−heavenly blue






   加賀さんの色は、あの空と同じね。


   空、ですか。


   ええ、然うです。


   …。


   あと、海とも同じ。


   …空と海では、違う色だと思いますが。


   ええ、違うわ。
   でも、加賀さんの色なの。


   …。


   加賀さん。


   はい。


   どうしてそんなに難しい顔をしているの?


   …難しい顔。


   加賀さんの顔は、とても、きれいだから。


   ……。


   ね、笑って?


   …然う、言われましても。


   ほら、ほら。


   赤城さん、知っていますか。


   え。


   空よりもずっと、高い所。
   宇宙と呼ばれる場所から、この星を見ると。
   何色をしているのか。


   知っているわ。
   加賀さんの色、でしょう?


   …。


   ふふ、青よ。
   海の色。


   …然うです。


   加賀さんが読んでいる本に然う、書いてあったもの。


   私は青色ではありませんよ。


   加賀さんがどう思っているのかなんて、関係ないわ。
   私にとっては加賀さんの色は青、なんだもの。
   海と、空と、そしてこの星の色。


   …。


   私の好きな色よ。
   大好きな、色。
   守りたい、色。


   …赤城さんこそ。


   私?


   赤城さんこそ、空と海の色ですよ。


   私は違うわ。


   夕焼け。
   赤に染まる、海、世界。


   …。


   赤城さんの色です。


   …私は、赤じゃないわ。


   貴女が然う思っていなくても。
   私にとって赤城さんは…赤、命の色です。


   命…。


   ……。


   加賀さん…?


   …其の躰を、抱き締める事を、許して下さい。


   ……そんな許し。


   赤城さん…。


   ……加賀さん。


   …。


   …加賀さんは、いつまで、前の赤城の姿を私に重ねるのですか。


   ………。


   …私は、いつになったら、加賀さんの赤城になれますか。


   ……。


   …この躰が大きくなれば、貴女は私を。


   ……愛しています。


   …。


   ……貴女を。


   …それは、本当は。


   ……人の子の心とは不思議なものです。
   遠ざかる程に、美しいと思う…思ってしまう。


   私は、遠ざかりません。
   私は、貴女の、傍に居たいのだから。


   …。


   …嫌です、私と重ねないで。
   居ない人と、重ねないで。


   ……私は。


   私を、見て。
   今の私を。


   ……。


   …ああ、どうして私の躰はこんなに小さいの。
   早く、早く、大きくなりたい…大きくなって、貴女を。


   …貴女の小さい躰を抱きしめるたび。


   …。


   …私は、強く、思わずにはいられないのです。
   貴女を守りたい、貴女がこれから行く道を、守り続けたい。


   …。


   その為なら、私は。


   嫌です。


   ……。


   …そんな事を言って、本当は赤城の元に行きたいだけなのでしょう?


   ……赤城さん。


   嫌よ…加賀。
   私を、独りにしないで。


   …しません。
   加賀は、決して、赤城を。


   貴女じゃなきゃ、嫌なの。


   …。


   …嫌、嫌なの。


   ……。


   ねぇ、私の手を取って。
   若しも貴女が海に還ると言うのなら、その時は私と。


   …赤城さん。


   この星の色に。
   貴女が、融けて、消える時は。


   ………。


   …私と、共に。
   貴女の色を誰よりも愛している私、と…。


   ……。


   …私と、同じ、夢を。
   どうか……ん。


   ……。


   …か、が。


   ……今度こそ、必ず。


   …約束、して。
   破らないと、誓って…。


   ……この名に、この命に、懸けて。


   ……。


   …赤城さん。


   はい…。


   …貴女の躰が今よりも大きくなったら。
   あの天から、一緒に見ましょう。
   この星を色付けているものを。


   …底からでは無くて?


   私達は、空母ですから。


   …私達は、空母ですけど。


   やり方を、教えてあげます。
   飛ぶ方法、を。


   …。


   皆には、内緒です。
   約束、出来ますか?


   …はい、勿論。
   ねぇ、加賀さん。


   はい。


   誓いの証に。
   私の赤城に、貴女のそれを重ねて下さい。


   …?


   …顔で赤城の色をしているのは、何処ですか?


   ……。


   …頬などど言ったら、叩きますからね?


   ………はい。








  −symphonia





   飛龍。


   …んー?


   また、こんな所でぼんやりして。


   良い陽気だよ、蒼龍も一緒にどう?


   そろそろ時間。


   時間?
   なんの?


   南西諸島海域へ遠征に出るんでしょ、あんた。


   遠征…ああ、然うだった。


   然うだったって。
   全く、本当に緩いわね。


   囮だったけねぇ。


   …支援艦隊よ。


   だから、囮でしょ。
   主力艦隊、の。


   …。


   ねぇ、蒼龍。


   何。


   お土産、何が良い?


   は?


   お土産。
   南西諸島の。


   別に要らないわよ。


   此処、北国だし。
   何か南国っぽいもの、欲しくない?


   要らない。
   大体ね、飛龍。


   うん。


   あんたが此処に来る前、私は何度も行っているの。
   赤城さんと一緒に。


   ああ、加賀さんも居なかったしねぇ。


   …然うよ。


   む。


   だから、要らない。


   …ふぅん。
   ま、良いや。


   …軽い。


   勝手に見繕って買ってくるから。


   は?


   何が良いかなぁ。
   やっぱり食べものかなぁ。


   だから、要らないって。
   第一、腐るわよ。


   赤城さんと加賀さんは何が良いかな。
   夫婦っぽいものと言えば…お揃いの何かかな、やっぱり。


   て、赤城さんと加賀さんにまで買ってくるつもりなの?


   鶴姉妹は何が良いかなぁ?
   変なお面とか?
   はっは、良いかも。


   飛龍、あんたね…。


   鳳翔さんへはどうしようかなぁ。
   龍驤さんは…変なもの買ってきたら怒りそうだし。
   飛鷹さんと隼鷹さんへは、お酒かな、やっぱり。
   祥鳳さんへは…うーん。


   空母寮の皆に買ってくるつもりなの…。


   うん。
   流石に艦娘全員には無理だけどねー。


   飛龍、あんた遠征ってそもそも何をしに行くのか分かってるの。
   観光旅行じゃないのよ。


   蒼龍へのお土産はもう、決まったんだ。


   だから、私は。


   私。


   …は?


   私が、お土産。


   …何言っているの。


   一番かなぁ、てさ。
   それが。


   ………。


   え、何。
   感激して言葉も出ないって奴?


   呆れて言葉が出ないのよ、莫迦。


   あれ、そっち?


   ほんと、莫迦でしょ。


   おかしいなぁ。
   喜んで呉れると思ったのに。


   …。


   …お、と。


   本当に莫迦過ぎて、言葉を無くしちゃうわ。


   ……んー。


   ……。


   …目印に、するよ。


   目印…って?


   …帰ってくる為の、さ?


   ……何を。


   勿論、蒼龍。


   …ならないわよ、目印なんか。


   私達は、姉妹では無いけれど。
   かと言って、赤城さんや加賀さん程遠いわけでも無い。
   けど、同じ名前を持っている。


   …。


   …なんだかんだ言ったって。
   二人で一つだって、思ってるんだよね。
   比翼連理って、言うの?


   比翼と言うのなら、鶴姉妹の方じゃないの。


   いやいや、龍だって翼あるよ。
   なんて言うの、西洋で言うところの、ドラゴン?


   西洋かぶれ。
   私達はこの国の龍でしょ。


   良いんだって。


   良くない。


   蒼龍。


   …なに。


   行ってきます。


   …。


   へっへ。


   ああ、もう。
   莫迦飛龍。


   お土産話、楽しみにしてて。


   しない、さっさと行け。


   釣れないなぁ。


   飛龍。


   なに?


   行ってらっしゃい。
   ちゃんと帰ってこなかったから


   蒼龍!


   わ、何。


   帰ってきたら、一緒に歌お。


   はぁぁぁ?


   はい、約束。
   じゃね。


   しないわよ、ばか!


   えーーーー。


   早く行け、ばか飛龍!!


   はーーーい。








  −夏の林檎





   あかぎさん、待って下さい。


   …。


   あかぎさん、あまり離れては…。


   …。


   あかぎさ


   捕まえて、かがさん。


   え。


   だめだと、言うのなら。
   私を、捕まえてみて。


   …。


   ほら、早く。
   かがさんが私を捕まえないと…私は、先へ行ってしまいますよ。


   …。


   困っている?
   でもそんな暇、あるのかしらね?


   …分かりました。
   あかぎさん、貴女を捕まえます。


   ふふ、捕まえられるかしら。


   捕まえます。


   …じゃあ、頑張って?


   ……。


   ふふ…。


   ……。


   だめよ、そんなんじゃ。
   私は、捕まらない。


   ……。


   もっと、早く。
   もっと、もっと、早く。


   …そう言っていられるのも、今のうちです。


   …。


   …あかぎさん。


   ふふ…ふふ……。


   ………。


   ……。


   ……。


   …どうしました、かがさん。
   もしかして、疲れてしまったの…?


   どうも、しません。
   疲れても、いません。


   なら、早く捕まえて。


   ……。


   ふふ……。


   ……。


   ……。


   ね、早く…早く……ね?


   ……。


   …?
   かがさん…?


   …。


   …どこ?
   どこに、行ったの…?


   …。


   かがさん…。


   ……あかぎさん。


   …え。
   あ……。


   …。


   …かが、さん。


   ……捕まえました。


   ぁ……。


   …さぁ、戻りましょう。
   大分、離れて…え。


   ……隠れるなんて、ずるいわ。


   駄目だとは、言われていません。


   ……。


   さぁ、あか…。


   ……。


   …つぅ。


   ……かがさん。


   あかぎさん、いきなり何を…。


   …。


   …いきなり、押し倒すなんて。
   怪我でもしたら、どうするのですか…。


   ……。


   …。


   ……。


   …お怪我はありませんか。


   ない、わ…かがさんが、下になっているから。


   …良かった。
   立てますか…?


   …怒らないの。


   ……。


   怪我をしてしまうかも知れなかったのに…。


   …あなたが無事なら、それで良いのです。


   ……。


   …あかぎさん。
   やはり、どこか…。


   …。


   あか……ん。


   ……。


   …あかぎ、さん。


   ……ここなら、だれもいない。
   だれからも、みえない…。


   な、なにを…んぅ。


   ……。


   …いけません、あかぎさん。
   そんなことを、したら…。


   …どうして、いけないのですか。


   どうしてって…。


   赤城と加賀は、夜毎、している事なのに…。


   …あなたと、わたしは。


   あかぎ、と、かが。
   名は未だ、継いで、いなくても…。


   …。


   ねぇ、そうでしょう…?


   …。


   ……だから。
   だから…。


   …だめ、です。
   そんなことを、して、は…。


   ……がまん、できないの。


   あかぎ、さん…。


   …わたしを、あなたのものにして。


   う、ぁ…。


   ……こいを、しているの。
   あなたに…して、いるの。


   ……あかぎ、さん。


   …口づけ、を。
   あなたから…。


   ……。


   …あなたのねつが、すき。


   あ、う……。


   ねぇ、すきなの…だから、わたしのなかに。


   …でき、ません。


   ……どうして。


   …。


   …おねがい、しているのに。
   こんなに…こがれているのに、あなたはかなえてくれないの。


   ……許して、下さい。


   …。


   あか……。


   ……わたしのこと、きらいなの。


   ……。


   …そうならば、はっきりと言って。


   ………好きです。


   だったら…。


   …だから、今は出来ません。


   どうして……どうして…。


   ……あなたが、大事だからです。


   そんなの…。


   ……だから、してはいけないのです。


   …ひどい、酷いわ。
   それが、どんなに残酷なことか…。


   …。


   ……本当に、私のことが好きなら。
   その、証を……んぅ。


   ……。


   ……かがさん。


   …すきです、あかぎさん。


   ……。


   …だから、わたしは。
   わたし、は…。


   ……ここに、さわって。


   …。


   まだ…赤城のように、ふくらんではいないけれど……でも、あなたへのおもいで。


   あかぎさん……。


   …たすけて、かが。


   …っ。


   ……あなたが、すき。
   すきなの…。


   ……。


   …かが。
   ねぇ、かが……。


   ………あかぎさん。


   …ぁ。








  −SNOW DANCE





   お姉さま、見て下さい!
   真っ白、です!


   おー、今年も積もったねぇ。


   お姉さま、早く早く。


   そんなに急がなくても雪は逃げないよ、榛名。
   それに、また降ってきそうだから。


   わ…。


   マフラー、忘れないようにしないとね。


   …ふふ、あったかいです。


   ね。


   お姉さまも。


   うん、勿論。


   …。


   ん?


   …榛名と、お揃いですね。


   うん、お揃い。
   榛名が選んで呉れたんだよね。


   …はい。


   凄く気に入っているんだ、これ。


   …榛名も、気に入っています。


   凄く、悩んだよね。
   私、こういうの良く分からないから全部榛名に任せちゃってさ。


   …でも、楽しかったです。


   うん。


   だから、榛名…お姉さまに気に入って頂けて、本当に嬉しいです。


   うん、私も嬉しい。


   …ふふ。


   と。


   …?
   お姉さま?


   ほら、また降ってきたよ。


   ああ、本当ですね。


   それでも外、行きたい?


   …行きたい、です。


   榛名は雪が好きだね。


   真っ白で。


   うん。


   その、何にも染まってないのが、好きです。


   そっか。
   そう考えると雪って榛名みたいだね。


   …え。


   榛名の心も真っ白で。
   とてもきれいだと思うから。


   は、榛名は…。


   ねぇ、榛名。
   折角だから、雪だるまでも作ろっか。


   榛名の心は、もう、染まっています…。


   …ん?


   ……。


   榛名?


   …比叡さんの色に、もう。


   ……。


   だ、だから、真っ白じゃないです…。


   …あ、ああ。
   そ、そっか…。


   …然うです。


   んー……。


   …ん。


   …今はあったかいけど。
   外に出たら、屹度、冷たくなっちゃうね。


   ……もう、比叡さんったら。


   え、と。
   外、行こうか。


   …はい。


   駆逐艦の子達、はしゃいでるかな。


   屹度。


   空母の人達は雪見酒、してるかも。


   それは一部の人だけ、だと思いますけど。


   はは、然うかも。
   戦艦は…やっぱり、合戦かな。


   合戦?
   雪合戦?


   然う、雪合戦。
   何しろ、戦艦だから。


   榛名は…見ているだけで、良いかもです。


   榛名は、優しいから。


   そんな事…。


   だから私は早くこの戦いを終わらせたいって思うんだ。
   優しい榛名が戦わないで良いように。


   …。


   なんて、さ。


   …比叡さんも、優しいです。


   …。


   …そんな比叡さんが、榛名、大好きですから。


   うん…有難う、榛名。


   ……。


   ……わぁ。


   …。


   空気、思ってたより、冷たくないや。


   …。


   …榛名は寒い?


   榛名は、大丈夫です…比叡さんと一緒だから。


   ん…。


   比叡さん。


   あ、榛名。


   雪が、降ってますね。


   うん、降ってるね。
   下、転ばないように気を付けて。


   はい。


   雪かき、また大変だな…毎年の事だけど。


   比叡さん、比叡さん。


   榛名、前を見ないと危ないよ。


   ふふ、ふふ。


   ……。


   はらはら舞う、雪になって。


   …榛名。


   ふふ、真っ白。


   榛名!


   え。


   ……。


   …比叡さん?


   ……ん、ごめん。
   なんでもない…。


   ……。


   ……。


   榛名は…私は、融けて消えたりはしませんから。


   うん…。


   …。


   ……ん、榛名?


   まだ、あったかいですね…ほっぺた。


   ……うん、榛名のも。








  −夢の岸辺に






   …。


   神通。


   …。


   神通。


   …はい。


   良く、似合ってる。


   …。


   浴衣。


   …有難う御座います、姉さん。


   でも。


   …。


   そんなところに居たら、濡れてしまうよ。
   折角の浴衣なのに。


   …ねぇ、姉さん。


   ん。


   …私達、鉄の塊だったんですよね。


   うん、然うだね。
   それが、どうかした?


   考えられない、から。


   …人の子の形になっている事が?
   それとも、人の子の心を宿している事?


   …どちらも、です。


   はは。


   ……。


   …神通。
   あまり足を冷やしては、風邪をひいてしまう。
   私達はもう、鉄の塊じゃない。


   …分かって、います。


   ……。


   姉さん…?


   …手と、言うものは。
   便利だけど、不便なものだね。


   …どちらでしょう?


   どちらも、だよ。
   でも、今は役に立った。


   …。


   神通に、届いたから。


   …ああ。


   いつだって、届く範囲に居て欲しい。
   けど。


   ……。


   …分かってるよ。
   そんな事は、無理だ。


   姉さんも。


   …ん、神通。


   いつも、私の手の届かない所で戦っていて。


   ……。


   夜戦も、良いですけど。


   …仕方ない、性分みたいなものなんだもの。
   屹度、鉄の塊だった頃の名残なんだ。


   そんな名残…。


   …神通も、然うじゃない。


   ……。


   …戦っている時の姿は、とても。


   ……姉さん。


   叶う、ならば。


   …。


   …どうか、私の手が届く場所に。


   ……叶う、ならば。


   …。


   私は……貴女を。


   …ねぇ、神通。


   はい…。


   …浴衣、似合っているよ。
   とても似合っていて…誰かにあげるのが、惜しいくらいだ。


   …神通は、誰にも貰われませんから。


   どうかな。
   こんなに綺麗なんだもの、分からないよ。


   …貰われるつもりも、ありません。


   勿体無いな…神通だったら屹度、とても良いお嫁さんになるのに。


   …そんな事。


   私が言うんだから、間違いないよ。
   那珂だって、然う、思ってる。


   …だったら。


   …。


   だったら…姉さんが、貰って呉れますか?


   私が…?


   …姉さんだったら、と。


   ……。


   …戯言です、気にしないで下さい。


   神通。


   …はい、川内姉さん。


   人の子の形、私はわりと気に入っているんだ。
   心も、悪いものじゃない。
   美しいと思えるのは、寧ろ。


   …。


   …ねぇ、神通?


   はい、姉さん…。


   若しも、見る目の無い野郎ばっかりで。
   本当に、誰も、神通を貰いに来なかったら。


   …。


   私が……神通の事、貰ってあげても良いよ。


   …約束、ですよ。


   うん…約束する。


   …ぜったい、ですから。


   うん…絶対、だ。
   …ああ、でも。


   …でも?


   那珂が、やきもち焼くかも。


   …ああ。
   ふふ、然うかも…。


   あの子は神通が好きだから。


   姉さんの事が、好きですから。


   …。


   …。


   でもまぁ…その時はその時かな。


   …那珂ちゃんも一緒に貰ってあげたらどうですか?


   ええ、那珂も?


   はい。


   …勘弁してよ。
   私、そこまで甲斐性無いって。


   知ってます。


   …神通。


   それに…私がやきもち、焼いちゃいますから。


   ……。


   ……那珂ちゃんには悪いと思っています。


   …参ったな。
   神通には、なんとなく、敵わない気がするよ。


   …妹、ですから。


   ……。


   …姉さん。


   約束、だ…神通。


   ……はい、川内姉さん。


   ……。








  −時の草原





   ひゅーがぁ。


   …なんだ、伊勢。


   なんかさぁ、二人だったら何処までも行ける気、しない?


   それは無理だな。


   む、なんでよ。


   先ず、燃料が持たないだろう。
   特に伊勢、お前は直ぐに腹を空かせる。
   腹を空かせたお前は動かなくなる。


   む。


   動かなくなったお前を毎度引っ張るのは誰だと思っているんだ。


   むむ。


   伊勢、お前は仮にも姉なんだぞ。


   もーう、日向は!
   浪漫の欠片も無い!!


   浪漫でお前の腹が膨れるのか。


   瑞雲瑞雲言ってるくせに、伊勢さんには優しくない。
   最上には優しいのに、伊勢さんには本当、釣れない。


   …。


   でもって、直ぐ無視する。
   ほんと、酷い。


   …どうしろと言うんだ。


   だからさぁ。


   行けないぞ。


   …む。


   現実とは、然ういうものだろう。


   ……。


   それとも何か、伊勢。
   何処ぞか、行きたいところでもあるのか。


   …別に。


   無いのなら、


   日向となら。


   ……う。


   何処にでも行ける、何処まででも行ける。
   然う思っては、いけないの。


   …伊勢。


   現実?
   そんなもの、分かってるわよ。
   でもね、日向。


   ……。


   …良いじゃない、思うくらい。


   ……。


   …。


   あー、伊勢。


   …なに。


   悪かった。


   …何が。


   伊勢の思いを踏み躙るような事を言って。


   …別に、そこまでじゃないけど。
   日向ってつくづく、石頭で生真面目で瑞雲ばかで詰まらないって思っただけで。


   …そこまで言うか。


   そこまで言わせたのは、誰よ。


   ……。


   ……。


   …伊勢、何処か行くか。


   何処かって、何処。


   だから…伊勢が行きたいところだよ。


   私が行きたいところ?


   ああ…然うだ。


   …。


   その、なんだ。
   何処まででも、付き合ってやる。


   …へぇ?


   但し、燃料切れを起こすのだけは勘弁してくれ。


   …ふっふぅ。
   その言葉、しかと伊勢さんは聞きましたよ。


   燃料切れの箇所もだぞ。


   はいはい、分かってますって。
   日向だってお腹空かせたら不機嫌になって、しかめっ面が一層むっつりとして、面倒臭くなるんだから。


   ……伊勢。


   じゃ、とりあえずは。
   間宮さんで餡蜜、奢って貰おうかな〜。


   何でそうなる。


   付き合って呉れるって言ったじゃない。


   餡蜜驕るとまでは言ってないぞ。


   隠された意味、と言うやつで。


   隠していない。


   じゃあ、私の思いを踏み躙った罰。


   う。


   ん?


   …そこまででは無いと言ったのは、誰だ。


   私。
   でも、ね?


   …。


   日向?


   …分かった。
   餡蜜一杯だけだぞ。


   大盛りね。


   …二言は無い。


   わぁい、やった。


   …。


   ねぇ、日向。


   …なんだ。


   私ね、やっぱり日向とだったらって。
   思うんだ、思っちゃうんだ。


   ……。


   現実的じゃないかも知れないけど。


   なぁ、伊勢。


   …ん?


   悪くは無いと、思ってはいるよ。


   …それって?


   伊勢と一緒なら。


   …。


   …さ、行くぞ。


   ひゅーがぁ!


   な、なんだ。


   本当に可愛いヤツ。


   しかめっ面してるが?


   そういうとこも、可愛いの。


   変わった奴だな。


   はいはい、変わってますよ。


   …。


   日向。


   …なんだ、伊勢。


   これからも、宜しくね。


   …なんだ、改まって。


   良いじゃない。
   ね?


   …仕方無い。


   じゃ、宜しくする?


   …ああ、こちらこそ宜しく頼む。
   伊勢。








  −大空と雲ときみと





   あーー、夏、終わっちゃったよーー。


   敷波、だらしないよ。


   だってさぁ、夏、終わっちゃったんだもん。


   そんなこと言ったってって、しょうがないじゃない。


   すーいーかーーー。


   いっぱい、食べたじゃない。


   あんなの、食べたうちに入らないって。
   あーもう、なんでここは夏が短いのーー。
   南だったら、もっと、長いんでしょー。


   長いと言うより、暑い時期が長いだけなんじゃない?


   それが良いんだよーー。


   綾波は暑いの、苦手だから。
   長いのはやだなぁ。


   あたしは夏が好きなんだもん。
   寒いのはやだ。


   敷波、寒いの苦手だもんね。


   雪とか、なにあれ。
   冷たすぎだっつの。


   そのわりには積もるとはしゃいで、風邪ひくよね。


   あー、すーいーかーー。
   たーべーたーいーー。


   そうだ、敷波。
   梨、食べる?


   え、梨?
   食う食う。


   あのね、鳳翔さんのお手伝いをしたら貰ったの。


   へぇぇ。
   綾波、早く剥いて剥いて。


   うん、ちょっと待ってて。


   梨、うまいよね。
   あたし、大好き。


   敷波は果物が好きだよね。


   だって、うんまいじゃん。


   蜜柑も?


   おー、好き好き。


   じゃあ、冬も良いんじゃない?


   それはべつーー。


   でも冬にならないと、食べられないじゃない。


   そうだけどさぁ。
   寒いのはやっぱり、苦手なんだもん。
   手足、冷たくなっちゃうしさぁ。


   そうかな。
   敷波にって結構、あったかいと思うけどなぁ。


   とにかく、寒いのはやなの。
   でも蜜柑は好きなの。


   もう、敷波は。
   はい、剥けたよ。


   おーー。


   はんぶんこだからね。


   分かってるって。
   いっただっきまーす。


   いただきます。


   …んー、うんめぇ。


   うん、おいしい。


   なぁなぁ、綾波。


   だめ、はんぶんこ。


   そうじゃないって。


   なに?


   食ったら、外行こうよ。


   外に?


   そうそ。


   いいけど…なんで?


   なんだって、良いじゃん。


   じゃあ、やだ。


   秋の空だよ、秋の空。
   言わせんなよ、もう。


   秋の空?


   夏ほどじゃないけど、秋の空もそこそこ好きなんだ、あたし。
   だから、行こう。


   敷波って、空見るの、好きだよね。


   おう。


   ……。


   なんだよぅ、綾波。


   敷波、夏の空が似合ってたなぁって。


   は?


   なんかね、敷波の笑い方と夏の空って似てる気がするの。


   んむ、んむ……なんだそれ。


   気がするだけだから。


   ふぅん。
   ま、良いけどさ。


   おいしいね、梨。


   うん、うんまい。
   流石、鳳翔さんに貰った梨だ。


   うん。


   秋は柿もうんまいよなぁ。


   本当、好きだよね。


   うんまいじゃん。


   うん、おいしいね。


   あー、食った食った。
   ごちそうさま。


   ごちそうさまでした。


   じゃ、綾波。
   行こう。


   待って、お皿片付けるから。


   んなの、後で良いって。
   行こ行こ。


   だめだよ、食べたら片付けないと。


   秋はどことなく寂しいから、あんまり好きになれないけど。
   空だけは、悪くないんだよねー。


   ほんと、適当なんだから。


   綾波。


   なに。


   やっぱり、なんでもない。


   なに、気になるよ。


   というか、早くしろよー。
   置いてっちゃうぞー。


   じゃあ、先に行ってて。


   えー。


   すぐ、行くから。


   …綾波と一緒じゃないと、やなんだよー。


   え、なに。


   なんでもない。
   早く早くーー。


   もう、敷波はーー。