のんで、クスリやって、でもってオトコつれこんで。
    で、アタシのかおをみれば、アンタなんかうまなきゃよかったって、なぐんのよ。


    …。


    で、カネつくってこないと、メシどころか、イエにもいれてくんないってオチ。
    サイアクでしょ?


    …ふぅん。


    アンタはオヤ、いないんだっけ?
    いいわね、ラクで。


    …。


    あんなの、いないほうがマシよ。


    …あたしには、わかんないけど。


    オヤがつれこんだヤツにヤられてみれば?
    そしたら、わかるかも。


    …。


    あんなヤツら、サイテーのクズ。
    さっさとシねばいいのに。


    …あんただってカラダ、売ってんじゃない。


    ショウバイって、いってよ。


    …。


    かうから、うるの。
    カネになるし、クイモノもぬすまなくていい。
    バカどもがおわるまでジっとしてればいいだけ、こんなラクなコトはないわ。
    アンタ、イくしゅんかんのオトコのカオってみたことある?
    マヌケで、わらえるわよ。


    …。


    だから。
    あんたみたいなドロボーネコと、イッショにしないでよね。


    …でも、見る目は同じ。
    汚いものを


    ちがうわよ!


    …。


    …もういっかい、いったら。
    あんたでもユルさないんだから。


    …べつに、いいけど。


    …。


    どうでもいいから。


    …ソレがあるから、つよがって。
    あんただって…


    …。


    …ハラ、へってるんでしょ。
    ほら、わけてやるわよ。


    …いらない。


    ふん、つよがって。
    じゃ、あげないわ。


    …。









    ……。


    …おい。


    …。


    こんなトコで何してンだ。


    …。


    おら、出てこいよ。


    …。


    出て来いっつてンだよ!


    …っ。


    おら!おら!!


    ……。


    あぁ?


    ……。


    …ふん。


    ……。


    ………ガキが。


    …!


    オトナをなめんじゃ、ねぇぞ。


    …うぅ。


    てめぇみてぇなガキ一匹、ひきずり出すのなんざわけねぇんだよ!!


    う、うぅぅ…。


    おら、抵抗出来ンなら、やってみろよ?
    あぁ?!


    …ぅ。


    オレを怒らせたらどうなるか、たっぷりと教えてやろうか!


    …ッ、…ッ。


    …くたばりそうなツラ、しやがって。
    くたばるなら、終わってからにしろ。
    ガキが!


    …あ、ぅ。


    は。


    ……。


    はじめから、おとなしくしてりゃい





    ゴリ。





    …あ?


    遺言があったら、どうぞ。


    ……んだ、てめぇは。


    さぁ?


    …。


    その子を大人しく離せば、殺さないけど?
    どうする?


    …。


    その子はあたしが買ったの。
    これからだって時に逃げられちゃってね、探してたのよ。


    …は、マヌケな話だな。


    撃つわよ?


    …。


    どうする?
    離す?離さない?


    ……。


    そんなくたばりそうなガキ、相手にしなくても。
    他にもいるでしょ?


    お前もな。


    あたしはそういうのが良いの。


    は、メスい





    ドン!





    ……ぎゃあぁぁっぁ!


    次は残った方、撃つけど。


    み、耳がぁぁ…ッ。


    離す?離さない?


    ……ちく、しょぅ。


    最初からそうしてれば、痛い目に遭わなくて良かったのに。


    ……このクソあ





    ドン!ドン!





    …ッ!


    殺さないけど。
    でも早く治療しないと、二度と歩けなくなるわよ。


    ぐ、あ……あぁぁぁぁ!


    ま、知ったこっちゃないけど。


    ……た、たの、む、


    知らないって言ったでしょ。


    く、くそ…がッ。


    ちょっと黙ってて。


    ……。


    うん、静かになった。
    さて。


    …ッ。


    行くわよ、コイユル。


    …っ、…ッ!


    …。


    ……!


    …ま、しょーがないか。
    エリス、もう良いわよ。


    …うん。


    ……ぁ。


    コイユル、一緒に行こう…?


    ……。


    大丈夫。


    …。


    大丈夫だよ、コイユル。
    大丈夫…。


    ……ぅ。


    はぁ…。


    …?


    …大丈夫、だから。
    だから、一緒に行こう……ね?


    ……。


    ……ナディ、コイユルを。


    あんたは?


    …私は、大丈夫。
    だから、コイユルを…。


    分かった。


    ……はぁ。


    エリス。


    …へいき、だから。


    そんな顔じゃない。


    本当に


    悪い嘘は?


    ……だめ。


    だったら?


    …ごめんなさい。


    うん、良し。


    …でも私とコイユル、二人は


    なんとかする。


    でも


    他のヤツらが来る前に、行くわよ。


    …。


    ほら、早く。


    コイユルは…。


    抱える。


    え…。


    言ったでしょ、なんとかするって。


    無理だよ。
    だってナディだって


    なんとかするって言ったら、する。


    …。


    あたしを、信じてよ。


    ……ナディ。


    さぁ。


    ……うん。


    …よし。
    あとは…


    ぅ…。


    抵抗しないでよ、コイユル。


    ……。


    …ナディ、本当に


    ……よい、しょぉ!


    ……!


    …ふぅ。
    ほら、なんとかなったでしょ…。


    ナディ…。


    コイユル、できれば、じっと、してて。


    ……無理、してる。


    だから…早く、戻るよ。


    おろして、ナディ。
    わたしは


    エリス。


    …。


    ナビ、よろしく…。


    ……いえっさ。








    ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ……。


    さて。
    今度は逃げてくれるなよ、ちびちゃん。


    …。


    エ、エリ、コイ、ユ…ぜぇ、そ、ば…に…っ。


    でもナディ…、ナディが…。


    逃げたら、あれが無駄になる。
    まぁ、したくても腹の痛みがぶり返していて出来んだろうが。
    しかし、良く逃げたものだ。


    ……。


    い、いいか、ら…はや、く!


    寧ろ、お前の方がまずそうだな。


    …う、る…さ、…ぜぇ、はや、く、み…ろ。


    二人抱えて全力に近い疾走、か?
    苦しいのは理解しなくもないが、その調子だと確実に過呼吸になるな。


    かこきゅう…?


    …ぜぇ……ぜぇ…は、…は、…は…っ。


    然うだな。
    最悪、死ぬ。


    …!
    ナディ…!


    う…っ。


    あっはっは。


    ナディ、ナディ…。


    エリ、…だいじょ、う、ぶ…だか、ら。


    でも、でも…


    う、そ、つ…く、な…この、や、ぶ…がッ。


    ナディを助けて。


    お前が助ければ良い。
    俺はこいつを診なきゃならんからな。


    …。


    これを使え。
    いざとなったらそれを口に当てるが良い。


    …袋。


    吐いた空気を再度吸い込むという行為をそいつを使って繰り返させる。
    無理矢理、血中の二酸化炭素濃度を上げる為にな。
    だが、酸素不足にならないように少し隙間を作っておくのを忘れるな。


    …。


    それと袋を用いる方法は有効性よりもむしろリスクの方が大きいと言う事も覚えておけ。
    一歩間違えれば、その処置で死に至ったケースも報告されているくらいだからな。


    死…。


    よ、けい、な、ことを…はぁ、エリスに、言うな!


    然うだ。


    …。


    一番良いのは、呼吸の速さと深さを自分で意識的に調整する事だ。
    そうすれば、数分で治るからな。
    ま、最も良い事はならん事だが。


    …は…は……はぁ。


    さて、次はお前だ。
    少々触るが、分かってるな。


    ……。


    然うだ、我慢しろ。
    人生なんて、それの繰り返しだ。


    …あんたがそれ、言うの。


    俺の人生、そんなものだったからな。


    …胡散臭い。


    ……ナディ。


    …あたしはもう、大丈夫。
    コイユルの傍に行ってあげて。


    …。


    ほら、エリス…。


    …うん。


    それとな、金髪の嬢ちゃん。


    ……。


    過呼吸で死ぬ事は無いが、死ぬほど苦しいのは確かだ。


    …。


    初期症状は低酸素症と似ている。
    これは、要は、酸素が足りない状態の事だ。


    …。


    過呼吸は程度が強くなると手足や唇の痺れ、呼吸困難、頭のふらつき、息苦しさ、眠気、激しい耳鳴りや悪寒を来たす。
    死ぬほど、苦しそうだろう?


    ……。


    覚えておけ。
    莫迦とも言える行動を、今後、やらかさないとは限らんだろうからな。


    ……うん。


    しかし。
    大の男でもないお前が二人…いや、腹の餓鬼を含めると三人か。
    抱えて走るとはなかなか興味深い体力の持ち主だ。


    …。


    挙句、体力の戻りが尋常では無い。
    後で見せて貰おう。


    …死んでも嫌。


    死ぬよりはマシだろう。
    なぁ、金髪の。


    ……ナディに、触るの。


    触らなければ、分からんだろう。


    駄目。


    それが命に関わるとしてもか。


    私が、治す。


    …ほぅ?


    エリス。


    ……。


    あんたも喋ってないで、さっさとコイユルを


    お前の左手。


    ……。


    何かしらの異常があるだろう。
    何れ、使い物にならなくなるかも知れんな。


    …。


    お前に治せるか、金髪の


    治すよ。


    …ほぅ。
    それはどうやって


    あなたには治せない。


    …。


    治せないの。


    …つくづく面白い、餓鬼どもだ。


    つか、あんたは黙ってコイユルを治せば良いのよ。
    金、欲しいんでしょうが。


    然うだな。


    だったら、


    採血の結果は白血球の数値が異常だ。


    採血?


    意識が飛んでるうちにな。
    あとは小便を調べたいが…然うだな、口ではしたか。


    …。


    ヤらされたか、ヤらされてないか。
    場合によっては喉もやられている可能性がある。


    ……。


    目がやられていれば、放っておけば失明する。
    甘く見るな、餓鬼ども。


    見てないわよ。


    …ナディ。


    …。


    …まぁ、良い。
    二、三日、点滴をして様子を見る。
    抗生物質だからな、高くつく。


    …分かってるわよ。


    耐性菌だったら、長くなる。
    それから腹を切る可能性も忘れるな。








    …。


    …良く、寝てるみたいね。


    ナディ…。


    とりあえず、これで大丈夫かな。


    …うん。


    エリス。


    …。


    …あんたも、良かった。


    ナディは…。


    まぁ、疲れたけどね。
    よいしょ、と。


    …。


    ほら、そんな顔しない。
    あたしは大丈夫なんだから。


    …左手。


    ん…。


    …感じる?


    …。


    ナディ。


    …うーん、まぁ。


    …。


    …ちょっとね、使いすぎたかな。


    ごめんなさい。


    でもま、なんてことないよ。


    …。


    休めば、また動く。
    あんなヤツの言葉、真に受けなくて良いから。


    …。


    …エリス。
    顔、見せて。


    …。


    …あたしの、エリス。


    ぁ…。


    …ほら?


    …。


    …片手だけじゃ、不満かもしんないけど。


    ううん、不満じゃない…。


    …そ?
    なら、良かった。


    …ねぇ、ナディ。


    ん?


    コイユル、大丈夫だよね。


    逃げなきゃね。


    …。


    あんたがいれば、大丈夫。


    …ナディも、だよ。


    …。


    ナディも。


    …なら、良いけど。


    …。


    …血の匂い、するからさ。


    ……。


    子供って、そういうの分かるみたいだから。
    特にこういう子は。


    …。


    …怖かった?


    え…。


    …あたし。


    ……ううん。


    ま、今更か。
    何度も見せてるし、見られてるし。


    …。


    …久しぶりの感覚だったけど。


    …。


    忘れないもんだ…。


    …なんでそんなこと、聞くの?


    なんでかな…。


    …。


    ま…ちょっと、ね。


    ナディ。


    …うん?


    ナディは、ナディだから。


    …。


    賞金稼ぎだったナディも、今の…


    …。


    …私の恋人で、家族になってくれたナディも。


    …。


    …私の大好きなナディだから。


    それ、久しぶりに聞いた…。


    …ん。


    ……ありがと、エリス。


    …。


    …。





    お前達はそういう関係か。





    …。


    まぁ、珍しくは無いが。
    気にするな、続けてくれ。


    …。


    となると。
    腹の餓鬼は誰かに仕込んで貰っ


    あたしの子よ。


    …ナディ?


    然うだろうな。
    誰のタネだろうと


    あたし以外の誰でも無い。


    …ま、然う思うのは勝手だな。
    だが、


    ナディだよ。


    …。


    この子は…ナディの赤ちゃんだから。


    ……まぁ、そんな事はどうでも良い。


    頭、おかしいと思ったでしょ。
    今。


    おかしいヤツならごまんと居る。
    言ったろう、珍しくも無いとな。


    …。


    それに、女が女に惚れて何が悪い。
    何に惚れようが、人の勝手だ。


    …は。


    くだらん倫理とやらで縛る方がよっぽど、人生を詰まらなくさせていると思わんか。


    …どうだか。
    で、あんたは男を抱けるって?


    御免だな。
    俺は女の方が良い。


    …あ、そ。


    が、それは俺の性的嗜好だ。
    それだけの話だな。


    ……どうでも良いけど。


    然うだ、どうでも良い。
    俺はそんなくだらない事を話に来たわけでは無い。


    …。


    …。


    お前らは、どうするつもりだ。


    …どうするって?


    このままこの町に居るつもりか。
    流れ者だろう、お前らは。


    …。


    そんなの、あたし達の勝手でしょ。


    勝手だな。
    俺には関係の無い話だ。


    …。


    …餓鬼一人の命なぞ、とてつもなく安いものだ。
    時に


    安くない。


    …エリス。


    安くないよ。


    然うだ、お前らにはな。
    だが、現実はどうだ。


    そんなの、知らない。


    …。


    関係ないの。
    ナディと私に


    三、四ヶ月と言うところか。


    …?


    …は?


    腹の子の事だ。


    …。


    あんたには関係ない。


    悪阻は無いのか。


    教えて、なんになるのよ。


    取り上げてやっても良い。


    無理。


    その躰では自然分娩は難しいかも知れん。
    ちゃんと食わせてやる程の甲斐性は無いようだな。


    うるさい、黙れ。


    切るか。
    どっちかと言うと俺はそっちの方が


    遺言は、それだけ?


    …ふ。


    ナディ。


    ……。


    左、動かないようだな。


    …あんたには関係ない。
    それよりあんたは、


    コイユルをちゃんと治して。


    ああ、俺はそのつもりだが。
    が、その為には本人の意思が何より必要だ。


    …。


    本人にその意思が無ければそれで仕舞いだ。


    あるよ。


    治ったところで、こいつは同じ日々を単調に繰り返すだけだ。変わらず、な。
    だったら、放っておくのがこいつの幸せだとは思わないのか。


    思わない。


    ただの情けなら、かえって酷だ。
    赤いの、お前なら分かっているだろう。
    同じだったなら、な。


    …。


    そんなこと、させないよ。


    ならば、連れて行くとでも言うのか。
    こいつだけ救って、偽善者ぶるか。


    それの、何が悪いの。


    …。


    私は、コイユルに幸せになって欲しい。
    ただ、それだけだよ。


    …顔に合わず、か。


    一つだけ教えてあげる。
    この子頑固だから、言い出したら聞かない。


    そのようだな。


    おかげで振り回されっぱなし。


    ……。


    退屈よりは良いだろう。


    まぁね。


    相当、惚れ込んでるようだな。


    あ?


    こういう女は重くて、厄介だが。


    は?
    それ、どっちのこと言ってんの。


    それで、どうする。


    て、ちょっと。


    お前らは俺から見たらどっちも面倒だ。


    …。


    …。


    良かったら此処を使うが良い。
    寝台なら隣の部屋にもう一台ある。


    …は?


    俺の寝床は此処じゃあ無い。
    昨日はお前らのお陰で戻れなかったが、今日は戻らせて貰う。


    …。


    つまり、お前らと餓鬼だけだ。
    お前達の邪魔する者は居ない。


    …は。


    宿をずっと使う程の金があればそれで良い。


    もし、あたし達が宿に


    こいつは一人だな。


    ここに、いる。


    決まりだな。


    …金は?


    要らん。


    コイユルに何かあったら、


    向かい側。


    …あ?


    そこが、俺の寝床だ。
    寝てる時に何かあらば、起こせ。


    …あ、そ。


    勿論、それに関しては別料金だがな。


    分かってるわよ。


    …ふ。


    何よ。


    とんだ物好きな話だ。


    …。


    …。


    俺は…私は、そういう莫迦が嫌いだったのだがな。








    …ぅ。


    コイユル。


    …エ、ィス。


    もう、独りにしないから。


    ……。


    
だから、大丈夫だよ…。


    ぅ、ぅ…。


    ナディ。


    うん。
    良かった。


    …!


    …お、と。


    ……。


    ま、予想通りの反応かな。


    コイユル、ナディは


    エリス。


    でも、ナディは


    今は良いから。


    …でも。


    落ち着いてからでも良いわよ。
    時間なら、あるんだからさ。


    ……。


    ほら、そんな顔しない。


    …。


    エリス。


    …。


    大丈夫、あたしは平気だから。


    …。


    まぁ、ちょっと忘れかけてたけどね。
    こんな感覚は。


    ナディ…。


    …どんな時でもあんたがいれば、あたしは大丈夫。


    ん…。


    ……。


    んじゃ、ちょっと出てくるかな。


    え…?


    安心したらお腹がすいてきた。
    さっき、すっごい動いたし。


    どこに行くの?


    ごはんを買いに、市場かなんかに。


    …。


    はいはい、言いたい事は分かってるわよ。


    …くいしんぼ。


    じゃ、あんたはいらないと。
    コイユルは…


    暫くは絶飲食だ。
    点滴で足りる。


    ……。


    どうせ、食えんだろうがな。


    …あ、そ。
    んじゃ、


    ナディ。


    んー?


    くいしんぼ。


    うっせ。
    本当にあんたの分、買ってこないわよ?


    えへへ。


    あんたはコイユルの傍にいること。
    良い?


    いえっさ。


    それと、そこのぼったくり医者。


    なんだ。


    ここ、台所みたいのは?


    それらしきものならあるな。
    いつから使われてないか、知らんが。


    あ、そ。
    どうせ、そんな事だろうと思ってたし。


    しかし、お前のような女から台所などと言う言葉が出てくるとはな。
    料理などとは縁遠そうだが。


    うるさい。


    どうするの?


    しばらくここにいるつもりなら、自分達で作った方が食費が浮くから。
    毎回、買ってなんかいらんない。


    お財布、痩せちゃうね?


    そう、それもかなり。


    うん。


    だから、食材も仕入れてくる。
    少し遅くなるかもしれない。


    ……。


    あんたはコイユルの傍にいるんでしょ?


    …うん。


    一人にしても良いのか。


    あ?


    大事な女なのだろう?
    物騒だぞ、此処は。


    あんたが言うか。
    つかなんで楽しそうなのよ、あんた。


    ここの治安の悪さは見た通りだ。


    …。


    私なら大丈夫だよ。


    …エリス。


    それに、危ないなら私がいないと。
    コイユルを一人には出来ないから。


    …。


    でも、早く帰ってきて。


    …いえっさ、相棒。


    まぁ、俺の診療所だと知っている奴なら早々踏み込んではこんがな。


    …。


    …。


    さて、俺は寝る。
    何かあったら起こせ。


    …と。


    此処の鍵だ。
    しっかりと施錠する事だけは忘れるな。
    踏み込んでくる莫迦が居ないとも限らん。


    言われなくても分かってるわよ、藪医者。


    ああ、その通りだ。


    あ?


    忠告だ。
    二、三日は大人しくしていた方が良い。


    あ?
    なんでよ。


    騒ぎを起こしたばかりだろう。
    面倒な事にしたいのなら、構わんがな。


    …。


    その動かない左腕で、何が出来る。


    右手は動く。
    それに休んでいれば


    著しく体力を消耗したのは事実だろう。
    また発作を起こしたいのか。


    …。


    悪い事は言わん、止めておけ。
    お前が仮に男並の力を持っていたとしても、な。


    だからって、こっちも飲まず食わずでなんかいらんないでしょうが。


    届けさせてやろう。


    は…?


    俺の女にな。


    そんなの、聞いてないから。


    金は後払いで構わん。


    …後でぼったくるんじゃないの。


    先でもぼったくるがな。


    …。


    お前の好きにするが良い。


    …あんた、意外にお節介なんじゃないの。


    お前達程では無い。


    …なんか腹立つ。


    無駄な労力だ。


    …ほんっと、腹立つ。


    ナディ、行かないで良いの?


    みたいよー…。


    そっか、良かった。


    良いのかねぇ。


    本当は一緒が良いから。


    …。


    待ってるの、好きじゃない。


    あ、そう…。


    …えへへ。


    まぁ、いっか。


    扱い易いな。


    うん、そうなの。


    おい、こら。








    …。


    届けさせるってもなぁ…あー。


    …なった。


    背中とお腹がくっつきそう…。


    …よっぽどお腹がすいてるんだね?


    うん、すいてる。


    …。


    …あれ以来。


    …。


    力いっぱい躰を動かすと、その後、やたらに空腹になる。
    前は…まぁ、ずっと昔はお腹いっぱいの時なんてほとんど、と言うか全然無かったけど。


    …。


    まぁ、良いんだけど。
    食費がなー…。


    …。


    しょーがない、じっとしてるかなぁ。


    …ナディ。


    うん?


    …。


    なぁに?


    …ナディの、躰。


    うん。


    ……昔ともう、違うんだね。


    …。


    …。


    ま、別に困ってるわけじゃないし。


    …食費。


    それは、まぁ、働けばなんとかなる。
    力も前よりあるし、いざとなったら力仕事でもしよっかな。


    …。


    大丈夫、あたしは死なない。


    …。。


    あんたの命がある限り。


    ん…。


    ね?


    …うん。


    よしよし。


    ……えへへ。


    ふふ。


    ナ





    ガタ。





    …し。


    ……。


    誰。


    ……。


    …エリス。


    …うん。


    藪医者ならいないけど。
    それとも





    こんにちは。
    ナディさんとエリスさん、ですか?





    …は?


    ……女の人?


    あの人からはなし、きいてきました。
    おそくなってごめんなさい。


    …


    誰?


    私はあの人の…そう、身のまわりのせわ、してます。
    アキラ、いいます。


    あいつの?


    アキラ?


    はい。
    あ、私がいってること、わかりますか?


    分かるけど。
    ひどい訛りかな。


    ごめんなさい。


    でも、ちゃんと分かるよ。
    ねぇ、ナディ。


    うん、分かる。


    よかった。
    おなか、すいているそうですね。
    これ、よかったら。


    …これ。


    タクタク?


    はい。
    あと…パパ・レジェーナです。


    …。


    パパ・レジェーナ?


    ふたつともあの人、好きなものです。


    …あいつが、ね。


    おいしそうだね、ナディ。


    うん、まぁ…。


    ひえるまえに、食べてください。
    あ、好きではないですか?


    …いや、


    ううん、好き。
    ナディが。


    …エリス。


    良かったね。


    …良かったけど。


    ああ。
    お金、いりません。
    私、かってに持ってきた、から。


    でも、あいつが許さないんじゃないの。


    だいじょうぶです。
    ちゃんと話してきました、から。


    …でもなぁ。


    食べないの、ナディ。


    だって


    …またなった。


    ……うー。


    おなか、いっぱいすいてるんですね。


    ナディはくいしんぼだから。


    うっせ。
    あーもう。


    おちゃあります、どうぞ。


    ありがと。


    ナディ。


    なに。


    いただきます、は?


    …。


    うん?


    …いただきます。


    よろしい。


    エリスさんのぶん、あります。
    とてもあつい、気をつけて。


    ありがとう。


    ……。


    ナディ。


    …なに。


    熱いって。


    聞いてたか……て、あっつッ。


    …。


    …。


    あーびっくりした…。


    …聞いてない。


    ふふ、おもしろい。


    ……ちくしょ。


    これ、アキラが作ったの?


    はい、そうです。


    へぇ。


    ……ん。


    ナディ?


    おいしい。


    ほんと、ですか?


    うん。


    ああ、よかった!


    …。


    …アキラ?


    あの人、いってくれないから。
    わからない。


    …最低な奴。


    でも、食べてくれるんでしょ?


    はい。
    でも…。


    …。


    …。


    さっきは好き、いいましたけど、私がかってにそう、思ってるです。


    勝手に?


    このふたつ、よく食べてくれます。
    おかわり、してくれて。


    それはおいしいからだよ。


    え…?


    それに好きだから。


    …。


    ナディもそう。
    辛いのは好きじゃないけど、好きなのは良く食べてくれるの。
    足りないくらい。


    どうしてそこであたしが、つか足りないくらいって。


    本当のこと?


    …。


    ん?


    ……良いけどさ。


    うん、いいの。


    …ちぇー。


    ふふ。


    …?
    なに?


    いいえ、ごめんなさい。
    でもありがとう、エリス。


    どういたしまして。


    アキラ。


    はい?


    すごくおいしい。
    ありがとう。


    …いいえ、どういたしまして。


    …?


    このふたつ、私がこっちに来てはじめておぼえた。
    そう、あの人に教えてもらって…。


    …。


    …。


    …私、だいどころ、かたづけてきます。
    ずっと使ってなかった、かたづけないと使えない。
    終わったらかいもの、行ってきます。


    そこまでやってくれなくても


    いいんです。
    やらせてください。


    …。


    …お金?


    だいじょうぶ。
    私がやりたい、から。


    つか、どうしてそこまでしてくれんの。


    ……。


    アキラ?


    …私、こどもうめないです。
    もう、にどと。


    …え。


    …。


    だから…。


    …ぅ。


    あなたが元気になったら…作ってあげますね。
    食べてくれたらいいな…。


    …。


    …。


    …こうして、みなさんのごはん作れてうれしい、たのしい。
    だから、やらせてください。


    …分かった。
    じゃあアキラ、お願いしても良い?


    はい、よろこんで。


    アキラには子供がいないの?


    こら、エリス。


    …いました。


    …。


    …。


    なんにん、いたか…もう、おぼえていません。
    みんな、死んでしまったから。


    …。


    …。


    私のこども、そう呼んでいいのか…それも、わかりません。
    あの子たちは……どうぐとして、むりやり、生まれてきたから。


    …。


    …。


    …ごめんなさい。
    じゃあ、かたづけてます。
    ゆっくり、食べててください。


    あ、うん…ありがとう。


    こちらこそ、ありがとうございます。
    それじゃあ。


    …。


    …。


    …エリス。
    あんたの悪いくせ。


    ……ごめんなさい。


    …。


    …。


    …このタクタク。
    おいしい。


    うん…。


    パパ・レジェーナ…はちょっと辛いけど。
    でもおいしい。


    …。


    ねぇ、エリス。


    …ん。


    作ってよ、今度。
    これ食べてたら、あんたのが食べたくなった。


    ……。


    今度、さ。


    …ん。


    でも、辛くしないでよ?


    …ふふ。


    笑うとこじゃないって。


    うん、辛くしないね。


    ん、楽しみ。
    じゃ、冷めないうちに食べよっか。


    うん、ナディ。








    あー、おいしかった。
    満足、満足。


    それ。


    んー?


    いつも言うね。


    いつも言ってる?


    うん、言ってる。


    いつもじゃないでしょ。


    ほとんど。


    じゃ、いつもじゃない。


    ナディは。


    うん?


    おなかがいっぱいになると、いつも仕合わせそう。


    いつも?


    いつも。


    まぁ、それはね。


    私といる時よりも?


    あ?


    仕合わせ?


    質問がおかしい。


    …おかしい?


    おかしい。


    …。


    一人で食べても、仕合わせにはならない。
    いくら、おいしくてもね。


    一人じゃないから?


    そう、一人じゃないから。


    エリ


    あんたと二人で。
    おいしいの食べて、おなかいっぱいになって。
    だからあたしはしあわせ。
    あんたといれば、いつも。


    …。


    言われる前に、ね。


    …ずるい。


    なんでだ。


    顔、真っ赤のくせに。


    あんたもね。


    …。


    …。


    ナディ。


    ん?


    おでこ。


    …。


    …こつん、ってやって。


    今?


    …ん、今。


    んー……。


    …。


    …熱は、ないかな。


    ふふ。


    …エリス。


    ねぇ、ナディ。


    …ん。


    おいしかったね。


    うん、おいしかった。
    でも。


    でも?


    あんたの作ってくれるごはんの方が、あたしは好き。
    アキラには悪いけど。


    …。


    …。


    ……らしくない。


    たまには、言わせろ。


    いつもでも良いよ?


    いつも…。


    いつも。


    …いつも言ってたら、ありがたみがなくなる。


    ありがたみ?
    ありがたみってなぁに?


    いつも言ってたら、慣れちゃうでしょ。
    慣れちゃったら


    慣れないよ?


    …。


    …。


    …まぁ、あれよ。
    たまに言うから良いのよ。


    いつもでも良いのに。


    しつこい。


    うぅ。


    でも、そうだなぁ。


    …?


    …出来るのなら。
    いつもあんたの作ったごはんが食べたい。


    ナディ…。


    あんたは意外に料理がうまいから。
    手の込んだのとか、結構作れるしね。
    麺もぐだぐだにならないし。


    …。


    ま、今は無理だけど。


    旅、してるから…?


    …まぁ、ね。


    …。


    あの時の生活は、悪くなかった。


    あの時の…ニーナ?


    違う。
    大体、あん時は料理なんかしなかったでしょ?
    昼寝ばっかりしててさ。


    仕事、ちゃんとしたよ?


    ちょっと目を離すと、ハンモックで気持ち良さそうに寝てて。
    何度、起こしたと思ってやがる。


    …むぅ。


    あの時って言うのはさ、エリス。


    ん…。


    …この子。


    くすぐったい…。


    この子が…あんたのお腹に宿った時。


    …。


    ……その時の、こと。


    …ナディ。


    まだ、分からないんだっけ。


    …。


    動いてるの。


    ……うん。


    …そっか。
    まぁ、まだ目立たないし…。


    けど…。


    …。


    ……ちゃんと、いるよ。


    …。


    それは、分かる…。


    …うん。


    ナディにも分かる…?


    …あたしは、本当のところは分からない。
    何も感じないから。


    …。


    けど、分かるよ。


    …分からないって言ったのに?


    こうしてると、分かるような気がするから。


    …。


    …それに。
    あんたは嘘を吐かない。


    …。


    …。


    …作って、あげる。


    ん…?


    ここにいる間。
    コイユルが治るまで、それまで。


    …。


    ナディが好きなごはん。


    …ああ、そっか。
    そうだった。


    …忘れてた?


    エリス。


    …わ。


    ……ああ、楽しみ。


    …。


    ふふ…。


    ……えへへ。





    あの…ナディさん、エリスさん。





    …と。


    アキラ。


    かたづけ、終わりました。
    水、つかうなら、外のいど、つかってください。
    出て、ひだりにあります。


    オーケイ、アキラ。


    かいもの、行ってきます。
    なに、かってきますか?


    え、と…


    ナディが、好きなもの。


    ナディさんはなに、好きですか?


    なんでも。


    て、エリス。


    でも、辛いのはだめなの。


    ふふ、わかりました。
    じゃあ、


    お米。


    おこめ、ですか?


    うん。
    それから…


    はい…はい…。


    と……あと、ね。


    …はい。


    あと、パスタ。


    パスタ?


    うん、パスタ。


    はい、わかりました。


    …まぁ、良いけど。


    ほか、ありますか?


    ううん、私はない。
    ナディ。


    うん?


    お金。


    ああ。
    アキラ、


    あとでいいですよ。


    いや、今渡す。
    ちょっと待ってて。


    でも


    そうだ、アキラ。


    はい?


    果物、何か適当に買ってきて。


    くだもの?


    そ、果物。


    なにがいいですか?


    アキラの好きなの。


    わたしの…?


    そ。
    はい、お金。


    …あの、ナディさん。


    うん?


    私にお金、わたしてもいいんですか。


    なんで?


    …。


    エリスが信じてるから。


    …エリスさん?


    この子さ、人を見る目はあんのよ。


    ナディは荒くれ者だったけど。


    なんだとぅ。


    …えへ。


    たく。
    ま、そーいうことだから。


    ありがとう、アキラ。


    ……私こそ。


    それからごはん、おいしかった。
    ごちそうさま。


    ごちそうさま。


    …。


    ん、なに?


    …エリスさんのごはん、もっと、おいしいですよね?


    な…。


    ごめんなさい。
    聞こえてしまいました。


    あ、あーそう…。


    でも、アキラのごはんもおいしかったって。


    ふふ、ありがとうございます。
    じゃ、行ってきます。








    …それで?


    あんたには勿体ない。


    ……。


    ただ、それだけよ。


    …相棒はどうした。


    休ませてる。
    寝床まで掃除してくれたから助かった。


    …。


    やっぱり、あんたには勿体ない。


    …お前は休まないのか。


    生憎、あたしは心配性で。


    …まぁ、当然だな。
    生業がろくでもないと然うなる。


    あんたに言われたくない。


    …。


    …。


    …あいつは、話したのか。


    何を?


    …。


    …。


    ……。


    …どいつもこいつも。


    …。


    どうせ、忘れることなんて出来ないくせに格好ばかりつけて。
    男ってのは面倒。


    …女も大概、面倒な生き物だがな。


    ……ふん。


    …。


    …。


    …工場と呼ばれている施設があった。
    この大陸じゃない、どこか別の大陸での話だ。


    …どうでも良いんだけど。


    独り言だ。


    …陳腐すぎ。
    もう少しマシな言い訳、考えたら?


    …。


    …。


    …。


    …浚ってきた少女を孕ませて、子供を産ませる。


    …。


    表では孤児を引き取ったなどと言ってな。


    …で、その子供は?


    金に換える。


    …。


    臓器、呪術…需要がある限り、供給が絶える事は無い。


    …反吐が出る。


    …。


    …。


    …女も産んだ子供も、ただの道具だ。
    金を得る為の。


    …で。
    それにあんたが関わっていたとでも?


    ああ、然うだ。


    …。


    …俺は医者として。
    その場に居た。


    あんたも孕ませたんじゃないの。


    …。


    …ま、あたしには関係ないけど。


    お前は。


    …。


    …相棒以外はどうでも良さそうだな。


    まぁ、ね。


    …が、この餓鬼は助ける。


    あの子の願いだから。


    …ただの莫迦だな。


    あ?


    …。


    …それ、エリスの事を言ってるなら


    お前の事だ。


    …。


    …。


    …終わり?


    ああ。


    そ。


    …自分の事では怒らないのか。


    慣れてる、し。
    どうでも良い。


    …ふ。


    どうでも良いけど。
    その点滴、ちゃんと効くんでしょうね。


    効かなかったら、どうする。


    三回殺す。


    …。


    …。


    …それも良いだろう。


    でも、しない。


    …。


    アキラが悲しむ。
    あんな良い女、あんたなんかには勿体ないけど。


    …ああ、然うだな。


    …。


    また後で来る。


    …。


    …。


    …アキラ、は。


    …。


    そこに、いたのね。


    …ああ、然うだ。
    俺が連れ出した。


    …あ、そ。


    …。


    …。


    …あいつの子供は売られ、それを何度か繰り返した結果、あいつは子供を産めない躰になった。
    もう、二度と。


    …。


    …道具は。


    …。


    言葉も知識も必要としない。


    …。


    …ただ、道具として使われるだけだ。
    そして壊れた道具に…意味は、無い。


    …本当、気分が悪いったらない。


    …。


    …。


    …俺が出て数年後、その施設は摘発された。
    だが、あくまでも氷山の一角でしか無い。


    …その話、もう聞きたくないんだけど。


    お前が勝手に聞いていただけだろう。


    …。


    …。


    ……どうでも良いけど。


    …。


    あんなおいしいごはん、作っておいて貰って。
    うまい、と言わないのは最悪。


    …うまかったか。


    エリスほどじゃないけど。


    …然うか。


    何がおかしいのよ。


    お前は、本当の莫迦だな。


    うっせ。








    ..seis