−Take me to the heaven.





   あら、榛名…?


   …。


   どうしたの、こんな所で?


   …陸奥さん。


   部屋に戻らないの?
   そろそろ、消灯の時間だけれど?


   …ええ、少し。


   然う。
   でも、時間は守らないとね?


   …分かってはいるんですけど。


   部屋に戻りたくない理由でもあるのかしら?


   ……。


   んー…今夜は一人、と言うわけでは無かったわよね?
   確か…。


   …。


   …溜まっているものが、あるのなら。
   私で良ければ、聞くけれど…どうする?


   ……陸奥さん。


   なぁに?


   …。


   …。


   ……求めて貰うには、どうしたら良いのでしょうか。


   はい…?


   …。


   えと…つまりは、求めて呉れなくなったと?


   …………はい。


   まさか、比叡に限って…。


   …。


   …ここのところずっと、すれ違いが続いていたから。
   それも、あるんじゃない…?


   …私も然う思っていたんです。
   でも…。


   …でも?


   ……たまに一緒に居る事が出来たとしても、直ぐに、寝てしまって。
   疲れているのは、分かるんです…分かっては、いるんです。


   ……。


   けど…お昼の休憩時間も、寝ていて。


   …。


   ………傍に、居るのに。


   つまりは淋しいのね。
   榛名は。


   ……。


   構って欲しいと、言えれば…良いのだけれど。


   ……そんな事。


   でも比叡は榛名に然う言われたら…屹度、喜ぶと思うけれど。


   ………。


   大丈夫?


   ……大丈夫


   では、ないわよね?


   ……陸奥さんは長門さんに、


   然うねぇ。
   長門は…あんなひとだから。
   機微にそれはもう疎くて、寧ろ、比叡よりも大変よ?
   まぁ、比叡もなかなか鈍いとは思うけどね。


   ……。


   …だけどね。
   伝えればちゃんと分かって呉れるひとだから。
   …鈍いけれど。


   ……陸奥さんは長門さんの事、


   好きよ?誰よりも。


   …。


   榛名は?


   ……好きです、誰よりも。


   故に、淋しい。
   じゃあ、比叡は?


   …え。


   比叡は…榛名が傍に居て呉れるだけで良いって思っている節がありそうだけれど。
   でもね、淋しいと言う感情は心を持っていれば誰もが抱くものだと思うの。


   ……。


   …まぁ、少し安心しきっているところがあるのかもね。
   榛名は…基本ずっと、比叡と一緒に居るでしょう?


   それは……。


   …一緒に居たいから。
   それは比叡も、同じ。
   けど、榛名から来て呉れるから。
   比叡にしてみればそれが当たり前になってる。


   ……。


   …敢えて距離を取ってみるのも手だと思うのだけれど。
   現状でわざわざそんな事をしなくても…ねぇ。


   …。


   …ねぇ、榛名。
   今夜は比叡と一緒でしょう?


   …はい。


   もう、寝てるかしら。
   比叡って寝付くの、早いわよね。


   …分かりません。
   でも、若しかしたら…明日も早いと思いますので。


   いっそ、言ってみなさいな。


   …。


   それが出来たら、と言う顔をしているけれど。


   陸奥さんは…その、言えますか。


   然うねぇ…口で無くても良いでしょう、言うのは?


   …?


   知らない?
   目は口ほどに物を言うのよ。


   …私には。


   でも、然うねぇ。
   比叡も鈍いから、やっぱり言葉も必要よねぇ。


   …多分、通じないです。


   だったらやっぱり、言っちゃいなさいな。


   だ、だから…


   榛名、良い?


   …え?


   ……。


   あの、陸奥さん…。


   ………て、言ってみなさいな。


   …はい?


   これだったら流石の比叡も分かると思うわよ。


   は、榛名には、言えません…ッ。


   でも、言ったら。
   効果覿面だと、思うけど。


   う…。


   …求めて、欲しいのでしょう?


   ………は、い。


   だったら、待っているだけじゃ駄目よ。
   待ってるだけじゃ、手に入るものも、手に入らない。
   言うでしょ?指を咥えて見てるだけじゃ駄目、誰も呉れないって。


   …言いましたっけ。


   でも、その通りでしょう?
   それとも、見てるだけで比叡は手に入った?


   ……。


   …ね?


   ………でも。


   じゃ、榛名。
   そろそろ時間だから。
   ちゃんと部屋に戻ってね。


   あ、陸奥さん。


   頑張って。


   …なにを、どう、がんばれば。


   若しかしたら、だけど。


   …。


   榛名が望んでいる以上に、比叡は応えて呉れるかも。


   ……。


   …なんて。
   じゃあ、おやすみなさい。


   ……はい、おやすみなさい。








   …。


   ……姉さま。


   あ、榛名。


   あ。


   おかえり。


   え、えと…。


   ん?


   あ、あの、起きていらっしゃったのですか…?


   うん。


   で、でも、明日も早いと…。


   それはお互い様でしょう?
   榛名は明日、出陣ですよね。


   …然う、ですけど。


   どうか、気を付けて。
   どうぞ、無事に帰ってきて下さい。


   …はい、姉さま。


   ……。


   …?
   姉さま…?


   いや、あのさ。


   は、はい。


   未だ、消灯時間前でしょう?


   …?
   はい…。


   と言う事は未だ、フタヒトマルマルで…。


   …。


   …フタフタマルマルまでだったら、良いかなぁって。


   あの…姉さま。


   え、と…だから、ですね。


   …。


   少し、その、榛名とお話したいなぁ、と思って。
   ここのところずっと、榛名と過ごす時間を取れなかったから…。


   姉さま…。


   …ずっと、忙しくて。
   たまに一緒に居られたとしても、榛名、疲れてるかなって…だから、その。


   …。


   や、でもね。
   榛名がしたくないなら、良いんです。
   休める時にちゃんと休んでおかないと…いけない、し。


   …。


   え、えと…寝よう、か。


   …したくない、わけ。


   …。


   したくないわけ、ないじゃ、ないですか……。


   え、え、榛名…?


   ……。


   あ、えと、えと……あぁ。


   …榛名は、ずっと。


   は、榛名。


   ……ずっと。


   おいで…榛名。


   ……。


   わ……。


   ……。


   ……榛名。


   …比叡さん。
   比叡さん…。


   ……ごめんね。


   謝らないで、下さい.…。


   …だけど、泣かせてしまって。


   謝らないで…。


   ………榛名。


   …。


   …何をお話しましょうか。
   話したい事が、いっぱい、あって…。


   ……。


   …?
   榛名…?


   ……お話、したいです。


   う、うん…。


   ……でも、私は。


   え…。


   ………比叡、さん。


   は、はい…。


   ……。


   ぅ……。


   …。


   は、はるな…?


   ……榛名、と。


   う、ん……。


   ………いいこと、いたしましょう。


   え……ぇ?


   ……。


   い、いい、こと…。


   …はるな、と。


   …っ。


   ………し、て。


   はるな…。


   …〜〜〜〜ッ。


   あ。


   ……あぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁ。


   は、榛名…?!


   だ、だめです、だめです…ッ。


   な、なにが…ッ?


   とにかく、だめです…ッ。


   なにがだめなの…ッ?


   き、聞かなかった事に、して下さい…ッ。


   む、無理だよ、もう聞いちゃったし…ッ。


   で、では、無かった事に…ッ!


   それも、無理…ッ。


   わ、忘れて、


   無理だって…ッ。
   絶対、無理…ッ。


   然うでないと、榛名、死んでしまいます…ッ。


   そ、それは困る…ッ。
   すっごい、困る…ッ。


   で、でしたら…!


   だけど、聞かなかった事にするのも、無かった事にするのも、忘れるのも、無理です…ッ。


   …ッッ。


   榛名、私は…ッ。


   …ッ、きゃ…っ。


   ……。


   ひ、比叡、さん…。


   ………榛名、私は。


   ……。


   …我慢しなくても、良いですか。


   が、まん…?


   ……お話したいと思ったのは、本当なんです。
   けど…だけど……。


   …。


   ………いいこと、いたしていいですか。


   …!


   …………きかなかったことには、


   …できません。


   なかったことには…。


   ……むりです。


   では、わすれて…。


   それも……。


   …。


   ……むり、です。


   ……。


   …ひえいさん。


   ………。


   …はるなと、いたしましょう。


   ……。


   榛名、と……あ。


   ……榛名。


   比叡、さん…。


   ……やさしく、できない。


   …。


   …ごめん、できそうに、ない。


   ……あ、んッ。


   …。


   ……しない、で。


   …。


   あなたの、おすきまま、に……つよく、して、ください。


   …ッ!


   はるなも、そう、しますから……。


   はるなぁ…ッ。


   …ん、…ぁッ。


   ……。


   あぁ…ひえい、さん…。








   榛名。


   …陸奥さん。


   どう?
   躰の調子は?
   良く眠れた?


   …はい、榛名は大丈夫です。


   然う。


   陸奥さん。


   なに?


   …同じ、でした。


   うん?


   いえ…話を聞いて呉れて、有難う御座いました。


   どうしたしまして。


   …。


   比叡はもう、出ているのね。


   …はい。


   首のそれ…御守り代わり?


   あ、いえ………。


   …。


   …………はい、然うです。


   然う。
   じゃあ…気を付けて。


   はい。
   榛名、行って参ります。








  −Morning Grow





   …ん。


   ……。


   …ひの、ひかり。
   ああ、おきないと…。


   …。


   ……え、と。


   んん…。


   …どうしましょう、か。


   ……。


   …振り解く事も、出来ますけれど。
   でも、然うすると…。


   ……んぅ。


   …未だ少し、早いから。
   もう少し、寝かせておいてあげたいですね…。


   …。


   …でもこのままだと、起きられません。
   どうしましょう、か…。


   ……はるな。


   …。


   …。


   …比叡姉さま、起きて


   へへ、はるなぁ……。


   …ませんね。


   ……。


   …はぁ。
   今朝はまた、しっかりと抱き締めて下さっているのですね…。


   ……。


   …嬉しい、ですけど。
   しあわせ、ですけれど…。


   ……。


   …でも、このままではいけません。
   いけないのです…。


   …。


   ……比叡姉さま。


   …へへ。


   ……どんな夢を見ていらっしゃるのでしょう。
   その夢の中に榛名は…


   ふふ…はるなぁ。


   ………嬉しいですけれど、少し…いえかなり、恥ずかしいです。


   …。


   …霧島にまた、締まりの無い顔をしていると言われてしまいますよ?


   ……う。


   …けど、この顔は榛名しか知らないから。
   榛名だけの…。


   ………。


   …ああ、このままだと本当に起きられません。
   何故なら、榛名自身が、このままで居たいと思ってしまっているから…。


   …。


   ……いっそ、お寝坊してしまいましょうか。
   いいえ…駄目です、霧島に叱られてしまいます。
   姉さまが特にきつく。


   …。


   …本当に、どうしましょうか。


   ………はるな。


   …ああ、いっそこのまま。


   このまま…なに?


   …姉さまの腕の中でもう一度眠ってしまえれば。


   じゃあ、いっしょにねむろ…?


   …。


   …ん?


   ………姉さま?


   なに、はるな?


   …起きて?


   ううん、おきてないよ…。


   …。


   ……ぐぅ。


   …起きたの、ですよね?


   …ううん、おきてない。


   あの、榛名…そろそろ起きないと。


   どうして…?


   どうしてって…。


   …もう一度、眠ってしまいたいんでしょう?
   だったら、ね…。


   …。


   …。


   …霧島に叱られてしまいますよ。


   ……。


   …比叡姉さま。


   ……離してしまうのが、惜しいんです。


   あ、ん…。


   …だから、もう少しだけ。


   ……駄目です姉さま。


   へへ、やわらかい…。


   姉さま、本当に…あ、だめ。


   ……。


   …や。


   ……しないよ。


   で、でしたら…。


   でも…すきなんです、このかんしょく。


   ……。


   …きもちいい。


   だめ、です……ねえさま。


   …。


   …あ、……や、ん。


   ……かわいい、はるな。


   ねえ、さま…。


   ……。


   ……だめ、このままだと。


   …。


   ………ねえさま、はるなは。


   …ほしくなっちゃった?


   …ッ。


   ……じゃあ、ゆめのつづき。


   え…ぁ。


   ……いただきます。








  −Der Tanz des Narren





   比叡姉さま!


   榛名。


   お帰りなさいませ、姉さま!!


   お、と。


   …お帰りなさいませ、姉さま。
   榛名、一日千秋の思いで姉さまのお帰りをお待ちしておりました…。


   はい…比叡、ただいま戻りました。


   姉さま、お怪我はありませんか?
   お躰に不調はありませんか?
   何処か支障を来しているような事は…


   榛名、一遍に言われましても。


   …。


   …御覧の通り、私は無事です。
   小破に近い損傷こそ負ってしまいましたけれど…比叡は、無事です。


   ……あぁ、良かった。


   ですが念の為、明石さんに診て頂かないとなりません。


   …然うですね。
   榛名もその方が良いと思います。


   …榛名。


   比叡姉さま…。


   ……。


   ……。


   …榛名、皆が居ます。


   ……関係、ありません。


   …。


   …姉さまは関係あると思いますか。


   ……。


   ……姉さま。


   …然うですね、思いません。


   ふふ…。


   …可笑しい事を、言ったでしょうか。


   いいえ…ただ。


   …ただ?


   然う、仰って下さると…榛名、信じていましたから。


   …。


   ……姉さま。


   榛名…。


   ……榛名、今宵、姉さまの部屋に。


   榛名、今宵、私の部屋に。


   …。


   ……おいで。


   …はい、必ず。


   …。


   …。


   …明石さんの所に行って参ります。


   もう少し、こうしていたいです。


   …気持ちは同じなのですが。
   先程から霧島が此方を凄い形相で見ていまして。


   ……霧島。


   …また後で、榛名。


   ……。


   ……後で、必ず。


   …絶対、ですよ。


   ……ええ、絶対に。








   姉さん。


   …何でしょう、霧島。


   弁えると言う言葉を、知っていますか。


   …勿論、知っていますよ。


   だったら、時と場所を


   ただ、私の辞書からは消えてしまっていますが。


   …。


   然う、大分前から。


   ……姉さん。


   …。


   …何が可笑しいのですか。


   いえ…別に。


   …榛名との仲をとやかく言うつもりはありません。
   ですが、


   言われる謂れもありませんよ、霧島。


   …。


   随分と、苦い顔をするものですね。
   思えば霧島はいつも、難しい顔をしていますものね。


   …風紀を乱しているとはお思いにならないのですか。


   乱していたとして、それが何か?


   …。


   それに私達ふたりだけでこの場所の風紀を乱せるなんて、ちゃんちゃら可笑しいと思いますよ。


   …兎に角、止めて下さい。
   抱擁は兎も角…皆の前で、口付けを交わすのは。


   初心ですね、霧島は。


   …!


   口付けなど、


   姉さん…!


   …霧島、はしたないですよ。
   金剛型がそのような声を上げるなど。


   …姉さんは、変わってしまいました。


   然うでしょうか。
   私はちっとも、然う思っていませんが。


   …榛名の影響だとしたら。


   霧島。


   ……。


   私は近々、解体されるかも知れません。


   …え。


   榛名に近過ぎるようなので、疎ましいようですよ。


   ……ですが、黙認されている筈では。


   簡単な話ですよ、私の事が気に喰わないだけです。
   然うですね、反抗的な態度を取っているとでも思われているのかも知れません。


   何処がですか。
   今日だって、姉さんは…。


   あわよくば、海の藻屑にでも。


   …!


   所詮、私は兵器(もの)なので、殺した所で心も痛まないのでしょう。
   寧ろ、持ってすらいないのかも知れません。
   生まれたばかりの子をそのまま、解体に回すくらいなので。


   …だとしても、そんな莫迦げた事を。
   姉さんは主力なんですよ、それなのに。


   平和とやらを取り戻すよりも、己の欲を叶えたいだなんて。
   全くもって、愚かな人の子らしいですね。


   姉さん…。


   ……。


   ……榛名は、知っているのですか。


   どうでしょう…でも、彼女はとても聡いから。


   ……そんな莫迦な事って。


   いいえ、莫迦だからこそ、私達は生まれて。
   そして、あの大戦を引き起こしたのでしょう。
   人の子はいつの時代も、変わらない。
   然う、こうやって過去が復讐しに来ていたとしても。
   過去に、喰い殺されそうになっていたとしても。
   考えを、改めようとしない。
   省みようとも、しない。
   そうして痛みを忘れた頃に同じ事を繰り返すのです。
   然う、何度も、何度でも。


   ……。


   …ねぇ、霧島?


   ……。


   愛しいひとに愛しいと、言わなくて。
   貴女は、平気ですか。


   …何を。


   愛しいひとと、より深く、繋がりたいと。繋がっていたいと。
   思うのは、心を持つ者として、当たり前の感情だとは思いませんか。


   …。


   明日、沈んでしまうかも知れないのに。


   …。


   …突然別れが来て、それっきりになってしまうかも知れないのに。


   ………私には、分かりません。


   …。


   ……何故、笑うのですか。


   いっそ、私が死ねば良いと思いますか?
   死ねば、丸く収まると思いますか?


   …ッ。


   ……。


   ね、姉さん…。


   …だけれど、私はね。
   優しくもなければ、往生際も悪いんですよ。
   何しろ一度、見捨てられて死んでいますから。


   なに、を……。


   ……然う、だから。


   比叡、姉さん…。


   ……私から、榛名を、奪いとろうとする全てを。








   ……。


   …霧島。


   ……榛名。


   …。


   …う。


   ……どうして、邪魔をするのですか。


   …。


   …どうして私達の邪魔をするのかと、聞いているんです。


   邪魔、なんて…。


   …分かりませんか。


   ……。


   私は、邪魔だと、言っているのです。


   ……はる、な。


   …。


   ……。


   …今後も、私達の邪魔をし続けると言うのなら。
   私は、貴女を、赦しません。


   …邪魔を、する、つもりなど、無いわ。


   へぇ…然うでしょうか。


   ……何が、言いたいの。


   …。


   …離して、苦しいわ。


   …。


   ……私は貴女達の事にとやかく言うつもりは、無いの。
   ただ…


   霧島。


   …。


   妹の貴女であろうと、決して、赦しはしない。
   どうぞ、覚えておいて下さいね。


   ……榛名。


   何でしょう、霧島。


   榛名は…


   ああ。


   …え。


   そんな事は、榛名が決して、させませんから。
   大丈夫ですよ、霧島。


   …私は、未だ。


   姉さまを解体するだなんて。
   なんて莫迦な事を企んでいるのでしょう。
   浅はか、とでも言うのでしょうか。
   実に人の子らしいですね。


   …。


   どうしてそんな顔をしているのでしょう?
   私は当然の事を言っているだけですけれど。


   …榛名、貴女。


   私が心から尽くしていると思いましたか?


   …。


   私が慕うひとは、たった、ひとりだけ。
   私が心から尽くしたいのは、たった、ひとりだけ。


   …。


   然う、比叡姉さまだけ。
   他には居ません。


   …。


   人の子なんかに、ふねである私達の何が分かると言うのでしょう?
   例えば、然う。
   あの大戦の後、私は解体されて、復興の為の資材になった事はもう知っていますよね?


   …ええ。


   そのおかげで人の子の為に、最後の最後まで、尽くしたと。
   然う、言われているらしいですよ。
   ちゃんちゃら可笑しいですよね。


   …。


   それは何処まで行っても、人の子の都合に過ぎないと言うのに。
   榛名の、何が、分かると言うのでしょう?
   いいえ、何も分かる筈が無いのです。
   所詮、人の子は人の子に過ぎないのだから。


   …。


   ふねである私が、人の子を愛する?
   有り得ませんよね、そんなおめでたい事は。
   然う、何度、生まれ変わったとしても。


   ……何をするつもりなの。


   さぁ、何をしましょうか。
   どう、しましょうか。


   榛名……止めて。


   止める?
   私は未だ、何もしていませんけれど?


   ……榛名。


   ねぇ、霧島?


   …。


   愛しいひとに愛しいと、言わなくて。
   貴女は、平気ですか。



   …。


   愛しいひとと、より深く、繋がりたいと。
   思うのは、心を持つ者として、当たり前の感情だとは思いませんか。


   …。


   明日、沈んでしまうかも知れないのに。


   …。


   …突然別れが来て、それっきりになってしまうかも知れないのに。


   ……同じ事を。


   …。


   比叡姉さんも、言っていたわ…。


   …。


   …笑い方、までも。


   だって、私達は。


   …。


   愛し合っていますから。
   だから誰も私達の邪魔は出来ませんし、させるつもりもありません。


   …。


   …私はね、霧島。
   姉さまほど、優しくはないんです。


   …ッ。


   然う、優しくなんて、ないの。


   ……その、目。


   ……然う、だから。


   榛名…やっぱり貴女が。


   ……私から、比叡姉さまを奪い取ろうとするもの、全てを。








   榛名。


   姉さま。


   …。


   …お躰は。


   ……御覧の通りです、榛名。


   あぁ…。


   ……。


   …比叡姉さま。


   ……今宵は、離しません。


   はい…榛名も離れるつもりはありません。


   …。


   ……存分に、榛名を。


   …貴女も、存分に。


   あぁ、姉さま……。


   …榛名、貴女が、欲しい。


   榛名も、榛名も……。


   …。


   …。


   ……二度と、離れる事はないと。


   …。


   もう、二度と、私達は。


   …榛名はずっと、貴女の傍に。


   ……誰にも、渡さない。
   奪い取らせは、しない…。


   ……。


   ……榛名、この比叡に付いてきて呉れますか。


   …この榛名、何処までも愛しい貴女と共に。


   ……。


   ……。


   …共に、生き。


   ……共に死ぬ、その時まで。








  −der Rueckblick





   ……。


   ン…ア……、…ァア。


   ……。


   …アンッ、…アァッ、アッ。


   ……。


   …ンッ。


   ……。


   ……?


   …。


   ……サマ。


   …。


   ドウサレ、マシタカ…?


   ……。


   ン…姉サマ。


   ……オ腹、スイテナイデスカ。


   …。


   ……イイニオイガ、近付イテキテイマス。


   …今マサニ、貪ルヨウニシテ食ベテイラッシャッタノニ。


   …。


   ソレトモ…私ダケデハモウ、満タサレナイトデモ。


   …腹ガ減ッテハ戦ハ出来ヌ。


   ……。


   …ツマリ、ソッチノ腹デス。


   ……本当ニ?


   ン…。


   …姉サマ。


   ……私ヲ満タシテイルノハ、満タセルノハ。
   貴女ダケダト……何度モ、言ッテイルノニ。


   ……ソレデモ、私ハ悪イ子ダカラ。


   …。


   確カメナイト、怖クテ、怖クテ…壊レテシマイソウニナルンデス。


   …モウ、壊レテイルノニ?


   …。


   ……ヤッパリ、私ニハ貴女ダケ。
   貴女イガイ、要ラナイ…。


   ア、姉サマ…。


   ……デモ、ソレデモ、腹ハスク。


   ………モ、ゥ。


   …。


   ……数ハ。


   …。


   ヒィ、フゥ、ミィ、ヨォ……イツ、ムゥ…。


   …特別、イイニオイガシテイルノガ居ル。


   …。


   指輪モチ………ゴチソウ、ダ。


   …ヒトノコガマジッテルヨウデス。


   ミタイデスネェ…。


   …ドウシマスカ。


   ソッチハマズイ、イラナイ。
   ダカラ、捨テル。


   …同感デス。


   ……アア、デモ。


   …。


   …お気ニ入リノ娘ヲ目ノ前デ、喰ワレタラ。
   ドンナ顔、スルカ…ン。


   ……。


   ……ナ。


   …私モ行キマス。


   ……付イテキテ、呉レマスカ。


   ハイ、私ハドコマデデモ、貴女ニツイテユキマス。
   ソレニ…。


   …ソレニ?


   姉サマ一人デハ、心配ナノデ。


   …。


   ……アナタハ、ワタシダケノモノ、ナンデス。


   …モチロン。


   ……。


   …喰ッタラ、続キヲシヨウ。
   アレダケデハ、全然、足リナイ。


   ……エエ、喜ンデ。


   …。


   ……ハルナモ、アレダケデハ、足リマセン。
   全然、足リマセン…。


   ン、ハルナ…。


   …モット、モット、ハルナヲ愉シマセテ、悦バセテ。
   モット、モット、ハルナヲ抱イテ、喰ラッテ…喰ライ、尽クシテ。


   ……ハルナ。


   姉サ…ヒエイサン。


   ……。


   …。


   ……イコウカ、ハルナ。


   ハイ…ハルナハ、ツネニ、アナタトトモニ。








  −You'll give me Romance!





   ひ、ひえいねえさま。


   はい、榛名。


   え、と。


   …ふふ。


   と、とりっく…


   …。


   ……。


   ...or treat.


   !


   …。


   おあ、とりーと…です。


   はい、何が良いですか。


   わ。


   定番のクッキー、キャンディ、チョコレート。
   プリンもありますよ。
   この日の為に取っておいたんです。


   あ、あの…。


   榛名が好きなのを、どうぞ。
   それとも全部、持っていきますか?


   い、いえ、ぜんぶ、なんて…その、はるなには、もったいないです。


   良いんですよ。
   私が榛名にあげたいんだから。


   で、でも、こんなに…。


   どうぞ、榛名。


   …はるなには、おおいです。


   少しずつ、食べれば良いと思いますよ。
   今日明日で腐るものでは…ああ、クッキーは湿気てしまうかも知れないから早めの方が良いかな。
   プリンも早い方が良いですね。


   ……。


   榛名?


   …あの、ひえいねえさま。


   はい、何でしょう。


   …はるな。


   うん。


   …ねえさまと、はんぶんこに、します。


   私とはんぶんこ?


   ……。


   でも、これは…。


   …。


   ……榛名は欲が無いですねぇ。


   …。


   …分かりました。
   では、然うしましょうか。


   ……はい。


   だけど、榛名。
   プリンは、貴女に。
   好きでしょう?


   …。


   …ふふ、どうぞ?


   ………ありがとう、ございます。


   …。


   …う。


   ……。


   …ねえ、さま。


   ……そんなに緊張しないで呉れませんか。


   …。


   …でも来て呉れて嬉しかったです、榛名。
   はんぶんこと言って呉れたのも、嬉しかった。


   ……。


   …少しずつで、良いから。
   私を、好きになって呉れませんか…?


   ……はるなは。


   …少しずつで、良いんです。
   私を見て、知って……好きになって呉れたら、私は嬉しい。


   ……。


   …私は、榛名の事が大好きですから。


   ……どうして、ですか。


   うん…?


   …はるな、わからないです。
   すきって、なんですか…。


   ……然うですね、好きとは。


   あ……。


   …思わず、抱き締めたくなってしまうような。


   ね、ねえさま…くるしい、です。


   …ああ、すみません。
   少し、力の加減を間違えました。


   ……すきだと、ぎゅうって、したくなるのですか。


   はい。


   ……。


   …あとは、然うだなぁ。


   いせと、ひゅうがにも、ですか。


   え?


   したくなりますか?


   ……いや、なりません。


   …すきではないのですか。


   好き、ですけれど。
   その好きとはまた、違うんですよね。


   ……。


   …何と、言いますか。
   榛名への気持ちは特別…と、言いますか。


   とくべつ…。


   妹、ですし……。


   ……はるな、よく、わかりません。


   …はい、然うですよね。
   私も上手く、言えません…。


   ……。


   ねぇ、榛名。
   プリン、此処で食べてゆきませんか。
   伊勢と日向の部屋には、戻らずに……どうか、私の部屋で。


   …。


   ……無理にとは、言いませんが。


   …はるな。


   …。


   ……ここで、たべてゆきます。


   うん…有難う御座います、榛名。


   …。


   …ああ、アイスもあったんでした。
   食べますか?


   …そんなに、たべられません。


   ですよね…。


   ……でも。


   …でも?


   ………はるな、


   …。


   ……うれしい、です。


   …!
   榛名…。


   …ぁ。


   ………私も、嬉しいです。


   ね、ねえさま、くるしい…。


   嬉しくて…どうしても、加減を間違えてしまいます。


   ……はなして、ください。


   …もう少しだけ、駄目ですか。


   だめ…です。


   ………はい、分かりました。


   …。


   …然う言えば、榛名。


   ……なんですか。


   私がお菓子を用意していなかったら…いたずらするつもりだったんですよね?


   …。


   どんないたずらをしようと思っていたのですか?


   ……。


   ?
   榛名?


   ……ほっぺたに。


   ほっぺたに?


   …くちびるを、おしつけるものだと。


   唇を…押し付ける?


   あるいは、くちびるに…と。
   そう、いせが、おしえてくれました。


   ………………。


   …?
   ねえさま…?


   榛名。


   …え。


   お菓子、やっぱりあげません。


   あ……。


   なので、いたずら、して下さい。


   ……。


   …お菓子はその後にあげますから。


   ええ、と…ええと。


   お願いします、榛名。


   ねえさまは、いたずら、されたいのですか…?


   榛名になら、喜んで、されたいです。


   で、でも、いやがるものだと…。


   榛名にされるなら、嫌がりません。


   ……。


   なので、何卒。


   …。


   ほっぺたでも…その、唇でも。


   …。


   …。


   ……ひえいねえさま。


   は、はい。


   ……。


   …ん。


   ……とりっく、です。


   〜〜ッ。


   …。


   榛名…ッ。


   …ッ!


   …有難う御座います、榛名。


   ねえさま、くるしい、です……。


   …唇に、して呉れるなんて。
   ああ、すごく、すごく、嬉しい。


   …うぅぅ。


   ……あ、でも。


   ひえい、ねえさま…。


   他のひとには、しては、いけませんよ。
   絶対に、駄目ですからね。


   あの…はなして、ください…。


   他のひとにキスしては、駄目ですから。
   勿論、伊勢や日向にも。


   ……。


   …これだけはこの比叡と、姉と、約束して下さい。


   ………どうして、ですか。


   どうしても、です。
   兎に角、駄目です、駄目なんです。


   ……。


   お願いします、榛名。


   ……はるな、やくそく、します。


   …!
   有難う、榛名…!


   …うーー。


   ……。


   …。


   …良し。
   じゃあお菓子、食べましょうか。


   ……はるな、もう、かえります。


   え、どうして。


   …かえります。


   は、榛名…。


   ……。


   待って、待って下さい。
   もう少し、もう少しだけ良いから、一緒に…。


   …。


   榛名………。


   ……ねえさま、すぐにぎゅうって、するから。
   はるな、くるしいです…。


   わ、分かりました。
   もう、しません、しませんから。
   今は、しません。


   …。


   …明日になったら、するかも知れませんけど。
   だけど、今は、しないから、だから。


   ……ぜったい、ですよ。


   は、はい、絶対です。


   …はりせんぼん、ですよ。


   はい、はりせんぼん、です。


   ……。


   …。


   …もうすこし、います。


   有難う、は…


   …。


   …有難う御座います、榛名。
   では、どうぞ。


   …ありがとうございます、ひえいねえさま。


   紅茶、淹れますね。


   …。


   どうぞ、ゆっくりしていって下さい。
   なんなら、今宵は此処で…


   …。


   ……あ、いえ、これ以上は贅沢でした、すみません。


   ひえいねえさま。


   …はい。


   ……。


   …。


   …ぷりん、おいしいです。


   うん…良かった、です。


   ……。


   ……。


   ……はるな。


   …。


   ……おとまり、しても、いいです。


   ほ、本当に…ッ?


   …ぎゅうって、しないなら、です。


   し、しない、しないから……多分!


   …。


   …しません、から。


   ……いせとひゅうがに、いってきます。


   いや、それなら誰かに伝言を頼みますから。
   このまま、このまま、お願いします。


   ……。


   …やったぁ。


   ……そんなに、うれしい、ですか。


   嬉しいです、凄く、嬉しい。
   ああ、生きていて良かった…ッ。


   ……よく、わかりません。


   お布団、一組しか無いんですけど…枕、枕は二つありますから。
   なんでかは知りませんけど、ありますから。


   …。


   ……ああ、やったぁぁ。


   …でも、いいです。


   はい、良いです…!
   ああ、本当に嬉しい…!
   有難う、ハロウィン…!








   ……。


   …と、言う事がありまして。


   ……つまり、どういう事ですか。


   つまり、その、実のところ、初めてではなかったと言いますか……。


   …つまり、どういう事でしょうか。


   つまり……ファーストキスではないと言う事です。


   ……。


   は、榛名は憶えていなかったんですか…?
   私はてっきり…。



   ……。


   …私は、凄く、嬉しかったから。
   昨日の様に憶えているの、です、が。


   …比叡姉さま。


   は、はい。


   …つまり、二回目なんですね?


   …。


   …姉さま?


   はい、然うです…。


   …。


   この比叡、誓って、嘘偽りはありません…ありません、から。


   …はぁ。


   ひぇ…。


   …本を正せば伊勢の言う事を鵜呑みにした私が悪いですが。
   分かっていない私を誑かした姉さまはもっと、悪いです。


   た、誑かしてはいないと、思います、けど…。


   …でも、利用しましたよね?


   そ、然ういうわけでは。
   ただ、私は…その、して欲しいなぁって、思っただけで。


   つまり、上手く利用したと。


   ……。


   比叡姉さま。


   …榛名。


   はい。


   ……好き、です。


   …。


   …あの頃は、その、必死で。
   どうすれば、榛名は…もっと私の傍に居て呉れるか、そればかり、考えていたんです。
   だって、ずっと、ひとりだったんです。


   ……知っています。


   だから……その……。


   …。


   ……すみません。


   …。


   お願いです、どうか、離れないで下さい。
   どうか…。


   ……姉さまはどうしてそんなに榛名の事が好きなのですか。


   どうして…。


   …榛名の何処が好きなのですか。
   榛名には、分かりません。


   ……榛名の全部が好きです。


   全部…。


   …意地っ張りなところも、素直ではないところも。
   意外に…その、やきもちやきなところも。


   ……姉さまは変わっているのですね。


   え。


   …良いところが一つも無い榛名を好きになるなんて。


   そんな事は無いですよ…!


   …。


   そんな事は、無いです…断じて、無いです。


   ……矢張り、榛名には分かりません。


   …。


   好きとは、何でしょう。
   榛名はどうして、姉さまの事を好きになったのでしょう。


   …榛名。


   ……分かりません。


   …確かに私には良いところなんて無いです、けど。


   それは違います。


   …あ。


   …。


   榛名…?


   …姉さまはこんな私を好きだと言って下さる。


   う、うん…。


   ……その好きは皆へ向けるものとは違うとも。


   …。


   …榛名はそんな姉さまをずっと見てきました。
   そして…少しずつ、姉さまの事を。


   ………。


   …これが好き、なのでしょうか。
   姉さまが言うものと同じものなのでしょうか。


   ……だと、信じています。


   …。


   ……これからは、この部屋が、貴女の、部屋です。


   …。


   …これからは、この部屋で、私と、一緒に。


   ……本当は。


   …?


   ……はっきりとは、分からないけれど。


   …。


   ……比叡姉さま。


   はい…。


   …好きです。


   ……はい。


   …キス、しても良いですか。


   ……して、欲しいです。


   …。


   ん……。


   ……嬉しい、ですか。


   はい……とても、嬉しいです。


   …。


   ……私からも、して、良いでしょうか。


   …。


   …。


   ……しないのですか?


   うぁ…。


   …?


   は、榛名は……その、私に、して、欲しいですか。


   …。


   ……。


   …して欲しいから、待って、います。


   …ッ。


   ………姉さまが、好きだから。


   榛名…!


   …ぅ。


   ………もう、離さない。


   …。


   …榛名、ずっと。


   姉さま…。


   …。


   ……苦しい、です。


   …ごめん、どうしても力の加減が上手く出来ません。


   ………けれど。


   …。


   けれど…そういう不器用なところも、私は、好きなのだと思います。
   好きになったのだと…いいえ、好きだったのでしょう。


   …あぁ、それが本当なら。


   ……比叡姉さま。


   …。


   …好きという感情を、私に教えて呉れたのは。
   その感情を与えて呉れたのは、紛れも無く、貴女です。


   …。


   …だからもっと、私に、与えて下さい。
   貴女を、もっと、好きになる為に…。


   …幾らでも、あげます。
   際限無く溢れてくる、この感情を…貴女に。


   …。


   ……愛しています、榛名。


   …愛して?


   ………。


   …それは、なんでしょうか。
   好きとは、違うものなのでしょうか。


   …いいえ、違いません。
   けれど…少し、違うかも知れません。


   ……感情とは、難しいものですね。


   いえ、屹度、それはとても単純なものなのだと。


   …単純なもの。


   榛名………。


   ……。


   ………抱き締めても、良いですか。


   …。


   ……。


   …苦しく、しないのなら。


   はい……頑張ります。


   …気合は、入れないで下さい。


   然うですね…入れないようにします。


   …。


   ……。


   ……苦しく、ないです。


   ああ、良かった……。


   …。


   榛名…榛名。


   ……キス、しないのですか。


   え…。


   …ずっと、待って、います。


   ああ…っ。


   …。


   ……榛名、目を閉じて、下さい。


   …はい。


   ……。


   ……。


   ……嬉しい、ですか。


   …榛名は。


   …。


   榛名は、嬉しいと…。


   ……一つ、提案なのですが。


   …比叡姉さま。


   先程の榛名からのキスと。
   今の私からのキスを。
   これらを…私達の初めてに、しませんか。
   想いが通じ合って、初めての…。


   …。


   …いや、都合が良過ぎますよね、すみません。


   榛名は、それでも、良いです。


   …。


   …良いです、姉さま。


   ……あぁぁ。


   う……。


   …愛しています、榛名。
   愛してます…。


   ……苦しいです、比叡姉さま。


   …うん、ごめん。








  −霜月五日〜祝言の夜に





   …。


   …。


   ……。


   ……。


   …え、と。


   …。


   榛名。


   …はい、姉さま。


   …。


   …。


   …未だ姉さま、なのかな。


   あ…いえ、その。


   …まぁ、直ぐには変えられないと思いますから。


   …。


   ゆっくりで、良いですから…。


   ……比叡、さま。


   …。


   …。


   ………え、と。


   …。


   …出来れば、「さま」じゃない方が。


   ………。


   榛名、そんなに緊張しないで呉れませんか…。


   …。


   ……まぁ、私も人の事は言えませんが。


   …あ、の。


   はい、何でしょう…?


   ……。


   …榛名。


   ……宜しく、お願い致します。


   …。


   ふ、不束者ですが…その、どうぞ、宜しくお願いします…。


   ……こちらこそ不束者ですが、末永く、宜しくお願いします。


   ぁ…。


   ……。


   …姉さま。


   ……震えて、いますね。


   …。


   …分かりますか、榛名。
   私も……手がずっと、震えているんです。
   抑えようとはしているのですが、どうにも、上手くいかなくて。


   ……。


   こんなに緊張したのは…初めての事かも知れません。
   初陣の時も緊張しましたけれど…これ程では無かったような気がします。


   ………比叡さま。


   …。


   …比叡、さん。


   はい…榛名。


   ……。


   ……力を、抜いて呉れませんか。


   …。


   …矢張り、人の事は言えないのですが。


   比叡さん……。


   …こういった事には、不慣れなので。
   嫌だったら、言って下さい。


   ……、です。


   はい…?


   ……いやじゃない、です。


   …。


   …それに。


   それに…?


   ……なれていないほうが、いいです。


   …。


   ………はるなが、比叡さんにとって、はじめての。


   えと…それは。


   …ッ。


   あ、榛名…。


   な、なんでも、ありません…ありません…。


   …。


   …。


   ………榛名。


   …は、い。


   ……。


   ……。


   ……大丈夫、ですか。


   …はい、私は、大丈夫です。


   …。


   …ぁ。


   ……愛しています、榛名。


   …。


   …貴女とこの日を迎えられて。
   私は、仕合せです…。


   ……私、も。


   …。


   貴女を、愛しています…誰よりも、貴女を。


   …。


   私も、仕合せです…仕合せです…。


   …恐らく、様々な事が待ち受けているでしょう。
   それでも、私と…手を取り合って、一緒に歩んで呉れますか。


   はい…この榛名、貴女と共に。


   …。


   貴女と、生きてゆきます…。


   …。


   …。


   ……良い、ですか。


   ……はい。


   ……。


   比叡さん……比叡さん…。


   …。


   ………ぁ。









  −Willful Princess





   キス、しても良いですか。


   …え?


   しても、良いですか。


   …え、と。
   榛名?


   ……。


   あ、や、一寸待って下さい。


   …どうしてですか。


   どうしてって。


   どうして、待たないといけないのですか。


   え、と。
   榛名、此処が何処だか分かってます…?


   …何処だって、榛名は、構いません。


   いや、それは駄目だと思います、けど…。


   …どうして駄目なんですか。
   姉さまは…榛名とキス、したくないのですか。


   したくないわけでは…。


   …だったら。


   でもほら、金剛お姉さまも言ってるでしょう?
   時間と場所を弁え……て、榛名、待った。


   …むぅぅぅ。


   いや、本当にどうしたの、榛名。


   ……姉さまとキス、したいんです。


   そ、それは、分かりました、けど……。


   …じゃあ、して下さい。


   は、はい?


   …榛名からするのが、駄目なら。
   比叡姉さまから、して下さい。


   な、なんで、そうなるんですか。


   ……。


   え、ええ…。


   ………姉さま。


   や、や…榛名、皆見てますから。


   …榛名は、構いません。


   せ、せめて、場所を変えましょう?
   ね?


   …嫌です、今直ぐして欲しいんです。


   は、榛名ぁ。


   ……。


   ま、参ったなぁ…。


   …比叡姉さまは。


   え?


   …榛名だけのひとです。


   ……ええ、と?


   …榛名だけの、なんです。


   ……。


   ………だから。


   …榛名。


   ……。


   ………ああもう、仕方無いですね。


   …。


   ……。


   ………姉さま。


   …続きは、部屋に戻ってから、です。


   はい、姉さま…。


   さ、さぁ、仕事に…。


   …榛名、待ち遠しいです。


   …。


   ……早く、その時間が来れば良いのに。


   …。


   …。


   あぁ、もう……仕事、いっそ投げ出してしまいたい。





   比叡姉さん、榛名。





   …。


   ……はい、霧島。


   言わなくても分かっていますよね?


   …。


   …はい、分かっております。


   ではどうして呉れるんでしょうね、この状況を。
   この、色めきだっている状況を。


   ……。


   …どうしようも出来ません、すみません。


   全く。
   何を考えているんですか、時間と場所を弁えろとあれ程金剛お姉さまに言われていると言うのに。
   榛名、比叡姉さんが他の艦娘と仲良くしてるように見えるからと言って、今、そういう事を強請るのは止めて。
   比叡姉さんはそもそも榛名に甘い上に、辛抱が足りません。


   …。


   …はい。


   確かにふたりは、この泊地では公認された仲で、ユビワも贈り合った仲です。
   それは分かっていますけど、だとしてもですね、こんな真昼間、しかも皆の前で堂々といちゃいちゃするなどと……………。


   ……いちいち口うるさいです。


   …榛名、し。


   ちゃんと聞いているんですか!
   全く、恋仲だか番艦だかなんだか知りませんけど、本当に少しは考えて下さい。
   そもそも私達はですね、








  −雪ノ下〜霜月十三日




   …。


   …。


   …姉さま。


   …。


   …お躰に障ります。
   冷えは…人の子の躰には、良いものではありません。


   …。


   比叡姉さま。


   …。


   ……届かぬの、ですか。


   …。


   姉さま……。


   …届いて、いますよ。
   貴女の声は…ちゃんと、此処に。


   …。


   ……直ぐに戻るつもりだったのですが。


   …。


   ……榛名。


   …榛名と、戻りましょう。
   戻りましょう、姉さま…。


   …もう少し、なんです。


   …。


   …この線香が、尽きるまで。


   ……ずっと、見ているおつもりなんですね。


   どうして、でしょうね…。
   そんなつもりは、無かったのですが…。


   …。


   …雪のせい、でしょうか。


   ……最初から、離れるおつもりなんて無かったのでしょう。


   …あと少し、なので。


   ならば、私も此処に居ります。


   …いいえ、榛名は戻って下さい。


   嫌です。


   …これは、私の感傷に過ぎないのです。
   貴女が…そんなものに付き合う必要など、無いんです。


   …。


   …無いのですよ、榛名。


   ……嫌です。


   榛名。


   ……あの日。


   …。


   ……貴女は、来なかった。


   …。


   …来なかったんです、姉さま。


   ……。


   ……。


   …。


   ……ごめんなさい、姉さま。


   …何が、でしょう。


   何も分かっていないのに…分かる筈なんて、無いのに。


   …榛名、貴女の手は温かいですね。


   え…。


   …いつもだったら、私の手の方が温かいのに。
   今は…貴女の手の方がずっと、温かい。


   …あ。


   ……貴女の躰はこんなにも、温かい。


   姉さま……。


   ……。


   ……。


   …戻りましょうか。


   …良いのですか。


   ええ…もう、良いんです。


   …。


   …私は、生きていますから。
   此処で、榛名と。


   ……。


   …然うですよね、榛名。


   ……。


   ん…では、行きましょうか。


   …姉さま、良かったらこれを。


   ん…?


   …新しいのを、編んだんです
   今使っているものは…大分、草臥れてしまっているので。


   ああ…。


   …色は、同じものにしたんです。
   姉さまは…この色がお好きだから。


   …有難う、榛名。
   嬉しいです。


   …いえ。


   巻いて、呉れますか。


   …。


   ……榛名。


   はい…姉さま。


   ……。


   ……。


   ……うん、暖かい。


   …良かった、です。


   こちらもとても気に入っていたのですが…然うだ、取っておけば良いのですね。


   ですが…。


   然うさせて下さい、榛名。


   ……姉さまが、言うのなら。


   有難う、榛名。


   …。


   …これで今年の冬も乗り越えられそうです。


   半纏も…繕わないと、いけません。
   綿も、食み出してしまっていて。


   ああ、然うでした…。


   …これを機に、新しい綿を詰めましょう。
   そうすれば…


   …もっと、暖かいですね。


   はい…。


   …だけど、一番は。


   あ、姉さま…。


   …貴女が傍に居て呉れる事、です。
   どんな寒い夜でも…貴女が居て呉れれば。


   ……。


   ………榛名。


   …榛名も、同じですから。


   ん…。


   ……同じ、ですから。


   …うん。


   ……。


   ……。


   …蜜柑、食べたいなぁ。


   良いですね…お蜜柑。
   榛名、大好きです。


   今年は食べられるかなぁ…。


   …食べられると良いですね。


   うん、榛名と一緒に。


   …姉さまと、一緒に。