平熱、36.7度。





   相変わらず、玲って体温高いわね。


   …あ?


   男の人みたい。


   …。


   深い意味はないけど?


   …あいつからは、連絡あるのか。


   気になる?


   ならねーよ。


   じゃあ、どうして?


   …男みたいで悪かったな。


   なぁに、拗ねちゃった?


   拗ねてねー。


   ふぅん?


   紗枝。


   はい。
   異常、無し。


   て、おいこら。





   温かいのを通り越して、熱い躰。
   自分の平熱を差し引いても。
   だけど、炎のよう、とは言わない。





   熱い。


   うるせー、なら離れろ。


   子供みたい、の方が良かった?


   両方、ごめんだ。


   じゃあ、子供で。


   じゃあってなんだ、じゃあって。





   あと、もう少しだけ。
   いつか、終わってしまうその時が来るまで。








   ナディの背中はあったかい。
   それを初めて知ったのは寒い夜だったと思う。





   わ、つめた。


   …。


   …エリス。
   どした?


   ……。


   エリス?


   …どうもしない。


   どうもしない、ね。
   でもいきなりくっつかれるとびっくりするんだけど。





   まぁ、いっか。
   そういってナディは許してくれる。いつも。
   ナディはわたしのすることをいやがらない。
   それが、うれしかった。





   ……。


   …エリス、はい毛布。
   もう寝なさい?


   …もうすこし。


   もう少し、ね。


   ……もうすこし。





   ナディの背中はあったかい。
   どんな寒い夜でも、どんな怖い夢を見たときでも、いつでも。








   顔に似合わず、平熱が高いのね。
   あの方はそう、呟いた。
   まるで息をするかのように。





   …熱かったですか。


   熱くはないわ。


   …。


   ただ、思っていたより高かっただけ。


   …そうですか。





   そう言うと、あの方は散らばった服を拾い上げてベッドから離れていった。
   それからまもなく、どこか遠いところからドアの閉まる音が聞こえた。
   私は引き止めなかった。引き止める理由が思い浮かばなかった。








   蓉子の体温は心地良い。
   手を繋いだ時も、後から白い首に顔をうずめた時も、腕に細い躰を収めた時も。
   いつだって。





   …聖。


   んー…。


   …その、苦しいのだけど。


   …そう?


   そうよ…。


   …でも私は気持ちいい。


   貴女は良いでしょうけど…。





   蓉子曰く、私の平熱は少し低いらしい。
   だからかも、知れないけど。
   でも、それだけじゃない気もする。





   …聖。


   ん……。





   蓉子の熱は心地良い。
   とても、とても。








   あの子は曰く、捻くれているんだって。





   冷たい。


   …は?


   おいで、温めてあげる。


   …私に構わないで。
   それから触らないで。





   折角繋いた手を離されてしまう、けど。
   でも、遠い場所に離れてはいかない。
   だからわたしに言わせれば捻くれているのではなくて。





   不器用だね。


   …。





   そう言うと、不機嫌そうに眉を顰めてわたしを見上げた。
   その顔は私を生んでくれた母にそっくりの筈なのだけれど。
   母はこんな表情、しなかったっけ。





   …おいで。
   今夜は冷える。


   ……構うなって言ってるの。





   そう言いながらも、手を伸ばせば届く距離にいるのが可愛いと思う。
   口に出して言うと機嫌が更に悪くなるから言わない。
   その代わりに、じゃないけど。





   ねぇ、アリス。


   …私に触る、んん。


   ……。


   ……触らないで。


   もう、遅いかな…。


   ……。





   不機嫌そうに眉を盛大に顰める彼女、でも強くは拒まない彼女に。
   わたしはまずは唇を温めようともう一度、重ねた。








   エリスの手は冷たい。
   それを改めて知ったのは寒い夜だったと思う。





   …。


   エリス。


   …なに。


   火、起こしたから。


   …だから?


   あったまるから、おいで。





   手だけじゃない。その白いほっぺたも冷たくて。
   最近はそれをいきなり背中にくっつけてきたりする。
   これが結構、びっくりするんだけど。





   ……。


   …冷たいって。


   …だめ?


   だーめ。


   …けち。


   なんだとぅ?


   ……。





   でも、不思議なことに嫌じゃないからあたしはエリスの好きなようにさせておく。
   背中を取られることは命にかかわるんだけど、でもなぜかエリスにはそんなのを感じなかった。





   …ほら、火にあたりなって。


   …もうすこし。





   やれやれ、と思いつつ。
   冷たいほっぺたを背中に感じながら、どうやったら温めてあげられるんだろうなんて、考えた。








   小さい頃と、変わらない。





   …ゆうほ?


   じゅん…。


   どうしたの?


   …。


   ゆうほ?


   …ねぇ、じゅん。


   うん?


   じゅんはよる、こわくない…?


   …?
   よる?


   ……なんでもない。


   うーん。


   …もう、かえるんでしょ。
   おじさん、まってるよ。


   きょう、とまっちゃだめかなぁ。


   え。


   だめかな。


   …おかあさんにきいてみないと。


   あー……。


   …きいて、みる?


   ううん、あたしがきいてみる。


   …だいじょうぶ?


   たぶん。


   …。


   ゆうほ。


   …じゅんのて、あついね。


   ひめをあたためるためです。


   …なにそれ。


   あはは。





   あの頃と、今と、なにひとつ。





   夕歩。


   …。


   …体調、良くないなら言わないと駄目だって。


   朝は平気だったんだもん…。


   朝は、朝です。
   姫。


   ……。


   今日はこのままお眠りください。


   …その喋り方、止めて。


   …。


   …順。


   増田ちゃんがいるから、大丈夫だと思うけど。


   …何が。


   熱があると、怖い夢を見る。
   夕歩は昔から。


   ……。


   本当は一緒に


   いや。


   …はいはい。


   ん…。


   ゆっくり、すること。


   …心配、しすぎ。


   そうですか。


   熱い。


   …ん?


   順の手。


   夕歩の方が


   熱い。


   あたしが熱いのは。


   …ん。


   いつでも姫を温められるように。


   ……。


   なんて。


   ばか。








   テーマは体温、ぬくもり、とそのままでした。
   ぱちぱち、ありがとうございます!