はな?


   そう、花。


   くらべる?


   違う。


   んー。


   去年も見たと思うけど。


   エリス、エリス、ナディ、はなかってきた!


   お花?


   でも、くらべるじゃないの!


   どれ?


   これ!


   ただいま、エリス。


   おかえりなさい、ナディ。


   これ、買ってきたんだけど。


   ん…。


   エリス、このはな、なに?
   なんてなまえ?


   これはね、ロント…。















  M a r c a  d e  l a s  F l o r e s .















   かれんづら!


   ちょっと違う。
   カレンドゥラ。


   かれん、づら?


   カ、レ、ン、ドゥ、ラ。


   かれんづらー!


   うーん。


   きいろいはな!


   まぁ、今はそれで良いか。


   エリス、かれんづら!


   ふふ。


   初めて見るわけじゃ、ないんだけど。


   でも、初めてみたいだね。


   まぁ、良いけどさ。
   そのうち、覚えるだろうし。


   かれんづら、かれんづら。


   こらロント、あまり触るな。


   うー。


   ロント、だめ?


   …うー。


   ねぇ、ナディ。


   うん?


   良く、分かったね?


   まぁ、あんだけ並べられていたらね。
   どうやっても、目に入るし。


   町の中、いっぱい?


   まぁ、それなり。


   そっか。


   ねぇ、このはな、どうするの?
   エリスにあげるの?れがーろ?


   ううん、この花は違うよ。


   ちがうの?


   そう、これは違う。


   じゃあ、なんで?


   あん?


   だってはな、ナディ、いっつもエリスにあげてるよ。


   いつも、じゃないでしょうが。


   買ってきたら、いつも?


   エリス、うれしそうなの!


   うん、嬉しいから。


   ナディもうれしい!


   …あ?


   エリスがうれしいと、ナディもうれしいの!
   ロント、しってるもん!


   …。


   そうなの、ナディ?


   …分かってるんだから、聞くな。


   聞きたいから。


   ナディはエリスにべたぼれー!


   …エリス、これ以上ロントに変なこと、覚えさせるな。


   変?


   …。


   変なの?


   …だからだな。


   ナディ。


   …あーもう。
   変じゃないけど、恥ずかしいから。


   素直に言えば良いのに。


   うるせ。


   べたぼれ?べたぼれ?


   ロント。


   あははは。


   ふふふ。


   …あーもう、こいつら。








   ナディ。


   …ん?


   ……。


   …なに。


   なんでもない。


   …そ。


   ……良い?


   どうぞ。


   …いえっさ。


   …。


   …。


   …また、一年だね。


   うん。


   …早いね。


   ほんとに。


   …ロント、大分喋れるようになったね。


   あんたのおかげで、ね。


   ふふ…。


   ……エリス。


   ん……。


   …人は。


   ……。


   死んだら、その魂は躰に還ると信じられていた。
   だから昔はその躰を火葬する事は無かった。


   …うん。


   だけど。


   ……。


   …あたしは、あんたに還る。


   ナディ…。


   ……。


   ね、私は…?


   …エリス?


   私が、死んだら…どこに還るの?


   …あんたは。


   ……。


   …あたしと、一つになる。


   ……。


   …あんたを独りにする事は、無いから。


   約束…。


   …でも。


   ……。


   そんなの、まだずっと先の話だから。


   …うん。


   ……。


   …ねぇ、ナディ。


   ん…。


   …ロントに教えてあげるの?


   そのつもり。


   …きっと、まだ分からないよ。


   それでも。


   …。


   子供も、一人の人間だからね。
   違いなんて、ない。


   …そっか、そうだね。








   …。


   …。


   ……熱い。


   ん…。


   …エリス。


   ……ナディ。


   ……。


   ……生きてる、から。


   …うん。


   生きてるよ…。


   うん…。


   ……だから、ナディも。


   …体温、高いらしいから。


   それだけじゃ、ない…。


   …。


   ないの…。


   …ばぁか。


   う……。


   ……。


   ナ、ディ…。


   …。


   ……ねぇ、もっと。


   …。


   もっと、確かめてみて…。


   …いつも、してるよ。


   ぅ……。


   エリス…。


   ね…わたし、いきてる…?


   …今は、あたしの腕の中でね。


   あなたの、こどもがいて…。


   …。


   …あなたの、そばで。
   いきてる…。


   ……うん。


   いいんだよね……。


   …ばぁか、当たり前だ。


   ……。


   …勝手に先に逝くのは、許さない。


   ゆるさないで…。


   ……。


   ……すっと、ゆるさないで。








   ししゃのひ?


   そう、死者の日。


   でも、かぼちゃのひだよ?


   それもあるけど、それとは違う。


   …?


   死者と言うのは、死んだ人の事。
   死者の日ってのは…


   ……。


   やっぱりロントには少し難しいね。


   でも、大事な事だから。


   うん。


   ねぇねぇ、エリス。


   なぁに、ロント。


   おかし?けーき?


   どっちが良い?


   どっちもいい!


   こら、ロント。
   欲張りは駄


   いたずら、しちゃうんだぞー。


   …め、て。


   えい。


   …あだだだだだ!


   おかし、おかしー。


   ろ、ロント…!


   よこせー。


   髪の毛引っ張るな、つかぶら下がるな…!!


   抜けちゃう?


   エリス、笑ってる場合じゃ…あだだ!


   いえっさ。
   ロント。


   …む。


   だめ?


   じゃ、おかし!
   けーき、けーき!


   ナディ?


   …ローンート。


   むぎゃぁ。


   人の話を聞けない子には、お菓子もケーキもやらん。


   えー!


   えー、じゃない。


   エリスー。


   んー。


   エリス。


   …ねぇ、ロント。


   うー、おかしー。


   私のお父さんはもう、いないの。


   …おとう?


   エリス、あんた


   しぃ?


   …いえっさ、エリス。


   エリス、エリス、おとーさんってなに?
   おいしい?


   お父さんは食べられないよ。


   …て、そこからか。


   ロント、ロンティタ。


   なにー?


   ロンティタは私達の子供。
   それは、分かる?


   うん!
   ロントは、ナディとエリスのこども!


   ナディと私はロンティタのお母さん。


   うん!


   お父さんと言うのは……え、と。


   …ん?


   ナディのこと。


   …は?


   ナディが私の中に生んでくれたから。


   そうだけど、でも、


   分かりやすい?


   …えぇ。


   ナディ、おとーさんなの?


   違う。


   ?


   …違う、けど。


   ナディ。


   …あーもう、しょうがないなぁ。
   今だけ、だからね。


   ありがとう。


   …どういたしまして。


   ロント。


   うん。


   ナディが私の中にロントのたまごをくれたの。


   …たまご?


   そう、たまご。
   だからロントは私のお腹に宿って、生まれてくることが出来たの。


   …おとーさん?


   人の事、指差すな。


   ナディ、あらくれものだよ?


   今度言ったら、撃つぞ?


   ばぁーーん!


   て、あんたが撃つんじゃなくて。


   あははー。


   ロント。


   なぁに?


   ロントには私達がいるけど、私にはもういないの。


   なんで?


   死んじゃったから。


   しんじゃ?


   昔、死んじゃったの。


   しんじゃったって、なに?


   人はね、ロント。


   うん。


   いつか、死ぬの。


   …しぬ?


   人だけじゃない…生きてるものは、いつか、死んでしまうの。


   ……エリスも?


   そう、私も。


   …あらくれものも?


   そう、荒くれ者も。


   バァーン。


   わーうたれたーー!


   エリスも。


   えへへ。


   …たく。


   ナディ。


   あ?


   ナディも。


   …も、って?


   うー、やられたー。


   ……。


   …分かった。
   ロント。


   うたれたー。


   あたしにももう、いない。


   …あう?


   あたしの母さんも父さんも。
   ばあちゃんも、兄ちゃんも。
   みんな、死んじゃった。


   ……。


   死んじゃったらもう、会えない。


   もう、触れない。


   触ってもらう事も出来ない。


   話す事も。


   …。


   お菓子やケーキを作ってもらう事も。


   みんなで食べる事も。


   出来ない。


   みんな、出来ないの。


   …なんで、できないの。


   死ぬ、と言う事は、


   そういう事だから。


   …なんで、しんじゃうの。


   命が、あるから。


   そして命はいつか必ず、失われるものだから。


   だから。


   いつか、私達も。


   ナディも…エリスも、しんじゃうの。


   …。


   …。


   …やだ。
   そんなの、やだ…!!


   けど、それはまだ


   あーーー!!


   …ロント。


   やだ、しんじゃやだー!


   まだ、死ぬかい。


   むが。


   あんたみたいなたまご、一人残して。


   私達は死なないよ。


   むが、むががが。


   ロント。


   ロンティタ。


   うーー。


   死者の日、と言うのは。


   死んでしまった人の事を思い出すこと。


   忘れてるわけじゃない。


   それでも、その日は特に強く想うの。


   …うー。


   あたしの母さんや父さんは、あんたから見れば、ばあちゃんじいちゃん。


   …?
   ばあ?じい?


   …博士も?


   それはあんた次第。


   じゃあ、おじいちゃん。


   ばーちゃん、じーちゃん?


   そ。


   しんじゃったの?


   もう、昔にね。


   …あえないの。


   うん、もう会えない。


   ……。


   今は全部分からなくても良い。


   けど、いつか必ず分かる日が来るから。


   …ロント、わかんなくていい。


   ……。


   ……。


   …うーー。


   …さて、エリス。
   ケーキ、どうするかな。


   …けーき?


   勿論、ロントが好きだから。


   だってさ、ロント。


   わぁぁい!


   …。


   …。


   けーき、けーき。


   …我が子ながら。


   単純?


   …あんたの子でもあるでしょうが。


   ナディ似。


   …。


   …。


   …まぁ、良いけどさ。


   ん。








   …お父さん、ね。


   なぁに…?


   …別に。


   ん……。


   …。


   ……やきもち?


   違う。


   …。


   …。


   ……ナディ。


   …いつから、そんな風に思ってたのかなって。


   …。


   ……正直、少し驚いた。


   …うん。


   あたしが…未だに、やきもちを焼くから?


   …ううん、違うよ。


   ……じゃあ、どうして。


   思ったの。


   …。


   …私、本当は知らないから。


   本当は?


   お母さんも…お父さんも、知らないから。
   だから。


   エリス…。


   ……博士みたいな人が、お父さんだったんじゃないかって。


   そう、思うようにしたの?


   …ううん、それとは違うよ。


   …。


   …最初から、ナディと違うから。


   ん…。


   …ナディの赤ちゃんが欲しい、なんて。


   ……エリス。


   …その人の命そのものが、欲しいなんて。
   あの人には、思わなかったから。


   ……。


   ね…ナディのお父さんってどんな人だったの?


   あたしの?


   …そう、ナディの。
   聞いたこと、なかったから。


   どうだったかな…あまり、覚えてない。


   …。


   でも、どっしりしてたような気がする。
   畑で、いつも。


   大地みたいに?


   …そこまでじゃ、ないと思うけど。


   じゃあ、ナディと同じだね。


   …うん?


   ナディもどっしりしてる。
   昔よりも…今の方が。


   ……そうかな。


   そうだよ…。


   …まぁ、あんたがそう言うなら。


   ……でも、あまえんぼ。


   お…。


   …ほっぺた、あったかい。


   どっちが甘えんぼなんだか…。


   ……ねぇ、ナディ。


   うん…?


   お母さん。


   …?


   …私、ロントのお母さん?


   今更、何言ってんだ…。


   …だって、知らないから。


   ……。


   だから、ナディが私にしてくれたこと…。


   …あたしはあんたの母さんじゃないんだけど。


   あ、ん……。


   …。


   …ナディ。


   ……ま、ロントの父さんでもないけど。


   あまえんぼ……。


   ……。


   ……カレンドゥラ。


   …。


   ……きれいだね。


   ん、そうだね…。


   ……。


   …あんたになれなかった子供達にも。


   ……。


   …ん。


   ……。


   …エリス?


   …。


   …エリス。


   ……ナディには、私だけだよ。


   …。


   他の子がいたとしても…。


   …ばぁか、当たり前だ。


   …。


   もしかして、面白くなかったの…?


   ……だって。


   …。


   ナディ、優しいから…もしも他に魔女がいたら、きっと…。


   …ばぁか。


   ……う。


   もしそうだとしてもあたしは、エリスが良い…。


   ……ナ、ディ。


   ばーか…。


   ……う、ん。








   かれんずら、どうするの?


   本当は墓にでも供えてあげられれば良いんだろうけど。


   はか?
   はかってなに?


   死んだ人を大地に還してあげた場所の事だよ。


   だいち?
   かえし?


   死んだら、みーんな、土に還るのよ。
   昔はその躰に還ってくるって言われてたんだけど…


   ……。


   …私とナディは違うけど。


   エリス。


   …えへへ。


   兎に角、供えてあげようにも墓が無いから。
   ロント。


   …あう?


   カレンドゥラ、ここに置いて。


   いえっさ!


   良し。


   ねぇねぇ、どうすんの?


   それで、お仕舞い。


   えー。


   カレンドゥラは死者の花。


   …?


   死者の日はね、ロント。


   うん。


   みんなの魂が、一年に一度、還ってくる日なんだよ。


   みんな?
   みんなってだれ?


   あんたのじいちゃんとかばあちゃんとか、よ。


   カレンドゥラは道しるべ。
   みんなが迷わないで還ってこられるように。


   みちしるべ?


   そう、道しるべ。


   みちしるべって、なに?


   まぁ、目印みたいなもんかな。


   めじるし?


   そう、目印。


   ……。


   もしかしたら、おじいちゃんやおばあちゃんに会えるかも。


   あえるの?


   もしかしたら、だけどね。


   そっか、たのしみ!


   …分かってるのかね。


   ふふ。


   いつ、かえってくるの?
   いつ、あえる?


   今夜、かな。
   でも会えるかどうかは、分からないけど。


   えー、つまんない。


   …やっぱり分かってないな。


   今はそれで良いと思うよ?


   あえるかな、あいたいなー。


   …ま、良いけどね。


   ね。








   ……これ、が。


   …貴女に、そっくり。


   ……。


   …不機嫌にならないで?


   ……別に不機嫌になど、なっていない。


   …なってる。


   ……。


   …怖い顔、してる。


   ……。


   …ふふ。


   ……。


   ……やっぱり、良く似てる。


   …。


   髪が、赤くて……肌の色は、大地の色。


   …あたしはここまで赤くはない。


   ううん、赤いよ。
   貴女は自分の事にとても疎いから。


   …。


   …他者の感情にも疎いけど。
   例えば、私の事…。


   ……お前以外の機微に鋭ければ、それはそれで厄介になるだろう。


   当たり前でしょう…?


   ……。


   …私だけが、貴女の妻。
   私だけが、貴女の…。


   …分かってる。


   本当に…?


   ……言わせるな。


   ……。


   ……。


   …あの子の髪は、貴女譲り。
   だから、この子の髪は…。


   ……。


   面白いね…。


   ……。


   この子が……あの子達の、子供なんだね。


   …。


   ……嬉しくないの?


   …良く、分からない。


   ……。


   …あたしは元々、子を残せる立場では無かった。


   ……うん。


   …。


   …ね、嬉しいって言って?


   ……。


   …私は、嬉しいから。


   ……。


   …だってこの子は私達の、…だから。


   ……。


   私達に繋がる子…私達が、確かに生きていた証…。






   …ナディ?
   エリス……?





   ……。


   ……。


   …?


   …ロント。


   ロント、ロンティタ…。


   なに、ナディ、エリス。


   ……。


   ……。


   あれー…?


   …帰ろう。


   もう少しだけ…。


   だれ…?


   ……。


   …ねぇ、お願い。
   もう少しだけ…。


   んーー……。


   ……。


   ねぇ、……リャ。


   …ばーちゃん?


   ……。


   ……。


   ナディじゃないけど、ナディ。
   エリスじゃないけど、エリス。


   ……。


   ……。


   だから、ばあちゃん!


   ……。


   ……。


   ししゃのひだから。
   ししゃのひはね、しんじゃったひとがかえってくるんだって。
   エリスがいってたの。


   …。


   …。


   だから、そうなんでしょ?
   やった!


   ……。


   …ふふ。


   ねぇ、じいちゃんは?いないの?


   …。


   …うん、いないよ。


   そっか。
   でも、いいや。


   ……。


   ……。


   えへへ。


   …繰り返すとは、思わなかった。


   ……後悔、してるの?


   己のした事に悔いは無い。
   だが…


   ……あの子も屹度、してないよ。


   ばあちゃん、ばあちゃん。


   ……。


   この子を見ていたら、分かるよ。


   …。


   …それにね。
   貴女が、あの子に向けていた眼差しと。
   今、あの子がこの子に向けている眼差しは同じだから。


   ……。


   同じ温もりだから…。


   ……ロント。


   なに?なに?


   ……。


   わ。


   …お前にも良く似ているよ、…ル。


   本当…?


   …血は確かに、この子の中で生きている。
   お前と、あたしの…。


   ……嬉しい。
   嬉しい…。


   …?
   ばあちゃん?


   ……。


   …行くんだね。


   ねぇねぇ、ロントとあそぼ。


   …ロント。


   ……ロンティタ。


   わぁ。


   ……帰ったとしても。


   …私達はいつだって、貴女の中に居るから。


   えへへ、ばあちゃんいいにおいがするー。


   …ふふ、笑うとあの子にそっくり。
   貴女にも。


   …あたしはこんな緩んではいない。


   そっくりなのに。


   ……。


   もう…素直じゃない。








   あった!


   あん?


   うん?


   ナディ、エリス!


   おはよう、ロント。


   おはよ、エリス!


   今朝は珍しく、一人で起きてきたな?


   おはよ、ナディ!


   ん、おはよ。


   ねぇねぇ、ロント、あったよ!


   会った?


   誰に?


   ばあちゃん!


   …ばあちゃん?


   …夢?


   んーん、ちがうよ!
   だってロント、おはなししたもん!!
   ぎゅって、されたもん!


   だからそれは夢


   あのね、ナディとエリスににてたの!


   …あたし?


   私?


   うん!!


   じゃあ、それは


   ちがうよ!
   ナディじゃないの!
   にてたけど、ちがうの!


   …あー、そーかい。
   エリス、お茶のお代わ


   ロント、おばあちゃんはナディに似てたの?


   うん!


   エリス。


   私にも?


   うん!


   二人、いたの?


   そうだよ!


   ……。


   …エリス。


   私に似てる…。


   ……。


   …でも、私じゃない。


   …。


   ナディ…。


   …しょーがないなぁ。
   ロント。


   なぁに?


   あたしに似てたの?


   うん!
   でも、ちょっとちがったの!


   …あたしに似てるってことは、


   ナディのお母さん…?


   …いや、あたしの母さんは


   じいちゃんはいなかったの!


   ……。


   …私に、似てる人。


   ロントんなかに、いるんだって!
   かえっても!


   …。


   …。


   もっとおはなししたかったのにね、かえっちゃったの。


   …あたしは母さんよりも、ばあちゃんに似てるって言われてた。
   そう、とても似てるって。


   ナディのおばあちゃん…。


   あたしの知ってるばあちゃんは髪の色が真っ白だったけど…でも、若い頃はあたしみたいな赤髪で。


   …お父さんは?


   赤くなかった…と、思う。


   …そう、なんだ。


   もしかしてロントが会ったのは…ばあちゃん、かもしれない。
   しかも若い頃の…。


   …。


   でも、エリスに似ているのは…


   …分からない。
   分からない、けど…。


   …エリス。


   もしかしたら、私の…。


   エリス、ロント、おなかへった。


   …あ。


   へった、へった。


   …うん、ごはんにするね。


   ごはん、ごはんー。


   ……。


   …エリス。
   まぁ、ロントの夢かもしれないしさ。


   ……うん。








   …ばあちゃんは、厳しかった。


   ……。


   話す言葉は昔ので……。


   …。


   …でも、たまに頭を撫でてくれた。
   しわしわの手だったっけ…。


   …。


   笛がうまく吹けなくても……。


   ……。


   …そういや、一度だけ吹いてくれたことがあってさ。


   ん……。


   あたしは今でも、ばあちゃんのようには吹けないけど…。


   …風の笛。


   そ、風の笛…。


   …でもナディは口笛や指笛が上手だから。


   まぁ、それもばあちゃんに教えて貰ったんだけどね…。


   ……そっか。


   …昔のばあちゃんは神の鳥さえ、呼べたんだってさ。
   まぁ、それだけ上手だったってことなんだろうけど。


   神の鳥…。


   …クントゥル。


   ……。


   …エリス。
   何、考えてるの。


   ……。


   ……言いたくない?


   …私は。


   ……。


   創られたもの。


   …。


   …でも、何から創られたの。


   ……何から?


   魔女のDNAから。
   ブルーアイズが言ってた。


   …。


   …でも、それは?
   私は誰から造られたの。


   誰から…。


   …誰、だったの。


   ……。


   …ロントが会った人は、もしかしたら。


   エリス。


   ……もし、そうだとしたら。


   ……。


   ……同じ、だったのかな。


   同じ…。


   …魔女から造られたもう一人の私。


   ……L・A?


   ……。


   ……あたしがあの場所で見た子供達は。


   …。


   …皆、あんたに似ていた。
   そう、兄弟みたいに。


   ……。


   …元は一人の魔女だったのかもしれない。


   ……ナディ。


   ……。


   …私は、誰。


   …。


   教えて、ナディ…。


   …あんたはエリス。


   ……。


   あたしの…誰よりも大切な人。


   ナディ……。


   …ロントは、あんたの子だから。
   もしかしたらちょっとした力があるのかもしれない。


   ……。


   あんたがあたしに…昔の夢を見せたように。
   一緒に、見たように。


   …。


   でも、ただの夢かもしれない。


   ……ナディ。


   エリス。


   ん……。


   …あんたは、エリスだから。
   誰から創られようと、それは何一つ変わらない…。


   ナディ…。


   あんたはあたしの…たった一人だけの。


   ……う、ん。








   エリス。


   …うん?


   おきてて、へーき?


   ん、平気だよ。


   そっか、よかった。


   …どうしたの?


   えへへ。


   …?


   ロント、おひるねするの。


   ああ。
   じゃあ、おいで?


   いえっさ!


   ……。


   …えへへ。


   なぁに?


   エリスのにおいがするー。


   …うん。


   なに、よんでるの?


   ん、これ。


   …あ、かまどどりー。


   そう、カマドドリ…。


   エリスがすきなおはなし。


   うん。


   ロントもすきだよ?


   …ナディに良く、読んで貰ったね。


   うん。


   …ね、ロント。


   なぁに。


   これね、本当は二冊目なの。


   …?


   一冊目は…私がナディと出逢った頃に、ナディに買ってもらったの。
   私の宝物だった。


   そうなの?


   うん。
   これとは絵がちょっと違ってて…


   それ、どこにあるの?


   …今はもう、無いの。


   なんでないの?


   それはね…





   あ、こんなトコにいた。





   ナディ。


   ……。


   こら、ロント。
   隠れたって分か


   ロントもエリスとおひるねするの。


   ロント。


   …やー。


   や、じゃない。
   大体、エリスは昼寝してるんじゃない。
   体調が良くないから寝てるんであって、あんたがそこにいたらゆっくり出来ないでしょーが。


   …むぅぅ。


   ナディ、良いよ。


   でも、エリス。


   良いの。


   …む。


   ロント、一緒にお昼寝しようか。


   うん、する!


   ……。


   面白くない?


   …別に。


   ナディもする?


   する事、あるから。


   …そっか。


   エリス。


   ……ん。


   まぁた、読んでたな。


   …好きだから。


   ……。


   ん、ナディ…。


   …ロント、ちゃんと大人しくしてんのよ。


   いえっさ。


   良し。
   じゃあエリス、また後で来るから。


   うん…。








   …ねぇ、ロント。


   なぁに?


   …おばあちゃんに会ったんだよね?


   ばあちゃん?


   …そう、おばあちゃん。


   うん、あったよ。


   …もう一度、お話してくれる?


   うん。
   あのね、あのね。


   …ん。


   ふたり、いたの。


   …うん。


   ナディににてるばあちゃんと、エリスににてるばあちゃん!


   …私に似てるって、どんな風に?


   どんな…?


   …顔、とか?


   んーとね……かみのけのいろがいっしょだった。


   髪の毛…?


   うん、かみのけ。
   エリスとおんなじいろだったよ。


   …他には?


   んーと……しろかった。


   …白?
   肌…?


   そう、はだ!


   …。


   …あ。


   ん…?


   …おおきなこえ、だしたら。
   ナディ、きちゃう。


   …ふふ、そうかも。


   だから、しぃ、なの。
   エリスもしぃ、だよ?


   うん…。


   ふふ。


   …ね、他にも似てるところあった?


   んー……んーー……。


   瞳の色とか…。


   ……。


   …ロント?


   ちがった。


   …違う?
   瞳の色?


   あのね、ナディのいろだった。


   …え。


   あお。


   青…高い空のように?


   …そら?


   じゃあ、ナディに似ているおばあちゃんの瞳の色は覚えてる…?


   んーと…。


   …忘れちゃった?


   あおじゃなかった。


   …青、じゃない?


   でも、かみのけはナディといっしょだったよ。


   …。


   ロントといっしょ!


   …しぃ?


   あ。


   ナディ、来ちゃうから。


   …むぅぅ。


   ふふ。


   …。


   …ね、ロンティタ。


   う?


   …私ね、本当は。


   うん。


   ……。


   …?
   エリス…?


   ……私、





   エリス。





   あ。


   別に急いで隠れなくても良いから。
   連れてかないわよ。


   ……。


   …どうしたの、ナディ。


   いや。


   …なぁに?


   なんとなく、気になって。


   ……。


   …なに。


   やっぱり、一緒が良いんだ…。


   違うって。


   …違わない。


   エリス。


   …あまえんぼ。


   あのねぇ。


   ……あまえんぼ。


   ……。


   ナディ、来て…?


   …あたしは。


   ……。


   …。


   …ふふ、あまえんぼ。


   そりゃ、あんたでしょ…。


   ……。


   …ロント、邪魔してない?


   ん、してないよ…。
   ね、ロント…?


   …してないよ。


   ね?


   なら、良いけど。


   …ナディ。


   ん…?


   ……大好き。


   ……。


   …なんとなく?


   ああ、そうかい…。








   …まだ、言わなくて良い。


   …?


   いつか、言わなくてはいけない時が来るかもしれない。
   けど今は、まだ。


   …ナディ。


   ……エリス。


   だから、来てくれたの…?


   …言ったでしょ。
   なんとなく、だって。


   ……。


   …いつか、ちゃんと話す時が来て。
   それでロントが…何を思ったとしても。


   ……。


   …エリス。


   ……私が創られた魔女であること。


   …。


   私は人間の男女から生まれた存在じゃなくて、誰かから造られたということ。


   ……。


   …そして、ナディは。


   いつか。


   …。


   この子は、気付くと思う。
   自分の出生の不自然さについて。


   …。


   男と女の間からでないと、子供は生まれない。
   その事を。


   …うん。


   もしかしたら、父親はどんな人だったのかって聞いてくるかもしれない。


   ……。


   その時は。


   ……。


   あたしから、話す。
   全てを。


   …ナディ。


   あんたの事。
   あたしの事。
   あたし達は望んで、ロントを授かった事。
   あたしは、隠すつもりは無い。


   ……ナディは。


   うん?


   強いね。


   …。


   …私には、出来ない。


   あんたが、いるから。


   ん…。


   …だから、あたしは何でも出来る。
   そう、なんでも。


   ……。


   …でも、あんたがいなければ。
   あたしは何も出来ない。
   そう、何も…。


   ナディ…。


   …ロント、は。


   ……。


   もしかしたら、信じないかもしれない。
   或いは、もしかしたら、あたし達を…。


   …。


   …それでも。
   あたしは。


   …その時は。


   ……。


   私も、一緒だから…だから。


   一人じゃ、ないから。


   …一人に、しないから。


   ……。


   ……。


   …おーおー、良く寝てるなぁ。


   ふふ…。


   …元気でいてくれれば、それで良い。
   たとえ、離れてしまっても…。


   …。


   …なんて、さ。


   ナディに、似てるから。


   …おい。


   ……私にも、似てる?


   当たり前、だ。


   …えへへ。


   ……根は優しいところなんか、あんた似。


   私は…


   …優しい。
   だから自分のせいにして、自分を傷つけては、泣いている…。


   ……。


   ……。


   ……。


   …後悔は、


   しない……。








   ・


   ・








   ロント。


   …ん。


   珍しいね、ロントが花を買うなんて。


   うん、今日は特別。


   特別?


   この花、知らない?


   マリーゴールド。


   カレンドゥラ。


   死者の花。


   やっぱり知ってたんだ。


   お父さんから聞いたから。


   あのじいさんが?
   そんな風には見えないなぁ。


   花は買わなかったけど。


   似合わない。


   ロント?


   へへ、ごめんなさい。


   ロントはナディとエリスが?


   うん。


   そっか。


   ……。


   ……。


   …ばあちゃん、に。


   おばあちゃん?


   会った事があってね。


   …貴女の?


   だと、思うよ。
   ナディにそっくりだったから。


   …エリスには?


   似てたけど。


   ……。


   あの二人は、ナディのだと思う。


   …会って、何か話したの?


   それは覚えてないんだ。
   会った事だけ。


   …エリスのは。


   違う時に、一度だけ。


   ……。


   淋しそうな顔を、してた。
   とても。


   …それは女の人?


   うん。
   躰をばらばらにされたって、泣いてた。


   ……。


   ねぇ、リリオ。


   …ん?


   わたしの事、知ってるよね。


   ロントでしょう?


   うん。


   でも、どうして?


   わたしの両親はナディとエリスなんだ。


   …。


   二人の血が、わたしに繋がっている。


   …ロント。


   わたしはそれが嬉しいんだ、リリオ。


   ……。


   だって二人はお互いが大好きだから、他の血なんて、受け入れられない。


   …。


   それでもわたしを望んでくれた。
   わたしは望まれて、生まれてきたんだ。


   …そうだよ。


   だから、リリオにも逢えたし。
   こうして、旅も出来る。


   …。


   リリオ。


   …うん?


   生まれてきて、良かった。
   繋がれて、良かった。


   …。


   良し、お祈りはお仕舞い。
   さ、行こっか。


   おばあちゃんに。


   ん?


   会えた?


   今は、会えない。


   今は?


   けど、見てるんじゃないかなぁ。
   私、孫だから。


   …。


   ああ、でも。
   子供の方を見てるかも。


   子供?


   そ、子供。
   エリス曰く、幾つになっても子供は子供だって言うからさ。








   …今年ももう、そんな時期か。


   ナディ。


   エリス。


   買う…?


   いつもどおり一本だけ、ね。


   ん。


   …どれが良い?


   どれでも良いよ。


   どれでも、ね。


   どれもカレンドゥラだから。


   それも然うだ。


   …。


   じゃあ…これにしよう。


   綺麗だね。


   うん。


   ……。


   ……あの子も。


   …。


   買ってる、かな。


   さて、どうかな。


   …買ってると思う。


   お金があれば、だけど。


   リリオが居るから。


   はは、リリオはしっかりしてるからなぁ。


   財布の紐は堅い?


   旅の経験もあいつよりあるしね。


   ふふ。


   ……。


   ……。


   …これで何度目になるかな。


   …。


   なんだかんだ言って、毎年買ってるような気がする。


   ん、然うだね…。


   …。


   …。


   …日付の感覚は相変わらずだけど。


   私が居るから。


   …うん、あんたが居るから。


   ……。


   …ねぇ、ナディ。


   うん…?


   おばあちゃん。


   …。


   ナディに、似てた…。


   …そっか。


   もう一人の人も…。


   ……あたしは。


   ……。


   …なんであろうと、あたしはあんたに会う為に生まれてきた。
   どんな生まれであろうと、構わない。


   ナディ…。


   …でしょう、エリス。


   うん…ナディは、ナディだから。


   …。


   …私は仮令、どんなに時間が流れても。
   変わらず、貴女だけを愛しているの…。


   ……。


   ……。


   …さぁ、今夜の宿を探そうか。


   ん…。


   ……。


   ……。


   …エリス。


   私も、構わない…。


   …。


   …私が、私ならば。


   ……。


   然うでしょう、ナディ…。


   …あたしは、あんたを愛してる。
   どんなに時間が流れても、変わらず、愛してる。


   …。


   今年はこの花、どこに置いていこうか。


   …太陽から。


   …。


   “太陽”と“月”、両方から良く見える場所に…。


   …いえっさ、エリス。
   じゃあ、然うしようか。


   ん…ナディ。









   BGM
   「燐光の地ザトール 夜」 
   Xenoblade
   清田 愛未