおねえさまときりしまのこと、あいしているのに。


   …。


   ねえさまは…ふたりのことだって、こころから、あいしているのに。
   はるなはしっているのに……しって、いたのに。
   それなのに、それなのに、はるなは…。


   ……。


   …ごめんなさい、ねえさま。
   そんなことを、いわせてしまって…ごめん、なさい。


   ……あやまるひつようなんて、ない。


   でも…ッ。


   …かってな、ことを、いうよ。


   かってな、こと…?


   ……わかってくれると、おもうんだ。


   …。


   ねえさまや、きりしまなら……きっと、わかってくれる。
   わたしたちのこと、だれよりも…りょうしんよりも、しっているから……だから。


   ……。


   …なかないで、はるな。


   ……ごめんなさい。
   ごめんなさい…。


   …。


   …はるなは、わるいこです。
   ねえさまを……ひとりじめに、したくて。
   はるなだけのものに、してしまいたくて……。


   ……いいんだ、いいんだよ、はるな。
   あやまらなくても、いいんだ…。


   …ちいさいころから、ねえさまのことだけを、みていました。
   ほかのひとなんか、みてほしくなかったんです…やさしくしてほしくなんか、なかったんです…。
   はるなだけを、あいしてほしかった……はるなだけに、やさしくしてほしかったんです……。


   ……。


   …どこかになんて、いけません。
   いけない…。


   ……はるな。


   こんなはるなといっしょにいたら…ねえさまは。


   …。


   ねえさまは…ほんとうに、ぜんぶ、なくしてしまう。


   …ぜんぶじゃない。


   う…。


   ぜんぶじゃ、ない。
   はるなが、いる。


   ……。


   …はるなが、いるよ。


   だめ、です……。


   だめじゃない、はなさない。


   ……。


   …あさなんか、こなくてもいい。
   はるなと、いっしょにいたいんだ。


   ……あぁ。


   はるな、わたしといこう。
   いっしょに、いきよう。


   あぁ……あぁ……。


   …いきついたさきに、なにもなくても。
   それでも、はるながいる。
   わたしが、いる。
   それいじょう、なにをのぞむというのだろう。


   ………。


   だから、どうか……わたしのてを、とってください。


   ……。


   …はるなのすべてを、わたしに、ください。


   ………ひえい、ねえさま。


   …。


   …はるなのすべてを、うけとめてくれますか。


   よろこんで。


   …はるなはねえさまがおもっているよりも、ずっと。
   ずっと、ずっと、ずっと、ずっと……。


   …どんなはるなでも、あいしているよ。


   ……。


   …はるなは、どんなわたしでも、あいしてくれますか。


   ………どんな、ねえさまでも。


   …。


   どんなあなたでも……はるなは、わたしは、あいしています。
   あなただけを、わたしは、あいしています…。


   …。


   ……わたしのからだ、こころ、いのちを。
   あなたに、さしあげます……すべて、あなたに。


   ……ありがとう。


   …。


   …わたしのすべても、あなたに。


   ……ありがとう、ございます。


   …。


   …。


   ……生きよう、榛名。
   ふたりで…ふたりきりで。


   ……はい、ひえいね


   ねえさまも、もう、なしだよ。


   …。


   ……なまえだけで。


   …。


   ……。


   ……はい、比叡さん。








  −雲の中の散歩





   失うものなど何もない。
   ここでふたり、すべてはじめようよ。





   …ふーむ。
   ほんとに歩けるものなんだな…。


   姉さま。


   なんか、不思議な感触…柔らかいわけでもないし、だからと言って硬いわけでもないし。


   姉さま、不思議な感触ですね。


   ん?


   榛名、感激です。


   …面白い?


   はい、とっても。
   榛名、子供の頃、思っていたんです。


   何を?


   空を見ながら、乗れるのかなぁって。


   …。


   比叡姉さまは思った事、ありませんでしたか?


   私は、どちらかと言うと…。


   言うと?


   美味しそうだなぁって。


   …?
   美味しそう、ですか?


   ほら、綿飴みたいでさ?


   綿飴…。


   特に夏の空に浮いてるのは…。


   ……。


   …いや、あんなにいっぱいは食べられないけど。


   ふふ…姉さまったら。


   へへ…。


   ……。


   …。


   …ここでは、雨は降らないんですよね。


   ん…?


   雲の上、だから。


   …然うだね。
   雨も、雪も、降らない。
   榛名が苦手な雷さえ、足の下だ。


   …足の下。


   それでも、怖い?


   ……分かりません。


   落ちる事は無いよ。


   …音は、しますよね。


   ああ、それはするかも。


   …。


   …大丈夫だよ、私が居るんだから。


   絶対、ですよ…。


   …。


   …榛名を絶対に、一人にしないで下さいね。


   しないよ…絶対に。


   …。


   もう、離れる事も無い。
   ずっと、ずっと、一緒だ。


   ……はい。


   …。


   …?
   姉さま…?


   …流石に届かないか。


   届かない…?


   星。
   一つくらい、って思ったんだけど。


   …。


   届いたら、榛名にプレゼントしようと思ったんだけどな。


   …ふふ。


   榛名、覚えてない?


   …?
   何をでしょうか…?


   星が欲しいって、言ったんだよ。


   …え。


   ずっと、小さい頃。
   空に手を伸ばして…比叡姉さま、榛名はお星さまが欲しいですって。


   ……。


   どうしても欲しいって、ぐずってしまって…。
   私はどうして良いか分からなくてさ…。


   …覚えて、ないです。


   まぁ、うんと小さかったしね…。


   ……。


   …ん、榛名?


   でも、榛名が欲しかったお星さまは。


   …。


   ……空にあるお星さまでは、無かったんだと思います。


   けど、空に手を伸ばして…。


   …伸ばしても、届かないものは。
   何も空にあるものだけでは無いのです…。


   ……。


   …どんなに近くに居ても。
   届かないものだって、あった…。


   ……榛名。


   …榛名は、欲しかったんです。
   欲しくて、欲しくて、ずっと手を伸ばしてた…いつか、届くと信じて。


   ……。


   …。


   …今は届いてる?


   ……分かりません。


   分からない…?


   …だって、榛名が決める事では無いですから。


   決めても良いと思うけどな…?


   …。


   ……榛名。


   …。


   …届いているよ、榛名。


   ……姉さま。


   届いてる。
   榛名の手は、私に。


   …本当、ですか。


   うん、本当…。


   …あ。


   ほら…ね。


   ……苦しいです、姉さま。


   ああ、ごめん。


   …でも離れないで下さい、姉さま。


   …。


   ……このままで。


   …うん、分かった。


   ……。


   …ねぇ、榛名。


   はい…姉さま。


   何処にでも、行けるね。


   …何処にでも?


   然う、何処にでも。


   ……然うですね。


   あ。


   …どうしましたか。


   榛名、見てごらん。


   …何処、でしょうか。


   金剛お姉さまと霧島だ。


   え。


   ほら、彼処に。


   …何処ですか。


   私の指が差す方向、真っ直ぐに。


   ………あ。


   見えた?


   はい、見えました。
   榛名にも、見えました。


   良かった。


   ……金剛お姉さま。
   霧島……。


   ……。


   ……さようなら、お姉さま。
   霧島…さようなら。


   …さようなら、じゃないよ。


   比叡姉さま…。


   ……いつか屹度また、逢える。
   今は…然う、少しだけ遠くに離れるだけだから。


   ……はい。


   見て、榛名。


   …。


   空が明るくなってきた。
   そろそろ、夜が終わる。
   長かった夜が、終わるんだ。


   …ああ。


   ……。


   ……。


   ……。


   …綺麗、ですね。


   うん……でもね、榛名。


   …はい。


   榛名の方が…ん。


   …恥ずかしいです、姉さま。


   ……未だ、言い終わってないのに。


   …自惚れ、です。


   ……。


   ……。


   …耳まで赤くなってる。


   ……。


   …自惚れても良いよ。
   榛名は私の一番愛しい人なのだから。


   ……姉さま。


   …。


   …榛名は、しあわせです。


   …。


   しあわせです……姉さま。


   …これからもっと、してあげる。


   …。


   今から…始めよう、榛名。


   …はい、姉さま。


   ……。


   ……。


   …太陽だ。


   新しい一日が、始まるんですね…。


   …うん。


   ……。


   行こうか、榛名。


   はい。


   それじゃあ、手を。


   …はい。


   ……。


   ……。


   先ずは、何処へ行こうかな。


   姉さまと一緒だったら


   何処でも?


   …もう、姉さま。


   はは。


   ……もぅ。


   じゃあとりあえず、海を見に行こうか。 


   海を見たら…。


   その先の事はその時にでも考えよう。
   ふたりで。


   …はい、比叡姉さま。








  −祈り





   ふたりに灯る小さな愛の火が消えぬよう、祈るよ。





   ……。


   …。


   ……やっぱり、きれいだなぁ。


   …。


   榛名の、背中。


   …起こしてしまいましたか。


   榛名のせいじゃないよ…私が勝手に目が覚めただけ。


   …もう少し眠っていても大丈夫ですよ。


   うん…でも折角、目が覚めたし。


   …。


   榛名は本当にきれいだ…。


   …ありがとうございます、姉さま。
   でも、榛名には勿体無いですから…。


   榛名……。


   …だめですよ。
   榛名はこれから朝ごはんの支度をしないといけないのですから。


   …うん。


   今朝のお味噌汁の具は何が良いですか…?


   ………豆腐。


   お豆腐…ですね。
   分かりました、では然うしますね。


   ……。


   …姉さま、さぁ。


   ………うん。


   離して下さらないと…榛名、着替えられません。


   ……。


   ……姉さま。


   …はなれたくない。


   …。


   ……こうしてたい。


   …朝ごはんとどちらが良いですか?


   む……。


   …ふふ。
   さぁ、離して下さい…姉さま。


   ……むぅ。


   今朝の姉さまは…ちょっぴり、甘えたさんですね?


   …。


   …きゃ。


   ………ちょっぴりじゃ、ないよ。


   …。


   ……たまごやき、作って。


   …甘いのと出汁巻き、どちらが良いですか?


   ……甘いの。


   分かりました…じゃあ甘いたまごやきも作りますね。


   ……。


   …さぁ、姉さま。


   ……。


   …大丈夫です。
   榛名は、此処に居ますから…。


   …。


   ずっと、ずっと…姉さまのお傍に、居ますから…。


   ……撫でて。


   …。


   …髪の毛。
   少しだけで、良いから…。


   ……分かりました。
   少しだけ、ですからね…。


   ……うん。


   ……。


   ……名前、呼んで。


   ……。


   …。


   ……比叡さん。


   …もういちど。


   比叡さん…。


   ……。


   ……。


   ……キス、欲しくありませんか?


   ……。


   …要りませんか?


   ……くれるの?


   …ほんの少しだけ、甘えたあなたに。


   …。


   ………。


   …はるな。


   ……どうか、ひとりにしないでくださいね。


   …。


   …。


   …うん、しないよ。
   しない……。


   ん……。


   …。


   …。


   ……またあとでね、榛名。


   …はい、また後で。








  −僕らが生きる道。





   どうして、こんな事になったんだろう。





   …はぁ、…はるな、……はるな。


   あ、あ、ぁ、ぁ……。


   …っ、はぁ。


   ねえ、さま…ねぇ、さま……ねぇさま…。


   …はるな…はる、な……はるな…ッ。


   ……す、き。
   すき、です……すきっ、なん…です……。


   ………あぁ。


   ひえいねえさま…ねぇさま……ねぇさまぁ……。


   ………。


   …ぁッ。
   あっ、あっ、あぁぁあ…ッ。








   …俺と、付き合ってくれませんか。


   ……。


   俺と、付き合って下さい。


   ……ありがとうございます。


   じゃあ…。


   ごめんなさい。


   …。


   …ごめんなさい、お付き合いする事は出来ません。


   …。


   ……ごめんなさい。


   …誰とも付き合わないって噂、本当なんだな。


   ……。


   誰にコクられても、絶対、付き合わねぇって。


   …ごめんなさい。


  …。


   …私は誰も好きにならないんです。
   なれないんです。


   …なんだよ、それ。
   だったら他に好きなヤツがいるって言われた方がマシだよ。


   ………ごめんなさい。


   …。


   ごめんなさい。


   …そんなに謝るくらいなら、試しに付き合ってくれよ。


   え…。


   もしかしたら、好きになれるかも知れないだろ。


   あ。


   なぁ、付き合ってくれよ。
   好きなヤツ、居ないんだろ。
   だったら。


   い、いやです、離して。


   なぁ、良いだろ…。


   や、やだ…。


   ……。


   …ねえさ、ま。


   …?
   姉さま…?


   ……。


   姉さまって…ひ





   榛名から手を離せ…ッ!!!!





   ……。


   な…。


   黙って見てれば、榛名に何してるんだ…ッ!!!


   …みて?


   比叡、お前。


   榛名、行こう。


   あ。


   ま、待てよ。


   誰が待つか。
   今度、榛名に同じ事をしたら許さない。
   絶対に、許さない。


   ね、ねえさま…。


   …シスコン比叡。


   …。


   あ。


   噂通りかよ。


   姉が!!
   姉が妹を守って何が悪いんだ!!!


   姉さま…。


   …。


   …榛名、行こう。


   …はい、姉さま。


   ……くそ。








   ……。


   姉さま。


   …。


   比叡姉さま。


   …。


   …痛い、です。


   …。


   手、痛いです…。


   ……ごめん。


   …。


   ……。


   …見て、いらしたんですね。


   ………。


   比叡姉さま…。


   …うん。


   ……。


   榛名と一緒に帰ろうと思って…教室まで行ったんだけど。
   もう、居なくて。


   …。


   ……でも、なんとなく、未だ学校に居るような気がして。
   だから……。


   ……来て下さって、有難う御座います。


   …ごめん。


   謝らないで下さい。
   寧ろ、謝らなければいけないのは…榛名の方です。


   …?
   どうして…?


   ……シスコンだなんて。


   …。


   …どうしてそんな事、言うのでしょう。
   姉と妹が…仲良くしている事は、そんなに、悪い事なんでしょうか。


   ……。


   どうして、なんでしょうか…。


   ……帰ろう、榛名。


   …。


   …お腹、空いたよ。
   榛名が作ったごはんが食べたい…。


   ……。


   …家に、帰ろう。


   ……はい、比叡姉さま。








   ……。


   …比叡姉さま。


   ん……。


   ……隣、良いですか。


   うん…。


   ……お腹、いっぱいになりましたか?


   うん…なった。
   有難う、榛名。
   榛名のごはんはいつだって美味しい…。


   …いえ、榛名こそ。


   ん…?


   …美味しいって言って頂けて。
   榛名は、嬉しいです…。


   ……榛名。


   …それに、あの時。


   …。


   来て下さって……本当、に。


   …ねぇ、榛名。


   ……はい。


   …。


   姉さま…?


   ……誰かと付き合おうって思わないの。


   …!


   榛名、結構もてるって…。


   ……。


   …心配、なんだ。
   榛名にも悪い噂が流れたら……。


   …。


   若しも、誰かと…そうなったら。
   私は…応援、するから。


   ……で。


   …え。


   …言わないで下さい。


   榛名…?


   ……。


   …榛名?


   ……聞きたくない。


   あ。


   ……姉さまの口から、そんな事、聞きたくない。


   は、榛名……。


   ……榛名は、誰ともお付き合いしません。
   誰も、好きになんて、なりません…。


   ……。


   ……好きになんて、なれない。
   なれないんです…。


   ……そんなの、分からないよ。


   …ッ。


   いつか、榛名も…。


   止めて。


   …。


   …止めて下さい、姉さま。


   ………泣かないでよ、榛名。


   …。


   …お願いだから、泣かないで。
   泣かせたいわけじゃ、ない…なかったんだ。


   ……。


   榛名……。


   ……いや。


   …。


   ……そういう事、しないで下さい。


   …。


   …優しく、しないで下さい。
   期待、してしまうから。


   期待……。


   だから…しないで。


   …榛名。


   ……榛名が好きな人。
   好きになった人、知っているのでしょう…?


   ……知らない。


   …。


   う…。


   ……榛名の中に居るのは、ずっと昔から、たった一人だけなんです。


   ……。


   だから……その人以外、好きにならない。
   好きになんて、なれない。
   榛名にはその人だけ、なんです。
   榛名は、その人を愛しているんです。
   その人だけを、愛しているんです。
   榛名には、その人しか居ないんです。


   …榛名。


   榛名は…榛名は……榛名は……どうして良いか、もう、分かりません。
   想いは膨らんでゆくばかりで……膨らんでゆくばかりなのに。


   …。


   ……姉さま、教えて下さい。 
   榛名は…榛名は、どうしたら良いのでしょう…。
   どうしても、諦める事が出来ない…でも、叶える事も出来ない。
   想いは膨らんで…もう、張り裂けてしまいそうで…榛名は……榛名は…。


   ………泣かないで。


   …。


   …泣かないで、榛名。


   …………だったら。


   …。


   …だったら、慰めて下さい。


   ……。


   ……姉さま。


   …榛名。


   ……せめて、初めては。


   …。


   ……初めては、貴女がして。








   …どうしてこんな事になってしまったんだろう。








   はるな…はるな……はるな…。


   …ぁ、あぁッ、……あぁんッ。


   ……はぁ、…ぁ。


   …ねぇ、さま。
   ねぇ、さまぁ……ッ。


   ……。


   …も、っと。
   もっと、はるな、を…ッ。


   ……ぅ。


   …み、て。
   やさしく、して…あい、して……あいして…はるな、を……。


   ……。


   …っ!
   あぁぁあ…ッ。


   ……はるな。


   …す、き。


   ……。


   すき…すき……すき……だい、すき……。


   ……あぁぁ。


   ひえい、ねえさま…ねぇさま……んんッ。


   ………。


   ……ッ。
   …ぅッ、…ッ、ッ……。








   ……。


   …。


   ……。


   ……ごめんなさい。


   …どうして。


   …。


   …榛名、答えて。


   こんな、こと…。


   ……。


   こんなこと、こんなこと……。


   …。


   …ごめんなさい、ねぇさま。
   わがままいって、ごめんなさい…。


   ……榛名は小さい頃からずっと、謝ってばかりだ。


   …。


   …謝る必要なんて、何一つ、無くても。
   榛名は……いつだって、謝るんだ。


   …。


   応えたのは…私なんだ、私なんだよ。
   榛名。


   ……そう、させたのは。


   私は…私はね、榛名。


   …。


   …私は、こんな事、しない。
   出来ない。


   …。


   たった一人にしか、しない…したくない。
   だけど……するつもりなんて、無かった
   ずっと、ずっと、するつもりなんて…。


   ……比叡姉さま。


   ……。


   比叡姉さま…。


   ……どうして、こんな事に。


   …!


   ……。


   …ごめんなさい。
   ごめんな……んん。


   …。


   ……ねぇ、さま。


   …好きだ。


   ……。


   ……榛名が、好きです。


   ひえ、い……。


   ……もう、抑える事は出来ない。


   …。


   ……榛名は、誰にも渡さない。


   ほんとう、に…。


   …。


   …夢、では。


   現実なんだ…現実なんだよ、榛名。
   だって、これが…私の本当の気持ちなんだ。


   ……あぁぁ!


   …私は莫迦だからさ。
   こうなってしまったら…もう、我慢なんか出来ないんだ。
   一度だけなんて、もう、無理なんだ…。


   姉さま…比叡姉さま……。


   …ねぇ、榛名。


   …。


   …榛名、教えて。
   榛名が好きな人は、誰なのか…。


   …。


   ……ちゃんと、名前を言って。
   じゃないと、私は……。


   …比叡姉さま。


   ………。


   榛名の好きな人は…比叡姉さまです。
   小さい頃から、貴女だけをお慕いして……今までずっと、ずっと、貴女を、貴女だけを追い掛けて。


   ……。


   そして、これからも貴女だけを見つめて……ずっと、愛して。


   …好きだ、榛名。
   誰よりも、榛名が愛しかった……。


   …。


   ……愛しいよ、榛名。
   榛名が、愛しくて、愛しくて……もう、抑える事は出来ないよ。


   …抑えないで、下さい。


   …。


   思うように…榛名を、愛して下さい。
   好きなように、榛名を愛して……。


   ……榛名。


   …私ももう、我慢しなくても良いんですよね。


   榛名……。


   貴女への気持ちを…も、う。








   好きだった。
   ただ、それだけ。








   …。


   …。


   …ねぇ、榛名。


   はい…姉さま。


   今度の休み、デート、しようか。


   デート…。


   …ふたりで出掛けた事は、何度も、あったけど。
   でも、今度からは……。


   …。


   いや、かな…。


   …いいえ、嬉しいです。
   嬉しい…。


   …どこ、行こうか。
   榛名の好きなとこへ、行こう。


   榛名は比叡姉さまと一緒ならどこでも…。


   …ちょっと、遠出しちゃおうか。
   朝、早く起きて…。


   …榛名、良かったら、お弁当作ります。


   ほんと…?


   比叡姉さまが好きなものを、沢山、作ります…。


   やった…。
   有難う…嬉しいな、榛名。


   ん…。


   ……ね、榛名。


   は、い…。


   ……これからも榛名が作ったごはん、食べたい。


   …。


   …これからも、この先も、ずっと。


   ……榛名で、良ければ。
   榛名で、良いのなら…ずっと。


   ……。


   ……。


   ……ペンギン、見に行こうか。


   ペンギン…?


   …そう、ペンギン。
   榛名、ペンギン好きだったじゃない…?


   …今も、好きです。


   じゃあ…そうしよう。


   ……でも姉さまの事は、もっと、好きです。


   …。


   …榛名は、姉さまの事が一番好きです。


   と言うか、同じベクトル…?


   ……べくとる。


   でも榛名の一番なら、良いか…。


   …ん、姉さま。


   約束。


   ……はい、約束です。








   …屹度。
   屹度、この関係は理解されないだろうけど。
   それでも、私達は。








   ああ、晴れて良かった。


   はい、本当に。


   榛名。


   はい、比叡姉さま。


   行こうか。


   はい。


   …。


   姉さま?


   …手、繋ごうかなって。


   あ。


   …。


   ……はい、姉さま。


   …。


   …。


   じゃ…行ってきます。


   榛名も、行ってきます…。








   この道を、ふたりで、歩いてゆく。